説明

電動車両の暖機装置

【課題】電動車両の暖機装置において、電動車両の動力源であるバッテリの電力消費を抑えつつ、バッテリの加温と車両の室内の暖房を行うことにある。
【解決手段】制御手段(33)は、バッテリ(2)の温度が基準温度未満であって第一流体を用いてバッテリ(2)を前記基準温度以上に加温できない若しくは空調装置(6)の作動要求が検出されて所望の温度の温風が得られないと判断された場合の少なくともいずれか一方が成立した場合に、第一ヒータ(16)若しくは第二ヒータ(21)の必要作動時間の短いどちらか一方を作動して第一流体若しくは第二流体を加温し、この加温した第一流体若しくは第二流体をバッテリ(2)若しくは空調装置(6)に供給させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動車両の暖機装置に係り、特に電動車両の動力源であるバッテリの電力を用いてバッテリの加温と車室内の暖房を行う電動車両の暖機装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両走行用の動力源に電気を用いた電動車両には、バッテリが搭載されている。バッテリはバッテリ温度によって出力電力が変化する特性を備えており、バッテリが効率良く動作できる温度が存在する。
一方で、電動車両には、内燃機関型エンジン等の大きな熱源を備えないので、バッテリを加温するための加温装置を備える必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−22845号公報
【0004】
特許文献1に係る電気自動車用バッテリ保温装置は、バッテリを加温するための手段として、燃焼作用により加熱する燃焼式ヒータを備え、電動車両の走行中には、バッテリの電力を使用してバッテリの加温を行う電熱線ヒータを用いず、燃焼式ヒータによってバッテリを加温し、これにより、電動車両の動力源であるバッテリの電力を利用することなくバッテリを加温することができ、バッテリが効率良く動作することを可能としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の特許文献1では、燃焼式ヒータを搭載するための構造や燃料を備える必要があり、そのため、車両レイアウト上の制限が生じ、また、搭載できるバッテリの量が少なくなり、電動車両の走行可能距離が少なくなるおそれがあった。
また、環境問題や燃料の枯渇のおそれの問題があることから、今後、燃焼式ヒータを使用できなくなるおそれがある。
このように、電動車両には車両を走行させるためのバッテリを多く搭載できることが好ましく、バッテリの電力を効率良く利用して、電動車両の走行やバッテリの加温を行えることが望まれていた。
【0006】
そこで、この発明の目的は、電動車両の動力源であるバッテリの電力消費を抑えつつ、バッテリの加温と車両の室内の暖房を行う電動車両の暖機装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、電動車両の動力源であるバッテリと、このバッテリの電力により作動して前記車両を走行させるモータとを備えて電力によって走行する電動車両の暖機装置において、前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度センサを設け、第一流体が流れる第一流路と前記第一流体よりも昇温速度が早い第二流体が流れる第二流路とを設け、前記バッテリは前記第一流路と前記第二流路とが通過する構造であって前記第一流体及び第二流体と熱交換を行い、前記第一流路は前記モータと前記第一流体を圧送する第一ポンプと前記第一流体の温度を検出する第一温度センサと前記バッテリの電力を使用して前記第一流体を加温する第一ヒータと前記バッテリを迂回して前記第一流体を流す迂回路とを備え、前記第二流路は前記第二流体を圧送する第二ポンプと前記第二流体の温度を検出する第二温度センサと前記バッテリの電力を使用して前記第二流体を加温する第二ヒータとを備え、前記車両の車室内に温風を送風する空調装置を設け、この空調装置は前記第一流体と前記第二流体とが通過する構造であって該空調装置への作動要求の有無を検出する作動要求検出部を備え、前記バッテリの温度が基準温度未満であって前記第一流体を用いて前記バッテリを前記基準温度以上に加温できない若しくは前記空調装置の作動要求が検出されて所望の温度の温風が得られないと判断された場合の少なくともいずれか一方が成立した場合に、前記第一ヒータ若しくは前記第二ヒータの必要作動時間の短いどちらか一方を作動して前記第一流体若しくは前記第二流体を加温し、この加温した第一流体若しくは第二流体を前記バッテリ若しくは前記空調装置に供給させる制御手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の電動車両の暖機装置は、電動車両の動力源であるバッテリの電力消費を抑えつつ、バッテリの加温と車両の室内の暖房を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は電動車両の暖機装置のシステム構成図である。(実施例)
