説明

電動式パイロット型制御弁

【課題】弁開度を任意にかつきめ細かく調整することができるとともに、騒音の発生を効果的に抑えることができ、加えて、優れた応答性、動作安定性、制御特性等が得られる電動式パイロット型制御弁を提供する。
【解決手段】主弁体20にパイロット通路28と弁室13とを連通する連通孔70が設けられ、パイロット弁体35に、パイロット通路28における背圧室側上端部28aを開閉するための主パイロット弁体部36Aが設けられられるとともに、パイロット出口28bを開閉するための副パイロット弁体部36Bが設けられ、パイロット弁体35が上方に移動せしめられるとき、副パイロット弁体部36Bがパイロット出口28bを開いた後、少し遅れて主パイロット弁体部36Aがパイロット通路28の背圧室側上端部28aを開くようにされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機等のヒートポンプ装置に使用するのに好適なパイロット型制御弁に係り、特に、パイロット弁として電動式のものを用いた電動式パイロット型制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パイロット型制御弁は、パイロット弁として電磁弁を用いた電磁式のものと、パイロット弁として電動弁を用いた電動式のものとがあり、いずれも小口径のパイロット弁部を開けば、それに応動して大口径の主弁部を開くことができるので、主弁の開閉を小さな駆動力で行える等の利点を有しているが、電磁式のものは、実質的に全閉状態と全開状態の二位置しかとることができず、弁開度(開口面積)をきめ細かく調整することはできない等の短所を有している。それに対し、電動式のものは、電動モータ(ステッピングモータ)に供給するパルス数等を変えることにより、弁開度(開口面積)をきめ細かく調整することが可能であるという利点を有している。
【0003】
図5は、かかる電動式パイロット型制御弁の一例を示す縦断面図である(下記特許文献1も参照)。
【0004】
図示例の電動式パイロット型制御弁1’は、マルチエアコン等の空調機において、室外機と室内機との間に配在するのに好適なもので、主弁5と該主弁5の上側に設けられた電動式パイロット弁7とからなっている。
【0005】
前記主弁5は、穴付き底部を有する円筒状の弁室筒体11とこの弁室筒体11の底部穴に溶接等により密封固定された弁座部材12とからなる弁本体10を有し、該弁本体10には、弁室13が形成され、また、周側部には高圧の冷媒を弁室13に導入するための入口導管(継手)41が連結され、底部(弁座部材12)には弁室13から冷媒を導出するための出口導管(継手)42が連結され、さらに、弁本体10(弁室筒体11)の上面開口を塞ぐように、画成台座部材32が溶接等により密封固定されている。
【0006】
前記主弁5の弁座部材12には円錐面の主弁座14a付き主弁出口14が設けられ、弁本体10(弁室筒体11)内における弁座部材12上には、断面逆凸字状のピストン型の主弁体20が摺動自在に嵌挿され、この主弁体20(の大径部20A)と前記画成台座部材32との間には背圧室33が画成されている。
【0007】
前記主弁体20には、その下端部(小径部20B)に前記主弁座14aに接離する主弁体部21が設けられ、また、主弁体20の大径部20Aには、前記弁室13と背圧室33とを連通するように小径の均圧孔24が形成され、また、大径部20Aと弁室筒体11との間にはシール材58が配在されている。
【0008】
前記主弁体20は、その大径部20Aの下端面部20aと前記弁座部材12との間に縮装された圧縮コイルばね(開弁ばね)25により常時開弁方向(上方)に付勢されている。詳細には、前記圧縮コイルばね25の上端部25aを受ける、前記主弁体20における大径部20Aの下端面部20a(上側ばね受け部)には、前記上端部25aの不所望な挙動を抑えるべく、該上端部25aが外挿される短円柱状の下向き突出部20bが設けられている。
【0009】
