説明

電子レンジ用加熱容器

【課題】従来のフライパンやオーブンなどの電子レンジを使わずに加熱調理した場合と比較しても、味、食感、風味などの観点において遜色の無いよう食材を加熱調理することができる電子レンジ用加熱容器を提供する。
【解決手段】電子レンジ用加熱容器1は、底面部2と底面部2の周縁から立ち上がる側面部3とを備える。底面部2および側面部3には、食材と接触する側の面に、マイクロ波の照射を受けて発熱する導電性物質層4が設けられている。側面部3は、その全周にわたり周方向に沿って複数の山部30と谷部31とが交互に繰り返す横断面波形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジを利用して食材を加熱調理する際に用いる電子レンジ用加熱容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子レンジの普及に伴い、その利便性から電子レンジを用いて食材を加熱調理することが広く行われている。電子レンジは、マグネトロンから発生するマイクロ波を食材全体に照射することで、食材に含まれている水分子に振動を与えて共振させ、水分子同士の振動摩擦によって発生する熱により、食材を内部より加熱するものである。ただ、電子レンジを用いて食材を単に加熱するだけでは、例えば、焼いたり焦がしたりすることによって生ずる香ばしさや焦げ目、サクサク感(いわゆるクリスピー性)を食材に与えることができない。そこで、紙などでできたトレー状の容器本体の底部上面にマイクロ波の照射を受けて発熱する発熱シートを貼着した加熱容器内に食材を収容して、電子レンジにて加熱する方法が従来から広く行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の加熱容器では、マイクロ波の照射により発熱シートが発熱し、この熱によって、食材の発熱シートと接触する面に焦げ目やクリスピーな食感などを付与した状態で、食材を加熱することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−289692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電子レンジによる加熱は、上記したように、従来の焼いたり焦がしたりするといった外部からの加熱とは大きく異なり、マイクロ波を照射することによって食材中の水分子を振動させて加熱する内部加熱であることから、上記した特許文献1に記載の加熱容器のように、食材がマイクロ波を遮断しない加熱容器内に収容されていると、食材はマイクロ波に直接晒され、加熱時間が長くなるにしたがい、食材には相当量のマイクロ波が浴びせられることになる。そうすると、食材から必要以上の水分が放出されるので、食材は過加熱の状態となり、その結果、含水量の不足により硬くなって、加熱調理後の食材の味、食感、風味などの質が落ちるといった問題がある。
【0006】
特に、例えば、卵やパン・ホットケーキ用の生地などの固形性を有さない非固形状・半固形状の食材(流動性を有する食材)がマイクロ波照射により過度に加熱されると、食材の水分が必要以上に減少して硬くなるので、パサパサとした食感となってふっくら仕上がらず、加熱調理後の料理の見た目や食感が損なわれてしまう。また、ミートソースやホワイトソース、ピザソースなどの調味料がマイクロ波照射により過度に加熱されると、水分が過剰に蒸散して乾ききるために、スカスカした質感になったり、全体のボリューム感が低下したりするなどして、これまた加熱調理後の料理の味や見た目が損なわれてしまう。
【0007】
また、チーズやバターなどの加熱により流動性を得る食材がマイクロ波照射により過度に加熱されると、同様にチーズやバターなどから多くの水分が蒸散して乾燥してしまうため、加熱調理後のチーズの糸引き性(とろりとした食感)やバターの香味が悪くなってしまう。
【0008】
このように、電子レンジによるマイクロ波照射により食材を加熱調理する場合には、簡単に食材を加熱調理できるものの、オーブンやフライパンなどの外部より加熱する調理器具と比べると、マイクロ波の性質により食材の内部の水分が過度に蒸散してしまう結果、加熱調理後の食材の仕上がりの面で劣り、食指を誘うという意味において改善の余地がある。
