説明

電動式歯車ポンプ

【課題】簡単な構成で歯車ポンプの漏れバラツキを補償し、流量制御精度を向上することができる電動式歯車ポンプを提供する。
【解決手段】回転速度検出手段511からの回転数と、流量検出手段531からの流量とを入力し(S4)、この回転数と流量の関係に基づいて特性テーブル601にて制御回転数と流量との関係を新たに作成する(S5)。そして、この関係を示す近似線と流量規格611の交点を参照して、流量規格611を満足する制御回転数を抽出し(S6)、補正用制御回転数を特定する(S7)。次に、この補正用制御回転数を回転速度補正手段503に出力して回転速度補正手段503での変更及び記憶を行う(S8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量を制御する電動式歯車ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラシレスDCモータを駆動源としてトロコイド式の歯車ポンプの回転速度の制御を行う電動ポンプが知られている。
【0003】
この電動ポンプは、励磁コイルに誘起される速度起電力を検出する速度起電力検出手段による検出結果に基づいてロータの回転位置を検出する第1ロータ位置検出手段と、回転軸の磁石からの磁界を検出する磁界検出部による検出結果に基づいてロータの回転位置を検出する第2ロータ位置検出手段とを備えており、これらからの回転位置に基づく制御を温度条件により使い分けするように構成されている。
【0004】
このような歯車ポンプは、クリアランスに製造バラツキがあり、これにより漏れ流量が発生する。
【0005】
このため、漏れ流量が最も多い歯車ポンプであっても所望流量を維持できるように、漏れ流量が最も多い歯車ポンプに合わせて回転速度を速く制御するように設定している。
【0006】
すなわち、図6は、油温に対する制御回転数を示す図であり、漏れ流量が最も多い製品での制御特性801が図6中実線で、また漏れ流量が最も少ない最良品での制御特性802が図6中破線で示されている。
【0007】
このように、前記最良品では、漏れ流量が少ないため、油温に対する制御回転数は低めであっても、所望流量を維持することができるが、漏れ流量が多い製品では、油温に対する制御回転数を高めに設定しなければ、所望の流量を維持することができない。
【0008】
このため、この電動ポンプの制御装置には、図6中実線で示された制御特性801を一律に設定されており、クリアランスが比較的大きく漏れ流量の多い歯車ポンプが組み付けられた場合であっても、所望の流量を維持できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−086117公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような従来の電動ポンプにあっては、漏れ流量が最も少ない歯車ポンプが組み付けられた場合であっても、漏れ流量の多い歯車ポンプが組み付けられた場合の制御特性801に従って制御されるため、消費電力が必要以上に多くなってしまう。
【0011】
これを解消する為に、流量を直接検出して、その都度回転速度の補正する方法が考えられるが、この場合、制御プロセスが複雑化してしまう。
【0012】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で歯車ポンプの漏れバラツキを補償し、流量制御精度を向上することができる電動式歯車ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために本発明の請求項1の電動式歯車ポンプにあっては、回転軸で歯車ポンプを回転して油の流量を制御する電動式歯車ポンプであって、油温及び当該油温での前記回転軸の回転速度に対する制御流量の関係を検査した検査結果と、油温に対する必要流量が定められた流量規格とに基づいて、油温に対する制御回転速度の関係が求められ、この関係に基づいて定められた制御回転速度特性が個別に設定された。
【0014】
すなわち、電動式歯車ポンプの出荷検査を行う際には、油温が測定されるとともに、当該油温において、回転軸を所定の回転速度で回転して歯車ポンプを作動する。そして、前記回転軸の回転速度と、この回転速度において前記歯車ポンプで制御される制御流量とが測定され、検査結果とされる。
【0015】
このとき、油温に対して要求される必要流量は、仕様等により流量規格として定められており、この流量規格と前記検査結果との関係が求められるとともに、この関係に基づいて定められた制御回転速度特性が個別に当該電動式歯車ポンプに設定される。
【0016】
具体的に説明すると、歯車ポンプの回転軸の回転速度と当該歯車ポンプで制御される制御流量とは比例関係にあり、検査対象の電動式歯車ポンプにおいて前記回転速度と前記制御流量とが形成するN−Q特性は、前記検査結果より把握することができる。
