電動パワーステアリング装置
【課題】回転ムラを解消した1条ねじのウォームギヤを備えた電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電動パワーステアリング装置は、操舵入力に応じて電動モータを駆動し、電動モータの駆動力をウォームギヤ61を介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う。ウォームギヤ61は、1条ねじからなり、歯切り長さLをピッチ長さPの整数倍Nとしてウォームギヤ61の歯の重心Cを軸心Oと一致させて形成されている。
【解決手段】電動パワーステアリング装置は、操舵入力に応じて電動モータを駆動し、電動モータの駆動力をウォームギヤ61を介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う。ウォームギヤ61は、1条ねじからなり、歯切り長さLをピッチ長さPの整数倍Nとしてウォームギヤ61の歯の重心Cを軸心Oと一致させて形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源とする電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来の電動パワーステアリング装置の設置状態を示す摸式図である。
図9に示すように、従来、ステアリングホイール200の操舵力を軽減するためのパワーステアリング装置として、電動モータ300,300を動力源とした電動パワーステアリング装置100が使用されている(例えば、特許文献1参照)。電動パワーステアリング装置100は、一般に電動モータ300の回転トルクを減速機構400により倍力してラック・ピニオン機構を介してラック軸500に付与し、運転者のステアリング操作をアシストするものである。
【0003】
図10は、従来の電動パワーステアリング装置の設置されている減速機構を示す斜視図である。
図10に示すように、従来の減速機構400は、電動モータ300(図9参照)のロータ軸上に設置されたウォームギヤ410とウォームホイール420とから構成されている。
近年、電動パワーステアリング装置100は、普及の拡大に伴って大型車両への搭載の要望が高まっている。大型車両では、前軸荷重が大きいので、それに対応するために、電動モータ300を大型化して発生トルクを増大させると共に、電動モータ300のトルクの増大に合わせて減速機構400の強度も増大させる必要がある。
【0004】
しかしながら、減速機構400を大きくした場合には、減速機構400が運転者の膝付近の空間や足元の空間を減少させ、運転者の居住空間を減少させるという問題点があった(図9参照)。このため、減速機構400を小型化して、電動パワーステアリング装置100全体を小型化することが望まれている。
減速機構400の強度を向上させた装置としは、例えば、ウォームギヤ410を金属製の1条ねじにして、ウォームホイール420の歯厚を歯たけより大きく設定したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
図11は、従来の電動パワーステアリング装置に使用されているウォームギヤを示す図であり、(a)正面図、(b)はY−Y断面図である。図12は、その他の従来の電動パワーステアリング装置に使用されているウォームギヤを示す図であり、(a)は正面図、(b)はZ−Z断面図である。
【0006】
その他、減速機構400の強度およびウォームギヤ410の曲げ剛性を増大させる方法としては、図11および図12に示すような軸直角方向の断面積を広くしたウォームギヤ600,700が知られている。
図11(a),(b)に示すウォームギヤ600は、2条ねじからなり、軸直角方向の断面において、歯部断面が軸心Oに対して上下対称に形成されているため、軸心部と歯部とを合わせた断面全体の重心Cの位置が軸心Oと一致している。
これに対して、図12(a)、(b)に示すウォームギヤ700は、軸直角方向の断面積を広くした1条ねじであり、歯部断面が一箇所にのみ形成されるため、軸心部と歯部とを合わせた断面全体の重心Cの位置が軸心Oの位置から半径rずれた位置にある。
【特許文献1】特開2006−77809号公報
【特許文献2】特開2004−66949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11(a),(b)に示すような2条ねじからなるウォームギヤ600の場合には、ウォームギヤ600の条数の増加に伴って、ウォームホイールの歯数が増加するため、歯車全体の容積および重量が増加するという問題点があった。
【0008】
一方、図12(a)、(b)に示す1条ねじのウォームギヤ700は、重心Cが軸心Oから半径rずれた位置にあるので、ウォームギヤ700が回転すると、歯車自体に振動が発生して回転ムラや芯触れがあり、操舵フィーリングを悪化させるという問題点があった。
また、重心Cが軸心Oから半径rずれていることで発生する遠心力によってウォームギヤ700の許容荷重が減少するという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、前記した問題点を解消すべく創案されたものであり、回転ムラを解消した1条ねじのウォームギヤを備えた電動パワーステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解消するために請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の発明は、操舵入力に応じて電動モータを駆動し、前記電動モータの駆動力をウォームギヤを介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う電動パワーステアリング装置であって、前記ウォームギヤは、1条ねじからなり、歯切り長さをピッチ長さの整数倍として前記ウォームギヤの歯の重心を軸心と一致させたことを特徴とする。
ここで、「歯切り長さ」とは、ウォームギヤの歯形が形成されている部分の全体の長さである。
【0011】
かかる構成によれば、ウォームギヤは、1条ねじからなり、歯切り長さをピッチ長さの整数倍としてウォームギヤの歯の重心を軸心と一致させて形成されていることによって、歯車全体の重心と軸心とが一致した位置にあり、回転ムラや振動を解消することができる。このようにウォームギヤの重心のアンバランスを解消したことによって、ウォームギヤとウォームホイールとの噛み合いが滑らかになり、作動音を低減させると共に、操舵フィーリングを向上させることができる。