電動ブレーキ装置
【課題】キャリパの経年変化を考慮した、精度の良い推力推定を行なうことができる電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】PKB作動時に推力(減衰力)の増力及び減力を行って学習分電流(摩擦トルク成分電流)Idを計測し、学習分電流Idを用いてモータ位置‐電流テーブルを更新し、更新により得られた新たなモータ位置‐電流テーブルを制動制御に用いる。学習分電流Idは、キャリパの摩擦抵抗に対応し、摩擦トルク成分電流に相当し、かつキャリパ(キャリパ機部)の経年変化の影響を含むものになっている。そして、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を用いてモータ位置‐電流テーブルを更新するので、キャリパの経年変化が反映されて、精度の良い推力推定を行なえ、ひいては制動制御の精度向上を図ることができる。
【解決手段】PKB作動時に推力(減衰力)の増力及び減力を行って学習分電流(摩擦トルク成分電流)Idを計測し、学習分電流Idを用いてモータ位置‐電流テーブルを更新し、更新により得られた新たなモータ位置‐電流テーブルを制動制御に用いる。学習分電流Idは、キャリパの摩擦抵抗に対応し、摩擦トルク成分電流に相当し、かつキャリパ(キャリパ機部)の経年変化の影響を含むものになっている。そして、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を用いてモータ位置‐電流テーブルを更新するので、キャリパの経年変化が反映されて、精度の良い推力推定を行なえ、ひいては制動制御の精度向上を図ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に用いられ、モータのトルクによって制動力を発生させる電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動ブレーキ装置の一例として、特許文献1に示される電動ブレーキ装置がある。特許文献1に示される電動ブレーキ装置は、モータと、該モータの回転を減速する減速機構と、該減速機構の回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する運動変換機構とを配設してなるキャリパを備え、モータの回転に応じて減速機構及び運動変換機構(以下、キャリパ機部という。)を介してピストンを推進し、その推力でブレーキパッドをディスクロータに押圧して制動力を発生するようにしている。
また、特許文献1に示される電動ブレーキ装置では、温度センサにより検出した温度に基づいて、グリスを封入した減速機構及び運動変換機構を含むキャリパ機部の摺動抵抗などの機械損失に消費される電流に相当する無効電流値(以下、キャリパ機部摩擦トルク電流成分ともいう。)を推定し、この無効電流値を、推力発生のためのモータに供給する電流値の補正に用いている。
【特許文献1】特開2003−106355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、一般に電動ブレーキ装置では、キャリパの使用頻度や動作条件によって、グリスを含むキャリパ機部の摺動抵抗、ひいてはその摺動抵抗等に用いられる電流(キャリパ機部摩擦トルク電流成分)は経年変化する。そして、キャリパ機部摩擦トルク電流成分ひいてはキャリパの経年変化を考慮した制動制御を行なわないと、制動制御精度が低下してしまうことになる。
上記特許文献1に示される電動ブレーキ装置は、モータに供給する電流値(モータ供給電流値)の補正を行なうものの、このモータ供給電流値の補正を、温度センサの検出データ、即ちその時その時の値を示すが経年変化を示す内容を含んでいないデータを用いて行なっており、制動制御について、キャリパの経年変化を反映して行えるものになっていないので、上述した一般例と同様に、制動制御精度の低下を招くことになる。
【0004】
本発明は、キャリパの経年変化を考慮した、精度の良い推力推定を行なうことができる電動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の電動ブレーキ装置に係る発明は、モータの回転を内部機器に伝達してブレーキパッドをディスクロータに押圧するキャリパと、前記内部機器内に設けられ前記モータの回転を係止するパーキング機構と、前記パーキング機構の作動時に、モータの回転を係止し得る範囲で前記モータを回転させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記内部機器の摺動抵抗による無効電流値を算出して該無効電流値により前記モータに供給する電流値を補正する電流値補正手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、キャリパの経年変化を考慮して、精度の良い推力推定を行うことにより、制動制御の精度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置を図1ないし図7に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置のキャリパの断面図である。図2は、図1の電動ブレーキ装置を模式的に示すブロック図である。図3は、図2の制御装置を模式的に示すブロック図である。図4は、図1の駐車ブレーキ(PKB)機構の作動状態を示し、(a)は、PKB動作時、(b)PKB解除時の状態を示す図である。図5は、図1、図2の制御装置が実行するキャリパ機部摩擦トルク成分電流(以下、適宜、摩擦トルク成分電流という。)検出・テーブル更新処理におけるモータの動作タイムチャートを示す図である。図6は、同摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理を説明するためのモータ位置−推力発生成分電流+摩擦トルク成分電流テーブル(以下、適宜、モータ位置−電流テーブルという。)を示す図である。図7は、図1の電動ブレーキ装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【0008】
図1、図2において、本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置1は、キャリパ2と、RAM3及びECU4からなり、後述する通常ブレーキ動作、駐車ブレーキ動作及びそれらの解除、並びに摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理に対する演算制御を行なう制御装置5と、を備えている。
【0009】
キャリパ2は、シリンダ7、ピストン8、モータ9、回転位置検出器の一例であるレゾルバ10、運動変換機構の一例であるボール・ランプ機構(以下、適宜、B&Rという。)11、B&R11と共にキャリパ機部(内部機器に相当する。)を構成する減速機構12、パーキング機構の一例である駐車ブレーキ機構(以下、適宜、PKB機構という。)14を含んで構成され、キャリア16に支持されて車両(図示省略)に装着される。キャリア16にはブレーキパッド17,17が装着され、このブレーキパッド17,17はモータ9の駆動に伴うピストン8の推力によって、ディスクロータ18を挟んで制動力を発生する。PKB機構14は、内部機器(B&R11及び減速機構12)に連係して設けられている。
上述した制動力の発生のために、モータ9に電流が供給されるが、モータ9に供給される電流には、キャリパ機部(内部機器)の摺動抵抗などの機械損失に消費される電流に相当する無効電流成分(内部機器の摺動抵抗による無効電流値。以下、適宜、キャリパ機部摩擦トルク電流成分ともいう。)も含まれることになる。
前記車両に設けたブレーキペダル19にはストロークシミュレータ20が接続されており、ブレーキペダル19の操作量を示す情報(ブレーキペダル操作量情報)をECU4に出力するようにしている。
ブレーキパッド17は、その初期位置が、ディスクロータ18から一定の間隔を保った位置に設定されている。
電動ブレーキ装置1は、さらに、モータ9へ供給される電流(適宜、モータ供給電流という。)の値(モータ供給電流値)を検出してECU4に出力する電流センサ6を備えている。
【0010】
電動ブレーキ装置1は、運転者によってブレーキペダル19が操作されると、ペダル操作量がストロークシミュレータ20によってペダル操作量情報に変換され、このペダル操作量情報に基づいてECU4からモータ動作指令(電流)が出力される。モータ動作指令によってモータ9が動作すると、その動力が減速機構12に伝わり、B&R11が図1左方向に変位して、ブレーキパッド17を右方向に押し出し、ディスクロータ18を挟み込むことにより、制動力を発生する、すなわち通常ブレーキ動作機能を発揮する。
【0011】
