説明

電子装置のカバープレートとして使用するための耐損傷性ガラス物品

アルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品であって、前記アルカリアルミノケイ酸塩ガラスが、少なくとも約200MPaの表面圧縮応力を有し、表面圧縮層は少なくとも約30μmの深さ、少なくとも約0.3mmの厚さ、およびガラスの表面に化学的に結合した両疎媒性のフッ素系の表面層を有する。1つの実施の形態では、ガラスは、化学強化ガラスの表面と両疎媒性のコーティングの間に1つのガラス表面を適用した反射防止コーティングを有する。別の実施の形態では、化学強化ガラスの表面は、両疎媒性のコーティングまたは反射防止コーティングの配置前に、選択する酸(例えば、HCl、H2SO4、HClO、酢酸および説明されているような他の酸)を用いて酸処理される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2008年5月30日出願の米国仮特許出願第61/130532号の米国特許法第119条(e)に基づく優先権の利益を主張する、2008年2月5日出願の米国仮特許出願第61/026289号の米国特許法第119条(e)に基づく優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスに関する。詳細には、本発明は、保護カバープレートに使用するための高強度のダウンドローアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品に関する。さらに詳細には、本発明は、高強度の携帯電子装置におけるカバープレートとして使用するための、高強度のダウンドローアルカリアルミノケイ酸塩の両疎媒性ガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
携帯情報端末、携帯電話またセル方式の携帯電話、時計、ノート型パソコンおよびノートブックなどの携帯電子装置は、カバープレートを包含していることが多い。少なくともカバープレートの一部分は、使用者がディスプレイを見ることができるように、透明になっている。一部の用途では、カバープレートは、タッチ反応式である。頻繁に触れることから、これらのカバープレートは高強度および耐擦傷性でなくてはならない。
【0004】
即時に譲受人に譲受された特許文献1は、イオン交換によって化学強化可能であって、シート状にダウンドロー可能な組成物を示す、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスについて開示する。本ガラスは約1650℃よりも低い溶融温度および少なくとも13kPa・s(130キロポアズ)の液相粘度を有し、1つの実施の形態では、25kPa・s(250キロポアズ)よりも大きい。本ガラスは、比較的低い温度および少なくとも30μmの深さまでイオン交換することができる。組成的に本ガラスは:64モル%≦SiO2≦68モル%;12モル%≦Na2O≦16モル%;8モル%≦Al23≦12モル%;0モル%≦B23≦3モル%;2モル%≦K2O≦5モル%;4モル%≦MgO≦6モル%;および0モル%≦CaO≦5モル%,を含み、ここで:66モル%≦SiO2+B23+CaO≦69モル%;Na2O+K2O+B23+MgO+CaO+SrO>10モル%;5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%;(Na2O+B23)−Al23≦2モル%;2モル%≦Na2O−Al23≦6モル%;および4モル%≦(Na2O+K2O)−Al23≦10モル%である。
【0005】
このアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、電気製品に使用するための耐損傷性のカバーガラスとして用いることができる。本ガラスは、最終仕上げをして形作り、次に、化学的に強化するか、またはイオン交換(IOX)して、擦傷および摩耗などの機械的損傷を予防して耐損傷性を付与するための圧縮表面層を形成する。IOXプロセスは、ガラスの表面において、大きいカリウムイオンを小さいナトリウムイオンと交換し、交換の深さをプロセスの時間および温度で機動させて、圧縮層に、製品の使用の間に表面に誘発される損傷よりも深い場合に破損を防ぐ「層の深さ」(DOL)を与えることによって機能する。本製品の利益に加えて、IOXアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、競合するガラスよりも大きいDOLにIOXすることができ、したがって、損傷を最小限に抑え、故障を防ぐことができる。
【0006】
しかしながら、このアルカリアルミノケイ酸塩ガラス(およびすべての競合するカバーガラス物品)には、メディア/電子装置のためのカバーガラスなどの用途における使用に関し、幾つかの重要な問題が存在する。重要な問題の1つは、指紋によって表面に運ばれる油およびグリースに関して、移動の予防ができないこと、およびその除去の困難さである。油およびグリースの除去の困難さは、装置を使用するときに、カバーガラス表面に繰り返し指紋が付けられるタッチスクリーンなどの用途において、特に重要である。付けられた指紋、ならびに他の起源に起因する汚れは、例えば装置が使用されていない場合など、特に暗色または黒色背景が現れるときに、スクリーン上に現れる。これは、画質に影響を与え(その外見を悪化させる)、顧客にその装置の否定的認識を生み出しうる、指紋/汚れによる光学干渉に関する懸念を生じる。指紋油およびグリースには、埃、化粧品、およびローションが含まれる。
【0007】
2つ目の重要な問題は、ディスプレイ表面上の反射に起因して生じうる、ギラギラした光である。ギラギラする光は、操作者の視野に対して垂直ではない光の反射に起因して生じる。ギラギラする光の存在は、装置の使用において、より良好な視界のために、装置を傾け、スクリーン・アングルを継続的に調節する必要を生じる。視角を絶えず変化させなければならないことは、使用者にとって厄介であり、不満を生じる。さらには、反射防止(「AR」)コーティングされていない表面の傾きは指紋をギラギラする光でネゲートすることから、反射防止(「AR」)特性を含む任意のディスプレイ表面は、指紋をさらに顕在化するであろう。よって、「防指紋」または「洗浄しやすい」コーティングの必要性は、反射防止表面にとって重要性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願第11/888213号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一部の工業コーティングの存在は、油/水の改善された濡れ挙動を通じて指紋の付着を最小限に抑えることにより、ある程度の表面保護を与えるが、このようなコーティングはタッチスクリーンの用途のための化学的に強化されたガラスにうまく塗布されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、1つの実施の形態では、水および油によるガラス表面の濡れが最小限に抑えられるように(油と水の両方についての親和性を欠いた両疎媒性物質)、カバーガラスにある程度の疎水性および疎油性(すなわち両疎媒性)を与えるフッ素末端基を有する外部コーティングを有する、透明な、耐損傷性の、化学的に強化された保護カバーガラス(カバープレートまたはカバースクリーンとも呼ばれる)からなる製品に関する。コーティング製品は、ガラスの圧縮面DOLによって付与される、擦傷、摩耗、および他の耐損傷性を有し、加えて、指からガラスへの油(指紋)の移動を最小限に抑え、さらには、布で拭き取ることによる、油/指紋の除去を簡単にすることができる、フッ素末端基によって付与される、防指紋、防汚特性を有する。さらなる実施の形態では、本発明は、少なくとも1つの化学的に強化された層および非化学的に強化された層を有する透明な、耐損傷性の化学的に保護されたカバーガラスからなる製品に関し、前記カバーガラスは、ある程度の疎水性および疎油性を与える、フッ素末端基の外部コーティングを有する。さらなる実施の形態では、本発明は、2つの化学的に強化された層の間に挟まれた非化学的に強化された層を有する、透明な、耐損傷性の化学的に保護されたカバーガラスからなる製品に関し、前記カバーガラスは、ある程度の疎水性および疎油性を与える、フッ素末端基の外部コーティングを有する。化学的に強化された層は、Naおよび/またはLiイオンをKイオンでイオン交換することにより形成される。よって、例えば、カバーガラスは、2つの化学的に強化された層の間に挟まれた非化学的に強化された層を有していてもよく、ここで、Naおよび/またはLiイオンはKイオンで交換される。
【0011】
