説明

電子回路の駆動方法

【課題】駆動トランジスタのゲートの電位を所期値に設定するための時間を短縮する。
【解決手段】書込期間Pwrにおいて、駆動トランジスタTdrのゲートと容量素子Caの電極Ea1とに電位「Vdd+Vdata」が供給されるとともに電極Ea2に電源電位Vddが供給されることで容量素子Caに電圧Vdataが保持される。また、書込期間Pwrでは、ダイオード接続された補償用トランジスタTcpに電流が流れることでその閾値電圧Vth(駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthと略一致する)が容量素子Cbに保持される。駆動期間Pdrでは、電極Ea2と電極Eb1とがトランジスタTr1を介して接続されることで駆動トランジスタTdrのゲートが電位Vdataと閾値電圧Vthとに応じた電位に設定され、電気光学素子Eはこの設定された電位に応じて駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオード(以下「OLED(Organic Light Emitting Diode)」という)素子、液晶素子、電気泳動素子、エレクトロクロミック(Electrochromic)素子、電子放出素子または抵抗素子、センサ素子など各種の被駆動素子の挙動を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の被駆動素子を駆動する電圧または電流の生成のためにトランジスタ(以下「駆動トランジスタ」という)を利用した電子装置が従来から提案されている。例えば、被駆動素子としてOLED素子を採用した発光装置においては、各OLED素子に供給される電流の電流値が、そのOLED素子に対応して配置された駆動トランジスタによって制御される。しかしながら、この構成においては、駆動トランジスタの特性(特に閾値電圧)の誤差に起因して各被駆動素子の駆動状態(例えば階調や輝度)にバラツキが発生するという問題がある。この問題を解決するために、特許文献1には、駆動トランジスタの閾値電圧の誤差を補償する構成が開示されている。
【0003】
図16は、特許文献1に開示された構成を示す回路図である。この構成においては、第1に、トランジスタT1を介して駆動トランジスタTdrをダイオード接続し、これによって駆動トランジスタTdrのゲートをその閾値電圧Vthに応じた電位(Vdd−Vth)に設定する。第2に、トランジスタT2を介してデータ線Lと容量素子Cの電極aとを電気的に接続することで、電極aの電位(駆動トランジスタTdrのゲートの電位)をデータ線Lの電位Vdataに応じて変化させる。以上の動作によって、駆動トランジスタTdrのゲートの電位は電極aの電位の変化量に応じたレベルだけ変動し、この変動後の電位に応じた電流Iel(閾値電圧Vthに依存しない電流)の供給によって被駆動素子Eが駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−99773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各被駆動素子の高精細化や大画面化の実現のためには、駆動トランジスタTdrのゲートを閾値電圧Vthに応じた電位(Vdd−Vth)に設定する動作やこれを電位Vdataに応じて変動させるための時間をより短縮する駆動方法や駆動回路が望まれる。本発明のひとつの形態は、例えば、駆動トランジスタのゲートの電位を所期値に設定する時間をより短縮するために有効である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のひとつの形態に係る電子回路(例えば図2の単位回路U)は、制御端子(ゲート)と第1端子(ソースおよびドレインの一方)と第2端子(ソースおよびドレインの他方)とを備えるとともに制御端子の電位に応じて第1端子と第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタ(例えば図2の駆動トランジスタTdr)と、駆動トランジスタの導通状態に応じた電圧レベルの駆動電圧および駆動トランジスタの導通状態に応じた電流レベルの駆動電流のうち少なくとも一方が供給される被駆動素子(例えば図2の電気光学素子E)と、第1電極(例えば図2の電極Ea1)と第2電極(例えば図2の電極Ea2)とを備えるとともに第1電極が制御端子に電気的に接続された第1容量素子(例えば図2の容量素子Ca)と、第3電極(例えば図2の電極Eb1)と第4電極(例えば図2の電極Eb2)とを備える第2容量素子(例えば図2の容量素子Cb)と、第2電極と第3電極との電気的な接続を制御する第1スイッチング素子(例えば図2のトランジスタTr1)とを具備する。
【0007】
以上の構成においては、例えば、データ線に供給されるデータ電位に応じた電荷(電圧)が第1容量素子に保持され、駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷(電圧)が第2容量素子に保持される。そして、第2電極と第3電極とが第1スイッチング素子を介して電気的に接続されることによって、駆動トランジスタの制御端子がデータ電位とその閾値電圧とに応じた電位に設定される。したがって、駆動トランジスタの閾値電圧の誤差を補償したうえで被駆動素子を駆動することができる。また、電子回路にデータ線からデータ電位を取り込むときにデータ電位に応じた電位が制御端子に供給されるから、被駆動素子が駆動される期間に先立って、駆動トランジスタの状態を期間での動作点(導通状態)に近づけることができる。したがって、駆動トランジスタの制御端子をデータ電位と閾値電圧とに応じた電位に設定するための時間を短縮することが可能である。
【0008】
より好適な態様においては、データ電位に応じた電荷を第1容量素子に保持する動作と閾値電圧に応じた電荷を第2容量素子に保持する動作とが並行して実行される。この態様によれば、各動作が別個の期間にて実行される構成と比較して、駆動トランジスタの制御端子をデータ電位と閾値電圧とに応じた電位に設定するための時間をさらに短縮することが可能である。
【0009】
本発明の好適な態様に係る電子回路は、ダイオード接続された状態で第3電極に電気的に接続され、駆動トランジスタの閾値電圧に対応した閾値電圧を有する補償用トランジスタ(例えば図2の補償用トランジスタTcp)をさらに具備し、補償用トランジスタに電流が流れることによって、補償用トランジスタの閾値電圧に応じた電荷が第2容量素子に保持される。この態様によれば、補償用トランジスタに電流を流すという簡易な構成によって駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を第2容量素子に保持させることができる。なお、補償用トランジスタの閾値電圧は、例えば駆動トランジスタの閾値電圧と略等しい。
【0010】
より望ましい態様においては、補償用トランジスタに電流が流れる期間の少なくとも一部においてオン状態となる第2スイッチング素子(例えば図2のトランジスタTr2)が、補償用トランジスタに流れる電流の経路上に配置される。この態様によれば、第2スイッチング素子をオン状態に変化させることで補償用トランジスタに電流を流すことができるから、補償用トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を第2容量素子に保持させる期間を高精度に規定することが可能である。なお、この態様の具体例は第1実施形態として後述される。
