説明

電動パーキングブレーキ

【課題】ケーブルのストロークを計測し、記憶しているストローク値と比較計算することで、荷重センサの異常時でもパーキングブレーキの作動・解除ができるようにする。
【解決手段】引き作動を行なう場合、モータを正転させて、一定時間内で荷重センサからのケーブル張力が目標ケーブル引き張力THに達していないかを判断し(ステップS2)、達していない場合はステップS6で計測ストローク値と、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値とを比較する。計測ストローク値の大きい場合には引き作動が終了したとしてモータを停止させる(ステップS5)。ステップS3で計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値βを減じた値より小さい場合は、荷重センサが異常状態であり、ステップS7で計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上になるまでモータを回転させ、計測ストローク値が大となった場合に、モータを停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキングブレーキの作動、解除をモータとケーブルにて電動で行なうようにした電動パーキングブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パーキングブレーキの作動、解除をモータとケーブルにて電動で行なうこの種の電動パーキングブレーキでは、ケーブルに荷重センサが介装されていて、この荷重センサからケーブルの張力を検出し、パーキングブレーキを作動させる場合には、モータを例えば正転駆動してケーブルの引き作動を行なう。そして、ケーブルの引き作動に伴い荷重センサからのケーブル張力が高くなり、予め設定した張力になった場合に、一定の制動力を確保したとして、モータを停止させてケーブルの引き作動を停止させる。これによりブレーキが掛かった状態となる。
【0003】
また、パーキングブレーキを解除する場合は、モータを逆転駆動してケーブルの戻し作動(解除)を行ない、荷重センサからのケーブル張力が所定の値まで下がった場合に、解除されたとしてモータを停止させてケーブルの戻し作動を停止する。これによりブレーキが解除されて走行可能な状態となる。
【0004】
上記のようにケーブルに介装した荷重センサからのケーブル張力を検出して、パーキングブレーキの作動、解除を行なっているものとして、例えば、下記の特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−128389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1も含めてこの種の電動パーキングブレーキシステムは、ECU(電子制御ユニット)と呼ばれる制御装置と、モータ、荷重センサ及びケーブルを備えたアクチュエータとで構成されている。そして、上記制御装置とアクチュエータとは、ハーネスにて接続されていて、荷重センサからの張力信号を受けた制御装置が、モータを回転制御するようにしている。
上記特許文献1では、パーキングブレーキの作動状態、解除状態を常時荷重センサからのケーブル張力のみで検出しているために、荷重センサから制御装置に伝達される信号が強い電波、電磁波等の外来ノイズ(外乱)によって不定となったり、接続用の端子やハーネスの断線により伝達されなくなった場合には、電動での引き作動または解除動作ができなくなるという問題があった。そのためには荷重センサの異常を確実に検知する必要がある。
【0007】
本発明は上述の問題点に鑑みて提供したものであって、引き作動、解除動作におけるケーブルのストロークを計測して、記憶しているストローク値に基づいて比較計算することで、荷重センサの異常時でもパーキングブレーキの作動・解除ができるようにすることを目的とした電動パーキングブレーキを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の電動パーキングブレーキでは、正逆回転駆動によりケーブル3を介してブレーキアッセンブリ4を作動状態または解除状態とするモータ11と、前記ケーブル3に加えられる張力を検出する荷重センサ15と、ブレーキ作動時及びブレーキ解除時に前記ケーブル3が移動するストローク値を計測するストローク計測手段34と、操作スイッチ5の信号及び前記荷重センサ15からの荷重信号に応じて前記モータ11の回転駆動を制御する制御部31と、前記ストローク値を記憶する記憶部32とを備え、
前記制御部31は、ブレーキ作動時に前記張力が目標ケーブル引き張力THに到達した時点でブレーキ作動を終了し、ブレーキ解除時に前記張力が目標ケーブル戻し張力TLに到達した時点でブレーキ解除を終了するものであって、
前記制御部31による制御が、
モータ11を回転させる第一ステップと、前記荷重センサ15の信号により前記張力が所定時間内に目標張力値に到達したかどうかを確認する第二ステップと、前記第二ステップにおいて目標張力値に到達したことが確認された場合に前記ストローク計測手段34により計測された計測ストローク値と前記記憶部32の記憶ストローク値から誤差値βを減じた値とを比較する第三ステップと、前記第三ステップにおいて計測ストローク値が記憶ストローク値から誤差値βを減じた値以上であった場合に前記モータ11を停止する第四ステップと、前記第三ステップにおいて計測ストローク値が前記記憶ストローク値から誤差値βを減じた値より小さい場合に前記計測ストローク値と記憶ストローク値に誤差値αを加えた値とを比較する第五ステップと、前記第五ステップにおいて計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上である場合にモータ11を停止させ、