本発明は、少なくとも約0.3mmの厚さ、少なくとも約200MPaの表面圧縮応力、約20〜70μmの深さおよび両疎媒性の吸着されたフッ素系の表面層を有する表面圧縮層を有するアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。
【0012】
吸着されたフッ素系の表面層は、例えばフッ素含有モノマーなど、ガラスの末端OH基の水素をフッ素系部分と交換することにより、末端がフッ素化された基を有するガラスを形成することにより、形成される。例えば、限定はしないが、交換は、下記反応に従って行うことができる:
【化1】

【0013】
ここで、RFは、C1−C22アルキルペルフルオロカーボンまたはC1−C22アルキルパーフルオロポリエーテル、好ましくはC1−C10アルキルペルフルオロカーボン、さらに好ましくはC1−C10アルキルパーフルオロポリエーテルであり;nは1〜3の範囲の整数であり;Xはガラスの末端OH基と交換することができる加水分解性基である。Xはフッ素以外のハロゲンまたはアルコキシ基(−OR)であることが好ましく、ここで、Rは1〜6の炭素原子の直鎖または分岐鎖炭化水素であり、例えば、限定はしないが、−CH3、−C25、−CH(CH32の炭化水素が挙げられる。一部の実施の形態では、n=2または3であり、好ましくは3である。好ましいハロゲンは塩素である。好ましいアルコキシシランはトリメトキシシラン、RFSi(OMe)3である。本発明の実施に使用することができる追加のペルフルオロカーボン部分としては、(RF3SiCl、RF−C(O)−Cl、RF−C(O)−NH2、およびガラスのヒドロキシル(OH)基と交換可能な末端基を有する他のペルフルオロカーボン部分が挙げられる。本明細書では「ペルフルオロカーボン」、「フッ化炭素」およびパーフルオロポリエーテルとは、本明細書に記載される炭化水素基を有する化合物を意味し、ここで、実質的にすべてのC−H結合はC−F結合に転換されている。
【0014】
別の実施の形態では、吸着されたフッ素系の表面層はフッ素末端の分子鎖の組織化単分子層からなる。さらなる実施の形態では、吸着されたフッ素系の表面層は、薄いフッ素ポリマーコーティングからなる。最後の実施の形態では、吸着されたフッ素系の表面層はスート微粒子に付着したペンダントフッ化炭素基を有するシリカスート微粒子からなる。
【0015】
さらなる実施の形態では、本発明は、例えば、限定はしないが、反射防止SiO2またはF−SiO2(フッ素ドープシリカまたは溶融シリカ)層などの反射防止層を有し、さらに、水および油によるガラス表面の濡れが最小限に抑えられるように、カバーガラスにある程度の疎水性および疎油性(すなわち両疎媒性)を与えるフッ素末端基を有する外部コーティングを有する、透明な、耐損傷性の化学的に強化された保護カバーガラスで構成される製品に関する。耐摩耗性は、本明細書に記載の両疎媒性材料の最終コーティングを施用することにより、反射防止物品に与えられる。両疎媒性の材料をコーティングした製品は、ガラスの圧縮面DOLによって与えられる擦傷、摩耗、およびその他の損傷への耐性を有し、さらには、指からガラスへの油および汗(指紋)の移動を最小限に抑え、布を用いる拭き取り手段によって油/指紋の除去を簡単にするフッ素末端基によって付与される、防指紋、防汚特性を有する。ARコーティングは、基本的な化学強化された塩基ガラスよりも低い摩耗/擦傷耐性を有しうる。ARコーティングした化学強化ガラスを両疎媒性の材料でコーティングすると、ARコーティングガラスに摩耗耐性の特性が付与され、したがって、ARコーティングされたガラスが、塩基ガラスの性能を取り戻すことを可能にすると共に、ARコーティングされたガラスに防指紋、防汚特性を与える。好ましい実施の形態では、ARコーティングの外部(最も外側)層はSiO2含有層、例えばF−SiO2、溶融シリカまたはシリカである。
【0016】
加えて、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、さらに、塩基ガラスとフッ素系の表面コーティング層の間に配置される、テクスチャ化またはパターン化表面を含みうる。テクスチャは、酸性/アルカリ性エッチングまたはそれらの組合せによって生成し、RMS粗さにおける50nm〜5μm(5000nm)の範囲の粗さを生じることができ、粗化ガラス組成物の表面近くは、SiO2が豊富であることが好ましい。粗さは原子間力顕微鏡法(「AFM」)および走査白色光干渉分光法(SWLI)などの技術によって測定することができる。あるいは、テクスチャは、好ましくはSiO2が豊富な、表面近くの粗化ガラス組成物を用いて、リソグラフィーで、または使用して別の蒸着構造を使用して生成することができる。テクスチャ化層が形成された後、テクスチャ化層および任意の非テクスチャ化塩基ガラスに、本明細書に記載のフッ素含有材料をコーティングし、テクスチャ化したフッ素含有材料コーティングされた物品を有する物品を形成する。
【0017】
本発明のこれらおよび他の態様、利点、および顕著な特徴は、以下の詳細な説明、添付の図面、および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】1つの実施の形態に従ったアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品の概略図であって、両疎媒性のペルフルオロカーボンまたはペルフルオロカーボン含有部分の層が化学強化ガラスの表面に共有結合した物品を例証している。
【図2】第2の実施の形態に従った化学強化されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品の概略図であり、テクスチャ化またはパターン化表面が存在し、両疎媒性の層がテクスチャ化領域を含む化学強化ガラスの表面に共有結合した物品を例証している。
【図3】本発明の追加の実施の形態に従ったアルカリアルミノケイ酸塩ガラスの概略図であり、反射防止材料の少なくとも1つの層が化学強化ガラス層の上面に配置され、両疎媒性のコーティング層が反射防止コーティングの表面に共有結合した物品を例証している。
【図4】両疎媒性のコーティングでガラス表面にコーティングを調製するための一般的なプロセス工程を例証する概略図。
【図5A】ヘイズを低減し、よってコーティングされているガラスのコーティングされていないガラスに対する光学的透明度を向上させるための拭き取り性能。
【図5B】左側がコーティングされておらず、右側がコーティングされている、指紋油を施用し、拭き取った後の図5Aに表すカバーガラス。
【図5C】左側がコーティングされておらず、右側がコーティングされている、150番の紙やすりで摩耗し、拭き取りした後のカバーガラス。
【図6】コーティングされたガラスおよびコーティングされていないガラスを使用し、150番の紙やすりを用いた摩耗によって生成したヘイズ。
【図7】コーティングされた、およびコーティングされていないガラス表面の摩擦μKの動的効果。
【図8】半分は酸処理し、半分は酸処理しておらず、それぞれの半分が両疎媒性のコーティングでコーティングされたガラスサンプルについての拭き取り結果を示す棒グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明では、同じ符号は図面に示された複数の図を通じて同じ部分又は対応する部分を示している。また、他に特記されないかぎり、「頂部」、「底部」、「外側」、「内側」などの用語は便宜上の言葉であって、限定的な用語と解すべきでないものと理解されたい。加えて、基が、少なくとも1つの基の元素またはそれらの組合せを含むものとして記載されるときはいつでも、その基が列挙されるそれらの元素を、個別に、または互いに組み合わせて、いくらでも含んでよいものと理解されたい。同様に、基が少なくとも1つの基の元素またはそれらの組合せからなるものとして記載されるときはいつでも、その基が、列挙されるそれらの元素から、いくらでも、個別に、または互いに組み合わせてなるものと理解されたい。他に特記されないかぎり、値の範囲は、その範囲の上限および下限の両方を含む。「塩基ガラス」という用語は、ガラスが、イオン交換または、例えば反射防止コーティングおよび/またはペルフルオロカーボン材料または部分などの任意の材料を用いたコーティングに供される前に保護カバーガラスを形成して防油および防汚性を与えるのに適した任意のアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラスのことをいう。本明細書では「SiO2コーティング」という用語は、SiO2コーティングまたはF−SiO2コーティング、または複合材料SiO2/F−SiO2コーティングを意味する。本明細書に記載されるすべての実施の形態では、ペルフルオロカーボン部分またはペルフルオロカーボン含有部分(層またはコーティングとして)は、ガラスの表面、化学強化ガラス、または化学強化されSiO2(またはF−SiO2)コーティングされたガラスに、共有結合によって結合する。本明細書では「両疎媒性」という用語は、表面に施用した場合に疎水性のおよび疎油性の両方の特性を表面に付与する材料を示すのに用いられる。
