説明

電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法

【課題】 アルカリ金属水酸化物を用いたアルカリ賦活処理を行わずに、単位体積当たりの静電容量が高い電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法を提供する。
【解決手段】 つぎの工程(a)〜(d)を含む電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
(a)原料ピッチを湿式酸化処理する工程、
(b)工程(a)で得られる湿式酸化処理物をアルカリ土類金属化合物の存在下で熱処理することによって炭素化処理する工程、
(c)工程(b)で得られる炭素化処理物を酸洗浄する工程、
(d)工程(c)で得られる洗浄処理物にアルカリ金属炭酸塩を添加し、熱処理することによって賦活処理する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ(以下、EDLCと称する)は、大電流充放電が可能で、長寿命かつ高温安定性に優れるため、例えばハイブリッド自動車等の蓄電デバイスとして理想的な特性を有している。ところが、これまでのEDLCはエネルギー密度が不充分であることが唯一の欠点となっていた。
【0003】
現在、EDLCの分極性電極材料としては、ヤシ殼、コークス、フェノール樹脂等を水蒸気や二酸化炭素等によって賦活した高比表面積を有する活性炭が使われている。しかしながら、これらの原料から高い静電容量を有する高比表面積の活性炭を得るために賦活度を上げていくと、電極材料の嵩密度が低くなりEDLCのエネルギー密度を高くできないという問題があった。
【0004】
そのため、電極材料の嵩密度をコークスやメソカーボンマイクロビーズ、あるいはメソフェーズピッチ系炭素繊維等の易黒鉛化性炭素からアルカリ金属化合物を用いた賦活(以下、アルカリ賦活)によって高い静電容量の活性炭を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、さらに静電容量を向上させる目的で、メソフェーズピッチ系不融化炭素繊維をアルカリ賦活して、高い静電容量の活性炭を得る方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかし、アルカリ賦活の効果の大きい薬剤として、例えば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられるが、これらの薬剤を用いた場合、薬剤自体が高価なことに加え、アルカリ塩の腐食性から、装置に高価な材料を使わざるを得ず、また加熱により反応性の高いアルカリ金属あるいはアルカリ金属酸化物が生成し、安全性を考慮した場合、設備費が高くなり、安全で安価な活性炭製造法とは言えない。
【0007】
また、易黒鉛化性炭素を原料に炭酸カリウム等のアルカリ賦活の効果の小さい薬剤を用いた場合、賦活が十分に進行せず、比表面積の小さな活性炭しか得ることができず、EDLCのエネルギー密度を高くできない(例えば、特許文献7〜8参照。)。
【0008】
これに対して、賦活を行わずに多孔質炭素材料を得る方法としてポリビニルアルコール、ポリスチレン等の有機質樹脂や石炭系コークス、石油系コークス等の易黒鉛化性炭素前駆体を酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物と混合、熱処理し、アルカリ土類金属化合物の表面に炭素化物を析出させ、次いで酸洗浄することでアルカリ土類金属化合物を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献3〜5参照)。
【0009】
しかしながら、原料に有機樹脂類を原料にした場合には、炭化歩留が低く、得られる多孔質炭素材料は高価なものになる。また、この方法で高い静電容量を得ようとすると高比表面積の多孔質炭素材料を得ねばならず、EDLCのエネルギー密度を高くできない。
【0010】
なお、特許文献6には、活性炭原料にアルカリ土類金属化合物を添加し熱処理した後、アルカリ賦活によりEDLCの分極性電極材料を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−93667号公報
【特許文献2】特開平11−222732号公報
【特許文献3】特開平10−335189号公報
【特許文献4】特開2006−62954号公報
【特許文献5】特開2008−21833号公報
【特許文献6】特開2004−175660号公報
【特許文献7】特開2008−257883号公報
【特許文献8】特開2006−278588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