前記目標張力値は前記目標ケーブル引き張力の値TH及び/または目標ケーブル戻し張力の値TLであり、前記誤差値αは、荷重センサ15の前記目標ケーブル引き張力THまたは目標ケーブル戻し張力TLの特性誤差分のストロークとして見込まれるプラス側の値であり、前記誤差値βは荷重センサ15の目標ケーブル引き張力THまたは目標ケーブル戻し張力TLの特性誤差分のストロークとして見込まれるマイナス側の値であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
(1)本発明の電動パーキングブレーキによれば、荷重センサ15から制御装置1へ伝達される信号が、外乱ノイズによって不定となったり、端子やハーネスの断線により伝達されなくなった場合であってもケーブル3のストローク値を計測して、記憶しているストローク値に基づいて比較計算することで、荷重センサ15等の異常時でもパーキングブレーキの作動、解除を行なうことができる。
【0010】
(2)本発明の電動パーキングブレーキによれば、荷重センサ15が異常状態となった場合でも、モータ11によるケーブル3のストローク値を計測していることで、正常にパーキングブレーキの引き作動、解除を行なうことができる。
【0011】
(3)本発明の電動パーキングブレーキによれば、ブレーキ作動時において、第三ステップにおいて計測ストローク値が記憶ストローク値から誤差値βを減じた値以上であった場合に計測ストローク値を記憶ストローク値として記憶させるようにしているので、荷重センサ15の特性誤差内のストロークを記憶することができ、ブレーキ作動時において正確なストロークを記憶することができる。
【0012】
(4)本発明の電動パーキングブレーキによれば、ブレーキ解除時において、前記制御は、前記回転が逆回転であり、前記目標張力値が前記目標ケーブル戻し張力TLの値であって、前記第三ステップにおいて計測ストローク値が記憶ストローク値から誤差値βを減じた値以上であった場合に計測ストロークのリセットを行なう、つまり計測ストローク値は記憶しないようにしている。これにより、経年変化によりケーブルが伸びた場合でも、ブレーキ解除を確実に行なうことができる。
【0013】
(5)本発明の電動パーキングブレーキによれば、荷重センサ15が異常状態となっても、モータ11を回転し続けてケーブル3を引き作動、または解除方向に動作させることで、パーキングブレーキを正常に引き作動、解除させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態における電動パーキングブレーキシステムの概略ブロック構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における引き作動と解除時のケーブル張力特性、駆動電流特性及び回転パルス入力の波形を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態における引き作動を行なう場合の制御動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態における解除を行なう場合の制御動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は電動パーキングブレーキシステムの概略ブロック構成図を示し、マイクロコンピュータからなる制御装置1と、この制御装置1により制御されるアクチュエータ2と、このアクチュエータ2によりケーブル3の引き作動、解除がされることで、パーキングブレーキの作動、解除が行なわれるブレーキアッセンブリ4等で構成されている。
また、この電動パーキングブレーキシステムには、パーキングブレーキを作動、解除するために制御装置1に信号を送る操作スイッチ5が設けられている。
【0016】
アクチュエータ2は、制御装置1により正転、逆転駆動される正逆回転可能なモータ11と、このモータ11の回転数を減速させる複数段のギアからなる減速機構12と、この減速機構12の出力にて回転駆動されるスクリュー13と、このスクリュー13の回転により該スクリュー13の軸方向に往復動し、イコライザー機構を構成しているナット14と、後述する荷重センサ15等で構成されている。
また、ナット14の一方の端部には図中左側のケーブル3が接続され、ナット14の他方の端部側は荷重センサ15を介したケーブル3(図中の右側)が接続され、両ケーブル3の他端はブレーキアッセンブリ4側に接続されている。
【0017】
上記荷重センサ15は、ケーブル3に作用する荷重(張力)を検出するものであり、この荷重センサ15で検出したケーブル張力を制御装置1へ送っている。この荷重センサ15は、基本的には上記特許文献1に記載されているものと同じであり、主な構成部材として、シャフト20と、主ばね21と、副ばね22と、マグネット23と、ホールIC24等で構成されている。
【0018】
