電極材料の成膜方法、電極材料の膜及び電極材料、非水電解質二次電池、並びに電極材料成膜用の噴射加工装置
【課題】界面剥離や固体微粒子の脱落を生じにくく充放電のサイクル数を安定的に確保可能な電極材料の成膜方法を提供する。
【解決手段】リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子Gを用い、この固体微粒子Gを気体の噴流に乗せてノズル120から噴射し、ノズル120に対向して配置した電極基材Wに衝突付着させて、電極基材W上に第1材料を活物質とする電極材料の膜を形成する。
【解決手段】リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子Gを用い、この固体微粒子Gを気体の噴流に乗せてノズル120から噴射し、ノズル120に対向して配置した電極基材Wに衝突付着させて、電極基材W上に第1材料を活物質とする電極材料の膜を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム化合物を形成しうる第1材料を活物質として電極基材の表面に形成する電極材料の成膜方法、成膜用の噴射加工装置に関するものであり、さらには、この成膜方法により生成された電極材料の膜及び電極材料、並びにこの電極材料を用いて形成される非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繰り返し充放電が可能な二次電池として、鉛蓄電池やニッケルカドミウムなどの水系電解質二次電池が旧来から用いられてきたが、近年ではこれらの水系電解質二次電池よりも大きなエネルギー密度が得られる非水電解質二次電池が携帯電話やノートパソコンなどに広く用いられている。非水電解質二次電池の代表例であるリチウムイオン二次電池では、良好なサイクル特性を有する難黒鉛化性炭素や黒鉛等の炭素系材料が負極材料として用いられているが、炭素系材料よりもさらに高容量化が期待される電極材料として、集電体となる電極基材上に、リチウムイオンの吸蔵量が多いシリコン(Si:ケイ素)を負極活物質として成膜した電極材料の研究開発が急速に進展している。
【0003】
シリコンを負極活物質とする電極材料の形成手法として、銅箔などの電極基材(集電体)にシリコンの微粒子と結着材とを混練した合材のスラリを塗布して硬化させる手法(便宜的に、「スラリ塗布法」という)が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、集電体の表面に真空蒸着によりシリコンの薄膜を形成する手法(同様、「蒸着法」という)や、シリコン微粒子の外周を金属メッキした被覆粒子を集電体に電着メッキ等により固定して多孔質のシリコン層を形成する手法(同様、「電着法」という)などが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−339777号公報
【特許文献2】特許第3612669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スラリ塗布法では、シリコン微粒子を集電体上に係止するスラリが樹脂を主体として構成されるため導電性が低く、また充放電の繰り返しにより界面剥離を生じやすいという課題があった。蒸着法では、集電体上に緻密なシリコンの薄膜が形成されるが、シリコン自体は導電性が低いため、厚膜を形成すると電荷を集電体に移動させることが難しくなり充電容量を増やせないという問題や、充放電を繰り返すとシリコン層の膨張・収縮により界面剥離してしまい、容量維持率が悪いという課題があった。電着法では、隣接するシリコン粒子が薄い金属メッキ層を介して接合された集合体であるため、充放電によりシリコン粒子が膨張・収縮を繰り返すうちに、接合部の損壊や被覆の破れ等によりシリコン粒子が脱落してゆくという問題があり、充放電のサイクル数を安定的に確保することが難しいという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、界面剥離や固体微粒子の脱落を生じにくく充放電サイクルでの容量維持率を安定的に確保可能な電極材料の成膜方法、この成膜方法の実現に好適な噴射加工装置を提供し、この成膜方法により生成される電極材料の膜及び電極材料、並びに非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明を例示する第1の態様は電極材料の成膜方法である。この成膜方法は、リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子を用い、この固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し、ノズルに対向して配置した電極基材に衝突させて付着させ、電極基材上に第1材料を活物質とする電極材料の膜を形成することを特徴とする。
【0008】
なお、前記第1材料と前記第2材料とが固体微粒子中に均一に分散していることが好ましく、第1材料を第2材料によって電極基材上に固着させることが望ましい。また、固体微粒子が、噴射する気体における音速未満の速度で電極基材に噴射され、常温かつ常圧下において電極材料の膜が形成されるように構成すること、より端的には、パウダー・ジェット・デポジション(Powder Jet Deposition)法により成膜されることが好ましい。
【0009】
前記目的を達成するため、本発明を例示する第2の態様は、請求項1〜8のいずれかに記載の成膜方法により形成された電極材料の膜、電極材料の膜が電極基材上に形成された電極材料であり、さらには正極と負極と非水電解質とを備え、負極が上記成膜方法により形成された電極材料を用いて形成される非水電解質二次電池である。
【0010】
前記目的を達成するため、本発明を例示する第3の態様は、固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し当該気体における音速未満の速度で電極基材に衝突させて付着させ、常温かつ常圧下で電極基材上に電極材料の膜を形成する電極材料成膜用の噴射加工装置である。そのうえで、リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子をノズルに供給する固体微粒子供給手段(例えば、実施形態における微粒子供給ユニット30)と、固体微粒子噴射用の気体をノズルに供給する気体供給手段(例えば、実施形態におけるガス供給ユニット40)とを備え、固体微粒子供給手段によりノズルに供給された固体微粒子が、気体供給手段によりノズルに供給されてノズル内部を流れる気体の気流により気体中に分散されてノズルから噴射されるように構成される。
【0011】
なお、上記第3の態様におけるノズルには、軸線に沿って延びる中空パイプ状の第1ノズル(例えば、第1構成形態の噴射加工装置1における供給ノズル22、第2、第3構成形態の噴射加工装置2,3における加速ノズル125,225)を有し、気体供給手段から第1ノズルの基端側に気体(例えば、噴射加工装置1における供給ガス、噴射加工装置2,3における加速ガス)を供給して先端側から噴射させたときに第1ノズルを流れる気流により固体微粒子供給手段から供給された固体粒子が気流中に分散され、気流により加速されて第1ノズルの先端から噴出するように構成されることが好ましい。
【0012】
また、前記ノズルに、軸線に沿って延びる第1ノズル(例えば、第2、第3構成形態の噴射加工装置2,3における加速ノズル125,225)と、第1ノズルよりも開口寸法が小さい中空パイプ状をなし先端部が第1ノズルの基端側に同一軸上に挿入された第2ノズル(同上、供給ノズル122)とを有し、第1ノズルの基端部と第2ノズルの先端部との重複部に流路幅が狭いガス噴流路が形成されて気体供給手段から第1ノズルの基端側に供給された気体(同上、加速ガス)がガス噴流路から第1ノズルの内部に供給されて第1ノズルの先端から噴出され、ガス噴流路から第1ノズルの内部に供給される気体の噴流を利用して、固体微粒子供給手段から第2ノズルに供給される固体微粒子が第1の気体中に分散され加速されるように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の成膜方法によれば、界面剥離や固体微粒子の脱落が生じにくく、充放電のサイクル数を安定的に確保可能な電極材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。まず、固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し、ノズルに対向して配置した電極基材に衝突させて付着させ、常温かつ常圧下で電極基材上に電極材料の膜を形成する噴射加工装置の例として、第1構成形態の噴射加工装置1の概要構成図を図1に示しており、この図を参照しながら噴射加工装置の構成について説明する。なお、説明の便宜上、図1(図2)に示す配設姿勢における上下左右をもって上下左右と称して説明する。
【0015】
この噴射加工装置1は、固体微粒子Gをノズル20に供給する微粒子供給ユニット30、固体微粒子噴射用のガスをノズル20に供給するガス供給ユニット40、ノズル20に対して電極基材Wを相対移動させる移動ユニット(不図示)、ガス供給ユニット40によるガス供給や移動ユニットによる電極基材Wの相対移動を制御する制御ユニット70などを備え、ノズル20に供給された固体微粒子Gがノズル内部を流れるガス流により分散されてノズル先端から電極基材Wに噴射されるように構成される。
【0016】
ノズル20は、ベースとなるノズルブロック21と、図において一点鎖線で示す軸線CLに沿って左右に延び先端部がノズルブロック21から突出して固定された中空パイプ状の供給ノズル22とを有して構成される。供給ノズル22は、例えば内径φ0.5〜2mm程度、肉厚0.2〜0.5mm程度のセラミックス等の耐食性材料によるパイプを用いて形成され、第1ノズル22の軸方向(左右方向)中間部には、固体微粒子Gが通過可能な幅0.1〜0.4mm程度のスリット状あるいは円孔状の孔部23が、単数または複数並んで壁面を貫通して開口形成されている。ノズルブロック21には、孔部23の周囲に位置して供給ノズル22の外周を囲む円環状の微粒子供給溝33が形成されている。
【0017】
微粒子供給ユニット30は、ノズルブロック21の上部に設けられてパウダー状態の固体微粒子Gを貯留する微粒子タンク31、この微粒子タンク31と孔部周辺に形成された微粒子供給溝33との間を繋いで微粒子タンク31に貯留された固体微粒子Gを微粒子供給溝33に導く微粒子導入路32とを有して構成される。なお、微粒子タンク31は、例えば、ノズルブロック21を矩形箱状に構成してその上部に上方に開く円錐ホッパ状に設け、あるいはノズルブロック21を中空円筒状に構成してその円筒部に設けるなど、ノズル形状等に応じて適宜設定することができる。
【0018】
供給ノズル22の右方には、ノズルブロック21を貫通して供給孔が形成されており、この供給孔の右方からガス供給ユニット40のガス供給パイプ42が挿入固定される。ガス供給パイプ42は、外径が供給ノズル22の内径よりもわずかに小径で、先端側が供給ノズル22の基端側(右端側)から同軸上に嵌入されており、ガス供給パイプの先端部が孔部23に近接して配設される。
【0019】
ガス供給ユニット40には、詳細図示を省略するが、このガス供給ユニット40からノズル20に供給されるガス(供給ガス)の種別や混合比を切り換える選択レバーやミキサー、フィルター、供給ガスの圧力を設定するレギュレータ、供給ガスの圧力を検出する圧力センサ、ガス供給パイプ42への供給ガスの供給・停止を切り換える電磁弁などが設けられている。ガス供給ユニット40には、例えば、He、N2、Ar、空気などの種々のガスが充填されたガスボトル45がチューブ46を介して接続されるとともに、このユニットの作動を制御する制御ユニット70がケーブル47により接続されており、制御ユニット70によりガスの種別を選択し、ガス供給ユニットの電磁弁をパルス制御することにより、レギュレータにより圧力設定された供給ガスが、ガス供給パイプ42を介して供給ノズル22に供給される。