もっとも、駆動トランジスタの閾値電圧を抽出するための方法は任意である。例えば、駆動トランジスタの第1端子と制御端子とを第3電極に接続(ダイオード接続)することによって当該駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を直接的に第2容量素子に保持させる構成も採用される。
【0011】
他の態様においては、第1電極とデータ線との電気的な接続を制御する第3スイッチング素子(例えば図2のトランジスタTr3)が設置される。第3スイッチング素子は、例えば、データ線にデータ電位が供給される期間の少なくとも一部においてオン状態となり、被駆動素子が駆動される期間の少なくとも一部においてオフ状態となる。この態様によれば、第1容量素子に所期の電荷(データ電位に応じた電荷)を保持させる期間を明確に規定することができる。
【0012】
さらに別の態様においては、第2電極と所定の電位が供給される給電線(例えば図2の電源線17)との電気的な接続を制御する第4スイッチング素子(例えば図2のトランジスタTr4)が設置される。第4スイッチング素子は、例えば、データ電位に応じた電荷が第1容量素子に保持される期間の少なくとも一部(データ線にデータ電位が供給される期間の少なくとも一部)においてオン状態となる。この態様によれば、第1容量素子の第2電極が略一定の電位に維持されるから、データ電位に応じた電荷を第1容量素子に正確に保持させることができる。
この態様においては、第1スイッチング素子および第4スイッチング素子は、駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷が第2容量素子に保持される前にオン状態となる。この態様によれば、第1スイッチング素子および第4スイッチング素子を介して所定の電位が第3電極に供給されるから(例えば図9参照)、その経過後に、閾値電圧に応じた電荷(電圧)を第2容量素子に正確に保持することができる。
【0013】
本発明のひとつの態様に係る電子装置は、以上に説明した何れかの態様に係る電子回路を具備する。すなわち、この電子装置は、データ電位が供給される複数のデータ線(例えば図1のデータ線14)と、何れかのデータ線に対応するように配置された以上の各形態に係る電子回路(単位回路U)とを具備する。この態様に係る電子装置の典型例は、電気エネルギの付与によって輝度や透過率といった光学的な性状が変化する電気光学素子を被駆動素子として採用した電気光学装置(例えば発光素子を電気光学素子として採用した発光装置)である。
【0014】
本発明に係る電子装置は各種の電子機器に利用される。この電子機器の典型例は、本発明の電子装置を表示装置として利用した機器である。この種の電子機器としては、パーソナルコンピュータや携帯電話機などがある。もっとも、本発明に係る電子装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(露光ヘッド)、液晶装置の背面側に配置されてこれを照明する装置(バックライト)、あるいは、スキャナなどの画像読取装置に搭載されて原稿を照明する装置など各種の照明装置など、様々な用途に本発明の電子装置を適用することができる。
【0015】
本発明の別の形態は、以上に説明した各形態に係る電子回路を駆動する方法である。この駆動方法は、制御端子(ゲート)と第1端子(ソースおよびドレインの一方)と第2端子(ソースおよびドレインの他方)とを備えるとともに制御端子の電位に応じて第1端子と第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタ(例えば図2の駆動トランジスタTdr)と、第1電極(例えば図2の電極Ea1)と第2電極(例えば図2の電極Ea2)とを備えるとともに第1電極が制御端子に電気的に接続された第1容量素子(例えば図2の容量素子Ca)と、第3電極(例えば図2の電極Eb1)と第4電極(例えば図2の電極Eb2)とを備える第2容量素子(例えば図2の容量素子Cb)とを含み、被駆動素子(例えば図2の電気光学素子E)を駆動するための電子回路を駆動する方法であって、制御端子にデータ電位を供給することによって制御端子の電位を第1の電位に設定するとともにデータ電位に応じた電荷を第1容量素子に保持させる第1ステップと、駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を第2容量素子に保持させる第2ステップと、第2電極と第3電極とを電気的に接続することによって、制御端子をデータ電位および閾値電圧に応じた電位に設定する第3ステップとを含む。
【0016】
以上の駆動方法において、第1ステップと第2ステップとが実行される順序は任意に変更される。すなわち、第1ステップの実行後に第2ステップが実行されてもよいし、第2ステップの実行後に第1ステップが実行されてもよい。また、以下に本発明の具体的な形態として例示するように(例えば図4や図10の書込期間Pwr)、第1ステップと第2ステップとが並行して実行される構成(すなわち第1ステップが実行される期間と第2ステップが実行される期間との少なくとも一部が時間的に重複する構成)としてもよい。この構成によれば、第1ステップと第2ステップとが別個の期間にて実行される構成と比較して、駆動トランジスタの制御端子をデータ電位と閾値電圧とに応じた電位に設定するための時間を短縮することが可能である。
【0017】
本発明の駆動方法の好適な態様において、電子回路は、ダイオード接続された状態で第3電極に電気的に接続された補償用トランジスタ(例えば図2の補償用トランジスタTcp)をさらに含み、補償用トランジスタの閾値電圧は駆動トランジスタの閾値電圧に対応し、第2ステップにおいては、補償用トランジスタに電流を流すことで、当該補償用トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を第2容量素子に保持させる。この態様によれば、補償用トランジスタに電流を流すという簡易な構成によって駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を第2容量素子に保持させることができる。なお、補償用トランジスタの閾値電圧は、例えば駆動トランジスタの閾値電圧と略等しい。
なお、この態様における電子回路は、例えば、補償用トランジスタに流れる電流の経路上に配置されたスイッチング素子(例えば図2のトランジスタTr2)をさらに含み、第2ステップを実行する期間の少なくとも一部においてスイッチング素子をオン状態とし、第3ステップを実行する期間の少なくとも一部においてスイッチング素子をオフ状態とする。この態様によれば、スイッチング素子をオン状態に変化させることで補償用トランジスタに電流を流すことができるから、補償用トランジスタの閾値電圧に応じた電荷が第2容量素子に保持される期間を高精度に規定できる。
さらに別の態様において、第2ステップの実行前(例えば図9の初期化期間Pre)に、第3電極に所定の電位を供給し、第2ステップを実行する期間の少なくとも一部において、補償用トランジスタが備える2個の端子(ソースおよびドレイン)のうち第3電極に接続された端子とは異なる端子の電位を、これらの端子間に電流が流れるように変化させる(すなわち補償用トランジスタの閾値電圧を越える順方向の電圧を当該補償用トランジスタに印加する)。この態様によれば、第2ステップの実行前に第3電極に所定の電位が供給されるから、閾値電圧を上回る順方向の電圧を補償用トランジスタに確実に印加することができる。
