電子放出素子、及びその製造方法、並びに電子放出装置、自発光デバイス、及び画像表示装置
【課題】電子放出側の電極が電子放出に伴って徐々に消失していく事態を回避して、電子放出特性の長期維持が可能な電子放出素子の構成、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電子加速層4を有する。電子加速層4は、電極基板2側に位置する絶縁体微粒子を含む微粒子層105を有し、微粒子層105の表面には、導電微粒子の堆積物106を有する。そして、電子加速層4には予め導電経路が形成され、堆積物106には導電経路の出口に相当する物理的な欠陥よりなる電子放出部が形成されている。電子は、この電子放出部108より放出される。
【解決手段】電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電子加速層4を有する。電子加速層4は、電極基板2側に位置する絶縁体微粒子を含む微粒子層105を有し、微粒子層105の表面には、導電微粒子の堆積物106を有する。そして、電子加速層4には予め導電経路が形成され、堆積物106には導電経路の出口に相当する物理的な欠陥よりなる電子放出部が形成されている。電子は、この電子放出部108より放出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより電子を放出する電子放出素子、及びその製造方法、並びに電子放出装置、自発光デバイス、及び画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子放出素子として、スピント(Spindt)型電極、カーボンナノチューブ(CNT)型電極などが知られている。このような電子放出素子は、例えば、FED(Field Emision Display)の分野に応用検討されている。このような電子放出素子は、尖鋭形状部に電圧を印加して約1GV/mの強電界を形成し、トンネル効果により電子放出させる。
【0003】
しかしながら、これら2つのタイプの電子放出素子は、電子放出部の表面近傍が強電界であるため、放出された電子は電界により大きなエネルギーを得て気体分子を電離しやすくなる。気体分子の電離により生じた陽イオンは、強電界により電子放出素子の表面方向に加速衝突し、スパッタリングによる電子放出素子の破壊が生じるという問題がある。
【0004】
また、大気中にある酸素は、電離エネルギーよりも解離エネルギーの方が低いため、イオンの発生よりも先にオゾンを発生する。オゾンは人体に有害である上に、強い酸化力にて様々なものを酸化することから、電子放出素子の周囲の部材にダメージを与えるという問題が存在する。このような問題に対処するためには、周辺部材に耐オゾン性の高価な材料を用いなければならない。
【0005】
他方、上記とは別のタイプの電子放出素子として、MIM(Metal Insulator Metal)型やMIS(Metal Insulator Semiconductor)型の電子放出素子が知られている。これらは電子放出素子内部の量子サイズ効果及び強電界を利用して電子を加速し、平面状の素子表面から電子を放出させる面放出型の電子放出素子である。これらは素子内部の電子加速層で加速した電子を放出するため、素子外部に強電界を必要としない。従って、MIM型及びMIS型の電子放出素子においては、上記スピント型やCNT型、BN型の電子放出素子のように、気体分子の電離によるスパッタリングで破壊されるという問題やオゾンが発生するという問題を克服できる。
【0006】
例えば、特許文献1には、2枚の電極の間に金属などの微粒子を分散させた絶縁体膜を設け、一方の電極(基板電極)から絶縁体膜中に電子を注入し、注入した電子を絶縁体膜中で加速させ、厚み数十Å〜1000Åの他方の電極(電子放出側の電極)を通して電子を放出するMIM形電子放出素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−298623号公報(平成1年12月1日公開)
【特許文献2】特開平1−279557号公報(平成1年11月9日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、電子放出側の電極から電子を放出させる構成では、電子放出側の電極が、放出されていく電子によって、逆スパッタされるといった問題がある。逆スパッタとは、電子放出側の電極が放出電子によるスパッタリングのターゲットとなることである。そのため、電子放出側の電極を構成する金属材料は徐々にではあるが、確実に失われていく。そして、この現象は、電子放出側の電極がベタ電極である電子放出素子にも当てはまり、表面電極を構成する金属材料は時間と共に消失し、最終的には電極としての機能が失われる。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、電子放出側の電極が電子放出に伴って徐々に消失していく事態を回避して、電子放出特性の長期維持が可能な電子放出素子、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電子放出素子は、上記課題を解決するために、対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子であって、前記電子加速層は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を有し、該微粒子層には、前記微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が付与されており、前記電子加速層には、当該電子加速層を厚み方向に通る導電経路であって、経路出口が前記電子を前記薄膜電極へと与える電子放出部となる導電経路が予め形成されていることを特徴としている。ここで、予め導電経路が形成されているとは、真空中で素子に電圧印加を行い、駆動するよりも前であって、つまり、電子放出素子の製造工程において形成しておくという意味である。
【0011】
上記構成によれば、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、電子加速層内に電流が流れ、その一部が印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって、薄膜電極側より放出される。
【0012】
ここで電子は、薄膜電極側の任意の箇所から放出されるのではなく、薄膜電極の下層に位置する電子加速層に予め形成された電子放出部より放出される。電子放出部は、当該電子加速層に形成されている、電子加速層を厚み方向に通る導電経路の出口であって、薄膜電極より放出される電子は、この導電経路を通って薄膜電極へと与えられ放出される。
【0013】
このような導電経路(予め形成されている導電経路)は、絶縁体微粒子を含む微粒子層に付与されている、微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質の作用により、大気中のフォーミング処理によって容易に形成できる。
【0014】
大気中のフォーミング処理とは、大気中で電極基板と薄膜電極との間に直流電圧を印加して、電極基板側から微粒子層を抜けて薄膜電極側へと流れる素子内電流の導電経路を形成する処理である。
【0015】
大気中でのフォーミング処理により電子加速層に予め導電経路が形成されていることで、その後の真空中における電子放出操作に要する素子への電圧印加によって、新たに導電経路が形成されることはなく、素子内電流は、予め形成されている導電経路を通って流れる。これにより、電子放出時に、導電経路が安定して機能することとなる。これに対し、大気中のフォーミング処理が行われておらず、予め導電経路が形成されていない素子に対して真空中において電圧印加することは、導電経路の形成過程であり、かつ、電子放出過程である。つまり、導電経路を形成しながら、電子放出も行うこととなる。そして、このような条件で形成される導電経路の形成は、恒常的なものではなく、真空中において電圧を印加する度に、新たに形成されるものである。そのため、真空中において電圧を印加する度に、素子の導電状態が変わってしまい、安定した電子放出特性を得ることができない このように、本発明の電子放出素子では、電子加速層の任意の箇所から放出されるのではなく、放出する箇所が、電子加速層の電子放出部に特定される。したがって、薄膜電極において、放出される電子によって逆スパッタされる部分は、電子放出部の真上に位置する部分や、電子放出部近傍に位置する部分に限定されることとなる。そのため、薄膜電極における電子放出部の真上やその近傍に位置する部分以外では、電子に曝されることはなく、薄膜電極を構成する金属材料が放出電子により逆スパッタされ、時間と共に消失し、最終的には電極としての機能が失われることがない。
【0016】
本発明の電子放出素子においては、さらに、前記単独物質又は混合物質は、前記微粒子層の上面よりみた場合の付与位置が離散的になるように付与されている構成とすることが好ましい。
【0017】
電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質を付与する部分については、微粒子層の表面全体に付与する構成でもよい。しかしながら、フォーミング処理を行って導電経路を形成する場合、表面全体に付与した構成では、電流の流れ易い部分に導電経路が形成されてしまい、電子放出部が偶発的に決定される。電子放出部が偶発的に形成されるのでは、電子放出部を薄膜電極面内に任意に配置して薄膜電極内での電子の放出位置を制御したり、単位面積当たりの放出量を制御したりすることができない。なお、電子の放出量は、電極基板と薄膜電極との間に印加する電圧を変化させることでも制御可能であり、低電圧では電子の放出量を小さく、高電圧では電子の放出量を大きく操作できる。しかしながら、本発明の素子は、低電圧印加時の電子放出量が極端に小さく、電子放出効率が著しく低下する。このため、電子放出量を極端に小さく絞り込みたい時には、印加電圧による電子放出量の制御は用いられない。
【0018】
これに対し、上記構成によれば、前記単独物質又は混合物質は、前記微粒子層の上面よりみた場合の付与位置が離散的になるように付与されているので、大気中でのフォーミング処理にて導電経路を形成した場合に、素子内電流が流れる導電経路は、電極基板側から離散的に配置されている、個々の、単独物質又は混合物質の付与部分に対して形成され、個々の付与部分に電子放出部が形成される。このように、単独物質又は混合物質の付与部分を離散的に配置した構成とすることで、電子放出部を薄膜電極面内に任意に配置することが可能となり、薄膜電極内での電子の放出位置や、単位面積当たりの放出量等の制御が可能になる。
【0019】
本発明の電子放出素子においては、さらに、前記単独物質又は混合物質は導電微粒子であり、該導電微粒子は、前記微粒子層の表面に堆積されて堆積物を形成しており、
該導電微粒子の堆積物には、前記電子放出部となる物理的な欠陥が設けられている構成とすることもできる。
【0020】
前記単独物質又は混合物質は、例えば、導電微粒子とすることができる。導電微粒子の微粒子層への付与は、微粒子層の表面に導電微粒子が堆積されて堆積物を形成することで実現される。導電微粒子の堆積物には、導電経路の形成にて、電子放出部となる物理的な欠陥が設けられる。
【0021】
本発明の電子放出素子においては、さらに、前記微粒子層が、絶縁体微粒子相互を結着させるバインダー樹脂をさらに含む構成とすることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、微粒子層において、絶縁体微粒子相互がバインダー樹脂にて結着されているので、電子放出素子の機械的強度を上げることができる。また、前記単独物質又は混合物質が、導電微粒子である場合は、微粒子層がバインダー樹脂にて固められることで、導電微粒子は微粒子層の中に入り込むよりも、微粒子層の表面に堆積しやすくなり、本発明の電子放出素子の構成を容易に実現できる。
【0023】
本発明の電子放出素子では、さらに、上記導電微粒子は、貴金属であってもよい。このように、上記導電微粒子が、貴金属であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を図ることができる。
【0024】
また、本発明の電子放出素子では、さらに、上記導電微粒子は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいる構成としてもよい。このように、上記導電微粒子が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0025】
本発明の電子放出素子では、さらに、上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
【0026】
本発明の電子放出装置は、上記いずれか1つの電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
【0027】
既に電子放出素子において記載したとおり、本発明の電子放出素子は、薄膜電極が電子放出に伴って徐々に消失していく事態を回避して、電子放出特性の長期維持が可能な電子放出素子であるので、このような電子放出素子を用いて構成された電子放出装置は、電子放出特性の長期維持が可能な電子放出装置となる。
【0028】
そして、さらに、このような本発明の電子放出装置を用いて構成された、自発光デバイスも、本発明の範疇としている。
【0029】
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記課題を解決するために、対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子の製造方法であって、前記電極基板上に絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成し、前記微粒子層の表面に導電微粒子を堆積させて導電微粒子の堆積物を形成することで、電子加速層を形成する工程と、前記電子加速層の表面に薄膜電極を形成する工程と、大気中にて前記電極基板と前記薄膜電極との間に直流電圧を印加して、前記電子加速層に導電経路を形成するフォーミング処理を行う工程とを含んでいる。
【0030】
上記方法によれば、電子放出特性の長期維持が可能な上記した本発明の電子放出素子を得ることができる。
【0031】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、さらに、前記電子加速層を形成する工程では、前記微粒子層の表面に導電微粒子の堆積物を離散的に配置することが好ましい。
【0032】
上記方法によれば、電子放出特性の長期維持が可能なことに加え、薄膜電極内での電子の放出位置や、単位面積当たりの放出量等の制御が可能な上記した本発明の電子放出素子を得ることができる。
【0033】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、前記電子加速層を形成する工程に、
前記電子加速層の表面全体に、電子対を供与する電子供与体が置換基として導入されてなる塩基性溶液を塗布する工程がさらに含まれることが好ましい。
【0034】
上記方法によれば、再現性よく、小さなエネルギーで、しかも穏やかな処理条件にて、電子放出部を大気中でのフォーミング処理にて形成することができる。
【0035】
上記塩基性溶液は、電子対を供与する電子供与体が置換基として導入されてなる。電子供与体を有する電子供与基は、電子(電子対)を供与後イオン化するが、このイオン化した電子供与基が、絶縁体微粒子の表面において電荷の受け渡しを行い、絶縁体微粒子の表面における電気伝導を可能にするのではないか、と考察している。また、大気中という雰囲気条件から、大気中の水分子あるいは酸素分子の表面付着が、この電気伝導現象を容易にすると考えられる。
【0036】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、さらに、前記フォーミング処理を行う工程では、直流電圧を印加するにあたり、電圧を段階的に上昇させて印加することが好ましい。
【0037】
電子放出部をフォーミング処理にて形成するにあたり、電極基板と薄膜電極との間に、必要な電界を発生させる電圧を一気に印加すると、素子が絶縁破壊を起こす虞がある。
【0038】
上記方法のように、電圧を段階的に上昇させていくことで、絶縁破壊を起こすことなく、フォーミング処理を行うことができる。
【0039】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、さらに、前記フォーミング処理を行う工程では、前記電極基板と前記薄膜電極との間に発生する電界強度が1.9×107〜4.1×107[V/m]となるように、直流電圧を印加することが好ましい。
【0040】
これは、電界強度が1.9×107[V/m]未満となると、フォーミング処理ができないか、できた場合でも導電経路の形成が不十分であり、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流が電子放出を得るだけの十分な量とならないためである。また、電界強度が4.1×107[V/m]を超えると、大規模な絶縁破壊を生じ易く導電経路そのものが破壊されてしまう。一度このような経過を辿ると、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流はまったく流れなくなるか、流れたとしても電子放出を得るだけの十分な量とならないためである。上記範囲とすることで、不具合なくフォーミング処理にて電子放出部を形成できる。
【0041】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、さらに、前記電子加速層を形成する工程では、インクジェット法を用いて前記微粒子層の表面に導電微粒子の堆積物を離散的に配置することが好ましい。
【0042】