EDLC用分極性電極に用いる炭素材料を製造する従来技術は、上記のように、いずれも物性面や生産技術で特有の課題をかかえるものである。特に、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いたアルカリ賦活は、工業的に安価かつ安全に製造できない問題があった。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、アルカリ金属水酸化物を用いたアルカリ賦活を行わずに、高い静電容量の活性炭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記課題を解決するため鋭意研究した結果なされたものであり、以下の各項の発明からなる。
1. つぎの工程(a)〜(d)を含む電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
(a)原料ピッチを湿式酸化処理する工程、
(b)工程(a)で得られる湿式酸化処理物をアルカリ土類金属化合物の存在下で熱処理することによって炭素化処理する工程、
(c)工程(b)で得られる炭素化処理物を酸洗浄する工程、
(d)工程(c)で得られる洗浄処理物にアルカリ金属炭酸塩を添加し、熱処理することによって賦活処理する工程。
2. 前記原料ピッチが、縮合多環炭化水素をフッ化水素及び三フッ化ホウ素の共存下で重合させて得られるものである第1項記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
3. 前記工程(a)において、硝酸及び硫酸から選択される少なくとも1種を用いて湿式酸化処理する第1項又は第2項記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
4. 前記工程(b)において、アルカリ土類金属化合物の添加量が、アルカリ土類金属元素基準で、前記湿式酸化処理物100重量部に対し、40〜800重量部である第1項〜第3項のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
5. 前記工程(b)において、アルカリ土類金属化合物が、マグネシウム化合物、カルシウム化合物及びバリウム化合物から選択される少なくとも1種である第1項〜第4項のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
6. 前記工程(d)において、アルカリ金属炭酸塩の添加量が、前記洗浄処理物100重量部に対し、100〜1000重量部である第1項〜第5項のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
7. 第1項〜第6項のいずれかに記載の方法によって得られる電気二重層キャパシタ電極用活性炭。
8. 第7項記載の活性炭を用いた電気二重層キャパシタ電極。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルカリ金属水酸化物を用いたアルカリ賦活を行うことなく、電極密度が高く、単位体積当たりの静電容量が高いEDLC電極用活性炭を安全に製造することができるので、工業的意義はきわめて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、アルカリ金属水酸化物を用いたアルカリ賦活を行わず、単位体積当りで高静電容量の活性炭に関するものであり、高静電容量の活性炭及び安全に活性炭の製造方法を提供するものである。
【0017】
本発明に用いる原料ピッチとしては、石油系ピッチ、石炭系ピッチ又は合成系ピッチが好ましい。この中でもさらに好ましいものとしては、特許第2931593号公報、特許第2621253号公報、特許第2526585号公報又は特開2000−319664号公報に示されるように、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン、アセナフテン、アセナフチレン、ピレン等の縮合多環炭化水素を超強酸触媒のフッ化水素・三フッ化ホウ素の存在下で重合させて得られる合成系ピッチが挙げられる。これらは他のピッチ類と異なり、化学純度が高く、性状を自由に制御可能であることから特に好適に用いられる。
【0018】
本発明は、下記工程(a)〜(d)を含むEDLC電極用活性炭の製造方法である。
【0019】
(a)湿式酸化処理工程
原料ピッチに対して硝酸及び硫酸から選択される少なくとも1種類の酸化剤を用いて適当な湿式酸化処理を行うことが、高静電容量化には必要である。「湿式酸化」とは、原料ピッチを液体の酸化剤により酸化する処理を意味し、酸素含有ガス等の酸化性ガスを酸化剤とする酸化処理とは異なる。なお、空気のみを用いる酸化処理を「空気酸化」と呼ぶ。
【0020】
