説明

電動パワーステアリング装置

【課題】簡易で安価な構成により、伝達比を変更することのできる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】伝達比可変機構13は、入力軸14と出力軸15との間の伝達比θ2/θ1を2段階に変更可能である。伝達比可変機構13は、入力軸14に連結された入力部材26と、出力軸15に連結された出力部材27と、中間部材28とを含んでいる。入力部材26は、変位部材29と、入力歯車30とを含んでいる。入力部材26は、第1位置P1と第2位置P2とに変位可能となっている。入力部材26が第1位置P1にあるとき、入力歯車30と出力部材27の出力歯車35とは、直結されている。入力部材26が第2位置P2にあるとき、入力部材26は、中間部材28を介して出力部材27に動力伝達可能に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝達比可変機構を備える電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用の電動パワーステアリング装置には、操舵補助用の電動モータが備えられている(例えば、特許文献1〜3参照)。このうち、特許文献2,3の電動パワーステアリング装置には、操舵部材の操舵量に対する転舵輪の転舵角の比を変更可能な伝達比可変機構が備えられている。
例えば、特許文献3の伝達比可変機構は、ステアリングホイール側に配置された入力軸と、舵取り機構側に配置された出力軸と、入力軸および出力軸が挿通された筒状の偏心カムとを含んでいる。偏心カムには、入力軸に噛み合う歯車と、出力軸に噛み合う歯車とが設けられている。また、偏心カムは、電動モータによって回転駆動されるようになっており、これにより、入力軸と出力軸との間の回転伝達比を無段階に変更可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3673455号明細書
【特許文献2】特開2009−143431号公報
【特許文献3】特開2005−98377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3では、操舵補助用の電動モータに加え、伝達比を変更するための電動モータが備えられており、コストの高い電動モータが複数用いられている。また、入力軸の回転角や、出力軸の回転角をそれぞれ検出するためのセンサ等の、伝達比を設定するためのセンサや制御装置が必要であり、より一層製造コストが高くついてしまう。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、簡易で安価な構成により、伝達比を変更することのできる電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者は、入力軸と出力軸との間の伝達比を連続的に変更する構成を採用せずとも、2段階で伝達比を変更できるようにすれば、伝達比を変更する効果を充分に発揮できるとの着想を得て、本発明を想到するに至った。
本発明は、操舵部材(2)の操舵に応じて回転する入力軸(14)と転舵機構(9)の動作に連動して回転する出力軸(15)との間に配置され前記入力軸の回転角(θ1)に対する前記出力軸の回転角(θ2)の比である伝達比(θ2/θ1)を変更可能な伝達比可変機構(13;13A)と、前記操舵部材の操舵を補助する操舵補助力を発生するための操舵補助モータ(18)とを備え、前記伝達比可変機構は、運転者の操作に応じて所定の第1位置(P1)および第2位置(P2)に変位可能な変位部材(29)と、この変位部材が前記第1位置にあるときに所定の第1伝達比(θ21/θ11)で前記入力軸と前記出力軸とを動力伝達可能に連結する第1動力伝達経路(51)と、前記変位部材が前記第2位置にあるときに所定の第2伝達比(θ22/θ12;θ22A/θ12A)で前記入力軸と前記出力軸とを動力伝達可能に連結する第2動力伝達経路(52;52A)と、を含んでいることを特徴とする電動パワーステアリング装置(1)を提供する(請求項1)。
【0006】