また、前記弁座部材12は、主弁座14a付き主弁出口14が形成されている小径円筒部12Aと、前記出口導管(継手)42が内挿連結されている大径円筒部12Bと、前記弁室筒体11の下端部が連結される段付き鍔状部12Cとを有し、該段付き鍔状部12Cの段丘面部(上面)12cが前記圧縮コイルばね25の下端部25bを受ける下側ばね受け部とされ、前記圧縮コイルばね25の下端部25bの不所望な挙動を抑えるべく、前記小径円筒部12Aに前記下端部25bが外挿されている。
【0010】
さらに、前記主弁体20には、その中央を上下に貫通するようにパイロット通路28が形成されている。詳細には、前記主弁体20の上面部中央には、後述するパイロット弁体35の下端部に設けられたパイロット弁体部36が接離するパイロット弁座部材22が圧入固定されている。パイロット弁座部材22は、パイロット弁座27a付きのパイロット弁口27が設けられ、このパイロット弁口27が前記パイロット通路28の上端部となっている。
【0011】
前記主弁5の上側に設けられた電動式パイロット弁7は、前記したパイロット弁座27aに接離するパイロット弁体部36を有する段付きニードル状のパイロット弁体35の他、前記画成台座部材32にその下端部が溶接により密封接合されたキャン34と、このキャン34の内周に所定の間隙をあけて配在されて、回転軸線O回りに回転せしめられるロータ55と、該ロータ55を回転駆動すべくキャン34に外装されたステータ50Aと、を備えている。
【0012】
前記ステータ50Aは、磁性材からなるヨーク51と、このヨーク51にボビン52を介して巻回される上下のステータコイル53,53と、樹脂モールドカバー56とからなり、ロータ55とステータ50Aによりステッピングモータ50が構成されている。
【0013】
前記キャン34は、ステンレス等の非磁性の金属板を素材として、深絞り加工等により天井を有する円筒状に形成されたもので、その下端部(開口端縁部)が、画成台座部材32の上部段差部に突き合わせ溶接により密封接合され、内部は気密状態に保たれている。
【0014】
前記パイロット弁体35(のパイロット弁体部36)をパイロット弁座27aに接離させる駆動機構は、パイロット弁体35が摺動自在に嵌挿された筒状のガイドブッシュ37とその外周に配在された下方開口の筒状の弁体ホルダ40とに形成されるねじ送り機構60とされる。すなわち、前記ガイドブッシュ37は、画成台座部材32にその下端部が圧入(又は螺合)固定されるとともに、その中央部付近に雄ねじ部62が形成され、前記弁体ホルダ40は、ガイドブッシュ37の雄ねじ部(固定ねじ部)62に螺合する雌ねじ部(移動ねじ部)61が形成され、また、その天底中央部にパイロット弁体35の上部小径部が相対回転及び相対移動可能に挿通せしめられている。パイロット弁体35の上部小径部の上端部は、弁体ホルダ40の天底上面(凹部)に乗せられたナット44に圧入固定されている。
【0015】
また、前記パイロット弁体35は、弁体ホルダ40の天底とパイロット弁体35の中間段差部との間に縮装された緩衝用のコイルばね38によって常時下方に付勢されている。ガイドブッシュ37の側面には背圧室33とキャン34内の均圧を図る均圧孔37aが形成されている。
【0016】
弁体ホルダ40の天底上には、コイルばねからなる復帰ばね45が設けられている。復帰ばね45は、ガイドブッシュ37の固定ねじ部62と弁体ホルダ40の移動ねじ部61との螺合が外れたときに、キャン34の天井に当接して固定ねじ部62と移動ねじ部61との螺合を復帰させるように働く。
【0017】
弁体ホルダ40とロータ55とは支持リング43を介して結合されており、支持リング43に弁体ホルダ40の上部突部がかしめ固定され、これにより、ロータ55、支持リング43及び弁体ホルダ40が一体的に連結されている。
【0018】
前記ガイドブッシュ37には、ストッパ機構の一方を構成する下ストッパ体(固定ストッパ)66が固着され、弁体ホルダ40にはストッパ機構の他方を構成する上ストッパ体(移動ストッパ)67が固着されている。
【0019】