【0020】
図1を参照すると、図は、本発明の特定の実施の形態を説明する目的であって、本発明をそれらに限定することは意図されていないことが理解されよう。
【0021】
一般に、耐損傷性および両疎媒性の特性が増強され、それによって、最小限の指紋付着を示し、指紋除去が簡単な耐擦傷性表面を提供する、透明な、保護カバーガラス物品が開示される。
【0022】
図1は、少なくとも0.3mmの厚さ、少なくとも200MPaの表面圧縮応力を有する表面圧縮応力層104、および中間ガラス層106を有する、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品100を明確に例証している。表面圧縮層104は、典型的には下記のイオン交換法を通じて達成される、20〜70μmの範囲の厚さを有する。表面圧縮層104およびイオン交換していない中間層ガラス部分106に加えて、物品100は両疎媒性の吸着されたフッ素系の表面層102を有する。
【0023】
吸着されたフッ素系の表面層またはコーティングは数多くの方法で達成することができ、(1)フッ素系のモノマーで交換した−OH基末端化した活性表面部位;(2)フッ素末端の分子鎖の組織化単分子層;(3)薄いフッ素ポリマーコーティング;(4)フッ素末端基を有するようにあらかじめ生成または処理されているシリカスート微粒子からなる群より選択することができる。コーティングは、浸漬、蒸着重合、噴霧、ローラーを用いた施用、または他の適切な方法によって、表面に適用することができる。浸漬または噴霧が好ましい。コーティングの施用後、25〜150℃の範囲の温度、好ましくは40〜100℃で1〜4時間の範囲の時間、40〜95%の水分を含む雰囲気下で「硬化」させる。図に示し、かつ本明細書で論じるサンプルに施用したコーティングは、50℃で50%の水分を含む雰囲気下で、2時間硬化させたことを意味する、「50/50硬化」であった。硬化した後、結合していないコーティングを除去するためにサンプルを溶媒ですすぎ、使用前に風乾した。
【0024】
図2を参照するとアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品100の別の実施の形態が例証されている。この実施の形態では、ガラス物品100は、表面圧縮応力層104、イオン交換していない中間層ガラス部分106および両疎媒性の吸着されたフッ素系の表面層102を含めた、図1の実施の形態の特性のすべてを包含する。加えて、この実施の形態は、吸着されたフッ素系の表面層102(太い黒線で示す)とガラス表面圧縮層104の間に配置された、テクスチャ化またはパターン化表面108を備える。1つの実施の形態では、テクスチャ化またはパターン化層は、エッチングまたはリソグラフィーによって圧縮層から形成される。別の実施の形態では、テクスチャ化またはパターン化層は、圧縮層104に結合した微粒子コーティングによって形成される。フッ素系の層は、テクスチャ化/パターン化層104およびテクスチャ化またはパターン化されていない任意の圧縮層の両方を覆う。
【0025】
図2に例証されるテクスチャ化またはパターン化表面は、塩基ガラスに加えられるか、または塩基ガラス上に形成される。このテクスチャ化またはパターン化表面の用途は、当業者に既知の数多くの方法で達成することができる。テクスチャ化/パターン化表面を塩基ガラスに加えるか、またはテクスチャ化/パターン化表面を塩基ガラス上に形成するための選択肢の中でも、とりわけ、ポリマーまたは無機材料のエッチング、エレクトロスピニング、蒸着した無機膜、規則正しい微粒子コーティング、また当技術分野で既知のガラス表面をパターン化またはテクスチャ化するための任意の他の手段が挙げられる。テクスチャ化またはパターン化表面の包含は、必要な度合いの透明性を維持すると同時に、表面領域の増大を示すガラス物を生じる。テクスチャ化表面は、本明細書に記載の両疎媒性コーティングでコーティングされる。
【0026】
フッ素表面処理/層および増強された表面粗さの組合せは、ガラス物品の濡れ特性の工場を生じさせる。結果として、ガラス物品は、最小限の指紋付着および限定的に塗布された指紋の除去の最大限の容易さを示す。
【0027】
本明細書に開示される両疎媒性のガラス物品は、市販の保護カバーガラス溶液に次の増強された特性を示す。本明細書および図に記載されるサンプルを調製および試験するのに用いられる典型的なコーティング材料は、アルコキシシリルパーフルオロポリエーテル材料であるDC2604(Dow Corning Corp社(米国ミシガン州ミッドランド所在)製)であった。試験ガラスは、本明細書に記載の化学強化されたコーニング1317ガラス(Corning Incorporated社(米国ニューヨーク州コーニング所在)製)であり、試験ガラス片は約2cm×12cm×0.4cmの寸法を有していた。
【0028】
指紋付着
フッ素処理した(したがってフッ素末端化された)表面は、−OH末端基を有する表面よりも極性が低く、したがって、微粒子と脂質の最小限の水素結合(すなわち、ファン・デル・ワールス力)を促進する。指紋油および指紋の残骸では、指に由来する油および残骸のガラス表面への大量移動が最小限に抑えられる直接の結果として、結合およびそれによる付着は最小限に抑えられる。
【0029】
洗浄および洗浄性
指紋の除去は、典型的には、表面を布で拭き取る手段によって、乾燥条件または湿気の多い条件下で行われる。これらの布は再利用され、表面を擦傷しうる埃および微粒子を含みうる。本製品のフッ素化された表面は、汚れを最小限に抑え、適用した拭き取りの量を最小限に抑えると同時に、指紋除去の容易性を増強する。後者はさらに、ガラス製品の破砕によって即時または時間遅延性の故障につながりうる、表面に損傷を誘発しうる事象の数および頻度も低減させる。
【0030】
耐擦傷性
指紋油の付着を最小限に抑え、乾燥した布での最小限の拭き取りが油を除去できる程度を増大させると同時に、拭き取りによる表面の任意の摩耗は、保護ガラスカバーの表面的な損傷を誘発する、および/または、結果として故障を生ずる擦傷を生成しうる。本明細書に記載される高硬度のガラス(競合するガラスよりも高い)および高い圧縮面DOL(競合するガラスよりも深い40〜60μmの深さ)は、損傷を防ぎ、拭き取りの繰り返しから生じうる損傷に起因する故障を防ぐように作用する。圧縮面のDOLが拭き取りまたは他のモードの操作の間に誘発される損傷よりも深ければ、故障は軽減される。
【0031】
物品の表面の片方に両疎媒性のアリー(ally)コーティングをし、もう半分にはコーティングしていないガラス物品を使用して、耐擦傷性試験を行った。試験は、コーティング側および非コーティングの側が等しい摩耗に供されるように、往復運動摩耗機器を使用して両表面に紙やすり(150番)をかける、紙やすり擦傷試験であった。物品の両側の領域のヘイズを測定したが、ここでヘイズとは、光学的透明度、すなわち、すべての散光および透過光の合計に対する散光の測定である。図5A、5Bおよび5C、および図6に示し、以下に論じる結果は、両疎媒性のコーティングが、ヘイズ、すなわち、摩耗に由来するガラスへの可視化損傷の80%の減少を促したことを示している。本結果は、両疎媒性のコーティングが耐擦傷性を大幅に改善することを明確に示した。
【0032】
耐擦傷性に加えて、両疎媒性のコーティングは摩擦係数を低下させる。特に、2つの物体が移動しない静止摩擦μSとは対照的な、すべり係数または動摩擦係数μKを、物品表面の片方が両疎媒性のアリー(ally)コーティングティング、残りの半分が非コーティングである、ガラス物品のコーティングについて、測定した。試験結果は、非コーティングのガラスではμK=0.25、コーティングされたガラスではμK=0.05を示し、したがって両疎媒性のコーティングの存在により、動摩擦が80%低下することを示唆した。この摩擦の低下は、人がガラス表面に触れるとき、埃、油、グリースなどを除去するために拭き取るとき、および、携帯用ケース内に収納されているときのガラス表面への損傷を低下する。この有益な性能特性はまた、タッチスクリーン用途にとっての使い勝手の良さを可能にする。
【0033】
以下に、本実施の形態に使用するのに適した特定のアルカリアルミノケイ酸塩ガラスに関する追加の情報を提供する。ガラスは少なくとも13kPa・s(130キロポアズ)の液相粘度を有する。本明細書では「液相粘度」とは、液相温度における溶融ガラスの粘度のことをいい、ここで、液相温度とは、溶融ガラスが溶融温度から冷却される際に結晶が最初に見られる温度、または温度が室温から上昇する際にぎりぎり最後の結晶が融解する温度のことをいう。ガラスは次の酸化物を含み、それらの濃度をモルパーセント(モル%)で表す:64≦SiO2≦68;12≦Na2O≦16;8≦Al23≦12;0≦B23≦3;2≦K2O≦5;4≦MgO≦6;および0≦CaO≦5。加えて、66モル%≦SiO2+B23+CaO≦69モル%;Na2O+K2O+B23+MgO+CaO+SrO>10モル%;5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%;(Na2O+B23)−Al23≦2モル%;2モル%≦Na2O−Al23≦6モル%;および4モル%≦(Na2O+K2O)−Al23≦10モル%。
