説明

電子線源装置および電子線励起型光源装置

【課題】 電子線を均一に安定して放射することのできる電子線源装置および高い発光効率の得られる電子線励起型光源装置を提供すること。
【解決手段】 この電子線源装置は、カーボンナノチューブにより構成された面状の電子線放出部を有するカソード電極と、電子線放出部と離間して対向するよう設けられた、電子線通過用開口を有する電子引き出し電極とを備えてなり、カソード電極と電子引き出し電極との間の位置において、電子線放出部から放出される電子線を電子引き出し電極における電子線通過用開口に向かって指向させる電子線レギュレータが電子線放出部と離間して対向するよう配置されている。電子線励起型光源装置は、上記の電子線源装置と、この電子線源装置から放射された電子線によって励起される半導体発光素子とが真空容器の内部に配置されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線源装置および当該電子線源装置からの電子線を半導体発光素子に放射することにより当該半導体発光素子を発光させる電子線励起型光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線を放射することによって半導体発光素子を発光させる電子線励起型光源装置は、小型で出力の高い紫外線を放射する光源として期待されており、例えば特許文献1には、電子線源に対向するよう配置された半導体発光素子を電子線励起し、電子励起された半導体発光素子の面と異なる面からレーザ光を放射する紫外線光源が提案されている。
【0003】
このような電子線励起型光源装置においては、電子線を半導体発光素子に均一に安定して放射することが必要とされている。このような要請に対して、例えば特許文献2には、多数のカーボンナノチューブからなる面状の電子放射層が形成された電子線源と、この電子線源における電子放射層と離間して対向するよう配置されたグリッド電極とを備えてなり、電子放射層における電子線が放射される面上に、グリッド電極と略同形状の金属材料よりなるマスキング層がグリッド電極に位置合わせされて設けられた構成の電子線励起型光源装置が提案されている。この電子線励起型光源装置によれば、マスキング層によってグリッド電極への電子衝突が低減されるため、グリッド電極が加熱されることによってたわみ等が生ずることを回避することができ、電子線を安定して放射することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3667188号公報
【特許文献2】特許第4538591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の電子線励起型光源装置においては、当該電子線励起型光源装置の作製工程における、マスキング層を電子放射層の電子線が放射される表面上に位置合わせして配置する工程において、電子放射層の電子線放出面が擦過されて損傷してしまうことがある。このように、電子放射層の電子放出面を形成するカーボンナノチューブの表面が損傷すると、電子線放射が不均一となって電子線の放射分布にバラツキが発生し、電子線を効率的に半導体発光素子に放射することが困難となるため、半導体発光素子の発光効率が低下して出力の高い光を放射することができない、という問題がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、電子線を均一に安定して放射することのできる電子線源装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、高い発光効率の得られる電子線励起型光源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電子線源装置は、カーボンナノチューブにより構成された面状の電子線放出部を有するカソード電極と、前記電子線放出部と離間して対向するよう設けられた、電子線通過用開口を有する電子引き出し電極とを備えてなり、
前記カソード電極と前記電子引き出し電極との間の位置において、前記電子線放出部から放出される電子線を前記電子引き出し電極における電子線通過用開口に向かって指向させる電子線レギュレータが前記電子線放出部と離間して対向するよう配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の電子線源装置においては、前記電子線放出部における電子線が放出される電子線放出面の面方向外方に向かう電子線を遮蔽するシールド部材が前記カソード電極の周囲に設けられており、
当該シールド部材には、前記電子線放出部の前記電子線放出面の周縁に沿ってフランジ部が形成されており、前記電子線レギュレータが当該フランジ部によって保持されることにより、当該電子線レギュレータと前記電子線放出部との離間距離の大きさが調整された状態とされていることが好ましい。
【0009】
また、本発明の電子線源装置においては、前記電子線レギュレータは、前記カソード電極と同電位に維持された構成とされることが好ましい。
【0010】
