説明

電気化学的燃料電池のためのイオン交換膜

膜電極接合体は、2つのガス拡散層、2つの触媒層およびその間に配置されたイオン交換膜を有し、そのイオン交換膜はスルホン化ポリエーテルケトン/スルホンアイオノマーでキャスティングされる。具体的には上記アイオノマーは、A−B−Cとして表される。さらにx、y、zはアイオノマーの各部分のモル比を表し、例えばxは、0.25と0.40との間であり;yは、0.01と0.26との間であり;そしてzは、0.40と0.67との間である。対応するベースポリマ−の溶融粘度はまた、燃料電池の性能に影響し、特に400℃、1000秒−1で測定される場合、0.4kNsm−2を超える値である。膜電極接合体を調製するにおいて、触媒層は、直接膜の上にコートされ得、次いで2つのガス拡散層と結合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、一般的に電気化学的燃料電池のためのイオン交換膜、より具体的にはスルホン化ポリマーを含むイオン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連分野の説明)
電気化学的燃料電池は、燃料および酸化剤を電気および反応生成物に変換する。固体ポリマー電気化学的燃料電池は、一般にイオン交換膜の形態で電解質が、2つのガス拡散層(GDL)の間に配置される膜電極接合体(MEA)を用いる。上記GDLは、代表的にはカーボンファイバーペーパーまたはカーボン布のような多孔性の電気伝導性シート材から作製される。代表的なMEAにおいて、上記GLDは、イオン交換膜に構造的支持を提供するが、それは代表的には薄く可撓性である。
【0003】
上記MEAは、電極触媒をさらに含み、それは代表的には各膜/GDL界面での層に配置される微粉砕プラチナ粒子を含み、所望の電気化学的反応を促進する。上記GDLは、電気的に接合されて、外部負荷を通して電極間の電子を伝導する経路を提供する。
【0004】
燃料電池の運転中、アノードでの、燃料は、多孔性のGDLを透過し、そしてその触媒層の中の電極触媒的に活性な部位で反応しプロトンと電子とを形成する。水により容易にされ、プロトンはイオン交換膜を通ってカソードの方に移動する。そのカソードでは、酸素含有気体供給源が、上記多孔質GDLを透過し、そしてカソード触媒層でプロトンおよび電子と反応し、反応生成物として水を形成する。
【0005】
使用される最も普通の市販イオン交換膜は、E.I.Du Pont de Nemours and Companyにより、NAFION(登録商標)と言う製品名で、販売されているスルホン化ペルフルオロカーボン膜である。他のタイプの膜を開発する努力が進んでいる。特に、Victrex Manufacturing Limitedは、多種類のスルホン化ポリアリールエーテルケトンおよび/またはスルホンアイオノマーに関する数件の特許出願をしている(特許文献1;特許文献2;特許文献3;特許文献4;特許文献5;特許文献6;および特許文献7を参照のこと;一括してVictrex先行技術と呼ぶ)。上記のVictrex先行技術は全体が参考として本明細書に援用される。
【特許文献1】国際公開第00/015691号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/019896号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/070857号パンフレット
【特許文献4】国際公開第01/070858号パンフレット
【特許文献5】国際公開第01/071839号パンフレット
【特許文献6】国際公開第01/198696号パンフレット
【特許文献7】国際公開第02/075835号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Victrex先行技術は、特定のアイオノマーが調製され、そして種々の性質が測定された種々の例を提供するが、実際の燃料電池のデータは殆ど提供されていない。実際の燃料電池の試験を通してのみ任意の特定の膜の信頼性、性能または耐久性、従って燃料電池内での使用の適切性を決定することが可能である。そういうものとして、燃料電池環境に適切なイオン交換膜の必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
多大な燃料電池試験の後に、予期せぬ性能および耐久性が、特定のポリアリールエーテルケトン/スルホンコポリマーについて観察された。特に、2つのガス拡散層、2つの触媒層およびそれらの間に配置されているイオン交換膜を有する膜電極接合体において、上記イオン交換膜はアイオノマーA−B−Cを含み、ここでAは、
【0008】
【化7】

