説明

電動パワーステアリング装置

【課題】 樹脂製のウォームホイールを備え、グリース潤滑される電動パワーステアリング装置において、ウォームホイールの耐摩耗性とともにゴム製のダンパーの軟化や膨潤を抑え、総合的な耐久寿命を向上させる
【解決手段】 減速歯車機構の従動歯車が、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を有し、かつ、該減速歯車機構が、増ちょう剤としてのカルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物をグリース全量の5〜50質量%、基油をグリース全量の50〜95重量%の割合でそれぞれ含有するグリース組成物により潤滑されている電動パワーステアリング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置に関し、特に従動歯車として樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を備え、グリース潤滑される電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に組み込まれる電動パワーステアリング装置は、例えば図1及び図2に示すように構成される。図示されるように、中空のステアリングコラム50にステアリングシャフト70が挿通され、ハウジング120に収納された転がり軸受90、91により回転自在に支承されている。ステアリングシャフト70は中空軸であり、トーションバー80が収容されている。また、出力軸60側において、ステアリングシャフト70の外周面にウォームホイール11が設けてあり、このウォームホイール11にウォーム12が噛合してある。これらウォームホイール11とウォーム12とで構成される減速歯車機構は、電動モータに連結し、ハウジング120に収納される。ここで、ウォーム12は電動モータ100の回転軸に連結しており、駆動歯車に相当し、一方ウォームホイール11は従動歯車に相当する。
【0003】
図3は、減速歯車機構20の一例を示す拡大図であるが、ウォームホイール11とウォーム12の両方を金属製にすると、ハンドル操作時に歯打ち音や振動音等の不快音が発生するという不具合を生じることから、ウォームホイール11として、金属製の芯管1の外周に、接着剤8を介して、樹脂製で外周面にギア歯10を形成してなる樹脂部3とを一体化させたものを使用して騒音対策を行っている。
【0004】
上記樹脂部3には、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のベース樹脂に、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を配合した材料の他、強化材を含有しないMC(モノマーキャスト)ナイロン、ポリアミド6、ポリアミド66等が使用されている。中でも、寸法安定性やコストを考慮して、強化材を含有しないMCナイロン、ガラス繊維を含有したポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46等が主流となっている。
【0005】
また、ウォーム12は、一対の玉軸受等の転がり軸受110で支持されて電動モータ100と連結しており、ハウジング120の一対の転がり軸受110の間の空間には、通常、ウォーム12とウォームホイール11との両ギア歯間の潤滑のためにグリースが充填されている(例えば、特許文献1〜4参照)。更に、転がり軸受110に予圧をかけるとともに、タイヤ側からの微小なキックバック入力が入ってきたときに、ウォーム12を軸方向に動かして電動モータ100が回転しないようにし、ハンドル側にキックバックのみの情報を伝えるために、転がり軸受110のウォーム側にゴム製のダンパー130を取り付けている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−209167号公報
【特許文献2】特開平9−194867号公報
【特許文献3】特開2002−371290号公報
【特許文献4】特開2003−3185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載のグリース組成物は、水酸基を含む脂肪酸、または多価アルコールの脂肪酸エステルを含んでいる。また、特許文献2に記載のグリース組成物は、平均分子量900〜10000のポリエチレンワックスを0.5〜40質量%含有している。また、特許文献3に記載のグリース組成物は、合成炭化水素油を基油とし、ウレア化合物を増ちょう剤とし、モンタンワックスを配合したものである。また、特許文献4に記載のグリース組成物は、ポリエチレンオキサイド系ワックスを配合したものである。
【0008】
これらのグリース組成物は、樹脂潤滑用であり、樹脂製のウォームホイール11のギア歯10の耐摩耗性を向上させる効果を有する。しかし、電動パワーステアリング装置では、ゴム製のダンパー130を備えており、このダンパー130のグリース組成物による軟化や膨潤までは上記各グリース組成物でも考慮されていない。
【0009】
本発明は、このような状況に艦みてなされたものであり、樹脂製のウォームホイールを備え、グリース潤滑される電動パワーステアリング装置において、ウォームホイールの耐摩耗性とともにゴム製のダンパーの軟化や膨潤を抑え、総合的な耐久寿命を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は下記に示す伝導パワーステアリング装置を提供する。
(1)電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、