さらにまた、本発明の電子線源装置においては、前記電子線レギュレータは、前記グリッド電極における電子線通過用開口と対向する位置に電子線通過用開口が形成されたものであることが好ましい。
【0011】
本発明の電子線励起型光源装置は、上記の電子線源装置と、この電子線源装置から放射された電子線によって励起される半導体発光素子とが真空容器の内部に配置されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子線源装置によれば、基本的には、電子線レギュレータの作用によって、グリッド電極への電子衝突が抑制されるので、当該グリッド電極が変形することを抑制することができ、しかも、電子線レギュレータがカーボンナノチューブにより構成された電子放出部と離間して配置されているので、当該電子線源装置の作製工程において、電子線レギュレータと電子引き出し電極とを適正な位置関係で配置するに際して、電子線放出部が損傷されることを回避することができる。従って、電子線を均一な放射分布で安定して放射することができる。
そして、このような電子線源装置を具えた電子線励起型光源装置によれば、半導体発光素子に高い効率で電子線を入射することができるので、半導体発光素子に所期の発光効率を得ることができて出力の高い光を放射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電子線励起型光源装置の一例における構成の概略を示す説明図であり、(A)は側面断面図、(B)は、光透過窓を取り外した状態を示す平面図である。
【図2】図1に示す電子線励起型光源装置における半導体発光素子の構成の概略を示す説明用断面図である。
【図3】図1に示す電子線励起型光源装置における電子線源装置の構成の概略を示す、図1(B)におけるA−A線端面図である。
【図4】本発明の電子線源装置の作製工程の一例を概略的に示す説明用断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の電子線励起型光源装置の一例における構成の概略を示す説明図であり、(A)は側面断面図、(B)は、光透過窓を取り外した状態を示す平面図である。なお、図1(B)においては、便宜上、電子線源装置にハッチングが付してある。
この電子線励起型光源装置は、内部が負圧の状態で密閉された外形が直方体状の真空容器10を有し、この真空容器10は、一面(図1(A)において上面)に開口を有する容器基体11と、この容器基体11の開口に配置されて当該容器基体11に気密に封着された光透過窓15とによって構成されている。
【0015】
真空容器10内には、半導体発光素子20が、その表面(図1(A)において上面)20aが光透過窓15と離間して対向するよう配置され、この半導体発光素子20の周辺領域、具体的には、半導体発光素子20の表面上の領域および裏面上の領域以外の当該半導体発光素子20に近接した領域には、面状の電子線放出部32が形成されてなる電子線源装置30が、当該半導体発光素子20を取り囲むよう配置されている。具体的には、電子線源装置30は円環状の帯状体として構成されており、電子線放出部32における電子線が放射される表面が半導体発光素子20における光が出射される表面20aと同方向を向いた姿勢すなわち真空容器10の光透過窓15を向いた姿勢で、半導体発光素子20を取り囲むよう配置され、この状態で、支持部材49を介して真空容器10における容器基体11の底壁に固定されている。半導体発光素子20および電子線源装置30は、真空容器10の内部から外部に引き出された導電線(図1(A)において二点鎖線で示す。)を介して、真空容器10の外部に設けられた、加速電圧を印加するための電子加速手段55に、半導体発光素子20が正極、電子線源装置30が負極となるよう電気的に接続されている。また、半導体発光素子20は、その裏面20bに設けられた高熱伝導部材16を介して、真空容器10における容器基体11の底壁に固定されている。
【0016】
そして、半導体発光素子20に対して電子線源装置30より外方の位置には、電子線源装置30から放射された電子線の軌道を半導体発光素子20における光が放射される表面20aに向かって指向させる電界制御用電極50が配置されている。具体的には、電界制御用電極50は、電子線源装置30の外径より大きい内径を有する胴部51と、この胴部51に連続して形成された、先端(図1(A)において上端)に向かって小径となるテーパ部52とよりなる円筒体により構成されている。この電界制御用電極50は、電子線源装置30の外周を取り囲むよう配置されており、当該電界制御用電極50の基端が、真空容器10における容器基体11の底壁に固定されている。電子線源装置30および電界制御用電極50は、真空容器10の内部から外部に引き出された導電線(図1(A)において二点鎖線で示す。)を介して、真空容器10の外部に設けられた電界制御用電源57に、電子線源装置30が正極、電界制御用電極50が負極となるよう電気的に接続されている。
【0017】
真空容器10における容器基体11を構成する材料としては、石英ガラス等のガラス、アルミナ等のセラミックスなどの絶縁物を用いることができる。