であり、
Bは、
【0009】
【化8】

であり、
Cは、
【0010】
【化9】

である。
さらに、x、yおよびzは、アイオノマーの各部分のモル比を表す。xの値はアイオノマーの重量当量(各部分が示されたようにスルホン化されていると仮定して)に対応するが、x部分の量が減少するにつれて重量当量が増加する。燃料電池性能は、重量当量が減少するにつれてより良い性能が観察されるように、代表的には重量当量に関連する(例えば、D.Chu、R.Jiang「Comparative studies of polymer electrolyte membrane fuel cell stack and single cell」Journal of Power Sources 80(1999)226−234を参照のこと)。しかしながら期待に反して本発明の膜を有する燃料電池の性能は、所定の膜厚さに対する重量当量の減少に伴って必ずしも改善されない。特にxの好ましい値は、0.25と0.4との間であり、例えば0.29と0.37との間、または0.31と0.35との間である。
【0011】
上記燃料電池の耐久性における相対的な改善は、上記膜に存在する少なくともy部分のいくらかがある。しかしながら上記膜の生産性は、存在するy部分の量が大きくなるに従って著しく減少する。従って、好ましいyの値は、0.01と0.26との間、例えば0.08と0.20との間、または0.11と0.15との間である。z部分の量は、従って0.40と0.67との間、例えば0.45と0.60との間または0.51と0.56との間である。一つの実施形態では、xは、約0.33であり、yは、約0.13でありおよびzは、約0.54である。
【0012】
燃料電池の膜の信頼性および耐久性に影響を与える別の要因は、上記ベースポリマーの溶融粘度である。上記ベースポリマーは、x部分のスルホン化の前の、上で議論したようなアイオノマーである。上記溶融粘度は、好ましくは0.4kNsm−2の上であり、例えば0.6kNsm−2の上である。一つの実施形態では溶融粘度は、約0.6kNsm−2(温度400℃、剪断速度1000秒−1において)である。
【0013】
上で議論したような膜電極接合体を作製する方法は、イオン交換膜をアイオノマーA−B−C−でキャスティングする工程;上で議論したようにまた、アノードガス拡散層およびカソード拡散層を提供する工程;イオン交換膜のアノード側か、またはアノードガス拡散層のいずれかの上にアノード触媒層をコーティングする工程;イオン交換膜のカソード側か、またはカソードガス拡散層のいずれかの上にカソード触媒層をコーティングする工程;およびイオン交換膜にアノードガス拡散層とカソードガス拡散層とを結合する工程を包含する。
【0014】
燃料電池は、次いで上で議論したように上記MEAのいずれかで作製され得る。同様に燃料電池スタックは、複数のそのような燃料電池で作製される。本発明のこれらおよび他の局面では添付の図面および以下の詳細な説明を参考にして明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
数多くのアイオノマーがVictrex先行技術に開示されているが、実際の燃料電池データは殆ど提供されていない。この開示された数多くのアイオノマーの内の小さいサブセットの中で、例えば水取り込み%、結晶性指標、重量当量、溶融粘度など、種々の性質が測定される例が提供される。これらの性質のいくらかは、燃料電池性能に効果を有することを予測される。例えば、低い重量当量、低い水取り込みおよび高い結晶性指標は、アイオノマーにとって望ましい性質である(例えば国際公開第01/71839号パンフレットを参照のこと、全般的に結晶性指標ならびに2ページ、4〜6行目にて重量当量および水取り込みに関する)。溶融粘度のような他のパラメーターは、上記アイオノマーの性質として単に報告されている。しかしながら膜の上記性能および耐久性を本当に評価し得るのは、実際の燃料電池試験を通してのみである。
【0016】
多数の燃料電池試験を通して、特にx、yおよびzが、アイオノマーI、III、IVおよびVの各部分の相対量を示す図1で示されるアイオノマーの特定の種類内で、4つの特異な傾向を観察し得る。最初の傾向は、上記アイオノマーの低い重量当量が必ずしも性能を改善しないことである。2番目は、加工性および膜質は、yの量が増加するにつれて低下することである。3番目に、上記燃料電池の耐久性は、存在するy部分の少なくともいくらかで改善する。最後に、燃料電池性能および耐久性は、ベースポリマーの溶融粘度が増加するにつれて改善する。上記ベースポリマーはx部分のスルホン化前のアイオノマーである。これらの傾向の全てから、上記ベースポリマーの溶融粘度が約0.6kNsm−2(温度400℃、1000秒−1)のアイオノマーIIIが、明らかに好ましい。
【実施例】
【0017】
(一般的手順)
本発明のアイオノマーは、Victrex先行技術で見出される手順に従って作製し得る。より具体的には以下の4種のモノマーを、アイオノマーIII、IVおよびVを作製するのに使用する:即ち:
【0018】
【化10】

