説明

電子線架橋性エラストマー組成物および成形体の製造方法

【課題】 電子線照射による架橋が可能であり、電子線照射で架橋されることにより、耐熱性および柔軟性のバランスが優れるほか、優れた熱収縮性を有する成形物を与える組成物を提供する。
【解決手段】 芳香族ビニル単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロック、および共役ジエン単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックを有する特定のブロック共重合体の水素添加物であり、重量平均分子量が15〜50万であるブロック重合体Aを100重量部、40℃における動粘度が50〜1000cStである軟化剤Bを10〜250重量部、および密度が880〜940kg/mであるエチレン重合体Cを20〜200重量部含有する電子線架橋性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線架橋性エラストマー組成物に関するものである。本発明の組成物は、特定のブロック重合体、エチレン重合体および軟化剤を特定の割合で含有する。本発明の組成物または組成物を使用して得られる成形体を電子線照射して得られる架橋物は、耐熱性および柔軟性のバランスが優れるほか、優れた熱収縮性を有する。
【背景技術】
【0002】
本発明と類似の電子線架橋性エラストマー組成物はいくつか知られている(特許文献1〜3)。また、これらの特許文献には、組成物を架橋させて得られる成形体は電線被覆の用途に使用できることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−105040号公報
【特許文献2】特開2007−045928号公報
【特許文献3】特開昭58−145751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献等に開示されている組成物を使用して得られる成形体は、耐熱性、柔軟性および熱収縮性のすべてを十分に満足するものではなかった。本発明は、電子線照射による架橋が可能であり、電子線照射で架橋されることにより、耐熱性および柔軟性のバランスが優れるほか、優れた熱収縮性を有する成形体を与える組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、形状回復(形状記憶)機能を有する成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の電子線架橋性エラストマー組成物は、芳香族ビニル単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを2個以上、および共役ジエン単量体単位を主要構成単位として含有し該共役ジエン単量体単位における1,4−結合の割合が40%以上である重合体ブロックYを1個以上有するブロック共重合体Zの水素添加物であり、重量平均分子量が15〜50万であるブロック重合体Aを100重量部、40℃における動粘度が50〜1000cStである軟化剤Bを10〜250重量部、および密度が880〜940kg/mであるエチレン重合体Cを20〜200重量部含有する組成物である。
請求項2に記載の発明の電子線架橋性エラストマー組成物は、請求項1に記載の組成物において、重合体ブロックXを構成する芳香族ビニル単量体単位はスチレン単位であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明の電子線架橋性エラストマー組成物は、請求項2に記載の組成物において、ブロック重合体Aは、ブロック重合体Aの全構成単量体単位を基準とするスチレン単位の割合が20〜40重量%であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の電子線架橋性エラストマー組成物は、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物において、エチレン重合体Cは低密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする。
請求項5に記載の発明の電子線架橋性エラストマー組成物は、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物において、架橋助剤Dをも含有することを特徴とする。
請求項6に記載の発明の電子線架橋性エラストマー組成物は、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物において、難燃剤Eをも含有することを特徴とする。