【0018】
本発明の好適な態様に係る駆動方法は、第1ステップを実行する期間の少なくとも一部において、第1電極をデータ線に電気的に接続し、第2電極に所定の電位を供給する。この態様によれば、この態様によれば、第1電極にデータ電位が供給される期間において第2電極が所定の電位に維持されるから、データ電位に応じた電荷を第1容量素子に正確に保持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電子装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ひとつの単位回路の構成を示す回路図である。
【図3】電子装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】書込期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図5】駆動期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電子装置の構成を示すブロック図である。
【図7】ひとつの単位回路の構成を示す回路図である。
【図8】電子装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】初期化期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図10】書込期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図11】設定期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図12】駆動期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図13】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図14】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図15】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図16】従来の電子装置の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る電子装置の構成を示すブロック図である。同図に例示された電子装置Dは、画像を表示する手段として各種の電子機器に搭載される電気光学装置(発光装置)であり、複数の単位回路(画素回路)Uが面状に配列された素子アレイ部10と、各単位回路Uを駆動するための走査線駆動回路22およびデータ線駆動回路24とを含む。なお、走査線駆動回路22およびデータ線駆動回路24は、素子アレイ部10とともに基板上に形成されたトランジスタによって構成されてもよいしICチップの形態で実装されてもよい。
【0021】
図1に示すように、素子アレイ部10には、X方向に延在するm本の走査線12と、X方向に直交するY方向に延在するn本のデータ線14とが形成される(mおよびnはともに自然数)。各単位回路Uは、走査線12とデータ線14との交差に対応する各位置に配置される。したがって、これらの単位回路Uは縦m行×横n列のマトリクス状に配列する。各単位回路Uには、各走査線12と対をなしてX方向に延在する電源線17を介して高位側の電源電位Vddが供給される。
【0022】
走査線駆動回路22は、複数の走査線12の各々を順番に選択するための回路である。データ線駆動回路24は、走査線駆動回路22が選択する走査線12に接続された1行分(n個)の単位回路Uの各々に対応するデータ信号X[1]〜X[n]を生成して各データ線14に出力する。第i行(iは1≦i≦mを満たす整数)の走査線12が選択される期間(後述する書込期間Pwr)にて第j列目(jは1≦j≦nを満たす整数)のデータ線14に供給されるデータ信号X[j]は、第i行に属する第j列目の単位回路Uに指定された階調に応じた電位(Vdd−Vdata)となる。各単位回路Uの階調は、外部から供給される階調データによって指定される。
【0023】
次に、図2を参照して、各単位回路Uの具体的な構成を説明する。同図においては、第i行の第j列目に位置するひとつの単位回路Uのみが図示されているが、その他の単位回路Uも同様の構成である。
【0024】
図2に示すように、単位回路Uは、電源線17と接地線(接地電位Gnd)との間に介在する電気光学素子Eを含む。電気光学素子Eは、これに供給される駆動電流Ielに応じた階調(輝度)となる電流駆動型の被駆動素子である。本実施形態における電気光学素子Eは、有機EL(ElectroLuminescent)材料からなる発光層を陽極と陰極との間に介在させたOLED素子(発光素子)である。電気光学素子Eの陰極は接地(Gnd)される。
【0025】
図2に示すように、図1において便宜的に1本の配線として図示された走査線12は、実際には3本の配線(第1制御線121・第2制御線122および第3制御線123)を含む。各配線には走査線駆動回路22から所定の信号が供給される。より具体的には、第i行目の走査線12を構成する第1制御線121には第1制御信号Ya[i]が供給される。同様に、第2制御線122には第2制御信号Yb[i]が供給され、第3制御線123には第3制御信号Yc[i]が供給される。なお、各信号の具体的な波形やこれに応じた単位回路Uの動作については後述する。
【0026】
図2に示すように、電源線17から電気光学素子Eに至る経路上にはpチャネル型の駆動トランジスタTdrが介在する。駆動トランジスタTdrのソース(S)は電源線17に接続される。この駆動トランジスタTdrは、ソースとドレイン(D)との導通状態(ソース−ドレイン間の抵抗値)がゲートの電位(以下「ゲート電位」という)Vgに応じて変化することで当該ゲート電位Vgに応じた駆動電流Ielを生成する手段である。したがって、電気光学素子Eは、駆動トランジスタTdrの導通状態に応じて駆動される。なお、本実施形態においては、駆動電流Ielが駆動トランジスタTdrから電気光学素子Eに流れている期間における電位の高低に基づいて、駆動トランジスタTdrのうち電気光学素子E側の第1端子および駆動トランジスタTdrの電源線17側の第2端子をそれぞれドレインおよびソースと便宜的に定義している。例えば駆動電流Ielが流れる方向とは逆方向の電流(逆バイアス電流)が駆動トランジスタTdrに流れる期間においては、駆動トランジスタTdrのソースとドレインとが逆転することになる。
【0027】
図2に示すように、本実施形態の単位回路Uは、2個の容量素子(Ca・Cb)と、nチャネル型の4個のトランジスタ(Tr1・Tr2・Tr3・Tr4)と、pチャネル型のひとつのトランジスタ(以下「補償用トランジスタ」という)Tcpとを含む。容量素子Caは、電極Ea1と電極Ea2との間隙に誘電体が介挿された素子である。同様に、容量素子Cbは、電極Eb1と電極Eb2との間隙に誘電体が介挿された素子である。容量素子Caの電極Ea1は駆動トランジスタTdrのゲートに接続される。容量素子Cbの電極Eb2は電源線17に接続される。
【0028】