なお、前記主弁体20の大径部20Aの外径Daは、主弁出口14の口径Dbの1.5〜3倍とされるとともに、前記ロータ55の外径Dcよりも大きくされ、また、主弁出口14の口径は、パイロット弁口27の口径の3〜9倍とされ、パイロット弁口27の口径は、均圧孔24の孔径(最小部)より大きくされている。
【0020】
ここで、図示例の電動式パイロット型制御弁1’において、弁室13の圧力をP1、背圧室33の圧力をP2、主弁出口14の圧力をP3、弁室筒体11の水平断面積(主弁体20の受圧面積)をAp、主弁出口14の水平断面積をAv、圧縮コイルばね(開弁ばね)25の付勢力をPfとし、主弁体20を押し上げる力を開弁力、主弁体20を押し下げる力を閉弁力とすれば、主弁開弁条件は、
閉弁力=P2×Ap<開弁力=P1×(Ap-Av)+P3×Av+Pf
となる。
【0021】
このような構成とされた図示例の電動式パイロット型制御弁1’にあっては、前記主弁5が閉状態(主弁体20の主弁体部21が主弁座14aに着座している状態)にあり、かつ、電動式パイロット弁7が開状態(パイロット弁体35がパイロット弁座27aから離れている状態)のとき、ステッピングモータ50(ステータコイル53,53)に例えば順位相でパルス供給を行って、ロータ55をガイドブッシュ37に対して一方向に回転させると、ガイドブッシュ37の固定ねじ部62と弁体ホルダ40の移動ねじ部61とのねじ送りにより、弁体ホルダ40が下方に移動してパイロット弁体35のパイロット弁体部36がパイロット弁座27aに着座圧接して閉状態となる。
【0022】
この時点では、上ストッパ体67は未だ下ストッパ体66に当接しておらず、パイロット弁体35のパイロット弁体部36がパイロット弁座27aに着座したまま弁体ホルダ40はさらに回転下降する。このときは、パイロット弁体35に対して弁体ホルダ40が下降するため、緩衝用のコイルばね38が圧縮せしめられることにより弁体ホルダ40の下降力は吸収される。その後、ロータ55がさらに回転して弁体ホルダ40が下降すると、上ストッパ体67が下ストッパ体66に衝接し、ステータコイル53,53に対するパルス供給が続行されても弁体ホルダ40の下降は強制的に停止される。
【0023】
上記のように主弁5及びパイロット弁7が閉状態にあるときには、入口導管41から弁室13に導入された高圧(圧力P1)の冷媒は、均圧孔24を介して背圧室33に導入され、背圧室33の圧力P2が高圧となるので、主弁体20の主弁体部21が主弁座4aに強く押し付けられる。このとき(パルス数が0からTaまで)の、当該電動式パイロット型制御弁1’における入口導管41側から主弁出口14を介して出口導管42側へ流出する冷媒流量は、図6に示される如くに0となる。
【0024】
前記主弁5及びパイロット弁7が閉状態にあるときから、ステッピングモータ50(ステータコイル53,53)に例えば逆位相でパルス供給を行って、ロータ55をガイドブッシュ37に対して前記とは逆方向に回転させると、ガイドブッシュ37の固定ねじ部62と弁体ホルダ40の移動ねじ部61とのねじ送りにより、パルス数(回転量)がTaとなったとき、弁体ホルダ40の上方移動に伴ってパイロット弁体35のパイロット弁体部36がパイロット弁座27aから離れ始めてパイロット弁7が開き始め、パルス数がTbになるまで、背圧室33の冷媒がパイロット通路28を通じて出口導管42に流出(当該制御弁1’の冷媒流量が徐々に微増)し、背圧室33の圧力P2が徐々に減圧される。
【0025】
そして、パルス数(回転量)がTbになると、パイロット弁体35のパイロット弁体部36がパイロット弁座27aから所定距離だけ離れて冷媒流量がJaとなり、主弁体20を押し上げる力(開弁力)が主弁体20を押し下げる力(閉弁力)に打ち勝ち、主弁体20が押し上げられて、主弁体部21が主弁座4aから離れ始め、主弁5が開き始める。
【0026】
