説明

電子ビーム加速器

【課題】電子ビーム装置の保守が短時間かつ容易に行える電子加速器および電子加速方法を提供する。
【解決手段】電子ビーム放射窓24を備える真空チャンバ46であって、細長い要素の中に形成されている真空チャンバ46と、真空チャンバ46内に配置され、電子を発生する電子発生器31と、細長い要素の中に配置され、電子発生器31に電力を供給する高電圧コネクタ12と、高電圧コネクタ12と真空チャンバ46とを分離する高電圧絶縁体28とを備え、電子発生器31をハウジングにより囲み、ハウジングにおける電子発生器31と電子ビーム放射窓との間に少なくとも1つの開口が形成され、前記ハウジングと電子ビーム放射窓24間に電圧が供給されたときに、電子を電子発生器31から電子ビームにして真空チャンバ46に密封されている電子ビーム放射窓24の外に加速する電子加速器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子ビームは、インク、接着剤、塗料、被覆材の乾燥や硬化などの多くの工業工程で使用される。また、電子ビームは、液体、気体および表面の殺菌の他に有害廃棄物の浄化にも使用される。
【背景技術】
【0002】
工業工程で使用する従来の電子ビーム装置は、電子ビームを処理する材料へ照射する電子ビーム加速器を組み込んでいる。電子ビーム加速器は大きな鉛製の容器の真空チャンバを有し、その中にはフィラメント用電源から電力が供給される1つまたは複数の電子発生フィラメントを内蔵している。運転中は、真空チャンバは常に真空ポンプで排気されている。フィラメントは、真空チャンバの一面に設けられた金属箔の電子ビーム放射窓に面した開口格子を有するハウジングで囲まれている。高電圧電源により高電圧がフィラメントのハウジングと電子ビーム放射窓間に印加される。フィラメントから発生した電子は、電子ビームとなってフィラメントからハウジングの開口格子を通り、放射窓から外へ加速される。通常エキストラクタ電源が、フィラメントと放射窓間の領域の電界を均一にするために組み込まれている。これにより、電子ビーム中の電子が図1の曲線1に図示するようにビームの中心に集中するのを防ぎ、図1の曲線2に図示するようにビームの幅方向に均等に分散させる。
【0003】
工業的用途に電子ビーム技術を利用する際に障害となるのは、従来の電子ビーム装置が複雑な上に、装置を保守するために真空技術および加速器技術に関して高度に訓練された人員を必要とすることである。例えば、通常的使用においては、フィラメントと電子ビーム放射窓金属箔の両方を定期的に交換する必要がある。このような保守作業は、加速器の寸法が大きくて重いため、現場で実施する必要がある(一般的には、直径20〜30インチ、長さ4〜6フィート、重さ数千ポンド)。フィラメントと電子ビーム放射窓の交換には、真空チャンバを開く必要があり、汚染物質が侵入する原因となる。この交換は長い休止時間を要する。何故ならフィラメントと放射窓を交換すると、加速器を排気して高電圧運転用に調整した後で、初めて加速器が運転可能になるからである。調整には、真空チャンバを開いたときに侵入した真空チャンバ内と放射窓上の汚染物質を焼却するために、時間をかけて段階的に高電圧電源からの電力を上昇することが必要となる。この処理には汚染の程度により2時間〜10時間を要する。
【0004】
しばしば、放射窓に漏れを生じ、それを補修するのに余分な時間を要することもある。最終的には、1〜2年毎に加速器の高電圧用絶縁体を交換し、加速器全体を分解する必要がある。この処理に要する時間は約2〜4日である。結果的に、フィラメント、放射窓金属箔および高電圧絶縁体を交換する必要のあるときは、電子ビーム放射を必要とする製造工程は長時間中断することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電子ビーム装置用の小型で簡単な上に、電子ビーム装置の保守が容易で、真空技術と加速器技術に関して高度に訓練された人員を必要としない電子加速器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による電子加速器には、電子ビーム放射窓を有する真空チャンバが組み込まれている。電子発生器は真空チャンバ内にあって電子を発生する。電子発生器を囲むハウジン
