説明

電力用半導体装置

【課題】封止体の剥離を防止し、信頼性の高い電力用半導体装置を得ることを目的とする。
【解決手段】電力用半導体素子4と、主面1fに電力用半導体素子4が接合された回路基板1と、回路基板1の主面1fの反対側の面1rを除き、少なくとも電力用半導体素子4を含む主面1fを封止する封止体7と、を備え、回路基板1の主面1fの、少なくとも周縁部よりも電力用半導体素子4が接合された部分に近い領域L1には、封止体7内に食い込む突起2が電力用半導体素子4を囲むように形成されているとともに、突起2は、主面1fから離れるにつれて主面1fに平行な断面が広がる拡張部2eを有するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用半導体素子が接合された回路基板の主面を、裏側の面を除いて封止した電力用半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の中でも電力用に用いられる半導体装置では、鉄道車両、ハイブリッドカー、電気自動車等の車両、家電機器、産業用機械等において、比較的大きな電力を制御、整流するために利用されている。近年、特に、炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体材料からなる半導体素子は、従来のシリコン(Si)を用いた半導体素子よりもバンドギャップが大きく、半導体装置の高耐圧化、小型化、高電流密度化、高温動作が期待されている。
【0003】
現在、種々の半導体装置があるものの、電力を制御する電力用半導体装置では、回路基板の主面に電力用半導体素子を接合し、さらにアルミワイヤなどの配線部材を接合して電力回路を構成するとともに、裏面側を放熱面としている。そして、電力用半導体素子と回路基板とははんだ付け、電力用半導体素子と配線部材とは超音波により接合されているのが一般的である。電力用半導体装置が動作したとき、電力用半導体素子の温度が最も高くなるため、動作時間が長くなるにつれ、電力用半導体素子と回路基板間との接合部材であるはんだのクラック、電力用半導体素子に接合している配線部材の劣化が進む。特に、電力用半導体素子が150℃以上の高温で動作する場合、接合部材のクラック、配線部材の劣化が加速する。そこで、回路基板の主面側を実装された電力用半導体素子および配線部材等とともに樹脂で封止することで、接合部材のクラックや配線部材の劣化を抑制するようにしている。
【0004】
しかし、封止体を構成する樹脂と電力用半導体素子等の回路部材とは線膨張率が異なるので、高温時に樹脂と回路部材間にせん断応力が発生し、その結果、封止体が回路基板から剥離する可能性があった。そこで、回路基板の主面の対向する辺に、主面から突出する板状の突起を設けた半導体装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−9220号公報(段落0012〜0017、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、封止体の剥離を防止する突起が、上記のように回路基板の端部に位置していると、封止体全体としての回路基板からの剥離を防止できても、半導体素子近傍における樹脂の剥離や浮き上がりを抑制することは困難であった。そのため、半導体素子部分に応力が集中して、逆に信頼性が低下する可能性があった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、封止体の剥離を防止し、信頼性の高い電力用半導体装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電力用半導体装置は、電力用半導体素子と、主面に前記電力用半導体素子が接合された回路基板と、前記回路基板の主面の反対側の面を除き、少なくとも前記電力用半導体素子を含む主面を封止する封止体と、を備え、前記回路基板の主面の、少なくとも周縁部よりも前記電力用半導体素子が接合された部分に近い領域には、前記封止体内に食い込む突起が前記電力用半導体素子を囲むように形成されているとともに、前記突起は、前記主面から離れるにつれて前記主面に平行な断面が広がる拡張部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電力用半導体装置によれば、回路基板の主面の面内において、電力用半導体素子の近傍に、電力用半導体素子を囲むように、封止体に食い込み拡張部を有する突起を配置したので、封止体の回路基板からの剥離を防止して、信頼性の高い電力用半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の基本構成を説明するための平面図および断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の回路基板の主面に形成された突起の構成を説明するための部分断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1の比較例の電力用半導体装置の構成を説明するための平面図および断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1の比較例の電力用半導体装置の部分断面図。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置における信頼性を確認するための突起を構成する金属球の直径と樹脂の密着力との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の実用上の1の構成を説明するための平面図および断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の実用上の2の構成を説明するための平面図および断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の実用上の3の構成を説明するための平面図および断面図である。