ケーブル3を引き作動、解除するに従いシャフト20が軸方向に往復動し、このシャフト20の往復動と共に、マグネット23が往復動する。このマグネット23の往復動により該マグネット23に対応して配置されているホールIC24が、ケーブル3の荷重に相当する主ばね21と副ばね22との圧縮、伸長変形量に応じた電圧をケーブル張力として制御装置1へ出力するようになっている。
【0019】
また、アクチュエータ2のモータ11の出力側には、該モータ11の回転を検知するマグネット16及びホールIC17からなる回転センサ18が設けられている。
【0020】
図2は、パーキングブレーキの引き作動と解除時の荷重センサ15から出力されるケーブル張力特性と、モータ11の駆動電流特性及び回転センサ18から出力される回転パルスを示し、図2(a)が引き作動時を、図2(b)が解除時をそれぞれ示している。
操作スイッチ5からパーキングブレーキの引き作動の指令が制御装置1へ送られると、モータ11が正転駆動されてケーブル3が引き作動される。ケーブル3が引き作動されると荷重センサ15からケーブル張力が制御装置1へ送られ、また同時に回転センサ18から回転パルスが制御装置1へ送られる。そして、制御装置1では、予め設定したケーブル張力(図2(a)の目標ケーブル引き張力TH)を検出すると、モータ11を停止させて引き作動を終了する。
【0021】
また、パーキングブレーキの引き作動の状態から、解除をすべく操作スイッチ5からの信号が制御装置1へ送られると、制御装置1は、モータ11を逆転駆動して、ケーブル3を解除方向に戻す。制御装置1では、荷重センサ15からのケーブル張力が予め設定した値(図2(b)の目標ケーブル戻し張力TL)を検出した場合には、パーキングブレーキの解除が終了したとしてモータ11を停止させる。また、解除の動作中に回転センサ18からの回転パルスが制御装置1へ送られている。このようにして、パーキングブレーキの引き作動、解除が行なわれる。
【0022】
図3は本発明の電動パーキングブレーキに関連したブロック図を示し、マイクロコンピュータからなる制御装置1は、制御部31と、記憶部32と、張力比較判断部33と、ストローク計測部34と、ストローク値比較判断部35と、モータ駆動制御部36等で構成されている。
上記制御部31は、所定のプログラムの手順に沿って全体を制御するものであり、また、記憶部32は、前記プログラムを格納しているROMや、荷重センサ15やストローク計測部34からのデータを一時的に保存するRAM等で構成されている。
【0023】
張力比較判断部33は、荷重センサ15から入力されるケーブル張力と、記憶部32あるいは該張力比較判断部33自体に記憶している目標ケーブル引き張力THまたは目標ケーブル戻し張力TLとを比較判断するものである。ストローク計測部34は、回転センサ18からのパルスをアップカウントまたはダウンカウントすることで、引き作動、解除におけるケーブル3が移動するストローク値を計測するものである。
ストローク値比較判断部35は、ストローク計測部34で前回計測して記憶部32または該ストローク値比較判断部35自体に記憶させている記憶ストローク値と、今回計測したストローク値とを比較判断するものである。また、モータ駆動制御部36は、制御部31からの指令によりモータ11を正転または逆転駆動するものであり、例えば、PWM制御にてモータ11を制御している。
【0024】
次に、荷重センサ15から制御装置1へ伝達される信号が、外乱ノイズによって不定となったり、端子やハーネスの断線により伝達されなくなった場合であってもケーブル3のストローク値を計測して、記憶しているストローク値に基づいて比較計算することで、荷重センサ15等の異常時でもパーキングブレーキの作動、解除が行なえ得る本発明の制御動作について説明する。
【0025】
先ず、パーキングブレーキの引き作動をする場合について図4のフローチャートにより説明する。操作スイッチ5から引き作動の指令があると、制御装置1の制御部31がモータ駆動制御部36を制御してモータ11を正転駆動する(ステップS1参照)。
ステップS1からステップS2に移行して、引き作動が終了する目標ケーブル引き張力TH(図2(a)参照)が得られるであろう予め設定した一定時間内で荷重センサ15からのケーブル張力が目標ケーブル引き張力THに達した否かを張力比較判断部33にて判断する。荷重センサ15からのケーブル張力が目標ケーブル引き張力THに達した場合には、ステップS2からステップS3に移行する。
【0026】
ステップS3では、ストローク計測部34により計測された計測ストローク値と、記憶部32の記憶ストローク値から誤差値βを減じた値とをストローク値比較判断部35にて比較する。そして、計測ストローク値が記憶ストローク値から誤差値βを減じた値以上であった場合には、ステップS4に移行して、今回ストローク計測部34で計測した計測ストローク値を記憶ストローク値として記憶部32に記憶更新する。
ここで、ステップS3における誤差値βとは、荷重センサ15の特性誤差分のストロークをいい、この種の荷重センサ15は、一般的に値が高い目に出る特性があるため、記憶ストローク値からこの誤差分だけ誤差値βを減じている。
【0027】
ステップS4において、荷重センサ15が正常であるとして、計測ストローク値を記憶ストローク値として記憶部32に記憶更新してステップS5に移行して、制御部31はモータ駆動制御部36を制御してモータ11を停止させ、パーキングブレーキの引き作動を完了する。