グがあり、ハウジングの電子発生器と電子ビーム放射窓の間の部分には第1の開口列が配列されており、ハウジングと電子ビーム放射窓間に電圧が印加されると、電子を電子発生器から電子ビーム放射窓の外へ電子ビームにして加速する。また前記ハウジングは電子発生器を挟んだ両対向側面に第2および第3の開口列35を有し、電子発生器と放射窓間の電界線を平坦にして電子ビームの幅方向の電子分布を均等にする。
【0007】
好ましい実施形態によれば、真空チャンバは、長軸線と外壁を有する円筒体内に形成される。円盤形の高電圧絶縁体は、電子発生器とハウジングに電力を供給する高電圧コネクタとから真空チャンバを分離する。2本のリード線が高電圧コネクタから延びており、絶縁体を貫通して高電圧コネクタを電子発生器とハウジングに接続している。電子発生器はフィラメントを有するのが望ましい。電子ビーム放射窓は、厚さ12.5ミクロン以下のチタン箔で形成するのが望ましく、約6〜12ミクロンがさらに望ましく、約8〜10ミクロンが最も望ましい。電子ビーム放射窓は真空チャンバにろう付け、溶接または接着されている外縁部を備えており、それにより真空密封を行う。真空チャンバは気密にされ、恒久的に真空を維持できる。密封可能な排気口が真空チャンバに接続されており、そこから排気を行う。
【0008】
支持板が真空チャンバに取り付けられ電子ビーム放射窓を支持している。電子加速器で発生する電子ビームは、実質的には集束していない。好ましい一実施形態では、電子ビーム放射窓は真空チャンバの長軸線に垂直に位置する。別の好ましい実施形態では、放射窓は真空チャンバの長軸線に平行に位置する。また、本発明は、第1の電子ビームを発生するための第1電子ビーム加速器を組み込んでいる電子ビーム装置を提供する。第2電子ビーム加速器が組み込まれており、第2の電子ビームを発生する。第2加速器は第1加速器の後方の横方向に変位してあり、装置の電子ビームの下を移動する対象物上に、横方向に連続した(隙間の無い)電子ビーム照射を行う。
【0009】
本発明は、小型で交換可能なモジュール方式の電子ビーム加速器を提供するものである。フィラメントまたは電子ビーム放射窓を交換する必要があるときは、加速器全体をそっくり交換することにより、電子ビーム装置の休止時間を大幅に減少できる。またこれにより、電子ビーム装置の保守に関して、真空技術と加速器技術に習熟した人員を必要としなくなる。さらに、高電圧絶縁体を現場で交換する必要もなくなる。そのうえ、この独創的な電子ビーム加速器は、従来の電子ビーム加速器に比べ構成部品が少なく、低消費電力であり、低価格化、単純化、小型化、高効率化されている。加速器の小型化は、小型印刷機のような空き空間に制約のある装置内や、ライン中での織物の殺菌やステーション間での硬化の目的に使用するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電子がビームの幅方向に一様に分布している電子ビームの電子分布を示すグラフ上に、集束した電子ビームの電子分布を重ねて図示したグラフである。
【図2】本発明による電子ビーム加速器の側面断面図である。
【図3】図2の加速器の電気的接続を示す図である。
【図4】電界線を示すフィラメントのハウジングの端面図である。
【図5】側面の開口35を省いたときの電界線を示すフィラメントのハウジングの端面図である。
【図6】複数の電子ビーム加速器を組み込んだ装置の平面図である。
【図7】フィラメントのハウジングの側面断面図であり、フィラメントを電気的に接続する別の好ましい方法を示す。
【図8】図7の底面断面図である。
【図9】別の好ましいフィラメント配列を示す模式図である。
【図10】さらに別の好ましいフィラメント配列を示す模式図である。
【図11】別の好ましい電子ビーム加速器の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に関する上述した目的および他の目的、特徴および利点は、好ましい実施形態図面を用いてさらに具体的に説明する。ただし、各図面を通じ同一部分には同一参照符号を用いている。図の縮尺は必ずしも正確でなく、本発明の原理を図示することに重点を置いている。
【0012】
図2および図3において、電子ビーム加速器10は交換可能なモジュール方式の加速器であり、電子ビーム装置ハウジング(図示せず)内に組み込まれている。加速器10は、両端を密封した細長い円筒形の外側ケーシング(構造体)14を備え、この外側ケーシング14は2分割形である。外側ケーシング14は外側ケーシング14に溶接された基端部エンド・キャップ16で密閉されている。外側ケーシング14とエンド・キャップ16は、それぞれステンレス鋼製が望ましいが、代わりに他の適切な金属製でもよい。
