説明

電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法

【課題】作動応答性のよい電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法の提供。
【解決手段】ブレーキアクチュエータ6は、電動モータ61の回転を直進運動に変換してピストンに伝達し、ピストンによってブレーキパッドをディスクロータに押圧することにより車輪に制動力を発生させる。ブレーキ操作が終了すると、ブレーキ制御装置2は電動モータ61を戻り方向に対応する方向に回転させ、制動力が解消した時の電動モータ61の回転位置を検出する。ブレーキ制御装置2はさらに電動モータ61を戻り方向に回転させ、制動力が解消した時の回転位置と、現在の電動モータ61の回転位置との間の差が基準回転範囲内に入るように、電動モータ61の回転位置を調整した後、ロック機構によって電動モータ61の回転を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制動時に、電動モータを駆動して車輪に制動力を付与する電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪に取り付けられ、電動モータを作動させることにより車輪に制動力を付与する電動ブレーキ装置に関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された電動ブレーキ装置は、ブレーキペダル操作時に、電動モータの回転をボールネジを介して直線運動に変換し、加圧部材を直進させてブレーキパッドをディスクロータに押圧している。
【0003】
上述の電動ブレーキ装置は、ブレーキパッドを押圧する加圧部材とキャリパとの間に圧縮スプリングが介装され、ブレーキペダルの非操作時には、圧縮スプリングに発生した付勢力によって加圧部材を強制的に移動させ、ブレーキパッドをディスクロータから離れる方向に戻している。
これにより電動モータの故障時にも、車輪の引き摺りあるいはロックを防止し、運転者の予期せぬブレーキ作動を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−247306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された電動ブレーキ装置は、圧縮スプリングによって加圧部材を強制的に戻しているため、ブレーキペダルの操作終了時には、常に、加圧部材が最大の戻り位置まで後退して、ブレーキパッドとディスクロータとの間に所定の隙間が発生する。したがって、次回、ブレーキペダル操作が行われた場合に、ブレーキパッドがディスクロータに当接するまでに時間を要し、ブレーキ作動の応答遅れが発生する恐れがある。
【0006】
これを防止するためには、ブレーキペダルの非操作時に、作動遅れの発生しない位置に加圧部材を保持するように、常に電動モータに通電してその作動を制御する必要がある。その結果、消費電力が増大し、電動モータの劣化、発熱、低寿命化へとつながることがある。
また、特許文献1に開示された電動ブレーキ装置において、電動モータの故障と圧縮スプリングの経年劣化が重複して発生した時には、上述した場合とは逆に、加圧部材の戻り量が不足してブレーキの引き摺り等が発生する恐れがある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作動応答性のよい電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る電動ブレーキ装置の発明の構成は、車輪と一体に回転する被制動部材に対して、制動部材を押圧するピストンと、被制動部材に発生する制動力を検出する制動力検出手段と、ブレーキ操作量と制動力検出手段によって検出された制動力とに基づいて電流が供給され回転する電動モータと、電動モータによる回転を直進運動に変換してピストンに伝達する運動方向変換機構と、制動部材が被制動部材から離間する方向である戻り方向へ、電動モータが回転するように付勢する付勢手段と、少なくとも戻り方向への回転を規制した状態で電動モータを保持することが可能なロック機構と、電動モータおよびロック機構の作動を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、制動部材が押圧状態にない場合に、制動部材と被制動部材との間の隙間量が、基準範囲の内にあるか否かを判定する隙間判定手段と、隙間判定手段によって、隙間量が基準範囲の内にないと判定された時、電動モータを駆動して隙間量を調整する隙間調整手段と、を有し、制御手段は、制動部材が押圧状態にない場合に、隙間量が基準範囲の内に入るように、電動モータを駆動して隙間量を調整するとともに、ロック機構によって、隙間量が調整された状態で電動モータの回転を規制することである。
【0008】
請求項2に係る発明の構成は、請求項1の電動ブレーキ装置において、ロック機構は、車両の駐車時に被制動部材に制動力を発生させた状態において電動モータの回転を規制する電動パーキングブレーキ装置に含まれることである。
【0009】
請求項3に係る発明の構成は、請求項1または2の電動ブレーキ装置において、電動モータの回転位置を検出するモータ位置検出手段を備え、制御手段は、基準範囲を電動モータの回転位置に換算した値を基準回転範囲とし、隙間量を調整する場合、制動部材の押圧を解除して、戻り方向にピストンが移動する際に、制動力検出手段により検出された被制動部材に発生する制動力が解消する時の電動モータの回転位置を原点位置とし、ピストンをさらに戻り方向に移動させた場合の電動モータの回転位置と原点位置との間の差が、基準回転範囲の内に入るように電動モータの回転位置を調整することである。
【0010】
請求項4に係る発明の構成は、請求項1乃至3のうちのいずれかの電動ブレーキ装置において、制御手段は、制動部材が押圧状態にない時に、制動部材あるいは被制動部材の温度変化に基づいて、隙間量を修正することである。
【0011】