【図2】図2は電動車両の暖機装置のブロック図である。(実施例)
【図3】図3は電動車両の暖機制御のフローチャートである。(実施例)
【図4】図4は図3に続く電動車両の暖機制御のフローチャートである。(実施例)
【図5】図5は図3に続く電動車両の暖機制御の他のフローチャートである。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、電動車両の動力源であるバッテリの電力消費を抑えつつ、バッテリの加温と車両の室内の暖房を行う目的を、昇温速度が異なる2つの流体を備えるとともにこの2つの流体がそれぞれ通過可能な流路をバッテリに備えて実現するものである。
【実施例】
【0011】
図1〜図5は、この発明の実施例を示すものである。
図1において、1は電力によって走行する電動車両(以下「車両」という)に搭載される暖機装置、2は車両の動力源であるバッテリ、3はこのバッテリ2の電力により作動して車両を走行させるモータ、4はバッテリ2の直流電力を交流電力に変換するインバータ、5は後述する第一流体(第一媒体としての第一冷却水)の温度を低減するラジエータ、6は車両の車室内に温風を送風する空調装置である。
バッテリ2には、このバッテリ2の温度(バッテリ温度)を検出するバッテリ温度センサ7が設けられている。
空調装置6には、第一流体(第一媒体としての第一冷却水)が流れる第一流路8と、第一流体よりも昇温速度が早い第二流体(第二媒体としての第二冷却水)が流れる第二流路9とを備えた閉回路10が設けられている。第二流体は、第一流体よりも熱容量が小さく、且つ第一流体よりも昇温速度が早い特性を備える。
バッテリ2は、第一流路8と第二流路9とが通過する構造であって第一流体及び第二流体と熱交換(熱の授受)を行うものである。
空調装置6は、第一流路8と第二流路9とが通過する構造であって、第一流路8を流れる第一流体及び第二流路9を流れる第二流体の熱を放熱するヒータコア11と、空調装置6への作動要求の有無を検出する作動要求検出部12とを備えている。
【0012】
第一流路8は、第一流体をバッテリ2から流して再度このバッテリに戻す第一の経路13を備える。
また、第一流路8は、第一経路13上で、第一流体を圧送する第一ポンプ14が設けられたラジエータ5とインバータ4とモータ3と第一流体の温度を検出する第一温度センサ15とバッテリ2の電力を使用して第一流体を加温する第一ヒータ(PCTヒータ)16と第一の制御弁17とを備えるとともに、この第一の制御弁17からバッテリ2に接続する第二の経路18と、第一の制御弁17からバッテリ2を迂回し且つ第一の経路13の第一の接続部19に接続して第一電熱流体を流す迂回路20とを備える。
【0013】
第二流路9は、バッテリ2の電力を使用して第二流体を加温する第二ヒータ21と、この第二ヒータ21に設けられて第二流体を圧送する第二ポンプ22と、この第二ポンプ22と空調装置6のヒータコア11間で第三の経路23及びこの第三の経路23に並列した第四の経路24と、第三の経路23に設けられて第二流体の温度を検出する第二温度センサ25及び第二の流量調整弁としての第二の制御弁26と、この第二の制御弁26とバッテリ2とを接続する第五の経路27と、バッテリ2と第四の経路24の第二の接続部28に接続する第六の経路29とを備える。
また、第一ヒータ16に設けた第一の流量調整弁としての第三の制御弁30と空調装置6のヒータコア11とは、第七の経路31で接続している。
前記第二の制御弁(第二の流量調整弁)26と前記第三の制御弁30(第一の流量調整弁)とは、バッテリ2及び空調装置6に供給する第一流体若しくは第二流体の夫々の流量を調整する流量調整構造を構成する。
更に、空調装置6のヒータコア11の第八の経路32は、第一の経路13の第一の接続部19に接続している。
【0014】
また、暖機装置1には、図2に示すように、制御手段(制御ユニット)33が備えられている。
