説明

電動モータ

【課題】安定した接圧でブラシをコンミュテータに接触させることができる電動モータを提供する。
【解決手段】ヨーク11の周壁部の開口に装着されるブラシホルダ70と、このブラシホルダ70に設けられ、周壁部11a側に挿入口73gを有して、コンミュテータ50へ接触するブラシ60が挿入されるブラシ収容部73と、ブラシ収容部73に挿入されたブラシ60をコンミュテータ50側へ付勢するブラシスプリングと、ブラシ収容部73に挿入されたブラシ60およびブラシスプリングを抜け止め保持するストッパ74と、を備え、ヨーク11の周壁部11aの開口にブラシホルダ70が装着された状態で、周壁部11aと、ブラシ収容部73のストッパ74との間には、間隙Sが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータに関し、例えば、車両用のブレーキ液圧制御装置に用いられて好適な電動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動モータとしては、ヨークの開口に装着されるブラシホルダに、コンミュテータ(整流子)に接触するブラシと、このブラシを移動可能に収容するブラシ収容部と、ブラシ収容部に収容され、ブラシをコンミュテータ側に付勢するコイルスプリングと、ブラシ収容部の他端に仮止めされるスプリングストッパと、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この電動モータにおいては、ヨークに前記構成を備えたブラシホルダを装着することによって、ブラシ収容部の他端に仮止めされたスプリングストッパの外端がモータケーシングの内面に当接するようになっており、この当接によって、スプリングストッパがブラシ収容部に対する正規の装着位置に装着されるようになっている。
【特許文献1】特開2005−45872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1においては、スプリングストッパをモータケーシングの内面に当接させることで、スプリングストッパの装着位置を決定しているので、個々の部品の寸法公差の累積や組付け公差によって、コイルスプリングのセット荷重にばらつきが生じる虞がある。なお、コイルスプリングのセット荷重が必要以上に大きくなると、コンミュテータに対する押圧力が大きくなってブラシの摩耗が早まり、一方、コイルスプリングのセット荷重が必要以上に小さくなると、コンミュテータとの良好な接触が得られなくなって、コンミュテータへの電力供給が不十分になる虞がある。
【0005】
このような観点から、本発明は、安定した接圧でブラシをコンミュテータに接触させることができる電動モータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決する本発明は、有底筒状のヨークと、前記ヨークの周壁部の開口に装着されるブラシホルダと、このブラシホルダに設けられ、前記周壁部側に開口する挿入口を有して、当該挿入口からコンミュテータへ接触するブラシが挿入されるブラシ収容部と、前記ブラシ収容部の前記挿入口から挿入され、前記ブラシ収容部に挿入された前記ブラシを前記コンミュテータ側へ付勢するブラシスプリングと、前記ブラシ収容部の前記挿入口側に係止され、前記ブラシ収容部に挿入された前記ブラシおよび前記ブラシスプリングを抜け止め保持するストッパと、を備え、前記ヨークの前記周壁部の開口に前記ブラシホルダが装着された状態で、前記周壁部と、前記ブラシ収容部の前記挿入口に係止された前記ストッパとの間には、間隙が形成されていることを特徴とする。
【0007】
この電動モータによれば、ヨークの周壁部の開口にブラシホルダが装着された状態で、ヨークの周壁部と、ブラシ収容部の挿入口に係止されたストッパとの間には、間隙が形成されているので、装着後に、これらが相互に接触することがなくなり、従来のように、個々の部品の寸法公差の累積や組付け公差によって、コイルスプリングのセット荷重にばらつきが生じる虞がない。つまり、ブラシ収容部にブラシおよびブラシスプリングを収容して、ブラシ収容部の挿入口の開口にストッパを取り付けると、ブラシスプリングのセット長が所定の長さにセットされ、このセット長が、ヨークの周壁部の開口にブラシホルダを装着した後も変わらず維持されることとなる。したがって、ブラシスプリングのセット荷重が必要以上に大きくなったり、必要以上に小さくなったりすることが防止され、安定した接圧でブラシをコンミュテータに接触させることができる。
