説明

電気めっき装置及びめっき部材の製造方法

【課題】均一なめっき膜が形成される電気めっき装置等を提供する。
【解決手段】陰極11を装着する陰極設置部12及び陽極13を設ける陽極設置部14と、めっき液21を収容するめっき浴槽20と、めっき液21を流動させる流動部30と、めっき浴槽20内を所定の圧力に保持する圧力調整部40とを有し、圧力調整部40によりめっき浴槽20内をめっき液21の蒸気圧Pbと等しい圧力に保持し、又は蒸気圧Pb以上、且つ(蒸気圧Pb+15kPa)以下に保持し、さらに陽極13を上流側とし陰極11を下流側とし、又は陽極13と陰極11とをめっき液21の流れに対して平行に配置し、めっき液21を流動させながら電気めっき処理が行われる電気めっき装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっき装置等に関し、より詳しくは、減圧状態で電気めっきを行う電気めっき装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気めっきは、金属部材の代表的な電気化学的表面処理方法として知られている。電気めっきは、通常、被めっき部材である陰極とこれと対極する陽極と間に所定の電圧が印加され、これらの電極間を結ぶ電気力線に沿って金属イオンが流れ、めっき膜が形成される。また、めっき厚の均一性を高める方法として、所定の形状の孔を設けた遮蔽板を被めっき物と陽極との間に挿入することにより、被めっき物の電気力線の集中を防ぐ方法が報告されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−034893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、電気めっきは、金属イオンの還元と並行して水の電気分解が進行する。このため、これにより発生する水素気泡が被めっき部材の表面に付着し、めっき膜にピンホールやピットを生じる問題がある。
【0005】
本発明は、このような電気めっきにおける問題を解決するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、均一なめっき膜が形成される電気めっき装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、被めっき部材を装着する陰極設置部と、被めっき部材との間に電圧が印加される陽極を設ける陽極設置部と、陰極設置部及び陽極設置部を浸漬するめっき液を収容するめっき浴槽と、めっき液を流動させる流動部と、めっき浴槽内を、めっき液を用いてめっきを行う温度におけるめっき液の蒸気圧Pb以上、且つ(蒸気圧Pb+15kPa)以下の圧力に保持する圧力調整部と、を有することを特徴とする電気めっき装置が提供される。
本発明が適用される電気めっき装置における流動部は、陽極を上流側とし陰極を下流側としてめっき液を流動させることが好ましい。
また、圧力調整部は、めっき液を還流させる冷却部を備えることが好ましい。
さらに、圧力調整部は、めっき浴槽内の圧力をめっき液の蒸気圧Pbに保ち、めっき液を連続的に沸騰させることが好ましい。
また、圧力調整部は、めっき浴槽内の圧力をめっき液の蒸気圧Pbと(蒸気圧Pb+15kPa)との間で変動させ、めっき液を間歇的に沸騰させることが好ましい。
【0007】
次に、本発明によれば、めっき液中に浸漬した被めっき部材からなる陰極及び陽極を配置しためっき浴槽内を、めっき液を用いてめっきを行う温度におけるめっき液の蒸気圧Pb以上、且つ(蒸気圧Pb+15kPa)以下の圧力に保持し、めっき浴槽内において、陽極を上流側とし陰極を下流側としてめっき液を流動させ、陰極及び陽極間に電圧を印加し被めっき部材の表面にめっき膜を形成することを特徴とするめっき部材の製造方法が提供される。
ここで、本発明が適用されるめっき部材の製造方法では、めっき浴槽内において、流動するめっき液の流れに対して、陽極と陰極とを平行に配置することが好ましい。
また、めっき浴槽内の圧力をめっき液の蒸気圧Pbに保ち、連続的に沸騰させることが好ましい。
