電動パワーステアリング制御装置
【課題】トルクセンサが故障して複数のトルク信号のうち一つが異常になった場合でも、高い信頼性の操舵アシストを継続する電動パワーステアリング装置の制御装置を提供すること。
【解決手段】ハンドルの角度を感知する舵角センサを有し、操舵トルクを検出するトルクセンサから出力された複数のトルク信号に基づいて操舵アシストを制御する電動パワーステアリング制御装置は、複数のトルク信号と、舵角センサから出力された舵角信号とをそれぞれ相互監視し、運転者のハンドル入力ではありえない信号の変化が発生した場合、複数のトルク信号及び舵角信号のどちらが異常であるかを瞬時に判定する。
【解決手段】ハンドルの角度を感知する舵角センサを有し、操舵トルクを検出するトルクセンサから出力された複数のトルク信号に基づいて操舵アシストを制御する電動パワーステアリング制御装置は、複数のトルク信号と、舵角センサから出力された舵角信号とをそれぞれ相互監視し、運転者のハンドル入力ではありえない信号の変化が発生した場合、複数のトルク信号及び舵角信号のどちらが異常であるかを瞬時に判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の操舵機構に対してモータによる操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置の制御装置(以下「電動パワーステアリング制御装置」という。)に関し、特に、2つのトルク信号の状態に応じて操舵補助力の付与を制御する電動パワーステアリング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、運転者による操舵に際して、モータの回転トルクにより操舵機構でステアリング(ハンドル)に操舵補助力(操舵アシスト力)を付与して、運転者による操舵を補助する電動パワーステアリング装置(以下「EPS」ともいう。)が広く用いられている。EPSは、電子制御ユニット(以下「ECU」という。)を備える。電動パワーステアリング装置では、運転者の操舵によって生じた操舵トルクをトルクセンサが検出し、ECUは、トルクセンサによって検出されたトルク信号に基づいて、モータが所望の回転トルクを発生するように、モータに供給する電流を制御する。
【0003】
電動パワーステアリング装置で用いられるトルクセンサは、メイントルク信号とサブトルク信号の2つを出力する。しかし、トルクセンサが故障して2つのトルク信号の一方が異常になると、ステアリングに加えられた操舵トルクを正常に検出することができなくなる。その結果、電動パワーステアリング装置が誤動作して、ステアリングに通常の補助アシスト力を付与することができなくなる。
【0004】
特許文献1に開示された電動パワーステアリング装置では、このような状況を回避するために、複数のトルクセンサ信号の少なくとも1つが異常をきたした場合に、正常である残りのトルク信号を用いて、補助モータの補助トルクを正常時よりも少な<与えて制御を継続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−147473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された電動パワーステアリング装置は、異常をきたしていないトルク信号以外のトルク信号が正常か否かの判定を行っていない。このため、当該電動パワーステアリング装置による、正常と思われる残りのトルク信号のみに基づく制御の信頼性が高いとは言えない。
【0007】
本発明の目的は、トルクセンサが故障して複数のトルク信号のうち一つが異常になった場合でも、高い信頼性の操舵アシストを継続することのできる電動パワーステアリング制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) ハンドルの角度を感知する舵角センサを有し、操舵トルクを検出するトルクセンサから出力された複数のトルク信号に基づいて操舵アシストを制御する電動パワーステアリング制御装置であって、
前記複数のトルク信号と、前記舵角センサから出力された舵角信号とをそれぞれ相互監視し、運転者のハンドル入力ではありえない信号の変化が発生した場合、前記複数のトルク信号及び前記舵角センサ信号のどちらが異常であるかを瞬時に判定する電動パワーステアリング制御装置。
(2) 上記(1)の電動パワーステアリング制御装置において、
前記複数のトルク信号及び前記舵角信号をそれぞれ微分する微分回路を備え、
前記微分回路によって得られた微分値が閾値を超えた場合、異常と判定する電動パワーステアリング制御装置。
(3) 運転者のハンドルの入力を感知するトルクセンサと、運転者の操舵条件を感知する舵角センサと、前記トルクセンサから出力された複数のトルク信号をそれぞれ微分する微分回路と、を有し、
走行中に舵角に対するトルク微分値を確認し、そのデータに基づいて舵角−トルク微分値マップを作成する電動パワーステアリング制御装置。
(4) 運転者のハンドルの入力を感知するトルクセンサと、車両の走行速度を検出する車速センサと、運転者の操舵条件を感知する舵角センサと、を有し、
前記車速センサから出力された車速信号と、前記舵角センサから出力される舵角信号とに基づいて走行中のSAT量を推定及び学習し、そのデータに基づいて舵角−SATマップを作成する電動パワーステアリング制御装置。
(5)上記(4)の電動パワーステアリング制御装置において、
前記トルクセンサから出力された複数のトルク信号のうちの一つが故障を判定されたあとも、正常なトルク信号を用いて操舵アシストを継続し、前記舵角−SATマップを用い、前記正常なトルク信号の監視を行う電動パワーステアリング制御装置。
(6) 上記(3)の電動パワーステアリング制御装置において、
前記舵角−トルク微分値マップを用いて、前記複数のトルク信号のどれが異常であるか判定する電動パワーステアリング制御装置。
(7) 上記(1)、(3)又は(6)の電動パワーステアリング制御装置において、
前記複数のトルク信号のうちの一つが故障を判定され確定したあと、前記舵角センサに対するトルク変化量のマップを使用し、操舵アシストを絞りつつも当該操舵アシストの制御を継続する電動パワーステアリング制御装置。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)及び(2)の構成によれば、複数のトルク信号及び舵角信号のどちらが異常であるかを瞬時に判定するため、複数のトルク信号の一つが異常になった場合でも高い信頼性の操舵アシストを継続することができる。
上記(3)及び(6)の構成によれば、舵角−トルク微分値マップを用いて複数のトルク信号のどれが異常であるかを判定することができる。
上記(4)及び(5)の構成によれば、いずれかのトルク信号が異常と判定された後、操舵アシストを継続しつつ、正常であると判定されたトルク信号を舵角−SATマップを用いて監視するため、高い信頼性の操舵アシストを継続することができる。
上記(7)の構成によれば、操舵アシストを絞りつつも当該操舵アシストの制御を継続するため、高い信頼性の操舵アシストを継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図
【図2】正常時及び異常時のトルク信号又は舵角信号、及びこれら信号の微分信号を示す図
【図3】第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャート
【図4】本発明に係る第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図
【図5】正常時及び異常発生時の舵角−トルク微分値マップを示すグラフ
【図6】第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャート
