説明

電動送風機

【課題】ファンケースとファンの隙間で発生する送風損失を低減するために、ファンケースにシール剤を塗布する、または打ち抜きもしくは成型されたパッキンを設置する方法では、シール部の高さ管理及び接触抵抗管理がしにくく、送風効率を更に上げることが困難という問題があった。
【解決手段】電動送風機のファンケースとファン隙間に、一体成形された多層構造のシール部材を設置し、シール部材のファンケースとの接触側に、圧縮永久歪に優れたやわらかいエラストマ−を用いることにより、常にファンとシール部材が接触している状態を確保でき、なおかつ接触抵抗が低い構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動送風機およびそれを使用した掃除機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動送風機は、図1に示すように、電動機部に固定された回転軸1と、前記回転軸1に固定された吸気口を有するファン2と、ファン2を覆うように設けられた吸気口を有するファンケース3を備えた構造となっている。
【0003】
この構成の電動送風機の課題として、ファンケース3とファン2の隙間で発生する送風損失があり、この送風損失を低減することが電動機の効率を上げることに不可欠となっており、送風効率を上げるために、ファンケース3の吸気口周囲にシール剤を塗布することにより、ファン2との隙間を小さくして効率を上げるような構成が提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
また、ファンケース3の吸気口周囲に打ち抜きもしくは成型されたパッキンをシール部材4として設置し、ファンケース3とファン2の隙間を小さくして効率を上げるような構成も提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開平4−279799号公報
【特許文献2】特開平8−68392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ファンケース3とファン2の隙間で発生する送風損失を低減するために、ファンケース3にシール剤を塗布したり、打ち抜かれたもしくは成型された通常のパッキンをシール部材4として使用した場合、シール剤を使用した場合は、シール剤とファン2の隙間を少なくするためには、シール剤の充填量高さと硬化後のシール剤の表面平滑性についての管理が必要である。また成型されたパッキンをシール部材4として使用する場合も、パッキンがやわらかい場合は、ファン2との接触部における接触抵抗の大きさによる効率の低下や多量のパッキンの摩耗粉が発生する。そしてパッキンに剛性がある場合は、ファン2との隙間を小さくするためには、パッキンの高さ管理が求められ、パッキンがファン2との接触が強いと、接触抵抗の大きさによる効率の低下が発生する。このように、シール部材4がシール剤や単一構造のパッキンである場合は、シール剤の種類や硬化条件や塗布量の管理状態及びシール部材4の取り付け状態によって大きく電動機の効率が影響される。更にシール部材4の充填高さが少ない場合は、ファンケース3とファン2の隙間が大きくなり、必要な送風効率が得られないという課題があった。そして、シール剤を用いて硬化後のシール剤表面の平滑性が確保できない場合にも、必要な送風効率が得られない、もしくは運転時の接触抵抗の影響により電動機の効率が低下するという課題があった。
【0006】
更に、シール剤に縮合反応系シール剤を使用した場合、硬化後のヒケにより、ファンケース3とファン2の隙間が大きくなったり、硬化時に発生する反応生成物の影響で表面に凹凸が発生し、必要な送風効率や電動機の効率が得られないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、ファンケース3とファン2の隙間で発生する送風損失を安定して低減し、効率の高い電動送風機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明の電動送風機は、シール部材4がエラストマ−層5と摩擦係数の低い樹脂層6の複数層から形成されており、ファン2との接触を確実にし、かつ接触抵抗を低減することにより、シール剤の塗布条件や硬化後の表面状態及びシール剤の種類が重合反応系の接着剤等に限定されること無く、またファン2との接触で発生する摩耗粉を少なくし、送風損失を安定して低減し、効率の高い電動送風機を提供することが可能となる。
【0009】
また、エラストマ−層5に発泡倍率が10〜40倍のやわらかい発泡材を用いることで、ファンケース3とファン2のクリアランスにバラツキが生じても、摺動抵抗を著しく上げることなく安定して送風損失を低減することが可能となる。
【0010】
更に、発泡材の材質に圧縮永久歪特性に優れたウレタン系を用い、寸歩精度に優れた一体成形手法でシール部材4を成形することで、常にシール部材4とファン2が軽く接触した状態を維持でき、ファンケース3とファン2の隙間で発生する送風損失を安定して低減し、効率の高い電動送風機を提供することが可能となり、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電動送風機によれば、ファンケース3にシール部材4のエラストマー層5を取り付け、シール部材4の摩擦係数の低い樹脂層6とファン2を接触させて用いることにより接触抵抗が低い状態を常に確保でき、接触抵抗の影響による電動機の効率低下がほとんど無く、摩耗粉を少なくして、ファンケース3とシール2の隙間で発生する送風損失を安定して低減することができる。