めっき浴槽内の圧力をめっき液の蒸気圧Pbと(蒸気圧Pb+15kPa)との間で変動させ、めっき液を間歇的に沸騰させることが好ましい。
めっき液を、被めっき部材の表面におけるめっき液のレイノルズ数が1000程度以上になるように流動させることが好ましい。
さらに、本発明が適用されるめっき部材の製造方法では、圧力保持操作によって気化しためっき液の溶媒を冷却装置によりめっき浴槽中に還流することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、めっき膜に生じるピンホールやピットが減少し、均一なめっき膜が形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態(実施の形態)について説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、使用する図面は、本実施の形態を説明するために使用するものであり、実際の大きさを表すものではない。
図1は、本実施の形態が適用される電気めっき装置の一例を説明する図である。図1に示された電気めっき装置100は、被めっき部材からなる陰極11を装着する陰極設置部12と、陰極11との間に所定の電圧が印加される陽極13を設ける陽極設置部14と、陰極11及び陽極13を浸漬するめっき液21を収容するめっき浴槽20と、めっき液21を流動させる流動部30と、めっき浴槽20内を所定の圧力範囲にする圧力調整部40と、を備えている。
【0010】
陰極11と陽極13とは、所定の電極間距離Lを隔てて配置されている。また、陰極11と陽極13との間に所定の電圧を印加する直流電源15と、直流電源15と陰極11及び陽極13とをそれぞれ接合する導線16,17が配置されている。
陽極13は、陰極11としての被めっき部材の表面にめっき膜を析出させようとする金属から構成されている。めっき膜として析出させる金属としては、例えば、Cu、Zn、Cr、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Ru、Rh、Pd、Au、Pb、W、Ir、Pt等が挙げられる。これらの中でも、Ni、Ag、Au、Pd、Cr、Cu、Sn、Znが好ましい。これらの金属は、それぞれ単独で、または、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
尚、陽極13は、陰極11としての被めっき部材の表面にめっき膜を析出させようとする金属をペレット状にした複数個の金属粒子を、所定のアノードバスケットに収容したものを使用してもよい。
【0012】
本実施の形態において使用されるめっき液21は、通常、溶媒に、前述した被めっき部材の表面にめっき膜として析出させる1種又は2種類以上の金属の塩、有機物、ホウ酸等の緩衝剤、リン酸等の酸またはアルカリ物質等の各種物質を溶解させたものが用いられる。
溶媒は、一般的には水が用いられる。さらに水に、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の直鎖状カーボネート類等を混合したものを用いても良い。
【0013】
金属の塩としては、析出させる金属、合金、酸化物の種類等を考慮して適宜選択する。電気化学的に析出させることができる金属としては、例えば、Cu、Zn、Cr、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Ru、Rh、Pd、Au、Pb、W、Ir、Pt等が挙げられる。また、有機物としては、例えば、ポリアクリル酸等の陰イオン系電解質;ポリエチレンイミン等の陽イオン系電解質;サッカリン(1,2−ベンゾイソチアゾール−3(2H)−オン1,1−ジオキシド)(10mg/L)、2−ブチン1,4−ジオール(5mg/L)等の添加剤等が挙げられる。
【0014】
尚、めっき液21には、電解質溶液の安定化等を目的として一種又はそれ以上の物質を含むことができる。具体的には、めっき膜として析出させる金属のイオンと錯塩を形成する物質、電解質溶液の導電性を向上させるためのその他の塩、電解質溶液の安定剤、緩衝材等が挙げられる。
【0015】
本実施の形態において、めっき液21の主成分の具体例は、以下の通りである。