続いて、パルス数をさらに増加させていくと、パルス数がTcになるまで、パイロット弁体35の上昇移動に追従するように、主弁体20が押し上げられる。詳細には、パイロット弁体35のパイロット弁体部36がパイロット弁座27aから前記所定距離だけ離れた状態、つまり、電動式パイロット弁7の開度を略一定に保った状態で、前記パイロット弁体35及び主弁体20が一緒に上方(開弁方向)に移動する。これにより、パルス数(回転量)がTbからTcの間は、当該電動式パイロット型制御弁1における冷媒流量が一定の勾配をもって滑らかに増加していく。すなわち、パルス数がTbからTcになるまでは、パイロット弁体35のパイロット弁体部36がパイロット弁座27aから所定距離だけ離れた状態を維持したまま、パイロット弁体35と主弁体20とがパルス数(回転量)に対して同距離ずつ上昇する(ように、各部の寸法仕様等が設定されている)。
【0027】
そして、パルス数がTcになると、主弁体20の上面ストッパ部29が画成台座部材32の下面に設けられた固定ストッパ39に接当し、主弁体20の上昇が阻止される。したがって、パルス数がTcを越えても、当該電動式パイロット型制御弁1における冷媒流量(開度)は、パルス数がTcのときのJbよりは大きくならず、このときの開度(最大開度)を維持することになる。
【0028】
以上のように、図示例の電動式パイロット型制御弁1’では、パイロット弁として、電磁式ではなく電動式のものを用いているので、パイロット弁7に供給するパルス数に応じて冷媒流量を滑らかに変化させることができるとともに、均圧時間を早くすることができる。そのため、弁開度(開口面積)を任意にかつきめ細かく調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2008-64301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
しかしながら、前記した如くの従来の電動式パイロット型制御弁1’では、主弁5の開弁時において弁室13と背圧室33との圧力バランスが不安定になって、所謂チャタリングが発生し、耳障りな異音(連続叩音、振動音)が出るという問題があった。このチャタリングの発生は、次のようなことが原因と考えられる。
【0031】
すなわち、前述したように、パイロット弁7が開き始めると、背圧室33の冷媒はパイロット通路28を介して主弁出口14側に抜け始め、背圧室33の圧力P2が徐々に下がり、背圧室33の圧力P2が前記主弁開弁条件[閉弁力=P2×Ap<開弁力=P1×(Ap-Av)+P3×Av+Pf]を満たすまで下がったとき、主弁5が開き始める。主弁5が開くと、弁室13の圧力P1は主弁出口14の圧力P3より相当大きいので、弁室13の冷媒は、主弁座14aと主弁体部21との間の隙間を通って主弁出口14側に急速に抜け、弁室13の圧力P1が急激に下がる。
【0032】
このように弁室13の圧力P1が急激に下がると、[閉弁力>開弁力]となり、主弁体20が急激に押し下げられて、主弁体部21が主弁座14aに叩き付けられるようにしてが閉じられる(叩音が出る)。このようにして主弁5が閉じられると、主弁出口14側に抜ける冷媒流量は、パイロット通路28を介したものだけとなるため、背圧室33の圧力P2が下がり、[閉弁力<開弁力]となり、主弁5が再び開き、以下、上記と同様な挙動を繰り返し、これがチャタリングとなる。
【0033】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、主弁開弁時におけるチャタリングの発生を効果的に抑えることのできる電動式パイロット型制御弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0034】