本発明によれば、第1動力伝達経路を介して入力軸と出力軸との間で動力を伝達する場合と、第2動力伝達経路を介して入力軸と出力軸との間で動力を伝達する場合の2段階で、伝達比を変更することができる。例えば、車両の道路走行時と比べて、車両を駐車するときの伝達比を大きくすることで、駐車時に操舵部材を操作する量を少なくできる。これにより、少ない労力で車両を駐車場の駐車枠に停めることができ、且つ、車両の道路走行時には、操舵部材の操舵量に対する転舵輪の転舵量が大きくなりすぎず、自然な操舵フィーリングを実現できる。このように、簡易で安価な構成である、2段階の伝達比切り替えを達成することで、実用上、十分な伝達比可変効果を得ることができる。また、単に伝達比を大きくした場合には、運転者が操舵部材に付与する操舵トルクを大きくする必要があるけれども、本発明では、操舵補助モータが備えられている。したがって、操舵補助モータの働きにより、運転者が操舵部材を操作するのに必要な力が大きくなることを抑制できる。これにより、簡易な伝達比可変機構を実現しつつ、運転者の操舵にかかる負担が増すことを抑制できる。さらに、運転者が変位部材を操作することで、第1伝達比と第2伝達比とを切り替えることができる。したがって、伝達比を決定するためのセンサや制御装置が不要で、且つ、伝達比を変更するためのモータが不要である。よって、電動パワーステアリング装置をより一層簡素でコスト安価な構成にできる。
【0007】
また、本発明において、前記運転者が前記変位部材を操作するための操作部材(34;56)をさらに備えている場合がある(請求項2)。
この場合、運転者が操作部材を操作するという簡易な構成で、伝達比を容易に2段階に変更できる。操作部材は、例えば、運転者の操作に応じて前記変位部材を変位させる電磁ソレノイドを操作する操作ボタンを含む。また、操作部材は、例えば、運転者の操作力を前記変位部材に伝達するレバー部材を含む。
【0008】
また、本発明において、前記第1動力伝達経路は、前記変位部材を含み前記入力軸に連結された入力部材(26)と、前記変位部材が前記第1位置にあるときに前記入力部材に一体回転可能に連結され且つ前記出力軸に連結された出力部材(27)と、を含んでいる場合がある(請求項3)。
この場合、第1伝達比を実現するために、入力部材と出力部材とを直結させるという簡易な構成でよい。したがって、電動パワーステアリング装置をよりコスト安価にできる。
【0009】
また、本発明において、前記第2動力伝達経路は、前記変位部材および入力歯車(30)を含み前記入力軸に連結された入力部材(26)と、出力歯車(35)を含み前記出力軸に連結された出力部材(27)と、前記変位部材が前記第2位置にあるときに前記入力歯車に噛み合う第1歯部(41)および前記出力歯車に噛み合う第2歯部(42)を含む中間部材(28;28A)と、を含んでいる場合がある(請求項4)。
【0010】
この場合、入力歯車および出力歯車に中間部材を係合させるという簡易な構成で、第2伝達比を実現できる。
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】伝達比可変機構の概略構成を示す一部断面図であり、変位部材が第1位置にある状態を示している。
【図3】伝達比可変機構の概略構成を示す一部断面図であり、変位部材が第2位置にある状態を示している。
【図4】本発明の別の実施形態の主要部の断面図であり、変位部材が第1位置にある状態を示している。
【図5】本発明の別の実施形態の主要部の断面図であり、変位部材が第2位置にある状態を示している。
【図6】本発明のさらに別の実施形態の主要部の断面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施形態の主要部の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結されたステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有する転舵軸としてのラック軸8と、を備えている。ラック軸8は、自動車等の車両の左右方向に延びている。ピニオン軸7およびラック軸8により、ラックアンドピニオン機構からなる転舵機構9が構成されている。
【0013】
ラック軸8は、車体に固定されるハウジング(図示せず)内に、複数の軸受(図示せず)を介して、ラック軸8の軸方向に沿って直線往復動可能に支持されている。ラック軸8の各端部には、それぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、ラック軸8の軸方向の直線運動に変換される。これにより、転舵輪11の転舵が達成される。
【0014】
車両用操舵装置1は、転舵機構9に操舵補助力を付与するための操舵補助機構12と、操舵部材2の操舵角に対する転舵輪11の転舵角の比を変更することのできる伝達比可変機構13と、を備えている。
