説明

電気化学セル用包装材料及びそれを用いた電気化学セル

【課題】本発明は、安定した絶縁性を示す電気化学セル用包装材料を提供する。
【解決手段】基材層111と、金属箔層112と、酸変性ポリオレフィン層114と、熱接着性樹脂層115とを、少なくとも順次積層して構成される電気化学セル用包装材料110であって、基材層111の最外層上面に接着層117を介してカバーフィルム116を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル用包装材料とそれを用いた電気化学セルに関し、特に、安定した絶縁性を有する電気化学セル用包装材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池とは、リチウム二次電池ともいわれ、液状、ゲル状又は高分子ポリマー状の電解液を持ち、正極・負極活物質が高分子ポリマーからなるものを含むものである。リチウムイオン電池の構成は、正極集電材/正極活性物質層/電解液層/負極活性物質層/負極集電材から構成される電池本体及び、これらを包装する外装体からなり、外装体を形成する包装材料として多層フィルムが用いられる。
【0003】
図2は従来の電気化学セル用包装材料の層構成を示す断面図であり、図2に示すように、従来の電気化学セル用包装材料210は、基材層211、アルミニウム箔層212、酸変性ポリオレフィン樹脂からなる接着剤層214、熱接着性樹脂層215が順次積層して構成され、基材層211は単層もしくは多層の耐熱性高分子フィルムからなり、例えばポリエステルフィルムやポリアミドフィルムが使用されている(特許文献1)。
【0004】
図3は従来のエンボスタイプのリチウムイオン電池221の斜視図であり、リチウムイオン電池221は、金属端子224を外装体220外部に突出させた状態で挟持し、その挟持部分を含む周縁部をヒートシールして、外装体220内部に電解液を含むリチウムイオン電池本体222を密封収納している。
【0005】
従来、リチウムイオン電池が携帯電話、ノートパソコン等の小型電化製品に用いられていたのに対し、近年、電動式自転車、自動車等に用いられる傾向にあり、それに伴い、リチウムイオン電池が大型化及び高出力化する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−134304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、基材層211がポリアミドフィルム単層である場合、ポリアミドフィルム自体の絶縁性が低いため、リチウムイオン電池221の絶縁性が低下するおそれがある。また、基材層211がポリエチレンテレフタレートフィルム単層又は外側からポリエチレンテレフタレートフィルムとポリアミドフィルムの2層である場合にもポリエチレンテレフタレートフィルム表面に浅いキズが発生するとリチウムイオン電池221の絶縁性が低下するおそれがある。したがって、リチウムイオン電池221をスタック状に複数並べて使用する際、一部のリチウムイオン電池221の絶縁性が低下して放電した場合、隣接するその他のリチウムイオン電池221を破壊することがあった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、基材層表面のキズ発生を防ぎ、安定した絶縁性を示す電気化学セル用包装材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、基材層と、金属箔層と、接着剤層と、熱接着性樹脂層とを、少なくとも順次積層して構成される電気化学セル用包装材料であって、基材層の最外層上面に接着層と、接着層を被覆するカバーフィルムとを備え、接着層とカバーフィルムとの接着強度が、接着層と基材層との接着強度より高いことを特徴とする。
【0010】
この構成によると、あらかじめ電気化学セル用包装材料の基材層表面にカバーフィルムが設けられているため、電気化学セルの製造工程において、基材層表面にキズが発生することが防止される。また、電気化学セルの完成後、電気化学セルを電子機器に搭載した後、カバーフィルムを剥離すれば、最終製品の段階まで基材層を保護し電気化学セルの絶縁性を確保することができる。また、基材層表面において、接着層とカバーフィルムとの接着強度が、接着層と基材層との接着強度より高いため、接着層を基材層側に残すことなく、カバーフィルムを容易に剥離することができる。
【0011】
本発明の第2の構成は、上記電気化学セル用包装材料において、カバーフィルムは接着層との接合面に易接着処理が施されていることを特徴とすることを特徴とする。
【0012】
この構成によると、カバーフィルムと接着層とは易接着処理により強固に接着し、接着層を基材層側に残すことなく、カバーフィルムを容易に剥離することができる。
【0013】
本発明の第3の構成は、上記電気化学セル用包装材料において、易接着処理がコロナ処理であることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、カバーフィルム表面に容易に易接着処理を施すことができる。
【0015】
本発明の第4の構成は、上記電気化学セル用包装材料において、易接着処理がアンカーコート処理であることを特徴とする。
【0016】
この構成によると、カバーフィルム表面に容易に易接着処理を施すことができる。
【0017】
本発明の第5の構成は、上記電気化学セル用包装材料において、カバーフィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムにより構成されることを特徴とする。
【0018】
この構成によると、カバーフィルムの強度が高まり、基材層を安定して保護することができるとともに、カバーフィルムの接着及び剥離が容易になる。
【0019】
本発明の第6の構成は、上記電気化学セル用包装材料において、カバーフィルムがナイロンフィルムにより構成されることを特徴とする。
【0020】
この構成によると、電気化学セル用包装材料のエンボス成形性が低下することなく基材層を保護し絶縁性を確保することができる。
【0021】
本発明の第7の構成は、上記電気化学セル用包装材料を用いて作製されたことを特徴とする電気化学セル。
【0022】