例えば、銅を析出させる場合の主成分としては、(結晶硫酸銅及び硫酸)、(ホウフッ化銅及びホウフッ酸)、(シアン化銅及びシアン化ソーダ)、(ピロリン酸銅、ピロリン酸カリウム及びアンモニア水);ニッケルを析出させる場合の主成分としては、(硫酸ニッケル、塩化アンモニウム及びホウ酸)、(硫酸ニッケル、塩化ニッケル及びホウ酸)、(スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル及びホウ酸);クロムを析出させる場合の主成分としては、(クロム酸及び硫酸)、(クロム酸、酢酸バリウム及び酢酸亜鉛);亜鉛を析出させる場合の主成分としては、(硫酸亜鉛、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、ホウ酸及びデキストリン)、(酸化亜鉛、シアン化ソーダ及び苛性ソーダ)、(酸化亜鉛及び苛性ソーダ)等が挙げられる。
【0016】
カドミウムを析出させる場合の主成分としては、(酸化カドミウム、シアン化ソーダ、ゼラチン及びデキストリン);スズを析出させる場合の主成分としては、(硫酸第一スズ、硫酸、クレゾールスルホン酸、β−ナフトール及びゼラチン)、(スズ酸カリ及び遊離苛性カリ);銀を析出させる場合の主成分としては、(シアン化銀及びシアン化カリ);金を析出させる場合の主成分としては、(金、シアン化カリ、炭酸カリ及びリン酸水素カリ);白金を析出させる場合の主成分としては、(塩化白金酸、第二リン酸アンモニウム及び第二リン酸ソーダ)、(塩化白金酸及び酢酸塩);ロジウムを析出させる場合の主成分としては、(濃硫酸及びロジウム)、(リン酸及びリン酸ロジウム)等が挙げられる。
【0017】
ルテニウムを析出させる場合の主成分としては、ルテニウム錯体;黄銅を析出させる場合の主成分としては、(シアン化第一銅、シアン化亜鉛、シアン化ナトリウム、及び炭酸ナトリウム);スズ鉛合金を析出させる場合の主成分としては、(スズ、鉛、遊離ホウフッ酸及びペプトン)、(スズ、鉛、遊離ホウフッ化水素酸及びペプトン);鉄ニッケル合金を析出させる場合の主成分としては、(スルファミン酸ニッケル、スルファミン酸第一鉄及び酢酸ナトリウム);コバルト燐を析出させる場合の主成分としては、(塩化コバルト、亜リン酸及びリン酸)等が挙げられる。
【0018】
めっき浴槽20は、めっき液21に侵食されない材料で形成された密閉型の容器である。めっき浴槽20の少なくとも内側の表面は、めっき液21に侵食されない材料で形成することが好ましい。
流動部30は、循環ポンプ31と、めっき浴槽20の上部に設けた排出口22と循環ポンプ31とを接合する循環配管32と、めっき浴槽20の下部に設けた供給口23と循環ポンプ31とを接合する供給配管33とを備えている。尚、図示しないが、さらに、沸騰状態でめっき液21を流動させる場合には、循環ポンプ31に加えて撹拌羽根を設置することが好ましい。
【0019】
圧力調整部40は、めっき浴槽20内を所定の圧力範囲にするための減圧ポンプ41と、圧力保持操作により蒸発するめっき液21の溶媒を冷却し、めっき浴槽20内に還流させる冷却部としてのコンデンサ42とを備えている。コンデンサ42は、配管42aによりめっき浴槽20内の気相部と接合され、配管42bにより減圧ポンプ41と接合されている。また、コンデンサ42は、所定の冷却材(Win,Wout)により冷却されている。
【0020】
次に、圧力調整部40は、めっき浴槽20内の気相部の圧力を示す圧力メータ43と、めっき浴槽20内に窒素(N2)等の不活性ガスを供給するための不活性ガス供給装置44と、不活性ガス供給装置44から供給される窒素(N2)等の供給量を調整するために、圧力メータ43によって検出された所定の圧力に基づいて作動する圧力調節弁45とを備えている。不活性ガス供給装置44及び圧力調節弁45は、不活性ガス供給管46によりめっき浴槽20内の気相部と接合されている。尚、図示しないが、必要に応じて、温度制御のための温度センサ、ヒータを設けてもよい。
【0021】
次に、電気めっき装置100の作用について説明する。
本実施の形態では、めっき浴槽20内は、圧力調整部40により、めっき液21を用いてめっきを行う温度におけるめっき液21の蒸気圧Pb以上、且つ(蒸気圧Pb+15kPa)以下の圧力に保持される。
