説明

電子カルテ・システム

【課題】 新規な患者の病因に関して、担当医師が診断を下す際、電子カルテ・システム中に収納されている過去の症例中から、新規な患者と類似する症状と検査結果を示す類似症例患者を検索する際、検査段階で得られる測定データ自体を含めた比較に基づく、検索機能を具えた電子カルテ・システムの提供。
【解決手段】 患者の検査データ、臨床所見データ、治療データを格納する患者電子カルテ・データベースと、新規患者の検査データ、臨床所見データと、患者電子カルテ・データベースの中にある、過去の症例における検査データ、臨床所見データを比較して、新規患者と類似する過去の症例を一又は複数選択する類似症例患者の選択機構と、選択された類似症例患者の電子カルテの内容を、新規患者の担当医師に開示する類似症例患者のカルテ情報開示機構と具えた電子カルテ・システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の臨床データ(治療データ、検査データ)などを電子的に格納する患者データベースと、該患者データベース中から所望とするデータを検索する検索プロセス機構とを具えてなる電子カルテ・システムに関する。特には、既存の患者データベース中から、新規患者の検査データなどと対比して、類似する検査データなどを有する、過去の患者の臨床データを検索する検索プロセス機構とを具えてなる電子カルテ・システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関では、患者の診療に際して、患者のプロフィール・病歴・臨床所見・検査データ、加療記録等の診療情報を、カルテとして、集約して、記録し、管理している。従前は、カルテは紙ベースで作製されていたが、電子ファイリング・システムを利用し、電子化がなされてきている。このカルテの電子化を進める際、記載する項目、各項目の記載形態に関して、定式化がなされている。例えば、医師の診察においては、問診により入手される、患者のプロフィール、発症までの経緯、自覚症状の情報、ならびに、医師自身の観察において見出される、他覚的症状の情報を、それぞれ、所定の項目に区分した上で、また、一定の定式化された表現を利用して、臨床所見データの一部として、電子カルテ上に記録される。また、患者の症状を引き起こしている病因を特定する際には、これら自覚症状の情報、他覚的症状の情報に基づき、診断知識を用いて推論し、可能性のある病因候補を選択する。さらに、可能性のある病因候補のうち、実際に、どの病因であるかを特定するため、種々の検査が行われる。実施された種々の検査結果は、それぞれ、所定の項目に区分した上で、また、一定の定式化された表現を利用して、検査データとして、電子カルテ上に記録される。最終的に、患者のプロフィール、発症までの経緯、自覚症状の情報、他覚的症状の情報、種々の検査結果を利用して、予め推論された可能性のある病因候補のうち、最も可能性の高い病因を特定し、診断を下す。下された診断(病因)と、患者の症状を考慮して、複数の治療手段のうち、適正と考えられるものを選択し、治療が開始される。その後、加療期間に施された治療と、患者の症状の変化を含め、一連の加療記録が、治療データとして、電子カルテ上に記録される。
【0003】
電子カルテにおいては、臨床所見データの一部を構成する、患者のプロフィール、発症までの経緯、自覚症状の情報、他覚的症状の情報、あるいは、検査データ中に収納される種々の検査結果が、所定のフォーマットで収納されている利点を利用し、医師が病因を特定する段階で、診断知識を用いて推論し、可能性のある病因候補を選択する作業を支援するシステムが既に提案されている(特許文献1を参照)。従来は、当該患者の自覚症状の情報、他覚的症状の情報に基づき、診断知識を用いて推論し、可能性のある病因候補を選択し、その後、検査結果を考慮して、可能性のある病因候補中の最も可能性の高い病因候補を特定する際、検査結果中に含まれる、疾患と関連する異常検査データの大半は、最も可能性の高い病因候補と一致するが、幾つかの異常検査データは、最も可能性の高い病因候補と一致していない場合もあった。このような不一致がある場合、可能性のある病因候補を再考した上で、疾患と関連する異常検査データの全てと一致する、最も可能性の高い病因候補を特定する必要がある。前記の電子カルテ・システム(特許文献1)は、当該患者の自覚症状の情報、他覚的症状の情報、ならびに、検査結果を含めて、診断知識を用いて推論し、可能性のある病因候補の再考、再選択の作業を支援する機能を具えている。すなわち、前記の電子カルテ・システム(特許文献1)が採用する診断支援機能は、幾つかの異常検査データは、最も可能性の高い病因候補と一致していない場合、その不一致を医師が見落とす、あるいは、十分な考慮を払わない結果、患者の「真の病因」を見逃す懸念を低減する効果を持っている。
【特許文献1】特開平10−177605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電子カルテ・システムは、各患者のカルテ情報として、患者の自覚症状の情報、他覚的症状の情報、ならびに、検査結果を格納しているものの、格納される検査結果は、例えば、血中コレステロール濃度、血糖値、尿酸値など、検査で得られる情報に基づき、検査データが意味する医学的な内容について、さらに判定を行う必要のない検査結果のみであった。すなわち、健常者の検査結果を基準として、既に確立された判定基準に従って、患者の検査結果中に、異常検査データが存在するか否かが一義的に決定可能な検査結果を格納するものであった。従って、医師が患者を診断する際、患者の症状と検査結果に基づき、診断知識を用いて推論し、可能性のある病因候補の再考、再選択の作業を支援する機能を有しているが、その際、疾患と関連する異常検査データの抽出は、典型的な症例に基づく診断知識を用いて、高い確度で推論が可能なものであった。検査結果中に含まれている異常検査データの抽出に利用される、正常か、異常かの検定基準が既に確立している検査項目を対象とする限り、上記の電子カルテ・システムの診断支援機能は有効である。
【0005】
一方、患者の症状や従来から利用されてきた検査結果に加えて、例えば、遺伝子検査など、最先端医療分野に属する検査において得られる検査データも、医師が患者の病因の特定する際、利用されるようになっている。しかしながら、最先端医療分野に属する検査では、得られる検査データに基づき、その意味するところを解釈する際、明確な解釈が困難である場合も少なくない。例えば、感染症に罹患している患者について、その感染症の原因菌の特定に、複数種の細菌の検出用DNAプローブを具えるDNAマイクロアレイを利用する、プローブ・ハイブリダイゼーション法が応用されている。その際、サンプル中に同じ種に属する原因菌が含まれている場合でも、DNAマイクロアレイ上、各プローブのスポット点において観測される、検出対象の核酸分子に付した標識に起因するシグナル強度に相違があることも少なくない。そのため、同じ種に属する原因菌に関する、典型的なDNAマイクロアレイを用いた検査結果を参照するのみでは、個別の患者から採取されたサンプルにおける検査結果を高い確度で解釈することが容易でない場合も生じてくる。このように、診断に利用する検査データが、推定される病因候補において測定される典型的な検査データと比較して、無視できない偏移を示す可能性が少なくない場合、その検出データを利用して、高い確度の診断を行うことを可能とする手法の提案が望まれている。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するものであり、本発明の目的は、診断に利用する検査データが、推定される病因候補において測定される典型的な検査データと比較して、無視できない偏移を示す可能性がある場合に、その検出データを利用して、高い確度の診断を行う上で利用可能な医学的な情報を、新規な患者の診断、治療を担当する医師に提供し、その診断を支援する機能を具えた電子カルテ・システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題は、次のような構成の電子カルテ・システムを構築することで解決される。
【0008】
本発明者は、診断に利用する検査データが、推定される病因候補において測定される典型的な検査データと比較して、無視できない偏移を示す可能性がある場合には、過去の症例を精査して、推定される病因の患者における検査データ中に、新規な患者における検査データと同様の偏移を示すものが存在していたか、否かの情報は、極めて有用であることを見出した。すなわち、新規な患者における検査データと同様の偏移を示している過去の症例を選別できると、推定される病因候補において測定される典型的な検査データと比較して、患者における検査データが偏移を生じた要因を推定する上で、参考症例として利用できる。さらには、この類似する過去の症例をも参照して、その検出データを利用する診断を進めることで、得られる診断の確度は飛躍的に向上する。
【0009】
この検査データを含め、過去の症例を精査する目的のため、本発明にかかる電子カルテ・システムでは、各患者の電子化されたカルテ情報を格納する患者電子カルテ・データベース中に、患者の検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを収納する。その上で、入力装置から電子化されたカルテ情報として入力される、新規な患者の検査データ、臨床所見データと、患者電子カルテ・データベース中に収録されている、過去の症例(患者)の検査データ、臨床所見データとを比較し、類似の症状と検査データを示していた過去の症例(患者)を選択する機構を付加する。また、選択された過去の症例(患者)のカルテ情報、すなわち、検査データ、臨床所見データ、治療データを、その患者の診断、治療に係わる医療分野の閲覧者、例えば、新規な患者の担当医師に対して、参考症例として開示する機構を設ける。
【0010】
すなわち、本発明にかかる電子カルテ・システムは、
各患者の電子化されたカルテ情報として、患者の検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを格納する患者電子カルテ・データベースと、
新規な患者のカルテ情報として、検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを入力する入力装置と、
カルテ情報として入力される、当該新規患者の検査データ、臨床所見データと、前記患者電子カルテ・データベース中に格納されている、過去の症例における患者の検査データ、臨床所見データとを比較して、当該新規患者の検査データ、臨床所見データと、類似する検査データ、臨床所見データとを有する過去の症例の患者を一または複数を選択する、類似症例患者の選択機構と、
前記類似症例患者の選択機構により、選択される類似症例患者のカルテ情報の内容を、前記新規な患者の診断、治療に係わる医師を対象として、閲覧可能な形態で電子的に開示する、類似症例患者のカルテ情報開示機構とを具えている
ことを特徴とする電子カルテ・システムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる電子カルテ・システムでは、その患者電子カルテ・データベース中に、患者の検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを収納しており、詳細な検査データを含め、前記電子カルテ・データベース中を精査して、新規な患者の検査データ、臨床所見データと高い類似性を示す、類似する過去の症例(患者)を選択することが可能となる。さらに、新規な患者の診断を行う際、選択された類似する過去の症例(患者)の検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを、参考症例として、担当医師に開示することで、より有用な診断の支援機能を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明にかかる電子カルテ・システムは、
各患者の電子化されたカルテ情報として、患者の検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを格納する患者電子カルテ・データベースと、
新規な患者のカルテ情報として、検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを入力する入力装置と、
カルテ情報として入力される、当該新規患者の検査データ、臨床所見データと、前記患者電子カルテ・データベース中に格納されている、過去の症例における患者の検査データ、臨床所見データとを比較して、当該新規患者の検査データ、臨床所見データと、類似する検査データ、臨床所見データとを有する過去の症例の患者を一または複数を選択する、類似症例患者の選択機構と、
前記類似症例患者の選択機構により、選択される類似症例患者のカルテ情報の内容を、閲覧者に対して、特には、前記新規な患者の診断、治療に係わる医師を対象として、閲覧可能な形態で電子的に開示する、類似症例患者のカルテ情報開示機構とを具えている
ことを特徴とする電子カルテ・システムであるが、その好ましい形態として、下記の態様を挙げることができる。
【0013】
先ず、本発明にかかる電子カルテ・システムでは、
前記類似症例患者の選択機構は、
選択される類似症例患者の一または複数について、当該新規患者の検査データ、臨床所見データとの類似の程度を指標として、類似の高さに拠る順位付け機能を備えていることが好ましい。特には、前記の類似の高さに拠る順位付け機能を応用して、
前記類似症例患者の選択機構において、
当該新規患者の検査データ、臨床所見データと、最も類似する検査データ、臨床所見データとを有する過去の症例の患者を一人選択することが望ましい。
【0014】
一方、類似症例患者のカルテ情報開示機構は、
開示される類似症例患者のカルテ情報に含まれる、当該類似症例患者の診断、治療に際して、利用されていなく、かつ、患者の特定にのみ利用されている個人情報に関して、非閲覧可能な処理を施す機能を備えていることが望ましい。
【0015】
また、前記患者電子カルテ・データベースは、通常、
該データベースを構成する、患者の検査データに内包される、検査測定結果のデータベースの一部として、実施された検査の詳細な内容、測定結果を含む形態とすることが望ましい。
【0016】
その際、患者の検査データに内包される、検査測定結果のデータベースの一部として含まれる、実施された検査の詳細な内容、測定結果は、
DNAマイクロアレイを利用した、複数のDNAプローブに対するプローブ・ハイブリダイゼーション反応の結果を示す電子化されたデータを含むものとすることができる。
【0017】
例えば、前記DNAマイクロアレイを利用した、複数のDNAプローブに対するプローブ・ハイブリダイゼーション反応の結果を示す電子化されたデータとして、
感染症の原因菌を特定するための、複数のDNAプローブに対するプローブ・ハイブリダイゼーション反応の結果が標識由来の信号強度で示される際、
複数のDNAプローブのスポット領域を含む標識由来の信号強度のスキャン画像データ、あるいは、複数のDNAプローブの各スポット点における標識由来の信号強度データを含むものとすることができる。
【0018】
特には、患者の検査データに内包される、検査測定結果のデータベースの一部として含まれる、実施された検査の詳細な内容、測定結果は、
DNAマイクロアレイを利用した、感染症の原因菌を特定するための複数のDNAプローブに対するプローブ・ハイブリダイゼーション反応の結果を示す電子化されたデータを含むものとすると好ましい。

