説明

電子制御ユニット

【課題】 制御プログラムにより処理を実行して対象の制御を行う電子式制御ユニットについて、複雑な処理を要さずコストの高騰を招かないものとしながら、その制御方法について他人の模倣を確実に防止できるようにする。
【解決手段】 記憶手段5に記憶された所定の制御プログラムにより主制御手段2で処理を実行し対象となる負荷6に制御信号を出力して制御を行う電子式制御ユニット1において、その制御信号の通過経路に対象となる負荷6の機械的性能に影響を与えない範囲で制御信号に所定の加工を加える暗号付加手段3を設け、暗号付加手段3を通過した制御信号を取り込んでこれが所定の加工が加えられた信号であるか否かを判定する制御信号判定手段4を設けたものとして、制御信号判定手段4が所定の加工が加えられた信号であると判定した場合にのみ主制御手段2による制御信号を継続して出力させるものとし、それ以外の場合はその出力を停止させるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の制御プログラムに基づいて各種の機器(対象である負荷)を制御する電子制御ユニット(ECU)に関し、殊に、制御プログラムが他人に解析またはコピーされて同種の電子制御ユニットに適用されることで、その制御方法が模倣されることを回避可能とした電子制御ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、記憶手段に記憶された所定の制御プログラムで対象である負荷を制御するための電子制御ユニットについて、その記憶手段に記憶された制御プログラムを解析し、或いはコピー等を行い、これを同種の電子制御ユニットにインストールすることにより、その制御方法に関する貴重な技術やノウハウがそのまま模倣されてしまうという問題が生じている。
【0003】
この問題に対して、例えば特開平5−341970号公報に記載されているように、システム立ち上げ前に命令開始アドレスを任意に設定することができるベクタアドレス発生機構を設け、ユーザごとに異なる命令開始アドレスを設定することで、第三者が制御プログラムを模倣した場合にはシステムが正常に動作しないようにした電子制御ユニットが知られている。
【0004】
この電子制御ユニットによれば、制御プログラムが第三者に知られたとしても任意に設定した制御プログラムの先頭位置が分からないことから、異なるアドレス位置で制御プログラムを開始しても正常に動作しないので、解読及び模倣を困難なものにすることができる。
【0005】
ところが、この電子制御ユニットを実施するにはリセット時に先頭アドレスを記憶するためのベクタアドレス用メモリおよびこれを保持するためのベクタアドレス保持用レジスタ等、追加の部品または機能を多数必要とするので製造コストが高くなるばかりか、ユーザごとに命令開始アドレスを設定しなければならず多大な時間と労力を必要とする。
【0006】
一方、特開2004―70556号公報に記載されているように、電子制御ユニット内にキー情報生成手段を設け、そのキー情報を用いて複号手段が外部記憶手段(ROM)からの符号化プログラムデータを複号処理してなる複号プログラムデータを内部の書き換え可能メモリに書き込んでこれにより制御を行うプログラマブルロジックデバイスも知られている。
【0007】
このように構成にすることで、第三者に知り得ないキー情報と符号化プログラムデータとの組み合わせによる複号プログラムデータでなければ正常な機能が発揮できないことになり、これが保持されている記憶手段が内部の書き換え可能メモリであることからその解析やコピーが困難なものとなって、第三者の模倣を防止することができる。
【0008】
しかしながら、通常の制御に加えて制御プログラムの模倣を防止するために上述した複雑な処理を実施する必要があり、電子制御ユニットの処理負担が増大してその処理速度が遅くなりやすい。
【0009】
従って、例えば汎用エンジンの制御に用いる電子制御ユニットのように記憶手段に記憶されている制御プログラムの内容自体が特に重要視されるとともに迅速なレスポンスの確保ため早い処理速度が要求される場合には、エンジンの制御が的確に実行されずにエンジン運転に不調を来す原因となってしまうという問題がある。
【特許文献1】特開平5−341970号公報
【特許文献2】特開2004―70556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、制御プログラムにより処理を実行して対象の制御を行う電子制御ユニットについて、複雑な処理を要さずコストの高騰を招かないものとしながら、その制御方法について他人の模倣を確実に防止できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明は、記憶手段に記憶された所定の制御プログラムからの制御信号により主制御手段で処理を実行し対象である負荷に出力して制御を行う電子制御ユニットにおいて、その制御信号の通過経路に対象である負荷の機械的性質に影響を与えない範囲で制御信号に所定の加工を加える暗号付加手段とこの暗号付加手段を通過した制御信号を取り込んでこれが所定の加工が加えられた信号であるか否かを判定する制御信号判定手段とを設け、前記制御信号判定手段が所定の加工が加えられた信号であると判定した場合には主制御手段による制御信号を継続して出力させるものとして対象となる負荷を駆動し、所定の加工が加えられた信号でないと判定した場合には主制御手段による制御信号の出力を停止して負荷を駆動させない。