また、歯車の重心が軸心からずれていることで発生する遠心力によってウォームギヤの許容荷重が減少するのを抑制することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置であって、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置であって、前記ウォームギヤは、歯切りの始まり位置と終わり位置とが、径方向の同じ位置に形成されていることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、ウォームギヤは、歯切りの始まり位置と終わり位置とが、径方向の同じ位置に形成されていることによって、歯車全体の重心と軸心とが一致するようになり、ウォームギヤ全体の重量バランスがよくなるため、芯振れを抑制することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、操舵入力に応じて電動モータを駆動し、前記電動モータの駆動力をウォームギヤを介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う電動パワーステアリング装置であって、前記ウォームギヤは、1条ねじからなり、歯切り長さを、ピッチ長さの整数倍と、前記ウォームギヤの歯の重心と軸心との位置がずれたオフセット重量(オフセット質量)分を補正する重心オフセット長と、を加算した長さにしたことを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、ウォームギヤは、歯切り長さを、ピッチ長さの整数倍と、ウォームギヤの歯の重心と軸心との位置がずれたオフセット重量分を補正する重心オフセット長と、を加算した長さにしたことにより、歯切り長さを、ピッチ長さの整数倍にしたとしても、ウォームギヤの歯の重心と軸心との位置がずれた場合、重心オフセット長さを加算した長さにすれば、重心のずれを補正することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、回転ムラを解消した1条ねじのウォームギヤを備えた電動パワーステアリング装置を提供することができる。また、ウォームギヤの重心のアンバランスを解消したことによって、ウォームギヤとウォームホイールとの噛み合いが良好になり、作動音を低減させると共に、操舵フィーリングを向上させることができる。さらに、ウォームギヤとウォームホイールの間での噛み合いによる発熱が低減されて、耐久性を向上させることができる。その結果、長期にわたって良好な操舵フィーリングを維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を示す概略構成図である。図2は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の減速機構を示す説明図である。図3は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォームギヤを示す説明図である。
【0018】
≪電動パワーステアリング装置の構成≫
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1は、操舵入力に応じて電動モータ7を駆動し、電動モータ7の動力を減速機構6を介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵のアシストを行う装置である。電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール2に連結されたステアリング軸3と、ステアリング軸3に作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ4と、車速を検出する車速センサ5と、減速機構6を介してステアリング軸3に操舵補助力を付与する電動モータ7と、電動モータ7の駆動を制御する駆動制御装置(ECU)8と、ラック・ピニオン機構9を介して連結されたラック軸10とを備えている。そのラック軸10の両端(図1では、ラック軸10の一方側は図示省略)には、タイロッド11等を介して転舵車輪(前輪)12が連結されている。
【0019】
≪電動モータの構成≫
図1に示すように、電動モータ7は、例えば、回転子の回転角度を検出するレゾルバ(図示省略)を備えたブラシレスDCモータからなり、例えば、減速機構6とラック・ピニオン機構9等を収納したギヤハウジング(図示省略)に収納されている。図2に示すように、電動モータ7の回転子と一体に回転するロータ軸7aには、ゴム等の弾性体やセレーション等によるカップリング7bを介在してウォームギヤ軸61aが連結されて、電動モータ7の回転とトルクがウォームギヤ61に伝達されるようになっている。
【0020】
≪減速機構の構成≫
図2に示す減速機構6は、電動モータ7の回転トルクを倍力させてステアリング軸3に伝達する機能を有しており、減速歯車機構からなる。この減速機構6は、例えば、電動モータ7のロータ軸(出力軸)7aに連設されて同回転するウォームギヤ61と、ステアリング軸3に設けたウォームホイール62と、を噛合させて減速機構を構成している。
【0021】
<ウォームギヤの構成>
図2に示すように、ウォームギヤ61は、1条ねじからなり、ロータ軸7aに連結されたウォームギヤ軸61aと、ウォームギヤ軸61aに一体形成された歯切部61bとを有している。図3に示すように、ウォームギヤ61は、歯切り長さLをピッチ長さPの略整数倍Nとしてウォームギヤ61の歯切部61b全体の重心Cを軸心Oと一致させて形成されている。
なお、図2および図3は、ウォームギヤ61の歯切部61bに4ピッチの歯を形成した場合の一例を示す。この場合、ウォームギヤ61は、歯切り長さLがピッチ長さPの4倍に形成されている。ウォームギヤ61は、歯切部61bにおいて、歯切りの始まり位置61cと終わり位置61dとが、径方向の同じ位置に形成されている。このため、ウォームギヤ61の歯全体の重心Cと軸心Oとが一致するようになっている。
【0022】
ウォームギヤ軸61aは、歯切部61bの両端部に設置された軸受63,64によって回転自在に軸支され、電動モータ7のロータ軸7aを同回転するようになっている。
歯切部61bは、ウォームギヤ61の歯形が形成された歯形部であり、歯切りの始まり位置61cから終わり位置61dにわたって形成されている。ウォームギヤ61は、歯切部61bの中央部分でウォームホイール62と噛み合うように配置されている。
【0023】
<ウォームホイールおよび軸受の構成>
図2に示すウォームホイール62は、ウォームギヤ61の回転をステアリング軸3に減速させて伝達するための歯車である。ウォームホイール62は、図1に示すようないわゆるコラム型の電動パワーステアリング装置1の場合、ステアリング軸3に一体的に設けられている。なお、図9に示すようなピニオン型の電動パワーステアリング装置100の場合には、ピニオン軸に一体的に設けられるようになっている。
前記軸受63,64は、ボールベアリングからなり、内輪がウォームギヤ軸61aに一体に回転するように設置され、外輪がギヤハウジング(図示省略)の内壁に装着されている。
【0024】
≪作用≫
次に、図1〜図5を参照して本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置1の作用を説明する。
図1に示す電動パワーステアリング装置1は、運転者がステアリングホイール2を操舵すると、ステアリング軸3に付与される操舵トルクによりラック・ピニオン機構9を介してラック軸10が直線往復動し、タイロッド11等を介して転舵車輪12が転舵される。
【0025】
この際、駆動制御装置(ECU)8は、操舵トルクセンサ4から入力される操舵トルク信号と車速センサ5から入力される車速信号とに基づいて、電動モータ7に流す目標電流値を設定し、この目標電流値とモータ電流センサ(図示省略)から入力されるモータ電流値との偏差が0になるように電流フィードバック制御して電動モータ7を駆動する。これにより、電動モータ7は適切な操舵補助力(アシスト力)を発生し、この操舵補助力が減速機構6を介してステアリング軸3に付与されることによって、運転者のステアリング操作時における操舵力を低減することができる。