ステアリングシャフト3は、操舵部材2と伝達比可変機構13との間に配置され操舵部材2の操舵に応じて回転する入力軸14と、伝達比可変機構13と中間軸5との間に配置され転舵機構9の動作に連動して回転する出力軸15とを含む。
【0015】
操舵補助機構12は、ブラシレスモータ等の操舵補助モータ18と、操舵補助モータ18の出力回転が入力される減速機構19と、を含む。減速機構19は、例えば、ウォーム減速機構であり、操舵補助モータ18のロータ18aに一体回転可能に連結されたウォーム軸20と、出力軸15に一体回転可能に連結されウォーム軸20に噛み合うウォームホイール21とを含む。
【0016】
操舵補助モータ18は、減速機構19、出力軸15および中間軸5を介して転舵機構9に動力伝達可能に連結されている。操舵補助モータ18の出力(操舵補助力)は、減速機構19を介して出力軸15に伝達され、運転者の操舵を補助するようになっている。
また、車両用操舵装置1は、操舵補助モータ18を制御するためのトルクセンサ22および車速センサ23を備えている。トルクセンサ22は、出力軸15の周囲に設けられている。トルクセンサ22は、例えば、出力軸15に作用するトルクに応じた出力軸15のねじれを検出するセンサである。出力軸15のねじれを検出することにより、出力軸15に作用しているトルクを検出するようになっている。車速センサ23は、車両の転舵輪11等の車輪に設けられており、車速を検出するようになっている。
【0017】
車両用操舵装置1は、CPU,RAMおよびROMを含む制御部24を備えている。制御部24は、操舵補助モータ18の動作を制御するために設けられている。制御部24には、トルクセンサ22および車速センサ23がそれぞれ接続されている。これらのセンサ22,23からの検出信号が、制御部24に入力されるようになっている。制御部24は、ドライバ25を介して操舵補助モータ18に接続されている。
【0018】
制御部24は、トルクセンサ22および車速センサ23からの入力信号等に基づいて、操舵補助モータ18の目標駆動量を設定し、操舵補助モータ18の実駆動量と目標駆動量との偏差がゼロとなるように、操舵補助モータ18を制御する。これにより、操舵補助モータ18に所定の力を発生させる。この力は、減速機構19を介して出力軸15に伝達され、さらに、転舵機構9に付与される。その結果、運転者による操舵部材2の操舵が補助され、運転者は、少ない力で容易に操舵部材2を回転操作することができる。
【0019】
伝達比可変機構13は、入力軸14の回転角としての操舵角θ1に対する、出力軸15の回転角としての転舵角θ2の比である伝達比θ2/θ1を変更可能とされている。伝達比可変機構13は、操舵部材2と操舵補助機構12との間に配置されている。伝達比可変機構13は、操舵部材2から転舵機構9への動力伝達経路のうち、操舵補助機構12の上流側に配置されている。
【0020】
図2は、伝達比可変機構13の概略構成を示す一部断面図である。図2に示すように、入力軸14および出力軸15は、互いの先端を相対向させて同軸上に配置されている。
伝達比可変機構13は、入力軸14に一体回転可能に連結された入力部材26と、出力軸15に一体回転可能に連結された出力部材27と、入力軸14および出力軸15に関連して設けられた中間部材28と、を含んでいる。
【0021】
入力部材26は、例えば、一体成形品であり、変位部材29と、変位部材29とは入力軸14の軸方向X10に並ぶ入力歯車30とを含んでいる。
変位部材29は、円柱状に形成されている。この変位部材29は、伝達比可変機構13を収容するハウジング31に形成された円筒部31aに挿通されており、円筒部31aに回転可能に支持されつつ、円筒部31aに対して軸方向X10に移動可能となっている。
【0022】
入力歯車30は、変位部材29に対して軸方向X10の他方X12側に配置されている。入力歯車30の直径は、変位部材29の直径よりも大きくされている。入力歯車30は、外歯歯車であり、外周面に歯部30aが形成されている。入力歯車30の一端面30bと円筒部31aの一端面31bとの間には、付勢部材32が配置されている。付勢部材32は、例えば、コイルばね等のばねである。付勢部材32は、変位部材29の周方向に等間隔に複数(本実施形態において2つ)配置されている。各付勢部材32の一端は、円筒部31aの一端面31bに固定されている。各付勢部材32の他端は、入力歯車30の一端面30bに固定されている。付勢部材32は、例えば、入力歯車30を出力部材27側に付勢している。
