説明

電極形成用ガラス組成物および電極形成材料

【課題】ブリスターやAlの凝集が生じ難く、且つAl−Si合金層およびp+電解層の形成に好適な電極形成用ガラス組成物および電極形成材料を創案することにより、シリコン太陽電池の光電変換効率等の特性を高めつつ、シリコン太陽電池の製造コストを低廉化すること。
【解決手段】本発明の電極形成用ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 60〜90%、B 2〜30%、ZnO 0〜3%未満、CuO+Fe+Sb+Nd 0.1〜15%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極形成用ガラス組成物および電極形成材料に関し、特にシリコン太陽電池(単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、微結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池等を含む)の裏面電極の形成に好適な電極形成用ガラス組成物および電極形成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン太陽電池は、シリコン半導体基板、受光面電極、裏面電極、反射防止膜等を備えており、シリコン半導体基板の受光面側に、グリッド状の受光面電極が形成されるとともに、シリコン半導体基板の裏面側に、裏面電極が形成される。また、受光面電極は、Ag電極等が一般的であり、裏面電極は、Al電極等が一般的である。
【0003】
裏面電極は、通常、厚膜法で形成される。厚膜法は、所望の電極パターンになるように、シリコン半導体基板に電極形成材料をスクリーン印刷し、これを最高温度660〜900℃で短時間焼成(具体的には、焼成開始から終了まで2〜3分、最高温度で5〜20秒保持)して、Alをシリコン半導体基板に拡散させることにより、シリコン半導体基板に裏面電極を形成する方法である。
【0004】
裏面電極の形成に用いる電極形成材料は、Al粉末と、ガラス粉末と、ビークル等を含有する。この電極形成材料を焼成すると、Al粉末がシリコン半導体基板のSiと反応し、裏面電極とシリコン半導体基板の界面にAl−Si合金層が形成されるとともに、Al−Si合金層とシリコン半導体基板の界面にp+電解層(Back Surfase Field層、BSF層とも称される)が形成される。p+電解層を形成すれば、電子の再結合を防止し、生成キャリアの収集効率を向上させる効果、所謂BSF効果を享受することができる。結果として、p+電解層を形成すれば、シリコン太陽電池の光電変換効率を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−90733号公報
【特許文献2】特開2003−165744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電極形成材料に含まれるガラス粉末は、Al粉末とSiの反応を促進し、Al−Si合金層とシリコン半導体基板の界面にp+電解層を形成して、BSF効果を付与する作用を有している(特許文献1、2参照)。
【0007】
しかし、従来のガラス粉末、具体的には鉛ホウ酸系ガラス粉末を使用すると、Al粉末とSiの反応が不均一になり、局所的にAl−Si合金の生成量が増大し、裏面電極の表面にブリスターやAlの凝集が生じ、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下するとともに、シリコン太陽電池の製造工程でシリコン半導体基板に割れ等が発生しやすくなり、シリコン太陽電池の製造効率が低下する。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、ブリスターやAlの凝集が生じ難く、且つAl−Si合金層およびp+電解層の形成に好適な電極形成用ガラス組成物および電極形成材料を創案することにより、シリコン太陽電池の光電変換効率等の特性を高めつつ、シリコン太陽電池の製造コストを低廉化することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意努力の結果、Bi−B系ガラスを用いるとともに、ガラス組成中にCuO+Fe+Sb+Nd(CuO、Fe、Sb、Ndの合量)を所定量導入すれば、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の電極形成用ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 60〜90%、B 2〜30%、ZnO 0〜3%未満、CuO+Fe+Sb+Nd 0.1〜15%含有することを特徴とする
ガラスの主成分として、BiとBを導入すれば、Al粉末とSiの反応を促進することができるため、p+電解層を形成しやすくなり、結果として、BSF効果を享受しやすくなり、シリコン太陽電池の光電変換効率を高めることができる。
【0010】
また、ZnOの含有量を所定範囲以下に規制すれば、ブリスターやAlの凝集を抑制することができる。CuO+Fe+Sb+Ndの含有量を所定量導入すれば、ガラスの熱的安定性が向上するため、電極形成材料の焼成時にガラスが失透し、ガラスの機能が発揮されない事態、つまり電極形成材料の焼結性が低下し、裏面電極の機械的強度が低下する事態やAl粉末とSiの反応性が低下し、BSF効果を享受し難くなる事態を防止しやすくなる。結果として、Bi、B、ZnO、CuO+Fe+Sb+Ndの含有量を所定範囲に規制すれば、シリコン太陽電池の光電変換効率等の特性を高めつつ、シリコン太陽電池の製造コストを低廉化することができる。