電子加速層における導電微粒子の堆積物を離散的に堆積し得る手法としては、マスクを用いたスプレー塗布法、マスクレスで微粒液滴を飛散可能な静電噴霧法等があるが、インクジェット法を用いることで、塗布位置の制御性、及び塗布量の繰り返し再現性を、容易に高く確保できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の電子放出素子は、対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子であって、前記電子加速層は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を有し、該微粒子層には、前記微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が付与されており、前記電子加速層には、当該電子加速層を厚み方向に通る導電経路であって、経路出口が前記電子を前記薄膜電極へと与える電子放出部となる導電経路が予め形成されている構成である。
【0044】
本発明の電子放出素子の製造方法は、対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子の製造方法であって、前記電極基板上に絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成し、前記微粒子層の表面に導電微粒子を堆積させて導電微粒子の堆積物を形成することで、電子加速層を形成する工程と、前記電子加速層の表面に薄膜電極を形成する工程と、大気中にて前記電極基板と前記薄膜電極との間に直流電圧を印加して、前記電子加速層に導電経路を形成するフォーミング処理を行う工程とを含んでいる。
【0045】
上記構成、或いは方法によれば、電子放出側に位置する薄膜電極が電子放出に伴って徐々に消失していく事態を回避して、電子放出特性の長期維持が可能な電子放出素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態の電子放出素子を用いた電子放出装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1の電子放出装置に備えられた電子放出素子における電子加速層の断面の模式図である。
【図3】図1の電子放出装置に備えられた電子放出素子の変形例の写真であり、電子加速層において微粒子層の上に絶縁体微粒子が離散的に堆積されている電子加速層の表面の写真である。
【図4】図3に示す変形例の電子放出素子における電子加速層の、導電微粒子が離散的に堆積されている一堆積物の表面状態を示す説明図である。
【図5】図3に示す変形例の電子放出素子における電子加速層の断面の模式図であって、離散的に堆積されている1導電微粒子堆積物近傍の断面を示す模式図である。
【図6】(a)〜(b)は、図3に示す変形例の電子放出素子における電子加速層の、導電微粒子が離散的に堆積されている一堆積物の表面状態を拡大して示す説明図である。
【図7】電子放出素子に対して実施する電子放出実験の測定系を示す説明図である。
【図8】サンプル#1の電子放出素子に対して、真空中で段階的な電圧印加を行い、電子放出素子の素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図9】サンプル#1の電子放出素子に対して、大気圧中で段階的な電圧印加を行い、電子放出素子の素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図10】大気圧中で段階的な電圧印加(フォーミング処理)を行った後のサンプル#1の電子放出素子に対して、真空中での電子放出素子の素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図11】サンプル#1の電子放出素子と同じ製法で作成した電子放出素子に対して、最終電圧を変化させてフォーミング処理を行い、その後、真空中での電子放出素子の素子内電流、電子放出電流を測定した結果を示す図である。
【図12】(a)〜(b)は、フォーミング処理条件を異ならせた場合の、導電微粒子堆積物である銀粒子ドーム表面及びその近傍の状態を示す図面である。
【図13】サンプル#7、#8の電子放出素子に対して、大気中でフォーミング処理を行った後に、電子放出素子の電子放出電流を測定した結果を示す図である。
【図14】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスの一例を示す図である。
【図15】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスの他の一例を示す図である。
【図16】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスの更に別の一例を示す図である。
【図17】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスを具備する画像表示装置の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明に係る電子放出素子、電子放出装置の実施形態及び実施例について、図1〜図17を参照して説明する。なお、以下に記述する実施の形態及び実施例は、本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0048】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置10の構成を示す模式図である。
【0049】
図1に示すように、電子放出装置10は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1と電源7とを有する。電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極3と、その間に挟まれた電子加速層4とからなる。電極基板2と薄膜電極3の間に、電源7にて電圧が印加されるようになっている。
【0050】
電極基板2と薄膜電極3との間に電圧が印加されると、電極基板2と薄膜電極3との間の電子加速層4に電流が流れ、その一部が、印加電圧の形成する強電界により弾道電子として電子加速層4から放出され、薄膜電極3側より素子外部へと放出される。
【0051】
電子加速層4から放出された電子は、薄膜電極3を通過(透過)して、或いは、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4の表面に凹凸等の影響から生じる薄膜電極3の孔(隙間)からすり抜けて外部へと放出される。
【0052】
ところで、前述したように、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4のあらゆる箇所から電子が放出される構成では、電子放出側に位置する薄膜電極3が、放出される電子によって逆スパッタされ、その結果、薄膜電極3は時間と共に消失し、最終的には上部電極としての機能を失うといった問題がある。
【0053】
このような問題を解決するために、本実施形態の電子放出素子1では、電子加速層4の全面から電子を放出させるのではなく、電子加速層4に電子放出部を形成し、電子加速層4の特定部分よりのみ電子を放出させる構成としている。
【0054】
すなわち、電子加速層4は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を有し、該微粒子層には、当該微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が付与されている。さらに、電子加速層4には、当該電子加速層4を厚み方向に通る導電経路であって、経路出口が電子を薄膜電極3へと与える電子放出部となる導電経路が予め形成されている。予め導電経路が形成されているとは、真空中で素子1に電圧印加を行い、駆動するよりも前であって、つまり、電子放出素子1の製造工程において形成しておくという意味である。
【0055】
上記構成によれば、電子は、薄膜電極3側に任意の箇所から放出されるのではなく、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4に予め形成された電子放出部より放出される。電子放出部は、当該電子加速層4に形成されている、電子加速層4を厚み方向に通る予め形成されている導電経路の出口であって、薄膜電極3より放出される電子は、この導電経路を通って薄膜電極3へと与えられ放出される。
【0056】
このように、上記電子放出素子1では、電子加速層4の任意の箇所から放出されるのではなく、放出する箇所が、予め形成されている導電経路の出口に相当する電子加速層4の電子放出部に特定される。したがって、薄膜電極3において、放出される電子によって逆スパッタされる部分は、電子放出部の真上に位置する部分や、電子放出部近傍に位置する部分に限定されることとなり、これ以外の部分では、電子に曝されることはなく、薄膜電極を構成する金属材料が放出電子により逆スパッタされ、時間と共に消失し、最終的には電極としての機能が失われることがない。
【0057】
図1は、電子加速層4における微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が、導電微粒子6である場合の電子放出素子1を示している。導電微粒子6は、微粒子層105の表面に堆積されて堆積物106を形成しており、導電微粒子6の微粒子層105への付与は、微粒子層105の表面に導電微粒子6が堆積されて堆積物106を形成することで実現されている。導電微粒子6の堆積物106には、導電経路の形成にて、電子放出部となる物理的な欠陥が設けられている。
【0058】
図2に、導電微粒子6の堆積物106を有する構成の電子加速層4における断面の模式図を示す。図2に示すように、電子加速層4において、上層の堆積物106を形成する導電微粒子6は、下層の微粒子層105を形成する絶縁体微粒子5…と混じり合うことなく、微粒子層105の表面(上面)に堆積されている。導電微粒子6…を絶縁体微粒子5…と混じり合うことなく堆積させる手法としては、導電微粒子6と絶縁体微粒子5のサイズを同程度としたり、或いは、微粒子層105において、絶縁体微粒子5相互をバインダー樹脂を用いて結着させたりすることで実現できる。特に、微粒子層105をバインダー樹脂にて固める構成では、絶縁体微粒子5の粒子径を、微粒子層105への導電微粒子6の混じり込みを考慮することなく選択できるので、選択幅が広がる。また、電子放出素子1自体の機械的強度が上がるといったメリットもある。
【0059】
堆積物106には、物理的な欠陥よりなる電子放出部108が形成されている。電子放出部108の下には、図示してはいないが、導電経路が形成されている。ここで、電子放出部108及び導電経路は、大気中でのフォーミング処理にて形成される。
【0060】
一般的にフォーミング処理とは、例えば、特許文献2に記載されているように、一般的にMIM型に構成された電子放出素子に、電界を加えて導電経路を形成する処理のことである。フォーミング処理は、通常の絶縁破壊とは決定的に異なり、a)電極材料の絶縁体層中への拡散、b)絶縁体物質の結晶化、c)フィラメントと呼ばれる導電経路の形成、d)絶縁体物質の化学量論的なズレ等、様々な説で説明される導電経路(電流経路)の偶発的な成長である。
【0061】
このような大気中のフォーミング処理による導電経路(予め形成されている導電経路)の形成は、微粒子層105表面にある導電微粒子6の堆積物106が、微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高めることで、大気中のフォーミング処理によって容易に形成できる。
【0062】
電子加速層4に予め導電経路が形成されていることで、その後の真空中における電子放出操作に要する素子への電圧印加によって、新たに導電経路が形成されることはなく、素子内電流は、予め形成されている導電経路を通って流れる。これにより、電子放出時に、導電経路が安定して機能することとなる。これに対し、予め導電経路が形成されていない素子に対して真空中において電圧印加することは、導電経路の形成過程であり、かつ、電子放出過程である。つまり、導電経路を形成しながら、電子放出も行うこととなる。そして、このような条件で形成される導電経路の形成は、恒常的なものではなく、真空中において電圧を印加する度に、新たに形成されるものである。そのため、真空中において電圧を印加する度に、素子の導電状態が変わってしまい、安定した電子放出特性を得ることができない。
【0063】
このように、上記電子加速層4を有する電子放出素子1では、電子加速層4の任意の箇所から放出されるのではなく、放出する箇所が、電子加速層4の電子放出部に特定される。したがって、薄膜電極3において、放出される電子によって逆スパッタされる部分は、電子放出部108の真上に位置する部分や、電子放出部108近傍に位置する部分に限定されることとなる。そのため、薄膜電極3における電子放出部108の真上やその近傍に位置する部分以外では、電子に曝されることはなく、薄膜電極3を構成する金属材料が放出電子により逆スパッタされ、時間と共に消失し、最終的には電極としての機能が失われることがない。その結果、薄膜電極3は、上部電極としての機能を長く保持することができる。
【0064】
また、図1、図2に示したように、導電微粒子6が微粒子層105の表面全体に堆積された一膜状の堆積物106であってもよいが、図3に示すように、導電微粒子6が微粒子層105の表面に離散的に堆積された、部分的な堆積物107…が離散的に配置された構成とすることがより好ましい。図3は、インクジェット法にて、微粒子層105の表面に導電微粒子6を離散的に堆積させた電子放出素子1の表面写真である。黒枠で囲まれた内側部分が薄膜電極3の形成部分である。薄膜電極3は、黒い点状に写っている堆積物107…の凹凸に沿って一様に堆積している。
【0065】
離散的に配置された堆積物107…とする構成が好ましい理由について説明する。大気中でのフォーミング処理工程では、電極基板2側から薄膜電極3側へと、導電微粒子6の堆積物106、107…における電流の流れ易い部分を目指して電流が流れ、導電経路(電流経路)が形成される。そのため、一膜状の堆積物106では、電子放出部108は堆積物106の表面に偶発的に決定され、形成される位置も個数も定まらない。このように電子放出部108である電子放出部が、電子加速層4表面に偶発的に形成されるのでは、電子の放出位置を制御したり、単位面積当たりの放出量を制御したりすることができない。
【0066】
なお、電子放出量は、電極基板2と薄膜電極3との間に印加する電圧を変化させることでも制御可能であり、低電圧では電子の放出量を小さく、高電圧では電子の放出量を大きく操作できる。しかしながら本明細で開示される素子は、低電圧印加時の電子放出量が極端に小さく、電子放出効率が著しく低下する。このため、電子放出量を極端に小さく絞り込みたい時には、印加電圧による電子放出量の制御は用いられない。
【0067】
これに対し、導電微粒子6を離散的に堆積させ、部分的な堆積物107…が離散的に配置された図3のような構成では、大気中でのフォーミング処理により形成される導電経路は、電極基板2側から個々の堆積物107に対して形成されるようになり、個々の堆積物107に電子放出部108が形成されることとなる。したがって、堆積物107…の配置を制御することで、電子放出部を電子加速層4の表面の任意の位置に配置することが可能となり、電子放出素子1における面内での電子の放出位置や、単位面積当たりの放出量等の制御が可能になる。なお、堆積物107…の配置は、図3に示すように規則正しく配置されたものに限らず、ランダムに配置されたものであってもよいことはいうまでもない。
【0068】
離散的に配置される堆積物107…の形成は、導電微粒子6の離散的な堆積を可能とする方法であれば、インクジェットヘッドを用いたインクジェット法以外に、マスクを用いたスプレー塗布法や、マスクレスで導電微粒子6の液滴を飛散可能な静電噴霧法等が利用可能である。しかしながら、塗布位置の制御性と塗布量の繰り返し再現性を考慮すると、インクジェット法による塗布が好ましい。
【0069】
図4に、ある部分的な堆積物107の表面写真を示す。これは、インクジェット法で形成したものであるが、インクジェット法にてドーム状に形成した部分的な堆積物107は、乾燥過程で所謂コーヒーリング現象を起こし、円の中央部を窪ませ、外周部リングをやや盛り上がらせた状態で固化する。なお、図4は、フォーミング処理前の堆積物107を撮影したものであるので、電子放出部108は形成されていない。また、図5に、円の中央部を窪ませ、外周部リングをやや盛り上がらせた状態で固化した堆積物107の断面構造を模式図にて示す。
【0070】
なお、以上においては、電子加速層4における微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質として、導電微粒子6を提示したが、他の例として、電子対を供与する電子供与体が置換基として導入されてなる塩基性分散剤を微粒子層105に付与する構成も考えられる。
【0071】
微粒子層105に、塩基性分散剤を含む塩基性溶液を塗布することで、微粒子層105を構成する絶縁体微粒子5の粒子表面へ、塩基性溶液中に含まれる電子供与基に代表される特定の置換基(例えば、π電子系であるフェニル基やビニル基、そしてアルキル基、アミノ基、等)を付与することが可能となる。絶縁体微粒子5の表面に特定の置換基を付与することで、それらを通じた粒子表面の電気伝導が容易になるだけでなく、大気中という雰囲気条件から、大気中の水分子あるいは酸素分子の表面付着が、この電気伝導現象をさらに容易にする。この結果、導電微粒子6の堆積物106、107…と同様に、大気中のフォーミング処理にて、微粒子層105に、恒常的な導電経路を形成することができる。塩基性分散剤を含む塩基性溶液を塗布する場合も、導電微粒子6の場合と同様に、一膜状に塗布しても、部分的に塗布してもよい。塩基性溶液の場合、導電微粒子6とは異なり、微粒子層105の表面に留まることはなく、微粒子層105内に拡散されていく。塩基性溶液が離散的に塗布された場合は、塩基性溶液が拡散された部分が離散的に存在することとなる。
【0072】
