説明

電気光学装置及び電子機器

【課題】 各単位回路に関する移動度補償の実行時間をばらつかせない。
【解決手段】電気光学装置は、駆動電流の大きさに応じた光量で発光する有機EL素子(8)、これに駆動電流を出力する駆動トランジスター、駆動トランジスター自身に前記駆動電流を流すか否かを司る発光制御トランジスター、及び、一端が駆動トランジスターのゲートに接続され他端がデータ線に接続されたデータ書込用トランジスター、を含む単位回路(P)を複数備える。前記各種のトランジスターは、それぞれ、走査線に含まれる各配線に供給される制御信号によって制御されるが、移動度補償動作時において、これらのうちの発光制御トランジスターを導通状態とする際には、その制御信号としての発光制御信号は、走査線駆動回路(501)及び発光制御線駆動回路(502)によって、画像表示領域7aの両端から供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(electro luminescent)素子等の発光素子を含む電気光学装置及び当該電気光学装置を含む電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型で軽量な発光源として、OLED(organic light emitting diode)、即ち有機EL素子がある。有機EL素子は、有機材料を含む少なくとも一層の有機薄膜を画素電極と対向電極とで挟んだ構造を有する。このうち画素電極は例えば陽極として、対向電極は陰極として機能する。両者間に電流が流されると、前記有機薄膜で電子及び正孔間の再結合が生じ、これにより、当該有機薄膜ないしは有機EL素子は発光する。
かかる有機EL素子、ないしはこれを備えた画像表示装置としては、例えば特許文献1に開示されているようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−133283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような有機EL素子は、適当な構成をもつ駆動回路によって駆動される。駆動回路としては例えば、駆動トランジスターのゲート電位に応じてそのソース・ドレイン間に流れる電流を有機EL素子に供給するものがある。この場合、そのゲート電位の調整を通じて、有機EL素子の発光輝度の調整等が可能になる。
もっとも、このような駆動回路には様々な解決すべき課題がある。例えば、その1つに、前記駆動トランジスターの移動度、あるいは閾値電圧等の各種特性のバラツキがある。前述した画像表示装置は通常、多数の有機EL素子、及びそれら各々に付随する前記駆動トランジスターを含む駆動回路を備えるが、製造プロセス上の各種パラメータのバラツキ等が要因となって、これら複数の駆動トランジスターの各々の特性がばらつけば、各有機EL素子の発光輝度の調整等にもバラツキが生じることになり、その結果、表示画像の品質向上の障害となる。
【0005】
前記特許文献1は、このような課題に関する技術を開示する。すなわち、特許文献1は、発光制御トランジスター、駆動トランジスター及び有機EL素子が直列に接続され、このうち駆動トランジスターのゲートにデータ電位書込用トランジスターが接続された構成をもつ駆動回路において、移動度補償動作を実行する技術を開示する。特許文献1では、この移動度補償動作は、以下の2つの動作、即ち〔1〕発光制御トランジスターをオフ状態、データ書込用トランジスターをオン状態として、前者のゲートにデータ電位を書込む動作(書込動作)と、〔2〕発光制御トランジスターをオン状態、データ書込用トランジスターをオフ状態として、駆動トランジスター由来の電流を有機EL素子に供給する動作(発光動作)と、の間において実行され、具体的には、〔3〕発光制御トランジスター及びデータ書込用トランジスターをともにオン状態として、駆動トランジスターに移動度に応じた電流を流す工程を含む(特許文献1の〔図4〕中の「T6」及び「T7」間、あるいは〔0031〕等参照)。
この〔3〕の動作により、駆動トランジスターのソース電位は、自身を流れる電流によって上昇し、その結果、ゲート・ソース間電圧は小さくなるが、その電流の減衰度は各駆動トランジスターの移動度に応じることから、結局、個々の駆動トランジスターに関して前記〔3〕の動作を同一の時間だけ実行すれば、それら各々のゲート・ソース間電圧は、当該各々の移動度の大きさに応じた値をもつことになる(つまり、個々の駆動トランジスターに関する移動度特性のバラツキが補償される。)。
【0006】
しかしながら、この特許文献1の技術では、次のような問題がある。すなわち、前記〔3〕の動作を好適に行うためには、その実行時間の長短が極めて重要になる。つまり、前述の〔1〕と〔3〕との間を画する発光制御トランジスターをオン状態とする時間と、前述の〔3〕と〔2〕との間を画するデータ書込用トランジスターをオフ状態とする時間とが、個々の駆動回路に関して正確に管理されなければならない。そうでなければ、個々の駆動トランジスターに関し、前述した電流の減衰の程度が、あるものについては行き過ぎ、またあるものについて足りない、というようにばらばらとなってしまい、意図した移動度補償効果が確保されないことになるからである。
しかし、そのような時間管理を正確に行うことは一般に困難である。例えば、駆動回路がマトリクス状に配列されていれば、ある行に並ぶデータ書込用トランジスターをオフ状態とするための制御信号を、そのデータ書込用トランジスターに対して供給する必要があるが、当該制御信号の供給線がもつ寄生容量や寄生抵抗等の存在によって、その信号の波形が供給線を伝わるに連れて歪むなどの結果、その行の先頭に位置する駆動回路と最後尾に位置するそれとで、当該データ書込用トランジスターの開閉時間に差が生じてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決することの可能な電気光学装置及び電子機器を提供することを目的とする。
また、本発明は、かかる態様の電気光学装置及び電子機器に関連する課題を解決可能な、電気光学装置及び電子機器を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る電気光学装置は、上述した課題を解決するため、複数の走査線及び複数のデータ線の交差に対応して設けられた複数の単位回路と、前記複数の走査線の各々に前記単位回路を制御するための制御信号を供給する走査線駆動回路と、を含む電気光学装置であって、前記複数の単位回路の各々は、駆動電流の大きさに応じた光量で発光する発光素子と、前記データ線を介して供給されるデータ電位がゲートに供給されることに応じて前記駆動電流を出力する駆動トランジスターと、前記駆動トランジスター自身に前記駆動電流を流すか否かを司る発光制御トランジスターと、一端が前記駆動トランジスターのゲートに接続され、他端が前記データ線に接続されたスイッチング素子と、を含み、前記複数の走査線の各々は、当該走査線の各々の延在方向に沿って並ぶ前記発光制御トランジスターのゲートに、当該発光制御トランジスターの導通及び非導通状態間の遷移を指令する、前記制御信号としての発光制御信号 の伝送路となる発光制御線を含み、前記走査線駆動回路は、前記発光制御線の一端に接続された第1発光制御線駆動回路と、前記発光制御線の他端に接続された第2発光制御線駆動回路と、を含み、これら第1及び第2発光制御線駆動回路は、所定のタイミングにおいて、前記発光制御線の両端から、当該発光制御線に、前記発光制御トランジスターを導通状態とする前記発光制御信号を供給する。