【0011】
第二に、本発明の電極形成用ガラス組成物は、ZnOの含有量が1%未満であることを特徴とする。このようにすれば、ブリスターやAlの凝集を顕著に抑制することができる。
【0012】
第三に、本発明の電極形成用ガラス組成物は、実質的にZnOを含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にZnOを含有しない」とは、ガラス組成中のZnOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0013】
第四に、本発明の電極形成用ガラス組成物は、アルカリ金属酸化物の含有量が0.05%以上であることを特徴とする。
【0014】
第五に、本発明の電極形成用ガラス組成物は、SiOの含有量が3%未満であることを特徴とする。このようにすれば、ガラスの軟化点が不当に上昇する事態、或いはガラスの熱的安定性が低下し、電極形成材料の焼成時にガラスが失透する事態を防止しやすくなる。
【0015】
第六に、本発明の電極形成材料は、上記の電極形成用ガラス組成物からなるガラス粉末と、金属粉末と、ビークルとを含むことを特徴とする。このようにすれば、厚膜法で電極パターンを形成することができ、シリコン太陽電池の生産効率を高めることができる。ここで、「ビークル」は、一般的に、有機溶媒中に樹脂を溶解させたものを指すが、本発明では、樹脂を含有せず、高粘性の有機溶媒(例えば、イソトリデシルアルコール等の高級アルコール)のみで構成される態様を含む。
【0016】
第七に、本発明の電極形成材料は、ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm未満であることを特徴とする。ここで、「平均粒子径D50」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
【0017】
第八に、本発明の電極形成材料は、ガラス粉末の軟化点が600℃以下であることを特徴とする。このようにすれば、低温で裏面電極を形成することができる。ここで、「軟化点」とは、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指し、DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、図1に示す第四屈曲点の温度(Ts)を指す。
【0018】
第九に、本発明の電極形成材料は、ガラス粉末の含有量が0.2〜10質量%であることを特徴とする。このようにすれば、Al−Si合金層とシリコン半導体基板の界面にp+電解層を形成して、BSF効果を享受しやすくなる。
【0019】
第十に、本発明の電極形成材料は、金属粉末がAg、Al、Au、Cu、Pd、Ptおよびこれらの合金の一種または二種以上を含むことを特徴とする。これらの金属粉末は、本発明に係るガラス粉末と適合性が良好であり、電極形成材料の焼成時にガラスが発泡し難い性質を有している。
【0020】
第十一に、本発明の電極形成材料は、金属粉末がAlであることを特徴とする。
【0021】
第十二に、本発明の電極形成材料は、シリコン太陽電池の電極に用いることを特徴とする。
【0022】
第十三に、本発明の電極形成材料は、シリコン太陽電池の裏面電極に用いることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】マクロ型DTA装置で測定したときのガラス粉末の軟化点を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の電極形成用ガラス組成物において、各成分の含有範囲を上記のように規定した理由を以下に説明する。
【0025】
Biは、ガラスの骨格を形成する成分であり、またAl粉末とSiの反応を促進する成分であるとともに、軟化点を低下させる成分であり、その含有量は60〜90%、好ましくは67〜86%、より好ましくは71〜86%、更に好ましくは75〜82.5%である。Biの含有量が多くなると、ガラスの熱的安定性が低下するため、電極形成材料の焼成時に、ガラスが失透しやすくなり、裏面電極の機械的強度が低下しやすくなる。一方、Biの含有量が少なくなると、Al粉末とSiの反応が不均一になりやすく、局所的にAl−Si合金の生成量が増大し、ブリスターやAlの凝集が生じやすくなる。また、Biの含有量が少なくなると、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、低温で裏面電極を形成し難くなる。
【0026】
は、ガラスの骨格を形成する成分であり、またAl粉末とSiの反応を促進する成分である。また、Bは、ガラスの熱的安定性を高める成分であるとともに、ガラスの軟化点を低下させる成分である。Bの含有量は2〜30%、好ましくは5〜25%、更に好ましくは10〜20%である。Bの含有量が少なくなると、Al粉末とSiの反応が不均一になりやすく、局所的にAl−Si合金の生成量が増大し、ブリスターやAlの凝集が生じやすくなる。また、Bの含有量が少なくなると、ガラスの熱的安定性が低下し、電極形成材料の焼成時に、ガラスが失透しやすくなり、裏面電極の機械的強度が低下しやすくなる。一方、Bの含有量が多くなると、ガラスの耐水性が低下しやすくなり、裏面電極の長期信頼性が低下することに加えて、ガラスが分相しやすくなり、Al−Si合金層およびp+電解層を均一に形成し難くなる。