【0023】
円筒部31aには、ソレノイド33が設けられている。ソレノイド33は、変位部材29を軸方向X10に変位するために設けられている。ソレノイド33は、円筒部31aの外周に固定されたソレノイドハウジング33aと、ソレノイドハウジング33aに支持されたロッド33bと、付勢部材32とを含んでいる。ロッド33bは、ソレノイドハウジング33aによって、軸方向X10に変位可能に支持されている。ロッド33bの一部は、変位部材29に向けて屈曲されており、ロッド33bの先端33cは、入力部材26の変位部材29の外周に形成された環状の溝部29aに挿通されている。これにより、ロッド33bは、変位部材29の回転を許容しつつ、変位部材29と軸方向X10に一体的に変位可能である。
【0024】
ソレノイド33に電力を供給することにより、ロッド33bは、軸方向X10の一方X11側に変位するようになっている。これにより、入力部材26(変位部材29)は、付勢部材32の付勢力に抗して軸方向X10の一方X11側に変位し、第2位置P2に位置するようになっている。ソレノイド33に電力が供給されていないときには、入力部材26は、付勢部材32の付勢力によって、軸方向X10の他方X12側に変位し、第1位置P1に位置するようになっている。
【0025】
ソレノイド33には、操作部材34が接続されている。操作部材34は、例えば、ボタン34aを含んでおり、運転者がこのボタン34aを押操作することで、ソレノイド33に図示しない電源から電力が供給されている状態と、電源からの電力供給が遮断されている状態とを切り替えることが可能となっている。
出力部材27は、例えば一体成形品であり、出力歯車35と、出力歯車35に対して軸方向X10の他方X12側に配置された連結部36とを含んでいる。連結部36は、出力軸15に一体回転可能に連結されている。これにより、出力部材27と出力軸15とは、一体回転可能に連結されている。
【0026】
出力歯車35は、入力歯車30とは同軸に配置されている。出力歯車35は、外歯歯車であり、外周に歯部35aが形成されている。出力部材27の出力歯車35の一端面には、凹部27bが形成されている。凹部27bの内周面には、歯部27aが形成されている。入力部材26が第1位置P1に位置しているとき、歯部27aと入力歯車30の歯部30aとの噛み合いにより、入力部材26と出力部材27とは、動力伝達可能に直結されている。
【0027】
中間部材28は、入力部材26および出力部材27の中心軸線L1に対して偏心した中心軸線L2を有する部材である。中間部材28は、入力部材26と出力部材27とが直結されていないときに、入力軸14と出力軸15とを動力伝達可能に連結するようになっている。
中間部材28は、環状の中間部材本体37と、中間部材本体37の外径部から軸方向X10の他方X12に突出する連結軸38とを含んでいる。
【0028】
中間部材本体37の外周面は、軸受39を介して、ハウジング31の内周面31cに支持されている。これにより、中間部材28は、中心軸線L2の回りを回転可能となっている。中間部材本体37は、入力部材26を取り囲んでいる。中間部材本体37の内周面には、第1歯部41が形成されている。第1歯部41は、中間部材本体37の内周面の周方向の全域に形成されている。
【0029】
連結軸38は、複数(本実施形態において、2つ)設けられており、中間部材28の周方向に等間隔に配置されている。各連結軸38には、外周に第2歯部42を有する外歯歯車43が固定されている。各外歯歯車43は、中間部材本体37と中心軸線L2回りを一体回転するようになっている。2つの外歯歯車43のうちの1つの外歯歯車43が、一時に入力歯車30に噛み合うようになっている。
【0030】
図2において、入力部材26は、第1位置P1に位置している。入力部材26が第1位置P1に位置しているとき、入力部材26の入力歯車30の歯部30aは、出力歯車35の凹部27bの歯部27aに噛み合っている。このとき、入力部材26と出力部材27とは直結(一体回転可能に連結)されており、伝達比θ2/θ1は、第1伝達比θ21/θ11=1である。このとき、入力部材26および出力部材27によって、第1動力伝達経路51が形成されており、第1動力伝達経路51によって、入力軸14と出力軸15とが動力伝達可能に連結されている。
【0031】
例えば、車両が道路を走行しているときに、入力部材26が第1位置P1に位置されている。このとき、入力軸14の操舵角θ1と出力軸15の転舵角θ2とが一致している。その結果、車両が道路を車線変更するとき等に、自然な操舵感を得ることができる。
