説明

電子楽器

【課題】低コストで、音質劣化を伴うことなく、各楽曲に対応する所望のバリエーションの楽音発生を行えるようにする。
【解決手段】オーディオプレイヤ18の記憶装置18aには、複数の各楽曲について、1つのオリジナルオーディオファイルと、それに対してバリエーションの関係にある複数のバリエーションオーディオファイルとが対応付けて記憶されている。楽曲のリスト表示から楽曲が選択された時点では、当該楽曲に対応するオリジナルオーディオファイルが再生対象となるが、その状態でボタン31〜34が操作されるとバリエーションオーディオファイルが再生対象になり、再生ボタン28の操作によりそのオーディオファイルがオーディオプレイヤ18によって再生され、それによるオーディオ信号を受信して楽音を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続されたオーディオプレイヤからのオーディオ信号に基づき楽音を発生、または、記憶された楽曲のオーディオファイルを再生する電子楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記憶媒体に記憶された楽曲のオーディオファイルに基づき楽音を発生させる電子楽器が知られている。例えば、楽曲を記憶する記憶媒体を有する携帯型のオーディオプレイヤのオーディオ出力端子と電子楽器のオーディオ入力端子とを接続し、オーディオプレイヤで再生したオーディオ信号に基づき電子楽器で楽音を発生させる。あるいは、下記特許文献1のように、電子楽器内に楽曲を記憶する記憶媒体及び再生機能を内蔵し、電子楽器内で再生を行うものも知られている。
【特許文献1】特開2006−133685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような電子楽器において、例えば、リスニング用に制作された楽曲のオーディオファイルは、楽器練習に用いるという観点では、テンポが速い、調がC調以外の調で演奏が容易でない、練習したいパートに既に演奏が入っている等の理由により、そのまま再生したのでは練習用に適さない場合がある。
【0004】
これに対処するために、オリジナルの曲に対して、テンポを遅くしたり(テンポチェンジやタイムストレッチ)、調を簡単なC調に移調したり(ピッチチェンジ)、あるいは、ボーカル等の特定パートの練習用にボーカルキャンセル等の処理を行ったりして、オリジナルとは異なる楽曲再生を行う処理技術は存在する。
【0005】
しかしながら、そのような処理を施すと、音質が劣化するだけでなく、それらの機能を電子楽器に備えることで、構成が複雑化してコスト上昇にもつながるという問題があった。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、低コストで、音質劣化を伴うことなく、各楽曲に対応する所望のバリエーションの楽音発生を行うことができる電子楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の電子楽器は、同一楽曲についてオリジナルのオーディオファイルと該オリジナルのオーディオファイルに対してバリエーションの関係にあるバリエーションのオーディオファイルとを記憶したオーディオプレイヤ(18)を接続可能な電子楽器であって、前記オーディオプレイヤに記憶されている複数の楽曲から所望の楽曲を選択する楽曲選択手段(2A)と、前記楽曲選択手段により楽曲が選択されている状態で操作されることで、当該楽曲に対応するバリエーションのオーディオファイルを、再生用オーディオファイルとして指定するバリエーション指定操作子(31〜34)と、再生指示操作子(28)と、前記再生指示操作子の操作に応じて、前記バリエーション指定操作子により前記再生用オーディオファイルとして指定されたオーディオファイルの再生を指示するコマンドを前記オーディオプレイヤに対して送信する再生指示コマンド送信手段(5、15)と、前記オーディオプレイヤで再生されたオーディオ信号を受信してそれに応じた楽音を発生させる楽音発生手段(17)とを有することを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記オーディオプレイヤから、記憶されている楽曲のオーディオファイルのリストを受信するリスト受信手段(15)と、前記リスト受信手段により受信されたオーディオファイルのリストから、同一楽曲にそれぞれ対応しているオリジナルのオーディオファイル及びバリエーションのオーディオファイルを特定する特定手段(5)と、同一楽曲に対応していることが特定された全オーディオファイルを1つの楽曲として表示する表示手段(19)とを有し、前記楽曲選択手段は、前記表示手段に表示された楽曲からいずれかを選択する(請求項2)。