【0009】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、従来のフライパンやオーブンなどの電子レンジを使わずに加熱調理した場合と比較しても、味、食感、風味などの観点において遜色の無いよう食材を加熱調理することができる電子レンジ用加熱容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による電子レンジ用加熱容器は、食材を電子レンジで加熱する際に用いられるものであって、底面部と、前記底面部の周縁から立ち上がる側面部とを備えており、前記底面部および側面部には、食材と接触する側の面に、マイクロ波の照射を受けて発熱する導電性物質層が設けられており、前記側面部は、その全周にわたり周方向に沿って複数の山部と谷部とが交互に繰り返す横断面波形状に形成されていることを特徴としている。
【0011】
上記した構成の電子レンジ用加熱容器内に食材を収容して電子レンジにて加熱すると、
電子レンジから放出されるマイクロ波は食材および加熱容器に照射される。これにより、食材は、マイクロ波照射によりその内部から加熱されるとともに、加熱容器の底面部および側面部に設けられた導電性物質層がマイクロ波の照射を受けて発熱し高温になる結果、導電性物質層からの熱伝導によって下方および側方からも加熱される。このとき、導電性物質層は、これに接触する食材の表面を直に加熱するので、望みに応じて食材には焼き目や焦げ目が付けられる。
【0012】
ここで、電子レンジから加熱容器に照射されたマイクロ波のうち、側面部に到達したマイクロ波は、金属などの導電性物質に当ると反射するので、マイクロ波の加熱容器内への侵入(食材への照射)を抑制することができる。また、側面部(導電性物質層)の表面は、複数の山部および谷部により凸凹状に形成されているので、側面部が平滑に形成されている場合と比較すると、導電性物質層の表面積が大きくなり、その抑制効果も高まるため、食材に照射されるマイクロ波の量が減少する。
【0013】
このように、本発明の加熱容器では、側面部に導電性物質層が設けられているとともに、側面部が横断面波形状に形成されていることで、食材に直接作用するマイクロ波の量、すなわち、マイクロ波照射による食材の内部加熱を抑制した状態で食材を加熱調理することができるので、その抑制効果により、食材内部の水分の蒸散量を減らすことができ、その結果、加熱調理後の食材は、ふっくらとした柔らかな食感が付与されるので、従来のフライパンやオーブンなどによる加熱に近い状態を実現することができる。
【0014】
また、側面部が複数の山部と谷部とにより表面が凸凹状に形成されていることで、側面部の表面積が大きくなるので、加熱時には、導電性物質層による伝熱面積が大きくなるため、食材への加熱力が高まる。一方、加熱後においては、側面部(導電性物質層)は、広い表面積を有することから、発生した熱が効率的に放熱されて、その温度が早く低下する。よって、加熱調理後、比較的短時間で火傷などの心配なく側面部を手で摘まんで加熱容器を持ち運びすることができる。
【0015】
さらに言及すれば、複数の山部および谷部が側壁部を補強するため、加熱容器の強度が向上するので、保型性にも優れたものとなり、食材(特に、固形性を有さない流動性を有する食材)を収容する際に食材の保持を安定して確実に行うことができる。
【0016】
本発明の好ましい実施態様の加熱容器においては、前記底面部および側面部は、紙からなる平坦なシート材の少なくとも一方の面に前記導電性物質層と前記導電性物質層を保護する耐熱性フィルム層とを積層して形成した1枚の発熱シートを成形することにより一体に形成されている。この実施態様によれば、前記底面部および側面部が、シート材と導電性物質層と耐熱性フィルム層とからなる1枚の発熱シートを成形することにより一体形成されるので、加熱容器を工程を減らした簡便な方法で、かつ、低価格で作製することができる。
【0017】