【0028】
ここで、前もって測定等により知り得た荷重センサ15の特性誤差に相当する誤差量が計測ストローク値との比較により検知された場合には、特性誤差が無い場合は記憶ストローク値を記憶し、特性誤差がある場合、記憶しないようにしても良い。
【0029】
上記ステップS2において、荷重センサ15にて計測したケーブル張力が目標ケーブル引き張力THの値に達しない場合にはステップS6に移行する。ステップS6では、計測ストローク値と、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値とをストローク値比較判断部35にて比較する。
ここで、誤差値αは、荷重センサ15の特性誤差分のストロークの値をいう。
【0030】
上記ステップS6において、計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上であった場合には、ケーブル3のストローク値は引き作動を終了した値以上作動したと判断して、ステップS5に移行してモータ11を停止させる。
このステップS6において計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上であった場合ということは、荷重センサ15からのケーブル張力は、本来、目標ケーブル引き張力THが出力されているはずであるが、ステップS2において荷重センサ15からのケーブル張力は目標ケーブル引き張力THに達していないということから、荷重センサ15が異常をきたしているということを意味している。
【0031】
したがって、ステップS2及びステップS6において、荷重センサ15が異常状態となった場合でも、モータ11によるケーブル3のストローク値を計測していることで、正常にパーキングブレーキの引き作動を行なうことができる。
【0032】
また、ステップS6において、計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値より小さい場合には、ステップS2に戻ってこれを繰り返す。これは、引き作動を終了するには至らないストローク値のため、ステップS2またはステップS6において「Yes」となるまで繰り返すものである。つまり、モータ11を回転し続ける。
【0033】
次に、上記ステップS3において、計測ストローク値が、記憶ストローク値から誤差値βを減じた値より小さい場合には、ステップS7に移行する。このステップS3における比較判断は、ステップS2において荷重センサ15からのケーブル張力が目標ケーブル引き張力THに達しているという信号を出力しているにも関わらず、引き作動の終了に対応したケーブル3のストローク値に達していないということであり、このことは、荷重センサ15が誤った信号を出力していることになる。
【0034】
そこで、このステップS7では、計測ストローク値と記憶ストローク値に誤差値αを加えた値とを比較し、計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上になるまで繰り返しモータ11を回転し続ける。
そして、計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上になった場合には、ケーブル3にて引き作動を完了するに十分なストローク値が出力されたとして、ステップS5に移行してモータ11を停止させて引き作動を終了する。
【0035】
これにより、ステップS3において、計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値βを減じた値より小さい場合となって、荷重センサ15が異常状態となっても、ステップS7において、計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上になるまで、モータ11を回転し続けてケーブル3を引き動作することで、パーキングブレーキを正常に引き作動させることができる。
【0036】
次に、パーキングブレーキの解除動作を行なう場合の制御動作について図5のフローチャートにより説明する。操作スイッチ5からの解除信号により制御部31がモータ駆動制御部36を制御してモータ11を逆転駆動する(ステップS11参照)。
ステップS11からステップS12に移行して、解除動作が終了する目標ケーブル戻し張力TL(図2(b)参照)が得られるであろう予め設定した一定時間内で荷重センサ15からのケーブル張力が目標ケーブル戻し張力TLに達した否かを張力比較判断部33にて判断する。荷重センサ15からのケーブル張力が目標ケーブル戻し張力TLに達した場合には、ステップS12からステップS13に移行する。
【0037】
ステップS13では、ストローク計測部34により計測された計測ストローク値と、記憶部32の記憶ストローク値から誤差値βを減じた値とをストローク値比較判断部35にて比較する。ここで、誤差値βは、荷重センサ15の特性誤差分のストロークの値をいう。
【0038】
ステップS13において、計測ストローク値が、記憶ストローク値から誤差値βを減じた値以上となった場合には、すなわち、ステップS12において荷重センサ15から目標ケーブル戻し張力TLが検知され、且つ計測ストローク値が記憶ストローク値−β以上であれば、確実にケーブル3が解放された時点の位置であるため、ステップS14に移行して計測ストローク値のリセットを行なう。つまり、計測ストローク値を記憶しないようにしている。