図3を参照して、運転者が車両の停止時に操作部材34の操作ボタン34aを押操作することで、ソレノイド33に電力が供給されたとき、ロッド33bおよび入力部材26は、付勢部材32の付勢力に抗して軸方向X10の一方X11側に変位する。これにより、入力部材26は、第2位置P2に位置する。入力部材26が第2位置P2に位置しているとき、入力部材26の入力歯車30の歯部30aは、中間部材28の第1歯部41に噛み合っている。このとき、入力歯車30の一部の歯部30aが、一部の第1歯部41に噛み合っている。これにより、入力軸14の回転力は、入力歯車30を含む入力部材26と、第1歯部41および第2歯部42を含む中間部材28と、出力歯車35を含む出力部材27とを介して、出力軸15に伝わる。
【0032】
入力歯車30の歯部30aの歯数をZ1、第1歯部41の歯数をZ2、第2歯部42の歯数をZb、出力歯車35の歯部35aの歯数をZaとしたとき、第2伝達比θ22/θ12=(Za/Zb)×(Z2/Z1)となる。この第2伝達比θ22/θ12は、1より大きい値(例えば、1.5)に設定される。
このとき、入力部材26、中間部材28および出力部材27によって、第2動力伝達経路52が形成されており、第2動力伝達経路52によって、入力軸14と出力軸15とが動力伝達可能に連結されている。
【0033】
例えば、車両を駐車場に入れるときに、運転者が操作部材34の操作ボタン34aを押操作することにより、変位部材29が第2位置P2に変位される。このとき、第2伝達比θ22/θ12は、1より大きいので、操舵部材2の回転操作量(入力軸14の操舵角θ1)が小さくても、転舵輪11の変位量(出力軸15の転舵角θ2)を大きくできる。その結果、車両を駐車場に入れるとき等に、運転者が操舵部材2を回す量を少なくできる。しかも、操舵補助モータ18(図1参照)が操舵補助力を発生するようになっているので、第2伝達比θ22/θ12を1より大きくしても、運転者が操舵部材2に付与する必要のあるトルクは少なくて済む。なお、第2伝達比θ22/θ12は、車両が砂利道等の悪路を走行しているときに設定されてもよい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1動力伝達経路51を介して入力軸14と出力軸15との間で動力を伝達する場合と、第2動力伝達経路52を介して入力軸14と出力軸15との間で動力を伝達する場合の2段階で、伝達比θ2/θ1を変更することができる。
例えば、車両の道路走行時と比べて、車両を駐車するときの伝達比θ2/θ1を大きくすることで、駐車時に操舵部材2を操作する量を少なくできる。これにより、少ない労力で車両を駐車場の駐車枠に停めることができ、且つ、車両の道路走行時には、操舵部材2の操舵量に対する転舵輪11の転舵量が大きくなりすぎず、自然な操舵フィーリングを実現できる。このように、簡易で安価な構成である、2段階の伝達比切り替えを達成することで、実用上、十分な伝達比可変効果を得ることができる。
【0035】
また、単に伝達比θ2/θ1を大きくした場合には、運転者が操舵部材2に付与する操舵トルクを大きくする必要があるけれども、本実施形態では、操舵補助モータ18が備えられている。したがって、操舵補助モータ18の働きにより、運転者が操舵部材2を操作するのに必要な力が大きくなることを抑制できる。これにより、簡易な伝達比可変機構13を実現しつつ、運転者の操舵にかかる負担が増すことを抑制できる。さらに、運転者が操作部材34を操作することで、第1伝達比θ21/θ11と第2伝達比θ22/θ12とを切り替えることができる。したがって、伝達比θ2/θ1を決定するためのセンサや制御装置が不要で、且つ伝達比θ2/θ1を変更するためのモータが不要である。よって、電動パワーステアリング装置1をより一層簡素でコスト安価な構成にできる。
【0036】
さらに、運転者が操作部材34のボタン34aを操作するという簡易な構成で、伝達比θ2/θ1を容易に2段階に変更できる。
また、第1伝達比θ21/θ11を実現するために、入力部材26と出力部材27とを直結させるという簡易な構成でよい。したがって、電動パワーステアリング装置1を、よりコスト安価にできる。
【0037】
さらに、入力歯車30および出力歯車35に中間部材28を係合させるという簡易な構成で、第2伝達比θ22/θ12を実現できる。