【0034】
アルカリアルミノケイ酸塩ガラスの最大の単一の構成成分はSiO2であり、これは、ガラスのマトリクスを形成し、約64モル%から最大で約68モル%を含む範囲までの濃度で本発明のガラス内に存在する。SiO2は、成形性を補助し、ガラスに化学的耐久性を与える粘度促進剤として機能する。上記範囲より高い濃度では、SiO2は溶融温度を極めて高く上昇させるのに対し、前記範囲未満ではガラス耐久性に苦労する。加えて、低いSiO2濃度は、高いK2O濃度または高いMgO濃度を有するガラスにおいて、液相温度を実質的に上昇させることができる。
【0035】
約8モル%から約12モル%を含む範囲までの濃度で存在する場合、Al23は粘度を増強する。この範囲よりも高いAl23濃度では、粘度は非常に高くなり、液相温度は連続ダウンドロー法を維持するには高すぎる温度になりうる。これを防ぐため、本発明のガラスは、全Al23含量を超える、アルカリ金属酸化物(例えば、Na2O、K2O)の全濃度を有する。
【0036】
連続的な製造方法に適切な溶融温度を得るためにフラックスを用いる。本明細書に記載されるアルミノケイ酸塩ガラスでは、酸化物Na2O、K2O、B23、MgO、CaO、およびSrOはフラックスとしての役割をする。溶融におけるさまざまな制限を満たすためには、20Pa・s(200ポアズ)の粘度におけるガラス温度は、1650℃を超えないことが好ましい。これを達成するため、Na2O+K2O+B23+MgO+CaO+SrO−Al23>10モル%という条件を満たすべきである。
【0037】
アルカリ金属酸化物は低い液相温度および低い溶融温度を達成する補助としての役割をする。明細書では「溶融温度」という用語は、20Pa・s(200ポアズ)のガラス粘度に対応する温度のことをいう。ナトリウムの事例では、Na2Oを使用してイオン交換を成功させることができる。十分なイオン交換を可能にして、実質的に増強されたガラス強度を生じるためには、Na2Oは、約12モル%から約16モル%を含む範囲の温度で提供される。しかしながら、ガラスが排他的に、本明細書に記載されるそれぞれの範囲内のNa2O、Al23、およびSiO2からなる場合、粘度は高すぎて溶融には適さないであろう。よって、良好な溶融および成形性能を確実にするため、他の成分が存在しなければならない。それらの成分が存在すると仮定すると、妥当な溶融温度は、Na2OおよびAl23の濃度の差異が約2モル%から約6モル%を含む範囲(すなわち、2モル%≦Na2O−Al23≦6モル%)にある場合にもたらされる。
【0038】
酸化カリウム(K2O)は、低い液相温度を得るために含まれる。しかしながら、Na2Oもさることながら、K2Oはガラス粘度を低下させることができる。よって、Na2OおよびK2O濃度の合計とAl23濃度との全差異は約4モル%から約10モル%を含む範囲(すなわち、4モル%≦(Na2O+K2O)−Al23≦10モル%)であるべきである。
【0039】
23はフラックス、すなわち溶融温度を低下させるために加える成分としての役割をする。少量(すなわち約1.5モル%未満)のB23の添加であっても、他の等価のガラスの溶融温度を100℃も急激に低下することができる。一方、以前に言及したように、ナトリウムはイオン交換を成功可能にするために加えられ、比較的低いNa2O含量および高いAl23含量において、B23を加えて溶融可能なガラスの形成を確実にすることが望ましいであろう。よって、1つの実施の形態では、Na2OおよびB23の全濃度は(Na2O+B23)−Al23≦2モル%になるように結び付けられる。よって、1つの実施の形態では、SiO2、B23、およびCaOの合計濃度は、約66モル%から約69モル%を含む範囲(すなわち、66モル%≦SiO2+B23+CaO≦69モル%)である。
【0040】
全アルカリ金属酸化物濃度がAl23の濃度を上回る場合には、ガラス中に存在する任意のアルカリ土類酸化物は第1にフラックスとしての役割をする。MgOは最も有効なフラックスであるが、ナトリウムアルミノケイ酸塩ガラスにおいて、低いMgO濃度で苦土かんらん石(Mg2SiO4)を形成する傾向があり、したがってガラスの液相温度をMgO含量とともに非常に急勾配で上昇させる。高濃度のMgOでは、ガラスは、連続生産に必要とされる限定の範囲内の溶融温度を有する。しかしながら、例えば溶融ドロー法などのダウンドロー法に適合させるには、液相温度は高くなりすぎ、したがって液相粘度は低くなりすぎる。しかしながら、B23およびCaOのうち少なくとも1つの添加は、これらのMgOが豊富な組成物の液相温度を劇的に低下させることができる。実際、一部のレベルのB23、CaO、またはその両方が、特に高いナトリウム濃度、低いK2O濃度、および高いAl23濃度を有するガラスを有する、溶融プロセスに適合する液相粘度を得るためには必要でありうる。酸化ストロンチウム(SrO)は、高いMgOガラスの液相温度にCaOとまさに同一の影響力を有すると予想される。1つの実施の形態では、アルカリ土類金属酸化物濃度はMgO濃度自体よりも広範囲の5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%である。
【0041】
バリウムもまたアルカリ土類金属であり、酸化バリウム(BaO)の少量の添加、または他のアルカリ土類との酸化バリウムの置換は、アルカリ土類が豊富な結晶相を不安定化することによって、低い液相温度を生じうる。しかしながら、バリウムは、有害または有毒性の材料であると考えられる。したがって、酸化バリウムは、液相粘度に対する有害な影響がない、または軽度の改善がある、少なくとも2モル%の濃度で本明細書に記載されるガラスに添加されるが、酸化バリウム含量は、ガラスの環境影響を最小限にするため、一般に低く保たれる。よって、1つの実施の形態では、ガラスは実質的にバリウムを含まない。
【0042】
上述の元素に加えて、他の元素および化合物もまた、ガラス内の欠陥を排除または低減するために加えて差し支えない。本発明のガラスは、約1500℃〜1675℃で、比較的高い20kPa・s(200キロポアズ)の粘度を示す傾向にある。このような粘度は、工業的な溶融プロセスの典型であり、一部の事例では、これらの温度における溶融は、低いレベルのガス状の包有物を有するガラスを得るために必要とされうる。ガス状の包有物の排除を補助するため、化学的清澄剤を加えることが有用であろう。これらの清澄剤は、早期の泡をガスで満たし、溶融を通じてそれらの速度を上昇させる。典型的な清澄剤としては、限定はしないが、ヒ素、アンチモン、スズおよびセリウムの酸化物;金属ハロゲン化物(フッ化物、塩化物および臭化物);金属硫酸塩などが挙げられる。ヒ素酸化物は、それらは溶融段階の非常に遅くに酸素を放出することから、特に有効な清澄剤である。しかしながら、ヒ素およびアンチモンは、一般に、有害な材料とみなされている。
【0043】
したがって、1つの実施の形態では、ガラスは、実質的にアンチモンおよびヒ素を含まず、これらの元素の酸化物をそれぞれ約0.05重量%未満含む。したがって、清澄効果を生成することに関して、ヒ素またはアンチモンの使用を完全に避け、代わりにスズ、ハロゲン化物、または硫酸塩などの非有毒性の成分を使用することは、特定の用途において利点でありうる。酸化スズ(IV)(SnO2)および酸化スズ(IV)とハロゲン化物の組合せは、本発明における清澄剤として特に有用である。
【0044】
本明細書に記載のガラスは、ダウンドロー可能であり、言い換えれば、ガラスは、限定はしないが、ガラス製造の分野の当業者に知られている溶融ドローおよびスロットドロー法などダウンドロー方法を使用してシート状に成形することができる。これらのダウンドロー法は、イオン交換可能な平面ガラスの大量生産に使用される。
【0045】
溶融ドロー法は、溶融ガラス原料を受け入れるためのチャネルを有するドロータンクを使用する。チャネルは、その両側に、チャネルの長手方向に沿って、上部が開放された堰を有する。チャネルが溶融材料で満たされると、溶融ガラスは堰を流れ出る。重力の理由から、溶融ガラスはドロータンクの外表面を下方へと流れる。これらの外表面は下方に内側方向に延在し、それらがドロータンクの下のヘリで接合する。2つの流れるガラス表面は、このヘリで接合し、融合して単一の流れるシートを形成する。溶融ドロー方法は、チャネルから流出した2枚のガラスフィルムが互いに融合することから、得られるガラスシートの外表面のいずれも、装置の任意の部分と接触しないという利点を提供する。よって、その表面特性は、このような接触によって影響を受けない。
