説明

電動機駆動システム

【課題】ダイオードコンバータを採用した際に、圧延機の噛み込み時に電動機に急激な負荷が加わる際の電動機一次電圧の飽和を避けることができるとともに、電圧飽和の影響によるインバータの制御不安定又はトリップを防ぐ。
【解決手段】電動機11と、インバータの直流電源であるダイオードコンバータ22と、インバータを用いて電動機11を可変速制御し、且つ界磁弱め制御を行う電動機制御装置23と、電動機制御装置23により出力される一次電圧を検出する一次電圧検出部13と、要求されるインバータの変調率の変動が予測される場合に、変動のタイミングと変動量とを検出する変調率変動検出部と、変調率変動検出部により検出された変調率の変動量に基づいて一次電圧の変動量を算出する補正電圧部25とを備え、電動機制御装置23は、変動のタイミングに合わせ、一次電圧とその変動量とに基づいて界磁弱め制御を行う際のd軸界磁電流抑制分を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を駆動する電動機駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動機と当該電動機を駆動する電動機制御装置とを組み合わせて構成される電動機駆動システムが開示されている。特許文献1には、電動機と電動機制御装置とにおける選定範囲をよりいっそう拡大することを課題とする電動機駆動システムが記載されている。図7は、特許文献1に記載された従来の電動機駆動システムの構成を示す制御ブロック図である。
【0003】
この電動機駆動システムは、図7に示すように、速度検出器1、一次磁束角演算器2、微分器3、速度制御器4、制御器5、磁束飽和パターン器6、電流制御器7,8、2−3軸/PWM変換器9、電力変換器(電圧型インバータ)10、電動機11、電流検出器12、電圧検出器13、電流帰還座標変換器14、すべり積分器15、電流補償器16、d軸電流制限器17、及び一次電圧判定・演算器18により構成されている。
【0004】
速度検出器1は、電動機11の回転速度を検出する。
【0005】
速度制御器4は、図示しない上位外部プラント制御装置から入力される速度基準信号ωr´´と一次磁束角演算器2及び微分器3により演算される速度帰還信号ω´を帰還演算させ、且つ当該速度基準信号ω´をトルク基準信号Trに変換する。
【0006】
界磁弱め制御器5は、速度帰還信号ω´を2次磁束基準Φ2に変換する。ベクトル制御における電動機界磁成分であるd軸界磁電流Idは、界磁弱め制御器5内にある一つの界磁パターンによって速度帰還信号ω´に応じて、二次磁束基準Φ2が演算される。
【0007】
この界磁パターンは、電動機制御装置に接続される個々の電動機11により決定され、固定値として設定される。よって、ある大きさの速度帰還信号ω´が入力されると、界磁パターンに沿った電動機11のd軸界磁電流成分Idが演算される。
【0008】
磁束飽和パターン器6は、界磁弱め制御器5からの2次磁束基準Φ2をd軸界磁電流基準信号Idに変換する。
【0009】
d軸成分電流制御器7は、磁束飽和パターン器6からのd軸界磁電流基準信号Idとd軸電流帰還信号Id´の帰還演算結果をd軸電圧基準信号Vdに変換する。
【0010】
q軸成分電流制御器8は、速度制御器4からのトルク基準信号Trを二次磁束基準Φ2で除算して算出されたq軸トルク電流基準信号Iqとq軸電流帰還信号Iq´との帰還演算結果をq軸電圧基準信号Vqに変換する。
【0011】
2−3軸/PWM変換器9は、d軸電圧基準信号Vdおよびq軸電圧基準信号 Vqから2−3軸変換してPWM(パルス幅変調)信号を生成する。
【0012】
電力変換器(電圧型インバータ)10は、2−3軸・PWM変換器9からのPWM信号により、直流電圧Vdcを電動機駆動用交流電圧V1に変換し、電動機11に所望の電流を供給して駆動する。
【0013】
電流検出器12は、電動機11に流れる電流を検出する。
【0014】
一次電圧検出器13は、電動機制御装置(電力変換器10)の出力に相当する一次電圧V1を検出する。
【0015】
電流帰還座標変換器14は、電流検出器12により検出される電流帰還信号を3−2軸およびd−q軸変換してベクトル制御におけるd軸帰還電流成分Id´およびq軸帰還電流成分Iq´とする。
【0016】
すべり積分器15は、界磁弱め制御器5からの2次磁束基準Φ2とq軸トルク電流基準信号Iqからすべりωsを演算し且つ当該すべりωsを積分する。すなわち、一次磁束角演算器2により演算される一次磁束角θrと、電動機11の必要とするトルクを与えるq軸トルク電流成分Iqとを基に、すべり角θsが算出され、実際の電動機磁束角である一次磁束角θrと加算されることで、電動機11の必要とする二次磁束角θoが求められる。これを基に、d−q軸成分から三相交流出力成分に変換され、電動機11に任意の電圧V1が与えられることで、電動機11を駆動することができる。
【0017】
