説明

電気化学セル及びその製造方法

【課題】 耐熱性容器を用いた電気化学セルにおいて、集電体上に形成されたアルミニウム層の欠陥を除去することにより、集電体の腐食や溶解を防止し、充放電特性と信頼性に優れた電気化学セルの提供を目的とする。
【解決手段】 特定の厚みを有するアルミニウム層を融点以上の温度で熱処理することにより、アルミニウムの欠陥を減らすことができることがわかった。これにより、性能的、コスト的に優位な電気化学セルを提供できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面実装可能な電気化学セルつまり、非水電解質電池および電気二重層原理を利用した電気二重層キャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、従来、時計機能のバックアップ電源や半導体のメモリのバックアップ電源やマイクロコンピュータやICメモリ等の電子装置予備電源やソーラ時計の電池やモーター駆動用の電源などとして使用されており、近年は電気自動車の電源やエネルギー変換・貯蔵システムの補助貯電ユニットなどとしても検討されている。
【0003】
小型の電気化学セルは、半導体メモリの不揮発化、時計機能素子の低消費電力化により、容量、電流ともそれほど大きなものの必要性が減ってきている。むしろ、電気化学セルのニーズとしては、薄型やリフローハンダ付け(あらかじめプリント基板上のハンダ付を行う部分にハンダクリーム等を塗布しておきその部分に部品を載置するか、あるいは、部品を載置後ハンダ小球(ハンダバンプ)をハンダ付部分に供給し、ハンダ付部分がハンダの融点以上、例えば、200〜260℃となるように設定された高温雰囲気の炉内に部品を搭載したプリント基板を通過させることにより、ハンダを溶融させてハンダ付を行う方法)に対する要求が強くなっている。
【0004】
また、従来の電気化学セルはコインやボタンのような丸い形状であるため、リフローハンダ付けを行うには端子等をケースにあらかじめ溶接しておく必要があり、部品点数の増加および製造工数の増加という点でコストアップとなっていた。また、基板状に、端子のスペースを設ける必要があり小型化に限界があった。
【0005】
このため、電極及び電解質を収納する外装体として耐熱性容器を用い、かつ端子を具備した電気化学セルが検討されるようになった(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
耐熱性容器を用いた電気化学セルは、容器の底面側に正極活物質を配置し、正極集電体と正極活物質とが、弁金属層および導電性接着剤を介して接触しており正極を構成している。容器は、蓋によって封止されている。また、外部回路と接続するために、接続端子Aと接続端子Bがそれぞれ容器に設けられている。
【特許文献1】特開2001-216952号公報(第2項から第3項、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電気化学セルを比較的高い電圧、例えば3V前後で使う場合は、正極活物質と接している正極集電体が溶解してしまうため、耐食性に優れた弁金属層を設けている。弁金属層により、正極集電体の溶解を防止している。
【0008】
弁金属層としては、アルミニウムがコスト、信頼性において有効である。アルミニウムからなる金属層を形成する方法として、ショットコーティング、CVD、蒸着、スパッタリング、溶射、めっきなどが有る。
【0009】
しかし、これらの方法で形成されたアルミニウム層は、ピンホール、クラックまたはボイド等の欠陥を有していた。
【0010】
そのため、長期的な保存テストにおいてアルミニウム層の欠陥から下層の集電体が腐食し、電気化学セルの信頼性が低下したり、電気化学セルとして機能しなくなるという課題を有していた。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決し、信頼性の高い電気化学セルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、正極集電体が高電位においても溶解しないよう正極集電体上に熱処理を施したアルミニウムからなる金属層を形成し、正極集電体を被覆することにより正極集電体の溶解が防止でき、充放電特性に劣化が生じず、信頼性に優れた電気化学セルを提供できる。
【0013】
