説明

電気光学装置、その駆動方法および電子機器

【課題】液晶への直流成分の印加を抑える。
【解決手段】コモン信号Vcomは信号配線109を介してコモン電極108に印加される。信号配線109に流れる電流は負荷抵抗Raによって電圧aに変換される。検出配線159は、信号配線109とは非接触で近接して配設され、周辺に発生したノイズが、検出抵抗Rbによって電圧bとして検出される。オペアンプ43は、信号配線109に流れる電流を示す電圧aから、検出配線159で誘起された電圧bを差し引いて、ノイズをキャンセルした差分信号Defを出力する。電圧制御回路24は、差分信号Defによって正極性書込および負極性書込において液晶105に流れた電流をそれぞれ求めて、両者電流が等しくなる方向に、コモン信号Vcomの電圧を操作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる電気光学装置の焼き付き等を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のような電気光学装置に用いられる液晶素子は、画素電極およびコモン電極で液晶を挟持する構成となっている。このような構成において液晶に直流成分が印加されると、液晶が劣化して、過去に表示した画像が残像となって現れる。液晶への直流成分の印加による残像現象は、CRTにおいて同一画像を長期間にわたって表示して蛍光面が焼き付いたときの現象と似ていることから、同様に焼き付きと呼ばれることが多い。
液晶に直流成分が印加されるのを防止するため、画素電極に印加する電圧を、コモン電極に対して高位側の正極性電圧と低位側の負極性電圧とで交互に切り替える交流駆動が行われる。ただし、交流駆動するだけでは、液晶に直流成分が印加される場合があるので、フリッカーが最小となるように、すなわち、正極性電圧の印加による透過率(明るさ)と負極性電圧の印加による透過率との差が最小となるように、コモン電極を補正電位に設定して、画素電極をスイッチングするトランジスタがオフする瞬間に発生する電圧変動などを含めて補償する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−189460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、フリッカーが最小となるようにコモン電極を補正電位に設定しただけでは、液晶素子への直流成分の印加を回避できない場合があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、液晶への直流成分の印加を、より正確に抑えることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係る電気光学装置にあっては、N本の走査線と複数のデータ線と、該走査線と該データ線との交点に応じて設けられた液晶素子と、を備えた表示パネルを有する電気光学装置であって、前記液晶素子は画素電極とコモン電極とを含み、予め定められた基準電圧に対して高位側の正極性駆動電圧と前記基準電圧に対して低位側の負極性駆動電圧とを、前記液晶素子の各々に時間的に交互に印加する駆動回路と、前記コモン電極にコモン信号を供給するための信号配線と、前記信号配線とは非接触であって、前記信号配線に近接して配設された検出配線と、前記信号配線に流れる電流を示す電圧から、前記検出配線で誘起された電圧を差し引いた差分電圧を算出する差分算出回路と、N本の前記走査線のうち予め定められたs行目(sは1以上N以下の整数)の走査線に対応する予め定められた液晶素子に前記正極性駆動電圧が印加されている期間内の少なくとも一部の第1期間に前記表示パネルに流れる第1電流を前記差分電圧に基づいて求め、当該液晶素子に前記負極性駆動電圧が印加されている期間内の少なくとも一部の第2期間に前記表示パネルに流れる第2電流を前記差分電圧に基づいて求め、さらに、前記第1電流の積算値と前記第2電流の積算値との和が予め定められた値以下になるように、前記正極性駆動電圧と前記負極性駆動電圧とを制御する制御回路と、を具備することを特徴とする。液晶素子に流れる電流は、微小である等の理由により、直接的に検出することは困難である。このため、コモン信号が供給される信号配線に流れる電流を電圧に変換して、この電圧から、液晶素子に流れる電流を間接的に求める手法が考えられる。ただし、この手法では、電流を示す電圧が、ノイズによる影響を受けやすく、誤差を伴いやすい。本発明では、信号配線に流れる電流を示す電圧から、検出配線で誘起された電圧をノイズ成分として差し引くので、ノイズの影響がキャンセルされる。これにより、液晶素子に流れる微小電流を反映した電圧を、精度良く求めることができるので、液晶への直流成分の印加を、より正確に回避することが可能となる。なお、液晶素子に印加される電圧の実効値を制御する態様としては、コモン電極の電位を増減させる態様や、液晶素子における電圧の保持期間を変更する態様などが考えられる。
【0005】
本発明において、前記差分算出回路は、前記信号配線に介挿された負荷抵抗の端子間電圧から、前記検出配線に介挿された検出抵抗の端子間電圧を差し引く構成としても良い。この構成によれば、簡易な構成によってノイズを検出することができる。
本発明において、前記検出配線には、インダクタが介挿された構成としても良い。この構成によって、検出配線の特性を、コモン信号を供給する信号配線の特性に揃えることができるので、より正確に、ノイズを検出することができる。
本発明において、前記差分算出回路は、前記負荷抵抗の端子間電圧を増幅する第1増幅回路と、前記検出抵抗の端子間電圧を増幅する第2増幅回路と、を有し、前記第1増幅回路の出力電圧から、前記第2増幅回路の出力電圧を差し引いて前記差分電圧を求める構成としても良い。この構成によれば、電圧増幅を経て、差分電圧が求められるので、ノイズの影響をさらに受けにくくすることできる。なお、差分電圧を求める態様としては、第1増幅回路による出力電圧から第2増幅回路による出力電圧を第3増幅回路によって減算して求める態様や、第1増幅回路による出力電圧をデジタル変換した値から、第2増幅回路による出力電圧をデジタル変換した値を減算回路によって減算して求める態様などが考えられる。
本発明において、前記差分算出回路は、予め定められた関数の電圧信号を、前記検出配線で誘起された電圧に基づいて生成する信号生成回路を有し、前記信号配線に流れる電流を示す電圧から、前記電圧信号を差し引く構成としても良い。検出配線で誘起された電圧の波形が、なんらかの理由によって、予想されるノイズ波形からかけ離れているときでも、有効にノイズをキャンセルすることができる。
本発明において、前記第1期間は、前記予め定められた液晶素子に前記正極性駆動電圧が印加されてから前記負極性駆動電圧が印加されるまでの期間であり、前記第2期間は、前記予め定められた液晶素子に前記負極性駆動電圧が印加されてから前記正極性駆動電圧が印加されるまでの期間であることが好ましい。また、前記第1期間と前記第2期間は互いに連続していても良い。