【0013】
加速器10の先端部は、ステンレス鋼製の先端部エンド・キャップ20に外縁部23に沿ってろう付けされているチタン箔製の電子ビーム放射窓膜24で密閉されている。エンド・キャップ20は、外側ケーシング14に溶接されている。
【0014】
通常、電子ビーム放射窓24は厚さ約6から12ミクロンであり、8から10ミクロンがさらに望ましい。変形形態としては、電子ビーム放射窓24は、マグネシウム、アルミニウム、ベリリウムのような他の適切な金属箔製でも、セラミックのような適切な非金属の低密度材料でもよい。さらに電子ビーム放射窓24は、エンド・キャップ20に溶接または接着してもよい。
【0015】
四角形の支持板22は、電子を通過させる開口22aを有し、エンド・キャップ20にボルト22bで固定され、電子ビーム放射窓24を支持している。支持板22は熱放散のためには銅製が望ましいが、ステンレス鋼、アルミニウム、チタンのような他の適切な金属製でもよい。支持板22の開口22aは直径約1/8インチの円形で、電子ビーム放射窓24から電子の約80%を通過させる。エンド・キャップ20には冷却液通路が設けられ、冷却液がポンプで注入されてエンド・キャップ20、支持板22、電子ビーム放射窓24を冷却している。冷却液は流入口25aから入り、流出口25bから出る。流入口25aと流出口25bは、電子ビーム装置ハウジングに設けた冷却液の供給口と戻り口に結合されている。冷却液の供給口と戻り口は、流入口25aと流出口25bを密封する“O”リングでシールされている。加速器10は、直径約12インチ、長さ20インチ、重さ約50ポンドである。
【0016】
高電圧電力ケーブル・コネクタ12に接合する高電圧接続用レセプタクル18は、基端部エンド・キャップ16に取り付けられている。高電圧ケーブルが、高電圧電源48とフィラメント電源50から加速器10に電力を供給する。高電圧電源48は約100KVを供給するのが望ましいが、電子ビーム放射窓24の厚みによって増減してもよい。フィラメント電源50は約15Vが望ましい。2本のリード線26a/26bはレセプタクル18から下方に延びて、加速器10を上部の絶縁チャンバ44と下部の真空チャンバ46に分割する円盤状の高電圧セラミック絶縁体28を貫通する。セラミック絶縁体28の外部ケーシング14への接合には、まずセラミック絶縁体28がコバール(登録商標)のようなセラミック絶縁体28と同一の膨張係数を持つ中間リング29にろう付けされる。次に、中間リング29が外側ケーシング14にろう付けされる。上部チャンバ44には排気後にSF6ガスのような絶縁媒質を充填するが、代わりにオイルや固体絶縁物を充填しても
よい。気体や液体状の絶縁媒質は、閉止弁42を通して充填や排出が可能である。
【0017】
電子発生器31は真空チャンバ46内に位置しており、電気的に並列に接続した3本の長さ8インチのタングステン製フィラメント32(図4)から構成するのが望ましい。別の形態としては、2本のフィラメント32を使用することができる。電子発生器31はステンレス鋼製のフィラメント・ハウジング30で囲まれている。フィラメント・ハウジング30は、平板状の底部33に空けた一連の格子状の開口34と、ハウジング30の4つの側面に空けた多数の開口35とを有する。フィラメント32は、ハウジング30内のハウジング30の底部と上部の中間付近に取り付けるのが望ましい。開口35は実質的にフィラメント32の上方までは延びていない。
【0018】
リード線26aと電路52は、フィラメント・ハウジング30を電気的に高圧電源48に接続する。リード線26bはフィラメント・ハウジング30の開口30aを貫通し、フィラメント電源50とフィラメントを電気的に接続する。電子ビーム放射窓24は電気的に接地され、高電圧をフィラメント・ハウジング30と電子ビーム放射窓24間に印加させる。
【0019】
排気口39を真空チャンバ46に設け、真空チャンバ46を排気する。排気口39は、外側ケーシング14に溶接したステンレス鋼製の外部パイプ36と外部パイプ36にろう付けされた密封可能な銅パイプ38とを有する。真空チャンバ46を排気したあとは、銅パイプ38を冷間圧着してシール40を形成して、真空チャンバ46を密封する。
【0020】