請求項7に記載の発明の電子線架橋された成形体の製造方法は、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形して成形体Fを得る工程1、および成形体Fに電子線を照射して電子線架橋された成形体Gを得る工程2を備えることを特徴とする。
請求項8に記載の発明の形状回復機能を有する成形体の製造方法は、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形して成形体Fを得る工程1、成形体Fに電子線を照射して電子線架橋された成形体Gを得る工程2、および成形体Gを加熱して変形された状態で冷却されて変形が維持された成形体Hを得る工程3を備えることを特徴とする。
請求項9に記載の発明の一旦変形され次いで形状が回復された成形体の製造方法は、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形して成形体Fを得る工程1、成形体Fに電子線を照射して電子線架橋された成形体Gを得る工程2、成形体Gを加熱して変形された状態で冷却されて変形が維持された成形体Hを得る工程3、および成形体Hを加熱して変形された形状が回復された成形体Jを得る工程4を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の組成物は、電子線照射による架橋が可能であり、電子線照射で架橋されることにより、耐熱性および柔軟性のバランスが優れるほか、優れた熱収縮性を有する成形体が得られた。また、本発明の組成物を使用して製造される電子線架橋成形体は、形状回復(形状記憶)機能を発現した。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において、数値範囲が「下限数値〜上限数値」で示される場合、下限数値以上上限数値以下であることを意味する。
分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCともいう。)により測定された。重量平均分子量のことをMwともいう。
まず、本発明の組成物について、必須成分であるブロック重合体A、軟化剤B、およびエチレン重合体C、ならびに任意成分の順に説明する。
【0008】
ブロック重合体Aは、組成物を電子線架橋させて得られる成形体の柔軟性および熱収縮性を良好とするために重要な成分である。
ブロック重合体Aは、芳香族ビニル単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを2個以上、および共役ジエン単量体単位を主要構成単位として含有し該共役ジエン単量体単位における1,4−結合の割合が40%以上である重合体ブロックYを1個以上有するブロック共重合体Zの水素添加物であり、重量平均分子量が15〜50万であるブロック重合体である。
【0009】
重合体ブロックXは、芳香族ビニル単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックである。重合体ブロックXを構成する芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの2種類以上が併用されてもよい。入手が容易であるスチレンは芳香族ビニル単量体として好ましいものである。
【0010】
重合体ブロックXは、本発明の組成物が性能を損なわない範囲で芳香族ビニル単量体単位以外のビニル単量体単位を含有してもよい。重合体ブロックXを構成する全単量体単位のうち、芳香族ビニル単量体単位の割合は80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましい。芳香族ビニル単量体単位の割合が少ないと、組成物を電子線架橋させて得られる成形体の耐熱性が損なわれる場合がある。
【0011】
重合体ブロックYは、共役ジエン単量体単位を主要構成単位として含有する。
共役ジエン単量体としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルー1,3−ブタジエン等が挙げられる。これらの2種類以上が併用されてもよい。ブタジエンおよびイソプレンは、得られる重合体が弾性の優れた(伸び率およびモジュラスが大きい)ものとなりやすく、その結果得られる組成物を電子線架橋させて得られる成形体が柔軟性および熱収縮性の優れたものになるため、共役ジエン単量体として好ましいものである。
【0012】
重合体ブロックYは、本発明の組成物が性能を損なわない範囲で共役ジエン単量体単位以外のビニル単量体単位を含有してもよい。重合体ブロックYを構成する全単量体単位のうち、共役ジエン単量体単位の割合は70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。共役ジエン単量体単位の割合が70重量%以上であると、組成物の柔軟性および熱収縮性が特に良好となる。