PKB機構14は、図4(a)、(b)に示すように、モータ9の回転軸21に取付けられた歯車(以下、モータ歯車という。)22の近傍に回転可能に支持された長手状の係止部23と、係止部23の一端部に力を付与するPKBソレノイド24と、PKBソレノイド24及び係止部23間に介在されたばね部材25と、を備えている。係止部23の他端部には、湾曲した形状の爪26が形成されている。爪26は、係止部23の回転に伴い、モータ歯車22に引っかかり(嵌合し)、またその状態から離脱しえるようになっている。
【0012】
そして、図示しないPKB動作用のスイッチに対する運転者の操作が行われこれに応じてECU4の制御によりPKBソレノイド24が通電される(PKBを0Nにする)と、図4(a)に示すように、係止部23が時計方向に回転し、爪26がモータ歯車22の歯先部に引っかかり、モータ歯車22ひいてはモータ9の推力低下の方向(減力方向)への回転〔図4(a)時計方向の回転〕が拘束される(換言すれば、PKB動作機能が発揮される。)。なお、上述したように爪26がモータ歯車22の歯先部に引っかかってモータ9の回転を拘束するようになることを、本明細書では、適宜、ラッチ、又は係止ともいう。
また、上述したようにPKB動作機能が発揮された状態で、図示しないPKB動作解除用のスイッチに対する運転者の操作が行われると、これに応じてECU4の制御によりモータ9が増力方向(左回り)に一定回転以上動作されると共に、PKBソレノイド24への通電が停止され、図4(b)に示すように、モータ歯車22の歯先部と係止部23が離れ、モータ9が自由に動作できるようになり、前記ラッチが解除される、即ちPKBが0FFされる(PKB動作解除機能が発揮される。)。
【0013】
RAM3は、ECU4の作業エリアとして用いられ、モータ位置‐電流テーブル3bが更新可能に格納される。モータ位置‐電流テーブル3bは、所望の推力(制動力)を得るための指令値(指令電流)の算出に用いられる。RAM3には、モデル機による測定や後述する電動ブレーキの剛性モデルなどを用いて得られるモータ位置‐電流テーブルが予め格納されている。モータ位置‐電流テーブルは、後述する摩擦トルク学習動作(図5参照)における電流計測で得られる電流(摩擦トルク成分電流)に基づいて更新され、このモータ位置‐電流テーブルの更新により、ECU4(制御装置5)が、キャリパの経年変化を考慮した指令値(指令電流)を求め、換言すれば、モータに供給する電流値をキャリパの経年変化を考慮して補正し、精度良い制動制御を行なえるようにしている。
本実施形態では、ECU4(制御装置5)が、電流値補正手段(モータ電流値補正手段)を構成している。
RAM3は、さらに、電動ブレーキの熱などの物理的情報により設定される剛性モデル(電動ブレーキの剛性モデル)や推力推定テーブル3aを更新可能に保存すると共に、後述する制御過程で実行される計測(図7ステップS3参照)により得られる位置データ及びこれに対応した電流値データを記憶するようにしている。この計測により得られた位置データ及び電流値データ(摩擦トルク成分電流)は、モータ位置‐電流テーブルの更新に用いられる。
【0014】
ここで、図2、3に基づいて、電動ブレーキが行なう推力制御について説明する。ドライバがブレーキペダル19を動作することによって、この動作をストロークシミュレータ20で操作量として検出する。検出した操作量を基にECU4は、ピストン4が押圧すべき目標推力値を設定し、これを推力指令として推力指令→位置指令変換部4aに送る。推力指令→位置指令変換部4aでは、RAM3に格納された推力推定テーブル3aに基づいて、推力指令に対するモータ位置を決定してこれを時間の関数とした位置指令として位置制御部4bに送る。位置制御部4bでは、モータ位置−電流テーブル3bに基づいて、位置指令に対応する時間を関数とした電流指令を決定して電流制御部4cに送る。上記モータ位置−電流テーブル3bは後述する更新処理により、キャリパ2の経年変化に合わせて更新されるようになっている。電流制御部4cでは、受け取った電流指令をPWM信号に変換してモータ9に出力する。これにより目標推力値に応じたモータ位置による推力制御が行われることになる。
【0015】
上記のように行なう推力制御では、あくまでもモータ位置を制御しているため、1回の制動中にキャリパ2の負荷や環境に応じて実際の推力が推定した推力と相違してしまうことがある。これに対応するため、モータ9に出力した電流がキャリパ2の負荷や環境に応じて変化することを利用する。具体的には、モータ9への出力電流を電流センサ6を介してQ軸電流として取得して、これを時間の関数としてECU4の電流補正部4dに入力する。電流補正部4dでは、Q軸電流について外乱等をフィルタリングして時間を関数とした補正電流を生成して電流→推力変換部4eに送る。電流→推力変換部4eでは、補正電流を時間の関数である電流推力に変換して推力推定テーブル作成部4fに送る。推力推定テーブル作成部4fでは、時間の関数である電流推力からモータ位置と推力との関係を示す更新推力推定テーブルを生成して推力指令→位置指令変換部4aに送る。推力指令→位置指令変換部4aでは、生成された更新推力推定テーブルを推力推定テーブル3aとしてRAM3に格納するとともに、更新推力推定テーブルを用いて推力指令に対するモータ位置を決定してこれを時間の関数とした位置指令として再び位置制御部4bに送る。上記の作動を行なうことにより、実際の推力が推定した推力と相違してしまうことを防止している。また、上記電流→推力変換部4eは、本発明の推力推定手段を構成している。
【0016】
次に、モータ位置‐電流テーブル3bについて、図6に基づいて、説明する。
図6は、左右輪共にPKB推力が同等である場合におけるテーブル更新処理を説明するための左右輪いずれか一方を対象にしたモータ位置‐電流テーブルで、横軸がモータ位置、縦軸が「推力発生成分電流+摩擦トルク成分電流」とされるモータ位置‐電流テーブルを示す図である。図6に示されるモータ位置‐電流テーブルがRAM3に更新可能に記憶される。図6中、モータ位置‐電流テーブルのうち更新前(学習前)、更新後(学習後)のものを、夫々、点線、実線で示す。
そして、図6は、所定のモータ位置において所望の推力(制動力)を得るために、モータ位置‐電流テーブル3bにおける前記所定のモータ位置に対応した大きさの電流(推力発生成分電流+摩擦トルク成分電流)をモータ9に通電する必要があることを示している。
図6中、符号▽は、実使用時においてクリアランスを詰めていない状態〔原点(ブレーキパッド接触位置相当)、無負荷領域(モータ位置ゼロに相当する位置)〕で得られる電流値(推力ゼロでの電流値)を示す。符号□、◇は、夫々、モータ9の推力を一点鎖線30で示すモータ位置におけるPKB ON位置(図5参照)相当推力とした際に必要とされる更新前(学習前)、更新後(学習後)モータ位置‐電流テーブルにおける「推力発生成分電流+摩擦トルク成分電流」を示す。
キャリパ2の経年変化(例えばグリスの性能低下)により、摩擦トルクが大きくなると、摩擦トルク成分電流ひいては内部機器の摺動抵抗による無効電流値(キャリパ機部摩擦トルク電流成分)が大きくなることから、所望の推力(制動力)を得るためには、経年変化前に必要とされた電流に比して大きな電流をモータ9に供給する必要がある。即ち、所望の推力(制動力)を得るために、経年変化前ひいては更新前(学習前)のモータ位置‐電流テーブル(図6中、点線で示す、)に代えて、同等モータ位置で電流値が大きくなるようにした更新後(学習後)のモータ位置‐電流テーブル3bを用いることが必要となる。
【0017】
上述したキャリパ2の経年変化に対して、本実施形態では、PKB作動時に〔モータ9のラッチが解除されずPKBによる制動力が作用している状態で〕推力(減衰力)の増力及び減力を行って(以下、この挙動を、便宜上、規定動作という。)、電流(以下、学習分電流という。摩擦トルク成分電流に相当する。)Idを計測し、計測された電流(学習分電流Id)を用いてモータ位置‐電流テーブルを更新し、更新により得られた新たなモータ位置‐電流テーブル3bを制動制御に用いるようにしている。上記規定動作で計測して得られる電流(学習分電流Id)は、キャリパ2の摩擦抵抗に対応していて摩擦トルク成分電流に相当し、かつキャリパ2(キャリパ機部)の経年変化の影響を含むものになっている。そして、本実施形態では、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を用いてモータ位置‐電流テーブルを更新するので、キャリパ2の経年変化が反映されて、制動制御の精度向上を図ることができる。
【0018】
制御装置5(ECU4及びRAM3)は、前記通常ブレーキ動作、PKB動作、PKB動作解除を行うように各部材を制御する(前記動作などに対する制御を以下、適宜、通常ブレーキ制御、PKB ON制御、PKB OFF制御という。)と共に、前記摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理及び当該処理の前提となる判定処理からなる電流補正処理を実行する。