トランジスタTr1は、容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1との間に介在して両者の電気的な接続(導通/非導通)を制御するスイッチング素子である。トランジスタTr1のゲートは第3制御線123に接続される。また、トランジスタTr3は、容量素子Caの電極Ea1(駆動トランジスタTdrのゲート)とデータ線14との間に介在して両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。トランジスタTr3のゲートは第1制御線121に接続される。
【0029】
補償用トランジスタTcpは、駆動トランジスタTdrの閾値電圧の誤差を補償するために利用されるトランジスタであり、容量素子Cbの電極Eb1と電源線17との間に介在する。補償用トランジスタTcpは、ドレインおよびゲートの双方が電極Eb1に接続(ダイオード接続)される。補償用トランジスタTcpの特性(例えば閾値電圧)と駆動トランジスタTdrの特性とは相互に対応する。本実施形態における補償用トランジスタTcpの閾値電圧Vthは、駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthと略一致する。より具体的には、相互に近接する各位置に補償用トランジスタTcpおよび駆動トランジスタTdrを共通の工程で一括的に形成することによって、各々の閾値電圧Vthを略一致させることが可能である。
【0030】
トランジスタTr2は、容量素子Cbの電極Eb1と電源線17との間に介在して両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。トランジスタTr4は、容量素子Caの電極Ea2と電源線17との間に介在して両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。トランジスタTr2およびトランジスタTr4の各々のゲートは第2制御線122に接続される。なお、図2においてはトランジスタTr2が補償用トランジスタTcpと電源線17との間に介在する構成を例示したが、このトランジスタTr2は容量素子Cbの電極Eb1と補償用トランジスタTcpとの間に配置されてもよい。
【0031】
次に、図3を参照して、電子装置Dで利用される各信号の具体的な波形を説明する。同図に示すように、第1制御信号Ya[1]〜Ya[m]は各フレーム期間F内の所定の期間(以下「書込期間」という)Pwrごとに順番にハイレベルとなる信号である。すなわち、第1制御信号Ya[i]は、ひとつのフレーム期間Fのうち第i番目の書込期間Pwrにてハイレベルを維持するとともにそれ以外の期間にてローレベルを維持する。第1制御信号Ya[i]のハイレベルへの遷移は第i行の選択を意味する。
【0032】
第2制御信号Yb[i]は、第1制御信号Ya[i]がハイレベルとなる書込期間Pwrにてハイレベルとなり、それ以外の期間にてローレベルを維持する。なお、図3に示すように、第1制御信号Ya[i]と第2制御信号Yb[i]とを同波形とすることも可能であり、この場合にはトランジスタTr2およびトランジスタTr4の各々のゲートが第1制御線121に接続されてもよい(この構成においては第2制御線122が省略される)。第3制御信号Yc[i]は、第1制御信号Ya[i]がハイレベルとなる書込期間Pwrの経過後の所定の期間(以下「駆動期間」という)Pdrにてハイレベルとなり、それ以外の期間にてローレベルを維持する。
【0033】
書込期間Pwrは、単位回路Uに指定される階調に応じた電圧Vdataを容量素子Caに保持させるとともに、補償用トランジスタTcpの閾値電圧Vth(すなわち駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vth)を容量素子Cbに保持させるための期間である。そして、駆動期間Pdrにおいては、容量素子Caに保持された電圧Vdataと容量素子Cbに保持された閾値電圧Vthとに基づいて電気光学素子Eが駆動される。以下、図4および図5を参照しながら、第i行に属する第j列目の単位回路Uの動作の詳細を書込期間Pwrと駆動期間Pdrとに区分して説明する。
【0034】
(a) 書込期間Pwr(図4)
書込期間Pwrにおいては、第3制御信号Yc[i]がローレベルとなるからトランジスタTr1はオフ状態を維持する。したがって、図4に示すように、容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1とは電気的に絶縁される。
【0035】
図3に示すように、第2制御信号Yb[i]は書込期間Pwrにおいてハイレベルに遷移する。これによってトランジスタTr2はオン状態に変化するから、容量素子Cbの電極Eb1と電源線17とは補償用トランジスタTcpを介して電気的に接続される。この状態においては、図4に示すように、電源線17からトランジスタTr2と補償用トランジスタTcpとを経由して電極Eb1に電流が流れ込む。したがって、電極Eb1の電位は、電源電位Vddと補償用トランジスタTcpの閾値電圧Vth(すなわち駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vth)との差分値「Vdd−Vth」に収束する。電極Eb2には電源線17から電源電位Vddが供給されているから、書込期間Pwrにおいては容量素子Cbに閾値電圧Vthが保持される。
【0036】
また、第2制御信号Yb[i]がハイレベルに遷移することでトランジスタTr4はオン状態となる。これによって容量素子Caの電極Ea2はトランジスタTr4を介して電源線17に接続されるから、電極Ea2には電源電位Vddが供給される。
【0037】
データ線14に供給されるデータ信号X[j]の電位は書込期間Pwrにおいて「Vdd−Vdata」に設定される。また、図3に示すように、書込期間Pwrにおいて第1制御信号Ya[i]はハイレベルに遷移するから、図4に示すようにトランジスタTr3はオン状態に変化する。したがって、駆動トランジスタTdrのゲートと容量素子Caの電極Ea1とがトランジスタTr3を介してデータ線14に電気的に接続される。これによって駆動トランジスタTdrのゲートおよび容量素子Caの電極Ea1にはデータ線14から電位「Vdd−Vdata」が供給される。電極Ea2には電源電位Vddが供給されているから、図4に示すように容量素子Caには電圧Vdataが保持される。以上のように、本実施形態においては、容量素子Caに対する電圧Vdataの書込みと容量素子Cbに対する閾値電圧Vthの書込みとが並行して実施される。
【0038】
(b) 駆動期間Pdr(図5)
書込期間Pwrの経過後の駆動期間Pdrにおいては、図3に示すように、第2制御信号Yb[i]がローレベルに遷移するから、トランジスタTr2およびトランジスタTr4がオフ状態に変化する。したがって、図5に示すように、容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1とは電源線17から電気的に絶縁される。また、第1制御信号Ya[i]がローレベルに遷移することでトランジスタTr3はオフ状態に変化する。これによって駆動トランジスタTdrのゲートと容量素子Caの電極Ea1とはデータ線14から電気的に絶縁される。駆動トランジスタTdrのゲートのインピーダンスは充分に高いから、容量素子Caの電極Ea1はフローティング状態となる。
【0039】