【図7】本発明に係る第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図
【図8】第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャート
【図9】本発明に係る第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図
【図10】舵角−トルク微分値マップ及び閾値の例を示すグラフ
【図11】第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御装置(以下「電動パワーステアリング制御装置」という。)の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図である。第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、図1に示すように、メイントルクセンサ11と、サブトルクセンサ12と、舵角センサ13と、車速センサ14と、微分回路15〜17と、異常判定部18と、出力部19とを備える。
【0013】
メイントルクセンサ11は、自動車等の車両を運転者が操舵した際に発生する操舵トルクに応じて、メイントルク信号を出力する。サブトルクセンサ12は、自動車等の車両を運転者が操舵した際に発生する操舵トルクに応じて、サブトルク信号を出力する。舵角センサ13は、車両のステアリングの操舵角度に応じた舵角信号を出力する。車速センサ14は、車両の走行速度に応じた車速信号を出力する。なお、車速センサ14から出力された車速信号は、後述する異常判定部18に入力される。
【0014】
微分回路15は、メイントルク信号を微分して微分信号を出力する。微分回路16は、サブトルク信号を微分して微分信号を出力する。微分回路17は、舵角信号を微分して微分信号を出力する。異常判定部18は、微分回路15から出力された微分信号に基づいてメイントルク信号が異常か否かを判定し、微分回路16から出力された微分信号に基づいてサブトルク信号が異常か否かを判定し、微分回路17から出力された微分信号に基づいて舵角信号が異常か否かを判定する。異常判定部18の詳細については後述する。出力部19は、異常判定部18による判定結果に応じた信号を、電動パワーステアリング装置の電流制御部(図示せず)に出力する。
【0015】
異常判定部18は、メイントルクセンサ11、サブトルクセンサ12又は舵角センサ13から出力された信号に急激な変化があるか否かに応じて、信号の正常又は異常を判定する。図2は、正常時及び異常時のトルク信号又は舵角信号、及びこれら信号の微分信号を示す図である。図2(a)に示すように、正常時の信号の周波数は緩やかに変化し、その微分信号の波形はなだらかで微分値は小さい。一方、図2(b)に示すように、異常発生時の信号の周波数は、正常な信号には発生し得ない急激な変化が生じる。その結果、異常発生時の微分信号の波形はインパルス状であり微分値は大きい。このため、異常判定部18は、微分値が閾値を超えた信号を異常と判定する。なお、閾値は、異常判定部18に入力される車速信号に応じて可変である。
【0016】
第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作について、図3を参照して説明する。図3は、第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0017】
図3に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGのオン(ON)を検出すると(ステップS101)、メイントルクセンサ11、サブトルクセンサ12、舵角センサ13及び車速センサ14からそれぞれ出力されたメイントルク信号、サブトルク信号、舵角信号及び車速信号を得る(ステップS102〜S104)。メイントルク信号、サブトルク信号及び舵角信号は微分回路15〜17でそれぞれ微分され、異常判定部18は、各微分信号に基づいて、メイントルク信号、サブトルク信号又は舵角信号に異常がないかを判定する(ステップS105)。
【0018】
ステップS105で異常判定部18が信号に異常なしと判定した場合はステップS106に進み、電動パワーステアリング制御装置は通常の操舵アシスト制御を継続する。続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS107)、オンのときはステップS102に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0019】
一方、ステップS105で異常判定部18がいずれかの信号に異常ありと判定した場合は、ステップS108に進み、異常な信号がメイントルク信号、サブトルク信号及び舵角信号のいずれであるかを特定する。ステップS108で異常な信号が特定されると、電動パワーステアリング制御装置は、続いてフェールを確定し(ステップS109)、操舵アシスト制御をオフして(ステップS110)、処理を終了する。
【0020】
以上説明したように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、メイントルク信号、サブトルク信号又は舵角信号の異常を判定するため、高い信頼性の操舵アシストを行うことができる。
【0021】
(第2の実施形態)
図4は、本発明に係る第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図である。なお、図4において、図1と共通する構成要素には同じ参照符号が付して説明を省略する。第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、図4に示すように、メイントルクセンサ11と、サブトルクセンサ12と、舵角センサ13と、微分回路15,16と、異常判定部28とを備える。
【0022】
異常判定部28は、舵角信号に対するメイントルク信号及びサブトルク信号の各微分値を監視して舵角−トルク微分値マップを作成し、作成した舵角−トルク微分値マップに基づいて、メイントルク信号又はサブトルク信号が異常か否かを判定する。図5は、正常時(a)及び異常発生時(b)の舵角−トルク微分値マップを示すグラフである。図5(a)に示すように、メイントルク信号及びサブトルク信号が共に正常のとき、舵角に対する各トルク微分値は同一である。一方、図5(b)に示すように、いずれか一方のトルク信号に異常が発生すると、舵角に対する各トルク微分値は互いにずれる。なお、図5(b)は、サブトルク信号に異常が発生した例を示す。このように、異常判定部28は、メイントルク信号及びサブトルク信号のトルク微分値が同一でないとき、異常が発生したと判定し、正常時の舵角−トルク微分値マップと比較して、メイントルク信号とサブトルク信号のどちらに異常が発生したかを判定する。
【0023】
第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作について、図6を参照して説明する。図6は、第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャートである。なお、図6において、図3と共通するステップには同じ参照符号が付して説明を省略する。
【0024】
図6に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、ステップS101〜S104を行った後、異常判定部28が舵角−トルク微分値マップを作成する(ステップS205)。また、異常判定部28は、既存の舵角−トルク微分値マップがあれば、それを補正する。続いて、異常判定部28は、舵角−トルク微分値マップ又は従来のフェールセーフ仕様に基づいて、メイントルク信号及びサブトルク信号のどれが異常であるかを判定する(ステップS206)。
【0025】
