説明

電子デバイスの絶縁性薄膜の信頼性評価法

【課題】Pool Frenkel障壁高さを求めることにより電子デバイスの絶縁性薄膜の信頼性評価を行う方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、MLCC1を用意し、MLCCの第1の導電体が抵抗素子2の一方端に電気的に接続され、抵抗素子2の他方端が直流電源3に電気的に接続され、直流電源3がMLCC1の第2の導電体に電気的に接続された接続状態で、直流電源3によって抵抗素子2の他方端と第2の導電体との間に電圧Vを印加した時に抵抗素子2に流れる電流Iを測定し、測定された前記電流Iと前記電圧Vからlog(I/V)とV1/2の関係を求め、前記関係を直線近似した近似直線を求め、前記近似直線によってV1/2が0である時のlog(I/V)の値Cを求め、前記値CからPool Frenkel障壁高さΦPFを求めることにより、前記絶縁性薄膜の質が良いか悪いかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの絶縁性薄膜の信頼性評価法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Pool Frenkel電流は電子デバイス等を構成する絶縁性薄膜中のトンネル電流として物理的に測定されていたのみであり、ショットキー電流ほど積極的にデバイスの評価に用いられていなかった。これは、Pool Frenkel電流がデバイス特性に直接関わることがないと考えられていたためであり、またPool Frenkel電流は通常pAからμAの微少電流であって測定が難しいためである。
【0003】
一方、最近の技術開発によって、自動車用あるいは自動二輪用の電源回路への適用を想定して100Vを超える高電圧用のMLCC(積層セラミックコンデンサ;Multi-Layer Ceramic Capacitor)が開発されており、また電力用のMOSFETも500Vを超すデバイスが開発されている。
【0004】
MLCCの絶縁性薄膜の信頼性評価法としては、加速寿命試験(MTTF;Mean Time To Failure)が用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したMTTFでは、専用の評価装置を用いて長時間の評価試験が必要となるという課題がある。そこで、短時間で絶縁性薄膜の信頼性を評価できる評価法が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、Pool Frenkel障壁高さを求めることにより電子デバイスの絶縁性薄膜の信頼性評価を行う方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、絶縁性薄膜の一方面に形成された第1の導電体と、前記絶縁性薄膜の他方面に形成された第2の導電体を有する電子デバイスを用意する第1工程と、
前記第1の導電体が抵抗素子の一方端に電気的に接続され、前記抵抗素子の他方端が直流電源に電気的に接続され、前記直流電源が前記第2の導電体に電気的に接続された接続状態で、前記直流電源によって前記抵抗素子の他方端と前記第2の導電体との間に電圧Vを印加した時に前記抵抗素子に流れる電流Iを測定する第2工程と、
前記第2工程によって測定された前記電流Iと前記電圧Vからlog(I/V)とV1/2の関係を求め、前記関係を直線近似した近似直線を求め、前記近似直線によってV1/2が0である時のlog(I/V)の値Cを求め、前記値CからPool Frenkel障壁高さΦPFを下記式(1)によって求める第3工程と、
前記第3工程で求められたPool Frenkel障壁高さΦPFが高い場合は、前記絶縁性薄膜の質が良いと判定し、前記第3工程で求められたPool Frenkel障壁高さΦPFが低い場合は、前記絶縁性薄膜の質が悪いと判定する第4工程と、
を具備することを特徴とする電子デバイスの絶縁性薄膜の信頼性評価法である。
【0008】
【数1】

【0009】
但し、上記式(1)において、dは前記絶縁性薄膜の厚さ(m)であり、σは前記絶縁性薄膜の伝導率(S/m)であり、Sは前記第1の導電体、前記絶縁性薄膜及び前記第2の導電体によって形成される容量の総面積(m2)であり、qは電子素電荷1.6x10-19 Cであり、Tは電子デバイスの温度(K)であり、kはボルツマン定数1.38x10-23 J/Kである。
【0010】
また、本発明の一態様は、前記第3工程の後に、前記近似直線の勾配Δを求め、前記勾配Δから前記絶縁性薄膜の実効誘電率εを下記式(2)によって求め、この求められた実効誘電率εを同一LOT電子デバイス間で相互に比較し作成プロセスならびに材料から決まる所定の比誘電率に達する場合は前記第4工程で判定された前記絶縁性薄膜の質の評価の信頼性が高いと判定し、前記求められた実効誘電率εが前記絶縁性薄膜の作成プロセスならびに材料から決まる所定の比誘電率に達しない場合は、前記第4工程で判定された前記絶縁性薄膜の質の評価の信頼性が低いと判定する工程をさらに具備する。
【0011】
【数2】