【0046】
スロットドロー法は、溶融ドロー方法とは区別される。この方法では、溶融原料ガラスはドロータンクに提供される。ドロータンクの底は、スロットの長手方向に沿って延在するノズルを有する開口スロットを有する。溶融ガラスはスロット/ノズルを通じて流れ、そこを通じて連続的なシートとして下方に、アニール領域へと引き込まれる。溶融ドロー法と比較して、スロットドロー法は、単一のシートのみがスロットを通じて流れることから、2枚のシートが融合する溶融ダウンドロー法よりも薄いシートを提供する。
【0047】
ダウンドロー法に適合させるため、本明細書に記載されるアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは高い液相粘度を有する。1つの実施の形態では、液相粘度は少なくとも13kPa・s(130キロポアズ)であり、別の実施の形態では、液相粘度は少なくとも25kPa・s(250キロポアズ)である。
【0048】
1つの実施の形態では、本明細書に記載されるアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、実質的にリチウムを含まない。本明細書では「実質的にリチウムを含まない」とは、リチウムを、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスの形成につながる処理工程の間にガラスまたはガラス原料に意図的には加えないことを意味する。実質的にリチウムを含まないアルカリアルミノケイ酸塩ガラスまたはアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、汚染に起因して、不注意に少量のリチウムを含みうることが理解されよう。リチウムの不存在は、イオン交換浴の毒作用を低減し、したがって、ガラスの化学的強化に必要とされる塩の供給を補充する必要性を軽減する。加えて、リチウムの不存在の理由から、ガラスは上述のダウンドロー法などの連続単位(CU)溶融技術およびそれに用いられる材料と適合し、後者は溶融ジルコニアおよびアルミナ耐火物、ならびに、ジルコニアおよびアルミナアイソパイプの両方を含む。
【0049】
1つの実施の形態では、ガラスは、イオン交換によって化学強化される。本明細書では「イオン交換された」という用語は、ガラスが、ガラスの製造分野の当業者に既知のイオン交換法によって強化されることを意味するものと解されたい。そのようなイオン交換法としては、限定はしないが、加熱したアルカリアルミノケイ酸塩ガラスを、ガラス表面に存在するイオンよりも大きいイオン半径を有するイオンを含む加熱溶液で処理し、したがって、小さいイオンを大きいイオンと置換する。例えばカリウムイオンは、ガラス中のナトリウムイオンと交換されうる。あるいは、ルビジウムまたはセシウムなどのより大きい原始半径を有する他のアルカリ金属イオンは、ガラス中のより小さいアルカリ金属イオンと交換されうる。同様に、限定はしないが、硫酸塩、ハロゲン化物などの他のアルカリ金属塩もイオン交換法に使用して差し支えない。1つの実施の形態では、ダウンドローガラスは、それを、KNO3を含む溶融塩浴に所定の時間設置し、イオン交換を達成することによって化学強化される。1つの実施の形態では、溶融塩浴の温度は約430℃であり、所定の時間は約8時間である。イオン交換による化学強化は、大きなガラス片上に行うことができ、それを次に、使用されることが意図された特定の用途に適切なサイズに切断(スライス、縫合、または別の処理)するか、または強化は、目的の用途に適切なサイズへとあらかじめ切断したガラス片上に行われる。
【0050】
ダウンドロー法は、比較的傷の無い表面を生成する。ガラス表面の強度が表面流れの量およびサイズによって調整されることから、表面との接触を最小限に抑えた傷の無い表面は、より高い初期強度を有する。次にこの高強度ガラスを化学強化すると、得られる強度は、重ねられ、磨かれている表面のものよりも高い。化学強化またはイオン交換によって高めると、操作性に起因して、ガラスのひびの形成に対する耐性も増大する。したがって、1つの実施の形態では、ダウンドローアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、300mm×400mmのシートについて、約0.5mmの反りを有する。別の実施の形態では、反りは約0.3mm未満である。
【0051】
表面圧縮応力とは、より大きいイオン半径を有するアルカリ金属イオンによって、ガラス表面層に含まれるアルカリ金属イオンを化学強化する間に、置換によって生じる応力のことをいう。1つの実施の形態では、カリウムイオンは、本明細書に記載されるガラスの表面層のナトリウムイオンと置換される。ガラスは少なくとも約200MPaの表面圧縮応力を有する。1つの実施の形態では、表面圧縮応力は少なくとも約600MPaである。アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約20μmの深さを有するイオン交換によって与えられる圧縮応力層を有する。1つの実施の形態では、イオン交換によって与えられる圧縮応力層は30〜80μmの範囲内である。
【0052】
その温度未満でガラスの網目が緩まる温度における、より小さいイオンのより大きいイオンによる交換は、応力特性を生じる、ガラスの表面へのイオンの分散を生じる。入ってくるイオンのより大きい体積は、表面の圧縮応力(CS)およびガラスの中央張力(CT)を生成する。圧縮応力は、次の関係により、中央張力に関係している:
CS=CT×(t−2DOL)/DOL
ここでtはガラスの厚さであり、DOLは交換の深さである。
【0053】
少なくとも0.3mmの厚さ、少なくとも約200MPaの表面圧縮応力、および少なくとも約30μmの深さを有する表面圧縮層を有するリチウムを含まないガラスもまた提供される。1つの実施の形態では、圧縮応力は少なくとも約600MPaであり、圧縮層の深さは少なくとも約40μmであり、リチウムを含まないガラスの厚さは約0.7mm〜約1.1mmの範囲にある。
【0054】
1つの実施の形態では、リチウムを含まないガラスは、64モル%≦SiO2≦68モル%;12モル%≦Na2O≦16モル%;8モル%≦Al23≦12モル%;0モル%≦B23≦3モル%;2モル%≦K2O≦5モル%;4モル%≦MgO≦6モル%;および0モル%≦CaO≦5モル%を含み、ここで、66モル%≦SiO2+B23+CaO≦69モル%;Na2O+K2O+B23+MgO+CaO+SrO>10モル%;5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%;(Na2O+B23)−Al23≦2モル%;2モル%≦Na2O−Al23≦6モル%;および4モル%≦(Na2O+K2O)−Al23≦10モル%であり、少なくとも13kPa・s(130キロポアズ)の液相粘度を有する。1つの実施の形態では、液相粘度は少なくとも25kPa・s(250キロポアズ)である。
【0055】
化学強化された、反射防止性の両疎媒性ガラス
別の実施の形態では、本発明は、反射防止SiO2またはF−SiO2(シリカ、溶融シリカまたはフッ素−ドープシリカ)層でコーティングされ、カバーガラスにある程度の疎水性および疎油性(すなわち、両疎媒性)を与えて水および油によるガラス表面の濡れを最小限に抑える、フッ素末端基を有する外部コーティングをさらに有する、透明な、耐損傷性の化学強化された保護カバーガラスからなる製品に関する。加えて、ARコーティングされた、化学強化ガラスへの両疎媒性のコーティングの施用は、指からガラス(指紋)への油の移動を最小限に抑え、さらには布による拭き取りによって油/指紋の除去を容易にする、両疎媒性のコーティングのフッ素末端基の存在に起因して、擦傷、摩耗、および他の耐損傷性を改善し、さらに、防指紋、防汚特性を与える。本明細書では「SiO2コーティング」という用語は、SiO2またはF−SiO2コーティングまたは複合材料SiO2/F−SiO2コーティングのいずれかを意味する。
【0056】
反射防止および摩耗耐性SiO2またはF−SiO2コーティングは、イオン交換の前後のいずれかに、塩基ガラスに設置されることが好ましい。好ましい実施の形態では、F−SiO2コーティングは、イオン交換し、かつ、例えば指紋に由来する油および汚れの除去を改善するために使用されるペルフルオロカーボンを設置前に、塩基ガラス上に設置される。ペルフルオロカーボンはガラス表面の表面エネルギーの低減に用いられ、これは、フッ素末端化表面結合の低極性の結果として達成される。ペルフルオロカーボンコーティングは、この保護が十分な耐用年数の間、典型的には少なくとも2年間持続するように、装置の顧客が使用するときに十分な耐久性を有することが重要である。
【0057】