【0027】
ZnOは、ガラスの熱的安定性を高める成分であるとともに、ガラスの熱膨張係数を上昇させずに、ガラスの軟化点を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多くなると、Al粉末とSiの反応が不均一になりやすく、局所的にAl-Si合金の生成量が増大し、ブリスターやAlの凝集が生じやすくなる。よって、ZnOの含有量は0〜3%未満、好ましくは0〜1%未満であり、理想的には実質的に含有しないことが望ましい。
【0028】
CuO+Fe+Sb+Ndは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0.1〜15%、好ましくは0.5〜10%、より好ましくは1〜8%である。CuO+Fe+Sb+Ndの含有量が15%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスの熱的安定性が低下する傾向がある。BSF効果を的確に享受するためには、ガラス組成中にBiを多量に添加する必要があるが、Biの含有量を増加させると、電極形成材料の焼成時にガラスが失透しやすくなり、この失透に起因して、裏面電極の機械的強度が低下しやすくなる。特に、Biの含有量が75%以上になると、その傾向が顕著になる。そこで、ガラス組成中にCuO+Fe+Sb+Ndを適量添加すれば、Biの含有量が75%以上であっても、ガラスの失透を抑制することができる。CuOの含有量は0〜15%、0.1〜10%、特に1〜5%が好ましい。また、Feの含有量は0〜10%、0.05〜5%、特に0.2〜3%が好ましい。また、Sbの含有量は0〜7%、特に0.1〜3%が好ましい。なお、Sbは、環境的観点から、その使用が制限される場合があり、そのような場合には、Sbを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス組成中のSbの含有量が1000ppm以下の場合を指す。Ndの含有量は0〜10%、0〜5%、特に0.1〜3%が好ましい。なお、ガラス組成中にNdを所定量添加すれば、Bi−B系ガラスのガラスネットワークを安定化させ、焼成時にBi(ビスマイト)、BiとBで形成される2Bi・Bまたは12Bi・B等の結晶が析出し難くなる。
【0029】
本発明の電極形成用ガラス組成物は、上記成分以外にも、例えば下記の成分を合量で25%まで、好ましくは10%まで含有することができる。
【0030】
アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO、CsOの合量)は、軟化点を下げる成分であるとともに、電極形成材料の焼結性を促進させる成分であり、その含有量は合量で0〜15%、0.05〜5%、特に0.1〜2%が好ましい。アルカリ金属酸化物の含有量が多くなると、ガラスの熱的安定性が低下するため、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。なお、LiO、NaO、KO、CsOの含有量は、それぞれ0〜5%、特に0.1〜2%が好ましい。
【0031】
MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrO、BaOの合量)は、ブリスターやAlの凝集を抑制する成分であり、その含有量は0.01〜20%、0.1〜20%、1〜15%、特に3〜10%が好ましい。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少なくなると、Al粉末とSiの反応が不均一になりやすく、局所的にAl−Si合金の生成量が増大し、ブリスターやAlの凝集が生じやすくなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多くなると、p+電解層を形成し難くなるため、BSF効果を享受し難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。また、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多くなると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスに結晶が析出しやすくなる。
【0032】
MgOは、ブリスターやAlの凝集を抑制する成分であり、その含有量は0〜5%、0.1〜3%、特に0〜1%が好ましい。MgOの含有量が多くなると、p+電解層を形成し難くなるため、BSF効果を享受し難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。
【0033】
CaOは、ブリスターやAlの凝集を抑制する効果が高い成分であり、その含有量は0〜20%、0.01〜10%、0.1〜8%、0.5〜5%、特に1〜4%が好ましい。CaOの含有量が少なくなると、Al粉末とSiの反応が不均一になりやすく、局所的にAl−Si合金の生成量が増大し、ブリスターやAlの凝集が生じやすくなる。一方、CaOの含有量が多くなると、p+電解層を形成し難くなるため、BSF効果を享受し難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。
【0034】