【0012】
但し、上記式(2)において、dは前記絶縁性薄膜の厚さ(m)であり、qは電子素電荷1.6x10-19 Cであり、Tは電子デバイスの温度(K)であり、kはボルツマン定数1.38x10-23 J/Kであり、εは真空の誘電率8.85x10-12 F/mである。
【0013】
また、本発明の一態様は、前記電子デバイスがMLCCであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様を適用することにより、Pool Frenkel障壁高さを求めることにより電子デバイスの絶縁性薄膜の信頼性評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一態様に係るMLCCの電圧−電流特性を測定する方法を説明するための回路図。
【図2】図1に示すMLCCの電圧−電流特性をlog(I/V)とV1/2の関係に計算しなおした図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0017】
従来より用いられてきたTiO容量、低電圧型MLCC等の耐圧は10V程度であり、この低電圧型MLCCの電圧−電流関係は10V以下の範囲に限られるため十分なPool Frenkel電流の観測ができなかった。
【0018】
これに対して高電圧型MLCCでは、耐圧100Vを超えるものが開発されており、十分なPool Frenkel電流の観測が可能となる。そこで、高電圧型MLCCの電圧−電流特性を測定する方法について図1を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態で測定対象とされるMLCCは、その耐圧が10 V以上であることが好ましい。
【0019】
図1に示す測定対象の電子デバイスであるMLCC1は、絶縁性薄膜の一方面に形成された例えばNiからなる第1の導電体(一方の電極)と、前記絶縁性薄膜の他方面に形成された例えばNiからなる第2の導電体(他方の電極)を有する。
【0020】
MLCC1の一方の電極は抵抗素子2の一方端に電気的に接続され、抵抗素子2の他方端は可変直流電源3に電気的に接続される。可変直流電源3はMLCC1の他方の電極に電気的に接続される。MLCC1の抵抗は非常に高いので、MLCC1と直列に抵抗素子2を挿入している。
【0021】
図1に示す接続状態で、可変直流電源3によって抵抗素子2の他方端とMLCC1の他方の電極との間に0.1〜100Vの範囲で電圧Vを印加した時に抵抗素子2に流れる電流Iを測定する。これにより、MLCC1の電圧−電流特性が測定される。
【0022】
次に、MLCC1の電圧−電流特性をlog(I/V)とV1/2の関係に計算しなおすと図2のようになる。
【0023】
図2では、表1に示すMLCCのサンプルであるLOTA、LOTB、LOTCについて具体的な測定結果を示している。コンデンサ(MLCC1)の容量をC、等価直列抵抗をR、測定周波数をfとすると、表1に示すtan δは2πfRCで与えられ、tan δが小さい程損失が少なくMLCCの性能が良いことになる。また、BDVは絶縁破壊電圧であり、その電圧が高い程、絶縁性薄膜の性能が良いことになる。IRは素子の等価直列抵抗値であり、この場合6.3Vが1秒後の抵抗である。
【0024】
【表1】

【0025】
図2に示すように、LOTA、LOTB、LOTCそれぞれにおいてlog(I/V)とV1/2の関係を直線近似した近似直線を最小二乗法で求めると、LOTAの近似直線は、y=0.7488x−12.044となり、LOTBの近似直線は、y=0.7623x−12.816となり、LOTCの近似直線は、y=0.852x−14.846及びy=0.8772x−15.27となる。LOTCは2個の試料(試料1,2)について電圧−電流特性を測定しているため、試料1,2それぞれに対応する近似直線が得られている。なお、yは縦軸log(I/V)を示し、xは横軸V1/2を示す。
【0026】
図2に示すようにlog(I/V)とV1/2に直線関係が実験的に成立する。そして、LOTA、LOTB、LOTCそれぞれの近似直線によってV1/2が0である時のlog(I/V)の値C(即ち、近似直線とy軸であるlog(I/V)軸との交点C)を求めると、LOTAの交点Cは−12.044であり、LOTBの交点Cは−12.816であり、LOTCの交点Cは試料1が−14.846であり、試料2が−15.27である。
【0027】
次に、これらの値CからPool Frenkel障壁高さΦPFを下記式(1)によって求める。
【0028】
【数3】

