説明

電気制御調光素子

【課題】赤外線の透過率を電気的に制御する調光素子を提供する。
【解決手段】第1透明部材12を含む第1基体10と、第2透明部材22を含む第2基体20と、電解質層30とを備える電気制御調光素子1000が提供される。典型的な電気制御調光素子においては、第1透明部材12のある面12が二酸化バナジウムを主成分として含む調光層100により被覆され、第2透明部材22のある面が透明電極膜により被覆され、そして電解質層30が、第1基体10の調光層100と第2基体20の透明電極膜とにより挟まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気制御調光素子に関する。さらに詳細には、本発明は、電解質を用い二酸化バナジウム系材料の赤外線の透過性を制御する電気制御調光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の住む建物や車両の採光用の窓において、例えば視界を損なうことなく、太陽光の熱線を制御することは、快適な居住環境を得るために重要である。夏季において、太陽光の熱線を遮断することが可能であるなら、冷房などの電気エネルギー消費を削減する効果が期待できる。また、冬季においては、居住空間での熱の外部放射を効果的に抑制できれば、これも暖房などの電気エネルギー消費を削減する効果が期待できる。ところが、建物や車両などに用いられる窓材は、一般に、太陽光の熱線つまり赤外線の透過率を制御することができない。このため、可視光領域で透明であり、熱線(赤外線)領域の透過率を制御する技術が省エネルギー技術として注目を集めている。
【0003】
現在、赤外線の透過率を制御する調光素子として二酸化バナジウム材料を用いることが提案されている(例えば、特許文献1「高性能二酸化バナジウム系自動調光材料及び調光材料の性能向上方法」、特許文献2「高性能自動調光遮熱ガラス調光層膜厚の決定方法」、および特許文献3「高断熱自動調光ガラス及びその製造方法」)。これらに提案されている調光素子は、いずれも、調光素子がその環境温度に応じて太陽光からの熱線つまり赤外線を遮断するものである。例えば、屋外の温度が一定の温度(以下「遮断温度」という)を超えると、太陽光の赤外線が遮断される。この作用を利用して、従来の調光素子は室内に入射する熱線の量を減少させ、室内温度の上昇を抑制し、快適な室内温度を実現しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−171759号公報
【特許文献2】特開2006− 30327号公報
【特許文献3】特開2006−206398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した二酸化バナジウム材料を用いる調光素子には、調光素子の遮断温度が製造過程において決定されてしまうという課題がある。具体的には、二酸化バナジウム材料は、概ね340K(約67℃)付近で、それよりも低温の単斜晶の結晶構造から、それよりも高温の正方晶へと結晶構造を変化させる性質がある。高温側の正方晶では、金属的な電気伝導が実現することから、赤外線を反射する性質が生じ、340Kより高温側において赤外線を遮断する性質が発現する。
【0006】
実際に調光素子を使用する際には、建物に用いる場合であっても、部屋の配置や構造は、例えば建物ごとに異なっている。また、同じ建物であっても、部屋毎に適切な遮断温度は異なる。さらに、体感的に暑さや寒さを感じる温度は、季節により異なるばかりか、体型や感性などにより個人差も大きく、また、同じ個人でも体調により変化する。したがって、本来、上記遮断温度は、設置後に各建物の特性や居住する各個人の感じ方などに適合させ調整することが望ましい。それにもかかわらず、上記各提案の従来型の二酸化バナジウム材料を用いる調光素子では、調光素子の製造業者が設定する遮断温度を事後的に変更することはできない。このように、従来の調光素子は、設置される各家屋、各部屋や、暑さまたは寒さを感じる季節による違いや、個々人の体感等に基づく意図に柔軟に対応した調光制御ができないという問題がある。
【0007】
本発明は上述した問題の少なくともいずれかを解決することを課題とする。すなわち、本発明は、調光制御をより柔軟に行ないうる電気制御調光素子を提供することにより、調光素子を適用する任意の建物または機器の高性能化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明者らは、二酸化バナジウム(VO)と電解質とを組み合わせて採用することにより、上記課題が克服される調光素子が実現されることを見出し、本発明を創出するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のある態様においては、少なくともある面が、二酸化バナジウムを主成分として含む調光層により被覆されている第1透明部材を含む第1基体と、少なくともある面が透明電極膜により被覆されている第2透明部材を含む第2基体と、前記第1基体の前記調光層と前記第2基体の前記透明電極膜とにより挟まれている電解質層と備える電気制御調光素子が提供される。
【0010】
また、本発明のある態様においては、ある面の少なくとも一部が二酸化バナジウムを主成分として含む調光層により被覆されており、該面の他の一部が電極膜により被覆されている第1透明部材を含む第1基体と、第2透明部材を含み、該第1基体の前記面に対向して配置される第2基体と、前記第1基体の前記調光層と前記第2基体とにより挟まれている電解質層と備える電気制御調光素子が提供される。
【0011】
本発明の上記各態様の調光素子においては、第1基体と第2基体との間に電解質層を有する素子構造の調光素子が形成される。上記各態様の調光素子の作用は、二酸化バナジウム(VO)である調光層と透明電極膜または電極膜との間に適切な電圧を印加することにより、波長が概ね1000nm以上の領域の赤外線の透過率を減少させる、というものである。なお、この電圧は、必ずしも常時印加し続ける必要は無い。このような電圧印加操作により、調光層であるVOを通過する太陽光のうち、特に熱線(赤外線)の透過率を制御することが可能となる。
【0012】
本発明の各態様において、「電解質層」とは、溶媒となる媒体(液体に加え、高分子媒体も含む)に電解質が溶解または分散されたものや、イオン性液体などを含む。電解質層は調光層であるVO2に大きな電界印加効果をもたらすために用いる。
【0013】
そして、本発明の態様に用いられる透明部材や透明電極膜は、典型的には、可視域において透明または透光性を有し、赤外域においても、少なくとも一定程度、赤外線透過性を有する部材や電極膜を意味している。また、本出願において説明される透明導電性材料についても、電極として機能する膜厚に形成された場合に一定程度、赤外線透過性を有している。
【0014】