さまざまな付着化学を用いて、ペルフルオロカーボンまたはペルフルオロカーボン含有材料をガラス表面に付着させることができる。しかしながら、イオン交換(例えば、塩基ガラス中のNaおよび/またはLiイオンをKイオンで交換)することによって、化学強化されたガラス表面は、Si−OH活性表面部位の数を制限し、ペルフルオロカーボンまたはペルフルオロカーボン含有部分と、イオン交換されたガラスの表面との共有結合を阻害する、Kイオンが豊富な表面を有する。SiO2またはF−SiO2コーティングを施用する利益の1つは、アルカリに富んだイオン交換された表面を有するコーティングのない化学強化ガラスに対する、SiO2またはF−SiO2コーティングされた化学強化ガラス上に存在する、増強したSi−末端化部位である。化学強化ガラス表面のSiO2またはF−SiO2コーティングの結果として、ペルフルオロカーボンまたはペルフルオロカーボン含有部分の結合は促進され、共有結合したペルフルオロカーボンまたはペルフルオロカーボン含有部分の表面密度は増大する。最も外側のフッ素化された種は、化学強化から得られるガラス強度の損失なしに、カバーガラスの「防指紋」特性または「洗浄しやすい」特性を生み出す。加えて、SiO2またはF−SiO2コーティングは、それ自体、またはSiO2またはF−SiO2の追加の層および別の金属酸化物膜(SiO2および/またはF−SiO2および/または「他の金属酸化物」の連続層を有しうる、多層コーティング)と併せて、反射防止コーティングとして作用することができる。これらの「他の金属酸化物」の例としては、例えば、HfO2、TiO2、ZrO、Y23、Gd23、および、反射防止コーティングに有用な当技術分野で既知の他の金属酸化物が挙げられる。さらに、MgF2は、反射防止層として使用することができ、化学強化ガラスに施用することができる。その後、ペルフルオロカーボン含有部分を反射防止コーティングに施用することができる。得られたコーティングされた化学強化ガラスは、増進された耐損傷性、抗反射、および両疎媒性の特性を有し、したがって、反射光および指紋に由来する光学干渉を最小限に抑える耐擦傷性表面を提供する。両疎媒性コーティングされた高い圧縮面DOLガラス、および反射防止コーティングの存在に起因する反射防止という、携帯ディスプレイ装置のための特性のこの組合せは、これらの装置に用いられる他のガラス材料では満たされていない。
【0058】
図3は、イオン交換によって形成される表面圧縮層、少なくとも200MPaの圧縮強度、非イオン交換された中央部分106、反射防止コーティング110、および両疎媒性のフッ素系の表面層102を有するアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品100を詳細に例証している。表面圧縮層104は20〜70μmの範囲の深さを有する。ガラス物品は、反射防止層110およびフッ素系の表面層102を除き、イオン交換された層104および中間層106からなる厚さを有する。一部の実施の形態では、厚さは少なくとも0.3mmである。
【0059】
反射防止コーティング層110は、少なくとも1つの層からなり、10〜70μmの範囲の厚さを有する。反射防止コーティングが2つ以上の層からなる場合、反射防止コーティング全体の厚さは10〜70μmの範囲である。フッ素系の両疎媒性の層は、典型的には、1〜10nm、好ましくは1〜4nmの範囲の厚さを有する。1つの実施の形態では、両疎媒性のコーティングは、1〜2nmの範囲の厚さを有する。単一の反射防止層が用いられる場合、コーティング材料はSiO2またはF−SiO2である。多層反射防止コーティングが用いられる場合、層104に最も近い層は、HfO2、TiO2、ZrO、Y23、Gd23、および反射防止コーティングとして有用な当技術分野で既知の他の金属酸化物からなる群より選択される金属酸化物層であり、上層はSiO2またはF−SiO2である。反射防止コーティングが3つ以上の層である場合、最上層はSiO2またはF−SiO2であり、上部のSiO2またはF−SiO2層および層104の間の反射防止コーティング層は、任意の順番で、前述の反射防止コーティング材料のいずれかでありうるが、好ましい実施の形態では、第1の層は金属酸化物層である。例えば、3層コーティングは、ガラス−Y23−TiO2−SiO2でありうる。
【0060】
化学強化された、反射防止性の両疎媒性ガラスは、現在市販されるカバーガラスに対し、次の利点を有する。
【0061】
1.フッ素含有両疎媒性付与部分で処理する前に塩基ガラスに施用される反射防止コーティングは、反射に起因する光学干渉を提示する働きをし、従ってギラギラする光を排除する。反射防止コーティングは多目的であり、その性能は光学干渉(または可視化)の角度を調整することを含み、よって、この効果を増進する多層コーティングを構造化することにより、「プライバシー」効果のための選択肢を提供する。
【0062】
2. 反射防止コーティングをフッ素含有部分で処理した後、得られる表面は無極性であり、異質な微粒子および油と処理したガラス表面の間の水素結合(すなわちファン・デル・ワールス力)を最小限に抑える。得られた処理表面は、非常に低い表面エネルギーおよび低い摩擦係数を有する。最終的な「コーティング」としてのフッ素−含有部分の設置の硬化および性能は、ギラギラする光の排除が、任意の顕著な指紋が光学干渉の唯一の源であり、これらを拭き取ることができることを意味することから、抗反射コーティングおよび表面の追加の利益である。
【0063】
3. 指紋除去は、典型的には、湿式または乾燥条件のいずれかの下、表面を布で拭き取ることによって行われる。これらの布は、しばしば再利用され、表面を擦傷する埃および微粒子を含む。フッ素化された表面は、指紋除去の容易さを促進する一方で、汚れを最小限に抑え、ガラスの破損による、即時または時期尚早の故障につながりうる、損傷を生じる事象の数および頻度を低減する。
【0064】
4.ガラスの耐擦傷性もまた改善される。高硬度の化学強化ガラス、およびその高い圧縮面DOL(例えば30〜80μmの深さ)は、損傷の防止および、拭き取りの繰り返しから生じるかもしれない損傷に由来する故障の防止の作用をする。その後、片方が両疎媒性のコーティングでコーティングされ、他の半分がコーティングされていない、ガラス物品を使用して、耐擦傷性を測定した。擦傷は、上述のように行った。次に、物品の両側の両領域についてヘイズを測定し、ここでヘイズは光学的透明度の尺度であり、言い換えれば、散光および透過光のすべての合計に対する散光である。試験結果は、コーティングされていないガラスではμK=0.25、コーティングされたガラスではμK=0.05であることを示し、したがって、両疎媒性のコーティングの存在に起因して、動摩擦における80%の低下を示した。動摩擦係数μKも測定した。コーティングされていない側に対し、摩擦の80%の低下がコーティングされた側に見られた。
【0065】
酸処理による表面の活性化
本発明のさらなる実施の形態では、化学強化ガラスの表面は、両疎媒性のコーティングの施用前に、酸処理によって活性化された表面である。先に述べたように、本発明に従い、傷や汚れのないドローガラスは、例えばNaまたはLiイオンなど、ドローしたガラスの陽イオンよりも大きい陽イオンを用いて、イオン交換によって、少なくとも30μmの深さまで化学強化され、ドローしたガラスはKイオンを用いてイオン交換されうる。この交換は、に説明したガラスに圧縮強度を付与する。しかしながら、化学強化ガラスはカリウムイオンが豊富な表面を有し、これが、両疎媒性のコーティングが共有結合可能なSi−OH活性表面部位を制限し、したがって、RFC(O)Cl、(RF2SiCl2または(RF3SiClまたは他のコーティング材料などの両疎媒性の材料のガラス表面への結合を阻害すると考えられる。両疎媒性のコーティングへの適用前のイオン交換されたガラスの酸処理は、両疎媒性のコーティングのガラスへの付着を促進し、ガラスの湿潤性および払拭性の両方を改善することが判明した。
【0066】
酸処理は、選択された深さ、すなわち、化学強化ガラスの機械的性能(例えば強度、耐擦傷性、衝撃損傷耐性)に影響を与えない深さまで、ガラス内へと化学的に交換されたイオンが除去されるように行われる。例えば本明細書に示すように、Naおよび/またはLiイオンのKイオンへのイオン交換は、少なくとも20μmの深さ、好ましくは30〜80μmの範囲の深さまで達成されるように行われる。酸処理は、イオン交換されたガラスの表面近くのKイオンのみが除去されるように行われ、典型的には<50nmの範囲の深さまでである。
【0067】