【0020】
なお、図1では、説明簡明化のため、ノズル20とガス供給ユニット40とをガス供給パイプ42により直接接続した構成を示したが、ノズルに装着したガス供給パイプ42とガス供給ユニット40との間に、可撓制を有する合成樹脂製または金属製のチューブを設けて配管接続するように構成してもよい。
【0021】
制御ユニット70は、パーソナル・コンピュータやプログラマブル・コントローラ等を利用して構成することができ、ガス供給ユニット40による供給ガスの供給・停止、移動ユニットによる電極基材Wの移動制御などが実行される。
【0022】
このような構成の噴射加工装置1では、制御装置70によりガス供給ユニット40の作動を制御し、ガス供給ユニット40からノズル20に供給ガスを供給することにより、微粒子供給ユニット30により供給された固体微粒子Gが、供給ノズル22内部を流れる気体の気流により供給ノズル22内に生じる負圧を利用してガス中に分散され供給ノズル22の先端から電極基材Wに向けて噴射される。
【0023】
この作用について説明すると、ガス供給ユニット40からガス供給パイプ42を介して供給ノズル22に所定圧力(〜2MPa)で供給ガスを供給すると、供給ガスは供給パイプ42および供給ノズル22を通って供給ノズル22の先端から電極基材Wに向かって噴出する。このとき、孔部23の形成領域では、供給ノズル22内を高速で流れるガス流のエジェクタ効果により孔部23が負圧状態となる。また、供給パイプ42の先端部が孔部23に近接して配設されているところ、供給パイプ42は供給ノズル22よりも小径であり供給パイプ42と供給ノズル22との接続部で流路断面積が急拡大しているため、この段差部分、すなわち孔部23の近傍領域が負圧状態になるとともに、段差近傍に乱流が発生する。
【0024】
そのため、孔部23では、供給ノズル22の内側と外側の微粒子供給溝33との間に差圧が発生し、微粒子供給溝33に位置する固体微粒子Gが吸い上げられるように孔部23を通って供給ノズル22内に供給される。そして、供給ノズル22内を流れる供給ガスのガス流により分散され、加速されて供給ノズル22から電極基材Wに向けて噴射される。
【0025】
このとき、固体微粒子Gの速度は、ノズル20に供給される供給ガスの種類及び圧力を制御することにより設定され、例えば供給ガスが空気の場合には、50〜300m/sec程度の音速以下の速度で噴射される。供給ガスとともに噴射された固体微粒子Gは、ノズル先端から0.5〜2mm程度の距離に配置された電極基材Wの被付着面(固体微粒子が衝突して付着する面をいい、成膜前における電極基材(集電体)Wの表面、成膜中における付着した電極材料の膜面をいう)に衝突し付着する。そして、固体微粒子を噴射させながらノズル20と電極基材Wとを相対移動させることにより、常温かつ常圧下で、電極基材W上に電極材料の膜が形成される。
【0026】
なお、例えば電空レギュレータにより供給ガスの圧力を変化させ、供給ノズル22から電極基材Wに噴射するガス流速を任意に制御可能なほか、供給ガスの供給・停止を切り換える電磁弁として高速応答可能な電磁弁を用い、オン・オフ時間(周波数とオン・オフ時間比)を制御することにより、数百Hz程度の周波数で間欠噴射することも可能である。また、本構成形態では、孔部近傍に生じる負圧を利用して、固体微粒子Gを供給ノズル22内に吸い上げる構成例を示したが、孔部近傍に負圧を生じさせることなく固体微粒子を供給ノズル22内に重力を利用して投入し、あるいは供給ノズル22内に定量供給するように構成してもよい。
【0027】
次に、第2構成形態の噴射加工装置2の概要構成図を図2に示しており、この図を参照しながら噴射加工装置2の構成について説明する。なお、第1構成形態の噴射加工装置1と同様の部分に同一番号を付して重複説明を省略する。
【0028】
噴射加工装置2は、固体微粒子Gをノズル120に供給する微粒子供給ユニット30、固体微粒子噴射用のガスをノズル120に供給するガス供給ユニット40、ノズル120に対して電極基材Wを相対移動させる移動ユニット(不図示)、ガス供給ユニット40によるガス供給や移動ユニットによる電極基材Wの相対移動を制御する制御ユニット70などを備え、ノズル120に供給された固体微粒子Gがノズル内部を流れるガス流により分散・加速されてノズル先端から電極基材Wに噴射されるように構成される。すなわち、本構成の噴射加工装置2はノズル120の構成が前述した噴射加工装置1と相違する。
【0029】
ノズル120は、ベースとなるノズルブロック121と、軸線CLに沿って左右に延び先端部がノズルブロック121から突出して固定された中空パイプ状の加速ノズル125と、外径が加速ノズル125の内径よりも小径の中空パイプ状をなし、先端側が加速ノズル125の基端側から軸線CLに沿って同一軸上に挿入された供給ノズル122とを有して構成される。加速ノズル125は内径φ0.5〜2mm程度、肉厚0.1〜0.5mm程度のセラミックス等の耐食性材料によるパイプ、供給ノズル122は外径φ0.3〜1.8mm程度、肉厚0.1〜0.3mm程度のセラミックス等の耐食性材料によるパイプを用いて形成される。
【0030】
図示するように、加速ノズル125の基端部と供給ノズル122の先端部とは一部重なって配設され、この重複部(加速ノズル125の内周と供給ノズル122の外周の間)に、流路幅が0.05〜0.2mm程度の円環状の加速ガス噴流路126が形成される。ノズルブロック121には、加速ノズル125の基端側に加速ガス噴流路126と繋がる加速ガス導入路127が形成され、この加速ガス導入路127に接続された加速ガス供給配管43を介してガス供給ユニット40に接続されている。供給ノズル122の軸方向(左右方向)中間部には、前述同様の孔部23が単数または複数開口形成され、その周囲に円環状の微粒子供給溝33が形成されている。
【0031】
供給ノズル122の右方には、ノズルブロック121を貫通して供給孔が形成され、この供給孔の右方からガス供給ユニット40のガス供給パイプ42が挿入固定される。ガス供給パイプ42は、外径が供給ノズル122の内径よりもわずかに小径で、先端側が供給ノズル122の基端側(右端側)から同軸上に嵌入されており、ガス供給パイプ42の先端部が孔部23に近接して配設される。
【0032】
このような構成の噴射加工装置2では、制御装置70によりガス供給ユニット40の作動を制御し、ガス供給ユニット40からノズル120に供給される加速ガスおよび供給ガスの圧力・流量を制御することにより、粒子供給ユニット30により供給された固体微粒子Gが、主として加速ガス噴流路126の出口と供給ノズル122の出口のガス流速差による負圧を利用して加速ガス中に分散され、加速ガスにより加速されて加速ノズル125の先端から電極基材Wに向けて噴射される。
【0033】
すなわち、ガス供給ユニット40から、加速ガス供給配管43を介して加速ガス導入路127に所定圧力(〜2MPa)で加速ガスを供給すると、供給された加速ガスは加速ガス噴流路126を通って加速ノズル125内を流れ、加速ノズル125の先端から電極基材Wに向かって噴出する。
【0034】
このとき、加速ガス噴流路126の出口領域では、厚さ0.05〜0.2mm程度の薄い円環状の流路が、内径φ0.5〜2mmの円形断面の流路となり、流路断面積が急激に増大する。このため、加速ガス噴流路126の出口領域では、供給ノズル122の出口前方に大きな乱流が発生するとともに、供給ノズル122内の気体が引き出される。
【0035】
そのため、供給ノズル122の内方に位置する孔部23が供給ガスの流れ、及び/または、加速ガスの流れにより負圧状態となって微粒子供給溝33との間に差圧が発生し、微粒子供給溝33に位置する固体微粒子Gが吸い出されるように孔部23を通って供給ノズル122内を流れ、供給ノズル122の出口領域で乱流に巻き込まれて分散され、加速ガスのガス流により加速されて加速ノズル125から電極基材Wに向けて噴射される。
【0036】
加速ノズル125から噴射される固体微粒子Gの速度は、主としてノズル120に供給される加速ガスの種類及び圧力を制御することにより設定され、例えば、加速ガスが空気の場合には、50〜300m/sec程度の音速以下の速度で噴射される。加速ガスとともに噴射された固体微粒子Gは、ノズル先端から0.5〜2mm程度の距離に配置された電極基材Wの被付着面に衝突し付着する。そして、固体微粒子を噴射させながらノズル120と電極基材Wとを相対移動させることにより、常温かつ常圧下で、電極基材W上に電極材料の膜が形成される。
【0037】
本構成形態の噴射加工装置2においては、ノズル120に加速ガス及び供給ガスの両方を供給することもできる。ガス供給ユニット40から供給ノズル122に供給ガスが供給されると、この供給ノズル内を流れるガス流のエジェクタ効果により孔部23が負圧状態になり、供給パイプ42と供給ノズル122との接続部で流路断面積が急拡大しているため、この段差部分に近接する孔部23の近傍領域が負圧状態になる。さらに、供給ノズル122から流出する供給ガスの流速が加速ガス噴流路126から噴出する加速ガスの流速よりも低い場合には、前述した加速ガスの効果により供給ノズル内の気体が引き出されるように作用する。
【0038】
そのため、孔部23では、供給ノズル122を流れる供給ガスにより微粒子供給溝33に位置する固体微粒子Gが供給ノズル122内に吸い上げられ、この供給ノズル122を流れる供給ガスにより加速ノズル125に送り出されるとともに、供給ノズル122の出口領域で加速ガス噴流路126から噴出する加速ガスにより発生された乱流に巻き込まれて加速ガス中に分散され、加速ガスのガス流により加速されて加速ノズル125から電極基材Wに向けて噴射される。
【0039】
このときの固体微粒子Gの速度は、前述した各構成形態と同様であり、例えば、供給ガスが空気の場合には、50〜300m/sec程度の音速以下の速度で噴射される。加速ガスとともに噴射された固体微粒子Gは、ノズル先端から0.5〜2mm程度の距離に配置された電極基材Wの被付着面に衝突して付着する。このとき、固体微粒子の噴射とともにノズル120と電極基材Wとを相対移動させることにより、常温かつ常圧下で、電極基材W上に電極材料の膜が形成される。
【0040】
次に、第3構成形態の噴射加工装置3について説明する。この噴射加工装置3は、図2中にIII−III矢視で付記する電極基材W側から見たノズル220の断面図を図3に示すように、供給ノズル222及び加速ノズル225の軸直行断面形状が矩形の中空パイプ状(角パイプ状)である点を除いて、基本的な構成は、上述した第2構成形態の噴射加工装置2と同様である。そこで、噴射加工装置2と相違するノズル部分を中心として簡潔に説明する。
【0041】
ノズル220は、ベースとなるノズルブロック221と、軸線CLに沿って左右に延び先端部がノズルブロック221から突出して固定された矩形中空パイプ状の加速ノズル225と、上下方向の開口寸法が加速ノズル225よりも小さい矩形中空パイプ状をなし、先端側が加速ノズル225の基端側から軸線(軸面)CLに沿って同一軸上に挿入された供給ノズル222とを有して構成される。図3に示す断面視における供給ノズル222の開口高さh1は0.1〜1.6mm程度、加速ノズルの開口高さh2は0.15〜1.8mm程度である。なお、供給ノズル222及び加速ノズル225の開口幅は、成膜対象となる電極基材の幅に合わせて適宜に設定できるが、後述する実施例では開口幅10mmのノズルを用いている。
【0042】