また、真空容器10における光透過窓15を構成する材料としては、半導体発光素子20からの光を透過し得るものが用いられ、例えば石英ガラス、サファイアなどを用いることができる。
また、真空容器10の内部の圧力は、例えば10-4〜10-6Paである。
真空容器10の寸法の一例を挙げると、容器基体11の外形の寸法が40mm×40mm×20mm、容器基体11の肉厚が2mm、容器基体11の開口が36mm×36mmで、光透過窓15の寸法が40mm×40mm×2mmである。
【0018】
高熱伝導部材16を構成する材料としては、銅などの熱伝導性の高い金属やダイヤモンドなどを用いることができる。
【0019】
半導体発光素子20は、図2に示すように、例えばサファイアよりなる基板21と、この基板21の一面上に形成された例えばAlNよりなるバッファ層22と、このバッファ層22の一面上に形成された、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造を有する活性層25とにより構成されている。
この例における半導体発光素子20は、活性層25が真空容器10における光透過窓15に対向した状態で、基板21が高熱伝導部材16にロウ付け等で接合されている。
基板21の厚みは、例えば10〜1000μmであり、バッファ層22の厚みは、例えば100〜1000nmである。
また、半導体発光素子20における活性層25と電子線源装置30との離間距離は、例えば5〜15mmである。
また、半導体発光素子20における光が出射される表面20aと光透過窓15の内面との距離は、例えば3〜25mmである。
【0020】
活性層25は、それぞれInx Aly Ga1-x-y N(0≦x<1,0<y≦1,x+y≦1)からなる単一量子井戸構造または多重量子井戸構造であり、単一または複数の量子井戸層26と単一または複数の障壁層27とが、バッファ層22上にこの順で交互に積層されて構成されている。
量子井戸層26の各々の厚みは、例えば0.5〜50nmである。また、障壁層27はその禁制帯幅が量子井戸層26のそれよりも大きくなるように組成を選択され、一例としては、AlNを用いればよく、各々の厚みは量子井戸層26の井戸幅より大きく設定され、具体的には、例えば1〜100nmである。
活性層25を構成する量子井戸層26の周期は、量子井戸層26、障壁層27および活性層25全体の厚みや、用いられる電子線の加速電圧などを考慮して適宜設定されるが、通常、1〜100である。
【0021】
上記の半導体発光素子20は、例えばMOCVD法(有機金属気相成長法)によって形成することができる。具体的には、水素および窒素からなるキャリアガスと、トリメチルアルミニウムおよびアンモニアからなる原料ガスとを用い、サファイアよりなる基板21の(0001)面上に気相成長させることにより、所要の厚みを有するAlNからなるバッファ層22を形成した後、水素ガスおよび窒素ガスからなるキャリアガスと、トリメチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムおよびアンモニアからなる原料ガスとを用い、バッファ層22上に気相成長させることにより、所要の厚みを有するInx Aly Ga1-x-y N(0≦x<1,0<y≦1,x+y≦1)からなる単一量子井戸構造または多重量子井戸構造を有する活性層25を形成し、以て、半導体発光素子20を形成することができる。
【0022】
上記のバッファ層22、量子井戸層26および障壁層27の各形成工程において、処理温度、処理圧力および各層の成長速度などの条件は、形成すべきバッファ層22、量子井戸層26および障壁層27の組成や厚み等に応じて適宜に設定することができる。
また、InAlGaNよりなる量子井戸層26を形成する場合には、原料ガスとして、上記のものに加えてトリメチルインジウムを用い、処理温度をAlGaNよりなる量子井戸層26を形成する場合よりも低く設定すればよい。
また、半導体多層膜の形成方法は、MOCVD法に限定されるものではなく、例えばMBE法(分子線エピタキシー法)なども用いることができる。
【0023】
電界制御用電極50を構成する材料としては、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム、銀、銅、チタン、ジルコニウムのいずれかを含む金属材料などを用いることができる。
電界制御用電極50の寸法の一例を示すと、胴部51の内径が34mm、軸方向の長さが12mm、テーパ部52の先端における内径が28mm、軸方向の長さが3mm、胴部51に対するテーパ部52の傾きは例えば45°、電界制御用電極50を構成する円筒体の肉厚が0.3mmである。
【0024】
電子線源装置30は、図3に示すように、電子線放出層31aが円環板状のカソード基板31bの全周面に形成されてなるカソード電極31を備えており、このカソード電極31は、例えばアルミナなどのセラミックスよりなる円環板状のベース35の一面上に設けられた円環板状のベースフレーム36によって支持されている。