本発明に適用できる塩基性分散剤の市販品を例示すると、アビシア社製の商品名:ソルスパース9000、13240、13940、20000、24000、24000GR、24000SC、26000、28000、32550、34750、31845等の各種ソルスパース分散剤、ビックケミー社製の商品名:ディスパービック106、112、116、142、161、162,163、164、165、166、181、182、183、184、185、191、2000、2001、味の素ファインテクノ社製の商品名:アジスパーPB711、PB411、PB111、PB821、PB822、エフカケミカルズ社製の商品名:EFKA−47、4050等を挙げることができる。
【0073】
また、塩基性溶液の場合、微粒子層105の表面に留まることはなく、微粒子層105内に拡散されていくので、塩基性溶液を付与した微粒子層105では、大気中のフォーミング処理にて導電経路を形成した場合、導電微粒子6の堆積物106、107…に形成されるような、物理的な欠陥よりなる電子放出部は形成されず、導電経路の出口が電子放出部となるのみである。したがって、電子放出部を保護し、長期駆動を実現するといった観点から言えば、導電微粒子6の堆積物106、107…のように、電子放出部を硬く形成する必要から、電子放出部を固めるような固体物質を、塩基性溶液に混ぜて塗布し、導電微粒子6の堆積物106、107…のように、電子放出部を固体物質の堆積物中に電子放出部として形成する手法が好ましい。
【0074】
次に、このような電子放出素子1における各部について詳細に説明する。上記電極基板2は、電極としての機能に付加して、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有する基板であれば、特に制限なく、用いることができる。具体的には、例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板を挙げることができる。また、ガラス基板やプラスティック基板等の絶縁体基板の表面(電子加速層4との界面)に、金属などの導電性物質を電極として付着させたものであってもよい。絶縁体基板の表面に付着させる上記導電性物質としては、導電性に優れ、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、特に問わないが、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよい。但し、これら材料及び数値に限定されることはない。
【0075】
上記薄膜電極3は、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく、用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロスなく透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどを挙げることができる。中でも大気圧中でのフォーミング処理が関係するため、酸化物及び硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また、薄膜電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜100nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は100nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の放出が極端に減少してしまう。弾道電子の放出量減少は、薄膜電極3で弾道電子の吸収或いは反射による電子加速層4への再捕獲が生じたためと考えられる。
【0076】
電子加速層4における微粒子層105に含まれる絶縁体微粒子5の材料としては、SiO2、Al2O3、TiO2といったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒子径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、電子加速層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体微粒子5として、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよい。
【0077】
また、絶縁体微粒子5としては、材質の異なる2種類以上の粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、さらには、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。但し、上述したように、微粒子層105の上には導電微粒子6が堆積され、堆積物106、107…が形成される。堆積物106、107…と微粒子層105との界面においては、若干の相互混入は致し方ないとしても、両層は分離されている必要がある。そのため、絶縁体微粒子5の粒子径は、導電微粒子6の粒子径に応じて、混合が起こらないように選択する必要がある。但し、絶縁体微粒子5相互を結着させるバインダー樹脂を使用する場合は、バインダー樹脂が導電微粒子6の入り込みを防止するため、バインダー樹脂を使用しない場合に比べて、絶縁体微粒子5の粒子径にある程度の余裕が見込める。
【0078】
また、微粒子層105の層厚としては、導電微粒子6を塗布する時に用いた溶媒を吸収して、微粒子層105内に拡散させ得るに十分な厚さを有していることが好ましい。これは、詳細は後述するが、好適な製造のためには、微粒子層105の上に導電微粒子6を堆積させた電子加速層4の表面全体に、塩基性溶液を塗布する工程を付加するためである。電子加速層4における堆積物106、107…が完全に固化していない状態で、塩基性溶液を塗布すると、堆積物106、107…を構成している導電微粒子6が塩基性溶液中に流出してしまう。そのため、堆積物106、107…は、塩基性溶液を塗布するときには完全に固化されている必要がある。そして、堆積物106、107…を完全に固化させるためには、導電微粒子6を塗布するときに用いた溶媒を微粒子層105にて吸収、拡散させる必要がある。そのため、微粒子層105は溶媒を吸収できる程度に空隙を持つこと、及び溶媒を吸収、拡散するのに十分な層厚を持つことが必要条件となる。なお、このことは、微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める上記単独物質又は混合物質として、塩基性分散剤を含む塩基性溶液を用い、これに固体物質を混合した場合も同じである 一方、堆積物106、107…を構成する導電微粒子6の材料としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような導電体でも用いることができる。抗酸化力が高い導電体であると、導電微粒子6の酸化劣化を避けることができ、超寿命化が図れる。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。抗酸化力が高い導電体としては、貴金属、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。
【0079】
このような導電微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。
【0080】
導電微粒子6の粒子径は、その堆積物106、107…が電子線照射に起因した破壊、特に逆スパッタにより容易に破壊されない程度の粒子径である必要があり、実験では、平均粒径が5nmであれば逆スパッタ現象を防止できることを確認している。このような大きさ(質量)の導電微粒子6の堆積物である点が、放出電子による、自身の破壊を抑制する。
【0081】
また、導電微粒子6の周囲には、導電微粒子6の平均粒径より小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよく、この小絶縁体物質は、導電微粒子6の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、導電微粒子6の平均径より小さい形状の集合体として、導電微粒子6の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。小絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、導電微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質が導電微粒子6を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を導電微粒子6の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
【0082】
また、微粒子層105に使用されるバインダー樹脂としては、電極基板2との接着性がよく、絶縁体微粒子5を分散でき、絶縁性を有することがまず必要である。そして、上述したように、微粒子層105は、導電微粒子6を塗布する際に使用した溶媒を、微粒子層105が吸収することを妨げないことが必要であるので、バインダー樹脂においても、導電微粒子6を塗布するときに用いた溶媒の吸収、拡散を妨げないことが必要である。
【0083】
このようなバインダー樹脂15として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、などが挙げられる。これらの樹脂バインダーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0084】
次に、電子放出素子1の製造方法の一実施形態について説明する。
【0085】
まず、分散溶媒に、分散剤と、絶縁体微粒子5とを投入して、超音波分散器にかけて絶縁体微粒子5を分散させ、絶縁体微粒子分散溶液Aを得る。なお、分散法は、特に限定されず、超音波分散器以外の方法で分散させてもよい。絶縁体微粒子5を分散させる分散溶媒としては、絶縁体微粒子5を効果的に分散でき、かつ塗布後に蒸発するものであれば、特に制限なく、用いることができる。例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。分散剤も、分散溶媒との相性がよく、絶縁体微粒子5を分散させ得るものであればよい。
【0086】
次に、上記のように作成した絶縁体微粒子分散溶液Aを、電極基板2上に塗布して、電子加速層4を構成する微粒子層105を形成する。塗布方法として、例えば、スピンコート法を用いることができる。絶縁体微粒子分散溶液Aを電極基板2上に滴下し、スピンコート法を用いて、微粒子層105となる薄膜を形成する。電極基板2上への絶縁体微粒子分散溶液Aの滴下、スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。微粒子層105の成膜には、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法も用いることができる。
【0087】
次に、分散溶媒に、分散剤と、導電微粒子6とを投入して、超音波分散器にかけて導電微粒子6を分散させ、導電微粒子分散溶液Bを得る。なお、分散法は、特に限定されず、超音波分散器以外の方法で分散させてもよい。導電微粒子6を分散させる分散溶媒としては、導電微粒子6を効果的に分散でき、かつ塗布後に蒸発するものであれば、特に制限なく、用いることができる。例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。分散剤も、分散溶媒との相性がよく、導電微粒子6を分散させ得るものであればよい。
【0088】
また、導電微粒子分散溶液Bとしては、導電微粒子6が予め分散溶媒に分散されて市販されている導電微粒子分散溶液を用いてもよい。但し、塗布方法によって、塗布溶液には粘土の制限があるため、制限内であれば、市販されている導電微粒子分散溶液を使ってもよい。
【0089】
上記導電微粒子分散溶液Bを微粒子層105の表面に塗布して、導電微粒子6を微粒子層105の表面に堆積させて堆積物106或いは107…を形成する。塗布方法としては、スピンコート法や、インクジェット法、液滴下法、噴霧法等を用いることができる。また、導電微粒子6を離散的に堆積させて堆積物107…とする場合は、インクジェット法が最も好ましいが、マスクを用いたスプレー塗布法や、マスクレスで導電微粒子6の液滴を飛散可能な静電噴霧法等でもよい。
【0090】
微粒子層105とその上に形成された堆積物106、107…とからなる電子加速層4が形成されると、電子加速層4上に薄膜電極3を成膜する。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いることができる。また、薄膜電極3の成膜には、マグネトロンスパッタ法以外に、例えば、インクジェット法や、スピンコート法、蒸着法等を用いることもできる。
【0091】
次に、大気中において、電極基板2と薄膜電極3との間に直流電圧を印加して、堆積物106、107…を物理的に部分破壊して、導電経路を形成するフォーミング処理を行う。これにより、堆積物106、107…に電子放出部108が形成され、微粒子層105に導電経路が形成される。フォーミング処理を行うにあたり、電極基板2と薄膜電極3との間に印加する直流電圧は、段階的に上昇させていくことが好ましい。これは、電極基板2と薄膜電極3との間に、必要な電界を発生させる電圧を一気に印加すると、素子が絶縁破壊を起こす虞があるためである。電圧を段階的に上昇させていくことで、絶縁破壊を起こすことなく処理を行うことができる。
【0092】
また、フォーミング処理において、電極基板2と薄膜電極3との間に印加する電圧は、電極基板2と薄膜電極3との間に発生する電界強度が、1.9×107〜4.1×107[V/m]となるように設定することが好ましい。これは、電界強度が1.9×107[V/m]未満となると、フォーミング処理ができないか、たとえできたとしても、導電経路の形成が不十分であり、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流が電子放出を得るだけの十分な量とならない。また、電界強度が4.1×107[V/m]を超えると、大規模な絶縁破壊を生じ易く導電経路そのものが破壊されてしまう。一度この様な経過を辿ると、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流はまったく流れなくなるか、流れたとしても電子放出を得るだけの十分な量とならない。
【0093】
そして、本発明の電子放出素子1を製造するにあたり、より好ましくは、微粒子層105上に堆積物106、107…が形成されてなる電子加速層4の表面全体に、電子加速層4における微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高める、導電微粒子6以外の単独物質又は混合物質として先に述べた塩基性分散剤を含む塩基性溶液を塗布し、その後、薄膜電極3を形成することである。
【0094】
堆積物106、107…は、導電微粒子6が微粒子層105上部に堆積したもので、導電微粒子6の密度が高い状態にある。一方、微粒子層105は、一部の導電微粒子6が界面付近で浸透することはあっても、その存在割合は極めて低い状態にある。したがって、このような電子加速層4においては、フォーミング処理工程において直流電圧を印加しても、導電経路の形成は容易ではない。
【0095】
ところが、上記のように、電子加速層4に上記塩基性溶液を塗布することで、フォーミング処理工程において、再現性よく、小さなエネルギーで、しかも穏やかな処理条件にて、電子放出部108を形成し、導電経路を形成できることを確認している。
【0096】
表面に堆積物106、107…を有する微粒子層105に、塩基性溶液を塗布することで、既に説明したように、粒子表面の電気伝導が容易になると共に、大気中という雰囲気条件から、大気中の水分子あるいは酸素分子の表面付着が、この電気伝導現象をさらに容易にする。この結果、フォーミング処理が容易かつ、確実に実行可能となる。
【0097】
ここで、塩基性溶液の塗布方法は、微粒子層105の表面の堆積物106、107…が配置されてなる電子加速層4を壊すことなく、ごく少量の溶液を均一にコートできる方法であればよく、スピンコート法、滴下法等が挙げられる。
【0098】
また、塩基性溶液を塗布する手順であるが、堆積物106、107…を形成する前の微粒子層105に塗布することも可能である。
【0099】
しかしながら、本願出願人は、堆積物106、107…を形成した後に塩基性溶液を塗布する手順が、フォーミング処理における導電経路の形成を容易にすると考えている。
【0100】
これは、以下の理由による。図6(a)〜図6(c)は、何れも、導電微粒子6が離散的に配置されたある堆積物107の表面写真である。このうち、図6(a)は、塩基性溶液塗布前(フォーミング処理前)の堆積物107の表面状態を示す。エッジ部に、一周する黒い線が確認できる。図6(b)は、塩基性溶液塗布直後(フォーミング処理前)の堆積物107の表面状態を、エッジに焦点をあてて撮影したものである。図6(a)と比較するとわかるように、エッジ部より内側に、新たに、一周する2本目の黒い線ができていることがわかる。図6(c)は、塩基性溶液塗布直後(フォーミング処理前)の堆積物107の表面状態を、一番盛り上がっているリング部に焦点をあてて撮影したものである。図6(a)と比較するとわかるように、一番盛り上がっているリングの一部に傷つけられたような痕が確認でき、また中央の凹部には、青い物質の溜りが確認できる。
【0101】
本願出願人は、このような観察の結果、堆積物106、107…を配置した後に塩基性溶液を塗布することで、堆積物106、107…の表面に傷を付けることが可能となり、後段のフォーミング処理においては、電流がこの表面の傷を目がけて流れ、その結果、導電経路の形成が容易になると考察している。
【実施例】
【0102】
[実施例1]
10mLの試薬瓶にエタノール溶媒2.0gとテトラメトキシシランKBM−04(信越化学工業株式会社製)0.5gを入れ、絶縁体微粒子5として平均径12nmの球状シリカ粒子AEROSIL R8200(エボニックエグサジャパン株式会社製)を0.5g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子分散溶液Aとした。