【0013】
重合体ブロックYは、共役ジエン単量体単位における1,4−結合の割合が40重量%以上のものである必要があり、50重量%以上のものが好ましく、60重量%以上のものがより好ましい。1,4−結合の割合が40重量%以上であると、組成物が電子線照射された際の架橋が良好になされる。また、1,4−結合の割合が40重量%以上であると、組成物を電子線架橋させて得られる成形体の熱収縮性および耐熱性が良好となる。逆に1,4−結合の割合が少なすぎる(いわゆるハイビニル)と電子線照射により分解しやすくなる。
1,4−結合の割合は98重量%以下であるものが好ましく、95重量%以下であるものがより好ましく、90重量%以下であるものがさらに好ましい。1,4−結合の割合が98重量%以下であると組成物を電子線架橋させて得られる成形体の柔軟性が特に良好となる。
【0014】
ブロック重合体Aは、上記重合体ブロックXを2個以上、上記重合体ブロックYを1個以上有するブロック重合体Zが水素添加されたものである。重合体ブロックXを1個だけ有するブロック重合体は、得られる組成物を電子線架橋させて得られる成形体の耐熱性を不十分なものとする。
ブロック重合体Zとして、重合体ブロックXを2個、重合体ブロックYを1個有するものは、得られる組成物を電子線架橋させて得られる成形体の耐熱性、伸び率を良好とするほか、入手しやすいため好ましいものである。
【0015】
ブロック重合体Zは、構成重合体ブロックとして重合体ブロックXを10〜60重量%有するものが好ましく、20〜50重量%有するものがより好ましい。重合体ブロックXの割合が少なすぎると組成物を電子線架橋させて得られる成形体が耐熱性の不十分なものとなる場合があり、重合体ブロックXの割合が多すぎると組成物が柔軟性の不十分なものとなる場合がある。
【0016】
ブロック重合体Aは、ブロック重合体Zを公知の方法により水素添加し、重合体ブロックYが有する(共役ジエン単量体に由来する)不飽和結合を飽和結合に転化させたものである。水素添加された割合は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。水素添加がされていないか不十分であると得られる組成物が耐熱性の不十分なものとなる。
ブロック重合体Aは、全構成単量体単位を基準としてスチレン単位を20〜40重量%有するものが好ましい。スチレン単位の割合が少なすぎると組成物を電子線架橋させて得られる成形体が耐熱性の不十分なものとなる場合があり、スチレン単位の割合が多すぎると組成物を電子線架橋させて得られる成形体が柔軟性または伸びの不十分なものとなる場合がある。
ブロック重合体AのMwは15〜50万であり、17〜40万であることが好ましい。Mwが15万未満であると組成物を電子線架橋させて得られる成形体が熱収縮性および耐熱性の不十分なものとなりやすく、Mwが50万を超えると組成物が成形性の不十分なものとなりやすい。
ブロック重合体Aは2種類以上が併用されてもよい。
【0017】
軟化剤Bは、得られる組成物を電子線架橋させて得られる成形体に柔軟性および伸びを付与する成分であり、また、加熱溶融された組成物に流動性を付与する成分である。また特定の割合で配合されることにより組成物を電子線架橋性の優れたものにする成分である。
【0018】
軟化剤Bとしては、通常熱可塑性エラストマー組成物に添加されるオイル状の化合物が使用できる。軟化剤Bとしては、パラフィンオイル、ナフテンオイル、芳香族オイル等の鉱物油が挙げられるほか、常温(20℃)で液体である低重合度のビニル重合体(オレフィン重合体、ジエン化合物重合体、アクリル重合体等)も使用できる。パラフィンオイルは軟化剤Bとして好ましいものである。
【0019】
軟化剤Bは、40℃における動粘度が50〜1000cStであるものが好ましく、50〜500cStであるものがより好ましい。動粘度が50cSt未満であると組成物を電子線架橋させて得られる成形体が耐熱性の不十分なものとなりやすく、1000cStを超えると組成物が成形性の不十分なものとなりやすい。軟化剤Bは2種類以上が併用されてもよい。
【0020】
エチレン重合体Cは、組成物の成形性および電子線架橋性を良好とするために重要な成分である。
エチレン重合体Cは、密度が880〜940kg/mのエチレン重合体であり、890〜940kg/mのものが好ましい。密度が大きすぎると得られる成形体の熱収縮性が悪くなり、密度が小さすぎると得られる成形体の耐熱性が悪くなる。
LDPE(低密度ポリエチレン、密度910〜920kg/m)およびLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン、密度890〜940kg/m)は、組成物の電子線架橋性が良好であり、得られる成形体の熱収縮性および耐熱性が良好となるため、好ましいものである。LLDPEは耐熱性の面で特に好ましいものである。