電子線放出層31aは、多数のカーボンナノチューブがカソード基板31bの表面に形成されている。
【0025】
この電子線源装置30においては、半導体発光素子20に対してカソード電極31の内側および外側には、各々、略円筒体よりなる、カソード電極31の面方向外方へ向かう電子線を遮蔽するシールド部材40A,40Bがベース35に固定されて設けられている。 シールド部材40Aには、調整された厚みの外方フランジ部401がカソード電極31における電子線放出面32aの周縁に沿って延びるよう形成されており、また、シールド部材40Bには、調整された厚みの内方フランジ部402がカソード電極31における電子線放出面32aの周縁に沿って内方に延びるよう形成されており、この外方フランジ部401および内方フランジ部402の各々の内面とベースフレーム36とによってカソード電極31が保持固定されている。そして、カソード電極31における電子線放出層31aの、外方フランジ部401および内方フランジ部402間の開口を介して露出される部分(図3において上面)によって面状の電子線放出部32が形成されている。
【0026】
カソード電極31における電子線放出部32の上方には、電子線放出部32から電子線を放出するための電子引き出し電極(グリッド電極)46が当該電子線放出部32の電子線放出面32aと離間して対向するよう配置されており、この電子引き出し電極46は、ベース35の一面上におけるシールド部材40Aの内方位置およびシールド部材40Bの外方位置にそれぞれ固定されたベースフレーム39によって支持された電子引き出し電極保持部材47とフランジ部48aを有する円筒体よりなるキャップ部材48におけるフランジ部48aの内面とによって保持固定されている。
電子引き出し電極46は、板状の基材に複数の電子線通過用開口46aが所定のパターンに従って形成されて構成されており、具体的には例えば、横断面が正六角形の電子線通過用開口46aが隔壁を介してハニカム状に並ぶよう形成されてなるものを用いることができる。
カソード電極31および電子引き出し電極46は、真空容器10の内部から外部に引き出された導電線(図1(A)において二点鎖線で示す。)を介して、真空容器10の外部に設けられた電子線放出用電源56に、電子引き出し電極46が正極、カソード電極31が負極となるよう電気的に接続されている。
【0027】
カソード電極31と電子引き出し電極46との間の位置には、電子線放出部32から放出される電子線を電子引き出し電極46における電子線通過用開口46aに向かって指向させる電子線レギュレータ45が、カソード電極31の電子線放出部32における電子線放出面32aと離間して対向するよう配置されている。
電子線レギュレータ45は、板状の基材に、電子引き出し電極46における電子線通過用開口46aと同一形状の電子線通過用開口45aが電子引き出し電極46における電子線通過用開口46aの開口パターンに対応して形成されて構成されている。この電子線レギュレータ45は、電子線通過用開口45aが電子引き出し電極46における電子線通過用開口46aに位置合わせされた状態で、シールド部材40Aにおける外方フランジ部401およびシールド部材40Bにおける内方フランジ部402の上面に保持固定されており、これにより、電子線レギュレータ45の下面とカソード電極31の電子線放出部32における電子線放出面32aとの間の離間距離(ギャップ)が調整された状態とされている。ここに、電子線レギュレータ45の下面とカソード電極31の電子線放出部32における電子線放出面32aとの間の離間距離は、例えば20〜100μmであり、電子線レギュレータ45の上面と電子引き出し電極46の下面との間の離間距離は例えば100〜500μmである。
電子線レギュレータ45は、カソード電極31と同電位に維持される。
【0028】
以上において、カソード電極31におけるカソード基板31b、シールド部材40A,40B、ベースフレーム36,39、電子引き出し電極46、電子引き出し電極保持部材47、電子線レギュレータ45およびキャップ部材48を構成する材料としては、例えば426合金(42%ニッケル−6%クロム−52%鉄合金)、476合金(47%ニッケル−6%クロム−47%鉄合金)、鉄ニッケル合金(50%ニッケル−50%鉄合金)などの低線膨張係数の金属材料などを用いることができる。
【0029】
電子線源装置30の寸法の一例を挙げると、カソード基板31aの外径が25mm、内径が19mm、厚みが0.1mm、電子線放出部32の外径が24mm、内径が20mm、厚みが0.02mm、電子線放出部32における電子線が放射される電子線放出面32aの面積が138mm2 、シールド部材40A,40Bにおける外方フランジ部401,内方フランジ部402の厚みが0.075mm、電子線レギュレータ45の厚みが0.075mm、電子引き出し電極46の下面と電子放出部32における電子放出面32aとの間の離間距離が0.5mm、電子引き出し電極46の厚みが0.075mm、電子線レギュレータ45における電子線通過用開口45aおよび電子引き出し電極46における電子線通過用開口46aの開口径が1.0mmである。