【0009】
本発明によれば、発光制御信号が、所定のタイミングにおいて、発光制御線の両端から供給されるようになっているので、発光制御線が寄生抵抗や寄生容量等をもっていても、その基端と終端とで、発光制御信号の波形に歪み等が生じる可能性は極めて低い。したがって、例えば、発光制御信号が方形波を含み、発光制御トランジスターがその方形波を形作る2回のレベル遷移間において導通状態となるならば、その導通状態となる時間の管理は極めて正確に行われ得ることになる。このようなことから、前記「所定のタイミング」が、例えば“移動度補償動作を行うタイミング”であれば、その実行時間の管理は、全単位回路に関して極めて正確に行われ得る。
【0010】
この発明の電気光学装置では、前記複数の走査線の各々は、前記発光制御線のほか、前記駆動トランジスターのゲートに前記データ電位を供給するか否かを決める前記スイッチング素子の導通及び非導通状態間の遷移を指令する、前記制御信号としての書込信号 の伝送路となる書込制御線を含み、前記第1及び第2発光制御線駆動回路は、前記書込制御線に、前記スイッチング素子を導通状態とする前記書込信号が供給されている最中において、前記発光制御線の両端から、当該発光制御線に、前記発光制御信号を供給する、ように構成してもよい。
この態様によれば、前記スイッチング素子が導通状態にありながら、発光制御線に、発光制御トランジスターを導通状態とする発光制御信号が、発光制御線の両端から供給される。これにより、駆動トランジスターのゲートにはデータ電位が供給されつつ、そのソース・ドレイン間には電流が流れることになる。そして、この電流の大きさ、あるいは減衰度は、駆動トランジスターの移動度に応じることから、発光制御トランジスターを導通状態とする時間が、全単位回路についてある所定の時間で一定とされているならば、全駆動トランジスターに関する移動度補償動作が好適に実行されることになる。
この点、本発明においては、前述のように、発光制御トランジスターを導通状態とする時間が極めて正確に管理されることから、前記移動度補償を実行する時間も正確に管理される。したがって、本態様によれば、より好適な、あるいはより実効的な移動度補償動作が行われる。
【0011】
また、本態様では特に、前記スイッチング素子を導通状態としている「最中」において、発光制御線に発光制御信号が供給される。つまり、これによると、書込信号の状態が、ハイレベル又はローレベルのいずれか一方(どちらであるかは「スイッチング素子」を導通状態とするのがいずれのレベルであるかによって決まる。)に維持されながら、発光制御トランジスターは非導通状態から導通状態へ、そしてまた導通状態から非導通状態へと遷移する。このことから、本態様においては、移動度補償動作が、発光制御信号の状態如何だけに基づいて行われることになる。
このように、本態様では、移動度補償動作の実行が、発光制御トランジスターの挙動1つ、あるいは、発光制御信号の挙動1つによって司られるようになっており、例えば複数のトランジスターが関与することによって移動度補償動作の実行時間が画定されるなどという場合に比べて、その制御態様がより簡易化される。
【0012】
本発明の第2の観点に係る電気光学装置は、上述した課題を解決するため、複数の走査線及び複数のデータ線の交差に対応して設けられた複数の単位回路と、前記複数の走査線の各々に前記単位回路を制御するための制御信号を供給する走査線駆動回路と、を含む電気光学装置であって、前記複数の単位回路の各々は、駆動電流の大きさに応じた光量で発光する発光素子と、前記データ線を介して供給されるデータ電位がゲートに供給されることに応じて前記駆動電流を出力する駆動トランジスターと、前記駆動トランジスター自身に前記駆動電流を流すか否かを司る発光制御トランジスターと、一端が前記駆動トランジスターのゲートに接続され、他端が前記データ線に接続されたスイッチング素子と、を含み、前記複数の走査線の各々は、当該走査線の各々の延在方向に沿って並ぶ前記発光制御トランジスターのゲートに、当該発光制御トランジスターの導通及び非導通状態間の遷移を指令する、前記制御信号としての発光制御信号 の伝送路となる発光制御線と、前記駆動トランジスターのゲートに前記データ電位を供給するか否かを決める前記スイッチング素子の導通及び非導通状態間の遷移を指令する、前記制御信号としての書込信号 の伝送路となる書込制御線と、を含み、前記走査線駆動回路は、前記発光制御線の一端に接続され、前記発光制御信号を出力する発光制御線駆動回路と、前記書込制御線の一端に接続され、前記書込信号を出力する書込制御線駆動回路と、を含み、前記発光制御線駆動回路は、前記複数の単位回路が配列されている領域である画像表示領域に隣接するように配置され、前記書込制御線駆動回路は、前記発光制御線駆動回路を中心にみて前記画像表示領域が存在する位置とは反対側の位置に配置される。
【0013】
本発明によれば、発光制御線駆動回路が、書込制御線駆動回路に比べて、画像表示領域により近い位置に配置されることから、この発光制御線駆動回路から出力される発光制御信号の伝送路たる発光制御線の長さは相対的に短縮化される。したがって、例えば、発光制御信号が方形波を含み、発光制御トランジスターがその方形波を形作る2回のレベル遷移間において導通状態となるならば、その導通状態となる時間の管理は極めて正確に行われ得ることになる。
以上により、この第2の観点に係る発明によっても、上述した第1の観点に係る発明によって奏された作用効果と同様の作用効果が奏される。
なお、本発明においても、直前の態様において述べられた移動度補償動作(即ち、スイッチング素子が導通状態の最中における発光制御信号の供給による移動度補償動作)が行われ得ることは言うまでもない。
【0014】
この発明の電気光学装置では、当該電気光学装置は前記駆動電流の供給源としての電源線を更に備え、前記電源線は、前記発光制御線駆動回路と前記画像表示領域との間には配置されない、ように構成してもよい。
この態様によれば、発光制御線が、電源線を横切るようにして画像表示領域に至る、ということがない。したがって、この電源線を原因とする寄生容量や寄生抵抗によって、発光制御信号に歪みが生じる可能性は極めて低減される。以上により、本態様によれば、上述した本発明に係る効果がより実効的に奏される。
【0015】
この態様では、前記電源線は、前記発光制御線駆動回路と前記書込制御線駆動回路との間に配置される、ように構成してもよい。
この態様によれば、上述した態様によって奏された作用効果を享受可能であるのと同時に、電源線の配置態様が極めて好適に設定され、発光制御線駆動回路、書込制御線駆動回路、電源線等の各種要素のレイアウトが好適になる。