q軸トルク電流補償器16は、d軸界磁電流の制限分を補うようにq軸トルク電流基準信号Iqに対してq軸トルク電流Iqを補償(加算)する。
【0018】
d軸電流制限器17は、d軸界磁電流を制限する。
【0019】
一次電圧判定・演算器18は、一次電圧検出器13による検出結果である一次電圧V1が最大電動機一次電圧V1MTOLを超えた際に、一次電圧V1を抑制しトルク電流を増加させる所望の電動機出力を実現する。
【0020】
すなわち、この電動機駆動システムは、界磁弱め領域において、一次電圧判定・演算器18に一次電圧V1の監視を行わせ、一次電圧V1が電動機11のベース速度での最大過負荷一次電圧V1MBOLを超えた場合に、電動機11のベース速度での最大過負荷一次電圧V1MBOLを上限とする範囲でd軸電流制限器17によりd軸界磁電流Idを抑制し、他方でq軸トルク電流Iqを増加させ、飽和電圧抑制分を補償するように電動機11の一次電流I1Mを増加させるようにしている。
【0021】
電動機制御装置の出力に相当する一次電圧V1、すなわち電動機11の一次電圧V1を電圧検出器13が検出することで、電動機制御装置は、電動機11のベース速度における最大過負荷一次電圧V1MBOLを超えないように、一次電圧判定・演算器18を通じて、d軸電流制限器17によりd軸界磁電流を制限することで、一次電圧V1を抑制する。
【0022】
これとともに、q軸トルク電流補償器16では、d軸界磁電流の制限によって抑制する飽和電圧分を補償するように、q軸トルク電流基準信号Iqに対してq軸トルク電流Iqを補償(加算)することで、電動機11の一次電流I1Mを増加させる。
【0023】
すなわち、d軸電流制限器17によりd軸界磁電流を制限することで、飽和電圧を抑制することができるが、他方で、電動機11のトルクは、d軸界磁電流を制限したことで減少してしまう。そこで、q軸トルク電流Iqに対し、そのd軸界磁電流制限分を補なうように、q軸トルク電流補償器16はq軸トルク電流基準信号Iqに対してトルク補償電流を加算する。
【0024】
言い換えると、q軸トルク電流補償器16は、d軸界磁電流基準Id* とq軸トルク電流基準Iq* とから導き出される電動機11の一次電流I1を、d軸界磁電流の制限前後において同じ大きさとするための補償を行うことを意味しており、定出力特性を満たしつつ、電圧を一定に抑えることが可能となる。
【0025】
図7に示す電動機駆動システムは、界磁弱め領域の定出力特性を保ったまま、電動機11のベース速度での最大過負荷一次電圧V1MBOLを、電動機制御装置の選定における判断材料として必要な最大一次電圧と見なすことができ、従来から必要不可欠な出力電圧として考慮してきた飽和電圧分を、マージンとして見なす必要がなくなる。この結果、この電動機駆動システムは、従来よりも小容量の電動機制御装置を得ることができ、装置の適用範囲に柔軟性を持たせて、電動機と電動機制御装置とにおける選定範囲をより一層拡大することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2003−88194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
ここで、特許文献1に示すような従来の電動機駆動システムは、ダイオードコンバータを直流電源とするインバータ装置に適用した場合に、直流電圧がすでに飽和あるいは飽和に近い状態で、急峻な負荷(圧延機の圧延材の噛み込みなど)が加わると、負荷量に比例して、直流電圧が急峻に降下するので、上述した制御によって、d軸界磁電流が制限されて、安定を保つように動作する。
【0028】
しかしながら、この電動機駆動システムは、d軸界磁電流が所定値まで制限されるまでに制御遅れがあるために、直流電圧が先に降下してしまい、電圧飽和が発生して制御が不安定となり、インバータがトリップする可能性があるという問題点がある。
【0029】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するもので、ダイオードコンバータを採用した際に、圧延機の噛み込み時に電動機に急激な負荷が加わる際の電動機一次電圧(インバータ出力電圧)の飽和を避けることができるとともに、電圧飽和の影響によるインバータの制御不安定又はトリップを防ぐことができる電動機駆動システムを提供することを課題とする。
【0030】
