説明

電子制御装置および電子制御機器の制御方法

【課題】 移動体の電子制御機器の正常状態または異常状態を検出して電子制御機器を制御するための電子制御装置および制御方法に関し、移動体が一定時間走行または停止している場合、電子制御機器が正常状態とも異常状態とも定義できない状態にあるときに、電子制御機器の正常状態または異常状態を正確に検出できるようにすることを目的とする。
【解決手段】 特定のセンサ20の検知信号の正常検出または異常検出スレッショールドレベルにより、電子制御機器8の正常状態または異常状態を検出する正常/異常検出手段11と、一定時間が経過しても正常状態または異常状態が検出されない場合、正常/異常未定義状態になっている旨を示すフラグを有する正常/異常未定義状態識別手段13と、当該フラグの状態に応じて、正常検出または異常検出スレッショールドレベルを予め規定された側に移動させるスレッショールドレベル移動処理手段14とを備えるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体内の電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを正確に検出することによって、当該電子制御機器を正しく制御するための電子制御装置、および電子制御機器の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両等の移動体内には、通常ECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)とも呼ばれるコンピュータが内蔵された電子制御装置が設けられている。このような電子制御装置においては、運転者等が快適な運転を行えるようにするために、移動体内の電子制御機器(例えば、電子制御式エンジン)を正しく制御することが要求される。
【0003】
それゆえに、車両等の移動体内には、電子制御装置の現在の状態を正確に把握することができるようにするために、A/Fセンサ(空燃比センサ)や吸気温センサや水温センサ等の各種のセンサが取り付けられている。これらのセンサの中で、電子制御式エンジン等の空気対燃料比を感知するA/Fセンサは、電子制御式エンジン等の電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを正確に検出する上で特に重要である。
【0004】
図1は、従来の電子制御機器の制御方法を説明するためのグラフである。ここでは、移動体に取り付けられたA/Fセンサにより検知される検知信号を使用して、電子制御式エンジン等の電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを検出するための従来の電子制御機器の制御方法を説明する。
【0005】
一般に、A/Fセンサは、経年変化等によりその応答性(感度)が時間と共に低下していく。それゆえに、A/Fセンサにより検知される検知信号のレベルに対して単一のスレッショールドレベルのみを設定した場合、A/Fセンサの応答性の低下によって、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを再現性良く検出することが難しくなる。このため、従来の電子制御機器の制御方法においては、A/Fセンサにより検知される検知信号のレベル(相対値)に対して、2種類のスレッショールドレベル(例えば、図1のように、電子制御機器が異常状態であることを検出するための異常検出スレッショールドレベルVth1と、電子制御機器が正常状態であることを検出するための正常検出スレッショールドレベルVth2)を設定し、これらの2種類のスレッショールドレベルの間に、A/Fセンサの応答性の低下による影響を回避するための「グレーゾーン」と呼ばれる領域を設定していた。
【0006】
より詳しく説明すれば、電子制御装置は、A/Fセンサからの検知信号のレベルが異常検出スレッショールドレベルVth1より高い場合、電子制御機器が異常状態にあると判定し(図1の異常ゾーン)、上記検知信号のレベルが正常検出スレッショールドレベルVth2より低い場合、電子制御機器が正常状態にあると判定する(図1の正常ゾーン)。これに対して、A/Fセンサからの検知信号のレベルが、正常検出スレッショールドレベルVth2と異常検出スレッショールドレベルVth1との間のグレーゾーンにある場合、電子制御装置は、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを判定しないようにしている。このようにすれば、図1に示すように、車両等の移動体が走行を開始してから所定の時間が経過した後に、電子制御機器が異常状態にあるかまたは正常状態にあるかを正確に判定することができるので、A/Fセンサの応答性の低下による影響を回避することができるようになる。
【0007】
しかしながら、図1に示したような従来の制御方法に従って電子制御機器の正常状態または異常状態を検出する処理を行った場合、A/Fセンサの応答性の低下が予想以上に大きくなること等によって、移動体が走行を開始してから相当の時間が経過した後でも、A/Fセンサからの検知信号のレベルが、正常検出スレッショールドレベルVth2と異常検出スレッショールドレベルVth1との間のグレーゾーンに位置しているままになっているケースが少なからず存在する。このようなケースでは、移動体が走行を開始してから相当の時間が経過しても、異常とも正常とも定義できない状態が長時間存在し続けるので、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを正確に検出することが困難になるという問題が生じてくる。この結果、運転者等が快適な運転を行うことが難しくなってくる。
【0008】
ここで、参考のため、従来の電子制御機器の制御方法に関連した技術内容が記載された特許文献1(7−36727号公報)および特許文献2(特開平7−46676号公報)を呈示する。
【0009】
特許文献1においては、コンピュータシステム内の自己診断を実行する場合に、所定の各診断部位に関して、当該診断部位の異常を検出する異常検出手段と、この異常検出手段による異常検出が所定の回数の連続するトリップ(イグニッションスイッチのオンからオフまでの1回の走行)にわたって検出される第1の故障状態を判定する第1の判定手段と、上記異常検出手段による異常検出が所定の回数のトリップにおいて検出される第2の故障状態を判定する第2の判定手段とを備えた自己診断車両制御用コンピュータシステムの構成が開示されている。
【0010】
特許文献2においては、診断装置から選択された電子制御装置に対して送信される要求メッセージの中に、要求する診断処理の内容に合わせて、その診断継続時間を指定する診断継続時間情報を組み込むようにし、選択された電子制御装置において、上記要求メッセージを受信した後、診断継続時間情報によって指定された時間に達するまで当該診断処理を実行するような車両診断用通信システムの構成が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1および特許文献2のいずれにおいても、車両等の移動体が走行を開始してから相当の時間が経過しても、電子制御式エンジン等の電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを正確に検出することが困難になるといったような問題に対処するための方策には一切言及していない。