本発明のさらに好ましい実施態様の加熱容器においては、前記シート材は、坪量が20g/m〜120g/mの薄紙からなる。この実施態様によれば、シート材が薄紙により構成されていることから、加熱調理後、導電性物質層から伝達される熱がこもらず効果的に外気に放熱されるので、導電性物質層(側面部)の温度の早期低下を促進することができる。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施態様の加熱容器においては、前記底面部は、平面視において略円形状に形成されている。この実施態様は、マイクロ波の特性として、加熱容器の輪郭形状が角部のある角形状である場合には、角部にマイクロ波が集中して角部が優先的に照射され易いことに鑑みたものであり、底面部を平面視において略円形状として加熱容器の輪郭を角部のない滑らかなものとすることにより、角部へのマイクロ波の集中をなくして、マイクロ波を加熱容器に均一に照射させ、その結果、加熱容器が均一に発熱することにより、食材が均一に加熱されるようになっている。なお、略円形状としては、円状状、楕円形状、コーナ部を丸めた多角形状などが考えられる。
【0019】
本発明のさらに好ましい実施態様の加熱容器においては、周回する前記山部のピッチは、4個/10cm〜20個/10cmである。また、前記底面部の外周長に対する前記側面部の高さの比が、1/60〜3/4となるように形成されている。
【0020】
本発明のさらに好ましい実施態様の加熱容器においては、加熱容器の上面開口を塞ぐ取外し可能な蓋をさらに備えている。前記蓋は、食材上に被さる蓋体部と、前記蓋体部の周縁から垂れ下がる垂下壁部とを備え、前記蓋体部および垂下壁部には、食材と対向する側の面に、マイクロ波の照射を受けて発熱する導電性物質層が設けられており、前記垂下壁部は、その全周にわたり周方向に沿って複数の山部と谷部とが交互に繰り返す横断面波形状に形成されている。
【0021】
この実施態様によると、加熱容器の上面開口が蓋により覆われるので、食材の上方から照射されるマイクロ波は、蓋の導電性物質層により反射されるため、加熱容器内への侵入が抑制される。よって、食材へのマイクロ波の照射をほぼ完全に遮断することが可能になる。そして、蓋に設けられた導電性物質層がマイクロ波の照射により発熱して高温になるので、その熱伝導により食材は下方および側方からだけでなく、上方からも加熱されるようになる。その結果、食材はマイクロ波照射による内部加熱ではなく導電性物質層からの熱伝導による外部加熱により加熱されるようになるので、より従来のフライパンやオーブンなどによる加熱に近い状態を実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電子レンジ用加熱容器によると、従来のフライパンやオーブンなどの電子レンジを使わずに加熱調理した場合と比較しても、味、食感、風味などの観点において遜色の無いよう食材を加熱調理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例である電子レンジ用加熱容器の外観を示す斜視図である。
【図2】電子レンジ用加熱容器の平面図である。
【図3】電子レンジ用加熱容器の側面図である。
【図4】発熱シートの層構成を示す断面図である。
【図5】電子レンジ用加熱容器による食材の加熱調理の手順を示す説明図である。
【図6】加熱調理後の食材の状態を示す説明図である。
【図7】加熱調理後の食材の状態を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施例の電子レンジ用加熱容器の外観を示す斜視図である。
【図9】比較例の電子レンジ用加熱容器の外観を示す斜視図である。
【図10】実施例および比較例の電子レンジ用加熱容器で加熱調理した後の食材の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実態の形態について添付図面を参照して説明する。図1〜図3は、本発明の一実施形態である電子レンジ用加熱容器1(以下、単に「加熱容器1」という。)の外観を示している。この加熱容器1は、容器内に食材を収容して、食材を電子レンジ(図示せず)にて加熱調理するためのものであり、食材の加熱調理後は、使い捨てすることができるものとなっている。
【0025】
図示例の加熱容器1は、上面が開口したトレー状をなしており、食材を支持可能な底面部2と、底面部2の周縁から立ち上がる側面部3とを備えている。底面部2は、平面視においてほぼ円形状に形成されており、これにより、加熱容器1の輪郭形状を角部のない滑らかなものとしている。電子レンジのマグネトロン(図示せず)から発せられるマイクロ波は、容器の輪郭形状が角部のある角形状では、角部にマイクロ波が集中する特性を有しているので、角部が優先的に照射され易くなる。そのため、本実施形態では、底面部2を円形状とすることにより、角部へのマイクロ波の集中をなくして、加熱容器1の底面部2および側面部3にマイクロ波が均一に照射されるようにしており、その結果、詳細は後述するが、底面部2および側面部3がマイクロ波の照射を受けて均一に発熱するようになっている。