本発明において、前記駆動回路は、第1のフレーム期間において全ての前記画素に対する駆動電圧として前記正極性駆動電圧を指定し、第2のフレーム期間において全ての前記画素に対する駆動電圧として前記負極性駆動電圧を指定し、前記sは1であり、前記第1期間は、前記予め定められた液晶素子に前記正極性駆動電圧が印加された後、第1の所定の時間が経過してから第2の所定の時間が経過するまでの期間であり、前記第2期間は、前記予め定められた液晶素子に前記負極性駆動電圧が印加された後、第1の所定の時間が経過してから第2の所定の時間が経過するまでの期間としても良い。
また、本発明において、前記第1期間は、前記予め定められた液晶素子に前記正極性駆動電圧が印加されてから、s+t(tは1以上且つN−1以下の整数)行目(s+tがNを超える場合にはs+t−N)の走査線が選択されるまでの期間であり、前記第2期間は、前記予め定められた液晶素子に前記負極性駆動電圧が印加されてから、s+t(tは1以上且つN−1以下の整数)行目(s+tがNを超える場合にはs+t−N)の走査線が選択されるまでの期間としても良い。
前記第2期間は、前記第1期間の終了後に続くフレーム期間に属することが好ましい。
なお、本発明は、電気光学装置のみならず、電気光学装置の駆動方法や、当該電気光学装置を有する電子機器としても概念することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1は、実施形態に係る電気光学装置の構成を示すブロック図である。
この図に示されるように、電気光学装置10は、制御回路20、データ信号変換回路30、A/D変換回路50、表示パネル100、Yドライバ130、Xドライバ140、オペアンプ41〜43およびオペアンプ周辺回路などを有する。
【0007】
ここで、説明の便宜上、表示パネル100の構成について説明すると、素子基板100aと対向基板100bとを一定の間隙を保って貼り合わせるとともに、この間隙に液晶105を封入した構成となっている。
素子基板100aのうち、対向基板100bとの対向面には、768行の走査線112が図において横方向に延在し、また、1024列のデータ線114が図において縦方向に延在し、かつ、各走査線112と互いに電気的に絶縁を保つように設けられる。なお、走査線112を区別するために、以下の説明では図において上から順に1、2、3、…、768行目という呼び方をする場合がある。同様に、データ線114を区別するために、図において左から順に1、2、3、…、1024列目という呼び方をする場合がある。
【0008】
走査線112とデータ線114との交差のそれぞれに対応して、nチャネル型のTFT116と矩形形状で透明性を有する画素電極118との組が設けられている。TFT116のゲート電極は走査線112に接続され、ソース電極はデータ線114に接続され、ドレイン電極が画素電極118に接続されている。
一方、対向基板100bのうち、素子基板100aとの対向面の全面には、透明性を有するコモン電極108が設けられている。
【0009】
したがって、表示パネル100における等価回路は、図2に示される通りとなり、走査線112とデータ線114との交差に対応して、画素電極118とコモン電極108とで液晶を挟持する液晶素子120が設けられることになる。
この液晶素子120では、画素電極118およびコモン電極108の間で電圧が保持されるとともに、両電極間で生じる電界に応じて液晶105の分子配向状態が変化する。このため、液晶素子120は、透過型であれば、保持した電圧実効値に応じた透過率となる。表示パネル100では、液晶素子120毎に透過率が変化するので、これが表示パネルにおける画素となる。
【0010】
ここで、選択した走査線112に選択電圧を印加させるとともに、選択した走査線112に対応する液晶素子120に対して、目的とする階調に応じた電圧のデータ信号を、データ線114を介して供給すると、選択走査線におけるTFT116がオン状態となり、当該データ信号が、オン状態のTFT116を介して画素電極118に印加されるので、液晶素子120に対し、階調に応じた電圧を印加・保持させて、階調に応じた透過率とさせることができる。
走査線に非選択電圧を印加して、TFT116をオフ状態とさせても、TFT116がオン状態のときに液晶素子120に書き込まれた電圧は、その容量性によりに保持される。
【0011】
なお、液晶105に直流成分が印加されるのを防止するため、データ信号は、ビデオ振幅中心電圧(基準電圧)Vcに対して高位側の正極性電圧と低位側の負極性電圧とにフレーム期間毎に交互に切り替えられる。
ここで、フレーム期間とは、表示パネルを駆動することによって、画像の1コマ分を表示させるのに要する期間をいい、垂直走査周波数が60Hzであれば、その逆数である16.7ミリ秒である。なお、電圧については、液晶素子において印加・保持される電圧を除き、図示省略した電源の接地電位を電圧ゼロの基準としている。
1フレーム期間において画素の書込極性を空間的にどのような配列させるかについては、本実施形態では、同一フレーム期間にわたって全画素に対し同一の書込極性が指定されるとともに、書込極性がフレーム期間毎に反転するような面反転方式を用いている。面反転方式の他にも、走査線毎に反転させる行反転方式、データ線毎に反転させる列反転方式、走査線およびデータ線方向に対して隣り合う画素毎に反転させる画素反転方式などあるが、本発明はいずれの反転方式にも適用可能である。
【0012】
データ信号変換回路30は、図示省略した上位装置から供給されるデジタルの映像信号Vidを、基準電圧Vcに対して信号Frpにより指定される極性のアナログのデータ信号dsに変換して出力するものである。ここで、上記上位装置から供給される映像信号Vidは、表示パネル100の各画素について明るさ(階調)をそれぞれ指定するデジタルデータであり、垂直同期信号Vsync、水平同期信号Hsyncおよびドットクロック信号Dckにしたがった走査の順で画素毎に供給される。
【0013】
制御回路20は、タイミング制御回路22および電圧制御回路24に分けられ、このうち、タイミング制御回路22は、上位装置から供給される垂直同期信号Vsync、水平同期信号Hsync、ドットクロック信号Dckに基づいて各部を制御する。詳細には、タイミング制御回路22は、Yドライバ130に対して、垂直同期信号Vsyncによって規定される垂直走査期間(フレーム期間)の開始タイミングにスタートパルスDyを出力するとともに、水平同期信号Hsyncの供給周期で規定される水平走査期間の2倍の周期を有するクロック信号Clyを出力する一方、Xドライバ140に対して、水平走査期間の開始タイミングにスタートパルスDxを出力するとともに、ドットクロック信号Dckの供給周期に応じた周期のクロック信号Clxを出力する。
また、タイミング制御回路22は、信号Frpによってデータ信号変換回路30に対し書込極性を指定する。上述したように本実施形態では、面反転方式としているので、信号Frpは、図3に示されるようにフレーム期間毎に極性反転する。なお、信号Frpは、Hレベルであるときに正極性書込を指定し、Lレベルであるときに負極性書込を指定するものとする。