なお、本発明を説明する場合に、「調光」とは、主として赤外域において透過率を調整することを意味しており、可視光の調整が付随的に生じることはありうるものの、それを目的とはしていない。また、本出願全般に、「からなる」とはそれにより特定される少なくとも1種の物質または組成を主たる成分として有しており、該組成が本願発明の趣旨を逸脱しない範囲において不純物を含みうる趣旨である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のいずれかの態様によれば、電圧により透過率を制御しうる調光素子が提供される。かかる調光素子により、例えば、住居用の窓から侵入する熱線(赤外線)を、建物の特性、季節による違い、個人の嗜好、その時点での体調といった種々の状況に合わせて柔軟に制御することが可能な調光素子を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のある実施形態において提供される電気制御調光素子の基本的な構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明のある実施形態の本実施形態において提供される典型的な電気制御調光素子の構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明のある実施形態において提供される別の典型的な電気制御調光素子の構成を示す概略断面図である。
【図4】本発明のある実施形態の電気制御調光素子において実測された電圧により制御された可視および近赤外の透過スペクトルの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0018】
<第1実施形態>
[1 調光素子としての動作]
[1−1 調光素子の構成]
図1〜図3に、本実施形態において提供される電気制御調光素子の基本的な構成と、典型的な二つの構成を示す。また、図4に、典型的な調光特性を示す。図1は、本実施形態において提供される電気制御調光素子1000の基本的な構成を示す概略断面図である。電気制御調光素子1000は、概して、第1基体10と、第2基体20と、第1基体10と第2基体20とに挟まれた電解質層30とを備えている。
【0019】
第1基体10は、少なくともある面の上に調光層100を備えている。その調光層100は、二酸化バナジウム(VO)を主成分として含んでいる。そして、主として赤外線の領域において透過性を制御する作用を持つ。第1基体10は、その面が調光層100によって完全に被覆されていても、また、一部のみ被覆されていてもよい。
【0020】
図2は、本実施形態において提供される典型的な電気制御調光素子である電気制御調光素子1200の構成を示す概略断面図である。すなわち、電気制御調光素子1200の第1基体10Aは、第1透明部材12の一方の面12Sすなわち図2に示した紙面上の上方の面の大半が、調光層100Aにより被覆されている。この電気制御調光素子1200の第2基体20Aは、第2透明部材22と、その一方の面の大半を被覆している透明電極膜24を有している。電気制御調光素子1200は、動作の際には、電圧印加手段42に接続され、透明電極膜24と調光層100Aとの間に電圧が印加される。電気制御調光素子1200において電解質層30として採用される電解質の典型例は、イオン性液体32である。
【0021】
図3は、本実施形態において提供される別の典型的な電気制御調光素子である電気制御調光素子1400の構成を示す概略断面図である。本実施形態の電気制御調光素子は、図2の電気制御調光素子1200とは別の典型的な構成の電気制御調光素子1400により電気制御調光素子として動作させることが可能である。電気制御調光素子1400は、第1基体10Bと、第2基体20Bと、そして、電解質層30として、それらに挟まれたイオン性液体32とを備えている。ただし、第1基体10Bおよび第2基体20Bは、電気制御調光素子1200の第1基体10Aおよび第2基体20Aとは構成が異なっている。具体的には、図3に示すように、例えば第1透明部材12の一方の面12Sの少なくとも一部が調光層100Bにより被覆されており、その面12Sの他の一部が電極膜14Bにより被覆されている。図3では、第1透明部材12の面12Sのうち、図の左方および右方に記載した互いに重ならない領域12R1および領域12R2それぞれに、調光層100Bおよび電極膜14Bが形成されている。このため、領域12R1において、イオン性液体32は調光層100Bと第2基体20Bとにより挟まれている。なお、面12Sのうち、領域12R1および領域12R2の間には、互いの間での電気的な短絡を防止する分離領域12Qが設けられている。第2基体20Bは第2透明部材22を含んでおり、第1基体10Bの第1基体の面12Sに対向して配置される。
【0022】
電気制御調光素子1400を動作させるために、電圧印加手段42が、調光層100Bと電極膜14Bとの間に接続される。接続先となる調光層100Bと電極膜14Bは、いずれも、第1基体10Bに形成されており、第2基体20Bには、直接電気的に接続される部材は設けられていない。
【0023】
電気制御調光素子1400において一方の基体のみに調光層100Bと電極膜14Bが形成され赤外線を制御する動作が可能となることはいくつかの面で利点といえる。一つには、電気制御調光素子1400の構造では、電気制御調光素子1200の第2基体20Aに比して、第2基体20Bの構成を簡易なものとすることができる。また、領域12R2においては赤外線の透過率が変調されず、したがって、電極膜14Bは必ずしも赤外透過性である必要ない。
【0024】
なお、赤外線の透過率が変調される領域12R1において、透過する光が調光層100B以外の電極を通過しないことは、それ自体がメリットとなる場合もある。すなわち、図2に示した電気制御調光素子1200の構造を採用する場合の透明電極膜24には、調光層100Aの透過率変化が生じる赤外線の波長域において、透明電極膜24が一定程度透過することが求められる。このため、透明電極膜24は、その波長域において透過性の高い材質が成膜されている必要がある。これに対し、電気制御調光素子1400の領域12R1の領域においては、光線が通過する経路に、透明電極膜24のような赤外線の透過に影響を与えかねない膜は配置されない。このため、電気制御調光素子1400では、調光層100Bの赤外線の変調能力が発揮されやすいという利点がある。
【0025】
なお、電気制御調光素子1200と電気制御調光素子1400のいずれの構造であっても、赤外線の透過率を制御する機能はほぼ同様に実現される。このため、いずれの構造を採用するかは、種々の条件を勘案して選択することができる。以下の説明において、電気制御調光素子1200と1400の双方に適用される説明には、これらを典型例とする電気制御調光素子1000の説明として記載する。
【0026】
[1−2 調光素子の動作]
電気制御調光素子1200および電気制御調光素子1400を典型例とする電気制御調光素子1000の動作は次のとおりである。電気制御調光素子1200を例に説明すれば、例えば調光層100Aを基準にしてプラス数ボルト程度の直流電圧が透明電極膜24に印加される。すると、調光層100Aは、その電圧の印加に伴って、主として赤外線の波長域における透過率を変化させる。これは、イオン性液体32と調光層100Aとの界面に誘起される、非常に高い面密度の電荷の影響によるものである。つまり、正電圧の印加に伴ってイオン性液体32中の正イオンが調光層100Aの表面に移動し、同表面に非常に高い面濃度の正イオンが蓄積される。その結果、その正電荷を打ち消す負電荷が調光層100A表面に誘起され、調光層100Aの材質である二酸化バナジウムの電子相が絶縁体相から金属相に相転移を起こす。この転移により導電率が増した調光層100Aでは、電子の集団運動による電磁波の吸収または反射が生じるため、電磁波の透過率が低下する。この電磁波の透過率は、金属の伝導理論から、二酸化バナジウムの電子相が示すプラズマ周波数と関連する周波数の境界で変化する。この透過率の変化が、二酸化バナジウムでは赤外線の領域において生じるのである。なお、この相転移は結晶系の変化を伴っており、一度転移が生じた後は電圧を遮断しても状態が保存されるため、電圧は必ずしも常時印加し続ける必要はない。
