説明

電力変換装置

【課題】いわゆるセンサレス制御を行う電力変換装置において、出力電圧の推定精度を向上できるようにする。
【解決手段】電力変換装置において、複数のスイッチング素子(Sp,Sn)を制御することで可変電圧可変周波数の交流電圧を出力する電力変換部(インバータ回路)(4)を設ける。また、インバータ回路(4)の出力電圧の指令に応じて各スイッチング素子(Sp,Sn)のオン時間を定め、各スイッチング素子(Sp,Sn)をスイッチングする制御部(10)を設ける。そして、制御部(10)では、前記出力電圧から定まる各スイッチング素子(Sp,Sn)のオン時間に基づいて推定した出力電圧を、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下に基づいて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるセンサレス制御を行う電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、空気調和機では、コンバータ回路やインバータ回路を有した電力変換装置が設けられ、電動圧縮機のモータに電力を供給するようになっているものがある。このモータを効率よく運転させるには、モータの回転子の回転位置に同期して電圧や電流を制御するのが望ましい。この回転位置は、所定のセンサを設ければ検出できるが、電力変換装置のコストアップに繋がる。そのため、回転子の回転位置をセンサによって検出することなくモータ制御を行う、いわゆるセンサレス制御が検討されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−186279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記センサレス制御では、具体的には、モータの回転子の位置を、モータに印加される電圧(インバータ回路の出力電圧)とモータに流れる電流(モータ電流)とから推定することが考えられる。ところが、一般的なインバータ回路では前記モータ電流の値を検出する仕組みは備わっていることが多いが、コストの制約上,前記出力電圧を検出する仕組みは備えていないことが多い。このような場合,一般的には,インバータ回路に入力される電圧(直流電圧)と,インバータのデューティに基づいて出力電圧を推定する手法が用いられる。しかしながら,この手法においては,インバータのスイッチング素子のオン電圧降下等の影響で,推定した出力電圧に誤差が生じ,その結果,センサレス制御の不安定等を招くといった問題を有している。
【0005】
本発明は、この点に着目してなされたものであり、いわゆるセンサレス制御を行う電力変換装置において、出力電圧の推定精度を向上できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
複数のスイッチング素子(Sp,Sn)を制御することで可変電圧可変周波数の交流電圧を出力する電力変換部(4)と、
前記電力変換部(4)の出力電圧の指令に応じて各スイッチング素子(Sp,Sn)のオン時間を定め、各スイッチング素子(Sp,Sn)をスイッチングする制御部(10)と、
を備え、
前記制御部(10)は、各スイッチング素子(Sp,Sn)のオン時間に基づいて推定した出力電圧を、前記スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下に基づいて補正を行うことを特徴とする。
【0007】
この構成では、電力変換部(4)の出力電圧から決まる各スイッチング素子(Sp,Sn)のオン時間を、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下に基づいて補正するようにした。これにより、出力電圧の誤差を低減することができる。
【0008】
また、第2の発明は、
第1の発明の電力変換装置において、
上記電力変換部(4)は、入力された交流電圧を直接スイッチングすることで、可変電圧可変周波数の交流電圧へ変換するマトリックスコンバータであることを特徴とする。
【0009】
この構成では、マトリックスコンバータにおいて、出力電圧の誤差を低減することができる。
【0010】
また、第3の発明は、
第1又は第2の発明の電力変換装置において、
それぞれのスイッチング素子(Sp,Sn)は、逆導通可能であり、
前記制御部(10)は、前記スイッチングによって、前記電力変換部(4)に同期整流を行わせることを特徴とする。
【0011】