これによって、電動モータの寿命の増加を図ることができる。
【0008】
また、ブラシスプリングがコイルばねである場合には、ブラシ収容部を角筒状に形成し、その内壁面の少なくとも一つに、コイルばねの長手方向に沿うコイルばね収容溝を形成するのがよい。このように構成することによって、コイルばね収容溝にコイルばねの外周部の一部を収容することができ、このようなコイルばね収容溝を形成しないときよりもコイルばねの径を大きくすることができる。したがって、ブラシ収容部の大きさや長さを変更することなく、コイルばねのばね定数を小さく抑えることができる。
【0009】
ところで、コイルばねのばね定数が大きく設定された電動モータでは、使用によってブラシが摩耗してくると、コイルばねの圧縮状態の変化に伴ってばね荷重が大きく変化してしまい、安定した接圧でブラシをコンミュテータに接触させることができなくなる虞がある。
これに対して、本発明では、ブラシ収容部に形成されたコイルばね収容溝にコイルばねの外周部の一部を収容することができるので、コイルばねの大径化が可能となってばね定数を小さく抑えることができ、ブラシの摩耗によってばね荷重が大きく変化する不具合を防止することができる。したがって、長期的に安定した接圧でブラシをコンミュテータに接触させることができる。
【0010】
なお、電動モータが小型である場合には、ヨーク内の限られたスペースにおいて、ブラシ収容部の長さが確保され難いため、このようにコイルばね収容溝を利用してコイルばねを大径とすることで、ばね定数を小さく抑えることは、電動モータのさらなる小型化を図る上で効果的である。
【0011】
また、前記ストッパには、前記コイルばねの端部を保持する保持部が設けられている構成とするのがよい。このような保持部をストッパに設けることによって、コイルばねの端部をストッパの所定位置に保持することができ、コイルばねに偏荷重がかかることを防止することができる。これによって、偏摩耗を防止しつつ、安定した接圧でブラシをコンミュテータに接触させることができる。
また、ストッパがブラシ収容部の挿入口側に係止されると、保持部がコイルばねを介してブラシ収容部内に収まるので、ストッパが電動モータの軸方向に脱落することを防止できる。
【0012】
また、前記ブラシには、給電用のピッグテールが接続されており、前記ストッパには、前記ブラシ収容部に係止される爪部が設けられており、前記ブラシ収容部には、前記ブラシに接続されたピッグテールを挿通する案内溝が形成されており、この案内溝の端部の開口が前記ブラシ収容部に係止される前記ストッパの前記爪部で閉じられる構成とするのがよい。
【0013】
このような構成によれば、ストッパをブラシ収容部に取り付けると、ストッパの爪部が、ピッグテールを挿通する案内溝の端部の開口を閉じるので、ブラシのスライドが規制され、ブラシ収容部からブラシが抜けるのを好適に防止することができる。
【0014】
また、前記爪部には、前記ブラシと前記ピッグテールとの接続部分に対応し、前記ブラシが前記ストッパ側に押し込まれた際に、前記ピッグテールとの干渉を避ける窪み部が設けられている構成とするのがよい。このように構成することによって、ブラシの例えば端部に設けられたピッグテールとの接続部分を、ストッパの爪部の窪み部に位置させることができ、その分、コンミュテータからピッグテールの接続部分までの距離を長く設定することが可能となる。これによって、ブラシの摩耗許容長さを長くとることができるようになり、電動モータの寿命の増加を図ることができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安定した接圧でブラシをコンミュテータに接触させることができる電動モータが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、以下の実施形態においては、車両用ブレーキ液圧制御装置に使用される電動モータを例示するが、本発明に係る電動モータの用途を限定する趣旨ではない。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る電動モータMは、車両用ブレーキ液圧制御装置Uに適用されて、基体100に装着される往復動ポンプPの動力源となるものであり、基体100の一面に一体的に固着される。