この制御手段33には、入力側で、バッテリ温度センサ7と空調装置の作動要求検出部12と第一温度センサ15と第二温度センサ25とイグニションスイッチ34と外気温センサ35が連絡しており、また、出力側では、第一ポンプ14と第一ヒータ16と第一の制御弁17と第二ヒータ21と第二ポンプ22と第二の制御弁26と第三の制御弁30とが連絡している。
この制御手段33は、入力側からの各種出力結果によって出力側の第一ヒータ16と第二ヒータ21との作動もしくは作動停止を行い、また、第一の制御弁17と第二の制御弁26と第三の制御弁30との作動制御を行う。
【0015】
制御手段33は、バッテリ2の温度が基準温度未満であって第一流体を用いてバッテリ2を基準温度以上に加温できない若しくは空調装置6の作動要求が検出されて所望の温度の温風が得られないと判断された場合の少なくともいずれか一方が成立した場合に、第一ヒータ16若しくは第二ヒータ21の必要作動時間の短いどちらか一方を作動して第一流体若しくは第二流体を加温し、この加温した第一流体若しくは第二流体をバッテリ2若しくは空調装置6に供給させる。
また、制御手段33は、空調装置6の所望する温度の温風を得るための第一流体若しくは第二流体の温度である第一所定温度と、バッテリ2を基準温度以上に加温可能な第一流体若しくは第二流体の温度である第二所定温度とを設定し、バッテリ2の温度が基準温度未満であって空調装置6の作動要求が検出された場合に第一所定温度と第二所定温度との大小を比較し、第一所定温度の方が大きいと判断された場合に、第一ヒータ16若しくは第二ヒータ21の必要作動時間が短いどちらか一方を作動させて第一流体若しくは第二流体を第二所定温度まで加温するとともに、この加温した第一流体若しくは第二流体を空調装置6に供給する量を増大させる。
なお、この実施例において、外気温センサ35を設けることで、バッテリ2や室内暖房等の暖機温度制御や他部品における温度調節等に活用できる。
【0016】
以下に、上記の第一流路8について、具体的に説明する。
第一ポンプ14が作動することで、第一の経路13に第一流体が流れる。この場合、第七の経路31には、第三の制御弁30の開弁によって第一流体が流れる。なお、第三の制御弁30は、第七の経路31に流れる第一流体の流量を調整できる第一流量調整弁である。第二の経路18、迂回路20においては、第一の制御弁17によって第二の経路18若しくは迂回路20のどちらか一方に第一流体が流れる。
これにより、第一流体は、インバータ4及びモータ3の作動による廃熱や第一ヒータ16による加熱によって加温される。また、第一流体は、ラジエータ5を通過することで、第一流体の温度が低減される。
また、第三の制御弁30が開弁することで、第七の経路31に第一流体が流れ、ヒータコア11を通過した第一流体は、ラジエータ5に戻る。第一流体がヒータコア11を通過することで、ヒータコア11において第一流体が放熱し、空調装置6が車室内に温風を送風する。
迂回路20は、バッテリ2を迂回する経路であり、第一の制御弁17によって第二の経路18若しくは迂回路20に第一流体が流れ、その後、第一流体はラジエータ5に戻る。
一方、第二の経路18、迂回路20には常に第一流体が流れておらず、以下の所定の条件が成立することで、第二の経路18、迂回路20、第七の経路31、及び第八の経路32に第一流体が流れる。
また、第二の経路18が開通する条件は、バッテリ温度が基準温度未満であって第一流体の第二温度が所定温度以上の場合である。このとき、迂回路20は、開通しない。
迂回路20が開通する条件は、バッテリ温度が前記基準温度以上の場合であり、バッテリ2を加温する必要が無いので、バッテリ2を迂回して第一流体を通す。このとき、第二の経路18は、開通しない。
第七の経路31及び第八の経路32が開通する条件は、暖房使用要求があって、且つ第一流体の温度が第一所定温度以上の場合である。この第一所定温度とは、所望する温度の温風を空調装置6から得ることができる第一流体の温度であり、空調装置6の所望する温風の温度によって変化するものである。
【0017】
次いで、上記の第二流路9について、具体的に説明する。
第二流体は、第三の経路23・第四の経路24及び第五の経路27・第六の経路29に流れる。この第五の経路27・第六の経路29には、第二ポンプ22が作動することで第二流体が流れ、さらに、第三の経路23・第四の経路24には、第二の制御弁26が開弁することで第二流体が流れる。なお、第二の制御弁26は、第三の経路23に流れる第二流体の流量を調整できる第二流量制御弁である。
第二ヒータ21は、第一ヒータ16と同様の加温性能を備えるものである。
