説明

電子鍵盤楽器の操作子ユニット

【課題】操作子の力覚制御と動作制御(傾き具合の調節)との両方を適切に行い、自然鍵盤楽器に近い操作子の操作感覚を良好に得られるようにする。
【解決手段】長手方向に沿う前部(第1の位置)10aと後部(第2の位置)10bの各々が独立して上下移動可能に支持された長尺状の鍵10と、前部10aと後部10bを連動させて駆動することで、鍵10の長手方向における任意の位置を支点として設定し、該支点を中心に鍵10を揺動させる第1、第2ソレノイド(駆動手段)21,22と、鍵10の動作を検出する第1、第2センサ(動作検出手段)31,32と、第1、第2センサ31,32で検出した鍵10の動作に基づいて、第1、第2ソレノイド21,22を制御することで、鍵10に生じる反力及び鍵10の傾き具合を含む動作を制御する制御部(力覚制御手段)40と、を備える電子鍵盤楽器の鍵盤ユニット1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子鍵盤楽器が備える鍵あるいはペダルなどの操作子を有する操作子ユニットに関し、特に、操作子の操作感覚をアコースティックピアノなどの自然鍵盤楽器に近づけることができる操作子ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
アコースティックピアノなど生音を発生する自然鍵盤楽器の鍵盤ユニットは、押鍵により回動するハンマーが打弦して発音するように構成されており、鍵とハンマーの間には、ジャックやウィッペンを有してなるアクション機構が設けられている。このアクション機構によって、演奏者の指に鍵から独特の反力が掛かるようになっており、自然鍵盤楽器では、各楽器に特有の鍵タッチ感が得られる。
【0003】
一方、電子ピアノなど電子音を発生する電子鍵盤楽器の鍵盤ユニットは、押鍵時に鍵を初期位置に復帰させるためのスプリングや質量体(擬似ハンマー)などの機構を備えている。そして、これらスプリングや質量体による反力によって、上記のような自然鍵盤楽器の鍵タッチ感を模擬している。ところが、主に以下のような要因により、電子鍵盤楽器の鍵タッチ感は、厳密には自然鍵盤楽器の鍵タッチ感とは異なるものとなっている。
【0004】
第1に、電子鍵盤楽器は、押鍵により電子音を発生させる装置であり、自然鍵盤楽器のように実際に打弦して発音する機構を有していないので、自然鍵盤楽器のような複雑なアクション機構がない。したがって、アクション機構に相当するスプリングや質量体の機構は比較的単純なものとなっている。そのため、スプリングや質量体だけでは、自然鍵盤楽器のアクション機構において様々な要素に基づいて生じる鍵タッチ感を忠実には再現しきれない。
【0005】
第2に、電子鍵盤楽器は、自然鍵盤楽器に比べて小型化が図れることが長所であるが、小型化によって鍵盤ユニットの奥行きが小さくなると、鍵の先端から支点(揺動支点)までの距離が短くなる。そのため、鍵の先端のストローク(上下の移動量)を維持すると、自然鍵盤楽器と比べて押鍵時の鍵の前傾量が大きくなり、鍵の動作が急になる。これにより、電子鍵盤楽器における鍵の動作やタッチ感に違和感が生じてしまう。
【0006】
そこで、電子鍵盤楽器において自然鍵盤楽器に近い鍵動作あるいは鍵タッチ感を得ることを目的とした鍵盤ユニットがいくつか提案されている。例えば、特許文献1に記載の鍵盤ユニットは、鍵を駆動するためのソレノイドを有する鍵駆動装置と、鍵駆動装置を制御する制御装置(力覚制御手段)とを備えており、これらによって鍵タッチ感を任意に調節して、自然鍵盤楽器に近づけるようになっている。
【特許文献1】特許3772491号公報
【0007】
また、特許文献2に記載の鍵盤ユニットは、鍵駆動装置として、印加電圧によって粘性を調節可能な電気粘性流体(以降、「ER〔Electro-Rheological〕流体」と呼ぶ)を用いたダンパーを備えている。この鍵盤ユニットによれば、ER流体の粘性を調節して押鍵時のダンパーの抵抗を変化させることで、鍵タッチ感を任意に調節可能となっている。また、特許文献3に記載の鍵盤ユニットは、鍵駆動装置として、磁気引力と機械的摩擦力との組み合わせにより押鍵に対する反力を調節する機構を備えている。
【特許文献2】特開平7−13557号公報
【特許文献3】特許3666129号公報
【0008】
一方、特許文献4に記載の鍵盤ユニットは、鍵を揺動させるアームの交差角度などの配置構成を可変とすることで、鍵の揺動支点の位置を変えることができる機構を備えている。この鍵盤ユニットによれば、鍵の揺動支点を実際の鍵の後端よりもさらに奥側に配置することで、押鍵時の鍵の前傾を緩やかにし、鍵の動作をグランドピアノなどの自然鍵盤楽器に近づけることを可能としている。
【特許文献4】特開平4−66995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1乃至特許文献3に記載の鍵盤ユニットでは、力覚制御によって鍵タッチ感を任意に調節できるため、上記第1の問題点には対処できる。しかしながら、鍵の支点位置が固定されているため、押鍵時の鍵の傾き具合は調節できず、第2の問題点は解消できない。一方、特許文献4に記載の鍵盤ユニットでは、押鍵時の鍵の傾き具合を調節できるため、第2の問題点は解消できるが、鍵の力覚制御を行う手段を備えていないため、第1の問題点には対処できない。したがって、ここで挙げたいずれの従来技術を用いても、鍵の力覚制御を行いつつ押鍵時の鍵の傾き具合を調節することで自然鍵盤楽器に近い鍵の操作感覚を良好に得ることはできなかった。