本発明の電気化学セルは、アルミニウム層により被覆された正極集電体と、正極活物質と前記正極集電体からなる正極と、負極活物質を含む負極と、イオン導電性の電解質と、前記正極と前記負極と前記電解質とを収納する耐熱材料からなる容器と、前記容器を封止するための蓋とを有する電気化学セルにおいて、前記アルミニウム層が熱処理を施されたものであり、前記アルミニウム層の厚さが、前記アルミニウム層の下層の最大高さRy(JIS B 0601に示される)の1/3以上(ただし、5μmを下まわらない)、かつ200μm以下である。
【0014】
また、本発明に係る電気化学セルの製造方法は、容器の底部に設けられた正極集電体上にアルミニウム層を形成する第一工程と、前記アルミニウム層を融点以上の温度で熱処理する第二の工程と、前記アルミニウム層を介して前記正極集電体と正極活物質を接合する第三工程と、セパレータを前記正極活物質上に配する第四工程と、前記容器に電解質を注入する第五工程と、蓋に負極活物質を接合する第六工程と、前記容器と前記蓋を溶接し封止する第七工程とからなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、正極集電体が高電位においても溶解しないよう正極集電体上に熱処理を施したアルミニウム層を形成し、前記アルミニウム層の厚さが、前記アルミニウム層の下層の最大高さRy(JIS B 0601に示される)の1/3以上(ただし、5μmを下まわらない)、かつ200μm以下となるように制御することにより正極集電体の腐食や溶解が防止でき、信頼性の高い電気化学セルを提供できる効果がある。
【0016】
前記アルミニウムからなる金属層の熱処理において、熱処理温度をアルミニウムの融点以上とすることにより、一度形成されたアルミニウム層が再溶解し膜中に生成したピンホール、クラックまたはボイド等欠陥を減らすことができ、均一なアルミニウムからなる金属層を形成できるという効果がある。
【0017】
また、熱処理は、不活性雰囲気で行うことが効果的であった。不活性雰囲気としては、酸素濃度1%以下もしくは真空の雰囲気を用いることが有効であった。
【0018】
アルミニウムからなる金属層の形成方法としては、ショットコーティング法、溶射法、蒸着法またはスパッタリング法を利用できる。比較的、簡単な方法により、電気化学セルの信頼性を向上することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る電気化学セルを図1により説明する。凹形状の容器101の底面側に正極活物質106を配置し、正極集電体103と正極活物質106により正極が形成される。正極集電体103の表面にはアルミニウム層112が形成されており、アルミニウム層112を介して正極集電体103と正極活物質106が電気的に接続されている。
【0020】
容器101の外壁上部に金属リング109が設けられており、金属リング109の上面には、接合材が配されている。蓋102の表面にも接合材が配されている。容器101は、蓋102によって封止されており、容器101と蓋102は、溶接により接合されている。
負極活物質107は、導電性接着剤1112により蓋102に貼り付けられている。導体材料を蓋102に用いる場合は、蓋102と導電性接着剤1112が負極集電体として作用する。不導体材料を蓋102に用いる場合は、導電性接着剤1112と接続端子B104を電気的に接続する、導電性接着剤1112が負極集電体として作用する
。負極活物質107と負極集電体によって負極が形成される。また、セパレータ105によって正極活物質106と負極活物質107が分離されている。
【0021】
正極集電体103の上に直接、アルミニウム層112を設けても良いし、正極集電体103とアルミニウム層112の間に他の金属が存在しても良く、正極集電体103を金又はニッケルでメッキした後に、更にアルミニウム層112で覆っても良い。
【0022】
アルミニウム層の熱処理において、熱処理温度をアルミニウムの融点以上とすることにより、一度形成されたアルミニウム層が再溶解し膜中に生成したピンホール、クラックまたはボイド等欠陥を減らすことができ、均一なアルミニウム層を形成できる。アルミニウムの融点は660℃であるため、660℃以上で熱処理しなければならない。熱処理炉のバラツキ等を考慮し、設定温度は660〜700℃程度が好ましく、熱処理時間は数分から1時間程度が適切であった。処理温度は容器101の他の構成要素に影響を及ぼさない範囲で選択することができる。過剰の温度設定、時間設定は、容器の変形やアルミニウムの蒸発を招いたりするため好ましくない。