【0026】
次に、図2〜図5を参照して、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置1の減速機構6の作用を説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォームギヤにおける歯部の重心の軌跡を示す説明図である。図5は、図4のX−X断面図である。
【0027】
図2に示すように、減速機構6は、1条ねじからなるウォームギヤ61と、このウォームギヤ61に噛合するウォームホイール62とからなる。
図3に示すように、ウォームギヤ61は、歯切り長さLがピッチ長さPの整数倍Nに形成されている。このようなウォームギヤ61の軸直角方向の断面における歯部の重心Cの位置の軌跡は、図4に二点鎖線で示すようになる。つまり、ウォームギヤ61の各所の軸直角方向の断面における重心Cの位置は、図4に示すように、中心線O−Oを中心として歯部の形状に沿って螺旋状に形成されて、軸心Oからずれて偏心している。
【0028】
例えば、ウォームギヤ61の軸平行ピッチをP、角度変数(位相角)をθとすると、歯切部61bの歯切りの始まり位置61cからPθ/2πの位置におけるウォームギヤ61の軸直角方向の断面(X−X)は、図5に示すような形状になっている。つまり、ウォームギヤ61の軸直角方向の断面における重心Cは、図5に示すように、軸心Oから半径Rだけ径方向にずれた位置にある。
【0029】
このような1条ねじからなるウォームギヤ61は、歯切り長さLをピッチ長さPの整数倍Nに形成したことによって、ウォームギヤ61の歯形部全体の重心Cが軸心Oと一致するようになる。このように形成されたウォームギヤ61は、歯形部全体の重心Cと軸心Oとが一致しているので、ウォームギヤ61自体の振動や回転ムラを低減し、ウォームギヤ61とウォームホイール62との噛み合いが滑らかになる。その結果、ステアリングホイール2(図1参照)を操作した際の操舵フィーリングを向上させることができる。また、重心Cのずれていることで発生する遠心力によってウォームギヤ61の許容荷重が減少するのを抑制することができる。
【0030】
≪第1変形例≫
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造および変更が可能であり、本発明はこれら改造および変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0031】
図6および図7を参照して、本発明の第1変形例を説明する。第1変形例は、歯切り長さLをピッチ長さPの整数倍Nに形成したウォームギヤ61Aの歯切部61Ab全体の重心Cが軸心Oからずれている場合に、ウォームギヤ61Aの歯切部61Abに重心オフセット部61Aeを形成して、軸心Oからずれた歯切部61Ab全体の重心Cの位置を補正するものである。
【0032】
図6は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第1変形例を示す図であり、歯切部に重心オフセット長さ分の歯切りを形成したウォームギヤの説明図である。図7は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第1変形例におけるウォームギヤの重心オフセット長さの位相とオフセット重量との関係を示すグラフである。
【0033】
図6に示すように、ウォームギヤ61Aの歯切部61Abにおける有効な歯切り長さをL、整数をN、ピッチをP、重心Cの位置を補正するために終わり位置61Ad側に形成した重心オフセット部61Aeの重心オフセット長さをL1とすると、
L=NP+L1
となる。
【0034】
つまり、ウォームギヤ61Aの軸並行ピッチの整数倍NPとなる長さを持つ領域の有効な歯切部61Abに、軸心Oから半径Rだけ径方向にずれた位置にある歯切部61Ab全体の重心Cの位置を軸心Oに移動させるために、重心オフセット長さL1分の歯切りを有する重心オフセット部61Aeに余分に形成して補正する。
このように、歯切部61Ab全体の重心Cが軸心Oからずれた分の質量の片寄りを考慮した重心オフセット長さL1分の重心オフセット部61Aeを歯切部61Abに形成して、歯切部61Ab全体の重心Cの位置を軸心Oに一致するように調整する。これにより、ウォームギヤ61Aの軸並行ピッチの整数倍NPとなる長さを持つ領域の有効な歯切部61Abは、歯部全体の重心Cの位置が軸心Oの位置に補正される。このため、歯部全体の重心Cとウォームギヤ61Aの軸心Oとが一致するようになる。
【0035】
一方、重心オフセット長さL1の部分は、位相角度θ1を用いると、
L1=Pθ1/2π
となる。
ウォームギヤ61Aの軸直角方向の断面における歯部の面積をA、ウォームギヤ61Aの素材の密度をMとすると、重心オフセット長さL1の長さ部分における歯部の軸心Oからのオフセット重量(オフセット質量)は、
【0036】
【数1】
【0037】
となる。
そして、位相角度θ1=πとすると、オフセット重量は最大となり(図7参照)、その値は、PAM/π[kg]となる。この重心オフセット長さL1の位相とオフセット重量との関係を表したのが図7のグラフである。図7に示すように、位相角度θ1=0(および2π)のときには、オフセット重量が最小となる。
【0038】
次に、電動パワーステアリング装置1の一般例を用いてウォームギヤ61Aを説明する。
一般的に使用されている電動パワーステアリング装置の減速機構では、減速比が約20であり、この減速比を直径が約100[mm]のウォームホイールで成り立たせている。このため、ウォームギヤのウォームギヤ軸は、直径が10[mm]以下に細く形成されている。このようなウォームギヤにオフセット重量がある場合には、ウォームギヤの回転によりオフセット重量による遠心力が発生して、その遠心力によりウォームギヤ軸が撓むのを増長させられる。
【0039】
例えば、ステアリングホイール2(図1参照)の回転数を1.5[rps]、ウォームギヤ61Aの素材密度が7×103[kg/m3]、重心位置の半径Rを5[mm]とすると、遠心力は、約10[kgf]となる。
また、約1[ton]の軸力を持つ電動パワーステアリング装置1では、ウォームギヤ61Aの軸直角方向の撓みを生じさせる荷重は、約50[kgf]である。このため、ウォームギヤ61Aのオフセット重量に起因する遠心力を考慮すると、許容荷重が約20[%]減少する。
ここで、重心オフセット長さL1≒0とすることにより、遠心力の影響を低減され、ウォームギヤ61Aの許容荷重の減少を防ぐことができる。これにより、ウォームギヤ61A自身による遠心力によって芯振れや振動を低減して、良好な操舵フィーリングを得ることができる。
【0040】
以上のように、ウォームギヤ61Aは、歯切部61Abの歯切り長さLをピッチ長さPの整数倍Nとして形成した場合に、ウォームギヤ61Aの歯の重心Cが軸心Oからずれていたとしても、そのずれたオフセット重量分を重心オフセット長さ(L1)分を加算して調整することによって歯車全体の重心Cと軸心Oとが一致した位置に補正できる。これにより、ウォームギヤ61Aの回転ムラや振動を解消することができる。さらに、歯車の重心Cのずれていることで発生する遠心力によってウォームギヤ61Aの許容荷重が減少するのを抑制することができる。その結果、ウォームギヤ61A全体の重量バランスがよくなり、芯振れや振動を抑制して、操舵フィーリングを良好にすることができる。