前記減速歯車機構の従動歯車が、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を有し、かつ、該減速歯車機構が、増ちょう剤としての下記一般式(I)で表されるカルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物をグリース全量の5〜50質量%、基油をグリース全量の50〜95重量%の割合でそれぞれ含有するグリース組成物により潤滑されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
(R−SOCa・nCaCO ・・・(I)
(式中、Rは炭素数6〜28の炭化水素基またはアリール基であり、nは6〜50の整数である。)
(2)前記従動歯車が、金属製芯管を備え、該金属製芯管の外周に樹脂部が一体に設けていることを特徴とする上記(1)記載の電動パワーステアリング装置。
(3)前記潤滑油がポリα−オレフィン、ポリオールエステル、ジエステル及びアルキルジフェニルエーテルの少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、封入グリース組成物の増ちょう剤に、カルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物を用いるため、樹脂製のウォームオイールの耐摩耗性とともに、ゴム製ダンパーの軟化や膨潤も抑えられ、総合的な耐久性が向上し、長寿命の電動パワーステアリング装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
本発明において、電動パワーステアリング装置は、減速歯車機構においてウォームホイールのギア歯が樹脂製で、かつ、ゴム製のダンパーを備える限り、構成上の制限がなく、例えば図1及び図2に示した電動パワーステアリング装置を例示することができる。
【0014】
減速歯車機構も図3に例示した構成とすることができる。即ち、ウォームホイール11は、金属製の芯管1の外周に、ポリアミド樹脂組成物からなり、その外周端面にギア歯10を形成した樹脂部3を一体化して構成される。この一体化には、接着剤8を用いてもよく、接着剤8として例えばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤またはトリアジンチオール化合物を用いることができる。
【0015】
樹脂部3を形成するポリアミド樹脂としては、吸水性や耐疲労性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミドMXD6、ポリアミド6I6T、変性ポリアミド6T等が好適に挙げられるが、中でもポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が耐疲労性に優れ好ましい。また、これらポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂と相溶性を有する他の樹脂と混合してもよい。例えば、無水マレイン酸等の酸で変性したポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィンコポリマー、プロピレン−α−オレフィンコポリマー等)が挙げられる。
【0016】
これらポリアミド樹脂、またはポリアミド樹脂と他の樹脂との混合樹脂は、樹脂単独でも一定以上の耐久性を示し、ウォームホイール11の相手材である金属製のウォーム12の摩耗に対して有利に働き、減速ギアとして十分に機能する。しかしながら、より過酷な使用条件で使用されると、ギア歯10が破損や摩耗することも想定されるため、信頼性をより高めるために、強化材を配合することが好ましい。
【0017】
補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、上記に挙げたポリアミド樹脂との接着性を考慮してシランカプッリング剤で表面処理したものが更に好ましい。また、これらの補強材は複数種を組み合わせて使用することができる。衝撃強度を考慮すると、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状物を配合することが好ましく、更にウォ−ム12の損傷を考慮するとウィスカー状物を繊維状物と組み合わせて配合することが好ましい。混合使用する場合の混合比は、繊維状物及びウィスカー状物の種類により異なり、衝撃強度やウォーム12の損傷等を考慮して適宜選択される。これらの補強材は、全体の5〜40重量%、特に10〜30重量%の割合で配合することが好ましい。補強材の配合量が5重量%未満の場合には、機械的強度の改善が少なく好ましくない。補強材の配合量が40重量%を超える場合には、ウォーム12を損傷し易くなり、ウォーム12の摩耗が促進されて耐久性が不足する可能性があり好ましくない。
【0018】
更に、ポリアミド樹脂組成物には、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、ヨウ化物系熱安定化剤やアミン系酸化防止剤を、それぞれ単独あるいは併用して添加されていてもよい。
【0019】
樹脂部3を形成するには、上記のベース樹脂と補強材、必要に応じて酸化防止剤や熱安定化剤、更には充填材等を、ベース樹脂の溶融温度以上の温度で混練し、得られた溶融混練物を、芯管1を配置した金型に充填して硬化させればよい。そして、切削加工により、樹脂部3の外周面にギア歯10を形成してウォームホイール11が得られる。
【0020】
また、図示は省略するが、ウォームホイール11は、芯管1を省略し、全体をポリアミド樹脂組成物で形成してもよい。
【0021】
また、ダンパー130は、エチレンアクリルゴム等のアクリル系ゴム製が一般的である。
【0022】
上記の如く概略構成される電動パワーステアリング装置では更に、従来と同様に、ハウジング120の一対の転がり軸受110の間の空間に、ウォーム12とウォームホイール11との間の潤滑のためのグリース組成物が充填される。
【0023】