SrOは、ブリスターやAlの凝集を抑制する成分であるとともに、ガラスの熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、0〜10%、特に0〜5%が好ましい。SrOの含有量が多くなると、p+電解層を形成し難くなるため、BSF効果を享受し難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。また、SrOの含有量が多くなると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスに結晶が析出しやすくなる。
【0035】
BaOは、ブリスターやAlの凝集を抑制する成分であるとともに、ガラスの熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜20%、0.01〜15%、0.1〜12%、1〜10%、特に3〜9%が好ましい。BaOの含有量が少なくなると、Al粉末とSiの反応が不均一になりやすく、局所的にAl−Si合金の生成量が増大し、ブリスターやAlの凝集が生じやすくなる。一方、BaOの含有量が多くなると、p+電解層を形成し難くなるため、BSF効果を享受し難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。また、BaOの含有量が多くなると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスに結晶が析出しやすくなる。
【0036】
SiOは、ガラスの耐水性を高める成分であるが、ガラスの軟化点を顕著に上昇させる作用を有するため、その含有量は25%以下、8.5%以下、3%未満、特に1%未満が好ましい。SiOの含有量が多くなると、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、低温で裏面電極を形成しやすくなる。
【0037】
WOは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜5%、特に0〜2%が好ましい。WOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
【0038】
In+Ga(InとGaの合量)は、ガラスの熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜5%、0〜3%、特に0〜1%が好ましい。In+Gaの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下しやすくなる。なお、InとGaの含有量はそれぞれ0〜2%が好ましい。
【0039】
は、溶融時にガラスの失透を抑制する成分であるが、その含有量が多いと、溶融時にガラスが分相しやくなり、Al−Si合金層およびp+電解層を均一に形成し難くなる。よって、Pの含有量は1%以下が好ましい。
【0040】
MoO+La+Y+CeO(MoO、La、Y、CeOの合量)は、溶融時にガラスの分相を抑制する効果があるが、これらの成分の含有量が多いと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、低温で電極形成材料を焼結し難くなる。よって、MoO+La+Y+CeOの含有量は3%以下が好ましい。なお、MoO、La、Y、CeOの含有量は、それぞれ0〜2%が好ましい。
【0041】
本発明の電極形成用ガラス組成物は、PbOの含有を排除するものではないが、環境的観点から実質的にPbOを含有しないことが好ましい。また、PbOは、ブリスターやAlの凝集を助長しやすいため、シリコン太陽電池の裏面電極の形成に用いる場合には、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0042】
本発明の電極形成用ガラス組成物において、熱膨張係数は130×10−7/℃以下、110×10−7/℃以下、105×10−7/℃以下、特に100×10−7/℃未満が好ましい。近年、シリコン太陽電池の製造コストを低廉化するために、シリコン半導体基板を薄くすることが検討されている。シリコン半導体基板を薄くすれば、Alとシリコン半導体基板の熱膨張係数の差に起因して、電極形成材料の焼成後に、シリコン半導体基板において裏面電極が形成された裏面側が凹状になるような反りが発生しやすくなる。電極形成材料の塗布量を低減し、裏面電極を薄くすれば、シリコン半導体基板の反りを抑制することができるが、電極形成材料の塗布量を低減すると、電極形成材料の焼成時にブリスターやAlの凝集が生じやすくなる。そこで、熱膨張係数を上記範囲とすれば、シリコン半導体基板の反りを可及的に抑制することができる。なお、「熱膨張係数」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指し、30〜300℃の温度範囲で測定した値を指す。
【0043】
本発明の電極形成材料は、上記の電極形成用ガラス組成物からなるガラス粉末と、金属粉末と、ビークルとを含む。ガラス粉末は、Al粉末とSiの反応を促進し、Al−Si合金層とシリコン半導体基板の界面にp+電解層を形成して、BSF効果を付与する成分である。金属粉末は、電極を形成する主要成分であり、導電性を確保するための成分である。ビークルは、ペースト化するための成分であり、印刷に適した粘度を付与するための成分である。
