説明

電力用半導体モジュール

【課題】 電力用半導体モジュールの残り寿命に応じた残り寿命信号を生成することによって、ユーザにその交換時期を予告するようにした電力用半導体モジュールを提供する。
【解決手段】 ワイヤ電圧検出値は、フィルタ回路22からスイッチ回路32を介してピーク保持回路33に入力される。ピーク保持回路33は、オフセットゲイン調整回路34を介してアラーム信号出力端子19cと接続され、第4のコンパレータ35の非反転入力端子と接続される。第4のコンパレータ35の反転入力端子に所定周期の三角波信号を生成する三角波信号発生回路36が接続され、オフセットゲイン調整回路34の出力信号を、ワイヤ電圧検出値に応じてオンデューティが変化する矩形パルス信号に変換している。アンドゲート38では、それぞれ第4のコンパレータ35の出力信号とラッチ回路31の出力信号からアラーム信号を生成してアラーム信号出力端子19dに出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置などに用いられる電力用半導体モジュールに関し、とくに電力用半導体モジュールの経年劣化に応じて当該モジュールの寿命を予告する寿命予告装置を備えた電力用半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体モジュールの一例として、たとえばモータ可変速制御用インバータ装置などの電力変換装置に組込まれたインテリジェント・パワー・モジュール(以下では、単にIPMともいう。)と呼ばれるものがある。インテリジェント・パワー・モジュールは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などの半導体スイッチング素子とその駆動回路、各種の保護回路、制御回路などと同一のパッケージに内蔵して構成される。ここで、IPMの具体的な例としてインバータ装置について説明する。
【0003】
図4は、インテリジェント・パワー・モジュールを用いたインバータ装置の概要を示す回路図である。
直流電源回路1とモータなどの負荷2との間に半導体スイッチング素子からなるインバータ部3が構成されており、負荷2に対して可変電圧、可変周波数で電力供給が可能である。ただし、このようなIPMの直流電源回路1としては、交流電源からダイオード整流器と大容量の直流平滑用電解コンデンサを介して直流電源を出力するように構成するのが一般的である。
【0004】
インバータ部3は、6つのIGBT4と、それらに逆並列に接続されている転流ダイオード(FWD)5から構成されている。6つのIGBT4にそれぞれ対応して設けられた駆動回路6は、各IGBT4のゲート電極に対する駆動信号を出力するとともに、各IGBT4を保護するための故障信号Sbを生成する。制御回路7とインバータ部3とから構成されたインバータ装置8では、インバータ部3における電力変換を行うために、制御回路7からのオンオフ指令信号が各アームの駆動回路6に出力されるとともに、制御回路7では駆動回路6からの故障信号Sbなどを受けて、インバータ部3の保護動作を実施する。すなわち、このような駆動回路6にはIGBT4の駆動信号を生成するだけでなく、IGBT4の過電流からの保護機能やチップ自体を過熱現象から保護する機能、および以下に説明するIPMの経年劣化を原因とする寿命予告判断機能などが備えられている。
【0005】
このインバータ装置8のインバータ部3のように、IGBT4とその駆動回路6を同一のパッケージに収容した構成をインテリジェント・パワー・モジュールという。
図5は、IPMに内蔵されたIGBTチップの構造を示す側断面図である。IGBT4を構成する半導体チップ(図5では、IGBTチップ4という。)は、IPMの放熱用銅ベースとなる金属ベース板11の上に、絶縁用のセラミック基板12を介してマウントされており、IGBTチップ4の表面に形成されたエミッタ電極(図示せず)の上面に配線用のワイヤ14が超音波接合されている。なお、IGBTチップ4とセラミック基板12との間は半田層13によって接合され、同様に金属ベース板11とセラミック基板12の間も、図示しない半田層によって接合されている。
【0006】
このようなIPMは、IGBTチップ4にオン電流が流れるときに発熱するため、この発熱量を金属ベース板11に当接されたヒートシンクを介して放熱することによって、熱破壊されないように設計されている。しかし、このようなIGBTチップ4では、ワイヤ14に加わる熱応力によってエミッタ電極との超音波接合面にクラック10が入った状態となる。そして、熱応力の印加が繰り返されることでクラック10が過熱によって時間とともに大きくなり、最終的には熱疲労によってワイヤ14がエミッタ電極の上面から剥がれてしまうなど、IGBTチップ4が破壊することになる。