【0022】
さらに、本実施の形態では、めっき浴槽20内の圧力を圧力調整部40により減圧し、めっき液21を沸騰させた状態で、もしくは間歇的に沸騰させた状態と沸騰していない減圧状態を往復させながら電気めっき処理が行われることが好ましい。
このとき、めっき浴槽20内の圧力は、圧力メータ43によって検出される。即ち、めっき浴槽20内部が、電気めっき処理が行われる温度におけるめっき液21の蒸気圧Pbより高くする際には圧力調節弁45を開き、不活性ガス供給装置44から窒素(N2)等を供給する。これにより、めっき浴槽20内は、めっき液21の蒸気圧Pb以上、且つ(蒸気圧Pb+15kPa)以下の圧力に保持される。
尚、減圧ポンプ41の減圧操作によって気化しためっき液21の溶媒は、冷却装置であるコンデンサ42により冷却され、めっき浴槽20に還流される。また、めっき浴槽20内の気相部は減圧ポンプ41により外気(VENT)に排出される。
【0023】
次に、本実施の形態では、めっき浴槽20のめっき液21は、流動部30により、陽極13を上流側とし陰極11を下流側として流動する。図1に示すように、めっき浴槽20のめっき液21は、めっき浴槽20の上部に設けた排出口22からめっき浴槽20のめっき液21を循環ポンプ31に導かれ、次に、めっき浴槽20の下部に設けた供給口23からめっき浴槽20内に導かれる。このとき、めっき浴槽20内では、陽極13を上流側とし陰極11を下流側とし、めっき浴槽20の底部から上部に向けて、図1中の矢印の方向にめっき液21が流動する。さらに、めっき液21は、めっき浴槽20の上部に設けた排出口22から循環配管32、循環ポンプ31及び供給配管33を経て、再びめっき浴槽20の下部に設けた供給口23からめっき浴槽20内に循環供給される。
【0024】
このとき、めっき液21は、被めっき部材である陰極11の表面においてレイノルズ数が1000程度以上になるように流動させることが好ましい。
ここで、レイノルズ数は、被めっき部材である陰極11と陽極13との電極間距離L(m)、速度U(m/s)、密度ρ(kg/m)、粘性率η(Pa・s)、動粘性率ν=η/ρ(m/s)から作られる無次元の数Rであり、以下の式で表される。
R=(ρLU/η)=(LU/ν)
本実施の形態においては、特に被めっき部材である陰極11を陽極13の下流に配置した場合、レイノルズ数が過度に小さい場合には、陰極11と陽極13との電極間においてめっき液21が層流となり、陰極11の表面側への新たなめっき液の供給が不足する傾向がある。そのため、陰極11から離れた位置を流れるめっき液21は、電気めっき処理に寄与しなくなり、陰極11の陽極13から遠い部分のめっき膜の厚みが薄くなるので好ましくない。
【0025】
続いて、被めっき部材である陰極11と、めっき浴槽20内で流動するめっき液21の上流側に配置された陽極13とに、直流電源15により所定の電圧を印加し、被めっき部材である陰極11の表面にめっき膜を形成する。
本実施の形態において、電気めっきの条件は、電気めっきを行う金属の種類により適宜選択され、特に限定されない。例えば、ニッケルめっきの場合、通常、使用するめっき液21中のニッケル塩の濃度は、260g/l〜490g/l、好ましくは、300g/l〜400g/lである。また、めっき液21のpHは、通常、1.5〜5.0、好ましくは、3.0〜4.8である。
尚、電気めっき処理中は、陰極設置部12に取り付けた陰極11を、所定の回転数で回転させることが好ましい。
【0026】
以上、詳述したように、本実施の形態が適用される電気めっき装置100によれば、めっき浴槽20内の圧力をめっき液21の蒸気圧Pb以上、且つ(蒸気圧Pb+15kPa)以下の圧力に保持した状態で電気めっき処理を行うことにより、被めっき部材表面に、ピンホールやピットが減少した均一なめっき膜が形成される。この場合、めっき浴槽20内の圧力をめっき液21蒸気圧をPbに保ち、めっき液21の沸騰状態において電気めっき処理を行うことが好ましい。さらに、めっき浴槽20内の圧力をめっき液21の蒸気圧Pbと(蒸気圧Pb+15kPa)との範囲内に保ち、めっき液21を間歇的に沸騰させながら電気めっき処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づき本実施の形態についてさらに詳述する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)めっき液の調製