【0012】
【特許文献1】特開平7−36727号公報
【特許文献2】特開平7−46676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、車両等の移動体が一定時間走行したり一定時間停止したりしているにもかかわらず、電子制御機器が正常状態とも異常状態とも定義できない状態になっている場合に、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを正確に検出することが容易にできるようになり、これによって、運転者等が常に快適な運転を行うことを可能にするような電子制御装置および電子制御機器の制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記問題点を解決するために、本発明の電子制御装置は、移動体に取り付けられた特定のセンサ(例えば、A/Fセンサ)からの検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルに基づいて、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかをそれぞれ検出する正常/異常検出手段と、予め規定された時間が経過した場合、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが上記正常/異常検出手段により検出されないときに、上記電子制御機器が正常状態とも異常状態とも定義できない状態になっている旨の情報を識別するフラグを有する正常/異常未定義状態識別手段と、上記正常/異常未定義状態識別手段の上記フラグの状態に応じて、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させるスレッショールドレベル移動処理手段とを備え、上記スレッショールドレベル移動処理手段により上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることによって、上記電子制御機器が正常状態になっているかまたは上記電子制御機器が異常状態になっていることを上記正常/異常検出手段により検出することを可能にする。
【0015】
好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記スレッショールドレベル移動処理手段は、上記移動体が一定時間走行したにもかかわらず、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させるようになっている。
【0016】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記スレッショールドレベル移動処理手段は、上記移動体が一定時間停車しているにもかかわらず、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させるようになっている。
【0017】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記スレッショールドレベル移動処理手段は、上記移動体が一定時間走行しかつ上記移動体の走行距離が一定値を超えたにもかかわらず、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させるようになっている。
【0018】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記スレッショールドレベル移動処理手段は、上記移動体が一定時間走行しかつ上記移動体の走行速度が一定値を越えたにもかかわらず、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させるようになっている。
【0019】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記スレッショールドレベル移動処理手段は、上記移動体が一定時間走行しかつ上記移動体の走行速度が0よりも大きな値になっている状態で一定時間が経過したにもかかわらず、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させるようになっている。
【0020】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記スレッショールドレベル移動処理手段は、上記異常検出スレッショールドレベルを、上記電子制御機器の異常状態が検出され易い側に移動させることが可能であり、あるいは、上記異常状態が検出されにくい側に移動させることが可能である。
【0021】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記スレッショールドレベル移動処理手段は、上記正常検出スレッショールドレベルを、上記電子制御機器の正常状態が検出され易い側に移動させることが可能であり、あるいは、上記正常状態が検出されにくい側に移動させることが可能である。
【0022】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記スレッショールドレベル移動処理手段により上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることによって、上記電子制御機器が正常状態になっているかまたは上記電子制御機器が異常状態になっていることを検出する機能を有する上記電子制御機器の制御モードを、第1の制御モードとして設定し、通常の上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルに基づいて、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを検出する機能を有する上記電子制御機器の制御モードを、第2の制御モードとして設定するようになっている。
【0023】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記第1の制御モードと上記第2の制御モードとの間で切り替える機能が備わっている。
【0024】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記移動体の状態に応じて、上記第2の制御モードから上記第1の制御モードへの切り替え、または上記第1の制御モードから上記第2の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0025】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、外部ツール(例えば、外部のスキャンツール)からの要求に応じて、上記第2の制御モードから上記第1の制御モードへの切り替え、または上記第1の制御モードから上記第2の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0026】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記移動体に取り付けられた吸気温センサにより検知される吸気温、または水温センサにより検知される水温が一定値を下回る状態、または一定値を上回る状態になったときに、上記第2の制御モードから上