【0041】
≪第2変形例≫
次に、図8を参照して本発明の第2変形例を説明する。第2変形例は、歯切部61Bbの切り上がり等の不完全な不完全歯切部61Bfがあって、不完全歯切部61Bfによって中心Oからずれた場合に、ウォームギヤ61Bの重心C位置を補正するものである。
図8は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第2変形例を示す図であり、不完全歯切部を有するウォームギヤを示す断面図である。
【0042】
図8に示すウォームギヤ61Bは、歯切部61Bbの切り上がり等の不完全な不完全歯切部61Bfを有し、歯切りした部分の長さが不完全歯切り長さL2分長く形成されている。このようなウォームギヤ61Bの場合には、不完全歯切部61Bfがある分、重心Cの位置が変化する。このため、ウォームギヤ61Bの不完全歯切部61Bfの断面重心オフセット量を打ち消すように、歯切部61Bbの重心オフセット長さL1を補正長さ分として追加して補正する。
【0043】
この場合、例えば、ウォームギヤ61Bの歯切部61Bbにおける有効歯切り長さをL、モジュールをmn、進み角をcosβ、整数をN、重心Cの位置を補正する補正長さをαとすると、
L=πmn/cosβ×N+α
となる。
【0044】
このように歯切部61Bbに補正長さα分を追加して形成することにより、前記実施形態と同様に、ウォームギヤ61Bが受ける遠心力の影響を低減して、ウォームギヤ61Bの許容荷重の減少を防止することができる。また、ウォームギヤ61B自身の遠心力による芯振れや振動を低減して、良好な操舵フィーリングを得ることができる。
【0045】
また、図8に示すように、ウォームギヤ61Bに切り上がり等の不完全歯切部61Bfがある場合、重心オフセット部61Beと不完全歯切部61Bfとの境界における軸直角方向の断面での位相角をθ1、不完全歯切部61Bfの終わり位置61Bdにおける位相角θ2、重心オフセット長さをL1、不完全端切り長さをL2とすると、
θ1=2πL1/P
θ2=2π(L1+L2)/P
となる。
不完全歯切部61Bfのオフセット重量分を補正するための重心オフセット長さL1と不完全歯切り長さL2との関係は、
【0046】
【数2】
となる。この数式を解くと、
【数3】
となる。
【0047】
これを満たす重心オフセット長さL1とすれば、不完全歯切部61Bfのオフセット重量分が重心オフセット長さL1によって打ち消されるようになる。
このようにして、不完全歯切部61Bfのオフセット重量分を調整すれば、前記実施形態同様な作用効果を得ることができる。なお、補正するオフセット重量分は、ウォームギヤ61Bを加工する前に予め設定してもよいし、加工後にウォームギヤ61Bの歯切部61Bb全体の重心Cの位置と軸心O位置とのずれを計測して、そのずれを補正加工してもよい。
【0048】
この場合、ウォームホイールは、ウォームギヤ61Bの歯切部61Bbの中央部分で噛み合う。このため、重心オフセット部61Beおよび不完全歯切部61Bfは、歯切部61Bがピッチの整数倍に形成されてあれば、歯切部61Bbの端部を切削加工するなどして容易に形成することができる。
また、オフセット重量分のずれを補正加工する場合には、ウォームギヤ61Bの歯部の一部を削り落してもよく、また、ウォームギヤ61Bの軸心に穴を開けてもよい。
【0049】
≪その他の変形例≫
なお、本発明は、ステアリング系のステアリングホイールと転舵車輪とが機械的に切り離されて、電動モータが転舵車輪に対する転舵力のすべてを発生させる構成のもの(ステアバイワイヤ)についても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の減速機構を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォームギヤを示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォームギヤにおける歯部の重心の軌跡を示す説明図である。
【図5】図4のX−X断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第1変形例を示す図であり、歯切部に重心オフセット長さ分の歯切りを形成したウォームギヤの説明図である。
【図7】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第1変形例におけるウォームギヤの重心オフセット長さの位相とオフセット重量との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第2変形例を示す図であり、不完全歯切部を有するウォームギヤを示す断面図である。
【図9】従来の電動パワーステアリング装置の設置状態を示す摸式図である。
【図10】従来の電動パワーステアリング装置の設置されている減速機構を示す斜視図である。
【図11】従来の電動パワーステアリング装置に使用されているウォームギヤを示す図であり、(a)正面図、(b)はY−Y断面図である。
【図12】その他の従来の電動パワーステアリング装置に使用されているウォームギヤを示す図であり、(a)は正面図、(b)はZ−Z断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 電動パワーステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリング軸
6,6A 減速機構
7 電動モータ
61,61A,61B ウォームギヤ
61a,61Aa,61Ba ウォームギヤ軸
61b,61Ab、61Bb 歯切部
61c 始まり位置
61d,61Ad,61Bd 終わり位置
61e,61Ae,61Be 重心オフセット部
61Af,61Bf 不完全歯切部
62 ウォームホイール
C ウォームギヤの歯の重心
L 歯切り長さ
L1 重心オフセット長さ
L2 不完全端切り長さ
N 整数
O 軸心
P ピッチ長さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源とする電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来の電動パワーステアリング装置の設置状態を示す摸式図である。
図9に示すように、従来、ステアリングホイール200の操舵力を軽減するためのパワーステアリング装置として、電動モータ300,300を動力源とした電動パワーステアリング装置100が使用されている(例えば、特許文献1参照)。電動パワーステアリング装置100は、一般に電動モータ300の回転トルクを減速機構400により倍力してラック・ピニオン機構を介してラック軸500に付与し、運転者のステアリング操作をアシストするものである。
【0003】
図10は、従来の電動パワーステアリング装置の設置されている減速機構を示す斜視図である。
図10に示すように、従来の減速機構400は、電動モータ300(図9参照)のロータ軸上に設置されたウォームギヤ410とウォームホイール420とから構成されている。