駆動期間Pdrにおいては、図3に示すように、第3制御信号Yc[i]がハイレベルに遷移する。したがって、図5に示すように、トランジスタTr1がオン状態に変化して容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1とが電気的に接続される。いま、容量素子Caの電極Ea1はフローティング状態にあるから、電極Ea2と電極Eb1とがトランジスタTr1を介して接続されると、電極Ea1の電位(ゲート電位Vg)は変動する。駆動期間Pdrが開始される直前の時点で容量素子Caには電圧Vdataが保持されるとともに容量素子Cbには閾値電圧Vthが保持されているから、駆動期間PdrにてトランジスタTr1がオン状態に遷移すると、電極Ea1のゲート電位Vgは「Vdd−Vdata−Vth」に変動する。
【0040】
以上の動作によって駆動トランジスタTdrは導通状態に遷移する。したがって、駆動期間Pdrにおいては、駆動トランジスタTdrのゲート電位Vg(=Vdd−Vdata−Vth)に応じた駆動電流Ielが電源線17から駆動トランジスタTdrを経由して電気光学素子Eに供給される。駆動トランジスタTdrが飽和領域で動作すると仮定すると、駆動電流Ielは以下の式(1)で表現される電流値となる。式(1)における「β」は駆動トランジスタTdrの利得係数であり、「Vgs」は駆動トランジスタTdrのゲート−ソース間の電圧である。
Iel=(β/2)(Vgs−Vth)2 ……(1)
【0041】
駆動トランジスタTdrのソースは電源線17に接続されているから、式(1)における電圧Vgsはゲート電位Vgと電源電位Vddとの差分値(Vgs=Vdd−Vg)である。駆動期間Pdrにおいてゲート電位Vgが「Vdd−Vdata−Vth」に設定されることを考慮すると、式(1)は式(2)に変形される。
Iel=(β/2){Vdd−(Vdd−Vdata−Vth)−Vth}2
=(β/2)(Vdata)2 ……(2)
式(2)から理解されるように、駆動電流Ielは電位Vdataのみによって決定され、駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthには依存しない。したがって、各駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthのバラツキを補償して各電気光学素子Eの階調(輝度)のムラを抑制することができる。
【0042】
以上に説明したように、本実施形態においては、容量素子Caに対する電圧Vdataの書込みと容量素子Cbに対する閾値電圧Vthの書込みとが書込期間Pwrにて並行して実施される。換言すると、容量素子Caに電圧Vdataを保持させる期間(トランジスタTr3がオン状態となる期間)と容量素子Cbに閾値電圧Vthを保持させる期間(トランジスタTr2がオン状態となる期間)とは相互に重複する。したがって、電圧Vdataを単位回路Uに取り込む動作と閾値電圧Vthを抽出する動作とが別個の期間にて実行される従来の構成と比較して、駆動トランジスタTdrのゲート電位Vgの設定に要する時間(駆動期間Pdr以外の期間)を短縮することができる。
【0043】
また、本実施形態においては、書込期間Pwrにて駆動トランジスタTdrのゲートがデータ線14に接続される。この構成によれば、書込期間Pwrにおいて、駆動トランジスタTdrの動作点を、駆動期間Pdrで電気光学素子Eを駆動するときの導通状態(オン状態)に近づけることができる。したがって、例えば書込期間Pwrにおいて駆動トランジスタTdrのゲートに電源電位Vddが供給される構成と比較して、駆動期間Pdrにてゲート電位Vgを所期値(Vdd−Vdata−Vth)に設定するための時間長を短縮することができる。
【0044】
また、駆動トランジスタTdrのゲートに電位「Vdd−Vdata」を供給する動作(すなわち駆動トランジスタTdrの動作点を導通状態に近づける動作)は、容量素子Caに電圧Vdataを保持させる書込期間Pwrにおいて実行される。したがって、書込期間Pwrとは別個の期間にて駆動トランジスタTdrのゲートに電位「Vdd−Vdata」が供給される構成と比較して、ゲート電位Vgを所期値(Vdd−Vdata−Vth)に設定するための時間長(すなわち駆動期間Pdr以外の期間の時間長)を短縮することができる。
【0045】
なお、以上の形態においては、トランジスタTr2およびトランジスタTr4の各々のゲートが共通の配線(第2制御線122)に接続された構成を例示した。この構成によれば、各々のゲートが別個の配線に接続された構成と比較して、配線数の削減やこれによる開口率(単位回路Uが配置される領域のうち電気光学素子Eによる放射光が実際に出射する領域の割合)の向上が実現されるという利点がある。ただし、トランジスタTr2のゲートとトランジスタTr4のゲートとが別個の配線に接続された構成としてもよい。この構成によれば、トランジスタTr2およびトランジスタTr4のオン・オフの切換えを時間的に精密に制御できるといった利点がある。
【0046】
<B:第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態に係る要素のうち第1実施形態と共通する要素には同一の符号を付してその詳細な説明を適宜に省略する。
【0047】
図6は、本実施形態における電子装置Dの構成を示すブロック図である。同図に示すように、本実施形態の電子装置Dは、各電源線17の電位を制御する電圧制御回路27を具備する。電圧制御回路27は、素子アレイ部10に対する接地電位Gndの供給に加えて、第1行〜第m行の各電源線17に信号A[1]〜A[m]を出力する。信号A[1]〜A[m]の各々の電位は電源電位Vddおよび所定の電位Vssの一方から他方に順次に切り替えられる。電位Vssは、電源電位Vddよりも低い電位である。例えば接地電位Gndを電位Vssとして流用することができる。
【0048】
図7は、単位回路Uの構成を示す回路図である。同図に示すように、本実施形態における駆動トランジスタTdrおよび補償用トランジスタTcpの導電型はnチャネル型であり、各々の閾値電圧Vthは略一致する。また、電源電位Vddと電位Vssとの電位差は補償用トランジスタTcpの閾値電圧Vthよりも大きい。
【0049】
図7に示すように、本実施形態においては第1実施形態におけるトランジスタTr2が省略される。すなわち、補償用トランジスタTcpは、ドレインとゲートとが容量素子Cbの電極Eb1に接続(ダイオード接続)されるとともにソースが電源線17に対して直接に接続される。この構成によれば、ひとつの単位回路Uに含まれるトランジスタの総数が第1実施形態の単位回路Uと比較して削減されるから、単位回路Uの構成の簡素化やこれによる開口率の向上が実現されるという利点がある。
【0050】
図8は、電子装置Dにて利用される各信号の具体的な波形を示すタイミングチャートである。同図に示すように、第1制御信号Ya[1]〜Ya[m]の各々は、第1実施形態と同様にフレーム期間Fの書込期間Pwrごとに順番にハイレベルとなる。図8に示すように、本実施形態においては、書込期間Pwrと駆動期間Pdrとの間に設定期間Pseが介挿され、駆動期間Pdrと次のフレーム期間Fの書込期間Pwrとの間(すなわち各書込期間Pwrの開始前)に初期化期間Preが介挿される。
【0051】
