説明

電力貯蔵システム及びその運用方法

【課題】発電時と電解時との間で熱をより有効に利用できるようにすると共に、電力の貯蔵効率を向上させることができ、電解と発電の切り替えによる固体酸化物電解質の破損の虞が少ない電力貯蔵システム及びその運用方法を提供する。
【解決手段】固体酸化物電解質15を有して水蒸気電解セルと発電セルとを兼用する電解兼発電セル2と、電解兼発電セル2に燃料ガス及び空気をそれぞれ供給するガス供給手段3と、電解兼発電セル2に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、電解兼発電セル2より排出される排ガスと電解兼発電セル2に供給される燃料ガス及び空気とそれぞれ熱交換を行う第1再熱熱交換器、第2再熱熱交換器を備えるもので、電解兼発電セル2の内部温度を、内部に熱媒体を流通させて所定温度に制御する温度制御系11を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物電解質を有して水蒸気電解セルと発電セルとを兼用する電解兼発電手段を備えた電力貯蔵システム及びその運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昼間と夜間の電力消費の差が著しい場合や電力系統に風の状況により発電能力が変化する風力発電所が多数設けられている場合には、発電設備の有効利用のために夜間電力等の余剰電力を貯蔵し、電力需要がピークとなる昼間等に放電してピーク負荷に対応することが必要となっている。そして余剰電力を貯蔵する電力貯蔵装置の代表的なものとして、大型発電設備としては応答性のよい揚水発電所がある。揚水発電所は、夜間の余剰電力で水をダムにポンプアップし、昼間にダムにポンプアップした水で発電してピーク負荷に対応する。
【0003】
また、比較的大規模なものとして、水素を用いた電力貯蔵装置がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。これは、固体酸化物燃料電池が酸素と水素を加えて発電することもできるが、逆反応として、水蒸気を加えて電圧をかけ電解して酸素と水素を得ることができることに基づいており、余剰電力で水蒸気を電解し水素を製造して電力の貯蔵を行ない、電力が必要な時に、製造した水素を利用して発電するものである。
【0004】
特許文献1のものは、固体酸化物電解質を有し水蒸気電解セルと燃料電池とを兼用する電解兼発電手段と、電解兼発電手段で発生する水素及び酸素の貯蔵手段と、電解兼発電手段の排熱を吸収する熱交換手段と、熱交換手段で得た熱を用いる暖房用熱水供給手段及び冷房用冷水供給手段を備え、主に発電時に発生した熱を冷暖房に使うシステムとなっている。また、特許文献2のものは、固体酸化物燃料電池に供給される酸素及び水素/水蒸気の流路が、発電時と電解時で同じとなっている。
【0005】
他に、水蒸気電解及び固体燃料電池の可逆運転可能な固体電解質セルを発電プラントに併設した電力貯蔵システムで、余剰電力により水素を製造して電力貯蔵を行う際に水蒸気電解に必要な熱の一部に発電プラント側の主蒸気を用い、発電時には固体電解質セルからの余剰熱で発電プラント側の主蒸気の過熱に用い、熱エネルギを有効利用するようにしたものがある(例えば、特許文献3参照)。さらに、固体電解質を用いた蓄発電装置で、水素と酸素とを発熱反応させ、発生した熱エネルギで加熱した水を電気分解に供される水として発電を行う反応セルに供給することで、水の電気分解効率を上げるようにしたものがある(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
しかし、発電時に発生した熱の有効利用と、電解時に必要とされる熱の有効取得についてはより有効なものが求められ、発電時の発生熱を利用する場合については、供給と利用の調和を図り、熱を有効に利用することが求められている。また、固体酸化物燃料電池は、メタンを燃料とした燃料電池に比較して電力の貯蔵効率が低いため、これを向上させることが課題であり、さらに、固体酸化物電解質はセラミックスであることから、電解と発電の切り替えにより急激な温度変化が発生した場合には、固体酸化物電解質が破損する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3253985号公報
【特許文献2】特許第3105668号公報
【特許文献3】特開2001−160404号公報