【0010】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、操作子の力覚制御と操作子の動作制御(傾き具合の調節)との両方を適切に行うことで、自然鍵盤楽器に近い操作子の操作感覚を良好に得られる電子鍵盤楽器の操作子ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明にかかる電子鍵盤楽器の操作子ユニットは、長手方向に沿う第1の位置と第2の位置とが独立して上下移動可能に支持された長尺状の操作子と、第1の位置と第2の位置とを連動させて駆動することで、操作子の長手方向に沿う任意の位置を支点として設定し、該支点を中心に操作子を揺動させる駆動手段と、操作子の動作を検出する動作検出手段と、動作検出手段で検出した操作子の動作に基づいて駆動手段を制御することで、操作子に生じる反力及び操作子の動作を制御する力覚制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この電子鍵盤楽器の操作子ユニットでは、操作子の第1の位置と第2の位置とが各々独立して上下移動可能となるように支持した上で、該操作子の第1の位置と第2の位置とを連動させて駆動する駆動手段と、動作検出手段で検出した操作子の動作に基づいて駆動手段を制御する力覚制御手段との両方を備えている。これにより、操作子の揺動支点をその長手方向における任意の位置に設定でき、操作子の傾き具合(沈み具合)を制御できる。それに加えて、力覚制御手段にて反力の力覚制御を行うことで、操作子の反力を調節できる。このように操作子の傾き具合を制御しつつ操作子に生じる反力の力覚制御を行うことによって、アコースティックピアノなどの自然鍵盤楽器に近い操作子の操作感覚を良好に得られる操作子ユニットとなる。
【0013】
また、上記操作子が鍵である場合、奥行き寸法が小さい電子鍵盤楽器の鍵盤ユニットにおいて、上記の駆動手段によって、鍵の揺動支点を実際の鍵の後端よりも後方に設定できるので、押鍵時の鍵の傾き具合を緩やかにできる。これにより、鍵の動作をグランドピアノなどの自然鍵盤楽器に近づけることが可能となる。また、演奏者の好みに応じて押鍵時の鍵の傾き具合を任意に調節することも可能となる。なお、本発明にかかる操作子には、鍵以外にペダルなども含まれる。したがって、本発明は、電子鍵盤楽器の鍵盤ユニットのみならずペダルユニットなどにも適用することが可能である。
【0014】
なお、本発明の操作子ユニットが備える駆動手段には、自ら動作することで主体的に操作子を動かすソレノイドやモータなど、いわゆるアクティブな制動力を生じる機構だけでなく、主体的に操作子を動かすことはないが、操作子の操作に対する反力を受動的に発生するダンパーや摩擦部材など、いわゆるパッシブな制動力を生じる機構も含まれる。また、ここでいう駆動には、上記のアクティブな制動力を生じる機構による主体的な動作と、パッシブな制動力を生じる機構による受動的な動作との両方が含まれる。したがって、上記操作子駆動手段は、ソレノイド、電気粘性流体の粘性変化によって駆動力を変化させる機構、サーボモータ、形状記憶合金の形状回復によって駆動力を変化させる機構、などを用いて構成することができる。
【0015】
また、本発明の操作子ユニットでは、上記構成に加えて、力覚制御手段は、操作子の動作及び操作子に生じる反力のパターンを複数格納してなる力覚付与テーブルを備え、動作検出手段により検出した操作子の動作に基づいて、力覚付与テーブルに格納された複数のパターンから一のパターンを選択し、該選択したパターンを駆動手段に出力することで、操作子に生じる反力及び操作子の動作を制御するようにしてもよい。
【0016】
この構成によれば、グランドピアノ、アップライトピアノ、オルガンをはじめとする様々な自然鍵盤楽器の操作子の動き及び反力のシミュレートが可能となり、各種自然鍵盤楽器の操作子の操作感覚を忠実に再現できるようになる。
【0017】
また、本発明の操作子ユニットでは、上記構成に加えて、力覚制御手段は、駆動手段による反力に抗して操作された第1の位置又は第2の位置のいずれか一方の操作量に基づいて第1の位置又は第2の位置のいずれか他方を駆動する駆動手段を制御することで、操作子の傾き具合を制御してもよい。
【0018】
この構成によれば、操作子に生じる反力の調節と合わせて操作子の動作(傾き具合)を制御することが簡単に行えるようになり、各種自然鍵盤楽器の操作子の操作感覚をより忠実に再現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる操作子ユニットによれば、電子鍵盤楽器が備える鍵やペダルなどの操作子の操作において、自然鍵盤楽器の操作子に近い操作感覚を良好に得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる鍵盤ユニット1が備える鍵10及びその動作機構の構成を示す概略図である。なお、以下の説明では、鍵10の長手方向における両側のうち、鍵10を操作する演奏者の側を手前あるいは前といい、その反対側を奥あるいは後という。鍵10は、後端が鍵ガイド部11によってガイドされ、図示しないフレームなどの固定部に対して移動可能に支持されている。鍵盤ユニット1は、鍵10を駆動する駆動手段として、鍵10の前部(第1の位置)10aの下面側に設置した第1ソレノイド(第1の駆動部)21と、鍵10の後部(第2の位置)10bの下面側に設置した第2ソレノイド(第2の駆動部)22とを備えている。第1ソレノイド21は、鍵10の前部10aを上下に駆動し、第2ソレノイド22は、鍵10の後部10bを上下に駆動する。なお、第1、第2ソレノイド21,22は、自ら動作することで主体的に鍵10を動かすことが可能ないわゆるアクティブな制動力を生じる機構である。これら第1、第2ソレノイド21,22は、後述する制御部40による制御にて鍵10の前部10aと後部10bとを互いに連動させて駆動することで、鍵10の長手方向における任意の位置を支点として設定し、該支点を中心に鍵10を揺動させることができる。
【0021】
ここでは、鍵10の長手方向に沿う第1の位置である前部10aを鍵10の前端の直後における押鍵操作部近傍の位置とし、第2の位置である後部10bを鍵ガイド部11近傍の直前の位置としたが、鍵の長手方向に沿う第1の位置及び第2の位置とは、鍵の長手方向に沿って配置された二箇所の位置であれば、具体的な位置は本実施形態に示す位置には限られない。したがって、例えば、前部10a及び後部10bの両者あるいはいずれか一方が鍵10の長手方向の中間部により近い位置にあるなど、他の位置にあってもよい。