記第1の制御モードへの切り替え、または上記第1の制御モードから上記第2の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0027】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記移動体に高い負荷がかかっている場合、上記第2の制御モードから上記第1の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0028】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記移動体に高い負荷がかかっている場合、上記移動体に取り付けられた車速センサにより検知されるエンジン回転数が一定値を上回る状態になったときに、または、上記移動体に取り付けられたセンサにより検知される上記移動体の走行速度が一定値を上回る状態になったときに、上記第2の制御モードから上記第1の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0029】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方が、上記スレッショールドレベル移動処理手段によって、予め定められた規定量だけ変動するようになっているか、または、現在の状態に応じて動的に決定される量だけ変動するようになっているか、または、外部ツールから要求される量だけ変動するようになっている。
【0030】
さらに、好ましくは、本発明の電子制御装置において、上記正常/異常未定義状態識別手段の上記フラグが更新されるタイミング、予め定められた周期、または外部ツールから要求されるタイミングで、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方が、上記スレッショールドレベル移動処理手段によって変動するようになっている。
【0031】
また一方で、本発明の電子制御機器の制御方法は、移動体に取り付けられた特定のセンサからの検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルに基づいて、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかをそれぞれ検出するステップと、予め規定された時間が経過した場合、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されないときに、上記電子制御機器が正常状態とも異常状態とも定義できない状態になっている旨の情報を識別するステップと、識別された上記情報に基づいて、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させるステップとを有し、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることによって、上記電子制御機器が正常状態になっているかまたは上記電子制御機器が異常状態になっていることを検出することを可能にする。
【発明の効果】
【0032】
要約すれば、本発明では、予め規定された時間が経過した場合、電子制御式エンジン等の電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されないときに、その情報を識別するフラグの状態に応じて、正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側(例えば、電子制御機器の正常状態または異常状態が過敏に検出される側)に所定の量だけ移動させるようになっている。
【0033】
これによって、車両等の移動体が一定時間走行したり一定時間停止したりしているにもかかわらず、電子制御機器が正常状態とも異常状態とも定義できない状態になっている場合に、正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を変動させることができるようになり、電子制御式エンジン等の電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを正確に検出することが容易に可能になると共に、運転者等が常に快適な運転を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、添付図面(図2〜図5)を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0035】
図2は、本発明の一実施例に係る電子制御装置の構成を示すブロック図である。ただし、ここでは、電子制御式エンジン等の電子制御機器8を制御するための電子制御装置1の構成を簡略化して示す。なお、これ以降、前述した構成要素と同様のものについては、同一の参照番号を付して表すこととする。
【0036】
図2に示すように、車両等の移動体(図示されていない)には、電子制御装置1の現在の状態を正確に把握するために、A/Fセンサや吸気温センサや水温センサ等の各種のセンサを含むセンサ部2が設けられている。なお、このセンサ部2の具体的な構成は、後述の図4にて詳しく説明する。
【0037】
図2の電子制御装置1は、センサ部2に含まれる特定のセンサ(例えば、電子制御式エンジン等の空気対燃料比を感知するA/Fセンサ)20により検知される検知信号Ssが入力される正常/異常検出手段11を備えている。この正常/異常検出手段11は、特定のセンサ20からの検知信号Ssの正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルに基づいて、電子制御機器8が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを検出する機能を有する。
【0038】
さらに、図1の電子制御装置1は、正常/異常検出手段11の出力側に配置される正常/異常未定義状態識別手段13と、この正常/異常未定義状態識別手段13の出力側に配置されるスレッショールドレベル移動処理手段14とを備えている。
【0039】
より詳しく説明すれば、上記の正常/異常未定義状態識別手段13は、時間計測手段(例えば、内部タイマ)12によって予め規定された時間が経過したことが通知された場合であって、かつ、電子制御機器8が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが正常/異常検出手段11により検出されない場合に(すなわち、正常/異常検出手段11から正常/異常検出信号Sdが出力されない場合に)、電子制御機器が正常状態とも異常状態とも定義できない状態(すなわち、正常/異常未定義状態)になっている旨の情報を識別するフラグSfを出力する。
【0040】
また一方で、上記のスレッショールドレベル移動処理手段14は、正常/異常未定義状態識別手段から出力されるフラグSfの状態に応じて、検知信号Ssの正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側(例えば、電子制御機器の正常状態または異常状態が過敏に検出される側)に所定の量だけ移動させるためのスレッショールドレベル移動処理信号Scを出力する。
【0041】