【特許文献4】特開2001−332271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような状況に鑑みて本発明はなされたもので、その目的とするところは、発電時と電解時との間で熱をより有効に利用できるようにすると共に、電力の貯蔵効率を向上させることができ、電解と発電の切り替えによる固体酸化物電解質の破損の虞が少ない電力貯蔵システム及びその運用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は上記目的を達成するもので、電力貯蔵システムは、固体酸化物電解質を有して水蒸気電解セルと発電セルとを兼用する電解兼発電手段と、前記電解兼発電手段に水素と水蒸気からなる燃料ガス及び空気をそれぞれ供給するガス供給手段と、前記電解兼発電手段に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、前記電解兼発電手段より排出される排ガスと前記電解兼発電手段に供給される前記燃料ガス及び前記空気とそれぞれ熱交換を行う熱交換手段を備える電力貯蔵システムであって、前記電解兼発電手段の内部温度を、該電解兼発電手段の内部に熱媒体を流通させて所定温度に制御する温度制御系を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
また、電力貯蔵システムの運用方法は、固体酸化物電解質を有して水蒸気電解セルと発電セルとを兼用する電解兼発電手段と、前記電解兼発電手段に水素と水蒸気からなる燃料ガス及び空気をそれぞれ供給するガス供給手段と、前記電解兼発電手段に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、前記電解兼発電手段より排出される排ガスと前記電解兼発電手段に供給される前記燃料ガス及び前記空気とそれぞれ熱交換を行う熱交換手段と、前記電解兼発電手段の内部温度を所定温度に制御する温度制御系を備える電力貯蔵システムの運用方法であって、前記電解兼発電手段を電解セルとして運転する電解モード運転時は、前記電解兼発電手段の前記固体酸化物電解質の温度を、発電セルとして運転する発電モード運転時よりも低温度にして運用することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発電時と電解時との間で熱をより有効に利用することができ、また電力の貯蔵効率が向上したものとなり、電解と発電の切り替えによって電解兼発電手段の固体酸化物電解質が破損してしまう虞が少ない等の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電力貯蔵システムを示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における電解発電兼用装置の要部の概略構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の第2の実施形態における温度制御系の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施形態における温度制御系の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態における温度制御系の変形形態の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の第4の実施形態における温度制御系の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
先ず第1の実施形態を図1及び図2により説明する。図1は電力貯蔵システムを示す構成図であり、図2は電解発電兼用装置の要部の概略構成を示す斜視図である。
【0015】
図1及び図2において、電力貯蔵システム1は、水蒸気電解セルと発電セルとを兼用する電解兼発電手段である固体酸化物電解質を有してなる電解兼発電セル2を備えて構成されており、電解兼発電セル2は、供給された水素と水蒸気の燃料ガスと空気によって固体酸化物電解質燃料電池として発電し電力の供給を行い、また余剰電力と水蒸気が供給されることで水蒸気電解により水素と酸素を発生し、これらを貯蔵することで電力貯蔵を行う。
【0016】