使用に際しては、加速器10を電子ビーム装置に組み込み、コネクタ12と電気的に接続する。電子ビーム装置のハウジングには、加速器10を囲む鉛製の包囲体が組み込まれている。フィラメント32は、フィラメント電源50(ACまたはDC)から電力を供給されて約4200°Fにまで加熱され、フィラメント32に自由電子を発生させる。高圧電源48から印加されるフィラメント・ハウジング30と電子ビーム放射窓24間の高電圧により、フィラメント32上の自由電子56を電子ビーム58にして、フィラメント32からハウジング30の開口34および電子ビーム放射窓24を通過して加速させる(図4)。
【0021】
側面開口35は、その周辺に小電界を発生し、フィラメント32と電子ビーム放射窓24間の高電圧電界線54を、ハウジング30の底部33の平面に対して平坦化(この平面と平行化)する。電界線54を平坦にすることで、電子ビーム58の電子56は、図1の曲線1に示すように中心位置に集束することなく、比較的直線的に開口34を通ってハウジング30から放射される。この結果、電子ビーム58は、図1の曲線2と同様のプロファイルを有する、幅が約2インチ、長さ約8インチの幅広のビームになる。図1の曲線1の細い高密度電子ビームは好ましくない。何故なら、電子ビーム放射窓24を焼いて穴を空けるからである。
【0022】
側面開口35の機能をさらに図解するために、図5に側面開口35を省いたハウジング30を示す。図示されているように、側面開口35を省いた状態では、電界線54は上方へアーチ形に湾曲する。電子56は電界線54にほぼ垂直に進むため、電子56は細い電子ビーム57に集束する。対照的に、図4では、電界線54は平坦になり、電子56は幅広の集束しない電子ビーム58の状態で進む。したがって、従来の加速器が電子ビームの幅方向に電子を均等に分散させるために高電圧電界線を均一にする目的で高電圧のエキストラクタ電源を必要としたのに対し、本発明では、開口35を設けることにより同一結果を簡単かつ安価に実現している。
【0023】
フィラメント32または電子ビーム放射窓24を交換するとき、加速器10全体を電子ビーム装置ハウジングから取り外し、新しい加速器10と交換するだけでよい。新しい加速器10は前もって高電圧運転用に調整されているので、電子ビーム装置の休止時間は数
分だけになる。単一部分の交換のみですむため、電子ビーム装置のオペレータは真空技術や加速器技術の保守について高度に習熟する必要はない。さらに、加速器10は小型軽量のため1人で交換できる。
【0024】
古い加速器10を再調整するためには、古い加速器を真空技術専門会社に送るのが望ましい。まず、電子ビーム放射窓24と支持板22を取り外して真空チャンバ46を開ける。次に、ハウジング30を真空チャンバ46から取り外してフィラメント32を交換する。必要なら、上部チャンバ内の絶縁媒質を、外部ケーシング14に設けたバルブ42から排出する。その後、ハウジング30を真空チャンバ46内に元通りに取り付ける。支持板22をエンド・キャップ20にボルトで固定し、電子ビーム放射窓24を交換する。新しい電子ビーム放射窓24の外縁部23は、エンド・キャップ20にろう付けされて密封構造を形成する。電子ビーム放射窓24は、支持板22、ボルト22bおよびボルト穴を覆っているので、“O”リングなどがなくても漏れもなく、支持板22の全面をシールする補助機能を果たしている。銅バイプ管38を取り外し、新しい銅パイプ38をパイプ36にろう付けする。これらの調整作業は、真空チャンバ内や電子ビーム放射窓24の汚染を防ぐために、清浄な空気環境に制御された場所で行う。
【0025】
清浄な環境内で加速器10を組み立てることで、電子ビーム放射窓24は、容易に厚さ8〜10ミクロンまたは6ミクロンにまでできる。この理由は、塵埃または汚染物質が電子ビーム放射窓24と支持板22間の電子ビーム放射窓24上に堆積するのを妨げるからである。このような汚染物質は、12.5ミクロン以下の厚さの電子ビーム放射窓24に穴を開ける。対照的に、従来の加速器の電子ビーム放射窓は、保守作業の間は塵埃の多い場所で組み立てるため、厚さ12.5〜15ミクロンを必要とする。厚さ12.5〜15ミクロンの電子ビーム放射窓は、塵埃が電子ビーム放射窓に穴を開けるのを防ぐ。本発明による電子ビーム放射窓24は、従来の加速器の電子ビーム放射窓より厚さが薄いため、電子を加速して電子ビーム放射窓24を貫通させるのに要する電力が非常に小さくてすむ。例えば、従来の加速器では、厚さ12.5〜15ミクロンの電子ビーム放射窓を貫通するよう電子を加速するのには約150KVが必要である。これに反し、本発明によれば、厚さ8〜10ミクロンの電子ビーム放射窓を貫通するのに約80〜125KVでよい。
