説明

電極材料およびその製造方法

【課題】低価格で有害物質を含まず、耐溶着性と接触抵抗及び薄板への圧延加工性に優れた温度ヒューズ用の電極材料を提供する。
【解決手段】中心部に酸化物希薄層5とその両表層に酸化物2を集中させて密にした内部酸化性合金1とからなり、Agを80〜99wt%、Cuを20〜1wt%、さらにSnまたはInの少なくとも1種を0.1〜5wt%含む電極材料に、酸化温度が760°C以上でしかも24時間以上で内部酸化処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器や家庭用電気製品等において、機器が異常高温となるのを防止するために取り付ける温度ヒューズ用の電極材料であるAg−CuO合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感温ペレットが動作温度で溶融して圧縮バネを徐荷し、圧縮バネが伸長することにより、圧縮バネにより圧接されていた電極材料とリード線とが離隔して電流を遮断する温度ヒューズ用の電極材料としてはAg−CdO合金が主流であった。
しかしながら、Ag−CdOに関しては、Cdが有害物質であり、環境問題からその使用は制限されてきている。
【0003】
また、電極材料は薄板状で用いられ、しかもリード線との接触面が長時間にわたって通電状態のまま保持されるために、Ag−CdO合金では金属ケースとの溶着現象を引き起こしてしまい、温度ヒューズとしての機能を果たせなくなるという問題がある。
【0004】
さらに、Ag−CdO合金において、CdOの含有量を増やすことにより耐溶着性を改善することが可能であるが、含有量を増やした分、接触抵抗が増加し、ひいては接触部の温度上昇を招き、温度ヒューズの機能に悪影響をおよぼすことから温度ヒューズ用電極材料にAg−CuO合金が用いられることになった(例えば、特許文献1参照、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−162704号公報
【特許文献2】特許第4383859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなAg−CuO合金が、温度ヒューズ用電極材料として主流になって用いられるようになってきたが、価格を下げることを目的として酸化銅の含有量の増加および薄板化が求められてきた。
【0007】
しかしながら、従来のAg−CuO合金においては、CuO含有量の増加に伴い加工性が著しく劣ってしまい、内部酸化後の圧延加工において薄板に加工することが困難であった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明は、Agを80〜99wt%、Cuを20〜1wt%、さらにSnまたはInの少なくとも1種を0.1〜5wt%含む電極材料とした。
【0010】
ここで、Cuを20〜1wt%とした理由は、Cuの含有量が、1wt%未満では温度ヒューズ用電極材料として使用するのに十分な内部酸化合金とならないためであり、20wt%を超えると、接触抵抗が上昇することにより温度上昇を招き、温度ヒューズ用電極材料に適さないためである。
【0011】
また、SnまたはInを添加することにより、Cuとの複合酸化物、例えば(Cu−Sn)Oxとなり、耐溶着性を向上させる効果がある。ここで、SnまたはInの少なくとも1種を0.1〜5wt%とした理由は、0.1wt%より少ないと耐溶着性の向上の効果がなく、5wt%を超えると接触抵抗の上昇を招くためである。
さらに本発明は、Agを80〜99wt%、Cuを20〜1wt%、さらに、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.01〜1wt%含む電極材料とした。
【0012】
内部酸化処理中は、酸化物と未酸化物との急激な濃度勾配が生じるため、未酸化物が内部から表層に向かって移動し、表層と内部では不均質な状態が生じ易い。そこでFe、CoもしくはNiを配合することにより、内部酸化処理時の未酸化物の移動を抑制し、酸化物の均質な分散を得ることができる。
【0013】
ここで、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.01〜1wt%とした理由は、0.01wt%より少ないと内部酸化処理時の未酸化物の移動を十分に抑制することができず、酸化物の均質な分散が得られないためであり、1wt%を超えると結晶粒界などに粗い酸化物を形成し、接触抵抗の上昇を招くためである。
【0014】
さらに本発明は、Agを80〜99wt%、Cuを20〜1wt%、SnまたはInの少なくとも1種を0.1〜5wt%、さらに、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.01〜1wt%含む電極材料とした。
【0015】
さらに、本発明は、上記各電極材料の内部酸化処理を施す際に、その内部酸化処理において、酸化温度が760°C以上でしかも24時間以上の長時間にわたって内部酸化処理を行うことを特徴とする。
【0016】
これにより、材料中心部に形成される酸化物希薄層の厚みを意図的に広げることができる。
【0017】
ここで、内部酸化温度を760°C以上とした理由は、本発明に必要な酸化物希薄層を得るためであり、760°Cより低いと所定量の酸化物希薄層が得られないためである。また、大きな(厚い)酸化物希薄層を得るためには、内部酸化時間を24時間以上とすることがよい。
【0018】
ここで、酸化物希薄層について説明する。
【0019】
図3に示す如く、内部酸化性合金を内部酸化する際、材料表層より酸素が吸蔵されていくのと同時に内部酸化性合金内の卑金属(例えばCu)が表層に拡散していき酸素と結び付いて酸化物として析出する。なお、図において、1は内部酸化性合金、2は酸化物、3は内部酸化時の卑金属の挙動、4は内部酸化時の酸素の挙動を示す。
【0020】
