説明

電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法

【課題】急冷処理過程に発生するクエンチステインを防止し、クエンチステインの発生をより減少させる電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】連続的に搬送される錫めっき鋼板11を電力によって錫の融点以上に所定時間加熱する工程と、加熱された錫めっき鋼板11を、調整バルブ33を介して流量制御される冷却水と熱交換器32で熱交換されて温度制御されているクエンチタンク12を通過させて急冷する工程とを有する電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法において、錫めっき鋼板11によって搬入される熱量に対する、クエンチタンク12の温度が定常的に適正温度になる調整バルブ33の予測弁開度を予め求めておき、錫めっき鋼板11の通板条件が変わった場合には、直ちに錫めっき鋼板11が搬入される熱量に応じて、調整バルブ33の弁開度を、予測弁開度とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気錫めっき後の鋼板を加熱して鋼板表面の錫を再溶融させ、所望合金量が得られる滞留時間を経過後、クエンチタンクで急冷するリフロー処理を行って錫めっき鋼板の光沢を得る電気めっき鋼板設備において、例えば、搬送される錫めっき鋼板条件(例えば、通板速度、鋼板の幅、鋼板の厚み)を変更した場合の急冷処理工程で発生し易いクエンチステインを防止する電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気錫めっき鋼板は、めっきしただけでは光沢を有さないため、通常、電気めっき後の鋼板を電力で加熱し、表面の錫を再溶融させ、錫と鉄の所望合金量が得られる滞留時間を経過させた後に、クエンチタンクで急冷却処理し、良好な金属光沢を得ることが行われている。
【0003】
ところが、この急冷時に鋼板の表面に水蒸気による気泡が発生する等の原因による冷却の不均一が発生し、鋼板表面に水滴が付着したような、クエンチステインと呼ばれる模様(表面欠陥)が生じることがある。クエンチステインの発生防止には、加熱後の鋼板の冷却を均一にする必要があり、スプレーノズルの角度や流量、板幅方向の流速の均一性を適正に保ち、かつタンクに浸入した鋼板表面に接する水が安定な核沸騰領域となるようにクエンチタンクの温度を所望範囲内に保つことが重要である。
【0004】
クエンチタンクの温度を所定範囲に保つことは、例えば、特許文献1に記載されており、鋼板の表面温度を計測し、その測定温度を元に、クエンチタンクの水温を決定し所定の温度に制御することが提案されている。この方法は、クエンチステインの発生しない鋼板表面温度とクエンチタンクの水温の相関関係を把握し、クエンチタンクを所望温度に制御しようとするものであり、定常状態での効果は期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−137440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、連続通板時になんらかの設備不具合や、溶接点通過時の設備制約などでラインスピードを下げるなどした場合、リフローの加熱制御により板温度は一定に保たれるが、ラインスピードの低下によりクエンチタンクへの鋼板からの持ち込み熱量も低下することになる。
【0007】
このとき、特許文献1記載の技術では、クエンチタンク浸入前の板温度を計測してクエンチタンクの目標水温を決定するものの、クエンチタンクの温度制御そのものの手法については述べられておらず、これを一般的なフィードバック制御で実現する場合、入熱の変化が発生した場合に対する追従が遅れ、そもそもクエンチタンク自体が慣性の大きい系であることもあり、クエンチタンク温度が所望範囲を逸脱してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、電気めっき鋼板設備において、錫めっき鋼板の光沢を得るために電気めっき後の鋼板を加熱し、鋼板表面の錫を再溶融させ、所望合金量が得られる滞留時間の経過後、クエンチタンクで急冷するリフロー処理について、急冷処理過程に発生するクエンチステインを防止し、クエンチステインの発生をより減少させる電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う第1の発明に係る電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法は、連続的に搬送される錫めっき鋼板を電力によって錫の融点以上に所定時間加熱する工程と、加熱された前記錫めっき鋼板を、調整バルブを介して流量制御される冷却水と熱交換器で熱交換されて温度制御されているクエンチタンクを通過させて急冷する工程とを有する電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法において、