加速ノズル225の基端部と供給ノズル222の先端部とは一部重なって配設され、この重複部に、上下方向の流路幅が0.05〜0.3mm程度のスリット状の加速ガス噴流路226が形成される。図3は、供給ノズル222を挟んで上下に加速ガス噴流路226を形成した構成例を示している。ノズルブロック221には、加速ノズル225の基端側に、上下の加速ガス噴流路226,226と繋がる加速ガス導入路227が形成され、これらの加速ガス導入路227に接続された加速ガス供給配管43を介してガス供給ユニット40に接続されている(図2を併せて参照)。
【0043】
供給ノズル222の基端側には、ノズルブロック221を貫通して供給ノズル222と略同一の開口幅を有するスリット状の供給孔が形成され、ガス供給ユニット40からガス供給パイプを介して供給ガスが供給される。供給ノズル222の軸方向の中間部には、既述したと同様の孔部23が、幅方向に並んでノズル上辺に複数開口形成され、その上方に微粒子タンク31と繋がる微粒子導入路32が形成されている(図2を参照)。
【0044】
このように、噴射加工装置3は、供給ノズル222及び加速ノズル225の軸直行断面形状が矩形の中空パイプ状であるが、基本的な構成は噴射加工装置2と同様であり、固体微粒子Gの噴射加工も既述したと同様に行われる。すなわち、制御装置70によりガス供給ユニット40の作動を制御し、ガス供給ユニット40からノズル220に供給される加速ガスおよび供給ガスを制御することにより、粒子供給ユニット30から供給された固体微粒子Gが、加速ガス噴流路226と供給ノズル222の出口との流速差で生じる負圧を利用して加速ガス中に分散され、加速ガスにより加速されて加速ノズル225の先端から電極基材Wに向けて噴射される。
【0045】
具体的には、ガス供給ユニット40から、加速ガス供給配管43を介して加速ガス導入路227に所定圧力で加速ガスを供給すると、加速ガスは加速ガス噴流路226を通って加速ノズル225内に噴射され、加速ノズル225の先端から電極基材Wに向かって噴出する。加速ガス噴流路226の入口は、供給ノズルとの断面積差、速度差により、供給ノズル222の出口前方に大きな乱流が発生し、供給ノズル222内の気体が引き出される。
【0046】
一方、右側のガス供給パイプ42との断面積差によるエジェクタ効果、あるいは加速ノズル225からの負圧により、供給ノズル222の内方に位置する孔部から固体微粒子Gが吸い出されるように流入して供給ノズル222内を流れ、供給ノズル222の出口前方で加速ガス噴流路226から噴出する加速ガスの乱流に巻き込まれて分散されるとともに、ガス流に加速されて加速ノズル225の先端から電極基材Wに向けて噴射される。
【0047】
このときの固体微粒子Gの速度は、主としてノズル220に供給される加速ガスの種類及び圧力を制御することにより設定され、例えば、加速ガスが空気の場合には、50〜300m/sec程度の音速以下の速度で噴射される。加速ガスとともに噴射された固体微粒子Gは、ノズル先端から0.5〜2mm程度の距離に配置された電極基材Wの被付着面に衝突して付着する。このとき、固体微粒子を噴射させながらノズル220と電極基材Wとを相対移動させることにより、常温かつ常圧下で、電極基材W上に電極材料の膜が形成される。なお、前述した噴射加工装置2と同様、ノズル220に加速ガスと供給ガスの両方を供給することもできる。
【0048】
以上、3つの構成形態を例示して噴射加工装置について、構成と成膜方法を説明したが、ノズル20,120,220の断面形状は円形や矩形に限られるものではなく、長円や多角形、あるいは円形(矩形)ノズルを千鳥配列するなど適宜な形状にすることができる。また、ノズル20,120,220に供給する供給ガスおよび加速ガスは、電極基材Wや固体微粒子Gなど加工対象に応じて適宜選択することができる。供給ガスと加速ガスとを同種のガスあるいは異なる種類のガスとすることや、成膜加工の進行に伴いガスの種類や混合比率を変化させることなども任意である。なお、使用するガスを第18族元素ガス、または窒素ガスのような不活性ガスを用いることにより、固体微粒子の付着プロセスでの酸化作用を抑止することができる。また、ヘリウムに代表されるように質量の小さいガスを用いれば、固体微粒子Gの衝突速度を高速化することができ、空気を用いれば、成膜コストを低減することができる。
【0049】
以上説明した第1〜第3構成形態の噴射加工装置1〜3は、いずれも常温かつ常圧の環境下において音速以下の噴射速度で固体微粒子Gを噴射し、集電体等の電極基材W上に電極材料の膜を形成する。このため、噴射加工装置1〜3によれば、加温、超音速ノズルや減圧設備等を用いない簡明かつ自由度の高い構成で、安定した固体材料膜を形成可能な噴射加工装置を提供することができる。噴射加工装置1〜3において電極材料の成膜に使用される固体微粒子Gは以下のような特徴を有している。
【0050】
固体微粒子Gは、リチウム化合物を形成しうる第1材料と、導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイング(Mechanical Alloying)により生成される。メカニカルアロイングは、機械的プロセスで合金化を行う粉末の製造方法であり、高エネルギーのボールミル等により原料粉末の混合物に機械的エネルギーを与え、破砕と冷間圧延の繰り返しにより固体のままで合金化が行われる。
【0051】
このため、本来的には合金を形成しない第1材料と第2材料とを、破砕により微粒化し冷間圧延により一体化して、第1材料及び第2材料からなる固体微粒子を構成することができる。また、固体微粒子における第1材料と第2材料の組成比は、所定条件のもと原料粉末の投入比率等によりコントロールすることができ、一定範囲で任意の組成比の固体微粒子を生成することができる。なお、「リチウム化合物を形成しうる材料」とは、リチウムとの間で可逆的に化合物を形成しうる材料、すなわちリチウムイオン二次電池の負極材料として利用可能な材料をいい、リチウムとの合金または金属間化合物を形成しやすい材料である「リチウム化合物の形成能が高い材料」を好適に用いることができる。
【0052】
ここで、第2材料が第1材料同士を結合させる作用を有した材質とすることにより、メカニカルアロイングにおいて破砕により微粒化された第1材料の粒子が、冷間圧延により第2材料を介して相互に結合される。そのため、第1材料と第2材料とからなる固体微粒子を広い組成比の範囲で生成できる。また、固体微粒子を電極基材Wに衝突させたときに、固体微粒子の第1材料と被付着面上の第1材料とが、第1材料同士の結合のみならず第2材料を介しても結合され、付着率を大幅に向上させることができる。従って、任意組成の膜を高い効率で電極基材上に形成することができる。
【0053】
なお、第2材料は固体微粒子同士の凝集を抑制する作用を有した材質であることが好ましい。固体微粒子は、粒径が小さくなるほど粒子間引力の影響が強くなり、凝集しやすくなる。第2材料が固体微粒子同士の凝集を抑制する作用を有した材質とすれば、固体微粒子の粒径を小さくしても安定的に供給ノズル内に分散させることが可能であり、これにより、広い粒径範囲で安定した成膜を実現することができる。
【0054】
第2材料が固体微粒子同士の凝集を抑制する作用及び第1材料同士を結合させる作用を併有する材質とすれば、ノズル20,120,220からの安定噴射およびこれに基づく安定した膜形成に加えて、固体微粒子の付着率を向上させることができる。そのため、単位時間当たりの電極材料の成膜速度が大きくなり、生産性を向上させることができる。
【0055】
なお、固体微粒子Gを構成する第1材料として、第14族元素の単体、第14族元素と原子番号21〜30の金属との合金、原子番号21〜30の金属の炭化物、あるいは原子番号21〜30の金属の酸化物などを例示することができ、第2材料として、第3族〜第13族の金属元素単体、あるいは第13族〜第14族の金属元素の酸化物が例示される。
【0056】
このうち、第1材料が炭素、ケイ素、またはスズであり、第2材料が銅またはニッケルであるような構成は、単体では安定した成膜および特性を得ることが難しい第1材料を電極基材上に安定固着することができ、リチウムイオン二次電池の負極材料に代表される電極材料を高い生産性で安定的に生産することができる。
【0057】
特に、負極活物質としてケイ素(シリコン:Si)を用いた場合のリチウムイオン二次電池の負極容量密度は、グラファイトを用いた従来型の負極容量密度に対し、理論上、10倍以上あり、第1材料としてケイ素を用い、第2材料として銅を用いることにより、高容量の負極材料、ひいては高い容量密度のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0058】
この際、スラリ塗布法、蒸着法、電着法などの従来の成膜方法で形成された負極材料の問題点は、本願における「解決しようとする課題」に記載したとおりである。
【0059】
発明者らは、第1材料としてリチウム化合物を形成しうるシリコン(ケイ素)、第2材料として導電性が高い銅を用い、メカニカルアロイングにより第1材料と第2材料の組成比が異なる固体微粒子Gを作成した。具体的には、第1材料であるシリコンの原料粉体と第2材料である銅の原料粉体とを、シリコン60,50,35%の各比率でボールミル形態の高速粉体反応装置に投入し、メカニカルアロイングにより固体微粒子の試料1,2,3を作成した。
【0060】
作成された試料1〜3の断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、SEMと略記する)により観察した観察画像(SEM画像)を図4〜6に示す。図4は試料1、図5は試料2、図6は試料3の断面のSEM画像であり、各図における(a),(b),(c)はSEMの観察倍率が異なり、それぞれ1000,2500,5000倍である。
【0061】
成分分析の結果、各SEM画像において灰色部分でケイ素濃度が高く、微細化されたシリコン粒子と考えられる。また、各画像の白っぽい部分で銅濃度が高く、微細化された銅粒子と考えられる。これらの画像から、固体微粒子Gの内部に、微細化されたシリコン粒子及び微細化され圧延された銅粒子がほぼ均一に分散しており、シリコン粒子に付着した銅粒子がシリコン粒子同士を結合ないし接着させているように見られる。
【0062】
メカニカルアロイングの効果により、各成分同士が微細に分散された構造をもつ粒子をPJDで成膜すると、深さが数ミクロンの凹凸構造となる。この凹凸構造によって、シリコン粒子がリチウムイオンの吸収・放出に伴って膨張・収縮する空間を確保することができ、成膜の微粉化、剥離現象を抑制することができるものと考えられる。
【0063】
図7に、試料1,2,3の粒子表面、及び粒子断面の成分分析により得たシリコンと銅の成分比の数値データを示す。図示のように、メカニカルアロイングにより生成された試料1,2,3の成分比は、原料粉体の調合比率とほぼ一致した比例関係にあり、第1材料と第2材料の調合比率を調整することにより任意組成比の固体微粒子を生成し得ることが理解される。
【0064】
以上、電極材料成膜用の噴射加工装置及び成膜方法、並びに電極材料の成膜に好適な固体微粒子Gの構成について説明してきた。以降では、このような噴射加工装置及び固体微粒子を用い、PJD(Powder Jet Deposition:以下同様)により電極基材上に形成した電極材料膜の実施例について説明する。
【0065】
噴射加工装置として第3構成形態の噴射加工装置3を用い、電極基材Wとして集電体を構成する銅(Cu)を用い、以下の加工条件により電極材料(リチウムイオン二次電池用負極材料)の膜を成膜した。
(共通条件)
(1)固体微粒子
・使用する固体微粒子 :前述した試料1〜3
・各試料の平均粒径 :4[μm]
(2)噴射加工装置3
・供給ノズル及び加速ノズルの開口幅:約10[mm]
・供給ノズルの開口高さ:0.4[mm]
・加速ノズルの開口高さ:0.3[mm]
(3)加工条件
・供給ガスの種別/圧力:窒素ガス/0.4[MPa]
・加速ガスの種別/圧力:窒素ガス/0.35[MPa]
・ノズル220の先端と電極基材Wとの距離 :1[mm]