【0017】
そして、この際の検査条件である油温において要求される必要流量は、前記流量規格で定められており、この必要流量が得られる回転速度は、前記N−Q特性から求めることができる。
【0018】
また、油温に対する必要流量は、前記流量規格として予め定められており、この必要流量を得るための回転速度は、前記N−Q特性から求めることができ、油温に対応する回転速度が制御回転速度特性として求められ、この制御回転速度特性が当該電動式歯車ポンプに個別に設定される。
【0019】
このように、電動式歯車ポンプに対応した前記制御回転速度特性が当該電動式歯車ポンプに対して個別に設定される。
【0020】
また、請求項2の電動式歯車ポンプにおいては、前記制御回転速度特性を、前記回転速度に対する前記制御流量を複数測定して形成した線図と前記流量規格とに基づいて求めた。
【0021】
すなわち、前記回転速度に対する前記制御流量を複数測定して線図を形成し、この線図と前記流量規格とに基づいて前記制御回転速度特性が求められる。
【0022】
このため、前記回転速度と前記制御流量との関係を一点のみで計測して検査結果とする場合と比較して、前記N−Q特性がより正確に求められる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明の請求項1の電動式歯車ポンプにあっては、電動式歯車ポンプに対応した制御回転速度特性を当該電動式歯車ポンプに対して個別に設定するため、歯車ポンプのクリアランスに応じた最適な制御を電動式歯車ポンプ毎に行うことができる。
【0024】
このため、漏れ流量の多い歯車ポンプを想定した制御特性が一律に設定される従来と比較して、漏れ量に応じて必要なだけ制御量を増大することができるとともに、漏れ流量が少ない歯車ポンプが組み付けられた場合にあっては、当該歯車ポンプに適した制御を行うことができ、消費電力を抑えることができる。
【0025】
また、漏れ流量を抑えるために歯車ポンプの加工精度を要求する場合と比較して、コストの低減を図ることができる。
【0026】
したがって、簡単な構成で歯車ポンプの漏れバラツキを補償し、流量制御精度を向上することができる。
【0027】
また、請求項2の電動式歯車ポンプにおいては、前記回転速度と前記制御流量との関係を一点のみで計測して検査結果とする場合と比較して、前記N−Q特性をより正確に求めることができる。これにより、制御特性のさらなる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】同実施の形態を示す分解斜視図である。
【図3】同実施の形態を説明する為のブロック図である。
【図4】同実施の形態を手順を示すフローチャートである。
【図5】(a)は油温と流量の関係を示す図、(b)は制御回転数と流量の関係を示す図、(c)は油温と制御回転数を示す図である。
【図6】油温に対する制御回転数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施の形態を図に従って説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態にかかる電動式歯車ポンプ1を示す図であり、該電動式歯車ポンプ1は、モータ冷却用のオイルを供給したり、自動車のATやCVT等の自動変速機2に取り付けられアイドルストップ時に低下する油圧を所定圧に維持するものである(図1参照)。
【0031】
すなわち、前記自動変速機2には、油圧回路が形成されており、当該自動変速機2のケーシング11内部には、前記油圧回路を構成する為の油圧経路12が形成されている。このケーシング11の外面13には、前記電動式歯車ポンプ1を取り付ける為の取付穴14が開口しており、該取付穴14に前記電動式歯車ポンプ1の先端部を挿入した状態で取り付けられるように構成されている。
【0032】
前記油圧経路12には、当該自動変速機2の制御に用いるオイル21が循環しており、前記取付穴14の奥面22には、図外のオイル貯留部に連通する連通路23と、加圧したオイル21を出力する出力路24とが開設されている。
【0033】
図2は、前記電動式歯車ポンプ1を示す分解斜視図であり、該電動式歯車ポンプ1は、トロコイド式の歯車ポンプを構成するポンプ構成部31と、該ポンプ構成部31を駆動するモータ構成部32と、該モータ構成部32を制御する為のモータ駆動制御部33とを備えている。前記ポンプ構成部31と前記モータ構成部32と前記モータ駆動制御部33とは、前記モータ構成部32を構成する回転軸34の延出方向に配列されており、前記モータ構成部32より延出した前記回転軸34が、図1に示したように、組立状態において前記ポンプ構成部31に接続されるように構成されている。
【0034】