【0023】
また、熱処理は、不活性雰囲気で行うことが効果的であった。
【0024】
アルミニウム層112の熱処理環境は、酸素濃度0.01%以上1%以下にすることが好ましい。アルミニウム層112の熱処環境として、酸素濃度を低くすることによりアルミニウム層の表面酸化が抑制されたためと考えられる。1%を超える酸素濃度環境下では、このアルミニウム層の熱処理時に、アルミニウム層の表面に酸化膜が生じ接触抵抗が増大するため好ましくない。
【0025】
また、0.01%を下回るとこのアルミニウムからなる金属層の表面抵抗にほとんど差がない上に、その環境を確保するために長時間と、コスト高を来すなど、なんらその酸素濃度を低くすることによる特段の利益が生じない。
【0026】
真空の場合の真空度は1×10−1〜1×10−4Pa程度が好ましい。酸素濃度を低くしたときと同様、アルミニウムの表面の酸化を抑制できる。真空度は1×10−1Paより大きいとアルミニウム層の表面に酸化膜が生じ接触抵抗が増大するため好ましくない。一方、1×10−4Paより低い場合はアルミニウム層の表面抵抗にほとんど差がない上に、その環境を確保するために高価な設備が必要等、なんらその真空度を低くすることによる特段の利益が生じない。熱処理が真空の場合は、処理時間は短時間であることが望ましい。膜厚にもよるが30分以内で十分である。長時間に及ぶとアルミニウムが蒸発してしまう。
【0027】
アルミニウウム層の厚さとしては、アルミニウム層の下層の表面の最大高さRy(JIS B 0601に示される)の1/3以上(ただし、5μmを下まわらない)で、かつ200μm以下とすることにより、欠陥をより効率的になくすことができる。表面の凹凸が多いセラミックスやセラミックス上に形成されたニッケルめっき層等の上に、さらにアルミニウム層が形成される場合が多い。そのため、下層の粗さの影響を大きく受ける。
【0028】
Ryは、アルミニウム層が形成される下層の表面の最大高さであり、「当該表面の凸部の絶対値の最大値」と「当該表面の凹部の絶対値の最大値」とを足したものである。すなわち、下層表面の凹部の最も低い点を基準として測定したときの、表面の凸部の最も高い点の高さである。
【0029】
実験の結果、下層の最大高さRy(JIS B 0601に示される)の1/3以上の厚さのアルミニウム層を設けることにより、アルミニウム層の欠陥を減らすことができることがわかった。ただし、アルミニウム層を付ける下層が平滑であっても、アルミニウム層は最低でも5μm以上の厚さが必要である。従って、アルミニウム層の厚さは、5μmを下まわることはない。
【0030】
また、アルミニウム層の厚さの上限は200μm程度が好ましい。アルミニウム層をこれ以上厚くすると成膜のコストがかかるだけでなく、成膜の方法にもよるが、膜成長が不均一になり、熱処理で膜の欠陥を修正しきれなくなる。さらに、電気化学セルの内容積を圧迫し、有効容積を減らしてしまうこととなる。
【0031】
なお、アルミニウム層は、アルミニウムからなる層であるが、アルミニウム単体でも、アルミニウムと他の金属からなる合金でも良い。
【0032】
次に、本発明に係る別の電気化学セルの断面図を図2に示す。容器101をアルミナで作製する場合、底面となる四角のアルミナグリーンシートを配設し、その表面にタングステンプリントを施し正極集電体103及び接続端子A1041と接続端子B1042の配線を施す。次に中央に円形の穴の開いた第二の四角いアルミナグリーンシートを配設する。これにより、正極集電体が露出している面積を小さくできる。正極集電体103の一部が容器101に埋設され、前記正極集電体の残部が露出している。さらに、容器101の外壁となるアルミナグリーンシートを配設する。この状態を上部から見ると図3のようになり、正極集電体103の露出している面積は容器底面1011の面積より小さくなる。この時、正極集電体103は第二の四角いアルミナグリーンシートの穴と同じ形状である必要はない。正極集電体103の形状は、アルミニウム層112と電気的に接触できる形状であれば良い。例えば線状や帯状でもかまわない。また、第二の四角いアルミナグリーンシートの穴の形状は円形である必要はない。容器底面1011の面積より小さければよい。
【0033】