ここでは、車両等の移動体が一定時間走行したり一定時間停止したりしているにもかかわらず、電子制御機器8が電子制御機器が正常/異常未定義状態になっている場合であっても、スレッショールドレベル移動処理手段14により検知信号Ssの正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を、電子制御機器の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に移動させることによって、電子制御式エンジン等の電子制御機器8が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを正確に検出することが容易に可能になる。
【0042】
好ましくは、前述の正常/異常検出手段11、正常/異常未定義状態識別手段13およびスレッショールドレベル異常処理手段14の機能は、コンピュータのCPU(Central processing Unit:中央演算処理装置)10により実現することが可能である。より詳しく説明すれば、ROM(Read-Only Memory)等のプログラム記憶部15に格納されているデータ処理用のプログラム、およびRAM(Random Access Memory)等のデータ記憶部16に格納されているプログラム実行に必要な各種のデータをCPU10により読み出して上記プログラムを実行させることによって、前述の正常/異常検出手段11、正常/異常未定義状態識別手段13およびスレッショールドレベル異常処理手段14に相当する機能が実現される。
【0043】
より具体的にいえば、図2の電子制御装置1内のプログラム記憶部15に格納されているプログラムは、移動体に取り付けられた特定のセンサ20からの検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルに基づいて、電子制御機器8が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかをそれぞれ検出するステップと、予め規定された時間が経過した場合、電子制御機器8が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されないときに、電子制御機器8が正常状態とも異常状態とも定義できない状態になっている旨の情報を識別するステップと、識別された当該情報に基づいて、検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を、電子制御機器8の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に所定の量だけ移動させるステップとを含む。
【0044】
さらに、図2の実施例では、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体(または記録媒体)を使用して電子制御装置を動作させる場合、前述のようなプログラムの内容を保持しているハードディスクのような記憶媒体(図示されていない)を用意することが好ましい。
【0045】
なお、図2の実施例で使用される記憶媒体は、上記したものに限らず、フロッピィディスクやMO(Magneto-Optical Disk:光磁気ディスク)やCD−R(Compact Disk-Recordable)やCD−ROM(Compact Disk Read-only Memory)等の可搬形媒体、その他の固定形媒体など種々の記憶媒体の形態で提供可能なものである。
【0046】
ここで、好ましい実施形態として、図2のデータ処理装置1のスレッショールドレベル移動処理手段14は、移動体が一定時間走行したにもかかわらず、電子制御機器8が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、上記正常検出スレッショールドレベルまたは上記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を、電子制御機器8の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に所定の量だけ移動させるように構成される。
【0047】
さらに、好ましい実施形態として、スレッショールドレベル移動処理手段14は、移動体が一定時間停車しているにもかかわらず、電子制御機器8が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を、電子制御機器8の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に所定の量だけ移動させるように構成される。上記のような実施形態は、車両等の移動体が一定時間アイドリング状態になっている場合に適用され得る。
【0048】
さらに、好ましい実施形態として、スレッショールドレベル移動処理手段14は、移動体が一定時間走行しかつ移動体の走行距離が一定値を超えたにもかかわらず、電子制御機器8が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を、電子制御機器8の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に所定の量だけ移動させるように構成される。
【0049】
さらに、好ましい実施形態として、スレッショールドレベル移動処理手段14は、移動体が一定時間走行しかつ移動体の走行速度が一定値を越えたにもかかわらず、電子制御機器8が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を、電子制御機器8の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に所定の量だけ移動させるように構成される。上記のような実施形態は、例えば、移動体の走行速度が60km/h以上で2分以上走行した場合に適用され得る。
【0050】
さらに、好ましい実施形態として、スレッショールドレベル移動処理手段14は、移動体が一定時間走行しかつ上記移動体の走行速度が0よりも大きな値になっている状態で一定時間が経過したにもかかわらず、上記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を、電子制御機器8の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に所定の量だけ移動させるように構成される。上記のような実施形態は、車両等の移動体が坂道を下りながら走行している場合に適用され得る。
【0051】
図3は、本発明の実施例においてスレッショールドレベルの移動処理を行う様子を示すグラフである。ただし、ここでは、前述の図2の実施例に係る電子制御装置1において、正常検出スレッショールドレベルVth2または異常検出スレッショールドレベルVth1の移動処理を行う場合を想定する。
【0052】
図3のグラフにおいても、前述の図1の場合と同様に、特定のセンサであるA/Fセンサにより検知される検知信号のレベルに対して、2種類のスレッショールドレベル(例えば、図3のように、電子制御機器が異常状態であることを検出するための異常検出スレッショールドレベルVth1と、電子制御機器が正常状態であることを検出するための正常検出スレッショールドレベルVth2)を設定し、これらの2種類のスレッショールドレベルの間に、A/Fセンサの応答性の低下による影響を回避するためのグレーゾーンを設定している。
【0053】