【0027】
図4は、電気制御調光素子1200において実測された電圧により制御された可視および近赤外の透過スペクトルの変化を示すグラフである。可視波長範囲つまり800nm以下の波長範囲においては、電圧の印加前後で、調光層100Aには透過率の変化は少ない。これに比べ、より長波長側、特に、1000nmを超える赤外域においては、わずか1Vの直流電圧の印加により調光層100Aの透過率が大きく低下している。この変化は、原理的には1ナノ秒以下で実現する。このように、電気制御調光素子1000の基本構成を有する電気制御調光素子1200は、赤外域の透過率を電圧によって大きく変化させる。このスペクトルに示されるような透過率の変調は、電気制御調光素子1400においても同様に観察される。
【0028】
[2 電気制御調光素子の作製方法]
次に、電気制御調光素子1000の作製方法について説明する。説明のための例示として電気制御調光素子1200の作製方法を説明する。
【0029】
第1透明部材12としては、例えば二酸化チタンなどの基板を採用することができる。また、第2透明部材22は、例えばガラスなどの透明または透光性基板を採用することができる。調光層100Aは二酸化バナジウム(VO)を主成分とする膜である。また、透明電極膜24には、例えばITO等の透明導電性材料が採用される。調光層100Aや透明電極膜24は、第1透明部材12または第2透明部材22の面の上に任意の形成方法により形成する。この形成方法は、例えば、パルスレーザー堆積法(PLD)や、分子線エピタキシー法(MBE)、化学気相成長堆積法(CVD)、スパッタ法、ゾルゲル法、熱蒸着法、電子線蒸着法などとすることもできる。調光層100Aや透明電極膜24が形成された第1基体10Aや第2基体20Aは、双方の成膜面を互いに対向させて、図示しない絶縁性のスペーサーやシール材などによりイオン性液体32のための薄層空間を形成するようにして固定する。なお、調光層100Aと透明電極膜24との間の薄層空間を保つための絶縁性のスペーサーとしては、樹脂球やレジストなどが好適である。
【0030】
そして第1基体10Aと第2基体20Aの間の薄層空間には、電解質層30を導入する。典型的な電解質層30は、イオン性液体32である。イオン性液体32として採用可能なイオン性液体は、典型的には、アニオンとカチオンのみからなる常温で融解している塩である。なお、本出願において、「イオン性液体(ionic liquid)」とは、イオン液体や常温溶融塩(room temperature molten salt)ともよばれる、室温においても液体として存在する塩をいう。こうして作製された電気制御調光素子1200においては、電圧印加手段42を接続し適当な電圧を印加することによって、例えば図4に示したように透過率を変調することが可能となる。
【0031】
電気制御調光素子1200を例に説明した上記作製方法は、適切な変更によって、電気制御調光素子1400の作製のためにも適用することが可能である。例えば、調光層100Bは、第1透明部材12の領域12R1にのみ形成されている。このため、例えば適当なマスクにより調光層100Bが形成される領域を領域12R1のみに制限し、またフォトリソグラフィー工程によってパターニングすることにより、調光層100Bの領域を制限する。そして、同様に適当な手段により、電極膜14Bもパターニングして形成すれば図3に示した構造の電気制御調光素子1400を作製することが可能である。
【0032】
[3 調光素子としての利点]
電気制御調光素子1000の調光素子は、赤外域における光の透過率を制御する調光素子としてみた場合いくつかの利点を有している。一つは、上述したように、電気的に赤外線の透過率を容易に制御しうる点である。しかもその際、電気制御調光素子1200における調光層100Aと透明電極膜24などの電極の間にはほとんど電流が流れない。流れる電流は、イオン性液体32が調光層100Aに近接する表面に電荷を生成したりその電荷を解消したりするわずかな電流のみである。電池起電力程度の低電圧により制御可能であるため、例えば窓を構成する部分に埋め込みタイプのボタン電池を使用するといった簡易な構成により電気制御調光素子1000を動作させることが可能となる。しかも、目的の透過率への制御を終えると、例えば電圧印加手段42を取り外してしまっても構わない。使用時のほとんどの期間に電力を要しない電気制御調光素子1000の性質は、省ネルギー対策のための手段として都合が良い。このように、電気制御調光素子1000は、電気的な透過率の制御が容易であるばかりか、ごくわずかな電力消費に抑制できるという利点も持つ。
【0033】
なお、図1〜図4を参照して説明した電気制御調光素子1000等の構成は、原理面を説明するためのものである。電気制御調光素子1000は、本出願に記載されない任意の機器の一部として採用され効果を発揮することもあるし、例えば適当な付加部材と組み合わせることによって、一層の高機能を実現するために利用されることもある。例えば、光学的機能を高めたり、透過率の制御機能を高めたりする工夫を行なうことができる。このためには、例えば、電気制御調光素子1000における第1透明部材12および第2透明部材22の外部に面した部分やその一部に、例えば反射防止膜その他の追加の光学機能層が形成される。このような光学機能層として追加可能なものには、例えば追加の透過率制御層を設けることも含まれている。
【0034】
[4 調光素子の高機能化]
以上に説明した本実施形態の電気制御調光素子1000は、上述した各利点を保ち種々の改良または変形を行なうことが可能である。特に、調光層100や電解質層30については、様々な高機能化を行なうことが可能である。
【0035】
[4−1 調光層の高機能化]
本実施形態の電気制御調光素子1000において、調光層100は、二酸化バナジウムを主成分とする任意の材質から適宜選択することができる。例えば二酸化バナジウムに金属元素または非金属を添加することにより、調光層100の制御電圧による調光特性を変更することが可能である。この場合、添加物元素をAと記せば、調光層100として適する材質は、A1−x2−δと表現される。ここで、xは0≦x≦0.1の一の数であり、δは0≦δ≦0.1の一の数である。
【0036】
例えば、Aがタングステン(W)である場合、その調光電圧が低電圧側となるように調節することが可能である。しかも、タングステン濃度を調整することにより制御電圧の範囲をある範囲で設定することが可能となる。このため、Aがタングステンである場合には、印加電圧を広い電圧範囲から選択しうる利点が生じる。
【0037】
なお、本実施形態において、添加物元素Aは、タングステンのみに限定されるものではない。電圧による透過率の制御を容易にするために、例えば、Zr、Nb、Mo、Hf、Taなどを添加することが有用である。これらはタングステンと同様に制御電圧の範囲を調整するために用いられる。
【0038】
さらに、調光を担う透明基体である第1透明部材12または第2透明部材22には、色調調整のための元素を添加することも有用である。