【0007】
また、IGBTチップ4とセラミック基板12との間の半田層13にも同様に、熱応力の印加によりクラック10が入ることがある。IGBTチップ4とセラミック基板12(さらに詳しくは、セラミック基板12に形成された回路パターン層)との間の半田層13でも、そこにクラック10が生じると熱抵抗が大きくなってIGBTチップ4の破壊にまで至る。
【0008】
そこで、IPMの経年劣化に対処するために、熱抵抗値の変化からそこで使用されている半田劣化や、回路インピーダンスの変化からワイヤの熱疲労劣化などを知ることによって、それらの値が設定値以上となったかどうかによって寿命を判断する手法が採用されている。
【0009】
図6は、従来の駆動回路の概略構成を示すブロック図である。駆動回路6には、制御回路7からのオンオフ指令信号が入力される入力端子15、IGBT4のゲート電極への駆動信号を出力する出力端子16、IGBT4のエミッタ電極に接合されたワイヤ14の抵抗値を検出するための電圧端子17、IGBT4のセンス電極を流れる電流値を検出するための電流端子18、IGBT4に過電流が流れたことを示すアラーム信号出力端子19a、ワイヤが劣化しつつあることを示すワーニング信号出力端子19b、および接地端子20が設けられている。
【0010】
駆動回路6の内部では、ゲートドライバユニット21が入力端子15と接続されるとともに出力端子16を介して駆動信号をIGBT4のゲート電極に供給している。
フィルタ回路22は、ワイヤ14の抵抗値を検出する電圧端子17から入力される電圧信号について、IGBT4でのスイッチング時などに過渡的に発生する高電圧を除去するものである。第1のコンパレータ23は、その非反転入力端子に基準電源24が接続され、反転入力端子にフィルタ回路22の出力が供給されている。
【0011】
抵抗25は、一端が電流端子18と接続されるとともに、他端が接地されている。この抵抗25によって検出される電圧は、第2のコンパレータ26の反転入力端子、および第3のコンパレータ27の非反転入力端子に供給されている。また、これら第2、第3のコンパレータ26,27には、それぞれの他方の端子に基準電源28と基準電源29が接続されている。基準電源28は寿命判定時におけるIGBT4のコレクタ電流の上限を定めるものであり、後述するようにコレクタ電流が基準電源28で定められた所定値より大きいときには寿命判定を行わないことで、寿命判定における誤検出が防止される。また、基準電源29は、IGBT4のコレクタ電流の上限値を定めるものであり、後述するコレクタ電流の過電流を判定する際に、この上限値を上回った場合には過電流であると判断される。
【0012】
アンドゲート30には、第1、第2のコンパレータ23,26の出力信号が供給されている。このアンドゲート30の出力信号は、ワイヤ劣化のアラーム信号としてラッチ回路31を介してワーニング信号出力端子19bから出力される。また、第3のコンパレータ27の出力信号は、過電流時のアラーム信号としてアラーム信号出力端子19aから制御回路7に出力されるとともに、ゲートドライバユニット21への制御信号となっている。
【0013】
このように構成された駆動回路6は、ゲートドライバユニット21が電力変換装置側の制御回路7からのオンオフ指令信号を受けて、IGBT4のオン、オフ制御を行う。また、IGBT4のセンス電極から抵抗25にセンス電流を流して、IGBT4に流れる電流を検出し、第3のコンパレータ27によってセンス電流の検出値に相当する抵抗25の両端電圧を、基準電源29で設定された電流の上限値と比較している。そして、設定値以上であった場合には、過電流としてアラーム信号出力端子19aからアラーム信号を出力するとともに、ゲートドライバユニット21からIGBT4の強制遮断が実施される。
【0014】
第1のコンパレータ23の非反転入力端子には、ワイヤ14とIGBT4のエミッタ電極との接合部の状態のワーニングレベルに相当する電圧が基準電源24として入力されている。ワイヤ14が劣化すると、IGBT4のエミッタ電極との接合部での接触抵抗値が増加する。ワイヤ14の抵抗値はフィルタ回路22を介して基準電源24の設定値と比較され、ワイヤ14の劣化が進展して接合部の抵抗値がその寿命に相当する大きさを超えた場合にHレベル信号として出力される。なお、IGBT4ではそのエミッタ電極が接地端子20と接続されて、接地電位が基準となっているため、第1のコンパレータ23には電圧端子17からフィルタ回路22を介して負電圧信号が入力される。
【0015】