VLDPE(超低密度ポリエチレン、密度880〜910kg/m)も使用できる。
【0021】
エチレン重合体Cは、エチレンの単独重合体であってもよく、組成物および成形体の性能を損なわない範囲の割合でエチレン以外のラジカル重合性単量体が共重合された重合体であってもよい。エチレン以外のラジカル重合性単量体の割合は40重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。エチレン重合体Cはエチレンの単独重合体であることが最も好ましい。エチレン重合体Cは2種類以上が併用されてもよい。
【0022】
本発明の組成物は、上記ブロック重合体Aを100重量部、軟化剤Bを10〜250重量部(好ましくは20〜200重量部、より好ましくは50〜150重量部)、およびエチレン重合体Cを20〜200重量部(好ましくは30〜180重量部、より好ましくは50〜150重量部)含有する組成物である。
軟化剤Bの割合が少なすぎると組成物が成形性の不十分なものとなり、多すぎると成形体が耐熱性および熱収縮性の不十分なものとなるほか、オイルがブリード(成形体の表面に移行)しやすい。
エチレン重合体Cが少なすぎると組成物が成形性の不十分なものとなり、多すぎると成形体が熱収縮性の不十分なものとなる。
ブロック重合体Aが含まれないかまたは他の2成分との相対的割合が少なすぎる場合は、得られる成形体が耐熱性および熱収縮性の不十分なものとなるほか、エラストマーとしての基本的性質(柔軟性、強度、弾性(変形後の回復力)、モジュラス(変形のしにくさ)を備えないものとなる。ブロック重合体Aが他の2成分との相対的割合が多すぎる場合は、得られる組成物が成形性の不十分なものとなる。
【0023】
本発明の組成物は、上記成分の他に、架橋助剤Dが配合されたものであってもよい。架橋助剤Dは、組成物の電子線架橋性を特に優れたものにする。架橋助剤Dが配合された組成物は、電子線架橋させて得られる成形体の強度、伸びおよび熱収縮性が改善される。架橋助剤Dとしては2官能以上のラジカル重合性単量体が好ましく、3官能のラジカル重合性単量体がより好ましい。該単量体が有するラジカル重合性官能基としては、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、その他のビニル基などが挙げられる。
【0024】
架橋助剤Dが配合される場合の配合割合は、ブロック重合体Aの100重量部を基準として、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。架橋助剤Dの割合が多すぎると得られる成形体が柔軟性の不十分なものとなる場合がある。
架橋助剤Dが配合される場合の配合割合の下限は特にないが、上記効果を十分に発揮させるためには0.1重量部以上が好ましく、0.3重量部以上がより好ましく、0.5重量部以上がさらに好ましい。
架橋助剤Dは2種類以上が併用されてもよい。
【0025】
本発明の組成物は、上記成分の他に、難燃剤Eが配合されたものであってもよい。難燃剤Eは、組成物および成形体に優れた難燃性を付与する。無機化合物からなる難燃剤は、成形体の耐熱性向上効果も奏するため好ましいものである。難燃剤Eとしては、金属水酸化物、リン酸塩化合物、ほう酸塩化合物、赤リン、モリブデン化合物、スズ化合物、金属酸化物、メラニン化合物、ハロゲン系化合物、シリコーン化合物などが挙げられる。
【0026】
難燃剤Eが配合される場合の配合割合は、ブロック重合体Aの100重量部を基準として、1000重量部以下が好ましく、700重量部以下がより好ましく、500重量部以下がさらに好ましい。難燃剤Eの割合が多すぎると組成物の成形性が不十分なものとなる場合がある。
難燃剤Eが配合される場合の配合割合の下限は特にないが、上記効果を十分に発揮させるためには5重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましく、50重量部以上がさらに好ましい。
難燃剤Eは2種類以上が併用されてもよい。
【0027】
本発明の組成物は、上記成分以外の添加剤(以下、その他の添加剤という。)が配合されたものであってもよい。その他の添加剤としては、ブロック重合体Aおよびエチレン重合体C以外の熱可塑性樹脂(以下、その他の熱可塑性樹脂という。)、充填剤、滑剤、ブロッキング防止剤等、および酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤等に代表される主成分の変質、分解等を抑制するための添加剤等が挙げられる。
その他の添加剤が配合される場合の配合割合は、組成物および成形体の性能を損なわない範囲で適宜決められる。
【0028】