ステップS206で異常判定部28がトルク信号に異常なしと判定した場合はステップS207に進み、電動パワーステアリング制御装置は通常の操舵アシスト制御を継続する。続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS208)、オンのときはステップS102に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0026】
一方、ステップS206で異常判定部28がトルク信号に異常ありと判定した場合、電動パワーステアリング制御装置は、トルクセンサ系のフェールを確定し(ステップS209)、操舵アシスト制御をオフして(ステップS210)、処理を終了する。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、舵角−トルク微分値マップを作成し、メイントルク信号及びサブトルク信号のどれが異常であるかを判定することができる。
【0028】
(第3の実施形態)
図7は、本発明に係る第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図である。なお、図7において、図1と共通する構成要素には同じ参照符号が付して説明を省略する。第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、図7に示すように、メイントルクセンサ11と、サブトルクセンサ12と、舵角センサ13と、車速センサ14と、第1の異常判定部31と、トルク選別部32と、SAT推定部33と、SAT学習マップ作成部34と、第2の異常判定部35と、異常フラグ部36と、操舵補助指令値演算部37と、加算器38と、出力部39とを備える。
【0029】
第1の異常判定部31は、第1の実施形態又は第2の実施形態のいずれかの方法によってメイントルク信号及びサブトルク信号が異常か否かをそれぞれ判定する。トルク選別部32は、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号を選別する。SAT推定部33は、正常と判定されたトルク信号、舵角信号及び車速信号に基づいて所定の演算を行うことにより、舵角に対するSAT(Self-Aligning Torque)を推定する。SAT学習マップ作成部34は、舵角信号及びSAT推定部33によって推定されたSATから舵角−SATマップを作成する。
【0030】
第2の異常判定部35は、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号が異常か否かを、舵角−SATマップを用いて判定する。異常フラグ部36は、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号が第2の異常判定部35によって異常と判定された場合にフラグを立てる。操舵補助指令値演算部37は、第2の異常判定部35によって正常と判定されたトルク信号に基づいて操舵補助指令値を演算する。加算器38は、操舵補助指令値と操舵アシストを制限するためのアシスト制限目標値とを加算して、モータに供給する電流の制御目標値を生成する。出力部39は、加算器38で生成された制御目標値を示す信号を、電動パワーステアリング装置の電流制御部(図示せず)に出力する。
【0031】
第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作について、図8を参照して説明する。図8は、第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャートである。なお、図8において、図3と共通するステップには同じ参照符号が付して説明を省略する。
【0032】
図8に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、ステップS101〜S104を行った後、SAT推定部33がSATを推定し(ステップS305)、SAT学習マップ作成部34が舵角−SATマップを作成する(ステップS306)。続いて、第1の異常判定部31は、第1又は第2の実施形態のフェールセーフ監視条件によって異常(フェール)が確定していないかを判定する(ステップS307)。
【0033】
ステップS307で異常が確定していないと判定された場合は、舵角−SATマップの補正を行う(ステップS308)。ステップS309では、トルクセンサの経年変化を学習して補正を行い、電動パワーステアリング制御装置は通常の操舵アシスト制御を継続する(ステップS310)。続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS311)、オンのときはステップS102に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0034】
一方、ステップS307で異常が確定していると判定され、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれかの異常が確定している場合、電動パワーステアリング制御装置は、トルクセンサ系のフェールを確定し(ステップS312)、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれか1つだけが異常かを判定する(ステップS313)。ステップS313での判定の結果、メイントルク信号及びサブトルク信号の両方が異常である場合は、操舵アシスト制御をオフして(ステップS317)、処理を終了する。
【0035】
一方、ステップS313での判定の結果、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれか1つだけが異常である場合、第2の異常判定部35は、舵角−SATマップとSAT推定部33によって推定された現在のSAT値とを比較し、メイントルク信号及びサブトルク信号の内、正常であると判定されたトルク信号が異常か否かを監視する(ステップS314)。
【0036】
ステップS314で、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号が第2の異常判定部35によって異常と判定されると、操舵アシスト制御をOFFして(ステップS317)、処理を終了する。一方、ステップS314で、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号に異常が検出されない場合は、操舵補助指令値演算部37で演算された操舵補助指令値に、加算器38でアシスト制限目標値を加算して、モータに供給する電流の制限目標値(アシスト量)を生成し、アシスト量を制限しながら操舵アシストを継続する(ステップS315)。
【0037】
続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS316)、オンのときはステップS313に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、メイントルク信号又はサブトルク信号が異常と判定された後、正常であると判定されたトルク信号を舵角−SATマップを用いて監視するため、高い信頼性の操舵アシストを継続することができる。また、メイントルク信号又はサブトルク信号の一方のみに基づく操舵アシストを制限しつつも継続することができる。
【0039】
(第4の実施形態)
図9は、本発明に係る第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図である。なお、図9において、図1又は図7と共通する構成要素には同じ参照符号が付して説明を省略する。第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、図9に示すように、メイントルクセンサ11と、サブトルクセンサ12と、舵角センサ13と、微分回路15,16と、異常判定部48と、異常フラグ部36と、操舵補助指令値演算部37と、加算部38と、出力部39とを備える。