制御装置5が実行する電流補正処理は、図7に示すように、ステップS3、S4からなる学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)の検出・テーブル更新処理と、ステップS1、S2からなる判定処理とを含んで構成されている。電流補正処理に、判定処理(ステップS1、S2)を含んでいることにより、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)の検出処理(ステップS3)を後述する摩擦トルク学習動作領域で行えるようにしている。
この電流補正処理では、ステップS1においてブレーキシステムが0Nである〔以下、YES(Y)ともいう。〕か否〔以下、(NO(N) ともいう。 )かの判定を行う。ステップS1でNOと判定すると、当該電流補正処理は終了する。
【0019】
ステップS1でYESと判定すると、ステップS2に進む。ステップS2において、PKB ON動作が完了している〔以下、YES(Y)ともいう。〕か否〔以下、(NO(N) ともいう。 )かを判定する。ステップS2における「PKB ON動作が完了」とは、PKB OFF動作に移行する前段階とされ、PKBによる制動力が作用している状態(モータ9のラッチが解除されない状態)を指している。本実施形態では、前記学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)検出処理(ステップS3)を、ステップS2でYESと判定することにより、即ちPKBによる制動力が作用している状態(モータ9のラッチが解除されない範囲ΔX内で)で行うことにより、上述したように学習分電流Id〔摩擦トルク成分電流(ひいては、キャリパ機部摩擦トルク電流成分)を算出するようにしている。
本実施形態では、ECU4(制御装置5)が、無効電流値算出手段を構成している。
ステップS2でNOと判定すると、ステップS1に戻る。ステップS2でYESと判定すると、ステップS3に進む。
【0020】
ステップS3において、前記規定動作(PKBによる制動力が作用している状態での増力及び減力作動。図5の摩擦トルク学習動作参照)時におけるモータ供給電流(学習分電流Id)を計測する。増力時、減力時における学習分電流Idを、以下、適宜、学習分増力側電流Idz及び学習分減力側電流Idgという。
学習分電流Id(例えばIdz、Idg)は、上述したようにPKBによる制動力が作用している状態で計測されることから、摩擦トルク成分電流に相当するものである。
【0021】
ステップS3に続くステップS4では、ステップS3で得た学習分電流Id(以下、現学習分電流Idnという。)から前回学習時に得た学習分電流Id(以下、前回学習分電流Idbという。)を減算して、学習分差分電流Ids(前回から現時点までの摩擦抵抗の変化、ひいては経年変化に相当する。)を得、指令値算出に用いるモータ位置‐電流テーブルにおける電流値に学習分差分電流Ids(Idsz、Idsg)を加えるように、当該モータ位置‐電流テーブルを更新し(すなわち、図5点線のモータ位置‐電流テーブルに代えて実線のモータ位置‐電流テーブルを新たなモータ位置‐電流テーブル3bとし)、ステップS1に戻る。
【0022】
上記更新処理について、PKB ON位置(図5参照)相当推力位置(図6の一点鎖線30に対応する位置)における学習前のモータ位置‐電流テーブルにおける増力側、減力側電流、増力側、減力側学習分差分電流が夫々、例えばIpush_tb1、Ipull_tb1、Idsz、Idsgである場合を例にして以下に説明する。
すなわち、増力側電流Ipush_tb1(図6上側の□)に増力側学習分差分電流Idszを加えて、新たな増力側電流Ipush(図6上側の○)を得、この新たな増力側電流Ipushと増力側の推力ゼロでの電流値▽(図6上側)を接続して(所謂線形補完を行うことによって)実線で示される増力側の新たなモータ位置‐電流テーブル(図6上側)を得る。この新たなモータ位置‐電流テーブル((図6上側の実線)を学習前の増力側のモータ位置‐電流テーブル(図6上側の点線)に代えるように更新処理し、この新たなモータ位置‐電流テーブルを、制動制御のための指令値(電流値)算出に用いるようにする。
【0023】
減力側モータ位置‐電流テーブルについても、上記増力側モータ位置‐電流テーブルの例と同様に、減力側電流Ipull _tb1(図6下側の□)に減力側学習分差分電流Idsgを加えて、新たな減力側電流Ipull(図6下側の○)を得、この新たな減力側電流Ipullと減力側の推力ゼロでの電流値▽(図6下側)を接続して実線で示される減力側の新たなモータ位置‐電流テーブル(図6下側)を得る。この新たなモータ位置‐電流テーブル(図6下側の実線)を学習前の減力側のモータ位置‐電流テーブル(図6下側の点線)に代えるように更新処理し、この新たなモータ位置‐電流テーブルを、制動制御のための指令値(電流値)算出に用いるようにする。
減力側の推力ゼロでの電流値▽(原点、パッド接触位置相当)は、実使用時において、クリアランスを詰めていない状態で得られる電流値であり、無負荷領域での摩擦トルクに相当する。
【0024】
前記ステップS3における電流計測(学習分電流Idの算出)は、モータ9のラッチが解除されない状態で、換言すればPKBによる制動力が作用している状態で推力(減衰力)の増力及び減力を行いつつ、行われており、すなわち、前記規定動作中に行われており、この状態で得られる学習分差分電流Idsは、推力発生には消費されないことから、摩擦トルク成分電流に相当することになる。
そして、ステップS4で現学習分電流Idnから前回学習分電流Idbを減算して得られる学習分差分電流Idsは、前回計測から現在計測までの摩擦抵抗の変化、ひいては経年変化に相当するものになっている。そして、この学習分差分電流Idsひいてはキャリパ2の経年変化を考慮してモータ位置‐電流テーブルを更新する。このため、当該更新されたモータ位置‐電流テーブルを制動制御のための指令値(電流値)算出に用いることにより、キャリパ2の経年変化を反映して制動制御を行なえ、これに伴い制動制御の精度を向上することができる。
【0025】
上述したように構成された電動ブレーキ装置1の作用を、図5〜図7に基づいて、以下に説明する。
図5に示すように、まずドライバによる制動動作(通常ブレーキ制御)が例えば時刻t1まで行われ、時刻t1でドライバがPKB ON要求を行うと、キャリパ2はPKB ON動作を行い、指定された推力にてモータ9をラッチする(PKB 0N制御)。PKB ON制御が完了すると時刻t2にてモータ9のラッチが解除されない範囲ΔX内でモータ9を増力方向および減力方向に動作し、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)の検出・テーブル更新処理を行う(摩擦トルク学習動作。図7ステップS3、S4)。そして、時刻t3にて、ドライバがPKB OFF動作を要求することにより、モータ9のラッチは外され、ブレーキペダル19入力による推力指令相当位置までモータ9を動作する(PKB OFF制御)。上述した摩擦トルク学習動作を行う領域(モータ9のラッチが解除されない範囲ΔXに対応する領域)を前記摩擦トルク学習動作領域という。時刻t4にてドライバがブレーキペダル19を動作することによって、モータ9を動作させ、推力を発生する(通常ブレーキ制御)。
【0026】
上述した学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)の検出処理(ステップS3)は、ドライバがPKB ON要求を出してからPKB OFF要求を出すまでの間に行う。すなわち、PKBによる制動力が作用している状態で行われており、この状態で得られる学習分電流Idは、推力発生には消費されないことから、摩擦トルク成分電流に相当することになる。
ステップS4で現学習分電流Idnから前回学習分電流Idbを減算して学習分差分電流Idsを得るが、この学習分差分電流Idsは、前回計測から現在計測までの摩擦抵抗の変化、ひいては経年変化を表すものになっている。この学習分差分電流Idsひいてはキャリパ2の経年変化を考慮してモータ位置‐電流テーブル3bを更新する。このため、当該更新されたモータ位置‐電流テーブル3bを用いることにより、キャリパ2の経年変化を反映して制動制御を行なえ、これに伴い制動制御の精度を向上することができる。
【0027】
上記第1実施形態では、PKB ON動作後に規定動作を行い、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を得、これから所謂線形補完を行うことによってキャリパ機部摩擦トルク電流成分を求め、モータ位置‐電流テーブル3bを更新する方法を示した。PKB ON状態が一回の規定動作に要する時間に比べて十分長い場合は、規定動作を複数回行うことによって精度が向上すると考えられる。このように、規定動作を複数回行うことによって精度を向上するようにした実施形態(第2実施形態)を、図8〜図11に基づき、図1〜図7を参照して以下に説明する。
