説明

電動パワーステアリング装置

【課題】転がり軸受がハウジングに固着することを抑制することのできる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電動パワーステアリング装置は、金属製のハウジング30と、このハウジング30内において往復動可能に設けられた転舵シャフト13と、ハウジング30に取り付けられた電動モータ21と、この電動モータ21の回転を転舵シャフト13の往復運動に変換するボールねじ装置40と、このボールねじ装置40をハウジング30に対して回転可能に支持する玉軸受62とを備えている。軸方向において玉軸受62の両端には、第1弾性体63および第2弾性体64が設けられている。ハウジング30と玉軸受62の外輪62Bの外周面との間には、樹脂材料により形成されたブッシュ70が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製のハウジング内において往復運動可能に設けられた転舵シャフトと、ハウジングに取り付けられた電動モータと、電動モータの回転を転舵シャフトの直線運動に変換するボールねじ装置と、ボールねじ装置をハウジングに対して回転可能に支持する転がり軸受とを備える電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記ボールねじ装置としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
図8を参照して、従来のボールねじ装置100の構成について説明する。
ボールねじ装置100は、転舵シャフト110に形成されたねじ部111を囲うボールねじナット120と、ねじ部111とボールねじナット120との間に設けられたボール130とを備えている。ボールねじナット120は、金属製のハウジング140に取り付けられた転がり軸受150によりハウジング140に対して回転可能に支持されている。転がり軸受150は、ハウジング140に対してすきま嵌めされている。
【0003】
転舵シャフト110の軸方向において転がり軸受150の両端部のそれぞれには、弾性部材160が設けられている。このため、同軸方向に作用する力が転舵シャフト110に加えられたとき、ボール130およびボールねじナット120を介して転がり軸受150に伝達された力により、転がり軸受150の外輪151が弾性部材160を圧縮しながら軸方向に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−343308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両が縁石に乗り上げる等の理由により転舵シャフト110の径方向に作用する力が転舵シャフト110に加えられたとき、同径方向の力により転がり軸受150の外輪151がハウジング140に対して傾くことに起因して外輪151の角部がハウジング140に押し付けられる。このため、ハウジング140に対する外輪151の接触圧が過度に大きくなる。
【0006】
上記のように外輪151が傾いた状態において、転舵シャフト110の軸方向に作用する力が転舵シャフト110に加えられたとき、外輪151がハウジング140に押し付けられた状態で外輪151がハウジング140に対して摺動するため、転がり軸受150がハウジング140に固着するおそれがある。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、転がり軸受がハウジングに固着することを抑制することのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段およびその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、金属製のハウジングと、このハウジング内において往復運動可能に設けられた転舵シャフトと、前記ハウジングに取り付けられた電動モータと、この電動モータの回転を前記転舵シャフトの直線運動に変換するボールねじ装置と、このボールねじ装置を前記ハウジングに対して回転可能に支持する転がり軸受とを備える電動パワーステアリング装置において、前記転がり軸受の軸方向の両端のそれぞれに弾性部材が設けられていること、前記ハウジングと前記転がり軸受の外輪との間にすべり軸受が設けられていること、ならびに、前記すべり軸受が樹脂材料により構成されていることを要旨とする。
【0009】
上記発明では、ハウジングと転がり軸受の外輪との間に樹脂製のすべり軸受が設けられているため、転がり軸受がハウジングに接触しにくくなる。このため、転がり軸受がハウジングに固着することを抑制することができる。