【図9】本発明の実施の形態1の第1の変形例にかかる電力用半導体装置の構成を説明するための部分平面図である。
【図10】本発明の実施の形態1の第2の変形例にかかる電力用半導体装置の構成を説明するための平面図である。
【図11】本発明の実施の形態2にかかる電力用半導体装置の構成を説明するための部分平面図および部分断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3にかかる電力用半導体装置、および比較例の電力用半導体装置の構成を説明するための部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1〜図5は、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置を説明するためのもので、図1は電力用半導体装置の基本構成を説明するための全体図であり、図1(a)は電力用半導体装置の封止体部分を透過させた場合の平面図、図1(b)は図1(a)のb1−b1線による切断面を示す断面図、図2は回路基板に設けた突起の構成を説明するためのもので、図2(a)は突起を構成する金属球の構造を説明するための断面図、図2(b)は図1(b)の一部を拡大したものに相当し、回路基板に金属球を接合して構成した突起近傍の部分断面図、図2(c)は図2(b)のn−n線、f−f線で突起を切断した場合の主面に平行な断面形状を示す図である。
【0012】
本実施の形態1にかかる電力用半導体装置について、図に基づいて説明する。
図1に示すように、20mm角のCu(銅)板の回路基板1の主面1f(上面)の略中央に、電力用半導体素子4がはんだなどの接合材3で接合されている。電力用半導体素子4の回路基板1との接合面の反対面である能動面には、配線部材であるアルミニウムのリボン5の一端が接合されており、リボン5の他端には外部端子となるリード6が接合されている。そして、回路基板1の電力用半導体素子4が実装された主面1fに対し、反対側の面である放熱面1rを露出するように、半導体素子4および配線部材5等とともに、エポキシ樹脂で主面1f全体を封止して封止体7を形成することで電力用半導体装置10が完成する。
【0013】
さらに、本実施の形態にかかる電力用半導体装置10では、最大の特徴として、回路基板1の主面1f上には、金属球21を接合材22で接合して構成した突起2を、半導体素子4を囲むようにループ状に配置した。そして、電力用半導体素子4近傍のループ(位置)L1から、外側に向かって順にL2、L3、L4、L5と、周縁部近傍位置(L5)にまで配置した。突起2を構成する金属球21は、図2(a)に示すように、ボール状の核体21cに表面層21sを設けた構成として、核体21cはSn(すず)と接合する金属である例えば、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、もしくはAg(銀)製のボール(φ0.8mm)、表面層21sはめっきによる厚さ5μmのSn(すず)層とした。そして、回路基板1としては、金属球21と同様に、Snと接合する材料としてCuを使用したが、その他、例えば、Ni、もしくはAgの板を使用してもよい。
【0014】
そして、複数の金属球21のそれぞれを、回路基板1の主面1f上に金属球21間の間隔が0.6mmになるように位置決め後、還元リフロー炉で250℃〜300℃に加熱する。これにより、金属球21の表面層21sをなすSnが溶融して、金属球21(厳密には核体21c)と主面1fとの隙間を埋めるように移動し、接合材22として金属球21と回路基板1とを接合(はんだ付け)する。このようにして金属球21を回路基板1に接合すると、接合材22が、適度に金属球21と主面1fとの隙間部分に凝集する。そのため、形成された突起2を、図2(b)、(c)に示すように、主面1fから離れるにつれ、主面1fに平行な断面の面積が大きくなる(An<Af)拡張部2eを残すように形成することができる。したがって、突起2のうち、少なくとも、拡張部2eが封止体7の内部に食い込むことにより、封止体7を構成する樹脂を主面1fに対して確実に固定することができる。
【0015】