第三の経路23からは第二の制御弁26を介して第五の経路27が分岐している。
第五の経路27・第六の経路29は、その経路上にバッテリ2を介しており、第三の経路23からの第二流体をバッテリ2に循環させることができる。
第二ポンプ22が作動することで、第三の経路23内の第二流体が流れ、ヒータコア11と第二ヒータ21間を第二流体が循環する。ヒータコア11に第二流体を通過することで、ヒータコア11において第二流体が放熱して車室内に温風を送風できる。さらに、第二の制御弁26が開弁することで、第五の経路27にも第二流体が流れ、バッテリ2にも第二流体が流れる。
第二温度センサ25は、空調装置6の作動可否を判断するために設けられている。第二温度センサ25の検出結果より、制御手段33は、空調装置6の作動可否を判断して空調装置6を作動する。
第二流体が流れる第三の経路23・第四の経路24及び第五の経路27・第六の経路29の総合計長さは、第一流体が流れる第一の経路13・第二の経路18の総合計長さ及び第一の経路13・迂回路20の総合計長さよりも短く設定されている。つまり、第二流体の水量は、第一流体の水量よりも少ない。さらに、前述したように、第二流体は第一流体よりも加温速度が早い流体であるので、より第二流体を第一流体よりも早く規定温度まで加温させることができる。
ヒータコア11とバッテリ2は、第一流体と第二流体とが通過可能な水路を別途に備えている。このため、ヒークコア11やバッテリ2に第一流体と第二流体とが共に通過しても、第一流体と第二流体とが混ざり合うことはない。
【0018】
次に、この実施例における暖機制御を、図3〜図5のフローチャートに基づいて説明する。
先ず、図3に示すように、制御手段33において、プログラムがスタートすると(ステップA01)、イグニションスイッチ34がオンか否かを判断し(ステップA02)、このステップA02がNOの場合には、この判断を継続する。
このステップA02がYESの場合には、バッテリ温度が基準温度以上か否かを判断し(ステップA03)、このステップA03がYESの場合には、空調装置(暖房)6の使用か否かを判断し(ステップA04)、このステップA04がYESの場合には、第一温度センサ16による第一の流体の温度が第一所定温度以上か否かを判断する(ステップA05)。このステップA05がYESの場合には、第一ヒータ16による第一流体の加温の必要が無く、また、第二ヒータ21による第二流体の加温の必要も無いことから、第一ヒータ16及び第二ヒータ21をオフとし、第一の流体の温度を第一所定温度まで加温し、迂回路20、第七の経路31を開通とする(ステップA06)。
このステップA06においては、作動要求検出部12が空調装置6の作動要求を検出して、空調装置6を作動させて暖房が使用状態(空調装置6が作動状態)にあるので、第三の制御弁30が開弁して第七の経路31が開通し、ヒータコア11に第一流体を流す。
一方、バッテリ2の温度は基準温度以上であるので、バッテリ2の加温の必要は無い。そのため、第一流体を迂回路20に通過させて、バッテリ2の過熱を防止する。
前記ステップA04がNOの場合には、第一ヒータ16と第二ヒータ21とを、共に、オフ(非作動)とする(ステップA07)。
このステップA07においては、空調装置6が作動していないため、ヒータコア11による第一流体の温度の低下がない。また、バッテリ2の温度が基準温度以上であり、バッテリ2の加温の必要も無いので、第一ヒータ16と第二ヒータ21とを、共に、作動停止し、第一流体を迂回路20を通過させてバッテリ2の過熱を防止する。
【0019】
前記ステップA05がNOの場合には、第一ヒータ16を作動させた方が効率が良いか否かを判断する(ステップA08)。これは、バッテリ2の消費電力をより少なくするために設けた処理である。例えば、第一流体の温度が第一所定温度よりも僅かに低い場合、第二流体を加温するよりも第一流体を加温させる方がバッテリ2の消費電力を抑えられる場合がある。
前記ステップA08がYESの場合には、第一ヒータ16をオン(作動)とし且つ第二ヒータ21をオフ(非作動)とする(ステップA09)。
このステップA09においては、空調装置6の作動要求がある一方で、第一流体の温度が第一所定温度よりも低いので、バッテリ2の過冷却を防止するために、バッテリ2には、第一流体を通過させない。つまり、第二の経路18を、開通させない。この場合、第一ヒータ16を作動して、第一流体を、第一所定温度まで加温するとともに、迂回路20と第七の経路31とに流す。
前記ステップA08がNOの場合には、第一ヒータ16をオフとし且つ第二ヒータ21をオンとする(ステップA10)。
