説明

電子線装置及びこれを用いた画像表示装置

【課題】簡易な構成で電子放出効率が高く、安定して動作し、放出された電子ビームが良好に集束する電子放出素子を備えた電子線装置を提供する。
【解決手段】基板1上に、絶縁部材3、ゲート5を形成し、絶縁部材3に凹部7を形成し、絶縁部材3の側面にカソード6を配置し、ゲート5を、該カソード6に対応する領域が突出し、該領域の両側のゲート端部が後退した後退部9を有する凹凸形状に形成し、該後退部9に露出した絶縁部材3表面を、少なくとも絶縁層3a表面まで後退させ、該表面に制御電極13を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイに用いられる、電子を放出する電子放出素子を備えた電子線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、カソードから出た電子の多数が対向するゲートに衝突、散乱した後に電子として取り出される電子放出素子が存在する。このような形態で電子を放出する素子として表面伝導型電子放出素子や積層型の電子放出素子が知られており、特許文献1には電子放出部のギャップが5nm以下である、高効率電子放出素子の提案がなされている。また、特許文献2には積層型の電子放出素子が開示されており、高効率な電子放出を可能とする条件がゲート材料の厚さ、駆動電圧、絶縁層厚さの関数で与えられている。さらに、特許文献3には、積層型の電子放出素子であって、電子放出部近傍の絶縁層に凹部(リセス部)を設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−251643号公報
【特許文献2】特開2001−229809号公報
【特許文献3】特開2001−167693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された素子においては、形成されたギャップ内に複数の電子放出点が存在し、これにより、電子放出部での放電等が抑制され、長時間安定な電子放出素子を提供できるとしている。しかしながら、電子放出部での放電は抑制できても、電子放出点の各点からの電子放出量が素子を駆動する駆動時間とともに増減するという課題は十分に解決されていない。また、ギャップ内の電子放出点の数が、電子放出素子の駆動時間とともにその数が増減するという現象も生じていた。
【0005】
また特許文献2の素子においても、前記と同様な現象は見つかっており、より安定な電子放出素子が望まれていた。
【0006】
さらに特許文献3の素子においては、電子放出効率は良いが、特性については、更なる向上が求められていた。
【0007】
本発明の目的は、簡易な構成で電子放出効率が高く、安定して動作し、放出された電子ビームが良好に集束する電子放出素子を備えた電子線装置及び該電子線装置を用いた画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1は、表面に凹部を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の表面に位置するゲートと、
前記凹部の縁から前記ゲートに向かって突起する突起部分を有し、該突起部分が前記ゲートと対向するように前記絶縁部材の表面に位置する少なくとも1個のカソードと、
前記ゲートを介在させて前記突起部分と対向配置されたアノードとを有し、
前記ゲートが、カソードと対向する領域が突出し、該突出した領域を挟んだ領域のゲート端部が後退した後退部を有するように前記絶縁部材の表面に形成され、
上記後退部を介して前記アノードに対向する絶縁部材の表面が少なくとも凹部のカソード側の縁に達するまで後退し、且つ該後退部を介してアノードに対向する領域に制御電極が配置され、
カソードとゲートとの間に印加される電圧をVf[V]、制御電極とカソードとの間に印加される電圧をVc[V]、アノードとカソードとの間に印加される電圧をVa[V]、絶縁部材のゲートが配置された側とは反対側の面からアノードまでの距離をh[m]、ゲートの突出した領域の幅をT5[m]とした時、
T5<5×(Vf/Va)×(h/π)
Vf≧Vc
であることを特徴とする電子線装置である。
【0009】
本発明第1の電子線装置においては、前記カソードを2個以上有し、ゲートが絶縁部材表面に櫛歯状に形成されている構成を好ましい態様として含む。
【0010】
本発明の第2は、表面に凹部を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の表面に位置するゲートと、
前記凹部の縁から前記ゲートに向かって突起する突起部分を有し、該突起部分が前記ゲートと対向するように前記絶縁部材の表面に位置するカソードと、
前記ゲートを介在させて前記突起部分と対向配置されたアノードとを有し、
前記絶縁部材のゲートを配置した側の表面が、該ゲートの周囲において、少なくとも凹部のカソード側の縁に達するまで後退した後退部を有しており、
前記後退部の表面に制御電極が配置され、
カソードとゲートとの間に印加される電圧をVf[V]、制御電極とカソードとの間に印加される電圧をVc[V]、アノードとカソードとの間に印加される電圧をVa[V]、絶縁部材のゲートが配置された側とは反対側の面からアノードまでの距離をh[m]、ゲートのカソードと対向する領域の幅をT5[m]、アノードに対向するゲート表面において、ゲートがカソードと対向する側の端辺に直交する方向のゲートの長さをT5x[m]とした時、
T5<5×(Vf/Va)×(h/π)
T5x<5×(Vf/Va)×(h/π)
Vf≧Vc
であることを特徴とする電子線装置である。
【0011】
本発明第2の電子線装置においては、前記カソードと該カソードと対向するゲートとを2組以上有する構成を好ましく含む。
【0012】
本発明の第3は、上記本発明第1又は第2の電子線装置と、前記アノードの外側に位置する発光部材とを有することを特徴とする画像表示装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ゲートの周囲に制御電極を設けて電界を制御したことにより、放出された電子ビームを良好に集束することができる。よって、該電子放出素子を用いて、高品質の画像表示が可能な画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】本発明の第1の電子線装置の電子放出素子の一実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