近年、電動パワーステアリング装置100は、普及の拡大に伴って大型車両への搭載の要望が高まっている。大型車両では、前軸荷重が大きいので、それに対応するために、電動モータ300を大型化して発生トルクを増大させると共に、電動モータ300のトルクの増大に合わせて減速機構400の強度も増大させる必要がある。
【0004】
しかしながら、減速機構400を大きくした場合には、減速機構400が運転者の膝付近の空間や足元の空間を減少させ、運転者の居住空間を減少させるという問題点があった(図9参照)。このため、減速機構400を小型化して、電動パワーステアリング装置100全体を小型化することが望まれている。
減速機構400の強度を向上させた装置としは、例えば、ウォームギヤ410を金属製の1条ねじにして、ウォームホイール420の歯厚を歯たけより大きく設定したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
図11は、従来の電動パワーステアリング装置に使用されているウォームギヤを示す図であり、(a)正面図、(b)はY−Y断面図である。図12は、その他の従来の電動パワーステアリング装置に使用されているウォームギヤを示す図であり、(a)は正面図、(b)はZ−Z断面図である。
【0006】
その他、減速機構400の強度およびウォームギヤ410の曲げ剛性を増大させる方法としては、図11および図12に示すような軸直角方向の断面積を広くしたウォームギヤ600,700が知られている。
図11(a),(b)に示すウォームギヤ600は、2条ねじからなり、軸直角方向の断面において、歯部断面が軸心Oに対して上下対称に形成されているため、軸心部と歯部とを合わせた断面全体の重心Cの位置が軸心Oと一致している。
これに対して、図12(a)、(b)に示すウォームギヤ700は、軸直角方向の断面積を広くした1条ねじであり、歯部断面が一箇所にのみ形成されるため、軸心部と歯部とを合わせた断面全体の重心Cの位置が軸心Oの位置から半径rずれた位置にある。
【特許文献1】特開2006−77809号公報
【特許文献2】特開2004−66949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11(a),(b)に示すような2条ねじからなるウォームギヤ600の場合には、ウォームギヤ600の条数の増加に伴って、ウォームホイールの歯数が増加するため、歯車全体の容積および重量が増加するという問題点があった。
【0008】
一方、図12(a)、(b)に示す1条ねじのウォームギヤ700は、重心Cが軸心Oから半径rずれた位置にあるので、ウォームギヤ700が回転すると、歯車自体に振動が発生して回転ムラや芯触れがあり、操舵フィーリングを悪化させるという問題点があった。
また、重心Cが軸心Oから半径rずれていることで発生する遠心力によってウォームギヤ700の許容荷重が減少するという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、前記した問題点を解消すべく創案されたものであり、回転ムラを解消した1条ねじのウォームギヤを備えた電動パワーステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解消するために請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の発明は、操舵入力に応じて電動モータを駆動し、前記電動モータの駆動力をウォームギヤを介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う電動パワーステアリング装置であって、前記ウォームギヤは、1条ねじからなり、歯切り長さをピッチ長さの整数倍として前記ウォームギヤの歯の重心を軸心と一致させたことを特徴とする。
ここで、「歯切り長さ」とは、ウォームギヤの歯形が形成されている部分の全体の長さである。
【0011】
かかる構成によれば、ウォームギヤは、1条ねじからなり、歯切り長さをピッチ長さの整数倍としてウォームギヤの歯の重心を軸心と一致させて形成されていることによって、歯車全体の重心と軸心とが一致した位置にあり、回転ムラや振動を解消することができる。このようにウォームギヤの重心のアンバランスを解消したことによって、ウォームギヤとウォームホイールとの噛み合いが滑らかになり、作動音を低減させると共に、操舵フィーリングを向上させることができる。また、歯車の重心が軸心からずれていることで発生する遠心力によってウォームギヤの許容荷重が減少するのを抑制することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置であって、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置であって、前記ウォームギヤは、歯切りの始まり位置と終わり位置とが、径方向の同じ位置に形成されていることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、ウォームギヤは、歯切りの始まり位置と終わり位置とが、径方向の同じ位置に形成されていることによって、歯車全体の重心と軸心とが一致するようになり、ウォームギヤ全体の重量バランスがよくなるため、芯振れを抑制することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、操舵入力に応じて電動モータを駆動し、前記電動モータの駆動力をウォームギヤを介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う電動パワーステアリング装置であって、前記ウォームギヤは、1条ねじからなり、歯切り長さを、ピッチ長さの整数倍と、前記ウォームギヤの歯の重心と軸心との位置がずれたオフセット重量(オフセット質量)分を補正する重心オフセット長と、を加算した長さにしたことを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、ウォームギヤは、歯切り長さを、ピッチ長さの整数倍と、ウォームギヤの歯の重心と軸心との位置がずれたオフセット重量分を補正する重心オフセット長と、を加算した長さにしたことにより、歯切り長さを、ピッチ長さの整数倍にしたとしても、ウォームギヤの歯の重心と軸心との位置がずれた場合、重心オフセット長さを加算した長さにすれば、重心のずれを補正することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、回転ムラを解消した1条ねじのウォームギヤを備えた電動パワーステアリング装置を提供することができる。また、ウォームギヤの重心のアンバランスを解消したことによって、ウォームギヤとウォームホイールとの噛み合いが良好になり、作動音を低減させると共に、操舵フィーリングを向上させることができる。さらに、ウォームギヤとウォームホイールの間での噛み合いによる発熱が低減されて、耐久性を向上させることができる。その結果、長期にわたって良好な操舵フィーリングを維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を示す概略構成図である。図2は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の減速機構を示す説明図である。図3は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォームギヤを示す説明図である。