アイオノマーIのみ3種のモノマー、即ち4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンおよび4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを必要とする。4種のアイオノマーのいずれかを合成するときに添加される4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの相対的な量が、図1で提供されるx、yおよびzのそれぞれの相対的な量を決定する。添加される4,4’−ジフルオロベンゾフェノンのモル比は、組合わされる他のモノマーのモル比と等しいか、または僅かに過剰であり得る。
【0019】
I、III、IVまたはVのベースポリマーは、以下の一般的手順を使用して合成され得る。丸いガラス製のQuickfit蓋、攪拌機/攪拌機ガイド、窒素入口および窒素出口を取り付けられたフランジ付きの700mlのフラスコに、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンおよびジフェニルスルホンを仕込み、そして1時間以上窒素パージし得る。次いで、その内容物を窒素被覆下で140℃と150℃との間で加熱し得、殆ど無色の溶液を形成する。窒素被覆を維持しながら乾燥炭酸ナトリウムを、次いで添加し得る。その後、その温度を3時間にわたり徐々に320℃まで上げて、1.5時間維持し得る。もし溶融粘度がモニターされる場合、その反応を上記ベースポリマーについての所望の溶融粘度で停止し得る。次いで、その反応混合物を冷却し、引き続き粉砕し、そしてアセトンおよび水で洗浄し得る。その後、得られたポリマーを、120℃の空気オーブンで乾燥し得る。
【0020】
上記ベースポリマーを、その後、各ポリマーを、98%硫酸(3.84gのポリマー/100gの硫酸)中で、50℃で21時間攪拌することによりスルホン化し得る。その後、その反応溶液を、攪拌されている脱イオン水中に滴下し得、そこでスルホン化ポリマーは、流動性のよいビーズとして沈殿する。上記アイオノマーを、ろ過し、脱イオン水でpHが中性になるまで洗浄し、そして引き続き乾燥することにより回収し得る。ビフェニル単位の100モル%が、スルホン化され、ビフェニル単位を含む2つの芳香環の各々の上に1つのスルホン酸基(上記エーテル結合の近くにある)を与えるのを確認するために滴定を使用し得る。所望の場合、スルホン化反応条件を、ビフェニル単位の部分的スルホン化のみを得るために変化し得る。
【0021】
溶液を、次いで表1に列挙した条件下でN−メチルピロリドン(NMP)中にアイオノマーを溶解することによりスルホン化アイオノマーから産生した。
【0022】
【表1】