【0022】
図2は、鍵ガイド部11の構成例を示す図で、(a)は、鍵10の概略側断面図、(b)は、鍵10の概略平面図である。なお、同図及び下記の図3では、鍵10及び鍵ガイド部11と第1、第2ソレノイド21,22のみを図示し、それ以外の部分は図示を省略している。鍵ガイド部11は、軸方向を垂直にして固定されたガイド軸12と、鍵10の後端部においてガイド軸12を挿通するガイド穴13とで構成されている。ガイド穴13は、ガイド軸12に対して上下移動自在になっている。また、同図(b)に示すように、ガイド軸12の前後及び左右の外周がガイド穴13の内周に接している。これにより、鍵10の前後及び左右方向への移動が規制されている。また、同図(a)に示すように、鍵10の長手方向が水平な状態で、ガイド穴13の中心軸方向がガイド軸12に対して前後方向に傾斜しており、ガイド穴13の前方の下部及び後方の上部に隙間が形成されている。したがって、鍵10は、この隙間の範囲内で前後方向の傾き量を任意に変更可能となっている。また、図示は省略するが、鍵10の前部10a及び後部10bの上方及び下方にはそれぞれ、前部10a及び後部10bの上下移動を所定位置にて規制するためのストッパーが設けられている。以上により、鍵10は前後及び左右方向への移動を規制された状態で、長手方向の前部10aと後部10bとが独立して上下移動可能になっている。
【0023】
図3は、鍵ガイド部11の他の構成例を示す図である。同図(a)に示す鍵ガイド部11−2は、図2に示す鍵ガイド部11のガイド穴13とは異なる形状のガイド穴13−2を備えている。ガイド穴13−2は、その上下方向の中間部に、細くくびれた形状の当接部13aを有しており、該当接部13aがガイド軸12の外周に当接している。これにより、鍵10は、前後及び左右方向への移動が規制された状態で、当接部13aを支点としてその上下に形成された隙間の範囲内で上下方向に揺動可能となっており、前部10aと後部10bとが互いに独立して上下移動可能になっている。
【0024】
図3(b)に示す鍵ガイド部11−3は、鍵10を揺動可能に支持するための球形状の支持部12aを有するガイド軸12−3を備えており、鍵10のガイド穴13−3は、支持部12aを回転自在に収納する形状に形成されている。これにより、鍵10は、前後及び左右方向への移動が規制された状態で、支持部12aを支点として長手方向に沿って上下方向に揺動可能となっており、前部10aと後部10bとが互いに独立して上下移動可能になっている。
【0025】
図3(c)に示す鍵ガイド部11−4は、鍵10のガイド穴13−4及びその周辺部分が可撓性を有する軟質部材14で構成されており、ガイド軸12−4はガイド穴13−4の内周の全周に密着状態で挿通されている。この構成例では、ガイド軸12−4に支持された鍵10は、軟質部材14の変形によって前部10aと後部10bが独立して上下移動可能となっている。なお、この場合も軟質部材14によって鍵10の前後及び左右方向への移動は規制されている。
【0026】
図4は、鍵10の他の構成例を示す図で、(a)は、鍵10の概略側面図、(b)は、(a)のA−A概略矢視断面図である。同図に示す鍵10は、図2に示す鍵10が備える鍵ガイド部11を省略し、それに代えて、ソレノイド21、22のロッドの先端が回動軸21a,22aを介して鍵10の前部10aと後部10bとにそれぞれ回動自在に軸支された機構を備えている。このような機構によっても、鍵10は、前後及び左右方向への移動が規制された状態で、前部10aと後部10bとが互いに独立して上下移動可能な状態になる。
【0027】
図1に戻り、鍵盤ユニット1には、鍵10の動作を検出する動作検出手段として、鍵10の前部10aの動作を検出する第1センサ(第1の動作検出部)31と、鍵10の後部10bの動作を検出する第2センサ(第2の動作検出部)32とが備えられている。第1センサ31及び第2センサ32は、鍵10の変位、速度、加速度、角度、角速度のいずれか、あるいはこれらのうちの複数を検出可能なセンサである。このようなセンサの一例として、詳細な図示は省略するが、鍵10に取り付けたシャッタと、該シャッタにより光路が遮蔽されるフォトセンサとによって構成される光学式センサがある。この場合、鍵10の位置変化に応じて遮光量が連続的に変化するようにシャッタの形状が設定され、フォトセンサの出力信号から鍵10の位置が一義的に特定されるようになっている。なお、第1センサ31及び第2センサ32は、鍵10の位置を検出できるセンサであれば光学式に限らず他の方式によるセンサでもよい。
【0028】
また、鍵盤ユニット1は、第1、第2ソレノイド21,22による鍵10の駆動を制御する制御部(力覚制御手段)40を備えている。制御部40からの制御信号は、第1ソレノイド制御ドライバ41を介して第1ソレノイド21に入力され、第2ソレノイド制御ドライバ42を介して第2ソレノイド22に入力される。また、第1センサ31と第2センサ32からの検出信号は、それぞれ第1センサ信号処理回路33と第2センサ信号処理回路34を介して制御部40に入力される。
【0029】
図5は、鍵盤ユニット1及び制御部40を含む電子鍵盤楽器の全体構成例を示すブロック図である。制御部40は、CPU89、ROM82、RAM83を備えている。また、CPU89にはタイマ91が接続されている。CPU89は、鍵盤ユニット1を含む電子鍵盤楽器全体の制御を司る。ROM82は、CPU89が実行する制御プログラムや各種テーブルデータのほか、後述する力覚付与テーブル90を記憶している。RAM83は、演奏データ、テキストデータなどの各種入力情報、各種フラグやバッファデータ及び演算処理結果などを一時的に記憶する。タイマ91は、タイマ割り込み処理における割り込み時間などの各種時間を計時する。
【0030】