【0009】
上記目的を達成するために本発明の請求項3の電子楽器は、同一楽曲についてオリジナルのオーディオファイルと該オリジナルのオーディオファイルに対してバリエーションの関係にあるバリエーションのオーディオファイルとを記憶するオーディオファイル記憶手段(6)と、前記オーディオファイル記憶手段に記憶されている複数の楽曲から所望の楽曲を選択する楽曲選択手段と、前記楽曲選択手段により楽曲が選択されている状態で操作されることで、当該楽曲に対応するバリエーションのオーディオファイルを、再生用オーディオファイルとして指定するバリエーション指定操作子と、前記バリエーション指定操作子により前記再生用オーディオファイルとして指定されたオーディオファイルの再生を指示する再生指示操作子(28)と、前記再生指示操作子により再生指示されたオーディオファイルを再生する再生手段(17)とを有することを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記オーディオファイル記憶手段に記憶されている楽曲のオーディオファイルから、同一楽曲にそれぞれ対応しているオリジナルのオーディオファイル及びバリエーションのオーディオファイルを特定する特定手段と、同一楽曲に対応していることが特定された全オーディオファイルを1つの楽曲として表示する表示手段とを有し、前記楽曲選択手段は、前記表示手段に表示された楽曲からいずれかを選択する(請求項4)。
【0011】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1、3によれば、低コストで、音質劣化を伴うことなく、各楽曲に対応する所望のバリエーションの楽音発生を行うことができる。
【0013】
本発明の請求項2、4によれば、同一楽曲に対応するバリエーションのオーディオファイルの存在を意識させることなく、各楽曲の選択と対応する所望のバリエーションの楽音発生とを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電子楽器の全体構成を示すブロック図である。本電子楽器は、電子鍵盤楽器として構成される。
【0016】
本電子楽器は、図1に示すように、検出回路3、検出回路4、ROM6、RAM7、タイマ8、表示回路9、外部記憶装置10、MIDIインターフェイス(MIDII/F)11、通信インターフェイス(通信I/F)12、音源回路13、ミキサ14及びオーディオインターフェイス(オーディオI/F)15が、バス16を介してCPU5にそれぞれ接続されて構成される。
【0017】
さらに、検出回路3には、音高情報を入力するための鍵盤を含む演奏操作子1が接続され、検出回路4には、各種情報を入力するための複数のスイッチを含む設定操作子2が接続されている。表示回路9には、楽譜や文字等の各種情報を表示する液晶等のディスプレイ19が接続されている。CPU5にはタイマ8が接続され、MIDII/F11にはMIDI機器100が接続されている。通信I/F12には通信ネットワーク101を介してサーバコンピュータ102が接続されている。ここで、通信I/F12及び通信ネットワーク101は、有線方式のものに限らず、無線方式のものであってもよい。また、両方式のものを備えていてもよい。
【0018】
ミキサ14は、音源回路13及びオーディオI/F15に接続され、ミキサ14には、サウンドシステム17が接続されている。また、オーディオI/F15には、オーディオプレイヤ18が接続される。このオーディオI/F15を介して、本電子楽器にオーディオプレイヤ18が電気的に接続/取り外し可能になっている。
【0019】
検出回路3は演奏操作子1の操作状態を検出し、検出回路4は設定操作子2の操作状態を検出する。CPU5は、本装置全体の制御を司る。ROM6は、CPU5が実行する制御プログラムや各種テーブルデータ等を記憶する。RAM7は、楽曲データ、テキストデータ等の各種入力情報、各種フラグやバッファデータ及び演算結果等を一時的に記憶する。タイマ8は、タイマ割り込み処理における割り込み時間や各種時間を計時する。外部記憶装置10は、上記制御プログラムを含む各種アプリケーションプログラムや各種楽曲データ、各種データ等を記憶する。
【0020】
MIDII/F11は、MIDI機器100等の外部装置からのMIDI(Musical Instrument Digital Interface)信号を入力したり、MIDI信号を外部装置に出力したりする。通信I/F12は、通信ネットワーク101を介して、例えばサーバコンピュータ102とデータの送受信を行う。音源回路13は、演奏操作子1から入力された演奏データや予め設定された楽曲データをオーディオ信号に変換する。
【0021】