この構成では、電力変換部(4)におけるオン電圧降下を、スイッチング素子(Sp,Sn)によるオン電圧降下のみにすることができる。これにより、電力変換部(4)内でのオン電圧降下を精度良く且つ容易に把握することができ、該オン電圧降下に基づいて精度の良いオン電圧補償を容易に行うことができる。
【0012】
また、第4の発明は、
第3の発明の電力変換装置において、
上記スイッチング素子(Sp,Sn)は、ユニポーラ素子からなることを特徴とする。
【0013】
この構成では、逆導通可能なスイッチング素子(Sp,Sn)を容易に構成することが可能になる。
【0014】
また、第5の発明は、
第1から第4の発明うちの何れか1つの電力変換装置において、
前記制御部(10)は、前記電力変換部(4)の出力電流と、該出力電流に応じた前記オン電圧降下とを対応させたテーブルに基づいて、前記補正を行うことを特徴とする。
【0015】
この構成では、オン電圧降下は、スイッチング素子(Sp,Sn)に流れる電流の大きさに応じて、補正量を設定することが可能になる。
【0016】
また、第6の発明は、
第1から第5の発明うちの何れか1つの電力変換装置において、
それぞれのスイッチング素子(Sp,Sn)は、ワイドバンドギャップ半導体で形成されていることを特徴とする。
【0017】
この構成では、ワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子の内部に寄生ダイオードが形成される場合でも、ダイオードの立ち上がり電圧は、Siからなるスイッチング素子内の寄生ダイオードの立ち上がり電圧に比べて大きくなる。そのため、Siからなるスイッチング素子で電力変換装置を構成した場合と比べ、スイッチング素子(Sp,Sn)のみに流すことができる電流の範囲、すなわち、補償できる出力電流の範囲が拡がる。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、出力電圧の誤差を低減することができる、すなわち、出力電圧の推定精度を向上させることが可能になり、出力電圧の推定値に基づいた、センサレス制御をより高精度に行うことが可能になる。
【0019】
また、第2の発明によれば、マトリックスコンバータにおいて、第1の発明と同様の効果を得ることが可能になる。
【0020】
また、第3の発明によれば、オン電圧降下に基づいて精度の良いオン電圧補償を容易に行うことができるので、出力電圧の推定精度がより向上し、出力電圧の推定値に基づいた、センサレス制御をより高精度に行うことが可能になる。
【0021】
また、第4の発明によれば、前記発明の構成を容易に実現して、センサレス制御をより高精度に行うことが可能になる。
【0022】
また、第5の発明によれば、オン電圧降下がスイッチング素子(Sp,Sn)に流れる電流の大きさに依存する場合に、出力電圧の補正を精度よく行うことが可能になる。
【0023】
また、第6の発明によれば、補償できる出力電流の範囲が拡がるので、センサレス制御をより高精度に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の関連技術に係る電力変換装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、インバータ回路内の1組の上下アームの動作を示す図である。
【図3】図3は、電圧指令に対するオン信号の波形及び出力電圧の波形を示すタイムチャートである。
【図4】図4は、Si−MOSFETの寄生ダイオードとSiC−MOSFETの寄生ダイオードとの立ち上がり電圧の違いを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
《関連技術》
まず、本発明に関連する技術(電力変換装置)について説明する。
【0027】
−電力変換装置の全体構成−
図1に本発明の関連技術に係る電力変換装置(1)を示す。この電力変換装置(1)は、コンバータ回路(2)とコンデンサ回路(3)とインバータ回路(4)とを備えている。なお、上記電力変換装置(1)は、例えば空気調和装置の冷媒回路に設けられた圧縮機の電動機(5)(以下、モータともいう)を駆動するために用いられる。ここで、空気調和装置の冷媒回路は、特に図示しないが、圧縮機と凝縮器と膨張機構と蒸発器とが閉回路を構成するように接続されてなり、冷媒が循環して蒸気圧縮式冷凍サイクルを行うように構成されている。この冷媒回路によって、冷房運転では、蒸発器で冷却された空気が室内へ供給され、暖房運転では、凝縮器で加熱された空気が室内へ供給される。
【0028】