【0026】
結果的に、同等の電子ビームを発生させるのに、加速器10は従来の加速器に比べ効率が高くなる。さらに、低い電圧でよいため、加速器10は小型にでき、従来の加速器で使用されていた円筒形または円錐形の絶縁体より小型の円盤形の絶縁体28を使用できる。加速器10を従来の加速器より小型にできる理由は、加速器10に従来より低い電圧を使用するために、構成部品を近接させて組み込めるためである。真空チャンバ46内を清浄環境に制御すれば、構成部品をさらに近接させて組み込める。従来の加速器は高電圧で動作する上、加速器内に汚染物質が多く存在するので、構成部品間のアーク放電を防止するために部品間距離を長くする必要がある。実際、従来の加速器では真空ポンプからの汚染物質が使用中に加速器中へ侵入する。
【0027】
次に、真空チャンバ46は排気口39から排気され、チューブ38が冷間圧着して密封される。真空チャンバ46を密封すると、真空チャンバ46は恒久的に真空状態を維持し真空ポンプを作動する必要はなくなる。これにより、本発明による加速器10を作動させるのが簡単で安価になる。その後、加速器10を高電圧動作に備え前調整する。加速器10を電子ビーム装置に接続し、高電圧を徐々に上昇させて、真空チャンバ内と電子ビーム放射窓上の汚染物質を焼却する。真空チャンバ46内のすべての分子は、高電圧および/または電子ビームによりイオン化され、ハウジング30方向へ加速される。イオン化分子はハウジング30に衝突してハウジング30の表面に捕獲され、さらに真空度を増加させる。また加速器10を高電圧動作に備えて前調整する間に、真空チャンバ46を排気することができる。加速器10は電子ビーム装置から取り外し、再使用のため保管する。
【0028】
図6は、3台の加速器10a、10b、10cを含むシステム64を示す。これらの加速器は、電子ビーム60を移動する製品62の全幅に渡って隙間なく照射するように互い違いに配置されている。それぞれの加速器10a、10b、10cの電子ビーム60は1台の加速器の外径よりも細いため、3台を並べて取り付けても、製品62の全幅に渡って電子ビーム60を照射することはできない。その代わり、加速器10bを、製品62の移動方向に沿って、加速器10aと10cに対して少し横後方にずらせで配置する。その結果、それぞれの電子ビーム60の側端は互いに横方向に整列することになる。結果的に、図のように移動製品62は、階段的配置の電子ビーム60が重なって照射される。3台の加速器が図示されているが、別の方法としては、4台以上の加速器10を互い違いに並べて幅の広い製品を照射したり、2台の加速器10で幅の狭い製品を照射することもできる。
【0029】
図7と8は、リード線26aと26bをフィラメント・ハウジング30とフィラメント32に電気的に接続する別の好ましい方法を図示する。リード線26aはフィラメント・ハウジング30の上部に固定する。3つのフィラメント・ブラケット102はフィラメント・ハウジング30の上部から下方へ延びている。フィラメント・マウント104はそれぞれのブラケット102に取り付けられている。絶縁ブロック110とフィラメント・マウント108は、フィラメント・ハウジング30の反対側に取り付けられている。フィラメント32はフィラメント・マウント104と108間に張り渡して取り付けられる。フレキシブルなリード線106でリード線26bとフィラメント・マウント108を電気的に接続する。フィラメント・ブラケット102はスプリング効果を有し、使用中にフィラメント32が膨張/収縮するのを補正する。円筒状のブラケット112は、リード線26a/26bの代わりにハウジング30を支持する。
【0030】
図9において、フィラメント配列90は、電子ビームの幅を単一フィラメントの場合よりも広げるために、複数のフィラメントを電気的に接続する別の好ましい方法である。フィラメント92は平行に配置され、リード線94で相互に電気的に直列接続されている。図10において、フィラメント配列98は、平行に配置されて2本のリード線96で電気的に並列に接続された一連のフィラメント97を図示している。またフィラメント配列98は、電子ビームの幅を広げるのにも使用される。
【0031】