本発明において、グリース組成物の基油は、鉱油や合成潤滑油を使用することができる。合成炭化水素油については、従来ではゴム、特にアクリル系ゴムへの影響を考慮してポリα−オレフィンが多用されているが、本発明では、後述するように増ちょう剤にカルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物を使用するため、ジエステルやポリオールエステル、アルキルジフェニルエーテル等の耐熱性の潤滑油も使用できるようになる。また、基油は、これらの混合油であってもよい。
【0024】
後述されるカルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物は、炭酸カルシウムからなる保護膜を樹脂やゴムの表面に形成し、それにより樹脂やゴムの軟化や膨潤を防ぐ。しかし、この炭酸カルシウムからなる保護膜の形成には多少の時間を要するため、基油にジエステルやポリオールエステル、アルキルジフェニルエーテルを用いた場合、極く初期段階においてウォームホイール11やダンパー130を軟化・膨潤させる可能性がある。そのため、上記潤滑油の中では、鉱油やポリα−オレフィンが好ましいといえる。
【0025】
また、基油は、潤滑性能を考慮して、40℃における動粘度が15〜500mm/sであることが好ましい。動粘度が15mm/s(@40℃)未満であると、油膜構成能力に劣り、摩擦係数の上昇や摩耗を引き起こすおそれがある。動粘度が500mm/s(@40℃)を越えると、流動抵抗が大きくなりすぎ、伝達トルクの損失に繋がるおそれがある。これらの観点から、基油の動粘度は15〜400mm/sがより好ましく、最適範囲は20〜200mm/sである。
【0026】
本発明では、増ちょう剤として下記一般式(I)で表されるカルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物を用いる。
(R−SOCa・nCaCO ・・・(I)
式中、Rは炭素数6〜28の炭化水素基またはアリール基であり、nは6〜50の整数である。Rの具体例は、何れも炭素数が6〜28の直鎖状の飽和炭化水素、分岐状の飽和炭化水素、直鎖飽和炭化水素置換基を有するアルキルベンゼン、分岐を有する飽和炭化水素基を有するアルキルベンゼンである。尚、カルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物において、炭酸カルシウムは、カルシウムスルフォネートが形成する集合体(ミセル)中に存在すると推定される。
【0027】
また、増ちょう剤原料であるカルシウムスルフォネートは,中性のアルキルまたはアルキルベンゼンスルフォン酸カルシウムを処理して400mgKOH/gという高い全塩基価(測定方法:JlSK2501)を付与したものであり、高塩基性カルシウムスルフォネートとも呼ばれる。この処理は、溶媒中で合成したアルキル又はアルキルベンゼンスルフォン酸カルシウムに対して炭酸ガスを導入する。
【0028】
尚、溶媒に分散した状態の高塩基性カルシウムスルフォネートは、その含有率として、通常15〜60重量%のものが市販されており、粘ちょうな物質であるが、グリースのような半固体状ではない。そのため、高塩基性カルシウムスルフォネートを原料にして半固体状のグリースを得るには、下記のような加工工程が必要である。
【0029】
最初に、基油と、基油に分散させた高塩基性カルシウムスルフォネートとを混合して加熱攪拌を行い、60℃で水を加える。次いで、混合物を85℃まで昇温し、炭素数1〜4の脂肪族アルコールと炭素数2〜4の脂肪酸とを加え、加熱攪拌しながら、水、脂肪族アルコール及び脂肪酸を蒸発させる。この工程で高塩基性カルシウムスルフォネート中の炭酸カルシウムの結晶形態に変化が生じ、全体が粘ちょうな半固体状に変化していく。この工程には約1時間を要する。
【0030】
次いで、半固体状の混合物に水と水酸化カルシウムとを加えて加熱を継続し、揮発性成分を完全に除去する。その後、炭酸カルシウムの結晶形態の変化に伴って生成する水酸化カルシウムまたは酸化カルシウムと、後から加えた水酸化カルシウムを金属石けんにすることを主目的に、高級脂肪酸を加えて反応させる。この反応は,赤外吸収スペクトルによって脂肪酸の吸収が減少し、金属石けんの吸収が増大することによって確認できる。この工程にも約1時間を要する。この後も半固体状の混合物の加熱を継続し、165℃まで昇温させる。混合物が165℃に達した後に、室温まで冷却し、ホモジナイザー、3本ロール等のグリースの一般的な分散処理装置によって処理することによりグリース組成物を得る。
【0031】
上記基油及びカルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物のグリース組成物中の配合量は、基油はグリース全量の50〜95重量%、カルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物はグリース全量の5〜50質量%である。カルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物の配合量が5質量%未満では増ちょう作用が十分でないことに加えて炭酸カルシウム保護膜の形成能に劣るようになり、50質量%を越えるとグリース組成物が硬くなりすぎて流動性が損なわれる結果、摩擦面周辺に付着したグリース組成物からの摩擦面内へのグリース供給が制限されるおそれがあり好ましくない。このような観点から、カルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物の配合量はグリース全量の8〜40質量%が好ましい。
【0032】
また、上記グリース組成物には、必要に応じて、各種の添加剤を添加してもよい。何れも公知のもので構わず、例えば、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤、脂肪酸、動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾールの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレン等の粘度指数向上剤等を単独または2種以上組み合わせて添加することができる。これらの添加量には制限がないが、グリース全量の10質量%以下が適当である。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されることはない。