前記錫めっき鋼板によって搬入される熱量に対する、前記クエンチタンクの温度が定常的に適正温度になる前記調整バルブの予測弁開度を予め求めておき、前記錫めっき鋼板の通板条件が変わった場合には、直ちに該錫めっき鋼板が搬入される熱量に応じて、前記調整バルブの弁開度を、前記予測弁開度とする。
【0010】
ここで、錫めっき鋼板(単に「板」と称する)で搬入される熱量は、(板の比熱)×(昇温量)×(板幅)×(板厚)×(ラインスピード)によって決定される。
【0011】
また、第2の発明に係る電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法は、第1の発明に係る電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法において、定常時の前記クエンチタンクの温度は、該クエンチタンクの温度を測定し、温度の変化分に対応して前記調整バルブの弁開度を変更するフィードバック制御が行われている。
【0012】
そして、第3の発明に係る電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法は、第1、第2の発明に係る電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法において、前記クエンチタンクの水は前記熱交換器に循環ポンプを介して送られ、前記冷却水の冷却水量は、前記熱交換器に直列に接続された前記調整バルブで水量制御が行われている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法は以下のような効果を有する。
(1)一般的な温度フィードバック制御では、入熱量の急速な変化に対してクエンチタンクの短時間適正制御ができないが、本発明においては、錫めっき鋼板の搬入熱量と、冷却水の調整を行う調整バルブの予測弁開度を予め求めておき、錫めっき鋼板からの搬入熱量(即ち、入熱)が変わった場合には、直ちに、調整バルブの弁開度を変えているので、クエンチタンクの温度制御が高速に行われる。
(2)これによって、ラインスピード変更、板幅変更、板厚変更等の操業過渡期の入熱量に合わせて冷却を調整できるので、クエンチタンクの操業安定化が得られる。
(3)操業過渡期であっても、クエンチタンクを所望水温に保つことができるので、錫めっき鋼板の歩留りを最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るクエンチタンクの温度制御方法が適用される電気めっき鋼板設備の概略説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法の制御ブロック図である。
【図3】(A)〜(E)は本発明の一実施の形態に係る電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法が適用される電気めっき鋼板設備10は、錫めっき後の鋼板(錫めっき鋼板)11を加熱してクエンチタンク12にガイドする第1の通電ロール13、第1、第2のガイドロール14、15、クエンチタンク12内に設けられたシンクロール16、第2の通電ロール17及び第3のガイドロール18を有している。
【0016】
第1の通電ロール14と第2の通電ロール17は、電力制御装置付きの通電加熱装置19から電力の供給を受け、クエンチタンク12に入る鋼板11の温度が錫の融点以上の所定の温度(例えば、238〜245℃の特定温度)になるように制御している。なお、第2のガイドロール15の下流側には電力制御装置20によって供給電力を制御される誘導加熱装置21が設けられ、鋼板11の条件によって更に適正温度に鋼板11を加熱できるようになっている。
【0017】
第1、第2の通電ロール13、17に電力を供給して、連続的に搬送される鋼板11の表面にめっきされた錫を再溶融して加熱し(リフロー処理)、必要な場合は誘導加熱装置21によっても鋼板11を加熱し、この過程で、鋼板11に所望合金量が得られるように加熱に必要な電力が調整され板温制御がなされる。
【0018】
加熱された鋼板11の急冷処理を行うクエンチタンク12及びクエンチの制御装置は次のように構成される。
クエンチタンク12には水が充填されており、その中にリフローの加熱処理で加熱された電気錫めっきされた鋼板11が浸入する。冷却が均一となるように、鋼板11の両側に設けられたスプレーノズル23、24により鋼板11の表面の水を循環させる。水は常時オーバーフローするように供給水系統25から、供給水調整弁26により調整されて供給される。オーバーフロー水の量は、流量計測装置27により計測する。
【0019】