【0014】
電圧制御回路24は、本実施形態にあっては、データ信号変換回路30に対して後述するように、A/D変換回路50から出力されたデジタル値に応じてコモン電極108に印加するコモン信号Vcomの電圧を操作する。
コモン信号Vcomは、信号配線109を介してコモン電極108に供給され、信号配線109には負荷抵抗Raが介挿されている。
このため、負荷抵抗Raの両端には、信号配線109に流れた電流に、すなわち、768行1024列の液晶素子120に流れた電流の総和に、負荷抵抗Raの抵抗値を乗じた電圧aが現れる。ただし、負荷抵抗Raの両端電圧aには、実際には信号配線109の寄生インダクタンス成分によって誘起されるノイズ成分も含まれる。
【0015】
Yドライバ130は、1行目の画素に対応する映像信号Vidが供給される水平走査期間において走査信号G1をHレベルとし、同様に2、3、4、…、768行目の画素に対応する映像信号Vidが供給される水平走査期間において走査信号G2、G3、G4、…、G768を順次Hレベルとする走査線駆動回路である。詳細には、Yドライバ130は、図3に示されるように、スタートパルスDyをクロック信号Clyにしたがって順次シフトさせるとともに、パルス幅をクロック信号Clyの半周期に狭めた走査信号G1、G2、G3、G4、…、G768を、1、2、3、4、…、768行目の走査線112に供給する構成となっている。
なお、走査信号のHレベルは、TFT116をオン(導通)状態とさせる選択電圧VHであり、走査信号のLレベルは、TFT116をオフ(非導通)状態とさせる非選択電圧VLである。
【0016】
Xドライバ140は、走査信号がHレベルとなっている行であって1〜1024列目の画素に対応するデータ信号dsを、それぞれ1〜1024列目のデータ線114にサンプリングするデータ線駆動回路である。Xドライバ140の詳細については省略するが、スタートパルスDxをクロック信号Clxにしたがって順次シフトさせるとともに、パルス幅をクロック信号Clxの半周期に狭めたサンプリング信号を1、2、3、…、1024列目に対応して出力し、データ信号変換回路30によって変換されたデータ信号dsを、当該サンプリング信号にしたがってそれぞれデータ線114にサンプリングする構成となっている。
なお、1、2、3、…、1024列目のデータ線114にサンプリングされるデータ信号を、図1において、それぞれd1、d2、d3、…、d1024と表記している。
【0017】
検出配線159は、コモン電極108にコモン信号Vcomを供給する信号配線109に近接(隣接)して配設される。本実施形態において、検出配線159の一端は、信号配線109に介挿された負荷抵抗Raよりも上流側(電圧制御回路24側)に接続される一方、検出配線159の他端は、オープン状態となっている。また、検出配線159には、検出抵抗RbおよびインダクタLが直列に介挿されている。
このため、検出配線159には、電流が定常的には流れないが、周辺に電磁ノイズが発生すると、インダクタLおよび寄生インダクタンス成分によって起電力が誘起されるために、当該起電力に応じた電流が過渡的に流れて、当該電流に検出抵抗Rbの抵抗値を乗じた電圧bが現れる。なお、このインダクタLは、検出配線159におけるインダクタンス成分を、信号配線109における寄生インダクンス成分に近づけるために設けられるので、検出配線159における素のインダクタンス成分が、信号配線109における寄生インダクンス成分と同等であれば、設ける必要はない。
また、検出配線159には電流が定常的に流れなければよいので、他端はオープン状態でなく、例えば一端に接続してループさせても良い。
【0018】
オペアンプ41は、抵抗R11〜R14で定まる電圧増幅率で電圧aを増幅して出力し、オペアンプ42は、抵抗R21〜R24で定まる電圧増幅率で電圧bを増幅して出力する。差分算出回路として機能するオペアンプ43は、オペアンプ41による出力信号からオペアンプ42による出力信号を差し引いた信号を、抵抗R31〜R34で定まる電圧増幅率で増幅して差分信号Defとして出力するものである。
【0019】
ここで、負荷抵抗Raで検出される電圧aは、液晶素子120に流れる電流を変換した電圧と信号配線109に重畳されたノイズ成分との双方を含むので、例えば図5に示されるような波形となる。一方、検出抵抗Rbで検出される電圧bは、同図に示されるように、信号配線109を模擬した検出配線159に重畳されたノイズ成分だけを含むものである。
検出配線159は、信号配線109に近接して配置され、かつ、その配線抵抗もインダクタンス成分も同値となるように設計されているので、検出配線159で検出されたノイズは、信号配線109に重畳されるノイズとほぼ等しいと考えられる。
このため、液晶素子120に流れる電流を変換した電圧と信号配線109に重畳されたノイズ成分との双方を含む電圧aから、ノイズ成分だけを含む電圧bを減算すると、ノイズ成分がキャンセルされるので、差分信号Defは、液晶素子120に流れる電流を精度良く反映させた電圧波形になる。
もちろん、検出される電圧a、bの振幅は、配線の相違によって異なる場合もあるが、オペアンプ43への入力時には揃うように、抵抗R11〜R14、R21〜R24の抵抗値が適切に設定される。
A/D変換回路50は、差分信号Defをデジタル信号に変換して電圧制御回路24に供給するものである。
【0020】
次に、実施形態に係る電気光学装置10の表示のための書込動作について説明する。上位装置からは、映像信号Vidが、1行1列〜1行1024列、2行1列〜2行1024列、3行1列〜3行1024列、…、768行1列〜768行1024列の画素の順番で各フレーム期間にわたって供給される。
ここで、正極性書込が指定される奇数nフレーム期間において、1行1列〜1行1024列の映像信号Vidが供給される水平走査期間では、当該映像信号Vidがデータ信号変換回路30によって正極性のデータ信号dsに変換されるとともに、当該データ信号dsがXドライバ140によって1、2、3、…、1024列目のデータ線114にデータ信号d1、d2、d3、…、d1024としてサンプリングされる。一方、Yドライバ130によって走査信号G1だけがHレベルとなるので、1行目のTFT116がオン状態となる。これにより、データ線114にサンプリングされたデータ信号は、オン状態にあるTFT116を介して画素電極118に印加されるので、1行1列〜1行1024列の液晶素子には、それぞれ階調に応じた正極性駆動電圧が書き込まれることになる。
次に、2行1列〜2行1024列の映像信号Vidが供給される水平走査期間では、同様にして、当該映像信号Vidが正極性のデータ信号dsに変換されるとともに、当該データ信号dsがデータ線114にサンプリングされる。一方、走査信号G2だけがHレベルとなるので、2行目のTFT116がオン状態となる。これにより、データ線114にサンプリングされたデータ信号が、画素電極118に印加されるので、2行1列〜2行1024列の液晶素子には、それぞれ階調に応じた正極性駆動電圧が書き込まれることになる。以下同様な書込動作が3、4、…、768行目に対して実行される。