ミキサ14は、オーディオI/F15、音源回路13から入力されるオーディオ信号に各種効果を付与すると共に、それらをミキシングして、サウンドシステム17に出力する。DAC(Digital-to-Analog Converter)やアンプ、スピーカ等のサウンドシステム17は、ミキサ14から入力されるオーディオ信号を音響に変換する。
【0022】
オーディオプレイヤ18は、例えば、携帯型の音楽再生装置であり、ハードディスクまたは不揮発性の記憶媒体を有する記憶装置18aを備える。オーディオプレイヤ18は、携帯型に限られるものではない。記憶装置18aには、後述するように、楽曲を記憶でき、それらの楽曲を独自に再生する機能も有する。オーディオI/F15は、CPU5からの制御コマンドをオーディオプレイヤ18に送ると共に、オーディオプレイヤ18で再生されたオーディオ信号をミキサ14に送る。また、オーディオプレイヤ18から受信した曲リスト情報をCPU5へと送る。
【0023】
オーディオI/F15は、USB(ユニバーサル・シリアル・バス)等の汎用のインターフェイスであるが、オーディオプレイヤ18専用のドック等のインターフェイスであってもよい。制御コマンド用や曲リスト情報用の信号線とオーディオ信号用の信号線とは、共用してもよいし、別途設けてもよい。特に、オーディオ信号がデジタルの場合は共用とするのがよく、アナログの場合は別途とするのがよい。
【0024】
外部記憶装置10としては、例えば、フレキシブルディスクドライブ(FDD)、ハードディスクドライブ(HDD)、CD−ROMドライブ及び光磁気ディスク(MO)ドライブ等を挙げることができる。ROM6に制御プログラムが記憶されていない場合には、この外部記憶装置10に制御プログラムを記憶させておき、それをRAM7に読み込むことにより、ROM6に制御プログラムを記憶している場合と同様の動作をCPU5にさせることができる。このようにすると、制御プログラムの追加やバージョンアップ等が容易に行える。
【0025】
なお、本実施の形態の電子楽器としては、鍵盤楽器に限らず、弦楽器タイプ、管楽器タイプ、打楽器タイプ等の形態でもよい。
【0026】
図2は、オーディオプレイヤ18の記憶装置18aに記憶されるオーディオファイルデータのデータ構成を示す概念図である。
【0027】
このオーディオファイルデータには、複数の楽曲(曲名=楽曲1、楽曲2・・・)のオーディオファイルが含まれる。1つの楽曲について複数種類のオーディオファイルが対応付けられている。複数種類のオーディオファイルには、通常のリスニングに利用される1つのオリジナルオーディオファイルと、このオリジナルオーディオファイルに対してバリエーションの関係にある複数のバリエーションオーディオファイルとがある。
【0028】
ここで、バリエーションオーディオファイルは、対応する楽曲をベースに、オリジナルオーディオファイルとは別個に制作され、主に、演奏や歌唱の練習に用いることが想定されるものである。楽曲1を例にとると、ファイル名が「楽曲1_original」であるものが、楽曲1のオリジナルオーディオファイルである。ファイル名が「楽曲1_TmpDn」、「楽曲1_KeyC」、「楽曲1_TmpDn& KeyC」、「楽曲1_VoCncl」であるものが楽曲1のバリエーションオーディオファイルである。
【0029】
具体的には、楽曲1_TmpDnは、楽曲1_originalに対してテンポを遅くしたものである。楽曲1_KeyC、楽曲1_TmpDn& KeyC、楽曲1_VoCnclは、楽曲1_originalに対してそれぞれ、調をC調に移調したもの、テンポを遅くし且つ調をC調に移調したもの、ボーカルパートを除いたもの、である。これらは一例であり、種類や数はこの例に限られず、楽曲に対応し且つ楽曲1_originalとは一部が異なるような演奏をデータファイル化したものであればよい。また、同じような種類のもの(例えば、テンポを複数種類に変えたもの)が複数併存していてもよい。
【0030】
バリエーションオーディオファイルは、オリジナルオーディオファイルを変換する等の電子的な処理によるのではなく、例えば、オリジナルオーディオファイルと同様の制作過程をたどって制作される。すなわち、演奏録音段階で演奏自体(テンポや調等を)を原曲とは異ならせたり、演奏録音段階またはミキシング段階で一部のパート(ボーカルパート等)だけを除去したりすることで制作される。従って、オリジナルオーディオファイルと全く同レベルの音質が確保されたものである。
【0031】