【0010】
(2)請求項2に記載の発明は請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において前記外輪に向けて突出する突起部が前記すべり軸受に設けられていることを要旨とする。
上記発明によれば、転がり軸受の外輪とすべり軸受との接触面積が小さくなる。これにより、すべり軸受と転がり軸受との間に生じる摩擦力が小さくなるため、転がり軸受がすべり軸受に対して円滑に移動することができる。
【0011】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置において、前記転舵シャフトの径方向において前記ハウジングに向けて突出するフランジが前記すべり軸受に設けられていること、ならびに、前記フランジが前記ハウジングの凹部に嵌め込まれていることを要旨とする。
【0012】
上記発明によれば、フランジが凹部に嵌め込まれているため、転舵シャフトの軸方向においてすべり軸受をハウジングに対して移動させる力がすべり軸受に加えられたとき、フランジと凹部との接触によりすべり軸受の移動を抑制することができる。
【0013】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、環状の部材の一部分が切り欠かれた不連続な形状の環状の部材として前記すべり軸受が形成されていることを要旨とする。
【0014】
上記発明によれば、すべり軸受をハウジングに取り付けるとき、すべり軸受の切り欠かれた部分においてすべり軸受の一方の端部と他方の端部とを互いに近づけることにより、すべり軸受の径を小さくすることができる。これにより、すべり軸受をハウジングに容易に挿入することができる。
【0015】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記すべり軸受がポリアセタールまたはナイロンにより形成されていることを要旨とする。
【0016】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記転がり軸受の軸方向において前記ボールねじ装置の一方の端部を含む部分を第1部分とし、前記転がり軸受の軸方向において前記ボールねじ装置の他方の端部を含む部分を第2部分として、前記電動モータの回転を前記ボールねじ装置に伝達するベルトまたはチェーンが設けられていること、前記転がり軸受の軸方向において前記第1部分に前記ベルトまたは前記チェーンが巻き掛けられていること、ならびに、前記転がり軸受の軸方向において前記第2部分が前記転がり軸受により支持されていることを要旨とする。
【0017】
上記発明では、転舵シャフトの軸方向においてボールねじ装置の片側の端部のみを転がり軸受により支持する構成が用いられているため、ボールねじ装置の両側の部分を転がり軸受により支持する構成と比較して、転がり軸受がハウジングに対して傾きが生じやすい。ボールねじ装置が傾いたときには、これにともない転がり軸受も傾くため、同軸受がハウジングに押し付けられるおそれがある。
【0018】
このような構成において、すべり軸受が転がり軸受に接触するため、ボールねじ装置の傾きにともない転がり軸受が傾いたとしても、すべり軸受により転がり軸受とハウジングとの接触が抑制される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、転がり軸受がハウジングに固着することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の電動パワーステアリング装置の一実施形態について、同装置の全体構成を示す正面図。
【図2】同実施形態の電動パワーステアリング装置の断面構造を示す断面図。
【図3】同実施形態の電動パワーステアリング装置について、ブッシュの斜視構造を示す斜視図。
【図4】同実施形態の電動パワーステアリング装置について、玉軸受およびその周辺の断面構造を拡大して示す断面図。
【図5】同実施形態の電動パワーステアリング装置について、ハウジングおよびブッシュの断面構造を示す断面図。
【図6】同実施形態の電動パワーステアリング装置について、玉軸受およびその周辺の断面構造を拡大して示す断面図。
【図7】本発明のその他の実施形態の電動パワーステアリング装置について、(a)および(b)は玉軸受およびその周辺の断面構造を示す断面図、(c)はブッシュの斜視構造を示す斜視図。
