説明

電圧測定システム及びパイプライン防蝕システム

【課題】 短時間かつ低コストでパイプラインに印加された電圧を測定する。
【解決手段】 埋設されたパイプライン1に印加された電圧の測定を、前記パイプライン1の軸方向の所定位置にそれぞれ設置されたコントローラ4と電圧測定手段7との間で信号を送受信させて行う電圧測定システムを採用する。この際に、パイプライン1を信号伝達媒体として、周波数ホッピング方式により前記コントローラ4から前記電圧測定手段7に向けて送信される測定指令信号及びこの測定指令信号に基づいて前記測定手段が測定したデータ信号を送受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設されたパイプラインと大地との間に印加される電圧を測定する電圧測定システム及びこの電圧測定システムを利用して効果的にパイプラインの防蝕を図るパイプラインの防蝕システムに関する。
【背景技術】
【0002】
埋設されたパイプラインに電圧を印加してパイプラインの腐蝕を防止することが行われている。この際、防蝕作用を効果的に発揮させるために、一定圧以上の電圧を印加している。従来、印加した電圧の測定は、例えば、道路に設けられたマンホール等を利用して、作業者が電圧計を使用して直接行っていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、パイプラインはその長さが数キロメートルにも及ぶことがあり、その全長について作業者が電圧の測定を行っていたのでは、測定終了までの時間がかかるだけでなく、人件費も多大なものとなる。
【0004】
本発明は係る問題点に鑑みなされたものであり、短時間かつ低コストでパイプラインに印加された電圧を測定する電圧測定システム及びこの電圧測定システムを利用したパイプライン防蝕システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、この課題を解決するために、埋設されたパイプラインに印加された電圧の測定を、前記パイプラインの軸方向の所定位置にそれぞれ設置されたコントローラと電圧測定手段との間で信号を送受信させて行う電圧測定システムであって、前記パイプラインを信号伝達媒体として、周波数ホッピング方式により前記コントローラから前記電圧測定手段に向けて送信される測定指令信号及びこの測定指令信号に基づいて前記測定手段が測定したデータ信号を送受信する電圧測定システムを採用した。
【0006】
また、本発明ではこの電圧測定システムにおいて、前記電圧測定手段を前記パイプラインの軸方向の異なる複数の位置に設け、前記コントローラが、これら複数の電圧測定手段の中から択一的に選定された電圧測定手段との間で、周波数ホッピング方式により信号を送受信するように制御する。
【0007】
さらに、本発明では、上記課題を解決するために、埋設されたパイプラインに印加された電圧の測定を、前記パイプラインの軸方向の所定位置にそれぞれ設置されたコントローラと電圧測定手段との間で信号を送受信させて行う電圧測定システムと、前記パイプラインに印加せしめる電圧を増減せしめる電圧増減手段とを備え、前記電圧測定システムは、前記パイプラインを信号伝達媒体として、周波数ホッピング方式により前記コントローラから前記電圧測定手段に向けて送信される測定指令信号及びこの測定指令信号に基づいて前記測定手段が測定したデータ信号を送受信させる一方で、前記コントローラは、電圧測定手段から送信されたデータ信号と、予め設定された防蝕に必要な設定電圧とを比較する電圧比較手段を具備し、前記データ信号に基づく電圧が、予め設定された前記設定電圧に未達であると前記電圧比較手段が認定した際に、前記コントローラは前記電圧増減手段を作動させるパイプラインの防蝕システムを採用した。
【0008】
そして、このパイプラインの防蝕システムにおいて、本発明では、前記電圧測定システムは、前記電圧測定手段を前記パイプラインの軸方向の異なる複数の位置に備える一方で、前記コントローラが、これら複数の電圧測定手段から択一的に選定された電圧測定手段との間で、周波数ホッピング方式により信号を送受信することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、迅速かつ低コストでパイプラインの腐蝕防止を行える。即ち、地面に埋設されたパイプラインは、腐蝕防止のために一定値以上の電圧が印加されている。この電圧を測定するに際し、本発明によれば、電圧データの欲しい地点に設置された電圧測定手段に対してベース地点から指令を発信するだけでその地点の電圧を測定させることができる。そして、測定されたデータを再びベース地点に返信させれば、ベース地点に居ながらにして遠隔地の電圧データを得ることが可能となる。この電圧データに基づいて、パイプラインに印加させる電圧値を制御させることができる。
【0010】