そして、ステップS14からステップS15に移行してパーキングブレーキの解除が完了するのに対応したケーブル3のストロークが戻され、解除が終了したと判断してモータ11を停止させる。これにより、パーキングブレーキの解除が完了する。
【0039】
ここで、ブレーキ解除の際にストロークは短めでブレーキ解除されるので、経年変化により記憶ストローク値は徐々に短くなる。そこで、ケーブル3の伸びを考慮するために計測ストローク値は解除時は目標ケーブル戻し張力TLで常にリセットする。つまり、計測ストローク値は記憶しないようにしている。これにより、経年変化によりケーブル3が伸びた場合でも、ブレーキ解除を確実に行なうことができる。
なお、図5に示すステップS14における計測ストローク値のリセットは、必須ではなく、任意の動作としても良い。
【0040】
ステップS12において、荷重センサ15で計測したケーブル張力が目標ケーブル戻し張力TLの値に達しない場合には、ステップS16に移行する。ステップS16では、計測ストローク値と、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値とをストローク値比較判断部35にて比較する。
このステップS16において、計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上であった場合には、ケーブル3のストローク値は解除を終了した値以上に動作したと判断して、ステップS15に移行してモータ11を停止させる。
【0041】
このステップS16において、計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値αを加えた以上であった場合ということは、荷重センサ15からのケーブル張力は、本来、目標ケーブル戻し張力TLが出力されているはずであるが、ステップS12において、荷重センサ15からのケーブル張力は目標ケーブル戻し張力TLに達していないということであり、荷重センサ15が異常状態となっていることを意味している。
したがって、ステップS12及びステップS16において、荷重センサ15が異常状態になった場合でも、モータ11によるケーブル3のストローク値を計測していることで、正常にパーキングブレーキの解除の動作を行なうことができる。
【0042】
また、ステップS16において、計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値より小さい場合には、ステップS12に戻ってこれを繰り返す。これは、解除を終了するには至らないストローク値のため、ステップS12またはステップS16において「Yes」となるまで繰り返すものである。すなわち、モータ11を回転し続けるものである。
【0043】
次に、ステップS13において、計測ストローク値が、記憶ストローク値から誤差値βを減じた値より小さい場合には、ステップS17に移行する。このステップS13における比較判断は、ステップS12において荷重センサ15からのケーブル張力が目標ケーブル戻し張力TLに達しているという信号を出力しているにも関わらず、解除の終了に対応したケーブル3のストローク値に達していないということであり、これは、荷重センサ15が誤った信号を出力していることになる。すなわち、荷重センサ15が異常状態となっている。
【0044】
そこで、このステップS17では、計測ストローク値と、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値とを比較し、計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上になった場合には、ケーブル3にて解除を完了するに十分なストローク値が出力されたとして、ステップS15に移行してモータ11を停止させて解除を完了する。
【0045】
ステップS17において、計測ストローク値と記憶ストローク値に誤差値αを加えた値とを比較し、計測ストローク値が、記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上になるまで繰り返しモータ11を回転し続ける。
このように、計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上になるまで、モータ11を回転し続けてケーブル3を解除する方向に移動させることで、パーキングブレーキを正常に解除させることができる。
【0046】
このように本実施形態では、荷重センサ15から制御装置1へ伝達される信号が、外乱ノイズによって不定となったり、端子やハーネスの断線により伝達されなくなった場合であってもケーブル3のストローク値を計測して、記憶しているストローク値に基づいて比較計算することで、荷重センサ15等の異常時でもパーキングブレーキの作動、解除が行なうことができる。
【0047】
なお、パーキングブレーキの引き作動、解除を行なう場合に、荷重センサ15が異常状態であることが認識できるステップ(引き作動時におけるステップS6、S7、解除時におけるステップS16、S17)において、荷重センサ15が異常となったことを報知するようにしても良い。
【符号の説明】
【0048】
3 ケーブル
4 ブレーキアッセンブリ
5 操作スイッチ
11 モータ
15 荷重センサ
31 制御部
34 ストローク計測部