また、電子鍵盤楽器には、制御部40のほか、設定操作部81、表示装置84、外部記憶装置85、外部インターフェイス86、音声出力部87などが設けられている。これら各部と上記の制御部40及び鍵盤ユニット1は、バス88を介して互いに接続されている。外部インターフェイス86には、不図示の外部機器が接続されている。設定操作部81には、不図示の各種スイッチが含まれ、該スイッチの操作による信号がCPU89に供給されるようになっている。外部記憶装置85は、上記の制御プログラムを含む各種アプリケーションプログラムや各種楽曲データなどを記憶するものである。
【0031】
ROM82に格納された力覚付与テーブル90は、第1、第2ソレノイド21,22が発生すべき駆動力(あるいは反力)のパターンを複数格納したもので、制御パターンテーブル90aと出力テーブル90bとを備えている。制御パターンテーブル90aは、第1、第2センサ31,32からの鍵10の動作(位置、速度、加速度、角度、角速度のいずれかまたは複数)を示す信号に対する第1、第2ソレノイド21,22の出力値を参照するためテーブルである。また、出力テーブル90bは、第1、第2ソレノイド21,22に上記の出力値を発生させるための指令値を参照するテーブルである。これら制御パターンテーブル90a及び出力テーブル90bは、第1ソレノイド21と第2ソレノイド22に対応するものがそれぞれ別に用意されている。さらに、力覚付与テーブル90は、グランドピアノ、アップライトピアノ、パイプオルガン、エレクトーンなどの各種鍵盤楽器の鍵タッチ感及び鍵動作を再現するためのものが別に用意されており、それらがROM82に格納されている。
【0032】
ここで、上記構成の鍵盤ユニット1における鍵10のタッチ感及び動作の制御手順を説明する。図6は、この制御手順を説明するためのフローチャートである。以下では、グランドピアノに近似した鍵タッチ感及び鍵動作が得られるように制御する場合を例に説明する。まず、あらかじめ、設定操作部81におけるスイッチなどの操作によって、グランドピアノの鍵タッチ感が指定されることで、ROM82に格納された複数の力覚付与テーブル90からグランドピアノの反力パターンが選択される。その後、制御部40の設定が初期化される(ステップST1−1)。そして、鍵10が初期位置にあるか否かが判断される(ステップST1−2)。その結果、鍵10が操作されて初期位置から移動している場合(N)、第1、第2センサ31,32にて、鍵10の前部10aと後部10bの動作情報(変位(x)、速度(v)、加速度(a)、角度(θ)、角速度(ω)のいずれかまたは複数)を検出する(ステップST1−3)。第1、第2センサ31,32による検出信号は、それぞれ第1センサ信号処理回路33、第2センサ信号処理回路34を経て制御部40に入力される。
【0033】
CPU89は、上記の入力信号に応じて、ROM82に格納された力覚付与テーブル90の制御パターンテーブル90aから、第1ソレノイド21の出力F1=f1(x1,v1,a1,θ1,ω1)と、第2ソレノイド22の出力F2=f2(x2,v2,a2,θ2,ω2)をそれぞれ参照する(ステップST1−4)。さらに、第1ソレノイド21の出力F1を発生させるための指令値D1=f1(F1)と、第2ソレノイド22の出力F2を発生させるための指令値D2=f2(F2)を出力テーブル90bから参照する(ステップST1−5)。そして、これら参照により決定した指令値D1,D2を第1、第2ソレノイド制御ドライバ41,42へ出力し(ステップST1−6)、第1、第2ソレノイド21,22を駆動する(ステップST1−7)。こうして、第1、第2ソレノイド21,22からグランドピアノに近似した鍵タッチ感及び鍵動作を再現するための駆動力が鍵10に付与される。その後、鍵10が初期位置にあるか否かを再度判定し(ステップST1−8)、初期位置にない場合(N)、ステップST1−3以降の手順を繰り返す。鍵10が初期位置に戻るまでこの手順を繰り返し、初期位置に戻ったら(Y)、第1、第2ソレノイド21,22の駆動出力をクリアし(ステップ1−9)、処理手順を終了する。
【0034】
次に、鍵盤ユニット1における鍵10のタッチ感及び動作の他の制御手順を説明する。図7は、この制御手順を説明するためのフローチャートである。この場合も、あらかじめ、設定操作部81におけるスイッチなどの操作によって、グランドピアノの鍵タッチ感が指定されることで、ROM82に格納された複数の力覚付与テーブル90からグランドピアノの反力パターンが選択される。その後、制御部40の設定が初期化される(ステップST2−1)。次に、鍵10が初期位置にあるか否かが判断される(ステップST2−2)。その結果、鍵10が初期位置から移動している場合(N)、第1、第2センサ31,32にて、鍵10の前部10aと後部10bの動作情報を検出する(ステップST2−3)。第1、第2センサ31,32による検出信号は、それぞれ第1センサ信号処理回路33、第2センサ信号処理回路34を経て制御部40に入力される。
【0035】
CPU89は、上記の入力信号のうち、第1センサ31にて検出された鍵10の前部10aの動作情報に応じて、ROM82に格納された力覚付与テーブル90の制御パターンテーブル90aから、第1ソレノイド21の出力F1=f1(x1,v1,a1,θ1,ω1)を参照する(ステップST2−4)。さらに、この第1ソレノイド21の出力F1を発生させるための指令値D1=f1(F1)を出力テーブル90bから参照する(ステップST2−5)。そして、参照により決定した指令値D1を第1ソレノイド制御ドライバ41へ出力し(ステップST2−6)、第1ソレノイド21を駆動する(ステップST2−7)。その後、CPU89は、鍵10の前部10aの移動量(x1)と、第2センサ31にて検出された鍵10の後部10bの動作情報(x2,v2,a2,θ2,ω2のいずれかまたは複数)とに応じて、ROM82に格納された力覚付与テーブル90の制御パターンテーブル90aから、第2ソレノイド22の出力F2=f2(x1,x2,v2,a2,θ2,ω2)を参照する(ステップST2−8)。さらに、この第2ソレノイド22の出力F2を発生させるための指令値D2=f2(F2)を出力テーブル90bから参照する(ステップST2−9)。