【図1B】図1Aの電子放出素子の平面模式図である。
【図1C】図1Bの電子放出素子の断面模式図である。
【図1D】図1Bの電子放出素子の断面模式図である。
【図2A】本発明の電子線装置の電子放出素子の別の実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2B】図2Aの電子放出素子の断面模式図である。
【図3A】ゲートに後退部を設けず、制御電極を持たない構成における電子軌道図である。
【図3B】図1BのC−C’断面での電子軌道図である。
【図4】本発明における後退部の後退距離T8と電子ビームのサイズとの関係を示す図である。
【図5】ゲートの突出領域の幅T5と電子ビームのサイズとの関係を示す図である。
【図6A】本発明に係る電子放出素子の製造工程を示す図である。
【図6B】本発明に係る電子放出素子の製造工程を示す図である。
【図7】本発明の電子線装置の電子放出特性を測定する構成を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例において作製した比較例の素子の構成を模式的に示す斜視図である。
【図9】図3Bのゲートの端部付近の部分拡大図である。
【図10A】本発明の第2の電子線装置の電子放出素子の一実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
【図10B】図10Aの電子放出素子の平面図である。
【図10C】図10Bの電子放出素子の断面模式図である。
【図10D】図10Bの電子放出素子の断面模式図である。
【図11A】本発明の画像表示装置の電子源の一例の構成を模式的に示す平面図である。
【図11B】本発明の画像表示装置の一例の表示パネルの構成を模式的に示す斜視図である。
【図11C】本発明の画像表示装置に用いられる蛍光膜の構成を模式的に示す平面図である。
【図11D】図11Aに示した電子源を用いて構成した表示パネルに、NTSC方式のテレビ信号に基づいたテレビジョン表示を行うための駆動回路の構成例を示す模式図である。
【図12A】本発明の電子装置におけるVa,Vfと電子ビームのサイズとの関係を示す図である。
【図12B】図12Aで示される関係をT5=100μmで規格化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但し、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
〔構成の概要〕
本発明の電子線装置は、電子を放出する電子放出素子と、該電子放出素子から放出された電子が到達するアノードとを備えている。
【0017】
図1A乃至図1Dは本発明の第1の電子線装置の好ましい実施形態の電子放出素子の構成を示す模式図であり、図1Aは斜視図、図1Bは平面図、図1Cは図1BにおけるA−A’断面図、図1Dは図1BにおけるB−B’断面図である。
【0018】
図1A乃至図1D中、1は基板、2は電極、3は絶縁部材であって、絶縁層3aと3bの積層体からなる。5はゲート、6はカソードであって電極2に電気的に接続されている。5aはゲート5の側面であり、5bは凹部7に露出したゲート5の底面である。7は絶縁部材3の凹部であって、本例では絶縁層3bの側面のみを絶縁層3aの側面よりも内側に凹ませて形成している。8は電子放出に必要な電界が形成される間隙(カソード6の先端からゲート5の底面5bまでの最短距離)である。
【0019】
本発明に係る電子放出素子においては、図1A乃至図1Dに示すように、ゲート5が絶縁部材3の表面(本例では上面)に形成されている。一方、カソード6も絶縁部材3の表面(本例では側面)に形成され、凹部7を挟んでゲート5に対向する側に凹部7の縁からゲート5に向かって突起する突起部分を有している。よって、カソード6は該突起部分において、間隙8を介してゲート5と対向している。尚、本発明においては、カソード6はゲート5よりも低電位に規定される。また、図1乃至図1Dでは不図示であるが、ゲート5を介して(介在させて)カソード6と対向する位置には、これらよりも高電位に規定されたアノードを有している。尚、本発明の電子線装置を用いた画像表示装置においては、アノードの外側(電子放出素子が位置する側とは反対側)に発光部材が配置される。
【0020】
本発明においては、カソード6は1素子内に少なくとも1個形成されており、後述するように、好ましくは2個以上有する。本例は2個有する例である。
【0021】
ゲート5は、カソード6と対向する領域が突出し、該突出した領域12(突出領域)を挟む両側の領域のゲート端部が後退した後退部9となる凹凸形状の端部を有するように絶縁部材表面に形成されている。即ち、凹凸形状の凸に当たる突出領域12の先端がカソード6と対向し、凹に当たる領域が後退部9である。カソード6が複数の場合は、図1Bに示すように、ゲート5は平面形状において櫛歯状となる。
【0022】
さらに、本発明においては、該後退部9に露出した、即ち後述するアノード11に対向する絶縁部材3の表面が、少なくとも凹部7のカソード側の縁に達するまで後退している。即ち、絶縁部材3が絶縁層3aと3bとの積層体である場合、後退部9においては、絶縁層3aが露出するまで絶縁層3bが除去されている。本例は、さらに絶縁層3aの一部を残して絶縁部材3の表面を後退させた構成であり、図2Aに示すように、後退部9に露出する絶縁部材3を全て除去しても構わない。尚、図2Aは本発明の実施形態の斜視図であり、平面図は図1Bと同様である。図2Bは図2Aの断面図であり、図1BのB−B’断面に相当する。
【0023】
本発明において、後退部9に露出した領域(本例においては絶縁層3aの一部を除去した表面)に、制御電極13が配置されている。制御電極13は、カソード6とは電気的に絶縁状態で形成し、独立して電位を制御しても良いが、図1A,図2Aに示すように、カソード6に連続して形成することにより、製造工程が簡易になるので好ましい。
【0024】
本発明において、電子放出素子の各部材の長さを次の通り定義する。
T1:ゲート5と絶縁部材3の積層方向(Z方向)におけるゲート5の高さ
T2:ゲート5と絶縁部材3の積層方向(Z方向)における絶縁部材3の凹部7の高さ( 絶縁層3bの高さ)
T3:ゲート5と絶縁部材3の積層方向(Z方向)における絶縁部材3の凹部7のカソー ド6側の縁から基板1までの距離(絶縁層3aの高さ)
T5:ゲート5の突出領域12の幅(ゲート5とカソード6の互いに対向する端部に平行 な方向(Y方向)における突出領域12の長さ)
T6:凹部7の深さ(凹部7における絶縁層3bの側面と絶縁層3a及びゲート5の側面 との距離(X方向の長さ))