【0018】
なお、基体100には、電動モータMのほか、基体100に形成された取付穴に組み付けられる、往復動ポンプP、常開型の電磁弁101、常閉型の電磁弁102、圧力センサ103、リザーバ104、コントロールハウジング105などが取り付けられる。コントロールハウジング105には、図2に示すように、電動モータMや電磁弁101,102を制御する制御基板106のほか、電動モータMに電力を供給するための接続端子107や電磁弁101,102を駆動させるための電磁コイル108などが収容されている。
【0019】
電動モータMは、モータハウジング10、固定子20、回転軸30、回転子40、コンミュテータ(整流子)50、ブラシ60、ブラシホルダ70、ブラシ収容部73、コイルばね73b、ストッパ74、ピッグテール80(図3(a)参照)などを備えている。
【0020】
モータハウジング10は、略有底円筒状に形成されたヨーク11と、このヨーク11の開口部に覆設されるカバー12とからなる。ヨーク11の底部には、ボールベアリング11bが固定されている。また、カバー12の内側には、ボールベアリング12aが固定されている。
【0021】
回転軸30は、ボールベアリング11b,12aに回転自在に支持される主軸部31と、この主軸部31の端面に突設された偏心軸部32と、この偏心軸部32の端面に突設された先端軸部33とを備えている。偏心軸部32には、図1に示す往復動ポンプPのプランジャ(図示略)に当接するボールベアリング32aが嵌め込まれていて、偏心軸部32とボールベアリング32aとでプランジャに往復運動をさせるための偏心カムが構成されている。なお、先端軸部33は、主軸部31と同軸で、基体100の装着穴110に固定されたボールベアリング33aに回転自在に支持される。なお、基体100と電動モータMとの間にはシール部材111が介設される。
【0022】
回転子40は、回転軸30の主軸部31に嵌め込まれたコア41と、このコア41を覆うインシュレータ42と、コア41に形成されたスロットに巻き付けられたマグネットワイヤ(電機子巻線)43とを備えている。なお、回転子40は、固定子20の内周側に位置している。
【0023】
コンミュテータ50は、回転子40とボールベアリング12aの間において主軸部31に嵌め込まれていて、主軸部31とともに回転する。コンミュテータ50の外周面にはブラシ60が接触する。
【0024】
ブラシ60は、ブラシスプリングとしてのコイルばね73bによりコンミュテータ50側に付勢された状態でブラシ収容部73に移動可能に収容されていて、コイルばね73bの付勢力によって、その先端面がコンミュテータ50の外周面に接触するようになっている。
ブラシ60には、その一面(ヨーク11の周方向に向く面)の後端部に、給電用のピッグテール80が接続されている。ブラシ60はこのピッグテール80をブラシ収容部73の後記する案内溝73dに挿通してブラシ収容部73に挿入される。
【0025】
ブラシホルダ70は、コンミュテータ50を取り囲むようにホルダ本体70Aが配置されており、このホルダ本体70Aから棒状部70Bが突出されている。ブラシホルダ70は、ホルダ本体70Aをカバー12と回転子40との間においてヨーク11に嵌め込むことで固定される。
【0026】
棒状部70Bは、電動モータMを基体100に組み付けたときに、基体100に形成された挿通孔109に挿通され、その先端部がコントロールハウジング105側に突出する。棒状部70Bには、導電体からなる給電路78が二つ内包されている(図2においては一つだけを図示している)。給電路78は、棒状部70Bの全長に亘って配置されており、その基端部はホルダ本体70Aから棒状部70B内へと突設された接続端子70cに接続されている。給電路78の先端部は、電動モータMを基体100に組み付けたときに、コントロールハウジング105の接続端子107に接続される。
【0027】
ホルダ本体70Aは、図3(a)に示すように、コンミュテータ50(図2参照)が挿通される円形の開口部71aを備えた環状部71と、この環状部71の外周縁に所定間隔を置いて立設された周壁部72と、環状部71の開口部71aを取り囲んで放射状に配置された複数(本実施形態では四つ)のブラシ収容部73,73,…と、ブラシ収容部73と同数のターミナル75,75,…とを備えている。
【0028】