ただし、IGBT4を流れている電流が大きいと、接合部の抵抗値(検出値)が大きくなって寿命の判断が正確でなくなるため、寿命の判断はIGBT4に流れる電流が所定値より小さい場合に行うのがよい。そのため、第2のコンパレータ26には、寿命判定の誤検出を防止するために、寿命判定を行いうるIGBT4の電流の最大値を基準電源28として設定し、IGBT4を流れている電流が設定値以下であるときのみ、Hレベル信号を出力する。したがって、アンドゲート30の出力信号は、2つの入力信号がともにHレベルとなった場合、すなわちIGBT4に流れている電流が設定値以下の条件で、ワイヤ14に発生している電圧がある設定値以上になって、アンドゲート30とラッチ回路31によってワイヤが劣化しつつあることを知らせるワーニング信号が、ワーニング信号出力端子19bから出力される。
【0016】
図6には、ワイヤ14の劣化を抵抗値によって判断する駆動回路6の構成を示しているが、第1のコンパレータ23への入力信号として電力用半導体モジュールの熱抵抗検出信号を供給して、その熱抵抗値の増加によって寿命を判断することもできる(後述する図3参照)。その場合、熱抵抗値を検出するための駆動回路6では、過電流についての情報を考慮しないでアラーム信号を出力できるため、第2のコンパレータ26とアンドゲート30は不要になる。
【0017】
特許文献1には、空気調和装置のインバータ駆動用のインテリジェント・パワー・モジュールを構成するパワートランジスタの故障状態を警報するための警報回路の発明が記載されている。この特許文献1の警報回路では、インテリジェント・パワー・モジュールを構成するパワートランジスタの故障状態に応じて、パルス幅、パルス数、電圧レベルなどの警報信号形態を異ならせた警報信号を出力する警報出力手段を備えているため、コントローラによって警報原因を特定することが容易にできるという利点がある。また、特許文献2には、インバータ装置の過電流異常、制御電源電圧低下異常、過熱異常の3つの異常状態を検出して、それぞれ異常の内容別に異常信号を出力するようにしたインテリジェント・パワー・モジュールの異常検出方法の発明が記載されている。
【0018】
これらの特許文献記載の発明によれば、IPMに内蔵された保護機能が働いてIPM内の半導体素子を異常状態から保護し、その破壊を回避することができる利点がある。しかし、異常を検出すると即座にIGBTが遮断されて、製造ラインなどに使用されているインバータ装置が停止するようでは、替わりの装置を用意しておかない限り、工場システム全体の操業効率が低下する。
【0019】
そこで、特許文献3に記載された発明では、IPM側の異常発生の兆しを検出して、インバータ装置を停止せずに予告警報を出力するようにして、予めインバータ装置の異常停止を招く要因の排除を促すことによって、工場システムの突然の操業低下を防ぐようにしている。
【0020】
一般に、工場のラインの駆動システムなどに適用されている電力変換装置などでは、IPMの寿命予告信号が出力されても、即座に工場のラインを停止させて、IPMを交換することは、工場の稼動状況から必ずしもできるとは限らない。工場の稼動状況を考慮すると、通常では警報を受けた後もある時間は運転を継続し、その後に保守点検日などのタイミングを見計らってモジュール交換を実施することが好ましい。
【特許文献1】特開平08−70580号公報(段落番号[0032]〜[0053]、および図1〜図5)
【特許文献2】特開平08−98505号公報(段落番号[0017]〜[0024]、および図1〜図3)
【特許文献3】特開2000−341960号公報(段落番号[0038]〜[0058])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このような工場のライン運転などを想定した場合、従来のインテリジェント・パワー・モジュールの寿命判断手法におけるアルゴリズムでは、アラーム信号が実際に出力された後、どの程度の時間で実際にIPMが破壊し、動作が停止するに至るのかを知ることが必要になるが、こうした時間は電力変換装置の運転状況で決まり、各電力変換装置でばらばらであると考えられる。たとえば、IGBTチップの温度変化(ΔTj)が大きい装置であれば、その期間は短くなるから、異常信号であれアラーム信号であれ、それが出力されただけでは、最終的な破壊(故障)時期の予測ができず、今後の運転続行可能な期間の算定や、インテリジェント・パワー・モジュールの理想的な交換時期を決定することも難しいという問題があった。