電力貯蔵システム1には、電解兼発電セル2に水素、水蒸気の燃料ガス及び空気をそれぞれ供給するガス供給手段3として水素貯蔵タンク4、そして電解兼発電セル2の水素極側に熱交換手段の第1再生熱交換器5、凝縮器6が設けられており、酸素極側に空気供給源7と熱交換手段の第2再生熱交換器8が設けられている。さらに電力貯蔵システム1には、発電をする際に電解兼発電セル2に発生する熱を蓄熱し、電力貯蔵を行う際に水供給源9からの水を加熱する蓄熱手段の蓄熱器10が設けられている。なお、酸素極側には、図示しないが、水蒸気電解の際には酸素を貯蔵する酸素貯蔵タンクが設けられており、発電の際に、必要に応じ酸素を電解兼発電セル2に供給し得るようになっている。
【0017】
また、水供給源9からの水を加熱する蓄熱器10と電解兼発電セル2との間には、電解兼発電セル2の内部を所定温度にするため温度制御系11が形成されている。温度制御系11は、例えば封入されているガス状熱媒体であるN2、CO2、He等の熱媒体が電解兼発電セル2の内部を貫流し、さらに蓄熱器10を貫流する媒体流路12を備える媒体流通ループ13を形成するようにして構成されている。そして媒体流路12には、循環用ファン14が挿入されており、この循環用ファン14により熱媒体が媒体流路12を流通し、媒体流通ループ13を循環するようになっている。
【0018】
また、電力貯蔵システム1の主部を構成する電解兼発電セル2は、例えば安定化ジルコニア等のセラミックスでなる固体酸化物電解質15の両面に、例えば白金等による多孔質電極16,17が配置され、さらに多孔質電極16,17の他面側に、導電性を有するエンドプレート18,19、または同じく導電性を有するセパレータ板20が配置されたものを単位セルとし、この単位セルを例えば複数積層することによって構成されている。そして、電解兼発電セル2における電流Aは単位セルの積層方向に流れるようになっている。
【0019】
さらに、エンドプレート18,19とセパレータ板20には、燃料ガスと空気が直交する方向に流通するよう燃料ガス流路21、空気流路22が削設されていると共に、媒体流通ループ13の媒体流路12を形成する同方向に貫通する複数の流路管23がワンスルーの形態をなすように設けられている。なお、1本の流路管23をセパレータ板18,19,20に蛇行するように配置し、全体をカバーするようにしてもよい。この場合、流路管23の端部は、入口と出口の2ヶ所だけとなる。
【0020】
そして、上記のように構成された電力貯蔵システム1では、電解兼発電セル2を発電セルとして発電を行う発電モード時には、図1に実線矢印で示すように、燃料ガスである水素と水蒸気の混合ガスが、電解兼発電セル2の水素極側に水素貯蔵タンク4、凝縮器6から第1再熱交換器5を介して供給される。また、図1に1点鎖線矢印で示すように、空気が酸素極側に空気供給源7から第2再熱交換器8を介して供給される。なお、24,25は燃料ガス、空気の流量を制御するよう供給路に挿入されたブロアである。
【0021】
電解兼発電セル2に供給された燃料ガスは燃料ガス流路21を流通し、空気は空気流路22を流通して発電を行う。発電は発熱反応であるために高温となっている発電後の燃料ガスと空気の各排ガスは、それぞれ第1再熱交換器5、第2再熱交換器8を流通し、水素極側、酸素極側に供給される燃料ガス、空気と熱交換を行う。これにより、燃料ガス、空気は加熱された状態で電解兼発電セル2に供給され、排ガスの持つ熱が有効利用される。また、発電後の燃料ガスの排ガスは、水素と水蒸気の混合ガスとなっており、第1再熱交換器5を流通した後、凝縮器6に流入し、凝縮器6で凝縮、気水分離が行われて水と水素が排出される。分離された水素は、再び電解兼発電セル2に燃料ガスとして供給される。
【0022】
一方、発電により生じた電解兼発電セル2の熱は、温度制御系11を構成する媒体流通ループ13の媒体流路12を循環用ファン14により流れる熱媒体を加熱することによって、電解兼発電セル2の外部に取り出され、蓄熱器10を加熱する。また、循環用ファン14の回転を制御することで熱媒体の流量が制御でき、外部への熱の排出量が調節できるようになっている。このように温度制御系11により電解兼発電セル2の内部の熱は除去され、セル内温度を適正値にし、維持することができ、固体酸化物電解質15等の過熱を回避することができる。なお、蓄熱器10の蓄熱温度を所定温度、例えば約800℃としている場合に、媒体流通ループ13を使っての昇温だけでは不足する時には、図示しない加熱用のガス燃焼手段を設けるようにしてもよい。
【0023】
また、電解兼発電セル2を水蒸気電解セルとして水蒸気電解を行う電解モード時には、図1に破線矢印で示すように、電解兼発電セル2の水素極側に水供給源9から水が、蓄熱器10、第1再熱交換器5を介して供給される。また、図1に1点鎖線矢印で示すように、空気が酸素極側に空気供給源7から第2再熱交換器8を介して供給される。なお、水供給源9から供給される水は、ブロア26により流量が制御できるようになっている。