次の偶数(n+1)フレーム期間においては、信号Frpの反転により、映像信号Vidが負極性のデータ信号dsに変換される以外、同様な書込動作が実行される。これにより、各液晶素子には、それぞれ階調に応じた負極性駆動電圧が書き込まれることになる。
このような電圧書込によって、表示パネル100では、映像信号Vidに応じた画像が表示される。
【0021】
ところで、TFT116では、オフした瞬間にドレイン電極、すなわち画素電極118の電圧を変動させるフィールドスルー(プッシュダウン、突き抜け)が発生する。また、素子基板100aと対向基板100bとでは特性差が存在する。
ここで、コモン電極108に印加する電圧を、正負振幅の基準電圧Vcに一致させると、液晶素子における電圧実効値は、フィールドスルーや特性差のために、負極性の方が正極性よりも大きくなってしまう(TFT116がnチャネル型の場合)。このため、コモン電極108に印加する電圧については、基準電圧Vcよりも若干低位側にオフセットするとともに、オフセット量については、上述したようにフリッカーが最小となるように調整されるが、フリッカーが最小となるように調整しただけでは、必ずしも液晶に直流成分が印加されるのを回避できない場合があるのは、上述した通りである。
なお、液晶素子における電圧実効値とは、走査線の選択によりTFT116がオン状態となって、データ信号が画素電極118に印加されてから16.7ミリ秒だけ経過して再びTFT116がオンするまでの期間にわたって、画素電極118およびコモン電極108の間で保持される電圧の実効値をいう。
【0022】
そこで次に、本実施形態に係る電気光学装置10において、液晶素子における電圧実効値を正・負極性とで均衡させる動作について説明する。この均衡動作は、主に電圧制御回路24によって行われる。図4は、この均衡動作を示すフローチャートである。
この均衡動作は、上記映像信号Vidに基づく電圧書込において、例えば10フレーム期間に1回の割合で実行される。また、この均衡動作に要する期間は、奇数フレーム期間と続く偶数フレーム期間との2フレーム期間である。したがって、この均衡動作が、例えば奇数nフレーム期間と偶数(n+1)フレーム期間とにわたって実行されたとき、次の均衡動作は、奇数(n+10)フレーム期間と偶数(n+11)フレーム期間とにわたって実行される。
【0023】
まず、この均衡動作が実行される奇数フレーム期間においては正極性書込が指定されて、液晶素子120に階調に応じた正極性駆動電圧が書き込まれる(ステップS1)。当該奇数フレーム期間の垂直帰線期間Fbにおいて、すべての液晶素子120は、画素電極118に印加されたデータ信号の電圧と、コモン電極108に印加されたコモン信号Vcomの電圧との差分電圧を保持しているので、コモン信号Vcomを供給する信号配線109に流れる電流は、正極性駆動電圧を保持している個々の液晶素子120に流れる電流を総和したものとなる。信号配線109には、この総和電流のほか、上述したようにノイズも同時に重畳されるものの、オペアンプ43が、信号配線109における負荷抵抗Raで検出した電圧aから、検出配線159の検出抵抗Rbにより検出した電圧bを減算して、ノイズ成分をキャンセルしているので、差分信号Defの電圧は、液晶素子120に流れる総和電流を精度良く反映したものとなる。
電圧制御回路24は、差分信号Defのデジタル値から、正極性駆動電圧を印加・保持しているときに流れた電流を奇数フレーム期間の垂直帰線期間Fbにわたって積算して、記録する(ステップS2、S3)。本実施形態では、奇数フレーム期間の垂直帰線期間Fbを、すなわち、正極性駆動電圧を印加・保持しているときに流れた電流の積算期間を、第1期間とする。
【0024】
奇数フレーム期間に続く偶数フレーム期間では負極性書込が指定されて、液晶素子120に階調に応じた負極性駆動電圧が書き込まれる(ステップS4)。当該偶数フレーム期間の垂直帰線期間Fbにおいて、コモン信号Vcomを供給する信号配線109に流れる電流は、負極性駆動電圧を保持している個々の液晶素子120に流れる電流を総和したものとなる。
電圧制御回路24は、差分信号Defのデジタル値から、負極性駆動電圧を印加・保持しているときに流れた電流を偶数フレーム期間の垂直帰線期間Fbにわたって積算して、記録する(ステップS5、S6)。ここで、偶数フレーム期間の垂直帰線期間Fbを、すなわち、負極性駆動電圧を印加・保持しているときに流れた電流の積算期間を、第2期間とする。
【0025】
なお、差分信号Defの電圧は、液晶素子120に流れる総和電流を精度良く反映してはいるが、電流ゼロに相当する電圧V0(図5参照)が事前に判明していないと、正極性および負極性駆動電圧を印加・保持しているときに流れた電流を求めることができない。このため、本実施形態では、例えば電源投入直後であって液晶素子を駆動する前に、電流が流れない状態に液晶素子をセットして、この状態における差分信号Defの電圧をV0として記憶している。電流積算時では、差分信号Defの電圧から電圧V0を減算し、この減算値を積算することによって、正極性および負極性駆動電圧を印加・保持しているときに液晶素子に流れた電流の積算値として扱うことができる。
【0026】
次に、電圧制御回路24は、第1期間で記録した積算値(正値)と第2期間で記録した積算値(負値)との和がゼロか否か、または、これらの和が予め定められた閾値以内であるか否かを判別する(ステップS7)。この閾値は、電流検出の頻度に応じて決定される。本実施形態のように、リアルタイムに高い頻度で電流を検出する場合には、比較的大きい値であっても表示に影響することはない。一方で、後述するように、電源投入直後に1回だけ電流を検出する場合には、長時間にわたって焼き付きが発生しないように、閾値を小さく設定する、すなわち、積算値の差を限りなくゼロに近い値に設定する、ことが好ましい。
ステップS7の判別結果が「Yes」であれば、正極性書込が指定された奇数フレーム期間のうち、第1期間にわたって液晶素子に流れた電流の積算値と、負極性書込が指定された偶数フレーム期間のうち、第2期間にわたって液晶素子に流れた電流の積算値との和が予め定められた閾値以内であること、すなわち、正極性の電圧実効値と負極性の電圧実効値とが略等しいことを意味し、これは、コモン信号Vcomの電圧が現状の状態(電流検出時の状態)で適性であることを示している。
したがって、電圧制御回路24は、なんら電圧操作する必要がないので、以降、次回の電流検出まで動作を終了する。
【0027】
一方、ステップS7の判別結果が「No」であれば、電圧制御回路24は、第1期間で記録した積算値が偶数フレーム期間で記録した積算値よりも絶対値でみたときに大きいか否かを判別する(ステップS8)。
