説明

電圧制御型水晶発振器

【課題】動作電圧の低電圧化にも容易に対応でき、所期の可変周波数範囲および可変周波数特性をもつ回路設計、製作を容易にする。
【解決手段】発振回路1の帰還ループ内に介挿する水晶振動子2に直列に、増幅素子としてのFETとリアクタンス要素Z1,Z2を有し、出力端からみたリアクタンスを制御電圧VCによって可変にした可変リアクタンス回路7を設け、リアクタンス要素の組み合わせおよび回路定数の変更によって、発振周波数に所期の可変周波数特性および所期の可変周波数範囲を得る。
リアクタンス要素Z1とZ2は、一方を抵抗とし他方をコンデンサとした構成、または両方をそれぞれ抵抗とコンデンサの直列構成あるいは並列構成などとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御型水晶発振器に係り、特に可変周波数範囲および可変周波数特性の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧制御型水晶発振器は、周波数変調器や可変周波数発振器として多くの電子回路に採用されており、その一般的な回路構成を図3に示す。発振回路1はその帰還ループ内に水晶振動子(または他の圧電振動子)2を介挿することで、該水晶振動子2がもつ共振周波数での発振動作を得る。水晶振動子2に直列に介挿されるバリキャップダイオード(可変容量ダイオード)3は、抵抗4を通して印加される制御電圧VCに応じて容量が制御され、これによって水晶振動子2に直列(等価的には並列)に介挿される容量を変化させて水晶振動子2の共振周波数を変化させ、発振回路1の発振周波数を制御する。
【0003】
この構成において、発振器の可変周波数範囲および可変周波数特性は、バリキャップダイオードの制御電圧−容量特性で決まる。そこで、所期の周波数可変範囲と可変周波数特性をもつ電圧制御型水晶発振器の設計/製作には、これら要求に合致した制御電圧−容量特性をもつバリキャップダイオードを市販のものから選択、もしくは開発することになるが、これら要求に適合したバリキャップダイオードが無い場合や開発が難しい場合があり、装置開発の遅れや設計自由度を低くしてしまう。
【0004】
可変周波数範囲を上げる回路方式として、バリキャップダイオードには通常の制御電圧−容量特性をもつものを使用し、発振回路の帰還ループ中に、伸長コイルを介挿する方式、または伸長コイルが発振器のIC化に際して外付けになるため、それに代えて誘導性リアクタンス回路を介挿する方式がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この誘導性リアクタンス回路を使用した回路構成を図4の(a)に示し、水晶振動子2に直列(等価的には水晶振動子とは並列接続)に誘導性リアクタンス回路5を設ける。この誘導性リアクタンス回路5は、同図の(b)に示すように、A級増幅動作にバイアスされるFET(電界効果トランジスタ)のドレイン端子とゲート端子間に帰還抵抗Rを接続し、ゲート端子とソース端子間にコンデンサCを設ける。この構成により、ドレイン端子とソース端子間は等価的に以下の式で表せるインダクタンスLeqを得る。ただし、Cはコンデンサ容量、Rは抵抗値、gmはFETの相互コンダクタンスである。
【0006】
Leq=C・R/gm …(1)
この誘導性リアクタンス回路5は、バリキャップダイオード3と直列接続で水晶振動子2に並列に設けることで、バリキャップダイオードの容量変化(制御電圧VCの変化)に対する発振周波数の可変範囲を大きくすることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2000−216633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電圧制御型水晶発振器は、構造上は水晶振動子を除いてIC化され、さらに高周波信号処理回路などの他の電子回路と一体に組み込まれたLSIもある。このような発振器およびそれを含む電子回路のIC化やLSI化において、消費電力の改善のために、動作電圧の低電圧化も要求されており、従前の5Vdcから3.3Vdc、さらには2.5Vdcのものが要望されてきている。この低電圧化に伴い、発振回路等の電源電圧Vccおよびバリキャップダイオードの制御電圧VCも制限されてくる。
【0009】
ここで、バリキャップダイオードは、その制御電圧−容量特性例を図5に示すように、制御電圧VCの可変範囲が大きいほど容量変化も大きくなる。したがって、その動作電圧の低電圧化は、バリキャップダイオードの最大可変容量の低下になってしまい、所期の可変周波数範囲をもつ発振器が得られなくなる。
【0010】