【図8】従来の電動パワーステアリング装置の断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜図6を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示されるように、電動パワーステアリング装置1には、ステアリングの回転を転舵輪に伝達する操舵角伝達機構10と、ステアリングの操作を補助する力(以下、「アシスト力」)を転舵シャフト13に付与するアクチュエータ20と、金属製のハウジング30とが設けられている。
【0022】
以下では、転舵シャフト13において左端部13Aから右端部13Bに向かう方向を「右方」とし、転舵シャフト13において右端部13Bから左端部13Aに向かう方向を「左方」とする。
【0023】
操舵角伝達機構10には、ステアリングとともに回転するステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11の回転を直線運動に変換するラックアンドピニオン機構12と、ラックアンドピニオン機構12の動作にともない軸方向に移動する転舵シャフト13とが設けられている。
【0024】
アクチュエータ20には、駆動源としての電動モータ21と、この電動モータ21の回転を転舵シャフト13の軸方向の直線運動に変換するボールねじ装置40と、電動モータ21の回転を減速する減速機構50と、ボールねじ装置40をハウジング30に対して回転可能に支持する支持機構60とが設けられている。
【0025】
ハウジング30は、第1ハウジング31および第2ハウジング34により構成されている。ハウジング30内には、転舵シャフト13の中間部分が収容されている。転舵シャフト13の左端部13Aおよび右端部13Bはハウジング30から突出している。
【0026】
第1ハウジング31には、円筒形状の第1本体部32が設けられている。第1本体部32の右端部には、第1本体部32よりも径方向に大きい第1拡径部33が設けられている。第1拡径部33には、電動モータ21が取り付けられている。電動モータ21は、出力軸21Aが転舵シャフト13と平行となる状態で設けられている。第1本体部32の左端部には、ラックアンドピニオン機構12が設けられている。
【0027】
第2ハウジング34には、円筒形状の第2本体部35が設けられている。第2本体部35の左方には、第2本体部35よりも径方向に大きい第2拡径部36が設けられている。第2本体部35の右方には、第2本体部35よりも径方向に小さい縮径部37が設けられている。第2拡径部36は、第1拡径部33に取り付けられている。
【0028】
電動パワーステアリング装置1の動作について説明する。
運転者がステアリングを回転させたとき、ステアリングとともにステアリングシャフト11が回転する。ステアリングシャフト11の回転は、ラックアンドピニオン機構12により直線運動に変換される。ラックアンドピニオン機構12から転舵シャフト13に伝達された力により同シャフト13が軸方向に移動する。そして、転舵シャフト13の軸方向への移動にともない転舵輪の舵角が変更される。このとき、電動モータ21の出力軸21Aのトルクがアシスト力としてボールねじ装置40を介して転舵シャフト13に付与される。
【0029】
図2を参照して、アクチュエータ20の詳細な構成について説明する。
ボールねじ装置40には、転舵シャフト13の一部としてのねじ部41と、ねじ部41を径方向から囲う円筒形状のボールねじナット42と、転舵シャフト13の径方向においてねじ部41とボールねじナット42との間に介在する複数のボール43とが設けられている。
【0030】
ねじ部41は、転舵シャフト13において、第1ハウジング31の第1本体部32の右端部、第1拡径部33、および第2ハウジング34に対応する部分に設けられている。ねじ部41の外周面には、雄ねじが形成されている。
【0031】
ボールねじナット42の内周面には、雌ねじが形成されている。ボール43は、ねじ部41の雄ねじとボールねじナット42の雌ねじとの間に収容されている。ボールねじナット42は、ボール43を介して転舵シャフト13の中心軸を回転中心として回転する。
【0032】
支持機構60には、ボールねじナット42と一体に回転する円筒形状のナットケース61と、ナットケース61に取り付けられた玉軸受62と、玉軸受62の外周に取り付けられたブッシュ70と、軸方向において玉軸受62の右方に配置された第1弾性体63と、軸方向において玉軸受62の左方に配置された第2弾性体64とが設けられている。なお、ブッシュは「すべり軸受」に相当する。
【0033】
ナットケース61には、ボールねじナット42が取り付けられる第1取付部61Aと、玉軸受62が取り付けられる第2取付部61Bとが設けられている。ボールねじナット42は、第1取付部61Aの内周面に固定されている。なお、第1取付部61Aは「ボールねじ装置の第1部分」に相当する。また、第2取付部61Bは「ボールねじ装置の第2部分」に相当する。