・ノズル220の軸線CLと電極基材表面とがなす角度:90度(垂直)
・ノズル220に対する電極基材Wの移動速度:1[mm/sec]
【0066】
試料1,2,3を、順次噴射加工装置3の微粒子タンク31に投入し、上記加工条件のもとPJDにより電極基板W上に電極材料の膜を形成した。試料1を用いて形成された電極材料の膜(実施例1)、試料2を用いて形成生成された電極材料の膜(実施例2)の膜表面のSEM画像をそれぞれ図8及び図9に、実施例1の膜の研磨面のSEM画像を図10に示す。なお、各図における(a),(b),(c)は、SEMの観察倍率が1000,2500,5000倍のものである。
【0067】
これらの電極材料の膜について成分分析を行った結果、各SEM画像の灰色部分でケイ素濃度が高く、白っぽい部分で銅の濃度が高く検出されている。これらの膜の画像から、微粉化されたシリコンと銅がほぼ均一に分散しており、固体微粒子の段階でシリコン粒子に付着していた銅粒子が、電極基材表面あるいは表面に固着したシリコンに付着し、シリコンを結合ないし接着させているように見られる。
【0068】
図11に、実施例1及び2の電極材料膜について膜表面の成分分析により得たシリコンと銅の成分比の数値データを示す。図示のように、PJDにより成膜された実施例1および2の電極材料膜の成分比は、試料1及び2の成分比と明確な相関をもっており、固体微粒子のシリコン比率が高いほど、PJDにより形成された膜のシリコン比率が高いものとなっている。
【0069】
前述したように、メカニカルアロイングにより生成した試料1,2,3の成分比は、原料粉体の調合比率とほぼ一致した比例関係にあり、第1材料と第2材料の調合比率を調整することにより任意組成比の固体微粒子を生成できる。このことは、第1材料のシリコンと第2材料の銅の調合比率を調整することにより、任意の組成比の電極膜を形成できることを意味する。また、この調合比率を変化させることにより、第2材料の銅をシリコン粒子の結合剤ないし接合材として機能させるのみならず、導電助材として機能させるように構成することも自在である。
【0070】
このようにして銅の電極基材(集電体)にシリコンの電極膜が形成された電極材料について、発明者らは、充放電のサイクルテストを行った。サイクルテストは、実施例1および実施例2で得た電極材料を作用極とし、対極および参照極にリチウム、電解液としてプロピレンカーボネートの溶媒にLiClO4(1[mol/l])を用い、周知の3電極式の電気化学セルにより常温下で行った。
【0071】
スキャン速度30[mV/分]でのサイクルテストの結果を図12に示す。図12は縦軸に単位重量当たりの電気容量、横軸にサイクル数をとり、図中の実線は充電時、一点鎖線は放電時の電気容量を示す。図示のように、テスト開始初期に充電/放電(充放電)の容量密度が急激に上昇し、サイクル数N=20程度以降で徐々に安定する。安定後の充放電の容量密度は、いずれの実施例でも500[mAh/g]を超えており、従来から用いられている黒鉛系電極材料(C)の理論容量密度である372[mAh/g]と比較して、30%以上高い容量密度を有していることが確認された。また、この負極材料では、サイクル数が増加しても容量密度の低下は見られない。
【0072】
従って、この電極材料を電池の形態(例えば円筒形や角型、セル型、ラミネート型など)に合わせた形状寸法に打ち抜いて負極とし、アルミ箔にコバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物を正極活物質として付着形成した公知の正極を、セパレータを挟んで対峙させ、プロピレンカーボネートやエチレンカーボネート等の公知の溶媒にLiClO4やLiPF6等の公知の電解液(非水電解質)とともに封入して、リチウムイオン二次電池を構成することができ、これにより高い電気容量を長期間安定的に保持可能なリチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)を提供することができる。
【0073】
以上説明したように、本発明の電極材料の成膜方法によれば、リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからなる電極材料の膜が、電極基材上に強固に結合して形成されるため、界面剥離や固体微粒子の脱落が生じにくく、充放電のサイクル数を安定的に確保可能な電極材料を提供することができる。さらに、噴射加工装置1〜3を用いた成膜方法によれば、CS法(コールド・スプレー法)を適用した噴射加工装置のように超音速ノズルや高温高圧大流量のガス供給装置を必要としない簡明な構成で、微細構造の膜形成に適用可能である。また、AD法(エアロゾル・デポジション法)を適用した噴射加工装置のように、電極基材を真空チャンバーで成膜処理する必要がないため、電極基材に対する自由度が広く、生産性が高い生産方法および装置を提供することができる。
【0074】
なお、以上では、電極基材として集電体を用いた構成を例示したが、第2材料の組成比を段階的に高くした場合(傾斜構造とした場合)には、膜そのものを集電体またはその一部として機能させることが可能となる。この場合、電極基材として用いる銅箔の厚さを従来の半分以下に薄肉化し、あるいは電極基材を設けずに(またはセパレータの箔上に電極材料の膜を形成して)負極材料を構成することができる。電極基材のない膜を形成する場合には、噴射加工時に背面を支える支持材の表面に剥離層を形成しておき、成膜後に剥離層とともに支持部材を分離する。これにより、リチウムイオン二次電池をさらに小型化、軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1構成形態の噴射加工装置の概要構成図である。
【図2】第2構成形態の噴射加工装置の概要構成図である。
【図3】第3構成形態の噴射加工装置(ノズル部)の概要構成図である。
【図4】試料1の固体微粒子の断面のSEM画像である。観察倍率は(a)1000倍,(b)2500倍,(c)5000倍である。
【図5】試料2の固体微粒子の断面のSEM画像である。
【図6】試料3の固体微粒子の断面のSEM画像である。
【図7】試料1,2,3の粒子表面、及び粒子断面のシリコンと銅の成分比である。
【図8】試料1の固体微粒子を噴射して形成された膜(実施例1)の膜表面のSEM画像である。観察倍率は(a)1000倍,(b)2500倍,(c)5000倍である。
【図9】試料2の固体微粒子を噴射して形成された膜(実施例2)の膜表面のSEM画像である。
【図10】実施例1の膜を研磨した研磨面のSEM画像である。観察倍率は(a)1000倍,(b)2500倍,(c)5000倍である。
【図11】実施例1,2の膜表面のシリコンと銅の成分比である。
【図12】実施例1,2の電極膜が形成された電極材料のサイクルテストのデータである。
【符号の説明】
【0076】
CL 軸線
G 固体微粒子
W 電極基材(集電体)
1,2,3 噴射加工装置
20,120,220 ノズル
22,122,222 供給ノズル
125,225 加速ノズル
126,226 ガス噴流路
30 微粒子供給ユニット(固体微粒子供給手段)
40 ガス供給ユニット(気体供給手段)
70 制御ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム化合物を形成しうる第1材料を活物質として電極基材の表面に形成する電極材料の成膜方法、成膜用の噴射加工装置に関するものであり、さらには、この成膜方法により生成された電極材料の膜及び電極材料、並びにこの電極材料を用いて形成される非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繰り返し充放電が可能な二次電池として、鉛蓄電池やニッケルカドミウムなどの水系電解質二次電池が旧来から用いられてきたが、近年ではこれらの水系電解質二次電池よりも大きなエネルギー密度が得られる非水電解質二次電池が携帯電話やノートパソコンなどに広く用いられている。非水電解質二次電池の代表例であるリチウムイオン二次電池では、良好なサイクル特性を有する難黒鉛化性炭素や黒鉛等の炭素系材料が負極材料として用いられているが、炭素系材料よりもさらに高容量化が期待される電極材料として、集電体となる電極基材上に、リチウムイオンの吸蔵量が多いシリコン(Si:ケイ素)を負極活物質として成膜した電極材料の研究開発が急速に進展している。
【0003】
シリコンを負極活物質とする電極材料の形成手法として、銅箔などの電極基材(集電体)にシリコンの微粒子と結着材とを混練した合材のスラリを塗布して硬化させる手法(便宜的に、「スラリ塗布法」という)が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、集電体の表面に真空蒸着によりシリコンの薄膜を形成する手法(同様、「蒸着法」という)や、シリコン微粒子の外周を金属メッキした被覆粒子を集電体に電着メッキ等により固定して多孔質のシリコン層を形成する手法(同様、「電着法」という)などが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−339777号公報
【特許文献2】特許第3612669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スラリ塗布法では、シリコン微粒子を集電体上に係止するスラリが樹脂を主体として構成されるため導電性が低く、また充放電の繰り返しにより界面剥離を生じやすいという課題があった。蒸着法では、集電体上に緻密なシリコンの薄膜が形成されるが、シリコン自体は導電性が低いため、厚膜を形成すると電荷を集電体に移動させることが難しくなり充電容量を増やせないという問題や、充放電を繰り返すとシリコン層の膨張・収縮により界面剥離してしまい、容量維持率が悪いという課題があった。電着法では、隣接するシリコン粒子が薄い金属メッキ層を介して接合された集合体であるため、充放電によりシリコン粒子が膨張・収縮を繰り返すうちに、接合部の損壊や被覆の破れ等によりシリコン粒子が脱落してゆくという問題があり、充放電のサイクル数を安定的に確保することが難しいという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、界面剥離や固体微粒子の脱落を生じにくく充放電サイクルでの容量維持率を安定的に確保可能な電極材料の成膜方法、この成膜方法の実現に好適な噴射加工装置を提供し、この成膜方法により生成される電極材料の膜及び電極材料、並びに非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明を例示する第1の態様は電極材料の成膜方法である。この成膜方法は、リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子を用い、この固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し、ノズルに対向して配置した電極基材に衝突させて付着させ、電極基材上に第1材料を活物質とする電極材料の膜を形成することを特徴とする。
【0008】
なお、前記第1材料と前記第2材料とが固体微粒子中に均一に分散していることが好ましく、第1材料を第2材料によって電極基材上に固着させることが望ましい。また、固体微粒子が、噴射する気体における音速未満の速度で電極基材に噴射され、常温かつ常圧下において電極材料の膜が形成されるように構成すること、より端的には、パウダー・ジェット・デポジション(Powder Jet Deposition)法により成膜されることが好ましい。
【0009】
前記目的を達成するため、本発明を例示する第2の態様は、請求項1〜8のいずれかに記載の成膜方法により形成された電極材料の膜、電極材料の膜が電極基材上に形成された電極材料であり、さらには正極と負極と非水電解質とを備え、負極が上記成膜方法により形成された電極材料を用いて形成される非水電解質二次電池である。