【0012】
また、エラストマー層5に発泡倍率が10〜40倍の発泡材を選定することにより、ファンケース3とファン2の平行度が悪い場合においても、ファンケース3とファン2の隙間をほとんど無くすことが可能となり、また、発泡倍率の高いエラストマーを選定することで接触抵抗の影響による電動機の効率低下がほとんど無く、ファンケース3とシール2の隙間で発生する送風損失を低減することができる。
【0013】
さらに、エラストマー層5の素材にウレタン系樹脂を用いることで、シール部材4の圧縮永久歪特性が向上することにより、経年変化に対しても、初期とほぼ同じ送風損失を確保でき、送風効率の高い電動送風機が得られる。
【0014】
そして、シール部材4の成形に際しては、インサート成形手法を用いることにより、寸歩精度が向上し、接触抵抗のバラツキを抑え、接触抵抗による電動機の効率低下を安易にほとんど無い状態を得られ、また、ファンケース3とシール2の隙間で発生する送風損失についても安定して低減でき、送風効率の高い電動送風機が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ファンケース3とファン2の隙間に、2層構造からなるシール部材4を充填する構造とし、シール部材4はエラストマー層5に32倍発泡のポリエーテル系の発泡ウレタン樹脂と樹脂層6にフッ素樹脂を用いた構造からなり、シール部材4の成形にはインサート成形手法を用いることにより、寸歩精度に優れた柔軟性があり表面抵抗の低い圧縮永久歪の高いシール部剤を供給でき、これを用いることにより、ファンケース3とファン2の平行度が悪い場合においても、接触抵抗の影響による電動機の効率低下がほとんど無く発生する摩耗粉を少なく抑えて、ファンケース3とファン2の隙間で発生する送風損失を安定して低減することができ、また、経年変化に対しても変化の少ない電動送風機が安易に得ることが可能となる。
【0016】
以下、本発明の一実施例について、掃除機用電動送風機を例として説明する。
【実施例1】
【0017】
図1において、掃除機用の電動送風機は、回転軸1と前記回転軸1に固定された吸気口を有するファン2とファン2を覆うように設けられた吸気口を有するファンケース3から構成されている。
【0018】
ファンケース3とファン2の隙間は、2.6〜2.8mmであり、このファンケース3の吸気口周辺部分には、エラストマー層5が32倍発泡のポリエーテル系の発泡ウレタン樹脂で樹脂層6が厚さ0.1mmのPTFE樹脂で構成される、インサート成形で厚さ2.95〜3.05mmに管理されたシール部材4が貼り付けてあり、シール部材4の樹脂層6がファン2に常に接触する構成としている。この構成であると常に接触面がPTFE樹脂とファンであり、接触圧力についても、発泡倍率の高いウレタン樹脂を用いているので、
低く抑えることが可能であり、接触抵抗の影響による電動機送風機の効率低下をほとんど下げることなく、接触面がFTFE樹脂なので摩耗粉もほとんど無く、ファンケース3とファン2に生じる隙間に対して送風損失を安定して低減できる。また、ポリエーテル系のウレタンを用いることにより、湿度やオゾン等に対する耐久性を保持する上、経年変化による圧縮永久歪も小さいことから、経年変化による特性劣化が小さく、この様に形成されたシール部材4を、ファンケース3とファン2の間に用いるとにより、ファンケース3とファン2の隙間を最小限に押さえることが可能となる。
【0019】
従来のシール剤塗布工法や柔軟性を持つだけの打ち抜かれたパッキンを設置する工法の課題であった、シール高さの管理やシール剤表面の平滑性の確保に依存する接触抵抗の管理といった要因に左右されることなく、安易にファンケース3とファン2の隙間を小さくして、シール部材4とファン2の接触抵抗による効率低下がほとんどなく、ファンケース3とファン2の隙間で発生する送風損失が小さい高効率の電動送風機を供給することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は掃除機等に用いる電動送風機に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電動送風機の構成図
【図2】シール部材の断面図
【符号の説明】
【0022】
1 回転軸
2 ファン
3 ファンケース
4 シール部材
5 エラストマ−層
6 樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機部に固定された回転軸と、前記回転軸に固定された吸気口を有するファンと、ファンを覆うように設けられた吸気口を有するファンケースを備え、ファンと接触するファンケースにはエラストマー層と樹脂層の多数層からなるシール部材が設置されていることを特徴とする電動送風機。
【請求項2】
シール部材のエラストマー層が、発泡倍率が10〜40倍の発泡材であることを特徴とする請求項1に記載の電動送風機。
【請求項3】
シール部材のエラストマー層の発泡材が、ウレタン系であることを特徴とする請求項1に記載の電動送風機。
【請求項4】
エラストマー層と樹脂層からなるシール部材が、インサート成形方式で成形されたことを特徴とする請求項1に記載の電動送風機。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−205259(P2007−205259A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25462(P2006−25462)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】