上記コンバータ回路(2)は、複数のダイオード(2a)を備え、商用電源(6)から出力される交流電力を整流するように構成されている。特に図示しないが、上記コンバータ回路(2)は、複数(例えば三相交流であれば6個)のダイオード(2a)がブリッジ状に接続されて整流回路を構成している。なお、本関連技術では、上記コンバータ回路(2)を複数のダイオード(2a)によって構成しているが、この限りではなく、スイッチング素子によって構成し、交流電力を直流電力に整流するように該スイッチング素子を制御してもよい。
【0029】
上記コンデンサ回路(3)は、上記コンバータ回路(2)の出力側に並列に接続されるコンデンサ(3a)を備えている。このコンデンサ回路(3)を設けることによって、上記コンバータ回路(2)で整流された電圧を平滑化することができる。これにより、上記インバータ回路(4)側に直流電力を安定して供給することができる。
【0030】
上記インバータ回路(4)は、上記コンバータ回路(2)に対して上記コンデンサ回路(3)とともに並列に接続されている。このインバータ回路(4)は、複数(例えば三相交流であれば6個)のスイッチング素子(S)がブリッジ結線されてなる。すなわち、特に図示しないが、上記インバータ回路(4)は、2つのスイッチング素子(S,S)を互いに直列接続してなる3つのスイッチングレグが並列に接続されている。インバータ回路(4)は、これらのスイッチング素子(S)のオンオフ動作によって、直流電圧を交流電圧に変換し、モータ(5)へ供給する。
【0031】
上記スイッチング素子(S)は、MOSFETやJFETなどのユニポーラ素子であり、SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体からなる。また、上記スイッチング素子(S)は、逆方向にも導通可能に構成されている。
【0032】
ここで、本関連技術では、上記各スイッチング素子(S)に対して、ダイオード(D)が逆並列に接続されていて、該スイッチング素子(S)とダイオード(D)とによって、スイッチング部(4a)が構成されている。また、本関連技術では、上記ダイオード(D)は、該スイッチング素子(S)を構成するチップ内に形成される寄生ダイオードによって構成される。このインバータ回路(4)は、本発明の電力変換部の一例である。
【0033】
また、上記電力変換装置(1)は、スイッチング制御部(11)と、インバータ制御部(15)と、を備えている。スイッチング制御部(11)は、上記インバータ回路(4)の各スイッチング素子(S)に対して所定のタイミングでオン信号Gp、Gn(ゲート駆動信号)を出力する。また、インバータ制御部(15)は、該スイッチング制御部(11)に対して電圧指令Vo*(指令信号)を出力する。すなわち、上記インバータ回路(4)の各スイッチング素子(S)は、インバータ制御部(15)から出力される電圧指令Vo*に基づいてオンオフ動作を行う。なお、この電圧指令は、図3に示すように、キャリア周期Tに対して所定の出力期間Tonでオンとなるような信号波形を有している(図3の場合、特に図示しないが、キャリア周期T当たりの平均電圧はV*となる。以下、このV*を単に電圧指令Vo*における平均電圧と呼ぶ。)。
【0034】
上記スイッチング制御部(11)とインバータ制御部(15)とは、制御部(10)を構成している。この制御部(10)は、本発明の制御部の一例である。
【0035】
上記スイッチング制御部(11)は、上記インバータ制御部(15)から出力される電圧指令Vo*に基づいて、各スイッチング素子(S)に対してオン信号Gp、Gnを出力するタイミングを決めるように構成されている。このスイッチング制御部(11)は、直列に接続された2つのスイッチング素子(S,S)のいずれか一方のみがオンになるように、該2つのスイッチング素子(S,S)に対してオン信号Gp、Gnを出力する。すなわち、上記スイッチング制御部(11)は、2つのスイッチング素子(S,S)に対し、上記電圧指令Vo*に応じたオン出力設定時間Tp*を設定する。なお、本来であれば、上記スイッチング制御部(11)は、上記2つのスイッチング素子(S,S)のいずれもがオフ状態になるデッドタイムを設けるように構成されているが、本関連技術では、説明の簡略化のために、デッドタイムについては無視する。すなわち、2つのスイッチング素子(S,S)のいずれもがオフ状態になるデッドタイムの期間では、スイッチング素子(S)に逆並列に接続されたダイオード(D)に電流が流れて、該ダイオード(D)によるオン電圧降下が発生するが、この期間はごく短時間であり、ダイオード(D)のオン電圧降下による影響はほとんどないため、ここではデッドタイムを無視する。
【0036】