【0040】
異常判定部48は、舵角信号に対するメイントルク信号及びサブトルク信号の各微分値を監視して舵角−トルク微分値マップを作成し、舵角−トルク微分値マップに基づいて、メイントルク信号又はサブトルク信号が異常か否かを判定する。図10は、舵角−トルク微分値マップ及び閾値の例を示すグラフである。図10に示すように、異常判定部48は、舵角−トルク微分値マップ上で表される、舵角に対するトルク微分値が閾値を超えるか否かに応じて、トルク信号の異常を判定する。
【0041】
第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作について、図11を参照して説明する。図11は、第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャートである。なお、図11において、図3と共通するステップには同じ参照符号が付して説明を省略する。
【0042】
図11に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、ステップS101〜S104を行った後、異常判定部48は、第1又は第2の実施形態のフェールセーフ監視条件によって異常(フェール)が確定していないかを判定する(ステップS405)。ステップS405で異常が確定していないと判定された場合、電動パワーステアリング制御装置は通常の操舵アシスト制御を継続する(ステップS406)。続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS407)、オンのときはステップS102に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0043】
一方、ステップS407で異常が確定していると判定され、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれかの異常が確定している場合、電動パワーステアリング制御装置は、トルクセンサ系のフェールを確定し(ステップS408)、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれか1つだけが異常かを判定する(ステップS409)。ステップS409での判定の結果、メイントルク信号及びサブトルク信号の両方が異常である場合は、操舵アシスト制御をオフして(ステップS414)、処理を終了する。
【0044】
一方、ステップS409での判定の結果、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれか1つだけが異常である場合、操舵補助指令値演算部37により正常と確定されたトルク信号を用いて演算された操舵補助指令値に、加算器38でアシスト制限目標値を加算して、モータに供給する電流の制限目標値(アシスト量)を生成し(ステップS410)、アシスト量を制限しながら操舵アシスト制御を継続する(ステップS411)。
【0045】
続いて、異常判定部48は、舵角−トルク微分値マップを用いて、舵角に対するトルク微分値が閾値を超えるか否かに応じて、正常と確定されたトルク信号の異常を判定する(ステップS412)。このとき、トルク微分値が閾値を超えないまでも、閾値に近付くほどアシスト量の制限を多くしても良い。
【0046】
ステップS412での判定の結果、正常と確定されたトルク信号が異常と判定された場合は、電動パワーステアリング制御装置は、操舵アシスト制御をオフして(ステップS414)、処理を終了する。このように、舵角−トルク微分値マップを用いることで、正常なトルク信号が異常となった場合に操舵アシストを停止することができる。
【0047】
一方、ステップS412での判定の結果、正常と確定されたトルク信号が異常と判定されない場合は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS413)、オンのときはステップS409に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、メイントルク信号又はサブトルク信号の異常を判定して、いずれかのトルク信号が異常と判定された後、正常であると判定されたトルク信号に基づいて、制限されたアシスト量によって操舵アシストを継続する。さらに、電動パワーステアリング制御装置は、正常であると判定されたトルク信号を舵角−トルク微分値マップを用いて監視する。このため、メイントルク信号又はサブトルク信号の一方のみに基づく操舵アシストを制限しつつも信頼性の高い操舵アシストを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る電動パワーステアリング制御装置は、トルクセンサが故障して2つのトルク信号の一方が異常になった場合に操舵アシストの信頼性を下げない、自動車等の車両の電動パワーステアリング装置の制御装置等として有用である。
【符号の説明】
【0050】
11 メイントルクセンサ
12 サブトルクセンサ
13 舵角センサ
14 車速センサ
15〜17 微分回路
18,28,48 異常判定部
28 異常判定部
31 第1の異常判定部
32 トルク選別部
33 SAT推定部
34 SAT学習マップ作成部
35 第2の異常判定部
37 操舵補助指令値演算部
38 加算器
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の操舵機構に対してモータによる操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置の制御装置(以下「電動パワーステアリング制御装置」という。)に関し、特に、2つのトルク信号の状態に応じて操舵補助力の付与を制御する電動パワーステアリング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、運転者による操舵に際して、モータの回転トルクにより操舵機構でステアリング(ハンドル)に操舵補助力(操舵アシスト力)を付与して、運転者による操舵を補助する電動パワーステアリング装置(以下「EPS」ともいう。)が広く用いられている。EPSは、電子制御ユニット(以下「ECU」という。)を備える。電動パワーステアリング装置では、運転者の操舵によって生じた操舵トルクをトルクセンサが検出し、ECUは、トルクセンサによって検出されたトルク信号に基づいて、モータが所望の回転トルクを発生するように、モータに供給する電流を制御する。
【0003】
電動パワーステアリング装置で用いられるトルクセンサは、メイントルク信号とサブトルク信号の2つを出力する。しかし、トルクセンサが故障して2つのトルク信号の一方が異常になると、ステアリングに加えられた操舵トルクを正常に検出することができなくなる。その結果、電動パワーステアリング装置が誤動作して、ステアリングに通常の補助アシスト力を付与することができなくなる。
【0004】
特許文献1に開示された電動パワーステアリング装置では、このような状況を回避するために、複数のトルクセンサ信号の少なくとも1つが異常をきたした場合に、正常である残りのトルク信号を用いて、補助モータの補助トルクを正常時よりも少な<与えて制御を継続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−147473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された電動パワーステアリング装置は、異常をきたしていないトルク信号以外のトルク信号が正常か否かの判定を行っていない。このため、当該電動パワーステアリング装置による、正常と思われる残りのトルク信号のみに基づく制御の信頼性が高いとは言えない。
【0007】