オリジナルオーディオファイルである楽曲1_originalは、属性情報と、楽曲を構成するデータが所定の形式(形式は問わない)で圧縮された圧縮オーディオデータとから構成されている。なお、楽曲を構成するデータは、非圧縮のデータであってもよい。属性情報には、対応する楽曲の曲名、ジャンル、アーティスト、アルバム、作者(作詞、作曲)等の情報が含まれる。楽曲1_TmpDn等のバリエーションオーディオファイルの構成も、オリジナルオーディオファイルと同様である。
【0032】
電子楽器からオーディオプレイヤ18に楽曲再生を行わせるにあたって、オリジナルオーディオファイルとバリエーションオーディオファイルとは、ファイル名で識別される。すなわち、共通の曲名部分である「楽曲1」とそれの後に付随している部分で、それがオリジナルオーディオファイルであるか、あるいは、どのようなバリエーションオーディオファイルであるかを、電子楽器及びオーディオプレイヤ18が一意に認識することができる。例えば、「楽曲1_original」は、付随部分「original」によって楽曲1のオリジナルオーディオファイルであることがわかる。「楽曲1_TmpDn」、「楽曲1_KeyC」は、付随部分「TmpDn」、「KeyC」によって、楽曲1のテンポを遅くしたもの、楽曲1をC調に移調したもの、であることがそれぞれわかる。なお、上記付随部分と同じ識別機能を果たす情報を、上記属性情報中に含めるようにしてもよい。
【0033】
記憶装置18aに楽曲が記憶される際、同一楽曲に対応するオーディオファイルは、互いに対応付けられて記憶される。互いを対応付ける情報は、ファイル名のうちの共通部分(例えば、「楽曲1」)であるが、この情報は、属性情報中に含ませるようにしてもよい。楽曲コンテンツは、例えば、オリジナルオーディオファイル及び複数のバリエーションオーディオファイルがひとまとめに記憶された音楽CD等のメディアによって提供される。オーディオプレイヤ18のユーザは、パーソナルコンピュータに接続する等によって、所定の圧縮形式でオーディオファイルを記憶装置18aに保存させる。なお、楽曲の提供方法や記憶装置18aの保存方法は問わない。例えば、インターネットで所定のサーバ上からダウンロードして入手する形態であってもよい。また、ある楽曲について、バリエーションオーディオファイルを事後的に入手して追加することも可能である。
【0034】
バリエーションオーディオファイルは、各楽曲について必ず存在するとは限らず、上記4種類のバリエーションオーディオファイルの一部のみが存在する場合もある。また、アルバムとしてまとまった楽曲群のうち、一部の楽曲にだけバリエーションオーディオファイルが存在するという場合もある。
【0035】
図3は、設定操作子2(図1参照)の一部を構成する楽曲再生に係わる操作子群を示す図である。これら操作子群には、第1操作子群2A、第2操作子群2B、第3操作子群2Cがある。
【0036】
第1操作子群2Aには、楽曲等の項目の選択・決定に用いられる選択ボタン22〜25及び決定ボタン(OK)21が含まれる。第2操作子群2Bには、楽曲の再生・停止等に係わる操作を行うための、巻き戻しボタン26、停止ボタン27、再生ボタン28、早送りボタン29が含まれる。
【0037】
第3操作子群2Cには、オリジナルボタン30、C調ボタン31、テンポダウン&C調ボタン32、テンポダウンボタン33及びボーカルキャンセルボタン34が含まれる。第3操作子群2Cは、再生すべき楽曲が選択されている状態で操作されるものであり、当該楽曲に対応するどのオーディオファイルを再生すべきかを選択するために用いられる。アレンジ指定操作子であるボタン31〜34の操作により、楽曲1でいえば、「楽曲1_KeyC」、「楽曲1_TmpDn& KeyC」、「楽曲1_TmpDn」、「楽曲1_VoCncl」(図2参照)がそれぞれ選択される。
【0038】
また、ボタン31〜34の近傍(例えば下方)には、LED等の表示部35〜38が対応して設けられている。選択されている楽曲に対応して存在しているバリエーションオーディオファイルがある場合に、その存在しているものに対応する表示部35〜38のみが点灯される(図3では、ボタン37、38が点灯状態)。
【0039】
図4は、楽曲の選択・再生時にディスプレイ19(図1参照)に表示される楽曲演奏モード画面の表示例を示す図である。図5は、楽曲演奏モードにおいて本電子楽器及びオーディオプレイヤ18で並行して実行される処理のフローチャートである。以下、図4、図5を参照して、楽曲演奏モード時の動作を説明する。
【0040】
楽曲演奏を行うには、まず、本電子楽器にオーディオI/F15(図1参照)を介してオーディオプレイヤ18を接続する。本電子楽器では、図5のステップS101では、オーディオプレイヤ18が適切に接続されているかのチェックを実行する。例えば、所定の信号を送信して、それに対してオーディオプレイヤ18が応答信号を返信すると(ステップS201)、その応答信号が所定時間内に受信されたとき、接続済みであると確認する(ステップS102)。なお、接続チェックの手法は問わない。