図8は、本発明の第2実施形態に係る電動ブレーキ装置の作用を説明するためのフローチャートである。図9は、図8のステップS3、S4で実行されるキャリパ機部摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理におけるモータの動作タイムチャートである。図10は、同テーブル更新処理を説明するためのモータ位置−電流テーブルを示す図であり、(a)は、左輪を対象にした図、(b)は、右輪を対象にした図である。図11は、同テーブル更新処理を説明するためのPKB ON位置の決定方法を示す図である。
【0028】
第2実施形態では、左右輪に与えるPKB推力の平均が一定になるようにPKB推力を調整して、モータ位置(PKB ON位置)の組合せを決定するようにしている。すなわち、図11に示すように、初期状態で左右輪ともPKB推力(F0〔kN〕, F0〔kN〕)にて与えていたとすると、PKB推力の組合せを左右輪に対して(F0+k〔kN〕, F0+k〔kN〕)、(F0−k〔kN〕, F0−k〔kN〕)となるようにモータ位置(PKB ON位置)の組合せを決定している。
また、第2実施形態では、図7に代えて図8の処理を行う。図8の処理では、図7の処理に比して、ステップS5〜S7を含むことが異なっている。図8において、ステップS4の処理(位置‐電流テーブルの更新)が行われると、ステップS5に進む。ステップS5で、あらかじめ設定された箇所すべての電流成分を更新した〔以下、YES(Y)ともいう。〕か否〔以下、NO(N)ともいう。〕かの判定を行う。ステップS5でYESと判定すると、ステップS6に移動する。ステップS6において、これまでに行ってきた規定動作により更新した電流値を用いて、テーブルの更新を行い、ステップS1に移動する。
ステップS5でNOと判定すると、ステップS7へ進む。ステップS7において、車両の総推力に変化が無いよう、PKB推力を変化させて、ステップS3に進む。
【0029】
上述したように、ステップS5でNOと判定すると、ステップS7へ進んで、PKB推力を変化させた後、ステップS3、S4に進んで、再度、前記摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理を行う。この摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理を、ステップS5でYESと判定するまで、繰返し実行するが、このように繰返し実行する処理内容を、図9に基づいて、説明する。
図9において、あるPKB推力にて規定動作が終了した場合(時刻t3)、左右輪のキャリパ2のPKBラッチを解除し(PKB OFF制御、時刻t3〜t4)、そのときの左右PKB推力の平均値が変化しないよう、左右の推力を変化させ、再びモータ9をラッチする(PKB ON制御、時刻t4〜t5)。その後、時刻t5にて前記第1実施形態で示したのと同様の規定動作を行い、そのときの学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を求める。このような動作を、ドライバによるPKB OFF操作が行われるまで実施し、可能な限り多くの位置における学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を計測する。
【0030】
上述したように得られた学習分電流Id(以下、現学習分電流Idnという。)から前回テーブル更新に際して得た学習分電流Id(以下、前回学習分電流Idbという。)を減算して、学習分差分電流Ids(前回から現時点までの摩擦抵抗の変化、ひいては経年変化に相当する。)を得る。そして、車両の総推力に変化が無いように、かつ指令値算出に用いるモータ位置‐電流テーブルにおける電流値に対して学習分差分電流Idsの加算又は減算を施して、当該モータ位置‐電流テーブルを更新して新たな更新後(学習後)のモータ位置‐電流テーブルを得る。この場合、車両の総推力に変化が無いようにする(ひいては推力平均値を一定にする)ために、学習分電流Idの検出対象となるPKB ON位置については、図11に示すように、PKB推力の平均値が一定になるように利用している。
この第2実施形態によれば、局所的な摩擦トルク変動に対応したキャリパ機部摩擦トルク電流成分の考慮が可能となり、推力発生領域における位置‐電流特性が単調増加とならない場合においても、推力推定を行うことが可能となり、これに伴い、制動制御の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置のキャリパの断面図である。
【図2】図1の電動ブレーキ装置を模式的に示すブロック図である。
【図3】図2の制御装置を模式的に示すブロック図である。
【図4】図1のPKB機構の作動状態を示し、(a)は、PKB動作時、(b)PKB解除時の状態を示す図である。
【図5】図1、図2の制御装置が実行するキャリパ機部摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理におけるモータの動作タイムチャートである。
【図6】同テーブル更新処理を説明するためのモータ位置−電流テーブルを示す図である。
【図7】図1の電動ブレーキ装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る電動ブレーキ装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【図9】図7のステップS3、S4で実行されるキャリパ機部摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理におけるモータの動作タイムチャートである。
【図10】同テーブル更新処理を説明するためのモータ位置−電流テーブルを示す図である。
【図11】同テーブル更新処理を説明するためのPKB ON位置の決定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1…電動ブレーキ装置、2…キャリパ、4…ECU〔電流値補正手段(モータ電流値補正手段)、無効電流値算出手段〕、5…制御装置〔電流値補正手段(モータ電流値補正手段)、無効電流値算出手段〕、9…モータ、10…レゾルバ(回転位置検出器)、11…B&R(運動変換機構、内部機器)、12…減速機構(内部機器)、14…PKB機構(パーキング機構)、17…ブレーキパッド、18…ディスクロータ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に用いられ、モータのトルクによって制動力を発生させる電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動ブレーキ装置の一例として、特許文献1に示される電動ブレーキ装置がある。特許文献1に示される電動ブレーキ装置は、モータと、該モータの回転を減速する減速機構と、該減速機構の回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する運動変換機構とを配設してなるキャリパを備え、モータの回転に応じて減速機構及び運動変換機構(以下、キャリパ機部という。)を介してピストンを推進し、その推力でブレーキパッドをディスクロータに押圧して制動力を発生するようにしている。
また、特許文献1に示される電動ブレーキ装置では、温度センサにより検出した温度に基づいて、グリスを封入した減速機構及び運動変換機構を含むキャリパ機部の摺動抵抗などの機械損失に消費される電流に相当する無効電流値(以下、キャリパ機部摩擦トルク電流成分ともいう。)を推定し、この無効電流値を、推力発生のためのモータに供給する電流値の補正に用いている。
【特許文献1】特開2003−106355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、一般に電動ブレーキ装置では、キャリパの使用頻度や動作条件によって、グリスを含むキャリパ機部の摺動抵抗、ひいてはその摺動抵抗等に用いられる電流(キャリパ機部摩擦トルク電流成分)は経年変化する。そして、キャリパ機部摩擦トルク電流成分ひいてはキャリパの経年変化を考慮した制動制御を行なわないと、制動制御精度が低下してしまうことになる。
上記特許文献1に示される電動ブレーキ装置は、モータに供給する電流値(モータ供給電流値)の補正を行なうものの、このモータ供給電流値の補正を、温度センサの検出データ、即ちその時その時の値を示すが経年変化を示す内容を含んでいないデータを用いて行なっており、制動制御について、キャリパの経年変化を反映して行えるものになっていないので、上述した一般例と同様に、制動制御精度の低下を招くことになる。
【0004】