図8に示すように、第2制御信号Yb[i]は、第1制御信号Ya[i]がハイレベルとなる書込期間Pwrとその開始前の初期化期間Preとにおいてハイレベルを維持し、設定期間Pseおよび駆動期間Pdrにおいてローレベルを維持する。第3制御信号Yc[i]は、第1制御信号Ya[i]がハイレベルとなる書込期間Pwrにてローレベルを維持し、初期化期間Pre・設定期間Pseおよび駆動期間Pdrにおいてハイレベルを維持する。また、電圧制御回路27が第i行目の電源線17に出力する信号A[i]は、第1制御信号Ya[i]がハイレベルとなる書込期間Pwrとその直後の設定期間Pseとにおいて電位Vssに設定され、初期化期間Preおよび駆動期間Pdrにおいて電源電位Vddに設定される。
【0052】
次に、第i行に属する第j列目の単位回路Uの動作を、初期化期間Preと書込期間Pwrと設定期間Pseと駆動期間Pdrとに区分して説明する。
【0053】
(a)初期化期間Pre(図9)
電圧制御回路27から第i行目の電源線17に出力される信号A[i]は初期化期間Preにて電位Vddに設定される。一方、第2制御信号Yb[i]および第3制御信号Yc[i]はハイレベルを維持するから、図9に示すようにトランジスタTr1とトランジスタTr4とはオン状態となる。これによって容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1とが電源線17に対して電気的に接続される。したがって、図9に示すように電極Ea2および電極Eb1は電源電位Vddに初期化される。
【0054】
(b)書込期間Pwr(図10)
書込期間Pwrにおいては第3制御信号Yc[i]がローレベルに遷移するから、トランジスタTr1はオフ状態に変化する。したがって、図10に示すように、容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1とは電気的に絶縁される。トランジスタTr4は、ハイレベルの第2制御信号Yb[i]によってオン状態を維持する。
【0055】
図8に示すように、信号A[i]は書込期間Pwrの開始に際して電源電位Vddから電位Vssに低下する。初期化期間Preにて電極Eb1は電源電位Vddに設定されていたから(図9)、書込期間Pwrにおいて電源線17の信号A[i]が電位Vssに低下すると、トランジスタTdrには閾値電圧Vthを上回る順方向の電圧(Vdd−Vss)が印加されることになる。
この状態においては、電極Eb1から補償用トランジスタTcpを経由して電源線17に電流が流れる。したがって、電極Eb1の電位は低下していき、最終的には電位Vssと補償用トランジスタTcpの閾値電圧Vthとの加算値「Vss+Vth」に収束する。電極Eb2には電位Vssが供給されているから、図10に示すように容量素子Cbには閾値電圧Vthが保持される。
【0056】
書込期間Pwrにおいてデータ信号X[j]は電位Vssと電位Vdataとの加算値(Vss+Vdata)に設定される。また、図10に示すように、第1制御信号Ya[i]はハイレベルに遷移するから、容量素子Caの電極Ea1と駆動トランジスタTdrのゲートとはトランジスタTr3を介してデータ線14に電気的に接続される。したがって、駆動トランジスタTdrのゲートおよび容量素子Caの電極Ea1にはデータ線14から電位「Vss+Vdata」が供給される。電極Ea2には電源線17からトランジスタTr4を介して電位Vssが供給されているから、図10に示すように容量素子Caには電圧Vdataが保持される。以上のように、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、容量素子Caに対する電圧Vdataの書込みと容量素子Cbに対する閾値電圧Vthの書込みとが並行して実施される。
【0057】
(c)設定期間Pse(図11)
書込期間Pwrの経過後の設定期間Pseにおいては、第1制御信号Ya[i]および第2制御信号Yb[i]がローレベルに遷移するから、図11に示すように、トランジスタTr3およびトランジスタTr4がオフ状態に変化する。したがって、容量素子Caの電極Ea2が電源線17から電気的に絶縁されるとともに、容量素子Caの電極Ea1(駆動トランジスタTdrのゲート)がフローティング状態となる。また、設定期間Pseにおいては第3制御信号Yc[i]がハイレベルに遷移するから、図11に示すようにトランジスタTr1はオン状態に変化する。設定期間Pseが開始する直前の時点で容量素子Caには電圧Vdataが保持されるとともに容量素子Cbには閾値電圧Vthが保持されているから、容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1とがトランジスタTr1を介して電気的に接続されると、駆動トランジスタTdr(電極Ea1)のゲート電位Vgは「Vss+Vdata+Vth」に変動する。
【0058】
(d)駆動期間Pdr(図12)
設定期間Pseの経過後の駆動期間Pdrにおいては、信号A[i]が電位Vssから電源電位Vddに上昇する。駆動期間PdrにおいてトランジスタTr1はオン状態を維持するから、駆動トランジスタTdrのゲートと電源線17とは電極Ea2および電極Eb1を介して容量的に結合する。したがって、電源線17が電位Vssから電源電位Vddに上昇すると、図12に示すように、ゲート電位Vgもその変動量(Vdd−Vss)に応じて「k・(Vdd−Vss)」だけ上昇する。なお、「k」は容量素子Caと容量素子Cbの容量比に応じた係数である。そして、以上のようにゲート電位Vgが上昇することで駆動トランジスタTdrは導通状態となる。したがって、駆動期間Pdrにおいては、駆動トランジスタTdrのゲート電位Vgに応じた駆動電流Ielが電源線17から駆動トランジスタTdrを経由して電気光学素子Eに供給される。この駆動電流Ielは、第1実施形態と同様に閾値電圧Vthに依存しない電流値となる。
【0059】
以上に説明したように、本実施形態においても、容量素子Caに対する電圧Vdataの書込みと容量素子Cbに対する閾値電圧Vthの書込みとが並行して実施される。また、電位「Vss+Vdata」が書込期間Pwrにてゲートに供給されることで駆動トランジスタTdrの動作点は駆動期間Pdrにおける導通状態に近づけられる。したがって、本実施形態においても第1実施形態と同様の効果が奏される。さらに、本実施形態においては、初期化期間Preにおいて容量素子Cbの電極Eb1が電源電位Vdd(電位Vssと閾値電圧Vthとの加算値よりも高い電位)に初期化されるから、その直後の書込期間Pwrにおいては閾値電圧Vthを上回る順方向の電圧を補償用トランジスタTcpに確実に印加することができる。したがって、初期化期間Preの開始前における電極Eb1の電位に拘わらず、確実に閾値電圧Vthを容量素子Cbに保持させることができる。
【0060】
<C:変形例>
以上の各形態には様々な変形を加えることができる。具体的な変形の態様を例示すれば以下の通りである。なお、以下の各態様を適宜に組み合わせてもよい。
【0061】
(1)変形例1