環状部71は、ブラシ収容部73が配置される部分の周縁部(周壁部72が立設されていない部分)が、それぞれ凹状に切り欠かれており、この切り欠かれた各切欠部71bの空間に、ブラシ収容部73の後端面の挿入口73gが露出するようになっている。
【0029】
周壁部72は、環状部71の内面(図2に示す回転子40と対向する面)に形成されていて、ヨーク11の内壁面11aに固着されるようになっている(図2参照)。
【0030】
ブラシ収容部73は、ブラシ60を摺動自在に保持するものであり、本実施形態では、環状部71の内面側に形成されている。ブラシ収容部73は、四角筒状を呈しており(図3(b)参照)、開口部71aに臨む先端面(コンミュテータ50側の面、図2参照)が開口して、ブラシ60が突出可能であり、また、切欠部71bの空間に臨む後端面(ヨーク11の周壁部11a側の面、図2参照)に挿入口73gが開口して、ブラシ60をコンミュテータ50側に付勢するブラシスプリングとしてのコイルばね73bが挿入可能である。ブラシ収容部73の一方の側面(ヨーク11の周方向に向く面)には、ブラシ60の後端部に接続されたピッグテール80を挿通するための案内溝73d(図3(b)参照)がブラシ60の摺動方向に沿って形成されている。なお、案内溝73dは全てのブラシ収容部73で同一の側面に設けられている。これによって、ブラシ収容部73は、図3(b)に示すように、断面逆C字形状に形成されている。
【0031】
本実施形態では、ブラシ収容部73の側壁の内壁面73e、および底壁の内壁面73fに、コイルばね73b(図3(c)参照)の長手方向に沿うコイルばね収容溝73e,73fが形成されている。内壁面73eに形成されたコイルばね収容溝73eは、コイルばね73bの外周部に沿う断面円弧状に形成されており、コイルばね73bの側部(右外周部)の一部が収容されるようになっている。また、内壁面73fに形成されたコイルばね収容溝73fは、凹状に形成されており、コイルばね73bの底部(下外周部)の一部が収容されるようになっている。
また、ブラシ収容部73の案内溝73dは、その内側角部73d,73dが、コイルばね73bの外周部に沿う断面円弧状に面取りされており、コイルばね73bの側部(左外周部)の一部がこの面取りされて拡げられた空間内に保持されるようになっている。
【0032】
ブラシ収容部73は、このようなコイルばね収容溝73e,73f、および面取りされた内側角部73d,73dを有することによって、その内部空間の容積がコイルばね73bの外径に合わせて実質的に拡げられたものとなっており、これによって、図3(c)に示すように、ブラシ収容部73内には、ブラシ60の幅寸法d1よりも大きい外径寸法d2を備えたコイルばね73bが収容可能となっている。なお、コイルばね73bは、これらのコイルばね収容溝73e,73f、および面取りされた内側角部73d,73dによって、実質的に径方向の歪みが規制された状態でブラシ収容部73内に伸縮可能に収容される。なお、コイルばね73bは、その先端部(図3(a)参照)が平らに形成されており、図3(c)に示すように、ブラシ60の後端面の上部60aおよび下部60bの所定の位置にそれぞれ均等に当接して、ブラシ60を均等な力で押圧するようになっている。したがって、前記のように実質的に径方向の歪みが規制されていることと相俟って、ブラシ60には、コイルばね73bから均一な付勢力が付与されるようになっている。
【0033】
図3(a)、図4に示すように、ストッパ74は、ブラシ収容部73の後端面(ヨーク11の周壁部11a側の面、図2参照)側に係止され、後端面に形成された挿入口73g(図3(a)参照)を塞いで、ブラシ収容部73に挿入されたブラシ60およびコイルばね73bを抜け止め保持するようになっている。
ストッパ74は、図5(a)〜(c)に示すように、円弧状に湾曲した板状の基部74aと、基部74aの両端部からブラシ収容部73(図3(a)参照)側へ向けて突設された爪部74b,74bと、基部74aの中央部からブラシ収容部73(図3(a)参照)側へ向けて突設された保持部74cとを備えている。そして、このようなストッパ74を、図2に示すように、ブラシ収容部73の後端面側に係止して、ヨーク11の開口にブラシホルダ70を装着すると、ストッパ74の基部74aと、その側方に配置される周壁部11aとの間には、間隙Sが形成されるようになっている。つまり、ストッパ74がヨーク11の周壁部11aに対して接触しない構造となっている。
【0034】