正極集電体の一部が前記容器に埋設されると正極集電体の被覆される部分が小さくなり、アルミニウム層112のピンホール等の膜欠陥が直接影響する可能性が低くるため、信頼性も向上した。正極集電体が容器底面の全面にあると、容器外壁近くの正極集電体の被覆が難しく僅かでも弁金属層の位置がずれると、正極集電体の一部が露出したり金属リングや接合材と接触してしまうことがあり、内部ショートを起こし機能しなくなることがあったが、本発明ではアルミニウム層の形成位置が多少ずれても正極集電体の一部が露出したり金属リングや接合材と接触してしまうことが無く容易に被覆することができる。
【0034】
容器にセラミックスを用いることにより電気化学セルの耐熱性が向上しリフローハンダ付けを行っても電気化学セルの特性が劣化しなくなり信頼性が向上する。ジルコニア、アルミナを用いることができる。アルミナはコスト的に有利であり、容器を通しての湿度進入がほとんどないため、湿度保存下での信頼性が著しく向上する。加工方法としては所定の形状に打ち抜いたグリーンシートを重ねて焼成する方法が、正極集電体103及び接続端子A1041と接続端子B1042を形成する上でも有効である。
【0035】
次に図4に示したように容器101の上面に、金属板に四角い穴の開いた突起を有する金属マスク113を突起部が下に向くように設置した。この状態で図4の上部方向からショットコーティング法、溶射法、蒸着法またはスパッタリング法で成膜を行うと底面にのみアルミニウム層112を形成することができる。金属リング109や接合材にアルミニウム層がつながらないため、電気化学セル内でのショートを防止できる。アルミニウム層112を介して正極集電体103と正極活物質106が電気的に接続させる。
【0036】
次に接続端子A1041と接続端子B1042の残りの配線を容器101の外壁に配設し、その後焼成し容器101を得た。容器101にはさらに金属リング109を接合した。
【0037】
アルミニウム層112を正極集電体103の表面上に配設した。この状態を斜め上から見た様子を図5に示した。
【0038】
正極側において、アルミニウム層112は、正極活物質106より小さくてもよい。導電性接着剤1111を正極活物質106とほぼ同じ大きさに塗布すれば、電極活物質と集電体の電子の流れが阻害されることがなく、電気化学セルの内部抵抗を上げてしまう等の特性の劣化はない。
【0039】
また、正極集電体と正極活物質106は特に接着する必要はなく、導電性接着剤1111を凹状の容器101の底部に塗布した後上に載せるだけでもかまわない。
蓋102と負極活物質107は、あらかじめ炭素を含有する導電性接着剤1112で接着した。
【0040】
金属リング109は接続端子B1042に電気的に接続されている。
【0041】
蓋102の容器側の部分には、接合材となるニッケルめっきを施した。
【0042】
容器内部に正負極電極、セパレータ105、電解質108を収納し、蓋102で蓋をした後、抵抗溶接の原理を利用したパラレルシーム溶接機により、蓋102の向かい合う2辺ずつ溶接を行った。この方法により信頼性の高い封止が得られた。
【0043】
アルミニウム層112は、凹状の容器底面1011より小さい方がよい。アルミニウム層112が、大きすぎると凹状の容器101の外壁の内側に導電体が付着してしまい、金属リング109や金属リング上の接合材との接触や電極活物質どうしの接触が生じ、内部ショートの原因となる。
【0044】
正極集電体103及び接続端子A1041と接続端子B1042はタングステン粉末を含むタングステンプリントにより配線した後、焼成することにより作製できる。正極集電体103のように容器101の一部を貫通した構造となっているため、グリーンシートの焼成前に配線する必要がある。
【0045】
アルミニウム層の成膜方法としては、ショットコーティング法、溶射法、蒸着法またはスパッタリング法を用いることができる。
【0046】
ショットコーティング法は、文献”セラミックス 37、2002、No.1、P46−P48”等に示される方法である。ショットコーティング法は、衝撃皮膜形成の意味である。アルミニウムのような軟質金属粉末をセラミックス等の表面に高速噴射した場合、噴射の運動エネルギーが、瞬時に熱に変換され成膜される。比較的安価に緻密な膜を形成できる。