【0103】
電極基板2となるITO薄膜を表面に有した25mm角のガラス基板上に、上記の絶縁体微粒子分散溶液Aを滴下後、スピンコート法を用いて8000rpm、10sの条件で微粒子層105としてのシリカ粒子層を形成し、数時間室温乾燥した。
【0104】
次に、このシリカ粒子層の表面へ、導電微粒子6としての銀ナノ粒子を分散させたテトラデカン分散溶液(株式会社アルバック製、銀微粒子の平均粒径5.0nm、銀微粒子固形分濃度54%)を、所謂インクジェットヘッドを使用して離散的に吐出し、着弾径26μm、約5500個/cm2の密度で、堆積物107としての、銀ナノ粒子の液滴跡である銀粒子ドームを形成した。この時のインクジェットヘッドの吐出条件は、吐出体積4pL、吐出ピッチは135μm角に1滴である。
【0105】
次に、10mLの試薬瓶にトルエン溶媒を3mL入れ、塩基性分散剤(塩基性官能基含有共重合物)であるアジスパーPB821(味の素ファインテクノ株式会社製)を0.03g投入し、超音波分散器にかけて分散して塩基性溶液を得た。この塩基性溶液を、銀粒子ドームを多数有するシリカ粒子層に、滴下後、スピンコート法を用いて1000rpm、10sの条件で塗布した。
【0106】
最後に、銀粒子ドームを多数有するシリカ粒子層表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3としての表面電極を成膜することにより、サンプ#1の電子放出素子1を得た。表面電極の成膜材料としては金を使用し、表面電極の層厚は40nm、同面積は0.014cm2とした。
【0107】
このようなサンプル#1の電子放出素子1について、図7に示す測定系を用いて、真空中及び大気中にて、電子放出実験を行い、電子放出特性を調べた。
【0108】
まず、図7に、電子放出実験に用いた測定系を示す。図7の測定系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ9(径:1mm)を挟んで対向電極8を配置させる。そして、サンプル#1の電子放出素子1の電極基板2と薄膜電極3との間には、電源7AによりV1の電圧が印加され、対向電極8には電源7BによりV2の電圧がかかるようになっている。薄膜電極3と電源7Aとの間を流れる単位面積当たりの素子内電流(素子内電流密度)I1を、上記測定系を1×10−8ATMの真空中、及び大気中に配置して測定した。
【0109】
図8に、真空中にて、サンプル#1の電子放出素子1に対して、0から+19Vまで0.1Vステップ(0.1V刻みで上昇)で直流電圧を印加した時の素子内電流I1の測定結果を示す。図8より分かるように、0から+19Vまで全ての範囲で、素子内電流I1は1×10−7A/cm2以下であった。素子内電流I1がこの状態の電子放出素子はほぼ絶縁体であり、サンプル#1の電子放出素子1は、電子放出素子としての機能を有していなかった。
【0110】
図9に、大気中にて、サンプル#1の電子放出素子1に対して、0から+19Vまで0.1Vステップ(0.1V刻みで上昇)で直流電圧を印加した時の素子内電流I1の測定結果を示す。ここで、電圧上昇速度は、1V/3秒とした。また、このような大気中での電圧印加処理は、1回のみ行った。
【0111】
図9に示すように、電圧印加直後から真空中に比べて数百倍以上の素子内電流が流れるが、特に+9V前後から非線形に急激な電流の増加特性を示している。急激な電流増加後は、電圧の増加と共に電流値の変化は小さくなり、+18.5Vの最終値付近では電流値が飽和している。
【0112】
このような電流が流れている間、素子表面では銀粒子ドームに目視で判別可能な発光現象が生じており、その現象と引き換えに、ドームの一部に欠け、或いは割れが形成される。この銀粒子ドームに生じた欠陥は次に電圧を印加した時の導電経路となることから、この大気中での電圧印加処理は、一般的なMIM型に構成された電子放出素子に、電界を加えて導電経路を形成する所謂“フォーミング処理”と同様な導電経路形成メカニズムを進展させると考えられる。以下、この導電経路成処理を、大気中フォーミング処理と呼ぶ。
【0113】
次に、このような大気中フォーミング処理を施したサンプル#1の電子放出素子を、図7の測定系を真空中(1×10−8ATM)に配置し、電子放出特性を調べた。ここでは、単位面積当たりの、素子内電流I1及び電子放出電流I2を測定した。電子放出電流I2は、対向電極8と電源7Bとの間に流れる電流I2を測定した。
【0114】
結果を図10に示す。薄膜電極3への印加電圧19.8Vにて、単位面積当たり4.02×10−4[A/cm2]の電子放出が得られた。電子放出部は、銀粒子ドーム部に限られるため、本実施例の銀粒子ドーム1個当たりの電子放出密度は、1.38×10−2[A/cm2]となる。
[実施例2]
実施例2として、銀粒子ドームを多数有するシリカ粒子層に、塩基性溶液を塗布しない点を除いて上記実施例1と同様の手順でサンプル#2の電子放出素子1を作成した。この実施例2においては、大気中フォーミング処理にて、銀粒子ドームに欠けや割れを形成することができ、真空中での電子放出も確認できた。しかしながら、素子内に流れる電流を制御することができず、銀粒子ドームに形成する欠けや割れの程度を制御することが難しかった。
[実施例3]
次に、大気中フォーミング処理の印加電圧値と電子放出特性との関係を調べた結果を示す。素子の作成条件は上記実施例1のサンプル#1の電子放出素子1に倣うが、比較のために大気中フォーミングにおける印加電圧の最終値を、17V、19V、25V、30V、40Vと変えた。
【0115】
大気中フォーミング処理直後の銀粒子ドームは、最終値が19V及び25Vの電圧印加範囲では、銀粒子ドームにのみ欠けや割れが生じたが、最終値が30V及び40Vの電圧印加範囲では、銀粒子ドームはシリカ粒子層表面にその痕跡だけを残して全て失われ、同時に銀粒子ドーム近傍のシリカ粒子層および表面電極をも破壊、飛散させてしまった。一方、最終値が17Vの電圧印加範囲では、特に変化が見られなかった。
【0116】
実施例3で得られた素子の電子放出特性を図11に示す。図11は、真空中(1×10−8ATM)における、大気中フォーミング処理の印加電圧に対する、単位面積当たりの素子内電流密度及び電子放出電流密度(共に+20V印加時の値)を示している。17Vの結果を除いて、大気中フォーミング処理における印加電圧が大きくなるに従って素子内電流は低下し、それに伴って電子放出量も低下していくことが分かる。
【0117】
また、最終値が17V、19V、30Vそれぞれの場合の銀粒子ドームの状態を図12(a)〜図12(c)に示す。素子内に形成される導電経路は、銀ナノ粒子の堆積した部分(銀粒子ドーム)に集中する。そのため、同図(c)に示すように、大気中フォーミング処理により銀粒子ドームが著しく破壊されると、電流路の形成が困難になると予想される。一方で、同図(c)に示すように、銀粒子ドームに何ら外的変化を与えない処理電圧では、素子内電流を十分流すだけの電流路が形成できていない。一方、同図(b)に示すように、適度に銀ナノ粒子の堆積した部分(銀粒子ドーム)に欠陥が生じているものは良好な結果を得た。
【0118】
実施例1および実施例3の結果から、大気中フォーミングの印加電圧の条件は18.5以上、30V未満、より好ましくは18.5V以上25V未満の範囲で行い、銀粒子ドームのみに欠けや割れを生じさせることが良いと判断する。
[実施例4]
インクジェットで銀ナノ粒子を分散させたテトラデカン分散溶液を密に吐出し、シリカ粒子層の面状に銀ナノ粒子の堆積物を形成した以外は、サンプル#1と同様に、サンプル#3の電子放出素子を形成した。この時の吐出条件は、吐出体積4pL、吐出ピッチは62μmである。このようにすることで、吐出分散溶媒は、隣接したテトラデカン分散溶媒と連結し、面状となった。
【0119】
このように作成したサンプル#3の電子放出素子1に実施例1の同様の条件で大気中でフォーミング処理を実施したのち、1×10−8ATMの真空中において直流電圧(+18V)を印加し、素子を連続駆動した結果を図13に示す。また、図13には、実施例1のサンプル#1に対して、大気中フォーミング処理を実施した電子放出素子の連続駆動の結果も併せて示す。
【0120】
図13より明らかなように、面状の素子では開始15分で、異常な電子放出の増加を示し、その直後、電子放出は途絶えてしまった。これは、面状素子では、初期に形成された、限られた電子放出部から、エージング過程において電子放出部の異常増加が生じ、それに伴う素子内電流増加に素子が耐え切れず、素子破壊が生じたものと考えられる。この結果からも、電子放出特性の長期維持には、離散的に配置された部分的な堆積物107…とする構成がより好ましいことがわかる。
【0121】
〔実施の形態2〕
図14〜16に、実施の形態1で説明した本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置10にて自発光デバイスを構成した、本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
【0122】
図14に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる電子放出装置10に加えて、発光部36を備えている。発光部36は、基材となるガラス基板34に、ITO膜33、蛍光体32が積層された構造を有する。発光部36は、電子放出素子1に対向した位置に、距離を隔てて配されている。自発光デバイス31は、真空封止されている。
【0123】
蛍光体32としては、赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適している。例えば、赤色ではY2O3:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、青色ではBaMgAl10O17:Eu2+等が使用可能である。蛍光体32は、ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に成膜されており、厚さ1μm程度が好ましい。ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
【0124】
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
【0125】
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体32へ向けて加速する必要がある。このような加速を実現するには、図14に示すように、電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33との間に、電源35を設け、電子を加速する電界を形成させるための電圧印加を可能にする構成が好ましい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
【0126】
図15に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる電子放出装置10に加えて、蛍光体(発光体)32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
【0127】
図16に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる電子放出装置10に加えて、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体(発光体)32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子5に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子5として球状シリカ粒子(平均径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
【0128】
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32に衝突させて発光させる。電子放出素子1は電子放出量が向上しているため、自発光デバイス31,31’,31”は、効果的に発光を行える。
【0129】
さらに、図17に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図17に示す画像表示装置140は、図16で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
【0130】
また、本発明に係る画像表示装置として、図14に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明に係る電子放出素子は、電気的導通を確保して十分な素子内電流を流し、薄膜電極から弾道電子を放出させることが可能である。よって、例えば、発光体と組み合わせることにより画像表示装置等に、好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 電子放出素子
2 電極基板
3 薄膜電極
4 電子加速層
5 絶縁体微粒子
6 導電微粒子
7 電源(電源部)
7A 電源
7B 電源
8 対向電極
9 絶縁体スペーサ
10 電子放出装置
31,31’,31” 自発光デバイス
32,32’ 蛍光体(発光体)
33 ITO膜
34 ガラス基板
35 電源
36 発光部
105 微粒子層
106 堆積物
107 堆積物
140 画像表示装置
330 液晶パネル
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより電子を放出する電子放出素子、及びその製造方法、並びに電子放出装置、自発光デバイス、及び画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子放出素子として、スピント(Spindt)型電極、カーボンナノチューブ(CNT)型電極などが知られている。このような電子放出素子は、例えば、FED(Field Emision Display)の分野に応用検討されている。このような電子放出素子は、尖鋭形状部に電圧を印加して約1GV/mの強電界を形成し、トンネル効果により電子放出させる。
【0003】
しかしながら、これら2つのタイプの電子放出素子は、電子放出部の表面近傍が強電界であるため、放出された電子は電界により大きなエネルギーを得て気体分子を電離しやすくなる。気体分子の電離により生じた陽イオンは、強電界により電子放出素子の表面方向に加速衝突し、スパッタリングによる電子放出素子の破壊が生じるという問題がある。
【0004】
また、大気中にある酸素は、電離エネルギーよりも解離エネルギーの方が低いため、イオンの発生よりも先にオゾンを発生する。オゾンは人体に有害である上に、強い酸化力にて様々なものを酸化することから、電子放出素子の周囲の部材にダメージを与えるという問題が存在する。このような問題に対処するためには、周辺部材に耐オゾン性の高価な材料を用いなければならない。
【0005】
他方、上記とは別のタイプの電子放出素子として、MIM(Metal Insulator Metal)型やMIS(Metal Insulator Semiconductor)型の電子放出素子が知られている。これらは電子放出素子内部の量子サイズ効果及び強電界を利用して電子を加速し、平面状の素子表面から電子を放出させる面放出型の電子放出素子である。これらは素子内部の電子加速層で加速した電子を放出するため、素子外部に強電界を必要としない。従って、MIM型及びMIS型の電子放出素子においては、上記スピント型やCNT型、BN型の電子放出素子のように、気体分子の電離によるスパッタリングで破壊されるという問題やオゾンが発生するという問題を克服できる。
【0006】
例えば、特許文献1には、2枚の電極の間に金属などの微粒子を分散させた絶縁体膜を設け、一方の電極(基板電極)から絶縁体膜中に電子を注入し、注入した電子を絶縁体膜中で加速させ、厚み数十Å〜1000Åの他方の電極(電子放出側の電極)を通して電子を放出するMIM形電子放出素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−298623号公報(平成1年12月1日公開)
【特許文献2】特開平1−279557号公報(平成1年11月9日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、電子放出側の電極から電子を放出させる構成では、電子放出側の電極が、放出されていく電子によって、逆スパッタされるといった問題がある。逆スパッタとは、電子放出側の電極が放出電子によるスパッタリングのターゲットとなることである。そのため、電子放出側の電極を構成する金属材料は徐々にではあるが、確実に失われていく。そして、この現象は、電子放出側の電極がベタ電極である電子放出素子にも当てはまり、表面電極を構成する金属材料は時間と共に消失し、最終的には電極としての機能が失われる。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、電子放出側の電極が電子放出に伴って徐々に消失していく事態を回避して、電子放出特性の長期維持が可能な電子放出素子、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電子放出素子は、上記課題を解決するために、対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子であって、前記電子加速層は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を有し、該微粒子層には、前記微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が付与されており、前記電子加速層には、当該電子加速層を厚み方向に通る導電経路であって、経路出口が前記電子を前記薄膜電極へと与える電子放出部となる導電経路が予め形成されていることを特徴としている。ここで、予め導電経路が形成されているとは、真空中で素子に電圧印加を行い、駆動するよりも前であって、つまり、電子放出素子の製造工程において形成しておくという意味である。