【0024】
電解兼発電セル2に供給される水は、蓄熱器10、第1再熱交換器5を流通する間に加熱され、水蒸気となって水素極側に供給される。水素極側に供給される水蒸気量は、第1再熱交換器5と電解兼発電セル2の水素極側との間に挿入されている調節弁27で適正値に調節できるようになっている。そして、電解兼発電セル2に供給された水蒸気は燃料ガス流路21を流通し、空気は空気流路22を流通し、外部からの余剰電力が電解兼発電セル2に供給され、電流を流すことにより水蒸気電解が行なわれ、水素と酸素が発生する。
【0025】
この水蒸気電解により発生した水素は、電解兼発電セル2の水素極側から排出され、第1再熱交換器5を流れて凝縮器6に流入し、凝縮器6で凝縮、気水分離が行われて水と水素が排出される。分離された水素は、水素貯蔵タンク4にポンプ等で圧縮するようにして貯蔵される。水蒸気電解で発生した酸素は、電解兼発電セル2の酸素極側から排出され、第2再熱交換器8を流れて、不図示の酸素貯蔵タンク等に貯蔵される。
【0026】
このように外部からの余剰電力によって水蒸気を電気分解し、水素と酸素を発生させ、それぞれ貯蔵等することで、余剰電力の貯蔵、すなわち蓄電がなされる。なお、水素は貯蔵して発電の際に燃料ガスとして用いるが、酸素のついては電解兼発電セル2の酸素極側に空気を供給して発電している場合は発電に用いなくてもよく、酸素貯蔵タンクを設けなくてもよい。
【0027】
また、蓄電を行う水蒸気電解は吸熱反応であるため、電解兼発電セル2の外部より熱の供給が必要となる。このため、反応に必要となる熱は、蓄熱器10に蓄えられた熱を媒体流通ループ13の媒体流路12に熱媒体を、流量を調節しながら流すようにして電解兼発電セル2内に送り込まれ、内部温度が所要とする温度に保たれ吸熱反応が維持される。
【0028】
このとき、媒体流通ループ13の熱媒体の流量を調節し、電解兼発電セル2の固体酸化物電解質15を発電モード時における温度より低い温度にて運用する。これにより、蓄電と発電におけるエネルギーロスを小さなものとすることができる。また電解兼発電セル2の水素極側と第1再熱交換器5の間に挿入された調節弁27により流入する水蒸気の量を調節し、電解モード時における水蒸気濃度を発電モード時の水蒸気濃度より高くして運用することで、蓄電と発電におけるエネルギーロスを小さなものとすることができる。
【0029】
以上の通り、本実施形態によれば、発電モード時に電解兼発電セル2で発生する熱は、媒体流通ループ13により外部に送出され、固体酸化物電解質15等を所定の適正温度とすることができると共に、送出された熱は蓄熱器10に蓄えられ、蓄電を行う電解モード時には水蒸気電解の吸熱反応に必要な熱が、蓄熱器10から媒体流通ループ13によって電解兼発電セル2内に送り込まれ、水蒸気電解が維持され、また水蒸気の生成にも供され、発電モード時と電解モード時の調和を図るようにして熱を有効に利用することができる。また、蓄電と発電を行う際のエネルギーロスも小さくすることができることから電力貯蔵の効率を向上させることができる。さらに、固体酸化物電解質15を所定の適正温度とし、発電モードと電解モードの切り替えに伴う急激な温度変化が防止でき、破損する虞を低減することができる。
【実施例2】
【0030】
次に第2の実施形態を図3により説明する。図3は温度制御系の概略構成を示す図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態と温度制御系が異なるのみであるので、第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、第1の実施形態と異なる本実施形態の構成について説明する。
【0031】
図3において、温度制御系の構成のみが第1の実施形態の構成と異なる本実施形態の電力貯蔵システムは、その電解兼発電セル2が、燃料ガスと空気を供給し発電セルとして動作させることで発電し電力の供給を行い、また余剰電力と水蒸気を供給し水蒸気電解セルとして動作させ発生した水素を貯蔵することで余剰電力の貯蔵を行う。そして、この電力貯蔵システムには、電解兼発電セル2の内部温度が所定温度となるようにするための温度制御系30が設けられている。
【0032】