以下、図面に基づいて本発明の好適な実施の形態を詳しく説明する。
【0019】
図1は、本発明にかかる電子カルテ・システムにおいて採用する、類似症例患者を選択する機構、ならびに、類似症例患者のカルテ情報開示機構における処置手順の概念を説明する図である。
【0020】
本発明にかかる電子カルテ・システムでは、各患者のカルテ情報として、患者の検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを、所定の定式化された書式に従って、患者電子カルテ・データベース上に格納する。この患者のカルテ情報には、各患者に関する情報であることを示す、インデクス(患者コード)が付される。また、患者の診断開始時から治療の完了までの間に、時系列的に情報が追加されるため、情報の収録時期を示す、タイム・インデックスも付される。例えば、各種の検査データでは、ある検査に利用するサンプルを患者から採取した日時に、意味があるため、検査結果を収録した時期以外に、サンプルの採取日時は、検査結果とともに収録される。さらに、検査データには、患者の症状の推移を観察する目的で、反復的に実施される検査の結果、例えば、体温などのような基礎的な検査データと、診断などに利用する目的で、単発的に実施される検査の結果、例えば、血液検査、感染細菌検査などの特定の検査データがある。基礎的な検査データは、時系列的に蓄積されるデータであり、単発的に実施される検査結果である特定の検査データとは、区分されて収録される。また、特定の検査データとして、単発的に実施される検査結果に関して、実際の検査で得られる生データに相当するものをも収録しており、医師は、生データから抽出される検査結果に基づく、検査担当者による判定結果(二次情報)のみでなく、必要に応じて、電子的なイメージ情報として収録されている生データ、生データから抽出される検査結果(一次情報)をも閲覧することが可能な状態となっている。
【0021】
臨床所見データには、診察の際、担当医師が問診により入手する、患者の自覚的症状、症状が出るまでの経過、症状が出た後、診察までになされた処置などの情報と、担当医師自身は、患者を診察することで確認される他覚的症状などの情報と、治療に先立ち、診察時に入手される情報と、各種の検査結果とを参照して、担当医師が下した当初の診断結果、病名などが収録される。なお、診断結果、病名は、治療を進める間に、より適正なものに訂正されることがあり、その際には、この訂正の根拠とともに、逐次、臨床所見データに追加される。全ての治療が完了した時点で、最終的に、当該患者の症状を引き起こしていた病因と、その病因と患者の示していた症状の関連性が、臨床所見データに収載され、過去の症例情報となる。その他、患者のプロフィール、例えば、患者氏名、年齢、性別、既往症の記録、当該病状以外の健康状況に関する情報なども、臨床所見データの一部を構成する。
【0022】
治療データは、担当医師により決定され、施された加療情報を、時系列的に収録する。同時に、患者の症状の推移に関する情報も、時系列的に収録する。患者に施された治療と、その有効性に関する医師の評価も、治療データの一部を構成する。
【0023】
本発明にかかる電子カルテ・システムでは、患者電子カルテ・データベースに、患者の検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データが、患者データ入力工程101において、それぞれ、所定の定式化された情報として、入力される。図1に示す形態では、患者電子カルテ・データベースは、単発的に実施される検査結果である特定の検査データを格納する、実験測定データ・データベース102と、患者の診断開始時から治療の完了までの間に、時系列的に情報の追加がなされる、臨床所見データと治療データとを格納する、臨床データ・データベース103の二つに区分される。
【0024】
従来の電子カルテ・システムでは、患者電子カルテ・データベースは、前記臨床所見データと治療データとを格納する、臨床データ・データベース103に相当するものである。一方、単発的に実施される検査結果に関して、検査担当者による判定結果は、各患者の電子カルテに添付されているが、実際に生データの検討を要する際には、別途、取り寄せる形態とされている。
【0025】
一方、本発明にかかる電子カルテ・システムでは、患者電子カルテ・データベース中に収録されている過去の症例と、新規な患者の症状、検査結果との対比を行う際、臨床データ・データベース103に収録される、検査データの概要、ならびに臨床所見データに加えて、実験測定データ・データベース102中に収納されている、単発的な検査による情報を、二次情報のみでなく、一次情報の段階での対比を可能としている。
【0026】
例えば、DNAマイクロアレイを利用し、多種のDNAプローブに対するプローブ・ハイブリダイゼーション反応による検査結果では、例えば、検出対象の核酸分子に対して、蛍光標識を付し、各プローブのスポット点において、ハイブリッド体形成に伴う、蛍光強度を測定する。測定結果は、例えば、DNAマイクロアレイのスキャン画像データや、それから各スポット点の蛍光輝度を抽出した蛍光輝度データが、電子的に記録される一次情報として、実験測定データ・データベース102中に収納される。次いで、各スポット点の蛍光輝度データに基づき、検出対象の核酸分子の特定を行った判定結果が、二次情報として収録される。検査データの中には、血中糖濃度、尿酸値のように、一次情報の測定値から、更なる判定を行って、二次情報とする必要のないもののある。
【0027】
なお、「DNAマイクロアレイ」を利用する核酸分子の検出法としては、上述の検出対象の核酸分子に対して、蛍光標識を付し、検出方式として、プローブ・ハイブリダイゼーション法を採用する形態以外の検出方法も利用できる。例えば、「DNAマイクロアレイ」上に固定される、一本鎖DNAをプライマーとして、検出対象の核酸分子を鋳型として、「片鎖伸長反応」を行わせ、その際に、プライマーの一本鎖DNAの3’側に伸長される核酸鎖中に蛍光標識を導入する形態を利用することもできる。この形態では、検体サンプル中に、「DNAマイクロアレイ」上に固定される一本鎖DNAと相補的な塩基配列を含み、同時に、前記一本鎖DNAの3’末端と塩基対を形成している検出対象の核酸分子が存在している場合にのみ、「片鎖伸長反応」によって、核酸鎖の伸長がなされる。その特徴を利用して、一本鎖DNAとハイブリッド体形成が可能な複数種の核酸分子が存在する際、一本鎖DNAの3’末端の塩基に相補的な塩基を有する核酸分子を、選択的に検出する方法として利用可能である。
【0028】
また、「DNAマイクロアレイ」を利用する検出法では、一本鎖DNAと相補的な塩基配列を有する核酸分子の検出以外に、特定の塩基配列からなる一本鎖DNAと特異的な結合能を示す、タンパク質などを検出する形態も利用できる。例えば、タンパク質自体の基質ではないが、タンパク質に対する特異的な結合能を示す、一本鎖核酸分子として、アプタマーと称されるものがある。例えば、一本鎖DNAで構成されるアプタマー分子複数種を、「DNAマイクロアレイ」上に固定して、該アプタマー分子が特異的な結合能を示す対象タンパク質複数種を検出する形態とすることも可能である。