【0011】
上記構成によれば、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、電子加速層内に電流が流れ、その一部が印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって、薄膜電極側より放出される。
【0012】
ここで電子は、薄膜電極側の任意の箇所から放出されるのではなく、薄膜電極の下層に位置する電子加速層に予め形成された電子放出部より放出される。電子放出部は、当該電子加速層に形成されている、電子加速層を厚み方向に通る導電経路の出口であって、薄膜電極より放出される電子は、この導電経路を通って薄膜電極へと与えられ放出される。
【0013】
このような導電経路(予め形成されている導電経路)は、絶縁体微粒子を含む微粒子層に付与されている、微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質の作用により、大気中のフォーミング処理によって容易に形成できる。
【0014】
大気中のフォーミング処理とは、大気中で電極基板と薄膜電極との間に直流電圧を印加して、電極基板側から微粒子層を抜けて薄膜電極側へと流れる素子内電流の導電経路を形成する処理である。
【0015】
大気中でのフォーミング処理により電子加速層に予め導電経路が形成されていることで、その後の真空中における電子放出操作に要する素子への電圧印加によって、新たに導電経路が形成されることはなく、素子内電流は、予め形成されている導電経路を通って流れる。これにより、電子放出時に、導電経路が安定して機能することとなる。これに対し、大気中のフォーミング処理が行われておらず、予め導電経路が形成されていない素子に対して真空中において電圧印加することは、導電経路の形成過程であり、かつ、電子放出過程である。つまり、導電経路を形成しながら、電子放出も行うこととなる。そして、このような条件で形成される導電経路の形成は、恒常的なものではなく、真空中において電圧を印加する度に、新たに形成されるものである。そのため、真空中において電圧を印加する度に、素子の導電状態が変わってしまい、安定した電子放出特性を得ることができない このように、本発明の電子放出素子では、電子加速層の任意の箇所から放出されるのではなく、放出する箇所が、電子加速層の電子放出部に特定される。したがって、薄膜電極において、放出される電子によって逆スパッタされる部分は、電子放出部の真上に位置する部分や、電子放出部近傍に位置する部分に限定されることとなる。そのため、薄膜電極における電子放出部の真上やその近傍に位置する部分以外では、電子に曝されることはなく、薄膜電極を構成する金属材料が放出電子により逆スパッタされ、時間と共に消失し、最終的には電極としての機能が失われることがない。
【0016】
本発明の電子放出素子においては、さらに、前記単独物質又は混合物質は、前記微粒子層の上面よりみた場合の付与位置が離散的になるように付与されている構成とすることが好ましい。
【0017】
電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質を付与する部分については、微粒子層の表面全体に付与する構成でもよい。しかしながら、フォーミング処理を行って導電経路を形成する場合、表面全体に付与した構成では、電流の流れ易い部分に導電経路が形成されてしまい、電子放出部が偶発的に決定される。電子放出部が偶発的に形成されるのでは、電子放出部を薄膜電極面内に任意に配置して薄膜電極内での電子の放出位置を制御したり、単位面積当たりの放出量を制御したりすることができない。なお、電子の放出量は、電極基板と薄膜電極との間に印加する電圧を変化させることでも制御可能であり、低電圧では電子の放出量を小さく、高電圧では電子の放出量を大きく操作できる。しかしながら、本発明の素子は、低電圧印加時の電子放出量が極端に小さく、電子放出効率が著しく低下する。このため、電子放出量を極端に小さく絞り込みたい時には、印加電圧による電子放出量の制御は用いられない。
【0018】
これに対し、上記構成によれば、前記単独物質又は混合物質は、前記微粒子層の上面よりみた場合の付与位置が離散的になるように付与されているので、大気中でのフォーミング処理にて導電経路を形成した場合に、素子内電流が流れる導電経路は、電極基板側から離散的に配置されている、個々の、単独物質又は混合物質の付与部分に対して形成され、個々の付与部分に電子放出部が形成される。このように、単独物質又は混合物質の付与部分を離散的に配置した構成とすることで、電子放出部を薄膜電極面内に任意に配置することが可能となり、薄膜電極内での電子の放出位置や、単位面積当たりの放出量等の制御が可能になる。
【0019】
本発明の電子放出素子においては、さらに、前記単独物質又は混合物質は導電微粒子であり、該導電微粒子は、前記微粒子層の表面に堆積されて堆積物を形成しており、
該導電微粒子の堆積物には、前記電子放出部となる物理的な欠陥が設けられている構成とすることもできる。
【0020】
前記単独物質又は混合物質は、例えば、導電微粒子とすることができる。導電微粒子の微粒子層への付与は、微粒子層の表面に導電微粒子が堆積されて堆積物を形成することで実現される。導電微粒子の堆積物には、導電経路の形成にて、電子放出部となる物理的な欠陥が設けられる。
【0021】
本発明の電子放出素子においては、さらに、前記微粒子層が、絶縁体微粒子相互を結着させるバインダー樹脂をさらに含む構成とすることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、微粒子層において、絶縁体微粒子相互がバインダー樹脂にて結着されているので、電子放出素子の機械的強度を上げることができる。また、前記単独物質又は混合物質が、導電微粒子である場合は、微粒子層がバインダー樹脂にて固められることで、導電微粒子は微粒子層の中に入り込むよりも、微粒子層の表面に堆積しやすくなり、本発明の電子放出素子の構成を容易に実現できる。
【0023】
本発明の電子放出素子では、さらに、上記導電微粒子は、貴金属であってもよい。このように、上記導電微粒子が、貴金属であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を図ることができる。
【0024】
また、本発明の電子放出素子では、さらに、上記導電微粒子は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいる構成としてもよい。このように、上記導電微粒子が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0025】
本発明の電子放出素子では、さらに、上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
【0026】
本発明の電子放出装置は、上記いずれか1つの電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
【0027】
既に電子放出素子において記載したとおり、本発明の電子放出素子は、薄膜電極が電子放出に伴って徐々に消失していく事態を回避して、電子放出特性の長期維持が可能な電子放出素子であるので、このような電子放出素子を用いて構成された電子放出装置は、電子放出特性の長期維持が可能な電子放出装置となる。
【0028】
そして、さらに、このような本発明の電子放出装置を用いて構成された、自発光デバイスも、本発明の範疇としている。
【0029】
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記課題を解決するために、対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子の製造方法であって、前記電極基板上に絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成し、前記微粒子層の表面に導電微粒子を堆積させて導電微粒子の堆積物を形成することで、電子加速層を形成する工程と、前記電子加速層の表面に薄膜電極を形成する工程と、大気中にて前記電極基板と前記薄膜電極との間に直流電圧を印加して、前記電子加速層に導電経路を形成するフォーミング処理を行う工程とを含んでいる。
【0030】
上記方法によれば、電子放出特性の長期維持が可能な上記した本発明の電子放出素子を得ることができる。
【0031】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、さらに、前記電子加速層を形成する工程では、前記微粒子層の表面に導電微粒子の堆積物を離散的に配置することが好ましい。
【0032】
上記方法によれば、電子放出特性の長期維持が可能なことに加え、薄膜電極内での電子の放出位置や、単位面積当たりの放出量等の制御が可能な上記した本発明の電子放出素子を得ることができる。
【0033】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、前記電子加速層を形成する工程に、
前記電子加速層の表面全体に、電子対を供与する電子供与体が置換基として導入されてなる塩基性溶液を塗布する工程がさらに含まれることが好ましい。
【0034】
上記方法によれば、再現性よく、小さなエネルギーで、しかも穏やかな処理条件にて、電子放出部を大気中でのフォーミング処理にて形成することができる。
【0035】
上記塩基性溶液は、電子対を供与する電子供与体が置換基として導入されてなる。電子供与体を有する電子供与基は、電子(電子対)を供与後イオン化するが、このイオン化した電子供与基が、絶縁体微粒子の表面において電荷の受け渡しを行い、絶縁体微粒子の表面における電気伝導を可能にするのではないか、と考察している。また、大気中という雰囲気条件から、大気中の水分子あるいは酸素分子の表面付着が、この電気伝導現象を容易にすると考えられる。
【0036】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、さらに、前記フォーミング処理を行う工程では、直流電圧を印加するにあたり、電圧を段階的に上昇させて印加することが好ましい。
【0037】
電子放出部をフォーミング処理にて形成するにあたり、電極基板と薄膜電極との間に、必要な電界を発生させる電圧を一気に印加すると、素子が絶縁破壊を起こす虞がある。
【0038】
上記方法のように、電圧を段階的に上昇させていくことで、絶縁破壊を起こすことなく、フォーミング処理を行うことができる。
【0039】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、さらに、前記フォーミング処理を行う工程では、前記電極基板と前記薄膜電極との間に発生する電界強度が1.9×107〜4.1×107[V/m]となるように、直流電圧を印加することが好ましい。
【0040】
これは、電界強度が1.9×107[V/m]未満となると、フォーミング処理ができないか、できた場合でも導電経路の形成が不十分であり、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流が電子放出を得るだけの十分な量とならないためである。また、電界強度が4.1×107[V/m]を超えると、大規模な絶縁破壊を生じ易く導電経路そのものが破壊されてしまう。一度このような経過を辿ると、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流はまったく流れなくなるか、流れたとしても電子放出を得るだけの十分な量とならないためである。上記範囲とすることで、不具合なくフォーミング処理にて電子放出部を形成できる。
【0041】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、さらに、前記電子加速層を形成する工程では、インクジェット法を用いて前記微粒子層の表面に導電微粒子の堆積物を離散的に配置することが好ましい。
【0042】
電子加速層における導電微粒子の堆積物を離散的に堆積し得る手法としては、マスクを用いたスプレー塗布法、マスクレスで微粒液滴を飛散可能な静電噴霧法等があるが、インクジェット法を用いることで、塗布位置の制御性、及び塗布量の繰り返し再現性を、容易に高く確保できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の電子放出素子は、対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子であって、前記電子加速層は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を有し、該微粒子層には、前記微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が付与されており、前記電子加速層には、当該電子加速層を厚み方向に通る導電経路であって、経路出口が前記電子を前記薄膜電極へと与える電子放出部となる導電経路が予め形成されている構成である。
【0044】
本発明の電子放出素子の製造方法は、対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子の製造方法であって、前記電極基板上に絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成し、前記微粒子層の表面に導電微粒子を堆積させて導電微粒子の堆積物を形成することで、電子加速層を形成する工程と、前記電子加速層の表面に薄膜電極を形成する工程と、大気中にて前記電極基板と前記薄膜電極との間に直流電圧を印加して、前記電子加速層に導電経路を形成するフォーミング処理を行う工程とを含んでいる。
【0045】
上記構成、或いは方法によれば、電子放出側に位置する薄膜電極が電子放出に伴って徐々に消失していく事態を回避して、電子放出特性の長期維持が可能な電子放出素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態の電子放出素子を用いた電子放出装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1の電子放出装置に備えられた電子放出素子における電子加速層の断面の模式図である。
【図3】図1の電子放出装置に備えられた電子放出素子の変形例の写真であり、電子加速層において微粒子層の上に絶縁体微粒子が離散的に堆積されている電子加速層の表面の写真である。
【図4】図3に示す変形例の電子放出素子における電子加速層の、導電微粒子が離散的に堆積されている一堆積物の表面状態を示す説明図である。
【図5】図3に示す変形例の電子放出素子における電子加速層の断面の模式図であって、離散的に堆積されている1導電微粒子堆積物近傍の断面を示す模式図である。
【図6】(a)〜(b)は、図3に示す変形例の電子放出素子における電子加速層の、導電微粒子が離散的に堆積されている一堆積物の表面状態を拡大して示す説明図である。
【図7】電子放出素子に対して実施する電子放出実験の測定系を示す説明図である。
【図8】サンプル#1の電子放出素子に対して、真空中で段階的な電圧印加を行い、電子放出素子の素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図9】サンプル#1の電子放出素子に対して、大気圧中で段階的な電圧印加を行い、電子放出素子の素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図10】大気圧中で段階的な電圧印加(フォーミング処理)を行った後のサンプル#1の電子放出素子に対して、真空中での電子放出素子の素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図11】サンプル#1の電子放出素子と同じ製法で作成した電子放出素子に対して、最終電圧を変化させてフォーミング処理を行い、その後、真空中での電子放出素子の素子内電流、電子放出電流を測定した結果を示す図である。
【図12】(a)〜(b)は、フォーミング処理条件を異ならせた場合の、導電微粒子堆積物である銀粒子ドーム表面及びその近傍の状態を示す図面である。
【図13】サンプル#7、#8の電子放出素子に対して、大気中でフォーミング処理を行った後に、電子放出素子の電子放出電流を測定した結果を示す図である。
【図14】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスの一例を示す図である。
【図15】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスの他の一例を示す図である。
【図16】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスの更に別の一例を示す図である。
【図17】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスを具備する画像表示装置の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明に係る電子放出素子、電子放出装置の実施形態及び実施例について、図1〜図17を参照して説明する。なお、以下に記述する実施の形態及び実施例は、本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0048】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置10の構成を示す模式図である。
【0049】
図1に示すように、電子放出装置10は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1と電源7とを有する。電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極3と、その間に挟まれた電子加速層4とからなる。電極基板2と薄膜電極3の間に、電源7にて電圧が印加されるようになっている。
【0050】