ステップS8の判別結果が「Yes」であれば、正極性の電圧実効値が負極性の電圧実効値よりも大きかったことを意味する。そこで以後、正極性書込が指定されたときに液晶素子に印加・保持される電圧実効値を小さくするために、電圧制御回路24は、コモン電圧Vcomの電圧を、予め定められたステップ電圧ΔVだけ上昇させる(ステップS9)。
【0028】
ステップS8の判別結果が「No」であれば、正極性の電圧実効値が負極性の電圧実効値よりも小さかったことを意味する。そこで以後、液晶素子における正極性の電圧実効値を大きくするために、電圧制御回路24は、コモン電圧Vcomの電圧を、予め定められたステップ電圧ΔVだけ下降させる(ステップS10)。
電圧制御回路24は、ステップS9またはS10においてコモン信号Vcomの電圧を操作した後、以降、次回の電流検出まで動作を終了する。
【0029】
ところで、電圧をΔVだけ上昇または下降させただけでは、液晶素子における電圧実効値が正極性と負極性とで略同一になる、とは限らない。ただし、図4の動作が繰り返されると、やがてステップS7における判別結果が「Yes」となるので、この時点で、液晶素子における電圧実効値が正極性と負極性とで均衡することになる。
例えば、図6に示されるように、奇数nフレーム期間における正極性電流積算値の絶対値が、次の偶数(n+1)フレーム期間における負極性電流積算値の絶対値よりも小さい場合、コモン信号Vcomが電圧ΔVだけ下降するが、次回の電流検出される奇数(n+10)フレーム期間における正極性電流積算値の絶対値が、次の偶数(n+11)フレーム期間における負極性電流積算値の絶対値よりも小さくなる状態があり得る。ただし、何回か繰り返すうちに、図では次の次で電流検出される奇数(n+21)フレーム期間における正極性電流積算値の絶対値が偶数(n+22)フレーム期間における負極性電流積算値の絶対値と一致し、電圧操作が停止するので、この時点で、液晶素子における電圧実効値が正極性と負極性とで均衡して、直流成分の印加が抑えられることになる。
また、なんらかの理由によって、液晶素子における電圧実効値が正極性と負極性とで均衡した状態が再び崩れたとしても、ステップS8またはS9が1回以上繰り返される。このため、直流成分の印加は、再度抑えられることになる。
【0030】
このように本実施形態によれば、液晶素子(液晶)に流れる電流を電圧に変換して検出する際に、ノイズ成分をキャンセルしているので、液晶素子に流れる電流を精度良く推定することができる。このため、フィールドスルーや基板特性差が存在しても、液晶素子における正極性・負極性の電圧実効値を精度良く均衡させて、直流成分の印加を抑えることが可能となる。本実施形態では、このように均衡させる際に、フリッカーを測定する必要もない。
【0031】
なお、実施形態では、正極性書込が指定される奇数フレーム期間の垂直帰線期間Fbを第1期間とし、負極性書込が指定される偶数フレーム期間の垂直帰線期間Fbを第2期間としたが、これは、面反転方式において、すべての液晶素子に保持される電圧の極性が揃うためである。ただし、電流積算期間については、垂直帰線期間Fbに限られず、正極性・負極性フレーム期間とで電流積算期間が同じであれば、例えば、正極性・負極性フレーム期間とで走査線の走査期間が同一であれば、それ以外の期間であっても良い。
【0032】
また、電流積算期間は、垂直同期信号Vsyncで規定されるフレーム期間の全域であっても良い。電流積算期間をフレーム期間の全域とする場合、電流積算期間の開始点は任意であり、1つの電流積算期間が2つの連続するフレーム期間に跨っていてもよい。
電流を積算する第1期間と第2期間とは、それぞれ連続している2つのフレーム期間に設定した方が好ましい。このように設定すれば、2つのフレーム期間においてそれぞれ印加・保持される正極性駆動電圧および負極性駆動電圧とが互いに同じ映像信号に対応することになる。このため、第1期間と第2期間とで、同じ映像信号に対応する駆動電圧を保持しているときの電流をそれぞれ積算することになるので、電流の極性差を高い精度で評価することが可能となり、液晶への直流成分の印加を、より正確に抑えることが可能となる。
【0033】
なお、電流積算期間をフレーム期間の全域とする場合、奇数フレーム期間であれば、1行目の液晶素子は、ほぼ期間全域にわたって正極性駆動電圧を保持するが、下方の行に向かうにつれて負極性駆動電圧を保持する期間が長くなり、768行目の液晶素子は、ほぼ期間全域にわたって負極性駆動電圧を保持することになる。すなわち、表示パネルでは、奇数フレーム期間でいえば、下方の行に向かうにつれて液晶素子の正極性保持期間が短くなり、負極性保持期間が長くなる。したがって、表示パネルに流れる電流を奇数フレーム期間にわたって積算した値は、正極性駆動電圧を保持する液晶素子と負極性駆動電圧を保持する液晶素子とを、ある比率で混在させたときに流れる電流の積算値を意味し、正極性駆動電圧のみを保持したときに液晶素子に流れる電流を意味しないことになる。
ただし、偶数フレーム期間では、電圧の極性が逆転して、下方の行に向かうにつれて負極性保持期間が短くなり、正極性保持期間が長くなるので、表示パネルを流れる電流を偶数フレーム期間にわたって積算した値は、正極性駆動電圧を保持する液晶素子と負極性駆動電圧を保持する液晶素子とを、上記比率を逆転させた関係で混在させたときに流れる電流の積算値を意味することになる。
このため、仮に液晶素子における電圧実効値が正極性と負極性とで均衡しているのであれば、奇数フレーム期間にわたって積算した表示パネルに流れる電流の積算値と、偶数フレーム期間にわたって積算した表示パネルに流れる電流の積算値との和は略ゼロになるので、上記実施形態と同様にして、直流成分の印加を抑えることが可能となる。
【0034】
電流積算期間をフレーム期間の全域としたときに、実際には、フレーム開始時にデータ信号の極性が反転することに伴って、大きなスイッチングノイズが重畳される可能性がある。本実施形態では、ノイズ成分をキャンセルするものではあるが、予め大きなノイズの発生時期が判明しているのであれば、その発生時期を避けて電流(電圧)を検出・積算するのが望ましいといえる。このため、電流積算期間については、例えばフレーム期間の10%から90%までの期間のように、フレーム期間の一部に制限しても良い。このようにすれば、電流の極性差をより高い精度で評価することが可能になり、液晶への直流成分の印加を、より正確に抑えることが可能となる。
また、フレーム期間の一部に制限するにしても、全画面を書き込む期間である必要はなく、画面の一部を書き込む期間であっても良い。このようにすれば、信号処理の負荷を低減しつつ、液晶への直流成分の印加を、より正確に抑えることが可能となる。
【0035】
また、表示用とは別に電流検出用の表示素子を設けるとともに、当該電流検出用の表示素子を表示用の液晶素子と同条件で駆動して、そのときに流れる電流(電圧)を検出するようにしても良い。
【0036】