本発明の目的は、トルクセンサが故障して複数のトルク信号のうち一つが異常になった場合でも、高い信頼性の操舵アシストを継続することのできる電動パワーステアリング制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) ハンドルの角度を感知する舵角センサを有し、操舵トルクを検出するトルクセンサから出力された複数のトルク信号に基づいて操舵アシストを制御する電動パワーステアリング制御装置であって、
前記複数のトルク信号と、前記舵角センサから出力された舵角信号とをそれぞれ相互監視し、運転者のハンドル入力ではありえない信号の変化が発生した場合、前記複数のトルク信号及び前記舵角センサ信号のどちらが異常であるかを瞬時に判定する電動パワーステアリング制御装置。
(2) 上記(1)の電動パワーステアリング制御装置において、
前記複数のトルク信号及び前記舵角信号をそれぞれ微分する微分回路を備え、
前記微分回路によって得られた微分値が閾値を超えた場合、異常と判定する電動パワーステアリング制御装置。
(3) 運転者のハンドルの入力を感知するトルクセンサと、運転者の操舵条件を感知する舵角センサと、前記トルクセンサから出力された複数のトルク信号をそれぞれ微分する微分回路と、を有し、
走行中に舵角に対するトルク微分値を確認し、そのデータに基づいて舵角−トルク微分値マップを作成する電動パワーステアリング制御装置。
(4) 運転者のハンドルの入力を感知するトルクセンサと、車両の走行速度を検出する車速センサと、運転者の操舵条件を感知する舵角センサと、を有し、
前記車速センサから出力された車速信号と、前記舵角センサから出力される舵角信号とに基づいて走行中のSAT量を推定及び学習し、そのデータに基づいて舵角−SATマップを作成する電動パワーステアリング制御装置。
(5)上記(4)の電動パワーステアリング制御装置において、
前記トルクセンサから出力された複数のトルク信号のうちの一つが故障を判定されたあとも、正常なトルク信号を用いて操舵アシストを継続し、前記舵角−SATマップを用い、前記正常なトルク信号の監視を行う電動パワーステアリング制御装置。
(6) 上記(3)の電動パワーステアリング制御装置において、
前記舵角−トルク微分値マップを用いて、前記複数のトルク信号のどれが異常であるか判定する電動パワーステアリング制御装置。
(7) 上記(1)、(3)又は(6)の電動パワーステアリング制御装置において、
前記複数のトルク信号のうちの一つが故障を判定され確定したあと、前記舵角センサに対するトルク変化量のマップを使用し、操舵アシストを絞りつつも当該操舵アシストの制御を継続する電動パワーステアリング制御装置。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)及び(2)の構成によれば、複数のトルク信号及び舵角信号のどちらが異常であるかを瞬時に判定するため、複数のトルク信号の一つが異常になった場合でも高い信頼性の操舵アシストを継続することができる。
上記(3)及び(6)の構成によれば、舵角−トルク微分値マップを用いて複数のトルク信号のどれが異常であるかを判定することができる。
上記(4)及び(5)の構成によれば、いずれかのトルク信号が異常と判定された後、操舵アシストを継続しつつ、正常であると判定されたトルク信号を舵角−SATマップを用いて監視するため、高い信頼性の操舵アシストを継続することができる。
上記(7)の構成によれば、操舵アシストを絞りつつも当該操舵アシストの制御を継続するため、高い信頼性の操舵アシストを継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図
【図2】正常時及び異常時のトルク信号又は舵角信号、及びこれら信号の微分信号を示す図
【図3】第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャート
【図4】本発明に係る第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図
【図5】正常時及び異常発生時の舵角−トルク微分値マップを示すグラフ
【図6】第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャート
【図7】本発明に係る第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図
【図8】第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャート
【図9】本発明に係る第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図
【図10】舵角−トルク微分値マップ及び閾値の例を示すグラフ
【図11】第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御装置(以下「電動パワーステアリング制御装置」という。)の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図である。第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、図1に示すように、メイントルクセンサ11と、サブトルクセンサ12と、舵角センサ13と、車速センサ14と、微分回路15〜17と、異常判定部18と、出力部19とを備える。
【0013】
メイントルクセンサ11は、自動車等の車両を運転者が操舵した際に発生する操舵トルクに応じて、メイントルク信号を出力する。サブトルクセンサ12は、自動車等の車両を運転者が操舵した際に発生する操舵トルクに応じて、サブトルク信号を出力する。舵角センサ13は、車両のステアリングの操舵角度に応じた舵角信号を出力する。車速センサ14は、車両の走行速度に応じた車速信号を出力する。なお、車速センサ14から出力された車速信号は、後述する異常判定部18に入力される。
【0014】
微分回路15は、メイントルク信号を微分して微分信号を出力する。微分回路16は、サブトルク信号を微分して微分信号を出力する。微分回路17は、舵角信号を微分して微分信号を出力する。異常判定部18は、微分回路15から出力された微分信号に基づいてメイントルク信号が異常か否かを判定し、微分回路16から出力された微分信号に基づいてサブトルク信号が異常か否かを判定し、微分回路17から出力された微分信号に基づいて舵角信号が異常か否かを判定する。異常判定部18の詳細については後述する。出力部19は、異常判定部18による判定結果に応じた信号を、電動パワーステアリング装置の電流制御部(図示せず)に出力する。
【0015】
異常判定部18は、メイントルクセンサ11、サブトルクセンサ12又は舵角センサ13から出力された信号に急激な変化があるか否かに応じて、信号の正常又は異常を判定する。図2は、正常時及び異常時のトルク信号又は舵角信号、及びこれら信号の微分信号を示す図である。図2(a)に示すように、正常時の信号の周波数は緩やかに変化し、その微分信号の波形はなだらかで微分値は小さい。一方、図2(b)に示すように、異常発生時の信号の周波数は、正常な信号には発生し得ない急激な変化が生じる。その結果、異常発生時の微分信号の波形はインパルス状であり微分値は大きい。このため、異常判定部18は、微分値が閾値を超えた信号を異常と判定する。なお、閾値は、異常判定部18に入力される車速信号に応じて可変である。
【0016】
第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作について、図3を参照して説明する。図3は、第1の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0017】