診断などに利用する目的で、単発的に実施される検査は、患者を担当医師が診察した時点で、その段階で、患者の症状に基づき推定される病因候補に対して、その病因候補の特定に有効な検査項目が選択される。従来は、選択された検査項目の検査結果に関して、推定される病因候補において、典型的な症例で見出される検査結果を基準として、当該患者の検査結果が妥当か否かを判断して、推定される病因候補複数から、患者の病因を特定している。
【0029】
典型的な症例で見出される検査結果を基準として、当該患者の検査結果が妥当な範囲か否かを判断する際、幾つかの点で典型的な症例で見出される検査結果との差異があり、妥当な範囲か否かの判定が容易でない場合も少なくない。その際には、当該病因であったことが最終的に確定されている過去の症例と比較し、新規な患者と同様な、典型的な症例で見出される検査結果との差異を示している過去の症例(患者)の有無を調査することが、診断の確度を高める上で有効である。すなわち、同じ病因の患者であっても、その症状の進捗段階、あるいは、個体差により、典型的な症例で見出される検査結果から偏移する検査結果を示すことが少なくない。
【0030】
本発明にかかる電子カルテ・システムにおいては、診断を進めている段階で、カルテ情報として入力される、新規な患者の臨床所見データは、担当医師が入力する、患者の症状と、その症状に基づき推定される病因候補であり、また、検査データは、検査担当部門により入力される、その病因候補の特定に有効な検査項目に関する検査結果として、検査の生データに相当する、検査結果の一次情報である。類似症例患者の選択機構では、この新規患者の検査データ、臨床所見データと、患者電子カルテ・データベース中に収録されている、過去の症例における患者の検査データ、臨床所見データとを直接比較する。新規患者の臨床所見データと、過去の症例における患者の臨床所見データと比較においては、一次情報である、新規な患者の症状と、過去の症例における患者において、記録されている症状とが対比される。一方、新規患者の検査データと、過去の症例における患者の検査データとの比較においても、検査の生データに相当する、検査結果の一次情報の対比がなされる。
【0031】
本発明の主な目的を達成するためには、先ず、新規患者の検査データと、類似する検査データが収録されている過去の症例における患者複数を選択する。その過程では、新規患者の検査データ、特に、検査担当部門により入力される、検査の生データに相当する、検査結果の一次情報;実験測定データ104と、実験測定データ・データベース102中に収納される、過去の症例(患者)の実験測定データとを、データ・マッチング工程105で比較する。過去の症例(患者)の実験測定データを、新規患者の実験測定データ104との類似性の高い順にソートし、そのソート順位の高い一群の過去の症例(患者)の実験測定データについて、その過去の症例(患者)のインデクス(患者ポインタ)をリストする。次いで、類似患者の臨床データの参照工程107では、リストされた類似患者の患者ポインタ106に基づき、臨床データ・データベース103を参照し、過去の症例における患者の臨床所見データ(症状と確定された病因)を取り込み、作業用のデータ・セットとする。なお、患者ポインタ106は、各症例(患者)のカルテ情報を特定するため、患者コード、検査データの収録日時、実験(検査)日時、検査サンプルの採取日時など、一連のインデックス情報を意味する。
【0032】
類似症例患者として、選択される一群の過去の症例(患者)は、類似性の高い順にソートされたリストの上位者であり、その数は適宜決定される。例えば、推定される病因候補の症例が、極めて少ない場合には、類似症例患者として、選択される一群の過去の症例(患者)は、結果的に少ない。一方、推定される病因候補の症例が、極めて多い場合には、類似症例患者として、選択される一群の過去の症例(患者)は、類似の程度が同じ、同順位の症例が多数存在する結果、結果的に多くなる。類似症例患者のカルテ情報開示機構では、この類似症例患者の選択機構により選択される類似症例患者のカルテ情報、特に、類似症例患者の臨床所見データ、ならびに治療データを、新規な患者の診断、治療に係わる医師を対象として、閲覧可能な形態で電子的に開示する。その開示内容には、全ての治療が完了した時点で、最終的に確定された、類似症例患者の症状を引き起こしていた病因と、その病因と患者の示していた症状の関連性に関する情報、ならびに、検査データの一次情報と、最終的に確定された、類似症例患者の病因との関連性に関する情報が含まれる。これらの情報は、新規患者の病因を診断する上で、大いに参考となることが多い。
【0033】
一方、過去の症例のカルテ情報中は、類似症例患者の個人情報に相当するものは、症例の比較には必要がなく、作業用のデータ・セット中から、非開示の情報として、除去される。すなわち、臨床データ参照工程107において作成される作業用のデータ・セット中から、類似患者の臨床データの表示工程109へと進む間に、匿名化フィルターによる類似患者の個人情報の除去工程108を設ける。この過程では、匿名化フィルターにより、非開示の情報を予め分別した後、かかるフィルターを透過した情報のみが、新規な患者の診断、治療に係わる医師を閲覧対象者として、開示される。同時に、類似症例患者における治療データも開示され、診断後、新規な患者に施される治療方針を決定する上で、参考となることが多い。
【0034】
本発明にかかる電子カルテ・システムが具える、類似症例患者の選択機構と、類似症例患者のカルテ情報開示機構は、例えば、遺伝子検査などの最先端医療の検査により得られる検査データを参照して、診断を進める際に、有効である。例えば、DNAマイクロアレイを利用して、感染症の原因菌を特定する検査を行った場合、実際に感染症の原因菌が同じであっても、状況によっては、測定されるDNAマイクロアレイの各プローブの蛍光輝度データは異なる場合がある。測定されるDNAマイクロアレイの各プローブの蛍光輝度データに基づき、簡単には、一義的な判断が下せない場合も少なくない。仮に、過去の症例において、最終的に確定された感染症の原因菌について、極めて類似するDNAマイクロアレイの各プローブの蛍光輝度データが測定されていたならば、この結果と比較することで、検査データの判定の確度を飛躍的に高めることが可能となる。

図2は、本発明にかかる電子カルテ・システムが具える、類似症例患者の選択機構と、類似症例患者のカルテ情報開示機構における、情報処理操作に利用可能な情報処理装置の基本的な構成を示すブロック図である。
【0035】
電子カルテ・システムは、外部記憶装置201、中央処理装置(CPU)202、メモリ203、入出力装置204から構成される情報処理装置を利用して構築される。外部記憶装置201は、患者電子カルテ・データベース、ならびに、類似症例患者の選択機構と、類似症例患者のカルテ情報開示機構における、各種の情報処理過程に利用されるプログラムなどの収納に利用される。中央処理装置(CPU)202は、かかるシステム内において実行される情報処理、情報管理のプロセスに利用される。メモリ203は、中央処理装置(CPU)202を介して、情報処理、情報管理のプロセスを実行する際、プログラム、及びサブルーチンやデータを一時的に記録する用途に使用可能である。入出力装置204は、患者電子カルテ・データベースへ収録されるデータの入力、情報処理、情報管理のプロセスを実行する際、例えば、プログラムの実行に際して、外部設定されるパラメータ制御などの入力操作と、種々の表示、出力操作を行う。例えば、類似症例患者の選択機構と、類似症例患者のカルテ情報開示機構を運用する際には、入出力装置204を介して、ユーザー(医師)とのインタラクションを行う。
【0036】
電子カルテ・システムは、多数のユーザー(医師)が併行して、かかるシステムを利用する形態であり、同時に、外部記憶装置に格納される患者電子カルテ・データベースは、全体のシステム上で統一的に管理される形状とされる。そのため、多くの場合、図3に示す、クライアント・サーバー型のシステム構成が利用される。多数のクライアントが共用しているサーバーに、患者電子カルテ・データベースは格納される。患者電子カルテ・データベース自体は、実験測定データ・データベース102と、臨床データ・データベース103とに区分した上で、サーバーに格納される。多数のクライアントは、例えば、実験測定データ・データベース102への実験測定データの入力、管理を担当する検査担当部門、ならびに、患者の診断、治療を担当する医師団が、それぞれ独立して利用する。なお、類似症例患者の選択機構と、類似症例患者のカルテ情報開示機構を運用する際、その利用対象は、医師に限定されるが、各医師は、それぞれのクライアントを通じてシステムとインタラクションを行う。

(好ましい実施の形態)
以下に、本発明にかかる電子カルテ・システムが具えている類似症例患者の選択機構と、類似症例患者のカルテ情報開示機構、特に、類似症例患者の選択機構における、新規患者の検査データと、類似する検査データが収録されている過去の症例における患者複数を選択する過程について、具体例を示して説明する。その際、図1に示すデータ・マッチング工程において、実験測定データ相互の比較がなされるが、この実験測定データの一例として、DNAマイクロアレイを用いて、検査サンプル中に含まれる、検出対象の核酸分子の検出を行った検査データを例に採り、説明を行う。
【0037】
なお、DNAマイクロアレイを利用する遺伝子検査の他、例えば、定量PCRなどのゲノム解析技術を利用する遺伝子検査に対しても、同様な形態で実験測定データ相互の比較を行うことができる。更には、実験測定データの解釈が非常に難しい最先端医療の検査技術に関しても、実験測定データの解釈を行わず、その実験測定データ相互の比較を行うことで、過去の症例から、類似症例患者の選択を行うため、本発明の効果が発揮される。

すなわち、以下に説明する事例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるが、本発明は、かかる実施の形態に限定されない。

