説明

電動パワーステアリング装置

【課題】ウォーム減速機にシール構造を採用しても大型化することなく、操舵フィーリングの低下を抑制できる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】ウォーム減速機のウォーム16の回転軸は、モータの出力軸と継合するためのカップリング26に固定されている。ウォーム16とウォームハウジング20との間に介装されウォーム16を支持する軸受21は、ウォームハウジング20に嵌着され、軸受予圧用ナット24により締め付け固定されている。軸受予圧用ナット24には、円形状のシール材25が螺合され、軸受21の外周面に一体形成されている。シール材25は、金属あるいは樹脂材料により形成され、ウォーム16の回転軸および軸受21に摺接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の操舵系では、電動モータを動力源として操舵アシストを行わせる、いわゆる電動パワーステアリング装置が広く採用されている。電動パワーステアリング装置では、ステアリングホイールに印加された操舵トルクに対応して、電動モータから操舵アシストトルクを発生して、動力伝達機構(減速機)により減速して電動モータの発生トルクを操舵機構の出力軸に伝達するようになっている。この減速機として、ウォームギヤ機構を用いた電動パワーステアリング装置では、電動モータの駆動軸側のウォームにウォームホイールが噛合されており、このウォームホイールは、操舵機構の出力軸(例えば、ピニオン軸、コラム軸)に嵌合されている。
【0003】
従来、この種の減速機では、ベアリング(軸受)が減速ギヤ室等のハウジングに嵌着され、回転軸を回転自在に支承している。そして、回転軸とベアリングを内部側に押し付けるベアリング押えの内径面との間にできる隙間を通して生じる、外部からの異物の進入、あるいは外部への潤滑油等の漏れを防止するため、隙間をシールする方法がとられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−266101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このシール方法は、シール材が金属あるいは硬質の樹脂材料からなり、回転軸が高速回転すると低粘度の潤滑油に対しては隙間から油漏れが発生するおそれがある。また、ウォームギヤ機構の減速機を小型化するために金属製のウォームホイールを採用し、潤滑剤として油を使用した場合、減速ギヤ室の内外を隔離し、減速ギヤ室の嵌合部分に更なるシール(密封)構造を設ける必要がある。その結果、このシール構造を採用すると減速機の構造が複雑化、大型化するとともに、ウォームのロストルクが増加することによりアシストトルクが低下し、操舵フィーリングが悪化するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ウォーム減速機にシール構造を採用しても大型化することなく、操舵フィーリングの低下を抑制できる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、アシストトルクを発生させるモータの出力軸に継合されるウォームと、ステアリングシャフトに繋がり、前記ウォームに噛合するウォームホイールとにより、前記モータ出力を減速するウォーム減速機を備えた電動パワーステアリング装置において、前記ウォーム減速機は、前記ウォームおよび前記ウォームホイールからなる減速ギヤを潤滑する油と、前記ウォームのモータ継合部側の外周に軸受を介して配置されたシール手段と、を備えることを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、ウォーム減速機のウォームとウォームホイールに金属製部材を採用し、潤滑剤に油を使用した場合、ウォームのモータ継合部側の外周面にシール材が一体となった軸受与圧用ナットを締め付けて軸受を固定する。このシール付軸受を使用することにより、ウォームと軸受固定用ナットとの隙間部分が確実にシールされ、外部と遮断される。その結果、外部への潤滑油漏れ、あるいは外部からの異物の進入を防止できる。また、ウォームにシールを設けても減速機が大型化することなく、ロストルクの増加を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
ウォーム減速機にシール構造を採用しても大型化することなく、操舵フィーリングの低下を抑制できる電動パワーステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図。
【図2】本発明の一実施形態に係るウォーム減速機の構成を示す正面図。
【図3】図2において、ウォームのシール要部を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の一実施形態に係るウォーム減速機について、図に基づいて説明する。なお、本実施形態では、コラムアシストタイプの電動パワーステアリング装置に具体化した構成を例にとり説明する。
【0012】
図1は、電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、電動パワーステアリング装置1において、ステアリングホイール2と一体回転するステアリングシャフト3は、ステアリングホイール2側からコラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9およびピニオンシャフト10の順に連結されている。ピニオンシャフト10は、これに直交して設けられるラック軸5のラック部分5aに噛合されている。ステアリング操作にともなうステアリングシャフト3の回転は、ピニオンシャフト10およびラック部分5aからなるラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。この往復直線運動が、ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルアームに伝達されることにより、転舵輪12の舵角が変更される。
【0013】
また、電動パワーステアリング装置1は、操舵系にステアリング操作を補助するための操舵補助力(以下、アシスト力という)を付与する操舵力補助装置(パワーアシストユニット)13、および操舵力補助装置13の作動を制御する電子制御装置(以下、ECUという)14を備えている。
【0014】
操舵力補助装置13の駆動源であるモータ15は、ウォーム16およびウォームホイール17からなる減速機構(以下、ウォーム減速機という)18を介してコラムシャフト8に作動連結されている。モータ15の回転力はウォーム減速機18により減速されて、この減速された回転力がアシスト力として操舵系、正確にはコラムシャフト8に伝達される。