温度制御系30は、電解兼発電セル2外に設けられ、発電する際の発生熱を蓄熱すると共に電力貯蔵を行う際に供給された水を加熱し水蒸気を発生させる蓄熱手段である蓄熱器10と電解兼発電セル2の間に媒体流通ループ31を形成するようにして構成されている。媒体流通ループ31は、封入された熱媒体が電解兼発電セル2の内部を貫流し、蓄熱器10を貫流するようにして媒体流通ループ31を循環する媒体流路12を備えている。
【0033】
また、蓄熱器10は、位置移動手段である昇降装置32の載置部33の上に設置されている。載置部33は、例えば図示しない油圧リフト等の昇降駆動機構により、図3に両矢印Yで示すように垂直方向に昇降可能となっている。そして、蓄熱器10は、載置部33を上昇させて上位置点に位置させることで、電解兼発電セル2の設置位置よりも上方となるに位置し、また載置部33を下降させて下位置点に位置させることで、電解兼発電セル2の設置位置よりも下方となるに位置するようになっている。
【0034】
このため、発電モード時に、昇降装置32の載置部33を上昇させ上位置点に位置させることで、蓄熱器10は電解兼発電セル2よりも上方に位置することになる。これにより、発電を行っている電解兼発電セル2の内部温度は高温度となり、媒体流通ループ31を循環するように封入されている熱媒体も加熱され、低温度である蓄熱器10との間で自然対流が起こり、高温度となっている熱媒体は媒体流路12を上昇するように流れ、より低温度である蓄熱器10に熱を運搬する。これにより蓄熱器10の温度が上昇して、発電に伴う電解兼発電セル2の熱が蓄熱器10に蓄えられる。
【0035】
一方、電解モード時に、昇降装置32の載置部33を下降させ下位置点に位置させることで、蓄熱器10は電解兼発電セル2よりも下方に位置することになる。これにより、水蒸気電解を行っている電解兼発電セル2の内部温度は低温度となり、媒体流通ループ31に封入されている熱媒体は、電解兼発電セル2内で低温度となり、逆に蓄熱器10で加熱されて高温度となり、自然対流を起こして媒体流路12を循環するように流れ、より低温度である電解兼発電セル2に蓄熱器10の熱を運搬する。この熱運搬で電解兼発電セル2の温度が上昇し、さらに継続して熱運搬がなされることで、吸熱反応である水蒸気電解が進行し、水素が生成されて余剰電力の蓄電が行なわれる。
【0036】
そして、上記のように構成することで、電力貯蔵システムの発電モード時、電解モード時における動作は、温度制御系30の動作が異なるだけで、第1の実施形態と同様に行なわれる。そのため、第1の実施形態と同様の効果が得られると共に、温度制御系30における熱媒体の循環に、高温度で使用できる循環用ファンを必要とせず、コスト上昇を避けることができ、メンテナンス等が容易となる。
【0037】
なお、媒体流通ループ31の媒体流路12に、熱媒体の自然対流に基づく循環を補助する、例えば水冷式駆動部で駆動する循環補助用ファンを設けるようにしてもよい。
【実施例3】
【0038】
次に第3の実施形態を図4及び図5により説明する。図4は温度制御系の概略構成を示す図であり、図5は変形形態における温度制御系の概略構成を示す図である。なお、本実施形態は、上記の各実施形態と温度制御系が異なるのみであるので、各実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、各実施形態と異なる本実施形態の構成について説明する。
【0039】
図4において、温度制御系の構成のみが第1の実施形態の構成と異なる本実施形態の電力貯蔵システムは、その電解兼発電セル2が、燃料ガスと空気を供給し発電セルとして動作させることで発電し電力の供給を行い、また余剰電力と水蒸気を供給し水蒸気電解セルとして動作させ発生した水素を貯蔵することで余剰電力の貯蔵を行う。そして、この電力貯蔵システムには、電解兼発電セル2の内部温度が適正な所定温度となるようにするための温度制御系35が設けられている。
【0040】
温度制御系35は、電解兼発電セル2と電解兼発電セル2外の蓄熱手段である蓄熱器10、冷却手段である放熱器36との間に媒体流通ループ37を形成するようにして構成されている。媒体流通ループ37は、封入された熱媒体が電解兼発電セル2の内部を貫流し、蓄熱器10と放熱器36に分流し、それぞれを貫流して循環する媒体流路38を備えたものとなっている。
【0041】