【0012】
このように、本発明は、暗号付加手段および制御信号判定手段を追加して、出力された制御信号が独自の信号であるか否かを判定するという比較的簡単且つ安価な構成および処理により、他人がその記憶手段に記憶された制御プログラムをコピー等することで同種の制御信号を適用しても、出力された制御信号は取り込まれないか或いは取り込まれても暗号付加手段で未加工であると判断されて主制御手段による制御信号の出力は停止されることになるため、他人による電子制御ユニットの模倣は確実に防止される。
【0013】
また、その暗号付加手段による制御信号の加工を、制御信号の波形において対象の機械的性能に影響を与えない範囲の幅を有する凹部またはOFF部を所定間隔で設ける方形波とすれば、簡単な処理で制御信号を加工できるとともにその判定も容易となるため、暗号付加手段追加のためのコストを低く抑えることが容易となり、且つ、制御信号判定手段による判定も処理負担が軽く迅速なものとすることができる。
【0014】
さらに、その制御信号判定手段による判定を電子制御ユニットの作動中において一回だけ実行するものとすれば、判定のための電子制御ユニットの処理負担を必要最低限に抑えることができるため、他の制御対象に関する処理が遅延して制御が阻害される心配を軽減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、暗号付加手段および制御信号判定手段を追加するだけの比較的簡単な構成で模倣による制御信号であるか否かを容易に判定することができ、しかも製造コストならびに処理負担の増大を招くことなく、電子制御ユニットの模倣を確実に防止することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明すると、図1は本実施の形態の電子制御ユニット(ECU)1の機能ブロック図を示すもので、電子制御ユニット1は例えば車両用であって、エンジンの制御方法(システム)を実行させるための制御プログラムが記憶手段(例えばROM)5に記憶されており、これにより主制御手段(CPU)2で処理を実行して所定のアクチュエータを具備した例えば燃料噴射装置などの制御対象6に制御信号を出力するものである。
【0017】
そして、主制御手段2の下流側に暗号生成手段3を配置し、これに制御信号を通過させることで制御信号に独特の暗号を付加さした状態に加工し、制御対象である負荷6に向かって出力する。
【0018】
本実施の形態では、電子制御ユニット1内側で暗号生成手段3の下流側において、出力するための配線が分岐して制御信号が制御信号判定手段4に取り込まれるようになっており、これにより取り込まれた制御信号が暗号生成手段3で所定の加工を加えられた信号であるか否かを判定して、その判定結果により主制御手段2の出力をコントロールするようになっている。
【0019】
図2は電子制御ユニットから制御対象に出力される制御信号に関して、従来の制御信号と本実施の形態における制御信号を加工して判定信号を加えたものとの波形図を比較するものであり、図2(A)に示す従来の電子制御ユニットによる制御信号においてON状態で平坦な波形のみを示しているのに対し、図2(B)に示す本実施の形態による制御信号は、ON状態で所定幅のOFF部Yが所定間隔で形成された波形となっている。
【0020】
即ち、暗号生成手段3は、例えばタイマ機能および電圧調整機能を具えて所定間隔で信号を所定時間所定電圧以下にする機能を有したものとして制御信号を上述したOFF部Yを有した方形波に加工するものであり、出力された制御信号が電子制御ユニット1の正当な実施者による制御信号であるか否かを識別するための暗号を付与するものである。尚、波形のOFF部Yの代わりに所定の段差を形成する波形の凹部(定電圧部)を形成するものとしても同様の作用を発揮する。
【0021】
図3は本実施の形態についての判定手段4における出力信号判定のフローチャートを示すものであり、暗号生成手段3を通過した制御信号を、電子制御ユニット1内部における出力配線の分岐部で分岐させて取り込み(A1)、所定の加工済み信号であるが否か、即ち、波形に所定間隔で設けられたOFF部Yを有する信号であるか否かを判定する(A2)。
【0022】
そして、所定の加工済み信号であると判断した場合、即ち、前記図2(B)に示す波形が一致した場合は、主制御手段2に指令してその出力を継続させ(A3)、加工済み信号ではないと判断した場合はその出力を停止させる(B1)。