【0041】
次に、曲リスト情報をオーディオプレイヤ18に要求すると(ステップS103)、それに応答して、オーディオプレイヤ18から曲リスト情報が送信される(ステップS202)。ここで、送信される曲リスト情報は、記憶されているすべての楽曲のファイル名と属性情報でなる。ステップS104では、受信した曲リスト情報を元に、表示用曲リストを作成する。
【0042】
ここでは、属性情報(図2参照)を参照して、アルバム単位、アーティスト単位、あるいは楽曲単位等の各種の属性によるリスト表示が可能なように表示用曲リストを作成する。また、同一楽曲に対応するすべてのオーディオファイル(オリジナルとバリエーションの両方を含む)をまとめると共に、これらまとめられたオーディオファイルを楽曲リスト表示の際に1つの楽曲として表示できるようにしておく。
【0043】
次に、第1操作子群2Aの操作によって、選曲、表示及び表示の更新を行う(ステップS105)。まず、最初は、図4の画面G101のように、どの属性によるリスト表示を行うかを選択するミュージック画面が表示される。ユーザは、この画面G101を見て、選択ボタン23、25(図3参照)を操作することで、選択対象を上下させて項目を選択することができる。
【0044】
そして、決定ボタン21を押下することで、そのとき選択されている項目に応じたリスト表示へと移行する。例えば、項目「アルバム」を選択して決定ボタン21を押下すると、アルバム単位でのリスト表示(図4の画面G102)となる。同様に、画面G102において、アルバム「AAAA」を選択、決定すると、当該アルバム「AAAA」中の楽曲単位での表示(図4の画面G103)へと移行する。
【0045】
画面G102、G103において、「戻る」の指示があれば、それぞれ、画面G101、G102に戻る。ここで、「戻る」の指示機能は、選択ボタン22に割り当てられているものとするが、これ以外の操作子に割りあててもよく、専用の操作子を設けてもよい。なお、画面G102、G103と同様に、後続の画面G104〜G106においても、項目の選択は選択ボタン23、25でなされ、「戻る」の機能は選択ボタン22が果たす。
【0046】
図4の画面G102において、選択状態にあるアルバム「AAAA」の右側には、当該アルバム中のいずれかの楽曲に少なくとも1つのバリエーションオーディオファイルが存在することを示すマーク39が表示される。
【0047】
図4の画面G103において、選択状態にある楽曲「dddd」の右側には、当該楽曲にバリエーションオーディオファイルが存在することを示すマーク40が表示される。マーク40には、「Ck」、「Tc」、「Td」、「Vc」が含まれ、これらは、それぞれ、付随部分「_KeyC」、「_TmpDn& KeyC」、「_TmpDn」、「_VoCncl」が付随しているバリエーションオーディオファイルが存在することを示している。従って、ユーザは、マーク40を見て、当該曲に対応して存在しているバリエーションオーディオファイルの存在及びその種類を知ることができる。なお、画面G102、G103において、選択状態にあるものだけでなく、すべてのアルバム、楽曲についてマーク39、40が表示されるようにしてもよい。
【0048】
図4の画面G103において、楽曲「dddd」を選択した状態で決定ボタン21を押下すると、まず、選択曲である楽曲「dddd」に対応するオリジナルオーディオファイルが、再生すべきオーディオファイルとして決定され、画面G104へと表示が移行する。それに伴って、図5のステップS106では、選択曲(楽曲「dddd」)に対応するオリジナルオーディオファイルを再生対象に選択するためのコマンドを、オーディオプレイヤ18に送信する。オーディオプレイヤ18では、そのコマンドに応じて、該当するオリジナルオーディオファイルを再生対象に選択して、待機状態となる(ステップS203)。
【0049】
前記ステップS106の処理後は、第2、第3操作子群2B、2C及び「戻る」指示の操作を受け付け(ステップS107、S109)、第2、第3操作子群2B、2Cの操作があれば、操作に応じた処理を実行して(ステップS108)、前記ステップS107に戻る。一方、「戻る」指示があれば、前記ステップS105に戻る。
【0050】
例えば、図4の画面G104において、再生ボタン28(図3参照)が操作された場合は(図5のステップS107)、再生開始指示コマンドがオーディオプレイヤ18に送られ(ステップS108)、オーディオプレイヤ18では、その時点で再生対象に選択されているオーディオファイルの再生を開始する(ステップS204)。すると、オーディオプレイヤ18から、再生によるオーディオ信号がオーディオI/F15を介してミキサ14に入力され、サウンドシステム17から楽音が発せられる。その際の表示は、図4の画面G107のようになり、「再生中」の文字表示、及び再生位置を示すインジケータが表示される。
