説明

電力変換装置

【課題】PLL回路の位相誤差を素早く補正する電力変換装置を提供する。
【解決手段】交流電動機3を駆動するインバータ装置2と、これを直接駆動するバイパス開閉器25と、PLL制御手段4とで構成する。PLL制御手段4は、電圧検出器23の検出電圧とインバータ装置2の内部位相との位相差を検出する位相差検出手段と、この位相差をPI制御器43によって比例積分制御し、切り替え器44を介して補正前内部位相とするPI制御手段と、位相差を切り替え器46を介して出力し、これを補正前内部位相に加えて内部位相とする位相補正手段と、位相差を微分し、開閉器48を介してPI制御器43の積分初期値とする積分初期値設定手段とを有する。出力開閉器24が投入されて所定時間経過後、切り替え器44の入力を0からPI制御器43の出力に切り替え、切り替え器46の入力を短期間0から位相差に切り替えた後再び0に戻し、且つ開閉器48を閉路する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、改良された位相追従特性を有する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用電源で駆動されていた交流電動機を素早くインバータ装置の出力での駆動に切り替える場合、或いは、複数台のインバータ装置を用いて冗長システムを構成することによって信頼性の高い電力変換装置による駆動システムを構築し、1台のインバータ装置が故障したとき、素早く待機中のインバータ装置に切り替える場合、インバータ装置の出力周波数及びその位相を空転中の交流電動機に素早く一致させて切り替える必要がある。
【0003】
このために所謂PLL(Phase Locked Loop)回路を使用してインバータ装置の出力周波数及び位相を空転中の交流電動機に一致させる制御を行うことが一般的であるが、位相追従特性、すなわち位相一致の精度、及び応答速度については必ずしも性能が十分とは言えなかった。位相の一致が不十分の状態で切り替え運転を行ったときの過電流を防止するために、切り替え運転を行ったときの有効電流の極性によって位相を補正する提案が為されている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−123782号公報(第3−4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された手法によれば、PLL回路の位相検出誤差や動作遅れによる位相誤差が生じた場合の対策がある程度は可能である。しかしながら、切り替え運転時の過電流が瞬間的には生じてしまうこと、また制御を行って安定にインバータ装置で運転するまでに時間遅れが生じること等の問題があった。
【0006】
本発明は上記に鑑みて為されたものであり、PLL回路の位相誤差を素早く補正して切り替え運転時の過電流の発生を抑えることが可能な電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の電力変換装置は、交流電源を入力とし、所望の周波数/電圧を出力して交流電動機を駆動し、出力側に出力開閉器及び電圧検出器を備えたインバータ装置と、交流電源から直接前記交流電動機を駆動するように設けられたバイパス開閉器と、前記バイパス開閉器を閉路して交流電動機を運転している状態から前記インバータ装置による運転に切り替えるとき、前記交流電動機の位相に追従して前記インバータ装置の内部位相を一致させるためのPLL制御手段とを具備し、前記PLL制御手段は、
前記電圧検出器の検出電圧と前記インバータ装置の内部位相から互いの位相差を検出する位相差検出手段と、この位相差をPI制御器によって比例積分制御し、第一の切り替え器を介して補正前内部位相として出力するPI制御手段と、前記位相差検出手段の出力を第二の切り替え器を介して出力し、これを前記補正前内部位相に加えて内部位相とする位相補正手段と、前記位相差検出手段の出力を微分し、開閉器を介して前記PI制御手段の積分初期値とする積分初期値設定手段と、前記出力開閉器が投入された信号を受け、これを所定時間遅らせる遅延手段とを有し、前記遅延手段の出力であるPI制御動作開始信号によって前記第一の切り替え器の入力を0から前記PI制御器の出力に切り替え、且つ前記第二の切り替え器の入力を短期間0から前記位相差検出手段の検出する位相差に切り替えた後再び0に戻し、且つ前記積分初期値設定手段の出力の開閉器を閉路するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、PLL回路の位相誤差を素早く補正して切り替え運転時の過電流の発生を抑えることが可能な電力変換装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1に係る電力変換装置の回路構成図。