請求項5に係る電動ブレーキ装置の制御方法の発明の構成は、車輪と一体に回転する被制動部材に対して、制動部材を押圧するピストンと、被制動部材に発生する制動力を検出する制動力検出手段と、ブレーキ操作量と制動力検出手段によって検出された制動力とに基づいて電流が供給され回転する電動モータと、電動モータによる回転を直進運動に変換してピストンに伝達する運動方向変換機構と、制動部材が被制動部材から離間する方向である戻り方向へ、電動モータを付勢する付勢手段と、少なくとも戻り方向への回転を規制した状態で電動モータを保持することが可能なロック機構と、を備えた電動ブレーキ装置の制御方法であって、制動部材が押圧状態にない場合に、制動部材と被制動部材との間の隙間量が、基準範囲の内にあるか否かを判定する隙間判定ステップと、隙間判定ステップによって、隙間量が基準範囲の内にないと判定された時、電動モータを駆動して隙間量を調整する隙間調整ステップと、を有し、制動部材が押圧状態にない場合に、隙間量が基準範囲の内に入るように、電動モータを駆動して隙間量を調整するとともに、ロック機構によって、隙間量が調整された状態で電動モータの回転を規制することである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る電動ブレーキ装置によれば、制動部材が押圧状態にない場合に、制動部材と被制動部材との間の隙間量が基準範囲の内に入るように、電動モータを駆動して隙間量を調整するとともに、ロック機構によって、隙間量が調整された状態で電動モータの回転を規制することにより、ブレーキの非操作時に、隙間量が基準範囲の内に入った状態で電動モータの回転位置を保持することができ、制動部材の摩耗または付勢手段の劣化にもかかわらず、ブレーキの非操作時の引き摺りまたはロックを防止するとともに、次回のブレーキ操作が行われた場合に、その作動応答性を向上させることができる。
【0013】
また、制動部材と被制動部材との間の隙間量が基準範囲の内に入った状態で、ロック機構によって電動モータの回転を規制することにより、ブレーキの非操作時に、電動モータを作動させることなく制動部材の位置を保持することができるため、消費電力を低減し、電動モータの劣化、発熱を防ぐことができ、その長寿命化を実現できる。
また、電動モータによりピストンの位置を長時間保持する必要がないため、電動モータを小型化することができ、電動ブレーキ装置の低コスト化を実現することができる。
【0014】
請求項2に係る電動ブレーキ装置によれば、ロック機構は、車両の駐車時に電動モータの回転を規制する電動パーキングブレーキ装置に含まれることにより、電動モータの回転位置を保持するために、新たにロック機構を設ける必要がなく、製造が容易で低コストの電動ブレーキ装置にすることができる。
【0015】
請求項3に係る電動ブレーキ装置によれば、基準範囲を電動モータの回転位置に換算した値を基準回転範囲とし、隙間量を調整する場合、制動部材の押圧を解除して、戻り方向にピストンが移動する際に、被制動部材に発生する制動力が解消する時の電動モータの回転位置を原点位置とし、ピストンをさらに戻り方向に移動させた場合の電動モータの回転位置と原点位置との間の差が、基準回転範囲の内に入るように電動モータの回転位置を調整することにより、ブレーキ操作が解除される時に、制動部材と被制動部材との間の隙間量を容易に調整することができる。
【0016】
請求項4に係る電動ブレーキ装置によれば、制動部材が押圧状態にない時に、制動部材あるいは被制動部材の温度変化に基づいて、隙間量を修正することにより、電動モータの回転が規制されている間に、温度変化によって制動部材あるいは被制動部材に形状変化が発生して双方の間の隙間量が変化しても、隙間量を再び適正な量に修正することができる。
【0017】
請求項5に係る電動ブレーキ装置の制御方法によれば、制動部材が押圧状態にない場合に、隙間量が基準範囲の内に入るように、電動モータを駆動して隙間量を調整するとともに、ロック機構によって、隙間量が調整された状態で電動モータの回転を規制することにより、ブレーキの非操作時に、隙間量が基準範囲の内に入った状態で電動モータの回転位置を保持することができ、制動部材の摩耗または付勢手段の劣化にもかかわらず、ブレーキの非操作時の引き摺りまたはロックを防止するとともに、次回のブレーキ操作が行われた場合に、その作動応答性を向上させることができる。
【0018】
また、制動部材と被制動部材との間の隙間量を調整した状態で、ロック機構によって電動モータの回転を規制することにより、ブレーキの非操作時に、電動モータを作動させることなく制動部材の位置を保持することができるため、消費電力を低減し、電動モータの劣化、発熱を防ぐことができ、その長寿命化を実現できる。
また、電動モータによりピストンの位置を長時間保持する必要がないため、電動モータを小型化することができ、電動ブレーキ装置の低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態による電動ブレーキ装置の全体構成を示すブロック図
【図2】図1に示したブレーキアクチュエータがディスクロータと係合した状態の外観斜視図
【図3】図2に示したブレーキアクチュエータを、ディスクロータの回転軸方向にカットした状態を示した断面図
【図4】図3に表したロック機構を模式的に示した図
【図5】電動ブレーキ装置の制御方法の前半を表したフローチャートを示す図
【図6】電動ブレーキ装置の制御方法の後半を表したフローチャートを示す図
【図7】ブレーキパッドとディスクロータとの間の隙間量の調整方法を説明するための簡略図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1乃至図7に基づき、本発明の一実施形態による電動ブレーキ装置1について説明する。尚、図3に示したブレーキアクチュエータ6において、左右方向が後述するディスクロータ9(被制動部材に該当する)の回転軸φ方向である。また、図3において、左方を前方とし、右方を後方として説明する場合がある。
図1に示すように、本実施形態による電動ブレーキ装置1は車両Vに取り付けられ、ブレーキ制御装置2(制御手段に該当する)と、ブレーキ制御装置2によって作動制御されるブレーキアクチュエータ6とを備えている。
ブレーキアクチュエータ6は、電動モータ61、荷重センサ62(制動力検出手段に該当する)、ロック機構63(後述する)に含まれるソレノイドアクチュエータ631およびブレーキパッド65a、65b(制動部材に該当する)に取り付けられた温度センサ64を具備している。ブレーキアクチュエータ6については、後述する。