【0026】
なお、底面部2の形状は、円形状の他にも、長円形状や楕円形状、コーナ部を丸めた多角形状など、角部のない略円形状のものであれば、種々の形状を想定できる。
【0027】
また、本実施形態では、底面部2および側面部3にマイクロ波が均一に照射されるように、底面部2を角部のない略円形状としているが、必ずしもこれに限られるものではなく、底面部2を角形状に形成してもよい。
【0028】
側面部3は、底面部2に一体に形成されており、底面部2を囲繞する所定の高さの周壁をなしている。これにより、卵などの固形性を有さない非固形状・半固形状の食材(流動性を有する食材)やチーズやバターなどの加熱により流動性を得る食材を加熱容器1内に収容した場合でも、食材が加熱容器1からこぼれないようになっている。
【0029】
側面部3には、その上端から下端にかけて径方向外側に突き出る複数の山部30と径方向内側に凹む複数の谷部31とが、側面部3の全周にわたって、側面部3の周方向に沿って交互に繰り返して設けられている。この山部30および谷部31は、上方ほど幅広になるように形成されていて、側面部3は、その横断面(水平方向の断面)が波形状に形成されている。
【0030】
側面部3は、上記した山部30および谷部31が複数設けられて、その表面が凸凹状になっているために、表面が平滑な場合と比較すると、その表面積が大きくなっている。その結果、後述するように、マイクロ波の照射により発熱して食材を熱伝導により側方から加熱する側面部3の伝熱面積が大きくなるために、食材への加熱力が高まっている。さらに、加熱後においては、側面部3は、広い表面積を有することから、発生した熱が効率良く放熱されて、その温度が比較的早く低下するようになっている。
【0031】
加えて、複数の山部30および谷部31が側面部3を補強するため、加熱容器1の強度が向上するので、保型性にも優れたものとなり、食材(特に、流動性を有する食材)を収容した場合に、食材を安定した状態で保持することが可能である。
【0032】
周回する山部30のピッチ、すなわち、隣り合う2つの山部30,30の間隔は、4個/10cm〜20個/10cmの範囲であることが好ましく、8個/10cm〜17個/10cmがより好ましい。ピッチが4個/10cm未満であると、側面部3の表面がフラットな場合と表面積があまり変わらないため、食材に対する加熱力があまり上がらず、また、側面部3の補強が十分でないからである。
【0033】
また、山部30および谷部31の高低差hは3mm〜10mmの範囲であることが好ましい。高低差hが3mm未満であると、表面の凹凸が小さすぎて、側面部3の表面がフラットな場合と表面積があまり変わらないため、食材に対する加熱力があまり上がらず、また、側面部3の補強が十分でないからである。一方、高低差hが10mmを越えると、表面の凹凸が大きくなりすぎて、実用的ではないからである。
【0034】
底面部2および側面部3には、食材と接触する側の面に、マイクロ波の照射を受けて発熱する導電性物質層4が設けられている。この導電性物質層4は、電子レンジによる加熱の際に発熱して高温(約170℃〜250℃)になることで、熱伝導により、食材を下方および側方より加熱し、必要に応じてこれに接触する食材の表面に焦げ目や焼き目を付けたりするなどして、食材を加熱調理するために設けられたものである。
【0035】
導電性物質層4は、例えば、アルミニウムやニッケル、ステンレス、金、銀、白金、亜鉛などの金属薄膜により形成されている。この導電性物質層4にマイクロ波が照射されると、導電性物質層4で渦電流に変わる。導電性物質層4は電気抵抗を持っているので、渦電流が流れることによりジュール熱が発生し、これにより、導電性物質層4が発熱する。
【0036】