また、同様にダイオードコンバータを採用した際に、電源電圧が規定値以下に低下した状態で、さらにダイオードコンバータに負荷が印加されることで、直流電圧が低下して、それにより、電動機一次電圧(インバータ出力電圧)の飽和してインバータの制御不安定又はトリップすることを防ぐことができる電動機駆動システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明に係る電動機駆動システムは、上記課題を解決するために、電力変換器であるインバータにより駆動される電動機と、前記インバータの直流電源であるダイオードコンバータと、前記電動機に流れる一次電流を座標変換して得られる当該電動機の二次磁束(界磁)に沿った座標軸(d軸)成分と当該d軸に直行する座標軸(q軸)成分とに基づくベクトル制御によって前記インバータを用いて前記電動機を可変速制御し、且つ界磁弱め制御を行う電動機制御装置と、前記電動機制御装置により出力される一次電圧を検出する一次電圧検出部と、要求される前記インバータの変調率の変動が予測される場合に、変動のタイミングと変動量とを検出する変調率変動検出部と、前記変調率変動検出部により検出された変調率の変動量に基づいて前記一次電圧の変動量を算出する一次電圧変動量算出部とを備え、前記電動機制御装置は、前記変調率変動検出部により検出された変動のタイミングに合わせ、前記一次電圧検出部により検出された一次電圧と前記一次電圧変動量算出部により算出された変動量とに基づいて、界磁弱め制御を行う際のd軸界磁電流抑制分を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ダイオードコンバータを採用した際に、圧延機の噛み込み時に電動機に急激な負荷が加わる際の電動機一次電圧(インバータ出力電圧)の飽和を避けることができるとともに、電圧飽和の影響によるインバータの制御不安定又はトリップを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1の形態の電動機駆動システムの構成を示す制御ブロック図である。
【図2】本発明の実施例1の形態の電動機駆動システムにおける材料検出部付近の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1の形態の電動機駆動システムにおける負荷パターンによる一次電圧上昇の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施例2の形態の電動機駆動システムの構成を示す制御ブロック図である。
【図5】本発明の実施例2の形態の電動機駆動システムにおける電圧降下の例を示す図である。
【図6】本発明の実施例2の形態の電動機駆動システムの別の構成例を示す制御ブロック図である。
【図7】従来の電動機駆動システムの構成を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の電動機駆動システムの実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0035】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。まず、本実施の形態の構成を説明する。図1は、本発明の実施例1の電動機駆動システムの構成を示す制御ブロック図である。図7に示す従来の電動機駆動システムと異なる点は、インバータの直流電源としてダイオードコンバータ22を採用している点と、補正電圧部25、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26、材料検出部27、及び上位制御部30をさらに備えている点である。
【0036】
ただし、本実施例の電動機駆動システムにおける一次磁束角演算器2、微分器3、速度制御器4、界磁弱め制御器5、磁束飽和パターン器6、d軸成分電流制御器7、q軸成分電流制御器8、2−3軸/PWM変換器9、電力変換器(電圧型インバータ)10、電流帰還座標変換器14、すべり積分器15、電流補償器16、d軸電流制限器17、及び一次電圧判定・演算器18は、電動機制御装置23を構成している。
【0037】
この電動機制御装置23は、電動機11に流れる一次電流を座標変換して得られる当該電動機11の二次磁束(界磁)に沿った座標軸(d軸)成分と当該d軸に直交する座標軸(q軸)成分とに基づくベクトル制御によってインバータを用いて電動機11を可変速制御し、且つ界磁弱め制御を行う。すなわち、電動機11は、電力変換器10であるインバータにより駆動される。
【0038】
電圧検出器13は、本発明の一次電圧検出部に対応し、電動機制御装置23により出力される一次電圧を検出する。
【0039】
ダイオードコンバータ22は、変圧器21を介して交流電圧Vacを入力され、直流電圧Vdcに変換して電動機制御装置23内の電力変換器10に出力する。図7に示す従来の電動機駆動システムにおいては常に一定の直流電圧Vdcが電力変換器10に入力されるものとしていたが、本実施例の電動機駆動システムは、ダイオードコンバータ22を直流電源として用いるため、常に一定のVdcが電力変換器10に入力されるわけではなく、例えば電動機11に急激な負荷が加わる場合や交流電圧Vacが低下した場合にダイオードコンバータ22が出力する直流電圧Vdcも低下する。
【0040】
補正電圧部25、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26、及び材料検出部27は、電動機制御装置23の外部に設けられ、電動機制御装置23に接続されている。ここで、図2は、本実施例の電動機駆動システムにおける材料検出部27付近の詳細な構成を示すブロック図である。