その他の熱可塑性樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、アクリル重合体等が挙げられる。これらの重合体が配合されることにより、組成物の電子線架橋性をさらに向上させることもできる。その他の熱可塑性樹脂が配合される場合の配合割合は、ブロック重合体Aの100重量部を基準として、200重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましく、50重量部以下がさらに好ましい。その他の熱可塑性樹脂の割合が多すぎると成形体の熱収縮性が不十分なものとなる場合がある。
その他の熱可塑性樹脂が配合される場合の配合割合の下限は特にないが、上記効果を十分に発揮させるためには1重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましく、5重量部以上がさらに好ましい。
【0029】
本発明の組成物は、電子線架橋性(電子線が照射されることにより成分の一部が架橋する性質)を有する。電子線架橋されることにより、得られる成形体は、耐熱性および柔軟性のバランスが優れるほか、優れた熱収縮性を有するものとなる。
【0030】
本発明の組成物は、所定割合の上記成分を公知の手段により混合および/または混練させて得られる。
混合には、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等を使用することができる。
混練には、押出機、ミキシングロール、ニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダープラストグラフ等を使用することができる。
例えば、粉末状又はペレット状の固体主原料(成分A、C)を混合機で攪拌、混合(ドライブレンド)し、次いで液状主原料(成分B)を添加して攪拌、混合し(成分A、Cに成分Bを含浸させ)、必要に応じてその他の原料を添加して攪拌、混合することによって配合粉を得る。得られた配合粉を押出機で混練してペレット化するという方法は好ましい組成物の調製方法である。
上記手順において、「その他の原料」も固体主原料(成分A、C)と合わせて最初から添加する方法が採用されてもよい。
【0031】
次に、成形体の製造方法について説明する。
本発明の成形体の製造方法は、上記組成物を成形して成形体Fを得る工程1、および成形体Fに電子線を照射して電子線架橋された成形体Gを得る工程2を備える。
【0032】
成形体Fを得る工程1は、組成物を成形して目的の形状にする工程である。組成物の成形は、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機等の公知の成形機を使用して行うことができる。
【0033】
電子線架橋された成形体Gを得る工程2は、上記成形体Fに電子線を照射して架橋させる工程である。電子線の照射は、公知の電子線照射装置を使用して行うことができる。
電子線照射の条件は成形体の形状により異なるが、以下に標準的な条件を例示する。
加速電圧:0.1〜10MeV
照射量:1〜1000kGy
【0034】
適切な条件において電子線架橋された成形体Gは、耐熱性および柔軟性のバランスが優れるほか、優れた熱収縮性を有する
電子線照射量が少なすぎると、得られる成形体Gは耐熱性や熱収縮性が不十分なものとなる場合がある。電子線照射量が多すぎると、得られる成形体Gは柔軟性が不十分となるほか、熱収縮性もかえって悪くなる場合がある。
【0035】
変形が維持された成形体Hを得る工程3は、上記電子線架橋された成形体Gを加熱して変形させ、変形された状態のまま冷却する工程である。このようにして得られた成形体Hは、形状回復機能(再び加熱されると変形前の成形体Gの形状に戻ろうとする機能)を有する。
工程3において変形させる際の加熱温度は、エチレン重合体Cの融点または軟化点より好ましくは10〜100℃、より好ましくは20〜70℃、代表的には30℃程度高い温度を採用することができる。
【0036】
変形を維持させる際の冷却温度も成形体Gの構成に依存する。変形が有効に維持される温度が選択される。エチレン重合体Cの融点または軟化点より好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上低い温度を冷却温度として採用することができる。室温での冷却や水による冷却は実用的な冷却手段である。
工程3において変形させる際の加熱温度と変形を維持させる際の冷却温度との温度差は、20〜250℃が好ましく、30〜200℃がより好ましく、40〜180℃が更に好ましい。温度差が小さすぎると変形の維持が不十分となる場合があり、温度差が大きすぎると不経済である。
【0037】