この構成によると、安定した絶縁性を示す電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】は、本発明の電気化学セル用包装材料の層構成を示す断面図である。
【図2】は、従来の電気化学セル用包装材料の層構成を示す断面図である。
【図3】は、従来の電気化学セル用包装材料を用いて形成された外装体で構成されるリチウムイオン電池の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、安定した絶縁性を有する電気化学セル用包装材料であり、図等を利用してさらに詳細に説明する。なお、従来例の図2、図3と共通する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0025】
図1は本発明の実施形態の一例である電気化学セル用包装材料の層構成を示す断面図であり、図1に示すように、本実施形態に係る電気化学セル用包装材料110はポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)116、酸変性ポリエチレン117、延伸ナイロンフィルム層111、アルミニウム箔層112、酸変性ポリプロピレン層114、ポリプロピレン層115が順次積層して構成されている。なお、本発明の電気化学セル用包装材料110は上記各層を含むとともに各層間に異なる層を介在させた場合も本発明の技術範囲に含むものとする。また、PETフィルム116は本発明における「カバーフィルム」の一例であり、酸変性ポリエチレン117は本発明における「接着層」の一例であり、延伸ナイロンフィルム層111は本発明における「基材層」の一例であり、アルミニウム箔層112は本発明における「金属箔層」の一例であり、酸変性ポリプロピン層114及びポリプロピレン層115は本発明における「熱接着性樹脂層」の一例である。
【0026】
ここで、PETフィルム116は延伸ナイロンフィルム層111表面を保護している。これにより、電気化学セル用包装材料110を用いて、リチウムイオン電池211を製造する際、延伸ナイロンフィルム層111表面にキズが発生するのを防ぐことができる。また、リチウムイオン電池211の完成後、リチウムイオン電池を電子機器に装着した後、PETフィルム116を剥離すれば、最終製品の段階まで、延伸ナイロンフィルム層111表面を保護し、延伸ナイロンフィルム層111のキズを原因とするリチウムイオン電池211の絶縁性低下を防ぐことができる。
【0027】
また、酸変性ポリエチレン117は粘着性又は感圧性を有し、PETフィルム116の酸変性ポリエチレン117との接着面はコロナ処理による易接着処理が施されており、酸変性ポリエチレン117とPETフィルム116との接着強度が、酸変性ポリエチレン117と延伸ナイロンフィルム層111との接着強度より高い。これにより、PETフィルム116を剥がす際に、酸変性ポリエチレン117を延伸ナイロンフィルム層111側に残すことなく剥がすことができる。
【0028】
なお、PETフィルム116に施す易接着処理はコロナ処理に限定されず、アンカーコート処理を施しても良い。
【0029】
また、PETフィルム116は延伸ナイロンフィルム層111を保護するのに十分な強度を有していればよく、本発明における「カバーフィルム」として、ポリエチレンテレフタレート以外に、ポリアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリメチルペンテン(TPX(登録商標))、ポリアセタール(POM)、環状ポリオレフィン、ポリエチレン(PP)等の無延伸または延伸フィルムを用いることができる。なお、ポリエチレンテレフタレートは安価で強度が強いため接着工程での取扱いが容易になるためより望ましい。
【0030】
また、酸変性ポリエチレン117は粘着性付与樹脂を含有しており、粘着性又は感圧性を有する。このとき、使用される粘着性付与樹脂としては、例えば、ロジン類(重合ロジン、水添ロジン、ロジンエステル等)、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、石油樹脂などである。
【0031】
また、酸変性ポリエチレン117は残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れるため、接着強度を長期間維持することができる。また、酸変性ポリエチレン以外の樹脂を用いてもよく、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等を用いてもよい、また、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよい。
【0032】
また、これらのポリオレフィン樹脂にエラストマー樹脂を混合した樹脂を用いてもよく、エラストマー樹脂を混合することにより柔軟性、耐熱性、耐衝撃性を向上させることができる。なお、エラストマー以外にタッキファイアを添加してポリオレフィン樹脂に柔軟性等を付与することも可能である。これにより、電気化学セル用包装材料110の成形性を向上させることができる。なお、本発明における「接着層」は、粘着性付与剤を含有する酸変性ポリエチレン以外に例えば、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などの接着剤を用いてもよい。
【0033】
延伸ナイロンフィルム層111は、延伸ナイロンフィルム以外にも延伸ポリエステルを用いることができ、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロンとしては、ポリアミド樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0034】
また、基材層は耐ピンホール性および電池の外装体とした時の絶縁性を向上させるために、ポリエステルフィルム又はナイロンフィルムの他、異なる材質のフィルムを積層化することも可能である。
【0035】
アルミニウム箔層112は、外部からリチウムイオン電池121の内部に水蒸気が浸入することを防止するための層で、金属箔層単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成形性)を安定化し、かつ耐ピンホール性をもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウムを用いる。