【0041】
材料検出部27と負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26とは、本発明の変調率変動検出部に対応し、要求されるインバータの変調率の変動が予測される場合に、変動のタイミングと変動量とを検出する。
【0042】
ここで、インバータの変調率をmとし、インバータに入力される直流電圧をVdc、インバータにより出力される交流電圧(一次電圧)をVmとすれば、m=(Vm/Vdc)×2×√(2/3)が成り立つ。また、インバータの変調率mは、上限値が存在する。ただし、変調率変動検出部により検出される変調率は、要求される変調率であるため、上限値を考慮しない。
【0043】
材料検出部27は、図2に示すように、圧延ラインのスタンド間に設けられ、圧延ライン上を速度Xで流れる材料28を検出する。ここで、材料検出部27は、単に材料28が所定のポイントに来たことを検出すればよく、例えば材料28の形状や材質等まで検出する必要はない。すなわち、材料検出部27は、材料28による負荷変動のタイミングを検出することで、インバータの変調率の変動のタイミングを検出するといえる。
【0044】
負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)等の上位制御部30から材料28の詳細な情報(例えば、材料28の厚み、形状、材質、圧下率等の負荷パターン)を取得し記憶する。負荷パターンは、圧延される材料の種類や、圧延計画により変更されるため、使用する圧延パターンの指示が、PLC等の上位制御部30から与えられる。
【0045】
これにより、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、負荷変動に伴うダイオードコンバータ22により出力される直流電圧Vdcの降下量を予測する。すなわち、上述した変調率の式により直流電圧Vdcの変動は要求されるインバータの変調率の変動に連動しており、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、要求されるインバータの変調率の変動量を検出するということができる。
【0046】
また、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、材料検出部27により検出された材料28が圧延ラインを流れるタイミングに基づいて、インバータの変調率の変動タイミングを算出する。
【0047】
補正電圧部25は、本発明の一次電圧変動量算出部に対応し、変調率変動検出部により検出された変調率の変動量に基づいて電動機制御装置23により出力される一次電圧の変動量を算出する。具体的には、補正電圧部25は、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26により予測されたダイオードコンバータ22により出力される直流電圧Vdcの降下量に基づいて、一次電圧Vmの上昇量ΔVmを算出する。
【0048】
電動機制御装置23は、変調率変動検出部により検出された変動のタイミングに合わせ、電圧検出器13により検出された一次電圧と補正電圧部25により算出された一次電圧の変動量とに基づいて、界磁弱め制御を行う際のd軸界磁電流抑制分を算出する。
【0049】
具体的には、電動機制御装置23内の一次電圧判定・演算器18は、補正電圧部25により算出された負荷による一次電圧Vmの上昇量ΔVmに基づいて制御開始レベル(設定値)を補正し、補正された制御開始レベル(設定値)と電圧検出器13により検出された一次電圧Vmとの差に基づいて、PI制御・リミット制御にて電圧上昇分ΔVmに対応するd軸界磁電流の抑制分を算出する。
【0050】
d軸電流制限器17は、一次電圧判定・演算器18により出力された抑制分に基づいてd軸界磁電流を抑制する。このようにして、電動機制御装置23は、界磁弱め制御を行い、所望の一次電圧Vmとなるようにする。
【0051】
その他の構成は、図7で説明した従来の電動機駆動システムと同様であり、重複した説明を省略する。
【0052】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。材料検出部27は、図2に示すように、圧延ライン上を速度Xで流れる材料28を検出し、検出結果を負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26に出力する。
【0053】
負荷タイミング演算・負荷パターン記憶手段26は、圧延機29に材料28が噛み込み、電動機11に負荷がかかり電動機一次電圧Vmが飽和することを避けるために、負荷が加わるタイミングを計算し、且つ加わる負荷のパターンを予測する。
【0054】