上記インバータ制御部(15)は、インバータ回路(4)によって駆動される電動機(5)に対する負荷の要求や、上記電動機(5)を回転子の回転位置を検出することなく制御するために必要な情報(インバータ回路(4)の出力電流iや直流電圧Vdc、オン設定時間Tp*)などを信号として受信し、これらの信号に基づいて上記スイッチング制御部(11)へ電圧指令Vo*を出力するように構成されている。また、このインバータ制御部(15)は、スイッチング素子(S)のオン電圧降下を考慮して上記電圧指令Vo*を補正するように構成されている。
【0037】
ここで、上記インバータ制御部(15)は、上記電動機(5)の回転子の回転位置をセンサレスで検出するために必要な出力電圧演算値V’を計算する出力電圧演算部(16)を備えている。この出力電圧演算部(16)では、電圧指令Vo*から定まるオン信号の出力期間Ton(以下、オン時間ともいう)によって設定されるオン出力設定時間Tp*と、キャリア周期Tとを用いて、Tp*/T×Vdcによって出力電圧演算値V’を算出するように構成されている。すなわち、インバータ制御部(15)(制御部(10))では、インバータ回路(4)の出力電圧を推定しているのである。なお、この出力電圧演算値V’は、キャリア周期T当たりの平均電圧であり、検出値且つ瞬時値である出力電圧Voとは異なる。
【0038】
さらに、上記インバータ制御部(15)は、直列に接続された2つのスイッチング素子(S,S)の一方のスイッチング素子(S)に逆並列に接続されたダイオード(D)に電流が流れる際に、該スイッチング素子(S)に対してオン信号を出力してオン状態にするように構成されている。すなわち、この電力変換装置(1)では、同期整流を行うのである。このようなスイッチング制御を行うことにより、スイッチング素子(S)側に逆方向電流を流すことができるため、ダイオード(D)側に逆方向電流を流す場合に比べて、損失の低減を図ることができる。
【0039】
−オン電圧補償−
次に、インバータ回路(4)の出力電圧に対するオン電圧降下の補償(オン電圧補償)について説明する。なお、以下の説明では、説明簡略化のために、図2に示すように、直流電源としてのコンデンサ(3a)と、直列に接続された2つのスイッチング素子とからなる回路を用いて説明する。なお、2つのスイッチング素子を区別するために、以下の説明において、各スイッチング素子の符号はSp,Snとする。
【0040】
ここで、上記図2に示す回路では、直列に接続されたスイッチング素子(Sp,Sn)に対して、それぞれ、逆並列にダイオード(Dp,Dn)が接続されている。スイッチング素子(Sp,Sn)とダイオード(Dp,Dn)とによって、それぞれ、スイッチング部(4a,4a)が構成されている。そして、これらのスイッチング部(4a,4a)の中点が、図示しない負荷に接続されている。なお、上記図2中における符号gp,gnは、それぞれ、スイッチング素子(Sp,Sn)のゲート端子を示している。
【0041】
上記図2の回路において、上記インバータ制御部(15)から図3に示すような電圧指令Vo*が上記スイッチング制御部(11)に入力されると、該スイッチング制御部(11)では、スイッチング素子(Sp,Sn)に対して該電圧指令Vo*に応じたオン信号Gp、Gn(ゲート駆動信号)を出力する。このようなオン信号Gpをスイッチング素子(Sp)に対して入力して該スイッチング素子(Sp)をオンにすると、例えば上記図2の回路で出力電流iが負荷側へ流れる場合(この場合をi>0とする)には、該スイッチング素子(Sp)に電流が流れるため、出力電圧Vo(下アームのスイッチング素子(Sn)の被制御端子間の電圧に相当)は、コンデンサ(3a)の電圧Vdcから該スイッチング素子(Sp)のオン電圧降下分Vsを引いたVdc−Vsとなる。一方、上記スイッチング素子(Sp)をオフにして下アームのスイッチング素子(Sn)をオンにすると、該スイッチング素子(Sn)に逆方向電流が流れるため、上記出力電圧Voは、該スイッチング素子(Sn)のオン電圧降下分に相当する−Vsとなる。
【0042】
ここで、スイッチング素子(Sp,Sn)の被制御端子間とは、制御端子(例えばゲート端子)によって電流の導通及び非導通が切り換えられるスイッチング素子(Sp,Sn)の両端子間(例えば、MOSFETではドレイン−ソース間)を意味する。
【0043】
一方、i<0の場合(出力電流iが上記図2の回路内へ流れ込む場合)には、上アームのスイッチング素子(Sp)をオンにすると、該スイッチング素子(Sp)に逆方向電流が流れて、オン電圧降下が生じるため、出力電圧Voは、Vdc+Vsとなる。また、下アームのスイッチング素子(Sn)をオンにすると、該スイッチング素子(Sn)に順方向電流が流れるため、出力電圧Voは、該スイッチング素子(Sn)のオン電圧降下分であるVsとなる。