電極基板2と薄膜電極3との間に電圧が印加されると、電極基板2と薄膜電極3との間の電子加速層4に電流が流れ、その一部が、印加電圧の形成する強電界により弾道電子として電子加速層4から放出され、薄膜電極3側より素子外部へと放出される。
【0051】
電子加速層4から放出された電子は、薄膜電極3を通過(透過)して、或いは、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4の表面に凹凸等の影響から生じる薄膜電極3の孔(隙間)からすり抜けて外部へと放出される。
【0052】
ところで、前述したように、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4のあらゆる箇所から電子が放出される構成では、電子放出側に位置する薄膜電極3が、放出される電子によって逆スパッタされ、その結果、薄膜電極3は時間と共に消失し、最終的には上部電極としての機能を失うといった問題がある。
【0053】
このような問題を解決するために、本実施形態の電子放出素子1では、電子加速層4の全面から電子を放出させるのではなく、電子加速層4に電子放出部を形成し、電子加速層4の特定部分よりのみ電子を放出させる構成としている。
【0054】
すなわち、電子加速層4は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を有し、該微粒子層には、当該微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が付与されている。さらに、電子加速層4には、当該電子加速層4を厚み方向に通る導電経路であって、経路出口が電子を薄膜電極3へと与える電子放出部となる導電経路が予め形成されている。予め導電経路が形成されているとは、真空中で素子1に電圧印加を行い、駆動するよりも前であって、つまり、電子放出素子1の製造工程において形成しておくという意味である。
【0055】
上記構成によれば、電子は、薄膜電極3側に任意の箇所から放出されるのではなく、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4に予め形成された電子放出部より放出される。電子放出部は、当該電子加速層4に形成されている、電子加速層4を厚み方向に通る予め形成されている導電経路の出口であって、薄膜電極3より放出される電子は、この導電経路を通って薄膜電極3へと与えられ放出される。
【0056】
このように、上記電子放出素子1では、電子加速層4の任意の箇所から放出されるのではなく、放出する箇所が、予め形成されている導電経路の出口に相当する電子加速層4の電子放出部に特定される。したがって、薄膜電極3において、放出される電子によって逆スパッタされる部分は、電子放出部の真上に位置する部分や、電子放出部近傍に位置する部分に限定されることとなり、これ以外の部分では、電子に曝されることはなく、薄膜電極を構成する金属材料が放出電子により逆スパッタされ、時間と共に消失し、最終的には電極としての機能が失われることがない。
【0057】
図1は、電子加速層4における微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が、導電微粒子6である場合の電子放出素子1を示している。導電微粒子6は、微粒子層105の表面に堆積されて堆積物106を形成しており、導電微粒子6の微粒子層105への付与は、微粒子層105の表面に導電微粒子6が堆積されて堆積物106を形成することで実現されている。導電微粒子6の堆積物106には、導電経路の形成にて、電子放出部となる物理的な欠陥が設けられている。
【0058】
図2に、導電微粒子6の堆積物106を有する構成の電子加速層4における断面の模式図を示す。図2に示すように、電子加速層4において、上層の堆積物106を形成する導電微粒子6は、下層の微粒子層105を形成する絶縁体微粒子5…と混じり合うことなく、微粒子層105の表面(上面)に堆積されている。導電微粒子6…を絶縁体微粒子5…と混じり合うことなく堆積させる手法としては、導電微粒子6と絶縁体微粒子5のサイズを同程度としたり、或いは、微粒子層105において、絶縁体微粒子5相互をバインダー樹脂を用いて結着させたりすることで実現できる。特に、微粒子層105をバインダー樹脂にて固める構成では、絶縁体微粒子5の粒子径を、微粒子層105への導電微粒子6の混じり込みを考慮することなく選択できるので、選択幅が広がる。また、電子放出素子1自体の機械的強度が上がるといったメリットもある。
【0059】
堆積物106には、物理的な欠陥よりなる電子放出部108が形成されている。電子放出部108の下には、図示してはいないが、導電経路が形成されている。ここで、電子放出部108及び導電経路は、大気中でのフォーミング処理にて形成される。
【0060】
一般的にフォーミング処理とは、例えば、特許文献2に記載されているように、一般的にMIM型に構成された電子放出素子に、電界を加えて導電経路を形成する処理のことである。フォーミング処理は、通常の絶縁破壊とは決定的に異なり、a)電極材料の絶縁体層中への拡散、b)絶縁体物質の結晶化、c)フィラメントと呼ばれる導電経路の形成、d)絶縁体物質の化学量論的なズレ等、様々な説で説明される導電経路(電流経路)の偶発的な成長である。
【0061】
このような大気中のフォーミング処理による導電経路(予め形成されている導電経路)の形成は、微粒子層105表面にある導電微粒子6の堆積物106が、微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高めることで、大気中のフォーミング処理によって容易に形成できる。
【0062】
電子加速層4に予め導電経路が形成されていることで、その後の真空中における電子放出操作に要する素子への電圧印加によって、新たに導電経路が形成されることはなく、素子内電流は、予め形成されている導電経路を通って流れる。これにより、電子放出時に、導電経路が安定して機能することとなる。これに対し、予め導電経路が形成されていない素子に対して真空中において電圧印加することは、導電経路の形成過程であり、かつ、電子放出過程である。つまり、導電経路を形成しながら、電子放出も行うこととなる。そして、このような条件で形成される導電経路の形成は、恒常的なものではなく、真空中において電圧を印加する度に、新たに形成されるものである。そのため、真空中において電圧を印加する度に、素子の導電状態が変わってしまい、安定した電子放出特性を得ることができない。
【0063】
このように、上記電子加速層4を有する電子放出素子1では、電子加速層4の任意の箇所から放出されるのではなく、放出する箇所が、電子加速層4の電子放出部に特定される。したがって、薄膜電極3において、放出される電子によって逆スパッタされる部分は、電子放出部108の真上に位置する部分や、電子放出部108近傍に位置する部分に限定されることとなる。そのため、薄膜電極3における電子放出部108の真上やその近傍に位置する部分以外では、電子に曝されることはなく、薄膜電極3を構成する金属材料が放出電子により逆スパッタされ、時間と共に消失し、最終的には電極としての機能が失われることがない。その結果、薄膜電極3は、上部電極としての機能を長く保持することができる。
【0064】
また、図1、図2に示したように、導電微粒子6が微粒子層105の表面全体に堆積された一膜状の堆積物106であってもよいが、図3に示すように、導電微粒子6が微粒子層105の表面に離散的に堆積された、部分的な堆積物107…が離散的に配置された構成とすることがより好ましい。図3は、インクジェット法にて、微粒子層105の表面に導電微粒子6を離散的に堆積させた電子放出素子1の表面写真である。黒枠で囲まれた内側部分が薄膜電極3の形成部分である。薄膜電極3は、黒い点状に写っている堆積物107…の凹凸に沿って一様に堆積している。
【0065】
離散的に配置された堆積物107…とする構成が好ましい理由について説明する。大気中でのフォーミング処理工程では、電極基板2側から薄膜電極3側へと、導電微粒子6の堆積物106、107…における電流の流れ易い部分を目指して電流が流れ、導電経路(電流経路)が形成される。そのため、一膜状の堆積物106では、電子放出部108は堆積物106の表面に偶発的に決定され、形成される位置も個数も定まらない。このように電子放出部108である電子放出部が、電子加速層4表面に偶発的に形成されるのでは、電子の放出位置を制御したり、単位面積当たりの放出量を制御したりすることができない。
【0066】
なお、電子放出量は、電極基板2と薄膜電極3との間に印加する電圧を変化させることでも制御可能であり、低電圧では電子の放出量を小さく、高電圧では電子の放出量を大きく操作できる。しかしながら本明細で開示される素子は、低電圧印加時の電子放出量が極端に小さく、電子放出効率が著しく低下する。このため、電子放出量を極端に小さく絞り込みたい時には、印加電圧による電子放出量の制御は用いられない。
【0067】
これに対し、導電微粒子6を離散的に堆積させ、部分的な堆積物107…が離散的に配置された図3のような構成では、大気中でのフォーミング処理により形成される導電経路は、電極基板2側から個々の堆積物107に対して形成されるようになり、個々の堆積物107に電子放出部108が形成されることとなる。したがって、堆積物107…の配置を制御することで、電子放出部を電子加速層4の表面の任意の位置に配置することが可能となり、電子放出素子1における面内での電子の放出位置や、単位面積当たりの放出量等の制御が可能になる。なお、堆積物107…の配置は、図3に示すように規則正しく配置されたものに限らず、ランダムに配置されたものであってもよいことはいうまでもない。
【0068】
離散的に配置される堆積物107…の形成は、導電微粒子6の離散的な堆積を可能とする方法であれば、インクジェットヘッドを用いたインクジェット法以外に、マスクを用いたスプレー塗布法や、マスクレスで導電微粒子6の液滴を飛散可能な静電噴霧法等が利用可能である。しかしながら、塗布位置の制御性と塗布量の繰り返し再現性を考慮すると、インクジェット法による塗布が好ましい。
【0069】
図4に、ある部分的な堆積物107の表面写真を示す。これは、インクジェット法で形成したものであるが、インクジェット法にてドーム状に形成した部分的な堆積物107は、乾燥過程で所謂コーヒーリング現象を起こし、円の中央部を窪ませ、外周部リングをやや盛り上がらせた状態で固化する。なお、図4は、フォーミング処理前の堆積物107を撮影したものであるので、電子放出部108は形成されていない。また、図5に、円の中央部を窪ませ、外周部リングをやや盛り上がらせた状態で固化した堆積物107の断面構造を模式図にて示す。
【0070】
なお、以上においては、電子加速層4における微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質として、導電微粒子6を提示したが、他の例として、電子対を供与する電子供与体が置換基として導入されてなる塩基性分散剤を微粒子層105に付与する構成も考えられる。
【0071】
微粒子層105に、塩基性分散剤を含む塩基性溶液を塗布することで、微粒子層105を構成する絶縁体微粒子5の粒子表面へ、塩基性溶液中に含まれる電子供与基に代表される特定の置換基(例えば、π電子系であるフェニル基やビニル基、そしてアルキル基、アミノ基、等)を付与することが可能となる。絶縁体微粒子5の表面に特定の置換基を付与することで、それらを通じた粒子表面の電気伝導が容易になるだけでなく、大気中という雰囲気条件から、大気中の水分子あるいは酸素分子の表面付着が、この電気伝導現象をさらに容易にする。この結果、導電微粒子6の堆積物106、107…と同様に、大気中のフォーミング処理にて、微粒子層105に、恒常的な導電経路を形成することができる。塩基性分散剤を含む塩基性溶液を塗布する場合も、導電微粒子6の場合と同様に、一膜状に塗布しても、部分的に塗布してもよい。塩基性溶液の場合、導電微粒子6とは異なり、微粒子層105の表面に留まることはなく、微粒子層105内に拡散されていく。塩基性溶液が離散的に塗布された場合は、塩基性溶液が拡散された部分が離散的に存在することとなる。
【0072】
本発明に適用できる塩基性分散剤の市販品を例示すると、アビシア社製の商品名:ソルスパース9000、13240、13940、20000、24000、24000GR、24000SC、26000、28000、32550、34750、31845等の各種ソルスパース分散剤、ビックケミー社製の商品名:ディスパービック106、112、116、142、161、162,163、164、165、166、181、182、183、184、185、191、2000、2001、味の素ファインテクノ社製の商品名:アジスパーPB711、PB411、PB111、PB821、PB822、エフカケミカルズ社製の商品名:EFKA−47、4050等を挙げることができる。
【0073】
また、塩基性溶液の場合、微粒子層105の表面に留まることはなく、微粒子層105内に拡散されていくので、塩基性溶液を付与した微粒子層105では、大気中のフォーミング処理にて導電経路を形成した場合、導電微粒子6の堆積物106、107…に形成されるような、物理的な欠陥よりなる電子放出部は形成されず、導電経路の出口が電子放出部となるのみである。したがって、電子放出部を保護し、長期駆動を実現するといった観点から言えば、導電微粒子6の堆積物106、107…のように、電子放出部を硬く形成する必要から、電子放出部を固めるような固体物質を、塩基性溶液に混ぜて塗布し、導電微粒子6の堆積物106、107…のように、電子放出部を固体物質の堆積物中に電子放出部として形成する手法が好ましい。
【0074】
次に、このような電子放出素子1における各部について詳細に説明する。上記電極基板2は、電極としての機能に付加して、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有する基板であれば、特に制限なく、用いることができる。具体的には、例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板を挙げることができる。また、ガラス基板やプラスティック基板等の絶縁体基板の表面(電子加速層4との界面)に、金属などの導電性物質を電極として付着させたものであってもよい。絶縁体基板の表面に付着させる上記導電性物質としては、導電性に優れ、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、特に問わないが、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよい。但し、これら材料及び数値に限定されることはない。
【0075】
上記薄膜電極3は、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく、用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロスなく透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどを挙げることができる。中でも大気圧中でのフォーミング処理が関係するため、酸化物及び硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また、薄膜電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜100nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は100nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の放出が極端に減少してしまう。弾道電子の放出量減少は、薄膜電極3で弾道電子の吸収或いは反射による電子加速層4への再捕獲が生じたためと考えられる。
【0076】
電子加速層4における微粒子層105に含まれる絶縁体微粒子5の材料としては、SiO2、Al2O3、TiO2といったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒子径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、電子加速層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体微粒子5として、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよい。
【0077】
また、絶縁体微粒子5としては、材質の異なる2種類以上の粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、さらには、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。但し、上述したように、微粒子層105の上には導電微粒子6が堆積され、堆積物106、107…が形成される。堆積物106、107…と微粒子層105との界面においては、若干の相互混入は致し方ないとしても、両層は分離されている必要がある。そのため、絶縁体微粒子5の粒子径は、導電微粒子6の粒子径に応じて、混合が起こらないように選択する必要がある。但し、絶縁体微粒子5相互を結着させるバインダー樹脂を使用する場合は、バインダー樹脂が導電微粒子6の入り込みを防止するため、バインダー樹脂を使用しない場合に比べて、絶縁体微粒子5の粒子径にある程度の余裕が見込める。
【0078】