ストッパ74を構成する基部74aは、ブラシ収容部73の後端面を覆う大きさを備えており、図5(a)(b)に示すように、爪部74bの基端部の側方には、この基端部に沿う縦長のスリット74a,74aが形成されている。このようなスリット74a,74aは、ブラシ収容部73への係止時に、爪部74b,74bの間隔が拡がる方向の良好な撓みを生じさせる。したがって、ストッパ74の軽やかな係止操作を実現している。
【0035】
爪部74b,74bは、図3(a),図4に示すように、その先端部がブラシ収容部73の後端部の両側部にそれぞれ設けられた段部73h,73hに係止されるようになっており、係止された状態で、図4に示すように、ブラシ収容部73に形成された案内溝73dの後端部の開口が閉じられるようになっている(一箇所だけ図示)。
また、爪部74bの先端部には、円弧状に切り欠かれた窪み部74b(図5(c)参照)が形成されている。この窪み部74bは、ブラシ収容部73にストッパ74を係止すると、ブラシ60とピッグテール80との接続部分を収容可能に、案内溝73dの後端部の側方に位置する(図7(a)参照)。つまり、ブラシ収容部73にストッパ74を係止すると、案内溝73dの後端部の開口が爪部74bに覆われて閉じられることとなるが、案内溝73dの後端部の側方に窪み部74bが位置して、窪み部74bの分だけ案内溝73dが後端部側に露出することとなる。これによって、ブラシ60とピッグテール80との接続部分が窪み部74b内へ収容可能となり、ピッグテール80と爪部74bとの干渉が、窪み部74bの切欠分だけ避けられるようになっている。
【0036】
図5(a)に示すように、保持部74cは、先端部側が細く形成され、コイルばね73b(図3(a)参照)の後端部に挿通可能な円柱形状を呈している。このような保持部74cは、図3(a)に示すように、ストッパ74を係止するときに、コイルばね73bの後端部に挿入されつつ、ブラシ収容部73の後端面の挿入口73gに挿入されて、コイルばね73bの後端部を保持し、コイルばね73bの後端部をブラシ収容部73内の所定位置に位置決めするようになっている。なお、保持部74cにコイルばね73bの後端部が保持されて、挿入口73gに保持部74cが挿入されると、保持部74cが挿入口73g内の上面および下面にコイルばね73bを介して密着した状態に接触し、ストッパ74自体の位置ずれが抑えられるようになっている。したがって、ストッパ74がブラシ収容部73に係止されると、段部73hに沿う爪部74bの移動(回転軸30の軸方向への移動)が防止されることとなり、段部73hと爪部74bとの係止が維持されて、ストッパ74の脱落が防止されるようになっている。
なお、図5(a)〜(c)に示すように、保持部74cは、基部74aの中央部に設けられており、これによって、基部74aに作用するコイルばね73bのバネ力は、基部74aを膨出させる方向の力として略均一に作用し、その結果、基部74aの両端部に設けられた爪部74b,74b同士の間隔が狭まる方向の力となって作用することとなる。したがって、爪部74b,74bが段部73h,73hに向けて強く係止されることとなり、ストッパ74の係止力が高められることとなる。
【0037】
ターミナル75は、図3(a)、図4に示すように、環状部71の内面側に露出し、ブラシ収容部73に近接した部位に配置されている。各ターミナル75には、ピッグテール80の端部が接続端子を介して接続されている。
なお、ターミナル75の一部は図示しない端子を介してホルダ本体70Aの内面側から外面側へ貫通し、外面側に設けられた接続端子70cに接続されて、棒状部70Bの給電路78に接続されている。
【0038】
ピッグテール80は、その一端部が前記のようにブラシ60の後端部の側方に接続されており、他端部が接続端子81を介してターミナル75に接続されている。ピッグテール80は、複数の導線を編み込んで形成したものであり、ブラシ60の動きに追従し得る程度の可撓性を有している。
【0039】
以上のように構成された電動モータMのブラシ60等の組付手順を説明する。
ブラシ60をブラシ収容部73に組み付ける際には、図3(a)に示すように、ブラシ収容部73の後端部に設けられた挿入口73gから挿入することにより行う。ブラシ60の挿入に際しては、ブラシ60の後端部に接続されたピッグテール80をブラシ収容部73の案内溝73dに通して、ピッグテール80をターミナル75側へ引き出しておいて、その後方からさらに、コイルばね73bを挿入口73gから挿入する。