変形された形状が回復された成形体Jを得る工程4は、上記変形が維持された成形体Hを再び加熱して、変形の全部または一部を解消させる工程である。すなわち、本発明において「変形された形状が回復」とは、変形の100%が解消して変形前と同一の形状に復元されるケースおよび変形の一部(好ましくは80%以上、より好ましくは82%以上、さらに好ましくは84%以上、特に好ましくは86%以上)が解消して変形前と近い形状に復元されるケースを含む。通常回復割合が100%を超えることはない。
【0038】
工程4において成形体Hを再び加熱して、変形の全部または一部を解消させる際の加熱温度は、例えば成形体Gを変形させる際の加熱温度付近の温度を採用することができる。
【実施例】
【0039】
(原料)
使用された原料は以下のとおりである。
1.ブロック重合体Aおよび比較用重合体A’
・ブロック重合体A1:G1651(クレイトン製水添ブロック共重合体SEBS、スチレン単位含有割合:33%、Mw:25万、共役ジエン単位における1,4−結合の割合:63%)
・ブロック重合体A2:セプトン4055(株式会社クラレ製水添ブロック共重合体SEEPS、スチレン単位含有割合:30%、Mw:24万)
・比較用重合体A’1:G1650(クレイトン製水添ブロック共重合体SEBS、スチレン単位含有割合:29%、Mw:11万、共役ジエン単位における1,4−結合の割合:63%)
・比較用重合体A’2:G1641(クレイトン製水添ブロック共重合体SEBS、スチレン単位含有割合:32%、Mw:21万、共役ジエン単位における1,4−結合の割合:33%)
・比較用重合体A’3:セプトン4033(株式会社クラレ製水添ブロック共重合体SEEPS、スチレン単位含有割合:30%、Mw:10万)
【0040】
GPCによる重量平均分子量Mwの測定条件は以下のとおりである。
・カラム種類:Shodex KF-806M × 2本
・カラム温度:40℃
・溶離液種類:THF
・溶離液流量:1.0mL/min
・検出器:RI(示差屈折計)
・試料濃度:0.2%
【0041】
2.軟化剤Bおよび比較用軟化剤B’
・軟化剤B1:PW−90(出光興産製パラフィンオイル、40℃における動粘度:84cSt)
・軟化剤B2:PW−380(出光興産製パラフィンオイル、40℃における動粘度:383cSt)
・軟化剤B’1:ハイコールK−290(カネダ製パラフィンオイル、40℃における動粘度:32cSt)
【0042】
3.エチレン重合体Cおよび比較用重合体C’
・エチレン重合体C1:NUCG5651(日本ユニカー製LLDPE、密度:920kg/m
・エチレン重合体C2:ペトロセン360(東ソー製LDPE、密度:919kg/m
・比較用重合体C’1:ニポロンハードHD−1000(東ソー製HDPE(高密度ポリエチレン)、密度:964kg/m
・比較用重合体C’2:エンゲージ8100(デュポンダウエラストマーズ製エチレン・オクテン共重合体、密度:870kg/m
・比較用重合体C’3:PM600A(サンアロマー製ポリプロピレン)
【0043】
4.架橋助剤D
・架橋助剤D1:TAIC(日本化成製トリアリルイソシアヌレート)
・架橋助剤D2:NKエステルTMPT(新中村化学工業製トリメチロールプロパントリメタクリレート)
5.難燃剤E
・難燃剤E1:FP2200(ADEKA製リン酸塩系難燃剤)
【0044】
(組成物の調製)
上記原料を使用して、本発明の組成物および比較用組成物を製造した。配合割合(重量部)は表1(実施例)および表2(比較例)のとおりである。
固体状原料(軟化剤Bおよび比較用軟化剤B’以外の成分)を混合(ドライブレンド)して固体原料混合物を調製し、該混合物に液状原料(軟化剤Bまたは比較用軟化剤B’)を添加して混合、含浸させて原料混合物を調製した。該原料混合物を下記の条件で押出機で溶融混練して、組成物のペレットを調製した。
・押出機:株式会社テクノベル製 KZW32TW−60MG−NH
・シリンダー温度:160〜220℃(この範囲で組成物毎に適切な温度を採用)
・スクリュー回転数:300rpm
【0045】
(工程1)
組成物のペレットを下記の条件で射出成形して、長さ125mm、幅125mm、厚さ2mmのプレート(成形体Fおよび比較用成形体F’)を作成した。
・射出成形機:三菱重工株式会社製 100MSIII−10E
・成形温度:170℃
・射出圧力:30%(成形機の最大能力の30%、実際の圧力は約600kgf/cm
・射出時間:10秒
・金型温度:40℃
【0046】
(工程2)
工程1で作成したプレートに下記の条件で電子線を照射して、架橋成形体Gおよび比較用架橋成形体G’を作成した。
加速電圧:2.0MeV
照射量:200kGy
その他:上記照射条件にて両面から各1回照射
【0047】
(工程3)
工程2で作成した架橋成形体を、JIS K6251に規定されたダンベル状3号形(標線間距離20mm、平行部分の幅5mm)の試験片に加工した。