【0044】
このように、ダイオード(Dn)に電流が流れるタイミングで、該ダイオード(Dn)よりも導通時の損失が少ないスイッチング素子(Sn)側に電流を流すような制御を行うことにより、インバータ回路(4)の損失低減を図れる。
【0045】
そして、上述のように、デューティや電流極性に関係なく、インバータ回路(4)内のスイッチング素子(Sp,Sn)のみに電流を流すことにより、図3に示すように、出力電圧Voにおけるデバイスのオン電圧降下分は、上記スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下分Vsだけとなる。
【0046】
すなわち、下式に示すように、実際の出力電圧におけるキャリア周期T当たりの電圧V(以下、単に平均出力電圧Vという。)は、電圧指令Vo*における平均電圧に対して、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下分Vsだけ誤差が生じる。ただし、上述のとおり、平均出力電圧Vに対するデッドタイムの影響は無視する。
【0047】
i>0の場合
【0048】
【数1】

【0049】
i<0の場合
【0050】
【数2】

【0051】
これに対し、本関連技術では、電圧指令を決定する際に、インバータ制御部(15)において、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下分Vsを考慮する。具体的には、i>0の場合には、上記(1)式及び図3に示すように、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下分Vsだけ出力電圧が小さくなるため、その分を考慮し、目標とする出力電圧に対応した電圧指令Vo*から決まるオン信号の出力期間TonにVs/Vdc×Tを足して、オン出力設定時間Tp*(オン電圧降下を考慮したオン信号の出力時間)が、
【0052】
【数3】

【0053】
となるような電圧指令を出力すると、
【0054】
【数4】

【0055】
となる。
【0056】
一方、i<0の場合にも、上記(2)式及び図3に示すように、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下分Vsだけ出力電圧が大きくなるため、その分を考慮し、目標とする出力電圧に対応した電圧指令Vo*から決まるオン信号の出力期間TonからVs/Vdc×Tを引いて、オン出力設定時間Tp*が、
【0057】
【数5】

【0058】
となるような電圧指令を出力すると、
【0059】
【数6】

【0060】
となる。
【0061】
このような補償によって、平均出力電圧Vを電圧指令Vo*における平均電圧と一致させることができる。すなわち、本関連技術の制御部(10)は、インバータ回路(4)の出力電圧から定まる各スイッチング素子(Sp,Sn)のオン時間を、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下(Vs)に基づいて補正している。
【0062】
ここで、上述のように、精度の良いオン電圧補償を容易に行うためには、スイッチング素子(Sp,Sn)側にのみ電流を流すのが望ましい。その場合には、スイッチング部(4a)にかかる電圧が、ダイオード(Dp,Dn)がオン状態になる立ち上がり電圧よりも低いことが条件となる。すなわち、図4に示すように、MOSFETなどのスイッチング素子には、立ち上がり電圧がほとんどないのに対し、SiからなるMOSFET(Si−MOSFET)の寄生ダイオードやSiCからなる還流ダイオード(SBD)には、通常、1V程度の立ち上がり電圧が存在する。そのため、Si−MOSFETの寄生ダイオードやSiCのSBDを備えたインバータ回路では、ダイオード(Dp,Dn)側に電流が流れない範囲、すなわち、オン電圧降下が1Vまでの範囲(電流では1/Ron(オン抵抗)以下の範囲)でしか上述のようなオン電圧補償が適用できない。
【0063】
これに対し、本関連技術では、スイッチング素子(Sp,Sn)をSiCなどのワイドバンドギャップ半導体によって構成し、還流ダイオードの代わりに該スイッチング素子(Sp,Sn)のチップ内に形成される寄生ダイオードを用いている。そのため、本関連技術では、上記図4に示すように、ダイオードの立ち上がり電圧を大きくすることができ、その分、オン電圧補償の適用範囲を拡大することができる。例えば、SiCなどのワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子(Sp,Sn)のチップ内に形成される寄生ダイオードの立ち上がり電圧は、一般的に、3V程度である。これは、Si−MOSFETの寄生ダイオードやSiCのSBDの立ち上がり電圧の約3倍であるため、その分、オン電圧補償の適用範囲が拡がる。
