説明

電動型スクロール圧縮機の起動制御装置及びその起動制御方法

【課題】圧縮ユニットの最適な起動を行え且つ電動モータの小形化且つ軽量化を図ることができる電動型スクロール圧縮機の起動制御装置及びその起動制御方法を提供する。
【解決手段】電動型スクロール圧縮機のための起動制御方法を実行する装置は、圧縮ユニット(2)の起動に先立ち、圧縮ユニット(2)への吸入冷媒の温度及び圧力をそれぞれ検出するサーミスタ(18)及び圧力センサ(20)と、検出した温度及び圧力から圧縮ユニット(2)内での冷媒の液化状態の有無を判定し、この判定結果に基づき、通常の起動モード又は起動モードよりも低速の液排出モードを選択し、そして、選択されたモードに従い電動モータ(4)を駆動して圧縮ユニット(2)を起動するコントローラ(10)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の冷凍回路に組み込まれる電動型スクロール圧縮機に係わり、特に、その起動時に働く起動制御装置及びその起動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動型スクロール圧縮機は車両に搭載されていることから、周囲の状況によってはその起動時、圧縮機内の冷媒が一部液化していることがある。このような状況下にて、圧縮機が通常の起動モードに従って起動されると、圧縮機内にウォータハンマ現象が発生する。このウォータハンマ現象は圧縮機に要求される駆動トルクを急激に増大させることから、その電動モータの回転速度を制御するインバータは電動モータに過電流を供給してしまうことなる。
【0003】
上述の不具合を防止するため、起動時、電動モータに供給される電流を監視しながら電動モータの回転速度、即ち、インバータの出力周波数を制御するようした制御装置が知られており(例えば、特許文献1)、この制御装置は、起動時、電動モータ、即ち、圧縮機の回転速度を制御することで、強力なウォータハンマ現象を引き起こすことなく圧縮機内の液冷媒をスクロールの摺動隙間から油溜り又はその吸入側に排出させる。
【特許文献1】特開平08-210277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制御装置は、圧縮機の起動時毎にその起動モードに従い、電動モータの回転速度を制御するため、圧縮機が起動モードから通常の運転モードに移行するのに長時間を要する。
また、起動時、圧縮機内の液冷媒の有無は起動モードが開始された後、過電流の発生の有無により判定されるため、電動モータにはその過電流の発生、つまり、駆動トルクの増大に備え、高い機械強度が要求され、その小形化や軽量化を図ることが困難である。
【0005】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的は起動制御を効果的且つ短時間で行え、また、電動モータの小形化且つ軽量化を可能にする電動型スクロール圧縮機の起動制御装置及びその起動制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、電動モータ及びこの電動モータにより駆動され、冷媒の圧縮に使用されるスクロール式の圧縮ユニットを備えた圧縮機に適用され、この電動型スクロール圧縮機の起動制御装置は、圧縮ユニットの起動に先立ち、圧縮ユニット内の冷媒の温度及び圧力をそれぞれ検出する検出手段と、この検出手段の検出結果に基づき、圧縮ユニット内の冷媒の液化状態の有無を判定する判定手段と、判定手段が液化状態無しと判定した場合には電動モータを通常の起動モードにて駆動し、これに対し、液化状態有りと判定した場合には電動モータを通常の起動モードよりも遅い速度での液排出モードにて駆動する制御手段とを備える(請求項1)。
【0007】
上述の請求項1の起動制御装置によれば、圧縮ユニットの起動に先立ち、圧縮ユニット内の冷媒の液化状態の有無が判定され、ここでの判定結果に基づき、電動モータは通常の起動モード又は液排出モードの何れかに駆動、つまり、起動される。
ここで、電動モータが液排出モードで起動される際、その速度、つまり、圧縮ユニットの駆動速度は通常の起動モードでの場合よりも遅いことから、圧縮ユニットのスクロール摺動隙間は増加した状態にある。それ故、圧縮ユニットが液排出モードにて駆動されると、圧縮ユニット内の液冷媒はその一部がスクロールの摺動隙間から漏出する一方、圧縮ユニットの吐出口を通じて排出される。