【0029】
但し、上記式(1)において、dはMLCC1の絶縁性薄膜(誘電体)の厚さ(m)であり、σはMLCC1の絶縁性薄膜(誘電体)の伝導率(S/m)であり、SはMLCC1の第1の導電体、絶縁性薄膜及び第2の導電体によって形成される容量の総面積、即ちMLCC1の第1及び第2の導電体それぞれと絶縁性薄膜との接合面積(m2)であり、qは電子素電荷1.6x10-19 Cであり、Tは測定時のMLCC1の温度(K)であり、kはボルツマン定数1.38x10-23 J/Kである。
【0030】
上記式(1)は次のようにして求められる。
温度T(K),面積S(m),導電率σ(S/M)の絶縁性薄膜に電圧Vを印加すると、流れるPoole-Frenkel電流Iは次式で表わされる。ここでΦBは障壁高さ、βPFはプールフレンケル係数である。
【数4】

この式の両辺の対数をとると、次式となる。
【数5】

実験値 V,Iから変数変換してV1/2とloge(I/V)の関係を求めれば直線関係を示すはずであるから、最小二乗近似によってV1/2とloge(I/V)直線を求め、loge(I/V)軸との交点をCとすると、ΦBは次式で与えられる。
【数6】

またV1/2とloge(I/V)直線の勾配をΔとすると、ε・dの積は次式で与えられる。
【数7】

【0031】
LOTA、LOTB及びLOTCそれぞれのd、σ、S、q、Tは、表2に示すとおりである。
【0032】
【表2】

【0033】
LOTA、LOTB及びLOTCそれぞれの交点C、表2に示すd、σ、S、q、Tの値からPool Frenkel障壁高さΦPFを上記式(1)によって求めると、LOTAのΦPFは1.07となり、LOTBのΦPFは1.18となり、LOTCのΦPFは1.44となる。
【0034】
表1に示すLOTA、LOTB、LOTCそれぞれのMTTF(時間)と上記のLOTA、LOTB、LOTCそれぞれのPool Frenkel障壁高さΦPFを比較すると、MTTFが短いLOTAはPool Frenkel障壁高さΦPFが低く、MTTFが長いLOTB及びLOTCはPool Frenkel障壁高さΦPFが高いことが確認された。このような結果から、LOTAのようにPool Frenkel障壁高さΦPFが低いほうが絶縁性薄膜の質が悪く、LOTB及びLOTCのようにPool Frenkel障壁高さΦPFが高いほうが絶縁性薄膜の質が良いことが裏付けられた。従って、Pool Frenkel障壁高さΦPFを求めることにより、従来技術のようなMTTFの試験を行わなくても絶縁性薄膜の良否の評価(判定)が可能となる。このような絶縁性薄膜の評価方法は、絶縁性薄膜の設計・グリンシートのアニール時間等のプロセス技術開発にも役立てることができる。
【0035】
また、前記のLOTAの近似直線から勾配Δ=0.7488を求め、LOTBの近似直線から勾配Δ=0.7623を求め、LOTCの近似直線から勾配Δ=0.852及び勾配Δ=0.8772を求める。次いで、これらの勾配ΔからLOTA、LOTB、LOTCそれぞれの絶縁性薄膜の実効誘電率εを下記式(2)によって求める。
【0036】
【数8】

【0037】
但し、上記式(2)において、dはMLCC1の絶縁性薄膜(誘電体)の厚さ(m)であり、qは電子素電荷1.6x10-19 Cであり、Tは測定時のMLCC1の温度(K)であり、kはボルツマン定数であり、εは真空の誘電率8.85x10-12 F/mである。
【0038】
上記式(2)は次のようにして求められる。
式(6)において、qは電子素電荷、eは自然数、ε=ε0・εと置き換えると容易に(2)式の関係が導かれる。
【0039】
LOTA、LOTB及びLOTCそれぞれのd、q、Tは表2に示すとおりであり、ε*及びPool Frenkel障壁高さΦPFは表3に示すとおりである。
【0040】
【表3】