【0021】
また、ブレーキ制御装置2には、車両Vに設けられたEPB操作部材3、ペダルストロークセンサ4およびペダル踏力センサ5が電気的に接続されている。EPB操作部材3は、電動パーキングブレーキ(EPB)装置PDに含まれ、これに限定されるべきものではないが、例えば、運転席に設けられ、運転者により押圧操作される押しボタンにより形成される。
ペダルストロークセンサ4およびペダル踏力センサ5は、車両Vにおけるフットブレーキ(サービスブレーキ)の操作量として、それぞれブレーキペダルBPの操作ストロークおよび操作踏力を検出している。車両Vにおいて、ペダルストロークセンサ4およびペダル踏力センサ5のうち、いずれか一方のみを設けてもよい。
【0022】
ブレーキ制御装置2は、CPU、演算装置、記憶装置、入出力装置等を備えたコンピュータ装置であって、EPB操作部材3に接続されたEPB制御部21と、ペダルストロークセンサ4およびペダル踏力センサ5に接続された要求制動力演算部22とを備えている。
要求制動力演算部22は、ペダルストロークセンサ4またはペダル踏力センサ5によって検出されたブレーキペダルBPの操作量に基づいて、要求制動力を演算する。
EPB制御部21には、ソレノイドドライバ23を介して、前述のソレノイドアクチュエータ631が接続されている。また、EPB制御部21および要求制動力演算部22には、ともにフィードバック制御部24が接続されている。
【0023】
フィードバック制御部24には、モータドライバ25を介して電動モータ61が接続されている。また、フィードバック制御部24には、電動モータ61の回転位置を検出するレゾルバ611(モータ位置検出手段に該当する)と、ブレーキアクチュエータ6による制動力を検出する荷重センサ62が接続されている。
さらに、フィードバック制御部24は、制動力判定部241と制動力調整部242とを含んでいる。制動力判定部241は、荷重センサ62によって検出されたブレーキアクチュエータ6の制動力が、要求制動力演算部22によって算出された要求制動力に見合っているか否かを判定する。
また、制動力調整部242は、ブレーキアクチュエータ6の制動力が要求制動力に見合っていない場合、電動モータ61を駆動してブレーキアクチュエータ6の制動力を調整する。
【0024】
また、フィードバック制御部24は、隙間判定部243(隙間判定手段に該当する)と隙間調整部244(隙間調整手段に該当する)とを含んでいる。隙間判定部243は、後述するブレーキパッド65a、65bがディスクロータ9に対して押圧状態にない場合に、ブレーキパッド65a、65bとディスクロータ9との間の隙間量(以下、隙間量という)が、基準範囲の内にあるか否かを判定する。隙間調整部244は、隙間判定部243によって隙間量が基準範囲の内にないと判定された時、電動モータ61を駆動して隙間量を調整する。
さらに、EPB制御部21およびフィードバック制御部24にはモータ位置修正部26が接続され、モータ位置修正部26は、ブレーキパッド65a、65bに設けられた温度センサ64に接続されている。
【0025】
図2に示したように、本発明の構成外であるディスクロータ9は、その回転中心において車両Vの外方へと突出したハット部91と、ハット部91の周囲に形成され、後述するように、第1ブレーキパッド65aおよび第2ブレーキパッド65bによって挟圧されるプレート部92とを有している。
ハット部91の端面からは、複数のスタッドボルト93が突出している。ディスクロータ9は、これらのスタッドボルト93を用いて、車輪Wのディスクホイールに取り付けられており、これにより車輪Wと一体回転可能とされている。
【0026】
ブレーキアクチュエータ6のマウンティング66は、車両Vの図示しないナックルアームに取り付けられて固定されている。マウンティング66には、第1ブレーキパッド65aおよび第2ブレーキパッド65b(以下、双方を総称してブレーキパッド65a、65bという)が保持されている(図2において、第2ブレーキパッド65bのみ示す)。第1ブレーキパッド65aは、ディスクロータ9と後述するピストン69との間に配置されている。第1ブレーキパッド65aおよび第2ブレーキパッド65bは、それぞれ裏板651a、651bに摩擦材としてのライニング652a、652bが接合されて形成されている(図3示)。
【0027】
マウンティング66には、一対のスライドピン67を介して、ブレーキハウジング68がディスクロータ9の回転軸φ方向(以下、回転軸方向という)に移動可能に取り付けられている。ブレーキハウジング68は、ディスクロータ9のプレート部92を跨ぐように、その断面形状が略コの字状に形成されている(図2および図3示)。また、ブレーキハウジング68には、第2ブレーキパッド65bを押圧するための一対の爪部681が形成されている。
【0028】
図3に示したように、ブレーキハウジング68の内部にはシリンダ部682が形成されており、シリンダ部682の端部を封止するように電動モータ61が取り付けられている。電動モータ61からは、シリンダ部682内に進入するように、回転シャフト612が突出している。
また、シリンダ部682内には、第1ブレーキパッド65aと当接するようにピストン69が配置されている。ピストン69の外周面には、回転軸方向に延びるガイド溝691が形成され、ガイド溝691には、ブレーキハウジング68に着脱可能に設けられたガイドピン683が係合している。これによりピストン69は、シリンダ部682内において、回転軸方向に移動可能かつ回転不能に形成されている。
【0029】
ピストン69はカップ状に形成されており、シリンダ部682との間にリタンスプリング74(付勢手段に該当する)が介装されることにより、回転軸方向であって、第1ブレーキパッド65aがディスクロータ9から離れる向きである戻り方向(図3における右方であり、以下、当該方向を戻り方向という)に付勢されている。
リタンスプリング74はピストン69を押圧することにより、結果的に、後述する摩耗補償機構72、回転クサビ71およびサイクロイド減速機70を介して、電動モータ61の回転シャフト612が、ピストン69あるいは第1ブレーキパッド65aの戻り方向に対応する方向(以下、戻り方向に対応する方向という)に逆回転するように付勢している。