詳述すると、材料28の圧延パターンより負荷パターンがあらかじめ判るので、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶手段26は、上述したようにPLC等の上位制御部30から材料28の圧延パターンの情報を取得し、負荷パターンを予め記憶する。また、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶手段26は、材料検出部27による検出信号に基づいて負荷パターンを選定し、電動機11に加わる負荷の予測値を補正電圧部25に出力する。
【0055】
また、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、負荷が加わるタイミングを計算する際に、例えば以下のように演算を行う。負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、材料28が圧延機29に到達するまでにかかる時間t(s)を算出する。例えば、図2に示すように、圧延される材料の速度をX(m/s)とし、材料検出部27から圧延機29までの距離をL(m)とすると、以下の式が成り立つ。
【0056】
t(s)=L(m)/X(m/s)
なお、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、材料検出部27から圧延機29までの距離Lを予め記憶しているものとする。圧延される材料28の速度Xについては、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、PLC等の装置から情報を得てもよいし、直接速度を検出してもよい。したがって、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、この計算結果に基づき、材料28を検出してからt(s)後に負荷が加わる(すなわち圧延機29に材料28が噛み込む)タイミングと予測できる。
【0057】
このタイミングよりΔt(s)前にて制御が開始できるように、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、材料を検出した時刻をTとし、T+t(s)−Δt(s)後に負荷パターンを出力するような制御を行う。Δt(s)前にて制御が開始できるようにする理由は、電動機11に負荷がかかる前のタイミングにて界磁弱め制御を行うためである。
【0058】
このように、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26は、予測値を補正電圧部25に入力するタイミングを細かく決定してもよいが、あるいは材料検出部27が材料28を検出したタイミングですぐに予測値を補正電圧部25に入力し、即界磁弱め制御が行われるようにしてもよい。
【0059】
補正電圧部25は、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26により予測される負荷による電動機一次電圧Vmの上昇量ΔVmを算出し、電動機制御装置23内の一次電圧判定・演算器18に出力する。
【0060】
一次電圧判定・演算器18は、補正電圧部25により算出された負荷による一次電圧Vmの上昇量ΔVmに基づいて制御開始レベル(設定値)を補正し、補正された制御開始レベル(設定値)と電圧検出器13により検出された一次電圧Vmとの差に基づいて、PI制御・リミット制御にて電圧上昇分ΔVmに対応するd軸界磁電流の抑制分を算出し、算出結果をd軸電流制限器17に出力する。
【0061】
d軸電流制限器17は、一次電圧判定・演算器18により出力された抑制分に基づいてd軸界磁電流を抑制する。このようにして、電動機制御装置23は、界磁弱め制御を行い、所望の一次電圧Vmとなるようにする。
【0062】
図3は、本実施例の電動機駆動システムにおける負荷パターンによる一次電圧Vm上昇の一例を示す図である。電動機11の負荷変動によって、負荷電流Iは変動する。図3においては、例として無負荷(NL)、負荷電流50%(I=50%)、負荷電流100%(I=100%)のそれぞれの負荷電流が生じるときの電動機一次電圧Vmの変化と、負荷が加わる際に、無負荷時ベース速度時まで一次電圧Vmを抑制するため界磁弱め制御を行った場合の磁束φの変化を示している。
【0063】
なお、図3に示すように、従来の電動機駆動システム(例えば図7)においては、ベース速度時における一次電圧Vmは負荷によらず一定であるが、本実施例の電動機駆動システムは、ダイオードコンバータ22を採用しているため、ベース速度到達時において、高い負荷がかかっている場合には、無負荷の場合に比して一次電圧Vmが高くなる。
【0064】
ここで、負荷による電動機一次電圧Vmの上昇分をΔVmとする。なお、補正電圧部25は、ΔVmの値について、入力変圧器21等の回路のインピーダンス値から予測できる。
【0065】
すなわち、電動機制御装置23は、一次電圧上昇分ΔVmを抑制するために、d軸界磁電流を弱めて図3に示すように磁束φを変化させる必要がある。
【0066】