湿式酸化処理を行う雰囲気は特に限定されないが、空気中で行う場合は、空気酸化が起こらない温度で行う必要がある。好ましくは、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気である。湿式酸化処理条件は、使用する酸化剤、濃度、原料ピッチの種類等に応じて選択でき、湿式酸化処理温度は、通常、0〜300℃、好ましくは20℃〜200℃である。酸化の程度は、原料ピッチの基準酸素濃度(湿式酸化処理前の原料ピッチが含有する酸素濃度)に対して、湿式酸化処理後のピッチの酸素濃度の差で決められ、通常1〜30%、より好ましくは1〜25%、さらに好ましくは1〜20%である。
【0021】
このようにして得られた湿式酸化処理物は、水洗して酸化剤を除去し、十分に乾燥する。洗浄及びそれ以後の工程については、従来の方法を用いることができる。
【0022】
(b)炭素化処理工程
工程(a)で製造した湿式酸化処理物は、アルカリ土類金属化合物を添加し、熱処理することにより炭素化処理する。アルカリ土類金属化合物としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属元素を含む化合物であればよく、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、リン酸塩、炭酸塩、硫化物、硫酸塩、硝酸塩等の無機塩又は酢酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩等の有機酸塩を用いることができる。より好ましくは、マグネシウム化合物、カルシウム化合物及びバリウム化合物であり、さらに好ましくは、マグネシウム、カルシウム及びバリウムの水酸化物及び有機酸塩である。
【0023】
工程(a)で製造した湿式酸化処理物及びアルカリ土類金属化合物の形状は限定される物ではないが、より均一に混合するために、細かい粒子となっていることが好ましい。その粒子径は1mm以下が好ましく、より好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下である。また、より均一に混合するために、アルカリ土類金属化合物を可溶な溶媒に溶かした溶液と工程(a)で製造した湿式酸化処理物と混合後、溶媒を除去してもよい。
【0024】
アルカリ土類金属化合物の使用量は、アルカリ土類金属元素の重量基準で、工程(a)で製造した湿式酸化処理物100重量部に対し40〜800重量部、より好ましくは40〜600重量部、さらに好ましくは40〜400重量部である。例えば、アルカリ土類金属化合物として水酸化マグネシウムを選んだ場合、マグネシウムの原子量が24.31、水酸化マグネシウムの分子量が58.32であることから、工程(a)で製造した湿式酸化処理物100重量部に対し、水酸化マグネシウム240重量部(=58.32/24.31×100)を用いると、マグネシウム元素基準で100重量部となる。
【0025】
工程(a)で製造した湿式酸化処理物にアルカリ金土類金属化合物を添加した後、熱処理することにより炭素化処理する。この炭素化処理工程は1200℃程度まで加熱する一般的な方法でもよいが、該湿式酸化処理物の炭素化開始温度付近で一度温度を保持した後、好ましくは400〜1000℃、より好ましくは600〜800℃で1〜20時間、より好ましくは1〜12時間保持する。
【0026】
また、炭素化処理は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行われるが、炭素化処理を行う装置としては、公知の装置を用いることができ、均一な混合物を不活性雰囲気下で所定温度に加熱できればよい。工業的にはロータリーキルンやトンネルキルン等で行うのが経済的で生産性が高い。
【0027】
(c)洗浄処理工程
工程(b)で得られた炭素化処理物には、炭素化処理により分解しなかったアルカリ土類金属化合物及び/又は炭素化処理により生成したアルカリ土類金属化合物が含まれている。これらのアルカリ土類金属化合物を除去するために洗浄を行う(これらのアルカリ土類金属化合物を、まとめてアルカリ土類金属化合物類という)。アルカリ土類金属化合物類を除去しない場合、後工程のアルカリ金属炭酸塩を薬剤に用いた賦活処理において、炭素化処理物の濃度が小さくなり賦活の効果を下げる。逆に十分に賦活させようとすると賦活に用いる薬剤のアルカリ金属炭酸塩の使用量が多くなりコスト上昇の要因となる。
【0028】
洗浄に用いられる酸としては、アルカリ土類金属化合物類を溶解する酸であれば特に限定されないが、例えばベリリウム化合物及びマグネシウム化合物を用いた場合は、硫酸、硝酸、塩酸等が使用できる。カルシウム化合物、ストロンチウム化合物及びバリウム化合物では、塩酸を用いるのが好ましい。また、例えば酢酸マグネシウムに対する酢酸等、原料となるアルカリ土類金属化合物に対応する酸を使用することもできる。この場合、原料となるアルカリ土類金属化合物が生成し、再利用することで省コスト化を図ることができる。工程(b)で得られた炭素化処理物は、原料となるアルカリ土類金属化合物に対応する酸で洗浄した後、さらに硫酸、硝酸、塩酸等の酸で洗浄しても良い。工程(b)で得られた炭素化処理物は、酸で洗浄した後、水洗して酸を除去する。