【0008】
具体的には、検出手段は、電動モータ及び圧縮ユニットを収容する共通のハウジング内に設けられ、検出した温度を圧縮ユニット内の冷媒の温度として検出する温度センサと、圧縮ユニットに吸入される吸入冷媒の圧力を圧縮ユニット内の冷媒圧力として検出する圧力センサとを含むことができる(請求項2)。
請求項2の起動制御装置によれば、検出手段は圧縮ユニット内の冷媒の温度及び圧力を直接に検出することなく、これら温度及び圧力を温度センサ及び温度センサから求めることができる。
【0009】
更に具体的には、判定手段は、圧縮ユニットの運転が停止されてから圧縮ユニットが起動されるまでの運転停止期間を計測するタイマを含み、そして、判定手段は冷媒の状態を液化状態無しの気相状態、液化状態有りの液相状態、液化状態の有無が不明な気液混合状態の何れかに判定し、ここでの判別結果が気液混合状態である場合、圧縮ユニット内の冷媒の温度及び運転停止期間に基づき、液化状態の有無を更に判定する(請求項3)。
【0010】
請求項3の起動制御装置によれば、冷媒の状態が気液混合状態にあると判定された場合でも、液化状態の有無の判定が可能となる。
更に、本発明は電動型スクロール圧縮機の起動制御方法をも提供し、この起動制御方法は、圧縮ユニットの起動に先立ち、圧縮ユニットに吸入される吸入冷媒の温度及び圧縮ユニット内の冷媒の温度をそれぞれ検出し、これら温度及び圧力の検出結果に基づき、圧縮ユニット内での冷媒の液化状態の有無を判定し、この判定結果が液化状態無しの場合には、電動モータを通常の起動モードにて駆動し、これに対し、液化状態有りの場合には電動モータを通常の起動モードよりも遅い速度での液排出モードにて駆動し(請求項4)、請求項1の装置と同様な作用を発揮する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜4の電動型スクロール圧縮機の起動制御装置及びその起動制御方法は、起動に先立ち、圧縮ユニット内での冷媒の液化状態の有無を判定し、圧縮ユニットの起動時、液化状態有りの場合にのみ電動モータを液排出モードにて駆動し、これ以外の場合には通常の起動モードにて駆動されることから、圧縮ユニットの起動が常に長期化することはない。
【0012】
また、冷媒が液化状態にある場合、電動モータが低速の液排出モードにて駆動されることで、圧縮ユニット内から液冷媒を効果的に排出できる。それ故、ウォータハンマ現象の発生や電動モータへの過電流の供給が確実に防止され、電動モータの小形化且つ軽量化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、電動型スクロール圧縮機のための一実施例の起動制御装置を概略的に示す。
先ず、起動制御装置の説明に先立ち、電動型スクロール圧縮機(以下、圧縮機と称す)について簡単に説明する。
圧縮機はスクロール式の圧縮ユニット2、この圧縮ユニット2を駆動する電動モータ4とを備え、これら圧縮ユニット2及び電動モータ4は共通のハウジング6内に収容されている。また、ハウジング6内には電動モータ4の回転制御に使用されるインバータ8もまた収容されており、このインバータ8は電動モータ4の起動及び運転を制御するコントローラ10に電気的に接続され、このコントローラ10からの指令を受けて電動モータ4、即ち、圧縮ユニット2、つまり、その可動スクロールを回転駆動する。
【0014】
更に、ハウジング6には冷媒の吸入ポート12及び吐出ポート14をそれぞれ有し、これら吸入ポート12及び吐出ポート14は冷媒回路の冷媒循環経路16にそれぞれ接続されている。
冷媒は冷媒循環経路16を通じて圧縮ユニット2を循環するが、この際、冷媒が電動モータ4やインバータ8の冷却に利用される場合、冷媒循環経路16から吸入口12を通じてハウジング6内に流入した吸入冷媒はインバータ8や電動モータ4を通過した後、圧縮ユニット2の吸引口を通じて圧縮ユニット2内に吸引され、そして、吸引された冷媒は圧縮ユニット2内にて圧縮された後、吐出口から吐出室を経て吐出ポート14から冷媒循環経路16に送出される。
【0015】
圧縮機の起動制御装置は前述のコントローラ10に加えて、圧縮ユニット2内での冷媒の状態、つまり、その温度及び圧力をそれぞれ検出するセンサを備え、これらセンサはコントローラ10に電気的に接続されている。