クエンチタンク12の温度(即ち、クエンチタンク12内の水温)は、温度計測装置28によって計測される。設備休止直後の稼働開始時などでクエンチタンク12内の水の温度が低い場合は、加熱用蒸気系統29より加熱用蒸気調整弁30を調整して蒸気を供給し昇温させる。
操業条件下では、クエンチタンク12の水は、ポンプ31により、熱交換器32に循環供給され、熱交換器32の二次側には冷却水(常温)が供給され、その量は、熱交換器32に直列に接続された調整バルブ33により調整される。オーバーフローの流量や、クエンチタンク12の温度情報は、制御装置34に取り込まれ、各系統の調整弁に指示が出される。
【0020】
スプレーノズル23、24は、クエンチタンク12に浸入した鋼板11を均一に冷却する上で重要な役割を担っており、本発明では噴出角度、流量、幅方向の流速の均一性は適正に調整されていることを前提としている。
【0021】
クエンチタンク12に浸入する鋼板11の表面での水の蒸発を、安定な核沸騰領域に保つ条件は、浸入時の鋼板温度と、クエンチタンク12の水の温度に依存する。クエンチタンク12に浸入する鋼板11の温度は、生成させたい鉄と錫の合金量に依存する。合金量は、錫が融点232℃(所謂メルトライン)を超えてから急冷されるまでの時間に依存しており、生成したい合金量が増えれば、錫溶融以降の滞留時間が長く必要となり、結果的にクエンチタンク12への浸入時の鋼板11の温度は高くなる。
【0022】
リフローの加熱制御では、必要滞留時間を念頭に、目標合金量に応じてメルトラインの位置が、クエンチタンク12の水表面位置に対してどこにあればよいかを配慮して加熱制御するのが一般的であり、この電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法においては、リフロー加熱制御に周知の一般的手法が採用されていることを前提としている。
錫融点以降の鋼板11の滞留時間(即ち、合金生成時間)は、ライン速度を前提に規定される。ライン速度の変化は滞留時間の変化にかかわるため、リフローの加熱もライン速度に依存して補正される。
【0023】
それゆえ、今回提案する電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法では、目標とすべきクエンチタンク12の水の温度は目標とする合金量とライン速度によって決まるものとしている(即ち、その目標温度及びその所定温度以内であれば、クエンチステインは発生しない)。
具体的な目標温度決定手段については、合金量とライン速度のテーブル、あるいは合金量とライン速度を因数とした関数として具現化することができる。
【0024】
この電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法において、クエンチタンク12の水温は、クエンチタンク12に投入される入熱、すなわち加熱された鋼板11の持ち込む熱量をフィードフォワード制御で相殺することにより安定化を図る。
【0025】
鋼板11の持ち込む熱量は、ライン速度、鋼板11の比熱、鋼板11のサイズ(板幅、板厚)、鋼板11の温度に依存するが、リフローの加熱制御における出力電力量と相関がある。このため、今回提案した発明では、図2に示すように、通電加熱(コンダクションリフロー)と誘導加熱(インダクションリフロー)の出力電力(合計)にゲインK1をかけて、入熱と等価な冷却量を実現する冷却水の調整バルブ33の予測弁開度としている。
【0026】
鋼板11からの搬入される熱量を電力で計算する場合には、鋼板11の温度を元にして入熱量を図る場合に比較して誤差があり、厳密には、鋼板11から伝わる熱量は、強制対流や輻射による放熱、誘導加熱装置21の熱伝達効率などの影響や、熱交換器32の冷却水流量変化時の熱効率の変化などの非線形性の影響があり、これらを加味した非線形関数とするとより精緻な冷却制御特性が期待できる。
【0027】
実際のゲインK1の決定方法については、リフローのある加熱条件に対して、冷却水系統の冷却水の調整バルブ33を固定開度で徐々にクエンチタンク12内の水温を変化させ、一定時間温度が変化しなくなる状態(入熱熱量と冷却熱量が等価となる条件)を模索する。さらに電力条件(即ち、=コンダクションリフローの出力電力+インダクションリフローの出力電力)を変化させて、熱量がバランスする弁開度を模索するという作業を繰り返し、鋼板11が搬入する熱量と予測弁開度の相関関係を予め把握する。そして、鋼板11の通板条件が変わった場合には、直ちに鋼板11が搬入される熱量に応じて、調整バルブ33の弁開度を、予測弁開度とする。
【0028】
図2に示すように、この電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法に、フィードバック制御を追加する場合は、目標とする温度と計測された温度の偏差に応じて冷却水の調整バルブ33の弁開度をフィードバック制御器36により与える。ここで用いるフィードバック制御器36は、定常偏差重視でなく所望範囲内に留めるための速応性を重視するため、比例制御を用いるのが好ましい。