【0039】
調光層100である二酸化バナジウムが形成される透明部材つまり第1透明部材12は、各種の材質を採用することが可能である。典型的には、第1透明部材12が、二酸化バナジウムと同じ結晶構造を備える材料から選択され、また、二酸化バナジウムのものに近い構造を備える材料からも選択される。ここで、「同じ結晶構造」とは、結晶構造が同種であることを含む。また、「近い結晶構造」とは、点群として指定される結晶構造は異なるものの格子整合すること、あるいは、格子定数が異なるもののコヒーレントな結晶成長がある程度可能であること、のいずれも含む。特に、第1透明部材12はルチル構造とすることができる。このルチル構造を有する物質は二酸化チタン(TiO)、二酸化錫(SnO)、またはそれらの固溶体からなる物質とすることができる。二酸化バナジウムと同じまたは近い結晶構造を有する材料に対しては、二酸化バナジウムの形成が容易となる利点がある。
【0040】
上述した二酸化バナジウムに近い結晶構造を有している第1透明部材12を採用する電気制御調光素子1000においては、その第1透明部材12の材料として、酸化アルミニウム(Al)、二酸化シリコン(SiO)、酸化チタン(Ti)、酸化鉄(Fe)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga)、酸化インジウム錫(ITO)、酸化セリウム(Ce)から選択される一の物質またはこれらから選択される少なくとも二の物質の固溶体からなる物質を用いてもよい。これらの物質または固溶体を用いれば、二酸化バナジウムの形成が容易となる利点がある。
【0041】
また、電気制御調光素子1000において、第2透明部材22を、二酸化シリコン(SiO)を含む無機ガラス、または、透明高分子膜材料とすることも可能である。特に電気制御調光素子1000においては第2透明部材22には二酸化バナジウムが形成されないため、第2透明部材22の材質の選択範囲は広く、イオン性液体32等の電解質層30を保持する機能に適するこれらの材質は、調光素子の主要な用途である窓への適用に特に好適である。
【0042】
また、電気制御調光素子1200における透明電極膜24または電気制御調光素子1400における電極膜14Bを、酸化インジウム錫(ITO)、二酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)の少なくともいずれかを含むものとすることもできる。これらは可視域において透明または透光性を示し、赤外域においても一定程度の赤外透過性をもつため、調光素子の主要な用途である窓への適用に特に好適である。
【0043】
[4−2 電解質層の高機能化]
電気制御調光素子1000における電解質層30はイオン性液体を含むものとすることができる。すなわち、電解質層30は、イオン性液体を含む電解質と、水(HO)、非水系低分子溶媒群、および高分子溶媒群からなる溶媒群から選択される少なくとも1種の溶媒とからなるものとすることもできる。また、電解質層30は、イオン性液体からなるものとすることができる。イオン性液体は、室温で液体形状を保持するととともに、100℃以上の高温においても、化学的に安定であり、光学的に透明であるなどの実用上優れた特性を有するため、電気制御調光素子1000の電解質層30として好適である。また電解質層はイオン性液体を溶媒中に溶解または分散させた電解質でもよい。また、この場合、溶媒に高分子材料を用いれば、スピンコートした後に固化させることも可能であり、土手などの構造を形成する必要もなくなることは、実用上、重要なメリットをもっている。なお、本出願全般に「溶媒」は、必ずしも高い流動性を示すものには限定されない。
【0044】
さらに、電解質層30をリチウム(Li)イオン、ナトリウム(Na)イオンを含むカチオン分子群から選択される少なくとも1種のカチオン分子と、アニオン分子群から選択される少なくとも1種のアニオン分子とを含むものとすることができる。カチオン種とアニオン種との組み合わせは自由であり、多くの組み合わせの電界質が考えられる。
【0045】
特に、イオン性液体のカチオン分子群については、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、アンモニウム系、ピペリジニウム系、ピロリジニウム系、ピラゾリウム系、およびホスホニウム系のいずれか一の分子群とすることが好適である。これらのカチオン分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0046】
さらに、イオン性液体のカチオン分子群をイミダゾリウム系の分子群とし、そのイミダゾリウム系の分子群を、1,3−ジメチルイミダゾリウム(C)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(C11)、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム(C13)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(C15)、1−ヘキル−3−メチルイミダゾリウム(C1019)、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム(C1223)、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム(C1427)、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム(C1631)、1−メチル−3−テトラデシルイミダゾリウム(C1835)、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウム(C2039)、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウム(C2243)、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム(C12)、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(C13)、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム(C15)、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(C17)、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(C1121)、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム(C11)、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム(C13)、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム(C1017)、1,3−ジアリルイミダゾリウム(C13)、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウム(C1113)、1−(2−ハイドロケシル)−3−メチルイミダゾリウム(C11)、および1,3−ジデシル−2−メチルイミダゾリウム(C2447)のいずれか一の群とすることができる。これらのイミダゾリウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0047】