【0040】
そして、ストッパ74をコイルばね73bの後面側からあてがい、ストッパ74の保持部74cをコイルばね73bの後端部に挿入して、コイルばね73bを圧縮させながら保持部74cを挿入口73gに挿入する。そして、ストッパ74の爪部74b,74bをブラシ収容部73の段部73h,73hに係止する。これによって、ブラシ収容部73内にブラシ60およびコイルばね73bが収容された状態で、ブラシ収容部73の挿入口73gがストッパ74で塞がれ、ブラシ60およびコイルばね73bが抜け止めされる。
【0041】
このような組み付けによって、コイルばね73bは、ブラシ収容部73内において、セット長が所定の長さにセットされた状態で収容される。なお、コイルばね73bの後端部に保持部74cが正しく挿入されているかどうかの点検は、ブラシ収容部73の上面に形成された透孔73aを通じて目視確認することにより行うことができる。
【0042】
次に、図6に示すように、ヨーク11にホルダ本体70A(70)を装着する際の手順について説明する。
(1)ホルダ本体70Aの装着に先立って、まず、回転子40およびコンミュテータ50を、回転軸30に圧入して組み付ける。
(2)ブラシ60、コイルばね73bおよびストッパ74をブラシホルダ70に組み付け、このブラシホルダ70を、回転軸30に挿入する。
(3)その上から、ボールベアリング12aを圧入したカバー12を、回転軸30に圧入して組み付ける。
(4)最後に、ボールベアリング11bおよび固定子20が予め固定されたヨーク11に、前記(1)〜(3)で組み立てた部品を圧入して組み付ける。
この圧入により、ヨーク11の周壁部11aに、ホルダ本体70Aの周壁部72が当接して固着される。なお、周壁部72は、ヨーク11の周壁部11aに突設された図示しない位置決め部材により所定の位置に固着される。
【0043】
このように、ホルダ本体70Aがヨーク11の開口に装着されると、ホルダ本体70Aの周縁部に形成された切欠部71bによって、ヨーク11の周壁部11aとストッパ74との間には、間隙Sが形成される。これによって、周壁部11aが接触する組み付けを行った時のような外力をストッパ74が受けるのを防止することができる。したがって、組み付け時に設定されたコイルばね73bのセット長が、装着後も大きく変化することなく良好に維持されることとなる。
【0044】
ここで、ストッパ74の爪部74bには、ブラシ60とピッグテール80との接続部分に対応する位置に、ピッグテール80との干渉を避ける窪み部74bが設けられているので、図7(a)に示すように、ピッグテール80の接続部分を、爪部74bの窪み部74b内に位置させる設定が可能となる。つまり、ピッグテール80の接続部分の位置をブラシ60の後端部側へ移動させて設けることが可能となり、これによって、ブラシ60の摩耗許容長さLを長く設定することができるようになる。
なお、使用によって、ブラシ60が摩耗してくると、ピッグテール80の接続部分は、コイルばね73bの付勢力によって、爪部74bの窪み部74b内から案内溝73dに沿ってコンミュテータ50側へ移動し、コンミュテータ50に対するブラシ60の良好な接触が維持される。
【0045】
以上のように構成された本実施形態に係る電動モータMによると、ヨーク11の開口にホルダ本体70Aが装着された状態で、ヨーク11の周壁部11aと、ストッパ74との間には、間隙Sが形成されているので、ホルダ本体70Aをヨーク11に装着した後に、これらが相互に接触することがなくなり、従来のように、個々の部品の寸法公差の累積や組付け公差によって、コイルばね73bのセット荷重にばらつきが生じる虞がない。つまり、ブラシ収容部73にブラシ60およびコイルばね73bを収容して、ブラシ収容部73の挿入口73gにストッパ74を取り付けると、コイルばね73bのセット長が所定の長さにセットされ、このセット長が、ヨーク11の開口にホルダ本体70Aを装着した後も変わらず維持されることとなる。したがって、コイルばね73bのセット荷重が必要以上に大きくなったり、必要以上に小さくなったりすることが防止され、安定したばね接圧でブラシ60をコンミュテータ50に接触させることができる。
これによって、電動モータMの寿命の増加を図ることができる。
【0046】