次いで、その溶液を5〜10μmのフィルターでろ過し、高真空で1時間、室温で脱ガスした。
【0023】
アイオノマーI、II、IIIおよびIVを含む均一溶液を、次いで透明なガラスプレートに250〜500μmの厚さでドクターナイフを使用してキャスティングし、約15時間60〜70℃で乾燥させた。得られた膜を、室温で水浴に漬けることによりガラスプレートから浮き上がらせ、新鮮な脱イオン水で1時間洗浄し、引き続き室温で風乾した。
【0024】
膜電極接合体を標準電極と結合して調製した:カーボン下層で印刷されたカーボンファイバーペーパー(Toray、TGP−090)スクリ−ンおよび全プラチナ負荷1.0mg/cm。上記膜および電極を、約220℃の温度で、2分間で結合し、その後3分間で20.0 bar gの圧力下で冷却した。
【0025】
以下の実施例では、燃料電池の運転条件は以下の通りであった:水素圧1.2 bara、空気圧1.2 bara;水素化学量論1.33;空気化学量論2.0;温度65℃;空気相対湿度100%;水素相対湿度0%(これ以降は「運転条件」という)。
【0026】
(重量当量)
アイオノマーの重量当量は、存在するスルホン酸基1モルあたりのポリマーのグラム単位の重量である。アイオノマーのこの種類において、存在するスルホン酸基の量は、アイオノマーにおける4,4’−ジヒドロキシビフェニルのモル比およびスルホン化反応の効率に依存する。従って、上記重量当量は、4,4’−ジヒドロキシビフェニルのモル比に反比例する。0.33のモル比の4,4’−ジヒドロキシビフェニルを有するアイオノマーIは、690g/モルの理論的重量当量を有するが、0.40のモル比を有するアイオノマーIIは、583g/モルの理論重量当量を有する。運転条件下で電流密度432mA/cmで、アイオノマーIおよびアイオノマーIIから作製された膜を有する燃料電池は、それぞれ0.493Vおよび0.365Vの電圧を発生した。これは、約0.13Vという顕著な差であり、予測に反している。スルホン酸基は、膜を通る水素イオン輸送に使用され、従って上述およびVictrex先行技術にあるように、よりよい性能は、所定の膜厚さについてより低い重量当量について観察されることが予測され、ここでは上記膜がより多くのスルホン酸基を有する。しかしながら期待に反して、よりよい性能は、より高い重量当量、従ってアイオノマーにおける4,4’−ジヒドロキシビフェニルのより低いモル比について観察される。特に、よりよい性能は、図1のアイオノマーモル比xが、0.40未満、より具体的には0.37未満、または0.35未満である場合に観察される。それにもかかわらず、スルホン酸基はまだ膜を横切るイオン輸送において重要な役割を維持し、従ってモル比xは、0.25より大きく、さらに具体的には0.29より大きいか、または0.31より大きくあり得る。
【0027】
(4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンのモル比)
NMP中のこの種類のアイオノマーの溶解度は、存在する4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンの量で変化させた。上の表1を参考にして、上記ポリマーの溶解度の減少に起因して上記溶解温度はアイオノマーIVについては60℃から130℃まで、そしてアイオノマーVについては140℃まで上昇した。表1に見られるようにまた、ポリマーVの10%のみの固形分濃度は、高い温度でさえ可能であった。
【0028】
アイオノマーI、IIおよびIIIはまた、3ヶ月より長く安定な透明な溶液を産生した。透明なオレンジ色の溶液を10日後に曇ってきたアイオノマーIVで産生し、そしてアイオノマーVで、ほんの5日後にゲルになった暗赤色の溶液を産生した。溶液中のアイオノマーの安定性は、その加工性および製造性と関連する。
【0029】
それぞれ、アイオノマーI、IIIおよびIVでキャスティングした50μm厚さの膜I、III、IVについて上記運転条件下で運転された燃料電池の耐久性試験の結果が、下の表2に示される。
【0030】
【表2】

特定の膜の耐久性は、種々の要因に依存し、下にあるアイオノマーの組成は、そのような要因のほんの1つである。実験間の外部の変化を最小にするために努力がなされるが、かなり大きな分布が、依然として観察される。それにもかかわらず表2は、少なくともいくつかの4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンのアイオノマー中での存在が、得られた膜の耐久性を増加することを示す。さらにベースポリマーIおよびIIIの溶融粘度はそれぞれ0.45kNsm−2で、一方ポリマーIVの溶融粘度は、ほんの0.37kNsm−2であった。下で議論されるように、溶融粘度は耐久性に効果を有し、膜IVの寿命が、0.45kNsm−2の溶融粘度を有する材料が代わりに使用された場合より長くあり得る。それにもかかわらず、上述の寿命問題および溶解度問題の両方を考慮して、膜IIIが明らかに好ましい。言い換えれば、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンのモル比は、図1のyに対応するが、好ましくは0.01〜0.26との間、より具体的には0.08と0.20との間およびさらにより具体的には、0.11と0.15との間である。
【0031】
(溶融粘度)
溶融粘度は、剪断速度に対する材料の抵抗性の尺度である。非ニュートン流体について、殆どのポリマー溶融を含み、溶融粘度は剪断速度および温度の両方で変化する。溶融粘度の全ての報告された値は、他で記さない限り400℃、1000秒−1においてである。スルホン化アイオノマーは温度で分解を受けやすく、そのようにして、溶融粘度は測定できない。従って、溶融粘度を、スルホン化前のベースポリマーについて測定した。さらに上記報告値は、混合した平均であって、異なる溶融粘度を有する同じベースポリマーの3つの異なるバッチを合わせて、報告された平均溶融粘度を有するベースポリマーを生成した。
【0032】
下の表3は、ベースポリマーの2つの異なる溶融粘度、即ち0.45kNsm−2および0.60kNsm−2を有するアイオノマーIIIでキャスティングした50μm厚さの膜について上記運転条件で運転された燃料電池の耐久性データを示す。
【0033】
【表3】