溶射においては、成膜速度は速いが膜が多孔質になりピンホール、クラック等の欠陥を生じ易い。本発明の熱処理を施すことにより、欠陥を修復し緻密なアルミニウム膜とすることができる。蒸着、スパッタリング法は緻密な膜が得られるが、成膜速度が遅く、膜を厚くすると高コストな方法となる。しかし、本発明の熱処理を施すことにより、膜の信頼性を向上することができ、緻密な膜とすることができるため、薄い膜を用いることができる。
【0047】
金属リング109の材質は、容器101に熱膨張係数の近いものが望まれる。
たとえば、容器101が熱膨張係数6.8×10−6/℃のアルミナを用いる場合金属リングとしては熱膨張係数5.2×10−6/℃のコバールを用いることが望ましい。
【0048】
また、蓋102も溶接後の信頼性を高めるため、金属リングと同じコバールを用いることが望ましい。溶接後、機器の基板に表面実装されるとき、すなわちリフローハンダ付けのとき再び加熱されるためである。
【0049】
正極集電体103及び接続端子A1041と接続端子B1042の部分については、基盤とハンダ付けするためにニッケル、金、スズ、ハンダの層を設けることがよい。容器101の縁部についても接合材とのなじみの良いニッケルや金などの層を設けることが好ましい。層の形成方法としては、めっき、蒸着などの気相法等もある。
【0050】
金属リング109および蓋102の接合される面には、接合材としてニッケル及び/または金の層を設けることが有効である。金の融点は1063℃、ニッケルの融点は1453℃であるが、金とニッケルの合金にすることにより融点を1000℃以下に下げることができるためである。層の形成方法としては、めっき、蒸着などの気相法、印刷を用いた厚膜法等がある。特にめっき、印刷を用いた厚膜法がコスト的に有利である。
【0051】
ただし、接合材の層のP、B、S、N、C等の不純物元素は10%以下にする必要がある。特にめっきを用いた場合は注意が必要である。たとえば、無電解めっきにおいては還元剤の次亜リン酸ナトリウムからP、ジメチルアミンボランからBが入りやすい。また、電解めっきにおいては光沢剤の添加剤や陰イオンから入る可能性があるため注意が必要である。還元剤、添加物等の量を調整して入る不純物を10%以下とする必要がある。10%以上入ってしまうと接合面に金属間化合物が生成しクラックが入ってしまう。
【0052】
蓋102側の接合材にニッケルを用いた場合は、容器101側の接合剤には金を用いることが好ましい。金とニッケルの比は1:2から1:1の間がよく、合金の融点が下がることにより溶接温度が下がり接合性もよくなる。
【0053】
接合部の溶接は、抵抗溶接法を利用したシーム溶接が利用できる。蓋102と容器101をスポット溶接し仮止めしたあと、蓋102の対向する二辺に対向するローラー型の電極を押し付け、電流を流すことで、抵抗溶接の原理により溶接する。蓋102の四辺を溶接することにより封止することができる。ローラー電極を回転させながら電流をパルス状に流すため溶接後はシーム状になる。
【0054】
使用するセパレータは耐熱性のある不織布であることが好ましい。たとえば、ロール圧延したポーラスフィルム等のセパレータにおいては、耐熱性があるものの、抵抗溶接法を利用したシーム溶接時の熱で圧延方向に縮んでしまう。その結果、内部ショートを起こしやすい。耐熱性のある樹脂またはガラス繊維を用いたセパレータの場合縮みが少なく良好であった。樹脂としてはPPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が良好であった。特にはガラス繊維が有効であった。また、セラミックスの多孔質体やセルロース系の不織布を用いることもできる。
【0055】
本発明に係る電解質は、液体状、固体状、ゲル状のものを用いることができる。
【0056】
液体状及びゲル状の電解質に用いられる有機溶媒は、アセトニトリル、、ジエチルエーテル、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボーネート、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、γ−ブチロラクトン(γBL)などを用いることができる。
【0057】