このため、放熱器36側に分流した熱媒体は、挿入されている流量制御バルブ39で所定流量に流量調整がなされるようにして媒体分流路38aを流れ、放熱器36を貫流する間に冷却された後に電解兼発電セル2に戻る。一方、蓄熱器10側に分流した熱媒体は、媒体分流路38bを流れ、蓄熱器10で蓄熱を行う、あるいは加熱されるようにして貫流した後に電解兼発電セル2に戻る。媒体分流路38aに流量制御バルブ39を挿入し、流量調整を行うことにより蓄熱器10と放熱器36を流通する熱媒体の流量比が変えられ、電解兼発電セル2に戻る熱媒体の温度を所望の温度とすることができ、電解兼発電セル2の内部温度を適正な所定温度にし、この温度を維持することができる。
【0042】
すなわち、発電モード時には、例えば、電解兼発電セル2から約800℃で流出し蓄熱器10での蓄熱を行った後の高温度の熱媒体と、放熱器36で大気により約700℃に冷却され所定流量に調整された低温度の熱媒体とが得られ、これら高温度の熱媒体と低温度の熱媒体とが混合することによって、電解兼発電セル2に戻り流入する熱媒体を所望の温度のものとすることができる。また電解モード時には、電解兼発電セル2が必要な温度となるよう高温度の熱媒体を搬送するように流量調整する。なお、熱媒体は図示しない上記実施形態に示された循環用ファンや昇降装置等により、媒体流通ループ37を循環するようになっている。
【0043】
そして、上記のよう構成の温度制御系35を有する本実施形態の電力貯蔵システムは、蓄熱器10と放熱器36を流通する熱媒体の流量比を変えることで電解兼発電セル2の内部温度を適正な所定温度を維持しながら、発電モード時には、電力供給を行いながら、発電により高温度となっている電解兼発電セル2内部で熱媒体が加熱され、蓄熱器10に蓄熱を行う。また電解モード時には、熱媒体が蓄熱器10に蓄えられていた熱で加熱され、電解兼発電セル2に熱を搬送し、電解兼発電セル2内部を適正な所定温度とすることで吸熱反応の水蒸気電解が進行し、水素が生成されて余剰電力の蓄電が行なわれる。なお、上記実施形態と同様に、水蒸気電解に用いる水蒸気は、蓄熱器10の熱で水を加熱して得るようにしている。
【0044】
以上のように構成することで、電力貯蔵システムの発電モード時、電解モード時における動作は、温度制御系35の動作が異なるだけで、第1の実施形態と同様に行なわれる。そのため、第1の実施形態と同様の効果が得られると共に、温度制御系35により、電解兼発電セル2の内部温度をより適正な所定温度とすることができ、これを維持することができることから、急激な温度変化が固体酸化物電解質膜に加わらず、破損の虞を少なくでき、電解兼発電セル2に故障等が発生する虞を少なくすることができる。
【0045】
なお、上記実施形態においては、流量制御バルブ39を設けて熱媒体の流量調整を行って蓄熱器10と放熱器36を流通する熱媒体の流量比を変え、これにより電解兼発電セル2の内部温度を適正温度にするようにしたが、図5に示す変形形態のように構成して熱媒体の流量比を変えるようにしてもよい。
【0046】
すなわち、図5において、温度制御系40は、電解兼発電セル2と蓄熱器10、放熱器36との間に媒体流通ループ41を形成するようにして構成されている。媒体流通ループ41は、熱媒体が電解兼発電セル2の内部を貫流し、蓄熱器10と放熱器36を貫流して循環する媒体流路42を備えている。また媒体流路42は、電解兼発電セル2から流出した熱媒体が分流部43で分流し、媒体分流路42a,42bをそれぞれ流通して蓄熱器10と放熱器36に流れるようになっている。
【0047】
さらに、媒体流路42の分流部43には、回動軸44を回動中心として両矢印Rで示すように回動する弁板45が設けられている。そして弁板45が回動することで、媒体流路42を流通する熱媒体の各媒体分流路42a,42bに分流する流量の調整が行え、流量を調整することで蓄熱器10と放熱器36を流通する熱媒体の流量比が変えられ、電解兼発電セル2に戻る熱媒体の温度を所望の温度とすることができ、電解兼発電セル2の内部温度を適正な所定温度にし、この温度が維持されるようにすることができる。
【0048】
その結果、本変形形態においても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例4】
【0049】
次に第4の実施形態を図6により説明する。図6は温度制御系の概略構成を示す図である。なお、本実施形態は、上記各実施形態と温度制御系が異なるのみであるので、各実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、各実施形態と異なる本実施形態の構成について説明する。
【0050】