また、イオン性液体のカチオン分子群をピリジニウム系の分子群とし、そのピリジニウム系の分子群を、
1−エチルピリジニウム(C10N)、1−プロピルピリジニウム(C12N)、1−ブチルピリジニウム(C14N)、1−ヘキシルピリジニウム(C1118N)、1−エチル−3−メチルピリジニウム(C12N)、1−エチル−4−メチルピリジニウム(C12N)、1−プロピル−3−メチルピリジニウム(C14N)、1−プロピル−4−メチルピリジニウム(C14N)、1−ブチル−2−メチルピリジニウム(C1016N)、1−ブチル−3−メチルピリジニウム(C1016N)、1−ブチル−4−メチルピリジニウム(C1016N)、N−(3−ハイドロキシプロピル)ピリジニウム(C12NO)、および1−エチル−3−ハイドロキシメチルピリジニウム(C12NO)のいずれか一の群とすることができる。これらのピリジニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0048】
加えて、イオン性液体のカチオン分子群をアンモニウム系の分子群とし、そのアンモニウム系の分子群を、
テトラメチルアンモニウム(C12N)、テトラエチルアンモニウム(C20N)、テトラプロピルアンモニウム(C1228N)、テトラブチルアンモニウム(C1636N)、テトラヘキシルアンモニウム(C2452N)、トリエチルメチルアンモニウム(C18N)、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム(C16N)、ブチルトリメチルアンモニウム(C18N)、エチルジメチルプロピルアンモニウム(C18N)、トリブチルメチルアンモニウム(C1330N)、メチルトリオクチルアンモニウム(C2554NO)、2−ハイドロケシルアンモニウム(CN)、コリン(C14NO)、およびN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メソケシル)アンモニウム(C20NO)のいずれか一の群とすることができる。これらのアンモニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0049】
イオン性液体のカチオン分子群をピペリジニウム系の分子群とし、そのピペリジニウム系の分子群を、1−メチル−1−プロピルピペリジニウム(C20N)、 1−ブチル−1−メチルピペリジニウム(C1022N)、および1−メソケシル−1−メチルピペリジニウム(C1022NO)のいずれか一の群とすることができる。これらのピペリジニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0050】
イオン性液体のカチオン分子群をピロリジニウム系の分子群とし、そのピロリジニウム系の分子群を、1−1−ジメチルピロリジニウム(C14N)、1−エチル−1−メチルピロリジニウム(C16N)、1−メチル−1−プロピルピロリジニウム(C18N)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム(C20N)、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム(C1124N)、および1−メソケシル−1−メチルピロリジニウム(C18NO)のいずれか一の群とすることができる。これらのピロリジニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0051】
イオン性液体のカチオン分子群をピラゾリウム系の分子群とし、そのピラゾリウム系の分子群を、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム(C15)、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム(C17)および1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム(C1019)のいずれか一の群とすることができる。これらのピラゾリウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0052】
イオン性液体のカチオン分子群をホスホニウム系の分子群とし、そのホスホニウム系の分子群を、テトラメチルホスホニウム(C12P)、テトラエチルホスホニウム(C20P)、テトラプロピルホスホニウム(C1228P)、テトラブチルホスホニウム(C1636P)、テトラオクチルホスホニウム(C3268P)、トリエチルペンチルホスホニウム(C1126P)、トリエチルオクチルホスホニウム(C1432P)、トリブチルメチルホスホニウム(C1330P)、トリイソブチルメチルホスホニウム(C1330P)、トリブチルエチルホスホニウム(C1432P)、トリブチルテトラデキルホスホニウム(C2656P)、およびトリヘキシルテトラデキルホスホニウム(C3268P)のいずれか一の群とすることができる。これらのホスホニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0053】
イオン性液体のアニオン分子群を、ブロマイド(Br)、クロライド(Cl)、アイオダイド(I)、テトラフルオロボレイト(BF)、過塩素(ClO)、ヘキサフルオロホスフェイト(PF)、フォルメイト(HCO)、アセテイト(CHCO)、デカノネイト(C19CO)、トリカノメタン((CN)C)、ラクテイト(C)、ジカナミド((CN)N)、トリフルオロアセテイト(CFCO)、トリフルオロメチルサルフォネイト(CFSO)、ペルフルオロブタンサルホネイト(CSO)、ノナフルオロブタンサルホニルイミド((CSON)、フルオロサルフォニルイミド((FSON)、トリフルオロメチルサルフォニルイミド((CFSON)、ペンタフルオロエタンスホニルイミド(CFCFSON)、チオカネイト(SCN)、ハイドロゲンサルフェイト(HSO)、ノナフルオロブタンスルフォニルイミド((CSON)、メタンサルフオネイト(CHSO)、メチルサルフエイト(CHOSO)、n−ブチルサルフェイト(n−COSO)、エチルサルフェイト(COSO)、n−ヘキシルサルフェイト(n−C13OSO)、n−オクチルルサルフェイト(n−C17OSO)、2−(2−メソキセスオキシイ)、エチルサルフェイト(CH(OCOSO)、p−トルエンスルフオネイト(CS)、ドデシルベンゼンサルフォネイト(C1629SO)、2,2,4−トリメチルペンチルホスフィネイト(C1634P)、ジカナマイド((CN)N)、ジハイドロジェンホスフェイト(HPO)、ジエチルフォスフェイト((CO)PO)、トリフルオロホスフェイト((CPF)、オクサレイト(2−)−オーオーボレイト(CBO)、およびジメチルホスフエイト((CHPO)のいずれか一の群とすることができる。これらのアニオン分子群から選択されるアニオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0054】