その他の作用は、図7で説明した従来の電動機駆動システムと同様であり、重複した説明を省略する。
【0067】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係る電動機駆動システムによれば、ダイオードコンバータ22を採用した際に、圧延機29の噛み込み時に電動機11に急激な負荷が加わる際の電動機一次電圧(インバータ出力電圧)Vmの飽和を避けることができるとともに、電圧飽和の影響によるインバータの制御不安定又はトリップを防ぐことができる。
【0068】
すなわち、本実施例の電動機駆動システムは、電動機制御装置23に負荷が加わる際の電動機一次電圧飽和を予想して避けることができ、電動機制御装置23を安定して連続運転することができる。
【0069】
また、以上に述べた実施の形態では、個々の手段及び機能部品について、複数のディスクリート部品からなるものとして説明しており、それらの部品は単一または複数のマイクロプロセッサを用い、そのソフトウェアにて実現することができる。
【実施例2】
【0070】
実施例1においては、従来の電動機駆動システムに負荷パターンを入力し、負荷パターンと負荷のタイミングによってあらかじめ界磁弱め制御を行い、電圧飽和を避け、所望の電動機一次電圧Vmを得る場合について述べた。
【0071】
図4は、本発明の実施例2の電動機駆動システムの構成を示す制御ブロック図である。実施例1の電動機駆動システムと異なる点は、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26と材料検出部27とを備えておらず、代わりに電源電圧検出装置31を備えている点である。
【0072】
電源電圧検出装置31は、本発明の変調率変動検出部に対応し、要求されるインバータの変調率の変動が予測される場合に、変動のタイミングと変動量とを検出する。具体的には、電源電圧検出装置31は、ダイオードコンバータ22の入力側、すなわち変圧器21の一次側に設けられ、交流電源電圧Vacを検出し、検出結果を補正電圧部25に出力する。
【0073】
すなわち、電源電圧検出装置31は、ダイオードコンバータ22の入力側の交流電源電圧Vacの測定結果に基づいて、ダイオードコンバータ22により出力される直流電圧Vdcの降下量を予測することで、要求されるインバータの変調率の変動量を検出する。
【0074】
その他の構成は、図1に示す実施例1の電動機駆動システムと同様であり、重複した説明を省略する。
【0075】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図5は、本実施例の電動機駆動システムにおける電圧降下の例を示す図である。図5に示すように、IGBTやサイリスタ使用時には定電圧制御であるのに対し、本実施例の電動機駆動システムは、ダイオードコンバータ22を採用しているため、交流電源電圧Vacの変動、負荷電流Iの上昇による直流電圧Vdcの変動が考えられる。
【0076】
定格交流電源電圧をVac_const、交流電源電圧降下時の電圧をVac_dropとすると、負荷電流Iの増加による直流母線の電圧降下ΔVdcは回路のインピーダンス値から予測できるため、交流電源電圧Vacが定格電圧から降下した場合には、当該交流電源電圧降下分と合わせてどの程度直流母線電圧が降下するか予測できる。
【0077】
したがって、図5に示すように、例えば負荷電流がI=50%で、電源電圧が定格からΔVac降下した場合、直流母線電圧はVac_dropの位置に移動することになり、そのときの直流母線電圧Vdcは、Vac_const時のVdc_IL=50%から低下し、Vdc_dropの位置まで低下することが判る。
【0078】
交流電源電圧が低下した状態で、負荷が加わる場合には、大幅な直流電圧降下が起こるため、インバータ入力電圧が大幅に下がり、インバータ出力電圧、すなわち電動機一次電圧電圧Vmが飽和して制御不安定、あるいはインバータトリップに至る可能性がある。
【0079】
そこで、本実施例の電動機駆動システムにおける電源電圧検出装置31は、検出された電源電圧Vacを、定格交流電圧値Vac_constと比較し、その比較結果ΔVacを用いて、直流電圧Vdcの降下量ΔVdcを予測し、補正電圧部25に出力する。
【0080】
補正電圧部25は、変調率変動検出部により検出された変調率の変動量に基づいて電動機制御装置23により出力される一次電圧Vmの変動量を算出する。具体的には、補正電圧部25は、電源電圧検出装置31により予測されたダイオードコンバータ22により出力される直流電圧Vdcの降下量に基づいて、一次電圧Vmの上昇量ΔVmを算出する。
【0081】
その他の作用は実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0082】