具体的には、前述したインバータ8はハウジング6内の温度、即ち、ハウジング6内に流入する吸入冷媒の温度を検出する温度センサとして、サーミスタ18を含んでおり、このサーミスタ18は圧縮ユニット2の起動に先立ち、検出した吸入冷媒の温度を圧縮ユニット2内での冷媒の温度としてコントローラ10に供給する。
【0016】
また、前述した冷媒循環経路16には吸入ポート12を通じて流入する吸入冷媒の圧力、具体的にはエバポレータ内の冷媒の圧力を検圧する圧力センサ20が備えられており、この圧力センサ20は圧縮ユニット2の起動に先立ち、検出した吸入冷媒の圧力を圧縮ユニット2内での冷媒の圧力としてコントローラ10に供給する。
更に、コントローラ10はその内部にタイマ22を備えており、このタイマ22は電動モータ4、即ち、圧縮ユニット2の駆動が前回停止されてからの経過時間、つまり、運転停止期間を計測する。
【0017】
コントローラ10は、サーミスタ18及び圧力センサ20から検出信号に基づいて電動モータ4、つまり、圧縮ユニット2の起動を制御し、その詳細は図2の起動制御ブロックに示されている。
コントローラ10は冷媒の状態判定部24を有し、この状態判定部24は前述した吸入冷媒温度Ts及び吸入冷媒圧力Psの供給を受け、これら吸入冷媒温度Ts及び吸入冷媒圧力Psに基づき、圧縮ユニット2内での冷媒の液化状態の有無を判定する。
【0018】
具体的には、状態判定部24は図3に示すような冷媒のモリエル線図をマップ化して備えており、吸入冷媒温度Ts及び吸入冷媒圧力Psから圧縮ユニット2内の冷媒が気相、液相及気液混合の状態のうち、何れの状態にあるか否かを判定する。
ここで、圧縮ユニット2内の冷媒が液化する条件は、圧縮ユニット2内の温度(エンジンルーム内温度)がエバポレータの温度(車室内温度)よりも低く且つ圧縮機の運転停止から所定の経過時間が必要であるため、圧縮ユニット2内の冷媒の状態を判定するに際し、この冷媒の温度及び圧力を直接に検出する代わりに、前述の吸入冷媒温度Ts及び吸入冷媒圧力Psを使用することは有効であると考えられる。
【0019】
状態判定部24での判定の結果、冷媒が気相状態にあると判定された場合、コントローラ10は通常の起動モード26に従いインバータ8を介して電動モータ4の回転速度を制御し、圧縮ユニット2を駆動する。この起動モード26の完了後、電動モータ4の回転は通常の運転モード28に従って制御される。
これに対し、状態判定部24での判定結果が液相状態である場合、コントローラ10は液排出モード30に従いインバータ8を介して電動モータ4の回転速度を制御し、圧縮ユニット2を駆動する。液排出モード30での電動モータ4の回転速度は、起動モード26での電動モータ4の回転速度よりも遅く、また、液排出モード30の完了までに要する時間は起動モード26に比べても長く設定されている。
【0020】
より具体的に説明すると、スクロール式の圧縮ユニット2はその可動スクロールと固定スクロールとの間の摺動隙間が回転速度の上昇に従って減少する特性、これを換言すれば、その回転速度が低い程、摺動隙間が増加する特性を有することから、液排出モード30での電動モータ4の回転速度、即ち、圧縮ユニット2の回転速度は、液冷媒の通過を許容するのに充分な摺動隙間を確保すべく制限される。
【0021】
それ故、液排出モード30にて圧縮ユニット2が駆動されると、その内部の液冷媒はその一部が摺動隙間から漏れ出しながら圧縮ユニット2の吐出口から吐出室内に排出される。この結果、圧縮ユニット2の起動時、圧縮ユニット2内にてウォータハンマ現象が発生することはなく、このウォータハンマ現象に起因して、電動モータ4にインバータ8を通じて過電流が供給されることもない。この結果、電動モータ4の小形且つ軽量化が可能となる。
【0022】
なお、液排出モード30が完了すると、コントローラ10は通常の運転モードにて、電動モータ4の回転速度を制御する。
一方、状態判定部24にて、冷媒の状態が気相及び液相の何れにも該当しない場合、状態判定部24は冷媒が気液混合状態の状態にあると判定する。このような気液混合状態では、冷媒の温度及び圧力に基づき、冷媒の液化の有無を判定するのは困難である。
【0023】
それ故、コントローラ10は読込部32にて、吸入冷媒温度Ts及び前述した運転停止期間Tsをそれぞれ読込み、そして、次の判別部34にて、吸入冷媒温度Ts及び運転停止期間Stに基づき、圧縮ユニット2内にて冷媒の液化が生じているか否か、つまり、案縮ユニット2内での冷媒の液溜まりの有無を判別する。