また、ブラシ収容部73の内壁面73e,73f、および案内溝73dには、コイルばね73bの長手方向に沿うコイルばね収容溝73e,73fおよび面取りされた内側角部73d,73dが形成されているので、これらのコイルばね収容溝73e,73fおよび内側角部73d,73dにコイルばね73bの外周部の一部を収容することができ、このようなコイルばね収容溝73e,73f等を形成しないものに比べて、コイルばね73bの径を大きくすることができる。したがって、ブラシ収容部73の大きさを変更することなく、コイルばね73bのばね定数を小さく抑えることができる。
【0047】
ところで、コイルばね73bのばね定数が大きく設定された従来の電動モータでは、使用によってブラシ60が摩耗してくると、コイルばね73bの圧縮状態の変化に伴ってばね荷重が大きく変化してしまい、安定したばね接圧でブラシ60をコンミュテータ50に接触させることができなくなる虞がある。
これに対して、本実施形態では、ブラシ収容部73に形成されたコイルばね収容溝73e,73f等にコイルばね73bの外周部の一部を収容することができるので、コイルばね73bの大径化が可能となってばね定数を小さく抑えることができ、ブラシ60の摩耗によってばね荷重が大きく変化する不具合を好適に防止することができる。したがって、長期的に安定したばね接圧でブラシ60をコンミュテータ50に接触させることができる。
【0048】
なお、電動モータMが小型である場合には、ヨーク11内の限られたスペースにおいて、ブラシ収容部73の長さが確保され難いため、このようにコイルばね収容溝73e,73f等を利用してコイルばね73bを大径とすることで、ばね定数を小さく抑えることは、電動モータMのさらなる小型化を図る上で効果的である。
さらに、コイルばね収容溝73e,73fおよび面取りされた内側角部73d,73dを形成することによって、ブラシ60とブラシ収容部73との接触面積が減少するので摺動抵抗が減少し、ブラシ60が良好に移動できる。
【0049】
また、ストッパ74には、コイルばね73bの後端部を保持する保持部74cが設けられているので、コイルばね73bの後端部をストッパ74の所定位置に保持することができ、コイルばね73bに偏荷重がかかることを防止することができる。これによって、偏摩耗を防止しつつ、安定したばね接圧でブラシ60をコンミュテータ50に接触させることができる。
【0050】
また、ストッパ74をブラシ収容部73に取り付けると、ストッパ74の爪部74bが、ピッグテール80を挿通する案内溝73dの端部の開口を閉じるので、ブラシ60のスライドが規制され、ブラシ収容部73からブラシ60が抜けるのを好適に防止することができる。
【0051】
また、ストッパ74がブラシ収容部73に係止されると、保持部74cがコイルばね73bを介してブラシ収容部73内に収まるので、ストッパ74が電動モータMの軸方向に脱落することを防止できる。
【0052】
なお、ストッパ74に対向しているヨーク11の周壁部11aに凹部を形成して、ストッパ74との間に間隙Sが形成されるように構成してもよい。また、このような凹部は、切欠部71bとともに設けるようにして、間隙Sが広く設定されるように構成してもよい。
【0053】
また、ストッパ74をブラシ収容部73に取り付けると、ストッパ74の爪部74bが、ピッグテール80を挿通する案内溝73dの端部の開口を閉じるので、ブラシ60のスライドが爪部74bによって規制されることとなるが、爪部74bには、ブラシ60とピッグテール80との接続部分に対応する位置に、ピッグテール80との干渉を避ける窪み部74bが設けられているので、当該接続部分を、ストッパ74の爪部74bの窪み部74bに位置させることができる。したがって、その分、コンミュテータ50からピッグテール80の接続部分までの距離(長さL、図7(a)参照)を長く設定することが可能となる。これによって、ブラシ60の摩耗許容長さ(L)を長くとることができるようになり、電動モータMの寿命の増加を図ることができるようになる。
【0054】
なお、電動モータMが小型である場合には、ヨーク11内の限られたスペースにおいて、ブラシ収容部73の長さが確保され難いため、このようにストッパ74の爪部74bの窪み部74bにブラシ60とピッグテール80との接続部分を位置させることで、ブラシ60の摩耗許容長さ(L)を長く設定することは、電動モータMのさらなる小型化を図る上で効果的である。
【0055】
また、コイルばね73bの長手方向に沿うコイルばね収容溝73e等は、ブラシ収容部73の内壁面の少なくとも一つに設けられていればよい。