溶媒群を非水系低分子溶媒群とし、その非水系低分子溶媒群を、プロピレンカーボネート((PC)C)、エチレンカーボネート(C)、ジエチルカーボネート(C10)、ジメチルカーボネート(C)、γ―ブチロラクトン(C)、スルホラン(CS)、N,N−ジメチルホルムアミド(CNO)、ジメチルスルホキシド(COS)、およびアセトニトリル(CHCN)のいずれか一の群とすることができる。これらの非水系低分子溶媒群から選択される溶媒を用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0055】
溶媒群を高分子溶媒群とし、その高分子溶媒群を、ポリエチレンオキシド([CH−CH−O])、ポリメチルメタクリレート([CH−C(CH)(COOCH)])、ポリアクリロニトリル([CH−CH(CN)])、ポリフッ化ビニリデン([CF−CH)、およびポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体([(CF−CH−(CF−CF(CF))1−x)のいずれか一の群とすることができる。これらの高分子溶媒群から選択される溶媒を用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持する溶媒としての作用を維持しつつ、調光素子から流動性の高い部材を除くことができる。
【0056】
[5 実施例]
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することかできる。したがって、本発明の範囲は以下の具体例に限定されるものではない。また説明のため、実施形態において説明した図面を適宜参照する。
【0057】
[5−1 実施例1]
実施例1として、図2に示す構造の電気制御調光素子1200を作製した。第1透明部材12として二酸化チタン基板(TiO、株式会社信光社製)を用い、その基板の一方の面12Sにパルスレーザー堆積法(PLD法)により調光層100Aとして二酸化バナジウム(VO)の薄膜を形成した。この成膜の際の第1透明部材12の温度は390℃とし、酸素分圧10mTorr(約1.3Pa)の真空下で、10nm厚の二酸化バナジウム薄膜を形成した。また、透明電極膜24が形成された第2透明部材22として、100nm厚の酸化インジウム錫(ITO)がコートされたガラス基板(Aldrich社製)を用いた。
【0058】
イオン性液体32はカチオン群から選択される1種のカチオン分子と、アニオン群から選択される1種のアニオン分子とを組み合わせたものとした。具体的には、カチオン分子として、アンモニウム系であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メソケシル)アンモニウム(C20NO、DEME(略称))を、またアニオン分子として、トリフルオロメチルサルフォニルイミド((CFSON、TFSI(略称))を含み、これらを組み合わせたDEME−TFSIイオン性液体(株式会社関東化学社製)を用いた。
【0059】
次にイオン性液体32としてDEME−TFSIイオン性液体を第1基体10Aと第2基体20Aとの間隙に配置した。具体的には、第1基体10Aの調光層100Aを形成した面の上にDEME−TFSIイオン性液体を滴下し、第2基体20Aを透明電極膜24の面を第1基体10Aに対向させて配置した。こうして、所定の厚みの薄層空間にイオン性液体32が配置された電気制御調光素子1200のサンプルを得た。
【0060】
こうして作製した実施例1の電気制御調光素子1200のサンプルに電圧印加手段42を接続し調光層100Aと透明電極膜24とに電圧を印加した。その状態で、可視近赤外分光計により500nm〜2500nmの波長域の透過率を測定したところ、概ね、図4に示した透過率スペクトルと同様のスペクトルが電圧0Vと電圧+1Vの電圧印加により測定された。なお、電圧印加の極性は、調光層100Aに対して透明電極膜24が高電位の向きを正としている。こうして、電気制御調光素子1200により、太陽光の熱線(赤外線)の透過率を制御できる電気制御調光素子を提供しうることを確認した。
【0061】
[5−2 実施例2]
次に、実施例2として、図3に示した構造の電気制御調光素子1400を作製した。基板材料、透明部材などは実施例1と同じである。実施例1と同様、第1透明部材12の領域12R1に,PLD法とフォトリソグラフィーを組み合わせることにより、調光層100Bを形成した。そして、分離領域12Qだけ離れた領域12R2に、電極膜14Bとして、膜厚10nmのチタンと膜厚50nmの金の積層構造を電子線蒸着法で形成した。次に、実施例1と同様にDEME−TFSIイオン性液体を滴下し、第2基体20Bを第1基体10Bに対向させて配置することで、図3に示した構造の電気制御調光素子1400を作製した。実施例2として作製した電気制御調光素子1400においても、電極膜14Bと調光層100Bとの間に、電極膜14Bが高電位となる向きで1Vの電圧を印加したところ、図4と同様に、1000nm以上の長波長側で透過率が減少することを確認した。
【0062】
[6 変形例・用途]
以上述べてきたように、本実施形態において提供される電気制御調光素子1000は、その典型例である電気制御調光素子1200および電気制御調光素子1400を含め高い実用性を誇る電気制御調光素子といえる。電気制御調光素子1000にて提供される電気制御調光素子は、様々な用途への適用可能性を秘めている。例えば、家庭に用いられる透明窓や、自動車の窓の調光窓として、可視光領域になんら影響を及ぼすことなく、各家庭、各部屋や、各個人の好みの体感の温度に応じた赤外線の取り入れや遮断を制御することが可能となる。その制御のために要求されるのは、例えば、手元スイッチの操作といった負担の少ない操作のみである。そしてその制御により、例えば夏季においては、外部からの赤外線を遮断し、冬季においては内部の熱からの熱の放射を効果的に抑制することが可能となる。しかも、電気制御調光素子1000を適用して作製される調光素子では、外部から供給する電圧はごく小規模なもの、例えば窓にはめ込み可能なボタン電池、を必要とするのみである。このため、新たに大がかりな電源ケーブルなどの接続を必要とすることなく、赤外線の上述した柔軟な制御が実現される。さらに、本実施形態の電気制御調光素子1000は、外部環境に面した透明部材は反射防止被覆膜を採用することや、すこし暗くするといった色調調整のための色つき透明部材などを使用する、といった用途に適合させた変形にも特段の制約は生じない。また、公知の温度センサーの出力と電圧印加手段42の電圧制御を組み合わせることで、より実用性の高い窓の調光を行なうことが可能となる。
【0063】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の実施形態、実施例、および変形例は、発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、さまざま条件に適合させて赤外線の透過量を電気的に制御しうる調光素子が提供される。
【符号の説明】
【0065】
1000、1200、1400 電気制御調光素子
10、10A、10B 第1基体
20、20A、20B 第2基体
100、100A、100B 調光層
12 第1透明部材
12S 表面
12R1、12R2 領域
12Q 分離領域
14B 電極膜
22 第2透明部材
24 透明電極膜
30 電解質層
32 イオン性液体