【0030】
上記の電子線源装置30は、次のようにして作製することができる。
先ず、カソード電極支持用のベースフレーム36およびグリッド電極保持部材支持用のベースフレーム39をベース35の一面上における所定の位置に例えばガラスフリットで固着しておき、図4(A)に示すように、電子線放出層31aが板状のカソード基板31bの全周に形成されてなるカソード電極31をベースフレーム36の一面上に配置した状態で、外方フランジ部401を有するシールド部材40Aおよび内方フランジ部402を有するシールド部材40Bを、ベースフレーム39の一面上に例えばレーザ溶接により固定することにより、カソード電極31をシールド部材40Aの外方フランジ部401およびシールド部材40Bの内方フランジ部402とベースフレーム36とによって保持固定する。ここに、カソード基板31bにカーボンナノチューブよりなる電子線放出層31aを形成する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば表面に金属触媒層が形成されたカソード基板31bを加熱し、COやアセチレン等のカーボンソースガスを供給することにより、カソード基板31bの表面に形成された金属触媒層上にカーボンを堆積してカーボンナノチューブを形成する熱CVD法、アーク放電法等によって形成されたカーボンナノチューブの粉体および有機バインダーが液状媒体中に含有されてなるペーストを調製し、このペーストをスクリーン印刷によってカソード基板31bの表面に塗布して乾燥するスクリーン印刷法などを好適に用いることができる。
次いで、図4(B)に示すように、シールド部材40A,40Bにおける外方フランジ部401および内方フランジ部402の上面に、所定のパターンに従って電子線通過用開口45aが形成された電子線レギュレータ45を例えば溶接により固定すると共に、図4(C)に示すように、電子引き出し電極保持部材47をベースフレーム39の一面上に例えば溶接により固定する。
そして、図4(D)に示すように、電子線レギュレータ45の電子線通過用開口45aの開口パターンに対応して電子線通過用開口46aが形成された電子引き出し電極46をキャップ部材48におけるフランジ部48aの内面に例えば溶接により固定しておき、図4(E)に示すように、電子引き出し電極46における電子線通過用開口46aを電子線レギュレータ45における電子線規制用開口45aに対して位置合わせした状態で、電子引き出し電極46を電子引き出し電極保持部材47に例えば溶接により固定し、以って、電子線源装置30を作製することができる。
【0031】
上記の電子線励起型光源装置においては、電子線源装置30におけるカソード電極31と電子引き出し電極46との間に電圧が印加されると、当該カソード電極31における電子線放出部32から電子が放出され、この電子は、カソード電極31と同電位に維持された電子線レギュレータ45と電子引き出し電極46との間に形成される電界の作用によって電子引き出し電極46の電子線通過用開口46aに向かって指向され、グリッド電極46の電子線通過用開口46aを通過した電子は、半導体発光素子20とカソード電極31との間に印加された加速電圧によって、半導体発光素子20に向かって加速される。この電子線の軌道は、加速電圧および電界制御用電源57によって電子線源30と電界制御用電極50との間に印加される電圧によって、半導体発光素子20における光が放射される表面20aに向かって指向され、その結果、当該電子線は、半導体発光素子20の表面20aすなわち活性層25の表面に入射される。
そして、半導体発光素子20においては、電子線が入射されることによって活性層25の電子が励起され、これにより、当該半導体発光素子20における電子線が入射された表面20aから紫外線などの光が放射され、真空容器10における光透過窓15を介して当該真空容器10の外部に出射される。
【0032】
以上において、電子線放出用電源56によってカソード電極31と電子引き出し電極46との間に印加される電圧は、例えば1〜5kVである。
また、電子加速手段55によって印加される電子線の加速電圧は、6〜12kVであることが好ましい。加速電圧が過小である場合には、高い光の出力を得ることが困難となる。一方、加速電圧が過大である場合には、半導体発光素子20からX線が発生しやすくなり、また、電子線のエネルギーにより、半導体発光素子20がダメージを受けやすくなるため、好ましくない。
また、電界制御用電源57によってカソード電極31と電界制御用電極50との間に印加される電圧は、例えば−2〜2kVである。
【0033】
上記の電子線源装置30によれば、基本的には、電子線レギュレータ45の作用によって、電子引き出し電極46への電子衝突が抑制されるので、当該電子引き出し電極46が変形することを抑制することができ、しかも、電子線レギュレータ45がカーボンナノチューブにより構成された電子線放出部32と離間して配置されているので、当該電子線源装置30の作製工程において、電子線レギュレータ45と電子引き出し電極46とを適正な位置関係で配置するに際して、電子線放出部32が例えば擦過されて損傷されることを回避することができる。従って、電子線を均一な放射分布で安定して放射することができる。