より詳しく説明すれば、電子制御装置は、前述の図1の場合と同様に、A/Fセンサからの検知信号のレベルが異常検出スレッショールドレベルVth1より高い場合、電子制御機器が異常状態にあると判定し(図3の異常ゾーン)、上記検知信号のレベルが正常検出スレッショールドレベルVth2より低い場合、電子制御機器が正常状態にあると判定する(図3の正常ゾーン)。これに対して、A/Fセンサからの検知信号のレベルが、正常検出スレッショールドレベルVth2と異常検出スレッショールドレベルVth1との間のグレーゾーンにある場合、電子制御装置は、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを判定しないようにしている。
【0054】
図3に示したような本発明の実施例に従って電子制御機器の正常状態または異常状態を検出する処理を行った場合、車両等の移動体が一定時間走行したり一定時間停止したりしているにもかかわらず、電子制御機器8が異常とも正常とも定義できない状態になっているような事態が発生しても、スレッショールドレベル移動処理手段14(図2参照)により検知信号の異常検出スレッショールドレベルVth1を、電子制御機器の正常状態または異常状態が過敏に検出される側(図3では、下方の側)に移動させるようになっている。これによって、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるか(図3では、電子制御機器が異常状態にあること)を正確に判定することができるようになる。
【0055】
ここで、好ましい実施形態として、図2のデータ処理装置1のスレッショールドレベル移動処理手段14は、異常検出スレッショールドレベルVth1を、図3のように電子制御機器の異常状態が過敏に検出される側に移動させる構成を採るのみでなく、センサ等の種類によっては、電子制御機器の異常状態が検出されにくい側に移動させる構成を採ることも可能である。
【0056】
さらに、好ましい実施形態として、図2のスレッショールドレベル移動処理手段14は、正常検出スレッショールドレベルVth2を、電子制御機器の正常状態が過敏に検出される側に移動させる構成を採るのみでなく、センサ等の種類によっては、電子制御機器の正常状態が検出されにくい側に移動させる構成を採ることも可能である。
【0057】
さらに、好ましい実施形態として、図2のスレッショールドレベル移動処理手段14により正常検出スレッショールドレベルVth2または異常検出スレッショールドレベルVth1のいずれか一方を、電子制御機器の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に所定の量だけ移動させることによって、電子制御機器が正常状態になっているかまたは電子制御機器が異常状態になっていることを検出する機能を有する電子制御機器の制御モードを、第1の制御モード(すなわち、過敏検出の制御モード)として設定し、通常の正常検出スレッショールドレベルVth2または異常検出スレッショールドレベルVth1に基づいて、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを検出する機能を有する電子制御機器の制御モードを、第2の制御モード(すなわち、通常検出の制御モード)として設定するようになっている。
【0058】
さらに、好ましい実施形態として、過敏検出の制御モードと通常検出の制御モードとの間で切り替える機能が備わっている。
【0059】
さらに、好ましい実施形態として、移動体の状態に応じて、通常検出の制御モードから過敏検出の制御モードへの切り替え、または過敏検出の制御モードから通常検出の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0060】
さらに、好ましい実施形態として、外部ツール(例えば、外部のスキャンツール)からの要求に応じて、通常検出の制御モードから過敏検出の制御モードへの切り替え、または過敏検出の制御モードから通常検出の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0061】
さらに、好ましい実施形態として、移動体に取り付けられた吸気温センサ(後述の図4参照)により検知される吸気温、または水温センサ(後述の図4参照)により検知される水温が一定値を下回る状態、または一定値を上回る状態になったときに、通常検出の制御モードから過敏検出の制御モードへの切り替え、または過敏検出の制御モードから通常検出の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。上記のような実施形態は、特殊地(極寒の地または灼熱の地)で本発明の電子制御装置を使用する場合に適用され得る。
【0062】
さらに、好ましい実施形態として、重い荷物が移動体に搭載されて当該移動体に高い負荷がかかっている場合、移動体に取り付けられた車速センサにより検知されるエンジン回転数または移動体の走行速度が一定値を上回る状態(例えば、移動体の走行速度が200km/hを超える状態)になったときに、通常検出の制御モードから過敏検出の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0063】
さらに、好ましい実施形態として、正常検出スレッショールドレベルVth2または異常検出スレッショールドレベルVth1のいずれか一方が、図2のスレッショールドレベル移動処理手段14によって、予め定められた規定量だけ変動するようになっているか、または、現在の状態に応じて動的に決定される量だけ変動するようになっているか、または、外部ツールから要求される量だけ変動するようになっている。
【0064】
さらに、好ましい実施形態として、図2の正常/異常未定義状態識別手段13のフラグが更新されるタイミング、予め定められた周期、または外部ツール(例えば、外部のスキャンツール)から要求されるタイミングで、正常検出スレッショールドレベルVth2または異常検出スレッショールドレベルVth1のいずれか一方が、図2のスレッショールドレベル移動処理手段14によって変動するようになっている。
【0065】
ここで、電子制御装置の異常状態検出の前提条件として、1トリップ(イグニッションスイッチのオンからオフまでの1回の走行)に対して1回のみ電子制御装置が異常状態にあることを検出する場合を想定する。さらに、異常検出スレッショールドレベルVth1が8(相対値)に設定され、正常検出スレッショールドレベルVth2が4(相対値)に設定されている場合を想定する。
【0066】
このような前提条件の下で、予め規定された時間が経過したにもかかわらず、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合、異常検出スレッショールドレベルVth1を過敏検出側に1(相対値)だけ移動させる。だだし、1トリップ中に電子制御機器の正常状態または異常状態の判定を1回しか行わないため、1トリップ中における異常検出スレッショールドレベルVth1の移動量は最大1(相対値)となる。したがって、4トリップ目になると、異常検出スレッショールドレベルVth1が5(相対値)になるので、必ず電子制御機器の正常状態または異常状態が検出されることになる。
【0067】