行反転駆動の場合には、例えば、奇数フレーム期間において奇数行に対し正極性書込が指定され、偶数行に対し負極性書込が指定されるとともに、当該奇数フレーム期間に続く偶数フレームにおいて奇数行に対し負極性書込が指定され、偶数行に対し正極性書込が指定される行反転駆動の場合に、奇数フレームで電流を積算する第1期間と偶数フレームで電流を積算する第2期間とを、同一の走査線範囲の走査期間とすれば、電流の極性差をより正しく評価することが可能となり、液晶への直流成分の印加を、より正確に抑えることが可能となる。
例えば図7に示されるように、奇数フレーム期間において電流を積算する第1期間を、193行目から576行目までの384行の走査線が走査される期間とし、偶数フレーム期間において電流を積算する第2期間を、同じく193行目から576行目までの384行の走査線が走査される期間とすれば、第1期間において正極性書込が指定される奇数行の走査線数「192」と第2期間において正極性書込が指定される偶数行の走査線数「192」との合計数は「384」となり、第1期間において負極性書込が指定される偶数行の走査線数「192」と第2期間において負極性書込が指定される奇数行の走査線数「192」との合計数「384」に等しくなるので、第1期間と第2期間とにおける電流積算の条件を揃えることができ、電流の極性差をより正しく評価することが可能となる。
すなわち、行反転駆動の場合には、第1期間に走査される複数の行のうち正極性駆動電圧が印加される行の本数と、第2期間に走査される複数の行のうち正極性駆動電圧が印加される行の本数との合計が、当該第1期間に走査される複数の行のうち負極性駆動電圧が印加される行の本数と、当該第2期間に走査される複数の行のうち負極性駆動電圧が印加される行の本数との合計と等しくすれば、第1期間と第2期間とにおける電流積算の条件を揃えることができ、電流の極性差をより正しく評価することが可能となる。
なお、図7は、縦軸を走査線の行数とし、横軸を経過時間としたときに、走査線の走査(選択)を黒ドットで表記して、走査線が走査される進捗を示したたものである。実際には、走査線は1、2、3、…、768行目という順番で選択されるので、黒ドットの非連続打点となるが、図では、簡易的に右下がりの直線で示されている。
【0037】
また、1フレーム期間をそれぞれ第1フィールドと第2フィールドとに分けるとともに、各フィールドにおいて、それぞれ1〜768行目の走査線を走査する、いわゆる倍速駆動において、第1フィールドにおいて正極性書込を指定し、第2フィールドにおいて負極性書込を指定するとともに、第1フィールドで電流を積算する第1期間と第2フィールドで電流を積算する第2期間とを、それぞれ同一走査線範囲の走査期間に設定しても良い。このように設定すると、第1期間に印加される正極性駆動電圧と第2期間に印加される負極性駆動電圧とが互いに同じ映像信号に対応するので、電流の極性差を高い精度で評価することが可能となり、液晶への直流成分の印加を、より正確に抑えることが可能となる。
【0038】
実施形態では、均衡動作を、映像信号Vidに基づく電圧書込において実行する構成としたが、反転方式に拘わらず、例えば電源投入直後において所定画像を表示させる際に実行しても良い。この場合、特定の行(例えば1行目)の液晶素子にのみ、奇数フレーム期間の始めには正極性のオン電圧(例えば+5V)を印加するとともに、偶数フレーム期間の始めには負極性のオン電圧(例えば−5V)を印加し、残りの行の液晶素子にはすべてオフ電圧(例えば0V)を印加することで、特定の行に属する液晶素子において、正極性駆動電圧が印加・保持される期間に流れる電流と負極性駆動電圧が印加・保持される期間に流れる電流とを、フレーム期間毎にそれぞれ分離して検出することができるため、電流の極性差をより高い精度で評価することが可能となり、液晶への直流成分の印加を、より正確に抑えることが可能となる。
【0039】
<応用例等>
上述した実施形態では、さらに次のような変形・応用が可能である。
【0040】
<その1>
上述した実施形態では、液晶素子120における正極性の電圧実効値と負極性の電圧実効値とを等しくさせるために、電圧制御回路24がコモン信号Vcomの電圧を操作する構成としたが、これ以外の構成であっても良い。例えば、フレーム期間において、各液晶素子120に対し正極性駆動電圧と負極性駆動電圧とで2回書き込むとともに、フレーム期間のうち正極性駆動電圧を保持する期間と負極性駆動電圧を保持する期間との割合を操作する構成としても良い。
【0041】
詳細には、保持期間の割合を操作する例としては、図8で示されるように、フレーム期間の開始時に出力される1つ目のスタートパルスDyaの転送によって、当該フレーム期間にわたって走査線を1、2、3、…、768行目という順番で選択して正極性駆動電圧を書き込む。ただし、この選択期間は、別の制御信号などとの論理演算などによって上述した実施形態の半分以下として、正極性書込のための選択期間同士に時間的な隙間を持たせる。
フレーム期間の開始から所定期間経過後に出力される2つ目のスタートパルスDybの転送によって、当該フレーム期間の途中から次フレーム期間の途中までにわたって走査線を1、2、3、…、768行目という順番で、かつ、上記隙間で選択して負極性駆動電圧を書き込む。
タイミング制御回路22が、2つ目のスタートパルスDybを時間的に手前寄りで出力すると、正極性駆動電圧を保持する期間が短くなる(負極性駆動電圧を保持する期間が長くなる)ので、正極性の電圧実効値が負極性の電圧実効値よりも大きくなっている状態を是正することができる。また、タイミング制御回路22が、2つ目のスタートパルスDyを時間的に後方寄りで出力すると、正極性駆動電圧を保持する期間が長くなる(負極性駆動電圧を保持する期間が短くなる)ので、正極性の電圧実効値が負極性の電圧実効値よりも小さくなっている状態を是正することができる。
このためには、タイミング制御回路22が差分信号Defを受信して、2つ目のスタートパルスDybの出力タイミングを操作する構成とすれば良い。
【0042】
なお、保持期間の割合を操作する場合には、特定の行(例えば1行目)の液晶素子に正極性駆動電圧が印加されてから負極性駆動電圧が印加されるまでの期間にわたって表示パネルに流れる第1電流を積算し、さらに、当該特定の行の液晶素子に負極性駆動電圧が印加されてから正極性駆動電圧が印加されるまでの期間にわたって表示パネルに流れる第2電流を積算すればよい。第1電流の積算値と第2電流の積算値との和が予め定められた値以下になるように保持期間の割合を操作すれば、直流成分の印加を抑えることが可能となる。
また、表示用とは別の電流検出用の表示素子を設けるとともに、表示用の液晶素子と同条件で駆動して、そのときに流れる電流(電圧)をそれぞれの保持期間にわたって積算しても良い。
【0043】
<その2>
上述した実施形態では、ノイズのキャンセル精度を高めるために、検出される電圧a、bを適切な電圧増幅率で増幅することができるように、電圧aをオペアンプ41によって増幅した信号から、電圧bをオペアンプ42によって増幅した信号を、オペアンプ43によって減算して差分信号Defを求める構成としたが、簡易的には、図9に示されるようにオペアンプ41が、負荷抵抗Raで検出した電圧から、検出抵抗Rbで検出した電圧を差し引くとともに、抵抗R1〜R4で定まる増幅率で増幅することで差分信号Defを求める構成としても良い。