工程3においては、恒温槽を備えた引張試験機(インストロン社製万能材料試験機恒温槽付万能材料試験機)を使用して、試験片の加熱、変形および冷却を行った。
引張試験機に試験片をセットし、下記の条件で加熱して変形させたうえ、変形した状態のまま冷却して、変形が維持された成形体(以下、変形成形体ともいう。)すなわち変形成形体Hおよび比較用変形成形体H’を作成した。
(工程3−1)加熱
引張試験機に試験片をセットし、引張試験機に設置された恒温槽により下記の条件で加熱した。
加熱温度:150℃
加熱時間:15分間
(工程3−2)変形
工程3−1で加熱された試験片を150℃に維持したまま、標線間距離が2倍(20mmから40mm)になるまで引っ張り、延伸させた。
(工程3−3)冷却
工程3−2で延伸された試験片を、変形(延伸)が維持された状態(標線間距離が40mmのまま)で下記の条件で冷却した。冷却が完了後に試験片を引張試験機から取り外し、変形成形体Hおよび比較用変形成形体H’を得た。
冷却温度:室温(20〜25℃)
冷却時間:15分間
【0048】
(工程4)
工程3で作成した変形成形体を下記の条件で加熱して、形状が回復された成形体(以下、回復成形体ともいう。)すなわち回復成形体Jおよび比較用回復成形体J’を作成した。回復成形体についてダンベル状3号形の標線に由来する標線間距離d(mm)を測定した。
加熱装置:ギヤー老化試験機
加熱温度:150℃
加熱時間:15分間
【0049】
(評価)
上記の成形体について以下の評価を行った。
(柔軟性)
電子線照射後の架橋成形体Gおよび比較用架橋成形体G’の硬さ(JIS K6253に準拠したA硬さ)を測定した。測定は温度23℃、湿度50%の室内で1日状態調節の後実施した。好ましいA硬さは90以下である。
(引張強さ)
以下の3通りの引張強さ(JIS K6251に準拠した引張強さ(単位:MPa))を測定した。測定は温度23℃、湿度50%の室内で1日状態調節の後実施した。
・電子線照射前の成形体Fおよび比較用成形体F’をダンベル状3号形にしたもの(引張強さa)。
・電子線照射された架橋成形体Gおよび比較用架橋成形体G’をダンベル状3号形にしたもの(引張強さb)。
・架橋成形体Gおよび比較用架橋成形体G’を158℃において7日間静置(耐熱老化)後、室温に冷却してダンベル状3号形にしたもの(引張強さc)。
(伸び)
以下の3通りの伸び(JIS K6251に準拠した切断時伸び(%))を測定した。測定は温度23℃、湿度50%の室内で1日状態調節の後実施した。
・電子線照射前の成形体Fおよび比較用成形体F’をダンベル状3号形にしたもの(伸びa)。
・電子線照射された架橋成形体Gおよび比較用架橋成形体G’をダンベル状3号形にしたもの(伸びb)。
・架橋成形体Gおよび比較用架橋成形体G’を158℃において7日間静置(耐熱老化)後、室温に冷却してダンベル状3号形にしたもの(伸びc)。
【0050】
(電子線照射前後の引張強さおよび伸びの保持率)
以下のように電子線照射前後の引張強さおよび伸びの保持率を算出した。好ましい電子線照射前後の引張強さおよび伸びの保持率は100%以上である。
・電子線照射前後の引張強さの保持率(EB照射引張強さ保持率(%))=(引張強さb)/(引張強さa)×100
・電子線照射前後の伸びの保持率(EB照射伸び保持率(%))=(伸びb)/(伸びa)×100
(耐熱性(耐熱老化前後の引張強さおよび伸びの保持率))
以下のように耐熱老化前後の引張強さおよび伸びの保持率を算出して耐熱性(耐熱老化性)の指標とした。好ましい耐熱老化前後の引張強さおよび伸びの保持率は100%以上である。
・耐熱老化前後の引張強さの保持率(耐熱老化引張強さ保持率(%))=(引張強さc)/(引張強さb)×100
・耐熱老化前後の伸びの保持率(耐熱老化伸び保持率(%))=(伸びc)/(伸びb)×100
【0051】
(熱収縮性)
以下のように変形成形体の熱収縮性(形状回復性、形状記憶性)を算出した。好ましい熱収縮性は80%以上である。82%以上がより好ましく、84%以上がさらに好ましく、86%以上が特に好ましい。
・(熱収縮性(%))=((40−(回復成形体についてダンベル状3号形の標線に由来する標線間距離d))/20×100
【0052】
上記評価結果を表1(実施例)および表2(比較例)に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
比較例1および3は、ブロック重合体Aに替えて重量平均分子量が小さい比較用重合体が使用された組成物に関するものであり、熱収縮性が極めて悪く、引張強さの保持率や耐熱性(耐熱老化)もやや悪いものであった。
