説明

電動パワーステアリング装置

【課題】低騒音であって操舵フィーリングに優れ、且つバックラッシ除去機構との併用も容易となる電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】減速ギヤとしてのウォームホイール19が、環状歯部と、環状歯部と一体回転する外輪53と、操舵出力軸と一体回転する内輪54とを備える。外輪53の内周531の第1湾曲凹部56と、内輪54の外周541の第2湾曲凹部57との間に、両湾曲凹部56,57から直接に予圧を付与された転動体55が介在する。両湾曲凹部56,57の曲率半径R1,R2が、転動体55の曲率半径R3よりも大きい。転動体55が両湾曲凹部56,57の端部に達すると、外輪53および内輪54の相対回転が規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、運転者によるステアリングホイール(操舵部材)の操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵補助用の電動モータと、電動モータの回転を減速して操舵出力軸に伝達する減速機構と、トルクセンサ等のセンサ信号に基づいて電動モータを制御する電子制御ユニット(ECU)とを備えている。
減速機構は、操舵出力軸と一体回転する従動ギヤとしてのウォームホイールと、電動モータの回転軸に連結された駆動ギヤとしてのウォーム軸とからなる。ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合いにより、電動モータの回転を減速して操舵出力軸に伝達することで、電動モータが発生する操舵補助トルクを操舵軸に伝達する。
【0003】
しかしながら、操舵を開始してからの初期に、電動モータの慣性の影響等で、運転者が、トルクの引きずり感(壁がある感じ)を受けて、操舵フィーリングが悪くなるという問題がある。
一方、例えば特許文献1のように、ウォーム軸を軸方向に所定量移動可能に弾性支持した電動パワーステアリング装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2のように、ウォームホイールと操舵出力軸との間に介在する弾性部材を介して、ウォームホイールを径方向および回転方向に所定量移動可能に弾性支持した電動パワーステアリング装置が提案されている。
特許文献2の第1実施形態(図1および図2参照)では、ウォームホイールの内周と操舵出力軸との間に、転がり軸受を設け、その転がり軸受の軸受空間内に、転動体を弾性的に固定する弾性部材を充填した電動パワーステアリング装置が提案されている。第1実施形態では、弾性部材の変形を伴って、転がり軸受の内輪と外輪が相対回転可能である。
【0005】
また、特許文献2の第2実施形態(図3および図4参照)では、ウォームホイールの内周と操舵の出力軸との間に支持体が、互いの間に径方向隙間を有する外輪および内輪と、外輪および内輪を連結する短軸状の連結体とを有している。外輪の内周および内輪の外周に、相対向する鉤形状の凹部を設けており、外輪および内輪の凹部間に、前記連結体が配置されている。連結体の小径の中間部に、Oリング状の弾性部材が装着され、該弾性部材は、連結体の大径の両端部から所定量突出している。弾性部材が突出している分だけ、外輪および内輪が、径方向および回転方向の弾性的に変位可能であり、その結果、ウォームホイールが操舵の出力軸に対して回転方向に所定量、弾性的に相対回転可能である。
【0006】
特許文献1では、操舵開始初期にウォーム軸が軸方向に移動する。また、特許文献2では、操舵開始初期に操舵軸およびウォームホイールが相対回転する。これにより、ギヤ間の摩擦力や電動モータの慣性が、ハンドルトルクに付加されないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3376869号公報
【特許文献2】特開2005−313679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、ウォーム軸が軸方向に所定量移動したときに、ウォーム軸の軸方向移動を規制するストッパが、ウォーム軸と衝突することにより、打音が発生し、騒音の原因となる。