【0044】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の平均粒子径D50は5μm未満、4μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、特に1μm未満が好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm以上であると、ガラス粉末の表面積が小さくなることに起因して、Al粉末とSiの反応を促進し難くなり、BSF効果を享受し難くなる。また、ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm以上であると、ガラス粉末の軟化点が上昇し、電極の形成に必要な温度域が上昇する。さらに、ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm以上であると、微細な電極パターンを形成し難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、ガラス粉末の平均粒子径D50が小さ過ぎると、ガラス粉末のハンドリング性や材料収率が低下しやすくなる。このような状況を考慮すれば、ガラス粉末の平均粒子径D50は0.1μm以上が好ましい。なお、(1)ガラスフィルムをボールミルで粉砕した後、得られたガラス粉末を空気分級、或いは(2)ガラスフィルムをボールミル等で粗粉砕した後、ビーズミル等で湿式粉砕すれば、上記平均粒子径D50を有するガラス粉末を作製することができる。
【0045】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは25μm以下、20μm以下、15μm以下、10μm以下、特に10μm未満が好ましい。ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが25μmより大きいと、微細な電極パターンを形成し難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。ここで、「平均粒子径Dmax」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0046】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の軟化点は600℃以下、570℃以下、特に560℃以下が好ましい。ガラス粉末の軟化点が600℃より高いと、電極の形成に必要な温度域が上昇し、シリコン太陽電池の生産効率が低下する。
【0047】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の結晶化温度は500℃以上、520℃以上、特に540℃以上が好ましい。ガラス粉末の結晶化温度が500℃より低いと、ガラスの熱的安定性が低下するため、電極形成材料の焼成時にガラスが失透しやすくなり、裏面電極の機械的強度が低下しやすくなる。また、低温でガラスが失透すると、Al粉末とSiの反応を促進し難くなり、BSF効果を享受し難くなる。ここで、「結晶化温度」は、マクロ型DTA装置で測定したピーク温度を指し、DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。
【0048】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の含有量は0.2〜10質量%、0.5〜6質量%、0.7〜4質量%、特に1〜3質量%が好ましい。ガラス粉末の含有量が0.2質量%より少ないと、Al粉末とSiの反応を促進し難くなることに加えて、裏面電極の機械的強度が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の含有量が10質量%より多いと、電極形成材料の焼成後にガラスが偏析しやすくなり、裏面電極の導電性が低下して、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下するおそれがある。また、ガラス粉末の含有量と金属粉末の含有量は、上記と同様の理由により、質量比で0.3:99.7〜13:87、1.5:98.5〜7:93、特に1.8:98.2〜4:96が好ましい。
【0049】
本発明の電極形成材料において、金属粉末の含有量は50〜97質量%、65〜95質量%、特に70〜92質量%が好ましい。金属粉末の含有量が50質量%より少ないと、裏面電極の導電性が低下し、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。一方、金属粉末の含有量が97質量%より多いと、相対的にガラス粉末、或いはビークルの含有量を低下せざるを得ず、p+電解層を形成し難くなる。
【0050】
本発明の電極形成材料において、金属粉末はAg、Al、Au、Cu、Pd、Ptおよびこれらの合金の一種または二種以上が好ましく、AlはBSF効果を享受する観点から特に好ましい。これらの金属粉末は、導電性が良好であるとともに、本発明に係るガラス粉末と適合性が良好である。よって、これらの金属粉末を用いると、電極形成材料の焼成時にガラスが失透し難くなることに加えて、ガラスが発泡し難くなる。また、微細な電極パターンを形成するために、金属粉末の平均粒子径D50は5μm以下、3μm以下、2μm以下、特に1μm以下が好ましい。
【0051】
本発明の電極形成材料において、ビークルの含有量は5〜50質量%、特に10〜30質量%が好ましい。ビークルの含有量が5質量%より少ないと、ペースト化が困難になり、厚膜法で電極を形成し難くなる。一方、ビークルの含有量が50質量%より多いと、電極形成材料の焼成前後で膜厚や膜幅が変動しやすくなり、結果として、所望の電極パターンを形成し難くなる。
【0052】