【0029】
炭素化処理物を酸洗浄することによって炭素化処理物からアルカリ土類金属化合物類を除去した洗浄処理物は、比較的大きな比表面積を持つ多孔質炭素材料となる。しかし、この多孔質炭素材料は細孔分布がブロードで、EDLC用分極性電極として最適な細孔が少なく、EDLC用分極性電極として使用したときの静電容量は小さい。
【0030】
該洗浄処理物は、つぎの賦活処理工程前に粉砕処理されることが好ましい。粉砕方法は、特に限定するものではなく、例えば、衝撃式粉砕機、ボールミル、ローラーミル、ジェットミル等が使用できる。所望の粒度を得るために分級機を組合せて用いてもよい。粉砕処理の際には、平均粒子径で、通常は1〜50μm、好ましくは5〜40μm、さらに好ましくは5〜30μmになるように粒度調整される。
【0031】
(d)賦活処理工程
工程(c)で得られた洗浄処理物は、アルカリ金属炭酸塩を添加し、熱処理することにより賦活処理する。アルカリ金属炭酸塩の形状は限定されるものではないが、より均一に混合するため、細かい粒子となっていることが好ましい。その粒子径は1mm以下が好ましく、より好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下である。また、より均一に混合するために、アルカリ金属炭酸塩水溶液として工程(c)で得られた洗浄処理物と混合後、水分を除去しても良い。
【0032】
アルカリ金属炭酸塩としては、例えば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムを使用できる。より好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムである。この理由としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが安価であり、また溶融温度が高いためである。これらの1種類あるいは2種類以上混合して使用しても良い。
【0033】
アルカリ金属炭酸塩は一般的に吸湿性であり、吸湿した水分量に応じて薬剤の使用量を変える必要がある。アルカリ金属炭酸塩の使用量は、乾燥したアルカリ金属炭酸塩の重量基準で、工程(c)で得られた洗浄処理物100重量部に対し100〜1000重量部、より好ましくは200〜800重量部である。
【0034】
工程(c)で得られた洗浄処理物にアルカリ金属炭酸塩を添加した後に行う熱処理は、不活性ガス雰囲気下500〜1000℃、より好ましくは600〜900℃、さらに好ましくは600〜800℃で、0.5〜20時間、より好ましくは1〜12時間、さらに好ましくは1〜6時間である。熱処理温度が低すぎると、賦活が進行せず適当な細孔を持つ活性炭が得られない。一方、熱処理温度が高すぎるとアルカリ金属炭酸塩が溶融し、装置を傷める原因となる。
【0035】
熱処理の温度が高い場合、工程(c)で得られた洗浄処理物によりアルカリ金属炭酸塩が還元され、アルカリ金属又はアルカリ金属酸化物が生成する恐れがある。そのため流通ガスには、不活性ガスと炭酸ガスとの混合ガスを用いてもよいが、炭酸ガスの濃度が高いと、工程(c)で得られた洗浄処理物と炭酸ガスが反応し、活性炭の収率が低下するばかりか、体積当たりの静電容量が低下する。賦活処理に炭酸ガスと不活性ガスの混合ガスを用いる場合、炭酸ガス濃度は、20体積%未満、好ましくは10体積%以下、さらに好ましくは5体積%以下である。
【0036】
賦活処理を行う装置は、特に限定するものではなく、炭素化処理工程で使用したものと同様の装置を使用することができ、例えばロータリーキルンやトンネルキルンを使用できる。
【0037】
このようにして得られた賦活処理物は、常温に冷却した後、例えば、蒸留水及び/又は塩酸水溶液により洗浄して賦活用の薬剤を除去し、十分に乾燥し、活性炭を得ることができる。洗浄及びそれ以後の工程については、水酸化カリウムを添加して賦活する際の洗浄方法と同様の方法(例えば、特開2004−315243号公報、特開2005−136397号公報)を用いることができる。
【0038】
以上のような工程を経て製造された活性炭は、賦活処理工程時の熱収縮によるマクロ孔の収縮と共にアルカリ金属炭酸塩による賦活によりミクロ孔が形成され、EDLC分極性電極用の活性炭として好適であり、ヤシガラ炭等の活性炭を用いた場合に比べて、静電容量の点でさらに性能を一段と高めた、特に体積当たりの静電容量の高いEDLCを得ることができる。また、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いないことから、安全に製造することができる。本願発明により製造される活性炭は、EDLC分極性電極のほか、リチウムイオンキャパシタの正極にも用いることができる。
また、EDLC分極性電極やリチウムイオンキャパシタの正極は公知の方法を用いて作製することができる(例えば、特開2005−136397号公報、