図4は、複数種のDNAプローブをアレイ状に固定化されている、DNAマイクロアレイを利用し、“サンプル”401中に含有されている核酸分子を、プローブ・ハイブリダイゼーション法を適用して、検出する工程のフローを模式的に示す図である。“サンプル”401は、検出対象の核酸分子を含むと推定される液体試料や、固形物試料である。例えば、患者が感染症に罹患していると推定される際には、推定される感染症の原因菌を含むサンプルである。実際には、患者から採取可能な、血液、喀痰、胃液、膣分泌物、口腔内粘液等の体液、あるいは、尿及び糞便のような排出物のうち、推定される感染症の原因菌が含まれていると予想されるものをサンプル401として、選択する。
【0038】
次に、サンプル401中に含まれていると推定される感染症の原因菌の特定に利用される、原因菌由来の核酸分子を、必要に応じて、“生化学的増幅”工程402において、増幅する。例えば、個々の細菌の種類により、16s rRNAの塩基配列に相違があり、この塩基配列の差異を利用することで、細菌の同定を行うことが可能である。この細菌の種類ごとに、特有の塩基配列を有する16s rRNAを検出対象とする際には、細菌中から、ゲノムDNAを抽出した上で、その16s rRNAをコードする領域のみのPCR増幅を行う形態が利用できる。感染症の原因菌の大半は、その16s rRNAをコードする領域の塩基配列は解明されており、既知の塩基配列に基づき、かかる16s rRNAをコードする領域のPCR増幅用のプライマーを設計する。細菌中から抽出したゲノムDNAを鋳型として、前記PCR増幅用プライマーを用いて、16s rRNAをコードする領域に相当するPCR増幅産物を調製する。なお、核酸分子の増幅手法として、PCR増幅法以外に、場合によっては、LAMP法などの他の増幅手法を適用することも可能である。
【0039】
なお、プローブ・ハイブリダイゼーション法を適用して、検出対象の核酸分子を検出する際には、ハイブリダイゼーション反応液中に含有される検出対象の核酸分子の濃度を一定水準以上とすることが望ましい。従って、必要に応じて、一次増幅産物のDNA断片を鋳型として、さらに、PCR増幅を行い、検出対象の核酸分子濃度が一定水準以上の検体DNA溶液を調製することもできる。
【0040】
一方、DNAプローブと検出対象の核酸分子とのハイブリッド体形成の検出は、検出対象の核酸分子自体に標識化を施し、ハイブリッド体形成に伴い、DNAマイクロアレイ上に固定化される検出対象の核酸分子に付されている標識を介して行う。そのため、サンプル401中に含まれる検出対象の核酸分子、あるいは、生化学的増幅工程402において増幅された増幅産物の核酸分子に対して、「ラベル混入」工程403において、各種標識手法を利用して、標識を付与する。この標識に利用される標識物質としては、汎用される蛍光標識物質、例えば、Cy3、Cy5、Rodaminなどの蛍光物質を用いることが好ましい。あるいは、増幅産物の核酸分子に対して、インターカレター型の蛍光標識物質を、リンカーを介して付すこともできる。これら蛍光標識を利用すると、DNAマイクロアレイ上に固定化されるDNAプローブのスポット点から、ハイブリッド体形成に伴い、固定化される検出対象の核酸分子の量を、蛍光強度によって、DNAマイクロアレイ全体として、二次元的なイメージとして観測することが可能となる。なお、各種標識手法を利用する、標識の付与は、「ラベル混入」工程403で行う他、生化学的増幅工程402中、核酸鎖の伸長を行う際に、導入する形態とすることもできる。
【0041】
予め、プローブ配列の設計を行い、化学合成により作製するDNAプローブを固定化し、DNAマイクロアレイに構成する工程404で用意される、DNAマイクロアレイ・チップを用い、固定化したDNAプローブと、「ラベル混入」工程403で標識を付した標的の核酸分子とを、ハイブリダイゼーション反応工程405で反応させる。
【0042】
DNAマイクロアレイに構成する工程404では、複数種のDNAプローブを予め決められた配置順序に従って、プローブの固定用担体表面にDNAプローブをアレイ状にスポットし、固定化する。このプローブの固定用担体の表面自体は、標的核酸分子が非選択的に吸着することの少ない材料を選択する。例えば、ガラス基板、プラスチック基板、シリコンウェハー等の平面基板を、プローブの固定用担体(基板)として利用することが好ましい。なお、複数種のDNAプローブを予め決められた配置順序に従って、アレイ状にスポットし、固定化することが可能であれば、平面基板以外に、凹凸のある三次元構造体、ビーズのような球状のもの、棒状、紐状、糸状のもの等を用いてもよい。
【0043】
プローブの固定用担体(基板)の表面自体に、標的核酸分子が非選択的に吸着することの少ない材料を選択すると、DNAプローブ自体も、固定用担体(基板)の表面に吸着によって、緻密に固定化を図ることは困難である。従って、通常、固定用担体(基板)の表面へのDNAプローブの固定化は、両者間を共有結合を介して連結する形態を選択する。具体的には、固定用担体(基板)の表面に、DNAプローブの固定化に利用可能な官能基を予め付加導入する表面処理を施し、一方、DNAプローブ側にも、反応性を有する官能基を予め導入し、両者間の反応によって、共有結合を介して連結する形態を選択することが好ましい。固定用担体(基板)の表面に、DNAプローブが安定に固定化されている結果、DNAプローブと標的核酸分子とがハイブリッド体を形成すると、標識化された標的核酸分子は、当該DNAプローブのスポット点に定量的に固定化される。この状態で、標識化された標的核酸分子の量を標識を利用して、検出するので、検出の定量性は高くなり、好ましい形態となる。
【0044】
この固定用担体(基板)の表面への、DNAプローブを安定に固定化する手段の一例を示すと、固定用担体(基板)の表面に、マレイミド基を導入し、一方、DNAプローブの末端にチオール(−SH)基を導入した上で、このマレイミド基とチオール(−SH)基との反応により、共有結合によって、固定化がなされる。例えば、ガラス基板の表面にアミノシランカップリング剤を反応させて、カップリング剤の固着層を形成する。次に、前記カップリング剤由来のアミノ基に、EMCS試薬(N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimide:Dojin社製)を作用させ、サクシイミド部分とアミノ基との反応を起こすと、EMCS試薬由来のマレイミド基が導入される。一本鎖DNAへのSH基の導入は、当該一本鎖DNAを化学合成する際、DNA自動合成機上、所望の塩基配列を有するDNA鎖の5’末端に、5’−Thiol−ModifierC6(Glen Research社製)を利用することにより、リンカーを介して、その末端にチオール(−SH)基の導入がなされる。
【0045】
その他、固定用担体(基板)の表面にエポキシ基を導入し、一方、一本鎖DNAの3’末端にアミノ基を導入し、このアミノ基とエポキシ基との反応により結合を形成する形態も利用可能である。なお、固定用担体(基板)の表面への官能基の導入は、各種シランカップリング剤による表面処理を好適に利用することができる。このシランカップリング剤により導入された官能基と、一本鎖DNAの末端に導入された官能基とを利用し、その間を連結する手法を利用することができる。さらに、官能基を有する樹脂をコーティングする方法を利用し、固定用担体(基板)の表面に官能基を導入する形態も利用可能である。
【0046】
一方、DNAプローブの塩基配列は、検出対象の核酸分子の塩基配列の一部に相補的な塩基配列が利用される。例えば、感染症の原因菌を特定する目的では、検出対象の核酸分子として、当該菌の16s rRNAをコーディングしているゲノム部分に相当する塩基配列を有する、増幅産物のDNA断片を利用する。すなわち、16s rRNAのコーディング領域の塩基配列中から、その部分塩基配列に相当する、DNAプローブを設計する。DNAプローブに利用する、その部分塩基配列は、当該菌に特徴的であり、特異性が非常に高いものを選択することが好ましい。また、検出対象の核酸分子が、当該菌の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列全体を保持していることを確認する必要があり、当該菌の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列中に含まれる複数箇所の相当する部分塩基配列を有する複数種のDNAプローブを設計する。その際、複数種のDNAプローブは、検出対象の核酸分子とのハイブリッド体を形成する確率は、“出来るだけ”ばらつきのないように、個々のDNAプローブの塩基長、塩基配列を選択することが好ましい。
【0047】
例えば、患者が罹患している可能性のある、感染症の原因菌の候補が複数存在する際には、それた原因菌の候補それぞれに対して、例えば、当該菌の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列中に含まれる複数箇所の相当する部分塩基配列を有する複数種のDNAプローブを設計する。DNAマイクロアレイ上には、各感染症の原因菌の候補に対して、その特定に利用可能な設計された複数種のDNAプローブが、アレイ状に固定され、全体としては、各感染症の原因菌の候補特定用プローブ・アレイが、感染症の原因菌の候補の種類分、規則的に配置された、二次元的なマトリックスが構成される。
【0048】
ハイブリダイゼーション反応工程405では、ハイブリダイゼーション反応を終了した後、DNAマイクロアレイの表面を洗浄し、検出対象の核酸分子を含む液を除去する。また、DNAマイクロアレイの表面に非選択的に付着している核酸分子を洗浄除去される。標識として、蛍光標識を利用する場合、通常、洗浄後のDNAマイクロアレイを水切り乾燥し、次の蛍光測定工程406に移行する。蛍光測定工程406では、DNAマイクロアレイ上に固定されているDNAプローブのスポット点について、ハイブリッド体形成に伴い、固定されている蛍光標識が施されている核酸分子量を、蛍光標識物質からの蛍光量を測定して、定量する。その際、DNAマイクロアレイ上に固定されているDNAプローブのスポット点は、アレイ状に配置されており、DNAマイクロアレイ表面全体に励起光を照射し、これらアレイ状に配置されるスポット点の蛍光強度を二次元的な画像として記録する。すなわち、スキャン画像工程407において、DNAマイクロアレイ表面全体に励起光を照射しつつ、蛍光光測定センサーを相対的に二次元的にスキャンして、二次元的な画像情報として、記録される。