そして、参照により決定した指令値D2を第2ソレノイド制御ドライバ42へ出力し(ステップST2−10)、第2ソレノイド22を駆動する(ステップST2−11)。これにより、鍵10の前部10aの初期位置からの操作量(移動量)に基づいて、鍵10の後部10bの駆動量(移動量)を制御することができる。以上によって、鍵10の前部10aと後部10bの移動量の比が、グランドピアノにおける鍵の前部と後部の移動量の比と等しくなるように調節される。よって、グランドピアノの鍵と同等の傾き具合(沈み具合)を再現することができる。その後、鍵10が初期位置にあるか否かを再度判定し(ステップST2−12)、初期位置にない場合(N)、ステップST2−3以降の手順を繰り返す。鍵10が初期位置に戻るまでこの手順を繰り返し、初期位置に戻ったら(Y)、第1、第2ソレノイド21,22の駆動出力をクリアし(ステップ2−13)、処理を終了する。
【0036】
上記いずれの制御手順においても、鍵10の駆動力と鍵10の傾き具合の両方が適切に制御される結果、グランドピアノに近似した鍵タッチ感が良好に得られることとなる。さらに、鍵盤ユニット1において、チャーチオルガン、アップライトピアノ、パイプオルガン、エレクトーンなど他の鍵盤楽器の鍵タッチ感を再現するには、あらかじめそれぞれの鍵盤楽器の反力パターンを力覚付与テーブル90に格納しておき、上記と同様の手順にて力覚付与テーブル90から当該パターンを選択することで、各鍵盤楽器に近似した鍵タッチ感を得ることができる。この点は、以下の他の実施形態においても同様である。
【0037】
なお、本実施形態では、第1ソレノイド21の反力に抗して操作される鍵10の前部10aの操作量を検出可能な第1センサ31を備えており、図7に示す制御手順では、この第1センサ31によって検出された鍵10の前部10aの操作量に基づいて、鍵10の後部10bを駆動する第2ソレノイド22を制御する場合を説明したが、上記の第1センサ31以外にも、第1ソレノイド21による鍵10の前部10aの駆動量を検出するセンサを別途備えれば、該センサによって検知される鍵10の前部10aの初期位置からの駆動量に基づいて第2ソレノイド22を制御することも可能となる。
【0038】
また、図7に示す制御手順では、鍵10の前部10aの操作量に基づいて、鍵10の後部10bを駆動する第2ソレノイド22を制御する場合を説明したが、これとは逆に、鍵10の後部10bの操作量に基づいて、鍵10の前部10aを駆動する第1ソレノイド21を制御することも可能である。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の鍵盤ユニット1によれば、第1ソレノイド21と第2ソレノイド21によって鍵10の前部10aと後部10bを連動させて駆動することで、鍵10の揺動支点の位置をその長手方向に沿う任意の位置に設定でき、鍵10の揺動による傾き具合(沈み具合)を任意に調節できる。それとともに、制御部40にて鍵10に生じる反力の力覚制御を行うことで、反力を任意に調節できる。このように、鍵10の傾き具合の調節と反力の力覚制御との両方を適切に行うことができるので、グランドピアノをはじめとする各種自然鍵盤楽器に近似した鍵10の操作感覚を良好に得ることができる。
【0040】
また、奥行き寸法が小さい電子鍵盤楽器に本実施形態の鍵盤ユニット1を適用すれば、鍵10の揺動支点を実際の鍵10の後端よりも後方の位置に設定することが可能となる。したがって、鍵盤ユニット1の小型化により鍵10の全長が短くなる場合でも、押鍵時の鍵10の傾き(前傾)具合を緩やかにでき、鍵10の動作及び操作感覚をグランドピアノなどの自然鍵盤楽器に近づけることが可能となる。また、演奏者の好みに応じて押鍵時の鍵10の傾き具合を任意に調節し、鍵10のタッチ感を変えることも可能となる。
【0041】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態にかかる鍵盤ユニットについて説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。これらの点は他の実施形態についても同様とする。
【0042】
図8は、本発明の第2実施形態にかかる鍵盤ユニット1−2が備える鍵10及びその動作機構の構成を示す概略図である。同図に示す鍵盤ユニット1−2では、鍵10を駆動する駆動手段として、第1実施形態における第1ソレノイド21にかえて第1ERダンパー23及び第1圧縮バネ15を備え、第2ソレノイド22にかえて第2ERダンパー24及び第2圧縮バネ16を備えている。また、鍵盤ユニット1−2は、第1、第2ERダンパー制御ドライバ43,44を備えている。第1、第2ERダンパー制御ドライバ43,44は、制御部40から入力された信号に応じてそれぞれ第1、第2ERダンパー23,24の抵抗力を変化させる信号を発生し、該信号を第1、第2ERダンパー23,24に出力する。
【0043】
ここでのERダンパーとは、ER流体(電気粘性流体)が封入されたダンパーであり、ER流体の粘性を変化させることで減衰力(抵抗力)を調節することができるものである。なお、このERダンパーは、主体的に鍵10を動かすものではなく、押鍵による鍵10の移動に伴う抵抗力(反力)を受動的に調節するもので、いわゆるパッシブな制動力を生じる機構である。したがって、鍵盤ユニット1−2では、押鍵時に圧縮されて鍵10に初期位置への復帰力を与える第1、第2圧縮バネ15,16を鍵10の前部10aと後部10bにそれぞれ設置し、これら第1、第2圧縮バネ15,16に、その復帰力を調節するための第1、第2ERダンパー23,24を併設している。
【0044】
〔第3実施形態〕