【0010】
前記目的を達成するため、本発明を例示する第3の態様は、固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し当該気体における音速未満の速度で電極基材に衝突させて付着させ、常温かつ常圧下で電極基材上に電極材料の膜を形成する電極材料成膜用の噴射加工装置である。そのうえで、リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子をノズルに供給する固体微粒子供給手段(例えば、実施形態における微粒子供給ユニット30)と、固体微粒子噴射用の気体をノズルに供給する気体供給手段(例えば、実施形態におけるガス供給ユニット40)とを備え、固体微粒子供給手段によりノズルに供給された固体微粒子が、気体供給手段によりノズルに供給されてノズル内部を流れる気体の気流により気体中に分散されてノズルから噴射されるように構成される。
【0011】
なお、上記第3の態様におけるノズルには、軸線に沿って延びる中空パイプ状の第1ノズル(例えば、第1構成形態の噴射加工装置1における供給ノズル22、第2、第3構成形態の噴射加工装置2,3における加速ノズル125,225)を有し、気体供給手段から第1ノズルの基端側に気体(例えば、噴射加工装置1における供給ガス、噴射加工装置2,3における加速ガス)を供給して先端側から噴射させたときに第1ノズルを流れる気流により固体微粒子供給手段から供給された固体粒子が気流中に分散され、気流により加速されて第1ノズルの先端から噴出するように構成されることが好ましい。
【0012】
また、前記ノズルに、軸線に沿って延びる第1ノズル(例えば、第2、第3構成形態の噴射加工装置2,3における加速ノズル125,225)と、第1ノズルよりも開口寸法が小さい中空パイプ状をなし先端部が第1ノズルの基端側に同一軸上に挿入された第2ノズル(同上、供給ノズル122)とを有し、第1ノズルの基端部と第2ノズルの先端部との重複部に流路幅が狭いガス噴流路が形成されて気体供給手段から第1ノズルの基端側に供給された気体(同上、加速ガス)がガス噴流路から第1ノズルの内部に供給されて第1ノズルの先端から噴出され、ガス噴流路から第1ノズルの内部に供給される気体の噴流を利用して、固体微粒子供給手段から第2ノズルに供給される固体微粒子が第1の気体中に分散され加速されるように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の成膜方法によれば、界面剥離や固体微粒子の脱落が生じにくく、充放電のサイクル数を安定的に確保可能な電極材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。まず、固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し、ノズルに対向して配置した電極基材に衝突させて付着させ、常温かつ常圧下で電極基材上に電極材料の膜を形成する噴射加工装置の例として、第1構成形態の噴射加工装置1の概要構成図を図1に示しており、この図を参照しながら噴射加工装置の構成について説明する。なお、説明の便宜上、図1(図2)に示す配設姿勢における上下左右をもって上下左右と称して説明する。
【0015】
この噴射加工装置1は、固体微粒子Gをノズル20に供給する微粒子供給ユニット30、固体微粒子噴射用のガスをノズル20に供給するガス供給ユニット40、ノズル20に対して電極基材Wを相対移動させる移動ユニット(不図示)、ガス供給ユニット40によるガス供給や移動ユニットによる電極基材Wの相対移動を制御する制御ユニット70などを備え、ノズル20に供給された固体微粒子Gがノズル内部を流れるガス流により分散されてノズル先端から電極基材Wに噴射されるように構成される。
【0016】
ノズル20は、ベースとなるノズルブロック21と、図において一点鎖線で示す軸線CLに沿って左右に延び先端部がノズルブロック21から突出して固定された中空パイプ状の供給ノズル22とを有して構成される。供給ノズル22は、例えば内径φ0.5〜2mm程度、肉厚0.2〜0.5mm程度のセラミックス等の耐食性材料によるパイプを用いて形成され、第1ノズル22の軸方向(左右方向)中間部には、固体微粒子Gが通過可能な幅0.1〜0.4mm程度のスリット状あるいは円孔状の孔部23が、単数または複数並んで壁面を貫通して開口形成されている。ノズルブロック21には、孔部23の周囲に位置して供給ノズル22の外周を囲む円環状の微粒子供給溝33が形成されている。
【0017】
微粒子供給ユニット30は、ノズルブロック21の上部に設けられてパウダー状態の固体微粒子Gを貯留する微粒子タンク31、この微粒子タンク31と孔部周辺に形成された微粒子供給溝33との間を繋いで微粒子タンク31に貯留された固体微粒子Gを微粒子供給溝33に導く微粒子導入路32とを有して構成される。なお、微粒子タンク31は、例えば、ノズルブロック21を矩形箱状に構成してその上部に上方に開く円錐ホッパ状に設け、あるいはノズルブロック21を中空円筒状に構成してその円筒部に設けるなど、ノズル形状等に応じて適宜設定することができる。
【0018】
供給ノズル22の右方には、ノズルブロック21を貫通して供給孔が形成されており、この供給孔の右方からガス供給ユニット40のガス供給パイプ42が挿入固定される。ガス供給パイプ42は、外径が供給ノズル22の内径よりもわずかに小径で、先端側が供給ノズル22の基端側(右端側)から同軸上に嵌入されており、ガス供給パイプの先端部が孔部23に近接して配設される。
【0019】
ガス供給ユニット40には、詳細図示を省略するが、このガス供給ユニット40からノズル20に供給されるガス(供給ガス)の種別や混合比を切り換える選択レバーやミキサー、フィルター、供給ガスの圧力を設定するレギュレータ、供給ガスの圧力を検出する圧力センサ、ガス供給パイプ42への供給ガスの供給・停止を切り換える電磁弁などが設けられている。ガス供給ユニット40には、例えば、He、N2、Ar、空気などの種々のガスが充填されたガスボトル45がチューブ46を介して接続されるとともに、このユニットの作動を制御する制御ユニット70がケーブル47により接続されており、制御ユニット70によりガスの種別を選択し、ガス供給ユニットの電磁弁をパルス制御することにより、レギュレータにより圧力設定された供給ガスが、ガス供給パイプ42を介して供給ノズル22に供給される。
【0020】
なお、図1では、説明簡明化のため、ノズル20とガス供給ユニット40とをガス供給パイプ42により直接接続した構成を示したが、ノズルに装着したガス供給パイプ42とガス供給ユニット40との間に、可撓制を有する合成樹脂製または金属製のチューブを設けて配管接続するように構成してもよい。
【0021】
制御ユニット70は、パーソナル・コンピュータやプログラマブル・コントローラ等を利用して構成することができ、ガス供給ユニット40による供給ガスの供給・停止、移動ユニットによる電極基材Wの移動制御などが実行される。
【0022】
このような構成の噴射加工装置1では、制御装置70によりガス供給ユニット40の作動を制御し、ガス供給ユニット40からノズル20に供給ガスを供給することにより、微粒子供給ユニット30により供給された固体微粒子Gが、供給ノズル22内部を流れる気体の気流により供給ノズル22内に生じる負圧を利用してガス中に分散され供給ノズル22の先端から電極基材Wに向けて噴射される。
【0023】
この作用について説明すると、ガス供給ユニット40からガス供給パイプ42を介して供給ノズル22に所定圧力(〜2MPa)で供給ガスを供給すると、供給ガスは供給パイプ42および供給ノズル22を通って供給ノズル22の先端から電極基材Wに向かって噴出する。このとき、孔部23の形成領域では、供給ノズル22内を高速で流れるガス流のエジェクタ効果により孔部23が負圧状態となる。また、供給パイプ42の先端部が孔部23に近接して配設されているところ、供給パイプ42は供給ノズル22よりも小径であり供給パイプ42と供給ノズル22との接続部で流路断面積が急拡大しているため、この段差部分、すなわち孔部23の近傍領域が負圧状態になるとともに、段差近傍に乱流が発生する。
【0024】
そのため、孔部23では、供給ノズル22の内側と外側の微粒子供給溝33との間に差圧が発生し、微粒子供給溝33に位置する固体微粒子Gが吸い上げられるように孔部23を通って供給ノズル22内に供給される。そして、供給ノズル22内を流れる供給ガスのガス流により分散され、加速されて供給ノズル22から電極基材Wに向けて噴射される。
【0025】
このとき、固体微粒子Gの速度は、ノズル20に供給される供給ガスの種類及び圧力を制御することにより設定され、例えば供給ガスが空気の場合には、50〜300m/sec程度の音速以下の速度で噴射される。供給ガスとともに噴射された固体微粒子Gは、ノズル先端から0.5〜2mm程度の距離に配置された電極基材Wの被付着面(固体微粒子が衝突して付着する面をいい、成膜前における電極基材(集電体)Wの表面、成膜中における付着した電極材料の膜面をいう)に衝突し付着する。そして、固体微粒子を噴射させながらノズル20と電極基材Wとを相対移動させることにより、常温かつ常圧下で、電極基材W上に電極材料の膜が形成される。
【0026】
なお、例えば電空レギュレータにより供給ガスの圧力を変化させ、供給ノズル22から電極基材Wに噴射するガス流速を任意に制御可能なほか、供給ガスの供給・停止を切り換える電磁弁として高速応答可能な電磁弁を用い、オン・オフ時間(周波数とオン・オフ時間比)を制御することにより、数百Hz程度の周波数で間欠噴射することも可能である。また、本構成形態では、孔部近傍に生じる負圧を利用して、固体微粒子Gを供給ノズル22内に吸い上げる構成例を示したが、孔部近傍に負圧を生じさせることなく固体微粒子を供給ノズル22内に重力を利用して投入し、あるいは供給ノズル22内に定量供給するように構成してもよい。
【0027】
次に、第2構成形態の噴射加工装置2の概要構成図を図2に示しており、この図を参照しながら噴射加工装置2の構成について説明する。なお、第1構成形態の噴射加工装置1と同様の部分に同一番号を付して重複説明を省略する。
【0028】
噴射加工装置2は、固体微粒子Gをノズル120に供給する微粒子供給ユニット30、固体微粒子噴射用のガスをノズル120に供給するガス供給ユニット40、ノズル120に対して電極基材Wを相対移動させる移動ユニット(不図示)、ガス供給ユニット40によるガス供給や移動ユニットによる電極基材Wの相対移動を制御する制御ユニット70などを備え、ノズル120に供給された固体微粒子Gがノズル内部を流れるガス流により分散・加速されてノズル先端から電極基材Wに噴射されるように構成される。すなわち、本構成の噴射加工装置2はノズル120の構成が前述した噴射加工装置1と相違する。
【0029】
ノズル120は、ベースとなるノズルブロック121と、軸線CLに沿って左右に延び先端部がノズルブロック121から突出して固定された中空パイプ状の加速ノズル125と、外径が加速ノズル125の内径よりも小径の中空パイプ状をなし、先端側が加速ノズル125の基端側から軸線CLに沿って同一軸上に挿入された供給ノズル122とを有して構成される。加速ノズル125は内径φ0.5〜2mm程度、肉厚0.1〜0.5mm程度のセラミックス等の耐食性材料によるパイプ、供給ノズル122は外径φ0.3〜1.8mm程度、肉厚0.1〜0.3mm程度のセラミックス等の耐食性材料によるパイプを用いて形成される。
【0030】
図示するように、加速ノズル125の基端部と供給ノズル122の先端部とは一部重なって配設され、この重複部(加速ノズル125の内周と供給ノズル122の外周の間)に、流路幅が0.05〜0.2mm程度の円環状の加速ガス噴流路126が形成される。ノズルブロック121には、加速ノズル125の基端側に加速ガス噴流路126と繋がる加速ガス導入路127が形成され、この加速ガス導入路127に接続された加速ガス供給配管43を介してガス供給ユニット40に接続されている。供給ノズル122の軸方向(左右方向)中間部には、前述同様の孔部23が単数または複数開口形成され、その周囲に円環状の微粒子供給溝33が形成されている。