42 電圧印加手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともある面が、二酸化バナジウムを主成分として含む調光層により被覆されている第1透明部材を含む第1基体と、
少なくともある面が透明電極膜により被覆されている第2透明部材を含む第2基体と、
前記第1基体の前記調光層と前記第2基体の前記透明電極膜とにより挟まれている電解質層と
を備える
電気制御調光素子。
【請求項2】
ある面の少なくとも一部が二酸化バナジウムを主成分として含む調光層により被覆されており、該面の他の一部が電極膜により被覆されている第1透明部材を含む第1基体と、
第2透明部材を含み、該第1基体の前記面に対向して配置される第2基体と、
前記第1基体の前記調光層と前記第2基体とにより挟まれている電解質層と
を備える
電気制御調光素子。
【請求項3】
前記調光層の組成が
1−x2−δ
であり、ここで、AはW、Zr、Nb、Mo、Hf、およびTaからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素であり、xは0≦x≦0.1の一の数であり、δは0≦δ≦0.1の一の数である
請求項1または請求項2に記載の電気制御調光素子。
【請求項4】
前記第1透明部材が、二酸化バナジウムの結晶構造と同じ、または二酸化バナジウムの結晶構造に近い結晶構造を有する材料である
請求項1または請求項2に記載の電気制御調光素子。
【請求項5】
前記第1透明部材の結晶構造がルチル構造である
請求項4に記載の電気制御調光素子。
【請求項6】
前記第1透明部材が、二酸化チタン(TiO)、二酸化錫(SnO)、またはこれらの固溶体からなるルチル構造の物質である
請求項5に記載の電気制御調光素子。
【請求項7】
前記第1透明部材の結晶構造が二酸化バナジウムに近い結晶構造であり、
前記第1透明部材が、酸化アルミニウム(Al)、二酸化シリコン(SiO)、酸化チタン(Ti)、酸化鉄(Fe)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga)、酸化インジウム錫(ITO)、酸化セリウム(Ce)から選択される一の物質またはこれらから選択される少なくとも二の物質の固溶体からなる物質である
請求項4に記載の電気制御調光素子。
【請求項8】
前記第2透明部材が、二酸化シリコン(SiO)を含む無機ガラス、または、透明高分子膜材料である
請求項1または請求項2に記載の電気制御調光素子。
【請求項9】
請求項1に記載の前記透明電極膜または請求項2に記載の電極膜が、酸化インジウム錫(ITO)、二酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)の少なくともいずれかを含んでいる
請求項1または請求項2に記載の電気制御調光素子。
【請求項10】
前記電解質層がイオン性液体を含むものである
請求項1または請求項2に記載の電気制御調光素子。
【請求項11】
前記電解質層が、
イオン性液体を含む電解質と、
水(HO)、非水系低分子溶媒群、および高分子溶媒群からなる溶媒群から選択される少なくとも1種の溶媒と
からなるものである
請求項10に記載の電気制御調光素子。
【請求項12】
前記電解質層がイオン性液体からなるものである
請求項10に記載の電気制御調光素子。
【請求項13】
前記電解質層が、
リチウム(Li)イオン、ナトリウム(Na)イオンを含むカチオン分子群から選択される少なくとも1種のカチオン分子と、
アニオン分子群から選択される少なくとも1種のアニオン分子と
を含むものである
請求項10に記載の電気制御調光素子。
【請求項14】
前記イオン性液体の前記カチオン分子群が、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、アンモニウム系、ピペリジニウム系、ピロリジニウム系、ピラゾリウム系、およびホスホニウム系のいずれか一の分子群である
請求項13に記載の電気制御調光素子。
【請求項15】
前記イオン性液体の前記カチオン分子群が前記イミダゾリウム系の分子群であり、
該イミダゾリウム系の分子群が、
1,3−ジメチルイミダゾリウム(C)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(C11)、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム(C13)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(C15)、1−ヘキル−3−メチルイミダゾリウム(C1019)、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム(C1223)、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム(C1427)、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム(C1631)、1−メチル−3−テトラデシルイミダゾリウム(C1835)、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウム(C2039)、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウム(C2243)、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム(C12)、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(C13)、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム(C15)、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(C17)、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(C1121)、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム(C11)、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム(C13)、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム(C1017)、1,3−ジアリルイミダゾリウム(C13)、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウム(C1113)、1−(2−ハイドロケシル)−3−メチルイミダゾリウム(C11)、および1,3−ジデシル−2−メチルイミダゾリウム(C2447
のいずれか一の群である
請求項14に記載の電気制御調光素子。
【請求項16】
前記イオン性液体の前記カチオン分子群が前記ピリジニウム系の分子群であり、
該ピリジニウム系の分子群が、1−エチルピリジニウム(C10N)、1−プロピルピリジニウム(C12N)、1−ブチルピリジニウム(C14N)、1−ヘキシルピリジニウム(C1118N)、1−エチル−3−メチルピリジニウム(C12N)、1−エチル−4−メチルピリジニウム(C12N)、1−プロピル−3−メチルピリジニウム(C14N)、1−プロピル−4−メチルピリジニウム(C14N)、1−ブチル−2−メチルピリジニウム(C1016N)、1−ブチル−3−メチルピリジニウム(C1016N)、1−ブチル−4−メチルピリジニウム(C1016N)、N−(3−ハイドロキシプロピル)ピリジニウム(C12NO)、および1−エチル−3−ハイドロキシメチルピリジニウム(C12NO)