このように構成した電力用半導体装置10を動作させると、電力用半導体素子4が主な発熱源となって、電力用半導体装置10の温度が上昇するので、動作中は熱膨張し、動作を止めると熱収縮する。すなわちヒートサイクルが生じる。このとき、封止体7と回路基板1とは、線膨張率が異なるため、封止体7の剥離を防止する手段がないと、ヒートサイクルによる熱応力により封止体7と回路基板1間にせん断応力が発生し、封止体7が主面1fから剥離して上方向(主面1fから離れる方向)に抜けてしまう。しかしながら、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置10では、図2で説明したように、突起2の拡張部2eが封止体7に機械的引っ掛かることにより、上方向への抜けを防止することができる。このように、回路基板1に特殊な加工が必要なく、金属球21を接合して突起2を形成するという簡単な製造プロセスで、封止体7の剥離を防止することができる。
【0016】
なお、金属球21および回路基板1の材料については、上記に限ることはない。例えば、核体21cとして、Snと直接接合しない、例えば、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)のボールに、Snと接合するためのCu、Ni、Agなどのストライクめっきを行ったものに、Snをめっきして表面層21sを形成するようにしてもよい。同様に、回路基板1についても、Snと直接接合しない、例えば、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)の板材に、Snと接合するためのCu、Ni、Agなどのストライクめっきを行った面を主面1fとするようにしてもよい。また、上記例では、金属球21側にSnメッキをする場合を記載したが、回路基板1側にSnメッキをしても同等の効果を得られる。さらに、上述したように拡張部2eを確保して、接合材22として機能する材料であれば、Snに限らず、Sn合金や他の金属あるいは、接着剤をコーティングするようにしてもよい。
【0017】
<パラメータ試験>
つぎに、本実施の形態1にかかる電力用半導体装置10における封止体7の剥離防止効果を確認するために、種々のパラメータを用いて最適化試験を行った。
【0018】
図3は、突起2の配置の妥当性を検討するための比較例である電力用半導体装置の構成を説明するための全体図であり、図3(a)は電力用半導体装置の封止体部分を透過させた場合の平面図、図3(b)は図3(a)のb3−b3線による切断面を示す断面図である。図において、比較例にかかる電力用半導体装置10Fを構成する回路基板1や、突起2といった各部材の材質やサイズは、実施の形態1にかかる電力用半導体装置10と同様であり、突起2を周縁部近傍位置L5のみにループ状に配置したことが異なる。
【0019】
つまり、本実施の形態1にかかる電力用半導体装置10のサンプル(実施例サンプルと称する)も、比較例の電力用半導体装置10Fのサンプル(比較例サンプルと称する)も、ともに、20mm角の銅の回路基板1に、φ0.8mmで5μmのSnめっきをした銅ボール(金属球21)を配置して、主面1fに接合後、エポキシ樹脂で封止体7を構成して作成した。そして、作成した各サンプルを−40℃/150℃のヒートサイクル試験にかけた。その結果、実施例サンプル、比較例サンプルともに、外周部の大きな剥離は生じなかった。しかし、試験後の両サンプルを切断して断面を観察したところ、比較例サンプルにおいては、半導体素子4の近傍で、10μm程度の剥離が生じていることがわかった。
【0020】
つまり、比較例サンプルにおいては、回路基板1と封止体7との密着力が弱く、ヒートサイクルにより発生するせん断応力より小さいため、電力用半導体素子4の接合部分近傍の封止体7を回路基板1の主面1f部分に固定させることができず、剥離が生じたものと思われる。
【0021】
さらに、突起2の配置を変えて試験を行ったところ、少なくとも電力用半導体素子4の近傍、つまり、主面1fの周縁部よりも電力用半導体素子4が接合された部分に近い部分の周囲であるL1部分に配置しておけば、電力用半導体素子4周囲の封止体7の剥離やずれを防止できることを確認できた。また、L1に加え、周縁部近傍、つまり電力用半導体素子4が接合された部分よりも、周縁部に近い部分L5にも配置しておけば、封止体7の表面部分から電力用半導体素子4が接合された部分にわたる広い範囲において長期間(多サイクル数)剥離を防止できることが分かった。さらに、付け加えるならば、主面1fのうち、封止体7のずれや剥離を抑止したい部分があれば、その部分の近傍に突起2を配置することで、効果的に封止体7の主面1fに対する密着性を保持することが可能となる。
【0022】
金属球21の形状は概球形状であればよい。一方、接合材22として機能する表面層21sの厚さ(めっき厚)は10μm以下がよい。図4は、第2の比較例にかかる電力用半導体装置の突起の構成について説明するためのもので、実施の形態1の図2(b)に対応する部分断面図である。本比較例では、金属球21の表面層を10μm超の厚みで形成した。図に示すように、めっき厚が10μmを超えた比較例では、金属球21が接合材22中に埋もれてしまい、拡張部2eの領域が減少する。そのため、機械的に封止体7を引掛ける部分の面積が減少し、封止体7を主面1fに対して固定する効果が減少する。
【0023】
金属球21の大きさ(直径)についても検討を行った。図5は本実施の形態にかかる電力用半導体装置において、剥離を抑制する効果のある突起の大きさの範囲を説明するためのもので、突起を金属球21で形成したときの金属球21の直径と樹脂の密着力との関係を示すグラフである。