T7:カソード6を複数有する場合のゲート5の後退部9の幅(突出領域12間の距離) 及びカソード6間の距離
T8:後退部9の後退距離(ゲート5のカソード6との対向側側面と、後退部9の側面( 最も後退した位置の側面)との距離、或いは、ゲート5の突出領域12のX方向の 長さ)
T9:絶縁部材3の凹部7のカソード6側の縁から制御電極13表面までの距離
T13:カソード先端とゲートとの最短距離
h:絶縁部材3のゲートが配置された側とは反対側の面からアノードまでの距離(基板1 からアノードまでの距離)
【0025】
〔後退部9に制御電極13を設けたことの効果〕
図1BのC−C’断面での電子軌道図を図3Bに示す。図3Aはゲート5に後退部9を設けず、制御電極13も設けなかった構成での電子軌道図である。図3A及び図3Bにおいて、左右に延びる実線は等電位線、紙面上下方向の破線は電子軌道を示す。また、11はアノードである。
【0026】
図3Aに示すように、後退部9及び制御電極13を持たない構成においては、Y方向に沿っては電位がほとんど変化しない。従って、Y−Z面に垂直なXの方向から電子軌道を観察すると、電子はアノード11と平行電場のみの影響を受け、図3Aに示すような、放物線状に広がる軌道を描く。
【0027】
これに対して図3Bに示すように、ゲート5に後退部9を設け、該後退部9に制御電極13を設けた構成にすると、Y方向に沿った電位が、制御電極13とゲート5によって、破線に示すような軌道をとる。即ち、Y方向の電子ビームの広がりが抑制され、集束効果が現れる。
【0028】
後退部9の後退距離T8は、大きく取ったほうが、集束効果がより大きくなることは予想されるが、タクト短縮の観点から考えると、T8は小さいほうが有利である。
【0029】
後退部9のT8と電子ビームのY方向サイズとの関係を図4に示す。図4は後退部9に挟まれた1領域から電子が放出された場合である。
【0030】
図4において横軸はゲート5の後退部9の後退距離T8、縦軸はアノード11に到達した時のY方向の電子ビームサイズを示している。図4によれば、Y方向の電子ビームサイズは、ゲート5の後退部9の後退距離T8を大きくするほど小さくなるが、ある値以上で飽和傾向があることがわかる。これは、ある程度の大きさの後退部9を設けると、そこまで飛翔する電子の数が少なくなるため、それ以上後退部9を大きくしてもY方向の電子ビームサイズの減少にはあまり寄与しないことを示している。
【0031】
〔T5〕
図1Aの構成において、ゲート5の突出領域12の幅T5が小さくなると、制御電極13とゲート5の電位差で生成される電界の影響がより強くなり、電子ビームの集束効果が向上することが期待できる。
【0032】
この効果を図3B及び図9を用いて説明する。図9は図3Bのゲート5の紙面左側端部近傍の拡大模式図である。本発明によれば、(1)ゲート5と制御電極13との電位差Vcと、(2)アノード11とカソード6との電位差Vaとの関係により、図3B、図9に示したように等電位曲線がひずみ、V=Vcの等電位線がゲート5上に距離xsだけ入り込む。このxsはZ方向の電界が0になる位置であり、(1)による電界と(2)による電界のつりあう位置である。この電位のVcの張り出しの程度はVc、Va、hなどにより変化し、
xs=(Vc/Va)×(h/π)
で表される。ここで、πは円周率である。T5がこのxsに対して小さければ、電子ビームが集束される効果が高くなると予想できる。
【0033】
T5を小さくしていくと、T5がある値より小さくなるに従って電子ビームのY方向のサイズの減少が確認された。その様子を図5に示す。横軸は、T5/xsである。T5/xs<5で電子ビームのY方向サイズに対する集束効果が現れることがわかった。
【0034】
即ち、本発明においては、
T5<5×(Vf/Va)×(h/π)
Vf≧Vc
を満たす必要がある。
【0035】
T5=100μmの場合、Y方向ビームサイズが300μm程度であったものが、T5を9μm、5μm、3μm・・・と減少させるに従って、Y方向ビームサイズが次第に減少してゆくことがわかった。
【0036】
〔Va,Vf〕
図7の構成は、本発明に係る素子の電子放出特性を測定する時の電源の供給配置を示す。図7に示すように、本発明の電子線装置においては、ゲート5を介在させて、アノード11をカソード6の突起部分に対向配置させる。本例においては、絶縁部材3が基板1上に配置しているため、アノード11は該基板1の絶縁部材3が配置している側に、該基板1に対向して配置されているとも言える。
【0037】
図7において、Vfは素子のゲート5とカソード6の間に印加される電圧、Ifはこの時流れる素子電流、Vaはカソード6とアノード11の間に印加される電圧、Ieは電子放出電流である。
【0038】
図7において、印加する電圧Va,Vfが異なるとY方向の電子ビームサイズが変化する。図12A及び図12BにVa、VfとY方向の電子ビームサイズの関係をグラフにした。
【0039】
図12Aは3種類のVa、Vfの組み合わせのY方向ビームサイズを示す。しかし、図12Bのように、Y方向の電子ビームサイズをT5が100μmの時のサイズで規格化することで、1本の線にまとまる。グラフ中のxsは、
xs=(Vc/Va)×(h/π)
で表される。
【0040】
ここで、πは円周率である。
【0041】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明第2の電子線装置の電子放出素子について、図10A乃至図10Dを用いて説明する。
【0042】
本発明の電子放出素子は、先に説明した第1の電子線装置の電子放出素子において、後退部9と該後退部9に露出した領域に形成される制御電極13をさらに広げて、該後退部9と制御電極13でゲート5を取り囲んだ構成である。即ち、本発明においては、ゲート5は、図10Aに示すように、矩形に形成され、その周囲に制御電極13が配置される。
【0043】
本発明において、カソード6とこれと対向するゲート5とは1組であっても良いが、好ましくは、2組以上互いに距離を置いて有する構成とする。図10Aは2組とした例である。
【0044】
図10A乃至図10Dに示した構成は、後退部9に露出した絶縁部材3を全て除去した構成であるが、図1Aに示したように、絶縁層3bの除去は部分的であっても良い。当該構成における後退部9と制御電極13の効果は、先に記載した第1の発明と同様である。しかしながら、アノード11に対向するゲート表面(X−Y平面)において、ゲート5がカソード6と対向する側の端辺に直交する方向(X方向)のゲート5の長さをT5x[m]とした時、次の式を満たす必要がある。