【0023】
また、他の同種の制御装置に制御プログラムをコピーするだけの模倣の場合には出力信号を取り込む配線が存在しないのが通常であり、制御プログラムで実現される制御信号判定手段4に出力信号が取り込まれないことになるが、この場合も主制御手段2に指令してその出力を停止させるようになっている。
【0024】
即ち、制御信号判定手段4に制御信号が取り込まれ、これが所定の加工済み信号であると判断した場合のみ主制御手段2による出力が継続され、それ以外の場合は総て出力が停止させるものである。尚、この判断は制御信号判定手段4に所定の波形の信号のみ通過させるフィルタ機能を設け、この通過した信号が主制御手段2の出力継続指令とし、信号が通過しないことが出力停止指令となるようにするものでもよく、また、電子制御ユニット1の作動中において一度だけこの判断を実行するようにすることで、同様な処理を繰り返すことによる処理負担の増加を回避することができる。
【0025】
本電子制御ユニット1は、上記のように簡易な構成であり高い処理能力を必要とせずに比較的低廉なコストで製造できるものであり、記憶手段5に記憶された制御プログラムによる制御信号で模倣によるものであるか否かを比較的簡単な処理により判断して、制御方法の模倣を確実に回避することができるものである。また、その処理負担は比較的軽いものであるため、同時に他の制御対象である負荷について迅速な制御を行うことが要求される車両用の電子制御ユニットに特に好適なものである。
【0026】
尚、制御信号判定手段4は電子制御ユニット1の記憶手段5に記憶された制御プログラムにより実現されるものとすれば、同種の電子制御ユニットに制御プログラムをコピーするのみで模倣しようとする場合でも防止機能を発揮することができものである。
【0027】
一方、暗号生成手段3は別部品として制御信号の出力経路中に設けるものとすれば、記憶手段5の制御プログラムを解読またはコピーすることによる他人の模倣から、その暗号内容を保護しやすいものとなる。
【0028】
以上述べたように、本実施の形態に係る電子制御ユニット1を暗号付加手段および制御信号判定手段を追加するだけの比較的簡易な構成として、制御信号に独特の波形を設けて出力した制御信号を取り込んで判定するだけ簡易な処理を実行するものとすることで、模倣による制御信号であるか否かを容易に判定することができ、コストの高騰や処理負担の増大を招くことなく他人による制御方法の模倣を確実に防止することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態における機能ブロック図。
【図2】(A)は従来例における制御信号の波形図、(B)は図1の暗号生成手段により加工された制御信号の波形図。
【図3】図1の判定手段における機能を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0030】
1 電子制御ユニット、 2 主制御手段、 3 暗号生成手段、 4 制御信号判定手段、 5 記憶手段、 6 負荷


【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶手段に記憶された所定の制御プログラムからの制御信号により主制御手段で処理を実行し対象である負荷に出力して制御を行う電子制御ユニットにおいて、
前記制御信号の通過経路に対象である負荷の機械的性質に影響を与えない範囲で制御信号に所定の加工を加える暗号付加手段と前記暗号付加手段を通過した前記制御信号を取り込んでこれが所定の加工が加えられた信号であるか否かを判定する制御信号判定手段とを具え、前記制御信号判定手段が所定の加工を加えられた信号であると判定した場合には主制御手段による制御信号を継続して出力させるものとして対象となる負荷を駆動し、所定の加工が加えられた信号でないと判定した場合には主制御手段による制御信号の出力を停止させるものとした、
ことを特徴とする電子式制御ユニット。
【請求項2】
前記暗号付加手段による制御信号の加工は、前記制御信号の波形において前記対象となる負荷の機械的性能に影響を与えない範囲の幅を有する凹部またはOFF部を所定間隔で設けた方形波である請求項1に記載した電子式制御ユニット。
【請求項3】
前記制御信号判定手段による判定は、前記電子式制御ユニットの作動中において一回だけ実行するものとされている請求項1または2に記載した電子式制御ユニット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−31302(P2006−31302A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208001(P2004−208001)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】