次に、DNAマイクロアレイ上に固定化されているDNAプローブを用いて、感染症の原因菌を特定する手法の原理を説明する。図5に、一例として、黄色ブドウ球菌を特定する目的で作成されているDNAマイクロアレイを用いて、黄色ブドウ球菌と、その他の細菌との区別を図る手順と、その原理を模式的に示す。
【0049】
図5中、左の列は、黄色ブドウ球菌野生株由来の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含む核酸分子の検出処理系列であり、右の列は、大腸菌野生株由来の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含む核酸分子の検出処理系列である。例えば、左は、黄色ブドウ球菌に感染している患者から採取した血液サンプルを処理する流れで、右は、大腸菌に感染している患者から採取した血液サンプルを処理する流れに相当している。
【0050】
どちらの処理系列も、採取されたサンプルから、含まれているDNAの抽出、検出対象の核酸分子の増幅、ならびに、蛍光標識を付する各工程では、基本的には同じ処理を行う。つまり、まず初めに、採取されたサンプル、例えば、菌感染患者の血液や、痰などから、DNAを抽出する。この工程では、採取されたサンプル中に含まれる全てのゲノムDNAの抽出を行う。なお、採取されたサンプル中には、感染症の原因菌に加えて、患者自体の細胞、例えば、種々の血球細胞や体細胞も混入している可能性があり、一般的に、抽出されたDNAには、患者の体細胞に由来するヒトのDNAも含まれる可能性がある。
【0051】
サンプルから抽出されるDNAの全体量中、感染症の原因菌に由来する検出対象の核酸分子の含有量が少ない場合、PCR法などの選択的な増幅手段を利用して、検出対象の核酸分子の増幅を行う。この増幅工程において、増幅産物中に、蛍光物質、もしくは蛍光物質を結合させることができる物質を標識として付与する、標識工程を併せて行うのが一般的である。
【0052】
増幅を行わない場合、抽出されたDNAに直接、蛍光物質もしくは蛍光物質を結合させることができる物質を標識として付加させる。あるいは、抽出されたDNAを鋳型に用いて、その相補鎖を作製し、その過程で、伸長されるDNA鎖中に、蛍光物質もしくは蛍光物質を結合させることができる物質を標識として付加してもよい。
【0053】
感染症の原因菌を特定する目的では、検出対象の核酸分子として、かかる菌に特異的な塩基配列を有するDNA部分を選択する。例えば、細菌の分類に利用される、所謂、16s rRNAといわれるリボゾームRNAの塩基配列は、各細菌の弁別を可能とする特徴的な塩基配列を含んでいる。従って、増幅を行う際には、当該菌のゲノムDNA中から、この16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含むDNA断片を、PCR増幅産物として調製するのが、一般的である。
【0054】
通常、採取されたサンプル中に含まれる、感染症の原因菌の種類は不明であり、ヒト由来の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含むDNA断片の増幅はなされないが、一方、感染症の原因菌に関しては、多くの種類の菌に由来する16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含むDNA断片の増幅を同時に行うことが可能なPCRプライマーを利用する。すなわち、感染症の原因菌各種の間で、そのゲノムDNA中、類似する部分塩基配列を利用し、対応するミックスプライマーセットを用いて、マルチプレックスPCR反応を行うことで、感染症の原因菌複数種に由来する16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含むDNA断片の増幅が同時に行われる条件を選択する。
【0055】
なお、特定された感染症の原因菌について、より詳しい塩基配列の解析を行いたい場合には、例えば、黄色ブドウ球菌専用のPCRプライマーセット、大腸菌専用のPCRプライマーセットを別々に選択する。この各細菌専用のPCRプライマーセットを利用すると、対象となる菌のゲノムDNA中の、特定部分のみを選択的に増幅することができる。一方、マルチプレックスPCR反応で得られるPCR増幅産物を含むハイブリダイゼーション反応用検体DNA溶液においても、含まれるDNA断片の塩基配列の種類は非常に限定されたものとなる。
【0056】
採取されたサンプル中では、感染症の原因菌の存在比率が有意に高いが、微量であるが、自然界に存在する菌が混入していることが少なくない。マルチプレックスPCR反応の結果、ハイブリダイゼーション反応用検体DNA溶液中には、検出対象の感染症の原因菌に由来するDNA断片以外にも、混入した自然界に存在する菌に由来するDNA断片も若干量含まれることが少なくない。加えて、検出対象の感染症の原因菌自体も、自然界に存在する菌株は、単一ではなく、臨床的に単離されている菌株が数種類に及ぶことが少なくない。採取されたサンプル中に、検出対象である感染症の原因菌に関して、複数種の菌株が共存する場合もある。PCR増幅を施すことによって、ハイブリダイゼーション反応用検体DNA溶液中に含まれる、DNA断片の塩基配列の種類は非常に限定されるが、一種類のみとなることは稀である。
【0057】
黄色ブドウ球菌を判定する目的のために設計されたDNAプローブは、黄色ブドウ球菌由来の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含む一本鎖DNAとハイブリッド体を構成するため、図5の左の処理系では、DNAマイクロアレイ上、黄色ブドウ球菌判定用のDNAプローブのスポット点では、標識を含む核酸分子が観測される(ポジティブとなる)。一方、黄色ブドウ球菌を判定する目的のために設計されたDNAプローブが、極めて高い選択性を有する場合、大腸菌野生株由来の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含む一本鎖DNAとのハイブリッド体は構成しないので、図5の右の処理系では、DNAマイクロアレイ上、黄色ブドウ球菌判定用のDNAプローブのスポット点では、標識を含む核酸分子は観測されない(ネガティブとなる)。
【0058】
また、大腸菌を判定する目的のために設計されたDNAプローブは、大腸菌由来の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含む一本鎖DNAとハイブリッド体を構成するため、図5の右の処理系では、DNAマイクロアレイ上、大腸菌判定用のDNAプローブのスポット点では、標識を含む核酸分子が観測される(ポジティブとなる)。一方、大腸菌を判定する目的のために設計されたDNAプローブが、極めて高い選択性を有する場合、黄色ブドウ球菌野生株由来の16s rRNAのコーディング領域の塩基配列を含む一本鎖DNAとのハイブリッド体は構成しないので、図5の右の処理系では、DNAマイクロアレイ上、大腸菌判定用のDNAプローブのスポット点では、標識を含む核酸分子は観測されない(ネガティブとなる)。
【0059】
各種の感染症の原因菌を判定する目的のために設計されたDNAプローブが、極めて高い選択性を有する場合、DNAマイクロアレイ上に、これら各種の感染症の原因菌判定用のDNAプローブ複数種を、所定の配置順序に従ってアレイ状にスポットし、感染症の原因菌複数種に関して、その存在の有無を一度に判定する際に利用することができる。

上記の図4、図5により説明した、サンプル中に含まれる、感染症の原因菌の種類を特定する手法、原理を適用する際、実際の操作、その条件など、より詳しく、以下に、具体例を示して説明する。
【0060】
<プローブDNAの準備>
Enterobacter cloacae菌検出用プローブとして、表1に示す核酸配列(I−n)(nは、正の整数である)を有するプローブI−1〜I−7を設計した。
【0061】
具体的には、下記表1に示すプローブI−1〜I−7の塩基配列は、当該菌の16s rRNAをコーディングしているゲノム部分より選択されている。これらのプローブ群の塩基配列は、当該菌に対して、特異性が非常に高く、同時に、ゲノムDNAを鋳型として、16s rRNAのコード領域から調製されるcDNAと、ハイブリダイゼーションさせた際、各プローブ間でハイブリダイゼーション効率に「出来るだけ」ばらつきが生じないことことが期待できるように、その塩基長、各塩基の含有比率を選択して、設計されている。
【0062】
【表1】

【0063】
各DNAプローブは、化学合成後、DNAマイクロアレイにおいて、固相表面への固定化に利用する官能基として、定法に従って、核酸鎖の5’末端にチオール基を導入する。5’末端への官能基の導入後、各DNAプローブを、精製し、凍結乾燥する。凍結乾燥した、Enterobacter cloacae菌検出用DNAプローブは、−30℃の冷凍庫に保存されている。
【0064】
また、各種の起炎菌を検出するため、同様の手法を用いて、各菌由来の16s rRNAをコードするゲノム部分より、当該菌に対して、特異性が非常に高いプローブを設計する。表2〜表10に、黄色ブドウ球菌検出用DNAプローブ:A−n、表皮ブドウ球菌検出用DNAプローブ:B−n、大腸菌検出用DNAプローブ:C−n、肺炎桿菌検出用DNAプローブ:D−n、緑膿菌検出用DNAプローブ:E−n、セラチア菌検出用DNAプローブ:F−n、肺炎連鎖球菌検出用DNAプローブ:G−n、インフルエンザ菌検出用DNAプローブ:H−n、及びエンテロコッカス・フェカリス菌検出用DNAプローブ:J−n(nは、正の整数である)として、選択された塩基配列を、それぞれ示す。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
【表8】

【0072】
【表9】

【0073】
【表10】

【0074】
<検体DNA増幅用PCR プライマーの準備>
上記の起炎菌10種を検出するため、ゲノムDNAを鋳型として、当該菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅を行う。その際、各種の起炎菌に共用可能な増幅用PCR プライマーとして、表11に示す核酸配列を有するプライマーを設計した。
【0075】
具体的には、ゲノムDNA上、約1500塩基長の16s rRNAのコーディング領域のみを選択的に増幅するため、上記起炎菌10種の該コーディング領域の両端部分において、高い共通性を示す部分塩基配列に基づき、鋳型DNAとハイブリッド体を形成する際、その融解温度が可能な限り揃っている塩基配列を選択する。なお、変異株や、ゲノム上に複数存在する16s rRNAコーディング領域も同時に増幅できるように、部分的に変異を含む、各3種類のプライマーを設計した。
【0076】
【表11】

【0077】
表11中に示す各プライマーは、合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製する。プライマー溶液は、Forward Primer 3種、Reverse Primer 3種を混合し、それぞれのPrimer濃度が、最終濃度10 pmol/μl となるようにTE緩衝液に溶解した。