また、特許文献2の第1実施形態では、ウォームホイールおよび操舵出力軸の(すなわち、外輪および内輪の)相対回転量を弾性部材によって規制するので、長期の使用で弾性部材が劣化するという耐久上の問題がある。
【0009】
また、特許文献2の第2実施形態では、操舵出力軸およびウォームホイールが所定量相対回転したときに、連結体の両端部の外周が、外輪の鉤形状の凹部や内輪の鉤形状の凹部と衝突することで、操舵出力軸およびウォームホイールの相対回転量が規制される。しかしながら、それまで弾性支持されていて外輪とは接触していなかった連結体が、外輪に対して金属同士の衝突をするので、その衝突時に、打音が発生し、騒音の原因となる。
【0010】
一方、ウォーム軸とウォームホイール間の噛み合いのバックラッシをゼロにするために、ウォーム軸の一端を他端の回りに揺動可能に支持し、前記一端をウォーム軸とウォームホイールの中心間距離が近づく方向に付勢する、いわゆるバックラッシ除去機構が提案されている。この場合、ウォーム軸を軸直角方向に可動とするため、前記のウォーム軸を軸方向に可動とする機構と併用することは、構造が複雑となり、可動量の制御が困難となるため、所望の性能を得ることが難しい。
【0011】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、低騒音であって操舵フィーリングに優れ、且つバックラッシ除去機構との併用も容易となる電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、操舵補助用の電動モータ(16)の回転を減速する減速機構(17)を備え、前記減速機構は、減速ギヤとしてのウォームホイール(19)を含み、前記ウォームホイールは、環状歯部(51)と、前記環状歯部と一体回転する外輪(53;53A;53B;53B’)と、操舵出力軸(3b)と一体回転する内輪(54;54A;54A’;54B)と、前記外輪の内周(531)の周方向の所定位置に設けられた複数の第1湾曲凹部(56;56A;56B;56B’)と、前記内輪の外周(541)の周方向の所定位置に設けられ、対応する第1湾曲凹部とそれぞれ対向する複数の第2湾曲凹部(57;57A;57A’;57B)と、互いに対向する第1湾曲凹部および第2湾曲凹部の間にそれぞれ介在し、両湾曲凹部から直接に予圧を付与された転動体(55)と、を有し、前記第1湾曲凹部および前記第2湾曲凹部の少なくとも一方の曲率半径(R1,R2;R1A,R2A;R1A,R2A’;R1B,R2B;R1B’,R2B)が、前記転動体の曲率半径(R3)よりも大きくされている電動パワーステアリング装置を提供する。
【0013】
また、請求項2のように、前記第1湾曲凹部の曲率半径が、前記第2湾曲凹部の曲率半径と同等である場合がある。
また、前記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、操舵開始初期に、ウォームホイールの第1湾曲凹部および第2湾曲凹部の少なくとも一方に対して転動体が転がることで、外輪および内輪が相対回転する。したがって、操舵開始初期に、ウォーム軸およびウォームホイールの間の摩擦力や、電動モータの慣性力が、操舵出力軸に付加されない。その結果、操舵開始初期の操舵フィーリングを格段に向上することができる。
【0015】
ウォームホイールに所定以上のトルクが付加されると、外輪および内輪の相対回転に伴って、転動体が両湾曲凹部の端部に達することにより、外輪と内輪の相対回転が規制される。これにより、外輪および内輪が一体回転し、ウォームホイールは、通常のウォームホイールとして機能する。
また、両湾曲凹部から直接予圧を受けて両湾曲凹部に対して常時接触している状態の転動体が、両湾曲凹部の端部に達することにより、相対回転の規制へと移行するので、規制に際して衝突音を生じない。したがって、低騒音である。特に、外輪および内輪の相対回転量が増大するほど、両湾曲凹部と転動体との接触部の弾性変形量が増大して、両湾曲凹部から転動体に付与される予圧が高くなるので、前記衝突音の発生を確実に防止することができる。
【0016】
また、ウォーム軸を軸方向に付勢する機構を採用しないので、ウォーム軸を軸直角方向に揺動付勢するバックラッシ除去機構を併用することが容易となる。