【0024】
この試験においては、大きさが20mm角の1枚の回路基板1に対して、10mm角の半導体素子4を1枚接合し、金属球21間の間隔を0.1mmとして、金属球21の直径を0.1mm〜5mmの間で変化させたときの、樹脂の密着力を測定した。その結果、図5から分かるように、金属球21の直径を大きくするにつれ、樹脂との密着力が大きくなる。これは、金属球21の大きさを大きくすればするほど、樹脂を引掛ける面積が大きくなるためである。そして、直径を0.1mmから増大させていくと、0.5mmまでは直径に伴って密着力が大きく変化(増大)し、0.5mm以降はゆるやかに上昇することがわかる。そのため、少なくとも金属球21の直径を0.5mm以上にすることで、ばらつきを抑えて、安定した密着力を得ることができることがわかった。
【0025】
一方、金属球21の大きさを大きくしすぎると、効率よく、金属球21を実装できない場合が生じるため、金属球21の大きさを大きくすれば、必ず、樹脂との密着力が大きくなるわけではない。その傾向は、種々の回路基板1の大きさ、電力用半導体素子4の数、大きさが変わっても、同じ傾向であり、金属球21を実装できる面積は限られているため、実用上、3mmが上限であることが分かった。つまり、金属球21は直径0.5mm〜3mmの範囲に調整することが剥離効果を抑制するのに望ましいことがわかった。
【0026】
<実際の態様>
なお、上記実施の形態1の説明では、突起2による剥離防止のメカニズムや突起2の配置をわかりやすくするため、説明に必要な要素しか記載せず、例えば、図1には仕様を明らかにしていない電力用半導体素子4を1つ記載しただけである。しかし、実際の形態においては、電力用半導体素子4の配置や回路基板1の構成は複雑である。図6〜図8は、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の実際の形態に近い構成を説明するためのもので、図6は半導体スイッチを構成する電力用半導体装置の封止体部分を透過させた場合の平面図(図6a)と、図6(a)のb6−b6線による切断面を示す断面図(図6(b))であり、図7、図8は、それぞれ回路基板の仕様を変えた電力用半導体装置の断面図であって、実施の形態1における図1(b)に対応する図である。
【0027】
図6に示すように、半導体スイッチを構成するため、回路基板1の主面1fには、大電流を制御するためのスイッチング素子41であるMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect-Transistor)、もしくはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)と、整流素子42である還流用のダイオードが並列に実装されている。そして、並列接続したスイッチング素子41と整流素子42の接合部近傍を囲む位置L1、および周縁部位置L5に突起2を配置し、さらに、L1とL5の間の隙間位置Vにも配置している。このような構成でも、少なくともL1に突起2を配置することで半導体スイッチ近傍の封止体7を主面1fに密着させることができ、L5にも配置することで外界との境界部分での封止体7の回路基板1からの剥離も抑制することができる。
【0028】
なお、図6では、1つの回路基板1にスイッチング素子41と整流素子42が1つずつ配置した例を示したが、半導体スイッチ1組当たりの電流密度を下げるために、複数の半導体スイッチを1つの回路基板1に配置するようにしてもよい。
【0029】
電力用半導体素子(4、41、42をまとめて4と記載する)としては、シリコンウエハを基材とした一般的な素子でも良い。しかし、本発明においては炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)、またはダイヤモンドといったシリコンと較べてバンドギャップが広い、いわゆるワイドバンドギャップ半導体材料を適用したときに好適な構造を目指しており、特に炭化ケイ素を用いた半導体素子に好適である。そして、本実施の形態1のみならず他の実施の形態においても、上記ワイドバンドギャップ半導体のように、150℃以上で動作する半導体素子に適用すると効果が大きい。
【0030】
また、上記実施の形態では、回路基板1を1枚の銅板で構成し、銅板1枚しか記載していないが、回路基板1の放熱面1r側には電力用半導体素子4が発生した熱を放熱するためのヒートシンクが実装されており、ヒートシンクを回路基板1に対して絶縁する必要があるのが、一般的である。図1や図6で説明したような形態であれば、回路基板1の材料が導電性の場合、回路基板1とヒートシンクの間に絶縁材料を実装するのが一般的である。また、絶縁材料を回路基板に直接組み入れる場合も一般的である。例えば、図7に示すように、絶縁基板12の両面に金属基板11F、11Rを貼り合わせた回路基板1p2を使用する場合、もしくは図8に示すように、電力用半導体素子4の下はその熱を放熱するための伝熱板13、伝熱板13の下に絶縁シート14を貼り合わせ、絶縁シート14の下に銅箔15を貼り合わせて回路基板1p3を構成する場合などが一般的である。
【0031】
実施の形態1の変形例.