本発明は、キャリパの経年変化を考慮した、精度の良い推力推定を行なうことができる電動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の電動ブレーキ装置に係る発明は、モータの回転を内部機器に伝達してブレーキパッドをディスクロータに押圧するキャリパと、前記内部機器内に設けられ前記モータの回転を係止するパーキング機構と、前記パーキング機構の作動時に、モータの回転を係止し得る範囲で前記モータを回転させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記内部機器の摺動抵抗による無効電流値を算出して該無効電流値により前記モータに供給する電流値を補正する電流値補正手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、キャリパの経年変化を考慮して、精度の良い推力推定を行うことにより、制動制御の精度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置を図1ないし図7に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置のキャリパの断面図である。図2は、図1の電動ブレーキ装置を模式的に示すブロック図である。図3は、図2の制御装置を模式的に示すブロック図である。図4は、図1の駐車ブレーキ(PKB)機構の作動状態を示し、(a)は、PKB動作時、(b)PKB解除時の状態を示す図である。図5は、図1、図2の制御装置が実行するキャリパ機部摩擦トルク成分電流(以下、適宜、摩擦トルク成分電流という。)検出・テーブル更新処理におけるモータの動作タイムチャートを示す図である。図6は、同摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理を説明するためのモータ位置−推力発生成分電流+摩擦トルク成分電流テーブル(以下、適宜、モータ位置−電流テーブルという。)を示す図である。図7は、図1の電動ブレーキ装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【0008】
図1、図2において、本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置1は、キャリパ2と、RAM3及びECU4からなり、後述する通常ブレーキ動作、駐車ブレーキ動作及びそれらの解除、並びに摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理に対する演算制御を行なう制御装置5と、を備えている。
【0009】
キャリパ2は、シリンダ7、ピストン8、モータ9、回転位置検出器の一例であるレゾルバ10、運動変換機構の一例であるボール・ランプ機構(以下、適宜、B&Rという。)11、B&R11と共にキャリパ機部(内部機器に相当する。)を構成する減速機構12、パーキング機構の一例である駐車ブレーキ機構(以下、適宜、PKB機構という。)14を含んで構成され、キャリア16に支持されて車両(図示省略)に装着される。キャリア16にはブレーキパッド17,17が装着され、このブレーキパッド17,17はモータ9の駆動に伴うピストン8の推力によって、ディスクロータ18を挟んで制動力を発生する。PKB機構14は、内部機器(B&R11及び減速機構12)に連係して設けられている。
上述した制動力の発生のために、モータ9に電流が供給されるが、モータ9に供給される電流には、キャリパ機部(内部機器)の摺動抵抗などの機械損失に消費される電流に相当する無効電流成分(内部機器の摺動抵抗による無効電流値。以下、適宜、キャリパ機部摩擦トルク電流成分ともいう。)も含まれることになる。
前記車両に設けたブレーキペダル19にはストロークシミュレータ20が接続されており、ブレーキペダル19の操作量を示す情報(ブレーキペダル操作量情報)をECU4に出力するようにしている。
ブレーキパッド17は、その初期位置が、ディスクロータ18から一定の間隔を保った位置に設定されている。
電動ブレーキ装置1は、さらに、モータ9へ供給される電流(適宜、モータ供給電流という。)の値(モータ供給電流値)を検出してECU4に出力する電流センサ6を備えている。
【0010】
電動ブレーキ装置1は、運転者によってブレーキペダル19が操作されると、ペダル操作量がストロークシミュレータ20によってペダル操作量情報に変換され、このペダル操作量情報に基づいてECU4からモータ動作指令(電流)が出力される。モータ動作指令によってモータ9が動作すると、その動力が減速機構12に伝わり、B&R11が図1左方向に変位して、ブレーキパッド17を右方向に押し出し、ディスクロータ18を挟み込むことにより、制動力を発生する、すなわち通常ブレーキ動作機能を発揮する。
【0011】
PKB機構14は、図4(a)、(b)に示すように、モータ9の回転軸21に取付けられた歯車(以下、モータ歯車という。)22の近傍に回転可能に支持された長手状の係止部23と、係止部23の一端部に力を付与するPKBソレノイド24と、PKBソレノイド24及び係止部23間に介在されたばね部材25と、を備えている。係止部23の他端部には、湾曲した形状の爪26が形成されている。爪26は、係止部23の回転に伴い、モータ歯車22に引っかかり(嵌合し)、またその状態から離脱しえるようになっている。
【0012】
そして、図示しないPKB動作用のスイッチに対する運転者の操作が行われこれに応じてECU4の制御によりPKBソレノイド24が通電される(PKBを0Nにする)と、図4(a)に示すように、係止部23が時計方向に回転し、爪26がモータ歯車22の歯先部に引っかかり、モータ歯車22ひいてはモータ9の推力低下の方向(減力方向)への回転〔図4(a)時計方向の回転〕が拘束される(換言すれば、PKB動作機能が発揮される。)。なお、上述したように爪26がモータ歯車22の歯先部に引っかかってモータ9の回転を拘束するようになることを、本明細書では、適宜、ラッチ、又は係止ともいう。
また、上述したようにPKB動作機能が発揮された状態で、図示しないPKB動作解除用のスイッチに対する運転者の操作が行われると、これに応じてECU4の制御によりモータ9が増力方向(左回り)に一定回転以上動作されると共に、PKBソレノイド24への通電が停止され、図4(b)に示すように、モータ歯車22の歯先部と係止部23が離れ、モータ9が自由に動作できるようになり、前記ラッチが解除される、即ちPKBが0FFされる(PKB動作解除機能が発揮される。)。
【0013】
RAM3は、ECU4の作業エリアとして用いられ、モータ位置‐電流テーブル3bが更新可能に格納される。モータ位置‐電流テーブル3bは、所望の推力(制動力)を得るための指令値(指令電流)の算出に用いられる。RAM3には、モデル機による測定や後述する電動ブレーキの剛性モデルなどを用いて得られるモータ位置‐電流テーブルが予め格納されている。モータ位置‐電流テーブルは、後述する摩擦トルク学習動作(図5参照)における電流計測で得られる電流(摩擦トルク成分電流)に基づいて更新され、このモータ位置‐電流テーブルの更新により、ECU4(制御装置5)が、キャリパの経年変化を考慮した指令値(指令電流)を求め、換言すれば、モータに供給する電流値をキャリパの経年変化を考慮して補正し、精度良い制動制御を行なえるようにしている。
本実施形態では、ECU4(制御装置5)が、電流値補正手段(モータ電流値補正手段)を構成している。
RAM3は、さらに、電動ブレーキの熱などの物理的情報により設定される剛性モデル(電動ブレーキの剛性モデル)や推力推定テーブル3aを更新可能に保存すると共に、後述する制御過程で実行される計測(図7ステップS3参照)により得られる位置データ及びこれに対応した電流値データを記憶するようにしている。この計測により得られた位置データ及び電流値データ(摩擦トルク成分電流)は、モータ位置‐電流テーブルの更新に用いられる。
【0014】
ここで、図2、3に基づいて、電動ブレーキが行なう推力制御について説明する。ドライバがブレーキペダル19を動作することによって、この動作をストロークシミュレータ20で操作量として検出する。検出した操作量を基にECU4は、ピストン4が押圧すべき目標推力値を設定し、これを推力指令として推力指令→位置指令変換部4aに送る。推力指令→位置指令変換部4aでは、RAM3に格納された推力推定テーブル3aに基づいて、推力指令に対するモータ位置を決定してこれを時間の関数とした位置指令として位置制御部4bに送る。位置制御部4bでは、モータ位置−電流テーブル3bに基づいて、位置指令に対応する時間を関数とした電流指令を決定して電流制御部4cに送る。上記モータ位置−電流テーブル3bは後述する更新処理により、キャリパ2の経年変化に合わせて更新されるようになっている。電流制御部4cでは、受け取った電流指令をPWM信号に変換してモータ9に出力する。これにより目標推力値に応じたモータ位置による推力制御が行われることになる。
【0015】