【0034】
玉軸受62には、第2取付部61Bに取り付けられる内輪62Aと、ブッシュ70に取り付けられる外輪62Bと、径方向において内輪62Aと外輪62Bとの間に介在する転動体62Cとが設けられている。
【0035】
第1弾性体63は、第2ハウジング34のうちの第2本体部35と縮径部37とを連結する連結部38と、玉軸受62の外輪62Bとの間において、連結部38の内周面および外輪62Bの右端面のそれぞれに接触して設けられている。
【0036】
第2弾性体64は、第1ハウジング31の第1拡径部33と玉軸受62の外輪62Bとの間において、第1拡径部33の端面および外輪62Bの左端面のそれぞれに接触して設けられている。
【0037】
減速機構50は、第1拡径部33および第2拡径部36に収容されている。
減速機構50には、電動モータ21と一体に回転する駆動プーリ51と、ボールねじナット42と一体に回転する従動プーリ52と、駆動プーリ51の回転を従動プーリ52に伝達するベルト53とが設けられている。駆動プーリ51および従動プーリ52としては歯付きプーリが用いられている。また、ベルト53としては、駆動プーリ51および従動プーリ52の歯に噛み合う歯付きベルトが用いられている。
【0038】
駆動プーリ51は、電動モータ21の出力軸21Aに取り付けられている。従動プーリ52は、ナットケース61の第1取付部61Aの左端部に取り付けられている。ベルト53は、駆動プーリ51および従動プーリ52に巻き掛けられている。
【0039】
減速機構50およびボールねじ装置40の動作について説明する。
電動モータ21の回転にともない駆動プーリ51が回転したとき、駆動プーリ51の回転がベルト53により従動プーリ52に伝達される。このとき、ボールねじナット42が従動プーリ52と一体に回転する。そして、ボールねじナット42の回転にともないボール43が公転することにより、転舵シャフト13が軸方向に移動する。
【0040】
図3を参照して、ブッシュ70の構成について説明する。
ブッシュ70は、ポリアセタールにより成形されている。ブッシュ70には、玉軸受62の外輪62Bを支持する本体部71と、第2本体部35の第2収容部35Cに嵌め込まれるフランジ72と、本体部71およびフランジ72にまたがり形成された切欠部73とが設けられている。すなわち、環状の部材の一部分が切りかかれた不連続な形状の環状の部材としてブッシュ70が形成されている。
【0041】
切欠部73は、ブッシュ70の右端部から左端部までにわたり形成されている。切欠部73の右端部の周方向の位置と切欠部73の左端部の周方向の位置とは互いに異なる。
本体部71の内周面71Aには、径方向の内方に向けて突出した2つの突起部74が設けられている。右方の突起部74と左方の突起部74とは、軸方向において互いに離間して設けられている。各突起部74は、本体部71の内周面71Aにおいて周方向の全体にわたり形成されている。
【0042】
ブッシュ70は、軸方向に二分割された上型および下型からなる金型により射出成形される。内周面71Aからの各突起部74の突出量は、ブッシュ70の射出成形時において金型を軸方向に抜くことができる大きさに設定されている。
【0043】
図4を参照して、ブッシュ70による玉軸受62の支持構造について説明する。
第2ハウジング34の第2本体部35には、ブッシュ70を収容するための収容部35Aが形成されている。収容部35Aには、ブッシュ70の本体部71に対応した第1収容部35Bと、ブッシュ70のフランジ72に対応した第2収容部35Cとが設けられている。
【0044】
第2ハウジング34の内周面において、第1ハウジング31の第1拡径部33の外周面と接触する部分(以下、「基準面34A」)を転舵シャフト13の径方向についての基準位置としたとき、同径方向においての第2収容部35Cの深さは第1収容部35Bの深さよりも大きい。
【0045】
ブッシュ70の突起部74の先端部は、基準面34Aよりも径方向の内方に位置するとともに玉軸受62の外輪62Bに接触している。このため、本体部71の内周面71Aのうちの突起部74が形成されていない部分と外輪62Bの外周面との間には、間隙S1が形成されている。また、ブッシュ70の右端面と第2ハウジング34の内周面との間には、隙間S2が形成されている。
【0046】
玉軸受62に対して軸方向に作用する力が加えられていない状態を基準状態としたとき、基準状態においての第1弾性体63の軸方向の長さは第1基準長さDA1となる。また、基準状態においての第2弾性体64の軸方向の長さは第2基準長さDB1となる。
【0047】