【0030】
ブレーキハウジング68内には、電動モータ61とピストン69との間に位置するように、前述したロック機構63、電動モータ61の回転を減速して伝達するサイクロイド減速機70、電動モータ61による回転を直進運動に変換してピストン69に伝達する回転クサビ71(運動方向変換機構に該当する)、ブレーキパッド65a、65bのライニング652a、652bが摩耗した際に、摩耗量に応じてピストン69をディスクロータ9に向けて所定量ずつ間欠的に突出させる摩耗補償機構72が設けられている。サイクロイド減速機70、回転クサビ71および摩耗補償機構72については後述する。
【0031】
ブレーキハウジング68内に形成されたホルダ73は、電動モータ61の回転シャフト612に対して、ラジアルニードルベアリング613を介して相対回転可能に設けられている。ホルダ73はシリンダ部682に対して、キー731を介して回転不能かつ回転軸方向に移動可能に係合している。
ホルダ73の後面(図3において右側面)には、前述した荷重センサ62が取り付けられている。荷重センサ62は、回転シャフト612の軸線を中心として、ホルダ73の円周上に均等間隔に3個が取り付けられている(図3において、1個のみ示す)。各々の荷重センサ62のホルダ73に取り付けられた面の反対側には、電動モータ61のモータケース616の端面が当接可能となっている。
【0032】
これにより荷重センサ62は、ブレーキパッド65a、65bがディスクロータ9に対し押圧されている場合に、第1ブレーキパッド65aからの反力を受けたホルダ73と、ブレーキハウジング68を介して第2ブレーキパッド65bからの反力を受けたモータケース616の端面とによって挟圧され、その時のブレーキアクチュエータ6の(ディスクロータ9に発生している)制動力を検出することができるように形成されている。
【0033】
サイクロイド減速機70は周知の構成であり、入力部材701と出力部材702とを備えている。入力部材701は、電動モータ61の回転シャフト612に形成された偏心軸部612aに対し、ラジアルニードルベアリング614を介して相対回転可能に取り付けられている。入力部材701の後面には突部701aが形成されており、突部701aはホルダ73の凹部732に遊嵌している。
【0034】
環状を呈する出力部材702は、入力部材701の外周側に配置されるとともに、その内周縁における円周上の1箇所にて入力部材701の外周面と噛合している。出力部材702は、ラジアルボールベアリング703とスラストニードルベアリング704とにより、ホルダ73に対して回転可能に係合している。
電動モータ61の回転シャフト612が回転すると、入力部材701が出力部材702に対して、円周上の1箇所において噛合しながら揺動することにより、電動モータ61の回転が減速されて出力部材702に出力される。
【0035】
回転クサビ71は、回転部材711、3組の転動体712、直動部材713および各転動体712を回転可能に支持する環状の支持プレート714を備えている。回転部材711は、支持プレート714および直動部材713を貫通する筒部711aを有していて、筒部711aは電動モータ61の回転シャフト612に対し、ラジアルニードルベアリング615を介して回転可能に取り付けられている。
また、回転部材711において、筒部711aに対して半径方向外方に形成された部位の前面には、回転カム(図示せず)が形成されている。さらに、回転部材711はキー711bを介して、サイクロイド減速機70の出力部材702と連結されており、出力部材702と一体的に回転する。
【0036】
各転動体712は、回転シャフト612の軸線を中心として、支持プレート714の円周上に均等間隔に取り付けられている。転動体712は支持プレート714とともに、シリンダ部682に対して回転軸方向に移動可能に設けられている。
直動部材713の後端面には、転動体712と係合可能な回転カム(図示せず)が形成されており、直動部材713はキー713aを介して、ホルダ73に対して回転不能かつ回転軸方向に移動可能に係合している。
サイクロイド減速機70の出力部材702によって回転部材711が回転されると、回転部材711および直動部材713に設けられた回転カムにより、回転部材711の回転運動は、直動部材713の回転軸方向への直進運動へと変換される。
【0037】
回転クサビ71の構成および作動は本発明の主眼ではないため、これ以上の説明は行わない。回転クサビ71のさらなる詳細については、特許公開公報である特開2011−43222号に記載されている。
また、ブレーキアクチュエータ6の運動方向変換機構として、回転クサビ71に代えて、例えば、特開2003−113877号に記載されているボールランプ機構、または特開2005−247306号に記載されているボールネジを適用してもよい。
【0038】
摩耗補償機構72はピストン69と回転クサビ71との間に配置され、入力部材721、出力部材722、レバー723および戻し捩りバネ724を備えている。入力部材721は、回転部材711の筒部711aの半径方向外方に回転可能に設けられている。入力部材721の内周部には球状面721aが形成され、球状面721aは、直動部材713の内周部分に形成された円錐面713bと摺動可能に接触している。この、入力部材721の球状面721aと、直動部材713の円錐面713bとの係合により、ピストン69のブレーキハウジング68に対する首振りを可能にしている。
【0039】
入力部材721は、連結ピン725および戻し捩りバネ724を介して、回転部材711の筒部711aに連結されている。また、入力部材721は、その外周部において、キー726を介して回転クサビ71の直動部材713と連結され、双方は一体的に回転軸方向に移動可能に形成されている。
出力部材722は環状の調整ネジであり、内周縁の全周にはラチェット歯722aが形成されているとともに、外周部には雄ネジ722bが形成されている。また、出力部材722の後面は、入力部材721の前面に設けられた摩擦係合面721bと摩擦係合可能に形成されている。各々のラチェット歯722aは、レバー723によって出力部材722を一方向に回転させるためのものであり、レバー723の爪(図示せず)が係脱可能に形成されている。