ここで、加熱容器1の大きさ(底面部2の直径d)は、特に限定されるものではなく、その用途に応じて種々の大きさに設定することができる。例えば、この加熱容器1を、例えばお弁当などにコンパクトに収納して料理を提供するのに用いる場合には、底面部2の直径dは約3cm〜5cm程度であることが好ましい。また、夕食時などの一品料理を作るのに用いる場合には、底面部2の直径dは約5cm〜25cm程度であることが好ましい。ただし、底面部2の直径dが小さすぎると(例えば3cmより小さいと)、加熱容器1が小さすぎて調理がしにくく、一方、底面部2の直径dが大きすぎると(例えば25cmを超えると)、加熱容器1の保形性が低下して変形し易くなる可能性がある。
【0037】
また、加熱容器1の深さ、すなわち、側面部3の高さHも、特に限定されるものではなく、その用途に応じて種々の大きさに設定することができるが、1cm以上が好ましい。高さHが1cm未満であれば、加熱容器1内に収容した食材(特に、流動性を有する食材)がこぼれるなどして調理しにくい上に、側面部3の高さHが低いと、後述するように、側面部3によりマイクロ波が加熱容器1内に進入するのを防ぐ遮断効果がほとんど発揮されず、食材に照射するマイクロ波の量を抑制できないからである。一方、高さHが高ければ高いほど、側面部3によるマイクロ波の遮断効果が発揮されるので好ましいが、お弁当などに収納する場合には、最大で約2cm〜4cm程度に抑える必要があり、また、その他の用途においても、側面部3の高さHが高すぎると(例えば10cmを超えると)、嵩張って持ち運びがしにくくなる可能性がある。
【0038】
以上のことを考慮すると、加熱容器1の大きさ、具体的には、底面部2の外周長(本実施例ではπd)に対する加熱容器1の深さ(側面部3の高さH)の比は、1/60〜3/4の範囲にあることが好ましく、1/20〜1/2の範囲にあることがより好ましい。
【0039】
本実施形態では、上記した底面部2および側面部3は、図4に示すように、紙からなる平坦なシート材5の少なくとも一方の面に、接着剤の層(接着層)6を介して導電性物質層4と、導電性物質層4を保護する耐熱性フィルム層7とを積層して形成した1枚の発熱シート8を、シート材5を最表面にして成形することにより、一体に形成されている。具体的には、円形にカットした所定の大きさの発熱シート8を、折り目10(図1に示す)に沿って、シート材5が最表面となるように側面部3を折り起こして底面部2の周囲に立ち上げた状態にするとともに、側面部3の全周にわたって、外折りおよび内折りの折り目11,12(図1に示す)に沿って、山折りおよび谷折りを交互に繰り返し行うことにより、一体形成されている。このような成形に際しては、例えば、プレス加工機などを利用することができる。
【0040】
発熱シート8の耐熱性フィルム層7としては、導電性物質層4による発熱に対して耐熱性のあるフィルムであれば、特に種類を限定する必要はないが、金属薄膜の蒸着加工適性を有しているフィルムを使用するのが好ましく、例えば、厚さが9μm〜50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)が好適である。
【0041】
導電性物質層4は、アルミニウムやニッケル、ステンレス、金、銀、白金、亜鉛などの金属薄膜を耐熱性フィルム層7上に蒸着することにより形成されるが、コスト面などを考慮するとアルミニウム薄膜により形成することが好ましく、また、その薄膜の厚みは50〜150オングストロームの範囲が好ましい。蒸着方法としては、例えば、公知の真空蒸着法およびスパッタリング法などの気相堆積法を利用することができる。
【0042】
シート材5を構成する紙の材質や厚さは、特に限定されるものではないが、紙厚が坪量20g/m〜120g/m 程度の薄紙を使用するのが好適である。厚みの薄い薄紙を使用することにより、電子レンジによる加熱調理の完了後に、導電性物質層4から伝達される熱がこもらずに効果的に外気に放熱されるので、導電性物質層4(側面部3)の温度の早期低下を促進することができる。上記した構成の発熱シート8の具体例としては、例えば、凸版印刷株式会社製のサセプター(登録商標)が商用的には入手可能である。
【0043】
なお、本実施形態では、シート材5の片面に、接着層6、導電性物質層4、耐熱性フィルム層7を積層してなる発熱シート8を成形することにより、加熱容器1が作製されているが、これに限られるものではなく、例えば、紙などからなる容器(図示せず)を作製した後に、別に作製した耐熱性フィルム層7上に蒸着によりアルミニウム薄膜などの導電性物質層4を形成した構成の発熱用のシート(図示せず)を、所定の形状にカットして前記容器の底面や側面に接着などにより貼り付けることで、加熱容器1を作製するようにしてもよい。