また、本態様では特に、書込制御線駆動回路が、画像表示領域からみて、電源線を越えた位置に配置されることから、書込制御線は、当該電源線を横切るようにして画像表示領域に至る、ということになる。これによると、書込制御信号は、この電源線を原因とする寄生容量や寄生抵抗によって歪む可能性が大きくなる。以上により、本態様によれば、書込制御信号のレベル遷移に応じた単位回路内の電位変動現象(フィードスルー)を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の第2の観点に係る電気光学装置では、前記発光制御線駆動回路は、前記発光制御信号を出力するバッファを含み、当該発光制御線駆動回路は、前記バッファが前記画像表示領域に隣接するように配置されることによって、当該画像表示領域に隣接するように配置される、ように構成してもよい。
この態様によれば、発光制御線駆動回路が、「画像表示領域に隣接するように配置される」という場合の、好適な一具体例が提供される。すなわち、上述した本発明に係る効果、特に移動度補償動作の実行時間の正確な管理を実現するためには、上述のように、可能な限り、発光制御信号に歪みが生じること回避するのが望ましいが、それを行うためには、発光制御線駆動回路の最終の出力段であるバッファが、画像表示領域に隣接していれば十分であるといえる。
本態様は、この趣旨を明瞭にするものである。また、本態様によれば、これと同時に、このような構成を採用することによる、各種要素のレイアウト上の自由度増大等の効果が享受可能となる。
【0017】
なお、特許請求の範囲における記載においては、前述した、第1及び第2の観点に係る発明間で、従属・被従属といった関連が特にとられていないが、本発明一般の観点からすれば、これら両発明が1個の電気光学装置において同時に実現される態様も、当然、本発明の範囲内にある。そして、このような両発明同時実現態様によれば、当該両発明のいずれもが、発光制御信号に歪みが生じることを抑制する効果を奏するのであるから、当該効果をより実効的に享受可能となる。
【0018】
また、本発明の電子機器は、上記課題を解決するために、上述した各種の電気光学装置を備える。
本発明の電子機器は、上述した各種の電気光学装置を備えてなるので、移動度補償動作が好適に実行された上での、高品質な画像表示が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電気光学装置を示すブロック図である。
【図2】図1の有機EL装置(8)を構成する単位回路の詳細を示す回路図である。
【図3】図2の単位回路と各制御線(特に発光制御線(34))との接続態様を説明するための説明図である。
【図4】図2の単位回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図5】走査線駆動回路(501)からみて遠くに位置する発光制御トランジスター(Tel)に対しては、近くに位置するそれに対してよりも、より歪みの大きい信号が供給されること、及び、それに対して第1実施形態ではそのような懸念が少なくなること、を説明するための説明図である。
【図6】移動度補償動作を実行する時間に対する、駆動トランジスターのドレイン・ソース間電流の変化の様子を示すグラフである(移動度の異なる駆動トランジスターTdr〔A〕〜Tdr〔C〕(における当該移動度)がパラメータである。)。
【図7】本発明の第2実施形態に係る電気光学装置を示すブロック図である。
【図8】図7の変形例を説明するための説明図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る電気光学装置を示すブロック図である。
【図10】本発明の別の実施形態に係る単位回路の詳細を示す回路図である。
【図11】本発明に係る有機EL装置を適用した電子機器を示す斜視図である。
【図12】本発明に係る有機EL装置を適用した他の電子機器を示す斜視図である。
【図13】本発明に係る有機EL装置を適用したさらに他の電子機器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
以下では、本発明に係る第1の実施の形態について図1乃至図3を参照しながら説明する。なお、ここに言及した図1乃至図3に加え、以下で参照する各図面においては、各部の寸法の比率が実際のものとは適宜に異ならせてある場合がある。
【0021】
有機EL装置100は、図1に示すように、素子基板7と、この素子基板7上に形成される各種の要素とを備えている。各種の要素とは、有機EL素子8、走査線3及びデータ線6、電源線113、走査線駆動回路501及び発光制御線駆動回路502(図1においては、「GEL線駆動回路」と表記している。以下、その他の図においても同じ。)、並びにデータ線駆動回路106である。
【0022】
有機EL素子(発光素子)8は、図1に示すように、素子基板7上に複数備えられる。それら複数の有機EL素子8はN行×M列のマトリクス状に配列されている(N,Mは自然数)。有機EL素子8の各々は、陽極としての画素電極、発光機能層及び陰極としての対向電極から構成されている。
画像表示領域7aは、素子基板7上、これら複数の有機EL素子8が配列されている領域である。画像表示領域7aでは、各有機EL素子8の個別の発光及び非発光に基づき、所望の画像が表示され得る。なお、以下では、素子基板7の面のうち、この画像表示領域7aを除く領域を、「周辺領域」と呼ぶ。
【0023】
走査線3及びデータ線6は、それぞれ、マトリクス状に配列された有機EL素子8の各行及び各列に対応するように配列されている。より詳しくは、走査線3は、図1に示すように、図中左右方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されている走査線駆動回路501に接続されている。一方、データ線6は、図中上下方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されているデータ線駆動回路106に接続されている。なお、電源線113は、データ線6と並行するように配列されている。この電源線113には、高電源電位Velが供給される。
前記のうち走査線駆動回路501は、走査線3のそれぞれを順番に選択するための回路である。また、データ線駆動回路106は、走査線駆動回路501によって選択された走査線3に対応する各有機EL素子8に向けて、各データ線6を通じてデータ信号を供給するための回路である。
【0024】
各走査線3及び各データ線6の各交点の近傍には、前述の有機EL素子8等を含む単位回路(画素回路)Pが設けられている。
単位回路Pは、図2に示すように、有機EL素子8を含むほか、駆動トランジスターTdr、発光制御トランジスターTel、第1〜第3トランジスターTr1〜Tr3、及び容量素子C1を含む。
なお、図1では便宜的に1本の配線として図示された走査線3は、図2に示すように実際には4本の配線を含む。各配線には走査線駆動回路501から所定の信号が供給される。より詳細には、これら各配線には、それぞれ、走査信号GWRT[i]、第1補償制御信号GINI1[i]、第2補償制御信号GINI2[i]、及び発光制御信号GEL[i]が供給される。これら各信号の具体的な意義やこれに応じた単位回路Pの動作については後述する。なお、ここで使われた記号iは、前記マトリクス状配列の中の行番号を意味する(図1参照。1本の走査線3が4本の配線からなるので、全走査線3に含まれる配線数は結局、4N本である。)。また、前記各配線に前記各信号が供給されることにちなんで、以下では、当該各配線をそれぞれ、書込走査線31、第1補償制御線32、第2補償制御線33、及び発光制御線34と称することとする(図2参照)。
【0025】