この電動式歯車ポンプ1は、外周部を構成する円筒状のケース41を備えており、前記ポンプ構成部31と前記モータ構成部32とは、前記ケース41内に内嵌されている。この内嵌状態において、前記ポンプ構成部31の外周面と前記モータ構成部32の外周面とは、前記ケース41の内側面42に面接するように構成されており、この面接状態において、前記ポンプ構成部31及び前記モータ構成部32が位置決めされるように構成されている。
【0035】
前記ケース41の基端には、外方へ延出するケースフランジ部51が一体形成されており、当該電動式歯車ポンプ1は、図1及び図2に示したように、前記ケースフランジ部51より先端側が前記ケーシング11に設けられた前記取付穴14に挿入される挿入領域を構成するとともに、前記ケースフランジ部51より基端側が前記ケーシング11より突出した突出領域を形成するように構成されている。
【0036】
この電動式歯車ポンプ1を前記取付穴14に取り付けた状態では、前記ケースフランジ部51が、前記ケーシング11の前記外面13に面接するように構成されており、前記ケースフランジ部51によって当該電動式歯車ポンプ1を前記ケーシング11に固定できるように構成されている。
【0037】
前記挿入領域を構成する前記ケースフランジ部51より前記ケース41の先端側には、前記ポンプ構成部31及び前記モータ構成部32が配置されるように構成されており、図1に示した取付状態において、前記ケース41より突出した前記ポンプ構成部31の先端面が前記取付穴14の前記奥面22に対向するように構成されている。
【0038】
前記ポンプ構成部31は、図1及び図2に示したように、先端側を構成するポンプベース71と、該ポンプベース71の基端側に配置されたポンプハウジング72とを備えており、該ポンプハウジング72と前記ポンプベース71との間には、Oリング73が配設されている。前記ポンプベース71の先端面には、図1に示したように、前記ケース41の前記円形穴62に挿入されて外部に突出する円形の突出部74が一体形成されており、当該ポンプベース71は、前記突出部74の外周部がケース41先端の前記折曲部61に支持された状態で先端側への抜けが阻止されるように構成されている。
【0039】
前記ポンプベース71の基端面には、ピン91の一端部が挿入されており、該ピン91の他端部は、前記ポンプベース71に対向して配設された前記ポンプハウジング72の先端面に挿入されている。これにより、前記ポンプベース71に対して前記ポンプハウジング72が位置決めされるように構成されており、この状態において、前記ポンプハウジング72が前記ケース41に圧入固定され、当該ポンプベース71の外周面が前記ケース41の内側面42に密着した状態で固定されている。
【0040】
前記ポンプハウジング72の中央部は、図1に示したように、没入しており、当該ポンプハウジング72と前記ポンプベース71との間には、ロータ収容部101が形成されている。該ロータ収容部101内には、ポンプロータアウタ102が回動自在に収容されており、該ポンプロータアウタ102内には、ポンプロータインナ103が回動自在に収容されている。
【0041】
このロータ収容部101には、前記ポンプベース71に設けられた吸入ポート111と吐出ポート112とが連通しており、両ポート111,112は、前記ポンプベース71の前記突出部74の端面に開口するように構成されている。
【0042】
前記吸入ポート111は、当該電動式歯車ポンプ1を前記取付穴14に取り付けた状態において、前記取付穴14の奥面22に設けられた前記連通路23に接続されるように構成されており、前記吐出ポート112は、Oリング121を介して前記出力路24に接続されるように構成されている。
【0043】
これにより、前記ポンプロータインナ103の回転に伴って前記ポンプロータアウタ102が回転することで、前記連通路23から前記吸入ポート111を介して吸入したオイルを加圧して、前記吐出ポート112から前記出力路24へ出力するトロコイドポンプが形成されるように構成されている。
【0044】
このトロコイドポンプの基端側には、図1に示したように、前記モータ構成部32で構成された直流式のモータが配設されている。このモータは、外周部を形成するモータケース201を備えており、該モータケース201の外周面が前記ケース41の内側面42に密着した状態で固定されている。
【0045】
このモータケース201の内側には、モータ巻線211が巻回されたコイル212が内嵌されており、該コイル212には、コイルで励磁されるステータ213が保持されている。このステータ213の内側には、モータロータコア214が回転自在に収容されており、該モータロータコア214の外周面には、マグネット215が設けられている。このモータロータコア214には、前記回転軸34が挿通しており、当該回転軸34は、前記モータロータコア214を貫通した状態で固定されている。