基準状態の玉軸受62に対して軸方向の右方に作用する力が加えられたとき、第1弾性体63が軸方向に圧縮される。第1弾性体63は、軸方向の右方の力により軸方向の長さが第1圧縮長さDA2となるまで変形することができる。すなわち、第1弾性体63の軸方向においての最大圧縮量は第1基準長さDA1と第1圧縮長さDA2との差である長さ△DAとなる。
【0048】
基準状態の玉軸受62に対して軸方向の左方に作用する力が加えられたとき、第2弾性体64が軸方向に圧縮される。第2弾性体64は、軸方向の左方の力により軸方向の長さが第2圧縮長さDB2となるまで変形することができる。すなわち、第2弾性体64の軸方向においての最大圧縮量は第2基準長さDB1と第2圧縮長さDB2との差である長さ△DBとなる。
【0049】
ブッシュ70においては、本体部71の右端面および左端面をそれぞれ基準として、各突起部74の先端部がそれぞれ次のように設けられている。すなわち、軸方向の右方の突起部74の先端部は、本体部71の右端面から長さ△DBを隔てた位置に設けられている。また、軸方向の左方の突起部74の先端部は、本体部71の左端面から長さ△DAを隔てた位置に設けられている。
【0050】
ブッシュ70の軸方向の長さL1は、玉軸受62の軸方向の長さL2よりも長い(L1>L2)。長さL2に第1基準長さDA1および第2基準長さDB1を加えた長さ(L2+DA1+DB1)を長さLXとしたとき、この長さLXは長さL1と同じ大きさを有する(LX=L1)。収容部35Aの軸方向の長さL3は、長さL1よりも長い(L3>L1)。
【0051】
図5を参照して、ブッシュ70の取り付け工程について説明する。
図5(a)に示されるように、ブッシュ70の本体部71およびフランジ72の周方向の両端部を互いに接触させることにより、本体部71を径方向に小さくする(以下、「縮径状態」)。そして、縮径状態のブッシュ70を第2ハウジング34に挿入する。
【0052】
図5(b)に示されるように、本体部71の右端部が連結部38に突き当たるまで縮径状態のブッシュ70を挿入した後、縮径状態を維持するためにブッシュ70に付与していた力を取り除く。このとき、ブッシュ70の復元力により本体部71が第1収容部35Bに押し付けられるとともに、フランジ72が第2収容部35Cに挿入される。
【0053】
図6を参照して、外力が作用したときの玉軸受62の姿勢について説明する。
図6(a)に示されるように、転舵輪が縁石に乗り上げた等の理由により転舵シャフト13に対して径方向に作用する外力FR1が加えられたとき、玉軸受62を第2ハウジング34に向けて押す力F1が外輪62Bに加えられる。このため、玉軸受62が第2ハウジング34の第2本体部35に対して傾く。
【0054】
図6(b)に示されるように、玉軸受62が第2本体部35に対して状態において、転舵シャフト13に軸方向の力FR2が加えられたとき、外輪62Bにも力F2が加えられる。
【0055】
ここで、電動パワーステアリング装置1にブッシュ70が設けられていない場合には、外輪62Bの角部が第2ハウジング34に押し付けられることに起因して、第2ハウジング34に対して外輪62Bが固着するおそれがある。
【0056】
一方、本実施形態の電動パワーステアリング装置1においてはブッシュ70が設けられているため、玉軸受62が第2本体部35に対して傾いたとしても、外輪62Bの角部と第2ハウジング34との接触がブッシュ70により妨げられる。このため、玉軸受62が第2本体部35に対して傾いた状態において、力F2が外輪62Bに加えられたとき、外輪62Bの角部がブッシュ70に対して摺動する。このため、外輪62Bの固着が生じることが抑制される。
【0057】
本実施形態の電動パワーステアリング装置1によれば、以下の効果が得られる。
(1)電動パワーステアリング装置1には支持機構60が設けられている。また、この支持機構60においては、第2ハウジング34の第2本体部35と玉軸受62の外輪62Bとの間にブッシュ70が設けられている。
【0058】
このため、玉軸受62が第2ハウジング34に固着することが抑制される。また、転舵シャフト13の軸方向において玉軸受62を第2ハウジング34に対して円滑に移動させることができる。
【0059】
(2)また、ブッシュ70が弾性変形することにより転舵シャフト13の回転中心に対する玉軸受62の回転中心の位置が調整される。このため、図8に示される従来の装置と比較して、玉軸受62と転舵シャフト13との同軸度が向上する。
【0060】
(3)支持機構60においては、ブッシュ70の本体部71の内周面71Aに突起部74が設けられている。これにより、玉軸受62とブッシュ70との接触面積が小さくなるため、玉軸受62をブッシュ70に対してより円滑に移動させることができる。