【0018】
≪電動パワーステアリング装置の構成≫
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1は、操舵入力に応じて電動モータ7を駆動し、電動モータ7の動力を減速機構6を介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵のアシストを行う装置である。電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール2に連結されたステアリング軸3と、ステアリング軸3に作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ4と、車速を検出する車速センサ5と、減速機構6を介してステアリング軸3に操舵補助力を付与する電動モータ7と、電動モータ7の駆動を制御する駆動制御装置(ECU)8と、ラック・ピニオン機構9を介して連結されたラック軸10とを備えている。そのラック軸10の両端(図1では、ラック軸10の一方側は図示省略)には、タイロッド11等を介して転舵車輪(前輪)12が連結されている。
【0019】
≪電動モータの構成≫
図1に示すように、電動モータ7は、例えば、回転子の回転角度を検出するレゾルバ(図示省略)を備えたブラシレスDCモータからなり、例えば、減速機構6とラック・ピニオン機構9等を収納したギヤハウジング(図示省略)に収納されている。図2に示すように、電動モータ7の回転子と一体に回転するロータ軸7aには、ゴム等の弾性体やセレーション等によるカップリング7bを介在してウォームギヤ軸61aが連結されて、電動モータ7の回転とトルクがウォームギヤ61に伝達されるようになっている。
【0020】
≪減速機構の構成≫
図2に示す減速機構6は、電動モータ7の回転トルクを倍力させてステアリング軸3に伝達する機能を有しており、減速歯車機構からなる。この減速機構6は、例えば、電動モータ7のロータ軸(出力軸)7aに連設されて同回転するウォームギヤ61と、ステアリング軸3に設けたウォームホイール62と、を噛合させて減速機構を構成している。
【0021】
<ウォームギヤの構成>
図2に示すように、ウォームギヤ61は、1条ねじからなり、ロータ軸7aに連結されたウォームギヤ軸61aと、ウォームギヤ軸61aに一体形成された歯切部61bとを有している。図3に示すように、ウォームギヤ61は、歯切り長さLをピッチ長さPの略整数倍Nとしてウォームギヤ61の歯切部61b全体の重心Cを軸心Oと一致させて形成されている。
なお、図2および図3は、ウォームギヤ61の歯切部61bに4ピッチの歯を形成した場合の一例を示す。この場合、ウォームギヤ61は、歯切り長さLがピッチ長さPの4倍に形成されている。ウォームギヤ61は、歯切部61bにおいて、歯切りの始まり位置61cと終わり位置61dとが、径方向の同じ位置に形成されている。このため、ウォームギヤ61の歯全体の重心Cと軸心Oとが一致するようになっている。
【0022】
ウォームギヤ軸61aは、歯切部61bの両端部に設置された軸受63,64によって回転自在に軸支され、電動モータ7のロータ軸7aを同回転するようになっている。
歯切部61bは、ウォームギヤ61の歯形が形成された歯形部であり、歯切りの始まり位置61cから終わり位置61dにわたって形成されている。ウォームギヤ61は、歯切部61bの中央部分でウォームホイール62と噛み合うように配置されている。
【0023】
<ウォームホイールおよび軸受の構成>
図2に示すウォームホイール62は、ウォームギヤ61の回転をステアリング軸3に減速させて伝達するための歯車である。ウォームホイール62は、図1に示すようないわゆるコラム型の電動パワーステアリング装置1の場合、ステアリング軸3に一体的に設けられている。なお、図9に示すようなピニオン型の電動パワーステアリング装置100の場合には、ピニオン軸に一体的に設けられるようになっている。
前記軸受63,64は、ボールベアリングからなり、内輪がウォームギヤ軸61aに一体に回転するように設置され、外輪がギヤハウジング(図示省略)の内壁に装着されている。
【0024】
≪作用≫
次に、図1〜図5を参照して本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置1の作用を説明する。
図1に示す電動パワーステアリング装置1は、運転者がステアリングホイール2を操舵すると、ステアリング軸3に付与される操舵トルクによりラック・ピニオン機構9を介してラック軸10が直線往復動し、タイロッド11等を介して転舵車輪12が転舵される。
【0025】
この際、駆動制御装置(ECU)8は、操舵トルクセンサ4から入力される操舵トルク信号と車速センサ5から入力される車速信号とに基づいて、電動モータ7に流す目標電流値を設定し、この目標電流値とモータ電流センサ(図示省略)から入力されるモータ電流値との偏差が0になるように電流フィードバック制御して電動モータ7を駆動する。これにより、電動モータ7は適切な操舵補助力(アシスト力)を発生し、この操舵補助力が減速機構6を介してステアリング軸3に付与されることによって、運転者のステアリング操作時における操舵力を低減することができる。
【0026】
次に、図2〜図5を参照して、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置1の減速機構6の作用を説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォームギヤにおける歯部の重心の軌跡を示す説明図である。図5は、図4のX−X断面図である。
【0027】
図2に示すように、減速機構6は、1条ねじからなるウォームギヤ61と、このウォームギヤ61に噛合するウォームホイール62とからなる。
図3に示すように、ウォームギヤ61は、歯切り長さLがピッチ長さPの整数倍Nに形成されている。このようなウォームギヤ61の軸直角方向の断面における歯部の重心Cの位置の軌跡は、図4に二点鎖線で示すようになる。つまり、ウォームギヤ61の各所の軸直角方向の断面における重心Cの位置は、図4に示すように、中心線O−Oを中心として歯部の形状に沿って螺旋状に形成されて、軸心Oからずれて偏心している。
【0028】
例えば、ウォームギヤ61の軸平行ピッチをP、角度変数(位相角)をθとすると、歯切部61bの歯切りの始まり位置61cからPθ/2πの位置におけるウォームギヤ61の軸直角方向の断面(X−X)は、図5に示すような形状になっている。つまり、ウォームギヤ61の軸直角方向の断面における重心Cは、図5に示すように、軸心Oから半径Rだけ径方向にずれた位置にある。
【0029】
このような1条ねじからなるウォームギヤ61は、歯切り長さLをピッチ長さPの整数倍Nに形成したことによって、ウォームギヤ61の歯形部全体の重心Cが軸心Oと一致するようになる。このように形成されたウォームギヤ61は、歯形部全体の重心Cと軸心Oとが一致しているので、ウォームギヤ61自体の振動や回転ムラを低減し、ウォームギヤ61とウォームホイール62との噛み合いが滑らかになる。その結果、ステアリングホイール2(図1参照)を操作した際の操舵フィーリングを向上させることができる。また、重心Cのずれていることで発生する遠心力によってウォームギヤ61の許容荷重が減少するのを抑制することができる。