【0046】
この回転軸34の他端部は、先端側へ向けて延出しており、当該回転軸34は、オイルシール221を介して前記ポンプハウジング72の中心穴222を挿通し、前記ロータ収容部101内に突出するように構成されている。該ロータ収容部101に突出した前記回転軸34の周面には、平坦面223が形成されており、断面D字状のロータ接続部224が形成されている。このロータ接続部224は、前記ロータ収容部101に収容された前記ポンプロータインナ103のD字穴225を挿通した後、先端側軸受けを介して前記ポンプベース71の座ぐり穴227に回転自在に収容された状態で支持されている。
【0047】
このモータ構成部32で構成されたモータの基端側には、前記モータ駆動制御部33が配設されており、該モータ駆動制御部33は、前記モータ構成部32の基端部に接続されたインシュレータ301を備えている(図2参照)。
【0048】
該インシュレータ301は、合成樹脂によって形成されており、前記モータ構成部32の前記モータケース201の基端部に挿入され内嵌した状態で接続されるモータ接続部311が一体形成されている。該モータ接続部311には、基端側軸受け314を介して、前記回転軸34の一端部が回転自在に支持されている。
【0049】
前記モータ接続部311には、前記モータ巻線211への通電を中継するバスバー321,・・・がインサート成型されており、前記モータ構成部32側に突出したバスバー321,・・・には、前記モータ巻線211が電気的に接続されている。
【0050】
また、前記モータ接続部311の側縁部には、上方へ突出するとともに、ハーネス接続穴324が側方へ向けて開口したコネクタ部322が一体形成されており、該コネクタ部322の奥面には、前記ハーネスと電気的に接続される接続端子323,323がインサート成型されている。
【0051】
前記モータ接続部311の端面には、支柱部333,・・・が複数立設されており、各支柱部333,・・・によって制御基板334が支持されている。該制御基板334には、電子回路が形成されており、外部機器から延出された前記ハーネスを前記コネクタ部322に接続した状態において、該コネクタ部322から入力される信号に基づいて前記バスバー321,・・・への出力信号を制御してモータ駆動制御するコントローラが構成されている。
【0052】
前記モータ駆動制御部33は、前記ケース41の基端部に取り付けられる容器状の制御器カバー331を備えてなり、前記モータ接続部311に支持された前記制御基板334は、前記制御器カバー331によって覆われるように構成されている。
【0053】
この制御器カバー331は、アルミニュームによって構成されており、当該制御器カバー331の外側面には、内部で発生した熱を外部に放出する冷却フィン341,・・・が複数設けられている。
【0054】
前記インシュレータ301の前記コネクタ部322の基端部には、係合凹部351が凹設されており、該係合凹部351より端部側には、前記コネクタ部322基端の一般部よりやや低い段差部352が形成されている。このコネクタ部322の基端部と重合する前記制御器カバー331一端側の延出片353には、前記段差部352上に延在するように構成されており、当該延出片353の先端には、前記係合凹部351と係合する係合凸部354が折曲形成されている。
【0055】
これにより、前記制御器カバー331の前記係合凸部354が前記コネクタ部322の前記係合凹部351に係合した状態で噛み合わせられる噛み合わせ構造が前記係合凸部354及び前記係合凹部351によって構成されており、組立時には、前記係合凹部351と前記係合凸部354との接合部分にシール剤が塗布され前記係合凸部354と前記係合凹部351とが噛み合わせられるように構成されている。
【0056】
また、前記制御器カバー331の他端側には、取付状態において、前記モータケース201に外嵌した部位より側方へ向けて延出するカバーフランジ部371が前記ケースフランジ部51に対応した部位に一体形成されており、このカバーフランジ部371と前記ケースフランジ部51との面接部分及び前記モータケース201に外嵌した外嵌部分には、組立時においてシール剤が塗布されるように構成されている。
【0057】
前記カバーフランジ部371と該カバーフランジ部371に面接する前記ケースフランジ部51には、ボルト挿通穴381が開設されており、該ボルト挿通穴381には、カラー382が内嵌されている。
【0058】
これにより、図1に示したように、取付時において、前記ケースフランジ部51を前記ケーシング11の前記外面13に面接した状態で、前記ボルト挿通穴381内の前記カラー382に挿通したボルト391を、前記ケーシング11に形成されたねじ穴392に螺入することで、当該電動式歯車ポンプ1を前記ケーシング11に固定できるように構成されている。