平均してアイオノマーIIIでキャスティングした膜の耐久性を、対応するベースポリマーの溶融粘度が0.45kNsm−2と比較して0.60kNsm−2の場合、3倍の長さであることが分かった。時間について相対的に広い分布が観察されたが、より高い溶融粘度は、得られる膜の耐久性に著しい改善を明確に示す。次いで、更なる耐久性試験を、24セルを有する燃料電池スタックについて実施したが、ここで各セルは、平均厚さが25μmで対応するベースポリマーの溶融粘度が0.60kNsm−2を有するポリマーIIIでキャスティングした膜を有する。より薄い膜でさえも上記24セルスタックは破損するまでに1519時間、続いた。
【0034】
上記ポリマーの溶融粘度は、燃料電池性能に顕著な効果もまた有する。図2は、膜Iおよび膜IIIの両方でキャスティングした膜について上記運転条件下、432mA/cmにおける、電圧と溶融粘度との間の直線的相関を示す。上記ベースポリマーの溶融粘度が増加することは、直接的に燃料電池性能を改善する。具体的には改善された性能は、上記溶融粘度が、0.40kNsm−2以上(例えば、約0.60kNsm−2、さらに1.3kNsm−2、1.5kNsm−2および1.7kNsm−2ほど大きい)である場合に観察される。
【0035】
上記の燃料電池試験を通して、約0.60kNsm−2のベースポリマーの溶融粘度を有するアイオノマーIIIが、燃料電池内に使用するのに特によく適していることをこのように決定することが可能であった。そのような試験を通してのみ、燃料電池で実際に使用される場合特定のアイオノマーが機能するかを知ることができる。
【0036】
上記膜電極接合体(MEA)を調製するのにガス拡散電極(GDE)の代わりに触媒をコートした膜(CCM)を使用することにより燃料電池環境内の性能もまた改善される得る。上記実施例において、上記MEAは、2つのガス拡散電極間に関連する膜を結合することにより調製した。ガス拡散電極は、ガス拡散層(GDL)および触媒層を含む。上記実施例のGDL層は、その上にコートされているカーボン下層を有するカーボンファイバーペーパー(Toray、TGP−090)であった。上記MEAを作製する代替的な方法は、上記膜の上に直接的に上記アノード触媒層およびカソード触媒層を、コートしてCCMを調製し、そしてその上に2つのGDLを結合または接合することである。言い換えれば、上記触媒層を、GDLの上にコートし、上記GDEから上記MEAを作製するか、または上記触媒層を膜の上にコートしCCMからMEAを作製するかのいずれかであり得る。図3は、GDEと比較して、CCMから調製する場合のMEAの改善された性能を示す。両方のケースとも膜IIIを、上記MEAに使用し、そして同様に製造した。結果は、上記運転条件下で得られた。理論にこだわることはしないが、改善された性能は、上記触媒層がイオン交換膜の上に直接的にコートされる場合、上記触媒層とイオン交換膜とのよりよい接触に起因し得る。またMEAはまた、1つの触媒層を、上記イオン交換膜の上のアノードまたはカソードのいずれかにコーティングし、ガス拡散層の上に他の触媒層をコーティングすることにより調製され得ることが理解される。
【0037】
前述のことから、本発明の特定の実施形態が本明細書に説明の目的で記載されるが、種々の改変が本発明の趣旨および範囲から逸脱しないでなされ得ることが理解される。従って、本発明は添付の請求の範囲以外では限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、5種類のポリアリールエーテルコポリマーの分子構造を示す。
【図2】図2は、燃料電池において膜IおよびIIIに関する対応するベースポリマーの溶融粘度に対する電圧のグラフである。
【図3】図3は、上記MEAが上記触媒層を直接的に膜III上にコーティングすることにより調製される場合に観察される性能と、上記触媒層が上記ガス拡散層の上にコーティングされているMEAの性能とを比較する、燃料電池において膜IIIに関する電流密度に対する電圧のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのガス拡散層、2つの触媒層およびそれらの間に置かれたイオン交換膜を有する膜電極接合体であって、ここで該イオン交換膜はアイオノマーA−B−Cを含み、
ここでAは、
【化1】