このステップA10においては、空調装置6の作動要求がある一方で、バッテリ2が基準温度以上であって、且つ第一流体が第一所定温度よりも低いので、バッテリ2の過冷却を防止するために、バッテリ2には、第一流体を通過させない。つまり、第二の経路18を、開通させない。代わりに、第二ヒータ21及び第二ポンプ22を作動させ、第三の経路23・第四の経路24内の第二流体を第一所定温度まで加温させつつ、第二流体を循環させる。この場合、第三の経路23・第四の経路24を開通するとともに、第五の経路27、第六の経路29、迂回路20も、開通する。
これにより、第一流体よりも加温速度の早い第二流体を第二ヒータ21により加温してヒータコア11に流すことで、早期に空調装置6を使用可能にできるとともに、第二流体の加温時間を短縮できるので、バッテリ2の電力の消費量も削減できる。
そして、前記ステップA06、前記ステップA07、前記ステップA09、又は、前記ステップA10の各処理後は、その処理を終了する(ステップA11)。このステップA11では、バッテリ温度が推定値以下となった場合は、バッテリ温度の判定から再度処理を行う。
【0020】
一方、図3の前記ステップA03がNOの場合には、空調装置(暖房)6の使用か否かを判断し(ステップA12)、このステップA12がYESの場合には、図4のフローチャートに移行する。
図4に示すように、前記ステップA12でYESを判断した後に、第一所定温度が第二所定温度よりも高いか否かを判断する(ステップA13)。上記の第二所定温度とは、バッテリ2を基準値以上に加温できる第一流体の温度である。
このステップA13がYESの場合には、第二ヒータ21を作動させた方が効率が良いか否かを判断する(ステップA14)。
このステップA14は、バッテリ2の電力消費を抑えるために設けている。つまり、第一ヒータ16若しくは第二ヒータ21のどちらを作動させた方が、各ヒータの必要作動時間を少なくできるかを判断でき、バッテリ2の電力の浪費を避けることができる。
前記ステップA14がYESの場合には、第一ヒータ16をオンとし且つ第二ヒータ21をオフとし、第二の経路18、第七の経路31を開通とし、第一流体の温度を第二所定温度まで加温させ、第二の経路18及び第七の経路31を開通して、第七の経路31に流れる第一流体の量を第二の経路18よりも増加させる処理を行い(ステップA15)、図3の前記ステップA03に戻る。
このステップA15においては、バッテリ2が基準温度よりも低く、空調装置6が作動伏態にあり、第一流体の温度が第二所定温度以上である場合で、第二の経路18、第七の経路31を開通し、第一ヒータ16を作動させる。同時に、第七の経路31に流れる第一流体の量を、第二の経路18よりも増加させる。
前記ステップA14がNOの場合には、第一ヒータ16をオフとし且つ第二ヒータ21をオン、第二ポンプ22を作動し、第三の経路23・第四の経路24、第五の経路27・第六の経路29及び迂回路20を開通とし、第二流体を第二所定温度まで加温させ、同時に、第三の経路23に流れる第二流体の量を第五の経路27よりも増加させる処理を行い(ステップA16)、前記ステップA03に戻る。
このステップA16においては、空調装置6の作動要求がある一方、バッテリ2の温度が基準温度よりも低い場合であって、第三の経路23・第四の経路24、第五の経路27・第六の経路29が開通し、第二ヒータ21が作動して第二流体を第二所定温度まで加温するとともに、第二流体がヒータコア11と第二ヒータ21とバッテリ2とを循環する。同時に、第三の経路23に流れる第二流体の量を、第五の経路27よりも増加させる。
前記ステップA15及び前記ステップA16では、第一の流量制御弁である第三の制御弁30及び第二の流量制御弁である第二の制御弁26を用いて第一流体及び第二流体の流量を調整する構成としている。この場合、第一流体若しくは第二流体を第二所定温度まで加温するとともに、第一流体若しくは第二流体をヒータコア11へ多く流し、空調装置6の所望する送風温度を得る構成としている。
【0021】
前記ステップA13がNOの場合には、第一ヒータ16を作動させた方が効率が良いか否かを判断する(ステップA17)。
このステップA17がYESの場合には、第一ヒータ16をオンとし且つ第二ヒータ21をオフとし、第二の経路18、第七の経路31を開通とし、第一流体を第二所定温度まで加温させ(ステップA18)、図3の前記ステップA03に戻る。