また、実施の形態1の変形例として、異なる形態の突起を備えた例について説明する。
図9および図10は、本実施の形態1の変形例にかかる電力用半導体装置の構成を説明するためのもので、図9は第1の変形例にかかる電力用半導体装置の回路基板1の主面の部分平面図、図10は第2の変形例にかかる電力用半導体装置の封止体部分を透過させた場合の平面図である。
【0032】
図9に示すのは、上記実施の形態1と同様に、金属球21を主面1fに接合して突起を形成したものであるが、所定の大きさの突起2Lを配置した間に、突起2Lよりも小さな突起2Sを設けるようにしたものである。つまり、2種類の直径の金属球21L、21Sを配置して突起2L、2Sを形成したものである。これにより、さらに封止体7を主面1fに対して密着させる力が向上する。
【0033】
また、図10に示すのは、金属球21の代わりにワイヤ(金属線)21Yを用いて突起としたものであり、金属線21Yの略円形の断面が、主面1fに対して垂直になるように主面1f上に配置して接合したものである。このような構成でも、少なくとも電力用半導体素子4の近傍部分で電力用半導体装置を囲む位置Y1に突起2Yを配置することで、拡張部2Yeを形成することができる。そのため、電力用半導体素子4近傍の封止体7を主面1fに密着させることができ、外周部分に位置するY4にも配置することで外界との境界部分での封止体7の回路基板1からの剥離も抑制することができる。このとき、金属線21Yは金属球21と同じように、表面にSnメッキ層を設けて、回路基板1に接合(はんだ付け)しても構わないし、ワイヤボンドのように回路基板1に超音波接合しても構わない。
【0034】
なお、回路基板1には、上述したようにSnとの接合性と放熱性を考慮して、銅を用いるが、これに限定するものではなく、必要な放熱特性を有するものであれば、特に限定はされない。例えば上述したようにアルミニウムや鉄を用いても良く、これらを複合した材料を用いても良い。また、銅/インバー/銅などの複合材料を用いても良く、SiCAl、CuMoなどの合金を用いても良い。また、主面1fのうち、電力用半導体素子4やその他配線部材を接続する部分の表面は、通常、ニッケルメッキが行われている。本実施の形態1においてもそのようにしてもかまわないが、金めっきでもよく、あるいは、突起2を形成する部分と同様にSnメッキを行っても良く、必要な電流と電圧を電力用半導体素子に供給できる構造であれば構わない。
【0035】
また、回路基板1の封止体7と接触する部分の表面には、封止体7を構成する樹脂との密着性を高めるために、凹凸を設けても良く、プライマー処理等の密着性向上剤を設けても良い。密着性向上剤は、例えばシランカップリング剤やポリイミド、エポキシ樹脂等が用いられるが、回路基板1と封止体7の樹脂との密着性を向上させるものであれば特に限定されない。
【0036】
配線部材5には、断面が方形の銅板を帯状にしたリボンを用いた例を示したが、これに限定するものではなく、アルミニウムまたは金でできた断面が円形の線体、いわゆるワイヤを用いても良い。また、図1を含め、上記各図では、電力用半導体素子4に1本の配線部材5しか施されていないが、これに限定するものではなく、電力用半導体素子4に流れる電流値などに対応して、必要な本数を設けることができる。さらに、配線部材5として銅の板材(リード板)を用いてもよい。銅板材の表面は、防錆のためにニッケルメッキを用いてもよく、防錆剤などの化学的処理を行っても良い。またプライマー処理等の密着性向上剤を設けても良い。
【0037】
また、封止体7を構成する樹脂としては、例えばエポキシ樹脂を用いるが、これに限定するものではなく、所望の弾性率と耐熱性を有している樹脂であれば用いることができる。例えばエポキシ樹脂の他に、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、等が好適に用いられる。
【0038】