前記発光制御線駆動回路502は、図3に示すように、前記各配線のうち発光制御線34とのみ接続され、したがって、発光制御信号GEL[i]のみを出力する。このような構成であることから、同図に示すように、発光制御信号GEL[i]だけは、他の各信号とは異なって、発光制御線34の両端から、あるいは、画像表示領域7aの図中左右両側端から、同時に入力する。
なお、前記走査線駆動回路501は、この発光制御線駆動回路502に対応する発光制御線駆動回路を含み、あるいは、前記各信号に対応する書込走査線駆動回路、第1補償制御線駆動回路、及び第2補償制御線駆動回路、をそれぞれ含むものと考えることが可能である(いずれも不図示。なお、後述の第2及び第3実施形態参照)。
【0026】
図2に戻り、駆動トランジスターTdrはnチャネル型であり、電源線113から有機EL素子8の画素電極に至る経路上にある。この駆動トランジスターTdrのドレイン(D)は発光制御トランジスターTelのソースに接続される。
この駆動トランジスターTdrは、ソース(S)とドレイン(D)との導通状態(ソース−ドレイン間の抵抗値)がゲート電位Vgに応じて変化することで当該ゲート電位Vgに応じた駆動電流Ielを生成する手段である。なお、ゲート電位Vgは、データ線6を通じて供給されるデータ信号Dataの大きさに応じる。
こうして、有機EL素子8は、駆動トランジスターTdrの導通状態、ないしはデータ信号Dataに応じて駆動される。
【0027】
発光制御トランジスターTelはpチャネル型であり、駆動トランジスターTdrと電源線113との間にある。この発光制御トランジスターTelのゲートには、前記発光制御信号GEL[i]が供給される。この発光制御信号GEL[i]がローレベルに遷移すると発光制御トランジスターTelがON状態に変化して有機EL素子8に対する駆動電流Ielの供給が可能となる。これにより、有機EL素子8は駆動電流Ielに応じた階調(輝度)で発光する。これに対して、発光制御信号GEL[i]がハイレベルである場合には発光制御トランジスターTelがOFF状態を維持するから、駆動電流Ielの経路が遮断されて有機EL素子8は消灯する。
なお、有機EL素子8の画素電極は、この発光制御トランジスターTel及び前記駆動トランジスターTdrを介して前述した高電源電位Velが供給される電源線113に接続され、その対向電極は低電源電位VCTが供給される電位線(不図示)に接続される。発光制御トランジスターTelは、前述のように、有機EL素子8への電流供給の有無の制御を司るが、それに伴って、駆動トランジスターTdr自身に電流を流すか否かに係る制御をも司っているとみることができる。
【0028】
容量素子C1は、2つの電極間に誘電体が介挿された素子である。その容量値は、Ch1である。この容量素子C1の一方の電極(図中上方の電極)は駆動トランジスターTdrのゲートに接続される。また、容量素子C1の他方の電極(図中下方の電極)は駆動トランジスターTdrのソース(S)に接続されるとともに、後述する第3トランジスターTr3のソースにも接続される。
【0029】
第1トランジスターTr1は、ノードZ1とデータ線6との間に介在して両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。第1トランジスターTr1のゲートには前記の走査信号GWRT[i]が供給される。
第2トランジスターTr2は、ノードZ1と初期化電位VSTが供給される電位線との間に設けられ両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。第2トランジスターTr2のゲートには前記の第1補償制御信号GINI1[i]が供給される。
第3トランジスターTr3は、初期化電位VINIの供給線と駆動トランジスターTdrのソースとの間に設けられ両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。第3トランジスターTr3のゲートには第2補償制御信号GINI2[i]が供給される。
【0030】
次に、以上のような構成をもつ有機EL装置100の動作ないし作用について、既に参照した図1乃至図3に加えて図4及び図5を参照しながら説明する。
〔i〕初期化: まず、第1補償制御信号GINI1[i]と第2補償制御信号GINI2[i]がハイレベルとなることで、第2トランジスターTr2と第3トランジスターTr3がON状態となる。これにより、駆動トランジスターTdrのゲート電位Vgとソース電位Vsはそれぞれ、図4に示すように下落して、初期化電位VSTとVINIとなる。
なお、単位回路Pは、いま述べている〔i〕初期化から、後に述べる〔v〕駆動までの各動作を繰り返し行う。〔i〕の初期化動作は、最後の〔v〕の駆動動作(発光動作)が終わった後、即ち発光制御信号GEL[i]がローレベルからハイレベルに遷移した後に行われる。図4の最左方に示される、前記ソース電位Vsの下落に先立つ、ゲート電位Vg及びソース電位Vsの双方の下落は、そのような発光制御信号GEL[i]の遷移に対応している。
【0031】
〔ii〕Vth補償: 次に、第2補償制御信号GINI2[i]がローレベルに遷移し、続いて更に、発光制御信号GEL[i]がローレベルに遷移する。これにより、第3トランジスターTr3がOFF状態となり、続いて更に、発光制御トランジスターTelがON状態となる。このことから、ソース電位Vsは初期化電位VSTの供給から開放されることになる。その結果、駆動トランジスターTdr及び高電源電位Vel間が導通状態となることも相まって、駆動トランジスターTdrのソース電位Vsは、図4に示すように上昇を開始し、そのゲート・ソース間電圧は閾値電圧Vthに漸近する。なお、この一連の過程中、駆動トランジスターTdrのゲート及びソース間は接続する容量素子C1は閾値電圧Vthを保持する(なお、容量素子C1は、以下の各動作においても、その時々に応じた適宜の電圧を保持する。)。
以上のように、この〔ii〕における動作では、各駆動トランジスターTdrの閾値電圧Vthの補償が行われることになる。
【0032】
〔iii〕データ書込: 次に、発光制御信号GEL[i]及び第1補償制御信号GINI1[i]が、それぞれ、ハイレベル及びローレベルに遷移して発光制御トランジスターTel及び第2トランジスターTr2がOFF状態となる一方、走査信号GWRT[i]がハイレベルとなることで、第1トランジスターTr1がON状態となる。この際、適当なデータ電位Vdataをもつデータ信号がデータ線6を通じて供給されると、それに応じてノードZ1の電位、即ちゲート電位Vgは、当該データ電位Vdataの足し込み分に応じた電圧だけ変動する。したがって、駆動トランジスターTdrのゲート・ソース間電圧は、図4に示すようにVth+Vdata’となる。ここでVdata’=Vdata・(Ch2/(Ch2+Ch1))である。この式中、Ch2は、有機EL素子8がもつ寄生容量の容量値である。
【0033】
〔iv〕移動度補償: 次に、走査信号GWRT[i]のハイレベルが維持されたまま、発光制御信号GEL[i]が一定時間ローレベルを維持する。これにより、再び、発光制御トランジスターTelがON状態となることで、駆動トランジスターTdrのソース電位Vsが上昇を開始する。図4においては、ソース電位Vsの上昇後のゲート・ソース間電圧がVth+Vaになることが表現されているが、これは、当該ソース電位Vsの上昇分が、“Vdata’−Va”と表現可能であることを意味する。その結果、逆に、駆動トランジスターTdrのゲート・ソース間電圧は小さくなることになる。