上記のように行なう推力制御では、あくまでもモータ位置を制御しているため、1回の制動中にキャリパ2の負荷や環境に応じて実際の推力が推定した推力と相違してしまうことがある。これに対応するため、モータ9に出力した電流がキャリパ2の負荷や環境に応じて変化することを利用する。具体的には、モータ9への出力電流を電流センサ6を介してQ軸電流として取得して、これを時間の関数としてECU4の電流補正部4dに入力する。電流補正部4dでは、Q軸電流について外乱等をフィルタリングして時間を関数とした補正電流を生成して電流→推力変換部4eに送る。電流→推力変換部4eでは、補正電流を時間の関数である電流推力に変換して推力推定テーブル作成部4fに送る。推力推定テーブル作成部4fでは、時間の関数である電流推力からモータ位置と推力との関係を示す更新推力推定テーブルを生成して推力指令→位置指令変換部4aに送る。推力指令→位置指令変換部4aでは、生成された更新推力推定テーブルを推力推定テーブル3aとしてRAM3に格納するとともに、更新推力推定テーブルを用いて推力指令に対するモータ位置を決定してこれを時間の関数とした位置指令として再び位置制御部4bに送る。上記の作動を行なうことにより、実際の推力が推定した推力と相違してしまうことを防止している。また、上記電流→推力変換部4eは、本発明の推力推定手段を構成している。
【0016】
次に、モータ位置‐電流テーブル3bについて、図6に基づいて、説明する。
図6は、左右輪共にPKB推力が同等である場合におけるテーブル更新処理を説明するための左右輪いずれか一方を対象にしたモータ位置‐電流テーブルで、横軸がモータ位置、縦軸が「推力発生成分電流+摩擦トルク成分電流」とされるモータ位置‐電流テーブルを示す図である。図6に示されるモータ位置‐電流テーブルがRAM3に更新可能に記憶される。図6中、モータ位置‐電流テーブルのうち更新前(学習前)、更新後(学習後)のものを、夫々、点線、実線で示す。
そして、図6は、所定のモータ位置において所望の推力(制動力)を得るために、モータ位置‐電流テーブル3bにおける前記所定のモータ位置に対応した大きさの電流(推力発生成分電流+摩擦トルク成分電流)をモータ9に通電する必要があることを示している。
図6中、符号▽は、実使用時においてクリアランスを詰めていない状態〔原点(ブレーキパッド接触位置相当)、無負荷領域(モータ位置ゼロに相当する位置)〕で得られる電流値(推力ゼロでの電流値)を示す。符号□、◇は、夫々、モータ9の推力を一点鎖線30で示すモータ位置におけるPKB ON位置(図5参照)相当推力とした際に必要とされる更新前(学習前)、更新後(学習後)モータ位置‐電流テーブルにおける「推力発生成分電流+摩擦トルク成分電流」を示す。
キャリパ2の経年変化(例えばグリスの性能低下)により、摩擦トルクが大きくなると、摩擦トルク成分電流ひいては内部機器の摺動抵抗による無効電流値(キャリパ機部摩擦トルク電流成分)が大きくなることから、所望の推力(制動力)を得るためには、経年変化前に必要とされた電流に比して大きな電流をモータ9に供給する必要がある。即ち、所望の推力(制動力)を得るために、経年変化前ひいては更新前(学習前)のモータ位置‐電流テーブル(図6中、点線で示す、)に代えて、同等モータ位置で電流値が大きくなるようにした更新後(学習後)のモータ位置‐電流テーブル3bを用いることが必要となる。
【0017】
上述したキャリパ2の経年変化に対して、本実施形態では、PKB作動時に〔モータ9のラッチが解除されずPKBによる制動力が作用している状態で〕推力(減衰力)の増力及び減力を行って(以下、この挙動を、便宜上、規定動作という。)、電流(以下、学習分電流という。摩擦トルク成分電流に相当する。)Idを計測し、計測された電流(学習分電流Id)を用いてモータ位置‐電流テーブルを更新し、更新により得られた新たなモータ位置‐電流テーブル3bを制動制御に用いるようにしている。上記規定動作で計測して得られる電流(学習分電流Id)は、キャリパ2の摩擦抵抗に対応していて摩擦トルク成分電流に相当し、かつキャリパ2(キャリパ機部)の経年変化の影響を含むものになっている。そして、本実施形態では、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を用いてモータ位置‐電流テーブルを更新するので、キャリパ2の経年変化が反映されて、制動制御の精度向上を図ることができる。
【0018】
制御装置5(ECU4及びRAM3)は、前記通常ブレーキ動作、PKB動作、PKB動作解除を行うように各部材を制御する(前記動作などに対する制御を以下、適宜、通常ブレーキ制御、PKB ON制御、PKB OFF制御という。)と共に、前記摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理及び当該処理の前提となる判定処理からなる電流補正処理を実行する。
制御装置5が実行する電流補正処理は、図7に示すように、ステップS3、S4からなる学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)の検出・テーブル更新処理と、ステップS1、S2からなる判定処理とを含んで構成されている。電流補正処理に、判定処理(ステップS1、S2)を含んでいることにより、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)の検出処理(ステップS3)を後述する摩擦トルク学習動作領域で行えるようにしている。
この電流補正処理では、ステップS1においてブレーキシステムが0Nである〔以下、YES(Y)ともいう。〕か否〔以下、(NO(N) ともいう。 )かの判定を行う。ステップS1でNOと判定すると、当該電流補正処理は終了する。
【0019】
ステップS1でYESと判定すると、ステップS2に進む。ステップS2において、PKB ON動作が完了している〔以下、YES(Y)ともいう。〕か否〔以下、(NO(N) ともいう。 )かを判定する。ステップS2における「PKB ON動作が完了」とは、PKB OFF動作に移行する前段階とされ、PKBによる制動力が作用している状態(モータ9のラッチが解除されない状態)を指している。本実施形態では、前記学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)検出処理(ステップS3)を、ステップS2でYESと判定することにより、即ちPKBによる制動力が作用している状態(モータ9のラッチが解除されない範囲ΔX内で)で行うことにより、上述したように学習分電流Id〔摩擦トルク成分電流(ひいては、キャリパ機部摩擦トルク電流成分)を算出するようにしている。
本実施形態では、ECU4(制御装置5)が、無効電流値算出手段を構成している。
ステップS2でNOと判定すると、ステップS1に戻る。ステップS2でYESと判定すると、ステップS3に進む。
【0020】
ステップS3において、前記規定動作(PKBによる制動力が作用している状態での増力及び減力作動。図5の摩擦トルク学習動作参照)時におけるモータ供給電流(学習分電流Id)を計測する。増力時、減力時における学習分電流Idを、以下、適宜、学習分増力側電流Idz及び学習分減力側電流Idgという。
学習分電流Id(例えばIdz、Idg)は、上述したようにPKBによる制動力が作用している状態で計測されることから、摩擦トルク成分電流に相当するものである。
【0021】
ステップS3に続くステップS4では、ステップS3で得た学習分電流Id(以下、現学習分電流Idnという。)から前回学習時に得た学習分電流Id(以下、前回学習分電流Idbという。)を減算して、学習分差分電流Ids(前回から現時点までの摩擦抵抗の変化、ひいては経年変化に相当する。)を得、指令値算出に用いるモータ位置‐電流テーブルにおける電流値に学習分差分電流Ids(Idsz、Idsg)を加えるように、当該モータ位置‐電流テーブルを更新し(すなわち、図5点線のモータ位置‐電流テーブルに代えて実線のモータ位置‐電流テーブルを新たなモータ位置‐電流テーブル3bとし)、ステップS1に戻る。
【0022】
上記更新処理について、PKB ON位置(図5参照)相当推力位置(図6の一点鎖線30に対応する位置)における学習前のモータ位置‐電流テーブルにおける増力側、減力側電流、増力側、減力側学習分差分電流が夫々、例えばIpush_tb1、Ipull_tb1、Idsz、Idsgである場合を例にして以下に説明する。
すなわち、増力側電流Ipush_tb1(図6上側の□)に増力側学習分差分電流Idszを加えて、新たな増力側電流Ipush(図6上側の○)を得、この新たな増力側電流Ipushと増力側の推力ゼロでの電流値▽(図6上側)を接続して(所謂線形補完を行うことによって)実線で示される増力側の新たなモータ位置‐電流テーブル(図6上側)を得る。この新たなモータ位置‐電流テーブル((図6上側の実線)を学習前の増力側のモータ位置‐電流テーブル(図6上側の点線)に代えるように更新処理し、この新たなモータ位置‐電流テーブルを、制動制御のための指令値(電流値)算出に用いるようにする。
【0023】
減力側モータ位置‐電流テーブルについても、上記増力側モータ位置‐電流テーブルの例と同様に、減力側電流Ipull _tb1(図6下側の□)に減力側学習分差分電流Idsgを加えて、新たな減力側電流Ipull(図6下側の○)を得、この新たな減力側電流Ipullと減力側の推力ゼロでの電流値▽(図6下側)を接続して実線で示される減力側の新たなモータ位置‐電流テーブル(図6下側)を得る。この新たなモータ位置‐電流テーブル(図6下側の実線)を学習前の減力側のモータ位置‐電流テーブル(図6下側の点線)に代えるように更新処理し、この新たなモータ位置‐電流テーブルを、制動制御のための指令値(電流値)算出に用いるようにする。