【0040】
雄ネジ722bは、ピストン69の内周に形成された雌ネジ692に対して噛合しており、出力部材722が一方向に回転することにより、ピストン69がディスクロータ9に向けて回転軸方向に移動可能となっている。
摩耗補償機構72の構成および作動についても本発明の主題ではないため、これ以上の説明は行わない。摩耗補償機構72のさらなる詳細な構成は、前述した特許公開公報である特開2011−43222号に記載されたものと同一である。
尚、摩耗補償機構72は、本発明による電動ブレーキ装置1において必須の構成ではなく、回転クサビ71の直動部材713によって直接にピストン69を押圧する構成にしてもよい。
【0041】
ロック機構63は、電動モータ61とサイクロイド減速機70との間に配置されている。図3に示したように、ロック機構63は、電動モータ61の回転シャフト612に対し一体回転可能なように固着されたロックギヤ632と、前述したソレノイドアクチュエータ631とにより形成されている。
図4に示したように、ロックギヤ632の外周面には、全周に渡って複数の歯部632aが形成されている。各々の歯部632aは、その断面形状が一対の斜面にて形成された略三角形を呈している。歯部632aは、後述するソレノイドアクチュエータ631のプランジャ部材631bと係合することにより、ピストン69をディスクロータ9に向けて近づける方向(以下、前進方向という)に対応する方向への電動モータ61の回転は許容されるが、戻り方向に対応する方向への電動モータ61の回転は禁止されるように、一方の斜面の傾きが他方の斜面の傾きよりも大きく形成されている。
【0042】
ソレノイドアクチュエータ631は、ブレーキハウジング68に取り付けられており、図4に示したように、アクチュエータ本体631a、アクチュエータ本体631aに移動可能に接続されたプランジャ部材631bおよびプランジャ部材631bをロックギヤ632と係合する方向に付勢するロックスプリング631cとにより形成されている。
アクチュエータ本体631aは、図示しないソレノイドを含んでおり、ソレノイドに通電されることにより、ロックスプリング631cの付勢力に抗して、プランジャ部材631bをロックギヤ632との係合を解除させる方向に付勢する。したがって、ソレノイドに通電されていない場合、ロック機構63は戻り方向に対応する方向への回転を規制した状態で電動モータ61を保持することが可能である。
【0043】
上述したブレーキアクチュエータ6、EPB操作部材3、EPB制御部21、フィードバック制御部24、モータドライバ25およびソレノイドドライバ23によって、電動パーキングブレーキ装置PDが形成されている。
以下、本発明の主題である隙間調整制御の説明に先立って、フットブレーキ制御およびEPB作動制御について説明する。
【0044】
<フットブレーキ制御>
車両VのブレーキペダルBPが操作されると、フィードバック制御部24からブレーキ作動信号を受信したEPB制御部21は、ソレノイドアクチュエータ631を作動させ、ロック機構63による電動モータ61の保持を解除する(アンロック位置)。
その後、フィードバック制御部24は、ブレーキ操作量に応じて要求制動力演算部22によって算出された要求制動力と、荷重センサ62によって検出されたブレーキアクチュエータ6に発生している制動力とに基づいてフィードバック制御を行い、電動モータ61に対して要求制動力に応じた適正な電流を供給する。
【0045】
電流が供給されて電動モータ61が前進方向に対応する方向に回転すると、サイクロイド減速機70によって電動モータ61の回転が減速されて、回転クサビ71の回転部材711に伝達される。回転クサビ71によって回転部材711の回転運動は、直動部材713の回転軸方向の直進運動に変換され、摩耗補償機構72へと伝達される。直動部材713によって付勢された摩耗補償機構72の入力部材721は、出力部材722と一体となって、リタンスプリング74の付勢力に抗して、ピストン69をディスクロータ9に向けて前進方向(図3における左方)に付勢する。
これによってピストン69は、第1ブレーキパッド65aをディスクロータ9に対して押圧する。この時、摩耗補償機構72の入力部材721と出力部材722は、双方の間の摩擦係合力によって一体的に移動し、出力部材722が回転することはない。
【0046】
一方、第1ブレーキパッド65aがディスクロータ9を押圧することによって発生する戻り方向(図3において右方)への反力は、第1ブレーキパッド65a、ピストン69、出力部材722、入力部材721、直動部材713、転動体712、回転部材711、出力部材702、スラストニードルベアリング704、ホルダ73、荷重センサ62および電動モータ61を介して、ブレーキハウジング68へと伝わり、ブレーキハウジング68をピストン69と反対方向(図3において右方)へと付勢する。
これにより、ブレーキハウジング68が戻り方向に移動し、爪部681が第2ブレーキパッド65bをディスクロータ9に向けて付勢する。したがって、ディスクロータ9は第1ブレーキパッド65aおよび第2ブレーキパッド65bによって挟圧され、車輪Wに制動力が付与される。
【0047】
また、ディスクロータ9に対する制動力の解除時には、電動モータ61を戻り方向に対応する方向に逆回転させると、ピストン69はリタンスプリング74の付勢力によって戻り方向に移動し、第1ブレーキパッド65aへの押圧を停止する。これにより、第1ブレーキパッド65aに発生する反力も消滅するため、ブレーキハウジング68の爪部681による、第2ブレーキパッド65bへの押圧も解消し、車輪Wへの制動力が解除される。
尚、フットブレーキ制御中は、ソレノイドアクチュエータ631が作動され、ロック機構63のアンロック位置が継続されている。
【0048】
<EPB作動制御>
EPB制御部21は、車両Vの駐車時においてEPB操作部材3が操作されたことを検出すると、ソレノイドアクチュエータ631を作動させ、ロック機構63による電動モータ61の保持を解除する(アンロック位置)。その後、フィードバック制御部24は、EPB制御部21からEPB作動信号を受信して電動モータ61を駆動し、ブレーキアクチュエータ6に所定の制動力を発生させる。