【図2】本発明の実施例1に係る電力変換装置のPLL制御回路の動作タイムチャート。
【図3】本発明の実施例2に係る電力変換装置の回路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
以下、本発明の実施例1に係る電力変換装置を図1及び図2を参照して説明する。図1は本発明の実施例1に係る電力変換装置の回路構成図である。
【0012】
交流電源から入力しゃ断器1を介しインバータ装置2に交流電圧が供給される。インバータ装置2はこの商用周波数の交流電圧を所望の周波数、電圧を有する交流電圧に変換し、交流電動機3を駆動する。また、入力しゃ断器1の出力から直接交流電動機3を駆動するためにバイパス開閉器25が設けられている。このバイパス開閉器25は、例えば、インバータ装置2によって交流電動機3を定格速度まで加速したあと、インバータ装置2の損失を低減するために交流電源によって交流電動機3を直接駆動する場合に用いられる。
【0013】
インバータ装置2は入力側に入力開閉器21を有し、必要に応じてACリアクトル、変圧器等を介して適切な電圧が電力変換器22に給電される。電力変換器22の内部回路の図示は省略するが、通常はコンバータによって交流を直流に変換したあと、インバータによって直流を再び交流電動機3を駆動するための交流に変換する。インバータは複数個のスイッチング素子によって構成され、図示しない制御部からのスイッチング指令によってこれらのスイッチング素子がオンオフ制御される。この制御には所謂PWM制御が採用されることが多い。そして交流電動機3は出力開閉器24を介して駆動される。
【0014】
電力変換器22の出力(インバータ装置2の出力)は電圧検出器23によって検出され、PLL制御回路4に与えられる。PLL制御回路4は、バイパス開閉器25による交流電動機3の直接駆動から再びインバータ装置2による駆動に素早く切り替えるときに、電力変換器22のインバータと交流電動機3の周波数及び位相を素早く一致させる機能を有する。以下この内部回路の構成について説明する。
【0015】
電圧検出器23によって検出されたU、V、W各相の電圧は直交座標変換器41に与えられる。この直交座標変換器41には、後述する電力変換器22のインバータの内部位相が与えられており、交流電動機3とこの内部位相の位相差をΔθとすると、直交座標変換器41はVsinΔθとVcosΔθを求めることができる。ここでVは各相の電圧振幅である。このVsinΔθとVcosΔθを位相差検出器42に入力することによってΔθを求めることができる。すなわち、位相差検出器42においてVsinΔθとVcosΔθからtanΔθを求め、Δθ=arctan(tanΔθ)からΔθを求める。
【0016】
位相差検出器42で得られた位相差ΔθはPI制御回路43に与えられる。そして、PI制御回路43の出力は切り替え器44を介して積分回路45に与えられ、この積分回路45の出力と後述する切り替え器46の補正出力の加算値が前述した内部位相となる。PI制御回路43の入力である位相差Δθは微分演算器47によって微分され、交流電動機3の速度が求められる。この交流電動機3の速度を、開閉器48を介してPI制御回路43の積分初期値として与えることができる構成としている。
【0017】
交流電動機3の直接駆動状態から再びインバータ装置2による駆動に切り替えるときは、パイパス開閉器25を開放して交流電動機3をフリーランさせた状態で出力開閉器24を投入する。この投入信号時の過渡擾乱を遅れ回路49により回避し、遅れ回路49の出力によってPI制御回路43の動作を開始する。この動作開始前は、切り替え器44、切り替え器46共入力「0」が選択されており、従って内部位相は0の状態となっている。この状態から遅れ回路49の出力であるPI制御動作開始信号によって、切り替え器44をPI制御回路43の出力側に、切り替え器46をPI制御回路43の入力である位相差Δθ側に切り替える。尚、切り替え器46の切り替えはワンショット回路50経由で行う。すなわち、デジタル制御の場合、1回だけ補正を行い、直ぐに0に戻す。また、前述のとおり、PI制御動作開始信号によって開閉器48を閉路し、交流電動機3のそのときの速度を、PI制御回路43の積分初期値として与える。
【0018】
以上の構成における詳細動作について図2のPLL制御回路の動作タイムチャートに従って説明する。図2(a)はPI制御開始時点からのU相電圧と内部位相の時間推移を示したものである。図2(b)にはPI制御開始時点からの内部位相の時間推移を拡大して示す。すなわち図2(b)は図2(a)の領域Pに対応する。以下図2(b)に従って動作説明を行う。