減力側の推力ゼロでの電流値▽(原点、パッド接触位置相当)は、実使用時において、クリアランスを詰めていない状態で得られる電流値であり、無負荷領域での摩擦トルクに相当する。
【0024】
前記ステップS3における電流計測(学習分電流Idの算出)は、モータ9のラッチが解除されない状態で、換言すればPKBによる制動力が作用している状態で推力(減衰力)の増力及び減力を行いつつ、行われており、すなわち、前記規定動作中に行われており、この状態で得られる学習分差分電流Idsは、推力発生には消費されないことから、摩擦トルク成分電流に相当することになる。
そして、ステップS4で現学習分電流Idnから前回学習分電流Idbを減算して得られる学習分差分電流Idsは、前回計測から現在計測までの摩擦抵抗の変化、ひいては経年変化に相当するものになっている。そして、この学習分差分電流Idsひいてはキャリパ2の経年変化を考慮してモータ位置‐電流テーブルを更新する。このため、当該更新されたモータ位置‐電流テーブルを制動制御のための指令値(電流値)算出に用いることにより、キャリパ2の経年変化を反映して制動制御を行なえ、これに伴い制動制御の精度を向上することができる。
【0025】
上述したように構成された電動ブレーキ装置1の作用を、図5〜図7に基づいて、以下に説明する。
図5に示すように、まずドライバによる制動動作(通常ブレーキ制御)が例えば時刻t1まで行われ、時刻t1でドライバがPKB ON要求を行うと、キャリパ2はPKB ON動作を行い、指定された推力にてモータ9をラッチする(PKB 0N制御)。PKB ON制御が完了すると時刻t2にてモータ9のラッチが解除されない範囲ΔX内でモータ9を増力方向および減力方向に動作し、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)の検出・テーブル更新処理を行う(摩擦トルク学習動作。図7ステップS3、S4)。そして、時刻t3にて、ドライバがPKB OFF動作を要求することにより、モータ9のラッチは外され、ブレーキペダル19入力による推力指令相当位置までモータ9を動作する(PKB OFF制御)。上述した摩擦トルク学習動作を行う領域(モータ9のラッチが解除されない範囲ΔXに対応する領域)を前記摩擦トルク学習動作領域という。時刻t4にてドライバがブレーキペダル19を動作することによって、モータ9を動作させ、推力を発生する(通常ブレーキ制御)。
【0026】
上述した学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)の検出処理(ステップS3)は、ドライバがPKB ON要求を出してからPKB OFF要求を出すまでの間に行う。すなわち、PKBによる制動力が作用している状態で行われており、この状態で得られる学習分電流Idは、推力発生には消費されないことから、摩擦トルク成分電流に相当することになる。
ステップS4で現学習分電流Idnから前回学習分電流Idbを減算して学習分差分電流Idsを得るが、この学習分差分電流Idsは、前回計測から現在計測までの摩擦抵抗の変化、ひいては経年変化を表すものになっている。この学習分差分電流Idsひいてはキャリパ2の経年変化を考慮してモータ位置‐電流テーブル3bを更新する。このため、当該更新されたモータ位置‐電流テーブル3bを用いることにより、キャリパ2の経年変化を反映して制動制御を行なえ、これに伴い制動制御の精度を向上することができる。
【0027】
上記第1実施形態では、PKB ON動作後に規定動作を行い、学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を得、これから所謂線形補完を行うことによってキャリパ機部摩擦トルク電流成分を求め、モータ位置‐電流テーブル3bを更新する方法を示した。PKB ON状態が一回の規定動作に要する時間に比べて十分長い場合は、規定動作を複数回行うことによって精度が向上すると考えられる。このように、規定動作を複数回行うことによって精度を向上するようにした実施形態(第2実施形態)を、図8〜図11に基づき、図1〜図7を参照して以下に説明する。
図8は、本発明の第2実施形態に係る電動ブレーキ装置の作用を説明するためのフローチャートである。図9は、図8のステップS3、S4で実行されるキャリパ機部摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理におけるモータの動作タイムチャートである。図10は、同テーブル更新処理を説明するためのモータ位置−電流テーブルを示す図であり、(a)は、左輪を対象にした図、(b)は、右輪を対象にした図である。図11は、同テーブル更新処理を説明するためのPKB ON位置の決定方法を示す図である。
【0028】
第2実施形態では、左右輪に与えるPKB推力の平均が一定になるようにPKB推力を調整して、モータ位置(PKB ON位置)の組合せを決定するようにしている。すなわち、図11に示すように、初期状態で左右輪ともPKB推力(F0〔kN〕, F0〔kN〕)にて与えていたとすると、PKB推力の組合せを左右輪に対して(F0+k〔kN〕, F0+k〔kN〕)、(F0−k〔kN〕, F0−k〔kN〕)となるようにモータ位置(PKB ON位置)の組合せを決定している。
また、第2実施形態では、図7に代えて図8の処理を行う。図8の処理では、図7の処理に比して、ステップS5〜S7を含むことが異なっている。図8において、ステップS4の処理(位置‐電流テーブルの更新)が行われると、ステップS5に進む。ステップS5で、あらかじめ設定された箇所すべての電流成分を更新した〔以下、YES(Y)ともいう。〕か否〔以下、NO(N)ともいう。〕かの判定を行う。ステップS5でYESと判定すると、ステップS6に移動する。ステップS6において、これまでに行ってきた規定動作により更新した電流値を用いて、テーブルの更新を行い、ステップS1に移動する。
ステップS5でNOと判定すると、ステップS7へ進む。ステップS7において、車両の総推力に変化が無いよう、PKB推力を変化させて、ステップS3に進む。
【0029】
上述したように、ステップS5でNOと判定すると、ステップS7へ進んで、PKB推力を変化させた後、ステップS3、S4に進んで、再度、前記摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理を行う。この摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理を、ステップS5でYESと判定するまで、繰返し実行するが、このように繰返し実行する処理内容を、図9に基づいて、説明する。
図9において、あるPKB推力にて規定動作が終了した場合(時刻t3)、左右輪のキャリパ2のPKBラッチを解除し(PKB OFF制御、時刻t3〜t4)、そのときの左右PKB推力の平均値が変化しないよう、左右の推力を変化させ、再びモータ9をラッチする(PKB ON制御、時刻t4〜t5)。その後、時刻t5にて前記第1実施形態で示したのと同様の規定動作を行い、そのときの学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を求める。このような動作を、ドライバによるPKB OFF操作が行われるまで実施し、可能な限り多くの位置における学習分電流Id(摩擦トルク成分電流)を計測する。
【0030】
上述したように得られた学習分電流Id(以下、現学習分電流Idnという。)から前回テーブル更新に際して得た学習分電流Id(以下、前回学習分電流Idbという。)を減算して、学習分差分電流Ids(前回から現時点までの摩擦抵抗の変化、ひいては経年変化に相当する。)を得る。そして、車両の総推力に変化が無いように、かつ指令値算出に用いるモータ位置‐電流テーブルにおける電流値に対して学習分差分電流Idsの加算又は減算を施して、当該モータ位置‐電流テーブルを更新して新たな更新後(学習後)のモータ位置‐電流テーブルを得る。この場合、車両の総推力に変化が無いようにする(ひいては推力平均値を一定にする)ために、学習分電流Idの検出対象となるPKB ON位置については、図11に示すように、PKB推力の平均値が一定になるように利用している。
この第2実施形態によれば、局所的な摩擦トルク変動に対応したキャリパ機部摩擦トルク電流成分の考慮が可能となり、推力発生領域における位置‐電流特性が単調増加とならない場合においても、推力推定を行うことが可能となり、これに伴い、制動制御の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置のキャリパの断面図である。
【図2】図1の電動ブレーキ装置を模式的に示すブロック図である。
【図3】図2の制御装置を模式的に示すブロック図である。