【0049】
荷重センサ62によって、ブレーキアクチュエータ6に所定の制動力が発生したことが検出されると、フィードバック制御部24はEPB制御部21に対して加圧完了信号を発信する。加圧完了信号を受信したEPB制御部21は、ソレノイドアクチュエータ631の作動を停止させ、ロック機構63により電動モータ61の回転を規制する(ロック位置)。その後、EPB制御部21からロック完了信号を受信したフィードバック制御部24は、電動モータ61への電流供給を停止する。
【0050】
EPB作動制御が解除される時、EPB制御部21が、ソレノイドアクチュエータ631を作動させ、ロック機構63による電動モータ61の保持を解除するとともに、フィードバック制御部24は、電動モータ61を戻り方向に対応する方向に逆回転させる(後述するステップS601)。
【0051】
<隙間量調整制御>
次に、図5乃至図7に基づき、本発明の主題である電動ブレーキ装置1の隙間量調整制御について説明する。
EPB制御部21によってEPB操作部材3が操作されたと判定されると(図5におけるステップS501)、前述したEPB作動制御が実行される(ステップS505)。EPB作動制御が終了すると、ステップS601(図6示)へと進む。
【0052】
EPB操作部材3が操作されていない場合、ペダルストロークセンサ4またはペダル踏力センサ5によって、車両VのブレーキペダルBPが操作されたか否かが判定される(ステップS502)。ブレーキペダルBPが操作されたと判定されると、前述したフットブレーキ制御が実行される(ステップS503)。フットブレーキ制御は、ブレーキペダルBPの操作が終了するまで継続される(ステップS504)。
ステップS502において、ブレーキペダルBPが操作されていないと判定されると、ブレーキパッド65a、65bとディスクロータ9との間の隙間量について、温度補正をするか否かが判定される(ステップS506)。ステップS506およびステップS507については後述する。
【0053】
ステップS504において、ブレーキペダルBPの操作が終了したと判定された場合、またはステップS505に示したEPB作動制御が解除された場合、フィードバック制御部24は、電動モータ61を戻り方向に対応する方向に回転させ、ピストン69による第1ブレーキパッド65aに対する押圧を解除する(ステップS601)。
ピストン69の戻り方向への移動によって、荷重センサ62による検出荷重fは徐々に低下していくが、荷重センサ62による検出荷重fがδ以下になったか否かが判定される(ステップS602)。δは0に非常に近似した値に設定されている。検出荷重fがδ以下になるまで電動モータ61は戻り方向に対応する方向に駆動される。
【0054】
荷重センサ62による検出荷重fがδ以下になると、レゾルバ611によって、その時点における電動モータ61の回転位置θ0(原点位置)が検出される(ステップS603)。通常、ディスクロータ9から第1ブレーキパッド65aが受ける反力と第2ブレーキパッド65bが受ける反力とがバランスするように、ブレーキハウジング68の位置が決定されるため、電動モータ61の回転位置が原点位置θ0にある時点において、ディスクロータ9は第1ブレーキパッド65aおよび第2ブレーキパッド65bの双方から押圧力を受けておらず、ブレーキアクチュエータ6の制動力は解消している。
【0055】
その後、さらに電動モータ61を戻り方向に対応する方向に駆動しながら(ステップS604、隙間調整ステップに該当する)、レゾルバ611によって、電動モータ61の回転位置θrを検出する(ステップS605、隙間調整ステップに該当する)。検出された電動モータ61の回転位置θrによって、現在の電動モータ61の回転位置θrと原点位置θ0との間の差|θr−θ0|が、ωa以上、かつ、ωb以下である範囲内にあるか否かが判定される(ステップS606、隙間判定ステップに該当する)。
【0056】
ブレーキ制御装置2においては、ブレーキパッド65a、65bとディスクロータ9との間の隙間量について、予め、基準範囲が設定されている。隙間量の基準範囲とは、ブレーキの非操作時の引き摺りまたはロックを防止するとともに、次回のブレーキ操作が行われた場合に、その作動応答性を維持することができるような、双方のブレーキパッド65a、65bとディスクロータ9との間のそれぞれの隙間量の範囲をいう。
【0057】
ステップS604乃至ステップS606においては、電動モータ61を戻り方向に対応する方向に回転させた場合に、図7に示したように、制動力が解消する位置からピストン69が変位した量を実隙間量として、当該実隙間量が、最小許容隙間量と最大許容隙間量との間にある上述した基準範囲内に位置するように電動モータ61の回転位置を制御している。
【0058】
ここで、上述した電動モータ61の回転位置について、ωa以上、かつ、ωb以下である範囲は、前述のブレーキパッド65a、65bとディスクロータ9との間の隙間量の基準範囲を、電動モータ61の回転量に換算した値(基準回転範囲)である。すなわち基準回転範囲は、電動モータ61を戻り方向に対応する方向に回転させた場合に、制動力が解消する時の回転位置θ0(原点位置)から電動モータ61が回転変位した量が、ブレーキの非操作時の引き摺りまたはロックを防止するとともに、次回のブレーキ操作が行われた場合に、その作動応答性を維持することができるような値の範囲に相当する。
【0059】
ここで、通常、ディスクロータ9の振れ等によって、ブレーキパッド65a、65bとディスクロータ9との間の隙間量は、ディスクロータ9と双方のブレーキパッド65a、65bとの間において、ほぼ均等に形成されるため、ステップS606において示した基準回転範囲(ωa以上、かつ、ωb以下)は、ディスクロータ9と双方のブレーキパッド65a、65bとの間にそれぞれ形成すべき隙間量の総和を、電動モータ61の回転変位量に換算した値となる。
【0060】
図6に戻って、ステップS604において、現在の電動モータ61の回転位置θrと原点位置θ0との間の差|θr−θ0|が、上述した基準回転範囲内に入るまで、電動モータ61は戻り方向に駆動される。