前記第1湾曲凹部および前記第2湾曲凹部の何れか一方の曲率半径が、他方の曲率半径よりも小さくされており、前記他方の曲率半径は、前記転動体の曲率半径と同等または同等以上とされている場合がある。
【0017】
また、請求項2のように、第1湾曲凹部の曲率半径が第2湾曲凹部の曲率半径と同等である場合には、予圧を受けながら両湾曲凹部に対して転がり接触する転動体が、第1湾曲凹部の端部および第2湾曲凹部の端部に同時に達する。したがって、転動体が滑りを生ずることがなく、耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態の電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】電動パワーステアリング装置の要部の断面図である。
【図3】ウォームホイールの要部の断面図である。
【図4】図2のIV−IVに沿う断面図である。
【図5】ウォームホイールの要部の拡大断面図である。(a)は、外輪および内輪が相対回転可能な状態を示し、(b)および(c)は、ウォームホイールの回転方向に応じて外輪および内輪の相対回転が規制された状態を示している。
【図6】(a)および(b)は、それぞれ本発明の別の実施の形態のウォームホイールの要部の拡大図である。
【図7】(a)および(b)は、それぞれ本発明のさらに別の実施の形態のウォームホイールの要部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態の電動パワーステアリング装置の概略構成図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結している操舵軸3と、操舵軸3に自在継手4を介して連結される中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されるピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有して自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸8とを有している。ピニオン軸7およびラック軸8により、ラックアンドピニオン機構からなる操舵機構Aが構成されている。
【0020】
ラック軸8は車体に固定されるハウジング9内に図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラック軸8の両端部はハウジング9の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されて操舵軸3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、自動車の左右方向に沿ってのラック軸8の直線運動に変換される。これにより、転舵輪11の転舵が達成される。
【0021】
操舵軸3は、操舵部材2に連なる操舵入力軸3aと、ピニオン軸7に連なる操舵出力軸3bとに分割されており、これら操舵入力軸3aおよび操舵出力軸3bはトーションバー12を介して同一の軸線上で相対回転可能に互いに連結されている。
トーションバー12を介する操舵入力軸3aおよび操舵出力軸3b間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ13が設けられており、このトルクセンサ13のトルク検出結果は、ECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)14に与えられる。ECU14では、トルク検出結果や図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、駆動回路15を介して操舵補助用の電動モータ16を駆動制御する。電動モータ16の出力回転が伝動装置としての減速機構17を介して減速されてピニオン軸7に伝達され、ラック軸8の直線運動に変換されて、操舵が補助される。
【0022】
減速機構17は、電動モータ16により回転駆動される駆動ギヤとしてのウォーム軸18と、このウォーム軸18に噛み合うと共に、操舵出力軸3bに同伴回転可能に連結された減速ギヤとしてのウォームホイール19を備える。
図2を参照して、ウォーム軸18は電動モータ16の出力軸20と同軸上に配置される。ウォーム軸18は、その軸長方向に離隔する第1および第2の端部18a,18bを有し、第1および第2の端部18a,18b間の中間部にウォーム18cを有する。