【0045】
T5<5×(Vf/Va)×(h/π)
T5x<5×(Vf/Va)×(h/π)
Vf≧Vc
【0046】
尚、ゲート5は制御電極13、カソード6と電気的に絶縁状態とするため、その電位は図10Cに示すように、絶縁部材3にコンタクトホールを形成し、導電部材15によって基板1上に形成した配線によって素子外に引き出せばよい。
【0047】
〔製造方法〕
本発明に係る電子放出素子の製造方法について、図6A、図6Bを参照して説明する。
【0048】
図6A,図6Bは、図1Cに例示した電子放出素子の製造工程の一例を順に示した模式図である。
【0049】
基板1は素子を機械的に支えるための絶縁性基板であり、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス及び、シリコン基板である。基板1に必要な機能としては、機械的強度が高いだけでなく、ドライ或いはウェットエッチング、現像液等のアルカリや酸に対して耐性があり、ディスプレイパネルのような一体ものとして用いる場合は成膜材料や他の積層部材と熱膨張差が小さいものが望ましい。また熱処理に伴いガラス内部からのアルカリ元素等が拡散しづらい材料が望ましい。
【0050】
先ず最初に、図6Aの(a)に示すように基板1上に絶縁層3aとなる絶縁層23、絶縁層3bとなる絶縁層24及びゲート5となる導電層25を積層する。絶縁層23,24は、加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、例えばSiN(Sixy)やSiO2であり、その作製方法はスパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成される。絶縁層23,24の厚さとしては、それぞれ5nm乃至50μmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至500nmの範囲で選択される。尚、絶縁層23と24を積層した後に凹部7を形成する必要があるため、絶縁層23と絶縁層24との間にはエッチングに対して異なるエッチング量を持つように設定されなければならない。望ましくは絶縁層23と絶縁層24との間には選択比として10以上が望ましく、できれば50以上とれることが望ましい。具体的には、例えば、絶縁層23にはSixyを用い、絶縁層24にはSiO2等の絶縁性材料を用いる、或いはリン濃度の高いPSG、ホウ素濃度の高いBSG膜等を用いることができる。
【0051】
導電層25は、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術により形成されるものである。導電層25としては、導電性に加えて高い熱伝導率があり、融点が高い材料が望ましい。例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物が挙げられる。また、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物、Si,Ge等の半導体、有機高分子材料も挙げられる。さらに、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も挙げられ、これらの中から適宜選択される。
【0052】
また、導電層25の厚さとしては、5nm乃至500nmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至500nmの範囲で選択される。
【0053】
次に、フォトリソグラフィ技術により導電層25上にレジストパターンを形成した後、エッチング手法を用いて導電層25,絶縁層24、絶縁層23を順次加工する。これにより、図6Aの(b)に示すように、ゲート5と、絶縁層3b及び絶縁層3aからなる絶縁部材3が得られる。
【0054】
このようなエッチング加工では一般的にエッチングガスをプラズマ化して材料に照射することで材料の精密なエッチング加工が可能なRIE(Reactive Ion Etching)が用いられる。この時の加工ガスとしては、加工する対象部材がフッ化物を作る場合はCF4、CHF3、SF6のフッ素系ガスが選ばれる。またSiやAlのように塩化物を形成する場合はCl2、BCl3などの塩素系ガスが選ばれる。またレジストとの選択比を取るため、エッチング面の平滑性の確保或いはエッチングスピードを上げるために水素や酸素、アルゴンガスなどが随時添加される。
【0055】
図6Aの(c)に示すようにエッチング手法を用いて、積層体の一側面において絶縁層3bの側面のみを一部除去し、凹部7を形成する。
【0056】
エッチングの手法は例えば絶縁層3bがSiO2からなる材料であれば通称バッファーフッ酸(BHF)と呼ばれるフッ化アンモニウムとフッ酸との混合溶液を用いることができる。また、絶縁層3bがSixyからなる材料であれば熱リン酸系エッチング液でエッチングすることが可能である。
【0057】
凹部7の深さ、即ち凹部7における絶縁層3bの側面と絶縁層3a及びゲート5の側面との距離(図1AのT6)は、素子形成後のリーク電流に深く関わり、深く形成するほどリーク電流の値が小さくなる。しかしながら、凹部7を深く形成しすぎるとゲート5が変形する等の課題が発生するため、30nm乃至200nm程度で形成される。
【0058】
尚、本例では、絶縁部材3を絶縁層3aと3bの積層体とした形態を示したが、本発明ではこれに限定されるものではなく、一層の絶縁層の一部を除去することで凹部7を形成してもかまわない。
【0059】
次に、再度、後退部9を形成するために、ゲート5上にレジストパターンを形成する。エッチング手法を用いてゲート5、絶縁層3b、必要に応じて絶縁層3bを順に加工し、ゲート5に後退部9を形成し、絶縁部材3の不要部分を除去する。
【0060】
次に、図6Aの(d)に示すようにゲート5表面に剥離層20を形成する。剥離層20の形成は、次の工程で堆積するカソード材料26をゲート5から剥離することが目的である。このような目的のため、例えばゲート5を酸化させて酸化膜を形成する、或いは電解メッキにて剥離金属を付着させるなどの方法によって剥離層20が形成される。
【0061】
後退部9に露出した絶縁層3の表面に制御電極13の構成材料を成膜し、パターニングした後、図6B(e)に示すようにカソード材料26を基板1上及び絶縁部材3の側面に付着させる。この時、カソード材料26がゲート5上にも付着する。
【0062】