【0061】
(4)支持機構60においては、ブッシュ70のフランジ72が第2ハウジング34の収容部35Aの第2収容部35Cにフランジ72が嵌め込まれている。このため、軸方向に作用する力がブッシュ70に加えられたとき、フランジ72と第2収容部35Cとの接触によりブッシュ70の軸方向の移動を抑制することができる。
【0062】
(5)支持機構60においては、ブッシュ70に切欠部73が設けられている。これにより、ブッシュ70を第2ハウジング34に取り付けるとき、ブッシュ70の径を小さくすることができるため、ブッシュ70を第2ハウジング34に容易に取り付けることができる。
【0063】
(6)支持機構60においては、ナットケース61の第1取付部61Aおよび第2取付部61Bのうち後者のみが玉軸受62により支持されている。このため、第1取付部61Aおよび第2取付部61Bの双方を軸受により支持する構造と比較して、第2ハウジング34に対するナットケース61の傾きが生じやすい。ナットケース61が傾いたときには、これにともない玉軸受62も傾くため、外輪62Bの角部が第2ハウジング34に押し付けられるおそれがある。
【0064】
一方、本実施形態の支持機構60には上述のとおりブッシュ70が設けられているため、ナットケース61の傾きにともない玉軸受62が傾いたとしても、ブッシュ70により外輪62Bの角部と第2ハウジング34との接触が抑制される。
【0065】
(7)支持機構60においては、ブッシュ70の軸方向の長さL1が玉軸受62の軸方向の長さL2よりも長い。このため、長さL1が長さL2よりも短い場合と比較して、外輪62Bが第2ハウジング34に接触することをより確実に抑制することができる。
【0066】
(8)支持機構60においては、玉軸受62の軸方向の長さL2に第1弾性体63の最大圧縮量および第2弾性体64の最大圧縮量を加えた長さ、すなわち玉軸受62の長さL2と第1弾性体63の長さ△DAと第2弾性体64の長さ△DBとを加えた長さを長さLYとしたとき、ブッシュ70の長さL1が同長さLYよりも長い(L1>LY)。
【0067】
このため、第1弾性体63が最大圧縮量まで変形したとき、および第2弾性体64が最大圧縮量までの変形したときのいずれにおいても、ブッシュ70内に外輪62Bが位置する状態が保持される。このため、外輪62Bが第2ハウジング34に接触することをより確実に抑制することができる。
【0068】
(9)支持機構60においては、本体部71の右端面から長さ△DBを隔てた位置に右方の突起部74が設けられている。また、本体部71の左端面から長さ△DAを隔てた位置に左方の突起部74が設けられている。
【0069】
上記構成によれば、第2ハウジング34に対する外輪62Bの軸方向の右方への移動にともない第1弾性体63が最大圧縮量まで圧縮されたときにも、左方の突起部74の先端が外輪62Bに接触した状態に維持される。すなわち、両方の突起部74が外輪62Bに接触した状態が維持される。このため、左方の突起部74と外輪62Bとが接触しなくなることに起因して玉軸受62の傾きが生じることが抑制される。
【0070】
また、第2ハウジング34に対する外輪62Bの軸方向の左方への移動にともない第2弾性体64が最大圧縮量まで圧縮されたときにも、右方の突起部74の先端が外輪62Bに接触した状態に維持される。すなわち、両方の突起部74が外輪62Bに接触した状態が維持される。このため、右方の突起部74と外輪62Bとが接触しなくなることに起因して玉軸受62の傾きが生じることが抑制される。
【0071】
(10)図8に示される従来の装置においては、転がり軸受150がハウジング140にすきま嵌めされているため、径方向に作用する力が転舵シャフト110に加えられる毎に転がり軸受150とハウジング140とが衝突する。これに対して、本実施形態の電動パワーステアリング装置1においては、玉軸受62と第2ハウジング34との接触がブッシュ70により妨げられるため、転舵シャフト13に加えられる径方向の力に起因して玉軸受62と第2ハウジング34との衝突音が発生することを抑制することができる。
【0072】
(その他の実施形態)
本発明の電動パワーステアリング装置の具体的な構成は、上記実施形態の内容に限定されるものではなく、例えば以下のように変更することができる。また、以下の変形例は上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0073】
・上記実施形態では、ブッシュ70の長さL1を玉軸受62の長さL2よりも長くしているが、長さL1を長さL2と同じ大きさにすることもできる。また、長さL1を長さL2よりも短くすることもできる。