このようなソース電位Vsの上昇、ないしはゲート・ソース間電圧の下降の程度は、一般に、各単位回路Pに含まれる駆動トランジスターTdrの各々が相異なる移動度特性を持つことに応じて、異なることになる。すなわち、定性的には、より大きな移動度μをもつ駆動トランジスターTdrでは、ソース電位Vsの上昇量は大きく、より小さな移動度μをもつ駆動トランジスターTdrでは、ソース電位Vsの上昇量は小さくなる。
以上のように、この〔iv〕における動作では、各駆動トランジスターTdrの移動度補償が行われることになる。
なお、このような移動度補償動作においては、前述した、発光制御線駆動回路502と走査線駆動回路501とによる、画像表示領域7aの両側からの発光制御信号GEL[i]の入力が、特に意義をもつことになるが、この点については後に説明する。
【0034】
〔v〕駆動: 走査信号GWRT[i]がローレベルに遷移して第1トランジスターTr1がOFF状態となる一方、発光制御信号GEL[i]が三度ローレベルとなることで、発光制御トランジスターTelがON状態となる。これにより、有機EL素子8には、ゲート電位Vgに応じた大きさの駆動電流Ielが駆動トランジスターTdrから供給されることになり、当該有機EL素子8は発光する。
【0035】
次に、前述した〔iv〕の移動度補償動作と、画像表示領域7aの両側からの発光制御信号GEL[i]の入力との関係について説明する。
まず、第1実施形態の有機EL装置100では、上述のように、単位回路Pがマトリクス状に配列されていることから(図1参照)、発光制御トランジスターTelも同様にマトリクス状に配列される。したがって、そのマトリクス状配列の各行には、図5に示すように、複数の発光制御トランジスターTelが属する(なお、図5では1行分のみが示されている。)。このような複数の発光制御トランジスターTelを制御するためには、前述のように、走査線3を構成する4本の配線のうちの1つである発光制御線34が用いられるが(図2及びその説明参照)、この発光制御線34には、同じく図5に示すように、寄生抵抗RK、寄生容量CKが存在する。したがって、この発光制御線34に何らかの信号を供給すると、これら寄生抵抗RK、寄生容量CKの存在によって、その信号の波形が歪むことが考えられる。
【0036】
実際、発光制御信号GEL[i]が「矩形波」をもつ場合、信号供給源たる走査線駆動回路501の近くに位置する発光制御トランジスターTelに対しては、所望どおりの矩形波を持つ発光制御信号GEL[i]を供給することができるが、より遠くに位置する発光制御トランジスターTelに対しては、それが困難になる。すなわち、図5中上方に示すように、信号の立下り時点においても、立上り時点においても所定のレベルとなる時点が遅れる、などということが生じ得る。このようなことは、走査線駆動回路501から遠ざかれば遠ざかるほど、顕著になる傾向がある。このようであると、発光制御トランジスターTelをON状態に維持しておく時間が、各発光制御トランジスターTelに関してばらつくことになる。
【0037】
しかし、このようなことが前記〔iv〕の移動度補償動作に関して生じるのは具合が悪い。というのも、前述のように、第1実施形態に係る移動度補償動作は、各駆動トランジスターTdrの移動度の大小に応じたソース電位Vsの上昇の程度を調整することを前提とするとともに、この移動度補償動作を実行する時間を適当に設定することによって、最終的には、そのような移動度のバラツキを補償することを目的としているからである。
すなわち、図6に示すように、駆動トランジスターTdr〔A〕からからTdr〔C〕の順に従って移動度特性が悪くなる場合において、これら駆動トランジスターTdr〔A〕乃至Tdr〔C〕に電流を流す場合における減衰度は、この順番に大きくなる。そうすると、これら駆動トランジスターTdr〔A〕乃至Tdr〔C〕に関する移動度のバラツキを表象する、図6に示す各曲線については、それらが一定の範囲内に収まる領域XRがあることが想定される。
最適な移動度補償時間T1は、このような領域XRの存在を前提にして好適に設定される(図6参照)。
【0038】
しかし、このような最適な移動度補償時間T1が、図5を参照して説明したように、発光制御信号GEL[i]の歪みによって変化するならば、もはや最適な移動度補償動作を実行することは困難になる。図6においては、移動度補償時間が、当初はT1となるように意図されているにもかかわらず、それよりも短いT2なってしまうと、前記領域XRから外れた地点で、駆動トランジスターTdr〔A〕の移動度補償動作が完了してしまう場合が例示されている。このような場合における駆動トランジスターTdr〔A〕が、図5においては、走査線駆動回路501からより遠い同図の最右方に位置する発光制御トランジスターTelを含む単位回路P内に含まれるもの、でありうることを想定するのは容易である。
結局、このようなことになると、各駆動トランジスターTdrに関して最適な移動度補償が行われる可能性は極めて低いことになってしまう。
【0039】
この点、第1実施形態では、上述のように、発光制御信号GEL[i]に関しては、走査線駆動回路501及び発光制御線駆動回路502が、画像表示領域7aの両側端から、当該発光制御信号GEL[i]を同時入力するようになっているので、上述した不具合は実効的に解決される。というのも、この場合においては、図5に示すように、走査線駆動回路501から遠い発光制御トランジスターTelについても、発光制御線駆動回路502が、殆ど歪みのない発光制御信号GEL[i]を供給するからである。なお、この場合でも、走査線駆動回路501又は発光制御線駆動回路502から遠ざかれば遠ざかるほど、それら各々に由来する発光制御信号GEL[i]に歪みが生じる可能性はあるが、発光制御線駆動回路502が存在しない通常の場合(図5中上方参照)を想定すれば、第1実施形態の方が遥かに優位に立つことは明白である。
【0040】
このようにして、本実施形態によれば、走査線駆動回路501からみた発光制御トランジスターTelの位置の遠近に関わらず、当該発光制御トランジスターTelをON状態に維持する期間が好適に管理される。したがって、本実施形態における移動度補償動作は極めて実効的に奏されることになる。
【0041】
以上に述べたような有機EL装置100ないし単位回路Pによれば、次のような効果が奏される。
(1) まず、第1実施形態の有機EL装置100によれば、上述したように、少なくとも移動度補償動作にあたって、発光制御信号GEL[i]が画像表示領域7aの両側端から同時に入力するようになっていることから、最適な移動度補償時間に基づく、好適な移動度補償動作が実行される。これにより、各有機EL素子8の発光輝度のバラツキは抑制され、より高品質な画像表示が可能になる。
【0042】
(2) また、第1実施形態においては、移動度補償動作(特に、その実行時間)が、上述のように発光制御トランジスターTelの挙動1つ、あるいは、発光制御信号GEL[i]の挙動1つによって司られるようになっているので、前述した(1)の効果がより実効的に奏され、また、その制御態様の簡易化等が実現される。