以上のように、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置10、10p1、10p2、10p3、10vY(まとめて10)によれば、電力用半導体素子4と、主面1fに電力用半導体素子4が接合された回路基板1と、回路基板1の主面1fの反対側の面である放熱面1rを除き、少なくとも電力用半導体素子4を含む主面1fを封止する封止体7と、を備え、回路基板1の主面1fの、少なくとも周縁部よりも電力用半導体素子4が接合された部分に近い領域L1、Y1には、封止体7内に食い込む突起2が電力用半導体素子4を囲むように形成されているとともに、突起2は、主面1fから離れるにつれて主面1fに平行な断面が広がる拡張部2eを有するように構成したので、電力用半導体素子4の近傍にある封止体7が、主面1fから封止体内に食い込む突起2のとくに、拡張部2eに機械的に引っ掛かることによって、主面1fに対して強固に密着する。そのため、電力用半導体装置の起動停止を繰り返しても、封止体7の剥離を防止するとともに、電力用半導体素子4近傍の封止体7と回路基板1間にかかる熱応力が突起2によって抑えられる。そのため、電力用半導体素子4や配線部材5との接合信頼性が向上し、電力用半導体装置としての信頼性が高まる。
【0039】
とくに、突起2を、所定形状の機能部材として複数の金属球21を、間隔をあけてそれぞれ主面1fに接合することで形成するようにしたので、主面1f内のとくに封止体7と主面1fとのずれや剥離を防止したい位置に、容易に突起を形成することができる。
【0040】
また、上述した機能部材である金属球21、または回路基板1の主面1fの少なくともいずれかの表面層をSn(すず)で形成し、表面層を溶融させることで機能部材を主面1fと接合させるようにしたので、製造工程を複雑化することなく、ずれや剥離を防止したい位置に、容易に突起2を形成することができる。
【0041】
また、金属球21のそれぞれは、0.5mm〜3mmの直径を有するようにすれば、強固で安定した密着力を得ることができる。
【0042】
また、金属球21には、直径の異なる金属球21L、21Sが含まれているようにすれば、直径や高さの異なる突起2L、2Sが形成できるので、より密着力を向上させることができる。
【0043】
あるいは、突起2Yを、所定形状の機能部材として、略円形の断面を有する金属線21Yを用い、金属線21Yを主面1fに対して略円形の断面が垂直になるように配置し、主面1fに接合して形成するようにすれば、主面1f内のとくに封止体7と主面1fとのずれや剥離を防止したい部材に対し、その部材を取り囲む突起を容易に形成することができる。
【0044】
実施の形態2.
本実施の形態2にかかる電力用半導体装置においては、回路基板の主面に、金属球で構成した突起のそれぞれを囲むように絶縁膜を配置するようにしたものである。それ以外の構成については、実施の形態1で説明したものと同様である。図11は、本実施の形態2にかかる電力用半導体装置の基本構成を説明するための図であり、図11(a)は回路基板の部分平面図、図11(b)は図11(a)のb11−b11線による切断面を示す部分断面図である。
【0045】
図において、回路基板1の主面1fには、各突起2を囲むように絶縁膜1mが格子状にパターン配置されている。絶縁膜1mは、主面1fにレジストを塗布した後、各金属球21の配置位置を中心とした所定形状(矩形)のパターンで感光させ、各突起2を囲む矩形形状部分を取り除くことで、格子状に形成したものである。
【0046】
主面1fにパターン化した絶縁膜1mを形成することにより、Snメッキ付きの金属球21を位置決め後、還元リフロー炉に通しても、Snが絶縁膜1mにせき止められ、表面層21sから溶融して流れ出たSnが、金属球21から離れて隣接する金属球21まで拡がることがなく、その場に留めることができる。また、Snが流動しないので、金属球21が動くことなく、位置決めが容易である。また、図11では、絶縁膜1mが形成されていない領域を突起2周辺の四角形状としたが、丸形状や6角形など、どのような形状でも構わない。
【0047】
以上のように、本発明の実施の形態2にかかる電力用半導体装置によれば、主面1fには、複数の金属球21を配置するそれぞれの部分を囲むように、絶縁膜1mが形成されているようにしたので、容易に金属球21の位置決めができ、さらに接合材22が隣接する突起2につながることがなく、所定量の拡張部2eを確保することができる。
【0048】
実施の形態3.