水1リットルに、硫酸ニッケル240g、塩化ニッケル45g、ホウ酸30g、光沢剤(奥野製薬工業株式会社製:アクナNCF−MU)2mlを溶解し、pH4〜pH5のめっき液を調製した。また、めっき液の温度は50℃に保った。
【0028】
(2)電気めっき処理
陽極として幅2cm×長さ2cmのニッケル板を用い、陰極(被めっき部材)として幅3.4cm×長さ5cmの真鍮板を用いる。
真鍮板の表面での電流密度が2A/dmとなるようにニッケル板と真鍮板とに電圧を加え、総電荷量175クーロンとなるまで電気めっき処理を行い、厚さ7μmのニッケルめっき膜を形成した。
【0029】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
図1に示す電気めっき装置100を用いて、予め被めっき部材として調製した真鍮板の電気めっき処理を行う。
めっき浴槽20内に温度50℃のめっき液21を1リットルを満たす。次に、めっき液21の温度を50℃に保ち、流動部30によりめっき液21を陽極13を上流側とし陰極11を下流側として流動させる。このとき、各実験毎に陰極11の表面においてレイノルズ数が約500、1000、1500程度になるように流動させる。
次に、圧力調整部40により、めっき浴槽20内の圧力を、表1に示す5種類の圧力にそれぞれ保持し、各圧力に保持した状態で電気めっき処理を行う。
尚、表1中、圧力は、Pb(9.3kPa)、Pb+5.7kPa(15kPa)、Pb+14.7kPa(24kPa)である。また、Pb(9.3kPa)において、めっき液21は沸騰する。
さらに、比較のため、めっき浴槽20内の圧力をPb+30.7kPa(40kPa)および常圧(101.3kPa)とした条件で電気めっき処理を行う。
【0030】
電気めっき処理後、めっき膜が形成された真鍮板を塩酸蒸気中に置き、1時間後に取り出して充分に水洗し乾燥した。次に、真鍮板の下部に横3cm×縦2cmの領域を設定し、実体顕微鏡を用いてこの中にあるピンホールの数を数えた。ピンホールの大きさは数μmから20μm程度であった。尚、ピンホールは、めっき膜に生じた真鍮板まで達している孔であり、めっき膜上の微細な窪み(ピット)と区別される。表1に、ピンホールの個数を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示す結果から、めっき液21を陽極13を上流側とし陰極11を下流側として流動させ、めっき浴槽20内の圧力をめっき液21の蒸気圧Pb以上、且つ(蒸気圧Pb+15kPa)以下の圧力に保持した状態で電気めっき処理を行うことにより(実施例1〜3)、被めっき部材表面に、ピンホールが減少した均一なめっき膜が形成されることが分かる。
【0033】
また、めっき液21が沸騰している場合(実施例1:Pb(9.3kPa))は、めっき液21の流速が速くなくてもピンホールの個数が大幅に減少する。めっき浴槽20内の圧力が、蒸気圧Pbと(蒸気圧Pb+15kPa)との範囲内の場合(実施例2,3)は、めっき液21のレイノルズ数が約1000以上となるように流動させることにより、流速が遅い場合に比べてピンホールの個数が減少することが分かる。
【0034】
これに対して、めっき浴槽20内の圧力が、蒸気圧Pbと(蒸気圧Pb+15kPa)との範囲より大きい場合(比較例1)は、ピンホールが大幅に増大し、特に、常圧で電気めっき処理した場合(比較例2)は、多数のピンホールが生じることが分かる。
【0035】
尚、めっき膜を肉眼で観察したところ、常圧で電気めっき処理した場合(比較例2)は、めっき膜の表面に針先でつついたようなピットが数十個観察された。これに対し、めっき液21の蒸気圧Pbと(蒸気圧Pb+15kPa)との範囲内の場合(実施例1〜3)は、ピットが半減し、特に、沸騰状態で電気めっき処理を行った場合(実施例1)は、ピットは観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施の形態が適用される電気めっき装置の一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0037】