上述のとおり、本発明の実施例2の形態に係る電動機駆動システムによれば、ダイオードコンバータ22を採用した際に、電源電圧Vacが規定値以下に低下した状態で、さらにダイオードコンバータ22に負荷が印加されることで、直流電圧Vdcが低下し、それにより電動機一次電圧(インバータ出力電圧)Vmが飽和してインバータの制御不安定又はトリップすることを防ぐことができる。
【0083】
すなわち、本実施例の電動機駆動システムは、上述した制御により、電源電圧Vacが降下した際の直流電圧降下と、負荷による直流電圧降下による電動機一次電圧Vmの飽和を避けることができ、電動機制御装置23を安定して連続運転することができる。
【0084】
なお、図6は、本実施例の電動機駆動システムの別の構成例を示す制御ブロック図であり、図1に示す電動機駆動システムと図4に示す電動機駆動システムを組み合わせた構成となっている。
【0085】
この場合には、補正電圧部25は、負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部26により予測される負荷による電動機一次電圧Vmの上昇量ΔVmを算出するとともに、電源電圧検出装置31により予測されたダイオードコンバータ22により出力される直流電圧Vdcの降下量に基づいて一次電圧Vmの上昇量ΔVmを算出し、両者を足し合わせたものを最終的な一次電圧Vmの上昇量ΔVmとして電動機制御装置23内の一次電圧判定・演算器18に出力する。
【0086】
このように構成することにより、図6に示す電動機駆動システムは、負荷変動と電源電圧変動の両者を考慮して、電動機一次電圧(インバータ出力電圧)の飽和を避けることができるとともに、電圧飽和の影響によるインバータの制御不安定又はトリップを防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る電動機駆動システムは、電動機を駆動する電動機駆動システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 速度検出器
2 一次磁束角演算器
3 微分器
4 速度制御器
5 界磁弱め制御器
6 磁束飽和パターン器
7 d軸成分電流制御器
8 q軸成分電流制御器
9 2−3軸/PWM変換器
10 電力変換器(電圧型インバータ)
11 電動機
12 電流検出器
13 一次電圧検出器
14 電流帰還座標変換器
15 すべり積分器
16 q軸トルク電流補償器
17 d軸電流制限器
18 一次電圧判定・演算器
21 変圧器
22 ダイオードコンバータ
23 電動機制御装置
25 補正電圧部
26 負荷タイミング演算・負荷パターン記憶部
27 材料検出部
28 材料
29 圧延機
30 上位制御部
31 電源電圧検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換器であるインバータにより駆動される電動機と、
前記インバータの直流電源であるダイオードコンバータと、
前記電動機に流れる一次電流を座標変換して得られる当該電動機の二次磁束(界磁)に沿った座標軸(d軸)成分と当該d軸に直交する座標軸(q軸)成分とに基づくベクトル制御によって前記インバータを用いて前記電動機を可変速制御し、且つ界磁弱め制御を行う電動機制御装置と、
前記電動機制御装置により出力される一次電圧を検出する一次電圧検出部と、
要求される前記インバータの変調率の変動が予測される場合に、変動のタイミングと変動量とを検出する変調率変動検出部と、
前記変調率変動検出部により検出された変調率の変動量に基づいて前記一次電圧の変動量を算出する一次電圧変動量算出部とを備え、
前記電動機制御装置は、前記変調率変動検出部により検出された変動のタイミングに合わせ、前記一次電圧検出部により検出された一次電圧と前記一次電圧変動量算出部により算出された変動量とに基づいて、界磁弱め制御を行う際のd軸界磁電流抑制分を算出することを特徴とする電動機駆動システム。
【請求項2】
前記変調率変動検出部は、負荷変動のタイミングを検出することで前記インバータの変調率の変動のタイミングを検出するとともに、負荷変動に伴う前記ダイオードコンバータにより出力される直流電圧の降下量を予測することで前記インバータの変調率の変動量を検出することを特徴とする請求項1記載の電動機駆動システム。
【請求項3】
前記変調率変動検出部は、前記ダイオードコンバータの入力側の交流電源電圧の測定結果に基づいて、前記ダイオードコンバータにより出力される直流電圧の降下量を予測することで、前記インバータの変調率の変動量を検出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電動機駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−253889(P2012−253889A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124038(P2011−124038)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】