【0041】
LOTA、LOTB及びLOTCそれぞれのd、q、T及びεの値からLOTA、LOTB、LOTCそれぞれの絶縁性薄膜の実効誘電率εを上記式(6)によって求めると、LOTAのεは2.48となり、LOTBのεは2.83となり、LOTCのεは2.13となる。
【0042】
次に、上記のLOTA、LOTB及びLOTCそれぞれの実効誘電率ε、及び表3に示すLOTA、LOTB及びLOTCそれぞれの障壁高さΦPFを比較する。V1/2とloge(I/V)直線の勾配Δから得られる実効誘電率εは、図2に見るように勾配が3LOTともほぼ等しいから等しい値となっている。これに較べて図2の縦軸切片はLOTA、B、Cの順に小さくなっている。即ち端子間電圧V=0における電流値から得られる障壁高さΦPFがLOTAよりLOTCが大きく、有効に障壁が利いており漏洩電流が小さい結果が与えられている。従って、LOTAよりLOTCのほうがコンデンサとしての特性が優れていることが示されている。
【0043】
また、上記のLOTA、LOTB及びLOTCそれぞれの試料を複数用意し、前記V1/2とloge(I/V)直線の勾配Δを求め、前記勾配Δから前記試料の絶縁性薄膜の実効誘電率εを上記式(6)によって求め、この求められた実効誘電率εを同一LOTの試料間で相互に比較し作成プロセスならびに材料から決まる所定の比誘電率に達する場合は前述した絶縁性薄膜の質の評価の信頼性が高いと判定し、前記求められた実効誘電率εが前記絶縁性薄膜の作成プロセスならびに材料から決まる所定の比誘電率に達しない場合は、前述した絶縁性薄膜の質の評価の信頼性が低いと判定することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 MLCC
2 抵抗素子
3 可変直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性薄膜の一方面に形成された第1の導電体と、前記絶縁性薄膜の他方面に形成された第2の導電体を有する電子デバイスを用意する第1工程と、
前記第1の導電体が抵抗素子の一方端に電気的に接続され、前記抵抗素子の他方端が直流電源に電気的に接続され、前記直流電源が前記第2の導電体に電気的に接続された接続状態で、前記直流電源によって前記抵抗素子の他方端と前記第2の導電体との間に電圧Vを印加した時に前記抵抗素子に流れる電流Iを測定する第2工程と、
前記第2工程によって測定された前記電流Iと前記電圧Vからlog(I/V)とV1/2の関係を求め、前記関係を直線近似した近似直線を求め、前記近似直線によってV1/2が0である時のlog(I/V)の値Cを求め、前記値CからPool Frenkel障壁高さΦPFを下記式(1)によって求める第3工程と、
前記第3工程で求められたPool Frenkel障壁高さΦPFが高い場合は、前記絶縁性薄膜の質が良いと判定し、前記第3工程で求められたPool Frenkel障壁高さΦPFが低い場合は、前記絶縁性薄膜の質が悪いと判定する第4工程と、
を具備することを特徴とする電子デバイスの絶縁性薄膜の信頼性評価法。
【数1】

但し、上記式(1)において、dは前記絶縁性薄膜の厚さ(m)であり、σは前記絶縁性薄膜の伝導率(S/m)であり、Sは前記第1の導電体、前記絶縁性薄膜及び前記第2の導電体によって形成される容量の総面積(m)であり、qは電子素電荷1.6x10-19 Cであり、Tは電子デバイスの温度(K)であり、kはボルツマン定数1.38x10-23 J/Kである。
【請求項2】
請求項1において、前記第3工程の後に、前記近似直線の勾配Δを求め、前記勾配Δから前記絶縁性薄膜の実効誘電率εを下記式(2)によって求め、この求められた実効誘電率εを同一LOT電子デバイス間で相互に比較し作成プロセスならびに材料から決まる所定の比誘電率に達する場合は前記第4工程で判定された前記絶縁性薄膜の質の評価の信頼性が高いと判定し、前記求められた実効誘電率εが前記絶縁性薄膜の作成プロセスならびに材料から決まる所定の比誘電率に達しない場合は、前記第4工程で判定された前記絶縁性薄膜の質の評価の信頼性が低いと判定する工程をさらに具備することを特徴とする電子デバイスの絶縁性薄膜の信頼性評価法。
【数2】

但し、上記式(2)において、dは前記絶縁性薄膜の厚さ(m)であり、qは電子素電荷1.6x10-19 Cであり、Tは電子デバイスの温度(K)であり、kはボルツマン定数1.38x10-23 J/Kであり、εは真空の誘電率8.85x10-12 F/mである。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記電子デバイスがMLCCであることを特徴とする電子デバイスの絶縁性薄膜の信頼性評価法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−53023(P2011−53023A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200604(P2009−200604)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【出願人】(500132214)学校法人明星学苑 (23)
【Fターム(参考)】