既述の通り、ビークルは、一般的に、有機溶媒中に樹脂を溶解させたものを指す。樹脂としては、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、ニトロセルロース、エチルセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。有機溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、水、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0053】
本発明の電極形成材料は、上記成分以外にも、熱膨張係数を調整するためにコーディエライト等のセラミックフィラー粉末、電極の表面抵抗を調整するためにNiO等の酸化物粉末、ペースト特性を調整するために界面活性剤、増粘剤、可塑剤、表面処理剤、色調を調整するために顔料等を含有してもよい。
【0054】
本発明の電極形成材料(電極形成用ガラス組成物)は、裏面電極のみならず、受光面電極の形成にも好適である。厚膜法で受光面電極を形成する場合、焼成時に電極形成材料が反射防止膜を貫通する現象が利用され、この現象により受光面電極と半導体層が電気的に接続される。この現象は、一般的にファイアスルーと称されている。ファイアスルーを利用すれば、受光面電極の形成に際し、反射防止膜のエッチングが不要になるとともに、反射防止膜のエッチングと電極パターンの位置合わせが不要になり、シリコン太陽電池の生産効率が飛躍的に向上する。電極形成材料が反射防止膜を貫通する度合(以下、ファイアスルー性)は、電極形成材料の組成、焼成条件で変動し、特にガラス粉末のガラス組成の影響が最も大きい。また、シリコン太陽電池の光電変換効率は、電極形成材料のファイアスルー性と相関があり、ファイアスルー性が不十分であると、これらの特性が低下し、シリコン太陽電池の基本性能が低下する。本発明の電極形成材料は、ガラス粉末のガラス組成範囲を所定範囲に規制しているため、ファイアスルー性が良好であり、受光面電極の形成に好適である。本発明の電極形成材料を受光面電極の形成に用いる場合、金属粉末は、Ag粉末が好ましく、Ag粉末の含有量等は、上記の通りである。
【0055】
受光面電極と裏面電極を別々に形成してもよいし、受光面電極と裏面電極を同時に形成してもよい。受光面電極と裏面電極を同時に形成すれば、焼成回数を減らすことができるため、シリコン太陽電池の製造効率が向上する。ここで、本発明の電極形成材料を受光面電極と裏面電極の双方に用いると、受光面電極と裏面電極を同時に形成しやすくなる。
【実施例1】
【0056】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0057】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1〜10)および比較例(試料No.11〜13)を示している。試料No.11、12は、従来の電極形成用ガラス組成物を例示している。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
次のようにして、各試料を調製した。まず、表中に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等のガラス原料を調合し、ガラスバッチを準備した後、このガラスバッチを白金坩堝に入れ、1100℃〜1200℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部をTMA用サンプルとしてステンレス製の金型に流し出した。その他の溶融ガラスを水冷ローラーでフィルム状に成形し、得られたガラスフィルムをボールミルで粉砕した後、目開き250メッシュの篩を通過させた上で、空気分級し、平均粒子径D50が1.5μmのガラス粉末を得た。
【0061】
得られたガラス試料につき、熱膨張係数α、軟化点および熱的安定性を測定した。
【0062】
熱膨張係数αは、TMA装置で測定した値であり、30〜300℃の温度範囲で測定した値である。
【0063】
軟化点は、マクロ型DTA装置で測定した値である。なお、マクロ型DTAの測定温度域は室温〜650℃とし、昇温速度は10℃/分とした。
【0064】
熱的安定性は、結晶化温度が500℃以上の場合を「○」とし、500℃未満の場合を「×」として評価した。なお、結晶化温度は、マクロ型DTA装置で測定した値であり、マクロ型DTAの測定温度域は室温〜570℃とし、昇温速度は10℃/分とした。
【0065】
得られたガラス粉末3質量%と、Al粉末(平均粒子径D50=0.5μm)75質量%と、ビークル(α−ターピネオールにアクリル酸エステルを溶解させたもの)23質量%とを三本ローラーで混練し、ペースト状の電極形成材料を得た。次に、スクリーン印刷により、シリコン半導体基板(100mm×100mm×200μm厚)の裏面の全面に電極形成材料を塗布し、乾燥した後、最高温度720℃で短時間焼成(焼成開始から終了まで2分、最高温度で10秒保持)し、厚みが50μmの裏面電極を得た。得られた裏面電極につき、p+電解層の表面抵抗、外観および反りを評価した。
【0066】
p+電解層の表面抵抗は、試料No.12により作製されたp+電解層の表面抵抗値を基準にして、その表面抵抗値以下の場合を「○」、その表面抵抗値より大きい場合を「×」として評価した。なお、p+電解層の表面抵抗値が低い程、BSF効果を享受しやすくなる。
【0067】