【0051】
また、その際、再生に同期してユーザが練習等として演奏やボーカルの入力を行うと、それによるオーディオ信号もミキサ14に入力され、楽曲再生と合わさった楽音がサウンドシステム17から発せられる。
【0052】
なお、本電子楽器には、ボーカル入力用の不図示のマイクの音声をライン入力するための不図示のインターフェイスが備えられているものとする。画面G107において、停止ボタン27(図3参照)が操作されると(ステップS107)、再生停止のコマンドをオーディオプレイヤ18に送信し(ステップS108)、再生が停止され(ステップS204)、画面表示は画面G104に戻る。
【0053】
また、画面G104においては、バリエーションオーディオファイルが存在している場合には、再生対象をバリエーションオーディオファイルに切り替えることが可能である。例えば、画面G104において、テンポダウンボタン33(図3参照)が操作されると(ステップS107)、同じ楽曲で「_TmpDn」が付随しているバリエーションオーディオファイルを再生対象に選択するためのコマンドを、オーディオプレイヤ18に送信する(ステップS108)。オーディオプレイヤ18では、そのコマンドに応じて、該当するバリエーションオーディオファイルを再生対象に選択して、待機状態となる(ステップS204)。画面表示は、画面G105へと移行する。
【0054】
同様に、画面G104において、ボーカルキャンセルボタン34が操作されると、同じ楽曲で「_VoCncl」が付随しているバリエーションオーディオファイルが再生対象となって、画面表示は、画面G106へと移行する。C調ボタン31、テンポダウン&C調ボタン32が操作された場合も、図示はしないが、同様に処理される。
【0055】
ここで、画面G104〜G106は、再生対象のオーディオファイルが選択され決定された状態であり、どの種類のオーディオファイルが選択状態にあるのかを示すアレンジ表記が、「アレンジ」として表示される。例えば、「オリジナル」、「テンポダウン」等である。この表示は、文字でなくてもよく、画面G103で表示されるマーク40等の記号のようなものであってもよい。
【0056】
画面G105、G106において、再生ボタン28が操作されると、画面G104の場合と同様に、画面G108、G109へと移行する。そして、停止ボタン27で再生が停止されて、画面表示が復帰する。また、巻き戻しボタン26/早送りボタン29は、画面G107〜G109で操作されれば、それらに応じたコマンドがオーディオプレイヤ18に送信される。そして、操作の態様(押し続け/一押し)に応じて、再生中の曲の巻き戻し/早送りとなるか、または、当該曲/次の曲先頭に飛んで再生開始となる。一方、巻き戻しボタン26/早送りボタン29が画面G104〜G106で操作されると、前の曲/次の曲へと再生対象が変わる。
【0057】
また、画面G105、G106のように、バリエーションオーディオファイルが再生対象となっている状態で、現在の再生対象とは異なるバリエーションに対応するボタン31〜34のいずれかが操作されると、それに応じたバリエーションオーディオファイルが選択状態となって、画面表示も変わる。オリジナルボタン30が操作された場合は、オリジナルオーディオファイルが再び選択状態となって、画面表示も画面G104に移行する。ただし、存在しないバリエーションオーディオファイル(図3に示す表示部35〜38が消灯しているもの)が操作された場合は、オーディオファイルの選択変更はなされず、画面には、その旨(「変更できません」等)を一時的に表示させて、元の画面表示を維持する。
【0058】
また、画面G104〜G106において、「戻る」指示(選択ボタン22が操作)があったときは、画面表示は、画面G103に戻る(ステップS109、S105)。
【0059】
また、画面G107〜G109(再生中)において、ボタン30〜34が操作されると、それに応じたコマンドがオーディオプレイヤ18に送信される。その結果、再生が停止されると共に、操作されたボタンに応じて、選択状態となるオーディオファイルが変わり、新たに選択状態となったオーディオファイルが直ちに先頭から再生開始される(ステップS107、S108、S204)。なお、この場合に、新たに選択状態となったオーディオファイルの再生開始指示待ち状態となり、画面表示が画面G104〜G106等に変わるように構成してもよい。また、再生中のものと同一のオーディオファイルがボタン30〜34で選択された場合は、再生を継続し、何ら選択変更や画面更新等の処理を行わないように構成してもよい。