【0044】
<その3>
また、差分信号Defについては、オペアンプによるアナログ演算ではなく、デジタル的に処理することによって求める構成としても良い。例えば、図10に示されるように、オペアンプ41の出力信号をA/D変換回路51によって変換したデジタル値から、オペアンプ42の出力信号をA/D変換回路52によって変換したデジタル値を、減算回路60によって減算する、というデジタル的な処理によって求めても良い。
【0045】
<その4>
実施形態では、信号配線109の負荷抵抗Raによって検出した電圧から、検出配線159の検出抵抗Rbによって検出したノイズ成分を減算する構成とした。この構成では、検出配線159を、信号配線109の配線特性にできるだけ近くすることが望ましいが、完全同一とすることは不可能である。また、検出されるノイズ成分がある程度、予想できる場合もあり得る。
このような場合に、検出配線159の検出抵抗Rbによって検出した信号と同相かつ同振幅となるように、予想されるノイズ信号を生成するとともに、信号配線109の負荷抵抗Raによって検出した電圧から生成したノイズ信号を減算すれば、ノイズ成分のキャンセル精度を高めることができる、と考えられる。
ここで、ノイズ成分が予想できる場合とは、具体的に言えば、電気光学装置10の近傍に装置駆動用の商用電源の配線が引き回されているような場合である。この場合、信号配線109には、60Hzの正弦波がノイズとして重畳されると予想できる。
【0046】
そこで、図11に示されるように、信号生成回路70を設ける構成とすれば良い。この信号生成回路70は、検出配線159の検出抵抗Rbによって検出したノイズと同位相であり、かつ、同振幅の正弦波の信号波形cをデジタルで生成するものである。
この構成では、オペアンプ41の出力信号をA/D変換回路51によって変換したデジタル値から当該正弦波を減算することによって、差分信号Defを求められる。もちろん、信号生成回路70は、アナログの正弦波信号を生成して、オペアンプ等によって減算するアナログの構成であっても良い。
【0047】
このような構成によれば、図12に示されるように、検出配線159の検出抵抗Rbで検出された電圧bの波形が正弦波形から崩れていたとしても、電圧bの波形を信号生成回路70による正弦波の信号波形cに置き換えて減算するので、ノイズ成分のキャンセル精度を高めることが可能となる。
なお、図12では、商用電源を単相交流・周波数60Hzとした場合のものであり、この場合、重畳されると予想されるノイズの正弦波は、垂直走査周波数と一致する。
【0048】
なお、予想されるノイズは正弦波に限られない。例えば、バックライトなどの光源をパルス幅変調(PWM)して輝度調整するような場合には、そのPWM波や商用電源の正弦波の合成波形がノイズとして重畳されると考えられる。したがって、信号生成回路70は、合成波形を示す関数信号を、検出抵抗Rbによって検出したノイズと同位相であって、かつ、同振幅となるように生成すればよい。
【0049】
<電子機器>
次に、上述した実施形態や変形・応用例に係る電気光学装置を用いた電子機器の一例として、上述した電気光学装置をライトバルブとして用いたプロジェクタについて説明する。図13は、このプロジェクタの構成を示す平面図である。
この図に示されるように、プロジェクタ2100の内部には、ハロゲンランプ等の白色光源からなるランプユニット2102が設けられている。このランプユニット2102から射出された投射光は、内部に配置された3枚のミラー2106および2枚のダイクロイックミラー2108によってR(赤)、G(緑)、B(青)の3原色に分離されて、各原色に対応するライトバルブ10R、10Gおよび10Bにそれぞれ導かれる。なお、B色の光は、他のR色やG色と比較すると、光路が長いので、その損失を防ぐために、入射レンズ2122、リレーレンズ2123および出射レンズ2124からなるリレーレンズ系2121を介して導かれる。
【0050】
このプロジェクタ2100では、表示パネル100を含む電気光学装置が、R、G、Bの各色に対応して3組設けられる。そして、R、G、Bの各色に対応する表示データがそれぞれ外部上位装置から供給される構成となっている。ライトバルブ10R、10Gおよび10Bの構成は、上述した実施形態における表示パネル100と同様であり、R、G、Bのそれぞれに対応する映像信号でそれぞれ駆動されるものである。
ライトバルブ10R、10G、10Bによってそれぞれ変調された光は、ダイクロイックプリズム2112に3方向から入射する。そして、このダイクロイックプリズム2112において、R色およびB色の光は90度に屈折する一方、G色の光は直進する。したがって、各色の画像が合成された後、スクリーン2120には、投射レンズ2114によってカラー画像が投射されることとなる。
【0051】
なお、ライトバルブ10R、10Gおよび10Bには、ダイクロイックミラー2108によって、R、G、Bの各原色に対応する光が入射するので、カラーフィルタを設ける必要はない。また、ライトバルブ10R、10Bの透過像は、ダイクロイックプリズム2112により反射した後に投射されるのに対し、ライトバルブ10Gの透過像はそのまま投射されるので、ライトバルブ10R、10Bによる水平走査方向は、ライトバルブ10Gによる水平走査方向と逆向きにして、左右を反転させた像を表示する構成となっている。
【0052】
電子機器としては、図13を参照して説明した他にも、テレビジョンや、ビューファインダ型・モニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。そして、これらの各種の電子機器に対して、本発明に係る電気光学装置が適用可能なのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態に係る電気光学装置の構成を示す図である。
【図2】同電気光学装置における画素の構成を示す図である。
【図3】同電気光学装置の表示パネルの動作を示す図である。
【図4】同電気光学装置における制御動作を示すフローチャートである。
【図5】同電気光学装置におけるノイズキャンセル動作を示す図である。
【図6】同電気光学装置における正極・負極電圧の均衡動作を示す図である。
【図7】同電気光学装置において行反転駆動としたときを示す図である。
【図8】同電気光学装置の応用例等(その1)における電圧の操作を示す図である。
【図9】同電気光学装置の応用例等(その2)を示す図である。
【図10】同電気光学装置の応用例等(その3)を示す図である。
【図11】同電気光学装置の応用例等(その4)を示す図である。
【図12】応用例等(その4)の動作を示す図である