また、微粒子層105の層厚としては、導電微粒子6を塗布する時に用いた溶媒を吸収して、微粒子層105内に拡散させ得るに十分な厚さを有していることが好ましい。これは、詳細は後述するが、好適な製造のためには、微粒子層105の上に導電微粒子6を堆積させた電子加速層4の表面全体に、塩基性溶液を塗布する工程を付加するためである。電子加速層4における堆積物106、107…が完全に固化していない状態で、塩基性溶液を塗布すると、堆積物106、107…を構成している導電微粒子6が塩基性溶液中に流出してしまう。そのため、堆積物106、107…は、塩基性溶液を塗布するときには完全に固化されている必要がある。そして、堆積物106、107…を完全に固化させるためには、導電微粒子6を塗布するときに用いた溶媒を微粒子層105にて吸収、拡散させる必要がある。そのため、微粒子層105は溶媒を吸収できる程度に空隙を持つこと、及び溶媒を吸収、拡散するのに十分な層厚を持つことが必要条件となる。なお、このことは、微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める上記単独物質又は混合物質として、塩基性分散剤を含む塩基性溶液を用い、これに固体物質を混合した場合も同じである 一方、堆積物106、107…を構成する導電微粒子6の材料としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような導電体でも用いることができる。抗酸化力が高い導電体であると、導電微粒子6の酸化劣化を避けることができ、超寿命化が図れる。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。抗酸化力が高い導電体としては、貴金属、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。
【0079】
このような導電微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。
【0080】
導電微粒子6の粒子径は、その堆積物106、107…が電子線照射に起因した破壊、特に逆スパッタにより容易に破壊されない程度の粒子径である必要があり、実験では、平均粒径が5nmであれば逆スパッタ現象を防止できることを確認している。このような大きさ(質量)の導電微粒子6の堆積物である点が、放出電子による、自身の破壊を抑制する。
【0081】
また、導電微粒子6の周囲には、導電微粒子6の平均粒径より小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよく、この小絶縁体物質は、導電微粒子6の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、導電微粒子6の平均径より小さい形状の集合体として、導電微粒子6の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。小絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、導電微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質が導電微粒子6を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を導電微粒子6の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
【0082】
また、微粒子層105に使用されるバインダー樹脂としては、電極基板2との接着性がよく、絶縁体微粒子5を分散でき、絶縁性を有することがまず必要である。そして、上述したように、微粒子層105は、導電微粒子6を塗布する際に使用した溶媒を、微粒子層105が吸収することを妨げないことが必要であるので、バインダー樹脂においても、導電微粒子6を塗布するときに用いた溶媒の吸収、拡散を妨げないことが必要である。
【0083】
このようなバインダー樹脂15として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、などが挙げられる。これらの樹脂バインダーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0084】
次に、電子放出素子1の製造方法の一実施形態について説明する。
【0085】
まず、分散溶媒に、分散剤と、絶縁体微粒子5とを投入して、超音波分散器にかけて絶縁体微粒子5を分散させ、絶縁体微粒子分散溶液Aを得る。なお、分散法は、特に限定されず、超音波分散器以外の方法で分散させてもよい。絶縁体微粒子5を分散させる分散溶媒としては、絶縁体微粒子5を効果的に分散でき、かつ塗布後に蒸発するものであれば、特に制限なく、用いることができる。例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。分散剤も、分散溶媒との相性がよく、絶縁体微粒子5を分散させ得るものであればよい。
【0086】
次に、上記のように作成した絶縁体微粒子分散溶液Aを、電極基板2上に塗布して、電子加速層4を構成する微粒子層105を形成する。塗布方法として、例えば、スピンコート法を用いることができる。絶縁体微粒子分散溶液Aを電極基板2上に滴下し、スピンコート法を用いて、微粒子層105となる薄膜を形成する。電極基板2上への絶縁体微粒子分散溶液Aの滴下、スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。微粒子層105の成膜には、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法も用いることができる。
【0087】
次に、分散溶媒に、分散剤と、導電微粒子6とを投入して、超音波分散器にかけて導電微粒子6を分散させ、導電微粒子分散溶液Bを得る。なお、分散法は、特に限定されず、超音波分散器以外の方法で分散させてもよい。導電微粒子6を分散させる分散溶媒としては、導電微粒子6を効果的に分散でき、かつ塗布後に蒸発するものであれば、特に制限なく、用いることができる。例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。分散剤も、分散溶媒との相性がよく、導電微粒子6を分散させ得るものであればよい。
【0088】
また、導電微粒子分散溶液Bとしては、導電微粒子6が予め分散溶媒に分散されて市販されている導電微粒子分散溶液を用いてもよい。但し、塗布方法によって、塗布溶液には粘土の制限があるため、制限内であれば、市販されている導電微粒子分散溶液を使ってもよい。
【0089】
上記導電微粒子分散溶液Bを微粒子層105の表面に塗布して、導電微粒子6を微粒子層105の表面に堆積させて堆積物106或いは107…を形成する。塗布方法としては、スピンコート法や、インクジェット法、液滴下法、噴霧法等を用いることができる。また、導電微粒子6を離散的に堆積させて堆積物107…とする場合は、インクジェット法が最も好ましいが、マスクを用いたスプレー塗布法や、マスクレスで導電微粒子6の液滴を飛散可能な静電噴霧法等でもよい。
【0090】
微粒子層105とその上に形成された堆積物106、107…とからなる電子加速層4が形成されると、電子加速層4上に薄膜電極3を成膜する。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いることができる。また、薄膜電極3の成膜には、マグネトロンスパッタ法以外に、例えば、インクジェット法や、スピンコート法、蒸着法等を用いることもできる。
【0091】
次に、大気中において、電極基板2と薄膜電極3との間に直流電圧を印加して、堆積物106、107…を物理的に部分破壊して、導電経路を形成するフォーミング処理を行う。これにより、堆積物106、107…に電子放出部108が形成され、微粒子層105に導電経路が形成される。フォーミング処理を行うにあたり、電極基板2と薄膜電極3との間に印加する直流電圧は、段階的に上昇させていくことが好ましい。これは、電極基板2と薄膜電極3との間に、必要な電界を発生させる電圧を一気に印加すると、素子が絶縁破壊を起こす虞があるためである。電圧を段階的に上昇させていくことで、絶縁破壊を起こすことなく処理を行うことができる。
【0092】
また、フォーミング処理において、電極基板2と薄膜電極3との間に印加する電圧は、電極基板2と薄膜電極3との間に発生する電界強度が、1.9×107〜4.1×107[V/m]となるように設定することが好ましい。これは、電界強度が1.9×107[V/m]未満となると、フォーミング処理ができないか、たとえできたとしても、導電経路の形成が不十分であり、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流が電子放出を得るだけの十分な量とならない。また、電界強度が4.1×107[V/m]を超えると、大規模な絶縁破壊を生じ易く導電経路そのものが破壊されてしまう。一度この様な経過を辿ると、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流はまったく流れなくなるか、流れたとしても電子放出を得るだけの十分な量とならない。
【0093】
そして、本発明の電子放出素子1を製造するにあたり、より好ましくは、微粒子層105上に堆積物106、107…が形成されてなる電子加速層4の表面全体に、電子加速層4における微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高める、導電微粒子6以外の単独物質又は混合物質として先に述べた塩基性分散剤を含む塩基性溶液を塗布し、その後、薄膜電極3を形成することである。
【0094】
堆積物106、107…は、導電微粒子6が微粒子層105上部に堆積したもので、導電微粒子6の密度が高い状態にある。一方、微粒子層105は、一部の導電微粒子6が界面付近で浸透することはあっても、その存在割合は極めて低い状態にある。したがって、このような電子加速層4においては、フォーミング処理工程において直流電圧を印加しても、導電経路の形成は容易ではない。
【0095】
ところが、上記のように、電子加速層4に上記塩基性溶液を塗布することで、フォーミング処理工程において、再現性よく、小さなエネルギーで、しかも穏やかな処理条件にて、電子放出部108を形成し、導電経路を形成できることを確認している。
【0096】
表面に堆積物106、107…を有する微粒子層105に、塩基性溶液を塗布することで、既に説明したように、粒子表面の電気伝導が容易になると共に、大気中という雰囲気条件から、大気中の水分子あるいは酸素分子の表面付着が、この電気伝導現象をさらに容易にする。この結果、フォーミング処理が容易かつ、確実に実行可能となる。
【0097】
ここで、塩基性溶液の塗布方法は、微粒子層105の表面の堆積物106、107…が配置されてなる電子加速層4を壊すことなく、ごく少量の溶液を均一にコートできる方法であればよく、スピンコート法、滴下法等が挙げられる。
【0098】
また、塩基性溶液を塗布する手順であるが、堆積物106、107…を形成する前の微粒子層105に塗布することも可能である。
【0099】
しかしながら、本願出願人は、堆積物106、107…を形成した後に塩基性溶液を塗布する手順が、フォーミング処理における導電経路の形成を容易にすると考えている。
【0100】
これは、以下の理由による。図6(a)〜図6(c)は、何れも、導電微粒子6が離散的に配置されたある堆積物107の表面写真である。このうち、図6(a)は、塩基性溶液塗布前(フォーミング処理前)の堆積物107の表面状態を示す。エッジ部に、一周する黒い線が確認できる。図6(b)は、塩基性溶液塗布直後(フォーミング処理前)の堆積物107の表面状態を、エッジに焦点をあてて撮影したものである。図6(a)と比較するとわかるように、エッジ部より内側に、新たに、一周する2本目の黒い線ができていることがわかる。図6(c)は、塩基性溶液塗布直後(フォーミング処理前)の堆積物107の表面状態を、一番盛り上がっているリング部に焦点をあてて撮影したものである。図6(a)と比較するとわかるように、一番盛り上がっているリングの一部に傷つけられたような痕が確認でき、また中央の凹部には、青い物質の溜りが確認できる。
【0101】
本願出願人は、このような観察の結果、堆積物106、107…を配置した後に塩基性溶液を塗布することで、堆積物106、107…の表面に傷を付けることが可能となり、後段のフォーミング処理においては、電流がこの表面の傷を目がけて流れ、その結果、導電経路の形成が容易になると考察している。
【実施例】
【0102】
[実施例1]
10mLの試薬瓶にエタノール溶媒2.0gとテトラメトキシシランKBM−04(信越化学工業株式会社製)0.5gを入れ、絶縁体微粒子5として平均径12nmの球状シリカ粒子AEROSIL R8200(エボニックエグサジャパン株式会社製)を0.5g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子分散溶液Aとした。
【0103】
電極基板2となるITO薄膜を表面に有した25mm角のガラス基板上に、上記の絶縁体微粒子分散溶液Aを滴下後、スピンコート法を用いて8000rpm、10sの条件で微粒子層105としてのシリカ粒子層を形成し、数時間室温乾燥した。
【0104】
次に、このシリカ粒子層の表面へ、導電微粒子6としての銀ナノ粒子を分散させたテトラデカン分散溶液(株式会社アルバック製、銀微粒子の平均粒径5.0nm、銀微粒子固形分濃度54%)を、所謂インクジェットヘッドを使用して離散的に吐出し、着弾径26μm、約5500個/cm2の密度で、堆積物107としての、銀ナノ粒子の液滴跡である銀粒子ドームを形成した。この時のインクジェットヘッドの吐出条件は、吐出体積4pL、吐出ピッチは135μm角に1滴である。
【0105】
次に、10mLの試薬瓶にトルエン溶媒を3mL入れ、塩基性分散剤(塩基性官能基含有共重合物)であるアジスパーPB821(味の素ファインテクノ株式会社製)を0.03g投入し、超音波分散器にかけて分散して塩基性溶液を得た。この塩基性溶液を、銀粒子ドームを多数有するシリカ粒子層に、滴下後、スピンコート法を用いて1000rpm、10sの条件で塗布した。
【0106】
最後に、銀粒子ドームを多数有するシリカ粒子層表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3としての表面電極を成膜することにより、サンプ#1の電子放出素子1を得た。表面電極の成膜材料としては金を使用し、表面電極の層厚は40nm、同面積は0.014cm2とした。
【0107】
このようなサンプル#1の電子放出素子1について、図7に示す測定系を用いて、真空中及び大気中にて、電子放出実験を行い、電子放出特性を調べた。
【0108】
まず、図7に、電子放出実験に用いた測定系を示す。図7の測定系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ9(径:1mm)を挟んで対向電極8を配置させる。そして、サンプル#1の電子放出素子1の電極基板2と薄膜電極3との間には、電源7AによりV1の電圧が印加され、対向電極8には電源7BによりV2の電圧がかかるようになっている。薄膜電極3と電源7Aとの間を流れる単位面積当たりの素子内電流(素子内電流密度)I1を、上記測定系を1×10−8ATMの真空中、及び大気中に配置して測定した。
【0109】
図8に、真空中にて、サンプル#1の電子放出素子1に対して、0から+19Vまで0.1Vステップ(0.1V刻みで上昇)で直流電圧を印加した時の素子内電流I1の測定結果を示す。図8より分かるように、0から+19Vまで全ての範囲で、素子内電流I1は1×10−7A/cm2以下であった。素子内電流I1がこの状態の電子放出素子はほぼ絶縁体であり、サンプル#1の電子放出素子1は、電子放出素子としての機能を有していなかった。
【0110】
図9に、大気中にて、サンプル#1の電子放出素子1に対して、0から+19Vまで0.1Vステップ(0.1V刻みで上昇)で直流電圧を印加した時の素子内電流I1の測定結果を示す。ここで、電圧上昇速度は、1V/3秒とした。また、このような大気中での電圧印加処理は、1回のみ行った。
【0111】
図9に示すように、電圧印加直後から真空中に比べて数百倍以上の素子内電流が流れるが、特に+9V前後から非線形に急激な電流の増加特性を示している。急激な電流増加後は、電圧の増加と共に電流値の変化は小さくなり、+18.5Vの最終値付近では電流値が飽和している。
【0112】
このような電流が流れている間、素子表面では銀粒子ドームに目視で判別可能な発光現象が生じており、その現象と引き換えに、ドームの一部に欠け、或いは割れが形成される。この銀粒子ドームに生じた欠陥は次に電圧を印加した時の導電経路となることから、この大気中での電圧印加処理は、一般的なMIM型に構成された電子放出素子に、電界を加えて導電経路を形成する所謂“フォーミング処理”と同様な導電経路形成メカニズムを進展させると考えられる。以下、この導電経路成処理を、大気中フォーミング処理と呼ぶ。
【0113】
次に、このような大気中フォーミング処理を施したサンプル#1の電子放出素子を、図7の測定系を真空中(1×10−8ATM)に配置し、電子放出特性を調べた。ここでは、単位面積当たりの、素子内電流I1及び電子放出電流I2を測定した。電子放出電流I2は、対向電極8と電源7Bとの間に流れる電流I2を測定した。
【0114】
結果を図10に示す。薄膜電極3への印加電圧19.8Vにて、単位面積当たり4.02×10−4[A/cm2]の電子放出が得られた。電子放出部は、銀粒子ドーム部に限られるため、本実施例の銀粒子ドーム1個当たりの電子放出密度は、1.38×10−2[A/cm2]となる。
[実施例2]
実施例2として、銀粒子ドームを多数有するシリカ粒子層に、塩基性溶液を塗布しない点を除いて上記実施例1と同様の手順でサンプル#2の電子放出素子1を作成した。この実施例2においては、大気中フォーミング処理にて、銀粒子ドームに欠けや割れを形成することができ、真空中での電子放出も確認できた。しかしながら、素子内に流れる電流を制御することができず、銀粒子ドームに形成する欠けや割れの程度を制御することが難しかった。
[実施例3]
次に、大気中フォーミング処理の印加電圧値と電子放出特性との関係を調べた結果を示す。素子の作成条件は上記実施例1のサンプル#1の電子放出素子1に倣うが、比較のために大気中フォーミングにおける印加電圧の最終値を、17V、19V、25V、30V、40Vと変えた。
【0115】
大気中フォーミング処理直後の銀粒子ドームは、最終値が19V及び25Vの電圧印加範囲では、銀粒子ドームにのみ欠けや割れが生じたが、最終値が30V及び40Vの電圧印加範囲では、銀粒子ドームはシリカ粒子層表面にその痕跡だけを残して全て失われ、同時に銀粒子ドーム近傍のシリカ粒子層および表面電極をも破壊、飛散させてしまった。一方、最終値が17Vの電圧印加範囲では、特に変化が見られなかった。