【0023】
具体的には、ウォームホイール19は、合成樹脂により形成された環状歯部51と、環状歯部51の樹脂成形時に金型内にインサートされて環状歯部51に一体回転可能に結合された環状の芯金52と、芯金52の内周に一体回転可能に連結された外輪53と、操舵出力軸3bの外周に一体回転可能に連結された内輪54と、外輪53および内輪54の間に介在する複数の転動体55とを備えている。転動体55は、図3に示すように、ウォームホイール19の中心C2に平行な中心C3を有する円筒ころであってもよい。また、図示していないが、転動体55は玉であってもよい。
【0024】
ウォーム軸18の第1の端部18aと電動モータ16の出力軸20の対向端部とは、動力伝達継手21を介して同軸上に動力伝達可能に連結されている。
ウォーム軸18の第1および第2の端部18a,18bは、対応する第1および第2の軸受22,23をそれぞれ介して減速機構17のハウジング17aに回転自在に支持されている。第1および第2の軸受22,23は例えば玉軸受からなる。
【0025】
第1および第2の軸受22,23の内輪24,25が、ウォーム軸18の第1および第2の端部18a,18bに一体回転可能に嵌合されている。各内輪24,25はそれぞれウォーム軸18の対応する互いに逆向きの位置決め段部18d,18eに当接している。第1および第2の軸受22,23の外輪26,27は、減速機構17のハウジング17aの対応する軸受保持孔28,29に保持されている。
【0026】
第2の軸受23のための軸受保持孔29は、第2の軸受23を、ウォーム軸18とウォームホイール19の中心間距離D1(ウォーム軸18の中心C1とウォームホイールの中心C2との距離に相当)が長短する方向X1,X2に偏倚可能に保持することのできる偏倚孔に形成されている。軸受保持孔29の内周面と第2の軸受23の外輪27の外周面との間に、環状の付勢部材としての湾曲板ばね30が介在している。湾曲板ばね30は、第2の軸受23を前記中心間距離D1が短くなる方向X2に付勢する。
【0027】
湾曲板ばね30は、例えば板金により形成される薄板状の部材である。図2のIV−IV に沿う断面図である図4を参照して、湾曲板ばね30は、第2の軸受23の外輪27の外周を包囲する有端環状をなす主体部31と、主体部31の周方向の端部である第1および第2の端部31a,31bにそれぞれ形成される一対の回転規制部32とを含む。
また、湾曲板ばね30は、各回転規制部32からそれぞれ延びる一対の片持ち状の弾性舌片33と、主体部31の一方の側縁から図2に示すように傾斜状に延設された規制部としての少なくとも1つの弾性爪34とを含む。
【0028】
図示していないが、各回転規制部32の幅は主体部31の幅よりも細くされている。図4に示すように、一対の弾性舌片33の一方と他方は、互い違い配置されている。
湾曲板ばね30の各弾性舌片33は、軸受保持孔29の内周面の一部に形成された受け凹部36の底によって受けられ、各弾性舌片33の付勢力が、第2の軸受23を介してウォーム軸18の第2の端部18bを前記中心間距離D1が短くなる方向X2に付勢している。
【0029】
受け凹部36はそれぞれ軸受保持孔29の周方向に対向する一対の内壁36a,36bを有しており、湾曲板ばね30の各回転規制部32は、対応する内壁36a,36bに当接することにより、軸受保持孔29の周方向への、湾曲板ばね30の回転を規制する。
再び図2を参照して、湾曲板ばね30の弾性爪34は、ハウジング17aの端壁17bとこれに対向する第2の軸受23の外輪27の端面との間に介在し、端壁17bにより受けられて弾性変形している。この弾性変形の復元力により、弾性爪34は、第2の軸受23を介してウォーム軸18を軸方向の電動モータ16側に弾性的に付勢している。
【0030】
一方、第1の軸受22の外輪26は、対応する軸受保持孔28に連なるねじ孔37にねじ込まれた予圧調整用およびバックラッシ調整用のねじ部材38によって、ハウジング17の位置決め段部17cに押し当てられて軸方向に位置決めされている。これにより、弾性爪34の付勢力が第1および第2の軸受22,23に一括して予圧を与えることに寄与すると共に、ウォーム軸18とウォームホイール19との間のバックラッシの除去にも寄与することになる。