好ましい実施の形態では、酸処理は、交換したイオン(塩基ガラス内のNaおよび/またはLiイオンと交換したKイオン)を、5〜15nm(0.005〜0.015nm)の範囲の深さまで除去する。例えば、0.3mm(300μm)厚のガラスは、Naおよび/またはLiイオンと交換するイオンとしてKイオンを用いて、イオン交換浴に浸漬することによって交換され、浸漬は、イオン交換がNaおよび/またはLiイオンと置換したKイオンを有する、50μmの深さまで行われるのに十分な時間、行われる。側面の厚さを通して見た、得られた典型的なガラスは、50nmの厚さの2つの表面イオン交換された層および前記2つのイオン交換された層に挟まれた、200μmの非交換層を有するであろう。次に、酸処理は、交換したKイオンが、ガラスの機械的性能に影響を与えない深さである、10nm(0.01μm)の深さまで除去されるように行われる。ガラスの酸処理後、その厚さを通じて一方の表面からもう一方の表面まで見て、第1の0.01μmの非K層、第1の49.9μmのK−交換層、200μmの非交換中央層、第2の49.9μmのK−交換層、および第2の0.01μmの非K層を有する。あるいはイオン交換したガラスの一方の側を保護層で覆い、Kイオンが一方の側からのみ除去されるように酸処理することができる。Kイオンの除去後、Kイオンを除去した一方の側は両疎媒性のコーティングでコーティングされるか、または、反射防止コーティングでコーティングした後、両疎媒性のコーティングでコーティングすることができる。ガラスの処理に用いられる酸は一般に強酸であり、例えば、限定はしないが、硫酸(H2SO4)、塩酸(HCl)、過塩素酸(HClO4)、硝酸(HNO3)、および当技術分野で既知の他の強酸が挙げられる。使用可能な追加の酸として、リン酸(H3PO4)、酢酸(CH3COOH)、およびペルフルオロ酢酸(CF3COOH)が挙げられる。
【0068】
図4は、酸処理工程を含み、必要に応じて両疎媒性のコーティングの完全性および耐久性を検査および試験するための工程も含めた、両疎媒性の層でコーティングするガラス表面を調製するための一般的なプロセス工程を例証する概略図である。一般に、酸処理は、0.3〜0.5モルの硫酸溶液を使用して、5〜15分間、室温(およそ18〜30℃の範囲)で行った。
【0069】
表1は、そこに記載されるように酸処理の有無のいずれかの条件でアルコキシシリルパーフルオロポリエーテルDC2604[本明細書に記載の(RfnSiX4-n化合物]でコーティングされた、市販のコーニング社コード1317ガラスの性能データを示している。接触角は、水および皮脂油(実際の指紋油の代わりに使用した)の両方について測定した。両方の接触角には、酸処理後に増大が見られたのに対し、往復運動摩耗試験機を使用し、〜1.5PSIの負荷および10,000回までの払拭を用いた拭き取り試験によって決定するコーティングの耐久性では、酸処理による悪影響は受けなかった。皮脂油でコーティングされた、酸処理および未処理のガラス表面の両方の耐久性は、機械的摩擦装置を使用して、1.5psiおよび60Hzでの10,000回の摩擦払拭を生き延びた。摩擦は、平織りの綿織物を使用して行った。拭き取り後の接触角には、殆どまたは全く変化がなかった。
【表1】

【0070】
図5Aは、ヘイズを低減し、それによってコーティングされていないガラスに対するDC2604でコーティングされたCC1317ガラスの光学的透明度を向上させる払拭性能を例証している。最初に両方の表面は、ごくわずかなヘイズ(<0.03%、図示せず)を示した。指紋油(0回払拭)でコーティングした後、コーティングおよび非コーティングの両方の表面のヘイズは略同一(それぞれ〜3.8%および4%)であった。しかしながら、拭き取り後、コーティングガラスは、コーティングされていないガラスに行ったよりも、かなり早い光学的透明度の回復(ヘイズ減少)を示した。6回目の払拭後、コーティングされたガラスは完全な回復(測定可能なヘイズがないことを示す矢印162)を示したのに対し、コーティングされていないガラスは依然として〜0.5%のヘイズ(矢印160)を示していた。図5Bは、6回目の払拭を行った後の図5Aのガラスの写真である。ガラスは、左に位置するクランプ(符号付さず)によってバックグラウンドの上に保持される。図5Bでは、2つの側の分離を示す符号164の線とともに、符号160はコーティングされていない側を表わし、符号162はコーティングされた側を表わす。5Cは、150番の紙やすりを使用して表面全体を摩耗させたガラスの写真である。図5Cでは、符号160は、紙やすりのせいで、コーティングされていない側の摩耗を示しているのに対し、コーティングされた側160は摩耗を示さず、透明に保持された。数字164は、両方の側の分離を示し、ガラスは左に位置するクランプ(符号付さず)によってバックグラウンドの上に保持される。
【0071】
図6は、コーティングガラスおよび非コーティングのガラスを使用して、150番の紙やすりを用いた摩耗によって生じるヘイズ(光学的透明度の欠如)を例証している。ガラスサンプルの一方を両疎媒性のコーティングでコーティングし、50/50硬化(50/50=50℃および50%水分で2時間硬化を行い、次にすすいで、結合していないコーティングを除去する)し、他の半分はコーティングしなかった。次に、サンプルを、コーティングおよび非コーティングの両方の表面を摩耗させた。データは、それぞれ、コーティングされていない表面が〜9.8%のヘイズを有し、コーティングされた表面は〜1.76%のヘイズを有することを示唆している。よって、コーティングは、コーティングされていない表面に損傷を与えることによって生じるヘイズの75%の低下を表わす。図4では、偶数の符号210〜226は表2に示す意味を有する。
【表2】

【0072】
図7は、CC1317のDC2604コーティングされた表面とコーティングされていない表面の動摩擦係数μKを例証している。20mm/秒の一定速度でサファイアボールと接触する「ボール・オン・フラット」型の滑り接触を使用して、2.0mmの距離に0.2〜15.4gの負荷を増大させる、摩擦試験を行った。データは、コーティングの使用が、コーティングされていないガラスに対してμKの>60%の減少を生じることを示している。
【0073】
図8は、片方は酸で処理し(0.35硫酸溶液)、もう半分は酸処理していない、化学強化されたCC1317ガラスサンプルの棒グラフである。酸処理の後、ガラスをすすぎ、プラズマ処理し、次いで表面全体を両疎媒性のコーティングでコーティングし、コーティングを硬化(50/50硬化)させた後に、指紋油で処理した。0回払拭のデータは、コーティングされていない表面およびコーティングされた表面でそれぞれ17%および`14%のヘイズレベルを示している。1回の払拭は、コーティングされていない表面およびコーティングされた表面でそれぞれ、ヘイズを〜1.3%および1%に減少させた。2回の払拭は、コーティングされていない表面のヘイズを〜0.2%に、コーティングされた表面のヘイズを0%に低減させた。これらの結果は、両疎媒性の材料でのコーティングの前の酸処理が、拭き取り性能を大幅に改善したことを示し、この改善は、両疎媒性のコーティングのガラスの表面への付着を増大させることに起因すると考えられる。
【0074】
本明細書に記載のようにコーティングされたカバープレートは、そこに配置された流体物質について、10°未満の転落角を有する。表3は本明細書に記載のペルフルオロカーボンコーティングを有するガラス表面の、水、ヘキサデカンおよび皮脂油についての接触角および転落角を示している。接触角は物質に従って115°〜65°変化し、転落角は物質に従って1°〜9°に配置される。
【表3】

【0075】
液滴が固体の平らな表面に置かれ、それが表面上を完全には拡散しない場合、「接触角」が形成される。接触角は、液体、気体、および固体が交差するときに、3層の境界を通じて引かれる接線の液側における角度と定義される。接触角は、液体による固体の濡れの定量的尺度であり、接触角を測定するための市販の機器が存在する。接触角は、一般に、表面エネルギーを評価するために、非スティックコーティングについて測定される。例として水を使用して、表面エネルギーが低い場合、接触角は高く、液体が表面を濡らしていないことを意味する。接触角に加えて、固体表面上の液滴の「転落角」もまた、決定することができる。転落角を決定するため、液滴は平らな固体表面上に設置され、固体表面をゆっくりと傾ける。液滴は、最初に前傾になり、表面は、さらに傾けると、最終的には下方へと滑る。液滴が下方向に滑り始めた時の固体の傾きが「転落角」である。
【0076】
裏面の保護
本発明のさらなる実施の形態では、本発明のガラス物品のための裏面(または装置の部品面)保護は、本明細書に記載されるプロセスの間に提供される。裏面の保護は、明細書に記載される両疎媒性の化学強化ガラスカバー表面を有する、物品の使用者には「触れられ」ないであろうガラスの側面を保護する。ガラスの裏面は触れられないが、カバーガラスが用いられる要素に隣接するであろうことから、コーティングは必要ない。
【0077】