図4は、本発明が適用されるエンジン制御用コンピュータシステムの構成を示すブロック図である。ここでは、電子制御機器のアクチュエータ部4(電子制御式エンジンの構成要素)を制御するためのエンジン制御用コンピュータシステム100に対して本発明の電子制御装置を適用した場合の具体的なハードウェア構成が図示されている。
【0068】
図4に示すように、車両等の移動体(図示されていない)には、電子制御式エンジンの現在の状態を正確に把握するために、各種のセンサ、バッテリ24、スタータ信号28、エアコン(A/C)30、ニュートラルスタートスイッチ(A/T車)32、および、エンジン制御用コンピュータシステム100の自己診断機能を制御するための2つのテストスイッチ(TSW1、TSW2)33、34を含むセンサ部2が設けられている。上記の各種のセンサとして、A/Fセンサ21、O2 (酸素濃度)センサ22、水温センサ23、バキュームセンサ25、吸気温センサ26、スロットルポジションセンサ27、クランク角センサ29、車速センサ31および排気温センサ35が挙げられる。
【0069】
図4のエンジン制御用コンピュータシステム100は、前述の図2のCPUと同様の機能を有するCPU10と、データ処理用のプログラムを格納するためのROM15aと、各種のセンサプログラム実行に必要な各種のデータを格納するためのRAM16aと、入力側の各種のセンサ、バッテリ24、スタータ信号28、エアコン30、ニュートラルスタートスイッチ32および2つのテストスイッチ33、34とのインタフェースを取る入力インタフェース回路17と、A/Dコンバータ18と、出力側のアクチュエータ部4とのインタフェースを取る出力インタフェース回路19とを備えている。
【0070】
さらに、図4のエンジン制御用コンピュータシステム100は、時間経過を計測して予め規定された時間が経過したことをCPU10に通知する内部タイマ50と、バッテリ24を使用してCPU10に一定の電圧を供給する定電圧電源51と、排気温センサ35により検知される検知信号に基づいて排気温を検出する排気温検出回路52と、この排気温検出回路52から出力される信号に基づいてアクチュエータ部4の排気温ランプ45を駆動する排気温駆動回路53とを備えている。
さらに、図4のエンジン制御用コンピュータシステム100には、スキャンツール等の外部ツール54が接続されている。この外部ツール54からの要求に応じて、通常検出の制御モードから過敏検出の制御モードへの切り替え、または過敏検出の制御モードから通常検出の制御モードへの切り替えを実行することも可能である。さらに、エンジン制御用コンピュータシステム100によって、正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方が、外部ツール54から要求される量だけ移動するようになっている。
【0071】
ここでは、前述の図2の場合と同様に、正常/異常検出手段11、正常/異常未定義状態識別手段13およびスレッショールドレベル移動処理手段14(いずれも図2参照)の機能は、コンピュータのCPU10により実現することが可能である。より詳しく説明すれば、ROM15aに格納されているデータ処理用のプログラム、およびRAM16aに格納されているプログラム実行に必要な各種のデータをCPU10により読み出して上記プログラムを実行させることによって、前述の正常/異常検出手段11、正常/異常未定義状態識別手段13およびスレッショールドレベル移動処理手段14(いずれも図2参照)に相当する機能が実現される。
【0072】
図4のエンジン制御用コンピュータシステム100では、A/Fセンサ21、バキュームセンサ25、吸気温センサ26および水温センサ23等の各種のセンサからのアナログ入力が、入力インタフェース回路17およびA/Dコンバータ18を介してCPU10に入力される。また一方で、スタータ信号28、クランク角センサ29、エアコン30、車速センサ31、ニュートラルスタートスイッチ32および排気温センサ35等からのディジタル入力が、入力インタフェース回路17を介してCPU10に入力される。
【0073】
ここで、CPU10では、A/Fセンサ21により検知される検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルに基づいて、電子制御式エンジンが正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを検出するようになっている。
【0074】
さらに、CPU10では、吸気温センサ26により検知される吸気温が一定値を下回る状態、または一定値を上回る状態になったときに、通常検出の制御モードから過敏検出の制御モードへの切り替え、または過敏検出の制御モードから通常検出の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0075】
さらに、CPU10では、水温センサ23により検知される水温が一定値を下回る状態、または一定値を上回る状態になったときに、通常検出の制御モードから過敏検出の制御モードへの切り替え、または過敏検出の制御モードから通常検出の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0076】
さらに、CPU10では、移動体に高い負荷がかかっている場合、移動体に取り付けられた車速センサ31により検知される移動体の走行速度が一定値を上回る状態になったときに、通常検出の制御モードから過敏検出の制御モードへの切り替えが実行されるようになっている。
【0077】
図2のアクチュエータ部4は、エンジン制御用コンピュータシステムの自己診断結果を表示するためのチェックエンジンランプ(診断結果表示器)40と、燃料噴射用の複数のインジェクタ(図4では、♯1インジェクタ〜♯6インジェクタとして示す)41−1〜41−6と、サーキットオープニングリレー42と、アイドル回転数制御用バイパスコントロール43と、スパークプラグ46を点火するためのイグナイタ44とをアクチュエータとして含む。
【0078】
エンジン制御用コンピュータシステム100から出力インタフェース19を介して出力される各種の制御信号に基づいて、アクチュエータ部4内の各々のアクチュエータが制御される。
【0079】
図5は、本発明に係る電子制御機器の制御方法の処理フローを説明するためのフローチャートである。ここでは、本発明の電子制御機器の制御方法に従ってエンジン制御用コンピュータシステム(図4参照)のCPU(図4参照)等を動作させることで、電子制御機器の正常状態または異常状態を検出する処理を行うための処理フローを説明する。
【0080】
電子制御機器の正常状態または異常状態を検出する処理を行う場合、まず、ステップS1において、内部タイマ等により時間経過を計測することによって一定時間が経過したか否かが判定される。
【0081】
一定時間が経過したと判定された場合、ステップS2において、A/Fセンサ等からの検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルに基づき、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが既に検出されているか否かが判定される。
【0082】
一定時間が経過したと判定された場合であって、かつ、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが未だに検出されていないと判定された場合、ステップS3において、電子制御機器が正常状態とも異常状態とも定義できない状態(すなわち、正常/異常未定義状態)になっている旨の情報を示すフラグがオンの状態で出力される。