【0044】
次に、上記した構成の加熱容器1を用いて食材を加熱調理する方法を説明する。まず、加熱容器1の底面部2上に、図5に示すように、所望の料理を構成する種々の食材を載せる。その際、焦げ目や焼き目を付けたい食材については底面部2上に直に載せる。図示例では、餃子の皮1枚を加熱容器1の底面部2上に敷いた後、餃子の皮の上に、適当な大きさにちぎった薄切りハム、スライスチーズを1枚分乗せ、その上からケチャップを適量かけている。なお、図5に示される加熱容器1は、その寸法が、加熱容器1の下面(底面部2)の直径d(図2に示す)が9cmに、上面の直径D(図3に示す)が10.5cmに、側面部3の高さH(図3に示す)が4cmに、山部30および谷部31の高低差h(図2に示す)が4mmに、それぞれ設定されている。
【0045】
そして、食材を収容した加熱容器1を電子レンジ内に載置して、電子レンジによる加熱を所定の時間行う。図示例では、600Wで約1分間、電子レンジにて加熱し、加熱後の状態が図6に示されている。このようにして電子レンジによる加熱が行われると、電子レンジから放出されるマイクロ波は食材および加熱容器1に照射される。これにより、食材は、マイクロ波照射によりその内部から加熱されるとともに、加熱容器1の底面部2および側面部3に設けられた導電性物質層4がマイクロ波の照射を受けて発熱し高温になる結果、導電性物質層4からの熱伝導によって下方および側方からも加熱される。このとき、導電性物質層4は、これに接触する食材の表面を直に加熱するので、望みに応じて食材に焼き目や焦げ目が付けられる。
【0046】
ここで、電子レンジから加熱容器1に照射されたマイクロ波のうち、側面部3に外側から到達したマイクロ波は反射され、加熱容器1内への侵入(食材への照射)が遮断されている。また、側面部3に内側から到達したマイクロ波は反射されるが、側面部3(導電性物質層4)の表面は、複数の山部30および谷部31により凸凹状に形成されているので、マイクロ波は側面部3(導電性物質層4)の表面で反射されて四方八方に拡散するので、側面部3が平滑に形成されている場合と比較すると、食材に照射されるマイクロ波の量が減少する。
【0047】
このように、本実施形態の加熱容器1では、側面部3に導電性物質層4が設けられているとともに、側面部3が横断面波形状に形成されていることで、食材に直接作用するマイクロ波の量、すなわち、マイクロ波照射による食材の内部加熱を抑制した状態で食材を加熱調理することができるので、その抑制効果により、食材内部の水分の蒸散量を減らすことができ、その結果、図6に示すように、加熱調理後の食材は、ふっくらとした柔らかな食感が付与される。
【0048】
さらに図7は、バターを加熱容器1の底面部2上に乗せた後、よくかき混ぜた卵2個にすりつぶしたジャガイモ1個、牛乳100mlを混ぜ込んだものを加熱容器1内に流し込み、600Wで約4分間、電子レンジで加熱した後の状態を示している。図7からも分かるように、本実施形態の加熱容器1で加熱調理した卵のオムレツは、見た目にもふっくらとおいしそうに焼けており、柔らかな食感を感じることができる。このように本実施形態の加熱容器1を使用すると、従来のフライパンやオーブンなどによる加熱に近い状態を実現することが可能となっている。なお、図7に示される加熱容器1は、その寸法が、加熱容器1の下面(底面部2)の直径d(図2に示す)が12.4cmに、上面の直径D(図3に示す)が15.3cmに、側面部3の高さH(図3に示す)が4cmに、山部30および谷部31の高低差h(図2に示す)が4mmに、それぞれ設定されている。
【0049】