例えば、従来技術の中においては、図2に示したような各種のトランジスターのON・OFF間の遷移を適当に関連づけることによって、移動度補償の実行時間を確定する手法がとられることがある。より具体的には、〔発明が解決しようとする課題〕の欄で述べたように、〔1〕発光制御トランジスターをオフ状態、データ書込用トランジスターをオン状態とする、〔3〕発光制御トランジスター及びデータ書込用トランジスターをともにオン状態とする、〔2〕発光制御トランジスターをオン状態、データ書込用トランジスターをオフ状態とする、という各動作を、〔1〕→〔3〕→〔2〕と行う場合においては、移動度補償時間は、発光制御トランジスターのオフ状態からオン状態への遷移(〔1〕→〔3〕)と、データ書込用トランジスターのオン状態からオフ状態への遷移(〔3〕→〔2〕)と、によって確定されることになる。
しかし、このように複数のトランジスターが関与する場合であると、それら各々のトランジスターを制御するための信号の各々に関して、図4に示したような歪み、あるいは遅延等が生じることを懸念しなければならない。その結果、移動度補償時間の管理にあたっては、両信号の関係如何(例えば、どちらの遅延が大きいのか等々)をも考慮に入れなければならないことになるから、移動度補償時間の最適性を維持することには、より大きな困難が伴うことになる。
【0043】
このような観点から見て、本実施形態は、より優位に立つ。というのも、既に述べたように、本実施形態においては、移動度補償時間は、発光制御信号GEL[i]の挙動1つによって定まるようになっているから、上述のような複数の信号の関係等に配慮する必要は特になく、その制御は、あるいは移動度補償時間の最適性の維持は、比較的容易に実現可能だからである。
【0044】
なお、上述のようであるとはいえ、本発明は、前記のような複数のトランジスターの関与によって、移動度補償時間が画定される態様を積極的に排除するわけではない。
ただし、このような場合においては、前述の例を図2に即していえば、発光制御トランジスターTel及び第1トランジスターTr1(即ち、前述の例では「データ書込用トランジスター」)の双方の開閉時間が正確に管理されなければならないことになる。したがって、かかる態様では、発光制御信号GEL[i]だけでなく、走査信号GWRT[i]も図1、図3又は図5に示すように、画像表示領域7aの両側端から入力されるようになっているのが好ましい。
【0045】
<第2実施形態>
以下では、本発明に係る第2実施形態について図7を参照しながら説明する。なお、この第2実施形態は、走査線駆動回路について特徴があり、それ以外の点については、上記第1実施形態の構成及び動作ないし作用等と同様である。したがって、以下では、前記相違点について主に説明を行うこととし、それ以外の点についての説明は適宜簡略化し、あるいは省略する。また、図7においても、第2実施形態の特徴を説明するために必要な要素以外の要素についての図示は、適宜省略されている。
【0046】
この第2実施形態では、まず、図7に示すように、走査線駆動回路が、単位回路Pを駆動するための各信号、即ち走査信号GWRT[i]、第1補償制御信号GINI1[i]、第2補償制御信号GINI2[i]、及び発光制御信号GEL[i]のそれぞれのための各駆動回路を含む構成をもつ。すなわち、走査信号GWRT[i]用の書込走査線駆動回路504B、第1及び第2補償制御信号GINI1[i]及びGINI2[i]用の第1及び第2補償制御線駆動回路504A(以下、単に「補償制御線駆動回路504A」と略称することがある。)、並びに、発光制御信号GEL[i]用の発光制御線駆動回路503A及び503Bである。
なお、図7においては、第1及び第2補償制御信号GINI1[i]及びGINI2[i]用の駆動回路については、図面の複雑化等を避けるため、便宜上、一体的に図示している(図7においては、「GIN線駆動回路」と表記している。以下、その他の図においても同じ。)。
また、書込走査線駆動回路504Bは、図7においては、「GWRT線駆動回路」と表記されている(以下、その他の図においても同じ。)。
【0047】
以上のうち、発光制御線駆動回路503A及び503Bは、図7に示すように、画像表示領域7aの両側部に隣接して設けられている。そして、発光制御線34は、これら発光制御線駆動回路503A及び503Bの双方に接続されている。したがって、この第2実施形態においても、発光制御信号GEL[i]は画像表示領域7aの両側端から入力されるようになっており、このことについては、第1実施形態と何ら変わりはない。
他方、補償制御線駆動回路504Aは、図7中左側に位置する発光制御線駆動回路503Aの図中更に左側に配置され、書込走査線駆動回路504Bは、図7中右側に位置する発光制御線駆動回路503Bの図中更に右側に配置されている。
【0048】
このような第2実施形態によっても、前述のように、発光制御信号GEL[i]が画像表示領域7aの両側端部から入力するようになっていることから、上記第1実施形態によって奏された作用効果と本質的に異ならない作用効果が奏されることは明白である。
【0049】
しかも、この第2実施形態によれば、以下のような効果も奏される。すなわち、この第2実施形態では、上述のように、発光制御線駆動回路503A及び503Bは、単位回路Pを駆動するために必要な各制御信号用の駆動回路(504A,504B)からみて、より画像表示領域7aに近付けられるようにして配置されている。したがって、このような配置関係にある発光制御線駆動回路503A及び503Bから出力される発光制御信号GEL[i]に歪みが生じるおそれは、第1実施形態にも増して、低減されているということができる。
このように、第2実施形態によれば、上記第1実施形態によって奏された作用効果以上の作用効果が奏される。
【0050】
なお、一般に、走査線駆動回路には、シフトレジスタ、レベルシフタ及びバッファ等の各種要素が備えられることが通常であるが、先に述べた、第2実施形態に特有の効果を得るためには、これらすべての要素が画像表示領域7aに隣接している必要はない。
すなわち、図8においては、発光制御線駆動回路503A及び503Bが、シフトレジスタ41、レベルシフタ42及びバッファ43から構成される例であって、これらのうちバッファ43のみが画像表示領域7aに隣接して配置される例が示されている。
このように、最終段の出力回路たるバッファ43だけでも、画像表示領域7aに隣接する位置に配置されているのであれば、レベルシフタ42からそこに至るまでの間の配線に関して例えば図示するような寄生容量CK・寄生抵抗RKが存在するとしても、発光制御信号GEL[i]に生じる歪みはいわば矯正可能である。
したがって、このような図8の態様によっても、上述したのと同様の作用効果は奏される。なお、このような効果を更に実効的に享受するためには、バッファ43のサイズは、できるだけ大きいほうが望ましい。より具体的には、当該バッファ43のサイズは、他の制御信号に係るバッファ、即ち書込走査線駆動回路504B又は補償制御線駆動回路504Aに含まれるバッファのサイズよりも大きいことが好ましい。
【0051】