図6において、温度制御系の構成のみが第1の実施形態の構成と異なる本実施形態の電力貯蔵システムは、その電解兼発電セル2が、燃料ガスと空気を供給し発電セルとして動作させることで発電し電力の供給を行い、また余剰電力と水蒸気を供給し水蒸気電解セルとして動作させ発生した水素を貯蔵することで余剰電力の貯蔵を行う。そして、この電力貯蔵システムには、電解兼発電セル2の内部温度が適正な所定温度となるようにするための温度制御系47が設けられている。
【0051】
温度制御系47は、電解兼発電セル2と電解兼発電セル2外の蓄熱手段である蓄熱器10、冷却手段である放熱器36との間に媒体流通ループ48を形成するようにして構成されている。媒体流通ループ48は、封入された熱媒体が電解兼発電セル2の内部を貫流し、蓄熱器10と放熱器36に分流し、それぞれを貫流して循環する媒体流路38を備えたものとなっている。
【0052】
また媒体流路38は、熱媒体が放熱器36を貫流する媒体分流路38aと、蓄熱器10を貫流する媒体分流路38bとを備えて構成され、電解兼発電セル2と放熱器36、蓄熱器10との間の各媒体分流路38a,38bには流量制御バルブ49a,49bが挿入されている。各媒体分流路38a,38bに挿入された各流量制御バルブ49a,49bは、制御手段である制御部50による制御のもとに、それぞれの開度Opが調節されるようになっている。これにより、蓄熱器10と放熱器36を流通する熱媒体の流量比を変えることができ、また両流量制御バルブ49a,49bでの流量調整を行うことで熱媒体の総流量も変えることができ、電解兼発電セル2から流出する熱媒体の温度も変えられることになる。
【0053】
こうした各流量制御バルブ49a,49bの制御部50による制御については、発電モード時における電解兼発電セル2の発生熱密度が、接続されている負荷の電流密度Idにより異なり、概ね、負荷の電流密度Idと電解兼発電セル2の発生熱密度は、比例すると考えることができることに基づいている。これは、発生熱密度の変化を打ち消すように熱媒体の温度を調節すれば、電解兼発電セル2の内部温度、固体酸化物電解質膜の温度を許容範囲内の適正な温度とすることができることを示している。
【0054】
このため、制御部50での制御は、負荷の電流密度Idの変化、すなわち負荷変動に基づいたフィードフォワード制御と共に、図示しないが温度計を設けたり、あるいは熱媒体の温度を測定したりすることで固体酸化物電解質膜の温度を測定し、その変化に基づいてフィードバック制御を行うことにより、精度の高い制御が行えるようになっている。なお、図6中に示した各グラフは、横軸に電流密度Id、縦軸に各流量制御バルブ49a,49bの開度Opをとって示す制御グラフである。
【0055】
そして発電モード時には、放熱器36側に分流した熱媒体は、挿入されている流量制御バルブ49aで所定流量に流量調整がなされるようにして媒体分流路38aを流れ、放熱器36を貫流する間に冷却された後に電解兼発電セル2に戻る。一方、蓄熱器10側に分流した熱媒体も、挿入されている流量制御バルブ49bで所定流量に流量調整がなされるようにして媒体分流路38bを流れ、蓄熱器10での蓄熱を行うようにして貫流した後に電解兼発電セル2に戻る。また電解モード時には、放熱器36側の熱媒体の流量を流量制御バルブ49aで少なくなるよう調整することで、蓄熱器10側の熱媒体の流量が増加し、蓄熱器10に蓄熱された熱で加熱された熱媒体が電解兼発電セル2に運ばれるので、水蒸気電解に必要な温度を確保することができることになる。
【0056】
このように、上記構成の温度制御系47を有する本実施形態の電力貯蔵システムでは、各流量制御バルブ49a,49bで流量調整を行うことで蓄熱器10と放熱器36を流通する熱媒体の流量比が変えられ、電解兼発電セル2の内部温度を適正な所定温度を維持しながら、発電モード時には、電力供給を行いながら、発電により高温度となっている電解兼発電セル2内部で熱媒体が加熱され、蓄熱器10に蓄熱を行う。
【0057】
また電解モード時には、水蒸気電解に用いる水蒸気を蓄熱器10の熱で水を加熱することで得、さらに熱媒体が蓄熱器10に蓄えられていた熱で加熱され電解兼発電セル2に熱供給を行い、電解兼発電セル2内部を適正な所定温度とすることで吸熱反応の水蒸気電解が進行し、水素が生成されて余剰電力の蓄電が行なわれる。そして、発電モード時、電解モード時のいずれの場合にも、電解兼発電セル2に戻る熱媒体の温度を所望の温度とすることができ、電解兼発電セル2の内部温度を適正な所定温度にし、維持することで、適正な温度に固体酸化物電解質膜も保つことができる。
【0058】