以上の各形態においては、容量素子Caに対する電圧Vdataの印加と容量素子Cbに対する閾値電圧Vthの印加とが書込期間Pwrにて実行される構成を例示したが、これらの動作を実施する期間が完全に一致している必要は必ずしもない。例えば、図2の構成のもとで、所定の期間においてトランジスタTr3とトランジスタTr4とをオン状態とすることで容量素子Caに電圧Vdataを印加し、この期間の途中の時点からトランジスタTr2をオン状態とすることで容量素子Cbに閾値電圧Vthを印加し始めてもよい。すなわち、以上の各形態においては、容量素子Caに電圧Vdataを保持させる期間と容量素子Cbに閾値電圧Vthを保持させる期間とが各々の少なくとも一部において重複していることが望ましい。また、図3や図8に示した各期間(初期化期間Pre・書込期間Pwr・設定期間Pseおよび駆動期間Pdr)は間隔を挟まずに連続してもよいし、以上の各形態のように相互間に間隔が介在してもよい。
【0062】
(2)変形例2
以上の各形態においては駆動期間Pdrの全区間にわたってトランジスタTr1がオン状態に維持される構成を例示したが、駆動期間Pdrの一部のみにおいてトランジスタTr1をオン状態とする構成も採用される。この構成における第3制御信号Yc[i]は、図3や図8に破線で示されるように、駆動期間Pdrの始点を含む所定の期間にてハイレベルに遷移するとともにそれ以外の期間においてローレベルを維持する。ただし、以上の各形態のように駆動期間Pdrの全区間にわたって電極Ea2と電極Eb1とが電気的に接続される構成によれば、電源線17における電源電位Vddの変動が電気光学素子Eの階調に与える影響を低減することができる。この効果について詳述すると以下の通りである。
【0063】
図5に示した駆動期間Pdrにおいては、各単位回路Uの電気光学素子Eに対する駆動電流Ielの供給に起因して電源線17の電源電位Vddが低下(変動量Δ)する場合がある。この場合に駆動トランジスタTdrのソースの電位は変動量Δだけ低下する。ここで、駆動期間PdrにおいてトランジスタTr1がオフ状態に遷移する構成(以下「構成1」という)においては、駆動トランジスタTdrのゲートと電源線17とがトランジスタTr1によって電気的に分離されるから、電源電位Vddの変動はゲート電位Vgに影響しない。
【0064】
これに対し、図5に示したように駆動期間PdrにおいてトランジスタTr1がオン状態を維持する構成(以下「構成2」という)においては、トランジスタTr1によって接続された電極Ea2と電極Eb1とを介して駆動トランジスタTdrのゲートと電源線17とが容量的に結合するから、電源電位Vddが変動量Δだけ低下するとゲート電位Vgも変動量Δに応じて低下する。すなわち、構成2においては、電源電位Vddが変動したときの駆動トランジスタTdrのゲート−ソース間の電圧Vgsの変動が、構成1よりも緩和される。式(1)で表現されるように、駆動電流Ielは駆動トランジスタTdrのゲート−ソース間の電圧Vgsに応じて決定される。したがって、駆動期間PdrにおいてトランジスタTr1がオン状態を維持する構成2(第1実施形態や第2実施形態)によれば、トランジスタTr1がオフ状態となる構成1と比較して、駆動電流Ielに対する電源電位Vddの変動の影響を低減することができる。
【0065】
(3)変形例3
単位回路Uの具体的な構成は以上の例示に限定されない。例えば、単位回路Uを構成する各トランジスタの導電型は図2や図7の態様から適宜に変更される。また、電気光学素子Eに対する駆動電流Ielの供給の可否を制御するトランジスタが駆動電流Ielの経路上(例えば駆動トランジスタTdrと電気光学素子Eとの間)に配置された構成も採用される。このトランジスタを駆動期間Pdrにてオン状態に制御することで電気光学素子Eに対する駆動電流Ielの供給が可能となり、それ以外の期間にてオフ状態に遷移させることで駆動電流Ielの経路が遮断されて電気光学素子Eは消灯する。この構成によれば、電気光学素子Eが実際に駆動される期間を確実に規定することができる。
【0066】
(4)変形例4
以上の形態においては電気光学素子EとしてOLED素子を例示したが、本発明の電子装置に採用される電気光学素子(被駆動素子)はこれに限定されない。例えば、OLED素子に代えて、無機EL素子や、フィールド・エミッション(FE)素子、表面導電型エミッション(SE:Surface-conduction Electron-emitter)素子、弾道電子放出(BS:Ballistic electron Surface emitting)素子、LED(Light Emitting Diode)素子といった様々な自発光素子、さらには液晶素子や電気泳動素子やエレクトロクロミック素子など様々な電気光学素子を利用することができる。また、本発明は、バイオチップなどのセンシング装置にも適用される。
【0067】
以上に例示したように、本発明の被駆動素子とは、電気エネルギの付与によって所期の状態に制御(駆動)される総ての要素を含む概念であり、発光素子などの電気光学素子は被駆動素子の例示に過ぎない。なお、被駆動素子には、OLED素子のような電流駆動型の素子のほか、各々に印加される電圧(以下「駆動電圧」という)に応じて駆動される電圧駆動型の被駆動素子がある。電圧駆動型の被駆動素子が採用された電子装置Dにおいては、電位Vdataと閾値電圧Vthとに応じて決定される電位(以上の各形態における「Vdd−Vdata−Vth」)が駆動期間Pdrにて駆動トランジスタTdrのゲートに供給され、この制御電位に対応した電圧値の駆動電圧が供給されることで被駆動素子が駆動される。
【0068】
<D:応用例>
次に、本発明に係る電子装置(電気光学装置)を利用した電子機器について説明する。図13ないし図15には、以上に説明した何れかの形態に係る電子装置Dを表示装置として採用した電子機器の形態が図示されている。
【0069】
図13は、以上の各形態に係る電子装置Dを採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、各種の画像を表示する電子装置Dと、電源スイッチ2001やキーボード2002が設置された本体部2010とを具備する。電子装置DはOLED素子を電気光学素子Eとして使用しているので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
【0070】
図14に、以上の各形態に係る電子装置Dを適用した携帯電話機の構成を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002と、各種の画像を表示する電子装置Dとを備える。スクロールボタン3002を操作することによって、電子装置Dに表示される画面がスクロールされる。
【0071】
図15に、以上の各形態に係る電子装置Dを適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002と、各種の画像を表示する電子装置Dとを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった様々な情報が電子装置Dに表示される。
【0072】
なお、本発明に係る電子装置が適用される電子機器としては、図13から図15に示した機器のほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。また、本発明に係る電子装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光書込み型のプリンタや電子複写機といった画像形成装置においては、用紙などの記録材に形成されるべき画像に応じて感光体を露光する書込みヘッドが使用されるが、この種の書込みヘッドとしても本発明の電子装置は利用される。
【符号の説明】
【0073】