【0083】
さらに、ステップS4において、上記フラグのオンの状態に応じて、検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を、電子制御機器の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に予め定められた規定量だけ移動させる処理が実行される。
【0084】
上記のステップS1〜ステップS4の処理フローは、予め規定された回数(例えば、1トリップに対して1回)だけ繰り返し実行される。
【0085】
図5のフローチャートの処理フローを実行することによって、車両等の移動体が一定時間走行したり一定時間停止したりしているにもかかわらず、電子制御機器が正常/異常未定義状態になっている場合であっても、検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を、電子制御機器の正常状態または異常状態が過敏に検出される側に移動させることによって、電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを正確に検出することが容易にできるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、車両等の移動体において、電子制御式エンジン等の電子制御機器を制御するためのコンピュータが内蔵された電子制御装置(ECUとも呼ばれる)を含むエンジン制御用コンピュータシステムに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】従来の電子制御機器の制御方法を説明するためのグラフである。
【図2】本発明の一実施例に係る電子制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例においてスレッショールドレベルの移動処理を行う様子を示すグラフである。
【図4】本発明が適用されるエンジン制御用コンピュータシステムの構成を示すブロック図である。
【図5】本発明に係る電子制御機器の制御方法の処理フローを説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0088】
1 電子制御装置
2 センサ部
4 アクチュエータ部
8 電子制御機器
10 CPU(中央演算処理装置)
11 正常/異常検出手段
12 時間計測手段
13 正常/異常未定義状態識別手段
14 スレッショールドレベル移動処理手段
15 プログラム記憶部
16 データ記憶部
17 入力インタフェース回路
18 A/Dコンバータ
19 出力インタフェース回路
20 特定のセンサ
21 A/Fセンサ(空燃比センサ)
22 O2センサ(酸素濃度センサ)
23 水温センサ
24 バッテリ
25 バキュームセンサ
26 吸気温センサ
27 スロットルポジションセンサ
28 スタータ信号
29 クランク角センサ
30 エアコン(A/C)
31 車速センサ
32 ニュートラルスタートスイッチ(A/T車)
33 テストスイッチ(TSW1)
34 テストスイッチ(TSW2)
35 排気温センサ
40 チェックエンジンランプ(診断結果表示器)
41−1〜41−6 複数のインジェクタ
50 内部タイマ
51 定電圧電源
52 排気温検出回路
54 外部ツール
100 エンジン制御用コンピュータシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体内の電子制御機器を制御するための電子制御装置において、
前記移動体に取り付けられた特定のセンサからの検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルに基づいて、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかをそれぞれ検出する正常/異常検出手段と、
予め規定された時間が経過した場合、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが前記正常/異常検出手段により検出されないときに、前記電子制御機器が正常状態とも異常状態とも定義できない状態になっている旨の情報を識別するフラグを有する正常/異常未定義状態識別手段と、
前記正常/異常未定義状態識別手段の前記フラグの状態に応じて、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させるスレッショールドレベル移動処理手段とを備え、
前記スレッショールドレベル移動処理手段により前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることによって、前記電子制御機器が正常状態になっているかまたは前記電子制御機器が異常状態になっていることを前記正常/異常検出手段により検出することを可能にすることを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記スレッショールドレベル移動処理手段は、前記移動体が一定時間走行したにもかかわらず、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることを特徴とする請求項1記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記スレッショールドレベル移動処理手段は、前記移動体が一定時間停車しているにもかかわらず、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることを特徴とする請求項1記載の電子制御装置。
【請求項4】
前記スレッショールドレベル移動処理手段は、前記移動体が一定時間走行しかつ前記移動体の走行距離が一定値を超えたにもかかわらず、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることを特徴とする請求項1記載の電子制御装置。
【請求項5】
前記スレッショールドレベル移動処理手段は、前記移動体が一定時間走行しかつ前記移動体の走行速度が一定値を越えたにもかかわらず、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることを特徴とする請求項1記載の電子制御装置。
【請求項6】
前記スレッショールドレベル移動処理手段は、前記移動体が一定時間走行しかつ前記移動体の走行速度が0よりも大きな値になっている状態で一定時間が経過したにもかかわらず、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されない場合に、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることを特徴とする請求項1記載の電子制御装置。
【請求項7】
前記スレッショールドレベル移動処理手段は、前記異常検出スレッショールドレベルを、前記電子制御機器の異常状態が検出され易い側に移動させることが可能であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項8】
前記スレッショールドレベル移動処理手段は、前記異常検出スレッショールドレベルを、前記電子制御機器の異常状態が検出されにくい側に移動させることが可能であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項9】