TH 目標ケーブル引き張力
TL 目標ケーブル戻し張力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正逆回転駆動によりケーブル(3)を介してブレーキアッセンブリ(4)を作動状態または解除状態とするモータ(11)と、前記ケーブル(3)に加えられる張力を検出する荷重センサ(15)と、ブレーキ作動時及びブレーキ解除時に前記ケーブル(3)が移動するストローク値を計測するストローク計測手段(34)と、操作スイッチ(5)の信号及び前記荷重センサ(15)からの荷重信号に応じて前記モータ(11)の回転駆動を制御する制御部(31)と、前記ストローク値を記憶する記憶部(32)とを備え、
前記制御部(31)は、ブレーキ作動時に前記張力が目標ケーブル引き張力(TH)に到達した時点でブレーキ作動を終了し、ブレーキ解除時に前記張力が目標ケーブル戻し張力(TL)に到達した時点でブレーキ解除を終了するものであって、
前記制御部(31)による制御が、
モータ(11)を回転させる第一ステップと、
前記荷重センサ(15)の信号により前記張力が所定時間内に目標張力値に到達したかどうかを確認する第二ステップと、
前記第二ステップにおいて目標張力値に到達したことが確認された場合に前記ストローク計測手段(34)により計測された計測ストローク値と前記記憶部(32)の記憶ストローク値から誤差値βを減じた値とを比較する第三ステップと、
前記第三ステップにおいて計測ストローク値が記憶ストローク値から誤差値βを減じた値以上であった場合に前記モータ(11)を停止する第四ステップと、
前記第三ステップにおいて計測ストローク値が前記記憶ストローク値から誤差値βを減じた値より小さい場合に前記計測ストローク値と記憶ストローク値に誤差値αを加えた値とを比較する第五ステップと、
前記第五ステップにおいて計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上である場合にモータ(11)を停止させ、
前記目標張力値は前記目標ケーブル引き張力の値(TH)及び/または目標ケーブル戻し張力の値(TL)であり、
前記誤差値αは、荷重センサ(15)の前記目標ケーブル引き張力(TH)または目標ケーブル戻し張力(TL)の特性誤差分のストロークとして見込まれるプラス側の値であり、
前記誤差値βは荷重センサ(15)の目標ケーブル引き張力(TH)または目標ケーブル戻し張力(TL)の特性誤差分のストロークとして見込まれるマイナス側の値であることを特徴とする電動パーキングブレーキ。
【請求項2】
前記第二ステップにおいて目標張力値に到達していない場合に前記計測ストローク値と記憶ストローク値に誤差値αを加えた値とを比較する第六ステップと、
前記第六ステップにおいて前記計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以上であった場合にはモータ(11)を停止する第七ステップとを有し、
前記第六ステップにおいて前記計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値より小さい場合には前記第二ステップを繰り返すようにしていることを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ。
【請求項3】
前記制御がブレーキ作動時の制御を含み、ブレーキ作動時において、前記制御は、前記回転が正回転であり、前記目標張力値が前記目標ケーブル引き張力(TH)の値であって、前記第三ステップにおいて計測ストローク値が記憶ストローク値から誤差値βを減じた値以上であった場合に計測ストローク値を記憶ストローク値として記憶させるようにしていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動パーキングブレーキ。
【請求項4】
前記制御がブレーキ解除時の制御を含み、ブレーキ解除時において、前記制御は、前記回転が逆回転であり、前記目標張力値が前記目標ケーブル戻し張力(TL)の値であって、前記第三ステップにおいて計測ストローク値が記憶ストローク値から誤差値βを減じた値以上であった場合に計測ストローク値を記憶しないようにしていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電動パーキングブレーキ。
【請求項5】
ブレーキ作動時において、前記第五ステップで計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以下である場合に第五ステップを繰り返し、ブレーキ解除時において第五ステップで計測ストローク値が記憶ストローク値に誤差値αを加えた値以下である場合に前記第五ステップを繰り返すようにしていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電動パーキングブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−93333(P2011−93333A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246176(P2009−246176)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコーポレーション (362)
【Fターム(参考)】