図4は、本発明の別の実施形態の主要部の断面図である。なお、以下では、上記実施形態と異なる点について主に説明し、同様の構成には図に同様の符号を付して説明を省略する。
【0038】
本実施形態では、中間部材28に代えて中間部材28Aが用いられており、且つ、リング部材54がさらに備えられており、伝達比可変機構13Aが遊星歯車機構となっている。
中間部材28Aは、入力部材26および出力部材27の中心軸線L1と一致した中心軸線L2Aを有する部材である。中間部材28Aは、入力部材26と出力部材27とが直結されていないときに、入力軸14と出力軸15とを動力伝達可能に連結するための部材である。
【0039】
中間部材28Aは、中間部材本体37と、中間部材本体37の外径部から軸方向X10の他方X12に突出する連結軸38とを含んでいる。中間部材本体37の内周面には、内歯としての第1歯部41が形成されている。
各連結軸38には、第2歯部42を有する外歯歯車43Aが相対回転可能に連結されている。各外歯歯車43Aは、当該外歯歯車43Aの中心軸線回りを自転可能であり、且つ、中心軸線L2A回りを公転可能である。各外歯歯車43Aの第2歯部42は、常時、出力歯車35の歯部35aに噛み合っている。
【0040】
リング部材54は、出力部材27を取り囲む円環状の部材である。リング部材54の外周面は、ハウジング31の内周面31cに固定されている。リング部材54の内周面には、第3歯部54aが全周に亘って形成されている。第3歯部54aには、各外歯歯車43Aの第2歯部42が噛み合っている。すなわち、第2歯部42は、出力歯車35の歯部35aおよびリング部材54の第3歯部54aに常時噛み合っている。
【0041】
図4において、入力部材26は、第1位置P1に位置している。このときは、入力部材26と出力部材27とは直結されており、伝達比θ2/θ1は、第1伝達比θ21/θ11=1である。このとき、入力部材26および出力部材27によって、第1動力伝達経路51が形成されており、第1動力伝達経路51によって、入力軸14と出力軸15とが動力伝達可能に連結されている。
【0042】
図5を参照して、入力部材26が第2位置P2に位置しているとき、入力部材26の入力歯車30の歯部30aは、中間部材28Aの第1歯部41に噛み合っており、入力部材26と中間部材28Aとは、中心軸線L1回りに一体回転可能に連結されている。これにより、入力軸14の回転力は、入力歯車30を含む入力部材26と、第1歯部41および第2歯部42を含む中間部材28Aと、出力歯車35を含む出力部材27とを介して、出力軸15に伝わる。
【0043】
本実施形態では、出力歯車35は、太陽歯車として機能し、外歯歯車43Aは、遊星歯車として機能し、中間部材本体37は、キャリアとして機能する。
出力歯車35の歯部35aの歯数をZa、外歯歯車43Aの第2歯部42の歯数をZb、リング部材54の第3歯部54aの歯数をZcとしたとき、第2伝達比θ22A/θ12A=(Za+Zc)/Zaとなる。この第2伝達比θ22A/θ12Aは、1より大きい値(例えば、1.5)に設定される。
【0044】
このとき、入力部材26、中間部材28A、および出力部材27によって、第2動力伝達経路52Aが形成されており、第2動力伝達経路52Aによって、入力軸14と出力軸15とが動力伝達可能に連結されている。
以上説明したように、本実施形態によれば、図1〜図3に示す実施形態と同様の効果を発揮することができる。また、伝達比可変機構13Aは遊星ギヤ機構であるので、コンパクトな構成で大きな第2伝達比θ22A/θ12Aを実現できる。これにより、電動パワーステアリング装置1の小型化を達成できる。
【0045】
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、各上記実施形態において、図6に示すように、入力部材26の先端に軸部26aを設けてもよい。この軸部26aは、出力部材27の孔部27cに常時嵌合されており、ブッシュ55を介して相対回転可能且つ軸方向X10に相対移動可能となっている。この場合、出力部材27によって、入力部材26の軸方向X10の変位をガイドすることができる。
【0046】
また、操作部材34およびソレノイド33に代えて、図7に示すように、操作部材56を用いてもよい。操作部材56は、円筒部31aに固定された支持部材57によって軸方向X10に変位可能に支持されたレバー部材である。操作部材56は、運転者によって把持される把持部56aを含んでいる。また、操作部材56は、入力部材26の変位部材29の外周の環状の溝部29aに挿通されている。運転者が把持部56aを把持しつつ、操作部材56を軸方向X10に変位させることにより、入力部材26を軸方向X10に変位させることが可能である。