また、本実施形態の加熱容器1では、側面部3が凸凹状になっていることで、側面部3の表面積が大きくなるので、加熱時には、導電性物質層4による伝熱面積が大きくなるために、食材への加熱力が高まっており、しっかりと食材に熱を通すことができる。一方、加熱調理後においては、導電性物質層4は、広い表面積を有することから、発生した熱が効率よく放熱されて、その温度が比較的早く低下する。加えて、シート材5が厚みの薄い薄紙で構成されていることにより、導電性物質層4から伝達される熱がこもらずに効果的に放熱されるので、加熱調理後短時間で、火傷などの心配なく側面部3を手で摘まむことができ、加熱容器1を持ち運びすることができる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明の具体的な態様は上記した実施形態に限定されない。例えば、本実施形態では、加熱容器1はその上面が開口しており、上面から食材にマイクロ波の照射が可能となっているが、図8に示すように、この上面開口を塞ぐ取外し可能な蓋9をさらに備えるように構成してもよい。
【0051】
図示例の蓋9は、下面が開口しており、食材上に被さる平面視略円形状の蓋体部90と、蓋体部90の周縁から垂れ下がる垂下壁部91とを備えている。垂下壁部91は、上記した加熱容器1の側面部3と同様、その全周にわたり周方向に沿って、複数の山部92と谷部93とが交互に繰り返す横断面波形状に形成されており、蓋体部90および垂下壁部91には、食材と対向する側の面に、マイクロ波の照射を受けて発熱する導電性物質層4が設けられている。
【0052】
この蓋9も、シート材5の片面に、接着層6、導電性物質層4、耐熱性フィルム層7を積層してなる1枚の発熱シート8を、プレス加工機などを用いて成形することにより作製することができ、蓋9の大きさは、加熱容器1の大きさとほぼ同じか、それよりも少し大きく設定されている。
【0053】
この実施形態によると、加熱容器1の上面開口が蓋9により覆われるので、食材の上方から照射されるマイクロ波は、蓋9の導電性物質層4により反射されるため、加熱容器1内への侵入が抑制される。よって、食材へのマイクロ波の照射をほぼ遮断することが可能になる。そして、蓋9の蓋体部90および垂下壁部91に設けられた導電性物質層4がマイクロ波の照射により発熱して高温になるので、その熱伝導により食材は下方および側方からだけでなく、上方からも加熱されるようになる。その結果、食材はマイクロ波照射による内部加熱ではなく導電性物質層4からの熱伝導による外部加熱により加熱されるようになるので、食材内部の水分の蒸散量を減らすことができ、より従来のフライパンやオーブンなどによる加熱に近い状態を実現することが可能である。
【実施例】
【0054】
以下、図1〜図3に示す加熱容器1を使用してキノコのバターソテーを調理した実施例を示す。なお、比較例として、図9に示すように、側面部102に山部および谷部が形成されていない、その表面が平滑な加熱容器100を使用してキノコのバターソテーを調理した例を示す。
【0055】
図10に示すように、両加熱容器1,100の底面部2,101上に、それぞれエリンギやシメジを満遍なく等量並べた。そして、大さじ1杯のバターをそれぞれ底面部2,101の真ん中に置き、その上から小さじ1杯の醤油を全体にかけた後、これを電子レンジ(シャープ社製「ヘルシオAX−S1」)を用いて600Wで3分間加熱した。加熱調理後、それぞれの料理について、その味、風味、食感などを基準とした満足度を、5人のパネラーを対象に1〜5の5段階評価による官能試験を行い、その結果が表1に示されている。なお、5段階評価の内容は、以下の通りである。なお、図10に示される加熱容器1は、その寸法が、加熱容器1の下面(底面部2)の直径d(図2に示す)が12.4cmに、上面の直径D(図3に示す)が15.3cmに、側面部3の高さH(図3に示す)が4cmに、山部30および谷部31の高低差h(図2に示す)が4mmに、それぞれ設定されている。
【0056】
5=満足。
4=どちらかといえば満足。
3=どちらともいえない。
2=どちらかといえば不満。
1=不満。
【0057】
【表1】

【0058】
また、加熱調理後のそれぞれの料理の比較評価として、5人のパネラーに、どちらの料理の方が食材がふっくらとしていて柔らかな食感を感じることができたかを判定してもらった。その結果が表2に示されている。なお、それぞれの判定(点数化)は、下記の評価指標に基づいて行った。
【0059】
・実施例の方がふっくらしている=実施例3点、比較例0点。
・どちらかといえば実施例の方がふっくらしている=実施例2点、比較例0点。
・同等=実施例1点、比較例1点。
・どちらかといえば比較例の方がふっくらしている=実施例0点、比較例2点。
・比較例の方がふっくらしている=実施例0点、比較例3点。
【0060】