【0116】
実施例3で得られた素子の電子放出特性を図11に示す。図11は、真空中(1×10−8ATM)における、大気中フォーミング処理の印加電圧に対する、単位面積当たりの素子内電流密度及び電子放出電流密度(共に+20V印加時の値)を示している。17Vの結果を除いて、大気中フォーミング処理における印加電圧が大きくなるに従って素子内電流は低下し、それに伴って電子放出量も低下していくことが分かる。
【0117】
また、最終値が17V、19V、30Vそれぞれの場合の銀粒子ドームの状態を図12(a)〜図12(c)に示す。素子内に形成される導電経路は、銀ナノ粒子の堆積した部分(銀粒子ドーム)に集中する。そのため、同図(c)に示すように、大気中フォーミング処理により銀粒子ドームが著しく破壊されると、電流路の形成が困難になると予想される。一方で、同図(c)に示すように、銀粒子ドームに何ら外的変化を与えない処理電圧では、素子内電流を十分流すだけの電流路が形成できていない。一方、同図(b)に示すように、適度に銀ナノ粒子の堆積した部分(銀粒子ドーム)に欠陥が生じているものは良好な結果を得た。
【0118】
実施例1および実施例3の結果から、大気中フォーミングの印加電圧の条件は18.5以上、30V未満、より好ましくは18.5V以上25V未満の範囲で行い、銀粒子ドームのみに欠けや割れを生じさせることが良いと判断する。
[実施例4]
インクジェットで銀ナノ粒子を分散させたテトラデカン分散溶液を密に吐出し、シリカ粒子層の面状に銀ナノ粒子の堆積物を形成した以外は、サンプル#1と同様に、サンプル#3の電子放出素子を形成した。この時の吐出条件は、吐出体積4pL、吐出ピッチは62μmである。このようにすることで、吐出分散溶媒は、隣接したテトラデカン分散溶媒と連結し、面状となった。
【0119】
このように作成したサンプル#3の電子放出素子1に実施例1の同様の条件で大気中でフォーミング処理を実施したのち、1×10−8ATMの真空中において直流電圧(+18V)を印加し、素子を連続駆動した結果を図13に示す。また、図13には、実施例1のサンプル#1に対して、大気中フォーミング処理を実施した電子放出素子の連続駆動の結果も併せて示す。
【0120】
図13より明らかなように、面状の素子では開始15分で、異常な電子放出の増加を示し、その直後、電子放出は途絶えてしまった。これは、面状素子では、初期に形成された、限られた電子放出部から、エージング過程において電子放出部の異常増加が生じ、それに伴う素子内電流増加に素子が耐え切れず、素子破壊が生じたものと考えられる。この結果からも、電子放出特性の長期維持には、離散的に配置された部分的な堆積物107…とする構成がより好ましいことがわかる。
【0121】
〔実施の形態2〕
図14〜16に、実施の形態1で説明した本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置10にて自発光デバイスを構成した、本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
【0122】
図14に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる電子放出装置10に加えて、発光部36を備えている。発光部36は、基材となるガラス基板34に、ITO膜33、蛍光体32が積層された構造を有する。発光部36は、電子放出素子1に対向した位置に、距離を隔てて配されている。自発光デバイス31は、真空封止されている。
【0123】
蛍光体32としては、赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適している。例えば、赤色ではY2O3:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、青色ではBaMgAl10O17:Eu2+等が使用可能である。蛍光体32は、ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に成膜されており、厚さ1μm程度が好ましい。ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
【0124】
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
【0125】
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体32へ向けて加速する必要がある。このような加速を実現するには、図14に示すように、電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33との間に、電源35を設け、電子を加速する電界を形成させるための電圧印加を可能にする構成が好ましい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
【0126】
図15に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる電子放出装置10に加えて、蛍光体(発光体)32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
【0127】
図16に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる電子放出装置10に加えて、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体(発光体)32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子5に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子5として球状シリカ粒子(平均径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
【0128】
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32に衝突させて発光させる。電子放出素子1は電子放出量が向上しているため、自発光デバイス31,31’,31”は、効果的に発光を行える。
【0129】
さらに、図17に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図17に示す画像表示装置140は、図16で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
【0130】
また、本発明に係る画像表示装置として、図14に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明に係る電子放出素子は、電気的導通を確保して十分な素子内電流を流し、薄膜電極から弾道電子を放出させることが可能である。よって、例えば、発光体と組み合わせることにより画像表示装置等に、好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 電子放出素子
2 電極基板
3 薄膜電極
4 電子加速層
5 絶縁体微粒子
6 導電微粒子
7 電源(電源部)
7A 電源
7B 電源
8 対向電極
9 絶縁体スペーサ
10 電子放出装置
31,31’,31” 自発光デバイス
32,32’ 蛍光体(発光体)
33 ITO膜
34 ガラス基板
35 電源
36 発光部
105 微粒子層
106 堆積物
107 堆積物
140 画像表示装置
330 液晶パネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子であって、
前記電子加速層は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を有し、該微粒子層には、前記微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が付与されており、
前記電子加速層には、当該電子加速層を厚み方向に通る導電経路であって、経路出口が前記電子を前記薄膜電極へと与える電子放出部となる導電経路が予め形成されていることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記単独物質又は混合物質は、前記微粒子層における電極基板側を下面として前記微粒子層の上面よりみた場合の付与位置が離散的になるように付与されていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記単独物質又は混合物質は導電微粒子であり、
該導電微粒子は、前記微粒子層の表面に堆積されて堆積物を形成しており、
該導電微粒子の堆積物には、前記電子放出部となる物理的な欠陥が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記微粒子層が、絶縁体微粒子相互を結着させるバインダー樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電子放出素子。
【請求項5】
上記導電微粒子は、貴金属であることを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子。
【請求項6】
上記導電微粒子は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の電子放出素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子放出素子と、該電子放出素子にける前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴とする電子放出装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電子放出装置と発光体とを備え、前記電子放出装置から電子を放出して前記発光体を発光させることを特徴とする自発光デバイス。
【請求項10】
請求項9に記載の自発光デバイスを備えたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項11】
対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子の製造方法であって、
前記電極基板上に絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成し、前記微粒子層の表面に導電微粒子を堆積させて導電微粒子の堆積物を形成することで、電子加速層を形成する工程と、
前記電子加速層の表面に薄膜電極を形成する工程と、
大気中にて前記電極基板と前記薄膜電極との間に直流電圧を印加して、前記電子加速層に導電経路を形成するフォーミング処理を行う工程とを含む電子放出素子の製造方法。
【請求項12】
前記電子加速層を形成する工程では、前記微粒子層の表面に導電微粒子の堆積物を離散的に配置することを特徴とする請求項11に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項13】
前記電子加速層を形成する工程に、
前記電子加速層の表面全体に、電子対を供与する電子供与体が置換基として導入されてなる塩基性溶液を塗布する工程がさらに含まれることを特徴とする請求項11又は12に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項14】
前記フォーミング処理を行う工程では、直流電圧を印加するにあたり、電圧を段階的に上昇させて印加することを特徴とする請求項11〜13の何れか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項15】
前記フォーミング処理を行う工程では、前記電極基板と前記薄膜電極との間に発生する電界強度が1.9×107〜4.1×107[V/m]となるように、直流電圧を印加することを特徴とする請求項11〜14の何れか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項16】
前記電子加速層を形成する工程では、インクジェット法を用いて前記微粒子層の表面に導電微粒子の堆積物を離散的に配置することを特徴とする請求項11〜15の何れか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項1】
対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子であって、
前記電子加速層は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を有し、該微粒子層には、前記微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が付与されており、
前記電子加速層には、当該電子加速層を厚み方向に通る導電経路であって、経路出口が前記電子を前記薄膜電極へと与える電子放出部となる導電経路が予め形成されていることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記単独物質又は混合物質は、前記微粒子層における電極基板側を下面として前記微粒子層の上面よりみた場合の付与位置が離散的になるように付与されていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記単独物質又は混合物質は導電微粒子であり、
該導電微粒子は、前記微粒子層の表面に堆積されて堆積物を形成しており、
該導電微粒子の堆積物には、前記電子放出部となる物理的な欠陥が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記微粒子層が、絶縁体微粒子相互を結着させるバインダー樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電子放出素子。
【請求項5】
上記導電微粒子は、貴金属であることを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子。
【請求項6】
上記導電微粒子は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の電子放出素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子放出素子と、該電子放出素子にける前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴とする電子放出装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電子放出装置と発光体とを備え、前記電子放出装置から電子を放出して前記発光体を発光させることを特徴とする自発光デバイス。
【請求項10】
請求項9に記載の自発光デバイスを備えたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項11】
対向して配置された電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子の製造方法であって、
前記電極基板上に絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成し、前記微粒子層の表面に導電微粒子を堆積させて導電微粒子の堆積物を形成することで、電子加速層を形成する工程と、
前記電子加速層の表面に薄膜電極を形成する工程と、
大気中にて前記電極基板と前記薄膜電極との間に直流電圧を印加して、前記電子加速層に導電経路を形成するフォーミング処理を行う工程とを含む電子放出素子の製造方法。
【請求項12】
前記電子加速層を形成する工程では、前記微粒子層の表面に導電微粒子の堆積物を離散的に配置することを特徴とする請求項11に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項13】
前記電子加速層を形成する工程に、
前記電子加速層の表面全体に、電子対を供与する電子供与体が置換基として導入されてなる塩基性溶液を塗布する工程がさらに含まれることを特徴とする請求項11又は12に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項14】
前記フォーミング処理を行う工程では、直流電圧を印加するにあたり、電圧を段階的に上昇させて印加することを特徴とする請求項11〜13の何れか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項15】
前記フォーミング処理を行う工程では、前記電極基板と前記薄膜電極との間に発生する電界強度が1.9×107〜4.1×107[V/m]となるように、直流電圧を印加することを特徴とする請求項11〜14の何れか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項16】
前記電子加速層を形成する工程では、インクジェット法を用いて前記微粒子層の表面に導電微粒子の堆積物を離散的に配置することを特徴とする請求項11〜15の何れか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図3】
【図4】
【図6】
【図12】
【図15】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図3】
【図4】
【図6】
【図12】
【図15】
【公開番号】特開2011−9073(P2011−9073A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151559(P2009−151559)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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