図9は、本発明の第3実施形態にかかる鍵盤ユニットが備える鍵10及びその動作機構の構成を示す概略図である。同図に示す鍵盤ユニット1−3では、鍵10を駆動する駆動手段として、第2実施形態における第1ERダンパー23にかえて第1ERクラッチ25を備え、第2ERダンパー24にかえて第2ERクラッチ26を備えている。また、鍵盤ユニット1−3は、第1、第2ERクラッチ制御ドライバ45,46を備えている。第1、第2ERクラッチ制御ドライバ45,46は、入力された信号からそれぞれ第1、第2ERクラッチ25,26による抵抗力を変化させる信号を発生し、該信号を第1、第2ERクラッチ25,26に出力する。
【0045】
ここでのERクラッチとは、詳細な図示は省略するが、鍵10に伴って移動する部材とそれに対して固定された部材との間に対向させて配置した摩擦面を有し、これら摩擦面をER流体にて押圧するもので、ER流体の粘性を変化させることで摩擦面への押圧力を変え、鍵10に生じる抵抗力(制動力)を調節する機構である。なお、このERクラッチも、ERダンパーと同様、押鍵による鍵10の移動に対する抵抗力を受動的に調節するもので、いわゆるパッシブな制動力を生じる機構である。
【0046】
〔第4実施形態〕
図10は、本発明の第4実施形態にかかる鍵盤ユニットが備える鍵10及びその動作機構の構成を示す概略図である。同図に示す鍵盤ユニット1−4では、鍵10を駆動する駆動手段として、第1実施形態における第1ソレノイド21にかえて第1サーボモータ27を備え、第2ソレノイド22にかえて第2サーボモータ28を備えている。また、制御部40から入力された信号に応じてそれぞれ第1、第2サーボモータ27,28による駆動力を変化させる信号を出力する第1、第2サーボモータ制御ドライバ47,48を備えている。第1サーボモータ27あるいは第2サーボモータ28は、第1ソレノイド21や第2ソレノイド22と同様、自ら動作することで主体的に鍵10を動かすことが可能なもので、いわゆるアクティブな制動力を生じる機構である。ここでのサーボモータには、DCサーボモータ、ACサーボモータが含まれる。また、サーボモータは、超音波モータなどであってもよい。なお、第1、第2サーボモータ27,28には、モータの回転運動を上下方向の往復運動に変換して鍵10に伝達するための機構が付設されている。
【0047】
〔第5実施形態〕
図11は、本発明の第5実施形態にかかる鍵盤ユニットが備える鍵10及びその動作機構の構成を示す概略図である。同図に示す鍵盤ユニット1−5では、鍵10を駆動する駆動手段として、第2実施形態における第1ERダンパー23に代えて形状記憶合金を有する第1制動機構29を備え、第2ERダンパー24に代えて形状記憶合金を有する第2制動機構30を備えている。第1制動機構29は、鍵10とフレーム(固定部)との間に介在する形状記憶合金29a及びそれに連結されたバネ(引張バネ)29bで構成され、第2制動機構30は、鍵10とフレームとの間に介在する形状記憶合金30a及びそれに連結されたバネ(引張バネ)30bで構成されている。また、鍵盤ユニット1−5は、第1、第2制動機構制御ドライバ49,50を備えている。第1、第2制動機構制御ドライバ49,50は、制御部40から入力された信号に応じて第1、第2制動機構29,30の形状記憶合金29a,30aを収縮させる電流を発生し、該電流を第1、第2制動機構29,30に出力する。
【0048】
ここでの形状記憶合金とは、所定の温度(変態点)以下で変形した場合、当該温度以上に加熱されると伸張または収縮して元の形状に回復する性質を有する合金である。第1、第2制動機構29,30では、第1、第2形状記憶合金29a,29bの形状回復により、第1、第2圧縮バネ15,16にて鍵10に与えられる反力を補助的に調節するようになっている。また、第2制動機構30の形状記憶合金30aには、電流を流す部分の長さを調節する調節機構30cが備えられている。この調節機構30cにより、第1制動機構29と第2制動機構30の形状記憶合金29a,29bの変形量の比を所望の比にすることができる。なお、この形状記憶合金29a,29bを有する第1、第2制動機構29,30は、上記のERダンパーやERクラッチと同様、押鍵による鍵10の移動に対する抵抗力の大きさを受動的に調節するもので、いわゆるパッシブな制動力を生じる機構である。
【0049】
第1、第2制動機構29,30では、第1、第2制動機構制御ドライバ49,50から入力された電流による発熱で形状記憶合金29a,30aが収縮し、第1、第2圧縮バネ15,16による復帰力が調整され、グランドピアノに近似した鍵タッチ感及び鍵動作を再現するための抵抗力が鍵10に付与される。またこのとき、制御部40は、調節機構30cにて第2制動機構30の形状記憶合金30aに電流を流す部分の長さを調節し、第1形状記憶合金29aと第2形状記憶合金30aの収縮量の比を所定の比にすることができる。これにより、鍵10の傾きを調節でき、グランドピアノの鍵10の傾き具合(沈み具合)を再現できる。
【0050】
〔第6実施形態〕
図12は、本発明の第6実施形態にかかる鍵盤ユニットが備える鍵10及びその動作機構の構成を示す概略図である。同図に示す鍵盤ユニット1−6では、鍵10を駆動する駆動手段として、第1実施形態における第1、第2ソレノイド21,22にかえて、単一のソレノイド55と該ソレノイド55で駆動される二本のアーム61,62とを有してなる駆動部60を備えている。
【0051】
鍵10の前部10aには、前後方向に延びる長穴からなるガイド溝17が形成されている。ガイド溝17には、長手方向に沿って滑動可能に設置された滑り軸受63が係合している。また、ガイド溝17の下方のフレーム64上には、該フレーム64上に滑り係合するローラ65が設置されている。なお、図示は省略するが、ローラ65の代わりにフレーム64上を滑動する滑り部材を設置してもよい。一方、鍵10の後部10bには回動軸受66が設置されている。回動軸受66の下方のフレーム64上には、傾き調節部材67が設置されている。傾き調節部材67には、上下に延びる長穴からなる調節用スロット67aが設けられており、調節用スロット67a内には、回動軸受68が上下移動可能な状態で係合している。
【0052】