【0019】
実線で示した位相推移は実際のU相電圧の電圧位相の推移である。これに対して、破線で示した位相推移は、通常のPLL回路動作を行ったときの内部位相の推移である。通常のPLL回路動作とは、図1においてPLL回路のPI制御動作開始信号が与えられたとき、切り替え器44のみをPI制御回路43の出力側に切り替え、切り替え器46は0のまま、且つ開閉器48も閉路しない状態の動作を意味している。ここではPI制御動作開始の内部位相を便宜上90°としている。この時点で直ぐに切り替え器46がPI制御回路43の入力である位相差Δθに切り替わる。すると内部位相は図示したように位相差Δθだけシフトして図2(b)のA点に到達し、実線の電圧位相と瞬時に一致する。そして、開閉器48を閉路しない状態においては、PI制御回路43の動作による内部位相は、図の一点鎖線の位相推移となってB点に向かおうとする。ところが、開閉器48も切り替え器44、46の切り替え動作と同時に閉路してPI制御回路43の積分初期値が交流電動機3の速度と一致するため、位相の変化の傾きが修正され、その結果実際の電圧位相の変化と一致することになる。デジタル制御を行っている場合は、微分器47が位相の変化すなわち速度を検出するのには最低1サンプリング時間要するので、最短でデジタル制御の1サンプリング時間あれば電力変換器22のインバータと交流電動機3の位相と周波数を一致させることが可能となる。尚、1サンプリング期間だけではその間の速度変動が問題となるような場合には2サンプリング期間速度を検出することによって加速度を検出し、加速度によって補正された速度を求めるようにしても良い。
【0020】
以上説明したように、この実施例1によれば、PI制御動作開始の直後に電力変換器22のインバータのゲートブロックを解除して通電すればPLL回路の位相誤差を素早く補正して切り替え運転時の過電流の発生を抑えることが可能となる。ここで、PI制御動作開始の直後とは、例えば上記の1サンプリング時間後または2サンプリング時間後とすれば良い。また、このときの位相差Δθが所定値以内であることを確認してインバータ装置2の出力を開始するようにしても良い。
【実施例2】
【0021】
図3は本発明の実施例2に係る電力変換装置の回路構成図である。この実施例2の各部について、図1の本発明の実施例1に係る電力変換装置の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、バイパス開閉器25に代えて常用インバータ装置2Aを設ける構成とした点、インバータ装置2を待機インバータ装置2Bに代える構成とした点である。
【0022】
常用インバータ装置2A、待機インバータ装置2Bは共に実施例1で説明したインバータ装置2と同一の内部構成であるのでこれらの説明は省略する。
【0023】
この実施例2におけるPLL制御回路4は実施例1のものと全く同一の構成であり、その動作も同一である。従って、この実施例2の場合もPI制御動作開始の直後に電力変換器22のインバータのゲートブロックを解除して通電すればPLL回路の位相誤差を素早く補正して切り替え運転時の過電流の発生を抑えることが可能となる。
【0024】
以上本発明のいくつかの実施例を説明したが、これらの実施例は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施例やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0025】
例えば、実施例2では常用インバータ装置から待機インバータ装置に切り替える説明を行ったが、これは常用インバータ装置が故障した場合とは限らない。常用インバータ装置の保守のためにこの切り替えを行っても良い。また、常用インバータ装置の電圧検出器23Aの出力で作動するPLL制御回路を準備しておけば、待機インバータ装置から常用インバータ装置への逆の切り替えも可能である。従ってこの実施例2は常用、待機という用語に拘らず、2台のインバータ装置間の駆動切り替えが可能であることを意味している。
【符号の説明】
【0026】
1 入力しゃ断器
2 インバータ装置
2A 常用インバータ装置
2B 待機インバータ装置
3 交流電動機
4 PLL制御回路
21、21A、21B 入力開閉器
22、22A、22B 電力変換器
23、23A、23B 電圧検出器
24、24A、24B 出力開閉器
25 バイパス開閉器
41 直交座標変換器
42 位相差演算器
43 PI制御回路
44 切り替え器
45 積分器
46 切り替え器
47 微分演算器
48 開閉器
49 遅延回路