前記の目的を達成すべく、本発明に係る電動式パイロット型制御弁は、基本的には、弁室及び主弁出口が設けられた弁本体、該弁本体内に摺動自在に嵌挿されて前記主弁出口を開閉するピストン型の主弁体、及び前記主弁体との間に背圧室を画成する画成部材を有する主弁と、ニードル状のパイロット弁体を有する電動式パイロット弁とを備え、前記主弁体に、前記弁室と前記背圧室とを連通する均圧孔、前記背圧室と前記主弁出口とを連通しかつ前記パイロット弁体が挿入されたパイロット通路、及び該パイロット通路と前記弁室とを連通する連通孔が設けられ、前記パイロット弁体に、前記パイロット通路における前記背圧室側を開閉するための主パイロット弁体部が設けられるとともに、前記パイロット通路における前記連通孔より下流側に設けられたパイロット出口を開閉するための副パイロット弁体部が設けられ、前記パイロット弁体が上方に移動せしめられるとき、前記副パイロット弁体部が前記パイロット出口を開いた後、少し遅れて前記主パイロット弁体部が前記パイロット通路における前記背圧室側を開くようにされていることを特徴としている。
【0035】
好ましい態様では、前記パイロット弁体における主パイロット弁体部と副パイロット弁体部との間の部分と前記パイロット通路の内周面との間に、前記背圧室の流体を前記パイロット通路を通じて前記主弁出口に逃がすための、実効通路断面積が前記均圧孔の実効通路断面積と前記連通孔の実効通路断面積との和より大きな流路が形成される。
【0036】
この場合、好ましい態様では、前記主パイロット弁体部は、前記パイロット通路の上端部に摺動自在に嵌挿される大径部で構成され、前記パイロット弁体における前記主パイロット弁体部より下側は、前記主パイロット弁体部より小径の小径部で構成される。
【0037】
他の好ましい態様では、前記パイロット弁体の上方移動に追従するように、前記主弁体が上方に移動するように各部の寸法形状が設定される。
【0038】
他の好ましい態様では、前記主弁体を開弁方向に付勢する開弁ばねをさらに備えている。
【0039】
更に他の好ましい態様では、前記電動式パイロット弁は、キャンと、該キャンの内周に配在されるロータと、該ロータを回転駆動すべく前記キャンに外装されたステータと、前記ロータと前記パイロット弁体との間に配在され、前記ロータの回転を利用して前記パイロット弁体を軸方向に移動させる駆動機構と、を備える。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る電動式パイロット型制御弁では、主弁体にパイロット通路と弁室とを連通する連通孔が設けられ、パイロット弁体に、パイロット通路における背圧室側を開閉するための主パイロット弁体部が設けられられるとともに、パイロット出口を開閉するための副パイロット弁体部が設けられ、パイロット弁体が上方に移動せしめられるとき、副パイロット弁体部がパイロット出口を開いた後、少し遅れて主パイロット弁体部がパイロット通路の背圧室側を開くようにされているので、副パイロット弁体部がパイロット出口を開いたときから主パイロット弁体部がパイロット通路の背圧室側上端部を開くまでの間において、弁室の圧力P1が低下せしめられ、それによって、主弁が開くまでに弁室の圧力P1と主弁出口の圧力P3との差圧が小さくされることになる。
【0041】
このように、主弁の開弁時に弁室の圧力P1と主弁出口の圧力P3との差圧が小さくされることにより、主弁が開き始めた直後に弁室の冷媒が主弁出口へ急速に流出しなくなり、そのため、弁室の圧力P1が急激に下がることが回避され、主弁の開弁時において弁室と背圧室との圧力バランスが崩れにくくなり、その結果、チャタリングの発生を効果的に抑えることができ、耳障りな異音(連続叩音、振動音)が出ることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る電動式パイロット型制御弁の一実施例を示す主要部縦断面図であり、パイロット弁の主パイロット弁体部及び副パイロット弁体部:閉状態、主弁:閉状態を示している。
【図2】図1に示される電動式パイロット型制御弁の動作説明に供される主要部縦断面図であり、パイロット弁の主パイロット弁体部:閉状態、副パイロット弁体部:開状態、主弁:閉状態を示している。
【図3】図1に示される電動式パイロット型制御弁の動作説明に供される主要部縦断面図であり、パイロット弁の主パイロット弁体部:開状態、副パイロット弁体部:開状態、主弁:閉状態を示している。
【図4】図1に示される電動式パイロット型制御弁の動作説明に供されるグラフ。