回動軸受66とローラ65との間には、斜めに延びるアーム61が掛け渡されており、滑り軸受63と回動軸受68との間には、アーム61とは逆向きで斜めに延びるアーム62が掛け渡されている。アーム61とアーム62は互いの中間部が交差している。回動軸受68は、アーム62の下端に設けた長手方向に沿う長穴からなる調節用スロット62bに係合している。また、アーム61とアーム62の交差する部分には、それぞれアーム61とアーム62に設けた長手方向に沿う長穴からなる調節用スロット61aと調節用スロット62aが形成されており、それらの交差する部分には、回動軸受69が取り付けられている。また、ソレノイド55は、ローラ65と傾き調節部材67の間に架設されている。ソレノイド55によってローラ65が前後に移動することで、アーム61とアーム62の交差角度が変化して、鍵10が上下に駆動されるようになっている。
【0053】
回動軸受68は、調節用スロット67aに沿って傾き調節部材67に対する高さ位置を変更でき、回動軸受69は、調節用スロット61a,62aに沿ってアーム61及びアーム62に対する位置を変更できる。なお、図示は省略するが、回動軸受68や回動軸受69を移動させるためのモータなどを有する移動機構が設けられている。この移動機構は、制御部40によって制御されている。
【0054】
ここで、回動軸受68の高さ位置を変更したときの鍵10の動作について説明する。回動軸受68が調節用スロット67aの最下位置にあるとき、回動軸受68とローラ65の高さが等しく、回動軸受66と滑り軸受63の高さも等しいため、鍵10はその長手方向が水平な状態のまま上下動する。一方、回動軸受68を最下位置から僅かに上方に移動させると、滑り軸受63よりも回動軸受66の方が僅かに高くなるので、鍵10の後端部から後方に離れた位置に揺動支点が形成され、この揺動支点を中心として鍵10は緩やかな傾きで揺動(前傾)する。その状態から回動軸受68をさらに上方に移動させると、揺動支点は鍵10の後端部に近づくように手前側へ移動する。したがって、調節用スロット67a内で回動軸受68の位置が上昇するにつれて、押鍵時の鍵10の傾斜(前傾)が次第に急になる。
【0055】
上記構成の鍵盤ユニット1−6における鍵10の動作及び反力の制御手順について説明する。まず、制御部40は、あらかじめ調節用スロット67a内における回動軸受68の高さ位置を調節することにより、押鍵時の鍵10の傾き具合がグランドピアノにおける鍵10の傾き具合と等しくなるように設定する。その状態で、押鍵によって鍵10が移動を開始すると、第1、第2センサ31,32にて鍵10の前部10a及び後部10bの動作が検出される。第1センサ31及び第2センサ32による検出信号は、それぞれ第1センサ信号処理回路33、第2センサ信号処理回路34を経て制御部40に入力される。制御部40では、この入力信号に基づいて、力覚付与テーブル90に格納されたグランドピアノの反力パターンに関する信号をソレノイド制御ドライバ54に出力する。ソレノイド制御ドライバ54は、入力された信号から駆動部60による駆動力を変化させる信号を発生し、該信号をソレノイド55に出力する。こうして、駆動部60からグランドピアノタッチに近似した鍵タッチ感を再現するための駆動力が鍵10に付与される。
【0056】
〔第7実施形態〕
図13は、本発明の第7実施形態にかかる鍵盤ユニットが備える鍵10及びその動作機構の構成を示す概略図である。同図に示す鍵盤ユニット1−7では、鍵10を駆動する駆動手段として、第6実施形態の駆動部60と類似した構成の駆動部70を備えている。
【0057】
鍵10には、その長手方向の中間部付近における前部10aと後部10bとにそれぞれ配置された二つの回動軸受73,74が設けられている。回動軸受73,74にはそれぞれアーム71,72が連結されている。アーム71は、回動軸受73から前方に向かって斜め下方に延びており、アーム72は、回動軸受74から後方に向かって斜め下方に延びている。各アーム71,72の下端には、それぞれローラ75と回動軸受76が連結されている。ローラ75は、アーム71の移動に伴ってフレーム64上を前後に転動する。回動軸受76は、傾き調節部材67の調節用スロット67a内に上下位置を変更可能な状態で係合している。また、回動軸受73,74の周囲には互いに係合するギヤ若しくは摩擦部材が取り付けられている。これにより、アーム71,72は、いずれか一方が一方向に回転すると他方が逆方向に等しい角度で回転するようになっている。
【0058】
アーム71とアーム72の間にはソレノイド55が架設されている。ソレノイド55による駆動でアーム71,72を移動させることで、それらの交差角度を変化させることができる。これにより、鍵10が上下に駆動されるようになっている。また、調節用スロット67a内の回動軸受76の高さ位置を調節することで、アーム71,72の下端の位置を互いに異ならせて配置することができる。これにより、揺動する鍵10の傾き具合を任意に変えることができる。
【0059】
本実施形態の鍵盤ユニット1−7においても、第6実施形態と同様、回動軸受76が調節用スロット67a内の最下位置にあるときは、鍵10はその長手方向が水平な状態のまま上下動する。一方、回動軸受76を最下位置から僅かに上方に移動させると、鍵10の後端部から後方に離れた位置に鍵10の揺動支点が形成され、この揺動支点を中心として、鍵10は緩やかな傾きで揺動する。その状態から回動軸受76をさらに上方に移動させると、揺動支点は鍵10に近づく方へ移動する。したがって、調節用スロット67a内で回動軸受76の位置が上昇するにつれて、押鍵時の鍵10の傾斜(前傾)が急になる。なお、この鍵盤ユニット1−7における鍵10の動作及び反力の制御手順は、第6実施形態の鍵盤ユニット1−6における制御手順とほぼ同様なので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0060】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載のない何れの形状・構造・材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。