また、窪み部74bは、円弧状に切り欠かれたものに限られず、三角形状、四角形状に切り欠かれたものでもよい。
また、ブラシ収容部73は、四角筒状のものに限られず、ブラシ60の形状に合わせて円筒状、多角筒状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係る電動モータが使用された車両用ブレーキ液圧制御装置を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電動モータが使用された車両用ブレーキ液圧制御装置を示す分解側断面図である。
【図3】(a)はブラシホルダの内面を示す図、(b)はb−b線の拡大断面図、(c)は同じく内部の位置関係を示した拡大断面図である。
【図4】ブラシホルダを内面側から見た一部省略斜視図である。
【図5】ストッパを示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図6】組み付け時の説明図である。
【図7】(a)および(b)は、ブラシのセット位置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0057】
M 電動モータ
S 間隙
11 ヨーク
11a 周壁部
50 コンミュテータ
60 ブラシ
70 ブラシホルダ
70A ホルダ本体
71b 切欠部
73 ブラシ収容部
73d 案内溝
73e 内壁面
73f 内壁面
73g 挿入口
73h 段部
74 ストッパ
74a 基部
74b 爪部
74b 窪み部
74c 保持部
73d,73d 内側角部
73e コイルばね収容溝
73f コイルばね収容溝
80 ピッグテール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状のヨークと、
前記ヨークの開口に装着されるブラシホルダと、
このブラシホルダに設けられ、前記ヨークの周壁部側に開口する挿入口を有して、当該挿入口からコンミュテータへ接触するブラシが挿入されるブラシ収容部と、
前記ブラシ収容部の前記挿入口から挿入され、前記ブラシ収容部に挿入された前記ブラシを前記コンミュテータ側へ付勢するブラシスプリングと、
前記ブラシ収容部の前記挿入口側に係止され、前記ブラシ収容部に挿入された前記ブラシおよび前記ブラシスプリングを抜け止め保持するストッパと、を備え、
前記ヨークの開口に前記ブラシホルダが装着された状態で、前記周壁部と、前記ストッパとの間には、間隙が形成されていることを特徴とする電動モータ。
【請求項2】
前記ブラシスプリングはコイルばねであり、
前記ブラシ収容部は角筒状に形成されており、その内壁面の少なくとも一つには、前記コイルばねの長手方向に沿うコイルばね収容溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動モータ。
【請求項3】
前記ストッパには、前記コイルばねの端部を保持する保持部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電動モータ。
【請求項4】
前記ブラシには、給電用のピッグテールが接続されており、
前記ストッパには、前記ブラシ収容部に係止される爪部が設けられており、
前記ブラシ収容部には、前記ブラシに接続された前記ピッグテールを挿通する案内溝が形成されており、この案内溝の端部の開口が前記ブラシ収容部に係止された前記ストッパの前記爪部で閉じられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電動モータ。
【請求項5】
前記爪部には、前記ブラシと前記ピッグテールとの接続部分に対応し、前記ブラシが前記ストッパ側に押し込まれた際に、前記ピッグテールとの干渉を避ける窪み部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の電動モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−154415(P2008−154415A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342441(P2006−342441)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】