【0030】
≪第1変形例≫
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造および変更が可能であり、本発明はこれら改造および変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0031】
図6および図7を参照して、本発明の第1変形例を説明する。第1変形例は、歯切り長さLをピッチ長さPの整数倍Nに形成したウォームギヤ61Aの歯切部61Ab全体の重心Cが軸心Oからずれている場合に、ウォームギヤ61Aの歯切部61Abに重心オフセット部61Aeを形成して、軸心Oからずれた歯切部61Ab全体の重心Cの位置を補正するものである。
【0032】
図6は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第1変形例を示す図であり、歯切部に重心オフセット長さ分の歯切りを形成したウォームギヤの説明図である。図7は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第1変形例におけるウォームギヤの重心オフセット長さの位相とオフセット重量との関係を示すグラフである。
【0033】
図6に示すように、ウォームギヤ61Aの歯切部61Abにおける有効な歯切り長さをL、整数をN、ピッチをP、重心Cの位置を補正するために終わり位置61Ad側に形成した重心オフセット部61Aeの重心オフセット長さをL1とすると、
L=NP+L1
となる。
【0034】
つまり、ウォームギヤ61Aの軸並行ピッチの整数倍NPとなる長さを持つ領域の有効な歯切部61Abに、軸心Oから半径Rだけ径方向にずれた位置にある歯切部61Ab全体の重心Cの位置を軸心Oに移動させるために、重心オフセット長さL1分の歯切りを有する重心オフセット部61Aeに余分に形成して補正する。
このように、歯切部61Ab全体の重心Cが軸心Oからずれた分の質量の片寄りを考慮した重心オフセット長さL1分の重心オフセット部61Aeを歯切部61Abに形成して、歯切部61Ab全体の重心Cの位置を軸心Oに一致するように調整する。これにより、ウォームギヤ61Aの軸並行ピッチの整数倍NPとなる長さを持つ領域の有効な歯切部61Abは、歯部全体の重心Cの位置が軸心Oの位置に補正される。このため、歯部全体の重心Cとウォームギヤ61Aの軸心Oとが一致するようになる。
【0035】
一方、重心オフセット長さL1の部分は、位相角度θ1を用いると、
L1=Pθ1/2π
となる。
ウォームギヤ61Aの軸直角方向の断面における歯部の面積をA、ウォームギヤ61Aの素材の密度をMとすると、重心オフセット長さL1の長さ部分における歯部の軸心Oからのオフセット重量(オフセット質量)は、
【0036】
【数1】
【0037】
となる。
そして、位相角度θ1=πとすると、オフセット重量は最大となり(図7参照)、その値は、PAM/π[kg]となる。この重心オフセット長さL1の位相とオフセット重量との関係を表したのが図7のグラフである。図7に示すように、位相角度θ1=0(および2π)のときには、オフセット重量が最小となる。
【0038】
次に、電動パワーステアリング装置1の一般例を用いてウォームギヤ61Aを説明する。
一般的に使用されている電動パワーステアリング装置の減速機構では、減速比が約20であり、この減速比を直径が約100[mm]のウォームホイールで成り立たせている。このため、ウォームギヤのウォームギヤ軸は、直径が10[mm]以下に細く形成されている。このようなウォームギヤにオフセット重量がある場合には、ウォームギヤの回転によりオフセット重量による遠心力が発生して、その遠心力によりウォームギヤ軸が撓むのを増長させられる。
【0039】
例えば、ステアリングホイール2(図1参照)の回転数を1.5[rps]、ウォームギヤ61Aの素材密度が7×103[kg/m3]、重心位置の半径Rを5[mm]とすると、遠心力は、約10[kgf]となる。
また、約1[ton]の軸力を持つ電動パワーステアリング装置1では、ウォームギヤ61Aの軸直角方向の撓みを生じさせる荷重は、約50[kgf]である。このため、ウォームギヤ61Aのオフセット重量に起因する遠心力を考慮すると、許容荷重が約20[%]減少する。
ここで、重心オフセット長さL1≒0とすることにより、遠心力の影響を低減され、ウォームギヤ61Aの許容荷重の減少を防ぐことができる。これにより、ウォームギヤ61A自身による遠心力によって芯振れや振動を低減して、良好な操舵フィーリングを得ることができる。
【0040】
以上のように、ウォームギヤ61Aは、歯切部61Abの歯切り長さLをピッチ長さPの整数倍Nとして形成した場合に、ウォームギヤ61Aの歯の重心Cが軸心Oからずれていたとしても、そのずれたオフセット重量分を重心オフセット長さ(L1)分を加算して調整することによって歯車全体の重心Cと軸心Oとが一致した位置に補正できる。これにより、ウォームギヤ61Aの回転ムラや振動を解消することができる。さらに、歯車の重心Cのずれていることで発生する遠心力によってウォームギヤ61Aの許容荷重が減少するのを抑制することができる。その結果、ウォームギヤ61A全体の重量バランスがよくなり、芯振れや振動を抑制して、操舵フィーリングを良好にすることができる。
【0041】
≪第2変形例≫
次に、図8を参照して本発明の第2変形例を説明する。第2変形例は、歯切部61Bbの切り上がり等の不完全な不完全歯切部61Bfがあって、不完全歯切部61Bfによって中心Oからずれた場合に、ウォームギヤ61Bの重心C位置を補正するものである。
図8は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第2変形例を示す図であり、不完全歯切部を有するウォームギヤを示す断面図である。
【0042】
図8に示すウォームギヤ61Bは、歯切部61Bbの切り上がり等の不完全な不完全歯切部61Bfを有し、歯切りした部分の長さが不完全歯切り長さL2分長く形成されている。このようなウォームギヤ61Bの場合には、不完全歯切部61Bfがある分、重心Cの位置が変化する。このため、ウォームギヤ61Bの不完全歯切部61Bfの断面重心オフセット量を打ち消すように、歯切部61Bbの重心オフセット長さL1を補正長さ分として追加して補正する。
【0043】
この場合、例えば、ウォームギヤ61Bの歯切部61Bbにおける有効歯切り長さをL、モジュールをmn、進み角をcosβ、整数をN、重心Cの位置を補正する補正長さをαとすると、
L=πmn/cosβ×N+α
となる。
【0044】
このように歯切部61Bbに補正長さα分を追加して形成することにより、前記実施形態と同様に、ウォームギヤ61Bが受ける遠心力の影響を低減して、ウォームギヤ61Bの許容荷重の減少を防止することができる。また、ウォームギヤ61B自身の遠心力による芯振れや振動を低減して、良好な操舵フィーリングを得ることができる。
【0045】