本実施の形態3にかかる電力用半導体装置においては、回路基板の主面の金属球で突起を形成する位置に、所定径のディンプル(丸い窪み)を設けるようにしたものである。それ以外の構成については、実施の形態1で説明したものと同様である。図12は、本実施の形態3および比較例にかかる電力用半導体装置に対する部分断面図で、実施の形態1における図2(b)に対応する図であり、図12(a)は本実施の形態3にかかる電力用半導体装置の部分断面図、図12(b)と図12(c)は、それぞれ比較例にかかる電力用半導体装置の部分断面図である。
【0049】
図12(a)に示すように、本実施の形態3にかかる電力用半導体装置においては、主面1f内に、金属球21による各突起2を形成する位置に対応して所定開口径のディンプル1dを形成したものである。ディンプル1dは、開口径Ddが金属球21の直径Dbに対し、下記式(1)の関係を満たすように、一般的な加工法であるエッチングにより形成したものである。
0.3Db ≦ Dd ≦ 0.6Db ・・・(1)
式(1)を満たすようにディンプル1dを主面1f内に形成すると、金属球21を主面1f内に配置した時に、各金属球21の位置決めが容易に行える。さらに、拡張部2eを適度に形成することができる。
【0050】
一方、図12(b)に示すように、ディンプル1dの直径Ddを金属球21に直径Dbの0.66倍以上に設定すると、突起2における拡張部2eの割合が小さくなるので、封止体7を主面1fに密着させる効果が減少する。
【0051】
一方、図12(c)に示すように、ディンプル1dの直径Ddを金属球21に直径Dbの0.2倍以下に設定すると、金属球21がディンプル1d内に落ち込む割合が小さくなり、金属球21の位置決め効果が減少する。
【0052】
つまり、ディンプル1dの直径Ddを金属球21に直径Dbの0.3倍〜0.6倍の範囲に調整することにより、金属球21の位置決め(突起2の正確な配置)効果と封止体7の密着力効果を両立させることができる。
【0053】
以上のように、本発明の実施の形態3にかかる電力用半導体装置によれば、主面1fには、複数の金属球21を配置するそれぞれの位置に、金属球21の直径Dbに応じた開口径Ddを有するディンプル1dが形成されているように構成したので、金属球21の位置決めが容易にできる。
【0054】
とくに、ディンプル1dの開口径Ddを、金属球21の直径Dbの0.3〜0.6倍の範囲に調整すれば、位置決め効果と封止体7の密着力効果を両立させることができる。
【0055】
なお、上記各実施の形態においては、スイッチング素子41(トランジスタ)や整流素子42(ダイオード)として機能する電力用半導体素子4には、炭化ケイ素によって形成されたものを好適例として示したが、これに限られることはなく、一般的に用いられているシリコン(Si)で形成されたものであってもよい。しかし、上述したように、シリコンよりもバンドギャップが大きい、いわゆるワイドギャップ半導体を形成できる炭化ケイ素や、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドを用いた時の方が、本発明による効果をより一層発揮することができる。
【0056】
なぜなら、ワイドバンドギャップ半導体材料によって形成されたスイッチング素子41や整流素子42(各実施の形態における電力用半導体素子4)は、ケイ素で形成された半導体素子よりも電力損失が低いため、スイッチング素子41や整流素子42における高効率化が可能であり、ひいては、電力用半導体装置10の高効率化が可能となる。さらに、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、スイッチング素子41や整流素子42の小型化が可能であり、これら小型化されたスイッチング素子41や整流素子42を用いることにより、電力用半導体装置10も小型化が可能となる。また耐熱性が高いので、高温動作が可能であり、ヒートシンクの放熱フィンの小型化や、水冷部の空冷化も可能となるので、電力用半導体装置10の一層の小型化が可能になる。
【0057】