外観は、裏面電極の表面を目視観察し、ブリスターおよびAlの凝集の個数を観察することで評価した。ブリスターおよびAlの凝集の個数が試料No.13より少ない場合を「○」、試料No.13より多い場合を「×」とした。
【0068】
反りは、接触式表面粗さ計により、シリコン半導体基板の受光面側の表面を測定することで評価した。シリコン半導体の中央部において、30mmの間隔で測定し、最低部と最上部の差が20μm未満の場合を「○」とし、20μm以上の場合を「×」とした。
【0069】
表1、2から明らかなように、試料No.1〜10は、p+電解層の表面抵抗、外観、反りの評価が良好であった。一方、試料No.11は、p+電解層の表面抵抗および外観の評価が不良であった。試料No.12は、外観の評価が不良であった。試料No.13は、外観の評価が試料No.1〜10より劣っていた。
【実施例2】
【0070】
試料No.1〜13について、ファイアスルー性を評価した。ファイアスルー性の評価は次のようにして行った。シリコン半導体基板に形成されたSiN膜(膜厚100nm)上に、長さ200mm、100μm幅になるように各電極形成材料を線状にスクリーン印刷し、乾燥した後、最高温度720℃で短時間焼成(焼成開始から終了まで2分、最高温度で10秒保持)した。次に、焼成後のシリコン半導体基板を塩酸水溶液(10重量%濃度)に浸漬し、12時間超音波にかけ、各試料をエッチングした。エッチング後のシリコン半導体基板を光学顕微鏡(100倍)で観察し、ファイアスルー性を評価した。SiN膜を貫通し、シリコン半導体基板上に線状の電極パターンが形成されていたものを「○」、シリコン半導体基板上に線状の電極パターンが概ね形成されていたが、SiN膜を貫通していない箇所が存在し、シリコン半導体基板との電気的接続が一部途切れていたものを「△」、SiN膜を貫通していなかったものを「×」として評価した。その結果、試料No.1〜10は、「○」の評価であり、ファイアスルー性が良好あった。したがって、試料No.1〜10は、シリコン太陽電池の受光面電極の形成に好適であると考えられる。一方、試料No.11、13は、「△」の評価であり、ファイアスルー性が不良あった。また、試料No.12は、「×」の評価であり、ファイアスルー性が不良あった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の電極形成用ガラス組成物および電極形成材料は、上記の通り、シリコン太陽電池の電極、特にシリコン太陽電池の裏面電極の形成に好適に使用可能である。さらに、本発明の電極形成用ガラス組成物および電極形成材料は、セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品、フォトダイオード等の光学部品に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 60〜90%、B 2〜30%、ZnO 0〜3%未満、CuO+Fe+Sb+Nd 0.1〜15%含有することを特徴とする電極形成用ガラス組成物。
【請求項2】
ZnOの含有量が1%未満であることを特徴とする請求項1に記載の電極形成用ガラス組成物。
【請求項3】
実質的にZnOを含有しないことを特徴とする請求項1または2に記載の電極形成用ガラス組成物。
【請求項4】
アルカリ金属酸化物の含有量が0.05%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電極形成用ガラス組成物。
【請求項5】
SiOの含有量が3%未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電極形成用ガラス組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電極形成用ガラス組成物からなるガラス粉末と、金属粉末と、ビークルとを含むことを特徴とする電極形成材料。
【請求項7】
ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm未満であることを特徴とする請求項6に記載の電極形成材料。
【請求項8】
ガラス粉末の軟化点が600℃以下であることを特徴とする請求項6または7に記載の電極形成材料。
【請求項9】
ガラス粉末の含有量が0.2〜10質量%であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の電極形成材料。
【請求項10】
金属粉末がAg、Al、Au、Cu、Pd、Ptおよびこれらの合金の一種または二種以上を含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の電極形成材料。
【請求項11】
金属粉末がAlであることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の電極形成材料。
【請求項12】
シリコン太陽電池の電極に用いることを特徴とする請求項6〜11のいずれかに記載の電極形成材料。
【請求項13】
シリコン太陽電池の裏面電極に用いることを特徴とする請求項6〜12のいずれかに記載の電極形成材料。

【図1】
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【公開番号】特開2010−251138(P2010−251138A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99687(P2009−99687)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】