【0064】
−関連技術の効果−
以上のように、本関連技術では、インバータ回路(4)の出力電圧から決まる各スイッチング素子(Sp,Sn)のオン時間を、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下に基づいて補正するようにした。具体的には、スイッチング制御部(11)において、電圧指令を決定する際に、上記オン電圧降下を考慮する。これにより、平均出力電圧Vを電圧指令Vo*における平均電圧と一致させることができ、上記スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下による出力電圧の誤差を低減することができる。すなわち、本関連技術では、出力電圧の推定精度を向上させることが可能になる。そして、これにより、出力電圧の推定値に基づいた、センサレス制御をより高精度に行うことが可能になる。
【0065】
また、この関連技術によれば、スイッチング素子(Sp,Sn)に逆方向電流が流れるように該スイッチング素子(Sp,Sn)を制御することで、デューティや電流極性に関係なく、インバータ回路(4)内でのデバイスのオン電圧降下を、スイッチング素子(Sp,Sn)によるオン電圧降下のみにすることができる。これにより、デューティや電流極性に関係なく、上記インバータ回路(4)内でのオン電圧降下を精度良く且つ容易に把握することができ、該オン電圧降下に基づいて精度の良いオン電圧補償を容易に行うことができる。この点からも、いわゆるセンサレス制御をより高精度に行うことが可能になる。
【0066】
さらに、上記スイッチング素子(Sp,Sn)をSiCなどのワイドバンドギャップ半導体によって構成し、且つ、ダイオード(Dp,Dn)を寄生ダイオードとすることで、Siによって構成されるスイッチング素子の寄生ダイオードやワイドバンドギャップ半導体によって構成される還流ダイオードを備えた回路構成に比べて、オン電圧補償の適用可能範囲を拡大することができる。
【0067】
《実施形態》
以下で、本発明の実施形態について説明する。この実施形態は、インバータ制御部(15)の出力電圧演算部(16)の構成及びオン電圧補償の方法が上記関連技術とは異なる。以下の説明において、関連技術と同一の部分には同一の符号を付して、異なる部分についてのみ説明する。
【0068】
具体的には、本実施形態における出力電圧演算部(16)では、電圧指令におけるオン信号の出力期間Tonによって設定されるオン出力設定時間Tp*と、キャリア周期Tとを用いて、Tp*/T×Vdcによって算出される出力電圧演算値に、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下分Vsを考慮するように構成されている。すなわち、上記出力電圧演算部(16)では、下式のように、i>0の場合には上記出力電圧演算値Tp*/T×Vdcからオン電圧降下分Vsを引いて、i<0の場合には上記出力電圧演算値Tp*/T×Vdcにオン電圧降下分Vsを足すことにより、実際の平均出力電圧Vと同じ出力電圧演算値V’を算出する。
【0069】
i>0の場合
【0070】
【数7】

【0071】
i<0の場合
【0072】
【数8】

【0073】
このようにして求められた出力電圧演算値V’は、例えば位置センサを用いずにモータの回転制御を行うセンサレス制御などに用いられる。したがって、上述のように、実際の出力電圧Vと同じ値を算出できるような精度の高い計算方法を用いることにより、モータを精度良く制御することが可能となる。
【0074】
−実施形態の効果−
以上より、この実施形態によれば、出力電圧を計算によって求める際に、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下分Vsを考慮することにより、実際の平均出力電圧Vと同じ出力電圧演算値V’を求めることができ、出力電圧の計算精度の向上を図れる。
【0075】
したがって、スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下の影響によって、電圧指令Vo*における平均電圧V*に対して実際の平均出力電圧Vに誤差が生じても、出力電圧演算値V’を精度良く求めることができるため、該出力電圧演算値V’を用いてモータを精度良く制御することができる。