液状及びゲル状の電解質に含まれる支持塩としては(C254 PBF4 、(C374 PBF4 、(CH3)(C253 NBF4 、(C254 NBF4 、(C254 PPF6 、(C2 5 4 PCF3 SO4 、(C254 NPF6 、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、ホウフッ化リチウム(LiBF4 )、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6 )、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3 SO22 ]、チオシアン塩、アルミニウムフッ化塩、リチウム塩などを用いることができるが、これらに限定するものではない。
【0058】
ゲル状の電解質は、液体状の電解質をポリマーゲルに含浸させたものである。ポリマーゲルとしては、ポリエチレンオキシド、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデンが適しているが、これらに限定するものではない。
【0059】
本発明の電気化学セルの形状は基本的に自由である。従来のかしめ封止による電気化学セルの形状はほぼ円形に限定される。そのため、四角形状がほとんどである他の電子部品と同一の基板上に並べようとするとどうしてもデットスペースができ無駄であった。本発明の電気化学セルは四角い設計も可能で、端子等の出っ張りがないため効率的に基板上に配置することができる。
【0060】
(実施例1〜14)
実施例1〜14と比較例1〜9の電気二重層キャパシタを作製した。容器101の寸法は3×5mm、高さは0.5mmとした。容器101の外壁となる部分の厚さは0.3mmとした。正極集電体103及び接続端子A1041と接続端子B1042はタングステンプリントにより配線した。正極集電体103は直径1.0mmの円とし、その面積が凹状の容器底面1011の面積より十分小さくなる構造とした。容器101の上部にはコバール製の厚さ0.15mmの金属リング109をあらかじめ金系のろう材で接合したものを用いた。それにより容器101外壁の高さは0.4mmとなった。
【0061】
容器101の金属の露出している部分にはニッケルめっきを施した後、金めっきを施した。容器101の内底面の粗さの違うもの(Ry14μm又はRy25μm)2種類を用意した。
【0062】
また、アルミニウム層112の形成においては、図4の断面図に示したように、簡単な金属マスク113(容器に合わせ四角く開口した形状)を容器101の上にのせて、成膜方法、膜厚を変えて成膜を行った。
成膜後、容器101を熱処理炉に入れ、アルゴンガス雰囲気で、温度700℃、保持時間30分の熱処理を行った。蓋102は、2×4mm、厚さ0.15mmのコバールの板にニッケルめっきを施したものを用いた。
【0063】
正極活物質106、負極活物質107は2×4mm、厚さ0.15mmの活性炭シートを用いた。正極活物質106は導電性接着剤1111により容器101の底部に接着した。負極活物質107は導電性接着剤1112により蓋102に接着した。次に、セパレータ105を正極活物質106上にのせ、プロピレンカ−ボネ−ト(PC)に(CNBFを1mol/L加えた電解質を5μL加えた。負極活物質107を接着した蓋102をかぶせ、蓋102と容器101をスポット溶接し仮止めしたあと、蓋102の対向する二辺に対向するローラー型の電極を押し付け、電流を流すことで、抵抗溶接の原理でシーム溶接した。
【0064】
ショットコーティングは、平均粒径10μmのアルミニウム粒子を、空気をキャリアガスとして300m/sの速さで吹き付けることにより行った。アルミ層を正極集電体上に形成することができた。
【0065】
出来上がった電気二重層キャパシタについて、2.5Vの電圧を室温で印加し、24時間後のリーク電流を測定した。本実施例程度の大きさの電気二重層キャパシタであれば通常リーク電流は2μA以下であるが何らかの反応がセル内で起きればリーク電流は大きくなり、保存劣化も大きくなる。また、電気二重層キャパシタの加速の保存劣化を調べる試験として、70℃、2.5V、20日保存後の容量維持率を測定した。この保存期間はおおむね常温で2年保存後に相当し、70%以上容量を維持していれば、実使用上問題がないといわれている。
実施例1〜14及び比較例1〜9の製造条件と試験の結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

実施例1〜4のショットコーティングでアルミニウム層を付けた後熱処理を施した電気二重層キャパシタは下層のRyの1/3以上(ただし、5μmを下まわらない)の膜厚で、実用上問題のない存後の容量維持率を示した。