本発明では、かかるステップを経るだけで、極めて効率よく電圧の調整を行える。
【0011】
また、パイプライン自体を信号伝達媒体として使用し、しかも、信号の送受信を周波数ホッピング方式で行うことで、次の効果を得ることができる。
(1)パイプライン自体が信号伝達媒体であるため、送電線等の伝達媒体を別途設ける必要がない。
(2)また、周波数ホッピング方式を採用することで、パイプラインを信号伝達媒体として利用した場合でも、不必要なノイズをカットでき、正確な測定値の送受信を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本発明の電圧測定システムを利用してパイプライン1の防蝕を図るためのパイプライン防蝕システムの概要を示すものである。
【0014】
パイプライン1には、直流電源2が接続され、この直流電源2から一定の電圧が印加されている。パイプライン1は、予め設定された所定電圧以上の電圧が印加されることで、腐蝕が防止される。しかし、パイプライン1は、その全長が数キロメールにも及ぶため、直流電源2から離れた地点では、印加された電圧が降下してしまうことがある。本システムは、パイプライン1の軸方向の任意地点に電圧測定部を設け、パイプライン1の任意地点の電圧を測定している。そして、測定値が予め設定された所定の電圧値よりも降下している場合には、直流電源2から印加する電圧値を上げ、その地点の電圧を所定電圧値以上とする制御を行っている。
【0015】
具体的には、この図1に示すように、パイプライン1の軸方向の所定位置にベースステーション3を設けると共に、軸方向の複数の位置に測定用ステーション6を設けている。ベースステーション3では、各測定用ステーション6及び直流電源2との間で行われる通信の制御等を行う。一方、各測定用ステーション6では、そこに対応する地点の電圧を測定している。なお、例えば、対象がガスパイプライン1である場合、ガバナステーションをベースステーション3として、バルブステーションを測定用ステーション6としてそれぞれ使用するとよい。
【0016】
ベースステーション3には、コントローラ4が設けられている一方で、各測定用ステーション6には電圧測定器7が設けられている。これら電圧測定器7は、照合電極7Aに接続される。また、ベースステーション3には送受信機能を備えたマスター5が設けられ、各測定用ステーション6にはマスター5との間で信号を送受信するスレーブ8を備えている。そして、ベースステーション3では、複数の測定用ステーション6の中から任意の測定用ステーション6を択一的に選択し、選択した測定用ステーション6との間で指令信号及びデータ信号の送受信を行っている。そして、本電圧測定システムでは、ベースステーション3と、各測定用ステーション6との間での信号送受信を周波数ホッピング方式で行っている。
【0017】
図2及び図3は、これらの信号の送受信を行うシステムの原理図を示している。
【0018】
まず、周波数ホッピング方式の概要について簡単に説明する。周波数ホッピング方式とは、スペクトラム拡散方式の一つであり、0.1秒程度の極めて短い時間ごとに信号を送信し、その周波数を変更する通信方式である。次々に送信周波数を変更するため、特定周波数でノイズが発生した場合であっても、他の周波数で通信したデータによって訂正が可能となる。このため、ノイズの影響を受けずに受信することができる。また、耐障害性が高く、通信の秘匿性にも優れている。一般には、この周波数ホッピング方式は、無線LANや携帯電話で使われている。そして、本実施形態では、この様な周波数ホッピング方式を使用するに当たり、信号の伝達媒体としてパイプライン1を使用している。
【0019】
図2に示すように、送信部10は、入力された情報信号を変調する一次変調器11と、この一次変調器11で変調された信号を拡散せしめる二次変調器12とを具備している。一次変調器11は入力された情報信号を適切な狭帯域で変調させる情報変調部として機能する。一方、二次変調器12には、拡散符号発生部14と、周波数シンセサイザ15とが接続され、入力された信号を周波数変換することで拡散変調する。さらに、送信部10は、拡散変調された信号を情報伝達媒体に送信する際に、電力を増幅させる電力増幅部16を備えている。
【0020】
これに対し、図3に示すように、受信部20は、信号伝達媒体としてのパイプライン1から送り込まれた信号を逆拡散する二次変調器22と、逆拡散された信号をもとの情報信号に復調せしめる一次変調器21とを具備している。パイプライン1と二次変調器22との間には、高周波増幅器27が接続されており、二次変調器22に入力せしめる信号を増幅させている。また、受信部20は、これら高周波増幅器27と二次変調器22とを直接接続するルートとは別に、高周波増幅器27と二次変調器22との間に符号同期部26、拡散符号発生部24及び周波数シンセサイザ25を直列に接続した別ルートを備えている。入力された信号は、この両ルートの作用を通じて逆拡散される。一方、一次変調器21は、信号を情報データに復調させるものであり、元の情報データに復調させている。