【図5】従来の電動式パイロット型制御弁の一例を示す縦断面図であり、パイロット弁:閉状態、主弁:閉状態を示している。
【図6】図5に示される電動式パイロット型制御弁の動作説明に供されるグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る電動式パイロット型制御弁の一実施例を示す主要部拡大縦断面図である。
【0044】
本実施例の電動式パイロット型制御弁1は、前述した図5に示される従来の電動式パイロット型制御弁1’と電動式パイロット弁7部分(画成台座部材32より上側の部分)は略同じ構成であり、相違するのは、画成台座部材32より下側の主弁体20とパイロット弁体35部分であるので、図5に示されるものの各部に対応する部分には共通の符号を付して重複説明を省略し、以下においては、相違点を重点的に説明する。
【0045】
本実施例の電動式パイロット型制御弁1では、主弁体20に、弁室13と背圧室33とを連通する均圧孔(縦孔)24及び背圧室33と主弁出口14とを連通するパイロット通路28に加えて、パイロット通路28の下部と弁室13とを連通する連通孔(横孔)70が設けられ、パイロット通路28にはパイロット弁体35(の下部)が挿入されている。
【0046】
パイロット弁体35には、パイロット通路28における連通孔70より下流側に設けられた弁座28c付きのパイロット出口28bを開閉するための副パイロット弁体部36Bが設けられるとともに、パイロット通路28における背圧室側上端部28aを開閉するための主パイロット弁体部36Aが設けられ、パイロット弁体35が上方に移動せしめられるとき、副パイロット弁体部36Bがパイロット出口28bを開いた後、少し遅れて主パイロット弁体部36Aがパイロット通路28における背圧室側上端部28aを開くようにされている。
【0047】
前記主パイロット弁体部36Aは、パイロット通路28における背圧室側上端部28aに摺動自在に嵌挿される大径部で構成され、パイロット弁体35における主パイロット弁体部36Aより下側は、前記主パイロット弁体部36Aより小径の小径部36Cで構成されており、パイロット弁体35における副パイロット弁体部36Bと主パイロット弁体部36Aとの間の小径部36Cとパイロット通路28の内周面との間に、背圧室33の冷媒をパイロット通路28を通じて主弁出口14に逃がすための、実効通路断面積が前記均圧孔24の実効通路断面積と前記連通孔70の実効通路断面積との和より大きな逃がし流路72が形成されている。
【0048】
なお、主パイロット弁体部36Aがパイロット通路28における背圧室側上端部28aに嵌挿されてこれを閉じている状態では、主パイロット弁体部36Aとパイロット通路28における背圧室側上端部28aの内周面との間に形成される摺動面間隙を介して背圧室33の冷媒が逃がし流路72側に多少は漏れるが、弁動作にほとんど影響はない。
【0049】
次に、上記構成とされた本実施例の電動式パイロット型制御弁1の動作を、図1、図2、図3、図4を参照しながら説明する。
【0050】
図1に示される如くに、主弁5及びパイロット弁7が閉状態にあるときから、ステッピングモータ50にパルス供給を行って、ロータ55をガイドブッシュ37に対して回転させると、図2、図4に示される如くに、パルス数(回転量)がTgとなったとき、弁体ホルダ40及びパイロット弁体35の上方移動に伴って、副パイロット弁体部36Bがパイロット出口28bの弁座28cから離れ始めてパイロット出口28bが開き始める。パイロット出口28bが開くと、弁室13の冷媒が連通孔70→パイロット通路28の下部→パイロット出口28bを介して主弁出口14に流出し、弁室13の圧力P1が徐々に低下し、これに伴い背圧室33の圧力P2も均圧孔24を介して弁室13に抜けるので徐々に低下し(略P1=P2の状態)、弁室13の圧力P1と主弁出口14の圧力P3との差圧は徐々に小さくなる。しかし、このときは、前記した主弁開弁条件[閉弁力=P2×Ap<開弁力=P1×(Ap-Av)+P3×Av+Pf]を満たさず、したがって、主弁5は未だ開かず、このときの冷媒流量は比較的少量のKaである。