ちなみに、図8に示す寄生容量CK・寄生抵抗RKの発生原因となり得る素子基板7上の要素としては、例えば図7に示す電源線119、あるいは静電保護回路を構成する各種回路要素・配線等々がある。前者の場合、図7とは異なって、発光制御線駆動回路503A又は503Bは、その構成要素たるレベルシフタ42とバッファ43との間に、電源線119をいわば挟み込むようにして配置されることになるが、そのような場合であっても、上記第2実施形態に特有の効果は奏されるのである。
【0052】
なお、この電源線119には、陽極用電源線(図2のVel参照)、あるいは陰極用電源線(図2のVCT参照)等が含まれ得るが、図7においては、簡単のため、単なる一本の配線であるかのような図示がなされている。ちなみに、これら陽極用及び陰極用電源線は、そのうちの一方が、図7中、素子基板7の図中左辺又は右辺に沿って上下方向に延在するように設けられ、他方が、同じく上辺及び下辺に沿って左右方向に延在するように設けられる、などというように、素子基板7上の別々の領域に備えられることがある。この場合、図8に示すレベルシフタ42及びバッファ43は陽極又は陰極用の電源線を1本だけ跨ぐ(これに対して、電源線119に両者が含まれる形態では2本跨ぐ)ということになるが、いずれにしても、このような差異は、上述した作用効果に本質的な影響を与えるものではない。重要なのは、寄生容量CK・寄生抵抗RKの影響による信号の歪みの有無にあるからである。なお、これと同様のことは、後述する第3実施形態においてもあてはまる。
【0053】
また、この第2実施形態において、発光制御線駆動回路503A又は503B、あるいはバッファ43を、「画像表示領域7a」に近接して設けるという場合、以下の点に注意を要する。
すなわち、画像表示領域7aは、上述のように、複数の有機EL素子8が配列されている領域を意味するが、この場合、当該複数の有機EL素子8のうちには、発光に全く関与しないもの(即ち、表示画像の構成に関与しないもの)が、当該画像表示領域7aの最外郭を形作るように、あえて配置されることがある。図8では、そのような、いわゆるダミーとしての単位回路PD(以下、「ダミー回路PD」という。)が破線でもって表現されている。このような場合、「画像表示領域」という文言を形式的に捉えれば、図8中、実線でもって表されている単位回路Pの最外郭を繋いでいくことによって形作られる領域が想定されることになるが、本発明にいう「画像表示領域」の解釈に関しては、このような形式的な理解は許されない。要するに、「画像表示領域」という場合であっても、その中に、図8に示すようなダミー回路PDが含まれていてよいのである。
【0054】
<第3実施形態>
以下では、本発明に係る第3実施形態について図9を参照しながら説明する。なお、この第3実施形態も、走査線駆動回路について特徴があり、それ以外の点については、上記第1実施形態の構成及び動作ないし作用等と同様である。したがって、以下では、前記相違点について主に説明を行うこととし、それ以外の点についての説明は適宜簡略化し、あるいは省略する。
【0055】
この第3実施形態では、図9に示すように、第2実施形態と同様、走査線駆動回路は、単位回路Pを駆動するための各信号に対応する書込走査線駆動回路504B、補償制御線駆動回路504A、及び、発光制御線駆動回路503A及び503Bを含む。
そして、第3実施形態においては特に、これら各駆動回路のうち、書込走査線駆動回路504Bが、図9に示すように、電源線119の外側に位置する。したがって、書込走査線駆動回路504Bに接続される書込走査線31は、電源線119を越え、更に図9中右側に位置する発光制御線駆動回路503Bを越えて、はじめて画像表示領域7aに到達する。
【0056】
このような第3実施形態によれば、まず、発光制御信号GEL[i]が画像表示領域7aの両側端から入力することは、上記第1及び第2実施形態と何ら変わりはないから、それに係る効果が、同様に奏されることは明白である。
【0057】
しかも、この第3実施形態によれば、以下のような効果も奏される。すなわち、この第3実施形態では、上述のように、書込走査線駆動回路504Bが電源線119の外側に配置されることで、そこに接続される書込走査線31に関して、より多くの寄生容量・寄生抵抗が生じる可能性が高くなる。そうすると、この書込走査線31を伝送路とする走査信号GWRT[i]は、より大きな歪を受ける可能性が大きくなることになる(図5参照)。
ここで、走査信号GWRT[i]については、いわゆるフィードスルーの影響があることが考慮されなければならない。すなわち、走査信号GWRT[i]は、図4を参照して説明したように、ハイレベル及びローレベル間を遷移するが、このような遷移は、容量素子C1あるいは有機EL素子8に印加される電圧に変動をもたらすおそれがある。そして、このようなフィードスルー現象は、走査信号GWRT[i]に係る前記遷移のために必要となる時間、あるいはその遷移帯の幅が小さくなればなるほど大きくなると考えられる。
しかるに、第3実施形態によれば、前述のように、走査信号GWRT[i]は、より大きな歪を受ける可能性が大きいことから、前述の遷移時間あるいは遷移帯の幅はより大きくなる可能性が大きくなる。したがって、前記フィードスルー現象が生じる可能性は極めて小さくなるのである。
このように、第3実施形態によれば、走査信号GWRT[i]の状態遷移に応じた単位回路P内の電位変動のおそれ(即ち、フィードスルー現象が発生するおそれ)が低減され、もって、より高品質な画像を表示することが可能になる。
【0058】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明に係る電気光学装置は、上述した形態に限定されることはなく、各種の変形が可能である。
例えば、上記各実施形態においては、単位回路Pには、図2に示すように、第2及び第3トランジスターTr2及びTr3が含まれているが、本発明は、かかる形態に限定されない。例えば、図10に示すように、これら各トランジスター(Tr2,Tr3)が省略された単位回路が用いられてもよい。この場合、前述した〔i〕から〔v〕までの各動作のうち、第2及び第3トランジスターTr2及びTr3、あるいは、第1及び第2補償制御信号GINI1[i]及びGINI2[i]が関与する動作は行われなくなり、また、図7等に示す補償制御線駆動回路504Aは不要となる。とはいえ、これらのことが、本発明の本質的部分に影響を与えるわけではないことは明白である。
このように、本発明は、上記各実施形態、あるいは各図面に示した形態以外の様々な形態の幅広い採用可能性をもつ。
【0059】
<応用>
次に、上記実施形態に係る有機EL装置100を適用した電子機器について説明する。
図11は、上記実施形態に係る有機EL装置100を画像表示装置に利用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての有機EL装置100と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。
図12に、上記実施形態に係る有機EL装置100を適用した携帯電話機を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての有機EL装置100を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、有機EL装置100に表示される画面がスクロールされる。