【0060】
なお、本実施の形態において、画面G107〜G109(再生中)において、ボタン30〜34が操作されたとき、新たに選択状態となったオーディオファイルが先頭から再生開始するのではなく、ボタン操作された時点に対応する再生位置から再生を開始するように構成してもよい。その場合は、次のように構成すればよい。
【0061】
すなわち、再生対象を変更するコマンドに加え、再生開始位置を指定するコマンドもオーディオプレイヤ18に送信する。この再生開始位置指定コマンドは、電子楽器側で、オーディオプレイヤ18から送られてくるオーディオ信号を受信しながら現在の再生位置(再生時間)を常時計測しておき、計測した時間を元に生成すればよい。その際の計測誤差や、オーディオプレイヤ18側でコマンドを受信してからの反応遅れ等によって、再生位置ずれや再生開始遅れが多少は生じ得る。しかし、その程度が大きくなければ、練習においてそれほど問題とはならない。
【0062】
本実施の形態によれば、楽曲が選択されている状態で、アレンジ指定操作子であるボタン31〜34を操作することで、当該楽曲に対応するバリエーションのオーディオファイルを、オーディオプレイヤ18に再生させ、電子楽器で楽音発生させることができる。ユーザは、自己のレベルや練習したい内容に応じて、ボタン31〜34を操作すれば、オリジナルとはアレンジの異なる演奏を容易に聴くことができる。特に、同一楽曲に対応するオーディオファイルは、楽曲選択の段階(図4の画面G103)では、1つの楽曲として表示されるので、ユーザは、同一楽曲に対応するバリエーションオーディオファイルの存在を意識することなく、所望のバリエーションの再生を行わせることができる。従って、ユーザにとっては、あたかも、リアルタイムで特定パートを差し引いての再生あるいはテンポや調が変換されての再生がなされているかのように認識される。
【0063】
その一方、実際には、バリエーションのオーディオファイルは、電子的な変換処理を経たものではなく、事前にオリジナルと同等の品質が維持されたものであるから、音質劣化が生じることがない。しかも、圧縮データであるオーディオファイルの再生自体は、オーディオプレイヤ18に任せるので、電子楽器内にデコード機能や再生機能を持たなくてもよく、構成を簡単にして低コストな仕様にすることも容易である。
【0064】
よって、低コストで、音質劣化を伴うことなく、各楽曲に対応する所望のバリエーションの楽音発生を行うことができる。
【0065】
また、仮に、オリジナルオーディオファイルとバリエーションオーディオファイルのすべてが対等にリスト表示される構成とした場合は、雑然としてわかりにくく、所望のバリエーションオーディオファイルを探しにくい。しかし、本実施の形態では、楽曲を選択してからバリエーションを指定する方式であるので、バリエーションの指定が容易である。
【0066】
なお、本実施の形態では、楽曲のオーディオファイルは、電子楽器に接続したオーディオプレイヤ18に記憶され、再生もオーディオプレイヤ18で行ったが、これに限るものではない。例えば、再生機能を備えない記憶媒体(例えば、外部記憶装置10)を接続すると共に、電子楽器内に再生機能(デコード機能も含む)を備え、接続した記憶媒体からオーディオファイルを読み取って、電子楽器内で再生を行うようにしてもよい。
【0067】
あるいは、電子楽器内の記憶装置(例えば、ROM6あるいは別途設ける内蔵の記憶媒体)に、楽曲のオーディオファイルを記憶し、再生機能(デコード機能も含む)も備え、電子楽器内で、上記した図5の処理に相当する選曲や再生等すべての処理が完結するように構成してもよい。その場合でも、楽曲選択の段階では、上記と同様に、同一楽曲に対応するオーディオファイルについては、1つの楽曲として表示させる。
【0068】
また、電子楽器内で再生を行うようにする場合の楽曲コンテンツの提供方法としては、例えば、電子楽器のROM6に予め記憶させておくことが考えられる。あるいは、楽曲を記憶した外部記憶媒体を電子楽器に同梱することも考えられる。この他、音楽CDやインターネット経由で販売し、外部記憶装置10や不図示の内蔵記憶媒体にユーザが保存させる、等の方法が考えられる。
【0069】
なお、表示部35〜38(図3参照)、マーク39、40(図4参照)、アレンジ表記(図4参照)は、必須ではない。むしろ、これらを設けない場合は、バリエーションオーディオファイルの存在がユーザからは全く視認できないため、再生時に、ユーザにとっては一層、あたかも自動的にバリエーションのアレンジにリアルタイム変換されているかのように見えることになる。
【0070】