<菌ゲノムの抽出>
(Genome抽出の前処理)
微生物を含む溶液を、1.5ml容量のマイクロチューブに1.0ml(OD600=0.7)採取し、遠心(8500rpm、5min、4℃)して、菌体を回収する。上精を捨てた後、Enzyme Buffer(50mM Tris−HCl:pH 8.0、25mM EDTA)300μlを加え、ミキサーを用いて、菌体を再懸濁する。再懸濁した菌液を、再度、遠心(8500rpm、5min、4℃)して、菌体を回収する。上精を捨てた後、回収された菌体に、以下の溶解酵素溶液を加え、ミキサーを用いて再懸濁する。
【0078】
Lysozyme 50μl (20mg/ml in Enzyme Buffer)
N−Acetylmuramidase SG 50μl (0.2mg/ml in Enzyme Buffer)

次に、溶解酵素溶液を加え、再懸濁した菌液を、37℃のインキュベーター内で30分間静置して、細胞壁の溶解処理を行う。

(Genome抽出)
溶解処理を施した後、各微生物のGenome DNA抽出は、市販の核酸精製キット(MagExtractor −Genome−:TOYOBO社製)を用いて、下記する手順で行う。
【0079】
[ステップ1]
まず、前記溶解処理を施した後、微生物懸濁液に溶解・吸着液750μlと磁性ビーズ液40μlを加え、チューブミキサーを用いて、10分間激しく攪拌する。この操作により、磁性ビーズ粒子表面にゲノムDNAが吸着される。
【0080】
[ステップ2]
次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して、磁性ビーズ粒子をチューブの壁面に集める。その後、スタンドにセットした状態のまま、上精を捨てる。
【0081】
[ステップ3]
次に、洗浄液 900 μl を加え、ミキサーで5秒間程度攪拌して、磁性ビーズ粒子の再懸濁を行う。
【0082】
[ステップ4]
再び、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して、磁性ビーズ粒子をチューブの壁面に集める。その後、スタンドにセットした状態のまま、上精を捨てる。
【0083】
[ステップ5]
前記、ステップ3、4を繰り返して、2度目の洗浄を行う。
【0084】
[ステップ6]
70%エタノール 900μlを加え、ミキサーで5秒間程度攪拌して、磁性ビーズ粒子の再懸濁を行う。
【0085】
[ステップ7]
次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して、磁性ビーズ粒子をチューブの壁面に集める。その後、スタンドにセットした状態のまま、上精を捨てる。
【0086】
[ステップ8]
前記、ステップ6、7を繰り返して、2度目の70%エタノール洗浄を行う。
【0087】
[ステップ9]
回収された磁性ビーズ粒子に、純水 100 μlを加え、チューブミキサーで10分間攪拌を行う。この操作により、磁性ビーズ粒子表面に吸着されていたゲノムDNAは、溶離される。
【0088】
[ステップ10]
次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して、磁性ビーズ粒子をチューブ壁面に集める。その後、スタンドにセットした状態のまま、ゲノムDNAを溶解した上精を新しいチューブに回収する。

(回収したGenome DNAの品質検定)
回収された微生物のGenome DNAは、定法に従って、アガロース電気泳動と260nm/280nmの吸光度測定を行い、その品質(低分子核酸の混入量、分解の程度)の検定と、回収されたDNA量(含有濃度)の算定を行う。
【0089】
回収されたGenome DNAは、最終濃度50ng/μlとなるようにTE緩衝液に溶解し、下記のPCR増幅反応における、鋳型DNA溶液に利用する。
【0090】
なお、本実施例では、Genome DNAのデグラデーションやrRNAの混入は認められなかった。

<DNAマイクロアレイの作製>
[1]ガラス基板の洗浄
合成石英のガラス基板(サイズ:25mm(W)×75mm(L)×1mm(T)、飯山特殊ガラス社製)を耐熱、耐アルカリのラックに入れ、所定の濃度に調製した超音波洗浄用の洗浄液に浸す。一晩、洗浄液中で浸した後、20分間超音波洗浄を行う。続いて、基板を取り出し、軽く純水で濯いだ後、超純水中で20分超音波洗浄を行う。次に、80℃に加熱した1N水酸化ナトリウム水溶液中に10分間基板を浸す。再び、純水洗浄と、超純水中で超音波洗浄を行い、DNAマイクロアレイ・チップ作製用の洗浄済石英ガラス基板とする。

[2]表面処理
シランカップリング剤KBM−603(信越シリコーン社製)を、1%の濃度となるように純水中に溶解させ、2時間室温で攪拌する。続いて、洗浄済石英ガラス基板をシランカップリング剤水溶液に浸し、20分間室温で放置する。石英ガラス基板を引き上げ、軽く純水で表面をリンス洗浄した後、窒素ガスを基板の両面に吹き付けてブロー乾燥を行う。次に、窒素ブロー乾燥した基板を120℃に加熱したオーブン中で1時間ベークし、カップリング剤処理を完結させる。このカップリング剤処理により、アミノシランカップリング剤由来のアミノ基が、石英ガラス基板表面に導入される。
【0091】
次いで、同仁化学研究所社製のN−マレイミドカプロイロキシスクシイミド(N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimido;以下、EMCSと略す)を、ジメチルスルホキシドとエタノールの1:1混合溶媒中に最終濃度が0.3mg/mlとなるように溶解したEMCS溶液を用意する。ベークの終了した石英ガラス基板を放冷し、調製したEMCS溶液中に室温で2時間浸す。この処理により、シランカップリング剤処理によって表面に導入されたアミノ基とEMCSのスクシイミド基が反応し、石英ガラス基板表面にマレイミド基が導入される。EMCS溶液から引き上げた石英ガラス基板を、ジメチルスルホキシドとエタノールの1:1混合溶媒を用いて洗浄し、さらに、エタノールにより洗浄した後、窒素ガス雰囲気下で乾燥させる。

[3]プローブDNA
上で作製した、各起炎菌検出用プローブを純水に溶解し、それぞれ、最終濃度(インク溶解時)10μMとなるように分注した後、凍結乾燥を行い、水分を除く。

[4]BJプリンターによるプローブDNA吐出、および基板への結合
グリセリン7.5wt%、チオジグリコール7.5wt%、尿素7.5wt%、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)1.0wt%を含む水溶液を調製する。続いて、先に用意した7種類のプローブI−1〜I−7(表1)を、前記水溶液中に規定濃度なるように溶解する。得られるDNA溶液を、バブルジェットプリンター(商品名:BJF−850 キヤノン社製)用インクタンクに充填し、印字ヘッドに装着する。
【0092】
なお、ここで利用されるバブルジェットプリンターは、平板への印刷が可能なように改造を施したものである。また、このバブルジェットプリンターは、所定のファイル作成方法に従って、印字パターンを入力することにより、約5ピコリットルのDNA溶液の液滴を、約120マイクロメートルピッチでスポッティングすることが可能な装置構成となっている。
【0093】
続いて、この改造バブルジェットプリンターを用いて、1枚の石英ガラス基板の表面に対して、印字操作を行い、DNAマイクロアレイを作製する。各DNA溶液のスポッティングが、確実に行われていることを確認した後、30分間加湿チャンバー内に静置し、石英ガラス基板表面のマレイミド基と、DNAプローブの5’末端のチオール基とを反応させる。

[5]洗浄
30分間の反応後、100mMのNaClを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.0)により、表面に残った未反応DNAを含む溶液を洗い流す。その結果、石英ガラス基板表面に、プローブ用の一本鎖DNAが、アレイ状固定化されたDNAマイクロアレイ・チップが得られる。

<検体DNAの増幅と標識化(PCR増幅&蛍光標識の取り込み)>
検体中から採取した微生物から抽出したゲノムDNAを鋳型として、当該菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅と、その際、蛍光標識を利用する増幅産物の標識化とを以下に示すPCR反応条件で行う。
【0094】
【表12】

【0095】
【表13】

【0096】
前記温度サイクルは、市販のサーマルサイクラーを利用して行う。
【0097】
PCR増幅反応後、市販の精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCR Purification Kit)を用いてPrimerを除去した後、増幅産物の定量を行う。得られる増幅産物は、Cy−3 dUTP由来の蛍光標識がなされており、下記のハイブリダイゼーション反応において、標識化検体DNAとして利用する。

<ハイブリダイゼーション>
<DNAマイクロアレイの作製>の手順に従って作製したDNAマイクロアレイ・チップと、<検体DNAの増幅と標識化(PCR増幅&蛍光標識の取り込み)>の手順に従って調製される標識化検体DNAを用いて、プローブ・ハイブリダイゼーション反応により、検体DNAの検出を行う。
【0098】
(DNAマイクロアレイのブロッキング)
BSA(牛血清アルブミンFraction V:Sigma社製)を1wt%となるように100mM NaCl/10mM Phosphate Bufferに溶解する。このBSA溶液中に、<DNAマイクロアレイの作製>の手順に従って作製したDNAマイクロアレイ・チップを室温で2時間浸し、ブロッキング処理を施す。ブロッキング処理を終了後、0.1wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む2×SSC溶液(NaCl 300mM、Sodium Citrate (trisodium citrate dihydrate,C65Na3・2H2O)30mM、pH 7.0)で洗浄を行う。さらに、純水でリンス洗浄した後、スピンドライ装置で水切りを行う。
【0099】
(ハイブリダイゼーション)
水切りしたDNAマイクロアレイ・チップをハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc. Hybridization Station)にセットし、以下に示す条件でハイブリダイゼーション反応を行う。

[ハイブリダイゼーション溶液]
6×SSPE/ 10% Formamide/ Target (2nd PCR Products 全量)
(6×SSPE:NaCl 900mM、NaH2PO4・H2O 60mM、EDTA 6mM、pH 7.4)
[ハイブリダイゼーション条件]
65℃ 3min → 92℃ 2min → 45℃ 3hr → Wash 2×SSC/ 0.1% SDS at 25℃ → Wash 2×SSC at 20℃ → (Rinse with H2O: Manual) → Spin dry

<微生物由来標的DNAの検出(蛍光測定)>
ハイブリダイゼーション反応終了後、DNAマイクロアレイ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いて、水切りされたDNAマイクロアレイ・チップ上の、各スポット点における蛍光強度の測定を行う。その際、DNAマイクロアレイ上の各スポット点における蛍光強度は、二次元画像情報として、記録される。