のいずれか一の群である
請求項14に記載の電気制御調光素子。
【請求項17】
前記イオン性液体の前記カチオン分子群が前記アンモニウム系の分子群であり、
該アンモニウム系の分子群が、
テトラメチルアンモニウム(C12N)、テトラエチルアンモニウム(C20N)、テトラプロピルアンモニウム(C1228N)、テトラブチルアンモニウム(C1636N)、テトラヘキシルアンモニウム(C2452N)、トリエチルメチルアンモニウム(C18N)、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム(C16N)、ブチルトリメチルアンモニウム(C18N)、エチルジメチルプロピルアンモニウム(C18N)、トリブチルメチルアンモニウム(C1330N)、メチルトリオクチルアンモニウム(C2554NO)、2−ハイドロケシルアンモニウム(CN)、コリン(C14NO)、およびN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メソケシル)アンモニウム(C20NO)
のいずれか一の群である
請求項14に記載の電気制御調光素子。
【請求項18】
前記イオン性液体の前記カチオン分子群が前記ピペリジニウム系の分子群であり、
該ピペリジニウム系の分子群が、
1−メチル−1−プロピルピペリジニウム(C20N)、 1−ブチル−1−メチルピペリジニウム(C1022N)、および1−メソケシル−1−メチルピペリジニウム(C1022NO)
のいずれか一の群である
請求項14に記載の電気制御調光素子。
【請求項19】
前記イオン性液体の前記カチオン分子群が前記ピロリジニウム系の分子群であり、
該ピロリジニウム系の分子群が、
1−1−ジメチルピロリジニウム(C14N)、1−エチル−1−メチルピロリジニウム(C16N)、1−メチル−1−プロピルピロリジニウム(C18N)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム(C20N)、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム(C1124N)、および1−メソケシル−1−メチルピロリジニウム(C18NO)
のいずれか一の群である
請求項14に記載の電気制御調光素子。
【請求項20】
前記イオン性液体の前記カチオン分子群が前記ピラゾリウム系の分子群であり、
該ピラゾリウム系の分子群が、
1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム(C15)、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム(C17)および1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム(C1019)のいずれか一の群である
請求項14に記載の電気制御調光素子。
【請求項21】
前記イオン性液体の前記カチオン分子群が前記ホスホニウム系の分子群であり、
該ホスホニウム系の分子群が、
テトラメチルホスホニウム(C12P)、テトラエチルホスホニウム(C20P)、テトラプロピルホスホニウム(C1228P)、テトラブチルホスホニウム(C1636P)、テトラオクチルホスホニウム(C3268P)、トリエチルペンチルホスホニウム(C1126P)、トリエチルオクチルホスホニウム(C1432P)、トリブチルメチルホスホニウム(C1330P)、トリイソブチルメチルホスホニウム(C1330P)、トリブチルエチルホスホニウム(C1432P)、トリブチルテトラデキルホスホニウム(C2656P)、およびトリヘキシルテトラデキルホスホニウム(C3268P)
のいずれか一の群である
請求項14に記載の電気制御調光素子。
【請求項22】
前記イオン性液体の前記アニオン分子群が、
ブロマイド(Br)、クロライド(Cl)、アイオダイド(I)、テトラフルオロボレイト(BF)、過塩素(ClO)、ヘキサフルオロホスフェイト(PF)、フォルメイト(HCO)、アセテイト(CHCO)、デカノネイト(C19CO)、トリカノメタン((CN)C)、ラクテイト(C)、ジカナミド((CN)N)、トリフルオロアセテイト(CFCO)、トリフルオロメチルサルフォネイト(CFSO)、ペルフルオロブタンサルホネイト(CSO)、ノナフルオロブタンサルホニルイミド((CSON)、フルオロサルフォニルイミド((FSON)、トリフルオロメチルサルフォニルイミド((CFSON)、ペンタフルオロエタンスホニルイミド(CFCFSON)、チオカネイト(SCN)、ハイドロゲンサルフェイト(HSO)、ノナフルオロブタンスルフォニルイミド((CSON)、メタンサルフオネイト(CHSO)、メチルサルフエイト(CHOSO)、n−ブチルサルフェイト(n−COSO)、エチルサルフェイト(COSO)、n−ヘキシルサルフェイト(n−C13OSO)、n−オクチルルサルフェイト(n−C17OSO)、2−(2−メソキセスオキシイ)、エチルサルフェイト(CH(OCOSO)、p−トルエンスルフオネイト(CS)、ドデシルベンゼンサルフォネイト(C1629SO)、2,2,4−トリメチルペンチルホスフィネイト(C1634P)、ジカナマイド((CN)N)、ジハイドロジェンホスフェイト(HPO)、ジエチルフォスフェイト((CO)PO)、トリフルオロホスフェイト((CPF)、オクサレイト(2−)−オーオーボレイト(CBO)、およびジメチルホスフエイト((CHPO
のいずれか一の群である
請求項13に記載の電気制御調光素子。
【請求項23】
前記溶媒群が前記非水系低分子溶媒群であり、
該非水系低分子溶媒群が、
プロピレンカーボネート((PC)C)、エチレンカーボネート(C)、ジエチルカーボネート(C10)、ジメチルカーボネート(C)、γ―ブチロラクトン(C)、スルホラン(CS)、N,N−ジメチルホルムアミド(CNO)、ジメチルスルホキシド(COS)、およびアセトニトリル(CHCN)
のいずれか一の群である
請求項11に記載の電気制御調光素子。
【請求項24】
前記溶媒群が前記高分子溶媒群であり、
該高分子溶媒群が、
ポリエチレンオキシド([CH−CH−O])、ポリメチルメタクリレート([CH−C(CH)(COOCH)])、ポリアクリロニトリル([CH−CH(CN)])、ポリフッ化ビニリデン([CF−CH)、およびポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体([(CF−CH−(CF−CF(CF))1−x
のいずれか一の群である
請求項11に記載の電気制御調光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−28473(P2013−28473A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163950(P2011−163950)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】