【0029】
ゲインK1については、冷却系の特性に応じた値とすべきもので、可変ゲインや非線形関数としてもかまわない。フィードバック制御を追加することで、経時的熱交換効率の変化に起因する、リフロー電力と冷却系統の冷却水の調整バルブ33の相関関係の変化を吸収する作用が期待できる。
【0030】
なお、図2に示す目標タンク温度決定手段37は、鋼板11に対する錫の目標合金量、クエンチステインの発生しない温度領域、スプレーノズル23、24の形状やその流量によって、目標とするクエンチタンク水温を決定するが、通常は80〜90℃の範囲にある温度に決定される。クエンチタンク12に取付けられた温度計測装置28の入力と目標タンク温度決定手段37とから出力されるクエンチタンク水温設定値を比較して、冷却水の調整バルブ33の弁開度を制御し、クエンチタンク12内の水温がクエンチタンク水温設定値になるようにフィードバック制御される。
【0031】
なお、このとき供給水系統25は、供給水調整弁26と流量計測定装置27によりオーバーフロー量を一定に保っている。オーバーフロー量を一定に保つ目的は、クエンチタンク12の水の循環を維持することでクエンチタンク12の水の清浄度を保ち鋼板11の表面等への欠陥(汚れ)を防ぐことと、温度制御による温度変化外乱を与えないためである。
【0032】
図3(A)〜(E)には、ラインスピード、クエンチタンクへの入熱、フィードフォワード制御/出力(%)(ゲインK1:リフロー出力電圧)、冷却水の調整バルブの弁開度の制御出力、クエンチタンクの水温の時間的変化を示したグラフであり、この電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法を用いた場合には、高速度に目標水温(クエンチステインを発生させない温度範囲)に達していることが判る。
【0033】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能である。
【符号の説明】
【0034】
10:電気めっき鋼板設備、11:鋼板、12:クエンチタンク、13:第1の通電ロール、14:第1のガイドロール、15:第2のガイドロール、16:シンクロール、17:第2の通電ロール、18:第3のガイドロール、19:通電加熱装置、20:電力制御装置、21:誘導加熱装置、23、24:スプレーノズル、25:供給水系統、26:供給水調整弁、27:流量計測装置、28:温度計測装置、29:加熱用蒸気系統、30:加熱用蒸気調整弁、31:ポンプ、32:熱交換器、33:調整バルブ、34:制御装置、36:フィードバック制御器、37:目標タンク温度決定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送される錫めっき鋼板を電力によって錫の融点以上に所定時間加熱する工程と、加熱された前記錫めっき鋼板を、調整バルブを介して流量制御される冷却水と熱交換器で熱交換されて温度制御されているクエンチタンクを通過させて急冷する工程とを有する電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法において、
前記錫めっき鋼板によって搬入される熱量に対する、前記クエンチタンクの温度が定常的に適正温度になる前記調整バルブの予測弁開度を予め求めておき、前記錫めっき鋼板の通板条件が変わった場合には、直ちに該錫めっき鋼板が搬入される熱量に応じて、前記調整バルブの弁開度を、前記予測弁開度とすることを特徴とする電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法において、定常時の前記クエンチタンクの温度は、該クエンチタンクの温度を測定し、温度の変化分に対応して前記調整バルブの弁開度を変更するフィードバック制御が行われていることを特徴とする電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法において、前記クエンチタンクの水は前記熱交換器に循環ポンプを介して送られ、前記冷却水の冷却水量は、前記熱交換器に直列に接続された前記調整バルブで水量制御が行われていることを特徴とする電気めっき鋼板設備のクエンチタンクの温度制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−190467(P2011−190467A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54793(P2010−54793)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】