【0031】
また、弾性爪34が外輪27の第1の端面27aに係合することで、第2の軸受23と湾曲板ばね30との軸方向相対移動が規制されている。
動力伝達継手21は、電動モータ16の出力軸20に一体回転可能に連結された第1の係合部材41と、減速機構17の入力軸としてのウォーム軸18の第1の端部18aに一体回転可能に連結された第2の係合部材42と、第1および第2の係合部材41,42の間に介在し両係合部材41,42間にトルクを伝達する弾性部材43とを備える。
【0032】
第1および第2の係合部材41,42は例えば金属製である。弾性部材43は例えば合成ゴム製又はポリウレタン等の合成樹脂製である。
図5(a)に示すように、ウォームホイール19の外輪53の内周531の周方向の所定位置には、複数の第1湾曲凹部56が設けられている。複数の第1湾曲凹部56は、周方向に等間隔で配置されている。また、内輪54の外周541の周方向の所定位置には、複数の第2湾曲凹部57が設けられている。複数の第2湾曲凹部57は、周方向に等間隔で配置されている。
【0033】
各転動体55は、対応する第1湾曲凹部56および第2湾曲凹部57の間に介在しておいる。各転動体55は、対応する第1湾曲凹部56および第2湾曲凹部57の間に挟持され、対応する対応する第1湾曲凹部56および第2湾曲凹部57から直接予圧を付与されている。
第1湾曲凹部56および第2湾曲凹部57は、例えば円弧面により構成されている。第1湾曲凹部56の曲率半径R1および第2湾曲凹部57の曲率半径R2が、転動体55の曲率半径R3よりも大きくされている(R1>R3。R2>R3)。また、第1湾曲凹部56の曲率半径R1および第2湾曲凹部57の曲率半径R2は、同等の大きさである(R1=R2)。
【0034】
本実施の形態によれば、操舵開始初期に、第1湾曲凹部56および第2湾曲凹部57の少なくとも一方(本実施の形態では双方)に対して転動体55が転がることで、外輪53と内輪54が相対回転する。したがって、操舵開始初期に、ウォーム軸18とウォームホイール19の間の摩擦力や、電動モータ16の慣性力が、操舵出力軸に付加されない。その結果、操舵開始初期の操舵フィーリングを格段に向上することができる。
【0035】
ウォームホイール19に所定以上のトルクが付加されると、その回転方向に応じて、図5(b)に示すように、転動体55が第1湾曲凹部56の第1端部561および第2湾曲凹部57の第2端部572に達したり、或いは、図5(c)に示すように、転動体55が第1湾曲凹部56の第2端部562および第2湾曲凹部57の第1端部571に達したりする。これにより、外輪53と内輪54の相対回転が規制される結果、外輪53と内輪54が一体回転する。したがって、通常のウォームホイール19として機能する。
【0036】
また、両湾曲凹部56,57から直接予圧を受けて両湾曲凹部56,57に対して常時接触している状態の転動体55が、両湾曲凹部56,57の端部に達することにより、相対回転の規制へと移行するので、規制に際して衝突音を生じない。したがって、低騒音である。特に、外輪53および内輪54の相対回転量が増大するほど、両湾曲凹部56,57と転動体55との接触部の弾性変形量が増大して、両湾曲凹部56,57から転動体55に付与される予圧(逆にいうと接触部の弾性反発力)が高くなるので、前記衝突音の発生を確実に防止することができる。
【0037】
また、特許文献1のようなウォーム軸を軸方向に付勢する機構を採用しないので、本実施の形態のようにウォーム軸18を軸直角方向に揺動付勢する湾曲板ばね30等のバックラッシ除去機構を併用することが容易となる。
特に、本実施の形態では、第1湾曲凹部56の曲率半径R1が第2湾曲凹部57の曲率半径R2と同等である。したがって、予圧を受けながら両湾曲凹部56,57に対して転がり接触する転動体55が、第1湾曲凹部56および第2湾曲凹部57の対応する端部561,572;562,571に同時に達する。したがって、転動体55が滑りを生ずることがなく、耐久性を向上することができる。
【0038】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、各湾曲凹部56,57を、円弧面に代えて、インボリュート面により構成してもよい。