以上の通り、上記の構成とすることで、電力貯蔵システムの発電モード時、電解モード時における動作は、温度制御系47の動作が異なるだけで、第1の実施形態と同様に行なわれる。そのため、第1の実施形態と同様の効果が得られると共に、温度制御系47により、電解兼発電セル2の内部温度をより適正な所定温度とすることができ、これを維持することができることから、急激な温度変化が固体酸化物電解質膜に加わらず、破損の虞を少なくすることができ、電解兼発電セル2に故障等が発生する虞を少なくすることができる。
【符号の説明】
【0059】
1…電力貯蔵システム
2…電解兼発電セル
3…ガス供給手段
4…水素貯蔵タンク
7…空気供給源
9…水供給源
10…蓄熱器
11…温度制御系
13…媒体流通ループ
15…固体酸化物電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物電解質を有して水蒸気電解セルと発電セルとを兼用する電解兼発電手段と、前記電解兼発電手段に水素と水蒸気からなる燃料ガス及び空気をそれぞれ供給するガス供給手段と、前記電解兼発電手段に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、前記電解兼発電手段より排出される排ガスと前記電解兼発電手段に供給される前記燃料ガス及び前記空気とそれぞれ熱交換を行う熱交換手段を備える電力貯蔵システムであって、
前記電解兼発電手段の内部温度を、該電解兼発電手段の内部に熱媒体を流通させて所定温度に制御する温度制御系を備えていることを特徴とする電力貯蔵システム。
【請求項2】
前記温度制御系が、前記電解兼発電手段の外部に配置された蓄熱手段と、前記電解兼発電手段の内部と前記蓄熱手段の間に前記熱媒体を循環させる媒体流通ループを備えてなることを特徴とする請求項1記載の電力貯蔵システム。
【請求項3】
前記媒体流通ループが、前記熱媒体を循環させる循環用ファンを備えていることを特徴とする請求項2記載の電力貯蔵システム。
【請求項4】
前記温度制御系が、前記電解兼発電手段を発電セルとして運転する発電モード運転時には、前記電解兼発電手段より上方の位置に前記蓄熱手段を位置させ、前記電解兼発電手段を電解セルとして運転する電解モード運転時には、前記電解兼発電手段より下方の位置に前記蓄熱手段を位置させる位置移動手段を備えていることを特徴とする請求項2記載の電力貯蔵システム。
【請求項5】
前記温度制御系が、前記電解兼発電手段に前記蓄熱手段と並列となるように接続され、前記媒体流通ループを流れる少なくとも一部の前記熱媒体の熱を放散して前記電解兼発電手段の内部温度を制御する冷却手段を備えてなることを特徴とする請求項2記載の電力貯蔵システム。
【請求項6】
前記電解兼発電手段の電解及び発電時の負荷変動に対応した前記固体酸化物電解質の温度変化を検出し、前記固体酸化物電解質を許容範囲内の温度に制御する制御手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の電力貯蔵システム。
【請求項7】
固体酸化物電解質を有して水蒸気電解セルと発電セルとを兼用する電解兼発電手段と、前記電解兼発電手段に水素と水蒸気からなる燃料ガス及び空気をそれぞれ供給するガス供給手段と、前記電解兼発電手段に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、前記電解兼発電手段より排出される排ガスと前記電解兼発電手段に供給される前記燃料ガス及び前記空気とそれぞれ熱交換を行う熱交換手段と、前記電解兼発電手段の内部温度を所定温度に制御する温度制御系を備える電力貯蔵システムの運用方法であって、
前記電解兼発電手段を電解セルとして運転する電解モード運転時は、前記電解兼発電手段の前記固体酸化物電解質の温度を、発電セルとして運転する発電モード運転時よりも低温度にして運用することを特徴とする電力貯蔵システムの運用方法。
【請求項8】
電解モード運転時は、発電モード運転時よりも前記水蒸気供給手段への水供給量を多くして、前記電解兼発電手段の水素極側における水蒸気濃度を高濃度として運用することを特徴とする請求項7記載の電力貯蔵システムの運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−176939(P2010−176939A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16327(P2009−16327)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】