そのため、図4に示す如く、最終的に材料中心部に酸化物濃度が0.5wt%以下の酸化物が希薄な層ができる。この層を酸化物希薄層と定義する。図において、5は酸化物希薄層である。
【0021】
酸化物希薄層の多い接点を使用すると、接点の消耗が酸化物希薄層にまでおよんだ際には、酸化物が希薄なため、異常消耗することはもとより、溶着事故にまで発展する可能性があり、接点材料において酸化物希薄層はないことが好ましい。そのため、温度ヒューズ用電極材料においても、内部酸化条件を工夫して酸化物希薄層がなるべく小さくなるように製造していた。
【0022】
ところで、温度ヒューズ用電極材料は、温度ヒューズの機構上0.1mm以下の薄板材が用いられているため、内部酸化処理後に材料を圧延加工する必要がある。
また、コストダウンを目的として酸化物含有量の増加および50μm以下の板厚まで薄板化が求められているが、従来の製造方法でそのような板厚までの圧延加工は不可能であった。
【0023】
そこで、本発明は酸化温度が760°C以上でしかも24時間以上の長時間にわたって内部酸化処理を行うことにより、図1に示す如く、酸化物を両表層付近に集中させて密にし、電極材料の中央に大きな(厚さ方向に厚い)酸化物希薄層を形成することにより内部酸化後の圧延加工性を向上させることができることを見出した。
【0024】
内部酸化後の材料は、内部酸化前と比較して加工性が著しく劣るという特徴がある。これは、Ag中に酸化物が析出しているからである。
【0025】
ところが、上記のごとく、本発明の酸化物希薄層においては、酸化物が両表層方向に移動しているために酸化物が極めて希薄で純銀に近い状態であるために圧延加工性に優れることになる。
【0026】
すなわち、本発明においては、圧延加工を施した際、表層の酸化物が密な部分はほとんど加工されず、内部に形成した大きな(厚い)酸化物希薄層が潰れることになる。したがって、この現象を利用して、50μm以下という薄板化に圧延加工することに成功した。
【0027】
さらに、所定の厚さまで加工された材料は、図2に示す如く、圧延によって酸化物希薄層はほとんど残らず、酸化物が全体に分布し、接点として使用した際にも異常消耗や溶着等の危険性はない。
【発明の効果】
【0028】
したがって、本発明による内部酸化によった内部酸化性合金は、50μm以下の薄板化の圧延加工が可能になると共に電極材料として50μm以下に圧延加工を施して薄板化しても接点として使用した際に異常消耗または溶着等の危険性はない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施例を表1および表2に示す。
内部酸化性合金の加工工程は、まず、所定の材料を溶解し、圧延加工によって所定の板形状となし、内部酸化炉中で内部酸化を行った。これにより、10%以上の厚さの酸化物希薄層を形成することができ、これらの材料を圧延可能な板厚まで圧延加工した結果を表1に示す。
【0030】
さらに、これらを電極材料として温度ヒューズに組み込み、通電試験および電流遮断試験を行い、その結果を表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
通電試験:DC30V、10Aの条件にて10分間通電して温度上昇が10°Cを超えるものを×とした。
遮断試験:DC30V、10Aの条件にて10分間通電後、測定環境の温度を上昇させ遮断試験を行い、溶着したものを×とした。
【0034】
以上により、板厚50μm以下で電流遮断性に優れた特性を有し、良好な温度ヒューズとしての機能を有し、安定した接触抵抗が得られる低コストの温度ヒューズ用電極材料となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の内部酸化終了後の電極材料の断面説明図
【図2】本発明の内部酸化終了後に圧延加工を施した電極材料の断面説明図
【図3】内部酸化時における酸素と卑金属の挙動の説明図
【図4】従来の内部酸化終了時の電極材料の断面説明図
【符号の説明】
【0036】
1 内部酸化性合金
2 酸化物
3 内部酸化時の卑金属の挙動
4 内部酸化時の酸素の挙動
5 酸化物希薄層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを80〜99wt%、Cuを20〜1wt%、さらにSnまたはInの少なくとも1種を0.1〜5wt%含むことを特徴とする電極材料。
【請求項2】
Agを80〜99wt%、Cuを20〜1wt%、さらに、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.01〜1wt%含むことを特徴とする電極材料。
【請求項3】
Agを80〜99wt%、Cuを20〜1wt%、SnまたはInの少なくとも1種を0.1〜5wt%、さらに、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.01〜1wt%含むことを特徴とする電極材料。
【請求項4】
請求項1〜請求項3における電極材料の内部酸化処理を施す際に、酸化温度が760°C以上で24時間以上内部酸化処理を行うことを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、酸化温度が760°C以上で24時間以上で内部酸化処理を行い、酸化物を両表層付近に集中させ、電極材料の中央に10%以上の厚さの酸化物希薄層を形成して内部酸化後の圧延加工性を向上させることを特徴とする電極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−137198(P2011−137198A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296879(P2009−296879)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000152158)株式会社徳力本店 (29)
【Fターム(参考)】