図3に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGのオン(ON)を検出すると(ステップS101)、メイントルクセンサ11、サブトルクセンサ12、舵角センサ13及び車速センサ14からそれぞれ出力されたメイントルク信号、サブトルク信号、舵角信号及び車速信号を得る(ステップS102〜S104)。メイントルク信号、サブトルク信号及び舵角信号は微分回路15〜17でそれぞれ微分され、異常判定部18は、各微分信号に基づいて、メイントルク信号、サブトルク信号又は舵角信号に異常がないかを判定する(ステップS105)。
【0018】
ステップS105で異常判定部18が信号に異常なしと判定した場合はステップS106に進み、電動パワーステアリング制御装置は通常の操舵アシスト制御を継続する。続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS107)、オンのときはステップS102に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0019】
一方、ステップS105で異常判定部18がいずれかの信号に異常ありと判定した場合は、ステップS108に進み、異常な信号がメイントルク信号、サブトルク信号及び舵角信号のいずれであるかを特定する。ステップS108で異常な信号が特定されると、電動パワーステアリング制御装置は、続いてフェールを確定し(ステップS109)、操舵アシスト制御をオフして(ステップS110)、処理を終了する。
【0020】
以上説明したように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、メイントルク信号、サブトルク信号又は舵角信号の異常を判定するため、高い信頼性の操舵アシストを行うことができる。
【0021】
(第2の実施形態)
図4は、本発明に係る第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図である。なお、図4において、図1と共通する構成要素には同じ参照符号が付して説明を省略する。第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、図4に示すように、メイントルクセンサ11と、サブトルクセンサ12と、舵角センサ13と、微分回路15,16と、異常判定部28とを備える。
【0022】
異常判定部28は、舵角信号に対するメイントルク信号及びサブトルク信号の各微分値を監視して舵角−トルク微分値マップを作成し、作成した舵角−トルク微分値マップに基づいて、メイントルク信号又はサブトルク信号が異常か否かを判定する。図5は、正常時(a)及び異常発生時(b)の舵角−トルク微分値マップを示すグラフである。図5(a)に示すように、メイントルク信号及びサブトルク信号が共に正常のとき、舵角に対する各トルク微分値は同一である。一方、図5(b)に示すように、いずれか一方のトルク信号に異常が発生すると、舵角に対する各トルク微分値は互いにずれる。なお、図5(b)は、サブトルク信号に異常が発生した例を示す。このように、異常判定部28は、メイントルク信号及びサブトルク信号のトルク微分値が同一でないとき、異常が発生したと判定し、正常時の舵角−トルク微分値マップと比較して、メイントルク信号とサブトルク信号のどちらに異常が発生したかを判定する。
【0023】
第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作について、図6を参照して説明する。図6は、第2の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャートである。なお、図6において、図3と共通するステップには同じ参照符号が付して説明を省略する。
【0024】
図6に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、ステップS101〜S104を行った後、異常判定部28が舵角−トルク微分値マップを作成する(ステップS205)。また、異常判定部28は、既存の舵角−トルク微分値マップがあれば、それを補正する。続いて、異常判定部28は、舵角−トルク微分値マップ又は従来のフェールセーフ仕様に基づいて、メイントルク信号及びサブトルク信号のどれが異常であるかを判定する(ステップS206)。
【0025】
ステップS206で異常判定部28がトルク信号に異常なしと判定した場合はステップS207に進み、電動パワーステアリング制御装置は通常の操舵アシスト制御を継続する。続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS208)、オンのときはステップS102に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0026】
一方、ステップS206で異常判定部28がトルク信号に異常ありと判定した場合、電動パワーステアリング制御装置は、トルクセンサ系のフェールを確定し(ステップS209)、操舵アシスト制御をオフして(ステップS210)、処理を終了する。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、舵角−トルク微分値マップを作成し、メイントルク信号及びサブトルク信号のどれが異常であるかを判定することができる。
【0028】
(第3の実施形態)
図7は、本発明に係る第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図である。なお、図7において、図1と共通する構成要素には同じ参照符号が付して説明を省略する。第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、図7に示すように、メイントルクセンサ11と、サブトルクセンサ12と、舵角センサ13と、車速センサ14と、第1の異常判定部31と、トルク選別部32と、SAT推定部33と、SAT学習マップ作成部34と、第2の異常判定部35と、異常フラグ部36と、操舵補助指令値演算部37と、加算器38と、出力部39とを備える。
【0029】
第1の異常判定部31は、第1の実施形態又は第2の実施形態のいずれかの方法によってメイントルク信号及びサブトルク信号が異常か否かをそれぞれ判定する。トルク選別部32は、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号を選別する。SAT推定部33は、正常と判定されたトルク信号、舵角信号及び車速信号に基づいて所定の演算を行うことにより、舵角に対するSAT(Self-Aligning Torque)を推定する。SAT学習マップ作成部34は、舵角信号及びSAT推定部33によって推定されたSATから舵角−SATマップを作成する。
【0030】
第2の異常判定部35は、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号が異常か否かを、舵角−SATマップを用いて判定する。異常フラグ部36は、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号が第2の異常判定部35によって異常と判定された場合にフラグを立てる。操舵補助指令値演算部37は、第2の異常判定部35によって正常と判定されたトルク信号に基づいて操舵補助指令値を演算する。加算器38は、操舵補助指令値と操舵アシストを制限するためのアシスト制限目標値とを加算して、モータに供給する電流の制御目標値を生成する。出力部39は、加算器38で生成された制御目標値を示す信号を、電動パワーステアリング装置の電流制御部(図示せず)に出力する。
【0031】
第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作について、図8を参照して説明する。図8は、第3の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャートである。なお、図8において、図3と共通するステップには同じ参照符号が付して説明を省略する。