なお、第1〜第3操作子群2A〜2Cの各操作子は、物理的な操作子に限られず、画面表示されたタッチパネル方式で操作されるスイッチであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電子楽器の全体構成を示すブロック図である。
【図2】オーディオプレイヤの記憶装置に記憶されるオーディオファイルデータのデータ構成を示す概念図である。
【図3】設定操作子の一部を構成する楽曲再生に係わる操作子群を示す図である。
【図4】楽曲の選択・再生時にディスプレイに表示される楽曲演奏モード画面の表示例を示す図である。
【図5】楽曲演奏モードにおいて本電子楽器及びオーディオプレイヤで並行して実行される処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
2A 第1操作子群(楽曲選択手段)、 5 CPU(再生指示コマンド送信手段、特定手段)、 6 ROM(オーディオファイル記憶手段)、 18 オーディオプレイヤ、 18a 記憶装置、 15 オーディオI/F(再生指示コマンド送信手段、リスト受信手段)、 17 サウンドシステム(楽音発生手段、再生手段)、 19 ディスプレイ(表示手段)、 28 再生ボタン(再生指示操作子)、 31〜34 ボタン(バリエーション指定操作子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一楽曲についてオリジナルのオーディオファイルと該オリジナルのオーディオファイルに対してバリエーションの関係にあるバリエーションのオーディオファイルとを記憶したオーディオプレイヤを接続可能な電子楽器であって、
前記オーディオプレイヤに記憶されている複数の楽曲から所望の楽曲を選択する楽曲選択手段と、
前記楽曲選択手段により楽曲が選択されている状態で操作されることで、当該楽曲に対応するバリエーションのオーディオファイルを、再生用オーディオファイルとして指定するバリエーション指定操作子と、
再生指示操作子と、
前記再生指示操作子の操作に応じて、前記バリエーション指定操作子により前記再生用オーディオファイルとして指定されたオーディオファイルの再生を指示するコマンドを前記オーディオプレイヤに対して送信する再生指示コマンド送信手段と、
前記オーディオプレイヤで再生されたオーディオ信号を受信してそれに応じた楽音を発生させる楽音発生手段とを有することを特徴とする電子楽器。
【請求項2】
前記オーディオプレイヤから、記憶されている楽曲のオーディオファイルのリストを受信するリスト受信手段と、前記リスト受信手段により受信されたオーディオファイルのリストから、同一楽曲にそれぞれ対応しているオリジナルのオーディオファイル及びバリエーションのオーディオファイルを特定する特定手段と、同一楽曲に対応していることが特定された全オーディオファイルを1つの楽曲として表示する表示手段とを有し、前記楽曲選択手段は、前記表示手段に表示された楽曲からいずれかを選択することを特徴とする請求項1記載の電子楽器。
【請求項3】
同一楽曲についてオリジナルのオーディオファイルと該オリジナルのオーディオファイルに対してバリエーションの関係にあるバリエーションのオーディオファイルとを記憶するオーディオファイル記憶手段と、
前記オーディオファイル記憶手段に記憶されている複数の楽曲から所望の楽曲を選択する楽曲選択手段と、
前記楽曲選択手段により楽曲が選択されている状態で操作されることで、当該楽曲に対応するバリエーションのオーディオファイルを、再生用オーディオファイルとして指定するバリエーション指定操作子と、
前記バリエーション指定操作子により前記再生用オーディオファイルとして指定されたオーディオファイルの再生を指示する再生指示操作子と、
前記再生指示操作子により再生指示されたオーディオファイルを再生する再生手段とを有することを特徴とする電子楽器。
【請求項4】
前記オーディオファイル記憶手段に記憶されている楽曲のオーディオファイルから、同一楽曲にそれぞれ対応しているオリジナルのオーディオファイル及びバリエーションのオーディオファイルを特定する特定手段と、同一楽曲に対応していることが特定された全オーディオファイルを1つの楽曲として表示する表示手段とを有し、前記楽曲選択手段は、前記表示手段に表示された楽曲からいずれかを選択することを特徴とする請求項3記載の電子楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−176219(P2008−176219A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11686(P2007−11686)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】