【0022】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、電力用半導体モジュールの残り寿命に応じた残り寿命信号を生成することによって、ユーザにその交換時期を予告するようにした電力用半導体モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明では、上記問題を解決するために、電力用半導体モジュールの経年劣化に応じて変動する物理量を検出する検出回路と、前記検出回路の検出値に応じて前記電力用半導体モジュールの寿命を決定する寿命決定回路と、前記検出回路の検出値と前記寿命決定回路で決定された前記電力用半導体モジュールの寿命とから、該電力用半導体モジュールの残り寿命に応じた信号を出力する残り寿命信号出力回路と、を備え、前記残り寿命信号出力回路の信号に基づいて、前記電力用半導体モジュールの破壊に至る時刻を予告するようにしたことを特徴とする電力用半導体モジュールが提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、残り寿命信号を出力することで、電力変換装置などに用いられる電力用半導体モジュールを効率良く交換できる。したがって、電力用半導体モジュールから出力された寿命予告信号によって、電力用半導体モジュールが適用された電力変換装置などのエンドユーザはその交換時期を的確に把握することが可能となるため、電力変換装置のコストダウン、こうした電力変換装置によって構築されている工場ラインなどの製造システムを円滑に運用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明の電力用半導体モジュールに係る実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の電力用半導体モジュールを示す回路図である。
【0026】
図1に示す駆動回路61は、図6に示したものと同様に、制御回路7からのオンオフ指令信号が入力する入力端子15、IGBT4のゲート電極への駆動信号を出力する出力端子16、IGBT4のエミッタ電極に接合されたワイヤ抵抗値を検出するための電圧端子17、IGBT4のセンス電極を流れる電流値を検出するための電流端子18、過電流時のアラーム信号を出力するアラーム信号出力端子19a、および接地端子20が設けられている。また、図6におけるワーニング信号出力端子19bに代えて、ワイヤ14の劣化によるワイヤ配線部での回路インピーダンスの変動に応じたアナログ信号を出力するアラーム信号出力端子19cと、予め定めた寿命に対する残り寿命に応じた信号を出力するアラーム信号出力端子19dとを備えている。
【0027】
この駆動回路61の特徴は、インテリジェント・パワー・モジュールに予め設定した寿命に対する残り寿命を検出して予告するために、IPMを構成するIGBT4のワイヤ劣化によるワイヤ配線部での電気的特性の変動を、回路インピーダンスの変動として検出するようにしたことである。なお、図1に示す駆動回路61の各構成要素には、従来の駆動回路6(図6)と対応する部分に同一の符号を付け、それらの詳細な説明は省略する。
【0028】
図1におけるフィルタ回路22は、図6に示したものと同様、IGBT4でのスイッチング時などに過渡的に発生する高電圧を除去し、そこからワイヤ電圧検出値がスイッチ回路32を介してピーク保持回路33に入力されている。ピーク保持回路33は、オフセットとゲインを調整するオフセットゲイン調整回路34を介してアラーム信号出力端子19cと接続されるとともに、第4のコンパレータ35の非反転入力端子と接続されている。
【0029】
第4のコンパレータ35は、その反転入力端子に所定周期の三角波信号を生成する三角波信号発生回路36が接続されていて、ここでオフセットゲイン調整回路34の出力信号を、ワイヤ電圧検出値に比例してオンデューティが変化する矩形パルス信号に変換している。なお、ピーク保持回路33の入力側は抵抗37を介して接地されている。また、アンドゲート38は、それぞれ第4のコンパレータ35の出力信号とラッチ回路31の出力信号が入力され、その出力端子はアラーム信号出力端子19dに接続されている。
【0030】
つぎに、駆動回路61における寿命予告動作について説明する。
スイッチ回路32は、アンドゲート30の出力信号がHレベルのときにオンし、Lレベルのときにはオフとなる。また、IGBT4のコレクタ電流として基準電源28による設定値以上の電流が流れた場合、第2のコンパレータ26の出力がLレベルとなり、アンドゲート30の出力がLレベルになってスイッチ回路32をオフするため、ピーク保持回路33ではピークホールドされない。抵抗37はそのためのプルダウン抵抗である。したがって、このスイッチ回路32をオンオフすることによって、寿命判定時にIGBT4のコレクタ電流がその上限を定める第2のコンパレータ26に設定された値(基準電源28)を下回って流れているときだけ、ピーク保持回路33によってワイヤ14に発生したピーク電圧値が保持されるとともに、オフセットゲイン調整回路34でオフセットとゲインを調整して、アラーム信号出力端子19cからワイヤ配線部における回路インピーダンスの変動に応じたアナログ信号を出力でき、寿命判定における誤検出を防止することが可能になる。
【0031】