【0031】
供給ノズル122の右方には、ノズルブロック121を貫通して供給孔が形成され、この供給孔の右方からガス供給ユニット40のガス供給パイプ42が挿入固定される。ガス供給パイプ42は、外径が供給ノズル122の内径よりもわずかに小径で、先端側が供給ノズル122の基端側(右端側)から同軸上に嵌入されており、ガス供給パイプ42の先端部が孔部23に近接して配設される。
【0032】
このような構成の噴射加工装置2では、制御装置70によりガス供給ユニット40の作動を制御し、ガス供給ユニット40からノズル120に供給される加速ガスおよび供給ガスの圧力・流量を制御することにより、粒子供給ユニット30により供給された固体微粒子Gが、主として加速ガス噴流路126の出口と供給ノズル122の出口のガス流速差による負圧を利用して加速ガス中に分散され、加速ガスにより加速されて加速ノズル125の先端から電極基材Wに向けて噴射される。
【0033】
すなわち、ガス供給ユニット40から、加速ガス供給配管43を介して加速ガス導入路127に所定圧力(〜2MPa)で加速ガスを供給すると、供給された加速ガスは加速ガス噴流路126を通って加速ノズル125内を流れ、加速ノズル125の先端から電極基材Wに向かって噴出する。
【0034】
このとき、加速ガス噴流路126の出口領域では、厚さ0.05〜0.2mm程度の薄い円環状の流路が、内径φ0.5〜2mmの円形断面の流路となり、流路断面積が急激に増大する。このため、加速ガス噴流路126の出口領域では、供給ノズル122の出口前方に大きな乱流が発生するとともに、供給ノズル122内の気体が引き出される。
【0035】
そのため、供給ノズル122の内方に位置する孔部23が供給ガスの流れ、及び/または、加速ガスの流れにより負圧状態となって微粒子供給溝33との間に差圧が発生し、微粒子供給溝33に位置する固体微粒子Gが吸い出されるように孔部23を通って供給ノズル122内を流れ、供給ノズル122の出口領域で乱流に巻き込まれて分散され、加速ガスのガス流により加速されて加速ノズル125から電極基材Wに向けて噴射される。
【0036】
加速ノズル125から噴射される固体微粒子Gの速度は、主としてノズル120に供給される加速ガスの種類及び圧力を制御することにより設定され、例えば、加速ガスが空気の場合には、50〜300m/sec程度の音速以下の速度で噴射される。加速ガスとともに噴射された固体微粒子Gは、ノズル先端から0.5〜2mm程度の距離に配置された電極基材Wの被付着面に衝突し付着する。そして、固体微粒子を噴射させながらノズル120と電極基材Wとを相対移動させることにより、常温かつ常圧下で、電極基材W上に電極材料の膜が形成される。
【0037】
本構成形態の噴射加工装置2においては、ノズル120に加速ガス及び供給ガスの両方を供給することもできる。ガス供給ユニット40から供給ノズル122に供給ガスが供給されると、この供給ノズル内を流れるガス流のエジェクタ効果により孔部23が負圧状態になり、供給パイプ42と供給ノズル122との接続部で流路断面積が急拡大しているため、この段差部分に近接する孔部23の近傍領域が負圧状態になる。さらに、供給ノズル122から流出する供給ガスの流速が加速ガス噴流路126から噴出する加速ガスの流速よりも低い場合には、前述した加速ガスの効果により供給ノズル内の気体が引き出されるように作用する。
【0038】
そのため、孔部23では、供給ノズル122を流れる供給ガスにより微粒子供給溝33に位置する固体微粒子Gが供給ノズル122内に吸い上げられ、この供給ノズル122を流れる供給ガスにより加速ノズル125に送り出されるとともに、供給ノズル122の出口領域で加速ガス噴流路126から噴出する加速ガスにより発生された乱流に巻き込まれて加速ガス中に分散され、加速ガスのガス流により加速されて加速ノズル125から電極基材Wに向けて噴射される。
【0039】
このときの固体微粒子Gの速度は、前述した各構成形態と同様であり、例えば、供給ガスが空気の場合には、50〜300m/sec程度の音速以下の速度で噴射される。加速ガスとともに噴射された固体微粒子Gは、ノズル先端から0.5〜2mm程度の距離に配置された電極基材Wの被付着面に衝突して付着する。このとき、固体微粒子の噴射とともにノズル120と電極基材Wとを相対移動させることにより、常温かつ常圧下で、電極基材W上に電極材料の膜が形成される。
【0040】
次に、第3構成形態の噴射加工装置3について説明する。この噴射加工装置3は、図2中にIII−III矢視で付記する電極基材W側から見たノズル220の断面図を図3に示すように、供給ノズル222及び加速ノズル225の軸直行断面形状が矩形の中空パイプ状(角パイプ状)である点を除いて、基本的な構成は、上述した第2構成形態の噴射加工装置2と同様である。そこで、噴射加工装置2と相違するノズル部分を中心として簡潔に説明する。
【0041】
ノズル220は、ベースとなるノズルブロック221と、軸線CLに沿って左右に延び先端部がノズルブロック221から突出して固定された矩形中空パイプ状の加速ノズル225と、上下方向の開口寸法が加速ノズル225よりも小さい矩形中空パイプ状をなし、先端側が加速ノズル225の基端側から軸線(軸面)CLに沿って同一軸上に挿入された供給ノズル222とを有して構成される。図3に示す断面視における供給ノズル222の開口高さh1は0.1〜1.6mm程度、加速ノズルの開口高さh2は0.15〜1.8mm程度である。なお、供給ノズル222及び加速ノズル225の開口幅は、成膜対象となる電極基材の幅に合わせて適宜に設定できるが、後述する実施例では開口幅10mmのノズルを用いている。
【0042】
加速ノズル225の基端部と供給ノズル222の先端部とは一部重なって配設され、この重複部に、上下方向の流路幅が0.05〜0.3mm程度のスリット状の加速ガス噴流路226が形成される。図3は、供給ノズル222を挟んで上下に加速ガス噴流路226を形成した構成例を示している。ノズルブロック221には、加速ノズル225の基端側に、上下の加速ガス噴流路226,226と繋がる加速ガス導入路227が形成され、これらの加速ガス導入路227に接続された加速ガス供給配管43を介してガス供給ユニット40に接続されている(図2を併せて参照)。
【0043】
供給ノズル222の基端側には、ノズルブロック221を貫通して供給ノズル222と略同一の開口幅を有するスリット状の供給孔が形成され、ガス供給ユニット40からガス供給パイプを介して供給ガスが供給される。供給ノズル222の軸方向の中間部には、既述したと同様の孔部23が、幅方向に並んでノズル上辺に複数開口形成され、その上方に微粒子タンク31と繋がる微粒子導入路32が形成されている(図2を参照)。
【0044】
このように、噴射加工装置3は、供給ノズル222及び加速ノズル225の軸直行断面形状が矩形の中空パイプ状であるが、基本的な構成は噴射加工装置2と同様であり、固体微粒子Gの噴射加工も既述したと同様に行われる。すなわち、制御装置70によりガス供給ユニット40の作動を制御し、ガス供給ユニット40からノズル220に供給される加速ガスおよび供給ガスを制御することにより、粒子供給ユニット30から供給された固体微粒子Gが、加速ガス噴流路226と供給ノズル222の出口との流速差で生じる負圧を利用して加速ガス中に分散され、加速ガスにより加速されて加速ノズル225の先端から電極基材Wに向けて噴射される。
【0045】
具体的には、ガス供給ユニット40から、加速ガス供給配管43を介して加速ガス導入路227に所定圧力で加速ガスを供給すると、加速ガスは加速ガス噴流路226を通って加速ノズル225内に噴射され、加速ノズル225の先端から電極基材Wに向かって噴出する。加速ガス噴流路226の入口は、供給ノズルとの断面積差、速度差により、供給ノズル222の出口前方に大きな乱流が発生し、供給ノズル222内の気体が引き出される。
【0046】
一方、右側のガス供給パイプ42との断面積差によるエジェクタ効果、あるいは加速ノズル225からの負圧により、供給ノズル222の内方に位置する孔部から固体微粒子Gが吸い出されるように流入して供給ノズル222内を流れ、供給ノズル222の出口前方で加速ガス噴流路226から噴出する加速ガスの乱流に巻き込まれて分散されるとともに、ガス流に加速されて加速ノズル225の先端から電極基材Wに向けて噴射される。
【0047】
このときの固体微粒子Gの速度は、主としてノズル220に供給される加速ガスの種類及び圧力を制御することにより設定され、例えば、加速ガスが空気の場合には、50〜300m/sec程度の音速以下の速度で噴射される。加速ガスとともに噴射された固体微粒子Gは、ノズル先端から0.5〜2mm程度の距離に配置された電極基材Wの被付着面に衝突して付着する。このとき、固体微粒子を噴射させながらノズル220と電極基材Wとを相対移動させることにより、常温かつ常圧下で、電極基材W上に電極材料の膜が形成される。なお、前述した噴射加工装置2と同様、ノズル220に加速ガスと供給ガスの両方を供給することもできる。
【0048】
以上、3つの構成形態を例示して噴射加工装置について、構成と成膜方法を説明したが、ノズル20,120,220の断面形状は円形や矩形に限られるものではなく、長円や多角形、あるいは円形(矩形)ノズルを千鳥配列するなど適宜な形状にすることができる。また、ノズル20,120,220に供給する供給ガスおよび加速ガスは、電極基材Wや固体微粒子Gなど加工対象に応じて適宜選択することができる。供給ガスと加速ガスとを同種のガスあるいは異なる種類のガスとすることや、成膜加工の進行に伴いガスの種類や混合比率を変化させることなども任意である。なお、使用するガスを第18族元素ガス、または窒素ガスのような不活性ガスを用いることにより、固体微粒子の付着プロセスでの酸化作用を抑止することができる。また、ヘリウムに代表されるように質量の小さいガスを用いれば、固体微粒子Gの衝突速度を高速化することができ、空気を用いれば、成膜コストを低減することができる。
【0049】
以上説明した第1〜第3構成形態の噴射加工装置1〜3は、いずれも常温かつ常圧の環境下において音速以下の噴射速度で固体微粒子Gを噴射し、集電体等の電極基材W上に電極材料の膜を形成する。このため、噴射加工装置1〜3によれば、加温、超音速ノズルや減圧設備等を用いない簡明かつ自由度の高い構成で、安定した固体材料膜を形成可能な噴射加工装置を提供することができる。噴射加工装置1〜3において電極材料の成膜に使用される固体微粒子Gは以下のような特徴を有している。
【0050】
固体微粒子Gは、リチウム化合物を形成しうる第1材料と、導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイング(Mechanical Alloying)により生成される。メカニカルアロイングは、機械的プロセスで合金化を行う粉末の製造方法であり、高エネルギーのボールミル等により原料粉末の混合物に機械的エネルギーを与え、破砕と冷間圧延の繰り返しにより固体のままで合金化が行われる。
【0051】
このため、本来的には合金を形成しない第1材料と第2材料とを、破砕により微粒化し冷間圧延により一体化して、第1材料及び第2材料からなる固体微粒子を構成することができる。また、固体微粒子における第1材料と第2材料の組成比は、所定条件のもと原料粉末の投入比率等によりコントロールすることができ、一定範囲で任意の組成比の固体微粒子を生成することができる。なお、「リチウム化合物を形成しうる材料」とは、リチウムとの間で可逆的に化合物を形成しうる材料、すなわちリチウムイオン二次電池の負極材料として利用可能な材料をいい、リチウムとの合金または金属間化合物を形成しやすい材料である「リチウム化合物の形成能が高い材料」を好適に用いることができる。