特開2006−286921号公報)。
【実施例】
【0039】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
実施例における各種測定は以下の方法で行った。
(BET比表面積測定)
カンタクローム社製QUADRASORB SIを用いて、活性炭のBET比表面積を測定した。
(分極性電極の製造法及び測定法)
活性炭:導電性助剤(カーボンブラック):結着剤(テフロン(登録商標))を重量比80:10:10で混合、混錬、圧延してシート状とし、2cmの有効電極面積に打ち抜き、厚さ150μmの電極を作製した。電極評価はアルミ製2極式セルを用い、一対の電極の間に紙製セパレータを挟みセルに収容した。電解液は日本カーリット(株)製のKKE−14DEを用いた。
【0040】
充放電試験は北斗電工(株)製(HJ0210msM8A)充放電装置を用い、アルゴンガス雰囲気中、室温下、100mA/gの定電流で電圧2.7Vまで充電し、さらに2.7Vで2時間充電を行った後、100mA/gの定電流で0Vまで放電し、放電された電気量から静電容量を算出した。静電容量は正負極両極中の炭素重量(活性炭及びカーボンブラック)を基準とし、下式に従って算出した。また、体積当たりの静電容量Cv(F/cc)は重量当たりの静電容量Cw(F/g)に電極の密度を乗ずることにより算出した。
(式)静電容量Cw(F/g)=放電電気量(AH/g)×3600/2.7
【0041】
実施例1
[活性炭の調製]
(a)湿式酸化処理
フッ化水素及び三フッ化ホウ素の共存下でナフタレンを重合して原料ピッチ(メトラー法軟化点:280℃)を合成した。ミルで粉砕した該原料ピッチ10gを500mLのセパラブルフラスコに、30%硝酸200mLと共に仕込んだ。湿式酸化処理は、パドル式の撹拌羽根を用い200rpmの回転数で撹拌しながら、窒素ガス流通下、ヒーター温度120℃で5時間の酸化処理を行った。得られた湿式酸化処理物を希アンモニア水で洗浄した後、pH値が約7となるまで蒸留水により洗浄した。洗浄後、乾燥することにより湿式酸化処理物を得た。
(b)炭素化処理
得られた湿式酸化処理物7gと水酸化マグネシウム28g(マグネシウム元素基準で該湿式酸化処理物との重量比1.7)をミキサーで混合し、ニッケル製のルツボに入れ、加熱炉内に入れた。加熱炉内を窒素ガスで置換して不活性雰囲気とした後、窒素ガスを毎分2L流通させながら、毎分5℃の昇温速度で400℃に加熱し、1時間保持した。その後、毎分5℃の昇温速度で600℃に加熱し、2時間保持した。その後、室温まで放冷し、加熱炉から炭素化処理物を取り出した。マグネシウム化合物類を含む炭素化物の収量は26.5gで、収率は76%であった。
(c)洗浄処理
得られた炭素化処理物からマグネシウム化合物類を除去するため、1mol/Lの塩酸水溶液で繰り返し酸洗浄した。この酸洗浄の後、pH値が約7になるまで蒸留水で洗浄、乾燥し洗浄処理物を得た。該洗浄処理物の収量は5.8gであった。
(d)賦活処理
カッターミルで平均粒径9μmに粉砕した洗浄処理物2gとミルで粉砕した炭酸カリウム8g(該洗浄処理物との重量比4)をミキサーで混合し、ニッケル製のルツボに入れ、加熱炉内に入れた。加熱炉内を窒素ガスで置換して不活性雰囲気とした後、窒素ガスを毎分2L流通下、毎分5℃の昇温速度で800℃に加熱し、3時間保持した。加熱終了後、室温まで放冷し、加熱炉から賦活処理物を取り出した。
該賦活処理物は含まれるカリウム化合物を除去するため、0.2mol/Lの塩酸水溶液で繰り返し洗浄した。酸洗浄後、pH値が約7になるまで蒸留水で洗浄し、80℃で予備乾燥後、150℃で減圧乾燥し活性炭を得た。
この活性炭の比表面積は、167m/gであった。該活性炭を電極評価したところ、重量当たり静電容量29.0F/g、体積当たり静電容量30.0F/cc、電極密度1.04g/ccと優れた値を示した。
【0042】
実施例2
炭素化処理の温度を800℃にした以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、243m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量30.1F/g、体積当たり静電容量30.2F/cc、電極密度1.00g/ccと優れた値を示した。
【0043】
実施例3
炭素化処理における水酸化マグネシウム量を7g(マグネシウム元素基準で該湿式酸化処理物との重量比0.4)とした以外は、実施例1と同様に行った。
活性炭の比表面積は、183m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量31.4F/g、体積当たり静電容量31.6F/cc、電極密度1.00g/ccと優れた値を示した。
【0044】
実施例4