制御電極13は、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術により形成されるものである。構成材料としては、例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物が挙げられる。また、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物、Si,Ge等の半導体、有機高分子材料も挙げられる。さらに、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も挙げられ、これらの中から適宜選択される。
【0063】
制御電極13の厚さとしては、5nm乃至500nmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至500nmの範囲で選択される。
【0064】
カソード材料としては導電性があり、電界放出する材料であればよく、一般的には2000℃以上の高融点、5eV以下の仕事関数材料であり、酸化物等の化学反応層の形成しづらい、或いは簡易に反応層を除去可能な材料が好ましい。このような材料として例えば、Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物が挙げられる。また、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等が挙げられる。
【0065】
カソード材料26の堆積方法としては蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術が用いられ、EB蒸着が好ましく用いられる。
【0066】
カソード材料としては導電性があり、電界放出する材料であればよく、一般的には2000℃以上の高融点、5eV以下の仕事関数材料であり、酸化物等の化学反応層の形成しづらい、或いは簡易に反応層を除去可能な材料が好ましい。このような材料として例えば、Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物が挙げられる。また、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等が挙げられる。
【0067】
カソード材料26の堆積方法としては蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術が用いられ、EB蒸着が好ましく用いられる。
【0068】
図6Bの(f)に示すように剥離層20をエッチングで取り除くことにより、ゲート5上のカソード材料26を除去する。また、基板1上及び絶縁部材3側面上のカソード材料26をフォトリソグラフィ等によりパターニングして、カソード6を形成する。さらに、リセス部7及び凹み部9の第2の絶縁層3b側壁に付着したカソード材料を取り除くため、リセス部7を作製した時と同じエッチングを再度行う。
【0069】
次に、図6Bの(g)に示すように、カソード6と電気的な導通を取るために電極2を形成する。この電極2は、前記カソード6と同様に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィ技術により形成される。電極2の材料としては、例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物が挙げられる。また、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN等の窒化物、Si,Ge等の半導体、有機高分子材料が挙げられる。さらに、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も挙げられ、これらから適宜選択される。
【0070】
電極2の厚さとしては、50nm乃至5mmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至5μmの範囲で選択される。
【0071】
電極2、ゲート5及び制御電極13は、同一材料でも異種材料でも良く、また、同一形成方法でも異種方法でも良いが、ゲート5は電極2に比べてその膜厚が薄い範囲で設定される場合があり、低抵抗材料が望ましい。
【0072】
尚、上記製造方法では剥離層20を設けてゲート5上のカソード材料26を除去しているが、カソード材料26からなる突起部分をゲート5上に形成した構成も本発明の範疇である。このような突起部分は、ゲート5上にカソード6に対応する領域に剥離層20を設けずにカソード材料26をゲート5上に堆積させるか、剥離層20を設けずにカソード材料26を堆積させた後にカソード材料26をパターニングして形成することができる。
【0073】
以下、本発明に係る電子放出素子を複数配して得られる電子源を備えた画像表示装置について、図11Aを用いて説明する。
【0074】
図11Aにおいて、31は電子源基板、32はX方向配線、33はY方向配線であり、電子源基板31は先に説明した電子放出素子の基板1に相当する。また、34は本発明に係る電子放出素子、35は結線である。
【0075】
m本のX方向配線32は、Dx1,Dx2,…Dxmからなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性金属等で構成することができる。配線の材料、膜厚、巾は、適宜設計される。
【0076】
Y方向配線33は、Dy1,Dy2,…Dynのn本の配線よりなり、X方向配線32と同様に形成される。これらm本のX方向配線32とn本のY方向配線33との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m,nは、共に正の整数)。
【0077】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO2等で構成される。例えば、X方向配線32を形成した電子源基板31の全面或いは一部に所望の形状で形成され、特に、X方向配線32とY方向配線33の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が、適宜設定される。X方向配線32とY方向配線33は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0078】
電極2とゲート5は、m本のX方向配線32とn本のY方向配線33と導電性金属等からなる結線35によって電気的に接続されている。
【0079】