図11において、加速器70は本発明の別の好ましい実施形態である。加速器70は、先の加速器10で発生する電子ビームに対して90°の角度の方向に電子ビームを発生する。加速器70が加速器10と異なるのは、フィラメント78が真空チャンバ88の長軸線Aに対して垂直ではなく、平行になっていることである。さらに、電子ビーム放射窓82は、真空チャンバ88の細長い外側ケーシング72に取り付けられており、長軸線Aに平行になっている。電子ビーム放射窓82は、外側ケーシング72の側面に取り付けた支持板80で支持されている。細長いフィラメント・ハウジング75がフィラメント78を囲み、ハウジング75の一側面76には、長軸線Aに垂直な方向に開口した格子状開口34を有する。フィラメント・ハウジング75の側面開口35は、開口34に垂直な方向に開口している。エンド・キャップ74は真空チャンバ88の端面を塞いでいる。加速器70は、複数の加速器を互い違いに配置して使用することなく、電子ビームを広い範囲に放射するのに適し、また狭い場所での使用に適する。加速器70は長さ約3〜4フィートにでき、より広い範囲に使用するためには互い違いに配置することもできる。
【0032】
本発明による電子加速器は、液体や気体(空気のような)殺菌や表面の殺菌のほか医療用品、食品、有害な医療廃棄物の殺菌および有害廃棄物の浄化に適する。その他の応用分野には、オゾン生成、燃料霧化(微粒化)および材料の化学的接着や融合がある。また、本発明による電子加速器は、インク、被覆加工、接着、密封剤の硬化に利用できる。さら
にポリマーのような材料を、電子ビームで交差結合(cross linked)させて構造特性を改良することができる。
【0033】
フィラメント・ハウジングにある開口列35は、電界線の形状を整えるための受動的電界線整形手段を形成し、特に電界線を均一にする機能を持つ。“受動的”とは電界線を形成するのに、別途のエキストラクタ電源を必要としない意味である。さらに、電界線は複数のフィラメントを使用して形成することができる。また、電界線の形状をさらに変えるのに、フィラメント間に隔壁や受動電極を配置することもできる。複数フィラメントや隔壁および受動電極は、電界線を平坦化したり、その他の形状にしたりする平坦化機能手段として使用できる。
【0034】
均等物
本発明について、好ましい実施形態に関連して具体的に図示し説明したが、添付の請求事項に規定するように、形態や詳細についての各種の変更が、本発明の精神および範囲を逸脱しない範囲内で可能であることは、当業者に理解できよう。
【0035】
例えば、本発明では複数フィラメントを組み込む、と述べているが、その代わりに単一フィラメントを使用することもできる。さらに、外側ケーシング、エンド・キャップ、フィラメント・ハウジングはステンレス鋼製が望ましいが、その代わりに、チタン、銅、コバールのようなその他の適切な金属を使用することもできる。通常、エンド・キャップ16と20は外側ケーシングに溶接されているが、ろう付けすることもできる。支持板22の開口22は、長孔のような非円形であってもよい。フィラメント32の寸法と加速器10の直径は、用途により変更してもよい。また、絶縁体28にはガラスのようなその他の適切な材料を使用してもよい。
【0036】
チタン製の電子ビーム放射窓の厚さは12.5ミクロン以下(6〜12ミクロン)が望ましいが、必要なら用途によって12.5ミクロンより厚くすることもできる。12.5ミクロンより厚い電子ビーム放射窓には、約100KV〜150KVの高電圧を供給する必要がある。もし、電子ビーム放射窓がアルミニウムのようなチタンより軽い材料からできている場合は、同一電子ビーム特性を実現するのに、電子ビーム放射窓の厚さはチタン製電子ビーム放射窓の相当厚さより厚くしてもよい。加速器10および70は円筒形状が望ましいが、四角形や長円形断面のようなその他の適切な形状としてもよい。本発明による加速器は、安価にするために多量に作り、使い捨て使用とすることもできる。最後に、レセプタクル18はスペースを節約するために長軸線Aに垂直に配置することもできる。
【符号の説明】
【0037】
24 電子ビーム放射窓
30 ハウジング
31 電子発生器
46 真空チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム放射窓を有する真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に配置されて電子を発生する電子発生器と、