そして、このような電子線源装置30を具えた電子線励起型光源装置によれば、半導体発光素子20に高い効率で電子線を入射することができるので、半導体発光素子20に所期の発光効率を得ることができて出力の高い光を放射することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
本発明の電子線源装置は、電子線を半導体発光素子に放射することにより当該半導体発光素子を発光させる電子線励起型光源装置における電子線源としてだけでなく、例えば、電子源から放出された電子を蛍光体に衝突させて発光させる蛍光表示管などの電子管よりなる蛍光表示装置などにおける電子線源としても好適に用いることができる。
また、電子線源装置は、面状の電子線放出部を有するものであれば、その具体的な形状は特に限定されない。
【0035】
また、本発明の電子線励起型光源装置においては、電子線源装置の配置位置は、半導体発光素子の周辺であって、当該半導体発光素子の光出射面に電子線を入射することができる位置であれば、特に限定されない。
また、電界制御用電極においては、テーパ部を形成することは必須のことではなく、例えば軸方向において外径および内径の各々が一様な円筒状のものであってもよい。
また、電界制御電極は、半導体発光素子に対して電子線源装置より内方の位置に配置されていてもよく、この場合には、電子線源装置に対して正となる電圧が印加される。但し、半導体発光素子に対して電子線を高い効率で入射することができる点で、電界制御電極は、半導体発光素子に対して電子線源より外方の位置に配置されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0036】
10 真空容器
11 容器基体
15 光透過窓
16 高熱伝導部材
20 半導体発光素子
20a 表面
20b 裏面
21 基板
22 バッファ層
25 活性層
26 量子井戸層
27 障壁層
30 電子線源装置
31 カソード電極
31a 電子線放出層
31b カソード基板
32 電子線放出部
32a 電子線放出面
35 ベース
36 ベースフレーム
39 ベースフレーム
40A,40B シールド部材
401 外方フランジ部
402 内方フランジ部
45 電子線レギュレータ
45a 電子線通過用開口
46 電子引き出し電極(グリッド電極)
46a 電子線通過用開口
47 電子引き出し電極保持部材
48 キャップ部材
48a フランジ部
49 支持部材
50 電界制御用電極
51 胴部
52 テーパ部
55 電子加速手段
56 電子線放出用電源
57 電界制御用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブにより構成された面状の電子線放出部を有するカソード電極と、前記電子線放出部と離間して対向するよう設けられた、電子線通過用開口を有する電子引き出し電極とを備えてなり、
前記カソード電極と前記電子引き出し電極との間の位置において、前記電子線放出部から放出される電子線を前記電子引き出し電極における電子線通過用開口に向かって指向させる電子線レギュレータが前記電子線放出部と離間して対向するよう配置されていることを特徴とする電子線源装置。
【請求項2】
前記電子線放出部における電子線が放出される電子線放出面の面方向外方に向かう電子線を遮蔽するシールド部材が前記カソード電極の周囲に設けられており、
当該シールド部材には、前記電子線放出部の前記電子線放出面の周縁に沿ってフランジ部が形成されており、前記電子線レギュレータが当該フランジ部によって保持されることにより、当該電子線レギュレータと前記電子線放出部との離間距離の大きさが調整された状態とされていることを特徴とする請求項1に記載の電子線源装置。
【請求項3】
前記電子線レギュレータは、前記カソード電極と同電位に維持されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子線源装置。
【請求項4】
前記電子線レギュレータは、前記グリッド電極における電子線通過用開口と対向する位置に電子線通過用開口が形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電子線源装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電子線源装置と、この電子線源装置から放射された電子線によって励起される半導体発光素子とが真空容器の内部に配置されてなることを特徴とする電子線励起型光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−195144(P2012−195144A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57886(P2011−57886)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】