【0021】
ベースステーション3に設けられたマスター5及び各測定用ステーション6に設けられたスレーブ8には、これら送信部10及び受信部20の機能がそれぞれ設けられており、これらマスター5とスレーブ8が、それぞれパイプライン1に接続されている。そして、パイプライン1を介して信号の送受信が行われる。なお、これらマスター5及びスレーブ8とパイプライン1との間にはコンデンサ9がそれぞれ接続されている。
【0022】
他方、直流電源2には、電源そのものに加えて、印加せしめる電圧を自在に変化させる変圧部2Aが設けられている。この変圧部2Aは、ベースステーション3のコントローラ4からの指令に基づいて、印加する電圧の値を変化させている。なお、この直流電源2にも、特に図示していないが、送信部10及び受信部20を備えたスレーブ8が設けられ、ベースステーション3のマスター5と直流電源2のスレーブ8との間でパイプライン1を介して信号の送受信が行われている。
【0023】
以上の構成を備えたシステムによれば、電圧測定器7は、照合電極7Aに接続されるので、直流電源2の出力を増加させれば、各測定地点における測定電圧はマイナス側へ移動する。即ち、迷走電流等の影響を受けた場合、各測定地点での測定電圧は、予め設定しておいた電圧より高い値を示すことになる。これを解消するために直流電源2を作動させて電圧をアップさせると、各測定点での測定電圧はその分だけ低い電圧を示すことになる。このように、このシステムでは、各測定地点における測定値と予め設定しておいた基準値との比較を適宜行うことにより、防蝕に必要な電圧を直流電源2からパイプラインに印加する。
【0024】
具体的には、このシステムでは、図4に示すように、電圧測定及び印加せしめる電圧の調整を次のようにして行っている。
【0025】
まず、どの地点の電圧を測定するかをベースステーション3にて選択する(S1)。次いで選択された地点に対応する測定用ステーション6に向けて、電圧測定のための指令信号を発信する(S2)。この指令信号は、ベースステーション3に設けられた一次変調器11及び二次変調器12により拡散変調されたものであって、ベースステーション3のマスター5からパイプライン1に送り込まれる。信号はパイプライン1を伝達し、選択された測定用ステーション6に到達する。測定用ステーション6のスレーブ8は、この信号を受信する(S3)。
【0026】
信号を受信した測定用ステーション6では、指令信号に基づいて、当該測定用ステーション6に設けられた電圧測定器7が作動して、これによりパイプライン1と大地との間の電圧測定が行われる(S4)。測定された電圧は、この測定用ステーション6により、デジタル化され、スレーブ8から再びベースステーション3に向けて送信される。この場合も、データ信号は、周波数ホッピング方式により、パイプライン1に送り出される(S5)。そして、データ信号は、パイプライン1を介して再びベースステーション3に返信さ、ベースステーション3はこの信号を受信する(S6)。
【0027】
ベースステーション3では、送信されたデータ信号の解析がコントローラ4により行われる(S7)。即ち、送信されたデータ信号を再び電圧情報に変換し、測定された電圧が予め設定された所定値よりも大きいか小さいかの判定が行われる。そして、測定地点におけるパイプライン1の電圧が、腐蝕防止に十分であると判定されると、直流電源2の印加電圧はそのまま維持される(S8)。一方、測定地点におけるパイプライン1の電圧は腐蝕防止には不十分であると判定されと、ベースステーション3から直流電源2に向けて電圧を所定の値だけアップさせるよう指令信号が送信される(S9)。直流電源2は、この指令信号に基づいて印加させる電圧をアップさせる。
【0028】
なお、印加させる電圧をどの程度アップさせるかは、どの地点において、どの程度電圧電圧の降下があれば、どの程度の電圧をアップさせればよいのかを予めデータベース化しておき、このデータベースに基づいて決定する。或いは、電圧の調整と、対象となる測定用ステーション6における電圧の測定とを同時に行い測定結果をフィードバックさせながら適切な電圧までアップさせるようにしてもよい。
【0029】
[実験例]
パイプラインを信号伝達媒体として周波数ホッピング方式を使用するに当たり、その性能がどの程度であるのかを確認する、確認実験を行った。
【0030】
実験は、図5に示すように、長さが約40mのパイプライン30を地中に埋設し、その一端側をベースステーションに見立て、マスター31及びコントローラ32を接続し、他端側を測定用ステーションに見立て、スレーブ33及びコントローラ34を接続して行った。実験は、管対地電位のON−OFF波形をスレーブ33側から伝送し、これをマスター31側で受信し、その波形の再現を試みた。具体的には、図6に示すMg陽極をON−OFFさせた波形40、及び図8に示す通常の矩形波41を送信した。なお、使用した信号は、情報量が32bit/secの信号を1秒間隔で伝送させた。また、このときの伝送周波数は、9kHzである。