前記電子発生器を囲むハウジングであって、前記電子発生器と前記電子ビーム放射窓間のハウジング部分に設けた第1の開口列を有し、前記ハウジングと前記電子ビーム放射窓間に電圧が供給されたとき、電子を前記電子発生器から電子ビームにして前記電子ビーム放射窓の外へ加速し、さらに、電子ビームの幅方向の電子分布を均一にする受動的電界線整形手段を有するハウジングと、
を備えた電子加速器
【請求項2】
請求項1において、
前記真空チャンバが円筒体の内部に形成され、この円筒体が長軸線と外壁を有する電子加速器。
【請求項3】
請求項2において、
さらに、前記電子発生器と前記ハウジングに電力を供給する高電圧コネクタと、
前記真空チャンバを前記高圧コネクタから分離する円盤状の高電圧絶縁体と、
を備えた電子加速器。
【請求項4】
請求項3において、
さらに、前記高圧コネクタを前記電子発生器と前記ハウジングに電気的に接続するために絶縁体を貫通する2本のリード線を備えた電子加速器。
【請求項5】
請求項3において、
さらに、真空チャンバに設けられた密封可能な排気口を有する電子加速器。
【請求項6】
請求項1において、
前記電子発生器がフィラメントを有する電子加速器。
【請求項7】
請求項2において、
前記真空チャンバが密封されて持続的に真空を維持するものである電子加速器。
【請求項8】
請求項7において、
前記電子ビーム放射窓が前記真空チャンバにろう付けされて気密を維持する外縁部を有する電子加速器。
【請求項9】
請求項8において、
さらに、前記真空チャンバに取り付けられて前記電子ビーム放射窓を支持する支持板を有する電子加速器。
【請求項10】
請求項9において、
前記電子ビーム放射窓を前記真空チャンバの接軸線に垂直な方向に配置した電子加速器。
【請求項11】
請求項9において、
前記電子ビーム放射窓を前記真空チャンバの長軸線に平行な方向に配置した電子加速器。
【請求項12】
請求項9において、
前記電子ビーム放射窓を金属箔で構成した電子加速器。
【請求項13】
請求項12において、
前記電子ビーム放射窓を厚さ約6〜12インチのチタン箔で構成した電子加速器。
【請求項14】
請求項7において、
前記電子ビーム放射窓が、真空チャンバに溶接されて気密を維持する外縁部を有する電子加速器。
【請求項15】
請求項7において、
前記電子ビーム放射窓が、真空チャンバに接着されて気密を維持する外縁部を有する電子加速器。
【請求項16】
請求項1において、
前記電子ビームが実質的に集束していない電子加速器。
【請求項17】
請求項1において、
前記電子加速器が第1電子ビームを発生する第1電子加速器であり、
さらに、第2電子ビームを発生する第2電子加速器を有し、この第2加速器は、第1加速器から横後方にずらせて配置され、これにより、電子ビームの下で移動する対象物上に横方向に隙間無く電子ビームを照射するものである電子加速器。
【請求項18】
請求項1において、
前記受動的電界線形成器が、前記ハウジングの電子発生器を挟む両対向側面に第2と第3の開口列を有する電子加速器。
【請求項19】
電子ビーム放射窓を有し、細長い構造体内部に形成されて密封され持続的に前記真空を維持する真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に配置されて電子を発生する電子発生器と、
細長い構造体内に配置されて電子加速器に電力を供給する高電圧コネクタと、
前記真空チャンバを前記高電圧コネクタから分離する高電圧絶縁体と、
前記電子発生器を囲むハウジングであって、前記電子発生器と前記電子ビーム放射窓間のハウジング部分に設けた第1の開口列を有し、前記ハウジングと前記電子ビーム放射窓間に電圧が供給されたとき、電子を前記電子発生器から電子ビームにして前記電子ビーム放射窓の外へ加速し、さらに、電子ビームの幅方向の電子分布を均一にする受動的電界線整形手段を有するハウジングと、
を備えた電子加速器。
【請求項20】
請求項19において、
前記電子ビーム放射窓が、厚さ12.5ミクロン以下のチタン箔から形成されている電子加速器。
【請求項21】
請求項20において、
前記電子ビーム放射窓が、厚さ8〜10ミクロンである電子加速器。
【請求項22】
請求項20において、
さらに、ハウジングと電子ビーム放射窓間に約100から150KVの電圧を供給する高圧電源を備えた電子加速器。
【請求項23】
請求項21において、
さらに、ハウジングと電子ビーム放射窓間に約80から125KVの電圧を供給する高圧電源を備えた電子加速器。