【0059】
この電動式歯車ポンプ1を製造して出荷する際には、出荷検査が行われ、この出荷検査を行う際のブロック図が、図3に示されている。
【0060】
すなわち、出荷検査時には、前記電動式歯車ポンプ1が検査装置にセットされるとともに、該検査装置で用いられるオイルの油温を検出する油温センサからんる油温検出手段501と、この油温検出手段501からの油温信号が出力される例えばATCUで構成された外部コントローラ502とを備えている。該外部コントローラ502は、例えばCANによる通信信号又はPWM信号等からなる制御信号を前記電動式歯車ポンプ1における前記モータ駆動制御部33のコントローラで構成された回転速度補正手段503に出力して、前記電動式歯車ポンプ1の前記回転軸34を回転制御するように構成されている。
【0061】
前記回転速度補正手段503は、前記制御信号に応じた駆動信号を回転速度検出手段511を介して、前記モータ構成部32が構成するモータ512に出力するように構成されており、前記モータ構成部32の前記回転軸34によって前記ポンプ構成部31が構成する歯車ポンプ513を作動できるように構成されている。
【0062】
前記回転速度検出手段511は、モータ制御時に生ずる誘起電圧を得ることでモータ回転の速度信号を取得できるように構成されており、取得した速度信号を出荷検査手段521に出力するように構成されている。
【0063】
前記歯車ポンプ513より吐出したオイルの流量は、流量センサで構成された流量検出手段531で検出できるように構成されており、該流量検出手段531で検出した流量は、前記出荷検査手段521に出力するように構成されている。
【0064】
該出荷検査手段521は、前記回転速度補正手段503に対して信号を出力するように構成されており、該回転速度補正手段503は、前記出荷検査手段521からの信号に基づいて、例えば内部メモリの記憶内容を変更する等の動作を行えるように構成されている。
【0065】
以上の構成にかかる本実施の形態を、図4に示すフローチャートに従って説明する。
【0066】
なお、本実施の形態の電動歯車ポンプ1は、図5の(a)に示すように、流量制御する油温に応じたオイルの供給流量が流量規格特性600として仕様により定められており、この仕様を満足する必要がある。
【0067】
すなわち、図4は、出荷検査の手順を示すものであり、出荷検査を開始した際には、前記油温検出手段501で現在の油温を検出する(S1)。ここで、本実施の形態では、油温が40℃の場合を例に挙げて説明する。この油温(40℃)を示す油温信号は、前記外部コントローラ502に出力される。このとき、この外部コントローラ502には、油温と指令DUTYとの関係を示す特性MAPが記憶されており、当該特性は固定されている。
【0068】
そして、前記油温信号を受けた先記外部コントローラ502は、前記特性MAPを参照して前記油温信号が示す油温を指令DUTYに変換して(S2)、当該油温での指令DUTYを取得するとともに、該指令DUTYに応じた指令DUTY信号を前記油温信号と共に前記回転速度補正手段503に出力する。すると、該回転速度補正手段503は、この信号が示す前記指令DUTYをメモリに記憶するとともに(S3)、前記指令DUTY信号に応じた駆動信号を前記回転速度検出手段511を介して前記モータ512に出力して前記歯車ポンプ513を作動する。
【0069】
このとき、前記出荷検査手段521は、前記回転速度検出手段511から前記歯車ポンプ513の前記回転軸34の回転速度信号を入力し、この信号が示す所定時間当たりの回転数を算出するとともに、前記流量検出手段531より取得した流量を入力して前記回転数と前記流量との関係を測定する(S4)。なお、前記油温検出手段で検出した油温(40℃)は、前記回転速度補正手段503経由で前記出荷検査手段521にも入力されているものとする。
【0070】
このとき、前記出荷検査手段521には、出荷検査MAPが予め記憶されており、該出荷検査MAPは、図5の(b)に示すように、所定の油温毎に設定された制御回転数と流量との関係を示す特性テーブル601によって構成されている(図5の(b)では油温が40℃の場合の特性テーブルが示されている)。この制御回転数と流量の特性は、略直線状の近似線で構成されており、漏れ流量が最も少ない歯車ポンプ513である最良品の特性602と、漏れ流量が最も多い歯車ポンプ513である最悪品の特性603とは、一定の幅を持って略平行移動した線により構成されている。
【0071】
この出荷検査MAPにて油温別に用意された各特性テーブル601には、対応する油温に応じた流量規格611が設定されており(図6の(b)では油温が40℃の場合の特性テーブルを図示)、この流量規格611は、当該油温(40℃)時に要求される例えば仕様で定められた流量を示している。