【0074】
・上記実施形態では、ブッシュ70の長さL1を長さLXと同じ大きさにしているが、長さL1を長さLXよりも長くすることもできる。また、長さL1を長さLXよりも短くすることもできる。
【0075】
・上記実施形態では、ブッシュ70の長さL1を長さLYよりも長くしているが、長さL1を長さLYと同じ大きさにすることもできる。また、長さL1を長さLYよりも短くすることもできる。
【0076】
・上記実施形態では、ブッシュ70の本体部71の右端部にフランジ72を設けているが、本体部71の左端部にフランジ72を設けることもできる。この場合、収容部35Aの左端部に第2収容部35Cが形成される。また本体部71の中央部にフランジ72を設けることもできる。この場合、収容部35Aの中央部に第2収容部35Cが形成される。
【0077】
・上記実施形態において、第2ハウジング34の第2本体部35から収容部35Aを省略することもできる。この場合、第2本体部35の内周面に第2収容部35Cが設けられる。
【0078】
・上記実施形態において、フランジ72を省略することもできる。この場合、収容部35Aから第2収容部35Cを省略することができる。
・上記実施形態では、ブッシュ70に2つの突起部74を設けているが、突起部74の数を1個または3個以上に変更することもできる。
【0079】
・上記実施形態において、突起部74を省略することもできる。この場合、外輪62Bがブッシュ70の本体部71の内周面71Aに接触する。
・上記実施形態では、切欠部73の左端部の周方向の位置と切欠部73の右端部の周方向の位置とを互いに異なるものとしたが、切欠部73の左端部と右端部の周方向の位置を同じものにすることもできる。
【0080】
・上記実施形態において、切欠部73を省略することもできる。またこの場合、フランジ72を省略することもできる。これにより、ブッシュ70を第2ハウジング34に容易に挿入することができる。
【0081】
・上記実施形態では、ブッシュ70の材料としてポリアセタールを用いたが、ポリアセタールに代えて、ナイロン、ポリアミドまたはポリテトラフルオロエチレンを用いることもできる。要するに、自己潤滑効果の優れた樹脂材料であれば、ブッシュ70の材料としてポリアセタール以外のものも用いても上記実施形態の効果と同様の効果が得られる。
【0082】
・上記実施形態において、玉軸受62の外輪62Bとブッシュ70の本体部71との間の間隙S1に潤滑剤であるグリスを充填することもできる。これにより、本体部71に対して玉軸受62をより円滑に移動させることができる。
【0083】
・上記実施形態において、図7(a)に示されるように、ブッシュ70から突起部74を省略するとともに本体部71に凹部75を形成することもできる。この場合、径方向において凹部75と外輪62Bとの間に形成される間隙S3にグリスを充填することもできる。
【0084】
・上記実施形態において、図7(b)に示されるように、ブッシュ70を第1ブッシュ70Aおよび第2ブッシュ70Bに分割することもできる。第1ブッシュ70Aは、玉軸受62の外輪62Bの右端部に設けられる。第2ブッシュ70Bは、外輪62Bの左端部に設けられる。第1ブッシュ70Aおよび第2ブッシュ70Bとしては、互いに同じ形状のものが設けられる。各ブッシュ70A,70Bには、外輪62Bに接触する本体部81と、本体部81からハウジング30に向けて延びるフランジ82とが設けられる。ハウジング30において各ブッシュ70A,70Bに対応する位置には、収容部35Aが形成される。各収容部35Aにおいて各フランジ82に対応する位置には、第2収容部35Cが形成される。この構成において、各ブッシュ70A,70Bの本体部81の間に形成された間隙S4にグリスを充填することもできる。
【0085】
・図7(c)に示されるように、図7(b)の変形例の第1ブッシュ70Aおよび第2ブッシュ70Bを複数の連結部83により連結して単一部材とすることもできる。
・上記実施形態において、玉軸受62に代えて、ころ軸受等の他の転がり軸受を用いることもできる。また、単列の転がり軸受に限られず、複列の転がり軸受を用いることもできる。また、転がり軸受に限られず、すべり軸受を用いることもできる。
【0086】
・上記実施形態においては、駆動プーリ51、従動プーリ52およびベルト53により構成される減速機構50を用いたが、この減速機構50に代えて、駆動スプロケット、従動スプロケットおよびチェーンにより構成される減速機構を用いることもできる。
【0087】