【0076】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0077】
上記各実施形態では、ダイオード(Dp,Dn)としてスイッチング素子(Sp,Sn)を構成するチップ内に形成される寄生ダイオードを用いているが、この限りではなく、該スイッチング素子(Sp,Sn)を、逆方向にも導通可能なJFETによって構成して、該スイッチング素子(Sp,Sn)に逆並列に接続するダイオードを省略してもよい。このようなダイオードがない場合のスイッチングの制御方法としては、スイッチング素子(S)に逆方向の電流が流れる所定のタイミングで、該スイッチング素子(S)をオン状態にする。
【0078】
また、上記関連技術では、インバータ制御部(15)でスイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下を考慮して電圧指令を出力するようにしているが、この限りではなく、スイッチング制御部(11)でオン信号の出力時間を決める際に上記オン電圧降下を考慮してもよい。
【0079】
また、オン電圧降下は、スイッチング素子(Sp,Sn)に流れる電流の大きさに依存するので、該依存性を考慮して出力電圧の補正を行うようにしてもよい。例えば、前記インバータ回路(4)の出力電流と、該出力電流に応じた前記オン電圧降下とを対応させたテーブルを制御部(10)に設け、該制御部(10)が、そのテーブルに基づいて、出力電圧の補正を行うようにすればよい。
【0080】
また、本発明は、インバータ回路(4)の他にもは、例えば、マトリックスコンバータにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、いわゆるセンサレス制御を行う力変換装置として有用である。
【符号の説明】
【0082】
1 電力変換装置
3 コンデンサ回路
3a コンデンサ
4 インバータ回路
4a スイッチング部
5 電動機
10 制御部
11 スイッチング制御部
15 インバータ制御部
16 出力電圧演算部
S、Sp、Sn スイッチング素子
D、Dp、Dn ダイオード
gp、gn ゲート端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子(Sp,Sn)を制御することで可変電圧可変周波数の交流電圧を出力する電力変換部(4)と、
前記電力変換部(4)の出力電圧の指令に応じて各スイッチング素子(Sp,Sn)のオン時間を定め、各スイッチング素子(Sp,Sn)をスイッチングする制御部(10)と、
を備え、
前記制御部(10)は、各スイッチング素子(Sp,Sn)のオン時間に基づいて推定した出力電圧を、前記スイッチング素子(Sp,Sn)のオン電圧降下に基づいて補正を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1の電力変換装置において、
上記電力変換部(4)は、入力された交流電圧を直接スイッチングすることで、可変電圧可変周波数の交流電圧へ変換するマトリックスコンバータであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1又は2の電力変換装置において、
それぞれのスイッチング素子(Sp,Sn)は、逆導通可能であり、
前記制御部(10)は、前記スイッチングによって、前記電力変換部(4)に同期整流を行わせることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3の電力変換装置において、
上記スイッチング素子(Sp,Sn)は、ユニポーラ素子からなることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記制御部(10)は、前記電力変換部(4)の出力電流と、該出力電流に応じた前記オン電圧降下とを対応させたテーブルに基づいて、前記補正を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちの何れか1つの電力変換装置において、
それぞれのスイッチング素子(Sp,Sn)は、ワイドバンドギャップ半導体で形成されていることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−50235(P2011−50235A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169426(P2010−169426)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】