このため、特許文献1のように、誘導性リアクタンス回路を設けて可変周波数範囲を高める構成とするも、動作電圧が低電圧化されるほど、制御電圧に対して所期の可変容量(可変周波数範囲)をもつバリキャップダイオードを選択するのが難しくなり、これに加えて所期の制御電圧−容量特性(可変周波数特性)をもつバリキャップダイオードを選択するのが一層困難になり、回路設計の自由度も低いものになる。
【0011】
本発明の目的は、動作電圧の低電圧化にも容易に対応でき、所期の可変周波数範囲および可変周波数特性をもつ回路設計、製作を容易にした電圧制御型水晶発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、従来のバリキャップダイオードに代えて、増幅素子とリアクタンス要素で構成し、制御電圧に応じてリアクタンスを可変にした可変リアクタンス回路を水晶振動子に直列に介挿し、この回路のリアクタンス要素の組み合わせおよび回路定数を変更することで、所期の可変周波数特性および所期の可変周波数範囲を得るようにしたもので、以下の構成を特徴とする。
【0013】
(1)発振回路の帰還ループ中に水晶振動子を介挿し、制御電圧によって該水晶振動子の共振周波数を変化させることで発振回路の発振周波数を制御する電圧制御型水晶発振器であって、
増幅素子とリアクタンス要素とを有し、出力端からみたリアクタンスを前記制御電圧に応じて可変にした可変リアクタンス回路を、前記水晶振動子に直列に介挿した構成を特徴とする。
【0014】
(2)前記可変リアクタンス回路は、前記増幅素子としてのFETのドレイン端子とゲート端子間に設けた第1のリアクタンス要素と、前記FETのソース端子とゲート端子間に設けた第2のリアクタンス要素と、前記制御電圧を前記FETのゲート端子に印加する高インピーダンス素子とによって構成したことを特徴とする。
【0015】
(3)前記第1のリアクタンス要素はコンデンサで構成し、前記第2のリアクタンス要素は抵抗で構成したことを特徴とする。
【0016】
(4)前記第1のリアクタンス要素は抵抗で構成し、前記第2のリアクタンス要素はコンデンサで構成したことを特徴とする。
【0017】
(5)前記第1のリアクタンス要素は抵抗とコンデンサの直列回路で構成し、前記第2のリアクタンス要素はコンデンサと抵抗の直列回路で構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上のとおり、本発明によれば、従来のバリキャップダイオードに代えて、増幅素子とリアクタンス要素で構成し、制御電圧に応じて出力端からみたリアクタンスを可変にした可変リアクタンス回路を水晶振動子に直列に介挿し、この回路のリアクタンス要素の組み合わせおよび回路定数の変更によって発振周波数に所期の可変周波数特性および所期の可変周波数範囲を得るようにしたため、バリキャップダイオードの特性に制約されることなく、回路設計、製作を容易に、すなわち回路設計の自由度を高め、また低電圧化にも容易に対応できる効果がある。
【0019】
特に、第1のリアクタンス要素と第2のリアクタンス要素の組み合わせと回路定数の変更によって容量性リアクタンスを呈する構成、または誘導性リアクタンスを呈する構成、さらには容量性と誘導性の両方をもつ構成とすることができ、回路設計の自由度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の実施形態を示す基本構成である。同図が図3と異なる部分は、バリキャップダイオードに代えて、水晶振動子2に直流阻止コンデンサ6を介して可変リアクタンス回路7を介挿した点にある。
【0021】
可変リアクタンス回路7は、A級増幅動作させる増幅素子としてFETを設け、このFETのドレイン端子側をコンデンサ6との接続端とし、ソース端子側を接地端とし、FETのゲート端子とドレイン端子間に第1のリアクタンス要素Z1を接続し、FETのゲート端子とソース端子間に第2のリアクタンス要素2を接続し、FETのゲート端子と制御電圧端子間に発振周波数帯域で高インピーダンスを呈してFETにゲート電圧を印加するための抵抗RDを接続した構成とする。なお、増幅素子はFETに代えてバイポーラ形トランジスタとすることができる。また、抵抗RDは高周波阻止コイルと抵抗の直列回路とすることができるが、発振器をIC化する場合は抵抗とするのが好ましい。
【0022】
この構成において、例えば、リアクタンス要素Z1を容量Cをもつコンデンサとし、リアクタンス要素Z2を抵抗値Rをもつ抵抗とすると、出力端になるA点からみたアドミッタンスYは以下の式で示すように、容量性を呈する。ただし、rdはFETの内部抵抗値である。
【0023】
【数1】

逆に、リアクタンス要素Z1を抵抗値Rをもつ抵抗とし、リアクタンス要素Z2を容量Cをもつコンデンサとすると、A点からみたアドミッタンスYは以下の式で示すように、インダクタンス性を呈する。
【0024】
【数2】