・上記実施形態では、ハウジング30の外部に電動モータ21の本体部分が設けられた電動パワーステアリング装置1に対して本発明を適用した構成を例示したが、ハウジング30内に電動モータの本体部分が設けられる電動パワーステアリング装置に本発明を適用することもできる。同装置においては、ハウジング30の第2ハウジング34の内部に電動モータが設けられる。電動モータとしては、インナーロータ型のものが用いられる。すなわち、電動モータは、径方向において転舵シャフト13を囲う磁性体のロータと、径方向においてロータを囲うとともに第2ハウジング34に固定される電機子とを備える。ロータは、ナットケースに連結される。これにより、ナットケースはロータと一体に回転する。なお、電動モータの本体部分は第1ハウジング31の内部に設けることもできる。
【符号の説明】
【0088】
1…電動パワーステアリング装置、10…操舵角伝達機構、11…ステアリングシャフト、12…ラックアンドピニオン機構、13…転舵シャフト、13A…左端部、13B…右端部、20…アクチュエータ、21…電動モータ、21A…出力軸、30…ハウジング、31…第1ハウジング、32…第1本体部、33…第1拡径部、34…第2ハウジング、34A…基準面、35…第2本体部、35A…収容部、35B…第1収容部、35C…第2収容部、36…第2拡径部、37…縮径部、38…連結部、40…ボールねじ装置、41…ねじ部、42…ボールねじナット、43…ボール、50…減速機構、51…駆動プーリ、52…従動プーリ、53…ベルト、60…支持機構、61…ナットケース、61A…第1取付部、61B…第2取付部、62…玉軸受、62A…内輪、62B…外輪、62C…転動体、63…第1弾性体(弾性部材)、64…第2弾性体(弾性部材)、70…ブッシュ(すべり軸受)、70A…第1ブッシュ(すべり軸受)、70B…第2ブッシュ(すべり軸受)、71…本体部、71A…内周面、72…フランジ、73…切欠部、74…突起部、75…凹部、81…本体部、82…フランジ、83…連結部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のハウジングと、このハウジング内において往復運動可能に設けられた転舵シャフトと、前記ハウジングに取り付けられた電動モータと、この電動モータの回転を前記転舵シャフトの直線運動に変換するボールねじ装置と、このボールねじ装置を前記ハウジングに対して回転可能に支持する転がり軸受とを備える電動パワーステアリング装置において、
前記転がり軸受の軸方向の両端のそれぞれに弾性部材が設けられていること、
前記ハウジングと前記転がり軸受の外輪との間にすべり軸受が設けられていること、
ならびに、前記すべり軸受が樹脂材料により構成されていること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記外輪に向けて突出する突起部が前記すべり軸受に設けられていること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記転舵シャフトの径方向において前記ハウジングに向けて突出するフランジが前記すべり軸受に設けられていること、
ならびに、前記フランジが前記ハウジングの凹部に嵌め込まれていること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
環状の部材の一部分が切り欠かれた不連続な形状の環状の部材として前記すべり軸受が形成されていること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記すべり軸受がポリアセタールまたはナイロンにより形成されていること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記転がり軸受の軸方向において前記ボールねじ装置の一方の端部を含む部分を第1部分とし、前記転がり軸受の軸方向において前記ボールねじ装置の他方の端部を含む部分を第2部分として、
前記電動モータの回転を前記ボールねじ装置に伝達するベルトまたはチェーンが設けられていること、
前記転がり軸受の軸方向において前記第1部分に前記ベルトまたは前記チェーンが巻き掛けられていること、
ならびに、前記転がり軸受の軸方向において前記第2部分が前記転がり軸受により支持されていること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−148741(P2012−148741A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10788(P2011−10788)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】