【請求項24】
請求項23において、
前記電子発生器が長さ約8インチのフィラメントを備えた電子加速器。
【請求項25】
請求項24において、
前記電子発生器が、幅約2インチ、長さ約20インチである電子加速器。
【請求項26】
電子ビーム放射窓を有する真空チャンバを設け、
前記真空チャンバ内に配置した電子発生器で電子を発生し、
前記電子発生器と電子ビーム放射窓間に第1の開口列を有するハウジングにより前記電子発生器を囲み、
前記ハウジングと前記電子ビーム放射窓間に電圧を供給して、電子を前記電子発生器から電子ビームにして前記電子ビーム放射窓の外に加速し、
受動的電界線整形手段により前記電子発生器と前記電子ビーム放射窓間に電子ビームをその幅方向に均一に分布させる電子加速方法。
【請求項27】
請求項26において、
さらに、持続的に前記チャンバ内の真空を維持するために真空チャンバを密封する電子加速方法。
【請求項28】
請求項26において、
前記電子ビーム放射窓が外縁部を有し、さらに、前記外縁部を真空チャンバにろう付けして気密性を保つ電子加速方法。
【請求項29】
請求項28において、
さらに、真空チャンバに取り付けた支持板により電子ビーム放射窓を支持する電子加速方法。
【請求項30】
請求項29において、
さらに、電子ビーム放射窓を真空チャンバの長軸線に垂直に配置する電子加速方法。
【請求項31】
請求項29において、
さらに、電子ビーム放射窓を真空チャンバの長軸線に平行に配置する電子加速方法。
【請求項32】
請求項27において、
さらに、ハウジングの表面上の真空チャンバ内に含まれるイオン化分子を捕獲することにより、前記真空チャンバ内の真空度を上げる電子加速方法。
【請求項33】
請求項26において、
さらに、ハウジングの表面上の真空チャンバ内に含まれるイオン化分子を捕獲することにより、前記真空チャンバ内の真空度を上げる電子加速方法。
【請求項34】
請求項26において、
前記電子ビーム放射窓が外縁部を有し、さらに、前記外縁部を真空チャンバに接着して気密性を保つ電子加速方法。
【請求項35】
請求項26において、
前記受動的電界線整形手段を、ハウジング上の電子発生器を挟む両対向側面に第2およ
び第3の開口列を設けることにより形成する電子加速方法。
【請求項36】
電子ビーム放射窓を有する真空チャンバを設け、
前記真空チャンバ内に配置した電子発生器で電子を発生し、
前記電子発生器と電子ビーム放射窓間に第1開口列を有するハウジングにより前記電子発生器を囲み、
前記ハウジングと前記電子ビーム放射窓間に電圧を供給して、電子を前記電子発生器から電子ビームにして前記電子ビーム放射窓の外に加速し、
前記真空チャンバを密封して持続的にチャンバ内の真空を維持し、前記ハウジングの表面上の前記真空チャンバ内に含まれるイオン化分子を捕獲することにより、前記真空チャンバ内の真空度を上げる電子加速方法。
【請求項37】
電子ビーム放射窓を有し、細長い構造体内部に形成されて密封され持続的に前記真空を維持する真空チャンバを設け、
前記真空チャンバ内に配置した電子発生器で電子を発生し、
前記電子発生器に電力を供給する高電圧コネクタを細長い構造体内に配置し、
前記真空チャンバを高電圧絶縁体により前記高電圧コネクタから分離し、
前記電子発生器をハウジングにより囲み、このハウジングは、ハウジングにおける前記電子発生器と電子ビーム放射窓間に第1の開口列が形成され、前記ハウジングと前記電子ビーム放射窓間に電圧が供給されたときに、電子を前記電子発生器から電子ビームにして前記電子ビーム放射窓の外に加速するものである電子加速方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−181415(P2010−181415A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100538(P2010−100538)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【分割の表示】特願2009−183768(P2009−183768)の分割
【原出願日】平成9年12月30日(1997.12.30)
【出願人】(501230719)アドバンスト・エレクトロン・ビームズ・インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】