前記スレッショールドレベル移動処理手段は、前記正常検出スレッショールドレベルを、前記電子制御機器の正常状態が検出され易い側に移動させることが可能であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項10】
前記スレッショールドレベル移動処理手段は、前記正常検出スレッショールドレベルを、前記電子制御機器の正常状態が検出されにくい側に移動させることが可能であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のスレッショールドレベル移動処理手段により前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることによって、前記電子制御機器が正常状態になっているかまたは前記電子制御機器が異常状態になっていることを検出する機能を有する前記電子制御機器の制御モードを、第1の制御モードとして設定し、通常の前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルに基づいて、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかを検出する機能を有する前記電子制御機器の制御モードを、第2の制御モードとして設定することを特徴とする電子制御装置。
【請求項12】
前記第1の制御モードと前記第2の制御モードとの間で切り替える機能を有することを特徴とする請求項11記載の電子制御装置。
【請求項13】
前記移動体の状態に応じて、前記第2の制御モードから前記第1の制御モードへの切り替え、または前記第1の制御モードから前記第2の制御モードへの切り替えが実行されることを特徴とする請求項12記載の電子制御装置。
【請求項14】
外部ツールからの要求に応じて、前記第2の制御モードから前記第1の制御モードへの切り替え、または前記第1の制御モードから前記第2の制御モードへの切り替えが実行されることを特徴とする請求項12記載の電子制御装置。
【請求項15】
前記移動体に取り付けられた吸気温センサにより検知される吸気温が一定値を下回る状態、または一定値を上回る状態になったときに、前記第2の制御モードから前記第1の制御モードへの切り替え、または前記第1の制御モードから前記第2の制御モードへの切り替えが実行されることを特徴とする請求項12記載の電子制御装置。
【請求項16】
前記移動体に取り付けられた水温センサにより検知される水温が一定値を下回る状態、または一定値を上回る状態になったときに、前記第2の制御モードから前記第1の制御モードへの切り替え、または前記第1の制御モードから前記第2の制御モードへの切り替えが実行されることを特徴とする請求項12記載の電子制御装置。
【請求項17】
前記移動体に高い負荷がかかっている場合、前記第2の制御モードから前記第1の制御モードへの切り替えが実行されることを特徴とする請求項12記載の電子制御装置。
【請求項18】
前記移動体に高い負荷がかかっている場合、前記移動体に取り付けられた車速センサにより検知されるエンジン回転数が一定値を上回る状態になったときに、または、前記移動体に取り付けられた車速センサにより検知される前記移動体の走行速度が一定値を上回る状態になったときに、前記第2の制御モードから前記第1の制御モードへの切り替えが実行されることを特徴とする請求項12記載の電子制御装置。
【請求項19】
前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方が、前記スレッショールドレベル移動処理手段によって、予め定められた規定量だけ変動することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項20】
前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方が、前記スレッショールドレベル移動処理手段によって、現在の状態に応じて動的に決定される量だけ変動することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項21】
前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方が、前記スレッショールドレベル移動処理手段によって、外部ツールから要求される量だけ変動することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項22】
前記正常/異常未定義状態識別手段の前記フラグが更新されるタイミングにて、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方が、前記スレッショールドレベル移動処理手段によって変動することを特徴とする請求項19から21のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項23】
予め定められた周期にて、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方が、前記スレッショールドレベル移動処理手段によって変動することを特徴とする請求項19から21のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項24】
外部ツールから要求されるタイミングにて、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方が、前記スレッショールドレベル移動処理手段によって変動することを特徴とする請求項19から21のいずれか一項に記載の電子制御装置。
【請求項25】
移動体内の電子制御機器を制御するための制御方法であって、
前記移動体に取り付けられた特定のセンサからの検知信号の正常検出スレッショールドレベルまたは異常検出スレッショールドレベルに基づいて、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかをそれぞれ検出するステップと、
予め規定された時間が経過した場合、前記電子制御機器が正常状態にあるかまたは異常状態にあるかが検出されないときに、前記電子制御機器が正常状態とも異常状態とも定義できない状態になっている旨の情報を識別するステップと、
識別された前記情報に基づいて、前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させるステップとを有し、
前記正常検出スレッショールドレベルまたは前記異常検出スレッショールドレベルのいずれか一方を予め定められた側に移動させることによって、前記電子制御機器が正常状態になっているかまたは前記電子制御機器が異常状態になっていることを検出することを可能にすることを特徴とする、電子制御機器の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−283657(P2006−283657A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104808(P2005−104808)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】