【0015】
ECU14は、このアシスト力を以下のようにして制御する。すなわち、ECU14は、転舵輪12等に設けられる車速センサ19を通じて車速Vを、また、コラムシャフト8の図示しないトーションバーに設けられるトルクセンサ7を通じてステアリングホイール2に印加される操舵トルクτを取得する。そして、ECU14は、これら車速Vおよび操舵トルクτに基づき目標アシストトルクを算出し、この算出される目標アシストトルクを発生させるためモータ15の給電制御を行う。このモータ15の給電制御を通じて操舵系に印加されるアシスト力が制御される。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態に係るウォーム減速機18の構成を示す正面図である。図2に示すように、ウォーム減速機18は、ウォーム16を回転可能に支持するウォーム側軸受21,22と、ウォーム側軸受21,22、ウォーム16、ウォームホイール17等を収容するウォームハウジング20とを有している。
【0017】
ここで、ウォーム16およびウォームホイール17は、ともに金属製であり、潤滑剤として例えば油が使用されている。ウォームハウジング20は、図示しないステアリングコラムに固定されている。ウォームハウジング20内で、ウォームホイール17は、ステアリングシャフト3と一体に回転可能に取り付けられている。ウォームハウジング20はウォーム16の回転軸および円柱部を、それぞれウォーム側軸受21,22を介して回転可能に支持している。ウォーム側軸受22は、ウォームハウジング20に設けられたねじ機構、調整部材等により、その位置が調整可能に支持されている。さらに、ウォームホイール17は、図示しない軸受を介して、直接、ウォームハウジング20に回転自在に支持されている。
【0018】
図3は、図2のウォーム減速機18において、ウォーム16のシール要部23を示す概念図である。図3に示すように、ウォーム16の回転軸は、モータ15の出力軸(図1参照)と継合するためのカップリング(モータ継合部)26に固定されている。ウォーム16とウォームハウジング20との間に介装されウォーム16を支持する軸受21は、ウォームハウジング20に嵌着され、軸受予圧(固定)用ナット24により軸方向内部側に締め付け固定されている。ここで、軸受予圧用ナット24には、円形状のシール材(シール手段)25が螺合され、軸受21の外周面に一体形成されている。このシール材25は、例えば、金属あるいは樹脂材料により形成され、ウォーム16の回転軸および軸受21に摺接している。
【0019】
次に、上記のように構成された本実施形態のウォーム減速機18の作用および効果について説明する。
【0020】
上記構成によれば、ともに金属製のウォーム16とウォームホイール17とを採用したウォーム減速機18において、潤滑剤に油を使用した場合、ウォーム16のカップリング(モータ継合部)26側の軸受21の外周面に対してシール材25が一体となった軸受予圧用ナット24を締め付けて軸受21を固定する。
【0021】
その結果、上記構成のいわゆるシール付軸受21を使用することにより、ウォーム16と軸受予圧用ナット24との隙間部分が確実にシールされ、外部と遮断される。また、ウォーム16にシール材(シール手段)26を設けることで、減速機が大きくなることなくロルトルクの増加を抑制することが可能となり、アシストトルクの低下を防止できる。
【0022】
また、軸受予圧用ナット24とシール材25を一体で設けたことにより、シール構造が簡単となりウォーム16の組み付け性も向上する。加えて、金属製ウォームホイール17を採用することでウォーム減速機18を小型化できるとともに、潤滑剤として油を使用していることにより、ウォーム16とウォームホイール17のギヤの噛合部での熱の発生を抑制できる。
【0023】
以上のように、本実施形態によれば、ウォーム減速機にシール構造を採用しても大型化することなく、操舵フィーリングの低下を抑制できる電動パワーステアリング装置を提供できる。
【0024】
以上、本発明に係る一実施形態について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでなく、さらに他の形態で実施することも可能である。
【0025】
上記実施形態では、ウォームのモータ軸との継合部側にシール付軸受を介してシール構造を形成する方法について説明したが、これに加えて、ウォームホイールのウォームハウジングとトルクセンサを装着したセンサハウジングとの嵌合部分に、例えば、ねじ部を形成し、ハウジング同士を締結することによりシール効果を増すことが可能になる。
【0026】
また、上記実施形態では、電動パワーステアリング装置のいわゆるコラムアシストタイプに減速ギヤを適用した例を挙げて説明したが、これに限定されるものでなく、ピニオンアシストタイプやラックアシストタイプの電動パワーステアリング装置に適用してもよいし、油圧パワーステアリング装置に適用してもよく、また、他の装置のギヤ機構として適用してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1:電動パワーステアリング装置、2:ステアリングホイール、
3:ステアリングシャフト、7:トルクセンサ、8:コラムシャフト、
13:操舵力補助装置、14:ECU、15:モータ、16:ウォーム、
17:ウォームホイール、18:ウォーム減速機(減速機構)、
20:ウォームハウジング、21,22:ウォーム側軸受、23:ウォームシール要部、
24:軸受予圧用ナット、25:シール材(シール手段)、
26:カップリング(モータ継合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシストトルクを発生させるモータの出力軸に継合されるウォームと、
ステアリングシャフトに繋がり、前記ウォームに噛合するウォームホイールとにより、
前記モータ出力を減速するウォーム減速機を備えた電動パワーステアリング装置において、
前記ウォーム減速機は、前記ウォームおよび前記ウォームホイールからなる減速ギヤを潤滑する油と、
前記ウォームのモータ継合部側の外周に軸受を介して配置されたシール手段と、を備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−35471(P2013−35471A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174532(P2011−174532)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】