前記ステップA17がNOの場合には、第一ヒータ16をオフとし且つ第二ヒータ21をオン、第二ポンプ22を作動し、第三の経路23・第四の経路24、第五の経路27・第六の経路29、及び迂回路20を開通とし、第二流体を第二所定温度まで加温させ(ステップA19)、図3の前記ステップA03に戻る。
【0022】
一方、図3の前記ステップA12がNOの場合には、図5のフローチャートに移行する。
図5に示すように、前記ステップA12でNOを判断した後に、第一温度センサ15による第一の流体の温度が第二所定温度以上か否かを判断する(ステップA20)。
このステップA20がYESの場合には、第一ヒータ16と第二ヒータ21とを、共にオフとし、第二の経路18を開通とし(ステップA21)、図3の前記ステップA03に戻る。
このステップA21においては、バッテリ2が基準温度未満であり、空調装置6の作動要求がなく、第一流体が第二所定温度以上であるので、第一ヒータ16、第二ヒータ21を、作動させない。第一流体は、第二の経路18に流れ、バッテリ2を加温する。
前記ステップA20がNOの場合には、第一ヒータ16を作動させた方が効率が良いか否かを判断する(ステップA22)。
このステップA22がYESの場合には、第一ヒータ16をオンとし且つ第二ヒータ21をオフとする(ステップA23)。このステップA23においては、第一ヒータ16をオンとし且つ第二ヒータ21をオフとして、第二の経路18を開通し、第一流体を第二所定温度まで加温し、この加温した第一流体を第二の経路18に流す。
前記ステップA22がNOの場合には、第一ヒータ16をオフとし且つ第二ヒータ21をオンとし、さらに、第二ポンプ22を作動する(ステップA24)。第一ヒータ16をオフとし且つ第二ヒータ21をオンとし、第三の経路23・第四の経路24、第五の経路27・第六の経路29及び迂回路20を開通とし、図3の前記ステップA03に戻る。
このステップA24においては、バッテリ2が基準温度未満であり、空調装置6の作動要求がなく、第一流体が第二所定温度未満である場合であり、バッテリ2を加温する必要があるが、第一流体が第二所定温度未満であるので、第一流体を利用してバッテリ2を加温することができない。そのため、第二ヒータ21を作動させて、第二流体を加温させる。そして、この加温された第二流体を利用して、バッテリ2を加温する。
【0023】
以上、この発明の実施例について説明してきたが、上述の実施例の構成を請求項毎に当てはめて説明する。
先ず、請求項1に係る発明は、バッテリ2の温度が基準温度未満であって第一流体を用いてバッテリ2を基準温度以上に加温できない若しくは空調装置6の作動要求が検出されて所望の温度の温風が得られないと判断された場合の少なくともいずれか一方が成立した場合に、第一ヒータ16若しくは第二ヒータ21の必要作動時間の短いどちらか一方を作動して第一流体若しくは第二流体を加温し、この加温した第一流体若しくは第二流体をバッテリ2若しくは空調装置6に供給させる。
このような構造では、昇温速度が異なる2つの流体(第一流体、第二流体)を備えるとともに、バッテリ2及び空調装置6はこの2つの流体がそれぞれ通過可能な流路(第一流路8、第二流路9)を備えるので、バッテリ2及び空調装置6を第一流体若しくは第二流体のどちらか一方の流体を用いて加温できる。
また、第一流路8にはモータ3を備えることで、車両が走行する際に駆動するモータ3の発熱を利用して第一流体を加温することができ、モータ3の廃熱を利用してバッテリ2を加温できる。
更に、バッテリ2の温度を基準温度以上に加温するにあたり、第一流体及び第二流体を用いてもバッテリ2の加温ができない場合に、第一ヒータ16若しくは第二ヒータ21の必要作動時間が短い方のヒータを用いて第一流体若しくは第二流体を昇温させることで、早期にバッテリ2を基準温度以上に加温できるとともに、バッテリ2の電力消費も抑えることができる。
【0024】
また、請求項2に係る発明は、空調装置6の所望する温度の温風を得るための第一流体若しくは第二流体の温度である第一所定温度と、バッテリ2を基準温度以上に加温可能な第一流体若しくは第二流体の温度である第二所定温度とを設定し、バッテリ2の温度が基準温度未満であって空調装置6の作動要求が検出された場合に第一所定温度と第二所定温度との大小を比較し、第一所定温度の方が大きいと判断された場合に、第一ヒータ16若しくは第二ヒータ21の必要作動時間が短いどちらか一方を作動させて第一流体若しくは第二流体を第二所定温度まで加温するとともに、この加温した第一流体若しくは第二流体を空調装置6に供給する量を増大させる。
これにより、バッテリ2を最適動作温度に加温できるとともに、所望する温度の送風を得ることができる。