一方、上記のように高温動作する場合は停止・駆動時の温度差が大きくなり、さらに、高効率・小型化によって、単位体積当たりに扱う電流量が大きくなる。そのため経時的な温度変化や空間的な温度勾配が大きくなり、回路基板1と封止体7との熱応力も大きくなる可能性がある。しかし、本発明のように回路基板1の主面1fの少なくとも電力用半導体素子4の近傍部分に設けた突起2により、封止体7を回路基板1に密着させるように構成すれば、電力用半導体素子4の近傍部分での封止体7が回路基板1に対して強固に固定されるので、電力用半導体素子4や電力用半導体素子4に接合された配線部材5への熱応力が緩和される。そのため、電気接続等の信頼性が向上するので、ワイドバンドギャップ半導体材料の特性を活かして、小型化や高効率化を進めてもパワーサイクル寿命が長く、信頼性の高い電力用半導体装置10を得ることが容易となる。つまり、本発明による効果を発揮することで、ワイドバンドギャップ半導体材料の特性を活かすことができるようになる。
【0058】
なお、スイッチング素子41及び整流素子42の両方がワイドバンドギャップ半導体材料によって形成されていても、いずれか一方の素子がワイドバンドギャップ半導体によって形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1:回路基板、1d:ディンプル、1f:主面、1m:絶縁膜、1r:放熱面、
11:金属基板、12:絶縁基板、13:伝熱板、14:絶縁シート、15:銅箔、
2:突起、2e:拡張部、21:金属球、21Y:ワイヤ、22:接合材、
3:はんだ、4:電力用半導体素子、41:スイッチング素子、42:整流素子、
5:リボン、6:外部端子、7:封止体、10:電力用半導体装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体素子と、
主面に前記電力用半導体素子が接合された回路基板と、
前記回路基板の主面の反対側の面を除き、少なくとも前記電力用半導体素子を含む主面を封止する封止体と、を備え、
前記回路基板の主面の、少なくとも周縁部よりも前記電力用半導体素子が接合された部分に近い領域には、前記封止体内に食い込む突起が前記電力用半導体素子を囲むように形成されているとともに、前記突起は、前記主面から離れるにつれて前記主面に平行な断面が広がる拡張部を有することを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項2】
前記突起は、機能部材を前記主面に接合することで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項3】
前記機能部材、または前記回路基板の主面の少なくともいずれかは、表面層がすずで形成され、前記表面層を溶融させることで前記機能部材を前記主面と接合させていることを特徴とする請求項2に記載の電力用半導体装置。
【請求項4】
前記機能部材は複数の金属球であり、前記複数の金属球を前記主面上に間隔をあけて配置し、それぞれを前記主面に接合していることを特徴とする請求項2または3に記載の電力用半導体装置。
【請求項5】
前記複数の金属球のそれぞれは、0.5mm〜3mmの直径を有することを特徴とする請求項4に記載の電力用半導体装置。
【請求項6】
前記複数の金属球には、直径の異なる金属球が含まれていることを特徴とする請求項4または5に記載の電力用半導体装置。
【請求項7】
前記主面には、前記複数の金属球を配置するそれぞれの部分を囲むように、絶縁膜が形成されていることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。
【請求項8】
前記主面には、前記複数の金属球を配置するそれぞれの位置に、前記金属球の直径に応じた開口径を有するディンプルが形成されていることを特徴とする請求項4ないし7のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。
【請求項9】
前記ディンプルの開口径は、前記金属球の直径の0.3〜0.6倍の範囲に調整されていることを特徴とする請求項8に記載の電力用半導体装置。
【請求項10】
前記機能部材は、略円形の断面を有する金属線であり、前記金属線を前記主面に対して前記略円形の断面が垂直になるように配置し、前記主面に接合していることを特徴とする請求項2または3に記載の電力用半導体装置。
【請求項11】
前記電力用半導体素子がワイドバンドギャップ半導体材料により形成されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。
【請求項12】
前記ワイドバンドギャップ半導体材料は、炭化ケイ素、窒化ガリウム、およびダイヤモンド、のうちのいずれかであることを特徴とする請求項11に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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