【0051】
続いて、パルス数(回転量)がTgからThに増加すると、言い換えれば、副パイロット弁体部36Bがパイロット出口28bを開いた後少し遅れて、図3に示される如くに、パイロット弁体35の上方移動により、主パイロット弁体部36Aがパイロット通路28における背圧室側上端部28aを開く。これにより、背圧室33の冷媒が逃がし流路72→パイロット出口28bを介して主弁出口14に流出する。
【0052】
この場合、弁室13の冷媒も均圧孔24を介して背圧室33へ流れるとともに、連通孔70を介して主弁出口14へ流れるが、逃がし流路72の実効通路断面積が均圧孔24の実効通路断面積と連通孔70の実効通路断面積との和より大きく設定されているので、逃がし流路72を流れる冷媒流量は、弁室13から均圧孔24を介して背圧室33へ流れる冷媒流量と弁室13から連通孔70を介して主弁出口14へ流れる冷媒流量との和より大きくなり、そのため、弁室13の減圧度合いよりも大きな減圧度合いをもって背圧室33の圧力P2が下がる。
【0053】
そして、背圧室33の圧力P2が前記主弁開弁条件[閉弁力=P2×Ap<開弁力=P1×(Ap-Av)+P3×Av+Pf]を満たすまで下がったとき(パルス数がTiになったときで、このときの冷媒流量はKbである)、主弁5が開き始める。主弁5が開くと、弁室13の冷媒は、主弁座14aと主弁体部21との間を通って主弁出口14側に流れる。
【0054】
ここで、本実施例の電動式パイロット型制御弁1においては、主弁体20にパイロット通路28と弁室13とを連通する連通孔70が設けられ、パイロット弁体35に、パイロット通路28における背圧室側上端部28aを開閉するための主パイロット弁体部36Aが設けられられるとともに、パイロット出口28bを開閉するための副パイロット弁体部36Bが設けられ、パイロット弁体35が上方に移動せしめられるとき、副パイロット弁体部36Bがパイロット出口28bを開いた後、少し遅れて主パイロット弁体部36Aがパイロット通路28の背圧室側上端部28aを開くようにされているので、副パイロット弁体部36Bがパイロット出口28bを開いたときから主パイロット弁体部36Aがパイロット通路28の背圧室側上端部28aを開くまでの間において、弁室13の圧力P1が低下せしめられ、それによって、主弁5が開くまでに弁室13の圧力P1と主弁出口14の圧力P3との差圧が小さくされることになる。
【0055】
このように、主弁5の開弁時に弁室13の圧力P1と主弁出口14の圧力P3との差圧が小さくされることにより、主弁5が開き始めた直後に弁室13の冷媒が主弁出口14へ急速に流出しなくなり、そのため、弁室13の圧力P1が急激に下がることが回避され、主弁5の開弁時において弁室13と背圧室33との圧力バランスが崩れにくくなり、その結果、チャタリングの発生を効果的に抑えることができ、耳障りな異音(連続叩音、振動音)が出ることを抑制できる。
【0056】
なお、上記実施例において、パルス数をTiからさらに増加させていくと、パルス数がTjになるまで、従来例と同様に、パイロット弁体35の上昇移動に追従するように、主弁体20が押し上げられる。これにより、パルス数(回転量)がTiからTjの間は、当該電動式パイロット型制御弁1における冷媒流量が一定の勾配をもって滑らかに増加していく。そして、パルス数がTjになると、主弁体20の上面ストッパ部29が画成台座部材32の下面に設けられた固定ストッパ39に接当し、主弁体20の上昇が阻止され、冷媒流量は、パルス数がTjのときのKcよりは大きくならず、このときの流量を維持することになる。
【0057】
また、圧縮コイルばね25は、特に設けられる必要はないことは当然である。
更に、符号25のばねを引張りコイルばねとして、主弁体20を主弁座14a側に付勢するようにしても良い。
【0058】
圧縮コイルばね25を用いるか用いないか、あるいは、圧縮コイルばねの代わりに引張りコイルばねを用いて主弁体20を主弁座14a側に付勢するか否かは、主弁体20に求められる開閉特性に応じて適宜決定されれば良い。