図13に、上記実施形態に係る有機EL装置100を適用した情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistant)を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての有機EL装置100を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が有機EL装置100に表示される。
【0060】
本発明に係る有機EL装置が適用される電子機器としては、図11から図13に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等が挙げられる。
【符号の説明】
【0061】
100……有機EL装置,7……素子基板,7a……画像表示領域,8……有機EL素子,3……走査線,31……書込走査線,32,33……第1,第2補償制御線,34……発光制御線,501……走査線駆動回路,502,503A,503B……発光制御線駆動回路,504A……補償制御線駆動回路,504B……書込走査線駆動回路,41……シフトレジスタ,42……レベルシフタ,43……バッファ,6……データ線,106……データ線駆動回路,113,119……電源線,GWRT……走査信号,GINI1……第1補償制御信号,GINI2……第2補償制御信号,GEL……発光制御信号,P……単位回路,PD……ダミー回路,Tdr……駆動トランジスター,Tel……発光制御トランジスター,Tr1〜Tr3……第1〜第3トランジスター,C1……容量素子,Vel……高電源電位,VCT……低電源電位,VINI……初期化電位,VST……初期化電位,Vg……ゲート電位,Vdata……データ電位,Vs……ソース電位,Vth……閾値電圧,CK……寄生容量,RK……寄生抵抗


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の走査線及び複数のデータ線の交差に対応して設けられた複数の単位回路と、前記複数の走査線の各々に前記単位回路を制御するための制御信号を供給する走査線駆動回路と、を含む電気光学装置であって、
前記複数の単位回路の各々は、
駆動電流の大きさに応じた光量で発光する発光素子と、
前記データ線を介して供給されるデータ電位がゲートに供給されることに応じて前記駆動電流を出力する駆動トランジスターと、
前記駆動トランジスター自身に前記駆動電流を流すか否かを司る発光制御トランジスターと、
一端が前記駆動トランジスターのゲートに接続され、他端が前記データ線に接続されたスイッチング素子と、
を含み、
前記複数の走査線の各々は、
当該走査線の各々の延在方向に沿って並ぶ前記発光制御トランジスターのゲートに、当該発光制御トランジスターの導通及び非導通状態間の遷移を指令する、前記制御信号としての発光制御信号 の伝送路となる発光制御線を含み、
前記走査線駆動回路は、
前記発光制御線の一端に接続された第1発光制御線駆動回路と、
前記発光制御線の他端に接続された第2発光制御線駆動回路と、
を含み、
これら第1及び第2発光制御線駆動回路は、所定のタイミングにおいて、
前記発光制御線の両端から、当該発光制御線に、前記発光制御トランジスターを導通状態とする前記発光制御信号を供給する、
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記複数の走査線の各々は、前記発光制御線のほか、
前記駆動トランジスターのゲートに前記データ電位を供給するか否かを決める前記スイッチング素子の導通及び非導通状態間の遷移を指令する、前記制御信号としての書込信号 の伝送路となる書込制御線を含み、
前記第1及び第2発光制御線駆動回路は、
前記書込制御線に、前記スイッチング素子を導通状態とする前記書込信号が供給されている最中において、
前記発光制御線の両端から、当該発光制御線に、前記発光制御信号を供給する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
複数の走査線及び複数のデータ線の交差に対応して設けられた複数の単位回路と、前記複数の走査線の各々に前記単位回路を制御するための制御信号を供給する走査線駆動回路と、を含む電気光学装置であって、
前記複数の単位回路の各々は、
駆動電流の大きさに応じた光量で発光する発光素子と、
前記データ線を介して供給されるデータ電位がゲートに供給されることに応じて前記駆動電流を出力する駆動トランジスターと、
前記駆動トランジスター自身に前記駆動電流を流すか否かを司る発光制御トランジスターと、
一端が前記駆動トランジスターのゲートに接続され、他端が前記データ線に接続されたスイッチング素子と、
を含み、
前記複数の走査線の各々は、
当該走査線の各々の延在方向に沿って並ぶ前記発光制御トランジスターのゲートに、当該発光制御トランジスターの導通及び非導通状態間の遷移を指令する、前記制御信号としての発光制御信号 の伝送路となる発光制御線と、
前記駆動トランジスターのゲートに前記データ電位を供給するか否かを決める前記スイッチング素子の導通及び非導通状態間の遷移を指令する、前記制御信号としての書込信号 の伝送路となる書込制御線と、
を含み、
前記走査線駆動回路は、
前記発光制御線の一端に接続され、前記発光制御信号を出力する発光制御線駆動回路と、
前記書込制御線の一端に接続され、前記書込信号を出力する書込制御線駆動回路と、
を含み、
前記発光制御線駆動回路は、
前記複数の単位回路が配列されている領域である画像表示領域に隣接するように配置され、
前記書込制御線駆動回路は、
前記発光制御線駆動回路を中心にみて前記画像表示領域が存在する位置とは反対側の位置に配置される、
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項4】
当該電気光学装置は前記駆動電流の供給源としての電源線を更に備え、
前記電源線は、
前記発光制御線駆動回路と前記画像表示領域との間には配置されない、
ことを特徴とする請求項3に記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記電源線は、
前記発光制御線駆動回路と前記書込制御線駆動回路との間に配置される、
ことを特徴とする請求項4に記載の電気光学装置。
【請求項6】
前記発光制御線駆動回路は、前記発光制御信号を出力するバッファを含み、
当該発光制御線駆動回路は、
前記バッファが前記画像表示領域に隣接するように配置されることによって、
当該画像表示領域に隣接するように配置される、
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の電気光学装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の電気光学装置を備える、
ことを特徴とする電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−266715(P2010−266715A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118351(P2009−118351)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】