50 ワンショット回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源を入力とし、所望の周波数/電圧を出力して交流電動機を駆動し、出力側に出力開閉器及び電圧検出器を備えたインバータ装置と、
交流電源から直接前記交流電動機を駆動するように設けられたバイパス開閉器と、
前記バイパス開閉器を閉路して交流電動機を運転している状態から前記インバータ装置による運転に切り替えるとき、前記交流電動機の位相に追従して前記インバータ装置の内部位相を一致させるためのPLL制御手段と
を具備し、
前記PLL制御手段は、
前記電圧検出器の検出電圧と前記インバータ装置の内部位相から互いの位相差を検出する位相差検出手段と、
この位相差をPI制御器によって比例積分制御し、第一の切り替え器を介して補正前内部位相として出力するPI制御手段と、
前記位相差検出手段の出力を第二の切り替え器を介して出力し、これを前記補正前内部位相に加えて内部位相とする位相補正手段と、
前記位相差検出手段の出力を微分し、開閉器を介して前記PI制御手段の積分初期値とする積分初期値設定手段と、
前記出力開閉器が投入された信号を受けこれを所定時間遅らせる遅延手段と
を有し、
前記遅延手段の出力であるPI制御動作開始信号によって、
前記第一の切り替え器の入力を0から前記PI制御器の出力に切り替え、
且つ前記第二の切り替え器の入力を短期間0から前記位相差検出手段の検出する位相差に切り替えた後再び0に戻し、
且つ前記積分初期値設定手段の出力の開閉器を閉路するようにしたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
交流電源を入力とし、所望の周波数/電圧を出力して交流電動機を駆動し、出力側に出力開閉器及び電圧検出器を備えた常用インバータ装置と、
交流電源を入力とし、所望の周波数/電圧を出力して交流電動機を駆動し、出力側に出力開閉器及び電圧検出器を備えた待機インバータ装置と、
前記常用インバータ装置によって交流電動機を運転している状態から前記待機インバータ装置による運転に切り替えるとき、前記交流電動機の位相に追従して前記インバータ装置の内部位相を一致させるためのPLL制御手段と
を具備し、
前記PLL制御手段は、
前記待機インバータ装置の前記電圧検出器の検出電圧と前記待機インバータ装置の内部位相から互いの位相差を検出する位相差検出手段と、
この位相差をPI制御器によって比例積分制御し、第一の切り替え器を介して補正前内部位相として出力するPI制御手段と、
前記位相差検出手段の出力を第二の切り替え器を介して出力し、これを前記補正前内部位相に加えて内部位相とする位相補正手段と、
前記位相差検出手段の出力を微分し、開閉器を介して前記PI制御手段の積分初期値とする積分初期値設定手段と、
前記出力開閉器が投入された信号を受けこれを所定時間遅らせる遅延手段と
を有し、
前記遅延手段の出力であるPI制御動作開始信号によって、
前記第一の切り替え器の入力を0から前記PI制御器の出力に切り替え、
且つ前記第二の切り替え器の入力を短期間0から前記位相差検出手段の検出する位相差に切り替えた後再び0に戻し、
且つ前記積分初期値設定手段の出力の開閉器を閉路するようにしたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
前記遅延手段の出力であるPI制御動作開始信号が発せられた後、所定時間後に前記インバータ装置の出力を開始するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記遅延手段の出力であるPI制御動作開始信号が発せられた後、所定時間後に前記待機インバータ装置の出力を開始するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記遅延手段の出力であるPI制御動作開始信号が発せられた後、所定時間以降に前記位相差が所定値以下であれば、前記インバータ装置の出力を開始するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記遅延手段の出力であるPI制御動作開始信号が発せられた後、所定時間以降に前記位相差が所定値以下であれば、前記待機インバータ装置の出力を開始するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−110842(P2013−110842A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253580(P2011−253580)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】