図6に、DNAマイクロアレイ上の各スポット点における蛍光強度を表す二次元画像の一例を示す。図6において、各スポット点に固定されるDNAプローブに対して、ハイブリダイズする蛍光標識化DNAに起因する蛍光強度は、その強度がより強いほど、より濃い色として表示されている。すなわち、各スポット点に固定されるDNAプローブに対して、ハイブリダイズする蛍光標識化DNA量がより多いほど、より濃い色として表示されている。
【0100】
図6に例示するDNAマイクロアレイ上には、上記<プローブDNAの準備>で述べた、微生物10種の検出用DNAプローブ;黄色ブドウ球菌:A−n、表皮ブドウ球菌:B−n、大腸菌:C−n、肺炎桿菌:D−n、緑膿菌:E−n、セラチア菌:F−n、肺炎連鎖球菌:G−n、インフルエンザ菌:H−n、エンテロバクター・クロアカエ菌:I−n、及びエンテロコッカス・フェカリス菌:J−nは、それぞれアレイ状にスポットされている。
【0101】
このDNAマイクロアレイ上に固定されているプローブDNAに、各種起炎菌から抽出したゲノムDNAを鋳型として、当該菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物を含む検体サンプルを反応させる。図6中、左のDNAマイクロアレイのスキャン画像601は、黄色ブドウ球菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物を含む検体サンプルを反応させた際に観測される二次元画像の一例であり、また、右のDNAマイクロアレイのスキャン画像602は、大腸菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物を含む検体サンプルを反応させた際に観測される二次元画像の一例である。

DNAマイクロアレイのスキャン画像601では、黄色ブドウ球菌検出用DNAプローブ:A−nの各スポット点における、蛍光標識に起因する蛍光強度が高くなり、一方、DNAマイクロアレイのスキャン画像602では、大腸菌検出用DNAプローブ:C−nの各スポット点における、蛍光標識に起因する蛍光強度が高くなっている。理想的には、各起炎菌検出用DNAプローブ複数種は、当該菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物とのみハイブリッド体を形成し、それ以外の菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物とはハイブリッド体を形成しないように、DNAプローブの塩基配列を選択する。
【0102】
しかし、実際には、各起炎菌検出用DNAプローブ複数種は、当該菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物の全体をカバーするように選択することが必要であり、幾つかのDNAプローブは、それ以外の菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物とも、ミスフィット・ハイブリダイゼーションが可能な塩基配列を有するものとなる。つまり、所謂、“クロスハイブリダイゼーション反応”が起こる結果、他の菌検出用のDNAプローブの幾つかとも、検出対象の起炎菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物がハイブリッド体を形成する現象が起こる。スキャン画像601では、黄色ブドウ球菌検出用DNAプローブ:A−nの各スポット点以外にも、蛍光標識に起因する蛍光強度が高く観測されるスポットが幾つか存在している。同様に、スキャン画像602では、大腸菌検出用DNAプローブ:C−nの各スポット点以外にも、蛍光標識に起因する蛍光強度が高く観測されるスポットが幾つか存在している。
【0103】
一方、スキャン画像602中、大腸菌検出用DNAプローブ:C−nの各スポット点における蛍光強度を詳細に比較すると、その幾つかは、他のスポットと対比して、蛍光強度が劣るものが存在している。検出対象の起炎菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物に蛍光標識を付す手段として、DNA鎖を伸長する際、Tに代えて、Cy−3 dUを連結する手法を利用しているため、かかるCy−3 dUを含む部分とDNAプローブとのハイブリダイゼーション効率は、本来のTを含む場合よりも、有意に低下する。また、検出対象の起炎菌由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の増幅産物中には、Tに代えて、Cy−3 dUが連結されていない蛍光標識を含まないものの存在している。そのため、DNAプローブの塩基配列によっては、蛍光標識が実際に付されているDNA断片とのハイブリッド体形成は少なく、一方、蛍光標識が付されていないDNA断片とのハイブリッド体形成が相対的に優位を占める場合がある。その場合、DNAプローブのスポット点において、形成されているハイブリッド体の総量には有意な差違は生じていないが、そのスポット点において観測される蛍光標識に起因する蛍光強度は劣った状態となる。
【0104】
加えて、個々の起炎菌についても、臨床的に単離される菌株は、同じ種に属するものの、当該起炎菌検出用DNAプローブの設計に際して、その塩基配列を基礎としている、典型的な野生株に対して、何らかの変異を有する変異株に相当することも少なくない。かかる変異株由来の16s rRNA(標的核酸)をコードする領域の塩基配列は、典型的な野生株で報告されている塩基配列とほぼ同じであるが、若干の変異が存在する場合が少なくない。そのため、臨床的に単離される菌株から調製される増幅産物と、典型的な野生株から調製される増幅産物とでは、DNAマイクロアレイ上の各DNAプローブのスポット点で観測される蛍光強度のパターンに相違が生じることが少なくない。
【0105】
特に、起炎菌に関しては、臨床の場では、抗生物質の投与により、その増殖を抑える治療手法が適用されてきた結果、各種の耐性菌株が発生してきている。かかる状況下では、新規な患者から採取されたサンプル中に存在している起炎菌の種の特定に加えて、各種の耐性菌株のいずれであるか、その菌株の特定が必要となる。この菌株の特定を必要とする際には、典型的な野生株から調製される増幅産物における、DNAマイクロアレイ上の各DNAプローブのスポット点で観測される蛍光強度のパターンのみでなく、過去の症例において、観測されている各種の耐性菌株から調製される増幅産物に対する蛍光強度のパターンとの詳細は対比が有効である。
【0106】
本発明にかかる電子カルテ・システムでは、過去の症例である多数の患者の電子カルテ中に含まれる、検査データのデータベース中、患者から採取されたサンプル中に存在している起炎菌から調製される増幅産物における、DNAマイクロアレイ上の各DNAプローブのスポット点で観測された蛍光強度のパターンと、新規な患者から採取したサンプルにおいて、観測されている蛍光強度のパターンとを対比させ、蛍光強度のパターンが類似している過去の症例を検索することが可能である。新規な患者の診断、治療を担当する医師は、最も蛍光強度のパターンが類似している過去の症例について、その患者の電子カルテに記載されている、診断結果、その診断理由、患者の症状、ならびに、患者に施された治療記録などを参照することで、担当する新規な患者の診断、治療方針の決定に大いに参考となる。
【0107】
例えば、担当する新規な患者が感染している起炎菌の菌株が、上記の検索により選択される類似症例患者が感染していた起炎菌の菌株と、DNAマイクロアレイ上の各DNAプローブのスポット点で観測される蛍光強度のパターンは類似するが、決定的な相違点を示すことが判明すれば、従来の症例には含まれない、新規な耐性株である懸念が高いと推定できる。その際には、さらに詳細な検査を実施する必要があると、速やかに判断を行える。
【0108】
また、新規な患者の症状をもたらしている、原因菌が複数関与している場合には、一つの原因菌の感染において観測される、典型的な蛍光強度のパターンを参照するのみでは、適正な診断が困難である。その際にも、蛍光強度のパターンが類似している過去の症例を検索することで、原因菌が複数関与していた過去の症例を見出されると、適正な診断に大いに参考となる。

患者において測定される、DNAマイクロアレイ上の各DNAプローブのスポット点で観測される蛍光強度のパターンを、例えば、各スポット点で観測される蛍光強度を、各エレメントとする多次元ベクトルとして表現する。例えば、図6に示すDNAマイクロアレイに関しては、A−1〜A−9,B−1〜B−7,C−1〜C−7,D−1〜D−6,E−1〜E−8,F−1〜F−6,G−1〜G−7,H−1〜H−8,I−1〜I−7,J−1〜J−7の合計72種のDNAプローブに対応させて、各スポット点で観測される蛍光強度(Xi)をエレメントとする72次元のベクトル{X1,…,X72}として表現する。
【0109】
新規な患者の検査結果に対応するベクトルXn{X1n,…,X72n}と、電子カルテ・システムに格納されている過去の症例である患者の検査結果に対応するベクトルXj{X1j,…,X72j}とを対比され、類似のベクトルXj{X1j,…,X72j}を示す過去の症例(患者)を選択する。例えば、二つのベクトルの差;ΔXnj≡Xn−Xj={(X1n−X1j),…,(X72n−X72j)}を考慮すると、類似のベクトルXj{X1j,…,X72j}は、ΔXnjの大きさが小さなものと判断される。すなわち、ΔXnjの大きさ;{(X1n−X1j2+…+(X72n−X72j21/2が、小さいほど、類似していると判断可能である。電子カルテ・システムに格納されている過去の症例である患者の検査結果に対応するベクトルXj{X1j,…,X72j}の全てについて、ΔXnjの大きさ;{(X1n−X1j2+…+(X72n−X72j21/2を算出した上で、ΔXnjの大きさが小さな順に、過去の症例(患者)をソートする。すなわち、二つのベクトル間のユークリッド距離に相当するΔXnjの大きさ;{(X1n−X1j2+…+(X72n−X72j21/2を指標として、類似性の高さの判定を行う手法である。
【0110】
なお、このΔXnjの大きさ;{(X1n−X1j2+…+(X72n−X72j21/2を指標とする際には、例えば、新規な患者の検査結果に対応するベクトルXn{X1n,…,X72n}と、ある過去の症例(患者)の検査結果に対応するベクトルXj{X1j,…,X72j}が、Xn=kXjの関係を満足する場合であっても、ΔXnjの大きさは、0と判定されない。すなわち、実際の測定結果は、システマティックな誤差に起因して、その蛍光強度が相対的に変動する場合がある。実測データでは、そのような相対的に変動に対する較正手段がないため、未較正の測定結果がそのまま収載される。場合によっては、相対的な強度変動の較正がなされていたならば、完全に一致している過去の症例が、最も類似する過去の症例(患者)として、検索されない可能性が残る。
【0111】
この点を考慮すると、対比するベクトルXn{X1n,…,X72n}とベクトルXj{X1j,…,X72j}に関して、予め規格化を行った上で、二つのベクトルの差;ΔXnj≡Xn−Xj={(X1n−X1j),…,(X72n−X72j)}を考慮することが、多くの場合より好ましい。
【0112】
あるいは、二つのベクトル相互がなす角度を指標として、類似性の高さの判定を行うことも可能である。具体的には、二つのベクトルの内積Xn・Xj≡{(X1n・X1j)+…+(X72n・X72j)}と、二つのベクトルの大きさ;n≡{(X1n2+…+(X72n21/2j≡{(X1j2+…+(X72j21/2とから、Xn・Xjnjcosθの関係式を用いて、二つのベクトル相互がなす角度θを定義する。この手法では、二つのベクトル間における類似性の高さは、二つのベクトルの向く方向がなす角度θが小さなほど高いと判定される。上記の予め規格化を行った上で、二つのベクトルの差;ΔXnjを考慮する手法と実質的な差異はないが、原理的には、二つのベクトルの向く方向がなす角度θを考慮する手法の方が、より優っている。
【0113】
なお、二つのベクトル間の「隔たり」の尺度として、上記の指標以外の尺度を用いてもよい。