【0031】
かかる条件の下で実験を行ったところ、図7及び図9にそれぞれ示すグラフのように波形40A,41Aを再生することができた。図7は図6に示すMg陽極をON−OFFさせたときのグラフを、図9は、図8に示す矩形波を送信したときの再現波形のグラフをそれぞれ示している。図7及び図9において、波形状に示された点は、転送された実際のデータを表している。
【0032】
この実験結果から明らかなように、パイプラインを信号伝送媒体として、周波数ホッピング方式で信号を確実に送受信させることができることが分かる。なお、いずれのグラフにおいても送信側の波形に比べ、立ち上がり部が丸みを帯びて鈍化しているが、これは、入力部のパイプラインと大地との間に設けたコンデンサの影響によるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態にかかる腐蝕防止システムの概要を示す図。
【図2】図1のシステムで使用されている送信部の原理図。
【図3】図1のシステムで使用されている受信部の原理図。
【図4】パイプラインに印加された電圧の測定及び電圧の印加の制御の手順を示すフローチャート。
【図5】本発明の効果を確認する際に使用した実験装置の概要を示す図。
【図6】送信に用いた信号の波形を示すグラフ。
【図7】図6の信号を受信し、これを再生した波形を示すグラフ。
【図8】図6の送信信号の波形とは別形態の送信信号の波形を示すグラフ。
【図9】図8の信号を受信し、これを再生した波形を示すグラフ。
【符号の説明】
【0034】
1・・・パイプライン
2・・・直流電源
3・・・ベースステーション
4・・・コントローラ
5・・・マスター
6・・・測定用ステーション
7・・・電圧測定器
8・・・スレーブ
9・・・コンデンサ
10・・・送信部
20・・・受信部
30・・・パイプライン
31・・・マスター
32,34・・・コントローラ
33・・・スレーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設されたパイプラインに印加された電圧の測定を、前記パイプラインの軸方向の所定位置にそれぞれ設置されたコントローラと電圧測定手段との間で信号を送受信させて行う電圧測定システムであって、
前記パイプラインを信号伝達媒体として、周波数ホッピング方式により前記コントローラから前記電圧測定手段に向けて送信される測定指令信号及びこの測定指令信号に基づいて前記測定手段が測定したデータ信号を送受信することを特徴とする電圧測定システム。
【請求項2】
前記電圧測定手段は前記パイプラインの軸方向の異なる複数の位置に設けられ、
前記コントローラは、これら複数の電圧測定手段の中から択一的に選定された電圧測定手段との間で、周波数ホッピング方式により信号を送受信することを特徴とする請求項1に記載の電圧測定システム。
【請求項3】
埋設されたパイプラインに印加された電圧の測定を、前記パイプラインの軸方向の所定位置にそれぞれ設置されたコントローラと電圧測定手段との間で信号を送受信させて行う電圧測定システムと、前記パイプラインに印加せしめる電圧を増減せしめる電圧増減手段とを備え、
前記電圧測定システムは、前記パイプラインを信号伝達媒体として、周波数ホッピング方式により前記コントローラから前記電圧測定手段に向けて送信される測定指令信号及びこの測定指令信号に基づいて前記測定手段が測定したデータ信号を送受信させる一方で、
前記コントローラは、電圧測定手段から送信されたデータ信号と、予め設定された防蝕に必要な設定電圧とを比較する電圧比較手段を具備し、前記データ信号に基づく電圧が、予め設定された前記設定電圧に未達であると前記電圧比較手段が認定した際に、前記コントローラは前記電圧増減手段を作動させることを特徴とするパイプライン防蝕システム。
【請求項4】
前記電圧測定システムは、前記電圧測定手段を前記パイプラインの軸方向の異なる複数の位置に備える一方で、前記コントローラは、これら複数の電圧測定手段から択一的に選定された電圧測定手段との間で、周波数ホッピング方式により信号を送受信することを特徴とする請求項3に記載のパイプライン防蝕システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−71559(P2006−71559A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257559(P2004−257559)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)
【Fターム(参考)】