電動モータ61の回転位置θrと原点位置θ0との間の差が基準回転範囲内に入ると、フィードバック制御部24はEPB制御部21に対して調整完了信号を発信する。調整完了信号を受信したEPB制御部21は、ソレノイドアクチュエータ631の作動を停止させ、ディスクロータ9とブレーキパッド65a、65bとの間の隙間量が調整された状態で、ロック機構63によって電動モータ61の回転を規制する(ステップS607)。その後、EPB制御部21からロック完了信号を受信したフィードバック制御部24は、電動モータ61への電流供給を停止する(ステップS608)。
【0061】
ディスクロータ9とブレーキパッド65a、65bとの間の隙間量が調整された状態で車両Vが走行している時に、温度センサ64により、ディスクロータ9またはブレーキパッド65a、65bに温度変化があったことが検出された場合(図5におけるステップS506)、モータ位置修正部26は、EPB制御部21に対しロック解除信号を送信して、ロック機構63をアンロック位置に作動させる。それとともに、フィードバック制御部24に対して温度補正信号を送信し、電動モータ61の回転位置θrを変化させる。これにより、ディスクロータ9とブレーキパッド65a、65bとの間の隙間量が、ディスクロータ9またはブレーキパッド65a、65bの温度変化量と修正量とのマップ等に基づいて修正される(ステップS507)。
隙間量の修正後、EPB制御部21は、ソレノイドアクチュエータ631を非作動とし、ロック機構63をロック位置に復帰させる。
ディスクロータ9およびブレーキパッド65a、65bに温度変化がない場合、調整されている隙間量が維持される。
【0062】
本実施形態によれば、ブレーキパッド65a、65bが押圧状態にない場合に、ブレーキパッド65a、65bとディスクロータ9との間の隙間量が基準範囲の内に入るように、電動モータ61を駆動して隙間量を調整するとともに、ロック機構63によって、隙間量が調整された状態で電動モータ61の回転を規制することにより、ブレーキの非操作時に、隙間量が基準範囲の内に入った状態で電動モータ61の回転位置を保持することができ、ブレーキパッド65a、65bの摩耗またはリタンスプリング74の劣化にもかかわらず、ブレーキの非操作時の引き摺りまたはロックを防止するとともに、次回のブレーキ操作が行われた場合に、その作動応答性を向上させることができる。
【0063】
また、ブレーキパッド65a、65bとディスクロータ9との間の隙間量が基準範囲の内に入った状態で、ロック機構63によって電動モータ61の回転を規制することにより、ブレーキの非操作時に、電動モータ61を作動させることなくブレーキパッド65a、65bの位置を保持することができるため、消費電力を低減し、電動モータ61の劣化、発熱を防ぐことができ、その長寿命化を実現できる。
また、電動モータ61によりピストン69の位置を長時間保持する必要がないため、電動モータ61を小型化することができ、電動ブレーキ装置1の低コスト化を実現することができる。
また、ロック機構63は、車両Vの駐車時に電動モータ61の回転を規制する電動パーキングブレーキ装置PDに含まれることにより、電動モータ61の回転位置を保持するために、新たにロック機構63を設ける必要がなく、製造が容易で低コストの電動ブレーキ装置1にすることができる。
【0064】
また、基準範囲を電動モータ61の回転位置に換算した値を基準回転範囲とし、隙間量を調整する場合、ブレーキパッド65a、65bの押圧を解除して、戻り方向にピストン69が移動する際に、ディスクロータ9に発生する制動力が解消する時の電動モータ61の回転位置を原点位置θ0とし、ピストン69をさらに戻り方向に移動させた場合の電動モータ61の回転位置θrと原点位置θ0との間の差が、基準回転範囲の内に入るように電動モータ61の回転位置θrを調整することにより、ブレーキ操作が解除される時に、ブレーキパッド65a、65bとディスクロータ9との間の隙間量を容易に調整することができる。
【0065】
また、ブレーキパッド65a、65bが押圧状態にない時に、ブレーキパッド65a、65bあるいはディスクロータ9の温度変化に基づいて、隙間量を修正することにより、隙間量が調整された状態で電動モータ61の回転が規制されている間に、温度変化によってブレーキパッド65a、65bあるいはディスクロータ9に形状変化が発生して、双方の間の隙間量が変化しても、隙間量を再び適正な量に修正することができる。
【0066】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
制動力検出手段として、荷重センサ62の代わりに、圧力センサまたはディスクロータ9の制動トルクを検出するトルクセンサ等を使用してもよい。
また、付勢手段として、ピストン69と係合するリタンスプリング74に代えて、電動モータ61またはサイクロイド減速機70もしくは回転クサビ71と係合して、いずれかを戻り方向に付勢する付勢部材であってもよい。また、付勢手段には、コンプレッションスプリング以外に、コニカルスプリング、板バネのようなあらゆるバネ部材、または弾性ゴム等のように、ピストン69を戻り方向に付勢するあらゆる部材が適用可能である。
【0067】
また、ロック機構63は、ソレノイドへの通電によりアンロック位置となる構成に代えて、ソレノイドへの通電によりロック位置となる構成であってもよい。その場合、ソレノイドへの通電を停止しても、ソレノイドアクチュエータ631のプランジャ部材631bとロックギヤ632の歯部632aとの係合が機械的に保持される構造とすれば、ソレノイドの通電によりロック機構63をロック位置とした後、ソレノイドへの通電を停止することができる。
また、ロック機構63は、サイクロイド減速機70または回転クサビ71と係合することにより、電動モータ61の回転位置を保持するものであってもよい。
また、ディスクロータ9またはブレーキパッド65a、65bの温度変化による隙間量の修正は、温度センサ64による温度検出に代えて、隙間量を調整してからの経過時間に基づいて行ってもよい。あるいは温度センサ64による検出温度と、隙間量を調整してからの経過時間との双方に基づいて行ってもよい。
【0068】