であり、
Bは、
【化2】

であり、
Cは、
【化3】

であって、
ここでxは、0.25と0.40との間であり;yは、0.01と0.26との間であり;およびzは、0.40と0.67との間である、膜電極接合体。
【請求項2】
xが0.29と0.37との間である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
xが0.31と0.35との間である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
yが0.08と0.20との間である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
yが0.11と0.15との間である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
zが0.45と0.60との間である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
zが0.51と0.56との間である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
xが0.31と0.35との間であり、yが0.11と0.15との間であり、そしてzが0.51と0,56である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項9】
前記アイオノマーA−B−Cが、400℃、1000秒−1で、0.4kNsm−2を超える溶融粘度を有するベースポリマーから作製される、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項10】
前記アイオノマーA−B−Cが、400℃、1000秒−1で、0.6kNsm−2以上である溶融粘度を有するベースポリマーから作製される、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項11】
前記アイオノマーA−B−Cが、400℃、1000秒−1で、約0.6kNsm−2である溶融粘度を有するベースポリマーから作製される、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項12】
前記アイオノマーA−B−Cが、400℃、1000秒−1で、約0.6kNsm−2である溶融粘度を有するベースポリマーから作製される、請求項8に記載の膜電極接合体。
【請求項13】
請求項1に記載の膜電極接合体を含む、電気化学的燃料電池。
【請求項14】
複数の請求項13に記載の燃料電池を含む、電気化学的燃料電池スタック。
【請求項15】
膜電極接合体を作製する方法であって:
アイオノマーA−B−Cでイオン交換膜をキャスティングする工程であって、
ここでAは、
【化4】

であり、
Bは、
【化5】

であり、
Cは、
【化6】

であって、
ここでxは、0.25と0.40との間であり、;yは、0.01と0.26との間であり;およびzは、0.40と0.67との間であって、該イオン交換膜は、アノード側およびカソード側を有する、工程;
アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層を提供する工程;
該イオン交換膜の該アノード側上または該アノードガス拡散層上にアノード触媒層をコーティングする工程;
該イオン交換膜の該カソード側上または該カソードガス拡散層上にカソード触媒層をコーティングする工程;および
該アノードガス拡散層および該カソードガス拡散層を該イオン交換膜に結合して膜電極接合体を形成する工程を包含する、膜電極接合体を作製する方法。
【請求項16】
xが0.31と0.35との間であって、yが0.11と0.15との間であって、zが0.51と0,56である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アイオノマーA−B−Cが400℃、1000秒−1で、約0.6kNsm−2である溶融粘度を有するベースポリマーから作製される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記アノード触媒層および前記カソード触媒層の少なくとも1つが、前記イオン交換膜上にコーティングされる、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記アノード触媒層および前記カソード触媒層が、前記イオン交換膜上にコートされて、触媒コート膜を形成する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法で調製される、膜電極接合体。
【請求項21】
請求項20に記載の膜電極接合体を含む、燃料電池。
【請求項22】
複数の請求項21に記載の燃料電池を含む、燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−515049(P2007−515049A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545553(P2006−545553)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/042795
【国際公開番号】WO2005/060030
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(303026556)バラード パワー システムズ インコーポレイティド (28)
【Fターム(参考)】