【0072】
ここで、この出荷検査手段521は、前記回転速度検出手段511及び前記流量検出手段531より取得した回転数及び流量の関係に基づいて、前記油温に対応した特性テーブル601において、制御回転数と流量との関係を新たに作成する(S5)。
【0073】
その一例としては、制御回転数と流量の測定を例えば二点で測定しプロットして線図を作成すれば、この二点を結んだ所望の近似線を特性604として得ることが出来る。
【0074】
次に、この近似線からなる特性604と前記流量規格611との交点を参照して、流量規格611を満足する制御回転数を抽出し(S6)、補正用制御回転数nを特定する(S7)。
【0075】
そして、特定された前記補正用制御回転数nを前記回転速度補正手段503に出力して当該回転速度補正手段503での変更及び記憶を行う(S8)。
【0076】
詳細すると、この回転速度補正手段503には、図5の(c)に示すように、油温と制御回転数との関係を示す制御用MAP621が予め記憶されており、この制御用MAP621の油温と制御回転数との特性も、略直線状の近似線で構成されている。そして、漏れ流量が最も少ない歯車ポンプ513である最良品の特性622と、漏れ流量が最も多い歯車ポンプ513である最悪品の特性623とは、一定の幅を持って平行にスライドした線図で構成されている。
【0077】
このため、前記出荷検査手段521からの前記補正用制御回転数nを前記制御MAP621上の当該油温(40℃)の対応位置に一点プロットすれば、前記油温と制御回転数の特性のいずれか一点を通る近似線によって、最終的に制御に用いる制御回転速度特性624を形成でき、これを当該電動式歯車ポンプ1の制御に使用する制御回転速度特性624としてメモリに更新・記憶することができる。
【0078】
これにより、油温変化に対する制御回転数の最適化をソフトの変更のみで行うことが可能になる。
【0079】
このように、出荷検査において、検査対象となる電動式歯車ポンプ1に対応した前記制御回転速度特性624を当該電動式歯車ポンプ1に対して個別に設定し記憶することができるので、歯車ポンプ513のクリアランスに応じた最適な制御を各電動式歯車ポンプ1毎に行うことができる。
【0080】
このため、漏れ流量の多い歯車ポンプ513を想定した制御特性が、総ての電動式歯車ポンプ1に一律に設定される従来と比較して、漏れ量に応じて必要なだけ制御量を増大することができるとともに、漏れ流量が少ない歯車ポンプ513が組み付けられた場合にあっては、当該歯車ポンプ513に適した制御を行うことができるため、消費電力を抑えることができる。
【0081】
また、漏れ流量を抑えるために歯車ポンプ513の加工精度を要求する場合と比較して、コストの低減を図ることができる。
【0082】
したがって、簡単な構成で歯車ポンプ513の漏れバラツキを補償し、流量制御精度を向上することができる。
【0083】
また、本実施の形態では、前記制御回転数に対する前記流量を二点で測定して線図(604)を形成し、この線図と前記流量規格611とに基づいて前記制御回転速度特性を求めた。
【0084】
このため、前記制御回転数と前記流量との関係を一点のみで計測して検査結果とする場合と比較して、前記制御回転数と流量の特性604(N−Q特性)をより正確に求めることができる。
【0085】
これにより、制御特性のさらなる向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 電動式歯車ポンプ
31 ポンプ構成部
34 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸で歯車ポンプを回転して油の流量を制御する電動式歯車ポンプであって、
油温及び当該油温での前記回転軸の回転速度に対する制御流量の関係を検査した検査結果と、油温に対する必要流量が定められた流量規格とに基づいて、油温に対する制御回転速度の関係が求められ、この関係に基づいて定められた制御回転速度特性が個別に設定されたことを特徴とする電動式歯車ポンプ。
【請求項2】
前記制御回転速度特性を、前記回転速度に対する前記制御流量を複数測定して形成した線図と前記流量規格とに基づいて求めたことを特徴とする請求項1記載の電動式歯車ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−241593(P2012−241593A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111409(P2011−111409)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000220505)日本電産トーソク株式会社 (189)
【Fターム(参考)】