配線32と配線33を構成する材料、結線35を構成する材料及び電極2、ゲート5を構成する材料は、その構成元素の一部或いは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。
【0080】
電極2とゲート5のいずれをX方向配線32に接続するかは特に限定されるものではなく、適宜選択することができる。一般的にはX方向配線32には、X方向に配列した電子放出素子34の行を選択するための走査信号を印加する、不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線33には、Y方向に配列した電子放出素子34の各列を入力信号に応じて変調するための、不図示の変調信号発生手段が接続される。
【0081】
各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0082】
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択して、独立に駆動可能とすることができる。
【0083】
このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示装置について、図11Bを用いて説明する。図11Bは画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図であり、一部を切り欠いた状態で示す。
【0084】
図11Bにおいて、図11Aと同じ部材には同じ符号を付した。また、41は電子源基板31を固定したリアプレート、46はガラス基板43の内面に発光部材としての蛍光体である蛍光膜44とアノード11であるメタルバック45等が形成されたフェースプレートである。
【0085】
また、42は支持枠であり、この支持枠42にリアプレート41、フェースプレート46がフリットガラス等を介して取り付けられ、外囲器47を構成している。フリットガラスによる封着は、大気中或いは、窒素中で、400乃至500℃の温度範囲で10分以上焼成することにより実施される。
【0086】
外囲器47は、上述の如く、フェースプレート46、支持枠42、リアプレート41で構成される。ここで、リアプレート41は主に電子源基板31の強度を補強する目的で設けられるため、電子源基板31自体で十分な強度を持つ場合には、別体のリアプレート41は不要とすることができる。
【0087】
即ち、電子源基板31に直接支持枠42を封着し、フェースプレート46、支持枠42及び電子源基板31とで外囲器47を構成しても良い。一方、フェースプレート46とリアプレート41との間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度を持たせた構成とすることもできる。
【0088】
このような画像表示装置では、放出した電子軌道を考慮して、各電子放出素子34の上部に蛍光体をアライメントして配置する。
【0089】
図11Cは、図11Bの画像表示装置に用いられる蛍光膜44の一例を示す模式図である。カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体52の配列により(a)に示すブラックストライプ或いは(b)に示すブラックマトリクスなどと呼ばれる黒色導電材51と蛍光体52とから構成すると良い。
【0090】
次に、単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した表示パネルに、NTSC方式のテレビ信号に基づいたテレビジョン表示を行うための駆動回路の構成例について、図11Dを用いて説明する。
【0091】
図11Dにおいて、61は画像表示パネル、62は走査回路、63は制御回路、64はシフトレジスタである。65はラインメモリ、66は同期信号分離回路、67は変調信号発生器、Vx及びVaは直流電圧源である。
【0092】
表示パネル61は、端子Dx1乃至Dxm、端子Dy1乃至Dyn、及び高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続している。端子Dx1乃至Dxmには、表示パネル内に設けられている電子源、即ち、m行n列の行列状にマトリクス配線された電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動する為の走査信号が印加される。一方、端子Dy1乃至Dynには、走査信号により選択された一行の電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御する為の変調信号が印加される。
【0093】
高圧端子Hvには、直流電圧源Vaより、例えば10[kV]の直流電圧が供給されるが、これは電子放出素子から放出される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与する為の加速電圧である。
【0094】
上述のように走査信号、変調信号、及びアノードへの高電圧印加により、放出された電子を加速して蛍光体へと照射することによって、画像表示を実現する。
【0095】
尚、このような表示装置を本発明の電子放出素子を用いて形成することによって、電子ビームの形状の整った表示装置を構成でき、結果、良好な表示特性の表示装置を提供することができる。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳述する
(実施例1)
図1A乃至図1Dに示した構成の電子放出素子を図6A乃至図6Bの工程に沿って作製した。
【0097】
最初に、基板1としてプラズマディスプレイ用に開発された低ナトリウムガラスであるPD200を用い、絶縁層23、24として厚さ500nmのSiN(Sixy)と厚さ30nmのSiO2をスパッタ法により形成した。次いで、導電層25として厚さ30nmのTaNをスパッタ法により積層した〔図6A(a)〕。
【0098】
次に、フォトリソグラフィ技術により導電層25上に櫛歯状の突出領域12と後退部9を含むレジストパターンを形成した後、ドライエッチング手法を用いて導電層25、絶縁層24、絶縁層23を順に加工した〔図6A(b)〕。
【0099】
この時の加工ガスとしては、絶縁層23、24及び導電層25にフッ化物を作る材料が選択されているため、CF4系のガスを用いた。このガスを用いてRIEを行った結果、絶縁層3a,3b、及びゲート5の側面のエッチング後の角度は基板1の水平面に対しておよそ80°の角度で形成されていた。
【0100】