また、図8に示すように、ウォームギヤ61Bに切り上がり等の不完全歯切部61Bfがある場合、重心オフセット部61Beと不完全歯切部61Bfとの境界における軸直角方向の断面での位相角をθ1、不完全歯切部61Bfの終わり位置61Bdにおける位相角θ2、重心オフセット長さをL1、不完全端切り長さをL2とすると、
θ1=2πL1/P
θ2=2π(L1+L2)/P
となる。
不完全歯切部61Bfのオフセット重量分を補正するための重心オフセット長さL1と不完全歯切り長さL2との関係は、
【0046】
【数2】
となる。この数式を解くと、
【数3】
となる。
【0047】
これを満たす重心オフセット長さL1とすれば、不完全歯切部61Bfのオフセット重量分が重心オフセット長さL1によって打ち消されるようになる。
このようにして、不完全歯切部61Bfのオフセット重量分を調整すれば、前記実施形態同様な作用効果を得ることができる。なお、補正するオフセット重量分は、ウォームギヤ61Bを加工する前に予め設定してもよいし、加工後にウォームギヤ61Bの歯切部61Bb全体の重心Cの位置と軸心O位置とのずれを計測して、そのずれを補正加工してもよい。
【0048】
この場合、ウォームホイールは、ウォームギヤ61Bの歯切部61Bbの中央部分で噛み合う。このため、重心オフセット部61Beおよび不完全歯切部61Bfは、歯切部61Bがピッチの整数倍に形成されてあれば、歯切部61Bbの端部を切削加工するなどして容易に形成することができる。
また、オフセット重量分のずれを補正加工する場合には、ウォームギヤ61Bの歯部の一部を削り落してもよく、また、ウォームギヤ61Bの軸心に穴を開けてもよい。
【0049】
≪その他の変形例≫
なお、本発明は、ステアリング系のステアリングホイールと転舵車輪とが機械的に切り離されて、電動モータが転舵車輪に対する転舵力のすべてを発生させる構成のもの(ステアバイワイヤ)についても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の減速機構を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォームギヤを示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォームギヤにおける歯部の重心の軌跡を示す説明図である。
【図5】図4のX−X断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第1変形例を示す図であり、歯切部に重心オフセット長さ分の歯切りを形成したウォームギヤの説明図である。
【図7】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第1変形例におけるウォームギヤの重心オフセット長さの位相とオフセット重量との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の第2変形例を示す図であり、不完全歯切部を有するウォームギヤを示す断面図である。
【図9】従来の電動パワーステアリング装置の設置状態を示す摸式図である。
【図10】従来の電動パワーステアリング装置の設置されている減速機構を示す斜視図である。
【図11】従来の電動パワーステアリング装置に使用されているウォームギヤを示す図であり、(a)正面図、(b)はY−Y断面図である。
【図12】その他の従来の電動パワーステアリング装置に使用されているウォームギヤを示す図であり、(a)は正面図、(b)はZ−Z断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 電動パワーステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリング軸
6,6A 減速機構
7 電動モータ
61,61A,61B ウォームギヤ
61a,61Aa,61Ba ウォームギヤ軸
61b,61Ab、61Bb 歯切部
61c 始まり位置
61d,61Ad,61Bd 終わり位置
61e,61Ae,61Be 重心オフセット部
61Af,61Bf 不完全歯切部
62 ウォームホイール
C ウォームギヤの歯の重心
L 歯切り長さ
L1 重心オフセット長さ
L2 不完全端切り長さ
N 整数
O 軸心
P ピッチ長さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵入力に応じて電動モータを駆動し、前記電動モータの駆動力をウォームギヤを介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う電動パワーステアリング装置であって、
前記ウォームギヤは、
1条ねじからなり、
歯切り長さをピッチ長さの整数倍として前記ウォームギヤの歯の重心を軸心と一致させたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記ウォームギヤは、歯切りの始まり位置と終わり位置とが、径方向の同じ位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
操舵入力に応じて電動モータを駆動し、前記電動モータの駆動力をウォームギヤを介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う電動パワーステアリング装置であって、
前記ウォームギヤは、1条ねじからなり、
歯切り長さを、ピッチ長さの整数倍と、
前記ウォームギヤの歯の重心と軸心との位置がずれたオフセット重量分を補正する重心オフセット長さと、
を加算した長さにしたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
操舵入力に応じて電動モータを駆動し、前記電動モータの駆動力をウォームギヤを介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う電動パワーステアリング装置であって、
前記ウォームギヤは、
1条ねじからなり、
歯切り長さをピッチ長さの整数倍として前記ウォームギヤの歯の重心を軸心と一致させたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記ウォームギヤは、歯切りの始まり位置と終わり位置とが、径方向の同じ位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
操舵入力に応じて電動モータを駆動し、前記電動モータの駆動力をウォームギヤを介してステアリング系に伝達することにより車両の転舵を行う電動パワーステアリング装置であって、
前記ウォームギヤは、1条ねじからなり、
歯切り長さを、ピッチ長さの整数倍と、
前記ウォームギヤの歯の重心と軸心との位置がずれたオフセット重量分を補正する重心オフセット長さと、
を加算した長さにしたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−248852(P2009−248852A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101399(P2008−101399)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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