【図13】実施形態等に係る電気光学装置を適用したプロジェクタを示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10…電気光学装置、20…制御回路、24…電圧制御回路、41、42、43…オペアンプ、50…A/D変換回路、70…信号生成回路、108…コモン電極、116…TFT、118…画素電極、120…液晶素子、109…信号配線、159…検出配線、Ra…負荷抵抗、Rb…検出抵抗、L…インダクタ、2100…プロジェクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N本の走査線と複数のデータ線と、該走査線と該データ線との交点に応じて設けられた液晶素子と、を備えた表示パネルを有する電気光学装置であって、
前記液晶素子は画素電極とコモン電極とを含み、
予め定められた基準電圧に対して高位側の正極性駆動電圧と前記基準電圧に対して低位側の負極性駆動電圧とを、前記液晶素子の各々に時間的に交互に印加する駆動回路と、
前記コモン電極にコモン信号を供給するための信号配線と、
前記信号配線とは非接触であって、前記信号配線に近接して配設された検出配線と、
前記信号配線に流れる電流を示す電圧から、前記検出配線で誘起された電圧を差し引いた差分電圧を算出する差分算出回路と、
N本の前記走査線のうち予め定められたs行目(sは1以上N以下の整数)の走査線に対応する予め定められた液晶素子に前記正極性駆動電圧が印加されている期間内の少なくとも一部の第1期間に前記表示パネルに流れる第1電流を前記差分電圧に基づいて求め、当該液晶素子に前記負極性駆動電圧が印加されている期間内の少なくとも一部の第2期間に前記表示パネルに流れる第2電流を前記差分電圧に基づいて求め、さらに、前記第1電流の積算値と前記第2電流の積算値との和が予め定められた値以下になるように、前記正極性駆動電圧と前記負極性駆動電圧とを制御する制御回路と、
を具備することを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記差分算出回路は、
前記信号配線に介挿された負荷抵抗の端子間電圧から、前記検出配線に介挿された検出抵抗の端子間電圧を差し引く
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記検出配線には、インダクタが介挿されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記差分算出回路は、
前記負荷抵抗の端子間電圧を増幅する第1増幅回路と、
前記検出抵抗の端子間電圧を増幅する第2増幅回路と、
を有し、
前記第1増幅回路の出力電圧から、前記第2増幅回路の出力電圧を差し引いて前記差分電圧を求める
ことを特徴とする請求項2または3に記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記差分算出回路は、
予め定められた関数の電圧信号を、前記検出配線で誘起された電圧に基づいて生成する信号生成回路を有し、
前記信号配線に流れる電流を示す電圧から、前記電圧信号を差し引く
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項6】
前記第1期間は、前記予め定められた液晶素子に前記正極性駆動電圧が印加されてから前記負極性駆動電圧が印加されるまでの期間であり、
前記第2期間は、前記予め定められた液晶素子に前記負極性駆動電圧が印加されてから前記正極性駆動電圧が印加されるまでの期間である
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項7】
前記第1期間と前記第2期間は互いに連続している
ことを特徴とする請求項6に記載の電気光学装置。
【請求項8】
前記駆動回路は、第1のフレーム期間において全ての前記画素に対する駆動電圧として前記正極性駆動電圧を指定し、第2のフレーム期間において全ての前記画素に対する駆動電圧として前記負極性駆動電圧を指定し、
前記sは1であり、
前記第1期間は、前記予め定められた液晶素子に前記正極性駆動電圧が印加された後、第1の所定の時間が経過してから第2の所定の時間が経過するまでの期間であり、
前記第2期間は、前記予め定められた液晶素子に前記負極性駆動電圧が印加された後、第1の所定の時間が経過してから第2の所定の時間が経過するまでの期間である
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項9】
前記第1期間は、前記予め定められた液晶素子に前記正極性駆動電圧が印加されてから、s+t(tは1以上且つN−1以下の整数)行目(s+tがNを超える場合にはs+t−N)の走査線が選択されるまでの期間であり、
前記第2期間は、前記予め定められた液晶素子に前記負極性駆動電圧が印加されてから、s+t(tは1以上且つN−1以下の整数)行目(s+tがNを超える場合にはs+t−N)の走査線が選択されるまでの期間である
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項10】
前記第2期間は、前記第1期間の終了後に続くフレーム期間に属する
ことを特徴とする請求項8または9に記載の電気光学装置。
【請求項11】
N本の走査線と複数のデータ線と、
該走査線と該データ線との交点に応じて設けられた液晶素子と、
を備え、
前記液晶素子は、画素電極と、信号配線を介してコモン信号が供給されるコモン電極と、を含み、
前記液晶素子の各々には、予め定められた基準電圧に対して高位側の正極性駆動電圧と前記基準電圧に対して低位側の負極性駆動電圧とが時間的に交互に印加される
表示パネルを有する電気光学装置の駆動方法であって、
前記信号配線に流れる電流を示す電圧から、前記信号配線とは非接触であって前記信号配線に近接して配設された検出配線で誘起された電圧を差し引いた差分電圧を算出し、
N本の前記走査線のうち予め定められたs行目(sは1以上N以下の整数)の走査線に対応する予め定められた液晶素子に前記正極性駆動電圧が印加されている期間内の少なくとも一部の第1期間に前記表示パネルに流れる第1電流を前記差分電圧に基づいて求め、
当該液晶素子に前記負極性駆動電圧が印加されている期間内の少なくとも一部の第2期間に前記表示パネルに流れる第2電流を前記差分電圧に基づいて求め、さらに、
前記第1電流の積算値と前記第2電流の積算値との和が予め定められた値以下になるように、前記正極性駆動電圧と前記負極性駆動電圧とを制御する
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれかに記載の電気光学装置を有する電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−152141(P2010−152141A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330951(P2008−330951)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】