レジストを剥離した後、BHF(フッ酸/フッ化アンモニウム水溶液)を用いて深さT6が約70nmになるようにエッチング手法を用いて、絶縁層3bの側面をエッチングし、絶縁部材3に凹部7を形成した〔図6A(c)〕。
【0101】
ゲート5表面に電解メッキによりNiを電解析出させて剥離層20を形成した〔図6A(d)〕。
【0102】
再度、フォトリソグラフィ技術によりゲート5上に後退部9を形成するためのレジストパターンを形成し、ドライエッチング手法を用いてゲート5、絶縁層3a、3bを順に加工し、後退部9を形成し、絶縁部材3の一部を除去した。
【0103】
この時、櫛歯状の後退部9の後退距離T8を5μm、後退部9の幅T7及び突出領域12の幅T5をそれぞれ3μmとして、6μmピッチの櫛歯状加工を行った。また、電子放出素子のY方向の長さは、100μmとした。
【0104】
レジストを剥離後、ゲート5表面に電解メッキによりNiを電解析出させて剥離層20を形成した〔図6A(d)〕。
【0105】
カソード材料26であるモリブデン(Mo)をゲート5上及び絶縁部材3の側面と基板1表面に付着させた。本例では成膜方法としてEB蒸着法を用いた。本形成方法では基板1の角度を水平面に対し60°にセットした。これによりゲート5の上部にはMoが60°で入射し、絶縁部材3のRIE加工後の斜面には入射角度が40°で入射した。蒸着は約12nm/minになるように蒸着速度を定め、2.5分蒸着時間を精密に制御することにより斜面のMoの厚さが30nmになるように形成した〔図6B(e)〕。
【0106】
Mo膜を形成後、ヨウ素とヨウ化カリウムからなるエッチング液を用いてゲート5上に析出させたNi剥離層20を除去することによりゲート5上のMo膜を剥離した〔図6B(f)〕。この時、後退部9に露出した絶縁部材3表面には剥離層20を形成していなかったため、カソード材料26が残存していた。
【0107】
後退部9に露出した絶縁部材3表面に成膜されたカソード材料26とゲート5が電気的に分離されるよう、また、カソード6とゲート5が電気的に分離されるよう、再度BHFを用いてエッチングを行った。これにより、絶縁層3bの側面に付着したカソード材料26がリフトオフされ、電気的に分離された状態となった。
【0108】
断面TEMによる解析の結果、図1Cにおけるカソード6とゲート5の間隙8の最短距離T13は9nmであった。
【0109】
次にスパッタ法にて厚さ500nmのCuを堆積し、パターニングして電極2を形成した〔図6(g)〕。
【0110】
以上の方法で素子を形成した後、図7に示した構成で電子放出素子の特性を評価した。
【0111】
ここで、電子放出効率ηとは素子に電圧を印加した時に検出される電流Ifと真空中に取り出される電流Ieを用いて、一般には効率η=Ie/(If+Ie)で与えられる。
【0112】
尚、本例ではカソード6と制御電極13とが電気的に接続されているため、ゲート5と制御電極13との電位差Vcは、カソード6とゲート5との電位差Vfに等しい。
【0113】
Va=11.8kV、Vf=Vc=24V、h=1.66mmとした時、本例の電子ビーム形状を計測した結果、Y方向が230μm、x方向が130μmとなった。
【0114】
(比較例)
次に、図8に示すように、ゲート5に後退部9を設けず、制御電極13を設けなかった以外は実施例1と類似形態の電子放出素子を作製しその効果検証を行った。
【0115】
本例の素子の製造工程は実施例1同様であるが、後退部9をエッチング除去せず、ゲート5を直線状に加工し、カソード6のみ短冊状に形成した。
【0116】
こうして得られた電子源を用いて実施例1同様の特性評価を行ったところ、Va=11.8kV、Vf=Vc=24V、h=1.66mmとした時、本例の電子ビーム形状を計測した結果、Y方向が300μm、X方向が120μmとなった。
【0117】
(実施例2)
実施例1と同様の製造工程で、図1Aに示した構成のゲート5の突出領域12の幅T5を変えた種々の素子を作製し、T5の依存性を検討した。
【0118】
本例では、Va=11.8kV、Vf=Vc=24V、h=1.66mmで、xsは約1μmとなった。T5を小さくしていくと、T5がある値より小さくなるに従って電子ビームのY方向のサイズの減少が確認された。その様子を図5に示す。横軸は、T5/xsである。T5/xs<5で電子ビームのY方向サイズに対する集束効果が現れることがわかった。
【0119】
T5=100μmの場合のY方向ビームサイズは300μm程度であったものがT5を9μm、5μm、3μm・・・と減少させるに従って、Y方向ビームサイズは次第に減少していった。
【0120】
(実施例3)
図10Aに示す構成の電子放出素子を作製した。本例においては、T5=T5x=5μmとした。
【0121】
基本的な製造工程は実施例1と同様であるので、ここでは実施例1との違いだけ述べる。
【0122】
本例では、絶縁層3aの下にゲート5に電位を供給するための配線(不図示)を設け、絶縁層3a、3b、ゲート5を貫通するコンタクトホールを形成した後、カソード形成材料を成膜し、カソード形成工程においてゲート5と配線とのコンタクトをとった。コンタクトホールはX方向、Y方向がそれぞれ1μmとした。
【0123】
以上の方法で素子を形成した後、実施例1と同様にしてビーム形状を評価した。
【0124】
Va=11.8kV、Vf=Vc=24V、h=1.66mmとした時、本例の電子ビーム形状を計測した結果、Y方向が230μm、X方向が70μmとなった。
【0125】
この結果から、本例の構成では、Y方向だけでなく、X方向も回転電場によるビーム集束効果が得られることがわかった。
【0126】
(実施例4)
本実施例では、上述した本発明の実施例1で作製した電子放出素子と同様の製造方法によって電子放出素子を多数基板上にマトリクス状に配列して電子源基板を形成し、この電子放出素子基板を用いて図11Bに示した画像表示装置を作製した。尚、基板41としては基板31をそのまま用いた。以下に本例の画像表示装置の製造工程を説明する。
【0127】
〈電極作製工程〉
ガラス基板31上にSiN/SiO2/TaN/Mo膜を順次成膜した後、実施例1の電子放出素子と同様の製造方法で凹部7を形成し、さらに、後退部9を有する段差をエッチング加工した。本例ではT5=T7=3μmとし、Y方向の素子長100μmの1素子当たりカソード6を17個配置した。
【0128】
〈カソード形成〉
カソード材料であるモリブデン(Mo)を、ゲート5上に付着させた。本例では成膜方法としてEB蒸着法を用い、基板31の角度を60°にセットした。これによりゲート5上部にはMoが60°で入射し、素子の絶縁層3a(SiN)のRIE加工後の斜面には入射角度が40°で入射するようにセットした。蒸着は約10nm/minになるように蒸着速度を定め、4分間蒸着を行った。蒸着時間を精密に制御することにより斜面のMoの厚さが40nmになるように形成した。