裏面の保護は、ガラスに施用される「テープまたは膜」または「紙/非接着膜」の使用によって達成することができる。「テープまたは膜」プロセスは、両疎媒性のコーティングプロセスの間の溶解に耐性であり、かつ、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)またはケトン(アセトン、メチルエチルケトンおよび同様のケトン性溶媒)中に除去できる、積層材料を使用する。アクリルの粘着積層体は、膜として施用でき、ディップまたは熱蒸発技術の間に片側を保護するのに使用する、典型的な材料であり、これは、両疎媒性のコーティングに対して耐性であるが、粘着層はアセトンに溶解性である。ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレンおよびポリエチレン・テレフタレート(PET)は、典型的なテープ/膜の裏打ち材料の例であり、次いで、アクリル接着剤または改質アクリル接着剤で連結し、それらをガラスの裏側に施用することができる。テープ/膜は片側にのみ接着剤を有し、ガラス物品の前面または利用者側への両疎媒性のコーティングの施用後、テープを除去することができる。好ましいテープ/膜は、ダイカットでき、市販のラミネーターを用いてガラス表面に積層できるものである。裏面が保護されたガラス物品を両疎媒性のコーティングでコーティングした後、例えば剥離によってテープを除去する。テープを除去した後、任意の残留する接着剤を、両疎媒性のコーティングに影響を与えることなく接着剤を除去する適切な溶媒の施用によって除去する。典型的には、コーティングは、テープ残留物を除去する溶媒と同一の溶媒には溶解性ではない。
【0078】
例えば、乾燥または湿った紙などの紙/非接着膜もまた、裏面の保護に使用することができ、または例えば両疎媒性のコーティングを含めた浴に部品を浸漬する前に、2つの部品間で押圧することもできる。裏面の保護に紙を使用する場合、好ましい方法は、紙(好ましくは両疎媒性の材料を含まない液体で湿らせたもの)を表面に置くこと、およびガラス物品を紙の上に置くことである。次いで、そのまま、または溶媒中の両疎媒性のコーティングを、物品の曝露した表面に施用する。湿った紙の使用は、両疎媒性のコーティングがガラスと紙の間を通過するのを妨げる。
【0079】
典型的な実施の形態は、図示する目的で記載されているが、前述の説明は本発明の範囲を限定するとみなされるべきではない。したがって、当業者には、本発明の精神および範囲から逸脱することなくさまざまな変更、適合、および代替手段が生じるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の長さ、幅、および少なくとも約0.3mmの厚さ、
少なくとも約200MPaの表面圧縮応力、
少なくとも約20〜80μmの深さを有し、ガラスの表面物品に化学結合した両疎媒性のフッ素系の表面層を有する、表面圧縮層
を備えた、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品であって、
前記結合したフッ素系の表面層が、
(1)フッ素系のモノマーで交換したシリカ−OH基末端化した活性表面部位;
(2)フッ素末端の分子鎖の組織化単分子層;
(3)薄い、フッ素ポリマーコーティング;
(4)一般式(RFnSiX4-nのケイ素化合物であって、ここで、RFは、フッ化炭素部分であり、Xは、フッ素以外のハロゲンおよびC2−C6アルコキシ基からなる群より選択され、nは1〜3の範囲である;
(5)フッ素末端基であらかじめ誘導化されているか、フッ素末端基を有するように処理されているシリカスート微粒子;
からなる群より選択される、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項2】
前記ガラス物品が、前記ガラス物品に結合した、テクスチャ化またはパターン化した薄膜表面をさらに備え、
前記テクスチャ化またはパターン化した薄膜表面がフッ素系の表面層であることを特徴とする請求項1記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項3】
前記圧縮応力が少なくとも約600MPaであり、前記表面圧縮層の深さが少なくとも40μmであり、前記厚さが約0.7mm〜約1.1mmの範囲にあることを特徴とする請求項1記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項4】
前記ガラスが、64モル%≦SiO2≦68モル%;12モル%≦Na2O≦16モル%;8モル%≦Al23≦12モル%;0モル%≦B23≦3モル%;2モル%≦K2O≦5モル%;4モル%≦MgO≦6モル%;および0モル%≦CaO≦5モル%を含み、
ここで:66モル%≦SiO2+B23+CaO≦69モル%;Na2O+K2O+B23+MgO+CaO+SrO>10モル%;5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%;(Na2O+B23)−Al23≦2モル%;2モル%≦Na2O−Al23≦6モル%;および4モル%≦(Na2O+K2O)−Al23≦10モル%であり、
前記ガラスが少なくとも13kPa・s(130キロポアズ)の液相粘度を有する
ことを特徴とする請求項1記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項5】
前記ガラスがその上に反射防止コーティングを有することを特徴とする請求項1記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項6】
前記ガラスの表面が、前記ガラスの表面にフッ素系の表面層を施用する前に、<50nmの深さまで処理されている、酸処理した表面であることを特徴とする請求項1記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項7】
前記結合したフッ素系の表面層が、式(RFnSiX4-nの化合物に基づいており、
Fは、C1−C22アルキルフッ化炭素であり、nは1〜3の範囲の整数であり、前記フッ素系の表面層の厚さが1〜10nmの範囲にあり、
Xはフッ素以外のハロゲンおよびアルコキシ基(−OR)からなる群より選択され、ここで、Rは1〜6個の炭素原子の直鎖または分岐鎖炭化水素である
ことを特徴とする請求項1記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項8】
前記反射防止コーティングが、シリカ、溶融シリカ、F−ドープ溶融シリカ、およびMgF2からなる群より選択され;ここで、前記反射防止コーティングの厚さが、10〜60μmの範囲であることを特徴とする請求項5記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項9】
前記反射防止コーティングが、HfO2、TiO2、ZrO、Y23、およびGd23からなる群より選択され;ここで、前記反射防止コーティングの厚さが、10〜60μmの範囲であることを特徴とする請求項5記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項10】
コーティングされたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を防指紋特性および防汚特性にする方法であって、前記方法が、:
長さ、幅および厚さを有するアルカリアルミノケイ酸塩ガラス基板を提供し;
前記ガラス基板の表面を20〜80μmの範囲の深さまで化学的に強化し;
前記ガラス表面を機械加工または別の最終仕上げに供し、;
前記ガラス表面を超音波洗浄し;
随意的に、少なくとも1つのガラスの表面を、強酸の溶液を用いて酸洗浄し、
前記少なくとも1つのガラスの表面を、O2を用いてプラズマ洗浄し;
随意的に、前記ガラスを反射防止コーティングでコーティングし;
前記洗浄したガラス表面または前記反射防止コーティング表面を、両疎媒性のコーティングでコーティンし;
前記両疎媒性のコーティングを、選択温度および選択湿度で、選択した時間、硬化し;
前記コーティングされたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を検査し、
ここで、前記随意的な反射防止コーティングは、シリカ、溶融シリカ、F−ドープ溶融シリカ、HfO2、TiO2、ZrO、Y23、およびGd23からなる群より選択される、
方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−510904(P2011−510904A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545870(P2010−545870)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/000722
【国際公開番号】WO2009/099615
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】