【0052】
ここで、第2材料が第1材料同士を結合させる作用を有した材質とすることにより、メカニカルアロイングにおいて破砕により微粒化された第1材料の粒子が、冷間圧延により第2材料を介して相互に結合される。そのため、第1材料と第2材料とからなる固体微粒子を広い組成比の範囲で生成できる。また、固体微粒子を電極基材Wに衝突させたときに、固体微粒子の第1材料と被付着面上の第1材料とが、第1材料同士の結合のみならず第2材料を介しても結合され、付着率を大幅に向上させることができる。従って、任意組成の膜を高い効率で電極基材上に形成することができる。
【0053】
なお、第2材料は固体微粒子同士の凝集を抑制する作用を有した材質であることが好ましい。固体微粒子は、粒径が小さくなるほど粒子間引力の影響が強くなり、凝集しやすくなる。第2材料が固体微粒子同士の凝集を抑制する作用を有した材質とすれば、固体微粒子の粒径を小さくしても安定的に供給ノズル内に分散させることが可能であり、これにより、広い粒径範囲で安定した成膜を実現することができる。
【0054】
第2材料が固体微粒子同士の凝集を抑制する作用及び第1材料同士を結合させる作用を併有する材質とすれば、ノズル20,120,220からの安定噴射およびこれに基づく安定した膜形成に加えて、固体微粒子の付着率を向上させることができる。そのため、単位時間当たりの電極材料の成膜速度が大きくなり、生産性を向上させることができる。
【0055】
なお、固体微粒子Gを構成する第1材料として、第14族元素の単体、第14族元素と原子番号21〜30の金属との合金、原子番号21〜30の金属の炭化物、あるいは原子番号21〜30の金属の酸化物などを例示することができ、第2材料として、第3族〜第13族の金属元素単体、あるいは第13族〜第14族の金属元素の酸化物が例示される。
【0056】
このうち、第1材料が炭素、ケイ素、またはスズであり、第2材料が銅またはニッケルであるような構成は、単体では安定した成膜および特性を得ることが難しい第1材料を電極基材上に安定固着することができ、リチウムイオン二次電池の負極材料に代表される電極材料を高い生産性で安定的に生産することができる。
【0057】
特に、負極活物質としてケイ素(シリコン:Si)を用いた場合のリチウムイオン二次電池の負極容量密度は、グラファイトを用いた従来型の負極容量密度に対し、理論上、10倍以上あり、第1材料としてケイ素を用い、第2材料として銅を用いることにより、高容量の負極材料、ひいては高い容量密度のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0058】
この際、スラリ塗布法、蒸着法、電着法などの従来の成膜方法で形成された負極材料の問題点は、本願における「解決しようとする課題」に記載したとおりである。
【0059】
発明者らは、第1材料としてリチウム化合物を形成しうるシリコン(ケイ素)、第2材料として導電性が高い銅を用い、メカニカルアロイングにより第1材料と第2材料の組成比が異なる固体微粒子Gを作成した。具体的には、第1材料であるシリコンの原料粉体と第2材料である銅の原料粉体とを、シリコン60,50,35%の各比率でボールミル形態の高速粉体反応装置に投入し、メカニカルアロイングにより固体微粒子の試料1,2,3を作成した。
【0060】
作成された試料1〜3の断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、SEMと略記する)により観察した観察画像(SEM画像)を図4〜6に示す。図4は試料1、図5は試料2、図6は試料3の断面のSEM画像であり、各図における(a),(b),(c)はSEMの観察倍率が異なり、それぞれ1000,2500,5000倍である。
【0061】
成分分析の結果、各SEM画像において灰色部分でケイ素濃度が高く、微細化されたシリコン粒子と考えられる。また、各画像の白っぽい部分で銅濃度が高く、微細化された銅粒子と考えられる。これらの画像から、固体微粒子Gの内部に、微細化されたシリコン粒子及び微細化され圧延された銅粒子がほぼ均一に分散しており、シリコン粒子に付着した銅粒子がシリコン粒子同士を結合ないし接着させているように見られる。
【0062】
メカニカルアロイングの効果により、各成分同士が微細に分散された構造をもつ粒子をPJDで成膜すると、深さが数ミクロンの凹凸構造となる。この凹凸構造によって、シリコン粒子がリチウムイオンの吸収・放出に伴って膨張・収縮する空間を確保することができ、成膜の微粉化、剥離現象を抑制することができるものと考えられる。
【0063】
図7に、試料1,2,3の粒子表面、及び粒子断面の成分分析により得たシリコンと銅の成分比の数値データを示す。図示のように、メカニカルアロイングにより生成された試料1,2,3の成分比は、原料粉体の調合比率とほぼ一致した比例関係にあり、第1材料と第2材料の調合比率を調整することにより任意組成比の固体微粒子を生成し得ることが理解される。
【0064】
以上、電極材料成膜用の噴射加工装置及び成膜方法、並びに電極材料の成膜に好適な固体微粒子Gの構成について説明してきた。以降では、このような噴射加工装置及び固体微粒子を用い、PJD(Powder Jet Deposition:以下同様)により電極基材上に形成した電極材料膜の実施例について説明する。
【0065】
噴射加工装置として第3構成形態の噴射加工装置3を用い、電極基材Wとして集電体を構成する銅(Cu)を用い、以下の加工条件により電極材料(リチウムイオン二次電池用負極材料)の膜を成膜した。
(共通条件)
(1)固体微粒子
・使用する固体微粒子 :前述した試料1〜3
・各試料の平均粒径 :4[μm]
(2)噴射加工装置3
・供給ノズル及び加速ノズルの開口幅:約10[mm]
・供給ノズルの開口高さ:0.4[mm]
・加速ノズルの開口高さ:0.3[mm]
(3)加工条件
・供給ガスの種別/圧力:窒素ガス/0.4[MPa]
・加速ガスの種別/圧力:窒素ガス/0.35[MPa]
・ノズル220の先端と電極基材Wとの距離 :1[mm]
・ノズル220の軸線CLと電極基材表面とがなす角度:90度(垂直)
・ノズル220に対する電極基材Wの移動速度:1[mm/sec]
【0066】
試料1,2,3を、順次噴射加工装置3の微粒子タンク31に投入し、上記加工条件のもとPJDにより電極基板W上に電極材料の膜を形成した。試料1を用いて形成された電極材料の膜(実施例1)、試料2を用いて形成生成された電極材料の膜(実施例2)の膜表面のSEM画像をそれぞれ図8及び図9に、実施例1の膜の研磨面のSEM画像を図10に示す。なお、各図における(a),(b),(c)は、SEMの観察倍率が1000,2500,5000倍のものである。
【0067】
これらの電極材料の膜について成分分析を行った結果、各SEM画像の灰色部分でケイ素濃度が高く、白っぽい部分で銅の濃度が高く検出されている。これらの膜の画像から、微粉化されたシリコンと銅がほぼ均一に分散しており、固体微粒子の段階でシリコン粒子に付着していた銅粒子が、電極基材表面あるいは表面に固着したシリコンに付着し、シリコンを結合ないし接着させているように見られる。
【0068】
図11に、実施例1及び2の電極材料膜について膜表面の成分分析により得たシリコンと銅の成分比の数値データを示す。図示のように、PJDにより成膜された実施例1および2の電極材料膜の成分比は、試料1及び2の成分比と明確な相関をもっており、固体微粒子のシリコン比率が高いほど、PJDにより形成された膜のシリコン比率が高いものとなっている。
【0069】
前述したように、メカニカルアロイングにより生成した試料1,2,3の成分比は、原料粉体の調合比率とほぼ一致した比例関係にあり、第1材料と第2材料の調合比率を調整することにより任意組成比の固体微粒子を生成できる。このことは、第1材料のシリコンと第2材料の銅の調合比率を調整することにより、任意の組成比の電極膜を形成できることを意味する。また、この調合比率を変化させることにより、第2材料の銅をシリコン粒子の結合剤ないし接合材として機能させるのみならず、導電助材として機能させるように構成することも自在である。
【0070】
このようにして銅の電極基材(集電体)にシリコンの電極膜が形成された電極材料について、発明者らは、充放電のサイクルテストを行った。サイクルテストは、実施例1および実施例2で得た電極材料を作用極とし、対極および参照極にリチウム、電解液としてプロピレンカーボネートの溶媒にLiClO4(1[mol/l])を用い、周知の3電極式の電気化学セルにより常温下で行った。
【0071】
スキャン速度30[mV/分]でのサイクルテストの結果を図12に示す。図12は縦軸に単位重量当たりの電気容量、横軸にサイクル数をとり、図中の実線は充電時、一点鎖線は放電時の電気容量を示す。図示のように、テスト開始初期に充電/放電(充放電)の容量密度が急激に上昇し、サイクル数N=20程度以降で徐々に安定する。安定後の充放電の容量密度は、いずれの実施例でも500[mAh/g]を超えており、従来から用いられている黒鉛系電極材料(C)の理論容量密度である372[mAh/g]と比較して、30%以上高い容量密度を有していることが確認された。また、この負極材料では、サイクル数が増加しても容量密度の低下は見られない。
【0072】
従って、この電極材料を電池の形態(例えば円筒形や角型、セル型、ラミネート型など)に合わせた形状寸法に打ち抜いて負極とし、アルミ箔にコバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物を正極活物質として付着形成した公知の正極を、セパレータを挟んで対峙させ、プロピレンカーボネートやエチレンカーボネート等の公知の溶媒にLiClO4やLiPF6等の公知の電解液(非水電解質)とともに封入して、リチウムイオン二次電池を構成することができ、これにより高い電気容量を長期間安定的に保持可能なリチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)を提供することができる。
【0073】
以上説明したように、本発明の電極材料の成膜方法によれば、リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからなる電極材料の膜が、電極基材上に強固に結合して形成されるため、界面剥離や固体微粒子の脱落が生じにくく、充放電のサイクル数を安定的に確保可能な電極材料を提供することができる。さらに、噴射加工装置1〜3を用いた成膜方法によれば、CS法(コールド・スプレー法)を適用した噴射加工装置のように超音速ノズルや高温高圧大流量のガス供給装置を必要としない簡明な構成で、微細構造の膜形成に適用可能である。また、AD法(エアロゾル・デポジション法)を適用した噴射加工装置のように、電極基材を真空チャンバーで成膜処理する必要がないため、電極基材に対する自由度が広く、生産性が高い生産方法および装置を提供することができる。
【0074】
なお、以上では、電極基材として集電体を用いた構成を例示したが、第2材料の組成比を段階的に高くした場合(傾斜構造とした場合)には、膜そのものを集電体またはその一部として機能させることが可能となる。この場合、電極基材として用いる銅箔の厚さを従来の半分以下に薄肉化し、あるいは電極基材を設けずに(またはセパレータの箔上に電極材料の膜を形成して)負極材料を構成することができる。電極基材のない膜を形成する場合には、噴射加工時に背面を支える支持材の表面に剥離層を形成しておき、成膜後に剥離層とともに支持部材を分離する。これにより、リチウムイオン二次電池をさらに小型化、軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1構成形態の噴射加工装置の概要構成図である。