【0061】
上記各実施形態では、操作子が鍵10である場合を説明したが、本発明にかかる操作子には、上記の鍵10以外にペダルなども含まれる。したがって、本発明は、上記実施形態に示す鍵盤ユニット1以外にも、電子鍵盤楽器のペダルユニットなどにも適用することが可能である。
【0062】
また、上記各実施形態の鍵盤ユニット1〜1−7では、鍵10の動作を検出する動作検出手段として、鍵10の前部10aと後部10bの動作をそれぞれ検出する二つのセンサ31,32を有する場合を説明したが、本発明の操作子の動作を検出する動作検出手段は、操作子の前後方向の傾きを含む動作を適切に検出できるものであれば、単一のセンサで構成することも可能であるし、その設置位置も任意の位置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる鍵盤ユニットの構成例を示す概略図である。
【図2】鍵盤ユニットが備える鍵ガイド部の構成例を示す図である。
【図3】鍵ガイド部の他の構成例を示す図である。
【図4】鍵の他の構成例を示す図である。
【図5】鍵盤ユニットを含む電子鍵盤楽器の全体構成例を示すブロック図である。
【図6】鍵のタッチ感及び動作の制御手順を示すフローチャートである。
【図7】鍵のタッチ感及び動作の他の制御手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態にかかる鍵盤ユニットの構成例を示す概略図である。
【図9】本発明の第3実施形態にかかる鍵盤ユニットの構成例を示す概略図である。
【図10】本発明の第4実施形態にかかる鍵盤ユニットの構成例を示す概略図である。
【図11】本発明の第5実施形態にかかる鍵盤ユニットの構成例を示す概略図である。
【図12】本発明の第6実施形態にかかる鍵盤ユニットの構成例を示す概略図である。
【図13】本発明の第7実施形態にかかる鍵盤ユニットの構成例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0064】
1 鍵盤ユニット(操作子ユニット)
10 鍵(操作子)
10a 前部(第1の位置)
10b 後部(第2の位置)
11 鍵ガイド部
15,16 第1、第2圧縮バネ
21,22 第1、第2ソレノイド(駆動手段)
23,24 第1、第2ERダンパー(駆動手段)
25,26 第1、第2ERクラッチ(駆動手段)
27,28 第1、第2サーボモータ(駆動手段)
29,30 第1、第2制動機構(駆動手段)
29a,30a 第1、第2形状記憶合金
31,32 第1、第2センサ(動作検出手段)
33,34 第1、第2センサ信号処理回路
40 制御部(力覚制御手段)
41,42 第1、第2ソレノイド制御ドライバ
43,44 第1、第2ダンパー制御ドライバ
45,46 第1、第2クラッチ制御ドライバ
47,48 第1、第2サーボモータ制御ドライバ
49,50 第1、第2制動機構制御ドライバ
54 ソレノイド制御ドライバ
55 ソレノイド
60 駆動部(駆動手段)
61,62 アーム
70 駆動部(駆動手段)
71,72 アーム
82 ROM
89 CPU
90 力覚付与テーブル
90a 制御パターンテーブル
90b 出力テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿う第1の位置と第2の位置とが独立して上下移動可能に支持された長尺状の操作子と、
前記第1の位置と前記第2の位置とを連動させて駆動することで、前記操作子の長手方向に沿う任意の位置を支点として設定し、該支点を中心に前記操作子を揺動させる駆動手段と、
前記操作子の動作を検出する動作検出手段と、
前記動作検出手段で検出した前記操作子の動作に基づいて前記駆動手段を制御することで、前記操作子に生じる反力及び前記操作子の動作を制御する力覚制御手段と、
を備えることを特徴とする電子鍵盤楽器の操作子ユニット。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記操作子の前記第1の位置を駆動する第1の駆動部と、前記操作子の前記第2の位置を駆動する第2の駆動部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器の操作子ユニット。
【請求項3】
前記駆動手段は、ソレノイド、電気粘性流体の粘性変化によって駆動力を変化させる機構、サーボモータ、形状記憶合金の形状回復によって駆動力を変化させる機構、のうちの少なくともいずれかを用いて構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の操作子ユニット。
【請求項4】
前記力覚制御手段は、前記操作子の動作及び前記操作子に生じる反力のパターンを複数格納してなる力覚付与テーブルを備え、前記動作検出手段により検出した操作子の動作に基づいて、前記力覚付与テーブルに格納された前記複数のパターンから一のパターンを選択し、該選択したパターンを前記駆動手段に出力することで、前記操作子に生じる反力及び前記操作子の動作を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の操作子ユニット。
【請求項5】
前記力覚制御手段は、前記駆動手段による反力に抗して操作された前記第1の位置又は前記第2の位置のいずれか一方の操作量に基づいて前記第1の位置又は前記第2の位置のいずれか他方を駆動する前記駆動手段を制御することで、前記操作子の傾き具合を制御することを特徴とする請求項4に記載の操作子ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−128769(P2009−128769A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305846(P2007−305846)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】