実施例5〜7においては溶射のような比較的密度の低い膜においても熱処理により、電気二重層キャパシタが実用上問題のない特性を示すことがわかった。
実施例8〜14に示したように、蒸着、スパッタリングで作製したアルミニウム膜もショットコーティングや溶射と同じような特性を示した。ただし、下層のRyが25μmである膜厚5μmの比較例4では、実用レベルの特性を示さなかった。
【0067】
比較例5〜7に示した熱処理なしの場合、膜厚を厚くすれば実用レベルの特性を示すが、比較例3,4および実施例12〜14に示した熱処理なしに比較して特性が劣っていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の電気化学セルは、正極側の集電体の形状および材質を検討することにより、保存において高信頼性が得られるようになった。特に電圧を印加した状態での保存に強いため、メモリーバックアップ等の使い方に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の電気化学セルの断面図である。
【図2】本発明の電気化学セルの断面図である。
【図3】本発明の容器の上面図である。
【図4】本発明の容器に金属マスクをのせた場合の断面図である。
【図5】本発明の容器の斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
101 容器
1011 容器底面
102 蓋
103 正極集電体
1041 接続端子A
1042 接続端子B
105 セパレータ
106 正極活物質
107 負極活物質
108 電解質
109 金属リング
1111 導電性接着剤
1112 導電性接着剤
112 アルミニウム層
113 金属マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム層により被覆された正極集電体と、正極活物質と前記正極集電体からなる正極と、負極活物質を含む負極と、イオン導電性の電解質と、前記正極と前記負極と前記電解質とを収納する耐熱材料からなる容器と、前記容器を封止するための蓋とを有する電気化学セルにおいて、前記アルミニウム層が熱処理を施されたものであり、前記アルミニウム層の厚さが、前記アルミニウム層の下層の最大高さRy(JIS B 0601に示される)の1/3以上(ただし、5μmを下まわらない)、かつ200μm以下であることを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記アルミニウム層の熱処理温度がアルミニウムの融点以上の温度である請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記アルミニウム層の熱処理時の雰囲気が不活性雰囲気である請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記アルミニウム層が、酸素濃度1%以下もしくは真空の雰囲気下で熱処理をしたアルミニウム層である請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記アルミニウム層が、ショットコーティング法、溶射法、蒸着法またはスパッタリング法のいずれかにより形成された請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項6】
容器の底部に設けられた正極集電体上にアルミニウム層を形成する第一工程と、前記アルミニウム層を融点以上の温度で熱処理する第二の工程と、前記アルミニウム層を介して前記正極集電体と正極活物質を接合する第三工程と、セパレータを前記正極活物質上に配する第四工程と、前記容器に電解質を注入する第五工程と、蓋に負極活物質を接合する第六工程と、前記容器と前記蓋を溶接し封止する第七工程とからなる電気化学セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−216645(P2006−216645A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26034(P2005−26034)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(595071852)株式会社エスアイアイ・マイクロパーツ (32)
【Fターム(参考)】