炭素化処理における水酸化マグネシウム量を14g(マグネシウム元素基準で該湿式酸化処理物との重量比0.8)とした以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は121m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量32.4F/g、体積当たり静電容量32.8F/cc、電極密度1.01g/ccと優れた値を示した。
【0045】
実施例5
炭素化処理における水酸化マグネシウム量を32g(マグネシウム元素基準で該湿式酸化処理物との重量比3.3)とした以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は78m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量32.6F/g、体積当たり静電容量32.9F/cc、電極密度1.01g/ccと優れた値を示した。
【0046】
実施例6
賦活処理における炭酸カリウム量を4g(該洗浄処理物との重量比2)にした以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、122m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量25.3F/g、体積当たり静電容量25.8F/cc、電極密度1.02g/ccと優れた値を示した。
【0047】
実施例7
賦活処理における炭酸カリウム量を16g(該洗浄処理物との重量比8)にした以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、133m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量27.0F/g、体積当たり静電容量27.8F/cc、電極密度1.03g/ccと優れた値を示した。
【0048】
実施例8
炭素化処理における水酸化マグネシウムの代わりに酢酸マグネシウム4水和物を用い、マグネシウム元素基準で該湿式酸化処理物との重量比を2倍にした以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、233m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量27.9F/g、体積当たり静電容量28.8F/cc、電極密度1.04g/ccと優れた値を示した。
【0049】
実施例9
賦活処理における流通ガスを体積比で窒素ガス:炭酸ガス=95:5の混合ガスを毎分2L流通した以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、332m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量25.2F/g、体積当たり静電容量24.7F/cc、電極密度0.98g/ccと優れた値を示した。
【0050】
実施例10
炭素化処理物における水酸化マグネシウムの代わりに水酸化カルシウムを用い、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、327m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たりの静電容量33.6F/g、体積当たりの静電容量32.9F/cc、電極密度0.98g/ccと優れた値を示した。
【0051】
実施例11
炭素化処理物における水酸化マグネシウムの代わりに水酸化バリウム8水和物を用い、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、1023m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たりの静電容量34.7F/g、体積当たりの静電容量27.1F/cc、電極密度0.78g/ccと優れた値を示した。
【0052】
比較例1
湿式酸化処理を行わない以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、838m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量28.0F/g、体積当たり静電容量19.9F/cc、電極密度0.72g/ccであった。
【0053】
比較例2
実施例1に用いた粉砕した原料ピッチ10gを空気を流通させながら380℃で酸素架橋による粘度上昇により撹拌できなくなるまで混練撹拌し、空気酸化処理物を得た。湿式酸化処理物の代わりに該空気酸化処理物を用いる以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、689m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量33.1F/g、体積当たり静電容量23.1F/cc、電極密度0.70g/ccであった。