【0034】
(実施例1)
鉱油を50質量%含有する高塩基性カルシウムスルフォネート(アルキルベンゼンスルフォン酸カルシウム)及び鉱油を反応釜に仕込み、反応釜を加熱して内容物の温度が60℃になった時点で水を加え、85℃になった時点で酢酸とセルソルブとを加えた。次いで、内容物の温度を91℃で1時間保持した後、水酸化カルシウムと水とを加えた。次いで、加熱して内容物から水を蒸発させた後、更に加熱して130℃でステアリン酸を加え、加熱を継続して165℃まで昇温させた。そして、酸化防止剤である1−フェニル−2−ナフチルアミンを内容物に添加し、混合した後、内容物を室温まで放冷し、3本ロールミルで処理でして試験グリースAを得た。
【0035】
(実施例2)
鉱油をポリα−オレフィンに代えた以外は実施例1と同様の操作を行い、試験グリースBを得た。
【0036】
(実施例3)
鉱油をポリオールエステルに代えた以外は実施例1と同様の操作を行い、試験グリースCを得た。
【0037】
(比較例1)
反応釜内にポリα−オレフィンとジフェニルメタンジイソシアネートとを仕込み、拡販しながら内容物の温度を70℃まで昇温した。次いで、反応釜内に少しずつオクチルアミンを注ぎ入れ、ジウレアを生成した。攪拌を継続し、内容物の温度を150℃まで昇温させ、反応を終了した。そして、酸化防止剤である1−フェニル−2−ナフチルアミン、摩擦低減剤であるポリエチレンワックス及びカルシウムスルフォネート系防錆剤を内容物に添加し、混合した後、内容物を室温まで放冷し、3本ロールミルで処理でして試験グリースDを得た。
【0038】
(比較例2)
鉱油をポリオールエステルに代えた以外は比較例1と同様の操作を行い、試験グリースEを得た。
【0039】
(試験1)
上記試験グリースについて、減速歯車機構の効率の指標として、図4に示す摩擦試験機を利用して樹脂−金属間の摩擦係数を測定した。図示される摩擦試験機は、S45C製φ5×10mmの試験コロの端面を樹脂製の試験平板に押し付けてカムにより揺動させる構成になっている。試験は、摺動面の粗さが算術平均粗さRaで0.8aになるように調整し、接触最大面圧10MPa、揺動距離10mm、周波数4.3Hz、試験温度60℃にて行い、摩擦によって生じる水平応力をロードセルで検出し、その出力電圧から摩擦係数を算出した。摩擦係数が0.05以下であれば、実用上問題無く使用できる。結果を表1に示す。
【0040】
(試験2)
エチレンアクリルゴム製の円板(直径10mm、厚さ5mm)を各試験グリースに浸漬し、130℃の恒温槽内に3000時間放置した。所定時間経過毎にエチレンアクリルゴム製円板を取り出し、厚さの寸法変化を測定した。結果を図5にグラフ化して示す。
【0041】
【表1】

【0042】
上記試験結果から、本発明に従い、増ちょう剤としてカルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物を規定量配合した試験グリースは摩擦係数が実用レベルであり、かつ、エチレンアクリルゴムの軟化や膨潤を抑制できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】電動パワーステアリング装置の一例を示す一部断面構成図である。
【図2】図1のAA断面図であり、電動モータと減速歯車機構との連結部周辺を示す概略構成図である。
【図3】ウォームホイール及びウォームの一例を示す斜視図である。
【図4】実施例において摩擦係数を測定するために用いた試験装置の構成を示す模式図である。
【図5】実施例で得られた、放置時間とエチレンアクリルゴムの寸法変化率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 芯管
3 樹脂部
8 接着剤
10 ギア歯
11 ウォームホイール
12 ウォーム
13 歯部
14 凹部
15 潤滑剤含有ポリマー
50 ステリングコラム
70 ステアリングシャフト
80 トーションバー
90 軸受
91 軸受
100 電動モータ
110 転がり軸受
120 ハウジング
130 ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、
前記減速歯車機構の従動歯車が、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を有し、かつ、該減速歯車機構が、増ちょう剤としての下記一般式(I)で表されるカルシウムスルフォネート・炭酸カルシウム複合物をグリース全量の5〜50質量%、基油をグリース全量の50〜95重量%の割合でそれぞれ含有するグリース組成物により潤滑されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
(R−SOCa・nCaCO ・・・(I)
(式中、Rは炭素数6〜28の炭化水素基またはアリール基であり、nは6〜50の整数である。)
【請求項2】
前記従動歯車が、金属製芯管を備え、該金属製芯管の外周に樹脂部が一体に設けていることを特徴とする請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記潤滑油がポリα−オレフィン、ポリオールエステル、ジエステル及びアルキルジフェニルエーテルの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−335286(P2006−335286A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164540(P2005−164540)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】