以上説明してきたように、検査データ(一次データ)は、それぞれの検査項目に応じて、基本的に数値データ化が可能である。従って、種々の検査項目に関して、それぞれ数値データ化された検査結果を統合して、一つのベクトルとして取り扱い、そのベクトル間の類似度を求めることによって、データ間の類似度を求めることが可能である。
【0114】
一方、症状(臨床所見データ)は、通常、数値データ化されていないが、各症状の有無、ならびに、その重篤度の程度をスコア化することで、数値データ化を図ることができる。あるいは、電子カルテ上における、症状(臨床所見データ)の記述方式を、予め設定されている、各症状の有無、ならびに、その重篤度の程度をスコア化する基準に基づき、記載する形態とすることも可能である。すなわち、各症状の有無、ならびに、その重篤度の程度をスコア化することで、症状(臨床所見データ)に関しても、同様の手法で、その類似度を求めることが可能となる。
【0115】
例えば、通常の文章表現形式で記述される症状(臨床所見データ)の記載に対して、予め設定されている、各症状を示す「キーワード」に相当する部位を、文字検索技術を応用して、抽出した上で、各症状の有無、ならびに、その重篤度の程度をスコア化することが可能である。具体的には、全文検索システム、Namazu(http://www.namazu.org/)などの公開技術をシステムに組み込むことによって、症状の比較機能を実装することができる。
【0116】
検査データと症状(臨床所見データ)とは、ともに、ある病因に起因する患者の病状を反映するものであるが、それぞれ患者の病状を異なる座標面へ投影したものに相当している。例えば、症状(臨床所見データ)は、患者の病状の進行に従って、経時的に変化していく。そのため、新規な患者における病状の進行の程度をも考慮した上で、検査データと症状(臨床所見データ)の二つの面を総合的に考慮した総合類似度を算定する。例えば、検査データの類似度:ΔX、症状の類似度:ΔYを算定した上で、それぞれに重み付け係数a、bを付して、総合類似度を、{aΔX+bΔY}と算定する形態とすることができる。例えば、検査データの類似度に対する重み付け係数aに関して、a=0と選択すると、症状(臨床所見データ)のみに基づき、類似する過去の症例を検索する、従来の電子カルテ・システムで使用されていた、検索機能に相当するものとなる。一般に、本発明の電子カルテ・システムにおいて利用される、過去の類似症例患者の検索機能は、検査データの類似度:ΔX、症状の類似度:ΔYの双方を同時に考慮する形態とするため、検査データの類似度に対する重み付け係数aは、症状の類似度:ΔYに対する重み付け係数bと少なくとも同程度に選択することが好ましい。例えば、重み付け係数a:重み付け係数bの比率は、a:b=5:1〜1:2程度の範囲に選択することで、検査データの類似度をより重視した過去の類似症例患者の検索が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明にかかる電子カルテ・システムは、例えば、新規な患者の病因に関して、担当医師が診断を下す際、当該電子カルテ・システム中に収納されている過去の症例中から、新規な患者と類似する症状と検査結果を示す類似症例患者を検索し、その類似症例患者の症状と検査結果をも参照して、診断を進めることで、より高い確度の診断を行う際、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明にかかる電子カルテ・システムの全体構成と、該電子カルテ・システムが具えている、新規な患者の検査データと、臨床所見データと、過去の症例に相当する患者の検査データ、臨床所見データとの対比に基づき、新規な患者の示す検査データと、臨床所見データとの極めて高い類似性を示す、患者(過去症例)の検査データと臨床所見データを検索する機構、検索された患者(過去症例)の検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを、該患者の個人情報を予め除いた上で表示する、類似する症例の検索機能の概要を模式的に示す図である。
【図2】本発明にかかる電子カルテ・システムにおける、個々の患者の電子カルテ(検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データ)の記録・保存、ならびに、電子カルテの形態で保存されている患者(過去症例)の電子カルテから、類似する症例を検索する機能の達成に利用される情報処理装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図3】本発明にかかる電子カルテ・システムにおける、個々の患者の電子カルテ(検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データ)の記録・保存、ならびに、電子カルテの形態で保存されている患者(過去症例)の電子カルテから、類似する症例を検索する機能の達成に利用される情報処理装置について、クライアント・サーバー型に構築されるシステム構成を模式的に示す図である。
【図4】複数種のDNAプローブをアレイ状に固定化されている、DNAマイクロアレイを利用し、サンプル中に含有されている核酸分子を、プローブ・ハイブリダイゼーション法を適用して、検出する工程のフローを模式的に示す図である。
【図5】DNAマイクロアレイ上に固定化されているDNAプローブを用いて、感染症の原因菌を特定する手法の手順、ならびに、その原理を模式的に示す図である。
【図6】本発明にかかる電子カルテ・システムにおいて、検査データとして採用される、プローブ・ハイブリダイゼーション反応結果、特に、感染症の原因菌が、黄色ブドウ球菌あるいは大腸菌と特定された際、それぞれ観測される、DNAマイクロアレイ上の各スポット点における蛍光強度を表す二次元画像の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0119】
101 患者データ入力工程
102 実験測定データ・データベース
103 臨床データ・データベース
104 実験測定データ
105 データ・マッチング工程
106 類似患者の患者ポインタ
107 類似患者の臨床データの参照工程
108 匿名化フィルターによる類似患者の個人情報の除去工程
109 類似患者の臨床データの表示工程
201 外部記憶装置
202 中央演算処理装置(CPU)
203 内部メモリ
204 入出力そうち
401 サンプル
402 生化学的増幅工程
403 ラベル混入工程
404 DNAマイクロアレイの構成工程
405 ハイブリダイゼーション反応工程
406 蛍光測定工程
407 スキャン画像工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各患者の電子化されたカルテ情報として、患者の検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを格納する患者電子カルテ・データベースと、
新規な患者のカルテ情報として、検査データ、臨床所見データ、ならびに治療データを入力する入力装置と、
カルテ情報として入力される、当該新規患者の検査データ、臨床所見データと、前記患者電子カルテ・データベース中に格納されている、過去の症例における患者の検査データ、臨床所見データとを比較して、当該新規患者の検査データ、臨床所見データと、類似する検査データ、臨床所見データとを有する過去の症例の患者を一または複数を選択する、類似症例患者の選択機構と、
前記類似症例患者の選択機構により、選択される類似症例患者のカルテ情報の内容を、閲覧者に対して、閲覧可能な形態で電子的に開示する、類似症例患者のカルテ情報開示機構とを具えている
ことを特徴とする電子カルテ・システム。
【請求項2】
前記類似症例患者の選択機構は、
選択される類似症例患者の一または複数について、当該新規患者の検査データ、臨床所見データとの類似の程度を指標として、類似の高さに拠る順位付け機能を備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の電子カルテ・システム。
【請求項3】
類似症例患者のカルテ情報開示機構は、
開示される類似症例患者のカルテ情報に含まれる、当該類似症例患者の診断、治療に際して、利用されていなく、かつ、患者の特定にのみ利用されている個人情報に関して、非閲覧可能な処理を施す機能を備えている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電子カルテ・システム。
【請求項4】
前記患者電子カルテ・データベースは、
該データベースを構成する、患者の検査データに内包される、検査測定結果のデータベースの一部として、実施された検査の詳細な内容、測定結果を含む
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子カルテ・システム。
【請求項5】
患者の検査データに内包される、検査測定結果のデータベースの一部として含まれる、実施された検査の詳細な内容、測定結果は、
DNAマイクロアレイを利用した、複数のDNAプローブに対するプローブ・ハイブリダイゼーション反応の結果を示す電子化されたデータを含む
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電子カルテ・システム。
【請求項6】
前記DNAマイクロアレイを利用した、複数のDNAプローブに対するプローブ・ハイブリダイゼーション反応の結果を示す電子化されたデータとして、
感染症の原因菌を特定するための、複数のDNAプローブに対するプローブ・ハイブリダイゼーション反応の結果が標識由来の信号強度で示される際、
複数のDNAプローブのスポット領域を含む標識由来の信号強度のスキャン画像データ、あるいは、複数のDNAプローブの各スポット点における標識由来の信号強度データを含む
ことを特徴とする請求項5に記載の電子カルテ・システム。
【請求項7】
患者の検査データに内包される、検査測定結果のデータベースの一部として含まれる、実施された検査の詳細な内容、測定結果は、
DNAマイクロアレイを利用した、感染症の原因菌を特定するための複数のDNAプローブに対するプローブ・ハイブリダイゼーション反応の結果を示す電子化されたデータを含む
ことを特徴とする請求項5または6に記載の電子カルテ・システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−302113(P2006−302113A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125252(P2005−125252)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】