【表2】

【0061】
表1から分かるように、実施例の加熱容器1にて加熱調理した料理の方が、比較例の加熱容器100で加熱調理した料理よりも、5人のパネラーの全てにおいてその満足度が高く、しかも、その満足度自体についても高い評価を受けていた。さらに、表2から分かるように、実施例の加熱容器1にて加熱調理した料理の方が、比較例の加熱容器100で加熱調理した料理よりも、食材がふっくらとした柔らかな食感を残していておいしく仕上がっているとの評価を受けた。
【0062】
以上の結果から、本発明の加熱容器1では、側面部3が横断面波形状、すなわち、側面部3の表面が凸凹状に形成されていることで、その表面積が大きくなって食材への加熱力が高まっているとともに、食材に直接作用するマイクロ波の量が抑制されるので、加熱調理される食材は、このマイクロ波の抑制効果により、内部に含まれている水分の蒸散量が減少して十分に水分が残存しているために、ふっくらとした柔らかな食感を感じられることが確認された。
【0063】
これに対して、比較例の加熱容器100では、側面部102の表面に凹凸がなく平滑であるために、本発明の加熱容器1と比べると、食材への加熱力が弱く、かつ、食材に照射されるマイクロ波の抑制効果も低いために、加熱調理される食材は、内部に含まれている水分が必要以上に蒸散して、結果的に残存する水分の量が少ないため、食感などにおいて劣ることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 加熱容器
2 底面部
3 側面部
4 導電性物質層
5 シート材
7 耐熱性フィルム層
8 発熱シート
9 蓋
30 山部
31 谷部
90 蓋体部
91 垂下壁部
92 山部
93 谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面部と前記底面部の周縁から立ち上がる側面部とを備える電子レンジ用加熱容器であって、
前記底面部および側面部には、食材と接触する側の面に、マイクロ波の照射を受けて発熱する導電性物質層が設けられており、
前記側面部は、その全周にわたり周方向に沿って複数の山部と谷部とが交互に繰り返す横断面波形状に形成されている電子レンジ用加熱容器。
【請求項2】
前記底面部および側面部は、紙からなる平坦なシート材の少なくとも一方の面に前記導電性物質層と前記導電性物質層を保護する耐熱性フィルム層とを積層して形成した1枚の発熱シートを成形することにより一体に形成されている請求項1に記載の電子レンジ用加熱容器。
【請求項3】
前記シート材は、坪量が20g/m〜120g/mの薄紙からなる請求項2に記載の電子レンジ用加熱容器。
【請求項4】
前記底面部は、平面視において略円形状に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の電子レンジ用加熱容器。
【請求項5】
周回する前記山部のピッチは、4個/10cm〜20個/10cmである請求項1〜4のいずれかに記載の電子レンジ用加熱容器。
【請求項6】
前記底面部の外周長に対する前記側面部の高さの比が、1/60〜3/4となるように形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の電子レンジ用加熱容器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電子レンジ用加熱容器であって、
該加熱容器の上面開口を塞ぐ取外し可能な蓋をさらに備え、前記蓋は、食材上に被さる蓋体部と、前記蓋体部の周縁から垂れ下がる垂下壁部とを備え、前記蓋体部および垂下壁部には、食材と対向する側の面に、マイクロ波の照射を受けて発熱する導電性物質層が設けられており、
前記垂下壁部は、その全周にわたり周方向に沿って複数の山部と谷部とが交互に繰り返す横断面波形状に形成されている電子レンジ用加熱容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−103915(P2011−103915A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258997(P2009−258997)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】