【符号の説明】
【0059】
1 電動式パイロット型制御弁
5 主弁
7 電動式パイロット弁
10 弁本体
13 弁室
14 主弁出口
14a 主弁座
20 主弁体
24 均圧孔
25 圧縮コイルばね
28 パイロット通路
28a 背圧室側上端部
28b パイロット出口
32 画成台座部材
33 背圧室
35 パイロット弁体
36A 主パイロット弁体部
36B 副パイロット弁体部
40 弁体ホルダ
50 ステッピングモータ
55 ロータ
70 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室及び主弁出口が設けられた弁本体、該弁本体内に摺動自在に嵌挿されて前記主弁出口を開閉するピストン型の主弁体、及び前記主弁体との間に背圧室を画成する画成部材を有する主弁と、ニードル状のパイロット弁体を有する電動式パイロット弁とを備えた電動式パイロット型制御弁であって、
前記主弁体に、前記弁室と前記背圧室とを連通する均圧孔、前記背圧室と前記主弁出口とを連通しかつ前記パイロット弁体が挿入されたパイロット通路、及び該パイロット通路と前記弁室とを連通する連通孔が設けられ、
前記パイロット弁体に、前記パイロット通路における前記背圧室側を開閉するための主パイロット弁体部が設けられるとともに、前記パイロット通路における前記連通孔より下流側に設けられたパイロット出口を開閉するための副パイロット弁体部が設けられ、
前記パイロット弁体が上方に移動せしめられるとき、前記副パイロット弁体部が前記パイロット出口を開いた後、少し遅れて前記主パイロット弁体部が前記パイロット通路における前記背圧室側を開くようにされていることを特徴とする電動式パイロット型制御弁。
【請求項2】
前記パイロット弁体における主パイロット弁体部と副パイロット弁体部との間の部分と前記パイロット通路の内周面との間に、前記背圧室の流体を前記パイロット通路を通じて前記主弁出口に逃がすための、実効通路断面積が前記均圧孔の実効通路断面積と前記連通孔の実効通路断面積との和より大きな流路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動式パイロット型制御弁。
【請求項3】
前記主パイロット弁体部は、前記パイロット通路の上端部に摺動自在に嵌挿される大径部で構成され、前記パイロット弁体における前記主パイロット弁体部より下側は、前記主パイロット弁体部より小径の小径部で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動式パイロット型制御弁。
【請求項4】
前記パイロット弁体の上方移動に追従するように、前記主弁体が上方に移動するように各部の寸法形状が設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電動式パイロット型制御弁。
【請求項5】
前記主弁体を開弁方向に付勢する開弁ばねをさらに備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電動式パイロット型制御弁。
【請求項6】
前記電動式パイロット弁は、キャンと、該キャンの内周に配在されるロータと、該ロータを回転駆動すべく前記キャンに外装されたステータと、前記ロータと前記パイロット弁体との間に配在され、前記ロータの回転を利用して前記パイロット弁体を軸方向に移動させる駆動機構と、を備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電動式パイロット型制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−132498(P2012−132498A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284560(P2010−284560)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】