D……電子装置、U……単位回路、E……電気光学素子、10……素子アレイ部、12……走査線、121……第1制御線、122……第2制御線、123……第3制御線、14……データ線、17……電源線、22……走査線駆動回路、24……データ線駆動回路、27……電圧制御回路、Ca,Cb……容量素子、Ea1,Ea2,Eb1,Eb2……電極、Tdr……駆動トランジスタ、Tr1,Tr2,Tr3,Tr4……トランジスタ、Tcp……補償用トランジスタ、Pre……初期化期間、Pwr……書込期間、Pse……設定期間、Pdr……駆動期間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御端子と第1端子と第2端子とを備えるとともに前記制御端子の電位に応じて前記第1端子と前記第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタと、第1電極と第2電極とを備えるとともに前記第1電極が前記制御端子に電気的に接続された第1容量素子と、第3電極と第4電極とを備える第2容量素子とを含み、被駆動素子を駆動するための電子回路を駆動する方法であって、
前記制御端子にデータ電位を供給することによって前記制御端子の電位を第1の電位に設定するとともに前記データ電位に応じた電荷を前記第1容量素子に保持させる第1ステップと、
前記駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を前記第2容量素子に保持させる第2ステップと、
前記第2電極と前記第3電極とを電気的に接続することによって、前記制御端子を前記データ電位および前記閾値電圧に応じた電位に設定する第3ステップとを含む
ことを特徴とする電子回路の駆動方法。
【請求項2】
前記電子回路は、ダイオード接続された状態で前記第3電極に電気的に接続された補償用トランジスタをさらに含み、前記補償用トランジスタの閾値電圧は、前記駆動トランジスタの閾値電圧に対応し、
前記第2ステップにおいては、前記補償用トランジスタに電流を流すことで、前記補償用トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を前記第2容量素子に保持させる
ことを特徴とする請求項1に記載の電子回路の駆動方法。
【請求項3】
前記電子回路は、前記補償用トランジスタに流れる電流の経路上に配置されたスイッチング素子をさらに含み、
前記第2ステップを実行する期間の少なくとも一部において、前記スイッチング素子をオン状態とし、前記第3ステップを実行する期間の少なくとも一部において、前記スイッチング素子をオフ状態とする
ことを特徴とする請求項2に記載の電子回路の駆動方法。
【請求項4】
前記第2ステップの実行前に、前記第3電極に所定の電位を供給し、
前記第2ステップを実行する期間の少なくとも一部において、前記補償用トランジスタが備える2個の端子のうち前記第3電極に接続された端子とは異なる端子の電位を、前記2個の端子の間に電流が流れるように変化させる
ことを特徴とする請求項2に記載の電子回路の駆動方法。
【請求項5】
前記第1ステップを実行する期間の少なくとも一部において、前記第1電極を前記データ線に電気的に接続し、前記第2電極に所定の電位を供給する
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の電子回路の駆動方法。
【請求項6】
制御端子と第1端子と第2端子とを備えるとともに前記制御端子の電位に応じて前記第1端子と前記第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタと、
前記駆動トランジスタの導通状態に応じた電圧レベルの駆動電圧および前記駆動トランジスタの導通状態に応じた電流レベルの駆動電流のうち少なくとも一方が供給される被駆動素子と、
第1電極と第2電極とを備えるとともに前記第1電極が前記制御端子に電気的に接続された第1容量素子と、
第3電極と第4電極とを備える第2容量素子と、
前記第2電極と前記第3電極との電気的な接続を制御する第1スイッチング素子と
を具備することを特徴とする電子回路。
【請求項7】
前記第1容量素子には、データ線に供給されるデータ電位に応じた電荷が保持され、
前記第2容量素子には、前記駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷が保持され、
前記第2電極と前記第3電極とは、前記第1スイッチング素子を介して電気的に接続される
ことを特徴とする請求項6に記載の電子回路。
【請求項8】
ダイオード接続された状態で前記第3電極に電気的に接続され、前記駆動トランジスタの閾値電圧に対応した閾値電圧を有する補償用トランジスタをさらに具備し、
前記補償用トランジスタに電流が流れることによって、前記補償用トランジスタの閾値電圧に応じた電荷が前記第2容量素子に保持される
ことを特徴とする請求項7に記載の電子回路。
【請求項9】
前記補償用トランジスタに流れる電流の経路上に配置されるとともに前記補償用トランジスタに電流が流れる期間の少なくとも一部においてオン状態となる第2スイッチング素子
をさらに具備することを特徴とする請求項8に記載の電子回路。
【請求項10】
前記第1電極と前記データ線との電気的な接続を制御する第3スイッチング素子
をさらに具備することを特徴とする請求項7から請求項9の何れかに記載の電子回路。
【請求項11】
前記第2電極と所定の電位が供給される給電線との電気的な接続を制御する第4スイッチング素子
をさらに具備する請求項7から請求項10の何れかに記載の電子回路。
【請求項12】
前記第1スイッチング素子および前記第4スイッチング素子は、前記駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷が前記第2容量素子に保持される前にオン状態となる
ことを特徴とする請求項11に記載の電子回路。
【請求項13】
複数のデータ線と複数の単位回路とを含み、
前記複数の単位回路の各々は、
制御端子と第1端子と第2端子とを備えるとともに前記制御端子の電位に応じて前記第1端子と前記第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタと、
前記駆動トランジスタの導通状態に応じた電圧レベルの駆動電圧および前記駆動トランジスタの導通状態に応じた電流レベルの駆動電流のうち少なくとも一方が供給される被駆動素子と、
第1電極と第2電極とを備えるとともに前記第1電極が前記制御端子に電気的に接続され、前記複数のデータ線のうちのひとつのデータ線に供給されるデータ電位に応じた電荷を保持する第1容量素子と、
第3電極と第4電極とを備える第2容量素子と、
前記第2電極と前記第3電極との電気的な接続を制御する第1スイッチング素子と
を含むことを特徴とする電子装置。
【請求項14】
請求項13に記載の電子装置を具備することを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−123399(P2012−123399A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−9820(P2012−9820)
【出願日】平成24年1月20日(2012.1.20)
【分割の表示】特願2006−3300(P2006−3300)の分割
【原出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】