【0047】
また、入力部材として、中間部材本体37の第1歯部41に常時噛み合う歯部と、出力部材27の凹部27bの歯部27aに常時噛み合う歯部とを含む筒状の部材を形成し、この筒状の部材に入力軸が軸方向X10に相対変位可能に挿通されてもよい。この場合、入力軸自体が変位部材となる。そして、入力軸が軸方向X10の一方X11側に変位したときには、入力軸と、上記第1歯部41に常時噛み合う歯部とが伝達可能に連結される。また、入力軸が軸方向X10の他方X12側に変位したときには、入力軸と、上記凹部27bの歯部27aに常時噛み合う歯部とが伝達可能に連結される。
【0048】
また、伝達比可変機構として、各上記実施形態で説明したのとは異なる歯車機構を用いてもよい。すなわち、運転者の操作に応じて第1位置と第2変位とに変位する変位部材を備え、この変位部材の変位に応じて動力伝達経路が変わるようにされた電動パワーステアリング装置に本発明を適用することができる。
さらに、各上記実施形態では、ステアリングシャフト3の出力軸15から転舵機構9に操舵補助力を負荷するコラムアシストタイプの操舵補助機構12を説明したけれども、これに限定されない。例えば、ピニオン軸7やラック軸8から転舵機構9に操舵補助力を負荷する構成でもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…電動パワーステアリング装置、2…操舵部材、9…転舵機構、13,13A…伝達比可変機構、14…入力軸、15…出力軸、18…操舵補助モータ、26…入力部材、27…出力部材、28,28A…中間部材、29…変位部材、30…入力歯車、34…操作部材、35…出力歯車、41…第1歯部、42…第2歯部、51…第1動力伝達経路、52,52A…第2動力伝達経路、56…操作部材、P1…第1位置、P2…第2位置、θ1…操舵角(入力軸の回転角)、θ2/θ1…伝達比、θ2…転舵角(出力軸の回転角)、θ21/θ11…第1伝達比、θ22/θ12,θ22A/θ12A…第2伝達比。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の操舵に応じて回転する入力軸と転舵機構の動作に連動して回転する出力軸との間に配置され前記入力軸の回転角に対する前記出力軸の回転角の比である伝達比を変更可能な伝達比可変機構と、
前記操舵部材の操舵を補助する操舵補助力を発生するための操舵補助モータとを備え、
前記伝達比可変機構は、運転者の操作に応じて所定の第1位置および第2位置に変位可能な変位部材と、この変位部材が前記第1位置にあるときに所定の第1伝達比で前記入力軸と前記出力軸とを動力伝達可能に連結する第1動力伝達経路と、前記変位部材が前記第2位置にあるときに所定の第2伝達比で前記入力軸と前記出力軸とを動力伝達可能に連結する第2動力伝達経路と、を含んでいることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記運転者が前記変位部材を操作するための操作部材をさらに備えていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記第1動力伝達経路は、前記変位部材を含み前記入力軸に連結された入力部材と、前記変位部材が前記第1位置にあるときに前記入力部材に一体回転可能に連結され且つ前記出力軸に連結された出力部材と、を含んでいることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1,2または3において、前記第2動力伝達経路は、前記変位部材および入力歯車を含み前記入力軸に連結された入力部材と、出力歯車を含み前記出力軸に連結された出力部材と、前記変位部材が前記第2位置にあるときに前記入力歯車に噛み合う第1歯部および前記出力歯車に噛み合う第2歯部を含む中間部材と、を含んでいることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−40913(P2012−40913A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182411(P2010−182411)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】