このように、ワイヤ14の電圧検出値をアラーム信号出力端子19cからそのままアナログ信号として出力する場合には、オフセットゲイン調整回路34への入力信号、すなわちピーク保持回路33の出力信号を使用することもできる。図1には、その場合の配線を点線によって示している。
【0032】
ピーク保持回路33の出力信号は、オフセットゲイン調整回路34によってオフセットおよびゲイン調整が行われてから、第4のコンパレータ35の非反転入力端子に入力される。この第4のコンパレータ35の反転入力端子には、所定の周期を有する三角波信号が供給されている。したがって、第4のコンパレータ35で両方の信号レベルの比較を行い、ワイヤ14での電圧検出値に応じて、所定の周期内で変化するオンデューティを有する信号がアンドゲート38に出力される。
【0033】
アンドゲート38には第4のコンパレータ35の出力とともに、ラッチ回路31の出力信号が入力されている。ラッチ回路31の出力信号は、図6のワーニング信号出力端子19bから出力されるワーニング信号に相当する信号である。そのため、このワーニング信号が出力されるタイミングで、ワイヤ14での電圧検出値に応じて、所定の周期内で変化するオンデューティを有する残り寿命信号が、アンドゲート38からアラーム信号出力端子19dを介して出力することができる。
【0034】
図2(a),(b)は、アラーム信号出力端子から出力される残り寿命信号を示す波形図である。電力用半導体モジュールのユーザは、この信号波形に基づいて当該モジュールの残り寿命を判別できる。
【0035】
すなわち、図2(a)に示すように、Hレベルの期間が短い矩形波として出力されたアラーム信号は、ワイヤ電圧検出値が比較的低いことを意味する。上述のとおり、アラーム信号出力端子19dから残り寿命信号が出力されるということは、アンドゲート38からワーニング信号が出力されているタイミングであって、電力用半導体モジュールの寿命の到来が近づいていることを示すと同時に、それでもまだ、IPMの破壊までに時間的な余裕があることを示している。これに対して、同図(b)のように、Hレベルの期間が長くなるときには、ワイヤ電圧検出値が高く、IPMの破壊までに時間的な余裕がないことを示している。このように、アラーム信号出力端子19dから出力される残り寿命信号に応じて、ユーザは電力用半導体モジュールの交換などの保守準備を予め行うことができる。
【0036】
ここで、オフセットゲイン調整回路34の調整機能について説明する。オフセットゲイン調整回路34では、フィルタ22の出力をもとにしてIPMの使用開始時(初期値)のときにアラーム信号のオンデューティがほぼ0%になるように調整し、フィルタ22の出力が基準電圧24(上記のワーニング信号が出力されるレベル)より大きく、IPMの破壊が予想されるワイヤ14の電圧値が検出されたときには、アラーム信号のオンデューティが100%になるように、ラッチ回路31の出力信号のオフセットならびにゲインを調整する。また、IPMの破壊が予想されるワイヤ14の電圧値は、実験的に求めることにより予め知ることができるので、この値に基づいて第4のコンパレータ35に入力される信号のオフセットならびにゲインを調整すればよい。
【0037】
以上のように、実施の形態1に係る電力用半導体モジュールにおける駆動回路61では、各IGBT4のワイヤ配線部における回路インピーダンスの変動を検出することによって、その破壊が予想されるまでの寿命に応じ、所定の周期内で変化するオンデューティを有するアラーム信号を寿命信号としてアラーム信号出力端子19dから出力するようにしている。したがって、IPMの最終的な破壊(故障)時期を容易に予測でき、このアラーム信号を観測するだけで運転続行可能な期間の算定や、電力用半導体モジュールの理想的な交換時期を決定できる。
【0038】
なお、電力用半導体モジュールにIGBTの寿命検知素子を設けて、その電気的特性の変動を検出することによって、スイッチング素子のワイヤ配線部以外から検出された物理量に応じたアラーム信号を出力できる。
【0039】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2の寿命予告装置に係る電力用半導体モジュールを示す回路図である。
【0040】
駆動回路62は、IGBT4の半田劣化による熱抵抗値の増加を検出するためのアラーム信号出力端子39a,39bを備えている。また、IGBT4のエミッタ電極に接合され、IGBT4のワイヤ抵抗値を検出するための電圧端子17、およびフィルタ回路22に代えて、IGBT4の熱抵抗値を検出するための演算回路40を備えている。第5のコンパレータ41は、その反転入力端子に基準電源42が接続され、非反転入力端子に演算回路40の出力が供給されている。
【0041】