【図4】図1のPKB機構の作動状態を示し、(a)は、PKB動作時、(b)PKB解除時の状態を示す図である。
【図5】図1、図2の制御装置が実行するキャリパ機部摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理におけるモータの動作タイムチャートである。
【図6】同テーブル更新処理を説明するためのモータ位置−電流テーブルを示す図である。
【図7】図1の電動ブレーキ装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る電動ブレーキ装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【図9】図7のステップS3、S4で実行されるキャリパ機部摩擦トルク成分電流検出・テーブル更新処理におけるモータの動作タイムチャートである。
【図10】同テーブル更新処理を説明するためのモータ位置−電流テーブルを示す図である。
【図11】同テーブル更新処理を説明するためのPKB ON位置の決定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1…電動ブレーキ装置、2…キャリパ、4…ECU〔電流値補正手段(モータ電流値補正手段)、無効電流値算出手段〕、5…制御装置〔電流値補正手段(モータ電流値補正手段)、無効電流値算出手段〕、9…モータ、10…レゾルバ(回転位置検出器)、11…B&R(運動変換機構、内部機器)、12…減速機構(内部機器)、14…PKB機構(パーキング機構)、17…ブレーキパッド、18…ディスクロータ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転を内部機器に伝達してブレーキパッドをディスクロータに押圧するキャリパと、
前記内部機器に連係して設けられ前記モータの回転を係止するパーキング機構と、
前記パーキング機構の作動時に、モータの回転を係止し得る範囲で前記モータを回転させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記内部機器の摺動抵抗による無効電流値を算出して該無効電流値により前記モータに供給する電流値を補正する電流値補正手段と、
を有することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
モータと、該モータの回転を減速する減速機構と、該減速機構の回転を直線運動に変換して押圧部材に伝達する運動変換機構とを配設してなるキャリパを備え、前記モータの回転に応じて前記押圧部材を推進し、その推力でブレーキパッドをディスクロータに押圧して推力を発生し、前記モータに供給する電流値に基づいて必要な押圧推力を得るための制御を行うとともに前記キャリパに前記モータの回転を係止するパーキング機構を備え、車両に用いられる電動ブレーキ装置において、
前記パーキング機構の作動時に、モータの回転を係止し得る範囲で前記モータを回転させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記減速機構および前記運動変換機構の摺動抵抗による無効電流値を算出して前記モータに供給する電流値の補正に用いることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動ブレーキ装置において、前記車両に用いられる複数個の前記パーキング機構の作動時の推力を、その平均値が一定になるように変化させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記減速機構および前記運動変換機構の摺動抵抗による無効電流値を算出して前記モータへ供給する電流値の補正に用いることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項4】
モータと、該モータの回転を減速する減速機構と、該減速機構の回転を直線運動に変換して押圧部材に伝達する運動変換機構と、前記モータの回転位置を検出する回転位置検出器とを配設してなるキャリパを備え、前記モータの回転に応じて前記押圧部材を推進し、その推力でブレーキパッドをディスクロータに押圧して推力を発生し、前記モータに供給する電流値と前記回転位置検出器により検出される前記モータの回転位置とに基づいて必要な押圧推力を得るための制御を行うとともに前記キャリパに前記モータの回転を係止するパーキング機構を備え、車両に用いられる電動ブレーキ装置において、
前記パーキング機構の作動時に、モータの回転を係止し得る範囲で前記モータを回転させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記減速機構および前記運動変換機構の摺動抵抗による無効電流値を算出する無効電流値算出手段と、
該無効電流値算出手段の無効電流値に基づいて前記モータに供給する電流値を補正するモータ電流値補正手段と、
前記モータ電流値補正手段により補正された補正電流値から押圧推力を推定する推力推定手段と、
を有することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項1】
モータの回転を内部機器に伝達してブレーキパッドをディスクロータに押圧するキャリパと、
前記内部機器に連係して設けられ前記モータの回転を係止するパーキング機構と、
前記パーキング機構の作動時に、モータの回転を係止し得る範囲で前記モータを回転させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記内部機器の摺動抵抗による無効電流値を算出して該無効電流値により前記モータに供給する電流値を補正する電流値補正手段と、
を有することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
モータと、該モータの回転を減速する減速機構と、該減速機構の回転を直線運動に変換して押圧部材に伝達する運動変換機構とを配設してなるキャリパを備え、前記モータの回転に応じて前記押圧部材を推進し、その推力でブレーキパッドをディスクロータに押圧して推力を発生し、前記モータに供給する電流値に基づいて必要な押圧推力を得るための制御を行うとともに前記キャリパに前記モータの回転を係止するパーキング機構を備え、車両に用いられる電動ブレーキ装置において、
前記パーキング機構の作動時に、モータの回転を係止し得る範囲で前記モータを回転させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記減速機構および前記運動変換機構の摺動抵抗による無効電流値を算出して前記モータに供給する電流値の補正に用いることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動ブレーキ装置において、前記車両に用いられる複数個の前記パーキング機構の作動時の推力を、その平均値が一定になるように変化させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記減速機構および前記運動変換機構の摺動抵抗による無効電流値を算出して前記モータへ供給する電流値の補正に用いることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項4】
モータと、該モータの回転を減速する減速機構と、該減速機構の回転を直線運動に変換して押圧部材に伝達する運動変換機構と、前記モータの回転位置を検出する回転位置検出器とを配設してなるキャリパを備え、前記モータの回転に応じて前記押圧部材を推進し、その推力でブレーキパッドをディスクロータに押圧して推力を発生し、前記モータに供給する電流値と前記回転位置検出器により検出される前記モータの回転位置とに基づいて必要な押圧推力を得るための制御を行うとともに前記キャリパに前記モータの回転を係止するパーキング機構を備え、車両に用いられる電動ブレーキ装置において、
前記パーキング機構の作動時に、モータの回転を係止し得る範囲で前記モータを回転させ、このときの前記モータヘ供給する電流値から前記減速機構および前記運動変換機構の摺動抵抗による無効電流値を算出する無効電流値算出手段と、
該無効電流値算出手段の無効電流値に基づいて前記モータに供給する電流値を補正するモータ電流値補正手段と、
前記モータ電流値補正手段により補正された補正電流値から押圧推力を推定する推力推定手段と、
を有することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−36640(P2010−36640A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199456(P2008−199456)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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