【0032】
図8に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、ステップS101〜S104を行った後、SAT推定部33がSATを推定し(ステップS305)、SAT学習マップ作成部34が舵角−SATマップを作成する(ステップS306)。続いて、第1の異常判定部31は、第1又は第2の実施形態のフェールセーフ監視条件によって異常(フェール)が確定していないかを判定する(ステップS307)。
【0033】
ステップS307で異常が確定していないと判定された場合は、舵角−SATマップの補正を行う(ステップS308)。ステップS309では、トルクセンサの経年変化を学習して補正を行い、電動パワーステアリング制御装置は通常の操舵アシスト制御を継続する(ステップS310)。続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS311)、オンのときはステップS102に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0034】
一方、ステップS307で異常が確定していると判定され、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれかの異常が確定している場合、電動パワーステアリング制御装置は、トルクセンサ系のフェールを確定し(ステップS312)、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれか1つだけが異常かを判定する(ステップS313)。ステップS313での判定の結果、メイントルク信号及びサブトルク信号の両方が異常である場合は、操舵アシスト制御をオフして(ステップS317)、処理を終了する。
【0035】
一方、ステップS313での判定の結果、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれか1つだけが異常である場合、第2の異常判定部35は、舵角−SATマップとSAT推定部33によって推定された現在のSAT値とを比較し、メイントルク信号及びサブトルク信号の内、正常であると判定されたトルク信号が異常か否かを監視する(ステップS314)。
【0036】
ステップS314で、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号が第2の異常判定部35によって異常と判定されると、操舵アシスト制御をOFFして(ステップS317)、処理を終了する。一方、ステップS314で、第1の異常判定部31によって正常と判定されたトルク信号に異常が検出されない場合は、操舵補助指令値演算部37で演算された操舵補助指令値に、加算器38でアシスト制限目標値を加算して、モータに供給する電流の制限目標値(アシスト量)を生成し、アシスト量を制限しながら操舵アシストを継続する(ステップS315)。
【0037】
続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS316)、オンのときはステップS313に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、メイントルク信号又はサブトルク信号が異常と判定された後、正常であると判定されたトルク信号を舵角−SATマップを用いて監視するため、高い信頼性の操舵アシストを継続することができる。また、メイントルク信号又はサブトルク信号の一方のみに基づく操舵アシストを制限しつつも継続することができる。
【0039】
(第4の実施形態)
図9は、本発明に係る第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の要部構成を示すブロック図である。なお、図9において、図1又は図7と共通する構成要素には同じ参照符号が付して説明を省略する。第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、図9に示すように、メイントルクセンサ11と、サブトルクセンサ12と、舵角センサ13と、微分回路15,16と、異常判定部48と、異常フラグ部36と、操舵補助指令値演算部37と、加算部38と、出力部39とを備える。
【0040】
異常判定部48は、舵角信号に対するメイントルク信号及びサブトルク信号の各微分値を監視して舵角−トルク微分値マップを作成し、舵角−トルク微分値マップに基づいて、メイントルク信号又はサブトルク信号が異常か否かを判定する。図10は、舵角−トルク微分値マップ及び閾値の例を示すグラフである。図10に示すように、異常判定部48は、舵角−トルク微分値マップ上で表される、舵角に対するトルク微分値が閾値を超えるか否かに応じて、トルク信号の異常を判定する。
【0041】
第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作について、図11を参照して説明する。図11は、第4の実施形態の電動パワーステアリング制御装置の動作を示すフローチャートである。なお、図11において、図3と共通するステップには同じ参照符号が付して説明を省略する。
【0042】
図11に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、ステップS101〜S104を行った後、異常判定部48は、第1又は第2の実施形態のフェールセーフ監視条件によって異常(フェール)が確定していないかを判定する(ステップS405)。ステップS405で異常が確定していないと判定された場合、電動パワーステアリング制御装置は通常の操舵アシスト制御を継続する(ステップS406)。続いて、電動パワーステアリング制御装置は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS407)、オンのときはステップS102に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0043】
一方、ステップS407で異常が確定していると判定され、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれかの異常が確定している場合、電動パワーステアリング制御装置は、トルクセンサ系のフェールを確定し(ステップS408)、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれか1つだけが異常かを判定する(ステップS409)。ステップS409での判定の結果、メイントルク信号及びサブトルク信号の両方が異常である場合は、操舵アシスト制御をオフして(ステップS414)、処理を終了する。
【0044】
一方、ステップS409での判定の結果、メイントルク信号及びサブトルク信号のいずれか1つだけが異常である場合、操舵補助指令値演算部37により正常と確定されたトルク信号を用いて演算された操舵補助指令値に、加算器38でアシスト制限目標値を加算して、モータに供給する電流の制限目標値(アシスト量)を生成し(ステップS410)、アシスト量を制限しながら操舵アシスト制御を継続する(ステップS411)。
【0045】
続いて、異常判定部48は、舵角−トルク微分値マップを用いて、舵角に対するトルク微分値が閾値を超えるか否かに応じて、正常と確定されたトルク信号の異常を判定する(ステップS412)。このとき、トルク微分値が閾値を超えないまでも、閾値に近付くほどアシスト量の制限を多くしても良い。
【0046】
ステップS412での判定の結果、正常と確定されたトルク信号が異常と判定された場合は、電動パワーステアリング制御装置は、操舵アシスト制御をオフして(ステップS414)、処理を終了する。このように、舵角−トルク微分値マップを用いることで、正常なトルク信号が異常となった場合に操舵アシストを停止することができる。