演算回路40では、図5に示すような構造のIGBTチップ4における、所定の2点間での熱抵抗値Rが演算される。この熱抵抗値Rを演算する演算式は、
R=ΔT/W
として、演算回路40に設定されている。ここで、ΔTは2点間での温度差、Wは発生熱量である。
【0042】
したがって、たとえばIGBTチップ4からIPMの金属ベース板11までの熱抵抗値Rを求める場合、それぞれの箇所からの温度検出値、およびIGBTチップ4が発生している熱量Wが入力される必要がある。発生熱量Wについては、IGBTチップ4での電流×電圧値から計算することができる。演算回路40に入力される4つの信号は、こうした4つの検出値である。
【0043】
また、演算回路40からの熱抵抗値Rに相当する出力信号は、第5のコンパレータ41に入力され、予告すべき寿命の設定値に相当する基準電源42の電圧値と比較される。なお、駆動回路62の各構成要素には、実施の形態1の駆動回路61と対応する部分に同一の符号を付けてあって、それらが図1と同様のアルゴリズムを実現するように動作することはいうまでもない。
【0044】
このように熱抵抗値Rに基づいて寿命を判定することにより、図5に示したようなIGBTチップ4とセラミック基板12との間の半田層13の劣化についても、その寿命予告が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施の形態1の電力用半導体モジュールを示す回路図である。
【図2】(a),(b)はアラーム信号出力端子から出力される残り寿命信号を示す波形図である。
【図3】実施の形態2の電力用半導体モジュールを示す回路図である。
【図4】インテリジェント・パワー・モジュールを用いたインバータ装置の概要を示す回路図である。
【図5】IPMに内蔵されたIGBTチップの構造を示す側断面図である。
【図6】従来の駆動回路の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0046】
1 直流電源回路
2 負荷
3 インバータ部
4 IGBT(IGBTチップ)
5 転流ダイオード
6,61,62 駆動回路
7 制御回路
10 クラック
11 金属ベース板
12 セラミック基板
13 半田層
14 ワイヤ
19a,19c,19d,39a,39b アラーム信号出力端子
19b ワーニング信号出力端子
21 ゲートドライバユニット
23 第1のコンパレータ
24,28,29,42 基準電源
25,37 抵抗
26 第2のコンパレータ
27 第3のコンパレータ
30,38 アンドゲート
31 ラッチ回路
32 スイッチ回路
33 ピーク保持回路
34 オフセットゲイン調整回路
35 第4のコンパレータ
36 三角波信号発生回路
40 演算回路
41 第5のコンパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体モジュールの経年劣化に応じて変動する物理量を検出する検出回路と、
前記検出回路の検出値に応じて前記電力用半導体モジュールの寿命を決定する寿命決定回路と、
前記検出回路の検出値と前記寿命決定回路で決定された前記電力用半導体モジュールの寿命とから、該電力用半導体モジュールの残り寿命に応じた信号を出力する残り寿命信号出力回路と、
を備え、前記残り寿命信号出力回路の信号に基づいて、前記電力用半導体モジュールの破壊に至る時刻を予告するようにしたことを特徴とする電力用半導体モジュール。
【請求項2】
前記検出回路は、前記電力用半導体モジュールを構成するスイッチング素子の電気的特性の変動を検出するものであることを特徴とする請求項1記載の電力用半導体モジュール。
【請求項3】
前記検出回路は、前記スイッチング素子のワイヤ配線部における回路インピーダンスの変動を検出するものであることを特徴とする請求項2記載の電力用半導体モジュール。
【請求項4】
前記検出回路は、前記電力用半導体モジュールの経年劣化に応じて変動する熱抵抗値を検出するものであることを特徴とする請求項1記載の電力用半導体モジュール。
【請求項5】
前記残り寿命信号出力回路は、前記寿命決定回路で決定された前記電力用半導体モジュールの寿命相当値と前記物理量の検出値とを比較して、前記電力用半導体モジュールの残り寿命に応じたオンデューティを有する残り寿命信号を出力することを特徴とする請求項1記載の電力用半導体モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−49870(P2007−49870A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234556(P2005−234556)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】