11…陰極、13…陽極、20…めっき浴槽、21…めっき液、30…流動部、40…圧力調整部、42…コンデンサ、100…電気めっき装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき部材を装着する陰極設置部と、
前記被めっき部材との間に電圧が印加される陽極を設ける陽極設置部と、
前記陰極設置部及び前記陽極設置部を浸漬するめっき液を収容するめっき浴槽と、
前記めっき液を流動させる流動部と、
前記めっき浴槽内を、前記めっき液を用いてめっきを行う温度における当該めっき液の蒸気圧Pb以上、且つ(当該蒸気圧Pb+15kPa)以下の圧力に保持する圧力調整部と、を有する
ことを特徴とする電気めっき装置。
【請求項2】
前記流動部は、前記陽極を上流側とし陰極を下流側として前記めっき液を流動させることを特徴とする請求項1に記載の電気めっき装置。
【請求項3】
前記圧力調整部は、前記めっき液を還流させる冷却部を備えることを特徴とする請求項1に記載の電気めっき装置。
【請求項4】
前記圧力調整部は、前記めっき浴槽内の前記圧力を前記めっき液の前記蒸気圧Pbに保ち、当該めっき液を連続的に沸騰させることを特徴とする請求項1に記載の電気めっき装置。
【請求項5】
前記圧力調整部は、前記めっき浴槽内の前記圧力を前記めっき液の前記蒸気圧Pbと(当該蒸気圧Pb+15kPa)との間で変動させ、当該めっき液を間歇的に沸騰させることを特徴とする請求項1に記載の電気めっき装置。
【請求項6】
めっき液中に浸漬した被めっき部材からなる陰極及び陽極を配置しためっき浴槽内を、当該めっき液を用いてめっきを行う温度における当該めっき液の蒸気圧Pb以上、且つ(当該蒸気圧Pb+15kPa)以下の圧力に保持し、
前記めっき浴槽内において、前記陽極を上流側とし前記陰極を下流側として前記めっき液を流動させ、
前記陰極及び前記陽極間に電圧を印加し前記被めっき部材の表面にめっき膜を形成する
ことを特徴とするめっき部材の製造方法。
【請求項7】
前記めっき浴槽内において、流動する前記めっき液の流れに対して、前記陽極と前記陰極とを平行に配置することを特徴とする請求項6に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項8】
前記めっき浴槽内の前記圧力を前記めっき液の前記蒸気圧Pbに保ち、連続的に沸騰させることを特徴とする請求項6に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項9】
前記めっき浴槽内の前記圧力を前記めっき液の前記蒸気圧Pbと(当該蒸気圧Pb+15kPa)との間で変動させ、当該めっき液を間歇的に沸騰させることを特徴とする請求項6に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項10】
前記めっき液を、前記被めっき部材の表面における当該めっき液のレイノルズ数が1000程度以上になるように流動させることを特徴とする請求項6に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項11】
圧力保持操作によって気化した前記めっき液の溶媒を冷却装置により前記めっき浴槽中に還流することを特徴とする請求項6に記載のめっき部材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−24249(P2009−24249A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191783(P2007−191783)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(505105730)
【出願人】(502073773)株式会社山田 (5)
【Fターム(参考)】