【0047】
一方、ステップS412での判定の結果、正常と確定されたトルク信号が異常と判定されない場合は、イグニションキーIGがオフ(OFF)か否かを判定し(ステップS413)、オンのときはステップS409に戻り、オフのときは処理を終了する。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の電動パワーステアリング制御装置は、メイントルク信号又はサブトルク信号の異常を判定して、いずれかのトルク信号が異常と判定された後、正常であると判定されたトルク信号に基づいて、制限されたアシスト量によって操舵アシストを継続する。さらに、電動パワーステアリング制御装置は、正常であると判定されたトルク信号を舵角−トルク微分値マップを用いて監視する。このため、メイントルク信号又はサブトルク信号の一方のみに基づく操舵アシストを制限しつつも信頼性の高い操舵アシストを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る電動パワーステアリング制御装置は、トルクセンサが故障して2つのトルク信号の一方が異常になった場合に操舵アシストの信頼性を下げない、自動車等の車両の電動パワーステアリング装置の制御装置等として有用である。
【符号の説明】
【0050】
11 メイントルクセンサ
12 サブトルクセンサ
13 舵角センサ
14 車速センサ
15〜17 微分回路
18,28,48 異常判定部
28 異常判定部
31 第1の異常判定部
32 トルク選別部
33 SAT推定部
34 SAT学習マップ作成部
35 第2の異常判定部
37 操舵補助指令値演算部
38 加算器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの角度を感知する舵角センサを有し、操舵トルクを検出するトルクセンサから出力された複数のトルク信号に基づいて操舵アシストを制御する電動パワーステアリング制御装置であって、
前記複数のトルク信号と、前記舵角センサから出力された舵角信号とをそれぞれ相互監視し、運転者のハンドル入力ではありえない信号の変化が発生した場合、前記複数のトルク信号及び前記舵角信号のどちらが異常であるかを瞬時に判定する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記複数のトルク信号及び前記舵角信号をそれぞれ微分する微分回路を備え、
前記微分回路によって得られた微分値が閾値を超えた場合、異常と判定する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項3】
運転者のハンドルの入力を感知するトルクセンサと、運転者の操舵条件を感知する舵角センサと、前記トルクセンサから出力された複数のトルク信号をそれぞれ微分する微分回路と、を有し、
走行中に舵角に対するトルク微分値を確認し、そのデータに基づいて舵角−トルク微分値マップを作成する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項4】
運転者のハンドルの入力を感知するトルクセンサと、車両の走行速度を検出する車速センサと、運転者の操舵条件を感知する舵角センサと、を有し、
前記車速センサから出力された車速信号と、前記舵角センサから出力された舵角信号とに基づいて走行中のSAT量を推定及び学習し、そのデータに基づいて舵角−SATマップ作成する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記トルクセンサから出力された複数のトルク信号のうちの一つが故障を判定されたあとも、正常なトルク信号を用いて操舵アシストを継続し、前記舵角−SATマップを用い、前記正常なトルク信号の監視を行う電動パワーステアリング制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記舵角−トルク微分値マップを用いて、前記複数のトルク信号のどれが異常であるか判定する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項7】
請求項1、3又は6に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記複数のトルク信号のうちの一つが故障を判定され確定したあと、前記舵角センサに対するトルク変化量のマップを使用し、操舵アシストを絞りつつも当該操舵アシストの制御を継続する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項1】
ハンドルの角度を感知する舵角センサを有し、操舵トルクを検出するトルクセンサから出力された複数のトルク信号に基づいて操舵アシストを制御する電動パワーステアリング制御装置であって、
前記複数のトルク信号と、前記舵角センサから出力された舵角信号とをそれぞれ相互監視し、運転者のハンドル入力ではありえない信号の変化が発生した場合、前記複数のトルク信号及び前記舵角信号のどちらが異常であるかを瞬時に判定する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記複数のトルク信号及び前記舵角信号をそれぞれ微分する微分回路を備え、
前記微分回路によって得られた微分値が閾値を超えた場合、異常と判定する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項3】
運転者のハンドルの入力を感知するトルクセンサと、運転者の操舵条件を感知する舵角センサと、前記トルクセンサから出力された複数のトルク信号をそれぞれ微分する微分回路と、を有し、
走行中に舵角に対するトルク微分値を確認し、そのデータに基づいて舵角−トルク微分値マップを作成する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項4】
運転者のハンドルの入力を感知するトルクセンサと、車両の走行速度を検出する車速センサと、運転者の操舵条件を感知する舵角センサと、を有し、
前記車速センサから出力された車速信号と、前記舵角センサから出力された舵角信号とに基づいて走行中のSAT量を推定及び学習し、そのデータに基づいて舵角−SATマップ作成する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記トルクセンサから出力された複数のトルク信号のうちの一つが故障を判定されたあとも、正常なトルク信号を用いて操舵アシストを継続し、前記舵角−SATマップを用い、前記正常なトルク信号の監視を行う電動パワーステアリング制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記舵角−トルク微分値マップを用いて、前記複数のトルク信号のどれが異常であるか判定する電動パワーステアリング制御装置。
【請求項7】
請求項1、3又は6に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記複数のトルク信号のうちの一つが故障を判定され確定したあと、前記舵角センサに対するトルク変化量のマップを使用し、操舵アシストを絞りつつも当該操舵アシストの制御を継続する電動パワーステアリング制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−158951(P2010−158951A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1567(P2009−1567)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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