具体的には、吸入冷媒温度Ts及び運転停止期間Stをパラメータとして、圧縮ユニット2内での液冷媒の溜まりの有無が実験により求められており、判別部34はその実験結果をマップ化して備えている。
【0024】
それ故、判別部34では、気液混合状態にある場合でも、その冷媒が液化状態にあるか否かを確実に判別することができる。判別部34での判別の結果、冷媒の液溜まり無しと判別される場合、コントローラ10は前述の起動モード26を実行することで、圧縮ユニット2の起動を短時間で完了させることでき、これに対し、冷媒の液溜まり有りと判別される場合、コントローラ10は前述の液排出モード30を実行することで、ウォータハンマ現象に起因した電動モータ4への過電流の供給を確実に防止可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施例の起動制御装置を備えた電動型スクロール圧縮機を示した概略図である。
【図2】図1のコントローラが実行する電動モータのための起動制御ブロック図である。
【図3】冷媒のモリエル線図である。
【符号の説明】
【0026】
2 圧縮ユニット
4 電動モータ
6 ハウジング
8 インバータ
10 コントローラ(判定手段、制御手段)
18 サーミスタ(温度センサ)
20 圧力センサ
22 タイマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ及びこの電動モータにより駆動され、冷媒の圧縮に使用されるスクロール式の圧縮ユニットを備えた圧縮機において、
前記圧縮ユニットの起動に先立ち、前記圧縮ユニット内の冷媒の温度及び圧力をそれぞれ検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づき、前記圧縮ユニット内での冷媒の液化状態の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段が液化状態無しと判定した場合には前記電動モータを通常の起動モードにて駆動し、これに対し、液化状態有りと判定した場合には前記電動モータを前記通常の起動モードよりも遅い速度での液排出モードにて駆動する制御手段と
を具備したことを特徴とする電動型スクロール圧縮機の起動制御装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記電動モータ及び前記圧縮ユニットを収容する共通のハウジング内に設けられ、検出した温度を前記圧縮ユニット内の冷媒の温度として検出する温度センサと、前記圧縮ユニットに吸入される吸入冷媒の圧力を前記圧縮ユニット内の冷媒の圧力として検出する圧力センサとを含むことを特徴とする請求項1に記載の電動型スクロール圧縮機の起動制御装置。
【請求項3】
前記判定手段は、
前記圧縮ユニットの運転が停止されてから前記圧縮ユニットが起動されるまでの運転停止期間を計測するタイマを含み、
冷媒の状態を液化状態無しの気相状態、液化状態有りの液相状態、液化状態の有無が不明な気液混合状態の何れかに判定し、
前記判定の結果が前記気液混合状態である場合、前記圧縮ユニット内の冷媒の温度及び前記運転停止期間に基づき、液化状態の有無を更に判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の電動型スクロール圧縮機の起動制御装置。
【請求項4】
電動モータ及びこの電動モータにより駆動され、冷媒の圧縮に使用されるスクロール式の圧縮ユニットを備えた圧縮機において、
前記圧縮ユニットの起動に先立ち、前記圧縮ユニット内の冷媒の温度及び圧力をそれぞれ検出し、
これら温度及び圧力の検出結果に基づき、前記圧縮ユニット内での冷媒の液化状態の有無を判定し、この判定結果が液化状態無しの場合には、電動モータを通常の起動モードにて駆動し、これに対し、液化状態有りの場合には電動モータを通常の起動モードよりも遅い速度での液排出モードにて駆動することを特徴とする電動型スクロール圧縮機の起動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−298010(P2008−298010A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146894(P2007−146894)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】