【0036】
また、ピンホールの発生を改善し、リチウムイオン電池の外装体のタイプをエンボスタイプとする場合、エンボス成形におけるクラックなどの発生のないものとするために、アルミニウム箔層112として用いるアルミニウムの材質を、鉄含有量が0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%とすることが望ましい。
【0037】
これによって、鉄を含有していないアルミニウムと比較して、アルミニウムの展延性がよく、外装体として折り曲げによるピンホールの発生が少なくなり、包装材料をエンボス成形する時に側壁を容易に形成することができる。なお、鉄含有量が、0.3重量%未満の場合は、ピンホールの発生の防止、エンボス成形性の改善等の効果が認められず、アルミニウムの鉄含有量が9.0重量%を超える場合は、アルミニウムとしての柔軟性が阻害され、包装材料として製袋性が悪くなる。
【0038】
また、冷間圧延で製造されるアルミニウムは焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性・腰の強さ・硬さが変化するが、本発明において用いるアルミニウムは焼きなましをしていない硬質処理品より、多少または完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウムがよい。
【0039】
酸変性ポリプロピレン層114はアルミニウム箔層112とポリプロピレン層115とを安定して接着するために設ける層であり、ポリプロピレン層115に用いる樹脂種により適宜選択して用いる必要がある。酸変性ポリプロピレン以外の酸変性ポリオレフィン樹脂を用いる場合、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等があり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよい。
【0040】
また、酸変性ポリプロピレンを用いる場合、
(1)ビガット軟化点115℃以上、融点150℃以上のホモタイプ、
(2)ビガット軟化点105℃以上、融点130℃以上のエチレンープロピレンとの共重合体(ランダム共重合タイプ)
(3)融点110℃以上である不飽和カルボン酸を用い酸変性重合した単体又はブレンド物等を用いることができる。
【0041】
ポリプロピレン層115は、ポリプロピレンが好適に用いられるが、熱接着性を有するポリオレフィンを用いることができる。例えば、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンの単層または多層、または、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンのブレンド樹脂を使用することができる。また、ポリプロピレンには、ランダムプロピレン、ホモプロピレン、ブロックプロピレン等各タイプに分けることができる。
【0042】
また、上記各タイプのポリプロピレン、すなわち、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレンには、低結晶性のエチレンーブテン共重合体、低結晶性のプロピレンーブテン共重合体、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー、シリカ、ゼオライト、アクリル樹脂ビーズ等のアンチブロッキング剤(AB剤)、脂肪酸アマイド系のスリップ剤等を添加してもよい。また、上記各タイプのポリプロピレン層を適時組み合わせて多層化してもよい。
【0043】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
110 電気化学セル用包装材料
111 延伸ナイロンフィルム層(基材層)
112 アルミニウム箔層(金属箔層)
114 酸変性ポリプロピレン層(熱接着性樹脂層)
115 ポリプロピレン層(熱接着性樹脂層)
116 PETフィルム(カバーフィルム)
117 酸変性ポリエチレン(接着層)
211 基材層
212 アルミニウム箔層
214 接着剤層
215 熱接着性樹脂層
220 外装体
221 リチウムイオン電池
222 リチウムイオン電池本体
224 金属端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、金属箔層と、熱接着性樹脂層とを、少なくとも順次積層して構成される電気化学セル用包装材料であって、
前記基材層の最外層上面に接着層と、前記接着層を被覆するカバーフィルムとを備え、
前記接着層と前記カバーフィルムとの接着強度が、前記接着層と前記基材層との接着強度より高いことを特徴とする電気化学セル用包装材料。
【請求項2】
前記カバーフィルムは前記接着層との接合面に易接着処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル用包装材料。
【請求項3】
前記易接着処理がコロナ処理であることを特徴とする請求項2に記載の電気化学セル用包装材料。
【請求項4】
前記易接着処理がアンカーコート処理であることを特徴とする請求項2に記載の電気化学セル用包装材料。
【請求項5】
前記カバーフィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムにより構成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気化学セル用包装材料。
【請求項6】
前記カバーフィルムがナイロンフィルムにより構成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気化学セル用包装材料。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電気化学セル用包装材料を用いて作製されたことを特徴とする電気化学セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216356(P2011−216356A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83913(P2010−83913)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】