【0025】
なお、この発明においては、バッテリの温度が高い場合に、ラジエータとインバータ間からバッテリにつながる別経路を追加することで、ラジエータによって冷却された第一流体をバッテリに通すことで、バッテリを冷却することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明に係る暖機装置を、各種電動車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 暖機装置
2 バッテリ
3 モータ
4 インバータ
5 ラジエータ
6 空調装置
7 バッテリ温度センサ
8 第一流路
9 第二流路
10 閉回路
11 ヒータコア
12 作動要求検出部
13 第一の経路
14 第一ポンプ
15 第一温度センサ
16 第一ヒータ
17 第一の制御弁
18 第二の経路
20 迂回路
21 第二ヒータ
22 第二ポンプ
23 第三の経路
24 第四の経路
25 第二温度センサ
26 第二の制御弁(第二の流量調整弁)
27 第五の経路
29 第六の経路
30 第三の制御弁(第一の流量調整弁)
31 第七の経路
32 第八の経路
33 制御手段
34 イグニションスイッチ
35 外気温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両の動力源であるバッテリと、このバッテリの電力により作動して前記車両を走行させるモータとを備えて電力によって走行する電動車両の暖機装置において、前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度センサを設け、第一流体が流れる第一流路と前記第一流体よりも昇温速度が早い第二流体が流れる第二流路とを設け、前記バッテリは前記第一流路と前記第二流路とが通過する構造であって前記第一流体及び第二流体と熱交換を行い、前記第一流路は前記モータと前記第一流体を圧送する第一ポンプと前記第一流体の温度を検出する第一温度センサと前記バッテリの電力を使用して前記第一流体を加温する第一ヒータと前記バッテリを迂回して前記第一流体を流す迂回路とを備え、前記第二流路は前記第二流体を圧送する第二ポンプと前記第二流体の温度を検出する第二温度センサと前記バッテリの電力を使用して前記第二流体を加温する第二ヒータとを備え、前記車両の車室内に温風を送風する空調装置を設け、この空調装置は前記第一流体と前記第二流体とが通過する構造であって該空調装置への作動要求の有無を検出する作動要求検出部を備え、前記バッテリの温度が基準温度未満であって前記第一流体を用いて前記バッテリを前記基準温度以上に加温できない若しくは前記空調装置の作動要求が検出されて所望の温度の温風が得られないと判断された場合の少なくともいずれか一方が成立した場合に、前記第一ヒータ若しくは前記第二ヒータの必要作動時間の短いどちらか一方を作動して前記第一流体若しくは前記第二流体を加温し、この加温した第一流体若しくは第二流体を前記バッテリ若しくは前記空調装置に供給させる制御手段を設けたことを特徴とする電動車両の暖機装置。
【請求項2】
前記バッテリ及び前記空調装置に供給する前記第一流体若しくは前記第二流体の夫々の流量を調整する流量調整構造を備え、前記制御手段は、前記空調装置の所望する温度の温風を得るための前記第一流体若しくは前記第二流体の温度である第一所定温度と、前記バッテリを基準温度以上に加温可能な前記第一流体若しくは前記第二流体の温度である第二所定温度とを設定し、前記バッテリの温度が前記基準温度未満であって前記空調装置の作動要求が検出された場合に前記第一所定温度と前記第二所定温度との大小を比較し、前記第一所定温度の方が大きいと判断された場合に、前記第一ヒータ若しくは前記第二ヒータの必要作動時間が短いどちらか一方を作動させて前記第一流体若しくは前記第二流体を前記第二所定温度まで加温するとともに、この加温した第一流体若しくは第二流体を前記空調装置に供給する量を増大させることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の暖機装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−239344(P2012−239344A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108145(P2011−108145)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】