これら式から明らかなように、可変リアクタンス回路7は、アドミッタンスYがFETの相互コンダクタンスgmに依存し、このコンダクタンスgmはFETのゲート電圧に依存するため、FETのゲート端子に印加する制御電圧VCによってA点からみたリアクタンスを変化させることができる。
【0025】
そして、式(2)の場合、容量性になることから、リアクタンス要素Z1の抵抗Rとコンデンサ容量Cと変えること、および相互コンダクタンスgm(制御電圧VC)を変えることで、可変周波数特性を変えることができる。一方、式(3)の場合、誘導性になることから可変周波数範囲を変更(拡張)することができる。
【0026】
したがって、従来のバリキャップダイオードを使用した電圧制御型水晶発振器ではその可変容量および制御電圧−容量特性が固定的であるのに対して、本実施形態では、リアクタンス要素Z1,Z2の特性を抵抗とコンデンサの組み合わせ、および回路定数の変更で任意の可変周波数特性および可変周波数範囲のものを設計、製作でき、設計自由度を高めることができる。また、動作電圧の低電圧化にも容易に対応した設計、製作ができる。より具体的には、既述したように消費電力を抑えるために電源電圧を低くすることが要請されているが、今まで用いられていたバリキャップダイオードは電源電圧の大きさにより容量の調整範囲が限られてくることから、電源電圧が5.0Vから3.3Vになると特に制御電圧の選択範囲が限られることから、この実施の形態は、電源電圧が3.3V以下の範囲において特に効果が大きい。
【0027】
図2は、本発明の他の実施形態を示す回路構成図である。同図が図1と異なる部分は、抵抗R1とコンデンサC1の直列回路でリアクタンス要素Z1を構成し、抵抗R2とコンデンサC2の直列回路でリアクタンス要素Z2を構成した点にある。この構成においては、調整個所が4点(C1、C2、R1、R2)になるため、設計自由度を一層高めることができる。なお各リアクタンス要素Z1(Z2)は、抵抗とコンデンサとの直列回路に限らず、並列回路であってもよいし、直列回路と並列回路との組み合わせなどであってもよい。ここでいう組み合わせとは直列回路に対して抵抗あるいはコンデンサを並列に組み合わせる場合や並列回路に対して抵抗あるいはコンデンサを直列に組み合わせる構成などが含まれる。
【0028】
なお、実施形態において、発振回路1はコルピッツ形、ピアース形など適宜設計変更して同等の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示す基本構成図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す回路構成図である。
【図3】従来の一般的な電圧制御型水晶発振器の回路構成図である。
【図4】誘導性リアクタンス回路を使用した回路構成図(従来)である。
【図5】バリキャップダイオードの制御電圧−容量特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0030】
1 発振回路
2 水晶振動子
3 バリキャップダイオード
5 誘導性リアクタンス回路
6 直流阻止コンデンサ
7 可変リアクタンス回路
Z1、Z2 リアクタンス要素
FET 電界効果トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振回路の帰還ループ中に水晶振動子を介挿し、制御電圧によって該水晶振動子の共振周波数を変化させることで発振回路の発振周波数を制御する電圧制御型水晶発振器であって、
増幅素子とリアクタンス要素とを有し、出力端からみたリアクタンスを前記制御電圧に応じて可変にした可変リアクタンス回路を、前記水晶振動子に直列に介挿したことを特徴とする電圧制御型水晶発振器。
【請求項2】
前記可変リアクタンス回路は、前記増幅素子としてのFETのドレイン端子とゲート端子間に設けた第1のリアクタンス要素と、前記FETのソース端子とゲート端子間に設けた第2のリアクタンス要素と、前記制御電圧を前記FETのゲート端子に印加する高インピーダンス素子とによって構成したことを特徴とする請求項1に記載の電圧制御型水晶発振器。
【請求項3】
前記第1のリアクタンス要素及び前記第2のリアクタンス要素のうちの一方及び他方を夫々コンデンサ及び抵抗で構成したことを特徴とする請求項2に記載の電圧制御型水晶発振器。
【請求項4】
前記第1のリアクタンス要素は抵抗とコンデンサの直列回路で構成し、前記第2のリアクタンス要素はコンデンサと抵抗の直列回路で構成したことを特徴とする請求項2に記載の電圧制御型水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−5911(P2007−5911A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180904(P2005−180904)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】