また、図6(a)に示すウォームホーイル19Aのように、外輪53Aの第1湾曲凹部56Aの曲率半径R1Aを、内輪54Aの第2湾曲凹部57Aの曲率半径R2Aよりも大きくしてもよい(R1A>R2A)。その場合、図6(b)に示すウォームホイール19A’のように、小さいほうの曲率半径である、内輪54A’の第2湾曲凹部57A’の曲率半径R2A’を、転動体55の曲率半径R3と同等の大きさとしてもよい(R2A’=R3)。図6(a),(b)の例では、第2湾曲凹部57A,57A’に対して、転動体55が滑りを生ずる。
【0039】
また、図7(a)に示すウォームホイール19Bのように、内輪54Bの第2湾曲凹部57Bの曲率半径R2Bを、外輪53Bの第1湾曲凹部56Bの曲率半径R1Bよりも大きくしてもよい(R2B>R1B)。その場合、図7(b)に示すウォームホイール19B’のように、小さいほうの曲率半径である、外輪53B’の第1湾曲凹部56B’の曲率半径R1B’を、転動体55の曲率半径R3と同等の大きさとしてもよい(R1B’=R3)。図7(a),(b)の例では、第1湾曲凹部56B,56B’に対して、転動体55が滑りを生ずる。
【0040】
また、ウォームホイールにおいて、環状歯部51と芯金52を単一の金属材料で一体に形成してもよい。また、環状歯部51、芯金52および外輪53;53A;53B;53B’を単一の金属材料で一体に形成してもよい。
また、湾曲板ばね30等を含むバックラッシ除去機構を廃止してもよい。
また、動力伝達継手21を廃止し、ウォーム軸18と電動モータ16の出力軸20を単一の材料で一体に形成してもよい。その他、本発明は、請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0041】
1…電動パワーステアリング装置、2…操舵部材、3…操舵軸、3a…操舵入力軸、3b…操舵出力軸、5…中間軸、7…ピニオン軸、8…ラック軸、11…転舵輪、16…電動モータ、17…減速機構、18…ウォーム軸、19;19A;19A’;19B;19B’…ウォームホイール、18a…第1の端部、18b…第2の端部、21…動力伝達継手、22…第1の軸受、23…第2の軸受、30…湾曲板ばね、41…入力部材、42…出力部材、43…弾性部材、51…環状歯部、52…芯金、53;53A;53B;53B’…外輪、531…内周、54;54A;54A’;54B…内輪、541…外周、55…転動体、56;56A;56B;56B’…第1湾曲凹部、561…第1端部、562…第2端部、57;57A;57A’57B…第2湾曲凹部、571…第1端部、572…第2端部、C1,C2,C3…中心、D1…中心間距離、R1;R1A;R1B;R1B’…(第1湾曲凹部の)曲率半径、R2;R2A;R2A’;R2B…(第2湾曲凹部の)曲率半径、R3…(転動体の)曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵補助用の電動モータの回転を減速する減速機構を備え、
前記減速機構は、減速ギヤとしてのウォームホイールを含み、
前記ウォームホイールは、環状歯部と、前記環状歯部と一体回転する外輪と、操舵出力軸と一体回転する内輪と、前記外輪の内周の周方向の所定位置に設けられた複数の第1湾曲凹部と、前記内輪の外周の周方向の所定位置に設けられ、対応する第1湾曲凹部とそれぞれ対向する複数の第2湾曲凹部と、互いに対向する第1湾曲凹部および第2湾曲凹部の間にそれぞれ介在し、両湾曲凹部から直接に予圧を付与された転動体と、を有し、
前記第1湾曲凹部および前記第2湾曲凹部の少なくとも一方の曲率半径が、前記転動体の曲率半径よりも大きくされている電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1湾曲凹部の曲率半径が、前記第2湾曲凹部の曲率半径と同等である電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−171381(P2012−171381A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32367(P2011−32367)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】