【0054】
比較例3
実施例1に用いた粉砕した原料ピッチ5gを窒素ガス流通下、小型管状炉で700℃、2時間加熱し、炭素化処理した。実施例1と同様に該炭素化処理物を粉砕、炭酸カリウムを用いた賦活処理を行った後、洗浄して活性炭を得た。
得られた活性炭の比表面積は、9m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量25.6F/g、体積当たり静電容量17.0F/cc、電極密度1.09g/ccであった。
【0055】
比較例4
洗浄処理を行わない以外は、実施例1と同様に行った。賦活処理における賦活用薬剤の量は、マグネシウム化合物類を含む炭素化物8.6g(マグネシウム化合物類を含まない炭素化物2gに相当する。)に対し炭酸カリウム8gを用いた。
得られた活性炭の比表面積は、32m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量15.1F/g、体積当たり静電容量17.0F/cc、電極密度1.12g/ccであった。
【0056】
比較例5
賦活処理における炭酸カリウム量を1g(該洗浄処理物との重量比0.5)にした以外は、実施例1と同様に行った。
得られた活性炭の比表面積は、36m/gであった。該活性炭を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量3.3F/g、体積当たり静電容量4.0F/cc、電極密度1.21g/ccであった。
【0057】
比較例6
実施例1で得られた洗浄処理物を用いて、賦活処理を行わずに分極性電極を作製した以外は、実施例1と同様に行った。
該洗浄処理物の比表面積は、39m/gであった。該洗浄処理物を実施例1と同様に電極評価したところ、重量当たり静電容量3.2F/g、体積当たり静電容量3.3F/cc、電極密度1.03g/ccであった。
【0058】
比較例7
実施例9の賦活処理における流通ガスを体積比で窒素ガス:炭酸ガス=80:20にした以外は、実施例9と同様に行ったところ、炭酸ガスと洗浄処理物との反応が起こり賦活処理後、活性炭が得られなかった。
【0059】
実施例1〜11及び比較例1〜7における処理条件を表1にまとめて示す。また比表面積及び電気化学特性の評価結果をまとめて表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
つぎの工程(a)〜(d)を含む電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
(a)原料ピッチを湿式酸化処理する工程、
(b)工程(a)で得られる湿式酸化処理物をアルカリ土類金属化合物の存在下で熱処理することによって炭素化処理する工程、
(c)工程(b)で得られる炭素化処理物を酸洗浄する工程、
(d)工程(c)で得られる洗浄処理物にアルカリ金属炭酸塩を添加し、熱処理することによって賦活処理する工程。
【請求項2】
前記原料ピッチが、縮合多環炭化水素をフッ化水素及び三フッ化ホウ素の共存下で重合させて得られるものである請求項1記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)において、硝酸及び硫酸から選択される少なくとも1種を用いて湿式酸化処理する請求項1又は2記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)において、アルカリ土類金属化合物の添加量が、アルカリ土類金属元素基準で、前記湿式酸化処理物100重量部に対し、40〜800重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)において、アルカリ土類金属化合物が、マグネシウム化合物、カルシウム化合物及びバリウム化合物から選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
【請求項6】
前記工程(d)において、アルカリ金属炭酸塩の添加量が、前記洗浄処理物100重量部に対し、100〜1000重量部である請求項1〜5のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ電極用活性炭の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって得られる電気二重層キャパシタ電極用活性炭。
【請求項8】
請求項7記載の活性炭を用いた電気二重層キャパシタ電極。

【公開番号】特開2012−9474(P2012−9474A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141275(P2010−141275)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】