【図2】第2構成形態の噴射加工装置の概要構成図である。
【図3】第3構成形態の噴射加工装置(ノズル部)の概要構成図である。
【図4】試料1の固体微粒子の断面のSEM画像である。観察倍率は(a)1000倍,(b)2500倍,(c)5000倍である。
【図5】試料2の固体微粒子の断面のSEM画像である。
【図6】試料3の固体微粒子の断面のSEM画像である。
【図7】試料1,2,3の粒子表面、及び粒子断面のシリコンと銅の成分比である。
【図8】試料1の固体微粒子を噴射して形成された膜(実施例1)の膜表面のSEM画像である。観察倍率は(a)1000倍,(b)2500倍,(c)5000倍である。
【図9】試料2の固体微粒子を噴射して形成された膜(実施例2)の膜表面のSEM画像である。
【図10】実施例1の膜を研磨した研磨面のSEM画像である。観察倍率は(a)1000倍,(b)2500倍,(c)5000倍である。
【図11】実施例1,2の膜表面のシリコンと銅の成分比である。
【図12】実施例1,2の電極膜が形成された電極材料のサイクルテストのデータである。
【符号の説明】
【0076】
CL 軸線
G 固体微粒子
W 電極基材(集電体)
1,2,3 噴射加工装置
20,120,220 ノズル
22,122,222 供給ノズル
125,225 加速ノズル
126,226 ガス噴流路
30 微粒子供給ユニット(固体微粒子供給手段)
40 ガス供給ユニット(気体供給手段)
70 制御ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子を用い、
前記固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し、
前記ノズルに対向して配置した電極基材に衝突させて付着させ、
前記電極基材上に前記第1材料を活物質とする電極材料の膜を形成することを特徴とする電極材料の成膜方法。
【請求項2】
前記第1材料と前記第2材料とが、前記固体微粒子中に均一に分散していることを特徴とする請求項1に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項3】
前記第1材料を前記第2材料によって前記電極基材上に固着させることを特徴とする請求項1または2に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項4】
前記第1材料が、第14族元素の単体、第14族元素と原子番号21〜30の金属との合金、原子番号21〜30の金属の炭化物、または原子番号21〜30の金属の酸化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項5】
前記第2材料が、第3族〜第13族の金属元素単体、または、第13族〜第14族の金属元素の酸化物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項6】
前記第1材料が、炭素、ケイ素、またはスズであり、前記第2材料が、銅またはニッケルであることを特徴とする請求項4または5に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項7】
前記気体が、第18族元素ガス、または窒素ガスであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項8】
前記固体微粒子が、前記気体における音速未満の速度で前記電極基材に噴射され、常温かつ常圧下において前記電極材料の膜が形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の成膜方法により形成された電極材料の膜。
【請求項10】
前記第1材料がケイ素、前記第2材料が銅であることを特徴とする請求項9に記載の電極材料の膜。
【請求項11】
請求項9または10に記載の電極材料の膜が前記電極基材上に形成された電極材料。
【請求項12】
正極と、負極と、非水電解質とを備え、
前記負極が、請求項11に記載の電極材料を用いて形成されることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項13】
固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し前記気体における音速未満の速度で電極基材に衝突させて付着させ、常温かつ常圧下で前記電極基材上に電極材料の膜を形成する電極材料成膜用の噴射加工装置であって、
リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子を前記ノズルに供給する固体微粒子供給手段と、
前記固体微粒子噴射用の気体を前記ノズルに供給する気体供給手段とを備え、
前記固体微粒子供給手段により前記ノズルに供給された前記固体微粒子が、前記気体供給手段により前記ノズルに供給されて前記ノズル内部を流れる前記気体の気流により前記気体中に分散されて前記ノズルから噴射されるように構成したことを特徴とする電極材料成膜用の噴射加工装置。
【請求項14】
前記ノズルに、軸線に沿って延びる中空パイプ状の第1ノズルを有し、前記気体供給手段から前記第1ノズルの基端側に前記気体を供給して先端側から噴射させたときに前記固体微粒子供給手段から供給された前記固体粒子が前記気流中に分散され、前記気流により加速されて前記第1ノズルの先端から噴出するように構成されることを特徴とする請求項13に記載の成膜用の噴射加工装置。
【請求項15】
前記ノズルに、軸線に沿って延びる前記第1ノズルと、前記第1ノズルよりも開口寸法が小さい中空パイプ状をなし先端部が前記第1ノズルの基端側に同一軸上に挿入された第2ノズルとを有し、
前記第1ノズルの基端部と前記第2ノズルの先端部との重複部に流路幅が狭いガス噴流路が形成されて、前記気体供給手段から前記第1ノズルの基端側に供給された前記気体が前記ガス噴流路から前記第1ノズルの内部に供給されて前記第1ノズルの先端から噴出され、
前記ガス噴流路から前記第1ノズルの内部に供給される前記気体の噴流を利用して、前記固体微粒子供給手段から前記第2ノズルに供給される前記固体微粒子が前記第1の気体中に分散され加速されるように構成したことを特徴とする請求項14に記載の成膜用の噴射加工装置。
【請求項1】
リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子を用い、
前記固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し、
前記ノズルに対向して配置した電極基材に衝突させて付着させ、
前記電極基材上に前記第1材料を活物質とする電極材料の膜を形成することを特徴とする電極材料の成膜方法。
【請求項2】
前記第1材料と前記第2材料とが、前記固体微粒子中に均一に分散していることを特徴とする請求項1に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項3】
前記第1材料を前記第2材料によって前記電極基材上に固着させることを特徴とする請求項1または2に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項4】
前記第1材料が、第14族元素の単体、第14族元素と原子番号21〜30の金属との合金、原子番号21〜30の金属の炭化物、または原子番号21〜30の金属の酸化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項5】
前記第2材料が、第3族〜第13族の金属元素単体、または、第13族〜第14族の金属元素の酸化物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項6】
前記第1材料が、炭素、ケイ素、またはスズであり、前記第2材料が、銅またはニッケルであることを特徴とする請求項4または5に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項7】
前記気体が、第18族元素ガス、または窒素ガスであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項8】
前記固体微粒子が、前記気体における音速未満の速度で前記電極基材に噴射され、常温かつ常圧下において前記電極材料の膜が形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極材料の成膜方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の成膜方法により形成された電極材料の膜。
【請求項10】
前記第1材料がケイ素、前記第2材料が銅であることを特徴とする請求項9に記載の電極材料の膜。
【請求項11】
請求項9または10に記載の電極材料の膜が前記電極基材上に形成された電極材料。
【請求項12】
正極と、負極と、非水電解質とを備え、
前記負極が、請求項11に記載の電極材料を用いて形成されることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項13】
固体微粒子を気体の噴流に乗せてノズルから噴射し前記気体における音速未満の速度で電極基材に衝突させて付着させ、常温かつ常圧下で前記電極基材上に電極材料の膜を形成する電極材料成膜用の噴射加工装置であって、
リチウム化合物を形成しうる第1材料と導電性を有する第2材料とからメカニカルアロイングにより生成された固体微粒子を前記ノズルに供給する固体微粒子供給手段と、
前記固体微粒子噴射用の気体を前記ノズルに供給する気体供給手段とを備え、
前記固体微粒子供給手段により前記ノズルに供給された前記固体微粒子が、前記気体供給手段により前記ノズルに供給されて前記ノズル内部を流れる前記気体の気流により前記気体中に分散されて前記ノズルから噴射されるように構成したことを特徴とする電極材料成膜用の噴射加工装置。
【請求項14】
前記ノズルに、軸線に沿って延びる中空パイプ状の第1ノズルを有し、前記気体供給手段から前記第1ノズルの基端側に前記気体を供給して先端側から噴射させたときに前記固体微粒子供給手段から供給された前記固体粒子が前記気流中に分散され、前記気流により加速されて前記第1ノズルの先端から噴出するように構成されることを特徴とする請求項13に記載の成膜用の噴射加工装置。
【請求項15】
前記ノズルに、軸線に沿って延びる前記第1ノズルと、前記第1ノズルよりも開口寸法が小さい中空パイプ状をなし先端部が前記第1ノズルの基端側に同一軸上に挿入された第2ノズルとを有し、
前記第1ノズルの基端部と前記第2ノズルの先端部との重複部に流路幅が狭いガス噴流路が形成されて、前記気体供給手段から前記第1ノズルの基端側に供給された前記気体が前記ガス噴流路から前記第1ノズルの内部に供給されて前記第1ノズルの先端から噴出され、
前記ガス噴流路から前記第1ノズルの内部に供給される前記気体の噴流を利用して、前記固体微粒子供給手段から前記第2ノズルに供給される前記固体微粒子が前記第1の気体中に分散され加速されるように構成したことを特徴とする請求項14に記載の成膜用の噴射加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図7】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図7】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−65988(P2011−65988A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189480(P2010−189480)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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