また、隙間量調整を行う場合、電動モータ61の原点位置θ0を検出した後、電動モータ61を戻り方向に対応する方向に駆動して、第1ブレーキパッド65aがディスクロータ9から最も離れる位置まで移動させ、その時点において、ソレノイドアクチュエータ631の作動を停止させ、ロック機構63によって電動モータ61の戻り方向への回転を規制した状態で(ロック位置)、電動モータ61を第1ブレーキパッド65aがディスクロータ9に近づく方向に移動させ、隙間量を基準範囲内に調整するようにしてもよい。
また、ディスクロータ9とブレーキパッド65a、65bとの間の隙間量を検出する場合、電動モータ61の回転量によって換算する代わりに、レーザーあるいは超音波式の距離センサ等を用いてもよい。
【0069】
また、本発明は、ディスクロータ9をブレーキハウジング68の爪部681とピストン69とで挟圧する浮動型のディスクブレーキのみではなく、ディスクロータ9の双方の側面をピストンにて押圧する対向型のディスクブレーキにも適用可能である。
【0070】
また、電動モータ3には、同期機、誘導機、直流機等のあらゆるモータが使用可能である。
【符号の説明】
【0071】
図面中、1は電動ブレーキ装置、2はブレーキ制御装置(制御手段)、9はディスクロータ(被制動部材)、61は電動モータ、62は荷重センサ(制動力検出手段)、63はロック機構、65aは第1ブレーキパッド(制動部材)、65bは第2ブレーキパッド(制動部材)、69はピストン、71は回転クサビ(運動方向変換機構)、74はリタンスプリング(付勢手段)、243は隙間判定部(隙間判定手段)、244は隙間調整部(隙間調整手段)、611はレゾルバ(モータ位置検出手段)、PDは電動パーキングブレーキ装置、Vは車両、Wは車輪を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体に回転する被制動部材に対して、制動部材を押圧するピストンと、
前記被制動部材に発生する制動力を検出する制動力検出手段と、
ブレーキ操作量と前記制動力検出手段によって検出された制動力とに基づいて電流が供給され回転する電動モータと、
前記電動モータによる回転を直進運動に変換して前記ピストンに伝達する運動方向変換機構と、
前記制動部材が前記被制動部材から離間する方向である戻り方向へ、前記電動モータが回転するように付勢する付勢手段と、
少なくとも前記戻り方向への回転を規制した状態で前記電動モータを保持することが可能なロック機構と、
前記電動モータおよび前記ロック機構の作動を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記制動部材が押圧状態にない場合に、前記制動部材と前記被制動部材との間の隙間量が、基準範囲の内にあるか否かを判定する隙間判定手段と、
前記隙間判定手段によって、前記隙間量が前記基準範囲の内にないと判定された時、前記電動モータを駆動して前記隙間量を調整する隙間調整手段と、
を有し、
前記制御手段は、
前記制動部材が押圧状態にない場合に、前記隙間量が前記基準範囲の内に入るように、前記電動モータを駆動して前記隙間量を調整するとともに、前記ロック機構によって、前記隙間量が調整された状態で前記電動モータの回転を規制する電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記ロック機構は、
車両の駐車時に、前記被制動部材に制動力を発生させた状態において前記電動モータの回転を規制する電動パーキングブレーキ装置に含まれる請求項1記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記電動モータの回転位置を検出するモータ位置検出手段を備え、
前記制御手段は、
前記基準範囲を前記電動モータの回転位置に換算した値を基準回転範囲とし、
前記隙間量を調整する場合、前記制動部材の押圧を解除して、前記戻り方向に前記ピストンが移動する際に、前記制動力検出手段により検出された前記被制動部材に発生する制動力が解消する時の前記電動モータの回転位置を原点位置とし、前記ピストンをさらに前記戻り方向に移動させた場合の前記電動モータの回転位置と前記原点位置との間の差が、前記基準回転範囲の内に入るように前記電動モータの回転位置を調整する請求項1または2に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記制動部材が押圧状態にない時に、前記制動部材あるいは前記被制動部材の温度変化に基づいて、前記隙間量を修正する請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項5】
車輪と一体に回転する被制動部材に対して、制動部材を押圧するピストンと、
前記被制動部材に発生する制動力を検出する制動力検出手段と、
ブレーキ操作量と前記制動力検出手段によって検出された制動力とに基づいて電流が供給され回転する電動モータと、
前記電動モータによる回転を直進運動に変換して前記ピストンに伝達する運動方向変換機構と、
前記制動部材が前記被制動部材から離間する方向である戻り方向へ、前記電動モータを付勢する付勢手段と、
少なくとも前記戻り方向への回転を規制した状態で前記電動モータを保持することが可能なロック機構と、
を備えた電動ブレーキ装置の制御方法であって、
前記制動部材が押圧状態にない場合に、前記制動部材と前記被制動部材との間の隙間量が、基準範囲の内にあるか否かを判定する隙間判定ステップと、
前記隙間判定ステップによって、前記隙間量が前記基準範囲の内にないと判定された時、前記電動モータを駆動して前記隙間量を調整する隙間調整ステップと、
を有し、
前記制動部材が押圧状態にない場合に、前記隙間量が前記基準範囲の内に入るように、前記電動モータを駆動して前記隙間量を調整するとともに、前記ロック機構によって、前記隙間量が調整された状態で前記電動モータの回転を規制する電動ブレーキ装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−240632(P2012−240632A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115599(P2011−115599)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】