【0129】
その後、凹部7を形成した時と同じエッチングを行い、ゲート5とカソード6及び制御電極13の電気的な分離を行い、電子放出素子を形成した。
【0130】
〈Y方向配線形成工程〉
次に、Y方向配線33をゲート5に接続するように配置した。このY方向配線33は変調信号が印加される配線として機能する。
【0131】
〈絶縁層形成工程〉
次に、次の工程で作成するX方向配線32と前述のY方向配線33を絶縁するために、酸化シリコンからなる絶縁層を配置する。後述するX方向配線32の下であって、且つ、先に形成したY方向配線33を覆うように、絶縁層を配置する。X方向配線32と電極2の電気的接続が可能なように、絶縁層の一部にコンタクトホールを開けて形成した。
【0132】
〈X方向配線形成工程〉
次に、銀を主成分とするX方向配線32を、先に形成した絶縁層の上に形成した。X方向配線32は絶縁層を挟んでY方向配線33と交差しており、絶縁層のコンタクトホール部分で電極2に接続される。このX方向配線32は走査信号が印加される配線として機能する。このようにしてマトリクス配線を有する基板が形成された。
【0133】
次いで、図11Bに示したように、上記基板31の2mm上方に、ガラス基板43の内面に蛍光体膜44とメタルバック45とが積層されたフェースプレート46を、支持枠42を介して配置した。
【0134】
そして、フェースプレート46、支持枠42、基板31の接合部を、低融点金属であるインジウム(In)を加熱し冷却することによって封着した。また、この封着工程は、真空チャンバー中で行ったため、排気管を用いずに、封着と封止を同時に行った。
【0135】
本例では、画像形成部材であるところの蛍光膜44は、カラーを実現するために、ストライプ形状の蛍光体とし、先にブラックストライプ(不図示)を形成し、その間隙部にスラリー法により各色蛍光体(不図示)を塗布して蛍光膜44を作製した。ブラックストライプの材料としては、通常よく用いられている黒鉛を主成分とする材料を用いた。
【0136】
また、蛍光膜44の内面側(電子放出素子側)にはアルミニウムからなるメタルバック45を設けた。メタルバック45は、蛍光膜44の内面側に、Alを真空蒸着することで作製した。
【0137】
上述の工程によって画像表示装置を作製したところ、表示画像の良好な表示装置を実現できた。
【符号の説明】
【0138】
1 基板
2 電極
3 絶縁部材
3a、3b 絶縁層
5 ゲート
6 カソード
7 凹部
8 間隙
9 後退部
11 アノード
12 突出領域
13 制御電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の表面に位置するゲートと、
前記凹部の縁から前記ゲートに向かって突起する突起部分を有し、該突起部分が前記ゲートと対向するように前記絶縁部材の表面に位置する少なくとも1個のカソードと、
前記ゲートを介在させて前記突起部分と対向配置されたアノードとを有し、
前記ゲートが、カソードと対向する領域が突出し、該突出した領域を挟んだ領域のゲート端部が後退した後退部を有するように前記絶縁部材の表面に形成され、
上記後退部を介して前記アノードに対向する絶縁部材の表面が少なくとも凹部のカソード側の縁に達するまで後退し、且つ該後退部を介してアノードに対向する領域に制御電極が配置され、
カソードとゲートとの間に印加される電圧をVf[V]、制御電極とカソードとの間に印加される電圧をVc[V]、アノードとカソードとの間に印加される電圧をVa[V]、絶縁部材のゲートが配置された側とは反対側の面からアノードまでの距離をh[m]、ゲートの突出した領域の幅をT5[m]とした時、
T5<5×(Vf/Va)×(h/π)
Vf≧Vc
であることを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
前記カソードを2個以上有し、ゲートが絶縁部材表面に櫛歯状に形成されている請求項1に記載の電子線装置。
【請求項3】
表面に凹部を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の表面に位置するゲートと、
前記凹部の縁から前記ゲートに向かって突起する突起部分を有し、該突起部分が前記ゲートと対向するように前記絶縁部材の表面に位置する少なくとも1個のカソードと、
前記ゲートを介在させて前記突起部分と対向配置されたアノードとを有し、
前記絶縁部材のゲートを配置した側の表面が、該ゲートの周囲において、少なくとも凹部のカソード側の縁に達するまで後退した後退部を有しており、
前記後退部の表面に制御電極が配置され、
カソードとゲートとの間に印加される電圧をVf[V]、制御電極とカソードとの間に印加される電圧をVc[V]、アノードとカソードとの間に印加される電圧をVa[V]、絶縁部材のゲートが配置された側とは反対側の面からアノードまでの距離をh[m]、ゲートのカソードと対向する領域の幅をT5[m]、アノードに対向するゲート表面において、ゲートがカソードと対向する側の端辺に直交する方向のゲートの長さをT5x[m]とした時、
T5<5×(Vf/Va)×(h/π)
T5x<5×(Vf/Va)×(h/π)
Vf≧Vc
であることを特徴とする電子線装置。
【請求項4】
前記カソードと該カソードと対向するゲートとを2組以上互いに距離を置いて有する請求項3に記載の電子線装置。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の電子線装置と、前記アノードの外側に位置する発光部材とを有することを特徴とする画像表示装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図12A】
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【図12B】
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【公開番号】特開2010−186615(P2010−186615A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29312(P2009−29312)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】