比較例2は、ブロック重合体Aに替えて共役ジエン単量体単位における1,4−結合の割合が小さい(すなわち1,2−結合の割合が大きいハイビニル)比較用重合体が使用された組成物に関するものであり、熱収縮性が極めて悪く、引張強さの保持率もやや悪いものであった。
比較例4は、軟化剤Bに替えて動粘度が小さい比較用軟化剤が使用された組成物に関するものであり、耐熱性(耐熱老化)が悪いものであった。
比較例5は、軟化剤Bを使用しない組成物に関するものであり、成形性が悪く、成形体を得ることができなかった。
比較例6は、軟化剤Bの使用割合が多すぎる組成物に関するものであり、耐熱性(耐熱老化)が悪いものであった。
比較例7は、エチレン重合体Cに替えて密度が小さい比較用重合体が使用された組成物に関するものであり、耐熱性(耐熱老化)が悪いものであった。
比較例8は、エチレン重合体Cに替えて密度が大きい比較用重合体が使用された組成物に関するものであり、耐熱性(耐熱老化)が悪いほか、熱収縮性もやや悪いものであった。
比較例9は、エチレン重合体Cを使用しない組成物に関するものであり、成形性が悪く、成形体を得ることができなかった。
比較例10は、エチレン重合体Cの使用割合が多すぎる組成物に関するものであり、熱収縮性が悪いものであった。
比較例11は、エチレン重合体Cに替えてポリプロピレンからなる比較用重合体が使用された組成物に関するものであり、熱収縮性が極めて悪く、引張強さの保持率や耐熱性(耐熱老化)も悪いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の組成物は、電子線照射による架橋が可能であり、電子線照射で架橋されることにより、耐熱性および柔軟性のバランスが優れるほか、優れた熱収縮性を有する成形体を与えた。本発明の組成物を使用して製造される電子線架橋成形体は、形状回復(形状記憶)機能を発現し、形状回復機能が要求される用途に有用である。本発明の組成物を電子線架橋させて得られる成形体は、例えば電線被覆の用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを2個以上、および共役ジエン単量体単位を主要構成単位として含有し該共役ジエン単量体単位における1,4−結合の割合が40%以上である重合体ブロックYを1個以上有するブロック共重合体Zの水素添加物であり、重量平均分子量が15〜50万であるブロック重合体Aを100重量部、
40℃における動粘度が50〜1000cStである軟化剤Bを10〜250重量部、および
密度が880〜940kg/mであるエチレン重合体Cを20〜200重量部
含有する電子線架橋性エラストマー組成物。
【請求項2】
重合体ブロックXを構成する芳香族ビニル単量体単位はスチレン単位である、請求項1に記載の電子線架橋性エラストマー組成物。
【請求項3】
ブロック重合体Aは、ブロック重合体Aの全構成単量体単位を基準とするスチレン単位の割合が20〜40重量%である、請求項2に記載の電子線架橋性エラストマー組成物。
【請求項4】
エチレン重合体Cは低密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレンである、請求項1〜3のいずれかに記載の電子線架橋性エラストマー組成物。
【請求項5】
架橋助剤Dをも含有する請求項1〜4のいずれかに記載の電子線架橋性エラストマー組成物。
【請求項6】
難燃剤Eをも含有する請求項1〜5のいずれかに記載の電子線架橋性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形して成形体Fを得る工程1、および成形体Fに電子線を照射して電子線架橋された成形体Gを得る工程2を備える、電子線架橋された成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形して成形体Fを得る工程1、成形体Fに電子線を照射して電子線架橋された成形体Gを得る工程2、および成形体Gを加熱して変形された状態で冷却されて変形が維持された成形体Hを得る工程3を備える、形状回復機能を有する成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形して成形体Fを得る工程1、成形体Fに電子線を照射して電子線架橋された成形体Gを得る工程2、成形体Gを加熱して変形された状態で冷却されて変形が維持された成形体Hを得る工程3、および成形体Hを加熱して変形された形状が回復された成形体Jを得る工程4を備える、一旦変形され次いで形状が回復された成形体の製造方法。

【公開番号】特開2010−189603(P2010−189603A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38011(P2009−38011)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】